• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
判定2018600018 審決 特許
判定2019600005 審決 特許
判定2019600001 審決 特許
判定2018600029 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A61F
管理番号 1354131
判定請求番号 判定2019-600004  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 判定 
判定請求日 2019-02-01 
確定日 2019-08-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第6312915号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号及びその説明書に示す,製品「[優肌]パーミロール○R(当審注:○内にRが記されたもの。以下同じ。) Lite L34R10」は,特許第6312915号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は,イ号及びその説明書に示す,製品「[優肌]パーミロール○R Lite L34R10」(以下「イ号物件」という。)が,特許第6312915号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する,との判定を求めるものである。

2 本件特許発明
(1)手続の経緯
本件特許発明に係る特許出願は,平成29年11月1日に請求人によって出願され,平成30年3月30日にその特許権の設定登録がされ,同年4月18日に特許公報が発行されたものである。そして,平成31年2月1日(判定請求書差出日)に本件判定の請求がされ,同年3月25日に被請求人より判定請求答弁書が提出され,当審において平成31年4月26日付けで請求人に対して審尋をしたところ,令和1年5月29日に請求人より回答書が提出されたものである。

(2)本件特許発明
本件特許発明は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(以下「本件特許明細書」という。)の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであって,構成要件の技術的なまとまりを考慮しつつ,符号A?Gを付して分説すると次のとおりである。

「A 伸縮性医療用テープの伸縮性基材の貼付期間収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するための医療用テープであって、
B 伸縮性機能を有する伸縮性基材部と、
C 前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部と、
D 該医療用テープの復元収縮力を防止する目的で、前記伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有する伸張防止部を前記伸縮性基材部の上層に備え、
E 製造工程において、前記伸縮性基材部を弛ませた状態又は引き伸ばさない状態で前記伸縮性基材部と前記伸張防止部を積層させ、
F 該医療用テープの伸張を防止した状態で粘着部で皮膚に貼付した後に、前記伸張防止部を取り除くことを特徴とする
G 医療用テープ。」(以下,分説した各構成要件を「構成要件A」等という。)

(3)本件特許発明の課題及び効果
ア 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には,本件特許発明の課題及び効果等に関連して,以下の記載がある。なお,下線は当審が付したものである。

(ア)段落【0002】
「従来、医療現場等において、ガーゼおよびパッド等の被覆固定、留置針やカテーテル等の処置具の固定、創傷や皮膚の被覆保護等には、「伸縮性包帯の一種で伸縮性基材の下層に粘着剤を塗布し、その下層に非伸縮性の剥離紙を備えたもの」(以下、粘着性伸縮包帯と称する)が汎用されている。留置針(りゅうちしん)とは、採血・点滴の際に、静脈内に挿入し身体に固定して使用する注射針であり、一週間前後に渡る点滴等にも使用される。」

(イ)段落【0003】
「これらの粘着性伸縮包帯では、貼付期間中の身体動作等に伴う皮膚の突っ張りによる皮膚刺激を軽減するため、伸縮性基材の特徴である皮膚追従性を備えさせている。しかし、皮膚追従性が優れる程、軽微な力、時に自重でも伸びやすくなり、貼付の際に、意図せずとも伸縮性基材が伸びることが少なくない。そのため、「伸縮性基材が引き伸ばされて使用されることで、伸縮性基材が元に戻ろうとする力」(以下、復元収縮力と称する)が生じ、この復元収縮力が貼付期間中の持続的な皮膚刺激の原因となることは稀ではない。また、復元収縮力を原因とする皮膚刺激対策としては、取扱説明等に「皮ふ刺激の原因となりますので、引っ張らずに(伸ばさずに)、貼ってください」といった注意喚起の記載のみで、意図せずとも生じやすい復元収縮力の根本的な対策には至らず、皮膚追従性に優れ、容易に伸びてしまう製品に対し、引き伸ばしの判断が容易ではないという問題があった。」

