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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  B29C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1356858
異議申立番号 異議2018-700743  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-13 
確定日 2019-11-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6369615号発明「ビーズ法発泡合成樹脂成形用金型、及びビーズ法発泡合成樹脂成形品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6369615号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6369615号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成27年5月2日(優先権主張 平成26年5月7日)にした特願2015-94477号の一部を平成29年10月2日に新たな特許出願としたものであって、平成30年7月20日にその特許権の設定登録がされ、同年8月8日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、平成30年9月12日に特許異議申立人 有限会社三宝金型製作所(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成31年4月23日付けで取消理由が通知され、令和1年7月4日に特許権者 株式会社羽根より意見書が提出され、同年8月16日付けで特許異議申立人に審尋を行ったところ、同年9月4日に特許異議申立人から回答書が提出されたものである。


第2 本件特許発明

本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし13」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
コア型及びキャビティ型からなる一対の金型により形成される成形空間に熱可塑性樹脂の発泡ビーズを充填し、前記発泡ビーズを蒸気で加熱して融着させ、冷却及び乾燥して所要形状の発泡合成樹脂の成形品を得るビーズ法発泡合成樹脂成形に用いる前記金型であって、
削り出し及び/又は鋳造により形成された立体形状の前記金型の所要箇所に、前記金型の内外に連通して前記蒸気を通すための、前記金型自体に直接形成したスリット状の蒸気孔を有し、
前記スリット状の蒸気孔が、ツールとしてメタルソーを取り付けたマシニングセンターによる切削加工、又はレーザ加工機又はワイヤ放電加工機による除去加工で形成されたものであり、
前記スリット状の蒸気孔位置において、前記金型の前記成形空間と反対側の面に、前記冷却を行う冷却水が滞留する窪みが無いことを特徴とするビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。
【請求項2】
前記スリット状の蒸気孔のうち、前記金型の取付けフランジ部に設けられたものが、外部に対して開放されている請求項1に記載のビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。
【請求項3】
前記スリット状の蒸気孔が、少なくとも前記金型の曲面状部分に設けられている請求項1に記載のビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。
【請求項4】
前記スリット状の蒸気孔が、前記金型の表面形状変化部分に沿って設けられている請求項1に記載のビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。
【請求項5】
前記金型の側面に配置される前記スリット状の蒸気孔が、前記金型の開閉方向に沿って設けられている請求項1記載のビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。
【請求項6】
前記金型の蒸気孔開口率に関し、前記金型の原料充填口から遠い、前記成形品の先端部を形成する部位の蒸気孔開口率を大きくし、かつ、前記成形品の先端部を形成する部位以外の蒸気孔開口率を小さくしてなる請求項1?5の何れか1項に記載のビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。
【請求項7】
前記成形品の先端部を形成する部位の蒸気孔開口率と前記先端部を形成する部位以外の蒸気孔開口率との比が、3:1?10:1の範囲である請求項6記載のビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。
【請求項8】
前記金型が、削り出し及び/又は鋳造で部品を作った後にそれらを組み立てて形成されたものである請求項1?7の何れか1項に記載のビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。
【請求項9】
前記スリット状の蒸気孔の幅が、0.1mm?0.7mmの範囲である請求項1?8の何れか1項に記載のビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。
【請求項10】
前記スリット状の蒸気孔一つ当たりの長さが20mm?100mmの範囲である請求項1?9のいずれか1項に記載のビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。
【請求項11】
前記発泡合成樹脂が発泡ポリオレフィン系樹脂である請求項1?10のいずれか1項に記載のビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。
【請求項12】
前記発泡合成樹脂が発泡ポリスチレン系樹脂である請求項1?10のいずれか1項に記載のビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。
【請求項13】
請求項1?12の何れか1項に記載のビーズ法発泡合成樹脂成形用金型により形成される成形空間に熱可塑性樹脂の発泡ビーズを充填し、前記発泡ビーズを蒸気で加熱して融着させ、冷却及び乾燥することにより所要形状の発泡合成樹脂の成形品を製造するビーズ法発泡合成樹脂成形品の製造方法。」


第3 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要

請求項1、2、5、8ないし13に係る特許に対して、当審が平成31年4月23日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由1(新規性) 本件特許の請求項1、5、8、9、11ないし13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

理由2(進歩性) 本件特許の請求項1、5、8ないし13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

理由3(拡大先願) 本件特許の請求項1、2に係る発明は、甲第2号証に係る出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であって、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第1号証:特開2002-264163号公報
甲第2号証:特開2015-160400号公報
(特願2014-37815号)

