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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08G
管理番号 1355229
審判番号 不服2019-1210  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-30 
確定日 2019-10-07 
事件の表示 特願2016-518988「高いガラス転移温度および高い結晶化度を有する部分芳香族コポリアミド」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月18日国際公開、WO2014/198762、平成28年 7月25日国内公表、特表2016-521791、請求項の数(17)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年6月11日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2013年6月12日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成28年2月9日に特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書が提出され、平成29年11月30日に上申書及び手続補正書が提出され、平成30年4月10日付けで拒絶理由が通知され、同年7月10日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月13日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成31年1月30日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年9月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?17に係る発明は、以下の引用文献1?4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧

1.特表2009-529074号公報
2.特開昭56-45924号公報
3.特開2013-67705号公報
4.特表2010-530458号公報

第3 本願発明
本願請求項1?17に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明17」という。)は、平成30年7月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
部分芳香族コポリアミド(PA)であって、以下:
a)テレフタル酸36?50モル%、
b)イソフタル酸0超?14モル%、
c)ヘキサメチレンジアミン35?42.5モル%、
d)少なくとも1つの環状ジアミン7.5?15モル%、ここで、該環状ジアミンd)は、イソホロンジアミンを含むか、またはイソホロンジアミンからなる
を重合導入した形態で含み、
ここで、成分a)?d)が、合計100モル%である、前記部分芳香族コポリアミド。
【請求項2】
テレフタル酸とイソフタル酸とを、100未満:0超?80:20のモル比で重合導入した形態で含む、請求項1に記載のコポリアミド。
【請求項3】
テレフタル酸とイソフタル酸とを、88:12?80:20のモル比で重合導入した形態で含む、請求項1または2に記載のコポリアミド。
【請求項4】
ヘキサメチレンジアミンと少なくとも1つの環状ジアミンとを、75:25?85:15のモル比で重合導入した形態で含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載のコポリアミド。
【請求項5】
ヘキサメチレンジアミンとイソホロンジアミンとを、75:25?85:15のモル比で重合導入した形態で含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載のコポリアミド。
【請求項6】
少なくとも150℃のガラス転移温度T_(g2)を有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載のコポリアミド。
【請求項7】
少なくとも40J/gの融解熱ΔH_(2)を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載のコポリアミド。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の、少なくとも1つのコポリアミドを含むポリアミド成形材料。
【請求項9】
A)請求項1から7までのいずれか1項に記載の、少なくとも1つのコポリアミド25?100質量%、
B)少なくとも1つの充填剤および強化剤0?75質量%、
C)少なくとも1つの添加剤0?50質量%、
を含み、
ここで、成分A)?C)が、合計100質量%である、請求項8に記載のポリアミド成形材料。
【請求項10】
請求項8または9に記載のポリアミド成形材料から製造される成形体。
【請求項11】
自動車分野のための構成部材の形態またはその部品である、請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
シリンダーヘッドカバー、エンジンカバー、インタークーラー用ハウジング、インタークーラーバルブ、サクションパイプ、インテークマニホールド、コネクタ、ギヤホイール、ファンホイール、冷却水タンク、熱交換器用ハウジングまたはハウジング部品、クーラントクーラー、インタークーラー、サーモスタット、ウォーターポンプ、ラジエーターおよび固定部品から選択される、請求項11に記載の成形体。
【請求項13】
電気または電子構成部材の形態またはその部品である、請求項10に記載の成形体。
【請求項14】
プリント基板およびその部品、ハウジング構成部材、シート、導管、スイッチ、分配器、リレー、レジスタ、コンデンサ、コイル、ランプ、ダイオード、発光ダイオード(LED)、トランジスタ、コネクタ、レギュレータ、メモリチップおよびセンサーから選択される、請求項13に記載の成形体。
【請求項15】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の部分芳香族コポリアミド、または請求項8もしくは9に記載の成形材料の、電気および電子構成部材を製造するための、または高温領域における自動車用用途のための使用。
【請求項16】
プラグインコネクタ、マイクロスイッチ、マイクロボタンまたは半導体構成部材を製造するための、無鉛条件(鉛フリーはんだ)下のはんだプロセスにおける使用のための、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
発光ダイオード(LED)のリフレクターハウジングにおける、請求項16に記載の使用。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】
半芳香族の半結晶質の熱可塑性ポリアミドの成形材料であって、
A)a1)テレフタル酸から誘導した構成単位30?44mol%、
a2)イソフタル酸から誘導した構成単位6?20mol%、
a3)ヘキサメチレンジアミンから誘導した構成単位42?49.5mol%、
a4)炭素原子6?30個を有する芳香族ジアミンから誘導した構成単位0.5?8mol%、
からなるコポリアミド40?100質量%、
その際、成分a1)?a4)のモル百分率は、合わせて100%であり、かつ
B)繊維状又は粒状の充填剤0?50質量%、
C)弾性重合体0?30質量%、
D)他の添加剤及び加工助剤0?30質量%、
を含有し、その際、成分A)?D)の質量百分率は、合わせて100%である、半芳香族の半結晶質熱可塑性ポリアミドの成形材料。」

(1b)「【0008】
本発明の課題は、十分に高い融点を有する高い結晶化度及び高いガラス転移温度を有する、半結晶質の半芳香族コポリアミドの成形材料を提供し、コポリアミドのよりよい加工性を与えることであった。同時に、その意図は、該コポリアミドが、よりよい機械的特性(特に多軸の耐衝撃性)及び繊維強化成形物の表面品質を呈することである。」

