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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 発明同一  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
管理番号 1354090
異議申立番号 異議2018-700821  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-09 
確定日 2019-07-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6308774号発明「活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及びコーティング剤」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6308774号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6308774号の請求項2及び3に係る特許についての本件特許異議の申立てを却下する。 特許第6308774号の請求項1及び4?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6308774号(請求項の数7。以下,「本件特許」という。)は,平成25年12月25日(優先権主張:平成24年12月28日)を出願日とする特許出願(特願2013-266290号)に係るものであって,平成30年3月23日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,平成30年4月11日である。)。
その後,平成30年10月9日に,本件特許の請求項1?7に係る特許に対して,特許異議申立人である上道真理子(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。

平成30年10月 9日 特許異議申立書
平成31年 1月24日付け 取消理由通知書
3月27日 意見書,訂正請求書
4月 9日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
令和 1年 5月10日 意見書(申立人)

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
平成31年3月27日付けの訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の明細書及び特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?7について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,「活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して」と記載されているのを,「活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり,ポリオール系化合物(a3)が,重量平均分子量が300?20,000のポリオール系化合物を含有し,ポリオール系化合物(a3)が,ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有し,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が7,000?50,000であり,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に,「請求項1?3いずれか記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」と記載されているのを,「請求項1記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に,「請求項1?4いずれか記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」と記載されているのを,「請求項1または4記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に,「請求項1?5いずれか記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」と記載されているのを,「請求項1,4または5記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に,「請求項1?6いずれか記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を含有して」と記載されているのを,「請求項1,4?6いずれか記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を含有して」に訂正する。

(8)訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0010】に,「即ち,本発明の要旨は,水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)およびエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して,エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を80?400重量部含有し,エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体に対して,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)を80重量%以上含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に関するものである。」と記載されているのを,「即ち,本発明の要旨は,水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)およびエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり,ポリオール系化合物(a3)が,重量平均分子量が300?20,000のポリオール系化合物を含有し,ポリオール系化合物(a3)が,ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有し,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が7,000?50,000であり,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して,エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を80?400重量部含有し,エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体に対して,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)を80重量%以上含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に関するものである。」に訂正する。

(9)訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0017】に,「本発明で用いられるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量は,2,000?50,000であることが好ましく,特に好ましくは4,000?45,000,更に好ましくは7,000?40,000である。」と記載されているのを,「本発明で用いられるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量は,7,000?50,000であることが好ましく,特に好ましくは7,000?45,000,更に好ましくは7,000?40,000である。」に訂正する。

(10)訂正事項10
願書に添付した明細書の段落【0027】に,「上記ポリオール系化合物(a3)としては,例えば,脂肪族ポリオール,脂環族ポリオール,ポリエーテル系ポリオール,ポリエステル系ポリオール,ポリカーボネート系ポリオール,ポリオレフィン系ポリオール,ポリブタジエン系ポリオール,(メタ)アクリル系ポリオール,ポリシロキサン系ポリオール等が挙げられる。」と記載されているのを,「上記ポリオール系化合物(a3)としては,ポリエステル系ポリオール,ポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。」に訂正する。

(11)訂正事項11
願書に添付した明細書の段落【0028】,【0029】,【0030】,【0038】,【0039】,【0040】及び【0041】を削除する。

(12)訂正事項12
願書に添付した明細書の段落【0042】に,「これらの中でも,硬化塗膜となった際のべたつき抑制の点では,脂肪族ポリオール,脂環族ポリオールが好ましく用いられ,柔軟性付与の点ではポリエステル系ポリオール,ポリエーテル系ポリオール,ポリカーボネート系ポリオールが好ましく用いられる。」と記載されているのを,「柔軟性付与の点で,ポリエステル系ポリオール,ポリカーボネート系ポリオールが好ましく用いられる。」に訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1に対して,「ポリオール系化合物(a3)が,重量平均分子量が300?20,000のポリオール系化合物を含有し,ポリオール系化合物(a3)が,ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有し,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が7,000?50,000であり,」との記載を追加するものである。
この訂正は,訂正前の請求項1における「ポリオール系化合物(a3)」について,「重量平均分子量が300?20,000のポリオール系化合物を含有」するものであって,「ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有」するものに限定するとともに,同「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)」について,その「重量平均分子量」を「7,000?50,000」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲には,以下の記載がある。
「ポリオール系化合物(a3)が,重量平均分子量が300以上のポリオール系化合物を含有することを特徴とする請求項1記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」(請求項2)
「上記ポリオール系化合物(a3)の重量平均分子量としては,300?20,000が好ましく,特に好ましくは400?10,000,更に好ましくは500?8,000である。」(【0044】)
「上記ポリオール系化合物(a3)としては,例えば,脂肪族ポリオール,脂環族ポリオール,ポリエーテル系ポリオール,ポリエステル系ポリオール,ポリカーボネート系ポリオール,ポリオレフィン系ポリオール,ポリブタジエン系ポリオール,(メタ)アクリル系ポリオール,ポリシロキサン系ポリオール等が挙げられる。」(【0027】)
「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が2,000?50,000であることを特徴とする請求項1または2記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」(請求項3)
「本発明で用いられるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量は,2,000?50,000であることが好ましく,特に好ましくは4,000?45,000,更に好ましくは7,000?40,000である。」(【0017】)
以上の記載によれば,上記訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3に係る訂正は,それぞれ,訂正前の請求項2及び3を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(3)訂正事項4?7について
訂正事項4に係る訂正は,訂正前の請求項4における引用請求項について,「請求項1?3いずれか」を「請求項1」に訂正するものである。
訂正事項5に係る訂正は,訂正前の請求項5における引用請求項について,「請求項1?4いずれか」を「請求項1または4」に訂正するものである。
訂正事項6に係る訂正は,訂正前の請求項6における引用請求項について,「請求項1?5いずれか」を「請求項1,4または5」に訂正するものである。
訂正事項7に係る訂正は,訂正前の請求項7における引用請求項について,「請求項1?6いずれか」を「請求項1,4?6いずれか」に訂正するものである。
これらの訂正は,いずれも,上記の訂正事項2及び3による請求項の削除に合わせて,引用請求項の一部を削除するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(4)訂正事項8?12について
訂正事項8?12に係る訂正は,いずれも,上記の訂正事項1?7による訂正に合わせて,願書に添付した明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1?7について,請求項2?7は,請求項1を直接又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1?7に対応する訂正後の請求項1?7は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。
また,上記の訂正事項8?12に係る訂正は,願書に添付した明細書を訂正するものであるが,いずれも一群の請求項である訂正前の請求項1?7に対応する訂正後の請求項1?7に関係する訂正である。そして,本件訂正は,明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われている。

3 まとめ
上記2のとおり,各訂正事項に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条4項に適合するとともに,同条9項において準用する同法126条4項ないし6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?7に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)およびエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり,ポリオール系化合物(a3)が,重量平均分子量が300?20,000のポリオール系化合物を含有し,ポリオール系化合物(a3)が,ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有し,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が7,000?50,000であり,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して,エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を80?400重量部含有し,エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体に対して,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)を80重量%以上含有する
ことを特徴とする活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)が,脂環式構造含有エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマーを含有することを特徴とする請求項1記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
20℃における粘度が,20,000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1または4記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
実質的に有機溶剤を含まないことを特徴とする請求項1,4または5記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1,4?6いずれか記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を含有してなることを特徴とするコーティング剤。

第4 取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は,下記(1)?(7)のとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?7に係る特許は,特許法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。証拠方法として,下記(8)の甲第1号証?甲第4号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出する。また,周知例として,下記(8)の周知例1及び2を示す。

(1)取消理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は,甲1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。
(2)取消理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)取消理由3(新規性)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は,甲2に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。
(4)取消理由4(進歩性)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(5)取消理由5(新規性)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は,甲3に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。
(6)取消理由6(進歩性)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(7)取消理由7(拡大先願)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は,本件特許の優先日前の特許出願であって,本件特許の優先日後に出願公開がされた甲4に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許の出願の発明者がその優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本件特許の優先日において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない。
(8)証拠方法
・甲1 特開2006-117826号公報
・甲2 特開2001-64594号公報
・甲3 特開2012-1648号公報
・甲4 特開2013-49765号公報
・周知例1 国際公開第2010/027041号
・周知例2 特開2012-46658号公報

2 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)上記1の取消理由1(新規性),取消理由2(進歩性)と同旨。
(2)上記1の取消理由3(新規性)(ただし,本件訂正前の請求項1及び3?6に係る発明に対するもの。)と同旨。
(3)上記1の取消理由5(新規性)(ただし,本件訂正前の請求項1,3,5及び6に係る発明に対するもの。)と同旨。
(4)上記1の取消理由7(拡大先願)(ただし,本件訂正前の請求項1?3,5及び6に係る発明に対するもの。)と同旨。
(5)本件訂正前の請求項1?7に係る発明は,下記(12)の引用文献1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである(取消理由8(新規性))。
(6)本件訂正前の請求項1?7に係る発明は,下記(12)の引用文献1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである(取消理由9(進歩性))。
(7)本件訂正前の請求項1,3,5及び6に係る発明は,下記(12)の引用文献2に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである(取消理由10(新規性))。
(8)本件訂正前の請求項1,3,5及び6に係る発明は,下記(12)の引用文献2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである(取消理由11(進歩性))。
(9)本件訂正前の請求項1?3及び5?7に係る発明は,下記(12)の引用文献3に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである(取消理由12(新規性))。
(10)本件訂正前の請求項1,2及び5?7に係る発明は,下記(12)の引用文献4に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである(取消理由13(新規性))。
(11)本件訂正前の請求項1,2及び5?7に係る発明は,下記(12)の引用文献4に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである(取消理由14(進歩性))。
(12)当審における職権調査により発見した引用文献及び参考資料
・引用文献1 特開2010-18644号公報
・引用文献2 特開2010-86577号公報
・引用文献3 特開2001-167736号公報
・引用文献4 特開平1-161010号公報
・参考資料1 「光硬化型樹脂 アロニックス^(R○)Mシリーズ アロンオキセタン^(R○)シリーズ」,東亞合成株式会社,平成28年12月

・参考資料2 大阪有機化学工業株式会社のウェブページ[平成31年1月23日検索]

・参考資料3 大阪有機化学工業株式会社のウェブページ[平成31年1月23日検索]

・参考資料4 大阪有機化学工業株式会社のウェブページ[平成31年1月23日検索]

・参考資料5 日東電工株式会社のウェブページ[平成31年1月23日検索]

・参考資料6 大阪有機化学工業株式会社のウェブページ[平成31年1月23日検索]


第5 当審の判断
本件特許の請求項2及び3が本件訂正により削除された結果,同請求項2及び3に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
また,以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1及び4?7に係る特許を取り消すことはできない。

1 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由1(新規性),取消理由2(進歩性)
ア 甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1,4,【0001】,【0005】,【0008】?【0011】,【0018】,【0020】,【0029】,【0030】,【0032】,【0033】,【0037】,【0038】,【0048】,【0050】,【0055】,【0058】?【0062】,【0066】,実施例1?8,比較例1?7,表1,表2)によれば,特に実施例1?4,7及び8並びに比較例3に着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「攪拌機,冷却器,窒素ガス導入管を備えた反応容器に,数平均分子量8000のポリプロピレングリコール(Arco ケミカル社Acclaim 8200)1モル,トルエン-2,4-ジイソシアネート(三井武田ケミカル社TDI-100)2モル,触媒としてジブチル錫ジラウレートの微量を仕込み,70℃で反応を行い,イソシアネート濃度が仕込み濃度の1/2なったことを確認し,次に,ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業社HEA)2モルを,重合禁止剤として,t-ブチルハイドロキノンを微量及びジブチル錫ジラウレートを微量加え,更に70℃でイソシアネート基がほぼ無くなるまで反応させて得られた,数平均分子量8580のウレタンアクリレートオリゴマー(UA1)45質量部と,
ノニルフェノキシエチレングリコールアクリレート(M1)(東亞合成社製アロニクスM-111)24質量部と,
フェノキシジエチレングリコールアクリレート(M2)(東亞合成社製アロニクスM-101A)10質量部と,
N-ビニルカプロラクタム(M9)(ISPジャパン社製V-Cap/RC)10質量部と,
テトラヒドロフルフリルアクリレート(M6)(大阪有機化学工業社製ビスコート#150)10質量部と,
EO変性(n=3)トリメチロールプロパントリアクリレート(M10)(MIWON社製ミラマーM-310)1質量部と,
2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(E1)(MIWON社製M-CURE BK-6)4質量部と,
アクリロイル基含有ポリエーテル変性シリコーンオイル(F1)(ビックケミー社製BYK UV-3570;前記式(4)で表される化合物)0.8質量部と,
γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(G1)(信越化学工業社製KBM-803P)1質量部と,
を含有する紫外線等の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。」(以下,「甲1発明1」という。)

