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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G09B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G09B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  G09B
管理番号 1356536
審判番号 無効2018-800056  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-05-09 
確定日 2019-10-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第3799107号発明「住宅地図」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の手続の経緯の概略は、以下のとおりである。

平成 8年10月15日 本件特許出願(特願平8-271986号)
平成18年 4月28日 本件特許の登録(特許第3799107号)
平成30年 5月 9日 本件審判請求
9月 3日 審判事件答弁書
10月 9日付け 審理事項通知
11月20日 口頭審理陳述要領書(請求人)
口頭審理陳述要領書(被請求人)
12月 4日 第1回口頭審理
12月17日 上申書(被請求人)
平成31年 1月 8日 上申書(請求人)
令和 1年 8月20日 審理終結通知
令和 1年 8月22日 上申書(請求人)


第2 本件特許発明
本件特許第3799107号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
A:住宅地図において,
B:検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に,
C:縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成し,
D:該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し,
E:付属として索引欄を設け,
F:該索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した,
ことを特徴とする住宅地図。」(審決注:当審により、本件特許発明を構成要件A乃至Fに分説した。以下同じ。)


第3 請求人の主張
1.無効理由1(特許法第36条第6項2号(明確性要件違反))
(1)構成要件B「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」について
ア.本件特許の請求項1には、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」との記載があるところ、「検索の目安となる」か否かは主観的な評価により左右されるものである。
本件特許の請求項1には、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」との記載があるところ、…また「著名ビル等」とは、著名の基準が不明であるし、「ビル等」の「等」に何が含まれるか不明である。
(無効審判請求書6頁19?22行)

イ.目的とする建物を探し出す過程で必要な情報か否かは、結局、検索する者の地理的な知識等に左右されるものであるから、検索者の主観に左右される事柄である。
…「検索の目安となる」か否かは、おおよそ客観的に判別することができず、当業者が本件発明の外縁を把握することはおよそ不可能であるから、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。
…しかし、住宅地図作製業者が住宅地図作製の過程で調査をするとしても、その調査は、各住宅地図作製業者が独自に行うものであり、調査時期、調査頻度等は当然に各住宅地図作製業者により異なってくる以上、かかる調査に基づいて、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」を選択したとしても、その内容は各住宅地図作製業者により異ならざるを得ず、客観的に判断できるものではないことは明らかである。
しかも、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」という要件の解釈の根拠として被請求人が挙げる本件特許明細書【0007】には、「・・・住宅地図の利用においては、一般に、目的とする建物を探し出す過程で必要な情報は、公共施設や著名ビル等・・・」と記載しており、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」の該当性において重要な判断基準となる目的とする建物を探し出す過程で必要な情報に該当するかどうかは、住宅地図の利用において判断されるべき旨が明記されている。したがって、住宅地図を利用するユーザにとって「検索の目安となる」か否か、「著名」であるか否かを判別できなければならない。そして、検索するユーザにとって「検索の目安となる」か否か、「著名」であるか否かは、専ら検索者の主観に左右されるのは既に主張したとおりであって、これが当業者にとっても不明確であることに変わりない。
…しかし、「著名」かどうかは、どの範囲の人を基準に判断するかによって左右されるものであり、これも客観的、一義的に決定することはできない。
…検索に必要な情報となるのであり、「著名」かどうかは、検索に必要な情報かどうかとは結びついておらず、別途、客観的な基準で判断する必要があるが、これに関して、本件特許明細書では、何らの記載もされていない。よって、「著名」かどうかは、おおよそ客観的に判別することができない不明確なものであり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといわざるを得ない。
…発明の要旨として、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」について、検索の目安となるものであれば、一般住宅や建物も「等」に含まれるのか、「検索の目安となる」は「公共施設や著名ビル」を修飾するに過ぎず、「等」は、公共施設や著名ビルに準じたものに限定され、一般住宅や建物は含まれないのかなどを一義的に確定することもできない。
よって、被請求人の反論はいずれも理由がなく、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であることは明らかである。
(口頭審理陳述要領書5頁2行?8頁下から2行)

(2)構成要件C「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた」について
ア.また、本件特許の請求項1には、「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」との記載があるところ、「縮尺を圧縮」とは、相対的なものに過ぎず、どの程度の縮尺であれば「縮尺を圧縮」したといえるかは全く不明である。また、「広い鳥瞰性」とは主観的な評価により左右されるものである。
(無効審判請求書6頁23行?7頁1行)

イ.従来技術である住宅及び建物の名称が記載された住宅地図の縮尺は、地図により異なり、比較の対象となる縮尺が不明である。また、従来技術と比較してどの程度高い縮尺率であれば足りるかも不明である。
…「検索の目安」は、上述のとおり、主観的評価でしか定まらず不明確であるから、上記解釈自体不明確である。また、被請求人の主張する「より広い範囲を同一ページに納める」は、比較の対象が不明である。また、審理事項通知書でも指摘があるように「鳥瞰」とは、「鳥が見おろすように、高い所から広範囲に見おろすこと。転じて、全体を大きく眺め渡すこと。」とされているのに対して、「視野の邪魔が排除された状態を指す」がどこから導かれるのか不明である。
…よって、「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるというより他ない。
(口頭審理陳述要領書9頁13行?10頁10行)

(3)構成要件F「全ての」について
また、本件特許の請求項1には、「前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地」との記載があるところ、「地図に記載の全ての」との修飾が「住宅建物」に係るのか、「住宅建物の所在する番地」に係るのか不明である。つまり、地図に記載された「全ての建物」についての番地を意味するのか(番地が記載されていない建物の番地まで含むのか)、地図に記載された「全ての番地」を意味するのか(番地が記載されていない建物の番地までは含まないのか)、不明である。
(無効審判請求書7頁2?7行)

2.無効理由2-1(特許法第29条第1項第3号(新規性欠如))(審決注:無効理由2のうち、新規性欠如の理由を「無効理由2-1」とし、進歩性欠如の理由を「無効理由2-2」とする。以下同様。)
(1)甲第1号証について
甲1発明は、次の構成を有する。
(ア)住宅地図において、
(イ)検索の目安となり得る公共施設や一部の一般住宅及び建物等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物の多角形と番地のみを記載すると共に、
(ウ)1/1800の縮尺の地図を構成し、
(エ)該地図を記載した各ページを、横方向にAないしEの記号を付して5分割し、縦方向に1ないし5の番号を付して5分割して区画化し、
(オ)付属として町名別番地索引を設け、
(カ)該町名別番地索引に、前記地図に記載された実質的に全ての(住宅建物の所在する)番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の座標記号番号と一目で分かるよう対応させて掲載した、
(キ)ことを特徴とする住宅地図
(無効審判請求書17頁4?16行)

(2)本件発明と甲1発明との対比
ア.構成要件A
甲1発明の構成(ア)の「住宅地図」は、構成要件Aの「住宅地図」に相当する。
よって、甲1発明の構成(ア)は、本件発明の構成要件Aと一致する。

イ.構成要件B
…本件発明の構成要件Bにある「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」の意義は不明確である。
仮に、発明の要旨認定として、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」とは、「検索の目安となり得る公共施設、著名ビル、その他の一般住宅、建物」をも含むと理解されるのであれば、甲1発明の構成(イ)の○1(審決注:丸数字は、「○1」と表記する。以下、同様。)「検索の目安となり得る公共施設や一部の一般住宅及び建物等」は、本件発明の構成要件Bにある「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」に相当する。
また、○2「住宅及び建物の多角形と番地」は、構成要件Bの○2「住宅及び建物のポリゴンと番地」に相当する。
よって、仮に、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」とは、「検索の目安となり得る公共施設、著名ビル、その他の一般住宅、建物」をも含むと理解されるのであれば、甲1発明の構成(イ)は、本件発明の構成要件Bと一致する。…

ウ.構成要件C
…本件発明の構成要件Cにある「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」の意義は不明確である。
もっとも、本件特許明細書を参酌すると、「従来の住宅地図・・・の縮尺は、実用上、小さいものでも市街地で1,000分の1から1,500分の1の大きさであることが要求される。」(段落【0002】)とした上で、「本発明の課題は、上記従来の実情に鑑み、・・・縮尺率が高く小型で廉価であ・・る住宅地図を提供することである。」(段落【0010】)とされている。
かかる記載を参酌しても、「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」の意義を一義的に理解することはできないが、これを参酌して、発明の要旨認定として、仮に「1,500分の1」よりも縮尺を圧縮した地図が「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」に含まれるとすれば、甲1発明の構成(ウ)の「1/1800の縮尺の地図」は、構成要件Cの、○1「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」に相当する。
よって、仮に「1,500分の1」よりも縮尺を圧縮した地図が「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」に含まれるとすれば、甲1発明の構成(ウ)は、本件発明の構成要件Cと一致する。…

エ.構成要件D
甲1発明の構成(エ)のうち、○1「横方向にAないしEの記号を付して5分割し、縦方向に1ないし5の番号を付して5分割して区画化し」は、構成要件Dの、「適宜に分割して区画化し」に相当する。
よって、甲1発明のdは、本件発明の構成要件Dと一致する。

オ.構成要件E
甲1発明の構成(オ)のうち、○1「町名別番地索引」は、構成要件Eの、○1「索引欄」に相当する。
よって、甲1発明のeは、本件発明の構成要件Eと一致する。

カ.構成要件F
…本件発明の構成要件Fの「前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地」との記載は、「地図に記載の全ての」との修飾が「住宅建物」に係るのか、「住宅建物の所在する番地」に係るのか不明である。
ここで、仮に、発明の要旨認定として、「地図に記載の全ての」との修飾が「住宅建物の所在する番地」に係るとして、「前記地図に記載の全ての(住宅建物の所在する)番地」を意味するとすれば、甲1発明の構成(カ)のうち、○1「前記地図に記載された実質的に全ての(住宅建物の所在する)番地」は、本件発明の「前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地」に相当する。
また、甲1発明の構成(カ)のうち、○2「(番地を)前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の座標記号番号と一目で分かるよう対応させて掲載した」は、「(番地を)前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した」に相当する。
よって、仮に、「地図に記載の全ての」との修飾が「住宅建物の所在する番地」に係るとすれば、甲1発明の構成(カ)は、本件発明の構成要件Fと一致する。

キ.構成要件G
甲1発明の構成(キ)の「住宅地図」は、構成要件Gの「住宅地図」に相当する。
よって、甲1発明の構成(キ)は、本件発明の構成要件Gと一致する。

ク.小括
以上のとおり、仮に、発明の要旨認定として、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」とは、「検索の目安となり得る公共施設、著名ビル、その他の一般住宅、建物」を含み、「1,500分の1」よりも縮尺を圧縮した地図が「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」に含まれ、「地図に記載の全ての」との修飾が「住宅建物の所在する番地」に係ると理解されるならば、本件発明は、甲1発明と同一である。したがって、本件発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当するため、無効とすべきものである。
(無効審判請求書17頁17行?21頁3行)

(3)「無効理由2-1(特許法第29条第1項第3号違反)について」
ア.甲1発明において「居住人氏名や建物名称の記載を省略し」ていること
…本件発明は単に「居住人氏名や建物名称の記載を省略し」とされているに過ぎず、省略された理由に何らの限定もない。したがって、万が一、居住人がいない、あるいは建物名称が無い等の理由があるとしても、「居住人氏名や建物名称の記載を省略」されていることにはかわりないから、甲1発明において「居住人氏名や建物名称の記載を省略し」との構成が開示されているとすることに何の問題もない。
…甲1の2枚目の「ゼンリン住宅地図 みかた・使いかた」には、「*相手方の住所がわかれば、まず「町名索引」を開いて記載ページをお探しください。*記載ページがわかりましたら、記憶されている建物や道路を手がかりに、相手の所在地を追ってみてください。*もちろん、番地をたよりに相手方を探すこともできます。」(強調付加)とされており、目的とする建物を探す際に用いられる情報は専ら住所であり、居住人氏名等が必須とされているわけではない。
したがって、甲1は、居住人氏名や建物名称については全て地図上に当該名前を記載することを前提とするものでないことは明らかである…本件発明は単に「居住人氏名や建物名称の記載を省略し」とされており、居住人氏名や建物名称が記載された多角形と棒線で連結されていようとも、当該多角形には、居住人氏名や建物名称を記載できるにもかかわらず、その記載を省略していることには何の変りもなく、構成として何ら相違することがない。