(1c)「【0011】
本発明の半芳香族の半結晶質熱可塑性ポリアミドの成形材料は、
成分A)として、
a1)テレフタル酸から誘導した構成単位30?44mol%、有利には32?40mol%、及び特に32?38mol%、
a2)イソフタル酸から誘導した構成単位6?20mol%、有利には10?18mol%、及び特に12?18mol%、
a3)ヘキサメチレンジアミンから誘導した構成単位42?49.5mol%、有利には45?48.5mol%、及び特に46.5?48mol%、
a4)炭素原子6?30個、有利には6?29個、及び特に6?17個を有する芳香族ジアミンから誘導した構成単位0.5?8mol%、有利には1.5?5mol%、及び特に2?3.5mol%、
からなるコポリアミド40?100質量%、有利には50?100質量%、及び特に70?100質量%を含有し、その際、成分a1)?a4)のモル百分率は、合わせて100%である。
【0012】
ジアミン構成単位a3)及びa4)は、有利には、等分子的にジカルボン酸構成単位a1)及びa2)と反応させる。
【0013】
好適なモノマーa4)は、有利には、式
【化1】

[式中、R^(1)は、NH_(2)又はNHR^(3)であり、
R^(2)は、R^(1)に対してm-位、o-位、又はp-位にあり、かつNH_(2)又はNHR^(3)であり、その際、R^(3)は、炭素原子1?6個、有利には炭素原子1?4個を有するアルキル基である]で示される環状ジアミンである。
【0014】
特に好ましいジアミンは、p-及び/又はm-キシリレンジアミン、もしくはそれらの混合物である。
【0015】
挙げられる他のモノマーa4)は、o-キシリレンジアミン及びアルキル置換されたキシリレンジアミンである。」

(1d)「【0016】
半芳香族コポリアミドA)は、前記で記載された構成単位a1)?a4)と共に、A)に対して、4質量%まで、有利には3.5質量%までの他のポリアミド形成モノマーa5)を含有することができ、その際、該モノマーは、他のポリアミドから公知である。
【0017】
芳香族ジカルボン酸a5)は、炭素原子8?16個を有する。好適な芳香族ジカルボン酸の例は、置換されたテレフタル酸及びイソフタル酸、例えば3-tert-ブチルイソフタル酸、多核性ジカルボン酸、例えば4,4’-及び3,3’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-及び3,3’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-及び3,3’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,4-又は2,6-ナフタレンジカルボン酸、並びにフェノキシテレフタル酸である。
【0018】
他のポリアミド形成モノマーa5)は、炭素原子4?16個を有するジカルボン酸から、及び炭素原子4?16個を有する脂肪族ジアミンから、或いは、炭素原子7?12個を有するアミノカルボン酸又は相応するラクタムから誘導することができる。それらのタイプのわずかな好適なモノマーは、脂肪族ジカルボン酸の代表としてスベリン酸、アゼライン酸又はセバシン酸、ジアミンの代表として1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン又はピペラジン、並びにラクタムもしくはアミノカルボン酸の代表としてカプロラクタム、カプリロラクタム、エナントラクタム、アミノウンデカン酸及びラウロラクタムを本明細書で挙げることができる。」

(1e)「【0023】
本発明によると、半芳香族コポリアミドは、一般に、30%より多い、有利には35%より多い、及び特に40%より多い結晶化度を特徴とする。
【0024】
該結晶化度は、コポリアミドにおける結晶断片の割合の尺度であり、かつX線回折によって、又は間接的にΔH_(crist.)を測定することによって決定される。」

(1f)「【0089】
実施例
一般の製造の仕様
HMD溶液(水中で濃度70%)X2gと、メタキシリレンジアミンX3gと、テレフタル酸X4gと、イソフタル酸X5gと、プロピオン酸X6gとを、90℃で、プラスチック容器中で、水X1gと混合した。
【0090】
得られた溶液を、1.5lのオートクレーブに移した。オートクレーブの操作時間は60分であり、外側の温度は340℃であり、回転速度は40rpmであり、そして圧力は20bar(絶対圧)であった。
【0091】
そして、その混合物を、圧力2barまで60分間減圧した。
【0092】
得られたPAポリマーを造粒した。
【0093】
次の測定を行った。
【0094】
熱分析(DSC)を、DIN 53765(TAI-Q 1000装置を使用して)に応じて、T_(m)、T_(g)、T_(kk)及びΔHについて実施した。第二の加熱曲線を測定した(加熱曲線及び冷却曲線に対して20K/min)。
【0095】
VNを、ISO 307に応じて測定した。
【0096】
成形材料の構成及び測定の結果は、表中に見られる。
【0097】
【表2】

【0098】
【表3】



引用文献1の請求項1には、「半芳香族の半結晶質の熱可塑性ポリアミドの成形材料であって、
A)a1)テレフタル酸から誘導した構成単位30?44mol%、
a2)イソフタル酸から誘導した構成単位6?20mol%、
a3)ヘキサメチレンジアミンから誘導した構成単位42?49.5mol%、
a4)炭素原子6?30個を有する芳香族ジアミンから誘導した構成単位0.5?8mol%、
からなるコポリアミド40?100質量%、
その際、成分a1)?a4)のモル百分率は、合わせて100%であり、かつ
B)繊維状又は粒状の充填剤0?50質量%、
C)弾性重合体0?30質量%、
D)他の添加剤及び加工助剤0?30質量%、
を含有し、その際、成分A)?D)の質量百分率は、合わせて100%である、半芳香族の半結晶質熱可塑性ポリアミドの成形材料。」が記載され、この成形材料のうちのポリアミドに着目すると、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「半芳香族の半結晶質の熱可塑性ポリアミドであって、
a1)テレフタル酸から誘導した構成単位30?44mol%、
a2)イソフタル酸から誘導した構成単位6?20mol%、
a3)ヘキサメチレンジアミンから誘導した構成単位42?49.5mol%、
a4)炭素原子6?30個を有する芳香族ジアミンから誘導した構成単位0.5?8mol%、
からなるコポリアミドであり、成分a1)?a4)のモル百分率は、合わせて100%である半芳香族の半結晶質熱可塑性ポリアミド」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。