「攪拌機,冷却器,窒素ガス導入管を備えた反応容器に,数平均分子量4000のポリプロピレングリコール(Arco ケミカル社Acclaim 4200)1モル,トルエン-2,4-ジイソシアネート(三井武田ケミカル社TDI-100)2モル,触媒としてジブチル錫ジラウレートの微量を仕込み,70℃で反応を行い,イソシアネート濃度が仕込み濃度の1/2なったことを確認し,次に,ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業社HEA)2モルを,重合禁止剤として,t-ブチルハイドロキノンを微量及びジブチル錫ジラウレートを微量加え,更に70℃でイソシアネート基がほぼ無くなるまで反応させて得られた,数平均分子量4580のウレタンアクリレートオリゴマー(UA2)45質量部と,
ノニルフェノキシエチレングリコールアクリレート(M1)(東亞合成社製アロニクスM-111)24質量部と,
フェノキシジエチレングリコールアクリレート(M2)(東亞合成社製アロニクスM-101A)10質量部と,
N-ビニルカプロラクタム(M9)(ISPジャパン社製V-Cap/RC)10質量部と,
テトラヒドロフルフリルアクリレート(M6)(大阪有機化学工業社製ビスコート#150)10質量部と,
EO変性(n=3)トリメチロールプロパントリアクリレート(M10)(MIWON社製ミラマーM-310)1質量部と,
2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(E1)(MIWON社製M-CURE BK-6)4質量部と,
アクリロイル基含有ポリエーテル変性シリコーンオイル(F1)(ビックケミー社製BYK UV-3570;前記式(4)で表される化合物)0.8質量部と,
γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(G1)(信越化学工業社製KBM-803P)1質量部と,
を含有する紫外線等の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。」(以下,「甲1発明2」という。)

「攪拌機,冷却器,窒素ガス導入管を備えた反応容器に,数平均分子量8000のポリプロピレングリコール(Arco ケミカル社Acclaim 8200)1モル,トルエン-2,4-ジイソシアネート(三井武田ケミカル社TDI-100)2モル,触媒としてジブチル錫ジラウレートの微量を仕込み,70℃で反応を行い,イソシアネート濃度が仕込み濃度の1/2なったことを確認し,次に,ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業社HEA)2モルを,重合禁止剤として,t-ブチルハイドロキノンを微量及びジブチル錫ジラウレートを微量加え,更に70℃でイソシアネート基がほぼ無くなるまで反応させて得られた,数平均分子量8580のウレタンアクリレートオリゴマー(UA1)42質量部と,
ノニルフェノキシエチレングリコールアクリレート(M1)(東亞合成社製アロニクスM-111)34質量部と,
フェノキシジエチレングリコールアクリレート(M2)(東亞合成社製アロニクスM-101A)14質量部と,
N-ビニルカプロラクタム(M9)(ISPジャパン社製V-Cap/RC)10質量部と,
2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(E1)(MIWON社製M-CURE BK-6)4質量部と,
アクリロイル基含有ポリエーテル変性シリコーンオイル(F1)(ビックケミー社製BYK UV-3570;前記式(4)で表される化合物)0.8質量部と,
γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(G1)(信越化学工業社製KBM-803P)1質量部と,
を含有する紫外線等の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。」(以下,「甲1発明3」という。)

「攪拌機,冷却器,窒素ガス導入管を備えた反応容器に,数平均分子量8000のポリプロピレングリコール(Arco ケミカル社Acclaim 8200)1モル,トルエン-2,4-ジイソシアネート(三井武田ケミカル社TDI-100)2モル,触媒としてジブチル錫ジラウレートの微量を仕込み,70℃で反応を行い,イソシアネート濃度が仕込み濃度の1/2なったことを確認し,次に,ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業社HEA)2モルを,重合禁止剤として,t-ブチルハイドロキノンを微量及びジブチル錫ジラウレートを微量加え,更に70℃でイソシアネート基がほぼ無くなるまで反応させて得られた,数平均分子量8580のウレタンアクリレートオリゴマー(UA1)45質量部と,
ノニルフェノキシエチレングリコールアクリレート(M1)(東亞合成社製アロニクスM-111)24質量部と,
フェノキシジエチレングリコールアクリレート(M2)(東亞合成社製アロニクスM-101A)10質量部と,
イソボルニルアクリレート(M8)(大阪有機化学工業社製IBXA)10質量部と,
テトラヒドロフルフリルアクリレート(M6)(大阪有機化学工業社製ビスコート#150)10質量部と,
EO変性(n=3)トリメチロールプロパントリアクリレート(M10)(MIWON社製ミラマーM-310)1質量部と,
2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(E1)(MIWON社製M-CURE BK-6)4質量部と,
アクリロイル基含有ポリエーテル変性シリコーンオイル(F1)(ビックケミー社製BYK UV-3570;前記式(4)で表される化合物)0.8質量部と,
γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(G1)(信越化学工業社製KBM-803P)1質量部と,
を含有する紫外線等の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。」(以下,「甲1発明4」という。)

「攪拌機,冷却器,窒素ガス導入管を備えた反応容器に,数平均分子量8000のポリプロピレングリコール(Arco ケミカル社Acclaim 8200)1モル,トルエン-2,4-ジイソシアネート(三井武田ケミカル社TDI-100)2モル,触媒としてジブチル錫ジラウレートの微量を仕込み,70℃で反応を行い,イソシアネート濃度が仕込み濃度の1/2なったことを確認し,次に,ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業社HEA)2モルを,重合禁止剤として,t-ブチルハイドロキノンを微量及びジブチル錫ジラウレートを微量加え,更に70℃でイソシアネート基がほぼ無くなるまで反応させて得られた,数平均分子量8580のウレタンアクリレートオリゴマー(UA1)45質量部と,
ノニルフェノキシエチレングリコールアクリレート(M1)(東亞合成社製アロニクスM-111)24質量部と,
フェノキシジエチレングリコールアクリレート(M2)(東亞合成社製アロニクスM-101A)10質量部と,
N-ビニルカプロラクタム(M9)(ISPジャパン社製V-Cap/RC)10質量部と,
テトラヒドロフルフリルアクリレート(M6)(大阪有機化学工業社製ビスコート#150)10質量部と,
EO変性(n=3)トリメチロールプロパントリアクリレート(M10)(MIWON社製ミラマーM-310)1質量部と,
2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(E2)(BASF社製ルシリンTPO)2質量部と,
アクリロイル基含有ポリエーテル変性シリコーンオイル(F1)(ビックケミー社製BYK UV-3570;前記式(4)で表される化合物)0.8質量部と,
γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(G1)(信越化学工業社製KBM-803P)1質量部と,
を含有する紫外線等の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。」(以下,「甲1発明5」という。)

「攪拌機,冷却器,窒素ガス導入管を備えた反応容器に,数平均分子量8000のポリプロピレングリコール(Arco ケミカル社Acclaim 8200)1モル,トルエン-2,4-ジイソシアネート(三井武田ケミカル社TDI-100)2モル,触媒としてジブチル錫ジラウレートの微量を仕込み,70℃で反応を行い,イソシアネート濃度が仕込み濃度の1/2なったことを確認し,次に,ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業社HEA)2モルを,重合禁止剤として,t-ブチルハイドロキノンを微量及びジブチル錫ジラウレートを微量加え,更に70℃でイソシアネート基がほぼ無くなるまで反応させて得られた,数平均分子量8580のウレタンアクリレートオリゴマー(UA1)36質量部と,
ノニルフェノキシエチレングリコールアクリレート(M1)(東亞合成社製アロニクスM-111)48質量部と,
N-ビニルカプロラクタム(M9)(ISPジャパン社製V-Cap/RC)10質量部と,
2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(E1)(MIWON社製M-CURE BK-6)4質量部と,
アクリロイル基含有ポリエーテル変性シリコーンオイル(F1)(ビックケミー社製BYK UV-3570;前記式(4)で表される化合物)0.8質量部と,
アクリロイル基含有シリコーンアルコキシオリゴマー(G2)(信越化学工業社製X-40-2672)0.8質量部と,
を含有する紫外線等の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。」(以下,「甲1発明6」という。)

「攪拌機,冷却器,窒素ガス導入管を備えた反応容器に,数平均分子量8000のポリプロピレングリコール(Arco ケミカル社Acclaim 8200)1モル,トルエン-2,4-ジイソシアネート(三井武田ケミカル社TDI-100)2モル,触媒としてジブチル錫ジラウレートの微量を仕込み,70℃で反応を行い,イソシアネート濃度が仕込み濃度の1/2なったことを確認し,次に,ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業社HEA)2モルを,重合禁止剤として,t-ブチルハイドロキノンを微量及びジブチル錫ジラウレートを微量加え,更に70℃でイソシアネート基がほぼ無くなるまで反応させて得られた,数平均分子量8580のウレタンアクリレートオリゴマー(UA1)45質量部と,
ノニルフェノキシエチレングリコールアクリレート(M1)(東亞合成社製アロニクスM-111)24質量部と,
フェノキシジエチレングリコールアクリレート(M2)(東亞合成社製アロニクスM-101A)10質量部と,
テトラヒドロフルフリルアクリレート(M6)(大阪有機化学工業社製ビスコート#150)10質量部と,
EO変性(n=3)トリメチロールプロパントリアクリレート(M10)(MIWON社製ミラマーM-310)1質量部と,
2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(E1)(MIWON社製M-CURE BK-6)4質量部と,
アクリロイル基含有ポリエーテル変性シリコーンオイル(F1)(ビックケミー社製BYK UV-3570;前記式(4)で表される化合物)0.8質量部と,
γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(G1)(信越化学工業社製KBM-803P)1質量部と,
を含有する紫外線等の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。」(以下,「甲1発明7」という。)

イ 本件発明1について
(ア)甲1発明1に対して
a 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1における「ウレタンアクリレートオリゴマー(UA1)」は,「ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業社HEA)」と,「トルエン-2,4-ジイソシアネート(三井武田ケミカル社TDI-100)」と,「数平均分子量8000のポリプロピレングリコール(Arco ケミカル社Acclaim 8200)」とを反応させて得られたものであるから,本件発明1における「水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)」に相当する。
甲1発明1における「ノニルフェノキシエチレングリコールアクリレート(M1)(東亞合成社製アロニクスM-111)」,「フェノキシジエチレングリコールアクリレート(M2)(東亞合成社製アロニクスM-101A)」,「N-ビニルカプロラクタム(M9)(ISPジャパン社製V-Cap/RC)」,「テトラヒドロフルフリルアクリレート(M6)(大阪有機化学工業社製ビスコート#150)」は,本件発明1における「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)」に相当する。
そして,このうち,M1,M2,M6は,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が,それぞれ,17℃,-8℃,-12℃と認められる(参考資料1,2)から,本件発明1における「ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)」に相当する。
甲1発明1において,本件発明1における「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部」に対する「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)」の含有量を計算すると,120質量部(=100質量部×(24質量部+10質量部+10質量部+10質量部)/45質量部)であるから,本件発明1における「80?400重量部」を満たす。
甲1発明1において,本件発明1における「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体」に対する「ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)」の割合を計算すると,81質量%(=(24質量部+10質量部+10質量部)/(24質量部+10質量部+10質量部+10質量部))であるから,本件発明1における「80重量%以上」を満たす。
そうすると,本件発明1と甲1発明1とは,少なくとも,
「水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)およびエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり,
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して,エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を80?400重量部含有し,
エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体に対して,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)を80重量%以上含有する
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,ポリオール系化合物(a3)が,「ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有」するものであるのに対して,甲1発明1では,「数平均分子量8000のポリプロピレングリコール(Arco ケミカル社Acclaim 8200)」である点。

b 相違点1の検討
(a)まず,相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1発明1における「数平均分子量8000のポリプロピレングリコール(Arco ケミカル社Acclaim 8200)」は,ポリエーテルポリオールであり(甲1【0021】,【0022】),本件発明1における「ポリエステル系ポリオール」及び「ポリカーボネート系ポリオール」とは異なるものである。
以上によれば,相違点1は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。

