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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1354806 |
審判番号 | 不服2018-6534 |
総通号数 | 238 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-10-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-05-11 |
確定日 | 2019-08-29 |
事件の表示 | 特願2014- 58980「紫外線発光ダイオードユニット、紫外線発光ダイオードユニットのセット、インクジェット装置および三次元造形物製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月17日出願公開、特開2015-165546〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年3月20日(優先権主張 平成26年2月7日)にした出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。 平成29年10月26日付け:拒絶理由通知書(同年11月7日発送) 平成29年12月28日 :意見書・手続補正書 平成30年 2月 7日付け:拒絶査定(同年2月13日送達) 平成30年 5月11日 :審判請求書・手続補正書 平成30年12月12日付け:拒絶理由通知書(同年12月18日発送) 平成31年 2月18日 :意見書・手続補正書 平成31年 3月29日付け:拒絶理由通知書(同年4月2日発送) 令和 元年 5月31日 :意見書・手続補正書 第2 当審がした拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由通知書」という。)における拒絶の理由の概要 平成30年12月12日付け当審拒絶理由通知書及び平成31年3月29日付け当審拒絶理由通知書における拒絶の理由は、概要、次のものを含む。 [平成30年12月12日付けのもの] 本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2012-96377号公報 2.特開2002-43630号公報 [平成31年3月29日付けのもの] 平成31年2月18日に提出した手続補正書による補正は、請求項1に「上記第一方向に沿って等間隔に並設されている複数の上記紫外線発光ダイオード」という事項を追加する補正を含むものであるところ、この補正は本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、上記手続補正書による補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 第3 当審の判断 当審は、本願が、平成30年12月12日付け当審拒絶理由通知書における拒絶の理由に基づいて、拒絶されるべきであると判断する。その理由は、次のとおりである。 1 本願発明の認定 本願の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明は、令和元年5月31日に提出した手続補正書により補正された請求項1?3に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1は次のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。 「紫外線発光ダイオードと、 該紫外線発光ダイオードの光軸を含むように配置された単一の透明部材と、を備え、 該光軸を含む、該光軸に直交する第一方向に垂直な断面である上記透明部材の第一断面において、該光軸を含む中央部分における光軸方向の幅の方が、該中央部分よりも該光軸から遠い周辺部分における該光軸方向の幅よりも長い紫外線発光ダイオードユニットを有し、 上記紫外線発光ダイオードユニットは、上記紫外線発光ダイオードによって硬化する紫外線硬化性インクを吐出するインクジェットヘッドが走査方向前方および後方の少なくとも一方に隣接して配置され、 上記透明部材は、上記第一断面が上記第一方向に沿って同一の形状で延設されることによって、上記紫外線発光ダイオードが照射する紫外線に対する第一方向における指向性よりも、上記第一方向と上記光軸方向との両方に直交する第二方向における指向性の方が高くなっており、 上記透明部材は、上記第一断面において上記紫外線発光ダイオードからの光線の出射方向全体を包囲するように備えられており、 上記紫外線発光ダイオードユニットにおいて、上記単一の透明部材内に複数の上記紫外線発光ダイオードが配置されていることを特徴とするインクジェット装置。」 