(2a)「特許請求の範囲
1.ラクタム、もしくはω-アミノカルボン酸、テレフタル酸および/またはイソフタル酸もしくはそのエステルまたはエステル形成性誘導体およびジアミン混合物をベースとする、高いガラス転移温度を有する透明な高分子コポリアミドにおいて、
A)C-原子数少なくとも11のω-アミノカルボン酸もしくはそのラクタム少なくとも1種 25?60モル%
およびB)テレフタル酸および/またはイソフタル酸と、ジアミン混合物に対してイソホロンジアミン80?50モル%と一般式:

〔式中R_(1)およびR_(2)は水素原子またはC-原子数1?4のアルキル基を表わす〕のジアミン20?50モル%とのジアミン混合物とから成る当量混合物 40?75モル%
(ただしA+Bは100モル%である)から成ることを特徴とする、透明な高分子コポリアミド。」(特許請求の範囲第1項)

(2b)「3 発明の詳細な説明
本発明はテレフタル酸および/またはイソフタル酸もしくはこれらのエステルまたはエステル形成性誘導体およびイソホロンジアミンとビス-(4-アミノシクロヘキシル)-メタンもしくはその誘導体並びにC-原子数少なくとも11のω-アミノカルボン酸もしくはラクタムから成るコポリアミドに関する。ラクタム、ジカルボン酸およびイソホロンジアミンが1成分を形成するジアミン混合物から成るコポリアミドは基本的には公知である。例えば仏国特許第1471789号明細書にはアミノウンデカン酸、テレフタル酸およびイソホロンジアミンおよびドデカメチレンジアミンから成るコポリアミドが記載されている。しかしかかるコポリアミドは既に温度約70?80℃で軟化し、したがって十分な熱変形安定性を有していないので不十分である。十分な熱変形安定性を達成するために公知技術によればラクタムもしくはアミノウンデカン酸の割合をできる限り僅かに保つように努められている。例えば英国特許第1228761号、同第1266864号、同第1255483号、同第1410006号、同第1410007号明細書からコポリアミド中の前記の物質の割合を20モル%以下にすべきことが公知である。このようにして僅かなラクタム、もしくはウンデカン酸の割合によって比較的高いガラス転移温度およびしたがって良好な熱安定性を有する透明なコポリアミドを得ることが可能であるが、これらはきわめて高い溶融粘度を有し、これは通常の加工機械での加工をきわめて困難にする。しかし前記の英国特許明細書により得られるコポリアミド中でラクタム分を>20モル%に高めると、ガラス転移点のきわめて急激な低下が生じる(比較例AおよびB)。
他方、唯一のジアミン成分としてイソホロンジアミンを使用して高いガラス転移温度を有するコポリアミドが得られることが公知である。しかしテレフタル酸および/またはイソフタル酸、唯一のジアミン成分としてイソホロンジアミンおよびC-原子数少なくとも11のω-アミノ-カルボン酸もしくはラクタムから成るコポリアミドは縮合して低い分子量を有する生成物が得られるにすぎない。かかる生成物は脆く、かつ耐衝撃性もしくはノッチ付衝撃強さを持たない(比較例C)。」(第2頁右上欄第12行?右下欄第18行)

(2c)「したがって本発明の課題は高いガラス転移温度を有し、C-原子数少なくとも11のラクタムもしくはアミノカルボン酸の割合が>20モル%であり、かつジアミン混合物中のイソホロンジアミンの割合が少なくとも50モル%であり、かつ耐衝撃性もしくはノッチ付衝撃強さの数値により表現される優れた機械的性質を有する透明なコポリアミドを開発することである。」(第2頁右下欄第19行?第3頁左上欄第6行)