(b)次に,相違点1の容易想到性について検討する。
本件発明1は,水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)並びにエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に関するものであるところ,本件明細書の記載(【0001】,【0004】,【0008】?【0012】,【0017】,【0018】,【0027】,【0042】,【0044】,【0057】?【0059】,【0078】,表1,表2,実施例1?5,比較例1?5)によれば,ポリオール系化合物(a3)を,「重量平均分子量が300?20,000のポリオール系化合物を含有」するものであって,「ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有」するものとし,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の「重量平均分子量」を「7,000?50,000」とし,「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して,エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を80?400重量部含有」するものとし,「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体に対して,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)を80重量%以上含有する」ものとすることにより,硬化塗膜とした際に傷に対する復元性に優れ,無溶剤系の樹脂組成物とした際の塗工適正にも優れた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供できるというものである。
一方,甲1には,このような事項については何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
甲1には,ポリオール化合物について,「本発明において使用するポリオール化合物(a)は例えば,ポリエーテルポリオール,ポリエステルポリオール化合物,ポリカプロラクトンポリオール,ポリカーボネート系ポリオール,その他ポリオール等を挙げることが出来る。」(【0021】)と記載され,それぞれの具体例(【0022】?【0026】)についても記載されている。そして,上記のとおり,ポリエステルポリオール化合物やポリカーボネート系ポリオールも挙げられてはいるものの,これらは,単に多数の例示の中の一例にすぎず,特にこれらに着目すべき理由も見当たらないから,甲1発明1における「数平均分子量8000のポリプロピレングリコール(Arco ケミカル社Acclaim 8200)」に代えて,あえてポリエステルポリオール化合物やポリカーボネート系ポリオールを用いる動機付けがあるとはいえない。
そして,本件発明1は,上記のとおり,硬化塗膜とした際に傷に対する復元性に優れ,無溶剤系の樹脂組成物とした際の塗工適正にも優れた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると,甲1発明1において,「数平均分子量8000のポリプロピレングリコール(Arco ケミカル社Acclaim 8200)」に代えて,「ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有」するものを用いることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)甲1発明2?7に対して
本件発明1と甲1発明2?7とを対比すると,上記(ア)aと同様に,本件発明1では,ポリオール系化合物(a3)が,「ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有」するものであるのに対して,甲1発明2?7では,所定のポリプロピレングリコールである点で相違するところ,この相違点については,上記(ア)bで述べたのと同様の理由により,実質的な相違点であり,また,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は,甲1には,ポリオール化合物として,ポリエステルポリオール化合物及びポリカーボネート系ポリオールが記載されており,ポリプロピレングリコールを含有する実施例は,あくまでも種々のポリオール化合物から抜粋された1例を示したにすぎず,実施例にポリエステルポリオール化合物やポリカーボネート系ポリオールがないからといって,ポリエステルポリオール化合物やポリカーボネート系ポリオールを含有する態様が開示されていないとはいえないから,甲1には,「ポリオール系化合物(a3)が,ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有」することが記載されているか,又は,ポリオール化合物として,ポリエステルポリオール化合物やポリカーボネート系ポリオールを選択することに,当業者であれば格別な困難性があるとはいえないと主張する(意見書9頁)。
しかしながら,上記アのとおり,甲1発明1?7は,本件発明1と対比する前提で適切と解される発明を,甲1の記載のうち,特に実施例1?4,7及び8並びに比較例3に着目して認定したものであるところ,甲1に,ポリオール化合物として,ポリエーテルポリオールのほか,ポリエステルポリオール化合物やポリカーボネート系ポリオール等が例示されているとしても(【0021】,【0023】,【0025】),そうであるからといって,上記の各実施例及び比較例において,所定のポリプロピレングリコールに代えて,ポリエステルポリオール化合物やポリカーボネート系ポリオールを用いた発明についても,当然に甲1に記載されているということはできない。そして,甲1発明1?7において,所定のポリプロピレングリコールに代えて,「ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有」するものを用いることが,当業者が容易に想到することができたということはできないことは,上記(ア)b(b),(イ)で述べたとおりである。
よって,申立人の主張は,採用することができない。

(エ)小括
以上のとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明4?7について
本件発明4?7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明4?7についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1及び4?7は,いずれも,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,取消理由1(新規性),取消理由2(進歩性)によっては,本件特許の請求項1及び4?7に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由3(新規性)(ただし,本件訂正前の請求項1及び3?6に係る発明に対するもの。)
ア 甲2に記載された発明
甲2の記載(請求項1,3,【0001】?【0009】,【0029】,【0030】,【0039】,【0040】,【0045】?【0066】,実施例1?4,比較例1?6,表1?6)によれば,特に比較例5に着目すると,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。

「ポリカーボネート系ウレタンアクリレート(重量平均分子量約2万,根上工業(株)製アートレジンUN9200A)25重量部と,
2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(東亞合成(株)製アロニックスM5700)15重量部と,
テトラヒドロフルフリルアクリレート(大阪有機(株)製ビスコート#150)30重量部と,
フェノキシエトキシエチルアクリレート(東亞合成(株)製アロニックスM101)30重量部と
1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(チバスペシャリティーケミカルズ(株)イルガキュア184)5重量部と,
を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。」(以下,「甲2発明」という。)

なお,甲2の「6)THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート,大阪有機(株)製ビスコート#190」(【0051】)との記載は,「6)THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート,大阪有機(株)製ビスコート#150」の誤記と認められる(参考資料2,3)。

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「ポリカーボネート系ウレタンアクリレート(重量平均分子量約2万,根上工業(株)製アートレジンUN9200A)」は,甲2の記載(【0009】)によれば,ポリオールと有機ポリイソシアネート反応物に,ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを反応させた化合物と解されるから,本件発明1における「水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)」に相当する。
甲2発明における「2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(東亞合成(株)製アロニックスM5700)」,「テトラヒドロフルフリルアクリレート(大阪有機(株)製ビスコート#150)」,「フェノキシエトキシエチルアクリレート(東亞合成(株)製アロニックスM101)」は,本件発明1における「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)」に相当する。
そして,甲2発明における上記の化合物は,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が,それぞれ,17℃,-12℃,-8℃と認められる(参考資料1,2)から,本件発明1における「ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)」に相当する。
甲2発明において,本件発明1における「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部」に対する「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)」の含有量を計算すると,300重量部(=100重量部×(15重量部+30重量部+30重量部)/25重量部)であるから,本件発明1における「80?400重量部」を満たす。
甲2発明において,本件発明1における「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体」に対する「ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)」の割合を計算すると,100重量%(=(15重量部+30重量部+30重量部)/(15重量部+30重量部+30重量部))であるから,本件発明1における「80重量%以上」を満たす。
そうすると,本件発明1と甲2発明とは,少なくとも,
「水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)およびエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり,
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して,エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を80?400重量部含有し,
エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体に対して,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)を80重量%以上含有する
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点2
本件発明1では,ポリオール系化合物(a3)が,「重量平均分子量が300?20,000のポリオール系化合物を含有」するものであるのに対して,甲2発明では,「ポリカーボネート系ウレタンアクリレート(重量平均分子量約2万,根上工業(株)製アートレジンUN9200A)」の原料であるポリオールの重量平均分子量が不明である点。

(イ)相違点2の検討
甲2には,甲2発明における「ポリカーボネート系ウレタンアクリレート(重量平均分子量約2万,根上工業(株)製アートレジンUN9200A)」の原料であるポリオールの重量平均分子量については,何ら記載されていない。また,上記ポリオールの重量平均分子量が「300?20,000」であると認めるに足りる証拠もない。
以上によれば,相違点2は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲2に記載された発明であるとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は,甲2の【0009】には,ポリオールとして,低分子量ポリオール,ポリエチレングリコール,ポリカーボネートポリオール及びポリエステルポリオールが記載されているところ,低分子量ポリオールの分子量によれば,ポリカーボネートポリオール及びポリエステルポリオールは,いずれも,Mwが「300以上」を満たしている蓋然性が高く,また,甲2には,実施例において,具体的に市販されているポリエステルポリオールを使用した東亞合成(株)製のアロニックスM1310(Mw約5千)及びポリカーボネートポリオールを使用した根上工業(株)製のアートレジンUN9200A(Mw約2万)が記載されており,前記Mwを考慮すれば,Mwが「300?20,000」のポリオール系化合物が実質的に記載されている蓋然性が高いから,甲2には,「ポリオール系化合物(a3)が,重量平均分子量が300?20,000のポリオール系化合物を含有」することが記載されているか,又は,甲2に基づき,ポリオール系化合物のMw300?20,000とすることに,当業者であれば格別な困難性があるとはいえないと主張する(意見書12?14頁)。
しかしながら,上記アのとおり,甲2発明は,本件発明1と対比する前提で適切と解される発明を,甲2の記載のうち,特に比較例5に着目して認定したものであるところ,甲2発明における「ポリカーボネート系ウレタンアクリレート(重量平均分子量約2万,根上工業(株)製アートレジンUN9200A)」の原料であるポリオールの重量平均分子量が,「300?20,000」であると認めるに足りる証拠がないことは,上記(イ)で述べたとおりである。
よって,申立人の主張は,採用することができない。

(エ)小括
以上のとおり,本件発明1は,甲2に記載された発明であるとはいえない。

ウ 本件発明4?6について
本件発明4?6は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が甲2に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明4?6についても同様に,甲2に記載された発明であるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1及び4?6は,いずれも,甲2に記載された発明であるとはいえない。
したがって,取消理由3(新規性)(ただし,本件訂正前の請求項1及び3?6に係る発明に対するもの。)によっては,本件特許の請求項1及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由5(新規性)(ただし,本件訂正前の請求項1,3,5及び6に係る発明に対するもの。)
ア 甲3に記載された発明
甲3の記載(請求項1?3,【0001】,【0007】,【0009】,【0012】,【0014】?【0017】,【0029】?【0036】,実施例1?5,比較例1,2,表1,表2)によれば,特に比較例1に着目すると,甲3には,以下の発明が記載されていると認められる。

「ポリイソプレン骨格ウレタンアクリレート(UA1-LAN,希釈モノマーなし)を20重量部と,
イソデシルアクリレートを20重量部と,
イルガキュア184を1重量部と,
を含有する紫外線等のエネルギー線硬化性接着組成物。」(以下,「甲3発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「ポリイソプレン骨格ウレタンアクリレート(UA1-LAN,希釈モノマーなし)」は,甲3の記載(【0014】)によれば,ポリオールと1分子中に2個以上のイソシアネートを有する化合物とを付加反応させ,さらに水酸基含有(メタ)アクリレートを付加して得られるものと解されるから,本件発明1における「水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)」に相当する。
甲3発明における「イソデシルアクリレート」は,本件発明1における「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)」に相当する。
そして,当該「イソデシルアクリレート」は,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が-62℃と認められる(参考資料4)から,本件発明1における「ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)」に相当する。
甲3発明において,本件発明1における「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部」に対する「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)」の含有量を計算すると,100重量部(=100重量部×20重量部/20重量部)であるから,本件発明1における「80?400重量部」を満たす。
甲3発明において,本件発明1における「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体」に対する「ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)」の割合を計算すると,100重量%(=20重量部/20重量部)であるから,本件発明1における「80重量%以上」を満たす。
そうすると,本件発明1と甲3発明とは,少なくとも,
「水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)およびエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり,
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して,エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を80?400重量部含有し,
エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体に対して,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)を80重量%以上含有する
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点3
本件発明1では,ポリオール系化合物(a3)が,「ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有」するものであるのに対して,甲3発明では,「ポリイソプレン骨格ウレタンアクリレート(UA1-LAN,希釈モノマーなし)」の原料であるポリイソプレンポリオールである点。
・相違点4
本件発明1では,ポリオール系化合物(a3)が,「重量平均分子量が300?20,000のポリオール系化合物を含有」するものであるのに対して,甲3発明では,「ポリイソプレン骨格ウレタンアクリレート(UA1-LAN,希釈モノマーなし)」の原料であるポリオールの重量平均分子量が不明である点。

(イ)相違点3の検討
甲3発明における「ポリイソプレン骨格ウレタンアクリレート(UA1-LAN,希釈モノマーなし)」の原料であるポリイソプレンポリオールは,ポリオレフィンポリオールであり(甲3【0014】),本件発明1における「ポリエステル系ポリオール」及び「ポリカーボネート系ポリオール」とは異なるものである。
以上によれば,相違点3は実質的な相違点である。

(ウ)相違点4の検討
甲3には,甲3発明における「ポリイソプレン骨格ウレタンアクリレート(UA1-LAN,希釈モノマーなし)」の原料であるポリオールの重量平均分子量については,何ら記載されていない。また,上記ポリオールの重量平均分子量が「300?20,000」であると認めるに足りる証拠もない。
以上によれば,相違点4は実質的な相違点である。

(エ)小括
したがって,本件発明1は,甲3に記載された発明であるとはいえない。

ウ 本件発明5及び6について
本件発明5及び6は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が甲3に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明5及び6についても同様に,甲3に記載された発明であるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1,5及び6は,いずれも,甲3に記載された発明であるとはいえない。
したがって,取消理由5(新規性)(ただし,本件訂正前の請求項1,3,5及び6に係る発明に対するもの。)によっては,本件特許の請求項1,5及び6に係る特許を取り消すことはできない。

(4)取消理由7(拡大先願)(ただし,本件訂正前の請求項1?3,5及び6に係る発明に対するもの。)
ア 甲4に係る特許出願(特願2011-187833号)の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下,「先願明細書等」という。)に記載された発明
先願明細書等(甲4)の記載(請求項1,7,【0001】,【0008】,【0009】,【0012】,【0014】,【0019】?【0023】,【0026】?【0033】,【0043】,【0044】,【0046】?【0049】,【0056】,【0057】,【0060】,【0082】,表1,表3)によれば,特に比較例7に着目すると,先願明細書等には,以下の発明が記載されていると認められる。

