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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09F
管理番号 1355607
審判番号 不服2018-13761  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-17 
確定日 2019-10-03 
事件の表示 特願2013- 23654「画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月25日出願公開、特開2014-153559〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年2月8日の出願であって、主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 1月20日:出願審査請求書の提出
平成29年 1月19日:拒絶理由通知(同年1月31日発送)
同年 4月 3日:手続補正書・意見書の提出
同年 9月28日:拒絶理由通知(同年10月3日発送)
同年11月24日:期間延長請求書の提出
平成30年 2月 2日:意見書の提出
同年 7月10日:拒絶査定(同年7月17日送達)
同年10月17日:審判請求書・手続補正書の提出
平成31年 4月11日:上申書(補正案)
同年 4月19日:拒絶理由通知(令和元年5月7日発送)
令和元年 7月 8日:手続補正書・意見書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、令和元年7月8日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により補正された請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルより視認側に配置される偏光子、及び
(4)前記偏光子より視認側に4500nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムを2枚有し、
前記2枚の配向フィルムは、互いに異なるリタデーションを有し、その差が1900nm以上であり、
前記2枚の配向フィルムはそれぞれ別個の部材を構成する、
画像表示装置(但し、下記(A)?(C)の画像表示装置を除く:
(A)3000nm以上のリタデーションを有する配向フィルムを3枚以上有し、それらのいずれかの配向主軸が他のいずれかの配向主軸と直交する画像表示装置;
(B)2枚の配向フィルムのうちの一方のリタデーションが5000nmであり、他方のリタデーションが10000nmである画像表示装置;
(C)2枚の配向フィルムの配向主軸同士が形成する角が0度又は90度である画像表示装置)。」(下線は、当審で付した。以下同じ。)

第3 当審の拒絶理由通知書の概要
平成31年4月19日付け拒絶理由通知の理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうち、【理由3】の概要は、次のとおりのものである。

【理由3】(拡大先願)
本願発明1ないし本願発明3は、その出願の日(平成25年2月8日)前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願Bの願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

特許出願B:特願2012-156012号(特開2014-16591号)

第4 特許出願Bの記載及び先願発明
1 特許出願Bは、本願の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされ、本願発明の発明者が特許出願Bの発明をした者と同一ではなく、また本願の出願の時において、本願の出願人が特許出願Bの出願人と同一でもない。
そして、特許出願Bの願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)には、以下の記載がある。

(1)「【請求項1】
第1の透明基材と、該第1の透明基材よりもリタデーションの小さい第2の透明基材を積層してなる多層透明基材であって、
前記第1の透明基材と前記第2の透明基材は、それらの面内において最も屈折率が大きい方向であるそれぞれの遅相軸が、平面視上、互いに直交するように積層されており、
前記第1の透明基材及び前記第2の透明基材は、3000nm以上のリタデーションを有し、
前記第1の透明基材と前記第2の透明基材のリタデーションの差が3000nm以上であることを特徴とする多層透明基材。
【請求項2】
……
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の多層透明基材又は該多層透明基材を含んで構成される積層体と、偏光板と、を備える表示装置。
【請求項9】
……
【請求項14】
一次光源が白色LEDである請求項8から12のいずれかに記載の表示装置。」