(2d)「次いで実施例につき本発明を詳説する。
例1
らせん型攪拌機を具備する20l-鋼製オートクレーブ中でラウリンラクタム3.55kg(18.02モル)、イソフタル酸2.99kg(18.02モル)、イソホロンジアミン1.92kg(11.27モル)、ビス-(4-アミノ-シクロヘキシル)-メタン1.53kg(7.29モル)、完全脱塩水2.7kgおよびH_(3)PO_(4)3.54gを窒素雰囲気内で溶融し、かつ攪拌下に、かつ調節される特定圧力(約20バール)下に210?220℃に加熱する。混合物をこの条件下に3時間前縮合する。引続き温度を1時間以内で270℃に高め、その際オートクレーブ圧を連続的に放圧下に20バールに保持する。内部温度270℃/圧力20バールの条件下に5時間重縮合する。次いで徐々に放圧し、280?290℃に加熱し、かつ窒素の導通下に1時間重縮合を終結させる。生成する、殆ど無色のポリアミドをノズルから水浴中に出し、その際該ポリアミドは凝固して無色透明なストランドとなり、これを顆粒化し、かつ乾燥する。
ポリアミドの性質を表にまとめる。
例2
らせん型攪拌機を具備する20l-鋼製オートクレーブ中でラウリンラクタム3.19kg(16.19モル)、イソフタル酸3.29kg(19.82モル)、イソホロンジアミン2.46kg(14.45モル)、ビス-(4-アミノ-シクロヘキシル)-メタン1.26kg(6.0モル)、完全脱塩された水2.0kgおよびH_(3)PO_(4) 3.54gを窒素雰囲気下に溶融し、かつ攪拌下かつ調節される特定圧力(約20バール)下に210?220℃に加熱する。混合物をこの条件下に3時間前縮合する。引続きオートクレーブ温度を1時間以内に270℃に高め、その際オートクレーブ圧を連続的放圧下に20バールに保持する。内部温度270℃/圧力20バールの条件下に5時間重縮合する。次いで徐々に放圧し、280?290℃に加熱し、かつ窒素の導通下に1時間重縮合を終結させる。生成する、殆ど無色のポリアミドをノズルから水浴中に出し、その際該ポリアミドは無色透明のストランドとなり、これを顆粒にし、かつ乾燥する。
ポリアミドの性質を表にまとめる。
例3
例1のようにして行なったが、ビス-(4-アミノ-シクロヘキシル)-メタン1.53kg(=7.29モル)の代わりにビス-(4-アミノ-3-メチル-シクロヘキシル)-メタン1.73kg(=7.29モル)を使用した。
製造されるポリアミドの性質を表にまとめる。
例4
例2のようにして実施したが、ビス-(4-アミノ-シクロヘキシル)-メタン1.26kg(=6モル)の代わりに2,2-ビス-(4-アミノ-シクロヘキシル)-プロパン1.43kg(=6モル)を使用した。
製造された透明ポリアミドの性質を表にまとめる。
比較例A
例1の方法を繰り返した、その際ビス-(4-アミノ-シクロヘキシル)-メタン1.53kg(=7.29モル)の代わりにヘキサメチレンジアミン0.85kg(=7.29モル)を使用した。
製造される透明ポリアミドの性質を表にまとめる。
比較例B
例2の方法を繰り返した、その際ビス-(4-アミノ-シクロヘキシル)-メタン1.25kg(=6モル)の代わりにヘキサメチレンジアミン0.7kg(=6モル)を使用した。
製造される、透明ポリアミドの性質を表にまとめる。
比較例C
らせん型攪拌機を具備する20l-鋼製オートクレーブ中でラウリンラクタム3.55kg(18.02モル)、イソフタル酸2.99kg(18.02モル)、イソホロンジアミン3.16kg(18.56モル)、完全に脱塩された水2.7kgおよびH_(3)PO_(4)3.54gを窒素雰囲気内で溶融し、かつ攪拌下および調節される特定圧力(約20バール)下に210?220℃に加熱する。混合物をこの条件下に3時間前縮合する。引続き温度を1時間内で270℃に高め、その際オートクレーブ圧を連続的放圧下に20バールに保持する。内部温度270℃および圧力20バールの条件下に5時間重縮合する。次いで徐々に放圧し、280?290℃に加熱し、かつ窒素の導通下に重縮合を終結させる。その際30分毎にポリアミド試料をオートクレーブから出し、かつその溶液粘度をm-クレゾール中で25℃で(濃度0.5g/100ml)測定した。

この生成物のいずれもストランドにすることができず、かつ顆粒にすることができない。
この比較例は明らかに、単一のジアミン成分としてイソホロンジアミンを用いる場合には、重縮合時間を徹底的に延長させても高分子の透明ポリアミドを製造し得ないことを示す。

」(第4頁左上欄第19行?第5頁右下欄)

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。

(3a)「【請求項1】
結晶性ポリアミド樹脂(A)および非晶性ポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対し、繊維状強化材5?200質量部を含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記結晶性ポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とし、ジアミン成分が炭素数8?12の直裁脂肪族ジアミンからなり、(B)/{(A)+(B)}=0.1?0.5(質量比)であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。」

(3b)「【0005】
本発明は、機械的特性に加えて、表面光沢や成形性を向上させたポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。」

(3c)「【0053】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、従来より有する機械強度に加えて、表面光沢性に優れているため、自動車部品、電気電子部品、雑貨、土木建築用品等広範な用途に使用できる。中でも、繊維状強化材による補強効果を生かして、自動車部品、電気電子部品に好適に用いることができる。」

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、次の事項が記載されている。

(4a)「【請求項1】
ジカルボン酸及びジアミンに基くポリアミドを押出機内で製造する方法であって、
50モル%のジカルボン酸混合物と50モル%のヘキサメチレンジアミンから成るモノマー混合物を含む固体混合物を、並行作動式のツインスクリュー押出機内で加熱する工程を含み、
前記ジカルボン酸混合物は、60?88質量%のテレフタル酸及び12?40質量%のイソフタル酸から成り、且つジカルボン酸混合物の20質量%以下が、他のジカルボン酸によって置き換えられても良く、
前記ヘキサメチレンジアミンは、その20質量%以下が、他のC_(2-30)-ジアミンによって置き換えられても良く、
前記工程は、滞留時間が10秒?30分、温度が150?400℃で、排気用開口部からスチーム及び適宜ジアミンを除去して行われることを特徴とする方法。」

(4b)「【0009】
本発明の目的は、滞留時間を短くしコポリアミドの高い粘度を許容する芳香族コポリアミドの部分的な製造方法を提供することにある。更に、非常に均一な製品が得られるべきであり、そして装置の汚染が回避されるべきである。」

