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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16B
管理番号 1354580
審判番号 不服2018-2690  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-26 
確定日 2019-08-21 
事件の表示 特願2015-500580「改善された振動および締結特性を有する締結具および締結具組立体」拒絶査定不服審判事件〔平成25年9月19日国際公開、WO2013/138533、平成27年5月28日国内公表、特表2015-515589〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)3月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年3月14日(US)アメリカ合衆国、2012年7月24日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成29年3月7日付け(発送日:平成29年3月14日)で拒絶理由が通知され、平成29年6月9日に意見書が提出されるとともに、明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたが、平成29年10月17日付け(発送日:平成29年10月24日)で拒絶査定がされ、これに対して、平成30年2月26日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし21に係る発明は、平成29年6月9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
雌ねじ部を有するナットと、
前記ナットから延び、かつ、細長い締結具のシャンクを受容するように構成された環体であって、撓みのために前記シャンクの周りで前記環体の屈曲点を提供するように前記環体の長さに沿ったアール状の切欠き部を画定する環体と、
前記ナットを作用面の周りで締め付けたときに、前記環体を漸次撓ませて前記シャンクと固定係合させるように構成されたテーパを画定する圧縮カラーと、
を備えた締結具組立体。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1ないし21に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2002-372024号公報(本審決における引用文献1)
引用文献2.特開平1-150011号公報(本審決における引用文献2)
引用文献3.特開2012-17814号公報(本審決における引用文献3)
引用文献4.特開平11-22715号公報(本審決における周知技術を示す文献)
引用文献5.実願昭61-152378号(実開昭63-57820号)のマイクロフィルム

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献1(特開2002-372024号公報)には、図面(特に図1、図2及び図5を参照)とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本願発明は、ナットに関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、ボルトに取り付けた後のナットが緩むことを防ぐために、種々の工夫がなされている。例えば、特開平9-210039号公報に見られるように、テーパー状の透孔を有する受け金具と、ボルトに螺合するメネジを有する軸孔と、前記受け金具の透孔に対応したテーパー外面を有し、前記受け金具に密嵌される締め付け金具とよりなり、前記受け金具の透孔はボルトの頭部側が小径とされ、前記締め付け金具の基端は回転工具が係止し得る形状とされ、端部に軸方向と平行なスリットが形成され、前記締め付け金具の軸穴周壁がボルト周壁に圧着するように構成された、緩み止めナットが提案されている。
【0003】即ち、このナットは、図5へ示すように、ボルトと螺合するねじ孔を有するナット本体(係止部5)と、収縮径部(締め付け金具3)と、押さえ部材(受け金具1)とを備え、収縮径部(締め付け金具3)は、ナット本体の軸方向に延設されることにて上記のねじ孔を延長すると共にその外側にテーパ面を備え、更に、軸方向に伸びる複数の切れ込みにて、複数の構成片に区画されたものであり、押さえ部材(受け金具1)は、収縮径部と別体に形成された内周面にテーパ面を有する環状体であり且つ収縮径部の先端側外周へ嵌められ、収縮径部の基端側へ摺動することにより、収縮径部を押圧して、収縮径部のねじ孔の径を収縮させるものである(尚、括弧内の各部の名称及びその番号は、特開平9-210039号公報の記載をそのまま使用したものであり、図5の説明にのみ用いる)。
【0004】具体的には、上記のナットは、ボルト(図示せず。)に装着され、ボルトとナットの間に配設された被固定部材(図示せず。)を、ボルトと共に締め付け、この締め付けにより、被固定部材へ押さえ部材(受け金具1)が押しつけられ、上記の摺動が生じる。その結果、押さえ部材(受け金具1)のテーパ面が収縮径部(締め付け金具3)のテーパ面を押圧する。この押圧にて各構成片がナットの中心に向けて弾性変形して、収縮径部(締め付け金具3)の径を縮め、ボルトの軸を締め付けてナットの緩みを防止する。
【0005】このようなナットは、ボルトの軸を取り囲む複数の構成片にて構成された収縮径部を、環状の押さえ部材にて押圧することにて、偏りなく確実にボルトの軸を締め付け、ナットの緩みを確実に防止することができる点で優れている。」