(ウ)段落【0005】
「このとき、製品の弛みや歪等を防止することを目的として、フィルム状の伸縮性基材を撓ませない状態とするために、引き伸ばした状態で、平面形態を保持するための支持体と積層加工されるため、伸縮性基材部分には、撓ませない状態とするために、引き伸ばした分の収縮力が残留してしまう。以下、「製造過程において製品内に残留した収縮力」を残留収縮力と称する。よって、上述のような平面形態を保持するための支持体を備えた医療用テープ、すなわち、「フィルム状の伸縮性基材の下層に粘着剤が塗布され、最下層に非伸縮性の剥離紙を備え、伸縮性基材の上層に平面形態を保持するための支持体が貼り付けられた、伸縮性基材部分に残留収縮力が存在する医療用テープ」(以下、支持体付き医療用テープと称する)では、伸縮性基材部分であるフィルム状素材には、残留収縮力が存在することになる。」

(エ)段落【0009】
「ゆえに、従来の粘着性伸縮包帯および支持体付き医療用テープを含む伸縮性医療用テープでは、伸縮性医療用テープの貼付に伴う復元収縮力および残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減することは容易ではなく、このような不利を適切に解決できる手段がなかったのが現状である。以下、伸縮性医療用テープの貼付に伴う復元収縮力および残留収縮力を貼付期間収縮力と称する。」

(オ)段落【0011】
「本発明は、上記の事情に鑑み、特に優れた伸縮性機能を備えた伸縮性医療用テープにおいて、貼付期間収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減する効果が高く、軽微な刺激であっても過敏に反応してしまう皮膚への貼付を目的とした医療用テープを提供することを課題とする。」

(カ)段落【0013】
「本発明の医療用テープによれば、伸縮性医療用テープの伸縮性基材の貼付期間収縮力を原因とする皮膚を持続的に収縮させる力を減少させるための手段を医療用テープに機能として取り入れることで、貼付期間収縮力を減少させ、貼付期間収縮力による皮膚を持続的に収縮させる力を減少させることができ、医療用テープの貼付期間収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減させることができ、該医療用テープの伸張を防止した状態で粘着部で皮膚に貼付した後に、伸張防止部を取り除くことで、該医療用テープの皮膚追従性等の伸縮性機能を有効に活用できる。このことにより、軽微な刺激であっても過敏に反応してしまう皮膚への貼付が可能となり、低刺激の医療用テープや貼付剤等を提供することができる。また、皮脂腺や汗腺の炎症、毛根やその周辺組織の炎症、圧迫によって生じる皮膚の細胞や毛細血管等に対する血液循環不良による医療関連器機圧迫創傷等を予防することができる。そして、使用者が、医療用テープを誤って引き伸ばして使用してしまうという事態を回避することができるため、取扱説明等に「皮ふ刺激の原因となりますので、引っ張らずに(伸ばさずに)、貼ってください」といった注意喚起や、「本品の使用中に皮膚障害(発疹・発赤、かゆみ等)と思われる症状が現れた場合には、使用を中止し、適切な治療を行ってください。」といった、製品内に存在する残留収縮力という外因を使用者の体質的な内因と捉えかねないような注意喚起の記載が不要となる。」

(キ)段落【0025】
「このように、貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するためには、伸縮性医療用テープの伸縮性基材の収縮力による皮膚を持続的に収縮させる力を減少させることが肝要となる。ここで、伸縮性医療用テープの上層に、伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有する伸張防止部を備えさせ、皮膚への貼付の際に伸縮性医療用テープが引き伸ばされることを防止することは、復元収縮力を原因とする皮膚を持続的に収縮させる力を減少させ、貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するための有効な手段となる。また、伸縮性医療用テープの製造工程において、伸縮性基材部内に残留収縮力を生じさせない状態で伸縮性基材部と伸張防止部を積層させることは、伸縮性基材部内の残留収縮力を原因とする皮膚を持続的に収縮させる力を減少させ、貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するための有効な手段となる。」

(ク)段落【0032】
「また、製造工程においては、伸縮性基材部1と伸張防止部3は、伸縮性基材部内に残留収縮力を生じさせない状態を保ちながら積層され加工されている。」