(4c)「【0013】
モノマー混合物は、50モル%のジカルボン酸混合物、及び50モル%のジアミン又はジアミン混合物からなる。ジカルボン酸混合物は、60?88質量%のテレフタル酸及び12?40質量%のイソフタル酸から成る。好ましくは、64?80質量%、特に64?76質量%のテレフタル酸が存在し、これは、好ましくは20?36質量%、及び特に24?36質量%のイソフタル酸に対応する。更に、20質量%以下のジカルボン酸混合物が、他のジカルボン酸に置き換えられても良い。これは、好ましくは、0?10質量%、特に0?5質量%である。ジカルボン酸混合物のいくらかが他のジカルボン酸に置き換えられた場合、他の成分の下限値は、好ましくは0.5質量%、特に1質量%である。他の適切なジカルボン酸は、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、セベリック酸、アゼライン酸、セバシン酸、及び7-スルホイソフタル酸である。
【0014】
使用するジアミン成分は、ヘキサメチレンジアミンであり、このヘキサメチレンジアミンは、20%以下が、他のC_(2-30)-ジアミンによって置き換えられても良い。好ましくは、0?10質量%、特に0?5質量%のヘキサメチレンジアミンが、他のC_(2-30)-ジアミンによって置き換えられる。他のC_(2-30)-ジアミンが存在する場合、その最小限値は、0.5質量%が好ましく、少なくとも1質量%が特に好ましい。適切な他のジアミンは、例えば、テトラメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン及びドデカエチレンジアミン及びm-キシレンジアミン、ビス(4-アミノフェニル)メタン、ビス(4-アミノフェニル)-2,2-プロパン及びビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン又はこれらの混合物である。
【0015】
好ましい追加的なジアミンとして、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンを使用することが好ましく、これは、BASF AGからDicycanという名称で市販されている。」

(4d)「【0016】
テレフタル酸、イソフタル酸及びヘキサメチレンジアミンとは別に、他のジカルボン酸又はジアミンを使用しないことが好ましい。」

(4e)「【0025】
・・・本発明に従い製造されるポリアミドは、ガラス転移温度が110?150℃の範囲であり、融点が280?320℃の範囲であることが好ましい。これらは、結晶化度が20%を超え、そして透明でないことが好ましい。」

(4f)「【実施例】
【0028】
実施例1:
368.57gの水を196.7gのヘキサメチレンジアミン(HMD)溶液(水中69.8%、BASF)、9.78gのDicycan(BASF)、141.58gのテレフタル酸、61.78gのイソフタル酸(Lonza)を、プラスチック容器中で、90℃で混合した。
【0029】
得られた溶液をアルミの皿に注ぎ、そして50℃に冷却した。40℃に達した時に、湿潤した塩を40℃で一晩、真空下(N_(2)流)で乾燥した。
【0030】
塩をDSM midi押出機で、外部温度330℃及び80rpm(バイパスを閉塞)で押し出した。
【0031】
次に、得られたコポリマーについて、Tm、Tg、TkB、dH、VNの値を測定した。
【0032】
実施例2?5
ポリマー溶融物を直ぐには排出しなかったことが異なるが、これ以外は、実施例1と同様の処理を繰り返した。バイパスを所定時間(=滞留時間)開いき、そしてポリマーを排出した。
【0033】
【表1】

【0034】
VNが比較的低いことは、HMDの損失によって説明可能である。HMDを加えることにより、又は蒸気を再循環させることによりHNを高くすることができた。」

引用文献4の請求項1には、「ジカルボン酸及びジアミンに基くポリアミドを押出機内で製造する方法であって、
50モル%のジカルボン酸混合物と50モル%のヘキサメチレンジアミンから成るモノマー混合物を含む固体混合物を、並行作動式のツインスクリュー押出機内で加熱する工程を含み、
前記ジカルボン酸混合物は、60?88質量%のテレフタル酸及び12?40質量%のイソフタル酸から成り、且つジカルボン酸混合物の20質量%以下が、他のジカルボン酸によって置き換えられても良く、
前記ヘキサメチレンジアミンは、その20質量%以下が、他のC_(2-30)-ジアミンによって置き換えられても良く、
前記工程は、滞留時間が10秒?30分、温度が150?400℃で、排気用開口部からスチーム及び適宜ジアミンを除去して行われることを特徴とする方法。」が記載され、この製造方法で得られたポリアミドは、50モル%のジカルボン酸混合物と50モル%のヘキサメチレンジアミンから成るモノマー混合物を含み、前記ジカルボン酸混合物は、60?88質量%のテレフタル酸及び12?40質量%のイソフタル酸から成り、且つジカルボン酸混合物の20質量%以下が、他のジカルボン酸によって置き換えられても良く、
前記ヘキサメチレンジアミンは、その20質量%以下が、他のC_(2-30)-ジアミンによって置き換えられても良いモノマー混合物から製造されるということができる。