イ 「【0012】
【発明の実施の形態】以下、図面に基づき本願発明の実施の形態について説明する。図1乃至図4へ、本願発明に係るナット100の一実施の形態を示す。図1(A)はこのナット100の一部切欠全体正面図であり、図1(B)はこのナット100の使用状態を示す一部切欠正面図である。図2(A)は上記ナット100のナット本体1の加工前の一部切欠正面図であり、図2(B)はその底面図である。図3(A)は上記ナット100の押さえ部材4の一部切欠正面図であり、図3(B)はその底面図である。図4(A)は、上記ナット100のナット本体1の加工後の一部切欠正面図であり、図4(B)は図1(B)の要部拡大縦断面図である。図中、Xは、ナット100の中心を示す。また、各図において、Uは上方を、Sは下方を示している。
【0013】図1(A)及び図4(B)へ示すように、このナット100は、ボルトと螺合するねじ孔10を有するナット本体1と、ロック部2とを備える。ロック部2は、ナット本体1の軸方向に延設されることにて上記のねじ孔10を延長する収縮径部3と、収縮径部3と別体に形成され且つ収縮径部3の先端側外周へ嵌められた押さえ部材4と、脱落防止構造5とを備える。収縮径部3は、軸方向(上下)に伸びる複数の切れ込み31…31にて、複数の構成片30…30に区画されたものである。押さえ部材4は、収縮径部3の外側に装着可能な環状体であり、収縮径部3の基端側へ摺動することにより、収縮径部3を押圧して、収縮径部3のねじ孔の径を収縮させるものである。収縮径部3の外側と押さえ部材4の内周面のうち、少なくとも何れか一方は、何れか他方と当接するテーパ面を備える。この実施の形態において、テーパ面は、収縮径部3の外側と押さえ部材4の内周面の双方に設けられている。脱落防止構造5は、押さえ部材4を、収縮径部3に対して、回動可能に且つ軸方向に沿って摺動可能に、係止すると共に、収縮径部3に設けられた係止部50と、押さえ部材4に設けられた被係止部51とを備え、係止部50が被係止部51と当接することにて、少なくとも収縮径部3の先端側から、押さえ部材4が脱落することを防止するものである。以下、各部の構成について順に説明する。」

ウ 「【0014】ナット本体1は、図4(A)へ示すように、その中央を上下に貫通する上記のねじ孔10が形成されている。ねじ孔10の内周面には、ボルト200(図1(B))の軸部と螺合する雌ねじが設けられている。ナット本体1の側面は、レンチなどの締付工具(図示せず。)と係合する係合部11を形成している。ナット本体1の下面12には、収縮径部3が設けられている。収縮径部3は、上記ねじ孔10を下面12よりも下方Sに延設するものである。
【0015】収縮径部3の少なくとも先端(下端)外周には、上記のテーパ面(第1テーパ面60)が設けられている。第1テーパ面60は、下方に向けて、収縮径部4の外径を漸次小さくする。即ち、第1テーパ面60の形成により、収縮径部4は、下方に向けて先細りとなっている。この実施の形態では、第1テーパ面60は、収縮径部3の外周面のほぼ全体に渡って形成されており、収縮径部4は、円柱台状を呈する。
【0016】収縮径部3を複数の構成片30…30に区画する、複数の切れ込み31(以下切欠部31)は、上下に伸びると共に、図2(B)へ示すように、ナット(のねじ孔10)の中心Xを中心として放射状に伸びている。このような切欠部3…3にて区画された構成片30…30は、外部から力が加わることにて、中心Xに向けて弾性変形することが可能である。上記の切欠部31…31は、収縮径部3に対して、等間隔に6箇所設けられ、収縮径部3を6つの構成片30…30に区画している。尚、切欠部31…317や構成片30…30について、このような個数に限定するものではなく、必要に応じて変更可能である。但しボルトに対する締め付けを偏りなく行うために、収縮径部3は、少なくとも3つ以上の構成片30にて構成されるのが好ましい。収縮径部3の下端は、図4(A)へ示すように、外側(中心Xと反対の方向)へ突出する鍔状部が形成されている。この鍔状部は、構成片30…30夫々の下端に形成された鉤部32にて構成され、当該鍔状部が上記の係止部50をなすものである。
【0017】この係止部50である鍔状部の形成は、焼き入れ前、図2(A)へ示すように、各構成片30…30の下部に、構成片30の他の部位よりも肉厚が小さな薄肉部32aを形成しておき、収縮径部3の(構成片30…30)の外側へ押さえ部材4を装着した後、下方から上方に向けてねじ孔10の内径よりも大きな径の球面を備えた押圧体(図示せず。)を収縮径部3の下端に押し付けて、薄肉部32aを外側(中心Xと反対の方向)へ押し広げることにて行うことができる。この後の焼き入れにて、構成片30…30に硬度と共に弾性が付与される。
【0018】収縮径部3に装着される、環状の押さえ部材4については、図3(A)へ示す通り、押さえ部材4の中央を上下に貫く中空部分40を備える。図3(A)中、41は押さえ部材4の上端における中空部分40の開口部(上端開口部)を示し、42は押さえ部材4の下端における中空部分40の開口部(下端開口部)を示している。
【0019】この中空部分40の内周面に上記の被係止部51が形成されている。中空部分40において、上端開口部41からこの被係止部51にかけて、前記テーパ面(第2テーパ面61が形成されている。この第2テーパ面61は、上方から下方に向けて、中空部分40の内径を漸次小さくする、すり鉢状の部分である。第2テーパ面61の最大径部(上端開口部41)の内径は、第1テーパ面60の最小径部の外径よりも大きい。第2テーパ面61の最小径部(最下部)の内径は、第1テーパ面60の最大径部(最上部)の外径よりも小さく、第1テーパ面60の最小径部の外径よりも大きい。更に、第2テーパ面61の最小径部(最下部)の内径は、上記の係止部50の外径よりも小さい。
【0020】中空部分40内において、被係止部51よりも下方には、非テーパ部43が形成されている。中空部部分40の内径について、非テーパ部43は、上記第2テーパ面61の最小内径部即ち第2テーパ面61の最下部よりも大きい。被係止部51は、このような第2テーパ面61の最下部と非テーパ部43との間の内径の違いによる、段差として形成されている(図3(A)(B))。非テーパ部43では、被係止部51から下端開口部42にかけてほぼその内径を一定としており、非テーパ部43の内径は、収縮径部3の係止部50の外径よりも大きい。
【0021】このように形成されることにより、収縮径部3に装着された押さえ部材4が、収縮径部3に対して下方に摺動しても、図1(A)に示すように、非テーパ部43内に収容された被係止部51が、上記の係止部50に引っ掛かり、押さえ部材41は、それ以上下方に移動することができず、収縮径部3から脱落不能となっている。
【0022】上記の脱落防構造5は、第1テーパ面60と、係止部50と、第2テーパ面61と、被係止部51とにて構成されている。上記の第1テーパ面60と第2テーパ面61との傾斜は、同じであっても、第1テーパ面60の方が第2テーパ面61よりも急であっても緩やかであってもよい。但し、収縮径部3に対して押さえ部材4が、(周方向Rについて)回動可能であり且つ(上下方向U,Sについて)摺動可能なものとする。また、脱落防止構造5において、収縮径部3からの押さえ部材4の下方への脱落防止は、上記の通り、係止部50が被係止部51の当たりとなることにて行われ、また、収縮径部3からの押さえ部材4の上方への脱落防止は、第1テーパ面60と第2テーパ面61との当接にて行われる。
【0023】ナット100の使用状態について、説明すると、図1(B)へ示すように、被固定部材300,300を固定するに際して、被固定部材300,300へ通されたボルト200の軸部201に、ナット100が装着される。このとき、収縮径部3が、ボルト200の座面202と対向するように、ナット100がボルト200へ装着される。ボルト200に対してナット100を締め付けることによって、ナット100は下方Uに向けて移動する。収縮径部3に装着されている押さえ部材4は、この締め付けによって、被固定部材300と当接し、収縮径部3の下方への移動に伴って、収縮径部3に対して上方に摺動することとなる。脱落防止構造5の前述の機能によって、この摺動中、収縮径部3は押さえ部材4に対して回動することができ、円滑なナット100の締め付けが行える。そして、第1テーパ面60を第2テーパ面61が押圧し、この押圧にて、収縮径部3の各構成片30…30が、中心X側へ変形して、ボルト200の軸部201を押圧する。これにて、ナット100は、ボルト200に対して確実に固定され、緩みを生じない。
【0024】上記の実施の形態において、係止部50を構成する鉤部32は、全ての構成片30…30に設けられるものとしたが、一部の構成片30…30のみに設けるものとしても実施可能である(図示しない)。但し、押さえ部材4の安定性の面で、収縮径部3は、2つ以上の鉤部32を備えるのが好ましい。また、前記において、構成片30の先端全体を外側に曲げて、鉤部32を形成するものとしたが、鉤部32は、構成片32の先端から外側に突出する突起として、構成片30先端の一部のみを外側に突出させて形成しても実施可能である。また、上記の実施の形態において、収縮径部3と押さえ部4の双方がテーパ面を備えるものとしたが、収縮径部3のみにテーパ面を形成するものとしても実施可能であり、押さえ部材4のみにテーパ面を形成するものとしても実施可能である。更に、他の回り止めの機構を併用することが可能であり、更に、別途の回り止めの機構に限らず、化粧ナットや防錆加工ための被覆部などを備えるものとしても実施可能である。」