2 引用文献1に記載された事項の認定 (1)平成30年12月12日付け当審拒絶理由通知書における拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2012-96377号公報)には、次の記載がある(下線は、当審が付した。)。 ア 「【特許請求の範囲】」、 「紫外線の照射により硬化する紫外線硬化型のインクをヘッドから吐出して被記録媒体に印刷を行う印刷装置において、 前記紫外線を照射するUV-LEDと、該UV-LEDから照射した紫外線を集光させる集光手段とを有し、 前記集光手段は、当該集光手段を用いずに前記UV-LEDから紫外線を照射した場合と比較して、 前記紫外線の照射光の光強度を大きくして前記インクの硬化に必要なエネルギーを低下させる ことにより、当該低下させた前記インクの硬化に必要なエネルギー値の範囲に、前記紫外線の照射に使用する総エネルギー量を設定した ことを特徴とする印刷装置。」(【請求項1】)、 「前記集光手段は、シリンドリカルレンズであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の印刷装置。」(【請求項4】) イ 「【発明を実施するための形態】」、 「以下、本発明に係る実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るプリンタ(印刷装置)10の構成の一例を示す平面図である。プリンタ10は、紫外線の照射により硬化する紫外線硬化型のインクを用いて印刷を行うインクジェットプリンタである。また、プリンタ10は、メディア50を搬送しつつ印刷を行ういわゆる縦型のインクジェットプリンタであり、インクジェットヘッド12aとその両脇に備えられたUV-LEDユニット20とからなるヘッドユニット12を備えている。 UV-LEDユニット20は、インクジェットヘッド12aとは別に制御基板、LED用電源と接続されている。また、ヘッドユニット12はガイドレール15に沿ってY方向に走行する構成となっている。」(【0016】)、 「インクジェットヘッド12aは、メディア50に対してインクを吐出する印刷ヘッドである。本例において、インクジェットヘッド12aは、ヘッドユニット12と共にガイドレール15に沿って主走査方向(Y方向)へ移動しつつ、メディア50に対してインクを吐出する。」(【0017】)、 「尚、インクジェットヘッド12aは、主走査方向と直交する方向(X方向)に複数のノズルが並ぶノズル列を有しており、ノズル列の各ノズルから、インクを吐出する。本例において、インクジェットヘッド12aは、例えば、Y方向に並ぶ複数のノズル列を有する。また、プリンタ10がカラープリントを行う印刷装置である場合、プリンタ10は、必要に応じて、複数のインクジェットヘッド12aを備える。プリンタ10は、例えば4色?8色、あるいはそれ以上の色数に対応するインクジェットヘッド12aを備えてもよい。」(【0018】)、 「ガイドレール15は、主走査方向(Y方向)へのヘッドユニット12の移動をガイドするレールである。その他、図示していないが、インクが吐出されるメディア50を支持するプラテンや、メディア50を搬送する送りローラ等も備えられている。送りローラはX方向へメディア50を搬送することにより、ヘッドユニット12を上述のX方向へ、メディア50に対して相対的に移動させる。また、プリンタ10は、送りローラとの間にメディア50を挟む押さえローラ等を更に備える構成であっても良い。」(【0019】)、 「次に、図2を用いてプリンタ10の紫外線の照射に係るUV-LEDユニット20につき説明をする。 図2(a)は、図1のヘッドユニット12に備えられたUV-LEDユニット20を、メディア50側から見た図である。また、図2(b)は図1のUV-LEDユニット20の、UV-LED素子20aを含む、例えば図2(a)のA-A線に沿った位置における断面図を概略的に示す図である。ここでは、UV-LED素子20aにシリンドリカルレンズ30の平面が対向するように配置している。シリンドリカルレンズ30の形状の例については図3を用いて後述する。」(【0020】)、 「図2において、紫外線を発生する光源である複数のUV-LED素子20aがメディア50の搬送方向(X方向)に設けられている。そして、インクが吐出されたメディア50に紫外線を照射することにより、インクを硬化させている。本例によれば、主走査方向へインクジェットヘッド12aを往復させつつ印刷を行う場合に、往路及び復路のそれぞれにおいて、適切に紫外線を照射することができる。