したがって、上記引用文献4には次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「50モル%のジカルボン酸混合物と50モル%のヘキサメチレンジアミンから成るモノマー混合物を含み、前記ジカルボン酸混合物は、60?88質量%のテレフタル酸及び12?40質量%のイソフタル酸から成り、且つジカルボン酸混合物の20質量%以下が、他のジカルボン酸によって置き換えられても良く、
前記ヘキサメチレンジアミンは、その20質量%以下が、他のC_(2-30)-ジアミンによって置き換えられても良いモノマー混合物から製造されるポリアミド」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用発明1との対比・判断
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「テレフタル酸から誘導した構成単位」は、本願発明1の「テレフタル酸」「を重合導入した形態」に相当し、引用発明1の「イソフタル酸から誘導した構成単位」は、本願発明1の「イソフタル酸」「を重合導入した形態」に相当し、引用発明1の「ヘキサメチレンジアミンから誘導した構成単位」は、本願発明1の「ヘキサメチレンジアミン」「を重合導入した形態」に相当する。
また、引用発明1の半芳香族の半結晶質熱可塑性ポリアミドは、コポリアミドであるとされ、さらに、引用発明1のポリアミドは、原料のジカルボン酸として芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸及びイソフタル酸を使用し、原料のジアミンとして脂肪族ジアミンであるヘキサメチレンジアミンを使用しており、これによりポリアミドが「半芳香族」と特定しているといえ、これは、本願発明1のコポリアミドが「部分芳香族」であることと一致する。
よって、引用発明1の「半芳香族の半結晶質熱可塑性ポリアミド」は、本願発明1の「部分芳香族コポリアミド」に相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明1とでは、
「部分芳香族コポリアミド(PA)であって、以下:
a)テレフタル酸、
b)イソフタル酸、
c)ヘキサメチレンジアミン
を重合導入した形態で含む、前記部分芳香族コポリアミド」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)部分芳香族コポリアミドが、本願発明1では、d)少なくとも1つの環状ジアミン7.5?15モル%(成分a)?d)の合計100モル%に対し)、ここで、該環状ジアミンd)は、イソホロンジアミンを含むか、またはイソホロンジアミンからなり、これを重合導入した形態で含み、と特定しているのに対し、引用発明1では、a4)炭素原子6?30個を有する芳香族ジアミンから誘導した構成単位0.5?8mol%(成分a1)?a4)を合わせて100%とした際のモル百分率)からなると特定している点

(相違点2)部分芳香族コポリアミドの構成単位を100モル%とした場合のモル百分率に関し、本願発明1では、テレフタル酸が「36?50モル%」、イソフタル酸が「0超?14モル%」、ヘキサメチレンジアミンが「35?42.5モル%」と特定しているのに対し、引用発明1では、テレフタル酸が「30?44mol%」、イソフタル酸が「6?20mol%」、ヘキサメチレンジアミンが「42?49.5mol%」と特定している点

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
引用文献1には、課題は、十分に高い融点、高い結晶化度及び高いガラス転移温度を有する半結晶質の半芳香族コポリアミドの成形材料を提供することであることが記載されている(摘記(1b))。引用文献1には、この課題を解決するために、成形材料のうちの重合体として引用発明1として認定した半芳香族の半結晶質の熱可塑性ポリアミドを用いたということができる。
そうすると、引用文献1の特許請求の範囲の請求項1には、この課題を解決するためのポリアミドとして、a1)テレフタル酸から誘導した構成単位30?44mol%、a2)イソフタル酸から誘導した構成単位6?20mol%、a3)ヘキサメチレンジアミンから誘導した構成単位42?49.5mol%、a4)炭素原子6?30個を有する芳香族ジアミンから誘導した構成単位0.5?8mol%からなるコポリアミド(成分a1)?a4)のモル百分率は、合わせて100%)が記載されている(摘記(1a))ということができる。
そして、発明の詳細な説明には、上記請求項1に記載されたa1)?a4)の具体的な記載がされ(摘記(1c))、また、コポリアミドに含有することができるa1)?a4)以外の他のポリアミド形成モノマーa5)の記載もされている(摘記(1d))。
しかしながら、他のポリアミド形成モノマーa5)の含有割合は、コポリアミドに対して、4質量%までであることが記載されているだけであり、また、具体的なモノマーとして、イソホロンジアミンは記載されていない。
そうすると、引用文献1には、引用発明1において、相違点1に係るイソホロンジアミンを含む環状ジアミンを4質量%よりも多い7.5?15モル%用いようとする動機付けがあるとはいえない。

この相違点1に関し、引用文献2及び3の記載事項を検討してみる。
引用文献2には、特許請求の範囲に「ラクタム、もしくはω-アミノカルボン酸、テレフタル酸および/またはイソフタル酸もしくはそのエステルまたはエステル形成性誘導体およびジアミン混合物をベースとする、高いガラス転移温度を有する透明な高分子コポリアミドにおいて、
A)C-原子数少なくとも11のω-アミノカルボン酸もしくはそのラクタム少なくとも1種 25?60モル%
およびB)テレフタル酸および/またはイソフタル酸と、ジアミン混合物に対してイソホロンジアミン80?50モル%と一般式:

〔式中R_(1)およびR_(2)は水素原子またはC-原子数1?4のアルキル基を表わす〕のジアミン20?50モル%とのジアミン混合物とから成る当量混合物 40?75モル%
(ただしA+Bは100モル%である)から成ることを特徴とする、透明な高分子コポリアミド」という記載がされている(摘記(2a))。

引用文献2には、前提技術として、ラクタム、ジカルボン酸およびイソホロンジアミンが1成分を形成するジアミン混合物から成るコポリアミドは公知であるものの、熱変形温度が低いため、高いガラス転移温度のポリアミドが求められていたことが記載されている。そして、唯一のジアミン成分としてイソホロンジアミンを使用すれば高いガラス転移温度を有するコポリアミドが得られることが公知である旨の記載がされている(摘記(2b))。

そこで、相違点1に関係する引用文献2の上記、唯一のジアミン成分としてイソホロンジアミンを使用すれば高いガラス転移温度を有するコポリアミドが得られるという記載について検討する。