「攪拌機,温度計,還流冷却器を備えたセパラフラスコに,水酸基価47.6mgKOH/g,数平均分子量2100の末端水酸基を有する水添ポリブタジエン(GI-2000 日本曹達株式会社製)(a1-1)85.85質量部,及び熱重合禁止剤として2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(BHT)0.05質量部を仕込み,そこにポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート(IPDI(a2-1))9.11質量部を添加し,よく攪拌しながら窒素雰囲気中,60℃で3時間反応させ,プレポリマー前駆体を得て,更に,この反応物に,活性水素を有する官能基とエチレン性不飽和結合を分子内にともに有する化合物として,ポリプロピレングリコール(n=5)モノメタクリル酸エステル(分子量376)(a3-3)4.95質量部,及び触媒としてジブチルスズジラウレート(DBSL)0.04質量部を添加し,80℃で3時間反応して,IR測定で2230cm^(-1)のイソシアネート基の吸収ピークが消失したことを確認し,その後,反応容器を冷却して得た,数平均分子量が21000である,水添ポリブタジエン構造を含む不飽和ポリウレタンプレポリマーである不飽和プレポリマー(A-3)30質量部と,
アクリル酸2-エチルヘキシル(C-1)49.0質量部と,
2-メトキシエチルアクリレート(D-1)20.0質量部と,
1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(E-1)1.0質量部と,
を含有する活性エネルギー線で硬化する接着部材用組成物。」(以下,「先願発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と先願発明とを対比する。
先願発明における「水添ポリブタジエン構造を含む不飽和ポリウレタンプレポリマーである不飽和プレポリマー(A-3)」は,「ポリプロピレングリコール(n=5)モノメタクリル酸エステル(分子量376)(a3-3)」と,「イソホロンジイソシアネート(IPDI(a2-1))」と,「水酸基価47.6mgKOH/g,数平均分子量2100の末端水酸基を有する水添ポリブタジエン(GI-2000 日本曹達株式会社製)(a1-1)」とを反応させて得られたものであるから,本件発明1における「水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)」に相当する。
先願発明における「アクリル酸2-エチルヘキシル(C-1)」,「2-メトキシエチルアクリレート(D-1)」は,本件発明1における「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)」に相当する。
そして,先願発明における上記の化合物は,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が,それぞれ,-70℃,-50℃と認められる(参考資料5,6)から,本件発明1における「ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)」に相当する。
先願発明において,本件発明1における「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部」に対する「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)」の含有量を計算すると,230質量部(=100質量部×(49質量部+20質量部)/30質量部)であるから,本件発明1における「80?400重量部」を満たす。
先願発明において,本件発明1における「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体」に対する「ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)」の割合を計算すると,100質量%(=(49質量部+20質量部)/(49質量部+20質量部))であるから,本件発明1における「80重量%以上」を満たす。
そうすると,本件発明1と先願発明とは,少なくとも,
「水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)およびエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり,
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して,エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を80?400重量部含有し,
エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体に対して,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)を80重量%以上含有する
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点5
本件発明1では,ポリオール系化合物(a3)が,「ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有」するものであるのに対して,先願発明では,「数平均分子量2100の末端水酸基を有する水添ポリブタジエン(GI-2000 日本曹達株式会社製)(a1-1)」である点。

(イ)相違点5の検討
先願発明における「数平均分子量2100の末端水酸基を有する水添ポリブタジエン(GI-2000 日本曹達株式会社製)(a1-1)」は,ポリブタジエン系ポリオールであり,本件発明1における「ポリエステル系ポリオール」及び「ポリカーボネート系ポリオール」とは異なるものである。
以上によれば,相違点5は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

ウ 本件発明5及び6について
本件発明5及び6は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない以上,本件発明5及び6についても同様に,先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1,5及び6は,いずれも,先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。
したがって,取消理由7(拡大先願)(ただし,本件訂正前の請求項1?3,5及び6に係る発明に対するもの。)によっては,本件特許の請求項1,5及び6に係る特許を取り消すことはできない。

(5)取消理由8(新規性),取消理由9(進歩性)
ア 引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載(請求項1?3,【0002】?【0004】,【0007】,【0013】?【0015】,【0020】?【0026】,【0041】,【0047】,【0055】,【0056】,【0059】,【0064】,【0066】,【0070】?【0078】,実施例1?5,比較例1?6,表1)によれば,特に実施例1及び比較例1に着目すると,引用文献1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「5Lの4つ口フラスコに,キシリレンジイソシアネート940g及びジブチル錫ジオクテート0.5gを仕込んで水浴中でフラスコ内温が70℃になるように加熱し,ポリカプロラクトンジオール(ダイセル化学工業(株)製,商品名プラクセル205U,数平均分子量530)1325gを側管付きの滴下ロートに仕込み,この滴下ロート内の液を,4つ口フラスコ中の内容物を攪拌しつつ,フラスコ内温を70℃に保ちながら4時間等速で滴下し,更に同温度で2時間攪拌して反応させ,次いで,フラスコ内容物の温度を75℃に上げ,別の滴下ロートに仕込んだ2-ヒドロキシエチルアクリレート580g及びハイドロキノンモノメチルエーテル1gの混合溶液を,フラスコ内温を75℃に保ちながら2時間等速で滴下し,更にフラスコ内容物の温度を75℃に保って4時間反応させて製造した,質量平均分子量は4100であるウレタンアクリレートUA1を25質量部と,
テトラヒドロフルフリルアクリレートを25質量部と,
トリシクロデカンジメタノールジアクリレートを40質量部と,
カプロラクトン変性リン酸ジメタクリレートを10質量部と,
2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を3質量部と,
を含有する,25℃における粘度が630mPa・sである,無溶剤型硬化性組成物。」(以下,「引用発明1-1」という。)

「引用発明1-1の無溶剤型硬化性組成物103質量部と,
プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(沸点:146℃,n-ブチルアセテートの25℃における蒸発速度を1とした場合の相対蒸発速度:0.34)1957部と,
を含有する,有効成分濃度5.0質量%である,紫外線等の活性エネルギー線硬化性組成物。」(以下,「引用発明1-2」という。)

「引用発明1-1の無溶剤型硬化性組成物103質量部を含有する,有効成分濃度100質量%である硬化性組成物。」(以下,「引用発明1-3」という。)

イ 本件発明1について
(ア)引用発明1-1に対して
a 対比
本件発明1と引用発明1-1とを対比する。
引用発明1-1における「ウレタンアクリレートUA1」は,「2-ヒドロキシエチルアクリレート」と,「キシリレンジイソシアネート」と,「ポリカプロラクトンジオール(ダイセル化学工業(株)製,商品名プラクセル205U,数平均分子量530)」とを反応させて得られたものであるから,本件発明1における「水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)」に相当する。
引用発明1-1における「テトラヒドロフルフリルアクリレート」は,本件発明1における「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)」に相当する。
そして,当該「テトラヒドロフルフリルアクリレート」は,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が-12℃と認められる(参考資料2)から,本件発明1における「ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)」に相当する。
引用発明1-1において,本件発明1における「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部」に対する「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)」の含有量を計算すると,100質量部(=100質量部×25質量部/25質量部)であるから,本件発明1における「80?400重量部」を満たす。
引用発明1-1において,本件発明1における「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体」に対する「ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)」の割合を計算すると,100質量%(=25質量部/25質量部)であるから,本件発明1における「80重量%以上」を満たす。
引用発明1-1における「無溶剤型硬化性組成物」が,紫外線等の活性エネルギー線により硬化するものであることは,当業者にとって明らかであり,また,引用文献1の記載(【0047】,【0056】,【0059】)からも明らかであるから,本件発明1における「活性エネルギー線硬化性樹脂組成物」に相当する。
そうすると,本件発明1と引用発明1-1とは,少なくとも,
「水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)およびエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり,
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して,エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を80?400重量部含有し,
エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体に対して,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)を80重量%以上含有する
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点6
本件発明1では,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が「7,000?50,000」であるのに対して,引用発明1-1では,「4100」である点。

b 相違点6の検討
(a)まず,相違点6が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
引用発明1-1における「ウレタンアクリレートUA1」は,質量平均分子量が「4100」であるから,本件発明1におけるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量「7,000?50,000」を満たすものではない。
以上によれば,相違点6は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,引用文献1に記載された発明であるとはいえない。

(b)次に,相違点6の容易想到性について検討する。
本件発明1は,上記(1)イ(ア)b(b)で述べたとおりのものであるところ,引用文献1には,このような事項については,何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
引用文献1には,ウレタン(メタ)アクリレート等の,分子内に1個以上のエチレン性不飽和基を有するオリゴマー(A)の質量平均分子量が1000?30000であり,より好ましくは質量平均分子量が1000?10000の範囲であることが記載されているものの(請求項1,【0011】?【0013】),単にこれらの範囲が示されているにすぎず,1000?30000の範囲のうち,特に7000以上に着目すべき理由も見当たらないから,引用発明1-1における「ウレタンアクリレートUA1」の質量平均分子量を,「4100」に代えて,あえて「7,000?50,000」とする動機付けがあるとはいえない。
そして,本件発明1は,上記(1)イ(ア)b(b)で述べたとおり,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると,引用発明1-1において,「ウレタンアクリレートUA1」の質量平均分子量「4100」に代えて,「7,000?50,000」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,引用文献1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)引用発明1-2?3に対して
引用発明1-2は,引用発明1-1の無溶剤型硬化性組成物のほかに,溶剤としてプロピレングリコールメチルエーテルアセテートを含有するものであり,また,引用発明1-3は,引用発明1-1の無溶剤型硬化性組成物を含有し,溶剤を含有しないものである。
本件発明1と引用発明1-2?3とを対比すると,上記(ア)aと同様に,本件発明1では,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が「7,000?50,000」であるのに対して,引用発明1-2?3では,「4100」である点で相違するところ,この相違点については,上記(ア)bで述べたのと同様の理由により,実質的な相違点であり,また,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,引用文献1に記載された発明であるとはいえず,また,引用文献1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は,引用文献1には,ウレタン(メタ)アクリレート類のMwの範囲として1000?30000であることが記載されており,ウレタンアクリレートのMwが4100である実施例は,あくまでもMwの範囲として1000?30000から抜粋された1例にすぎず,実施例にウレタンアクリレートのMwが7,000?50,000がないからといって,Mwが7,000?50,000を満たす態様が開示されていないとはいえないから,引用文献1には,「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が7,000?50,000」であることが記載されているか,又は,ウレタンアクリレートのMwとして,7,000?50,000に調整することに,当業者であれば格別な困難性があるとはいえないと主張する(意見書14?15頁)。
しかしながら,上記アのとおり,引用発明1-1?3は,本件発明1と対比する前提で適切と解される発明を,引用文献1の記載のうち,特に実施例1及び比較例1に着目して認定したものであるところ,引用文献1に,ウレタン(メタ)アクリレート等の,分子内に1個以上のエチレン性不飽和基を有するオリゴマー(A)の質量平均分子量が1000?30000であり,より好ましくは質量平均分子量が1000?10000の範囲であることが記載されているとしても(請求項1,【0011】?【0013】),そうであるからといって,上記の実施例1及び比較例1において,ウレタンアクリレートUA1の質量平均分子量「4100」に代えて,「7,000?50,000」とした発明についても,当然に引用文献1に記載されているということはできない。そして,引用発明1-1?3において,「ウレタンアクリレートUA1」の質量平均分子量「4100」に代えて,「7,000?50,000」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできないことは,上記(ア)b(b),(イ)で述べたとおりである。
よって,申立人の主張は,採用することができない。

(エ)小括
以上のとおり,本件発明1は,引用文献1に記載された発明であるとはいえず,また,引用文献1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明4?7について
本件発明4?7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が引用文献1に記載された発明であるとはいえず,また,引用文献1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明4?7についても同様に,引用文献1に記載された発明であるとはいえず,また,引用文献1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1及び4?7は,いずれも,引用文献1に記載された発明であるとはいえず,また,引用文献1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,取消理由8(新規性),取消理由9(進歩性)によっては,本件特許の請求項1及び4?7に係る特許を取り消すことはできない。

(6)取消理由10(新規性),取消理由11(進歩性)
平成31年1月24日付けの取消理由通知書では,本件訂正前の請求項1,3,5及び6に係る発明に対して,引用文献2に基づく新規性欠如及び進歩性欠如の各取消理由を通知した。
これに対して,前記第2のとおり,本件訂正により,本件訂正前の請求項1におけるポリオール系化合物(a3)について,「重量平均分子量が300?20,000のポリオール系化合物を含有」するものに限定されたが,当該事項は,上記の各取消理由の対象とされなかった本件訂正前の請求項2に記載されていた,ポリオール系化合物(a3)の重量平均分子量に関する事項をさらに限定したものである。
そうすると,本件発明1(本件訂正後の請求項1に係る発明)に対する上記の各取消理由は,本件訂正によって解消したことが明らかである。また,本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明5及び6についても同様に,上記の各取消理由は解消した。
したがって,取消理由10(新規性),取消理由11(進歩性)によっては,本件特許の請求項1,5及び6に係る特許を取り消すことはできない。

(7)取消理由12(新規性)
ア 引用文献3に記載された発明
引用文献3の記載(請求項1,2,4,【0001】,【0007】?【0010】,【0016】,【0021】?【0024】,【0031】,【0038】,【0041】,【0046】?【0063】,実施例1?3,比較例1?3,表1,表2)によれば,特に比較例3に着目すると,引用文献3には,以下の発明が記載されていると認められる。