また、これにより、紫外線硬化型のインクを用いた印刷動作を適切に行うことができる。」(【0021】)、 「また、30はこのUV-LED素子20aからの照射光を集光するシリンドリカルレンズ(集光手段)である。ここで、シリンドリカルレンズ30は、例えば図3に示すように全体としての概形は蒲鉾状であり、断面の一方向に曲率を有するレンズである。このような形状のレンズは周囲から入射したUV-LEDからの照射光を屈折させ、レンズから出射した光を線状に集光させることができる。指向性が強いUV-LEDは、集光しやすく光強度を高めやすいため、このような集光手段を用いて紫外線を集光させるのに適しているといえる。」(【0022】)、 「尚、UV-LEDユニット20を設ける位置は、例えば上記と異なる位置であってもよい。例えば、UV-LEDユニット20は、メディア50の搬送方向においてインクジェットヘッド12aよりも下流側に設けられてもよい。この場合、UV-LEDユニット20は、例えば、ガイドレール15と平行に設けられたUV-LEDユニット20用のガイドレールに沿って、インクジェットヘッド12aとは独立に、主走査方向へ移動する。このように構成した場合も、メディア50に吐出されたインクに適切に紫外線を照射することができる。また、これにより、紫外線硬化型のインクを用いた印刷動作を適切に行うことができる。」(【0023】)、 「以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施の形態に記載の範囲には限定されない。 例えば、プリンタは、例えばフラットヘッド型のインクジェットプリンタであってもよい。この場合のプリンタは、縦型のインクジェットプリンタ特有の構成に代えて、フラットヘッド型のインクジェットプリンタに必要な構成を適宜備えるものとする。 また、集光手段として、例えばシリンドリカルレンズではなく、他の光学系のレンズ等を用いた適切な集光手段を用いても良い。例えば、この集光手段として、複数のUV-LED素子20aの下に配置される各種の棒状又は直線状のレンズを好適に用いることもできる。また、例えば複数のレンズを重ねて配置した構造の集光光学系等を用いることもできる。その他、断面が円形の円柱状のレンズでも良い。その場合においても、UV-LEDユニット20から照射する紫外線を、適切に集光することができ、これによりインクの硬化効率を適切に高めることができる その他、発明の内容を逸脱しない範囲で実施の形態から自由に変更することが可能である。 また更に、上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。」(【0032】) (2)上記(1)によれば、引用文献1の図1及び図2に記載されたインクジェットプリンタにつき、次の事実が認められる。 ア プリンタ10は、紫外線の照射により硬化する紫外線硬化型のインクを用いて印刷を行うインクジェットプリンタである(【0016】)。 イ プリンタ10は、ヘッドユニット12を備え、ヘッドユニット12はガイドレール15に沿って主走査方向(Y方向)に走行する構成となっている(【0016】・【0019】)。 ウ ヘッドユニット12は、インクジェットヘッド12aとそのY方向における両脇に備えられたUV-LEDユニット20とからなる(【0016】・図1)。 エ インクジェットヘッド12aは、主走査方向と直交する方向(X方向)に複数のノズルが並ぶノズル列を有しており、ノズル列の各ノズルから、インクを吐出する(【0018】)。 オ プリンタ10は、メディア50を搬送する送りローラ等も備えており、送りローラはX方向へメディア50を搬送することにより、ヘッドユニット12を上述のX方向へ、メディア50に対して相対的に移動させる(【0019】)。 カ ヘッドユニット12に備えられたUV-LEDユニット20には、紫外線を発生する光源である複数のUV-LED素子20aがメディア50の搬送方向(X方向)に設けられ、インクが吐出されたメディア50に紫外線を照射することにより、インクを硬化させている(【0020】・【0021】)。 キ 複数のUV-LED素子20aは、X方向に、等間隔に並設されている(図2)。 ク 複数のUV-LED素子20aに、1つのシリンドリカルレンズ30が、その平面が対向するように配置されており、そのシリンドリカルレンズ30は、X方向には曲率を有さず、Y方向にのみ曲率を有して、周囲から入射したUV-LEDからの照明光を屈折させ、レンズから出射した光を線状に集光させる(【0020】・【0022】・【0032】・図2・図3)。 ここで、引用文献1には、複数のUV-LED素子20aに、平面が対向するように配置されているシリンドリカルレンズ30(図2におけるシリンドリカルレンズ30)の個数が、1つであることの明記はない。