イ.甲1の50頁の地図に記載された番地と索引に記載された番地について
審理事項通知書では、甲1の50頁の地図に記載された番地の一部が索引に記載されていないにもかかわらず、「ほぼ全ての番地」あるいは「実質的に全ての番地」が記載されているといえるのか釈明するよう求められている。
この点、後記で詳述するとおり、甲1の49頁の地図に記載された番地の全てが索引に記載されていると当業者は理解できる(誤記については誤記であると理解できる。)。したがって、そもそも、甲1の50頁の地図を問題にするまでもなく、甲1には、索引に、地図に記載された全ての番地を掲載する発明が開示されている。
また、この点を措くにしても、後記で詳述するとおり、当業者は、甲1の49頁の地図に記載された23個の番地の全てが、索引に掲載されていると理解し、甲1の50頁の地図に記載された44個の番地のうち、43個については、索引に掲載されていると理解できること、索引に掲載されていないのはわずかに172番地の1つに過ぎず、過誤により欠落したに過ぎないと理解する。
したがって、かかる記載に触れた当業者は、「ほぼ全ての番地」が記載されていると理解するし、「実質的に全ての番地」が記載されていると理解するから、かかる構成が開示されているとすることに何らの問題もない。
なお、「居住人氏名や建物名称の記載を省略し」との関係で念のため補足すると、甲1の49?50頁では、いたるところで「居住人氏名や建物名称の記載」が省略されているため、当業者が、かかる記載を省略するとの構成を読み取れるのに対し、上記番地については、49頁との関係では全ての番地が、50頁との関係でもほぼ全ての番地(例外はわずか1例の過誤による欠落のみ。)が掲載されていることから、「全ての番地」を記載する構成が開示されていると理解できる。

ウ.本件発明の構成要件B及びCを一体として捉えるべき旨の被請求人の主張について
…この点、そもそも、本件発明の構成要件B及びCを一体として捉えるべき旨の被請求人の主張は、その趣旨自体が不明である。
また、本件発明の課題として記載されている【0010】を見ても、構成要件B及びCを一体として捉えることで初めて解決できるといえるものは見当たらないから、本件発明の構成要件B及びCを一体として捉える根拠はなく、被請求人の主張は理由がない。
また、構成要件B及びCを一体として捉えるにしても、甲1発明は、構成(イ)及び(ウ)を有しており、それぞれが本件発明の構成要件B及びCに一致するものであるから、本件発明の新規性欠如を左右するものではない。
また、この点を措くにしても、甲1には、住宅や建物の多角形であって、その中に居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮された多角形があり、その多角形には居住人氏名や建物名称が省略されている(例えば、50頁のA-3やD-4など多数見受けられる。)。
したがって、甲1には、構成(ア)?(キ)に加え、「検索の目安となり得る公共施設や一部の一般住宅及び建物等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物の多角形と番地のみを記載すると共に、居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた1/1800の縮尺の地図を構成し、」(構成(イ)(ウ))との構成を有する甲1発明’も開示されている。
したがって、構成要件B及びCを一体として捉えても、かかる構成(イ)(ウ)と一致するから、本件発明は甲1発明’と同一である。
(口頭審理陳述要領書(請求人)10頁11行?14頁11行)

3.無効理由2-2(特許法第29条第2項(進歩性欠如))
(1)相違点の検討
ア.相違点1について
(ア)相違点1
…甲1発明の構成(イ)は、「公共施設や一部の一般住宅及び建物等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し」(強調は請求人による。)となっており、一部の一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称が省略されていないのに対し、本件発明の構成要件Bは、検索の目安となる公共施設、著名なビル・住宅・建物を除く「一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し」とされており、一般住宅及び建物については、居住人氏名や建物名称が省略されている点で形式的には相違し得る(相違点1)。
(イ)相違点1の容易想到性(設計事項)
しかし、甲1発明では、現に、一部の「一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し」ており、どの範囲で「居住人氏名や建物名称の記載を省略」するかは、縮尺等に応じて、見易さ等の観点から、当業者が適宜選択し得る設計事項であることは明らかである。
よって、相違点1があるとしても、当業者は容易に想到できる。
(ウ)相違点1の容易想到性(周知技術等の適用)
そうでなくとも、甲1発明に、周知技術又は甲2発明若しくは甲3発明を容易に組み合わせることができ、上記相違点1に容易に想到する。
(甲2発明)
まず、本件特許権の出願日(平成8年10月15日)前である、大正11年12月20日に発行された刊行物である住宅地図(甲2号証、東京市四谷区地図)には、公共施設(代々木停車場)や著名ビル(慶應義塾醫科大學附属病院)について、名称が記載されている一方で、一般住宅及び建物については、居住人氏名や建物の記載が省略された住宅地図が記載されている(以下、「甲2発明」という。)。
(甲3発明)
また、本件特許権の出願日(平成8年10月15日)前である、昭和9年12月ころに発行された刊行物である住宅地図(甲3号証、火災保険赤坂区地図)にには、公共施設(赤坂帝国館)や著名ビル(前田病院等)については、その建物の平面外形や番地に加え、名称も記載されている一方で、一般住宅及び建物については、居住人氏名や建物の記載が省略された住宅地図が記載されている(以下、「甲3発明」という。)。
甲2発明及び甲3発明に示されたとおり、「一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し」という構成を有する地図は、今から100年程前から広く使用されており、周知技術である。
本件発明において、「一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し」という構成は、制作費を廉価とすること(本件特許明細書【0004】)、検索を迅速とすること(本件特許明細書【0007】)、プライバシーの保護(本件特許明細書【0008】)という課題を解決するための構成ではあるが、これらの課題は、既に上記の周知技術により解決済みのものである。したがって、甲1発明に接した当業者が周知技術で解決済みの課題を認識してこれを適用することには何らの困難性もなく、容易に想到できるものである。
また、この点は、甲2発明又は甲3発明をそれぞれ単独で把握しても同様である。
したがって、当業者が、甲1発明において、一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略している構成とすることは、既に解決済みの課題に対応する解決手段である上記周知技術を採用し、あるいは甲2発明又は甲3発明の上記構成を採用することで、容易に想到できるものであり、相違点1は容易想到である。
(無効審判請求書21頁13行?23頁8行)

イ.相違点2について
…甲1発明は、「1/1800の縮尺の地図」であるのに対し、本件発明は「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」という点において相違し得る(相違点2)。
しかし、縮尺をどのように設定するかは、当業者が適宜設定できる設計事項であるから、当業者が上記相違点に想到することは容易である。
(無効審判請求書23頁13?17行)

ウ.相違点3について
…甲1発明では、「該町名別番地索引に、前記地図に記載された実質的に全ての・・・番地を・・・掲載した」とされ、「実質的に全て」であるのに対し、本件発明では、「F 該索引欄に前記地図に記載の全ての・・・番地を・・・掲載した」とされ、「全て」とされている点が相違点となるとしても(相違点3)、当業者は、上記わずかな誤記や欠落であることを容易に認識し、当然にこれらを修正するよう動機づけられるのは明らかであるから、「実質的に全て」の番地が掲載されているものを、「全て」の番地が掲載されているものとすることは必然的であって、設計事項に過ぎない。
よって、仮に、相違点3があるとしても、当業者が、相違点3に係る構成に想到することは容易である。
(無効審判請求書23頁末行?24頁9行)

(2)「無効理由2-2(特許法第29条第2項違反)について」
ア.甲2及び3について
(ア)甲2及び3が「住宅地図」であること
本件発明における「住宅地図」は、「目的とする建物を探し出すことができる地図」をいう。
すなわち、本件明細書では、…「住宅地図」は、目的とする建物を探し出すことができる地図全般を意味する。
この点、甲2発明は、「東京逓信局編纂」とあるとおり、一般には「郵便地図」の名称で知られ、郵便配達に欠かせない地番が記入された地図であり、宛先とされた住宅を探し出し、郵便物を配達するために作成された地図である(甲7)。そうすると、甲2発明は、「目的とする建物を探し出すことができる地図」、すなわち本件発明における「住宅地図」に他ならない。しかも、甲7では「『郵便地図』は今日の『住宅地図』に連なる都市情報ツールの魁と言うことが出来よう。」とされていることから、甲2発明は、本件発明にいう「住宅地図」に該当することは明らかである。
…甲2は、郵便地図であり、建物のない土地に郵便を配達することなどないのであるから、甲2に記載された多角形は郵便を配達することになる建物を示す趣旨で多角形が記載されていることは明らかである。現に被請求人が「建物の名称のみ記載されている箇所があるが、これは、当該四角に囲まれた番地の中のいずれかの場所に当該名称の建物が存在することを示す」と認めているのであり(答弁書13頁22?24行)、甲2に記載された多角形が実質的に建物を示すことは明らかである。
…また、甲3発明は、被請求人が認めるとおり、「火災保険事務に必要となる建物の材質や屋根の素材などの情報を提供することを目的に作製されており」(答弁書14頁7?8行)、その前提として、「目的とする建物を探し出すことができる地図」になっているのであるから、本件発明の「住宅地図」に該当する。
さらに、「火災保険特殊地図とは、・・・火災保険の評価に使われた、住宅の地番・居住者名のはいった詳細な地域図。・・・現在の住宅地図の前身として非常に利用価値が高い。」(甲8)とされていることからも、甲3発明が、本件発明にいう「住宅地図」に該当することは明らかである。
なお、念のため付言するに、そもそも、本件発明は、目的とする建物を探し出すことができる地図であるから、本件明細書において従来技術として記載すべきは、目的とする建物を探し出すことができる地図全般である。そのため、従来技術としては、「建物表示に住所番地ばかりでなく、居住者氏名も全て併記されており、このため、それらの記載を一軒ごとに建物表示の輪郭内に納めるために一軒毎の建物の記載スペースを大きく取る必要があった」(【0002】)とされている住宅地図(以下、「従来のいわゆる住宅地図」と表現することがある。)だけではなく、目的とする建物を探し出すことができる地図全般として、甲2、甲3や、後述の甲9に係る地図を紹介した上、その課題を指摘し、これを解決する構成を開示すべきであった。
しかも、本件発明は、単に「目的とする建物を探し出すことができる地図」を開示するものに過ぎず、従来のいわゆる住宅地図を対象にしているわけではないにもかかわらず、「住宅地図」として特定されているがゆえに、あたかも従来のいわゆる住宅地図を改良したかのような印象を与えており極めて不適切である。つまり、本件発明は、単なる「目的とする建物を探し出すことができる地図」に過ぎないため、技術分野としては、「目的とする建物を探し出すことができる地図」の全般に及ぶにも関わらず、発明特定事項として「住宅地図」なる文言を用いているため、技術分野が「従来のいわゆる住宅地図」に限られるかのような錯覚を生じさせるおそれがあるものである。
しかし、本件発明の意義を正確に理解し、本件発明が「目的とする建物を探し出すことができる地図」であることを理解すれば、甲2発明や甲3発明、あるいは後述の甲9に係る地図、あるいは周知技術がまさに本件発明における「住宅地図」に該当することは優に理解できる。
(イ)甲2及び3において「一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略」されていること
この点、甲2は、郵便地図であり、「住居表示を目的とした」ものとされており(甲7の本文下段右から13行参照)、四谷区の地図であるから、「一般住宅及び建物」が記載されていることが明らかなところ、甲2では、一般住宅の居住人氏名や建物名称の記載がないから、「一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略」されているのは明らかである。
また、甲3は、火災保険特殊地図であるところ、赤坂区の地図であるから、「一般住宅及び建物」が記載されていることが明らかなところ、甲3では、一般住宅の居住人氏名や建物名称の記載がないから、「一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略」されているのは明らかである。
(ウ)甲2及び3において記載された地図上の数字について
甲2は、郵便地図であり、甲7に「『郵便地図』作成の動機は、ともかく郵便配達に欠かせない全ての町(字)各地番が記入された図を必要とした」とされているとおり、甲2の地図上に記載された数字は、各地番である。
また、甲3は、火災保険特殊地図であるところ、乙2の5頁の図3には、火災保険特殊地図の凡例が掲載されているところ、乙2の5頁の図3左から11行目には「3」という数字について、「改正番地(現番)」とされているとおり、甲3の地図上に記載された数字は番地である。
この点、審理事項通知書では、甲2のヤ一九の「71」や、甲3の表町一丁目の「9」などの複数箇所に記載された数字について釈明するよう求められているが、複数箇所に記載された数字も番地であり、同じ番地が複数あることを示すものである。これは、甲1であっても、例えば、49頁のD-1やE-1では、「199-1」という数字が複数記載されており、これはそれぞれの建物が同じ番地となっていることを意味するものである。
(口頭審理陳述要領書(請求人)15頁1行?18頁下から6行)