(ケ)段落【0037】
「また、伸縮性基材部1内に残留収縮力を生じさせない状態で伸縮性基材部1と伸張防止部3を積層させるために、伸張防止部3を張った状態に保ち、その上に伸縮性基材部1を弛ませた状態で積層させたが、伸縮性基材部の素材としてポリウレタンフィルム等のフィルム状素材を選択し、引き伸ばさない状態で水平な作業台の上に広げ、その上に伸張防止部の素材として非伸縮性機能を有する板状のプラスチック等を積層してもよく、結果として、伸縮性基材部に残留収縮力を生じさせない状態で伸縮性基材部と伸張防止部を積層させればよく、積層手段による制限を受けない。」

(コ)段落【0040】
「また、復元収縮力は、貼付の際に伸縮性医療用テープが引き伸ばされることにより発生する。ゆえに、伸張防止部は、伸縮性基材部の上層全体に備えさせることが望ましく、伸縮性基材部の全方向の伸張を防止する機能であることが望ましい。」

イ 本件特許発明の課題及び効果
上記ア(ア)?(コ)の記載からみて,本件特許発明は,従来の医療用テープについて,伸縮性医療用テープの貼付に伴う復元収縮力(「伸縮性基材が引き伸ばされて使用されることで,伸縮性基材が元に戻ろうとする力」)及び残留収縮力(製造過程において製品内に残留した収縮力)を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減することが容易ではないという点に着目し,貼付期間収縮力(伸縮性医療用テープの貼付に伴う復元収縮力及び残留収縮力)を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減する効果が高い医療用テープを提供することを課題としたものであると認められる。
そして,本件特許発明は,伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有する伸張防止部を伸縮性医療用テープの上層に備えさせ,皮膚への貼付の際に伸縮性医療用テープが引き伸ばされることを防止することによって,復元収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減する効果を奏するとともに,伸縮性医療用テープの製造工程において伸縮性基材部内に残留収縮力を生じさせない状態で伸縮性基材部と伸張防止部を積層させることによって,伸縮性基材部に残留収縮力が存在しないものとし,伸縮性基材部の残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減する効果を奏するものと認められる。

3 イ号物件
請求人は,イ号物件の内容を証するものとして,イ号物件と同等の構成を備えるものであるとする物品のほか,甲第2号証?甲第5号証を判定請求書とともに提出している。

(1)甲第2号証
製品「[優肌]パーミロール○R Lite L34R10」のパッケージを展開して印刷したものと認められる甲第2号証から,以下の事項が把握できる。
ア ページ左上に位置する面に「Nitto 薄型フィルムドレッシング(ハンディロールタイプ) [優肌](当審注:「優肌」を角丸四角で囲ったもの。)パーミロール○R Lite L34R10」と記載されていること。
イ ページ左下に位置する面に「使用上の注意」として「●貼付部分の皮膚は、清潔で乾いた状態にしてください。また、体毛の多い部位では必要に応じて剃毛してください。」,「●フィルムを引っ張って伸ばした状態で貼付しないでください。」等と記載されていること。
ウ ページ右下に位置する面に「使用方法」として,「1」の番号が付されたイラストの横に「剥離紙の中央部分をはがします。」と記載され,「2」の番号が付されたイラストの横に「貼付し、両サイドの剥離紙をはがします。」と記載され,「3」の番号が付されたイラストの横に「中央の波状スリットから端に向けて、ゆっくりとカバーフィルムをはがしてください。」と記載されていること。
エ ページ右下に位置する面に「販売元 株式会社ニトムズ 製造元 日東電工株式会社」と記載されていること。