(2)引用発明
上記(1)の記載及び図面の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

〔引用発明1〕
「ねじ孔10を有するナット本体1と、
前記ナット本体1から延び、かつ、ボルト200を受容するように構成された収縮径部3であって、弾性変形のために前記ボルト200の周りで前記収縮径部3の変形部を提供するように前記収縮径部3の長さに沿った切欠部31を画定する収縮径部3と、
前記ナット本体1を作用面の周りで締め付けたときに、前記収縮径部3を変形させて前記ボルト200に押圧させるように構成された第2テーパ面61を画定する押さえ部材4と、
を備えたナット100。」

2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献2(特開平1-150011号公報)には、図面(特に図1を参照)とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。

ア 「〔産業上の利用分野〕
本発明はナットと座金から構成され、ボルトを固定するための締付具に関し、更に詳しくは、弾性変形が自在な締付片を設けたナットと、テーパ内周面を形成した座金とから構成された、ゆるみ防止効果に優れたボルト用締付具に関する。
〔従来技術〕
モータや発電機等の回転機器のベース据付部、または種々の部材の取付部や固定部は、ボルトとナットにより基板や他の部材に固定されることが多い。
このボルトとナットのネジ結合部は、スパナやトルクレンチ等により、ゆるまないように締付けられるが、長期間の使用中に振動等によるゆるみの生ずることは避けられない。従来、このゆるみ防止のためダブルナットまたはナットとスプリング座金の組合せによる締付方法が採用されていた。
〔発明が解決しようとする問題点〕
しかしながら、ダブルナットやナットとスプリング座金の組合せのような締付具は、ゆるみ防止効果に限界があり、振動が激しい場合には定期的に増締めする必要があった。また、ゆるみ防止効果を増すために過度の締付を行って、ボルトやナットを損傷したり、ナットの脱着を困難にしてしまうこともしばしば生じ、問題となっていた。
特に大型の回転機器等をボルトにより基板に据付ける場合のように、大口径のボルト・ナットを使用するときには、このゆるみ防止対策は非常に重要な問題であった。即ち、常に振動が発生しているのでゆるみを生じやすく、その上寸法の大きなナットをダブルナットとして使用すると、スペースが大きくなると共に、外観上も好ましくない。更に寸法の大きなスプリング座金は製造しにくく、且つナットへの偏心作用も無視できなくなってくる。また定期的に増締めするための労力も大きく保守上の問題もあった。
本発明はこのような従来のボルト用締付具の問題点を解決し、簡単な構造でゆるみ防止効果の優れた締付具を提供することを目的とするものである。」(第1ページ左下欄第12行ないし第2ページ左上欄第15行)