しかしながら、以下のとおり、当該個数は1つであると認められる。 すなわち、【0022】には、「ここで、シリンドリカルレンズ30は、例えば図3に示すように全体としての概形は蒲鉾状であり、断面の一方向に曲率を有するレンズである。」と記載されているから、図2におけるシリンドリカルレンズ30は、X方向に分割されておらず一体となっていると解される。さらに、【0032】には、「また、集光手段として、例えばシリンドリカルレンズではなく、他の光学系のレンズ等を用いた適切な集光手段を用いても良い。例えば、この集光手段として、複数のUV-LED素子20aの下に配置される各種の棒状又は直線状のレンズを好適に用いることもできる。また、例えば複数のレンズを重ねて配置した構造の集光光学系等を用いることもできる。」と記載されているから、引用文献1では、「シリンドリカルレンズ」が、「複数のUV-LED素子20aの下に配置される各種の棒状又は直線状のレンズ」の一例であると位置づけられていることが理解でき、そうだとすれば、この点からも、図2におけるシリンドリカルレンズ30が、X方向に分割されておらず一体となっているということができる。 このように、図2におけるシリンドリカルレンズ30は、X方向に分割されておらず一体となっている。そうすると、当該シリンドリカルレンズ30の個数は、1つであると認められる。 ケ 1つのシリンドリカルレンズ30は、複数のUV-LED素子20aの下に配置される各種の棒状又は直線状のレンズの一例である(【0032】、上記ク)。 (3)上記(2)でした認定によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「紫外線の照射により硬化する紫外線硬化型のインクを用いて印刷を行うインクジェットプリンタであって、 ヘッドユニット12を備え、ヘッドユニット12はガイドレール15に沿って主走査方向(Y方向)に走行する構成となっており、 ヘッドユニット12は、インクジェットヘッド12aとそのY方向における両脇に備えられたUV-LEDユニット20とからなり、 インクジェットヘッド12aは、主走査方向と直交する方向(X方向)に複数のノズルが並ぶノズル列を有しており、ノズル列の各ノズルから、インクを吐出し、 プリンタ10は、メディア50を搬送する送りローラ等も備えており、送りローラはX方向へメディア50を搬送することにより、ヘッドユニット12を上述のX方向へ、メディア50に対して相対的に移動させ、 ヘッドユニット12に備えられたUV-LEDユニット20には、紫外線を発生する光源である複数のUV-LED素子20aがメディア50の搬送方向(X方向)に設けられ、インクが吐出されたメディア50に紫外線を照射することにより、インクを硬化させており、 複数のUV-LED素子20aは、X方向に、等間隔に並設されており、 複数のUV-LED素子20aに、1つのシリンドリカルレンズ30が、その平面が対向するように配置されており、そのシリンドリカルレンズ30は、X方向には曲率を有さず、Y方向にのみ曲率を有して、周囲から入射したUV-LEDからの照明光を屈折させ、レンズから出射した光を線状に集光させるものであり、 1つのシリンドリカルレンズ30は、複数のUV-LED素子20aの下に配置される各種の棒状又は直線状のレンズの一例である、 インクジェットプリンタ。」 3 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)本願発明の「紫外線発光ダイオードと、」との特定事項について a 引用発明の「インクジェットプリンタ」が備える「UV-LED素子20a」は、本願発明の「紫外線発光ダイオード」に相当する。 b よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備える。 (2)本願発明の「該紫外線発光ダイオードの光軸を含むように配置された単一の透明部材と、を備え、」との特定事項について a 引用発明の「インクジェットプリンタ」が備える「1つのシリンドリカルレンズ30」は、本願発明の「単一の透明部材」に相当する。 b 引用発明の「1つのシリンドリカルレンズ30」は、「周囲から入射したUV-LEDからの照明光を屈折させ、レンズから出射した光を線状に集光させる」のであるから、引用発明の「UV-LED素子20a」は、「1つのシリンドリカルレンズ30」が備える「平面」に垂直な方向(当該方向は、引用文献1の図2(a)でいえば、紙面に垂直な方向であり、同図2(b)でいえば、鉛直方向である。)に、本願発明でいう「光軸」をもつと解される。