イ.本件発明の構成要件B及びCを一体として捉えるべき旨の被請求人の主張について
甲2における、住宅や建物を示す多角形は、その中に居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮されており、その多角形には居住人氏名や建物名称が省略されている。
また、縮尺については、甲2のヤニ三において「尺之一分千五」と記載されており、1/5000の縮尺であることが明らかである。
したがって、甲2には、甲2発明に加え、「検索の目安となり得る公共施設や一部の一般住宅及び建物等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物の多角形と番地のみを記載すると共に、居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた1/5000の縮尺の住宅地図」との構成を有する甲2発明’も開示されている。
また、同様に、甲3における住宅や建物を示す多角形は、その中に居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮されたものがあり、その多角形には居住人氏名や建物名称が省略されている。
したがって、甲3には、甲3発明に加え、「検索の目安となり得る公共施設や一部の一般住宅及び建物等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物の多角形と番地のみを記載すると共に、居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた住宅地図」との構成を有する甲3発明’も開示されている。
また、甲2及び3から、「検索の目安となり得る公共施設や一部の一般住宅及び建物等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物の多角形と番地のみを記載すると共に、居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた住宅地図」との構成を有する地図は、周知技術となっていたことが明らかである。
したがって、構成要件B及びCを一体として捉えて、相違点1及び2を一体として捉えるとしても、甲1発明又は甲1発明’について、上記周知技術、甲2発明、甲2発明’、甲3発明、又は甲3発明’を適用することで、かかる相違点に想到することは容易である。
なお、上記周知技術について、補足的に主張立証しておくと、次のとおりである。
まず、甲9は、本件特許出願当時に公然実施されていた発明(以下「公然実施発明」という。)の構成を立証するものである。
公然実施発明においては、甲9-1の画面24と写真、甲9-5の画面9と写真など参照すれば明らかなように、「検索の目安となり得る公共施設や一部の一般住宅及び建物等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物の多角形と番地のみを記載すると共に、居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた住宅地図」との構成が採用されている。
ここで、甲9-1の画面24や甲9-5の画面9が、「居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備え」ているという点については、例えば、甲9-1の画面24や甲9-5の画面9について、無理に居住人氏名等を表示させると、甲9-6の画面6や画面11に示されるよう字が潰れることから裏付けられる。
したがって、上記発明が周知技術であることは、甲9からも裏付けられる。
(口頭審理陳述要領書(請求人)19頁3行?20頁末行)

ウ.「わずかな誤記や番地の欠落」について
甲1の元長窪の索引欄には、甲1の49頁のE-2の区画に元長窪603番地が記載されているとされているところ、甲1の49頁のE-2の区画には上長窪603番地が記載され、元長窪603番地は記載されていないうえ、上長窪603番地は元長窪との境界付近にある。
したがって、甲1の元長窪の索引欄において、49頁のE-2の区画に元長窪603番地とされているのは、49頁のE-2の区画に上長窪603番地とされるべき誤記であることが明らかである。
…しかし、まず、甲1の元長窪の索引欄には、甲1の50頁のE-4の区画に元長窪146番地が記載されているとされているところ、甲1の50頁のE-4の区画には上長窪146番地が記載され、元長窪146番地は記載されていないうえ、上長窪146番地は元長窪との境界付近にある。
したがって、甲1の元長窪の索引欄において、50頁のE-4の区画に元長窪146番地とされているのは、50頁のE-4の区画に上長窪146番地とされるべき誤記であることが明らかである。
また、同様に、甲1の元長窪の索引欄には、甲1の50頁のE-2の区画に元長窪600番地が記載されているとされているところ、甲1の50頁のE-2の区画には上長窪600番地が記載され、元長窪600番地は記載されていないうえ、上長窪600番地は元長窪との境界付近にある。
したがって、甲1の元長窪の索引欄において、50頁のE-2の区画に元長窪600番地とされているのは、50頁のE-2の区画に上長窪600番地とされるべき誤記であることが明らかである。
また、以上のとおり、甲1の地図に記載された番地67件のうち、上長窪172番地を除き、66件は全て索引欄に実質的に掲載されていると当業者は理解するのであるから、上長窪172番地については、過誤等によりたまたま欠落してしまった番地に過ぎないと理解することは明らかである。
したがって、甲1の49頁及び50頁の上長窪146番地、172番地、600番地及び603番地については、索引欄において「わずかな誤記や番地の欠落」となっているに過ぎないことが優に理解できる。
(口頭審理陳述要領書(請求人)21頁12行?22頁17行)

(3)「答弁書に対する反論について」
ア.相違点1の容易想到性(設計事項)について
甲2?3及び甲9において見られるように、住宅地図において(甲2や甲3が住宅地図の範疇にあることは既に主張したとおりであり、甲7において「『郵便地図』は今日の『住宅地図』に連なる都市情報ツールの魁」とされ、甲8において火災保険特殊地図が「現在の住宅地図の前身」とされていることから明らかである。)、一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略することは、当業者が、縮尺等に応じて適宜行っていたことは明らかであって、甲1の住宅地図もこのような住宅地図の一形態に過ぎない。
したがって、甲1発明において、「一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略」することは、当業者が、縮尺等に応じて、見易さ等の観点から、適宜なし得る設計事項である。
なお、念のため付言するに、被請求人は、従来のいわゆる住宅地図から居住者氏名等を省略する困難性を強調しているように思われる。
この点、例えば、目的とする建物を探し出すためには、居住者氏名等の記載が必須であり、これを省略しては、目的とする建物を探し出すことができない、あるいはほぼ不可能に近いという認識が、当業者において広く一般的なものとして受け入れられていたという事実が仮に存在し、このような認識に支配されているなかで、居住者氏名等の記載を省略したとしても、目的とする建物を探し出すことができることを見出し、本件発明に至ったというのであれば、居住者氏名等を省略することに、わずかながら何かしらの意味があるのかもしれない。
しかし、現実には、甲2、甲3などが示すように、居住者氏名等の記載がなくとも、目的とする建物を探し出すことができる地図を提供できることは、100年ほど前の遥か昔から知られている周知技術である。
したがって、本件発明のような目的とする建物を探し出すことができる地図においては、情報として居住者氏名等を記載するのか、あるいは、制作費を廉価にする、縮尺率を高く小型にする、種々の縮尺率の提供を優先するのかという、目的に合わせていずれを選択するかの問題に過ぎないのである。
よって、かかる意味において、相違点1は、当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎない。
(口頭審理陳述要領書(請求人)23頁12行?24頁17行)

イ.相違点1の容易想到性について
(ア)阻害事由について
甲2発明や甲3発明は、目的とする建物を探すことを目的とする地図であるところ、そのような100年ほど前からある地図においても、目的とする建物を探すにあたり、居住人氏名等が特段必要とされておらず、このことが周知となっているのであるから、甲1発明において、居住人氏名等が必須でないことも当業者にとって周知である。
そして、後は、居住人氏名等の記載を優先するのか、あるいは制作費を廉価にする、縮尺率を高く小型にする、種々の縮尺率を提供することなどの周知の課題解決を優先するかの問題となるところ、居住人氏名等の記載が必須ではないことが周知となっているのであるから、制作費を廉価にすることなど優先して、居住人氏名等の記載を省略することに何らの阻害事由も存在しない。

(イ)動機付けの補足について
甲2発明、甲3発明及び周知技術は、一般住宅及び建物については居住人氏名や建物の名称の記載を省略するとの構成を採用しており、目的とする建物を探し出すことができる地図において、制作費を廉価とすること(本件特許明細書【0004】)、検索を迅速とすること(本件特許明細書【0007】)、プライバシーの保護(本件特許明細書【0008】)、縮尺率を高く小型(本件特許明細書【0010】)という課題を既に解決したものであることを当業者は当然認識している(地図については、化学分野のように実験をしなければその構成から作用効果を確認できないような分野のものではない。)。
少なくとも、甲2発明、甲3発明や周知技術は、居住人氏名等を省略するものであるから、これを省略していない住宅地図との比較で、少なくとも、制作費が廉価になること(本件特許明細書【0004】)や、縮尺率を高く小型にできること(本件特許明細書【0010】)は誰の目にも明らかであり、そのような地図が100年近く前から知られていたのである。
したがって、甲1発明に接した当業者が甲2発明、甲3発明や周知技術によって解決済みの課題を認識して、制作費の廉価、縮尺の圧縮等、その目的に応じてこれらを適宜適用することには何らの困難性もなく、容易に想到できるものである。
念のため、別の観点から論理付けるとすると、次のとおりである。
すなわち、種々の縮尺の地図を提供することは、地図一般の普遍的な課題であるから、甲1発明に接した当業者が、かかる課題に動機付けられて縮尺を圧縮するにあたり、建物名称等を記載しきれない部分が生じるのであるから、このような課題を既に解決していた上記周知技術を採用するのは明らかである。
したがって、かかる観点からも、甲1発明に、甲2発明、甲3発明又は周知技術を適用する動機付けはある。
あるいは、そもそも、制作費を廉価にするという課題は、技術分野を問わない普遍的な課題であるから、甲1発明に接した当業者が、制作費を廉価にするという課題に動機付けられ、かかる課題を既に解決済みの甲1発明に、甲2発明、甲3発明又は周知技術を適用するよう動機付けられる。
いずれにしても、甲1発明、甲2発明、甲3発明及び周知技術は、いずれも、本件発明にいう「住宅地図」(目的とする建物を探し出すことができる地図)であって、それぞれの構成を採用することの採用効果は誰でも容易に理解できるものであるから、当業者が、制作費を廉価にする、縮尺を圧縮するなどの適宜の目的に応じて、甲1発明に、甲2発明、甲3発明又は周知技術を適宜適用するよう動機付けられるのは明らかである。
(口頭審理陳述要領書(請求人)25頁2行?27頁10行)

ウ.相違点2の容易想到性について
相違点2は、甲1発明が、「1/1800の縮尺の地図」であるのに対し、本件発明は、「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」である点にあるところ、縮尺をどのように設定するかは、当業者が適宜設定できる設計事項に過ぎないから、当業者は、かかる相違点2に容易に想到できる。
また、甲2発明の縮尺は1/5000であるから、甲1発明に甲2発明を適用することで、同時に「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」との構成にも想到することは明らかである。
(口頭審理陳述要領書(請求人)27頁14?下から4行)

(4)甲9(公然実施発明)に関する主張についての反論
各レイヤそれぞれが他のレイヤに納められている情報を表示するスペースを備えているとは言えない。なぜなら、例えば、甲9-6の[画面1 1]では、居住人氏名等を含むレイヤや、建物を示す多角形を含むレイヤが表示されているところ、居住人氏名等の文字は既に潰れているのであるから、各レイヤそれぞれが他のレイヤに納められている情報を表示するスペースを備えているとは言えないことが明らかである。
…むしろ、甲9-6の[画面11]では、文字が潰れていることから明らかなように、甲9-5の[画面9](甲9-6の[画面7])などで示される公然実施発明が「居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた」との構成を有することは明らかである。
…請求人が公然実施発明の根拠としているのは甲9-1[画面24]や甲9-5[画面9](甲9-6の[画面7])などであり、これらの画面から、公然実施発明が「居住人氏名や建物名称の記載を省略し」との構成を有するものであることが明らかである。
また、公然実施発明が「字が潰れる程度にまで縮尺を圧縮した」ものであるということは、「居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮して」いることを意味する。
したがって、公然実施発明が、「居住人氏名や建物名称の記載を省略し・・居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備え」だものであることは明らかである。
…すなわち、甲9-4の9頁では、「地図は拡大や縮小をして見ることができます。・・・拡大時により詳細な情報を、縮小時に図を見やすくする為に間引いた情報を表示できる様に各レイヤ・・・ごとに表示倍率を設定できるようになっています。」とされている。つまり、縮小時、つまり縮尺を圧縮するには、詳細な情報を省略することが周知技術となっていることが裏付けられる。現に、甲9-1[画面24]や甲9-5[画面9](甲9-6の[画面7])から明らかなように、居住人氏名等を省略して、縮尺を圧縮するという技術的思想が具現化されていた。
したがって、仮に、構成要件B及びCを一体として捉えたとしても、これまで主張したとおり、甲1発明又は甲1発明’について、周知技術等を適用することで本件発明に想到することが容易であることは明らかである。
(上申書(請求人)2頁下から5行?4頁17行)

4.証拠方法
請求人が本件審判請求にあたり提示した証拠方法は、以下のとおりである。
(1)平成30年5月22日付けの審判請求書に添付されたもの
ア.甲第1号証 「ゼンリン住宅地図’93 静岡県駿東郡長泉町」、東海善隣出版社、1993年2月
イ.甲第2号証 「東京市四谷区」の地図、東京逓信局編纂、大正11年12月20日
ウ.甲第3号証 「赤坂区 No.1.」、株式会社都市整図社、昭和9年12月作製
エ.甲第4号証 東京地方裁判所平成29年(ワ)第34450号、原告第1準備書面、平成30年1月26日