まず、この記載は、コポリアミドに使用されるジアミン成分として、唯一イソホロンジアミンを使用すれば高いガラス転移温度を有するコポリアミドが得られることが示されているのであって、イソホロンジアミンが他のジアミン成分と併用する場合にもコポリアミドが高いガラス転移温度を示すことを述べたものではない。
ここで、相違点1を構成するためには、引用発明1において、イソホロンジアミンを更に使用する必要があるが、このような場合には、イソホロンジアミンと他のジアミンであるヘキサメチレンジアミンとを併用することになるといえ、引用文献2の上記記載は、こういった場合においても高いガラス転移温度を示すことを述べた記載ではない。そうすると、引用文献2の上記記載は、相違点1において更にイソホロンジアミンを使用することを示唆する記載ではない。

念のため、引用文献2の上記記載がイソホロンジアミンと他のジアミン成分と併用する場合でもコポリアミドが高いガラス転移温度を示すことを述べたものであるか否かについて検討してみる。

引用文献2の実施例1?4は、引用文献2の請求項1に記載された透明なコポリアミドの具体例であって、原料としてラウリンラクタム、イソフタル酸及びイソホロンジアミンを使用し、一般式

で表されるジアミンとしてビス-(4-アミノ-シクロヘキシル)-メタン、ビス-(4-アミノ-3-メチル-シクロヘキシル)-メタン又は2,2-ビス-(4-アミノ-シクロヘキシル)-プロパンを使用して製造したコポリアミドであり、実施例1?4で製造されたコポリアミドのガラス転移温度は、149?159℃であることが記載されている。

一方、比較例A及びBは、原料としてラウリンラクタム、イソフタル酸及びイソホロンジアミンを使用し、一般式

で表されるジアミンに代えて、ヘキサメチレンジアミンを使用して製造したコポリアミドである。そして、これら比較例A及びBで製造したコポリアミドのガラス転移温度は、106℃、128℃であることが記載されており、これらのガラス転移温度は実施例1?4のガラス転移温度よりも低いことは明らかである。

したがって、引用文献2には、イソホロンジアミンとヘキサメチレンジアミンとを併用した場合には、コポリアミドのガラス転移温度は高くなるものではないことが明示されている。

そうすると、引用文献2の上記記載を、イソホロンジアミンと他のジアミン成分と併用する場合でもコポリアミドが高いガラス転移温度を示すことを述べたものであると解することはできない。

以上のとおりであるから、引用文献2には、引用発明1において、相違点1に関しジアミン成分としてイソホロンジアミンを更に使用することを示唆する記載があるとはいえず、相違点1を動機付ける記載はない。

引用文献3には、概略、機械的特性、表面光沢や成形性を向上させたポリアミド樹脂組成物の用途には、自動車部品、電気電子部品が好適であることが記載されているだけであって、相違点1を動機付ける記載はない。

(イ)効果について
上記(ア)で述べたように、本願発明1は、引用発明1において、相違点1を備えることが容易であるとはいえないが、念のため、効果についても検討する。

本願の発明の詳細な説明の段落【0009】には、効果として、高い結晶化度および一定の高い融点と同時に、ガラス転移温度がはるかに高いコポリアミドが得られる旨の記載がされ、同【0093】以降の具体例においては、具体的に製造されたコポリアミドについて、ガラス転移温度が154.0?162.0℃、融点が310.0?318.0℃及び融解熱が44?49j/gであることが、具体的に記載されている。
一方、引用文献1の段落【0008】には、十分に高い融点を有する高い結晶化度及び高いガラス転移温度を有する、半結晶質の半芳香族コポリアミドの成形材料を提供するという記載がされ(摘記(1b))、実施例には、これらの性質について、具体的なデータが記載されている(摘記(1f))が、ガラス転移温度は125?136℃、融点は295?310℃にとどまるものである。
また、上記(ア)で述べたように、引用文献2及び3には、イソホロンジアミンと他のジアミン成分と併用する場合にガラス転移温度が高いコポリアミドが得られることを示す記載はない。
そうすると、本願発明1は、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏するということができる。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、引用発明1において、相違点1を構成することは当業者が容易に想到できたことであるとはいえない。
そうすると、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は引用発明1及び引用文献1?3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはいえない。

(2)引用発明4との対比・判断
ア 対比
本願発明1と引用発明4とを対比する。
引用発明4の「テレフタル酸」、「イソフタル酸」、「ヘキサメチレンジアミン」「から製造される」は、本願発明1の「テレフタル酸」、「イソフタル酸」、「ヘキサメチレンジアミン」「を重合導入した形態で含む」に相当する。
また、引用発明4のポリアミドは、原料のジカルボン酸混合物として「テレフタル酸」と「イソフタル酸」を使用しているから、引用発明4のポリアミドは、コポリアミドということができる。さらに、引用発明4のポリアミドは、原料のジカルボン酸混合物として芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸及びイソフタル酸を使用し、原料のジアミンとして脂肪族ジアミンであるヘキサメチレンジアミンを使用しており、原料の一部が芳香族化合物を用いているから、引用発明4のポリアミドは、「部分芳香族」ポリアミドであるということができる。
よって、引用発明4の「ポリアミド」は、本願発明1の「部分芳香族コポリアミド」に相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明4とでは、
「部分芳香族コポリアミド(PA)であって、以下:
a)テレフタル酸、
b)イソフタル酸、
c)ヘキサメチレンジアミン
を重合導入した形態で含む、前記部分芳香族コポリアミド」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点3)部分芳香族コポリアミドが、本願発明1では、d)少なくとも1つの環状ジアミン7.5?15モル%(成分a)?d)の合計100モル%に対し)、ここで、該環状ジアミンd)は、イソホロンジアミンを含むか、またはイソホロンジアミンからなり、これを重合導入した形態で含み、と特定しているのに対し、引用発明4では、50モル%のヘキサメチレンジアミンは、その20質量%以下が、他のC_(2-30)-ジアミンによって置き換えられても良い、と特定されている点。