(2)甲第3号証
上記(1)エに販売元として示されている株式会社ニトムズのウェブサイトを印刷したものと認められる甲第3号証から,以下の事項が把握できる。
ア 1ページ上部に「HOME>医療衛生材料>ロールタイプフィルムドレッシング>[優肌]パーミロール○R(ハンディロール)」と記載されていること。
イ 1ページ中央付近に「極薄フィルム\(当審注:「\」は改行を示す。以下同じ。)優肌パーミロール○R比約1/4の極薄フィルムを採用。より小さい力でフィルムが伸びることにより、屈曲部にもしなやかにフィットし、貼付時のストレスを和らげます。また、衣服との引っかかりによるはがれも軽減します。」と記載されていること。
ウ 1ページ中央付近に「肌に優しい[優肌]ゲル粘着剤\[優肌]ゲル粘着剤の使用により、貼付・剥離による物理的な刺激を抑えます。軟らかく皮膚の凹凸になじむので、貼りかえも時(当審注:「貼りかえ時」の誤記と考えられる。)も角質層を傷つけず優しく剥離することができます。」と記載されていること。
エ 1ページ下部に「特長」として「手袋をしたまま粘着面に触れずに貼ることが出来ます。」等と記載されていること。
オ 2ページ上部に「用途」として「失禁や体液からの皮膚の保護\ドレッシング類で被覆した創傷部の保護\シャワー時の防水カバー\ストーマ装具等の装着部位の防水(傷口には直接貼らないでください。)」と記載されていること。

(3)上記(1)及び(2)から,イ号物件について,以下のように理解できる。
ア 上記(1)アから,イ号物件は,ハンディロールタイプの「薄型フィルムドレッシング」である。
イ 上記(1)イ及びウから,イ号物件の使用方法は,剥離紙の中央部分をはがし,皮膚に貼付し,両サイドの剥離紙をはがし,中央の波状スリットから端に向けて,ゆっくりとカバーフィルムをはがすというものである。
ウ 上記(1)ウから,イ号物件は,「中央部分と両サイド部分とを有する剥離紙」及び「中央に波状スリットがあるカバーフィルム」を備えるものである。
エ 上記(2)イ?エから,イ号物件は,「小さい力で伸びる極薄フィルム」と「ゲル粘着剤を使用した粘着面」を備えるものであり,ゲル粘着剤を使用した粘着面は,極薄フィルムを皮膚に貼付するものである。
オ 上記(2)ア及びオから,[優肌]パーミロール○R(ハンディロール)は,「医療衛生材料」の「ロールタイプフィルムドレッシング」に属するものであり,その「用途」は「ドレッシング類で被覆した創傷部の保護」等であるから,イ号物件は「医療用」のものである。

(4)上記(3)イ?エから,イ号物件は,剥離紙の側を下と考えると,下から順に「中央部分と両サイド部分とを有する剥離紙」,「ゲル粘着剤を使用した粘着面」,「小さい力で伸びる極薄フィルム」,「中央に波状スリットがあるカバーフィルム」という積層構成をもつものであると理解できる。

(5)以上を踏まえると,イ号物件は,次のとおりのものと認められる。
「a 医療用の薄型フィルムドレッシングであって,
b 小さい力で伸びる極薄フィルムと,
c 極薄フィルムを皮膚に貼付する,ゲル粘着剤を使用した粘着面と,
d 極薄フィルムの上に,中央に波状スリットがあるカバーフィルムとを備え,
e 極薄フィルムと,中央に波状スリットがあるカバーフィルムとは積層され,
f ゲル粘着剤で皮膚に貼付した後に,中央の波状スリットから端に向けてカバーフィルムをはがすものである,
g 医療用の薄型フィルムドレッシング。」(以下,分説した各構成を「構成a」等という。)

(6)なお,当審が請求人に対して行った審尋において,上記(5)と同一のものをイ号物件の「暫定の構成」として示した上で,「暫定の構成」についての意見を求めたところ,請求人は,回答書の第3ページ第5行において,『イ号物件が「暫定の構成」を備えるものであることを認めます。』と回答している。

4 対比・判断
(1)構成要件Bの充足性について
イ号物件の構成bは「小さい力で伸びる極薄フィルム」であり,上記3(2)イに示されるとおり,より小さい力で伸びることにより,屈曲部にしなやかにフィットするものである。仮に,この「極薄フィルム」が一度伸びた後は全く縮まないものであるとすれば,屈曲部にしなやかにフィットするどころか,屈曲部に対して使用し得ないことは明らかであるから,「極薄フィルム」は,伸び縮みするもの,すなわち伸縮性機能を有するものと理解できる。
そうすると,イ号物件の構成bは,本件特許発明の構成要件Bの「伸縮性機能を有する伸縮性基材部」を充足する。