(2)平成30年11月26日付けの口頭審理陳述要領書(請求人)に添付されたもの
ア.甲第5号証 東京地方裁判所平成29年(ワ)第34450号、原告第2準備書面、平成30年5月10日
イ.甲第6号証 新村出編、「広辞苑」、第七版、岩波書店、2018年1月12日、2715頁
ウ.甲第7号証 地図資料編集会、「日本近代都市変遷地図集成 5千分の1 江戸-東京市街地図集成II 1887-1959」、柏書房株式会社、1990年6月25日
エ.甲第8号証 東京都立中央図書館、「東京都立中央図書館都市・東京情報担当所蔵 地図目録-平成29年9月末現在-」、59頁
オ.甲第9号証-1 大野総合法律事務所 弁護士 木村広行、「報告書」、2018年3月26日
カ.甲第9号証-2 「コトバンク『Windows 3.1』」、[online]、2018年3月23日印刷、朝日新聞社、インターネット<URL:http://kotobank.jp/word/Windows+3.1-11046>
キ.甲第9号証-3 「ZMAP TOWNII'95 FUKUOKA 福岡市住宅地図データ 40130・07・0・5 ZMD」のラベル、株式会社ゼンリン、1995年
ク.甲第9号証-4 「ZMAP CORE SS Ver3.0 解説書(利用者用)」、第3版、株式会社ゼンリン、1996年3月29日
ケ.甲第9号証-5 大野総合法律事務所 弁護士 祝谷和宏、「報告書(2)」、2018年6月25日
コ.甲第9号証-6 大野総合法律事務所 弁護士 祝谷和宏、「報告書(3)」、2018年9月10日

(3)令和1年8月22日付けの上申書(請求人)に添付されたもの
ア.甲第10号証 高阪宏行・岡部篤行編、「GISソースブック データ・ソフトウェア・応用事例」、古今書院、1996年4月1日、144-147、240-242頁
イ.甲第11号証 玉川英則編、「都市をとらえる-地理情報システム(GIS)の現状と未来-」、第七版、岩波書店、1996年3月28日、62-67、133-143頁
なお、被請求人は、甲第1号証乃至甲第9号証-6の成立を認めている。


第4 被請求人の主張
1.本件特許発明の技術的思想(本質的特徴)
(1)本件特許発明における課題解決のための手段
本件特許発明は、上記の問題点(課題)を解決するため、「縮尺率が高く小型で廉価であり、内容が最新、正確、且つプライバシーに配慮したものであり、検索が迅速にできる住宅地図を提供する」(本件明細書【0010】)ことを目的としている。
そして、課題を解決するための不可欠の手段として、本件特許発明は、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住所及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に、縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」(構成要件B及び構成要件C)を採用している。
…このように、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除いた住宅及び建物についてはその名称を省略することにより、文字の視認可能性を残しつつ、全ての居住人氏名や建物名称が記載された地図に比べて縮尺を相当程度圧縮することができるとともに、目視により目的とする地番の建物を探し出す際の視野の邪魔を排除することができ、これらが相まって広い鳥瞰性を備えることが可能となるのである。
さらに、その結果、個人住宅の居住人氏名を省略することにより個人のプライバシーにも配慮した住宅地図とすることができるとともに、付属の索引欄について、従来のように住所のうち丁目とそれぞれの丁目に該当するページを掲載するだけでなく、住居建物の所在する番地(丁目、番地及び号)を、地図上における記載ページと記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載することが可能となるのである。
(答弁書5頁20行?6頁末行)

(2)本件特許発明の技術的思想(本質的特徴)
…本件特許発明の技術的思想からも明らかなとおり、縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えるために(構成要件C)、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略する必要があるため(構成要件B)、その意味において、構成要件Bと構成要件Cは技術的に一体のものとして捉えるべきである(構成要件Bの最後には「・・・ポリゴンと番地のみを記載すると共に、」と記載して、次に続く構成要件Cと「共に」必要であることを明らかにしていることからしても、構成要件Bとこれに続く構成要件Cは一体的に捉えるべきことが分かる。)。
(答弁書7頁24?末行)

2.無効理由1(明確性要件違反)に対する反論
(1)「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」
…本件明細書【0007】には「・・・住宅地図の利用においては、一般に、目的とする建物を探し出す過程で必要な情報は、公共施設や著名ビル等の一部例外を別にすれば専ら住宅の番地であり、・・・」と記載され、公共施設や著名ビル等が、目的とする建物を探し出す過程で必要な情報であることを明示している。これは、すなわち、「検索の目安となる」ことが、目的とする建物を探し出す過程で必要な情報であることを示している。
…したがって、当業者において「検索の目安となる」という要件は明確で、実施可能である。
イ.また、「著名」とは、一般の用語例のとおり、「世間に名前がよく知られている・こと(さま)。有名」のことを指しており(乙3号証)、何ら不明確ではない。
そして、上述のとおり、当業者における当該地域への調査で得られた知識をもとに、目的とする建物を迅速に探しだすという記載(本件明細書【0007】【0010】等)にしたがって、「著名」すなわち世間に名前がよく知られているビルを選択することが可能であり、何ら不明確ではない。
ウ.さらに「公共施設や著名ビル等」の「等」であるが、その記載順及び本件明細書【0007】の記載からすると、「等」には、公共施設や著名ビルには該当しないものの、検索の目安となる建物が含まれること、また、上述のとおり、本件特許発明は、個人のプライバシーに配慮することも目的としているため(【0008】【0009】【0010】)、「等」には、建物自体を示す表札に個人の氏名が記載されるような個人の住宅は含まれないことが明らかであり、具体的には、平屋のコンビニエンスストアなどが「等」に含まれる。
(答弁書14頁下から2行?15頁下から3行)

(2)「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」
…「縮尺を圧縮」とは、従来技術である住宅及び建物のすべての名称が記載された住宅地図に比較してより高い縮尺率の地図をいい(本件明細書【0002】【0003】【0007】等)、また、「広い鳥瞰性」とは、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除いた住宅及び建物についてはその名称を省略しポリゴンと番地のみを記載することによって可能となった縮尺の圧縮により、より広い範囲を同一ページに納めるとともに、視野の邪魔が排除された状態を指すことが明らかである。
(答弁書16頁17?23行)

(3)「広い鳥瞰性を備えることができる」ことについて
本件特許発明は、
「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物につ いては居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載する」
ことのみにより、「広い鳥瞰性を備えた住宅地図」を提供するものではない。すなわち、本件特許発明は、説明したとおり、
「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物につ いては居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に、縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた住宅地図を構成」(構成要件B、C)
という構成を備えた発明であり、構成要件Bだけではなく、また構成要件Cの前半でだけでもなく、構成要件B及び構成要件Cの前半に係る構成が相まって、「広い鳥瞰性を備えた地図」を構成するものである。
構成要件Cは、「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた」と規定されているのではなく、「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図」と規定されており、また、ここでの「地図」は、「住宅地図」を意味する(構成要件A、構成要件G)。本件明細書の記載を考慮すれば、本件特許発明は、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に、」「縮尺を圧縮して」「広い鳥瞰性を備えた住宅地図」を、その技術的特徴として規定していると理解できる。
審理事項通知書「第3 被請求人に対して」の「1」…「また、「これらが相ま」うことにより(「これら」とは、何を指すのか不明である。)、なぜ、「広い鳥瞰性を備えることができる」ようになるのか、具体的に釈明されたい。』
これに対しては、以下のように釈明する。
「これら」とは構成要件Bと、構成要件C中の「縮尺を圧縮して」を指す。
本件特許発明は、
「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物につ いては居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に、縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた住宅地図を構成」(構成要件B、C)
という構成を備えるものであり、構成要件Bと構成要件Cにおける「縮尺を圧縮して」との構成が相まうこと、すなわち、居住人氏名や建物名称の記載を省略することにより記載スペースを大きく必要とせずに(【0039】)、建物番地を視認する上での「視野の邪魔」等の問題を排除するとともに(本件明細書【0005】【0007】【0021】等)、縮尺を圧縮することによって、広い鳥瞰性を備える住宅地図を提供する発明である(【0039】)。
(口頭審理陳述要領書(被請求人)11頁18行?11頁末行)

(4)「前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地」
…「全ての住宅建物の所在する番地」と記されている以上、日本語の自然な理解として「全ての」が直後の「住宅建物」に係ることは明らかである。
(答弁書16頁下から4?下から2行)

3.無効理由2-1及び無効理由2-2(甲1号証を主引用発明とする新規性進歩性)に対する反論
(1)甲1発明について
ア.甲1号証は、14頁に…甲1発明を利用した検索対象の住宅を探す方法を記載している。
そして、「相手方を探すには」の記載の右側には、当該地図に実際に存在していると思われる、あるページの一部が見本として掲載されている。
…甲1発明は、検索対象である建物が記載されたページが分かったら、当該ページに記載されている個人の名前が記載された建物や道路を手がかりに相手方の住宅を探すことを、検索方法としている。現に、見本の地図には、個人住宅を含むほぼ全ての建物に名前が記載されており、名前を見ることによって目的となる建物を探すことが前提とされていることが分かる。
ウ.このように、甲1発明は、建物に記載された名前を頼りに目的とする建物を検索することとし、一般住宅の居住人氏名を含め、名前のある建物については全て地図上に当該名前を記載することを前提としている。
これに対し、本件特許発明は、上述のとおり、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載する」として、検索の目安となる公共施設や著名ビル等以外については居住人氏名や建物名称の記載を省略することとしている。さらに、上述のとおり、本件特許発明は、プライバシーの観点から、一般住宅の居住人氏名の記載を省略することとしている。
以上のとおり、一般住宅及び建物の居住人氏名や建物名称の記載の有無において、甲1発明は、本件特許発明と根本的に異なっている。
(答弁書9頁9行?9頁24行)

(2)本件特許発明と甲1発明の一致点・相違点に関する請求人の主張の誤り
ア.甲1は、建物に記載された名前を頼りに目的とする建物を検索することを予定し、一般住宅の居住人氏名を含め、名前のある建物については全て地図上にその名前を記載することを前提としている。
…かかる甲1発明の記載及び上述した甲1発明で想定されている利用方法からすると、甲1発明は、一般住宅の居住人氏名を含め、名前のある建物については全て地図上にその名前を記載することを前提としていることが分かる。すなわち、甲1発明は、検索の目安になるか否かに関係なく、居住人氏名や建物名称が記載されている多角形と棒線で結合されている住居や、農業用・工業用のプレハブや温室、物置、倉庫など名前がなく記載しようにも記載できない建物名称のみ記載がなされていないにすぎない。
そうすると、甲1発明の構成bは、本件特許発明の構成要件B「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に、」とは一致しない。
ウ.…このように、構成要件Cの「縮尺を圧縮して」とは、従来技術である住宅及び建物のすべての名称が記載された住宅地図に比較してより高い縮尺率で圧縮することをいう(【0002】【0003】【0007】等)。また、構成要件Cの「広い鳥瞰性」とは、かかる縮尺の圧縮とともに、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除いた住宅及び建物についてはその名称を省略しポリゴンと番地のみを記載することにより、目視により目的とする地番の建物を探し出す際の視野の邪魔を排除した状態をいう。
これに対し、甲1発明は、名前の分かる建物については全て名前を記載するという従来技術を用いた地図であるから、正しくは、「c.住宅及び建物の多角形について居住人氏名や建物名称を記載し、かかる記載スペースを保ったままで、1/1800の縮尺の地図を構成し、」と認定されるべきである。
そうすると、甲1発明は、従来技術である住宅及び建物のすべての名称が記載された住宅地図に比較してより高い縮尺率を意味する「縮尺を圧縮して」(構成要件C)との構成と相違する。さらに、かかる縮尺の圧縮とともに、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除いた住宅及び建物についてはその名称を省略しポリゴンと番地のみを記載することにより、目視により目的とする地番の建物を探し出す際の視野の邪魔を排除した状態を意味する「広い鳥瞰性」(構成要件C)との構成とも相違する。
したがって、甲1発明の構成cは、構成要件C「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成し、」とは一致しない。
(答弁書10頁4行?12頁11行)

(3)本件特許発明と甲1発明との相違点
以上説明した本件明細書に開示された発明者らの知見及び本件特許発明の技術的特徴に鑑みれば、本件特許発明の構成要件B及びCは、
「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に、」「縮尺を圧縮して」「広い鳥瞰性を備えた地図を構成し、」
という1つの技術的な意義からなる住宅地図を規定していると理解できる。
これに対し、甲1発明は、
「居住人氏名や建物名称の記載を記載したままの」「住宅地図」
という構成要件からなる発明であり、氏名と住所の記載を必須とする従来の住宅地図(【0004】)そのものである。したがって、甲1発明には、
「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に、縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた住宅地図を構成」(構成要件B、C)
という本件特許発明の特徴的部分に係る構成が開示も示唆もなされておらず、本件特許発明と甲1発明は、少なくとも次の点で相違する。
・相違点
本件特許発明が、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に、縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた住宅地図を構成」(構成要件B、C)するものであるのに対し、甲1発明は、居住人氏名や建物名称を記載したままの従来の住宅地図そのものである点。
(口頭審理陳述要領書(被請求人)7頁5行?8頁14行)