さらに、この「線状」が延びる方向はX方向であると解されることをも踏まえると、この「光軸」は、「1つのシリンドリカルレンズ30」のY方向における中央部分(同図2(b)でいえば、シリンドリカルレンズ30の最も厚い部分を含む部分である。)を通過するものと解される。 したがって、引用発明の「1つのシリンドリカルレンズ30」は、本願発明でいう「該紫外線発光ダイオードの光軸を含むように配置された」ものといえる。 c よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備える。 (3)本願発明の「該光軸を含む、該光軸に直交する第一方向に垂直な断面である上記透明部材の第一断面において、該光軸を含む中央部分における光軸方向の幅の方が、該中央部分よりも該光軸から遠い周辺部分における該光軸方向の幅よりも長い紫外線発光ダイオードユニットを有し、」との特定事項について a 引用発明の「主走査方向と直交する方向(X方向)」が、本願発明の「該光軸に直交する第一方向」に相当する。 b 引用発明の「1つのシリンドリカルレンズ30」は、上記(2)bに照らせば、本願発明でいう「該光軸を含む、該光軸に直交する第一方向に垂直な断面である上記透明部材」の「第一断面」(当該面は、引用文献1の図2(b)でいえば、紙面である。)において、「該光軸を含む中央部分における光軸方向の幅の方が、該中央部分よりも該光軸から遠い周辺部分における該光軸方向の幅よりも長い」ものであることが、明らかである。 c 引用発明の「複数のUV-LED素子20a」が設けられた「UV-LEDユニット20」と「1つのシリンドリカルレンズ30」とは、「周囲から入射したUV-LEDからの照明光を屈折させ、レンズから出射した光を線状に集光させる」との関係がある以上、一定の位置関係を保つものと解される。 したがって、引用発明の「複数のUV-LED素子20a」が設けられた「UV-LEDユニット20」及び「1つのシリンドリカルレンズ30」は、本願発明の「紫外線発光ダイオードユニット」に相当する。 d よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備える。 (4)本願発明の「上記紫外線発光ダイオードユニットは、上記紫外線発光ダイオードによって硬化する紫外線硬化性インクを吐出するインクジェットヘッドが走査方向前方および後方の少なくとも一方に隣接して配置され、」との特定事項について a 引用発明の「紫外線の照射により硬化する紫外線硬化型のインクを用いて印刷を行うインクジェットプリンタ」に備えられた「インクジェットヘッド12a」は、本願発明の「紫外線硬化性インクを吐出するインクジェットヘッド」に相当する。 b 引用発明の「インクジェットヘッド12」から「吐出された」「インク」は、「紫外線を発生する光源である複数のUV-LED素子20a」からの「紫外線を照射することにより」「硬化」されるものであるから、本願発明でいう「上記紫外線発光ダイオードによって硬化する」ものといえる。 c 引用発明の「インクジェットヘッド12a」は、「そのY方向における両脇に備えられたUV-LEDユニット20」を備える。これを「UV-LEDユニット20」を主語にして整理すると、引用発明の「UV-LEDユニット20」は、Y方向「前方および後方の少なくとも一方に隣接して配置され」た「インクジェットヘッド12a」を備えていることになる。 そして、引用発明の「Y方向」は、「ヘッドユニット12」が「走行する」「主走査方向」であり、「ヘッドユニット12」は、「インクジェットヘッド12a」を備えているから、当該「Y方向」は、「ヘッドユニット12」のみならず、「インクジェットヘッド12a」(本願発明の「インクジェットヘッド」に相当。)が「走行する」「主走査方向」でもある。よって、引用発明の「Y方向」は、本願発明の(「インクジェットヘッド」の)「走査方向」に相当する。 d 以上によれば、引用発明の「UV-LEDユニット20」は、本願発明でいう「上記紫外線発光ダイオードユニットは、上記紫外線発光ダイオードによって硬化する紫外線硬化性インクを吐出するインクジェットヘッドが走査方向前方および後方の少なくとも一方に隣接して配置され」ているとの事項を満たすことになる。 そうすると、上記(3)bを踏まえれば、引用発明の「UV-LEDユニット20」及び「1つのシリンドリカルレンズ30」(本願発明の「紫外線発光ダイオードユニット」に相当。)も、本願発明でいう「上記紫外線発光ダイオードユニットは、上記紫外線発光ダイオードによって硬化する紫外線硬化性インクを吐出するインクジェットヘッドが走査方向前方および後方の少なくとも一方に隣接して配置され」ているとの事項を満たすことになる。 e よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備える。 (5)本願発明の「上記透明部材は、上記第一断面が上記第一方向に沿って同一の形状で延設されることによって、上記紫外線発光ダイオードが照射する紫外線に対する第一方向における指向性よりも、上記第一方向と上記光軸方向との両方に直交する第二方向における指向性の方が高くなっており、」との特定事項について a 引用発明の「主走査方向(Y方向)」が、本願発明の「上記第一方向と上記光軸方向との両方に直交する第二方向」に相当することは、明らかである。 b 引用発明の「1つのシリンドリカルレンズ30」は、「X方向には曲率を有さず、Y方向にのみ曲率を有して、周囲から入射したUV-LEDからの照明光を屈折させ、レンズから出射した光を線状に集光させる」ものであるから、本願発明でいう「上記透明部材は、上記第一断面が上記第一方向に沿って同一の形状で延設されることによって、上記紫外線発光ダイオードが照射する紫外線に対する第一方向における指向性よりも、上記第一方向と上記光軸方向との両方に直交する第二方向における指向性の方が高くなって」いるとの事項を備える。 c よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備える。 (6)本願発明の「上記透明部材は、上記第一断面において上記紫外線発光ダイオードからの光線の出射方向全体を包囲するように備えられており、」との特定事項について 引用発明の「1つのシリンドリカルレンズ30」は、「その平面」が「複数のUV-LED素子20a」に「対向するように配置されて」いる。そのため、引用発明の「1つのシリンドリカルレンズ30」が、「複数のUV-LED素子20a」からの「光線の出射方向全体を包囲するように備えられて」いるのかは、不明である。 (7)本願発明の「上記紫外線発光ダイオードユニットにおいて、上記単一の透明部材内に複数の上記紫外線発光ダイオードが配置されている」との特定事項について 引用発明の「1つのシリンドリカルレンズ30」は、「その平面」が「複数のUV-LED素子20a」に「対向するように配置されて」いる。そのため、「複数のUV-LED素子20a」が「配置されている」位置は、「1つのシリンドリカルレンズ30」の外であって、「内」ではないと解される。 よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備えない。 (8)本願発明の「インクジェット装置」との特定事項について a 引用発明の「インクジェットプリンタ」は、本願発明の「インクジェット装置」に相当する。 b よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備える。 4 一致点及び相違点の認定 上記3によれば、本願発明と引用発明とは、 「紫外線発光ダイオードと、 該紫外線発光ダイオードの光軸を含むように配置された単一の透明部材と、を備え、 該光軸を含む、該光軸に直交する第一方向に垂直な断面である上記透明部材の第一断面において、該光軸を含む中央部分における光軸方向の幅の方が、該中央部分よりも該光軸から遠い周辺部分における該光軸方向の幅よりも長い紫外線発光ダイオードユニットを有し、 上記紫外線発光ダイオードユニットは、上記紫外線発光ダイオードによって硬化する紫外線硬化性インクを吐出するインクジェットヘッドが走査方向前方および後方の少なくとも一方に隣接して配置され、 上記透明部材は、上記第一断面が上記第一方向に沿って同一の形状で延設されることによって、上記紫外線発光ダイオードが照射する紫外線に対する第一方向における指向性よりも、上記第一方向と上記光軸方向との両方に直交する第二方向における指向性の方が高くなっている、 インクジェット装置。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 本願発明は、「上記透明部材は、上記第一断面において上記紫外線発光ダイオードからの光線の出射方向全体を包囲するように備えられて」いるとともに、「上記紫外線発光ダイオードユニットにおいて、上記単一の透明部材内に複数の上記紫外線発光ダイオードが配置されている」のに対し、 引用発明は、「1つのシリンドリカルレンズ30」が、「複数のUV-LED素子20a」からの「光線の出射方向全体を包囲するように備えられて」いるのか不明であるとともに、「複数のUV-LED素子20a」が「配置されている」位置は、「1つのシリンドリカルレンズ30」の外であって、「内」ではない点。 5 相違点1の判断 (1)発光ダイオードを用いた装置の技術分野において、発光ダイオードを保護するなどの目的で、発光ダイオードを封止することは、例示するまでもない慣用技術である。