「撹拌機,温度計,冷却管及び空気ガス導入管を装備した反応容器に空気ガスを導入させた後,2,4-トリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製,「TDI-100」)4.0モル,ネオペンチルグリコール(三菱ガス化学社製)2.0モルを仕込み,70℃に昇温させ反応し,更にポリプロピレングリコール(旭電化社製,「PP-2000」)1.0モルを加え反応した後,2-ヒドロキシエチルアクリレート2.05モル,ハイドロキノンモノメチルエーテル0.4部,及びジブチルチンジラウレート(東京ファインケミカル社製,「LIOI」)0.01部の混合液体を3時間かけて均一滴下し,反応を行い,滴下完了後,約5時間反応を続けた後,イソシアネートの消失を確認し反応を終了して得た,ウレタン(メタ)アクリレート樹脂(A-1)(樹脂分:98%,重量平均分子量:10,000,弾性率:490kg/cm^(2))40重量部と,
イソブチレンアクリレート(B)(大阪有機化学工業社製,「AIB」,ガラス転移温度(Tg):-26℃)60重量部と,
1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(C)(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製,「イルガキュアー184」)0.4重量部と,
を含有する,閃光電球の外表面にコーティングした後,紫外線照射により硬化させて,閃光電球の外表面に破裂防止保護膜を形成するための破裂防止保護膜材料。」(以下,「引用発明3」という。)

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明3とを対比する。
引用発明3における「ウレタン(メタ)アクリレート樹脂(A-1)(樹脂分:98%,重量平均分子量:10,000,弾性率:490kg/cm^(2))」は,「2-ヒドロキシエチルアクリレート」と,「2,4-トリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製,「TDI-100」)」と,「ネオペンチルグリコール(三菱ガス化学社製)」,「ポリプロピレングリコール(旭電化社製,「PP-2000」)」とを反応させて得られたものであるから,本件発明1における「水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)」に相当する。
引用発明3における「イソブチレンアクリレート(B)(大阪有機化学工業社製,「AIB」,ガラス転移温度(Tg):-26℃)」は,本件発明1における「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)」に相当する。
そして,引用発明3における上記の化合物は,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が-26℃であるから,本件発明1における「ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)」に相当する。
引用発明3において,本件発明1における「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部」に対する「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)」の含有量を計算すると,150重量部(=100重量部×60重量部/40重量部)であるから,本件発明1における「80?400重量部」を満たす。
引用発明3において,本件発明1における「エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体」に対する「ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)」の割合を計算すると,100重量%(=60重量部/60重量部)であるから,本件発明1における「80重量%以上」を満たす。
そうすると,本件発明1と引用発明3とは,少なくとも,
「水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1),多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)およびエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり,
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して,エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を80?400重量部含有し,
エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体に対して,ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)を80重量%以上含有する
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点7
本件発明1では,ポリオール系化合物(a3)が,「ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有」するものであるのに対して,引用発明3では,「ポリプロピレングリコール(旭電化社製,「PP-2000」)」である点。

(イ)相違点7の検討
引用発明3における「ポリプロピレングリコール(旭電化社製,「PP-2000」)」は,ポリエーテルポリオールであり,本件発明1における「ポリエステル系ポリオール」及び「ポリカーボネート系ポリオール」とは異なるものである。
以上によれば,相違点7は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,引用文献3に記載された発明であるとはいえない。

ウ 本件発明5?7について
本件発明5?7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が引用文献3に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明5?7についても同様に,引用文献3に記載された発明であるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1及び5?7は,いずれも,引用文献3に記載された発明であるとはいえない。
したがって,取消理由12(新規性)によっては,本件特許の請求項1及び5?7に係る特許を取り消すことはできない。

(8)取消理由13(新規性),取消理由14(進歩性)
平成31年1月24日付けの取消理由通知書では,本件訂正前の請求項1,2及び5?7に係る発明に対して,引用文献4に基づく新規性欠如及び進歩性欠如の各取消理由を通知した。
これに対して,前記第2のとおり,本件訂正により,本件訂正前の請求項1におけるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)について,その「重量平均分子量が7,000?50,000」に限定されたが,当該事項は,上記の各取消理由の対象とされなかった本件訂正前の請求項3に記載されていた,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量に関する事項をさらに限定したものである。
そうすると,本件発明1(本件訂正後の請求項1に係る発明)に対する上記の各取消理由は,本件訂正によって解消したことが明らかである。また,本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明5?7についても同様に,上記の各取消理由は解消した。
したがって,取消理由13(新規性),取消理由14(進歩性)によっては,本件特許の請求項1及び5?7に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由
(1)取消理由3(新規性)(ただし,本件訂正前の請求項2及び7に係る発明に対するもの。)
本件発明7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記1(2)イで述べたとおり,本件発明1が甲2に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明7についても同様に,甲2に記載された発明であるとはいえない。
したがって,取消理由3(新規性)(ただし,本件訂正前の請求項2及び7に係る発明に対するもの。)によっては,本件特許の請求項7に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由4(進歩性)
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とは,少なくとも,上記1(2)イ(ア)で認定したとおりの一致点で一致し,少なくとも,相違点2で相違する。

(イ)相違点2の検討
本件発明1は,上記1(1)イ(ア)b(b)で述べたとおりのものであるところ,甲2には,このような事項については,何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
甲2には,甲2発明における「ポリカーボネート系ウレタンアクリレート(重量平均分子量約2万,根上工業(株)製アートレジンUN9200A)」の原料であるポリオールの重量平均分子量については,何ら記載されていない。
そして,本件発明1は,上記1(1)イ(ア)b(b)で述べたとおり,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると,甲2発明において,「ポリカーボネート系ウレタンアクリレート(重量平均分子量約2万,根上工業(株)製アートレジンUN9200A)」の原料であるポリオールの重量平均分子量を,「300?20,000」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明4?7について
本件発明4?7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記アで述べたとおり,本件発明1が,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明4?7についても同様に,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり,本件発明1及び4?7は,いずれも,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,取消理由4(進歩性)によっては,本件特許の請求項1及び4?7に係る特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由5(新規性)(ただし,本件訂正前の請求項2,4及び7に係る発明に対するもの。)
本件発明4及び7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記1(3)イで述べたとおり,本件発明1が甲3に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明4及び7についても同様に,甲3に記載された発明であるとはいえない。
したがって,取消理由5(新規性)(ただし,本件訂正前の請求項2,4及び7に係る発明に対するもの。)によっては,本件特許の請求項4及び7に係る特許を取り消すことはできない。

(4)取消理由6(進歩性)
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とは,少なくとも,上記1(3)イ(ア)で認定したとおりの一致点で一致し,少なくとも,相違点3及び4で相違する。

(イ)相違点4の検討
事案に鑑み,相違点4について検討する
本件発明1は,上記1(1)イ(ア)b(b)で述べたとおりのものであるところ,甲3には,このような事項については,何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
甲3には,甲3発明における「ポリイソプレン骨格ウレタンアクリレート(UA1-LAN,希釈モノマーなし)」の原料であるポリオールの重量平均分子量については,何ら記載されていない。
そして,本件発明1は,上記1(1)イ(ア)b(b)で述べたとおり,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると,甲3発明において,「ポリイソプレン骨格ウレタンアクリレート(UA1-LAN,希釈モノマーなし)」の原料であるポリオールの重量平均分子量を,「300?20,000」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,相違点3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明4?7について
本件発明4?7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記アで述べたとおり,本件発明1が,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明4?7についても同様に,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり,本件発明1及び4?7は,いずれも,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,取消理由6(進歩性)によっては,本件特許の請求項1及び4?7に係る特許を取り消すことはできない。

(5)取消理由7(拡大先願)(ただし,本件訂正前の請求項4及び7に係る発明に対するもの。)
本件発明4及び7は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記1(4)イで述べたとおり,本件発明1が先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない以上,本件発明4及び7についても同様に,先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。
したがって,取消理由7(拡大先願)(ただし,本件訂正前の請求項4及び7に係る発明に対するもの。)によっては,本件特許の請求項4及び7に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立人のその他の主張について
申立人は,本件発明1及び4?7について,明確性要件違反,実施可能要件違反及びサポート要件違反の取消理由を主張するが(意見書3?8頁),これらの主張は,いずれも,新たな取消理由を主張するものであり,実質的に特許異議申立書の要旨を変更するものといえるから,採用しない。