(4)構成要件Bについて
しかし、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」の「等」には、「一般住宅」は含まないのであり、その前提において誤りがある。
すなわち、本件特許発明は、以下のとおり個人のプライバシーに配慮することを目的とするものでもあるため(【0008】【0009】【0010】)、「等」には、建物自体を示す表札に個人の氏名が記載されるような住宅は含まない。

したがって、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」の「等」には、「一般住宅」は含まない。かかる解釈が正しいことは、本件特許請求の範囲において、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物」と記載されており、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」に該当しない「一般住宅及び建物」については、「居住人氏名や建物名称の記載を省略し」と規定されていることからも、明らかである。
これに対して、甲1発明は、建物自体を示す表札に個人の氏名が記載されるような住宅について、その氏名を記載しているのであるから、甲1発明の構成bが本件特許発明の構成要件Bと一致する旨の請求人の主張はまったく理由がない。
本件特許発明は、居住人氏名や建物名称の記載を省略すると共に縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備える住宅地図を提供する発明であるところ、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」の「等」に「一般住宅」が含まれるとすると、省略する対象がなくなってしまい、本件特許発明の効果を得ることができなくなるに等しい。また、当該「等」に「一般住宅」が含まれる場合は、居住人氏名や建物名称が記載された住宅地図となり、本件明細書でいう従来の住宅地図(【0004】)そのものが、本件特許発明に含まれることになる。しかるに、このような帰結が誤りであることは、本件明細書を参照すれば一目瞭然であり、本件明細書を参酌して発明の要旨認定を行えば、請求人の主張のように誤った帰結とはならない。
以上のとおり、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」の「等」には「一般住宅」は含まれないから、請求人の主張には理由がない。
(口頭審理陳述要領書(被請求人)13頁1行?14頁9行)

(5)構成要件Cについて
しかし、本件明細書の開示に鑑みれば、構成要件Cの「縮尺を圧縮して」とは、従来技術である住宅及び建物のすべての名称が記載された住宅地図に比較してより高い縮尺率で圧縮することをいう(【0002】【0003】【0007】等)(答弁書11頁25行?27行)。住宅地図の縮尺自体が、対象地の環境(住宅密集地か農業地域か等)により変わりうるのであるから、縮尺度数だけを採り上げて発明を認定しようとしても何の意味も持たない。つまり、「1,000分の1から1,500分の1」という【0002】段落に記載された数値は、本件特許の出願時における市街地を前提に、従来の住宅地図の縮尺の例として挙げられているところ、地図の縮尺の程度は、対象地の環境(住宅密集地か農業地域か等)により変わりうるのであるから、「1,500分の1」という数値に基づく請求人の主張には理由がない。
(口頭審理陳述要領書(被請求人)14頁17?下から5行)

(6)構成要件Fについて
すなわち、「前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地」と記されている以上、日本語の自然な理解として「全ての」が直後の「住宅建物」に係ると考えるのが素直であり、かかる考えを覆す記載は本件明細書にも記載されていない。
したがって、「全ての」はその直後の「住宅建物」にかかる。
また、甲1発明では、町名別番地索引に、地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地が記載されてはいない。
すなわち、本件特許発明の構成要件Fの「番地」には、住所の地番だけでなく号が含まれ(本件明細書【0017】には、「番地(住所の地番及び号)」との記載がある。)、索引は番地だけではなくその後に続く号にまで対応したものが要求される。しかし、甲1発明の町名別番地索引は、番地の記載は一部を除いて存するものの、当該番地に続く号の記載は一切ない。また、請求人も認めるとおり、地図に記載された住宅建物のうち一部の住宅建物の番地については町名別番地索引に記載されていない。
したがって、構成fは、正しくは「該町名別番地索引に、前記地図に記載された一部の住宅建物の番地のうちの番地のみを前記地図上における当該一部の住宅建物の記載ページ及び記載区画の座標記号番号と一覧的に対応させて掲載した、」と認定されるべきである。
このように、索引欄に、地図に記載の全ての住宅建物の番地のうちの「番地」が記載されているわけではなく、かつ番地に続く「号」は一切記載されていない甲1発明は、本件特許発明の構成要件F「該索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した」と一致せず、請求人の主張には理由がない。
(口頭審理陳述要領書(被請求人)15頁21行?15頁13行)

(7)相違点に容易想到性(設計事項)がないこと
…甲1発明が前提とする検索方法が建物に記載された氏名などを頼りに目的とする建物を探すことであることからも明らかなとおり、甲1発明は全ての建物に居住人氏名や建物名称を記載することを前提としており、居住人氏名や建物名称が記載されている多角形と棒線で結合されている住居や、農業用・工業用のプレハブや温室、物置、倉庫など名前がないなどの事情により記載しようにも記載できない建物名称のみ、記載がなされていないにすぎない。
それに対し、本件特許発明は、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」以外の一般住宅や建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略するとし、また、プライバシーの観点から一般住宅の居住人氏名は一切記載しないこととしている。このように、甲1発明と本件特許発明とは発想が根本的に異なり、したがって、甲1発明を出発点として、本件特許発明を想到することが設計事項であるはずはなく、請求人の主張に理由がないことは明らかである。
(答弁書12頁18?末行)

(8)副引例(甲2、甲3)は相違点に係る構成を開示していない
甲2に開示される地図は「郵便地図」であり、甲3に開示される地図は「火災保険特殊地図」であるから、いずれも「住宅地図」でなく、居住人氏名や建物名称の記載はそもそも予定されていない。つまり、郵便地図や火災保険特殊地図は、住宅地図とは用途も性質も異なる地図であり、甲2、3において居住人氏名や建物名称が記載されていないのは、これらが「省略」されているからではなく、郵便地図や火災保険特殊地図という性質上、そもそも氏名や名称が記載される地図ではないからである。したがって、甲2及び甲3には、「居住人氏名や建物名称の記載を省略すると共に、縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた住宅地図を構成する」という上記相違点に係る本件特許発明の構成の開示がなく、示唆すらされていない。
よって、甲1発明に甲2、甲3に開示される構成を適用しても、本件特許発明の構成には至らない。
(口頭審理陳述要領書(被請求人)8頁22行?9頁9行)

(9)周知技術等の適用の余地がないこと
ア.甲1発明には、甲2発明や甲3発明を組み合わせて本件特許発明に想到することの阻害要因がある。
すなわち、上述のとおり甲1発明は、建物に記載された名前を頼りに目的とする建物を検索することとし、一般住宅の居住人氏名を含め、名前のある建物については全て地図上に当該名前を記載することを前提としている。これに対し、甲2発明や甲3発明は、居住人氏名や建物名称を記載している箇所がごく少数あるものの(甲2発明には建物の多角形自体が記載されていないことは後述のとおりである。)、存在するであろう建物のほぼ全てについて居住人氏名や建物名称を記載していない。そうすると、目的とする建物を検索するために全ての建物の名称を記載することを求める甲1発明に、建物の名称をほぼ記載しない甲2発明や甲3発明を組み合わせるという発想は起きないばかりか、むしろ組み合わせることを否定する方向に働く。
したがって、甲1発明に甲2発明ないし甲3発明を組み合わせて、本件特許発明を想到することには阻害要因があるといえる。
イ.この点を措くとしても、甲1発明に、甲2発明ないし甲3発明に記載された発明を組み合わせようと動機付けられることはない。
すなわち、甲2発明は、建物が全く記載されていない単なる番地図に過ぎず、そもそも住宅地図ではない。所々建物の名称のみ記載されている箇所があるが、これは、当該四角に囲まれた番地の中のいずれかの場所に当該名称の建物が存在することを示すだけである。これに対し、甲1発明は、名前の分かる建物については全て名前を記載することにより、名前を頼りに目的とする建物を検索することを目的としている。このように、住宅地図ではないため建物も記載されておらず、建物の名称も記載されていない甲2発明と、住宅地図である甲1とを組み合わせる動機付けは存在しない。
ウ.また、甲3発明は、火災保険赤坂区地図であって(この点は、請求人も認めている(審判請求書22頁13行))、住宅地図ではない。
このように、甲3発明は、火災保険事務に必要となる建物の材質や屋根の素材などの情報を提供することを目的に作製されており、建物を探し出すことを目的とする住宅地図とは、その目的を大きく異にする。
したがって、火災保険特殊地図である甲3発明を住宅地図である甲1に組み合わせようと動機付けられることはない。
(答弁書13頁1行?14頁11行)

(10)甲9号証の地図について
…甲9号証の地図で採用されている構成は、複数のレイヤそれぞれが、他のレイヤに納められている情報を表示するスベースを備えており、これにより、複数のレイヤを重ねて表示した場合に、複数のレイヤそれぞれに納められている情報が組み合わせて表示されるというものである。したがって、甲9号証においては、その設計思想上、請求人が主張する甲9-1の画面24と写真、甲9-5の画面9と写真などのレイヤだけではなく、いずれのレイヤにおいても、居住人氏名や建物名称を記載するスペースが確保されており、また確保されていなければならない。
よって、請求人の主張には、理由がない。
しかしながら、仮に請求人の主張が正しく、甲9-6の画面6や画面11において字が潰れて表示されていたとしても、これにより開示される構成は、「字が潰れる程度にまで縮尺を圧縮した地図」というものに過ぎず、「居住人氏名や建物名称の記載を省略し・・住人氏名や建物名称を記載するようなスベースがないほどに縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備え」ている構成が開示されることにならない。
(上申書(被請求人)5頁末行?6頁21行)

4.証拠方法
被請求人が本件審判請求にあたり提示した証拠方法は、以下のとおりである。
(1)平成30年9月3日付けの審判事件答弁書に添付されたもの
ア.乙第1号証 生活地図株式会社 西石垣壮市、「電話聴取メモ」、平成30年8月7日
イ.乙第2号証 牛垣雄矢、「昭和期における大縮尺地図としての火災保険特殊地図の特色とその利用」、「歴史地理学」、第47巻第5号、2005年12月10日、p.1-16
ウ.乙第3号証 松村明、「大辞林」、株式会社三省堂、1989年1月25日

(2)平成30年11月20日付けの口頭審理陳述要領書に添付されたもの
ア.乙第4号証 平成19年9月27日知財高裁判決(平成19年(行ケ)第10015号審決取消請求事件判決)
イ.乙第5号証 那覇市安全で住みよいまちづくり推進協議会、「那覇中学校校区防災安心安全マップ」、平成25年3月末
ウ.乙第6号証 内閣官房国土強靱化推進室、「国土強靭化 民間の取組事例集」、2015年6月、p.106-108
エ.乙第7号証 国土交通省都市局都市安全課、「平成24年度安全・安心まちづくり推進方策検討調査報告書」、平成25年3月、p.39,43-48,87,103
オ.乙第8号証 社団法人日本工業技術振興協会技術評価情報センター(CTA)、「CTA」、平成25年9月8日評価、p.1-13
なお、請求人は、乙第1号証乃至乙第8号証の成立を認めている。


第5 主な証拠に記載されている事項
1.甲第1号証
(1)「ゼンリン住宅地図’93 静岡県駿東郡長泉町」は、
・表紙
・「ゼンリンの住宅地図 みかた・使い方」(冒頭14頁)
・長泉町町名別番地索引(本文1頁)
・長泉町町名別番地索引(本文8頁)
・区分図(本文49頁)
・区分図(本文50頁)
・裏表紙
からなるものである。
そして、「ゼンリン住宅地図’93 静岡県駿東郡長泉町」には、次の事項が記載されている。
(2)「ゼンリンの住宅地図 みかた・使い方
-相手方を探すには-
まず「町名索引」をお開きください
*相手方の住所がわかれば、まず「町名検索」を開いて記載ページをお探しください。
*記載ページがわかりましたら、記憶されている建物や道路を手がかりに、相手の所在地を追ってみてください。
*もちろん、番地をたよりに相手方を探すこともできます。
*相手方の名前が見当らない場合は、社名か店名、または通称名でお探しください。」(29頁1?10行)
(3)「縮尺1:1,800」(区分図(本文50頁)右下)
(4)「1993年2月 発行」(裏表紙左下)
また、「ゼンリン住宅地図’93 静岡県駿東郡長泉町」から、次の事項が看取できる。
(5)区分図(本文49頁)は、左側外枠が5つの区画に分割されて、各区画には上から順にアラビア数字「1」「2」「3」「4」「5」が看取でき、上側外枠及び下側外枠が5つの区画に分割されて、各区画には左から順にアルファベット「A」「B」「C」「D」「E」が看取でき、区分図(本文50頁)は、右側外枠が5つの区画に分割されて、各区画には上から順にアラビア数字「1」「2」「3」「4」「5」が看取でき、上側外枠及び下側外枠が5つの区画に分割されて、各区画には右から順にアルファベット「A」「B」「C」「D」「E」が看取できる。
(6)「長泉町町名別番地索引(本文1頁)」及び「長泉町町名別番地索引(本文8頁)」には、町名の「番地」毎に、「頁」及び「座標」が対応付けられていることが看取できる。
さらに、「ゼンリン住宅地図’93 静岡県駿東郡長泉町」から、次の事項が認められる。
(7)ポリゴン内の数字は家屋番号を表し、ポリゴン外の番号は地番を表すことが示されている。(冒頭14頁凡例)
(8)上記(5)及び(6)より、区分図(本文49頁)及び区分図(本文50頁)は、縦5行、横5段の計25(=5×5)の区画に分割され、「長泉町町名別番地索引(本文1頁)」及び「長泉町町名別番地索引(本文8頁)」の「座標」は、区分図(本文49頁)及び区分図(本文50頁)の分割された区画と対応付けられていることが理解できる。
(9-1)上記(5)及び(8)を勘案すると、区分図(本文49頁)には、「「24」という家屋番号とともに「町立桃沢幼稚園」と記載されたポリゴン」(座標C1の区画)、「「149」という家屋番号とともに「井出明久」と記載されたポリゴン」及び該ポリゴンと棒線で結ばれた何ら記載のないポリゴン」(座標E1の区画)、「(有)豊田クレーンと記載された区画内に位置し、「480-1」という家屋番号のみが記載されたポリゴン」(座標A3の区画)及び「何ら記載のないポリゴン」(座標B4の区画)が認められる。
(9-2)上記(5)及び(8)を勘案すると、区分図(本文50頁)には、「「220」という家屋番号とともに「杉山旭」と記載されたポリゴン」(座標B1の区画)、「600」(座標E2の区画)、「何ら記載のないポリゴン」(座標C3の区画)が認められる。
(10)上記(4)より、甲第1号証として示した「ゼンリン住宅地図’93 静岡県駿東郡長泉町」は、本件特許発明の出願日前の1993年2月発行と記載されていることから、「ゼンリン住宅地図’93 静岡県駿東郡長泉町」は、少なくとも本件特許発明の出願日前に頒布されていたと推認し得る。
(11)上記(9-1)の「町立桃沢幼稚園」と記載されたポリゴンは、公共施設といえる。また、上記(9-1)の「井出明久」及び上記(9-2)の「杉山旭」と記載されたポリゴンは、一般住宅であると推認できる。
(12)「長泉町町名別番地索引(本文1頁)」及び「長泉町町名別番地索引(本文8頁)」には、全ての町名が「番地」順に記載されているから一覧的といえ、区分図(49頁)及び区分図(50頁)とは別のページに設けられたものであるから「付属とした索引欄」といえる。

上記記載事項(1)?(12)から、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「「ゼンリン住宅地図’93 静岡県駿東郡長泉町」であって,
「町立桃沢幼稚園」、「井出明久」及び「杉山旭」という名称、家屋番号及びポリゴンが記載された公共施設及び一般住宅と、
(有)豊田クレーンと記載された区画内に位置し、家屋番号のみが記載されたポリゴンと、
「井出明久」と記載されたポリゴンと棒線で結ばれた何ら記載のないポリゴンが記載され、
縮尺を1:1,800にして構成し,
区画図を25の区画に分割して区画化し,
付属とした索引欄を設け,
該索引欄に前記地図に記載の全ての町名が番地順に頁及び座標が対応付けられ一覧的に記載されている,「ゼンリン住宅地図’93 静岡県駿東郡長泉町」。」(以下「甲第1号証発明」という。)

2.甲第2号証
甲第2号証には、次の事項が記載されている。(当審により、旧字体は、新字体で代替できるものは新字体で表記する。以下、同様。)
(1)「東京逓信局編纂 東京市四谷区」(左上部)
(2)「明治四十四年九月二十五日印刷 明治四十四年九月三十日発行 大正十一年十二月二十日第二版印刷発行」、「著作権所有者 東京逓信局」、「発行所 逓信省内逓信協会」…「東京市日本橋区通一丁目十九番地 大販売所 大倉書店 東京市神田区裏神保町一番地 同 三省堂書店」、「東京市神田区裏神保町九番地 大販売所 合資会社 富山房 東京市日本橋区通三丁目十四番地 同 丸善株式会社」、「東京市京橋区尾張町二丁目二十六番地 大販売所 東海堂 東京市神田区裏神保町三番地 同 東京堂書店」(左欄外、上から順に。)
(3)「定価金五十銭」(下欄外)
(4-1)「備考」欄(右中部)
(4-2)「一、本図ハ正北方ヲ上部トシ行政区画ニ依リテ分別シタリ之ヲ郵便区画ト為スニハ相当境界ニ於テ裁断又ハ接続スルヲ要ス」(「備考」欄2?3行)
(4-3)「二、町名番地ハ図中ニ掲載スルノ外更ニ余白ニ列記シ番地ノ始終及縦横欄ノ行段ニ依リテ」(「備考」欄4行)
(5)「記号」欄(右下部)
(6)「四谷区町名一覧表(イロハ順)」(左下部)
(7)「五千分一之尺」(左下部)
また、甲第2号証から、次の事項が看取できる。
(8)甲第2号証は、縦8行、横5段の計40(=8×5)の区画に分割され、各行の上辺及び下辺には、左から右にカナ記号マ、ヤ、ク、オ、ノ、ヰ、ウ、ムが看取でき、各段の左辺及び右辺には、上から下に数字番号一八、一九、二〇、二一、二二、二三が看取できる。
(9-1)「四谷区町名一覧表(イロハ順)」には、四谷区の「計四十九ヶ町」の「町名」に対して、「番地」の「自至」と「行段」が対応付けられて一覧表形式で記載されていることが看取できる。
(9-2)「四谷区町名一覧表(イロハ順)」の「町名」には、表示されている四谷区の全ての「町名」が看取できる。
さらに、甲第2号証から、次の事項が認められる。
(10-1)「番地及其界」の項目からは、数字が線で囲まれている表示が看取でき、「番地及其界」との項目名から、数字は番地を意味し、線はその番地の土地の境界であると認められる。(「記号」欄の右欄7行)
(10-2)「宅地」の項目からは、数字が線で囲まれている表示が看取でき、上記(10-1)を勘案すると、数字は宅地の番地を意味し、線はその番地の宅地の境界であると認められる。(「記号」欄の右欄最下行)
(10-3)甲第2号証に示された地図並びに上記(10-1)及び(10-2)より、地図上で線で囲まれた数字は、その土地・宅地の番地を意味し、数字を囲う線は、その番地の土地・宅地の範囲を区画するものとして定められた線である「筆界」であると認められる。
(11)上記(2)及び(3)より、甲第2号証は、本件特許発明の出願日前の大正十一年十二月二十日印刷発行と記載されていることから、甲第2号証は、少なくとも、本件特許発明の出願日前に頒布されていたと推認し得る。
(12)上記(4-1)、(4-3)、(8)及び(9-1)より、「四谷区町名一覧表(イロハ順)」の「行」とは「上辺及び下辺の、カナ記号マ、ヤ、ク、オ、ノ、ヰ、ウ、ム」を指し、「段」とは、「左辺及び右辺の、数字番号一八、一九、二〇、二一、二二、二三」を指すものであることが理解し得るから、「四谷区町名一覧表(イロハ順)」の「行段」は、分割された区画と対応付けられていることが理解できる。
(13-1)上記(10-3)及び(12)より、「番地2とともに「多武峯神社」との表示が筆界で囲まれた土地」(区画「オ二一」)、「番地30-34とともに「学習院初等学科」との表示が筆界で囲まれた土地」(区画「ヰ二一」)及び「番地17-24とともに「慶應義塾医科大学」との表示が筆界で囲まれた土地」(区画「ノ二一」)等、「公共施設名と番地が筆界で囲まれた土地に記載されている」ことが認められる。
(13-2)また、「番地27とともに「松平子邸」との表示が筆界で囲まれた土地」(区画「ヰ一九」)及び「番地62とともに「日本紙器製造会社工場」との表示が筆界で囲まれた土地」(区画「ヰ二二」)等、「一般住宅名及び企業施設名並びに番地が筆界で囲まれた土地に記載されている」ことが認められる。
(13-3)上記(13-1)及び(13-2)以外の筆界で囲まれた土地・宅地は、名称を記載せず、番地のみが記載された筆界で囲まれた土地であることが認められる。
(14)上記(7)より、甲第2号証の縮尺は、5,000分の一といえる。
(15)上記(6)、(9-1)及び(9-2)より、「四谷区町名一覧表(イロハ順)」には、四谷区の全ての宅地の町名及び番地が区画を示す行段と一覧的に対応付けて掲載されているといえる。
(16)上記(1)乃至(15)より、甲第2号証は、地表の諸物体・現象を、縮尺し、記号・文字を用いて平面上に表現したものであって、一枚ものであるから、一枚地図であるといえる。(上記(1)より、甲第2号証には、「東京逓信局編纂 東京市四谷区」と表示されているから、以下「東京逓信局編纂「東京市四谷区」一枚地図」という。)
(17)上記(4-2)より、甲第2号証の地図は、行政区画によって分けたものであって、郵便地図とするためには対応する境界において裁断又は接続する必要がある、といえる。

上記事項(1)?(17)から、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「東京逓信局編纂「東京市四谷区」一枚地図において、
「多武峯神社」、「学習院初等学科」及び「慶應義塾医科大学」等の公共施設については公共施設名及び番地を筆界で囲まれた土地に記載し、「松平子邸」及び「日本紙器製造会社工場」等については、一般住宅名及び企業施設名並びに番地を筆界で囲まれた土地に記載し、
上記以外のものについては、名称を記載せず、番地のみを筆界で囲まれた土地に記載すると共に、
縮尺を5,000分の一にして地図を構成し、
該地図を40に分割して区画化し、
該地図の左下には町名一覧表を設け、
該町名一覧表に四谷区の全ての宅地の町名及び番地を区画を示す行段と一覧的に対応させて掲載し、
該地図は、行政区画によって分けたものであって、郵便地図とするためには対応する境界において裁断又は接続する必要がある、
東京逓信局編纂「東京市四谷区」一枚地図。」(以下「甲第2号証発明」という。)

3.甲第3号証
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
(1)「昭和九年十二月作製 赤坂区 No.1.」(右上)
また、甲第3号証から、次の事項が認められる。
(2-1)「数字18とともに「参人湯」と記載されたポリゴン」(中心部)、「数字1とともに「赤坂帝国館」と記載されたポリゴン」(左下部)、「数字2とともに「株式會社安全自動車」と記載されたポリゴン」(中央上部)及びその他「数字とともに業態名が記載されたポリゴン」が認められる。
(2-2)「数字9とともに「黒川」と記載されたポリゴン」(中央やや左)、「数字12とともに「上原」と記載されたポリゴン」(中央やや右)、「数字1とともに「中谷」と記載されたポリゴン」(中央上部)等、「番地とともに個人名が記載されたポリゴン」が認められる。
(2-3)その余のポリゴンは数字のみが記載されていることが認められる。
(3)ポリゴンは、凹凸を有しているのであって、周囲のポリゴンとの間に空白部があることが認められる。
(4)上記(3)より、ポリゴンは、境界を挟んで隣接するものではないから、宅地及び土地を表示したものとはいえず、土地に建築された住宅または建物を表示したものといえる。また、ポリゴンに記載された数字は、住宅または建物に付された番号であるから、住宅または建物の所在する番地(住所番地)を表したものといえる。
(5)上記(2-1)の「参人湯」はその名称から銭湯と推認できるから「公共施設」といえる。また、「赤坂帝国館」もその名称から映画館と推認できるから「公共施設」といえる。また、「株式會社安全自動車」及び「業態名」は法人をあらわしていることは明らかである。
(6)上記(2-2)の「黒川」、「上原」及び「中谷」の名称は居住人名と推認できるから、上記(4)を勘案すると、「黒川」等が記載された「ポリゴン」は一般住宅といえる。
(7)上記(1)乃至(6)より、甲第3号証は、地表の諸物体・現象を、縮尺し、記号・文字を用いて平面上に表現したものであって、一枚ものであるから、一枚地図であるといえる。(上記(1)より、甲第3号証には、「赤坂区 No.1.」と表示されているから、以下「「赤坂区 No.1.」一枚地図」という。)
(8)上記(1)の「昭和九年十二月作製」との記載、後記「5.(1)」の「東京都内の主要な図書館へ提供もしくは販売しており、特に広尾の東京都立中央図書館には東京分における戦前・戦後分の火災保険特殊地図は都市整図社が現在保有している分に関しては全て所蔵している。」との記載、及び後記「5.(2)」の「火災保険特殊地図は、種類に関係なく一枚1,200円で購入できる。」との記載から、甲第3号証の「赤坂区 No.1.」一枚地図は、少なくとも本件特許発明の出願日前に頒布されていたと推認し得る。

上記事項(1)?(8)から、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「「参人湯」及び「赤坂帝国館」という公共施設、「株式會社安全自動車」等の法人、並びに「黒川」、「上原」及び「中谷」等の一般住宅は、名称と住宅または建物を表示したポリゴンと所在する番地を記載し、その余の住宅及び建物は、住宅または建物を表示したポリゴンと所在する番地のみが記載された、「赤坂区 No.1.」一枚地図。」(以下「甲第3号証発明」という。)

4.甲第8号証
(1)「東京都立中央図書館都市・東京情報担当所蔵
地図目録
-平成29年9月末現在-
東京都立中央図書館」(表紙)
(2)「(3)火災保険特殊地図(都市整図社 複製) ()内は資料ID
火災保険特殊地図とは・・・火災保険の評価に使われた、住宅の地番・居住者名のはいった詳細な地域図。火災保険会社の委託により、都市整図社の先代、沼尻長治氏が作成したもの。戦前から昭和35年頃までの町並みを知る貴重な資料。現在の住宅地図の前身として非常に利用価値が高い。
○1戦前分(旧35区)昭和7年から15年刊
赤坂区[1934-1937] DRT/0・339-2-1 (1123363559)」(59頁1?7行)

5.乙第1号証
(1)「【質問】
ゼンリンの住宅地図を見ていると、建物と建物に棒線が引かれた箇所があるが、この棒線にはどのような意味があるのか。」(1頁8?10行)
(2)「【回答】
「続き棟」で所有者が一緒という意味である。」(1頁)11?12行)

6.乙第2号証
(1)「火災保険特殊地図は…現在は東京分に関しては東京都内の主要な図書館へ提供もしくは販売しており、特に広尾の東京都立中央図書館には東京分における戦前・戦後分の火災保険特殊地図は都市整図社が現在保有している分に関しては全て所蔵している。」」(第2頁右欄36行?5頁右欄末行)
(2)「火災保険特殊地図は、種類に関係なく一枚1,200円で購入できる。」(第6頁左欄第14?16行)


第6 当審の判断
1.本件特許発明について
(1)本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、従来技術とその課題、及び発明の効果について、以下のように記載されている。
「【0002】
【従来の技術】
従来の住宅地図には、建物表示に住所番地ばかりでなく、居住者氏名も全て併記されており、このため、それらの記載を一軒ごとに建物表示の輪郭内に納めるために一軒毎の建物の記載スペースを大きく取る必要があった。従って、住宅地図の縮尺は、実用上、小さい
ものでも市街地で1,000分の1から1,500分の1の大きさであることが要求される。また、これに伴って目的とする建物や建物への連絡道路や付近の状況等を一覧できるように、地図帳の大きさも比較的大判サイズのものにする必要があった。
【0003】
また、付属の索引については、住所のうち丁目とそれぞれの丁目に該当するページが掲載されているだけであったから、目的とする建物を探し出すためには、索引によって開いた上記のように大判の広いべ一ジの上で、丁目が同一であって番地が異なる多くの建物の中から目的とする建物を探し出す必要があった。さらに上記のように縮尺度の低い縮尺のもとでは一軒毎の建物の記載スペースが大きいために、同一の丁目に属する建物が数ページにまたがって分布して記載されていることが多く、このため目的とする居住地(建物)を探し出す作業が煩雑で面倒であり迅速さに欠け非能率な作業となって大きな不満を伴うものであった。
【0004】
また、従来より住宅地図には氏名と住所を記載することが必須とされており、このため、アルバイト生などを雇って一軒一軒尋ね歩かせ、住所、氏名を確認のうえ住宅地図上の当該家屋に新規に書き込み、あるいは修正するなどして、いわゆる人海戦術によって地図の作成を行っていた。このように、氏名の記載に伴う地図作成の繁雑さ及び地図作成後の住所移転に伴う氏名の記載変更作業の繁雑さは並大抵のものではなく、このように毎年行われる実地調査のための人件費が経費の相当部分を占めて、これが住宅地図の制作費を押し上げる要因となっていた。
【0005】
また、このような住宅地図は、住所番地と氏名あるいは建物などが同色で併記されているため雑然としていて見にくく、従って、肉眼でも判別可能な実用性を確保するためには大きく記載しなければならず、ますます縮尺度を低いものにさせていた。従って、全体として地図の大型化や大冊化を招き、この大型化や大冊化が上記の人件費と相俟って住宅地図を高価格なものとするとともに、携帯に不便なものともしていた。
【0006】
この高価格や大型化・大冊化のために、住宅地図は一般には普及せず、官公庁や住宅関係の情報を特に必要とする企業など、ごく一部に使用されるだけの利用率の低いものとなっている。また、同様の理由により、住宅地図を必要とする企業等においても、携帯による個別的な利用は一般的になされず、その点からも利用率の低いものとなっている。
【0007】
そして、住宅地図の利用においては、一般に、目的とする建物を探し出す過程で必要な情報は、公共施設や著名ビル等の一部例外を別にすれば専ら住宅の番地であり、この住宅の番地が目的とする建物に検索が近づいているか否かを判別するための手掛かりとなる。氏名は目的とする建物が見つかったとき更なる確認のために必要とされることはあっても、必須不可欠なものではない。のみならず、検索中における付近の建物の住人の氏名は不要なばかりか、総じて、検索に対して妨害的に作用するものである。実際、氏名は漢字やかなで表記されるため、住宅地図上の建物輪郭内に必要とするスペースの割合が大きく、結果的に、数字である住所番地はその片隅に小さく記載されざるを得ないから、記載情報を読み取る際の人間の習性として、検索中は、住所番地ばかりでなく付近の不要な文字(氏名)まで読み取ることになり迅速な検索の支障になっている。
【0008】
更に、現存の住宅地図の作成では、例えば一軒一軒表札を見て居住者の氏名を記入するため、電話帳に電話番号を掲載しない住民その他氏名の公表を希望しない住民についても住宅地図こ登載してしまうこととなる。このため、プライバシーの保護という点からも問題を有している。
【0009】
上述した様々な制約により、従来より一般の人でも容易に入手し得る低廉な価格で、かつ小型で迅速な検索が可能であるとともに個人のプライバシーの保護にも十分配慮された住
宅地図が広く要望されているにもかかわらず、そのような地図が今もって実現していない。
【0010】
本発明の課題は、上記従来の実情に鑑み、住宅、ビル等の一軒ごとに居住者名や会社名等の対応付けが容易であり、縮尺率が高く小型で廉価であり、内容が最新、正確、且つプライバシーに配慮したものであり、検索が迅速にできる住宅地図を提供することである。」
「【0039】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、利用者は例えば電話帳という高い信頼性を有するデータベースの丁目及び番地に基づいて検索して目的とする建物を探すので、居住人の氏名を記載する必要がなく、したがって当該住宅地図に記載するのは番地だけとなるため、記載スベース(審決注:「スペース」の誤記。)を大きく必要とせず、高い縮尺度で地図を作成でき、従って、小判で、薄い、取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することができる。また、同様の理由により、住宅地図作成にあたって氏名記載のための現地調査という膨大な労力を要せず、廉価で正確な検索のできる住宅地図を提供することができる。更に、同様の理由により、公共施設や著名ビル等以外は、住宅番地のみを記載するとともに、全ての建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容易にわかる、番地や号に至るまでの詳しい索引欄を付すことによって、簡潔で見やすく、迅速な検索の可能な住宅地図を提供することができる。又、毎年更新される電話帳のデータを検索キーとして用いるので、居住者の移転に伴う地図の記載の変更が必要なく、従って常に実用に即して正確に参照できる住宅地図を廉価で提供することができる。また、住宅の新築等に伴う地図の修正についても、その位置を電子データベース等の活用により容易に見当を付けることができるので、効率的かつ廉価な修正が可能となる。また、当該住宅地図には氏名が記載されず、他方、全戸氏名入りの電子住宅地図についても、その氏名データや検索は電話帳のデータベースに基づくので、電話帳に記載されていない個人の住宅などについては検索の対象から自動的に除外でき、従って、プライバシーの保護の十分行き届いた住宅地図を提供することができる。」

上記のことから、本件特許発明に係る住宅地図によれば、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載する」ことにより、小判で、薄い、取り扱いの容易で廉価な、廉価で正確な検索のできる、常に実用に即して正確に参照でき、プライバシーの保護の十分行き届いた住宅地図を提供でき、効率的かつ廉価な修正が可能となり、また、「索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載」することにより、簡潔で見やすく、迅速な検索の可能な住宅地図を提供することができるものである。

2.無効理由1(特許法第36条第6項2号(明確性要件違反))について
(1)構成要件B「『検索の目安となる』公共施設や『著名ビル等』を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載する」について
ア.「検索の目安となる」に関して、本件特許明細書を参酌すると、「住宅地図の利用においては、一般に、目的とする建物を探し出す過程で必要な情報は、公共施設や著名ビル等の一部例外を別にすれば専ら住宅の番地であり、この住宅の番地が目的とする建物に検索が近づいているか否かを判別するための手掛かりとなる。」(【0007】参照。)との記載から、「検索の目安となる」とは、住宅地図で目的とする建物を検索する際に、手掛かりとなり得る情報のことであると解される。
また、「検索の目安となる」とは、文言どおり、検索の際に目あて、目標となることであるところ、住宅地図において、周囲の住宅建物に比べて、ポリゴンの大きさが大きいものが、目あて、目標となり得ることは明らかである。
以上のことから、「検索の目安となる」とは、「住宅地図において、目的とする建物を検索する際に、周囲の住宅建物のポリゴンに比べて、大きさが大きく、目あて、目標となって、検索の手掛かりとなり得る」という意味であることが理解できる。
そして、「検索の目安となる」が「周囲の住宅建物に比べてポリゴンの大きさが大きい」との理解は、本件特許発明が,住宅地図において、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略することで,縮尺を圧縮するようにしたという技術的意義にも整合するものである。

イ.そうすると、「公共施設や著名ビル等」とは、「検索の目安となる」ものの例示であることが容易に理解できる。
そして、「著名」とは、一般の用語例のとおり、「世間に名前がよく知られている・こと(さま)。有名」のことを指す用語であるから(乙第3号証参照。)、「著名ビル」とは、世間に名前がよく知られているビルを指すことは明らかである。
そうすると、「著名ビル等」の「等」とは、本件特許明細書【0007】の記載を参酌すると、公共施設や著名ビルには該当しないものの、検索の目安となる建物を指すことは明らかである。
ウ.そして、上記1.の記載事項を参酌すれば、本件特許発明は、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載する」ことにより、氏名や名称が記載された住宅地図に比べて縮尺を相当圧縮することができ、小判で、薄く、取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供できるという効果を奏することが、当業者であれば、容易に理解できることからも、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」との記載は、何ら不明確なものではない。
エ.請求人は、「検索の目安となる」との記載は、主観的評価に左右され、客観的、一義的に定めることができず、「著名ビル等」との記載は、その基準が不明で、何が含まれるのかが不明で、客観的、一義的に決定することはできず、以て、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である、旨主張するが(無効審判請求書6頁19?22行、口頭審理陳述要領書4頁22行?8頁下から2行)、上記ア乃至ウのとおりであって、公共施設や著名ビル(「著名」の意味を勘案して)は、世間に名前がよく知られている建物であり、このような建物は、地図上において、検索する際の手掛かりとなる情報となることは、明らかである。
そうすると、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」との記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。

(2)構成要件C「『縮尺を圧縮』して『広い鳥瞰性』を備えた」について
ア.「縮尺を圧縮」とは、文言どおり、「縮尺」を「圧縮」することである。
そして、本件特許発明の記載から、縮尺を圧縮する対象は、本件特許発明である「住宅地図」であって、その程度は、従来の住宅地図の「縮尺」を、より高い縮尺とすることであることは理解できる。
よって、「縮尺を圧縮」との記載事項は明確である。
イ.そして、上記1.を参酌すると、本件特許発明が、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除いた住宅及び建物についてはその名称を省略しポリゴンと番地のみを記載することにより、建物名称の文字数などの影響を受けずかつ文字の視認可能性を残したままポリゴン自体を小さくすることができ、これにより全ての居住人氏名や建物名称が記載された地図に比べて縮尺を相当程度圧縮することができ、また、かかる縮尺の圧縮により、1ページにより広い範囲を記載することが可能となるとともに、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除いた住宅及び建物についてはその名称を省略しポリゴンと番地のみを記載することにより、目視により目的とする地番の建物を探し出す際の視野の邪魔を排除することができ、これらが相まって、広い鳥瞰性を備えられるという効果を奏することが、当業者であれば、容易に理解できることからも、「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた」との記載は、何ら不明確なものではない。
そして、以上のことは、本件特許明細書の【0021】及び【0030】からも裏付けられているものである。
よって、「広い鳥瞰性」との記載事項は明確である。
ウ.請求人は、「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた」との記載は、比較の対象となる縮尺が不明で、どの程度の高い縮尺率であれば足りるのか不明で、「視野の邪魔が排除された状態を指す」がどこから導かれるのか不明で、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である、旨主張するが(無効審判請求書6頁23?7頁1行、口頭審理陳述要領書9頁10行?10頁10行)、上記ア及びイのとおりであって、「縮尺を圧縮」してとの記載は明確なものであるし、以て、「広い鳥瞰性を備えた」との記載も明確であることから、「縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた」との記載で、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確さがあるとはいえない。

(3)構成要件F「全ての」について
「全ての住宅建物の所在する番地」と記載されていることから、日本語の自然な理解として「全ての」が直後の「住宅建物」に係ることは明らかである。
よって、「全ての」との記載事項は明確である。

3.無効理由2-1(特許法第29条第1項第3号(新規性欠如))について
(1)対比・判断
本件特許発明と甲第1号証発明とを対比すると、
ア.後者の「住宅地図」、「「町立桃沢幼稚園」、「井出明久」及び「杉山旭」という名称」、「番地」、「ポリゴン」、「縮尺」、「地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し」、「付属として索引欄を設け」及び「索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した」は、それぞれ、前者の「住宅地図」、「居住人氏名及び建物名称」、「番地」、「ポリゴン」、「縮尺」、「地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し」、「付属として索引欄を設け」及び「索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した」に相当する。
イ.後者の「町立桃沢幼稚園」は「公共施設」といえるものの、後者の「井出明久」及び「杉山旭」は、著名人といえる理由もないから、一般人、すなわち、一般住宅の居住人名と認められる。
ウ.本件特許明細書には、「従来の住宅地図には、…従って、住宅地図の縮尺は、実用上、小さいものでも市街地で1,000分の1から1,500分の1の大きさであることが要求される。」(【0002】参照。)及び「実用的なレベルでの最高縮尺度を種々実験してみると、従来の市街地区域の一般的な1/1000の縮尺に対して、更に縦・1/5、横・1/5にまで圧縮して、1/5000の縮尺にまで形成できることが分かる。」(【0030】参照。)と記載されていることからすると、本件特許発明の「縮尺を圧縮した地図」とは、従来技術の住宅地図(縮尺が1,000分の1から1,500分の1)と比較して、より高い縮尺率(例えば、縮尺が1/5000)で圧縮した地図を意味するものと理解できる。
そうすると、後者の「縮尺」は、「1:1,800」であるから、「縮尺を圧縮」したものといえる。
後者の「井出明久と記載されたポリゴン」と棒線で結ばれた「名称等の記載がないポリゴン」についてみるに、該ポリゴンは、「井出明久」という居住人氏名が記載されたポリゴンと棒線で結ばれているものであるところ、乙第1号証によれば、ゼンリンの住宅地図において「建物と建物」に棒線が引かれているものは、「続き棟」で所有者が一緒という意味であるとの回答が得られたのであることからすれば、「井出明久」と記載されたポリゴンで「名称等の記載のないポリゴン」の表示を代用しているものと認められる。
そうすると、甲第1号証発明の「井出明久と記載されたポリゴンと棒線で結ばれた名称等の記載のないポリゴン」は、当該ポリゴンに居住人氏名や建物名称の記載がないものの、当該ポリゴンと棒線で結ばれポリゴンに居住人氏名が記載されているのであるから、居住人氏名や建物名称の記載が省略されているわけではない。
また、甲第1号証発明の「(有)豊田クレーンと記載された区画内に位置し、家屋番号のみが記載されたポリゴン」についてみるに、(有)豊田クレーンと記載された区画のポリゴン内のポリゴンであるのだから、「(有)豊田クレーン」と記載されたポリゴンで「名称等の記載のないポリゴン」の表示を代用しているものと認められる。
そうすると、甲第1号証発明の「(有)豊田クレーンと記載された区画内に位置し、家屋番号のみが記載されたポリゴン」は、当該ポリゴンに居住人氏名や建物名称の記載がないものの、当該ポリゴンを内に含む区画のポリゴンに建物名称が記載されているのであるから、居住人氏名や建物名称の記載が省略されているわけではない。

したがって、両者は、
「住宅地図において,
縮尺を圧縮して地図を構成し,
該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し,
付属として索引欄を設け,
該索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した,
住宅地図。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本件特許発明が、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に」、「広い鳥瞰性を備えた」ものであるのに対し、甲第1号証発明は、「「町立桃沢幼稚園」、「井出明久」及び「杉山旭」という名称、家屋番号及びポリゴンが記載された公共施設及び一般住宅と、(有)豊田クレーンと記載された区画内に位置し、家屋番号のみが記載されたポリゴンと、「井出明久」と記載されたポリゴンと棒線で結ばれた何ら記載のないポリゴンが記載され」たものである点。

そうすると、甲第1号証発明は、上記相違点に係る本件特許発明の発明特定事項を備えていない。
よって、本件特許発明と甲第1号証発明との間には、相違点が存在するから、本件特許発明は甲第1号証発明ではない。
したがって、本件特許発明が、甲第1号証発明であるとすることはできない。

4.無効理由2-2(特許法第29条第2項(進歩性欠如))について
(1)判断
上記相違点(上記2.(1)参照。)について検討する。
甲第2号証発明の「名称を記載せず、番地のみを筆界で囲まれた土地に記載する」ことは、本件特許発明の「居住人氏名や建物名称の記載を省略し」「番地のみを記載する」ことに相当する。
また、甲第2号証発明の「多武峯神社」、「学習院初等学科」及び「慶應義塾医科大学」等は公共施設であるから、上記2.(1)イ.より、「検索の目安となる」ものの例示といえる。
さらに、甲第2号証発明の「松平子邸」及び「日本紙器製造会社工場」等の一般住宅名及び企業施設名が記載された筆界で囲まれた土地の大きさは、東京逓信局編纂「東京市四谷区」一枚地図において、名称が記載されていない筆界で囲まれた土地に比べて明らかに大きく、地図上において、目あて、目標となり得ることから、「検索の目安となる」ものといえる。
そして、「松平子邸」及び「日本紙器製造会社工場」等の一般住宅名及び企業施設名は、一般に著名であったか否かは定かではなく、また、構造もビルであるのかは定かではないが、建物であることは明らかであるから、「著名ビル等」の「等」にあたるものといえる。
そうすると、後者の「松平子邸」及び「日本紙器製造会社工場」等は、「検索の目安となる著名ビル等」といえる。
ここで、本件特許発明の「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物」とは、検索の目安となるものではない「一般住宅及び建物」、すなわち、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等」を除く全ての一般住宅及び建物と解するのが文言上自然である。
また、本件特許発明の「ポリゴン」と、甲第2号証発明の「筆界」とは、不動産の範囲を区画するものとして定められた線である点で共通する
そして、甲第2号証発明の「上記以外のもの」とは、上記の「多武峯神社」、「学習院初等学科」及び「慶應義塾医科大学」等の検索の目安となる公共施設並びに「松平子邸」及び「日本紙器製造会社工場」等の検索の目安となる著名ビル等以外のものであって、甲第2号証発明においては「上記以外のもの」については、名称を記載せず、番地のみを記載するものであるから、本件特許発明の「住宅地図」と、甲第2号証発明の「東京逓信局編纂「東京市四谷区」一枚地図」とは、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除くものについては居住人氏名や建物名称の記載を省略し不動産の範囲を区画するものとして定められた線と番地のみを記載する」との概念で共通する。

しかしながら、上記「第5 1.(2)」に摘示したとおり、甲第1号証発明の「住宅地図」には、「ゼンリンの住宅地図 みかた・使い方」に「-相手方を探すには-」との標題のもと、「相手方の名前が見当たらない場合は、社名か、店名または通称名でお探しください。」と記載されていることに照らせば、甲第1号証発明は、ポリゴンに記載された居住人氏名や建物名称により目的とする住宅や建物を探すように使用されるものであるといえるから、甲第1号証発明は、住宅及び建物をあらわすポリゴンに居住人氏名及び建物名称が記載されていることが前提となっているものであることが理解される。
してみると、甲第1号証発明において、住宅及び建物をあらわすポリゴンに記載すべき居住人氏名及び建物名称等を省略することには阻害要因があるものと言わざるを得ない。
以上のとおりであるから、甲第1号証発明に甲第2号証発明を適用し、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載することを、当業者は容易に想到することはできない。

また、甲第3号証発明の「住宅または建物を表示したポリゴンと所在する番地のみが記載された」は、本件特許発明の「居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載する」ことに相当する。
しかし、上記のとおり、甲第1号証発明において、住宅及び建物をあらわすポリゴンに記載すべき居住人氏名及び建物名称等を省略することには阻害要因があるものと言わざるを得ない。
以上のとおりであるから、甲第1号証発明に甲第3号証発明を適用し、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載することを、当業者は容易に想到することはできない。

そして、本件特許発明は、上記相違点に係る発明特定事項により、「本発明によれば、利用者は例えば電話帳という高い信頼性を有するデータベースの丁目及び番地に基づいて検索して目的とする建物を探すので、居住人の氏名を記載する必要がなく、したがって当該住宅地図に記載するのは番地だけとなるため、記載スベース(審決注:「スペース」の誤記。)を大きく必要とせず、高い縮尺度で地図を作成でき、従って、小判で、薄い、取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することができる。また、同様の理由により、住宅地図作成にあたって氏名記載のための現地調査という膨大な労力を要せず、廉価で正確な検索のできる住宅地図を提供することができる。更に、同様の理由により、公共施設や著名ビル等以外は、住宅番地のみを記載するとともに、全ての建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容易にわかる、番地や号に至るまでの詳しい索引欄を付すことによって、簡潔で見やすく、迅速な検索の可能な住宅地図を提供することができる。又、毎年更新される電話帳のデータを検索キーとして用いるので、居住者の移転に伴う地図の記載の変更が必要なく、従って常に実用に即して正確に参照できる住宅地図を廉価で提供することができる。また、住宅の新築等に伴う地図の修正についても、その位置を電子データベース等の活用により容易に見当を付けることができるので、効率的かつ廉価な修正が可能となる。また、当該住宅地図には氏名が記載されず、他方、全戸氏名入りの電子住宅地図についても、その氏名データや検索は電話帳のデータベースに基づくので、電話帳に記載されていない個人の住宅などについては検索の対象から自動的に除外でき、従って、プライバシーの保護の十分行き届いた住宅地図を提供することができる。」(【0039】参照。)という格別な効果を奏するものである。

よって、本件特許発明は、甲第1号証発明から、当業者が容易に発明できたものとすることはできないし、また、甲第1号証発明及び甲第2号証発明もしくは甲第3号証発明から、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

(2)請求人の主張に対して
ア.請求人は、甲9から、「検索の目安となり得る公共施設や一部の一般住宅及び建物等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物の多角形と番地のみを記載すると共に、居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた住宅地図」は、本件特許出願当時に周知技術である、旨主張し(上記「第3 3.(2)イ.」参照。)、前記主張の裏付けとして、甲第10号証及び甲第11号証を提示した。
しかし、上記(1)で述べたように、甲第1号証発明は、住宅及び建物をあらわすポリゴンに居住人氏名及び建物名称を記載することが前提となっている「住宅地図」であるから、仮に、「検索の目安となり得る公共施設や一部の一般住宅及び建物等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物の多角形と番地のみを記載すると共に、居住人氏名や建物名称を記載するようなスペースがないほどに縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた住宅地図」が周知技術であったとしても、甲第1号証発明に適用するには、阻害要因があることは、上記(1)のとおりである。


第7 むすび
以上のとおり、本件発明に係る特許については、無効理由1、無効理由2-1及び無効理由2-2によっては、無効にすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-20 
結審通知日 2019-08-26 
審決日 2019-09-20 
出願番号 特願平8-271986
審決分類 P 1 113・ 121- Y (G09B)
P 1 113・ 537- Y (G09B)
P 1 113・ 113- Y (G09B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 尾崎 淳史
藤本 義仁
登録日 2006-04-28 
登録番号 特許第3799107号(P3799107)
発明の名称 住宅地図  
代理人 蟹田 昌之  
代理人 大野 聖二  
代理人 木村 広行  
代理人 服部 誠  
代理人 藤松 文  
代理人 小林 浩  
代理人 祝谷 和宏  
代理人 松本 卓也  

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