(2)「【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に示す通り、本発明の多層透明基材30は、例えば、タッチパネル装置1を構成するタッチパネルセンサー用フィルムとして用いることができる他、様々な表示装置において用いる各種の機能フィルムを構成する積層体の材料として広く用いることができるものである。ここでは、まず、多層透明基材30について説明し、次に、多層透明基材30をタッチパネル用センサーフィルム3の基材として用いる場合、及びその他の機能フィルムの基材として用いる場合について順次説明する。
【0027】
……
【0033】
透明基材のリタデーションが3000nm未満であると、これらを、その遅相軸が直行する状態において積層した多層透明基材とした場合であっても、タッチパネル装置1の表示画像に生じるニジムラを防止することはできない。一方、透明基材301、302のリタデーションの上限は特に限定されないが、30000nm以下であることが好ましく、20000nm程度であることよりが好ましい。30000nmを超えると、これ以上の表示画像のニジムラ改善効果の向上が見られず、又、膜厚が相当に厚くなるため好ましくない。
【0034】
そして、又、相対的に大きいリタデーションを有する第1の透明基材301のリタデーションと、相対的に小さいリタデーションを有する第2の透明基材302のそれぞれのリタデーションの差は、3000nm以上である。
【0035】
……
【0036】
……即ち、各透明基材層の遅相軸が平面視において直行する多層透明基材30においては、Re0=Re1-Re2の関係が成り立つ。即ち、多層透明基材30において、第1の透明基材301と第2の透明基材302のリタデーションの差が3000nm以上であるということは、上記直交条件下において、この多層基材(2枚)を通過する光が、第1の透明基材301と第2の透明基材302で受ける光学的効果は実質的に多層透明基材30の実質的なリタデーションが3000nmであるということと等価である。簡単な例として、……本明細書における多層透明基材の遅相軸の方向とは、相対的に大きなリタデーションを有する第1の透明基材の遅相軸の方向のことを言うものとする。
【0037】
透明基材301、302においては、上記n_(x)-n_(y)(以下、「Δn」とも表記する)は、0.05以上であることが好ましい。上記Δnが0.05未満であると、充分なニジムラの抑制効果が得られないことがある。又、上述したリタデーション値を得るために必要な膜厚が厚くなるため、好ましくない。上記Δnのより好ましい下限は0.07である。
【0038】
透明基材301、302を構成する材料としては、……なかでも、上記透明基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートは汎用性が高く、入手が容易であるからである。本発明においてはPETのような、汎用性が極めて高いフィルムであっても、表示品質の高いタッチパネル装置を作製することが可能な、タッチパネル用センサーフィルムを得ることができる。更に、PETは、透明性、熱又は機械的特性に優れ、延伸加工によりリタデーションの制御が可能であり、固有複屈折が大きく、膜厚が薄くても比較的容易に大きなリタデーションが得られる。
【0039】
……
【0047】
尚、実際の多層透明基材の製造においては、例えば、各透明基材の遅相軸の方向が厳密に90°の角度で直行するものではなくても、それに近似する角度で積層されており、その構成に起因して多層透明基材としての実質的なリタデーション及び引き裂き強度が、本発明と同等の範囲にあるものであれば、そのような多層透明基材も、本発明の均等範囲にあるものである。ここでは、樹脂材料の延伸方向から容易に遅相軸の方向を定められる実施可能な好ましい例として、上記の通り遅層軸の方向を定めているものである。」

(3)【0050】
<タッチパネル用センサーフィルム>
本発明の多層透明基材30を用いた導電性積層体の好ましい一実施形態であるタッチパネル用センサーフィルム3について説明する。
【0051】
図1に示すように、多層透明基材30、保護基材33が、透明粘着層34を介して積層されている。又、第1の透明基材301、第2の透明基材302のそれぞれの裏面側には、導電層311(X方向)、312(Y方向)がそれぞれ形成されている。
【0052】
保護基材33は、透明性を有し、多層透明基材30の表面或いは裏面に配置することにより、導電層311、312等、多層透明基材30の構成部材を外部刺激から保護しうるものであれば特段限定されないが、例えば、ニジムラの発生や防止に関与しない400nm未満の透明基材を用いるか、或いは、リタデーションが3000nm以上の透明基材を、多層透明基材のニジムラ防止効果を相殺しない方向、一般的には、第1の透明基材301と遅相軸の方向を同一の方向として積層することが好ましい。
【0053】
導電層311、312は、多層透明基材30上、或いは、第1の透明基材301、302上に形成された透明導電材料層をパターニングするか、或いは、不透明な導電層をパターン形成することによって形成することができる。
【0054】
導電層311、312を不透明な導電層をパターン形成することによって形成する場合は、開口部の存在によって、見かけ上、導電層311、312が透明に見えるものであればよい。本発明における「実質的に透明なパターン」とは、例えば、上記構成を備えることにより、見かけ上、透明に見えるパターンのことを言う。」