イ 「〔問題点を解決するための手段〕
本発明のボルト用締付具は、半径方向に弾性変形自在な締付片を一方の端部から軸方向に延長して設けたナットと、前記ナットを同軸的に配置して前記締付片を挿入したとき、前記締付片を軸心方向に変形させるように、案内するテーパ内周面が形成された座金とから構成されることを特徴とする。
このような構成からなるボルト用締付具は、ボルトに対するゆるみ防止効果が高く、特に大口径ボルト用として好適である。
〔実施例及び作用〕
次に、図面に基づいて本発明の実施例を説明する。
第2図は本発明のボルト用締付具を構成するナットの一例の正面部分断面図で、第3図はその底面図である。ナット1はその一方の端部2より軸方向に延長して設けられた締付片3を有している。締付片3は第2図に示すように、適宜の間隔で設けられた軸方向のスリット4を有し、且つ外径が先端に向かって小とされたテーパの筒体5によって構成されている。筒体5の中空部は挿通すべきボルトの外径と等しいかそれよりわずかに大きな内径の軸方向に平行する貫通孔を形成し、筒体の周壁の厚さは先端部になる程薄くなっている。
ナット1の本体は鋼やステンレスなどの金属材料から作られることが多いが、目的によってはポリ塩化ビニルなどのような硬質プラスチック材から作ることもできる。これらの材料は鋳造、切削加工や射出成形などの通常の方法によってナットに加工することができる。
締付片3はナット1の本体と同一の材料で一体的に作るのが好ましいが、異種の材料を用いて溶接等によりナット本体に取付けることもできる。締付片3は半径方向に力を加えられたとき、半径方向に弾性変形ができるような厚さにする。この厚さは材料の種類や形状によって変化するが、概略の厚さは実験もしくは計算により容易に求めることができる。
第4図は本発明のボルト用締付具を構成するもう一方の部品である座金の一例であり、その正面部分断面図で、第5図はその平面図である。
座金6はリング状をなしており、ボルトを挿通するための挿通孔7の内周面の全てもしくは一部に拡大するテーパ内周面8が形成されている。座金6の外周面は円形に限らず、六角形などの多角形状とすることもできる。その材料及び加工法は、前述したナットの場合と同様に考えてよい。
第2図ないし第5図に示したナット及び座金から構成される締付具を用いて、第1図の如くボルトを締付けることができる。同図はその状態の正面部分断面図である。即ち、基体9に挿通されたボルト10の上部に本締付具が取付けられている。
第1図のようにボルトを締付具によって締付けるには、先ず座金6をボルト10に挿通し、次いでナット1をネジ込んで、その端部2に設けられた締付片3を座金6のテーパ内周面8に当接させる。この状態から更にナット1をネジ込むと、締付片3はテーパ内周面8によって案内され軸心方向に弾性変形される。第2図に示したように、締付片3を構成する筒体5の外周部をテーパ状とし、その周壁の厚さが、先端部になる程薄くなるようにした場合は、先端部の変形がより容易になされる。
締付片3が軸心方向へ変形すると、その反力によりナットに軸方向の力が加わり、ナットとボルトとの軸方向押圧力が増加する。そして、ナット1をボルト10に一旦強固に締付けた後は、その締付力に加えて締付片の押圧力が加わるので、ナット1のゆるみを極めて有効に防止することができる。
なお、締付片3は第2図に示したようなスリットを有する筒体に限らず、1個もしくはそれ以上の複数の弾性変形自在な舌片のような形状、その他任意の形状とすることができる。
〔発明の効果〕
本発明のボルト用締付具は以上のような構成としたので、ボルトに対するゆるみ防止効果が極めて高い。特に大型の回転機等の据付用ボルトのように、大口径のボルトに適用した場合その効果が大きい。」(第2ページ左上欄第16行ないし第3ページ左上欄第19行)

(2)引用発明2
上記(1)の記載及び図面の記載を総合すると、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

〔引用発明2〕
「雌ねじ部を有するナット1と、
前記ナット1から延び、かつ、ボルト10を受容するように構成された筒体5であって、弾性変形のために前記ボルト10の周りで前記筒体5の変形部を提供するように前記筒体5の長さに沿ったスリット4を画定する筒体5と、
前記ナット1を作用面の周りで締め付けたときに、前記筒体5を変形させて前記ボルト10に締付させるように構成されたテーパ内周面8を画定する座金6と、
を備えたボルト用締付具。」