2 理由1(新規性)、理由2(進歩性)について

(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明について

甲第1号証には次の事項が記載されている。(下線は当審で付したものである。)

「【請求項1】 発泡性樹脂粒子を予備発泡させた発泡粒子を金型内に充填し、金型内に蒸気を吹き出すことにより発泡粒子を融着させて消失模型用発泡樹脂ブロックを製造する金型であって、前記金型の蒸気吹き出し孔の最大開孔幅が0.8mm以下であり、また、少なくとも正面と背面の対向二面の蒸気吹き出し孔の開孔率が、当該面の全面積の4?25%であることを特徴とする消失模型用発泡樹脂ブロック製造用金型。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鋳造用消失模型を作製するのに適した発泡樹脂ブロック及び同発泡樹脂ブロックを製造するための金型に関する。」

「【0004】一方、発泡ポリスチレンブロック等の製造は、蒸気により発泡性樹脂粒子を予備発泡させて発泡粒子を製造した後、この発泡粒子を密封金型に充填して金型内に蒸気を吹き出すことにより、発泡粒子を融着させてブロック化する方法が一般的であるが、この際の発泡粒子の融着率も、切削時の模型表面の凹凸の発生に影響し、融着率が80%程度以上であると、切削スピードを上げても比較的表面が綺麗であり、80%程度以下であると、表面の凹凸が激しくなるような傾向にある。しかしながら、このような融着は、発泡粒子の粒径が大きいほど粒子間に蒸気が入り易くなって、例えば予備発泡前の発泡性樹脂粒子の粒径が1.0mm程度以上のものは比較的容易に製造出来るものの、発泡性樹脂粒子の粒径が0.4?0.9mm程度の小さいものを使用して、例えば400mm程度以上の厚みのブロックを製造しようとすると、中心部等では粒子間に蒸気が入り込みにくくなって、融着率を80%程度以上にするのが非常に難しかった。このような場合、融着率を上げるため、蒸気元圧力を上げるか、蒸気加熱時間を上げるような方法が考えられるが、この場合は、作業性を低下させるだけでなく、いずれも成形品の外観が収縮してしまいNCマシンにセットしずらくなったり、切削後の成形品の寸法変化が大きなものとなってしまう等の問題がある。すなわち、融着率が高くまた粒径が小さい場合には、切削スピードを上げても模型の表面を綺麗に維持することが出来るが、このような消失模型用発泡樹脂ブロックを成形することは困難であった。
【0005】そこで本発明は、予備発泡前の発泡性樹脂粒子の粒径が0.4?0.9mm程度の小さいものを使用してブロックを製造する際、成形後の収縮が少ない発泡面圧でも融着率が80%以上確保出来るようにすることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため本発明は、発泡性樹脂粒子を予備発泡させた発泡粒子を金型内に充填し、金型内に蒸気を吹き出すことにより発泡粒子を融着させて消失模型用発泡樹脂ブロックを製造する金型において、金型の蒸気吹き出し孔の最大開孔幅を0.8mm以下とし、また、少なくとも正面と背面の対向二面の蒸気吹き出し孔の開孔率を、当該面の全面積の4?25%であるようにした。」

「【0010】また、前記金型を、通常使用されているような金属板で作製する場合には、一般的には蒸気吹き出し孔を切削加工により形成するため、この場合には、少なくとも正面と背面の対向二面の蒸気吹き出し孔の開孔率を、当該面の全面積の4?8%にすることが好ましい。」

「【0014】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。ここで図1は本発明に係る発泡樹脂ブロック製造用金型の一例を示す斜視図、図2は図1のA-A線断面図、図3は図1のB-B線断面図、図4は本発明に係る発泡樹脂ブロックの一例を示す斜視図である。」