(4)「【0074】
<タッチパネル装置>
上記説明したタッチパネル用センサーフィルム3や電磁波遮蔽フィルム3Aの等の導電性積層体、或いは、反射防止フィルム3B等の光学積層体の少なくともいずれか一つを備えるタッチパネル装置は、いずれも本発明の表示装置の実施形態の一つ中である。以下、その中から、タッチパネル用センサーフィルム3を液晶ディスプレイ(LCD)を備えるタッチパネル方式の表示装置に配置したタッチパネル装置1について説明する。
【0075】
図1に示すように、本発明のタッチパネル用センサーフィルム3を用いた表示装置の一例であるタッチパネル装置1は、透明表面基板2、タッチパネル用センサーフィルム3、偏光板4、カラーフィルター5、液晶パネル6がこの順序で配置された構成を有する。タッチパネル装置1は、液晶パネル6のカラーフィルター5と反対側にバックライト8を有するものであり、更に、液晶パネル6を、2つの偏光板で挟持された構造であってもよく、この場合、液晶パネル6のカラーフィルター5と反対側面に偏光板4と同構成の偏光板7が設けられることとなるが、これら2つの偏光板4、7は、通常、互いの吸収軸が90°となるように配設(クロスニコル)される。
【0076】
……
【0080】
バックライト8の一次光源は、特に限定されないが、白色発光ダイオード(白色LED)であることが好ましい。上記白色LEDとは、蛍光体方式、即ち化合物半導体を使用した青色光又は紫外光を発する発光ダイオードと蛍光体を組み合わせることにより白色を発する素子のことである。なかでも、化合物半導体を使用した青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色発光ダイオードは、連続的で幅広い発光スペクトルを有していることからニジムラの改善に有効であるとともに、発光効率にも優れるため、本発明における上記バックライトの一次光源として好適である。又、消費電力の小さい白色LEDを広汎に利用可能になるので、省エネルギー化の効果も奏することが可能となる。」

(5)「【0095】
(実施例1)
<タッチパネル用センサーフィルム作成>
以下の工程により、実施例1のタッチパネル装置に用いるタッチパネル用センサーフィルムを作成した。
……
<タッチパネル用センサー作成>
前記のタッチパネル用センサーフィルムを厚さ3ミリのガラス板上に、厚さ25ミクロンの透明接着剤層を介して積層し、更に実施例1の透明基材を所定のサイズに打ち抜いたものを保護のために積層してタッチパネル用センサーとした。
<タッチパネル装置作成>
次に、液晶モニター(FLATORON IPS226V(LG Electronics Japan社製))の観測者側の偏光板上側に、得られたタッチパネル用センサーをガラス板が観察者側に来るよう配置し、タッチパネル装置を作製した。尚、タッチパネル用センサーは、該タッチパネル用センサーの多層透明基材の遅相軸と液晶モニターの観測者側の偏光板の吸収軸とのなす角度が0°となるように配置した。
【0096】
……
【0100】
(実施例6)
タッチパネル用センサーの多層透明基材の遅相軸の方向と、液晶モニターの観察者側の偏光板の吸収軸とのなす角度を45°とした以外は、実施例1と同様の方法でタッチパネル装置を作製した。
【0101】
……
【0106】
【表1】


(6)図1は、以下のものである。


1 タッチパネル装置
2 透明表面基板
3 タッチパネル用センサーフィルム
30 多層透明基材
301、302 透明基材
311、312、313 導電層
320 微小突起層
33 保護基材
34 透明粘着層
4 偏光板
5 カラーフィルター
、6 液晶パネル
7 偏光板
8 バックライト

2 先願明細書等から把握される発明
(1)上記1(1)の記載からして、先願明細書等には、
「白色LEDの一次光源(【請求項14】)と、
多層透明基材と、偏光板と、を備える表示装置(【請求項8】)であって、
前記多層透明基材(【請求項1】)は、
第1の透明基材と、該第1の透明基材よりもリタデーションの小さい第2の透明基材を積層してなり、
前記第1の透明基材と前記第2の透明基材は、それらの面内において最も屈折率が大きい方向であるそれぞれの遅相軸が、平面視上、互いに直交するように積層されており、
前記第1の透明基材及び前記第2の透明基材は、3000nm以上のリタデーションを有し、
前記第1の透明基材と前記第2の透明基材のリタデーションの差が3000nm以上である、表示装置」が記載されているものと認められる。

(2)上記1(2)の【発明を実施するための形態】に関する記載から、以下のことが把握できる。
ア 上記(1)の「第1の透明基材」及び「第2の透明基材」は、PETフィルムであってもよいこと(【0038】)。

イ 上記(1)の「互いに直交するように積層」とは、厳密に90°の角度で直交するように積層するだけではなく、例えば、90°に近似する角度で積層してもよいこと(【0047】)。

ウ 上記(1)の「3000nm以上のリタデーション」における上限は、好ましくは、30000nm以下であること(【0033】)。

エ 上記(1)の「多層透明基材」は、「タッチパネル用センサーフィルム」であってもよいこと(【0026】)。

(3)上記(1)及び(2)を整理すると、先願明細書等には、以下の表示装置(以下「表示装置」という。)が記載されているものと認められる。

「白色LEDの一次光源と、
タッチパネル用センサーフィルムと、
偏光板と、を備える表示装置であって、
前記タッチパネル用センサーフィルムは、
第1のPETフィルムと、該第1のPETフィルムよりもリタデーションの小さい第2のPETフィルムを積層してなり、
前記第1のPETフィルムと前記第2のPETフィルムは、
それらの面内において最も屈折率が大きい方向であるそれぞれの遅相軸が、平面視上、例えば、90°に近似する角度で積層されており、
両者は、3000nm以上30000nm以下のリタデーションを有し、
両者のリタデーションの差が3000nm以上である、表示装置」

(4)上記1(3)の<タッチパネル用センサーフィルム>に関する記載を踏まえて、図1を見ると、以下のことが把握できる。

タッチパネル用センサーフィルム3は、
保護基材33上に、導電層311(X方向)が形成された第1の透明基材301(第1のPETフィルム)と導電層312(Y方向)が形成された該第1の透明基材301よりもリタデーションの小さい第2の透明基材302(第2のPETフィルム)が積層されたものであること(【0051】)。

(5)上記1(4)の<タッチパネル装置>に関する記載から、以下のことが把握できる。
ア 表示装置は、例えば、「タッチパネル装置1」であって、「透明表面基板2、タッチパネル用センサーフィルム3、偏光板4、カラーフィルター5、液晶パネル6、偏光板7及びバックライト8から構成される」こと(【0075】)。

イ バックライト8は、「連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオード」であってもよいこと(【0080】)。

(6)上記1(5)の(実施例1)ないし(実施例6)に関する記載を踏まえて、表1を見ると、以下のことが把握できる。

第1の透明基材のリタデーションを「9900nm」又は「6600nm」としたとき、第2の透明基材のリタデーションは、それよりも小さな、例えば、「3300nm」であってもよいこと。

(7)上記(1)ないし(6)の検討からして、先願明細書等には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているものと認められる。

「透明表面基板2、タッチパネル用センサーフィルム3、偏光板4、カラーフィルター5、液晶パネル6、偏光板7及びバックライト8から構成されるタッチパネル装置1であって、
前記バックライト8は、連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオードであり、
前記タッチパネル用センサーフィルム3は、
保護基材33上に、導電層311(X方向)が形成された第1のPETフィルム301と導電層312(Y方向)が形成された該第1のPETフィルム301よりもリタデーションの小さい第2のPETフィルム302が積層されたものであり、
前記第1のPETフィルム301と前記第2のPETフィルム302は、それらの面内において最も屈折率が大きい方向であるそれぞれの遅相軸が、平面視上、例えば、90°に近似する角度で積層されており、
両者は、3000nm以上30000nm以下のリタデーションを有するものであって、かつ、そのリタデーションの差が3000nm以上であり、
前記第1のPETフィルム301のリタデーションを、9900nm又は6600nmとしたとき、前記第2のPETフィルム302のリタデーションは、それよりも小さな、例えば、3300nmである、タッチパネル装置1。」

第5 対比・判断
1 対比
(1)先願発明の「連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオード」は、本願発明の「連続的な発光スペクトルを有する白色光源」に相当する。

(2)本願発明の「画像表示セル」は、本願明細書の「【0010】 画像表示装置は、典型的に、画像表示セル及び偏光板を有する。画像表示セルには、典型的に、液晶セル又は有機ELセルが用いられる。画像表示セルとして液晶セルを用いた画像表示装置の代表的な模式図を図1に示す。」との記載によれば、「液晶セル」を含むものである。
一方、先願発明の「液晶パネル6」が「液晶セル」を含むことは、当業者に明らかである。
よって、本願発明と先願発明とは、「画像表示セルを有する」点で一致する。

(3)引用発明の「(視認側の)偏光板4」が「偏光子」を有することは、当業者に明らかであるから、本願発明と先願発明とは、「画像表示セルより視認側に配置される偏光子を有する」点で一致する。

(4)先願発明の「第1のPETフィルム301」と「第2のPETフィルム302」は、「『3000nm以上30000nm以下のリタデーションを有する』『配向フィルム』」であって、「かつ、そのリタデーションの差が3000nm以上」であるから、
本願発明と先願発明とは、「偏光子より視認側に150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムを2枚有し、前記2枚の配向フィルムは、互いに異なるリタデーションを有し、その差が1900nm以上である」点で一致する。

(5)本願発明の「2枚の配向フィルムはそれぞれ別個の部材を構成する」における「別個の部材」の意味について、本願明細書の記載を参酌して検討する。

ア 本願明細書には、以下の記載がある。
「【0014】
<配向フィルムの位置関係>
画像表示装置には、種々の目的で配向フィルムが使用され得る。尚、本書において、配向フィルムとは、複屈折性を有する高分子フィルムのことを意味する。……図1の液晶表示装置において、配向フィルムは、……、スペーサー(13)より光源側にある透明導電性フィルム(11)の基材フィルム(11a)(以下、「光源側基材フィルム」と称する)、スペーサー(13)より視認側にある透明導電性フィルム(12)の基材フィルム(12a)(以下、「視認側基材フィルム」と称する)、視認側偏光子保護フィルム(10b)と光源側基材フィルム(11a)との間にある飛散防止フィルム(14)(以下、「光源側飛散防止フィルム」と称する)及び視認側基材フィルム12aより視認側にある飛散防止フィルム(15)(以下、「視認側飛散防止フィルム」と称する)に使用され得る。」

「【0018】
本書において、単一の部材に複数の配向フィルム(フィルム群)が使用される場合、それらは1枚のフィルムとみなす。ここで、部材とは、例えば、偏光子保護フィルム、光源側飛散防止フィルム、光源側基材フィルム、視認側基材フィルム、視認側飛散防止フィルム等の機能的及び/又は目的の観点から別個の部材と判断されるものを意味する。」

イ 上記記載からして、「別個の部材」とは、
「光源側にある透明導電性フィルム」や「視認側にある透明導電性フィルム」等のように、機能的に単一の部材とはみなせない部材のことを意味するものと解される。

ウ 一方、引用発明の「導電層311(X方向)が形成された第1のPETフィルム301」と「導電層312(Y方向)が形成された該第1のPETフィルム301よりもリタデーションの小さい第2のPETフィルム302」は、異なる方向に導電層が形成され、機能的に単一の部材とはみなせない部材であるから、「別個の部材」であるといえる。

エ よって、本願発明と先願発明とは、「2枚の配向フィルムはそれぞれ別個の部材を構成する」点で一致する。

(6)先願発明の「タッチパネル装置1」は、本願発明の「画像表示装置」に相当する。

(7)先願発明が、本願の請求項1に記載された「(A)?(C)の画像表示装置」以外の画像表示装置を含むか否か検討する。

ア 「(A)の画像表示装置」について
先願発明は、「第1のPETフィルム301」と「第2のPETフィルム302」を備えるから、「(A)の画像表示装置」には該当しない。

イ 「(B)の画像表示装置」について
先願発明は、「(B)の画像表示装置」以外の画像表示装置を含むことは、明らかである。

ウ 「(C)の画像表示装置」について
先願発明は、「それぞれの遅相軸が、平面視上、例えば、90°に近似する角度で積層され」たものであるから、「(C)の画像表示装置」以外の画像表示装置を含むことは、明らかである。

(8)以上のことから、本願発明と先願発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
画像表示セル、
前記画像表示セルより視認側に配置される偏光子、及び
前記偏光子より視認側に150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムを2枚有し、
前記2枚の配向フィルムは、互いに異なるリタデーションを有し、その差が1900nm以上であり、
前記2枚の配向フィルムはそれぞれ別個の部材を構成する、
画像表示装置(但し、下記(A)?(C)の画像表示装置を除く:
(A)3000nm以上のリタデーションを有する配向フィルムを3枚以上有し、それらのいずれかの配向主軸が他のいずれかの配向主軸と直交する画像表示装置;
(B)2枚の配向フィルムのうちの一方のリタデーションが5000nmであり、他方のリタデーションが10000nmである画像表示装置;
(C)2枚の配向フィルムの配向主軸同士が形成する角が0度又は90度である画像表示装置)。」

(9)一方、両者は、以下の点で、一応、相違する。
<相違点>
2枚の配向フィルムのリタデーションに関して、
本願発明は、「(2枚とも)4500nm以上」であるのに対して、
先願発明は、「(2枚とも)3000nm以上30000nm以下のリタデーションを有するもの」ではあるものの、(2枚とも)4500nm以上ではない点。

2 判断
(1)上記<相違点>について検討する。
ア 先願明細書の【0036】には「即ち、多層透明基材30において、第1の透明基材301と第2の透明基材302のリタデーションの差が3000nm以上であるということは、上記直交条件下において、この多層基材(2枚)を通過する光が、第1の透明基材301と第2の透明基材302で受ける光学的効果は実質的に多層透明基材30の実質的なリタデーションが3000nmであるということと等価である。」と記載されている。