(2)構成要件Cの充足性について
イ号物件の構成cは「極薄フィルムを皮膚に貼付する,ゲル粘着剤を使用した粘着面」であるから,ゲル粘着剤を使用した粘着面は,極薄フィルムを皮膚に貼付する機能を有するものといえる。また,イ号物件の薄型フィルムドレッシングは,上記3(2)オに示されるとおり,失禁や体液からの皮膚の保護等に用いられるものであり,ゲル粘着剤を使用した粘着面が,例えば失禁や体液から皮膚を保護する間,皮膚に貼付した極薄フィルムを保持する機能を有することは明らかである。
そうすると,イ号物件の構成cは,本件特許発明の構成要件Cの「前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部」を充足する。

(3)構成要件Gの充足性について
イ号物件の構成gは「医療用の薄型フィルムドレッシング」であるところ,上記3(3)アのとおり,この薄型フィルムドレッシングは,ハンディロールタイプのものであるから,ロールに巻かれるテープ形状のものであると理解できる。
そうすると,イ号物件の構成gは,本件特許発明の構成要件Gの「医療用テープ」を充足する。

(4)構成要件Dの充足性について
ア 本件特許発明の構成要件Dは「該医療用テープの復元収縮力を防止する目的で、前記伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有する伸張防止部を前記伸縮性基材部の上層に備え」というものである。
この構成要件Dの「復元収縮力」とは,上記2(3)ア(イ)及び(コ)の記載から,伸縮性基材部が引き伸ばされて使用されることで伸縮性基材部が元に戻ろうとする力のことであり,貼付の際に伸縮性基材部が引き伸ばされることにより発生するものであると解されるから,「医療用テープの復元収縮力を防止する目的」のためには,貼付の際に伸縮性基材部が引き伸ばされること(すなわち,伸縮性基材部の伸張)を防止する必要があることは明らかである。
また,上記2(3)ア(イ)の記載からみて,貼付の際に意図せずとも伸縮性基材部が伸びるおそれがあると解されることに照らすと,本件特許発明の「伸張防止部」が,貼付の際に伸縮性基材部の伸張を防止するためには,使用者が意図しない伸縮性基材部の伸張をも防止するものでなければならないことも明らかである。これは,上記2(3)ア(カ)において,本件特許発明の医療用テープに関して「使用者が、医療用テープを誤って引き伸ばして使用してしまうという事態を回避することができる」と記載されていることとも整合する。

イ 一方,イ号物件の構成dは「極薄フィルムの上に,中央に波状スリットがあるカバーフィルムとを備え」というものである。
上記3(3)イに示したとおり,イ号物件の使用方法は,剥離紙の中央部分をはがし,皮膚に貼付し,両サイドの剥離紙をはがし,中央の波状スリットから端に向けて,ゆっくりとカバーフィルムをはがすというものであり,また,上記3(2)エにおいて,イ号物件について,粘着面に触れずに貼ることができるものとされていることも考慮すると,イ号物件の貼付の際には,剥離紙の中央部分をはがすことで露出した粘着面に触れないように,剥離紙が残った両サイドを左右の手で持つことが通常想定される。そして,貼付の際に,左右へ離れる方向に力が加えられた場合には,極薄フィルムの上のカバーフィルムが中央の波状スリットを境に左右に分かれ,極薄フィルムが引き伸ばされ得ることは,構造上明らかである。このことは,上記3(1)イのとおり,イ号物件について,「●フィルムを引っ張って伸ばした状態で貼付しないでください。」という「使用上の注意」が記載されていることとも整合する。
そうすると,イ号物件の構成dは,貼付の際に極薄フィルムの伸張を防止するものではないから,本願特許発明の構成要件Dを充足しない。