そして、発光ダイオードを封止する形態として、複数の発光ダイオードを1つのシリンドリカルレンズや1つのかまぼこ状のレンズによって封止する形態も、周知技術である(必要であれば、例えば、特開2008-300170号公報の【0004】・【0005】・図12、特開2004-311101号公報の【0059】・図10、特開2003-337513号公報の【0041】・図3、特開2002-299697号公報の【0017】・図2(b)を参照。)。 また、引用発明における「1つのシリンドリカルレンズ30」は、「複数のUV-LED素子20aの下に配置される各種の棒状又は直線状のレンズの一例である」から、当業者は、「1つのシリンドリカルレンズ30」を、「各種の棒状又は直線状のレンズ」に適宜変更することができるといえる。しかるに、上記周知技術に係るレンズの形態は、「各種の棒状又は直線状のレンズ」にほかならないし、また、一方向にのみ正の屈折力をもっていることが明らかであるから、「レンズから出射した光を線状に集光させる」ことができる。 そうすると、当業者は、引用発明において、「複数のUV-LED素子20a」を封止するために、「1つのシリンドリカルレンズ30」を、上記周知技術に照らして、「複数のUV-LED素子20a」を封止するような「1つのシリンドリカルレンズ」や「1つのかまぼこ状のレンズ」の形態に変更することに、容易に至る。 そして、そのように構成することにより、当業者は、引用発明に係る構成に至るということができる。 (2)なお、令和元年5月31日に提出された手続補正書による補正前の請求項1に係る発明であっても、上記の結論を左右しない。 すなわち、上記補正前の請求項1に係る発明は、本願発明と比べて、「上記第一方向に沿って等間隔に並設されている複数の上記紫外線発光ダイオードを含んでおり、」との特定事項が含まれていることのみで異なるものである。しかるところ、上記特定事項は、引用発明に開示されている(引用発明は、「複数のUV-LED素子20aは、X方向に、等間隔に並設されて」いるものである。)と認められる。そうすると、上記補正前の請求項1に係る発明と引用発明との相違点は、上記相違点1と何ら異ならないということになる。よって、上記補正前の請求項1に係る発明であっても、上記結論を左右することはない。 (3)請求人は、平成31年2月18日に提出した意見書において、「本願発明においては、紫外線発光ダイオードユニットにおいて、単一の透明部材内に複数の紫外線発光ダイオードが配置されており、透明部材が、第一断面において上記紫外線発光ダイオードからの光線の出射方向全体を包囲するように備えられて」いる構成を採用したことにより、「光源である紫外線発光ダイオードと透明部材との間から光が漏洩して迷光となる恐れを防ぐことができ」、また、「複数の紫外線発光ダイオード同士の間から光が漏洩して迷光となる恐れを防ぐことができ」る旨主張する。 しかしながら、本願の明細書及び図面には、本願発明が上記構成を採用したことにより、そのような作用効果を奏した旨の明記はなく、むしろ、同【0036】のように、透明部材が紫外線発光ダイオードを封入するものであることにより、紫外線発光ダイオードを保護することができる旨が記載されているにとどまる。よって、請求人の主張は、本願の明細書及び図面の記載に基づかないものである。 また、それは措くとしても、引用発明において上記(1)のように構成変更したものが請求人の主張する作用効果を奏することは、当業者にとって予測困難なものではない。すなわち、引用発明は、レンズを用いている以上、設計に際して光線追跡が当然に予定されるといえるのであり、そうであれば、当業者は、上記のように構成変更をするに際しても、当然に、光線追跡を行う。そして、光線追跡をすれば、上記の作用効果は予測困難ではない。 したがって、請求人が主張した事項をもって、本願発明の進歩性を認めることはできない。 (4)よって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-06-28 |
結審通知日 | 2019-07-02 |
審決日 | 2019-07-16 |
出願番号 | 特願2014-58980(P2014-58980) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉野 三寛 |
特許庁審判長 |
小松 徹三 |
特許庁審判官 |
山村 浩 星野 浩一 |
発明の名称 | 紫外線発光ダイオードユニット、紫外線発光ダイオードユニットのセット、インクジェット装置および三次元造形物製造装置 |
代理人 | 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK |