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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03D
管理番号 1357473
審判番号 不服2017-9005  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-05 
確定日 2019-12-17 
事件の表示 特願2016-192194「格納容器収納式フライホイール一体型垂直軸風車発電機」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月20日出願公開、特開2017- 75597〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成27年10月13日に出願された実願2015-5499号(以下、「基礎出願」という。)に係る実用新案登録第3201957号(登録日 平成27年12月16日)に基づいて,特許法第46条の2第1項の規定により、平成28年9月12日にされた特許出願であって、平成28年12月21日付けの拒絶理由の通知に対し、平成29年2月20日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成29年5月11日付けで拒絶査定がなされ(発送日 平成29年5月23日)、これに対して平成29年6月5日に審判の請求がなされ、その後、当審において、平成29年10月4日付けで拒絶理由が通知され、平成29年11月17日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成30年1月31日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成30年3月6日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成30年3月29日に意見書が提出されたものである。

第2 平成30年3月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について

本件補正は、平成30年1月31日付けで当審が通知した最後の拒絶理由(理由A)に対応するために、請求項1の記載を補正するものであって、特許法第17条の2第5項第4号に規定する明りょうでない記載の釈明をしようとするものである。さらに、本件補正は、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものともいえない。
したがって、本件補正は適法になされたものである。

第3 本願発明

本件補正後の本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「垂直軸風車の主軸の下部位に発電機が要求するトルク以上のトルクの放出を可能としたスケールを持つフライホイールを装備し、且つ、同風車より同要求トルク以上のトルクを同フライホイールに転送することを以って、大容量(1000kW以上)の発電出力を可能としたフライホイール一体型垂直軸風車発電機」

第4 拒絶の理由

1.平成29年10月4日付けで当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)
当審拒絶理由1のうちの理由Bは、概略、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、又は引用例1に記載された発明及び引用例2?3に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用例1.登録実用新案第3195023号公報
引用例2.特開2004-297892号公報
引用例3.特開2002-155850号公報

2.平成30年1月31日付けで当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)
当審拒絶理由2のうちの理由Aは、次のとおりのものである。
「明細書及び特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
1.本件出願の明細書及び図面の記載からみて、本件出願に係るフライホイール一体型垂直軸風車発電機は、垂直軸風車からフライホイールにトルクが転送され、該フライホイールから発電機にトルクが放出されるものであるから、該フライホイールは、発電機が要求するトルクより大きいトルクは放出しない。そうすると、請求項1の「発電機が要求するトルク以上のトルクの放出を可能としたスケールを持つフライホイール」との記載は、その意味するところが明確でない。
請求項1の当該記載は、
例えば、発電機の瞬時出力は変動し得るところ、所定の時点における当該発電機の瞬時出力に相当するトルクよりも大きいトルクをフライホイールが放出し得るということを意味しているのか、
または、本件出願の願書に最初に添付した明細書の段落0012に記載されているように、発電機を所定時間定格運転(すなわち、当該発電機の出力が定格出力となる運転)させることが可能な量のエネルギーをフライホイールが蓄積できることを意味しているのか、
あるいは、それ以外を意味しているのか(後記2.を併せ参照されたい)。
2.本件出願の発明の詳細な説明には、「フライホイールはエネルギーを貯め込むことによって、風車から伝達される入力トルク(T1)より大きな定格トルクを負荷側に定格に放出することができる。」(段落0010)、「フライホイールをスケールUPして貯蔵能力を増やせば定格に大回転トルクの放出が可能となり大発電出力が可能となる。」(段落0010)及び「当該風車発電機は、上記の段落(0011)に記載の(A)式に準じて出力は増大する。」(段落0014)といった記載がある。これらの記載からみれば、本件出願に係る発明は、垂直軸風車からフライホイールに入力されるトルクより大きいトルクを該フライホイールが発電機に放出する、すなわち前記フライホイールによりトルクを増大させるものである。
一方、同発明の詳細な説明には、「かくして、この入力トルクと放出トルクがバランスしたところで定格運転(定格出力)に入ることになる。この運転システムは図2に示されている。」(段落0013)とも記載されており、この記載からすれば、本件発明のフライホイールは、垂直軸風車から入力されるトルクと等しいトルクを発電機に放出するものである。
したがって、本件出願の発明の詳細な説明は、全体として、技術的に整合しておらず、本件出願に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。」