「【0018】発泡樹脂ブロック製造用金型1は、図1に示すように、一面側が開放されたボックス型の固定型2と、この固定型2の開放面を遮蔽または開放自在な可動型3を備えており、固定型2の上部附近には、予備発泡した発泡粒子を充填するための複数の充填口4が設けられるとともに、固定型2の裏面側には、成形した樹脂ブロック製品を押出すための押出しピン5が設けられ、また、固定型2や可動型3には、型内に蒸気を吹き出すための蒸気吹き出し孔としてのスリット溝6が多数設けられている。
【0019】そして、このような固定型2、可動型3は、実施例の場合、アルミニウム板にスリット溝6を設けることにより構成され、またスリット溝6の両端コーナ部は、図2、図3に示すように、型の内外方向に向けてテーパ部tが形成され、型の外側の長さより型の内側の長さの方が広がるようにされている。これは、発泡ブロック製品を製造した後、製品を押出す際、スリット溝6に食い込んだ粒子等がコーナ部に引っ掛かって脱落するのを防止し、目詰まり等を生じにくくするためである。
【0020】また、スリット溝6の開孔幅がhで、実質開孔長さがiで、例えば図1の可動型3において、全域に亘って合計n個のスリット溝6が形成されている場合、可動型の横幅がa、縦長がbであるとすれば、この面の開孔率は、(h×i×n)/(a×b)であり、本実施例では、開孔幅hを0.8mm以下にし、また可動型3の面とその対向面の開孔率を4%以上8%以下にし、側面等の開孔率を4%以下の2?3.5%程度にしている。また、固定型2の厚みcは400mm以上にし、成形する発泡樹脂ブロックRの厚みが400mm以上になるようにしている。
【0021】そして、不図示の予備発泡型を使用して、粒径が0.4?0.9mm程度の発泡性樹脂粒子を発泡させ、次いで、この予備発泡した発泡粒子を充填口4から金型1に充填し、充填口4を封止した後、最初に可動型3の面及びその対向面のスリット溝6から蒸気を吹き付ける。この可動型3の面及びその対向面は、蒸気成形に重要な大面積であり、この最初の蒸気流入により粒子間の空気を排除して側面のスリット溝6からこれを排出し、融着を促進させる。次いで、約10秒程度経過後、側面のスリット溝6からも蒸気を吹き出して全体の融着度を高める。
【0022】そして、融着が完了すると、可動型3を開いて押出しピン5によりブロック製品を押出すと、図4に示すような発泡樹脂ブロックRが取出される。そしてこの発泡樹脂ブロックRの表面には、蒸気開孔跡模様mが形成されており、この蒸気開孔跡模様mは、スリット溝6の金型内部側の形状が転写されたものとなり、例えば金型のスリット溝6の開孔率が4%程度の場合、蒸気開孔跡模様mの面積率は4.5%程度となる。」





これらの記載から見て、甲第1号証には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「一面側が開放されたボックス型の固定型と、この固定型の開放面を遮蔽または開放自在な可動型とを有する発泡樹脂ブロック製造用金型であり、該金型内に発泡粒子を充填し、前記発泡粒子に蒸気を吹き出すことにより、発泡粒子を融着させて、発泡樹脂ブロックを得る発泡樹脂ブロック製造用金型であって、
固定型及び可動型には、金型内に蒸気を吹き出すための蒸気吹き出し孔として最大開孔幅が0.8mm以下のスリット溝が設けられ、
前記スリット溝は切削加工により形成されたものである発泡樹脂ブロック製造用金型。」

(2)対比・判断

ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明との対比

引用発明の「一面側が開放されたボックス型の固定型」は、本件発明1の「キャビティ型」に相当するとともに、引用発明の「固定型の開放面を遮蔽又は開放自在な可動型」は、本件発明1の「コア型」と、「型」である限りにおいて相当し、あわせて「一対の金型」を形成しているものであり、かつ、金型自体は「立体形状」を有することも明らかである。
また、引用発明の「金型内」、「発泡粒子」、「スリット溝」、「発泡樹脂ブロック」は、本件発明1の「金型により形成される成型空間」、「発泡ビーズ」、「スリット状の蒸気孔」、「発泡合成樹脂の成形品」に相当する。
さらに、引用発明は、「発泡粒子に蒸気を噴き出すことにより、発泡粒子を融着させて、発泡樹脂ブロックを得る」ものであるから、「ビーズ法発泡合成樹脂成形」法にあたることは明らかであり、その工程上、発泡粒子を融着させた後、当然、冷却及び乾燥させるものである。

以上の点をふまえ、本件発明1と引用発明を対比すると、両者は、
「型及びキャビティ型からなる一対の金型により形成される成形空間に熱可塑性樹脂の発泡ビーズを充填し、前記発泡ビーズを蒸気で加熱して融着させ、冷却及び乾燥して所要形状の発泡合成樹脂の成形品を得るビーズ法発泡合成樹脂成形に用いる前記金型であって、
立体形状の前記金型の所要箇所に、前記金型の内外に連通して前記蒸気を通すための、前記金型自体に直接形成したスリット状の蒸気孔を有し、
前記スリット状の蒸気孔が、切削加工で形成されたものである、
ビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。」
で一致し、次の点で相違する。