3 引用文献3
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献3(特開2012-17814号公報)には、図面(特に図4を参照)とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。

ア 「【0001】
本発明は、ボルト、ナット構造とワッシャとを使用して螺合締結するための螺合構造であって、緩み止め機能を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の緩み止め構造として、ナットの内螺子内にボルトに歯合する歯合爪付きのボルトが開示される。
【0003】
このような緩み止め機能(逆回転防止機能)を有するボルト及びナット構造として、例えばねじ山4を横切って軸方向に延びる係合溝6が形成されているボルト1と、このボルトに螺合するナット2とにより構成されるものが開示される(特許文献1参照)。個のボルト及びナット構造においては、ナットの頂面部に、係合溝に係合してナットの緩み方向Lへの回転を阻止する弾性金属板製の係合爪が、ボルトとの螺合前においては半径内向きに突出するように取付けられている。そしてナットとボルトとが螺合すると、係合爪はボルトの外周面に重なるように押し曲げられて係合溝に係合する、とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-211753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来のナット構造では、ナット内に取り付けた弾性金属板製の係合爪がボルトのネジ山側に突出しておさえることで緩み止め効果を出すものであるため、確実に所定以上の緩み止めの機能を果たすものとはいえなかった。
【0006】
特に、上記従来の緩み止めナットを含め、ボルト、ナットによる締結体において、ボルトやナットの強度や材質が考慮されるものの、座金を含めた螺合構造全体での締め付け保持力が考慮されることは少なかった。また、この種の締め付けによる螺合構造において、締めつけ時の締め付けトルクは重要視されるものの、締めつけ後の締結軸力は不明であった。
【0007】
そこで本発明は、確実に所定以上の緩み止めの機能を果たすことができ、さらに、螺合構造全体での締め付け軸力の保持性を確保することのできる緩み止め螺合構造を提供することを課題とする。」

イ 「【0008】
上記課題を解決すべく本発明では下記(1)?(4)の手段を講じている。
【0009】
(1)本発明の緩み止め螺合構造は、ナット部11の一端から延設され、ナット部11の内螺子から連設する内螺子延長部を有した締めつけ部12を具備するナット構造1と、
前記締め付け部12を挿通可能なワッシャ孔21を有した板状のワッシャ構造2とを具備してなり、
前記ワッシャ孔21は、ワッシャ板の一面側に形成された、締めつけ部12の解放時の外形よりも大きい孔形状からなる大径部から、板厚さ方向へ縮径して前記外形の最小部よりも小さい孔形状の小さい最小径部に至る縮径構造を、それぞれワッシャ板の一面側から他面寄りの位置にかけて有し、
ナット構造の締結によってワッシャ構造2とナット構造1とが近接することで、ワッシャ孔21内での締め付け部12の収容位置がずれて、最小径部が締めつけ部12を周着して締めつけることで、内螺子延長部がボルトの外螺子を圧着締結することを特徴とする。
【0010】
(2)前記締め付け部12は、軸方向の延長先端に向かって外形が縮径してなる先端縮径部120を有し、前記ワッシャ孔21は、前記先端縮径部120の長さ方向の縮径率よりも大きな縮径率で縮径した最縮径部分に前記最小径部22を有することが好ましい。
【0011】
(3)前記最小径部22はワッシャの他面よりもワッシャ孔21内へずれた位置に形成されることが好ましい。
【0012】
(4)締めつけ部12は、ナット部11寄りの軸位置に、ナット部11から同径のまま延長するか或いは内径側へ窪んで延長する基端延長部121を有し、
ワッシャ構造2はワッシャ孔21内の一面寄りの位置に、締めつけ部12の基端部の解放時の外形よりも小さい孔形状として内方突出した第二縮径部23を有してなり、前記最小径部22が締めつけ部12を締めつける状態の位置関係において、第二縮径部23が基端延長部121の外周に位置することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上記手段を講じることで、ナットの内螺子を延長させた部分がワッシャ孔への挿通によって締めつけられ、ボルトのネジ山を螺合接触したまま押さえ込むという構造となっている。このため、要求される性能に応じたワッシャ孔形状等のワッシャ構造を使用することで、確実に所定以上の緩み止めの機能を果たすことができ、さらに、螺合構造全体での締め付け軸力の保持性を確保することのできる緩み止め螺合構造を提供することができる。」