(相違点4)部分芳香族コポリアミドの構成単位の割合に関し、本願発明1では、部分芳香族コポリアミドの構成単位を100モル%とした場合、テレフタル酸が「36?50モル%」、イソフタル酸が「0超?14モル%」、ヘキサメチレンジアミンが「35?42.5モル%」と特定しているのに対し、引用発明4では、ジカルボン酸混合物を100重量%とした場合、テレフタル酸が「60?88質量%」、イソフタル酸が「12?40質量%」であると特定し、ヘキサメチレンジアミンは、その20質量%以下が、他のC_(2-30)-ジアミンによって置き換えられても良い、と特定している点

イ 相違点についての判断
(ア)相違点3について
引用文献4には、課題は、滞留時間を短くし、コポリアミドの高い粘度を許容する芳香族コポリアミドの部分的な製造方法を提供することであることが記載され(摘記(4b))、製造されるポリアミドの性質としては、ガラス転移温度が110?150℃であり、融点が280?320℃の範囲であり、結晶化度が20%を超え、そして透明でないことが好ましいことが記載されている(摘記(4e))。
そうすると、引用文献4の特許請求の範囲の請求項1には、これらの性質を有するポリアミドとして、50モル%のジカルボン酸混合物と50モル%のヘキサメチレンジアミンから成るモノマー混合物を含み、前記ジカルボン酸混合物は、60?88質量%のテレフタル酸及び12?40質量%のイソフタル酸から成り、且つジカルボン酸混合物の20質量%以下が、他のジカルボン酸によって置き換えられても良く、前記ヘキサメチレンジアミンは、その20質量%以下が、他のC_(2-30)-ジアミンによって置き換えられても良いモノマー混合物から製造されるポリアミドが記載されている(摘記(4a))ということができる。
そして、発明の詳細な説明には、上記請求項1に記載されたポリアミドの原料であるモノマーの具体的な記載がされており、ここには、ヘキサメチレンジアミンと併用することができる20%以下の他のC_(2-30)-ジアミンの具体例も記載されている(摘記(4c))が、イソホロンジアミンについては記載がない。また、引用文献4には、上記の記載に加えて、「テレフタル酸、イソフタル酸及びヘキサメチレンジアミンとは別に、他のジカルボン酸又はジアミンを使用しないことが好ましい」という記載もされている(摘記(4d))。

これらの引用文献4の記載を総合すると、いくら引用文献4の特許請求の範囲にヘキサメチレンジアミンは、その20質量%以下が、他のC_(2-30)-ジアミンによって置き換えられても良く、という記載があったとしても、よほどのことがない限り当業者でもヘキサメチレンジアミン以外のジアミンを使用することはないといえる。ましてや、他のジアミンとして具体的な記載がされていないイソホロンジアミンを使用することはない。

そうすると、引用文献4には、引用発明4において、相違点3に係るイソホロンジアミンを含む環状ジアミンを7.5?15モル%用いようとする動機付けがあるとはいえない。

この相違点3に関し、引用文献2及び3の記載事項を検討してみても、引用文献2及び3の記載は、上記(1)イ(ア)で述べたとおりであり、相違点3に係る構成を動機付ける記載はない。

(イ)効果について
上記(ア)で述べたように、本願発明1は、引用発明4において、相違点3を備えることが容易であるとはいえないが、念のため、効果についても検討する。

本願発明1の効果については、上記(1)イ(イ)で述べたとおりである。
一方、引用文献4の段落【0025】には、製造されるポリアミドは、ガラス転移温度が110?150℃の範囲であり、融点が280?320℃の範囲であることが好ましく、また、結晶化度が20%を超え、そして透明でないことが好ましい旨の記載がされ(摘記(4e))、実施例には、これらの性質について、具体的なデータが記載されている(摘記(4f))。なお、実施例2?5には、「Tm_(2)」として左右2つの値が記載されているが、上記【0025】の記載に照らすと、左の値が融点であると解することが自然である。これらの値は、ガラス転移温度は114?125℃、融点は305?311℃にとどまるものである。
また、上記(1)イ(イ)で述べたように、引用文献2及び3には、イソホロンジアミンと他のジアミン成分と併用する場合にガラス転移温度が高いコポリアミドが得られることを示す記載はない。
そうすると、本願発明1は、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏するということができる。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、引用発明4において、相違点3を構成することは当業者が容易に想到できたことであるとはいえない。
そうすると、相違点4について検討するまでもなく、本願発明1は引用発明4及び引用文献2?4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはいえない。

(3)小括
したがって、本願発明1は、引用文献1?4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはいえない。

2.本願発明2?7について
本願発明2?7は、本願発明1を直接的に引用する発明であり、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1?4に記載された事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明8?17について
本願発明8?9は、本願発明1?7のコポリアミドを含むポリアミド成形材料の発明であり、本願発明10?14は、本願発明8?9に記載のポリアミド成形材料から製造される成形体の発明であり、本願発明15?17は、本願発明1?7のコポリアミドまたは本願発明8?9に記載のポリアミド成形材料の使用の発明であって、本願発明1の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1?4に記載された事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?17は、当業者が引用文献1?4に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-09-24 
出願番号 特願2016-518988(P2016-518988)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C08G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 佐藤 健史
大▲わき▼ 弘子
発明の名称 高いガラス転移温度および高い結晶化度を有する部分芳香族コポリアミド  
代理人 森田 拓  
代理人 前川 純一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 上島 類  

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