・相違点1
本件発明1は、一対の金型を「コア型」と「キャビティ型」からなると特定するのに対して、引用発明は、「可動型」と「固定型(キャビティ型)」からなると特定する点。

・相違点2
本件発明1は、金型が「削り出し及び/又は鋳造により形成」されたものであるのに対し、引用発明にはそのような特定事項を有しない点。

・相違点3
本件発明1は、スリット状の蒸気孔が、「ツールとしてメタルソーを取り付けたマシニングセンターによる切削加工、又はレーザ加工機又はワイヤ放電加工機による除去加工で形成されたもの」であるのに対して、引用発明は、切削加工で形成されたものであるものの、その切削加工のための装置についての特定事項を有しない点。

・相違点4
本件発明1は、「スリット状の蒸気孔位置において、前記金型の前記成形空間と反対側の面に、前記冷却を行う冷却水が滞留する窪みが無い」ものであるのに対して、引用発明にはそのような特定事項を有しない点。

(イ)各相違点についての検討
まず、相違点1について検討する。

「実用プラスチック用語辞典」(株式会社プラスチックス・エージ、1989年9月10日 改訂第3版)の第210頁には、「コア core」との用語について、「成形品の内面を形成するための金型の突起部分、雄型」と記載されている。してみると、「コア型」とは、成形品の内面を形成するための突起部を有する型を指すものと解される(決定注:その意味において取消理由の判断には誤りがあった。)。
これに対し、引用発明の「固定型の開放面を遮蔽または開放自在な可動型」として甲第1号証で具体的に示されているものは、第1図の図中符号3にあるように、平板状のものが示されているにとどまる。
そして、引用発明は、「発泡樹脂ブロック成形用金型」であることからみて、引用発明の「固定型の開放面を遮蔽又は開放自在な可動型」を平板状の型から突起部を有する型、つまり、コア型に変更する動機があるともいえない。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。

してみれば、相違点2ないし4については検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明、つまり、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明5、8ないし13について
本件発明5、8ないし13はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記アのとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明5、8ないし13もまた、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 理由3(拡大先願)について

(1) 甲第2号証に係る出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面の記載事項および甲第2号証に係る出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明について

甲第2号証に係る出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面には次の事項が記載されている。(下線は当審で付したものである。)

「【請求項1】
発泡樹脂成形体を製造するためのコア型及びキャビティ型からなる金型であり、
コア型とキャビティ型との間に形成される成形室側及び蒸気室側に開口するスリットが穿設され、
少なくとも成形室側に開口するスリットの幅は成形室に充填される樹脂ビーズの直径よりも狭く、
スリットの両側壁は連結部で部分的に連結されているとともに、
スリット内部であって連結部の少なくとも成形室側には用役収集・拡散通路が設けられていることを特徴とする発泡樹脂成形金型。」

「【0001】
本発明は発泡樹脂成形金型に係り、更に詳しくは、品質が均一で強度に優れた発泡成形体を提供するとともに、成形サイクルを短縮して製造効率を向上させ、エネルギーの利用効率を高めることができる発泡樹脂成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡樹脂成形体を製造する方法としては、金型内の成形室内に、ブタンやペンタンなどの低沸点炭化水素を含浸させ所定の発泡倍率で発泡させてなる熱可塑性樹脂のビーズ(以下、単に樹脂ビーズと称する)を充填し、蒸気により樹脂を軟化させると共に低沸点炭化水素を熱膨張させ、樹脂ビーズ同士を融着させた後、冷却し、離型させる、所謂ビーズ法が広く用いられている。」

「【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の金型を示す概略断面図である。
【図2】図2は図1の金型における成形室を明示した概略斜視図である。
【図3】図3は図1の金型におけるコア型を示す概略断面図である。
【図4】図4は図1の金型におけるキャビティ型を示す概略断面図である。
【図5】図5は、本発明の金型における要部拡大図である。
【図6】図6(a)は、図5のA-A断面図であり、(b)はB-B断面図であり、(c)はC-C断面図である。
【図7】図7(a)(b)(c)は、連結部の形状及び配置を変更した例を示す概略断面図である。
【図8】図8は連結部に通孔を設けた状態を示す概略図であり、(a)は成形室側から見た正面図、(b)は(a)におけるD-D断面図である。
【図9】図9(a)(b)は横向きのスリットの形状を示す概略断面図で、(b)は(a)のE-E断面図である。
【図10】図10(a)は、用役を導入する場合の用役の流れを示す概略説明図であり、(b)は用役を排出する場合の用役の流れを示す概略説明図である。
【図11】図11は従来の金型におけるスリット溝の構造と、用役の導入する場合の流れ及び用役を排出する場合の流れを示す概略断面図である。」