ウ 「【0015】
以下、本発明の実施形態につき各図と共に説明する。本発明の緩み止め螺合構造は基本的に、
・ナット部11の一端から延設され、ナット部11の内螺子から連設する内螺子延長部を有した締めつけ部12を具備するナット構造1と、
・前記締め付け部12を挿通可能なワッシャ孔21を有した板状のワッシャ構造2とを具備する。
【0016】
いずれの実施例においてもナット構造1は、内螺子延長部を内孔形成して同軸状に延設され、外周からの締結によって縮径可能な締めつけ部12を有する。
【0017】
またいずれの実施例においてもワッシャ孔21は、ワッシャ板の一面側に形成された、締めつけ部12の解放時の外形よりも大きい孔形状からなる大径部から、板厚さ方向へ縮径して前記外形の最小部よりも小さい孔形状の小さい最小径部に至る縮径構造を、それぞれワッシャ板の一面(ワッシャ上面2A)側から他面(ワッシャ下面2B)寄りの位置にかけて有する。
【0018】
そしていずれの実施例においても、締め付け前の状態から締め付け状態となるとき、ナット構造の締結によってワッシャ構造2とナット構造1とが近接することで、ワッシャ孔21内での締め付け部12の収容位置がずれて、最小径部が締めつけ部12を周着して締めつけることで、内螺子延長部がボルトの外螺子を圧着締結する。内螺子の延長部の螺合構造を利用した、面接触による圧着締結であり、かつワッシャの挿通に伴うワッシャ孔による締めつけ部12の周着構造であるから、複数種類の形状のワッシャ孔やワッシャ厚さのワッシャ構造を用意することで、周着力を調節することも可能である。
【0019】
締め付け部12は、軸方向の延長先端に向かって外形が縮径してなる先端縮径部120を有する。このうち実施例1,3,5,6においては、前記ワッシャ孔の孔面は凹面状に湾曲形成されており、前記先端縮径部120の長さ方向の縮径率よりも大きな縮径率で縮径した最縮径部分に前記最小径部22を有することで、最小径部22による締め付け部への締め付け力を締めつけ後も確実に確保するものとしている。
【0020】
実施例2を除く実施例1、3乃至6の最小径部22はワッシャの他面よりもワッシャ孔21内へずれた位置に形成される。
【0021】
実施例1を除く実施例2?6の締めつけ部12は、ナット部11寄りの軸位置に、ナット部11から同径のまま延長するか或いは内径側へ窪んで延長する基端延長部121を有する。
【0022】
実施例1,2,6を除く実施例3,4、5のワッシャ構造2はワッシャ孔21内の一面寄りの位置に、締めつけ部12の基端部の解放時の外形よりも小さい孔形状として内方突出した第二縮径部23を有してなり、前記最小径部22が締めつけ部12を締めつける状態の位置関係において、第二縮径部23が基端延長部121の外周に位置する。
【0023】
実施例6はワッシャ構造に外ネジ部が設けられると共に、これに螺合してナット構造の鍔部13を覆う円形断面のカバー構造3を具備する。カバー構造3はナット部11のナット面に張り出してバネ固定する固定板33を有しており、ナット構造とワッシャ構造との締めつけ後の固定状態を長期間確保するものとしている。
【0024】
図1?3に示す実施例1の緩み止め螺合構造において、ナット構造は六角柱状のナット部11の下端に扁平部分円錐状の鍔部13が下方へ拡径して張り出してなり、さらにその下方へ向かって一定の割合で縮径する外形部分円錐面状の締めつけ部12が延設される。図1a、図2aに示す締めつけ前の解放状態において、ナット部11の上端から締めつけ部の下端に亘って等径に内螺子が形成される。締め付け部12は軸断面視傾斜直線状の外縁と、軸と直交する円弧状の底面と、軸と並行な円環状の内螺子延長部を有した部分円錐環体において、その全高さに沿って、複数カ所を位相方向へ等間隔毎に切り欠いた離間部Dが形成されてなる。この離間部Dは解放状態では平行な離間幅であるが、締め付け状態ではワッシャ構造の最小径部22によって下端側が小幅となって、離間した締めつけ部12の各片同士が近接する。
【0025】
実施例1のワッシャ構造は断面弧状の凹曲面で形成されるワッシャ孔を有する。実施例の最大径部22はワッシャ下面2Bよりわずかにワッシャ孔側へずれた位置に形成され、最小径部20はワッシャ上面に形成される。
【0026】
図4に示す実施例2のワッシャ構造は部分円錐状の断面傾斜直線縁で形成されるワッシャ孔を有し、最大径部22はワッシャ下面2B上の位置に形成され、最小径部20はワッシャ上面2A上の位置に形成される。実施例2の締め付け部12として、長さ方向に等しい径の円環状の基端延長部121が設けられる。
【0027】
図5に示す実施例3の締め付け部12として、中心側にくぼんだ断面半円弧状の窪みを外形に有する基端延長部121が設けられる。
【0028】
図6?9に示す実施例4のワッシャ構造は断つきのワッシャ孔内に2枚の環状板22,23が埋設される。」

(2)引用発明3
上記(1)の記載及び図面の記載を総合すると、引用文献3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認める。

〔引用発明3〕
「内螺子を有するナット部11と、
前記ナット部11から延び、かつ、ボルトを受容するように構成された締めつけ部12であって、縮径可能のために前記ボルトの周りで前記締めつけ部12の変形部を提供するように前記締めつけ部12の長さに沿った離間部Dを画定する締めつけ部12と、
前記ナット部11を作用面の周りで締め付けたときに、前記締めつけ部12を変形させて前記ボルトと圧着締結させるように構成された縮径構造を画定するワッシャ構造2と、
を備えた緩み止め螺合構造。」