第6 むすび
以上のとおり,本件特許の請求項2及び3が本件訂正により削除された結果,同請求項2及び3に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
また,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1及び4?7に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1及び4?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及びコーティング剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及びコーティング剤に関し、更に詳しくは、硬化塗膜とした際に、実用性に耐え得るレベルの復元性に優れる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり、とりわけ有機溶剤を配合しないで使用する場合にも塗工に適正な粘度領域にある活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、及びそれを用いたコーティング剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、ごく短時間の放射線等の活性エネルギー線の照射により硬化が完了するので、各種基材へのコーティング剤や接着剤、又はアンカーコート剤等として幅広く用いられている。
【0003】
また、上記活性エネルギー線硬化性樹脂としてウレタン(メタ)アクリレート系化合物を使用する場合には、粘度調整、表面硬度調整、塗膜柔軟性付与、基材密着性付与、硬化収縮の緩和、硬化速度の調整、屈折率調整、耐久性付与(例えば、耐水性、耐熱性付与等)、塗膜表面特性付与(例えば、撥水性付与、親水性付与、スリップ性付与、帯電防止性付与等)など様々な目的でモノマーで希釈して用いられており、例えば、特許文献1には、ポリエステルポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物、及び、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物からなるウレタンアクリレートをアクリロイルモルホリンで希釈した無溶剤型木工塗料組成物が記載されている。
【0004】
一方、近年では、プラスチック基材の表面に硬化被膜を形成し、基材の最表面を保護するコーティング剤として、傷に対する復元性を有する硬化塗膜を形成し得る活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の開発が望まれており、例えば、特許文献2には、ポリカプロラクトン含有多官能アルコールとイソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られるウレタンアクリレートオリゴマーを用いた紫外線硬化性コーティング組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-200025号公報
【特許文献2】特開2004-35599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2には、自己修復性機能を持つコーティング剤が開示されてはいるものの、傷に対する復元性は実用的とは言えないレベルであり、更に近年では、環境問題としてVOC排出の削減が課題となる中、特許文献2のコーティング剤は塗工性を考慮し実質的に有機溶剤を使用したコーティング剤となっており、乾燥時に揮発する溶剤の環境面に対する影響も懸念されるものであった。
【0007】
また、上記特許文献1のような有機溶剤を使用しない無溶剤型のウレタン(メタ)アクリレート系コーティング剤も開発されてはいるものの、それらは傷に対する復元性能は考慮されていないものであったためコーティング剤としての性能は不十分であった。
【0008】
そこで、本発明は、このような背景下において、硬化塗膜とした際に、実用性に耐え得るレベルの復元性に優れる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり、とりわけ有機溶剤を配合しないで使用する場合にも塗工に適正な粘度領域にある活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、及びそれを用いたコーティング剤の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物に単官能の不飽和モノマーを配合した組成物において、ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が比較的低い単官能モノマーを比較的多く用いることにより、復元性に優れる硬化塗膜を形成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)、多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)およびエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり、ポリオール系化合物(a3)が、重量平均分子量が300?20,000のポリオール系化合物を含有し、ポリオール系化合物(a3)が、ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有し、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が7,000?50,000であり、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して、エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を80?400重量部含有し、エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体に対して、ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)を80重量%以上含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に関するものである。
【0011】
また、本発明においては、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を含有してなるコーティング剤も提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、硬化塗膜とした際に傷に対する復元性に優れた効果を有するものであり、とりわけ無溶剤系の樹脂組成物とした際の塗工適正にも優れたものであるため、環境に配慮したコーティング剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
なお、本発明において、(メタ)アクリルとはアクリルあるいはメタクリルを、(メタ)アクリロイルとはアクリロイルあるいはメタクリロイルを、(メタ)アクリレートとはアクリレートあるいはメタクリレートをそれぞれ意味するものである。
【0014】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)およびエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を含有してなるものである。
まず、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)について説明する。
【0015】
〔ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)〕
本発明で用いるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)としては、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)、多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)であり、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明で用いられるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)のエチレン性不飽和基の含有数は、2?10個が好ましく、特に好ましくは2?6個である。エチレン性不飽和基数が多すぎると硬化後の架橋密度が大きくなりすぎることから、塗膜が硬くなりすぎ、柔軟なゴム質感を持つ塗膜が得られにくくなり、傷の自己修復性が低下する傾向があり、少なすぎると充分な架橋密度が得られないため、硬化塗膜表面がべたついたり、各種耐久性能が低下してしまう傾向がある。
【0017】
本発明で用いられるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量は、7,000?50,000であることが好ましく、特に好ましくは7,000?45,000、更に好ましくは7,000?40,000である。
【0018】
かかる重量平均分子量が小さすぎると相対的に架橋密度が大きくなるため、硬化塗膜表面が硬くなりすぎることから、柔軟なゴム質感が得られにくくなり、傷の自己修復性が低下する傾向があり、大きすぎると硬化型樹脂組成物の粘度が高くなりすぎ、塗工性、レベリング性が低下する傾向がある。また、充分な架橋密度が得られず、硬化塗膜表面がべたついたり、各種耐久性が低下してしまう傾向がある。
【0019】
なお、上記の重量平均分子量は、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量であり、高速液体クロマトグラフィー(昭和電工社製、「Shodex GPC system-11型」)に、カラム:Shodex GPC KF-806L(排除限界分子量:2×10^(7)、分離範囲:100?2×10^(7)、理論段数:10,000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:10μm)の3本直列を用いることにより測定される。
【0020】
上記ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の60℃における粘度は、2,000?400,000mPa・sであることが好ましく、特に好ましくは5,000?300,000mPa・s、更に好ましくは10,000?200,000である。かかる粘度が上記範囲外では塗工性が低下する傾向がある。
なお、粘度の測定法はE型粘度計による。
【0021】
上記水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素数が1?16(好ましくは1?12)のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、脂肪酸変性-グリシジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和基を1個有する化合物、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイル-オキシプロピルメタクリレート等のエチレン性不飽和基を2個有する化合物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、コハク酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和基を3個以上有する化合物等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0022】
これらの中でも、エチレン性不飽和基を1個有する水酸基(メタ)アクリレート系化合物が塗膜形成の際の硬化収縮を緩和し、自己修復性能を発現することができる理由から好ましく、特に好ましくは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、更に好ましくは2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、反応性および汎用性に優れる点で殊に好ましくは2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートである。
【0023】
また、ウレタンアクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が大きい場合、具体的には20,000以上の場合に限っては、塗膜のゴム質感を維持できることから、エチレン性不飽和基を2個以上有する水酸基(メタ)アクリレート系化合物を使用することが好ましく、その硬化塗膜はエチレン性不飽和基を1個有する水酸基(メタ)アクリレート系化合物を用いて合成したウレタン(メタ)アクリレートと同等の自己修復性能を持たせることができる。
【0024】
かかるエチレン性不飽和基を2個以上有する水酸基(メタ)アクリレート系化合物は、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが汎用性の点好ましく、樹脂設計の自由度からペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
なお、この場合、かかるエチレン性不飽和基を2個以上有する水酸基(メタ)アクリレート系化合物とエチレン性不飽和基を1個有する水酸基(メタ)アクリレート系化合物とを併用することも可能である。
【0025】
上記多価イソシアネート系化合物(a2)としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニルメタンポリイソシアネート、変性ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネート;水添化ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂環式系ポリイソシアネート;或いはこれらポリイソシアネートの3量体化合物又は多量体化合物、アロファネート型ポリイソシアネート、ビュレット型ポリイソシアネート、水分散型ポリイソシアネート(例えば、日本ポリウレタン工業(株)製の「アクアネート100」、「アクアネート110」、「アクアネート200」「アクアネート210」等)、等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0026】
これらの中でも、黄変が少ない点で、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネート、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂環式系ジイソシアネートが好ましく、特に好ましくは硬化収縮が小さい点でイソホロンジイソシアネート、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、汎用性が高い点でヘキサメチレンジイソシアネートが用いられ、更に好ましくは、反応性および汎用性に優れる点でイソホロンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートが用いられる。
【0027】
上記ポリオール系化合物(a3)としては、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。
【0028】
(削除)
【0029】
(削除)
【0030】
(削除)
【0031】
上記ポリエステル系ポリオールとしては、例えば、多価アルコールと多価カルボン酸との縮合重合物;環状エステル(ラクトン)の開環重合物;多価アルコール、多価カルボン酸及び環状エステルの3種類の成分による反応物などが挙げられる。
【0032】
前記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-テトラメチレンジオール、1,3-テトラメチレンジオール、2-メチル-1,3-トリメチレンジオール、1,5-ペンタメチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサメチレンジオール、3-メチル-1,5-ペンタメチレンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタメチレンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、シクロヘキサンジオール類(1,4-シクロヘキサンジオールなど)、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)、糖アルコール類(キシリトールやソルビトールなど)などが挙げられる。
【0033】
前記多価カルボン酸としては、例えば、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0034】
前記環状エステルとしては、例えば、プロピオラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどが挙げられる。
【0035】
上記ポリカーボネート系ポリオールとしては、例えば、多価アルコールとホスゲンとの反応物;環状炭酸エステル(アルキレンカーボネートなど)の開環重合物などが挙げられる。
【0036】
前記多価アルコールとしては、前記ポリエステル系ポリオールの説明中で例示の多価アルコール等が挙げられ、上記アルキレンカーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ヘキサメチレンカーボネートなどが挙げられる。
【0037】
なお、ポリカーボネートポリオールは、分子内にカーボネート結合を有し、末端がヒドロキシル基である化合物であればよく、カーボネート結合とともにエステル結合を有していてもよい。
【0038】
(削除)
【0039】
(削除)
【0040】
(削除)
【0041】
(削除)
【0042】
柔軟性付与の点で、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオールが好ましく用いられる。
【0043】
上記ポリオール系化合物(a3)としては2官能(水酸基数が2個)のポリオールを用いることが好ましく、さらに3官能のポリオールを併用してもよい。
【0044】
上記ポリオール系化合物(a3)の重量平均分子量としては、300?20,000が好ましく、特に好ましくは400?10,000、更に好ましくは500?8,000である。
かかるポリオール系化合物(a3)の重量平均分子量が大きすぎると、硬化の際に充分な架橋密度得られず、硬化塗膜表面がべたついたり、各種耐久性が低下しやすい傾向があり、また硬化型樹脂組成物が高粘度となり塗工性、レベリング性が低下する傾向がある。ポリオール(a3)の重量平均分子量が小さすぎると、硬化後の塗膜の柔軟性が低下し、柔軟なゴム質感が得られにくくなり、傷の自己修復性が低下する傾向がある。
なお、上記重量平均分子量は上述の方法により測定さるものである。
【0045】
また、上記ポリオール系化合物(a3)として、重量平均分子量60?300の低分子量ポリオールと比較的高分子量のポリオール系化合物を併用することが、比較的高分子量のポリオール系化合物のみからなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)に対して、新たな特性を容易に付与し、物性を微調整することが可能となる点で好ましい。
【0046】
上記重量平均分子量60?300の低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、2、2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-テトラメチレンジオール、1,3-テトラメチレンジオール、2-メチル-1,3-トリメチレンジオール、1,5-ペンタメチレンジオール、1,6-ヘキサメチレンジオール、3-メチル-1,5-ペンタメチレンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタメチレンジオール、ペンタエリスリトールジアクリレート、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等の脂肪族アルコール類、1,4-シクロヘキサンジオール、シクロヘキシルジメタノール等のシクロヘキサンジオール類、ビスフェノールA等のビスフェノール類、トリシクロデカンジメタノール、キシリトールやソルビトール等の糖アルコール類等があげられ、これらは1種または2種以上を併用して用いることができる。
これらの中でも、硬化塗膜の黄変性の観点から、芳香環や不飽和基を含まない構造の化合物が好ましく、特に好ましくは脂肪族アルコール類、更に好ましくはネオペンチルグリコールである。
【0047】
上記重量平均分子量60?300の低分子量ポリオールの配合量は、ポリオール系化合物(a3)全体に対して、0?40重量%であることが好ましく、特に好ましくは0.1?30重量%、更に好ましくは0.5?25重量%、殊に好ましくは1?20重量%である。
かかる配合量が多すぎると、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が相対的に小さくなり、塗膜の傷復元性が低下しやすくなる傾向がある。
【0048】
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の製造法は、通常、上記水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)、多価イソシアネート系化合物(a2)、ポリオール系化合物(a3)を、反応器に一括又は別々に仕込み反応させればよいが、ポリオール系化合物(a3)と多価イソシアネート系化合物(a2)とを予め反応させて得られる反応生成物に、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)を反応させるのが、反応の安定性や副生成物の低減等の点で有用である。
【0049】
ポリオール系化合物(a3)と多価イソシアネート系化合物(a2)との反応には、公知の反応手段を用いることができる。その際、例えば、多価イソシアネート系化合物(a2)中のイソシアネート基:ポリオール系化合物(a3)中の水酸基とのモル比を通常2n:(2n-2)(nは2以上の整数)程度にすることにより、イソシアネート基を残存させた末端イソシアネート基含有ウレタン(メタ)アクリレート系化合物を得た後、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)との付加反応を可能にする。
【0050】
上記ポリオール系化合物(a3)と多価イソシアネート系化合物(a2)とを予め反応させて得られる反応生成物と、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)との付加反応にも、公知の反応手段を用いることができる。
【0051】
反応生成物と水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)との反応モル比は、例えば、多価イソシアネート系化合物(a2)のイソシアネート基が2個で、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)の水酸基が1個である場合は、反応生成物:水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)が1:2程度であり、多価イソシアネート系化合物(a2)のイソシアネート基が3個で、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)の水酸基が1個である場合は、反応生成物:水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)が1:3程度である。
【0052】
この反応生成物と水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)との付加反応においては、反応系の残存イソシアネート基含有率が0.5重量%以下になる時点で反応を終了させることにより、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)が得られる。
【0053】
かかるポリオール系化合物(a3)と多価イソシアネート系化合物(a2)との反応、更にその反応生成物と水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)との反応においては、反応を促進する目的で触媒を用いることも好ましく、かかる触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、トリメチル錫ヒドロキシド、テトラ-n-ブチル錫、ビスアセチルアセトナート亜鉛、ジルコニウムトリス(アセチルアセトネート)エチルアセトアセテート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等の有機金属化合物、オクテン酸錫、ヘキサン酸亜鉛、オクテン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸ジルコニウム、ナフテン酸コバルト、塩化第1錫、塩化第2錫、酢酸カリウム等の金属塩、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジエチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン、N,N,N′,N′-テトラメチル-1,3-ブタンジアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等のアミン系触媒、硝酸ビスマス、臭化ビスマス、ヨウ化ビスマス、硫化ビスマス等の他、ジブチルビスマスジラウレート、ジオクチルビスマスジラウレート等の有機ビスマス化合物や、2-エチルヘキサン酸ビスマス塩、ナフテン酸ビスマス塩、イソデカン酸ビスマス塩、ネオデカン酸ビスマス塩、ラウリル酸ビスマス塩、マレイン酸ビスマス塩、ステアリン酸ビスマス塩、オレイン酸ビスマス塩、リノール酸ビスマス塩、酢酸ビスマス塩、ビスマスリビスネオデカノエート、ジサリチル酸ビスマス塩、ジ没食子酸ビスマス塩等の有機酸ビスマス塩等のビスマス系触媒等が挙げられ、中でも、ジブチル錫ジラウレート、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセンが好適である。これらは1種を単独で、または2種以上を併せて用いることができる。
【0054】
またポリオール系化合物(a3)と多価イソシアネート系化合物(a2)との反応、更にその反応生成物と水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)との反応においては、イソシアネート基に対して反応する官能基を有しない有機溶剤、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族類等の有機溶剤を用いることもできる。これらの有機溶剤は、1種を単独、または2種以上を併せ用いることができる。
【0055】
また、反応温度は、通常30?90℃、好ましくは40?80℃であり、反応時間は、通常2?10時間、好ましくは3?8時間である。
【0056】
次に、エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)について説明する。
【0057】
〔エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)〕
本発明で用いられるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)(以下、「単官能モノマー(B)」と記すことがある。)は、ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)をエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体に対して、80重量%以上多く含有することが必要である。
【0058】
上記のホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)(以下、「単官能モノマー(b1)」と記すことがある。)について、ガラス転移温度(Tg)は、25℃以下であることが必要であり、好ましくは-80?25℃、特に好ましくは-60?20℃、更に好ましくは-50?10℃である。
かかるガラス転移温度が高すぎると硬化塗膜の表面硬度が高くなるため、ゴム質感が無くなることにより自己修復性能が低下することとなり好ましくない。また低すぎる場合も硬化塗膜がべとつきやすく、各種耐久性能が低下しやすくなる傾向がある。
【0059】
上記単官能モノマー(B)全体に対する単官能モノマー(b1)の含有割合としては、80重量%以上であることが必要であり、好ましくは90重量%以上である。上限として、好ましくは100重量%である。
かかる単官能モノマー(b1)の含有割合が低すぎると、粘度が高くなり塗工適正が低下し、得られる硬化塗膜の復元性も低下する傾向があり好ましくない。
【0060】
上記単官能モノマー(B)としては、上記単官能モノマー(b1)と共に、例えば、(メタ)アクリロイルモルホリンやイソボルニル((メタ)アクリレート等のホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃より大きいエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b2)を併用してもよいが、併用する際には、本発明の効果を損なわない範囲で使用することが必要である。
【0061】
上記単官能モノマー(b1)としては、例えば、脂肪族系の単官能モノマー、芳香族系の単官能モノマーが挙げられる。
【0062】
かかる脂肪族系の単官能モノマーとしては、
水酸基含有脂肪族系の単官能モノマーと水酸基非含有脂肪族系の単官能モノマーがあげられ:
水酸基含有脂肪族系の単官能モノマーとしては、
水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート系モノマー、
水酸基含有カプロラクトン変性(メタ)アクリレート系モノマー等が挙げられ;
水酸基非含有脂肪族系の単官能モノマーとしては、
水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート系モノマー、
水酸基非含有アルキレンオキサイド変性(メタ)アクリレート系モノマー、
エポキシ基含有(メタ)アクリレート系モノマー、
カルボン酸誘導体のハーフエステルタイプの(メタ)アクリレート系モノマー、
脂環式構造含有(メタ)アクリレート系モノマー、
アミノ基含有(メタ)アクリレート系モノマー
等が挙げられる。
【0063】
かかる芳香族系の単官能モノマーとしては、
水酸基含有芳香族系の単官能モノマーと水酸基非含有芳香族系単官能モノマーがあり:
水酸基含有芳香族系の単官能モノマーとしては
水酸基含有かつ芳香環含有(メタ)アクリレート系モノマーが挙げられ;
水酸基非含有芳香族系単官能モノマーとしては、
水酸基非含有芳香環含有(メタ)アクリレート系モノマー、
アルキレンオキサイド変性の芳香環含有(メタ)アクリレート系モノマー
等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート(Tg=-15℃)、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(Tg=-7℃)、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート(Tg=-32℃)等が挙げられる。
【0065】
上記水酸基含有カプロラクトン変性(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0066】
上記水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、2-エチルヘキシルメタクリレート(Tg=-10℃)、n-ブチルメタアクリレート(Tg=20℃)、イソブチルアクリレート(Tg=-26℃)、t-ブチルアクリレート(Tg=14℃)、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチルアクリレート(Tg=-65℃)、イソオクチルアクリレート(Tg=-58℃)、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニルアクリレート(Tg=-58℃)、デシルメタアクリレート(Tg=-70℃)、イソデシルメタアクリレート(Tg=-41℃)、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリルアクリレート(Tg=-5℃)、ラウリルメタクリレート(Tg=-65℃)、セチルメタクリレート(Tg=-9℃)イソステアリルアクリレート(Tg=-18℃)、イソミリスチルアクリレート(Tg=-56℃)、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、イソアミルアクリレート(Tg=-45℃)、2-メトキシエチルアクリレート(Tg=-50℃)等が挙げられる。
【0067】