「【0038】
実施例1
まず、一般に3キロ箱と呼ばれる成形体(外寸法:320×484×全高100mm、内寸法:280×444×深さ82mm)を8個取りするための金型を作成した。この金型は、厚さ10mmの鍛造アルミ板から削りだしたパーツを組み立てることにより作成した。
この金型に溝切り機(商品名:VM7 III 型、大阪機工社製)で、コア型及びキャビティ型それぞれの成形室側にスリット2を穿設し、図1?4に示すような金型を製造した。
スリット2の幅Wは0.8mm(スリット2の成形室7側から蒸気室8側まで同じ)、連結部3の長さL1は10mm、連結部3間(開口部4)の距離L2は30mm、スリット2の長さL3はコア型及びキャビティ型に周設された全周長、スリット2間の距離L4は6mm、用役収集・拡散通路5の深さD2は5mm(スリット2の深さD1(=アルミ板の厚さ)10mmの50%)、開口率は約13%である。」

「【0040】
(製造試験)
上記実施例1、比較例1の金型を用い、3キロ箱を製造した(実施例1a、1b、比較例1a、1b、1c)。
実施例1についてはクラッキングを行わない方法(実施例1a)、2mmクラッキングする方法(実施例1b)と2種の方法で製造した。
一方、比較例1については、クラッキングを行わない方法(比較例1a)、3mmクラッキングする方法(比較例1b)、6mmクラッキングする方法(比較例1c)と3種の方法で製造した。
製造方法における各工程の詳細な条件を表1に示す。
なお、3キロ箱の原料としては、発泡倍率58倍の発泡スチロール樹脂ビーズ(商品名:エスレンビーズHDMSF、積水化成品製、平均粒径4mm)を用い、成形機としては、ACE30(株式会社積水工機製作所製、取り数8、フレーム:標準凹200H、凸120H)を用いた。」

















これらの記載から見て、甲第2号証に係る出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面には以下の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認める。

「コア型及びキャビティ型からなる金型であり、コア型とキャビティ型との間に形成される成形室に熱可塑性樹脂ビーズを充填し、前記熱可塑性樹脂ビーズを蒸気により軟化させると共に低沸点炭化水素を熱膨張させ、樹脂ビーズ同士を融着させた後、冷却し、発泡樹脂成形体を製造する前記金型であって、
コア型とキャビティ型との間に形成される成形室側及び蒸気室側に開口するスリットが穿設され、
少なくとも成形室側に開口するスリットの幅は成形室に充填される熱可塑性樹脂ビーズの直径よりも狭く、
スリットの両側壁は連結部で部分的に連結されているとともに、
スリット内部であって連結部の少なくとも成形室側には用役収集・拡散通路が設けられている発泡樹脂成形金型。」

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と先願発明との対比

先願発明の「コア型及びキャビティ型からなる金型」、「成形室」は、本件発明1の「コア型及びキャビティ型からなる一対の金型」、「成型空間」に相当する。
また、先願発明の「熱可塑性樹脂ビーズ」、「スリット」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂の発泡ビーズ」、「スリット状の蒸気孔」に相当する。
さらに、先願発明は、「熱可塑性樹脂ビーズを蒸気により軟化させると共に低沸点炭化水素を熱膨張させ、樹脂ビーズ同士を融着させた後、冷却し、発泡樹脂成形体を製造する」ものであるから、本件発明1の「ビーズ法発泡合成樹脂成形」法にあたることは明らかであり、その工程上、発泡粒子を融着させた後、当然、冷却及び乾燥させるものである。

以上の点をふまえ、本件発明1と先願発明を対比すると、両者は、
「コア型及びキャビティ型からなる一対の金型により形成される成形空間に熱可塑性樹脂の発泡ビーズを充填し、前記発泡ビーズを蒸気で加熱して融着させ、冷却及び乾燥して所要形状の発泡合成樹脂の成形品を得るビーズ法発泡合成樹脂成形に用いる前記金型であって、
立体形状の前記金型の所要箇所に、前記金型の内外に連通して前記蒸気を通すための、前記金型自体に直接形成したスリット状の蒸気孔を有する、
ビーズ法発泡合成樹脂成形用金型。」
で一致し、次の点で相違する。