第5 対比・判断
1 引用発明1との対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「ねじ孔」は、本願発明における「雌ねじ部」に相当し、以下同様に、「ナット部本体1」は「ナット」に、「ボルト200」は「細長い締結具のシャンク」及び「シャンク」に、「収縮径部3」は「環体」に、「弾性変形」は「撓み」に、「変形部」は「屈曲点」に、「収縮径部3の変形部を提供する」は「環体の屈曲点を提供する」に、「作用面」は「作用面」に、「押さえ部材4」は「圧縮カラー」に、「第2テーパ面61」は「テーパ」に、「ナット100」は「締結具組立体」に、「収縮径部3を変形させて前記ボルト200に押圧させる」は「環体を漸次撓ませて前記シャンクと固定係合させる」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1における「切欠部31」は、本願発明における「アール状の切欠き部」と、「切欠き部」という限りにおいて一致する。

以上のことから、本願発明と引用発明1とは、
「雌ねじ部を有するナットと、
前記ナットから延び、かつ、細長い締結具のシャンクを受容するように構成された環体であって、撓みのために前記シャンクの周りで前記環体の屈曲点を提供するように前記環体の長さに沿った切欠き部を画定する環体と、
前記ナットを作用面の周りで締め付けたときに、前記環体を漸次撓ませて前記シャンクと固定係合させるように構成されたテーパを画定する圧縮カラーと、
を備えた締結具組立体。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

〔相違点1〕
本願発明の環体は「アール状の切欠き部」を画定するのに対し、引用発明1の収縮径部3は「切欠部31」を備えるものの、「アール状」かどうか明らかでない点。

上記相違点1について判断する。
本願発明における「アール状の切欠き部」については、発明の詳細な説明中に記載がなく、どのようなものか明確に定義されていないが、平成29年6月9日付け意見書において、「新請求項1の「撓みのために前記シャンクの周りで前記環体の屈曲点を提供するように前記環体の長さに沿ったアール状の切欠き部を画定する環体」との補正は、出願時請求項3に基づきます。なお、「アール状の切欠き部」との補正は、図3、4、6、8、9A、9B、10A、11A、13A、13B、14A、14B、15Aおよび15Bに、「切欠き部34、134、234、334、534、634、734」がアール状(曲面状)に形成されているのが明確に示されていることを根拠としています。」と記載されていることから、「アール状の切欠き部」とは、図3、4、6、8、9A、9B、10A、11A、13A、13B、14A、14B、15Aおよび15Bに記載された切欠き部、すなわち「少なくとも一部がアール状(曲面状)である切欠き部」であると解釈する。
なお、図3、4、6、8、9A、9B、10A、11A、13A、13B、14A、14Bには、「アール状(曲面状)の部分と、平面状の部分を有する切欠き部」が記載されており、図15Aおよび15Bには、「アール状(曲面状)の部分を有し、平面状の部分を有さない切欠き部」が記載されている。
締結具の技術分野において、切欠き部をアール状とすることは、従来周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開平11-22715号公報(特に、図3ないし図7を参照。)、特開昭50-61564号公報(特に、第1図及び第2図を参照)、実願平2-95670号(実開平4-52609号)のマイクロフィルム(特に、第1図及び第3図を参照。)、実願昭57-64937号(実開昭58-165311号)のマイクロフィルム(特に、第4図を参照。)、特開2002-39142号公報(特に特許請求の範囲の請求項5、段落【0024】及び図1(a)(b)を参照。)、実公昭35-15813号公報(特に、第1図及び第2図を参照。)、実願昭56-13202号(実開昭57-126612号)のマイクロフィルム(特に、第1図を参照。)等の記載を参照。)である。
また、切欠き部をアール状にすることにより、応力の集中が減少することは、技術常識(例えば、特開2002-39143号公報の段落【0015】の「尚、スリット部の底部をアール状に形成してもよい。これにより、ナット本体をナット本体の軸心方向に撓ませた際に、スリット部の底部に集中応力がかかり底部側が座屈するのを防止できる。」という記載、登録実用新案第3039649号公報の段落【0008】の「本実施例における切欠(4)の形状は頂部(4a)にアールがつけられた三角状としている。頂部(4a)を角状とせずにアールをつけたのは、後述するようにナット(1)の締め付けにより肉薄部(5)が左右に延びて行く際に、頂部(4a)に応力が集中して裂けてしまうのを防止するためである。」等の記載を参照。)である。
してみれば、引用発明1において、応力集中の緩和のために周知技術を適用することにより、本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、請求人は、審判請求書において、「本願の図3、4、6、8、9A、9B、10A、11A、13A、13B、14A、14B、15Aおよび15Bに示されているような切欠き部のアール形状は、引用文献1に開示されている、圧縮時にシャンクの周りで単につぶれるだけの矩形状の切欠き部よりも大きな弾性(バネ性)をもたらします。さらに、アール形状によって、垂直応力点を有する矩形状の切欠き部よりも、環体内の応力をより均等に分散することができます。そのため、破損の可能性や他の物理的な脆弱性を低減することができます。切欠き部のアール形状およびその結果として生じるバネ付勢は振動時にダンパとしてシャンクに作用します。」と主張する。
請求人が主張する効果は本願の明細書に記載されていないが、切欠き部をアール状とすることは、上記のように周知技術であり、切欠き部をアール形状にすることによって応力が分散することは、上記のように、技術常識である。
また、本願発明は、「従来のナットおよびボルトは、振動荷重やその他の荷重を受けると緩みやすい。」(本願明細書の段落【0004】)ということを課題としているが、振動による緩みを防止するという効果は、締結部材に切欠きを入れることにより得られるものである(例えば、特開2008-38947号公報の段落【0001】、【0050】及び【0051】を参照。)から、引用発明1においても振動による緩みを防止するという効果が得られるものである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明1及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