ウ 請求人は,当審の構成dに係る審尋に対し,回答書において,概略,
本件特許明細書の記載によれば,本件特許発明の「伸張防止部」は,その素材が伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有するものであれば足り,用途に応じて中央に波状スリットが存在してもよく,伸縮性基材部の全方向の伸張を防止する機能を備えることが必須ではないと解すべき旨(3ページ16行?4ページ11行),
回答書に添付した甲第6号証及び甲第7号証の記載等に照らし,医療従事者が医療用の薄型フィルムドレッシングを引っ張って伸ばした状態で貼付することはありえず,イ号物件のカバーフィルムは伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有する素材であり,中央の波状スリットはイ号物件の貼付を容易にするという用途に特化させるために加えられた機能と判断することができるから,中央に波状スリットのあるカバーフィルムであっても,伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有する伸張防止部の一態様となる旨(4ページ12行?6ページ9行),
イ号物件のカバーフィルムの中央に波状スリットがあるとしても,極薄フィルムの上にカバーフィルムが設けられている以上,このカバーフィルムの存在によって伸びが防止されていることは明らかである旨(6頁10?17行),主張している。
しかしながら,本件特許発明の構成要件Dは「該医療用テープの復元収縮力を防止する目的で」という限定を有するものであるから,構成要件Dの「伸張防止部」は,単に「伸縮性基材部の伸張を防止する機能を有する」だけでは足りず,上記アで示したとおり,貼付の際に,使用者が意図しない伸縮性基材部の伸張を防止するものであることが必要である。そして,上記イで示したとおり,イ号物件の貼付の際に,左右へ離れる方向に力が加えられた場合には,極薄フィルムの上のカバーフィルムが中央の波状スリットを境に左右に分かれ,極薄フィルムが引き伸ばされ得ることは,構造上明らかであるから,イ号物件の「カバーフィルム」は,貼付の際に,使用者(例えば,医療従事者)が意図しない極薄フィルムの伸張を防止するものとはいえず,構成要件Dの「伸張防止部」の一態様に該当するとはいえない。
よって,請求人の上記主張を採用することはできない。

(5)構成要件Eの充足性について
ア 本件特許発明の構成要件Eは「製造工程において、前記伸縮性基材部を弛ませた状態又は引き伸ばさない状態で前記伸縮性基材部と前記伸張防止部を積層させ」というものであるところ,この製造工程に関する構成要件Eは,上記2(3)ア(ウ),(ク)及び(ケ)等の記載からみて,本件特許発明の「伸縮性基材部」について,「残留収縮力が存在しない」という特性を表したものであると解釈するのが相当である。
なお,被請求人は,判定請求答弁書の4ページ25?27行において「構成要件Eは、伸縮性基材部には、残留収縮力が生じていないことが特定されていると解すべきであることが明らかである。」と主張し,また,請求人も,当審の構成要件Eに係る審尋に対し,回答書の6ページ20行?7ページ1行において『請求人も、当審と同様に、「製造工程において、前記伸縮性基材部を弛ませた状態又は引き伸ばさない状態で前記伸縮性基材部と前記伸張防止部を積層させ」という製造工程に関する記載事項(構成要件E)は、「伸縮性基材部」について「残留収縮力が存在しない」という特性を表したものであると考えます。』と主張していることから,構成要件Eを上記のとおり解釈することについて,争いはない。

イ 上記の解釈を前提に,構成要件Eの充足性について判断する。
請求人からは,イ号物件の「極薄フィルム」について,「残留収縮力が存在しない」ことを直接的に示す証拠は提出されていない。技術常識に照らしても,イ号物件の「極薄フィルム」について,「残留収縮力が存在しない」ものであると解すべき理由があるとは認められない。
かえって,被請求人は,イ号物件についての実験結果を示した乙第2号証を判定請求答弁書に添付し,これにより,イ号物件の極薄フィルムについて,残留収縮力が存在する旨主張し,また,請求人も,当審の乙第2号証に係る審尋に対して,回答書の8ページ10?15行において『被請求人より提出された、乙第2号証により、イ号物件のフィルムについて、カバーフィルムと積層された状態において収縮内部応力を有することが示され、イ号物件のフィルム(伸縮性基材部)に残留収縮力が存在することが明確になり、イ号物件が本特許明細書【0005】記載の伸縮性基材部分に残留収縮力が存在する「支持体付き医療テープ」の一態様であることが明確となったものと考えます。』と主張して,イ号物件の「極薄フィルム」に「残留収縮力」が存在することを認めている。
以上のとおりであるから,イ号物件が,本願特許発明の構成要件Eを充足するということはできない。