上記水酸基非含有アルキレンオキサイド変性(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(Tg=-60?-50℃)、ポリエチレングリコールモノアクリレート(Tg=-65?-40℃)、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(Tg=-65-?-45℃)、ポリプロピレングリコールモノアクリレート(Tg=-65?-40℃)、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(Tg=-60℃)、ポリエチレングリコール-テトラメチレングリコールモノメタクリレート(Tg=-66℃)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(Tg=-65?-20℃)、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(Tg=-65℃)、ラウロキシポリエチレングリコールアクリレート(Tg=-16℃)、ステアロキシポリエチレングリコールメタクリレート(Tg=-51℃)、カルビトール(メタ)アクリレート、エチルカルビトールアクリレート(Tg=-67℃)、エトキシジエチレングリコールアクリレート(Tg=-70℃)、メトキシトリエチレングリコールアクリレート(Tg=-50℃)等が挙げられる。
【0068】
上記エポキシ基含有(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0069】
上記ジカルボン酸誘導体のハーフエステルタイプの(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルフタル酸モノエステル、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸モノエステル(Tg=-40℃)、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸モノエステル、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸モノエステル、2-メタクリロイルオキシエチルフタル酸モノエステル、2-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸モノエステル、2-メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸モノエステル等が挙げられる。
【0070】
上記脂環式構造含有(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、テトラヒドロフルフリルアクリレート(Tg=-12℃)、シクロヘキシルアクリレート(Tg=16℃)、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート(Tg=-7℃)、シクロヘキサンスピロ-2-(1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート(Tg=22℃)、3-エチル-3-オキセタニルメチルメタクリレート(Tg=2℃)等が挙げられる。
【0071】
上記アミノ基含有(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート(Tg=18℃)、ジエチルアミノエチルメタクリレート(Tg=20℃)等が挙げられる。
【0072】
上記水酸基含有かつ芳香環含有(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、2-フェノキシ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(Tg=-17℃)等が挙げられる。
【0073】
上記水酸基非含有芳香環含有(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、フェノキシエチルアクリレート(Tg=-22℃)、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート(Tg=-25℃)、フェノキシポリエチレングリコールメタクリレート(Tg=2℃)、ベンジルアクリレート(Tg=6℃)等が挙げられる。
【0074】
上記アルキレンオキサイド変性の芳香環含有(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、フェノールエチレンオキサイド変性アクリレート(Tg=-40℃)、ノニルフェノールプロピレンオキサイド変性アクリレート(Tg=-39℃)、ノニルフェノールエチレンオキサイドプロピレンオキサイド変性アクリレート(Tg=-48℃)等が挙げられる。
【0075】
これらの中でも、脂肪族系の単官能モノマーが好ましく、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)との相溶性に優れる点や汎用性の点で、2-ヒドロキシエチルアクリレート(Tg=-15℃)、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(Tg=-7℃)、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート(Tg=-32℃)、2-エチルヘキシルメタクリレート(Tg=-10℃)、シクロヘキシルアクリレート(Tg=16℃)、n-ブチルメタアクリレート(Tg=20℃)、イソブチルアクリレート(Tg=-26℃)、t-ブチルアクリレート(Tg=14℃)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(Tg=-12℃)、カルビトール(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチルアクリレート(Tg=-50℃)、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート(Tg=-7℃)、シクロヘキサンスピロ-2-(1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート(Tg=22℃)が特に好ましい。
【0076】
また、単官能モノマー(b1)をウレタンアクリレート化合物(A)の製造時に希釈媒体として用いる場合には、上記の中で水酸基を含有していない単官能モノマーを用いることが反応制御の点で好ましく、特に好ましくは脂環式構造含有(メタ)アクリレート系モノマーであり、汎用性、相溶性、反応制御の点で、更に好ましくはテトラヒドロフルフリルアクリレートである。
【0077】
上記単官能モノマー(B)の分子量としては、100?300であることが好ましく、特に好ましくは100?250である。
かかる分子量が大きすぎるとコーティング剤とした際に、一定の架橋密度が得られないことから、硬化性が低下し、塗膜としてべたつく傾向があり、小さすぎると未硬化成分があると硬化後塗膜からブリードする傾向がある。
【0078】
上記単官能モノマー(B)の含有量は、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して、80?400重量部であり、好ましくは80?380重量部、特に好ましくは80?360重量部、更に好ましくは120?340重量部である。
かかる含有量が多すぎるとウレタン(メタ)アクリレート系化合物特有の柔軟なゴム質感が得られにくくなり、傷の自己修復性が低下したり、硬化塗膜がべたついたりする傾向があり、少なすぎると活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりすぎ、塗工性、レベリング性が低下する傾向がある。
【0079】
上記ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)および単官能モノマー(B)を用いて、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が得られるものである。
【0080】
上記単官能モノマー(B)は、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の製造後に別途配合するものであってもよいし、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の製造中に配合するものであってもよいし、両方のタイミングで配合するものであってもよい。
【0081】
上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の粘度(20℃;B型粘度計)は、20,000mPa・s以下が好ましく、特に好ましくは10,000mPa・s以下、更に好ましくは5,000mPa・s以下、殊に好ましくは2,000mPa・s以下である。なお、通常下限値は10mPa・sである。
かかる粘度が高すぎるとレベリング性が低下し、塗工性が低下する傾向がある。
【0082】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、更に光重合開始剤(C)を含有することが好ましく、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリオール系化合物を含有しないウレタン(メタ)アクリレート系化合物や、2官能以上のエチレン性不飽和モノマー、表面調整剤、レベリング剤を含有してもよい。
また、アクリル系樹脂等の樹脂類、重合禁止剤、油、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、安定剤、補強剤、艶消し剤、研削剤、有機微粒子、無機粒子等を配合することも可能である。
【0083】
上記光重合開始剤(C)としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー等のアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4′-メチル-ジフェニルサルファイド、3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-N,N-ジメチル-N-[2-(1-オキソ-2-プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4-ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-(3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシ)-3,4-ジメチル-9H-チオキサントン-9-オンメソクロリド等のチオキサントン類;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフォンオキサイド類;等があげられる。なお、これら光重合開始剤(C)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0084】
また、これらの助剤として、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4′-ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、4,4′-ジエチルアミノベンゾフェノン、2-ジメチルアミノエチル安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-ジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、2,4-ジエチルチオキサンソン、2,4-ジイソプロピルチオキサンソン等を併用することも可能である。
【0085】
これらの中でも、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイルイソプロピルエーテル、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンを用いることが好ましい。
【0086】
光重合開始剤(C)の含有量としては、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)、単官能モノマー(B)の合計を100重量部に対して、0.1?20重量部であることが好ましく、特に好ましくは0.5?10重量部、さらに好ましくは1?7.5重量部である。
光重合開始剤(C)の含有量が少なすぎると、硬化不良となり膜形成がなされにくい傾向があり、多すぎると硬化塗膜の黄変の原因となり、着色の問題が起こりやすい傾向がある。
【0087】
なお、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を製造するにあたり、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)、単官能モノマー(B)およびその他成分の混合方法については、特に限定されるものではなく、種々方法により混合することができる。
【0088】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、各種基材へのトップコート剤やアンカーコート剤など、塗膜形成用の硬化性樹脂組成物として有効に用いられるものであり、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を基材に塗工した後、活性エネルギー線を照射することにより硬化される。
【0089】
上記本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗工する対象である基材としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリスチレン系樹脂等やそれらの成型品(フィルム、シート、カップ、等)等のプラスチック基材、それらの複合基材、またはガラス繊維や無機物を混合した前記材料の複合基材等、金属(アルミニウム、銅、鉄、SUS、亜鉛、マグネシウム、これらの合金等)や、ガラス等の基材上にプライマー層を設けた基材等が挙げられる。
【0090】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の塗工方法としては、例えば、スプレー、シャワー、ディッピング、ロール、スピン、スクリーン印刷等のようなウェットコーティング法が挙げられ、通常は常温の条件化で、基材に塗工すればよい。
【0091】
基材上に塗工された活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させる際に使用する活性エネルギー線としては、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等の光線、X線、γ線等の電磁波の他、電子線、プロトン線、中性子線等が利用できるが、硬化速度、照射装置の入手のし易さ、価格等から紫外線照射による硬化が有利である。尚、電子線照射を行う場合は、光重合開始剤(C)を用いなくても硬化し得る。
【0092】
紫外線照射により硬化させる際には、150?450nm波長域の光を発する高圧水銀ランプ、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、無電極放電ランプ、LED等を用いて、通常30?3,000mJ/cm^(2)(好ましくは100?1,500mJ/cm^(2))の紫外線を照射すればよい。
紫外線照射後は、必要に応じて加熱を行って硬化の完全を図ることもできる。
【0093】
塗工膜厚(硬化後の膜厚)としては、傷復元性として想定する傷の深さに関連するため、傷の深さが塗膜膜厚を超えないような任意の膜厚にすればよく、通常、紫外線硬化型の塗膜として光重合開始剤(C)が均一に反応するべく光線透過を鑑みると3?1,000μmであればよく、好ましくは5?500μmであり、特に好ましくは10?200μmである。
【0094】
本発明のウレタン(メタ)アクリレート化合物(A)、単官能モノマー(B)を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、硬化塗膜とした際には、ウレタン構造特有のゴム質感を維持しつつ、自己修復性能を損なうことなく塗工適正を向上させることが可能である。そのため、傷に対する復元性として実用性の高い硬化塗膜を形成でき、塗料、インク、コーティング剤として特に有用である。
また、とりわけで有機溶剤を配合しないで使用する場合にも塗工に適正な粘度領域にあるため、環境に配慮したコーティング剤として有用である。
【実施例】
【0095】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0096】
<実施例1:活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(1)>
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、テトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1:Tg=-12℃)185.8g、水添キシリレンジイソシアネート(a2)32.3g(0.17モル)、ネオペンチルグリコール(a3)11.6g(0.11モル)、2官能のポリエステルポリオール(a3)(水酸基価63mgKOH/g)49.6g(0.028モル)、重合禁止剤としてハイドロキノンメチルエーテル0.02g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.02gを仕込み、60℃で2時間反応させ、2-ヒドロキシエチルアクリレート(a1)6.50g(0.056モル)を仕込み、60℃で3時間反応させ、残存イソシアネート基が0.3%となった時点で反応を終了し、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A-1)(重量平均分子量(Mw);14,000)のテトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1)溶液(粘度(20℃)400mPa・s)を得た。
【0097】
<実施例2:活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(2)>
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、テトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1:Tg=-12℃)185.8g、水添キシリレンジイソシアネート(a2)25.4g(0.13モル)、ネオペンチルグリコール(a3)9.1g(0.087モル)、2官能のポリエステルポリオール(a3)(水酸基価63.4mgKOH/g)51.5g(0.029モル)、重合禁止剤としてハイドロキノンメチルエーテル0.02g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.02gを仕込み、60℃で2時間反応させ、ペンタエリスリトールトリアクリレート〔ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(水酸基価119.1mgKOH/g)〕(a1)13.9g(0.029モル)を仕込み、60℃で3時間反応させ、残存イソシアネート基が0.3%となった時点で反応を終了し、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A-2)(重量平均分子量(Mw);36,000)のテトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1)溶液(粘度(20℃)1,600mPa・s)を得た。
【0098】
<実施例3:活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(3)>
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、テトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1:Tg=-12℃)100g、水添キシリレンジイソシアネート(a2)21.9g(0.11モル)、2官能のポリカーボネートポリオール(a3)(水酸基価139.4mgKOH/g)72.7g(0.090モル)、重合禁止剤としてハイドロキノンメチルエーテル0.02g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.02gを仕込み、60℃で2時間反応させ、2-ヒドロキシエチルアクリレート(a1)5.30g(0.046モル)を仕込み、60℃で3時間反応させ、残存イソシアネート基が0.3%となった時点で反応を終了し、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A-3)(重量平均分子量(Mw);24,000)のテトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1)溶液(粘度(20℃)12,000mPa・s)を得た。
【0099】
<実施例4:活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(4)>
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、テトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1:Tg=-12℃)100g、水添キシリレンジイソシアネート(a2)37.1g(0.19モル)、ネオペンチルグリコール(a3)14.9g(0.14モル)、2官能のポリエステルポリオール(a3)(水酸基価63.4mgKOH/g)42.3g(0.024モル)、重合禁止剤としてハイドロキノンメチルエーテル0.02g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.02gを仕込み、60℃で2時間反応させ、2-ヒドロキシエチルアクリレート(a1)5.60g(0.048モル)を仕込み、60℃で3時間反応させ、残存イソシアネート基が0.3%となった時点で反応を終了し、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A-4)(重量平均分子量(Mw);20,000)のテトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1)溶液(粘度(20℃)10,000mPa・s)を得た。
【0100】
<実施例5:活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(5)>
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、テトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1:Tg=-12℃)100g、水添キシリレンジイソシアネート(a2)28.4g(0.15モル)、ネオペンチルグリコール(a3)10.2g(0.098モル)、2官能のポリエステルポリオール(a3)(水酸基価63.4mgKOH/g)57.6g(0.033モル)、重合禁止剤としてハイドロキノンメチルエーテル0.02g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.02gを仕込み、60℃で2時間反応させ、2-ヒドロキシエチルアクリレート(a1)3.80g(0.033モル)を仕込み、60℃で3時間反応させ、残存イソシアネート基が0.3%となった時点で反応を終了し、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A-5)(重量平均分子量(Mw);30,000)のテトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1)溶液(粘度(20℃)13,000mPa・s)を得た。
【0101】
<比較例1:活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(1’)>
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、テトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1:Tg=-12℃)42.9g、アクリロイルモルホリン(b2-1:Tg=145℃)142.9g、水添キシリレンジイソシアネート(a2)32.3g(0.17モル)、ネオペンチルグリコール(a3)11.6g(0.11モル)、2官能のポリエステルポリオール(a3)(水酸基価63mgKOH/g)49.6g(0.028モル)、重合禁止剤としてハイドロキノンメチルエーテル0.02g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.02gを仕込み、60℃で2時間反応させ、2-ヒドロキシエチルアクリレート(a1)6.50g(0.056モル)を仕込み、60℃で3時間反応させ、残存イソシアネート基が0.3%となった時点で反応を終了し、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A-1)(重量平均分子量(Mw);14,000)のテトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1)およびアクリロイルモルホリン(b2-1)溶液(粘度(20℃)1,600mPa・s)を得た。
【0102】
<比較例2:活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(2’)>
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、テトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1:Tg=-12℃)42.9g、イソボルニルアクリレート(b2-2:Tg=97℃)142.9g、水添キシリレンジイソシアネート(a2)32.3g(0.17モル)、ネオペンチルグリコール(a3)11.6g(0.11モル)、2官能のポリエステルポリオール(a3)(水酸基価63mgKOH/g)49.6g(0.028モル)、重合禁止剤としてハイドロキノンメチルエーテル0.02g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.02gを仕込み、60℃で2時間反応させ、2-ヒドロキシエチルアクリレート(a1)6.50g(0.056モル)を仕込み、60℃で3時間反応させ、残存イソシアネート基が0.3%となった時点で反応を終了し、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A-1)(重量平均分子量(Mw);14,000)のテトラヒドロフルフリルアクリレート(b1-1)およびイソボルニルアクリレート(b2-2)溶液(粘度(20℃)2,100mPa・s)を得た。
【0103】
<比較例3:活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(3’)>
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、アクリロイルモルホリン(b2-1:Tg=145℃)185.8g、水添キシリレンジイソシアネート(a2)32.3g(0.17モル)、ネオペンチルグリコール(a3)11.6g(0.11モル)、2官能のポリエステルポリオール(a3)(水酸基価63mgKOH/g)49.6g(0.028モル)、重合禁止剤としてハイドロキノンメチルエーテル0.02g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.02gを仕込み、60℃で2時間反応させ、2-ヒドロキシエチルアクリレート(a1)6.50g(0.056モル)を仕込み、60℃で3時間反応させ、残存イソシアネート基が0.3%となった時点で反応を終了し、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A-1)(重量平均分子量(Mw);14,000)のアクリロイルモルホリン(b2-1)溶液(粘度(20℃)3,200mPa・s)を得た。
【0104】
<比較例4:活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(4’)>
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、イソボルニルアクリレート(b2-2:Tg=97℃)185.8g、水添キシリレンジイソシアネート(a2)32.3g(0.17モル)、ネオペンチルグリコール(a3)11.6g(0.11モル)、2官能のポリエステルポリオール(a3)(水酸基価63mgKOH/g)49.6g(0.028モル)、重合禁止剤としてハイドロキノンメチルエーテル0.02g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.02gを仕込み、60℃で2時間反応させ、2-ヒドロキシエチルアクリレート(a1)6.50g(0.056モル)を仕込み、60℃で3時間反応させ、残存イソシアネート基が0.3%となった時点で反応を終了し、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A-1)(重量平均分子量(Mw);14,000)のイソボルニルアクリレート(b2-2)溶液(粘度(20℃)10,100mPa・s)を得た。
【0105】
<比較例5:活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(5’)>
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、酢酸エチル42.9g、水添キシリレンジイソシアネート(a2)32.3g(0.17モル)、ネオペンチルグリコール(a3)11.6g(0.11モル)、2官能のポリエステルポリオール(a3)(水酸基価63mgKOH/g)49.6g(0.028モル)、重合禁止剤としてハイドロキノンメチルエーテル0.02g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.02gを仕込み、60℃で2時間反応させ、2-ヒドロキシエチルアクリレート(a1)6.50g(0.056モル)を仕込み、60℃で3時間反応させ、残存イソシアネート基が0.3%となった時点で反応を終了し、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A-1)(重量平均分子量(Mw);14,000)の酢酸エチル溶液(粘度(20℃)11,000mPa・s)を得た。
【0106】
光重合開始剤(C)として、以下のものを用意した。
(C-1):1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASFジャパン株式会社製、「イルガキュア184」)
【0107】
〔実施例1〕
上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(1)285.8部に、更に光重合開始剤(C-1)11.4部を配合し、復元性、鉛筆硬度、塗工性について、下記の通り評価した。
【0108】
〔実施例2?5〕
実施例1において、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の種類および配合量と、光重合開始剤の配合量を下記表1の通り変更した以外は実施例1と同様にして、復元性、鉛筆硬度、塗工性について、下記の通り評価した。
【0109】
〔比較例1?5〕
実施例1において、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の種類および配合量と、光重合開始剤の配合量を下記表1の通り変更した以外は実施例1と同様にして、復元性、鉛筆硬度、塗工性について、下記の通り評価した。
【0110】
<復元性>
上記で得られた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、アプリケーターにて硬化塗膜が40μm厚となるように黒色ポリカーボネート基材(日本テストパネル株式会社製、2×70×150mm)に塗工後(比較例4のみ塗工後に60℃10分乾燥させ溶剤を揮発させた)、高圧水銀灯ランプ80W、1灯を用いて、18cmの高さから3.4m/minのコンベア速度で2パスの紫外線照射(積算照射量800mJ/cm^(2))を行い、硬化塗膜を得た。
上記硬化塗膜を用い、23℃50%Rhの条件下で、真鍮製2桁ブラシを用い、500g荷重で5往復して塗膜に傷を付け、傷が目視にて確認できなくなる時間を測定し、下記評価基準で評価した。結果を下記表1に示した。
(評価基準)
○:1時間以内に傷が確認できなくなる
△:1時間後では傷が確認できるが、24時間後に傷が確認できなくなる
×:24時間後でも傷が確認できる
【0111】
<鉛筆硬度>
上記硬化塗膜を用いて、JIS K 5600-5-4に準じて硬化塗膜表面の鉛筆硬度を測定した。評価結果は下記の表1に示す。
(評価基準)
○:HB以上
×:B以下
【0112】
<塗工性>
B型粘度計を用いて、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の20℃での粘度を測定をした。評価結果は下記の表1に示す。
(評価基準)
○:20,000mPa・s未満
×:20,000mPa・s以上
【0113】
【表1】