2 引用発明2との対比・判断
本願発明と引用発明2とを対比すると、引用発明2における「ナット1」は、本願発明における「ナット」に相当し、以下同様に、「ボルト10」は「細長い締結具のシャンク」及び「シャンク」に、「弾性変形」は「撓み」に、「筒体5」は「環体」に、「変形部」は「屈曲点」に、「筒体5の変形部を提供する」は「環体の屈曲点を提供する」に、「変形させて」は「漸次撓ませて」に、「前記ボルト10に締付させる」ことは「前記シャンクと固定係合させる」ことに、「座金6」は、「圧縮カラー」に、「ボルト用締結具」は「締結具組立体」に、それぞれ相当する。
また、引用発明2における「スリット4」は、本願発明における「アール状の切欠き部」と、「切欠き部」という限りにおいて一致する。

以上のことから、本願発明と引用発明2とは、
「雌ねじ部を有するナットと、
前記ナットから延び、かつ、細長い締結具のシャンクを受容するように構成された環体であって、撓みのために前記シャンクの周りで前記環体の屈曲点を提供するように前記環体の長さに沿った切欠き部を画定する環体と、
前記ナットを作用面の周りで締め付けたときに、前記環体を漸次撓ませて前記シャンクと固定係合させるように構成されたテーパを画定する圧縮カラーと、
を備えた締結具組立体。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

〔相違点2〕
本願発明の環体は「アール状の切欠き部」を画定するのに対し、引用発明2の筒体5は「スリット4」を備えるものの、「アール状」かどうか明らかでない点。

上記相違点について判断する。
本願発明における「アール状の切欠き部」については、発明の詳細な説明中に記載がなく、どのようなものか明確に定義されていないが、上記のように、「アール状の切欠き部」とは、「少なくとも一部がアール状(曲面状)である切欠き部」であると解釈する。
締結具の技術分野において、切欠き部をアール状とすることは、上記のとおり、周知技術である。
また、切欠き部をアール状にすることにより、応力の集中が減少することは、技術常識である。
してみれば、引用発明2において、応力集中の緩和のために周知技術を適用することにより、本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明2及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

3 引用発明3との対比・判断
本願発明と引用発明3とを対比すると、引用発明3における「内螺子」は、本願発明における「雌ねじ部」に相当し、以下同様に、「ナット部11」は「ナット」に、「ボルト」は「細長い締結具のシャンク」及び「シャンク」に、「締めつけ部12」は「環体」に、「縮径可能」は「撓み」に、「変形部」は「屈曲点」に、「締めつけ部12の変形部を提供する」は「環体の屈曲点を提供する」に、「変形させて」は「漸次撓ませて」に、「圧着締結させる」ことは「固定係合させる」ことに、「縮径構造」は「テーパ」に、「ワッシャ構造2」は「圧縮カラー」に、「緩み止め螺合構造」は「締結具組立体」に、それぞれ相当する。
また、引用発明3における「離間部D」は、本願発明における「アール状の切欠き部」と、「切欠き部」という限りにおいて一致する。

以上のことから、本願発明と引用発明3とは、
「雌ねじ部を有するナットと、
前記ナットから延び、かつ、細長い締結具のシャンクを受容するように構成された環体であって、撓みのために前記シャンクの周りで前記環体の屈曲点を提供するように前記環体の長さに沿った切欠き部を画定する環体と、
前記ナットを作用面の周りで締め付けたときに、前記環体を漸次撓ませて前記シャンクと固定係合させるように構成されたテーパを画定する圧縮カラーと、
を備えた締結具組立体。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

〔相違点3〕
本願発明の環体は「アール状の切欠き部」を画定するのに対し、引用発明3の締めつけ部12は「離間部D」を備えるものの、「アール状」かどうか明らかでない点。

上記相違点3について判断する。
本願発明における「アール状の切欠き部」については、発明の詳細な説明中に記載がなく、どのようなものか明確に定義されていないが、上記のように、「アール状の切欠き部」とは、「少なくとも一部がアール状(曲面状)である切欠き部」であると解釈する。
締結具の技術分野において、切欠き部をアール状とすることは、上記のとおり、周知技術である。
また、切欠き部をアール状にすることにより、応力の集中が減少することは、技術常識である。
してみれば、引用発明3において、応力集中の緩和のために周知技術を適用することにより、本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明3及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、引用発明3及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
 
別掲
 
審理終結日 2019-03-12 
結審通知日 2019-03-26 
審決日 2019-04-08 
出願番号 特願2015-500580(P2015-500580)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 熊谷 健治  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 粟倉 裕二
金澤 俊郎
発明の名称 改善された振動および締結特性を有する締結具および締結具組立体  
代理人 特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所  

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