ウ なお,本件特許発明の構成要件Eは,「前記伸縮性基材部と前記伸張防止部を積層させ」ることを含むものであるから,「伸縮性基材部」と積層される「伸張防止部」を備えることを要件とするものでもある。一方,イ号物件の構成eは「極薄フィルムと,中央に波状スリットがあるカバーフィルムとは積層され」というものであるところ,上記(4)ウで示したとおり,この「カバーフィルム」は,本件特許発明の「伸張防止部」に相当するものではない。そうすると,イ号物件は,そもそも「伸張防止部」に相当するものを備えていないのであるから,この点からも,本件特許発明の構成要件Eを充足するものとはいえない。

(6)構成要件Fの充足性について
イ号物件の構成fは「ゲル粘着剤で皮膚に貼付した後に,中央の波状スリットから端に向けてカバーフィルムをはがすものである」というものであるところ,上記(4)イで示したとおり,イ号物件の貼付の際に極薄フィルムが引き伸ばされ得ることは構造上明らかであるから,イ号物件は,貼付の際に「伸張を防止した状態」であるとはいえず,イ号物件の構成fは,本件特許発明の構成要件Fの「該医療用テープの伸張を防止した状態で粘着部で皮膚に貼付」の部分を充足しない。また,上記(4)ウで示したとおり,イ号物件の「カバーフィルム」は,本件特許発明の「伸張防止部」に相当するものではないから,イ号物件の構成fは,本件特許発明の構成要件Fの「前記伸張防止部を取り除く」の部分も充足しない。
よって,イ号物件の構成fは,本件特許発明の構成要件Fを充足しない。

(7)構成要件Aの充足性について
本件特許発明の構成要件Aは「伸縮性医療用テープの伸縮性基材の貼付期間収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するための医療用テープであって」であり,この構成要件Aの「貼付期間収縮力」は,上記2(3)ア(イ)?(エ)の記載から,伸縮性医療用テープの貼付に伴う復元収縮力(伸縮性基材が引き伸ばされて使用されることで,伸縮性基材が元に戻ろうとする力)及び残留収縮力を意味するものと解される。
一方,上記(4)イに示したとおり,イ号物件の構成dは,貼付の際に極薄フィルムの伸張を防止するものではなく,また,イ号物件の構成aの「医療用の薄型フィルムドレッシング」が,貼付の際に極薄フィルムの伸張を防止するその他の構成を備えたものともいえないから,イ号物件の構成aの「医療用の薄型フィルムドレッシング」は,貼付に伴う復元収縮力が生じ得ないものとはいえず,復元収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するためのものともいえない。
また,上記(5)に示したとおり,イ号物件が,本願特許発明の構成要件Eを充足するということはできないから,イ号物件の構成aの「医療用の薄型フィルムドレッシング」について,残留収縮力が存在しないものとはいえず,残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するためのものともいえない。
よって,イ号物件の構成aは,本件特許発明の構成要件Aを充足しない。

5 むすび
以上のとおり,イ号物件について,本件特許発明の構成要件A,D?Fを充足するということはできないから,イ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
 
判定日 2019-08-08 
出願番号 特願2017-211857(P2017-211857)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 龍平  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 白川 敬寛
井上 茂夫
登録日 2018-03-30 
登録番号 特許第6312915号(P6312915)
発明の名称 医療用テープ  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 須田 洋之  
復代理人 岸 慶憲  
代理人 近藤 直樹  
代理人 西島 孝喜  
代理人 上杉 浩  
代理人 嶋崎 英一郎  
代理人 大塚 文昭  
代理人 那須 威夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