・相違点5
本件発明1は、金型を「削り出し及び/又は鋳造により形成」するものであるのに対し、先願発明は、そのような特定事項を有しない点。

・相違点6
本件発明1は、スリット状の蒸気孔が、「ツールとしてメタルソーを取り付けたマシニングセンターによる切削加工、又はレーザ加工機又はワイヤ放電加工機による除去加工で形成されたもの」であるのに対して、先願発明は、切削加工で形成するものであるものの、その装置についての特定事項を有しない点。

・相違点7
本件発明1は、「スリット状の蒸気孔位置において、前記金型の前記成形空間と反対側の面に、前記冷却を行う冷却水が滞留する窪みが無い」ものであるのに対して、先願発明は、そのような特定事項を有しない点。

(イ)各相違点についての検討
事案に鑑み、まず、相違点7について検討する。

先願発明には、「スリット状の蒸気孔位置において、前記金型の前記成形空間と反対側の面に、前記冷却を行う冷却水が滞留する窪みが無い」との特定はない。しかしながら、甲第2号証の図3(コア型を示す概略断面図)の、いわゆるフランジ部には、スリットが設けられるとともにスリットの途中に窪み様の部分を有するもの(下記図(第3図に当審で場所を示すために加筆したもの)のaの部分)が見てとれる。

よって、先願発明のコア型は、「スリット状の蒸気孔位置において、前記金型の前記成形空間と反対側の面に、前記冷却を行う冷却水が滞留する窪みが無い」ものとはいえない。

してみれば、相違点5、6については検討するまでもなく、本件発明1は、先願発明、つまり、甲第2号証に係る出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一ではない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、直接に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記アのとおり、本件発明1は、甲第2号証に係る出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一ではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2もまた、甲第2号証に係る出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一ではない。

4 特許異議申立人の令和1年9月4日提出の回答書(以下、「回答書」という。)における主張について

特許異議申立人は回答書(以下、の4(2)において、「キャビティ型(固定型)に対して可動型としてコア型とするか、平面上の金型とするか、キャビティ型とするかは成形品の形状によって選択させる設計的事項に過ぎません。当業者にとって、どのような組み合わせの金型構成とするかは別段特殊なことではありません。」と主張する。
しかしながら、上記2(2)ア(イ)で検討したとおり、引用発明の「固定型の開放面を遮蔽又は開放自在な可動型」を平板状の型から突起部を有する型、つまり、コア型に変更する必然性があるともいえないから、当該主張は採用できない。
また、回答書の4(6)では参考図を提示しつつ主張するが、参考図面は甲第2号証の図面と異なるものであって、上記3(2)ア(イ)の判断を覆すものではない。
その他、特許異議申立人は、特許権者が提出した意見書に対する反論を縷々展開しているが、何れも、採用の限りでない。


第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件発明6、7は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものであること、本件発明3、4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものであることを、甲第1号証、甲第3号証ないし甲第8号証(うち、具体的に言及するのは甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証のみ)を上げつつ主張している。
しかしながら、上記「第3 2(2)」で検討したとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、引用発明及び甲第3号証ないし甲第8号証の記載事項をあわせて検討しても、上記「第3 2(2)」での検討と同様に、引用発明の「固定型の開放面を遮蔽又は開放自在な可動型」を平板状の型から突起部を有する型、つまり、コア型に変更する動機があるとはいえないから、引用発明と甲第3号証ないし甲第8号証の記載事項を組み合わせても、本件発明1を導くことができない。
そして、本件発明3、4、6、7はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
してみれば、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明3、4、6、7もまた、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第8号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


第5 結論
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-11-05 
出願番号 特願2017-192324(P2017-192324)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B29C)
P 1 651・ 113- Y (B29C)
P 1 651・ 161- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増永 淳司  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 植前 充司
加藤 友也
登録日 2018-07-20 
登録番号 特許第6369615号(P6369615)
権利者 株式会社羽根
発明の名称 ビーズ法発泡合成樹脂成形用金型、及びビーズ法発泡合成樹脂成形品の製造方法  
代理人 柳野 隆生  
代理人 柳野 嘉秀  
代理人 関口 久由  
代理人 中川 茂樹  
代理人 三雲 悟志  
代理人 楠本 高義  
代理人 森岡 則夫  

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