イ このことを踏まえると、
先願発明の「両者は、3000nm以上30000nm以下のリタデーションを有するものであって、かつ、そのリタデーションの差が3000nm以上であり、
前記第1のPETフィルム301のリタデーションを、9900nm又は6600nmとしたとき、前記第2のPETフィルム302のリタデーションは、それよりも小さな、例えば、3300nmである」との発明特定事項の技術的意義は、
「3000nm以上30000nm以下のリタデーションを有するPETフィルム」を2枚選択する際の組合せを、両者が直交、すなわち、相滅の関係に配置されたとしても、実質的なリタデーションが3000nm以上となる組合せにすることにあるものと認められる。

ウ そうすると、当業者は、
先願発明には、第1のPETフィルム301のリタデーションを9900nmとしたとき、実質的なリタデーションが3000nm以上となる組合せを得るための第2のPETフィルム302が「3300nmの…第2のPETフィルム302」に限られないこと、すなわち、「4900nmの…第2のPETフィルム302」や「5900nmの…第2のPETフィルム302」等の「リタデーションが4500nm以上のPETフィルム」であってもよいものと理解する。

エ 一方、本願明細書には、以下の記載がある。
「【0019】
画像表示装置が表示する画像における虹斑等の色調の乱れを抑制するという観点から、前記2枚の配向フィルムのリタデーションの差は、好ましくは1800nm以上、好ましくは2500nm以上、好ましくは3200nm以上、好ましくは3500nm以上、好ましくは4000nm以上、好ましくは5000nm以上である。」

「【0024】
<配向フィルムのリタデーション>
前記2枚の配向フィルムのリタデーションは、虹斑を低減するという観点から、3000nm以上150000nm以下であることが好ましい。当該配向フィルムのリタデーションの下限値は、好ましくは4500nm以上、好ましくは6000nm以上、好ましくは8000nm以上、好ましくは10000nm以上である。」

「【0106】
【表2】(横長に表記した。)



上記記載を踏まえて、試験No2及び試験No4を見ると、配向フィルムのリタデーションが「3200nm」であっても評価は「◎」であり、逆に、「4500nm以上」としても、試験No5及び試験No11を見れば、評価が低いことが理解できる。
そうすると、本願発明は、本件補正により、試験No2及び試験No4を排除したものの、顕著な効果を奏する発明に限定したものであるともいえない。

オ 以上の検討によれば、上記相違点は、具体化手段における微差というべきものであるから、実質的な相違点であるとはいえない。

(2)小括
以上のとおりであるから、本願発明と先願発明とは、実質同一である。

3 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和元年7月8日付け意見書において、以下のように主張することから、この点について検討する。

「上記のとおり、先願発明2では、第1ポリエスエルフィルム基材と第2ポリエステルフィルム基材は、それらの遅相軸が直交するように配設されています。これに対し、補正後の請求項1に係る発明は、2枚の配向フィルムの配向主軸同士が直交(=90度で交わる)する場合は除かれています。よ
って、補正後の請求項1に係る発明は、先願2との関係で特許法第29条の2の規定に該当しません。同じ理由により、補正後の請求項2及び3に係る発明も先願2との関係で特許法29条の2の規定に該当しません。」(第5頁後段)
当審注:先願2とは、審決で引用する「特許出願B」である。

(1)本件補正により、いわゆる「除くクレーム」となった。
つまり、本件補正により、当審拒絶理由で認定した「先願発明2」と重複する点につき「除くクレーム」としたものである。

(2)しかしながら、上記「第5 1(7)ウ」で検討したとおり、先願発明は、二つの遅相軸が直交(90度)するように積層した以外の発明も包含するものである。

(3)以上のことから、請求人の主張は、採用できない。

4 判断のまとめ
以上のとおり、本願発明は、先願明細書等に記載された発明(先願発明)と実質的に同一である。
そして、この出願の発明者がその出願前の特許出願Bに係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願Bの出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
本願発明は、特許法第29条の2の規定により、特許をすることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-29 
結審通知日 2019-07-30 
審決日 2019-08-19 
出願番号 特願2013-23654(P2013-23654)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (G09F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀部 修平岩村 貴  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 星野 浩一
山村 浩
発明の名称 画像表示装置  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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