【0114】
更に、実施例1、3、5、比較例5については、下記の回復弾性を評価した。
【0115】
<回復弾性>
島津製作所製、島津ダイナミック超微小硬度計DUH-200を用いて回復弾性数値を測定した。評価結果は下記の表2に示す。
測定条件;MODE-2
MAX荷重;0.100gf
MIN荷重;0.010gf
繰り返し回数;1
負荷速度;1
保持時間;1s
測定基材;2mm厚PC基材に約40μmの硬化塗膜を形成(形成条件は上記復元性評価と同じ)し、塗膜付基材を30mm角にカットし、測定用サンプルとした。
y軸に荷重、x軸に押し込み深さをプロットし、得られたデータから、面積比を算出し、弾性変形エネルギー/(塑性変形エネルギー+弾性エネルギー)から弾性回復率を算出した。
(評価基準)
○:回復弾性率=60%以上
×:回復弾性率=60%未満
【0116】
【表2】

【0117】
上記評価結果より、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)に単官能モノマー(B)としてホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下の単官能モノマー(b1)を単官能モノマー全体に対して、60重量%以上配合してなる実施例1?5の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、硬化塗膜とした際に、実用性に耐え得るレベルの復元性や硬度が優れており、更に有機溶剤を配合しなくとも塗工適正に優れる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であることがわかる。
【0118】
一方、単官能モノマー(B)として、ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下の単官能モノマー(b1)を含有するものの、その含有割合が60重量%よりも低い比較例1および2活性エネルギー線硬化性樹脂組成物では、塗工適正には優れるものの、硬化塗膜とした際の復元性に劣るものであることがわかる。
【0119】
また、単官能モノマー(B)として、ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下の単官能モノマー(b1)を含有せず、ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃よりも高い単官能モノマーを含有する比較例3および4の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物では、塗工適正には優れるものの、復元性に劣るものであることがわかる。
【0120】
更に、単官能モノマー(B)を含有しない比較例5の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物では、塗工適正には優れるものの、硬化塗膜とした際の復元性および塗膜硬度に劣るものであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、硬化塗膜とした際には、ウレタン構造特有のゴム質感を維持しつつ、自己修復性能を損なうことなく塗工適正を向上させることが可能である。そのため、傷に対する復元性として実用性の高い硬化塗膜を形成でき、塗料、インク、コーティング剤として特に有用である。
また、有機溶剤を配合しないで使用する場合にも塗工に適正な粘度領域にあるため、環境に配慮したコーティング剤として有用である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a1)、多価イソシアネート系化合物(a2)及びポリオール系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)およびエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であり、ポリオール系化合物(a3)が、重量平均分子量が300?20,000のポリオール系化合物を含有し、ポリオール系化合物(a3)が、ポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールから選ばれる少なくとも一種を含有し、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が7,000?50,000であり、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)100重量部に対して、エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)を80?400重量部含有し、エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)全体に対して、ホモポリマーとした場合のガラス転移温度が25℃以下であるエチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(b1)を80重量%以上含有する
ことを特徴とする活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマー(B)が、脂環式構造含有エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマーを含有することを特徴とする請求項1記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
20℃における粘度が、20,000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1または4記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
実質的に有機溶剤を含まないことを特徴とする請求項1、4または5記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1、4?6いずれか記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を含有してなることを特徴とするコーティング剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-27 
出願番号 特願2013-266290(P2013-266290)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08F)
P 1 651・ 121- YAA (C08F)
P 1 651・ 161- YAA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中西 聡  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 大▲わき▼ 弘子
井上 猛
登録日 2018-03-23 
登録番号 特許第6308774号(P6308774)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及びコーティング剤  
代理人 西藤 優子  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 西藤 優子  
代理人 西藤 征彦  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 西藤 征彦  

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