第5 当審拒絶理由1の理由Bについて

1.引用例の記載及び引用発明

(1)引用例1の記載及び引用発明1
引用例1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【考案の名称】抗力型羽根(ブレード)を持つフライホイール付き垂直軸風車発電機(図2に示すもので、以下、当該垂直軸風車発電機と称する)において風力エネルギーの電気エネルギーに対する変換比率を向上させるための手段」
イ.「【考案の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
現時点(2014年10月1日現在)、プロペラ型風車発電機による風の運動エネルギーの機械エネルギーへの変換率、即ち、風力エネルギーの電気エネルギーに対する変換比率は学術上、風洞試験に基づくベッツの法則(Betz’Law)により最大59.3%とされている。しかし、実際面では、羽根車を通過しない空気の引き摺りによるエネルギー損失、羽根車の空気摩擦損失、増速機や発電機等の機構からくる機械損失等で、更に低く40?45%であるとされている。即ち、一般的に風車発電機における同エネルギーの変換比率は低効率であることが指摘されている。
・・・(中略)・・・
【0003】
一方、当該垂直軸風車発電機においては、その構造上、風向に対して360°無指向性であるのでヨー機構を必要としない。叉、乱流に対しても的確に風力エネルギーを捕捉することが可能である。加えて、構造上、鉛直軸上に風車、フライホイール、発電機等の中枢機器が設置されているので摩擦による機械損失が少なく、又、近年、大容量出力の多極式同期発電機が開発され低速発電が可能となったので増速機が不要となり、従って、構造がシンプルとなったので風車発電機としての綜合効率は理論上、プロペラ型風車発電機より良いとされている。
しかし、尚、力学的エネルギーを電気エネルギーに変換している水力発電のエネルギー変換比率が80?90%であるのに比べて一般通称の風車発電機の同変換比率は、上述の通り、59.3%以下とされており、その変換率の低レベルが指摘されている。」
ウ.「【考案の概要】
【考案が解決しようとする課題】
【0005】
図3及び図4に示されている通り、回転翼(ローター)2に抗力型羽根(ブレード)3を備える当該垂直軸風車発電機において、そのブレードの形状を“V”字型ブレードとして、複数の同ブレードを同回転翼フレーム2aに取り付けて風力エネルギーを受け入れ、その抗力により同ローターを回転させる方法において、同“V”字型ブレードの上部位と下部位に空気抜き口(AOL)を設けて受風時に“V”字型ブレード内部に空気の滞留を避ける機構を持たせたものである。空気の同ブレード内の滞留は受風時に空気がクッションとなり抗力を減衰させるので空気の逃げ口を設けて空気を流通させて抗力の増大化を図ったものである。
この手段によって、同ブレード内部での抗力が高まり同ローターの回転速度が増大して、その結果、回転トルクが主軸を通してフライホイールに送られて同フライホイールに貯えられる運動エネルギーが増大して、それに比例して増大した回転トルクが負荷側(発電機側)に放出されて電気エネルギーに対する変換比率を引き上げることになる。
【0006】
この“V”字型ブレードには別の機能がある。即ち、下述の通り、受風面積を拡大して抗力を増大させることによって回転増速を得て運動エネルギー(回転エネギー)を増大させる機能である。」
エ.「【0007】
この“V”字型ブレードに加えて、当該垂直軸風車発電機は回転ローターの全外周部位に複数の案内羽根(ガイドベーン)4を取り付けるもので、これによって風力エネルギーの電気エネルーに対する変換比率を高める手段とする。
又、当ガイドベーンの付加的手段として流入する風量(風力エネルギー)を制御する、或いは、当ガイドベーンを閉塞して同エネルギーを遮断することによって風車の過回転を防止することである。」
オ.「【0009】
・・・(中略)・・・
風車発電は風力エネルギーが回転エネルギーに転換されて回転トルクを生み出し発電するシステムである。当該垂直軸風車発電機は風車自体によって生み出された回転トルクが主軸を通してフライホイールに伝達され、風力エネルギーが続く限り同トルクは送り続けられることになり、慣性力も加わり同フライホイールは益々増速して過回転となってしまう。そこで、当フライホイールの回転速度をセンサー検知して、当ガイドベーンの開度の自動調整を行ない流入風量のコントロール行なって回転制御を行うシステムを採用している。風力エネルギーが続く限り、このシステムによって回転制御を行い設定された定格回転数を保って定格出力を得るものである。
加えるに、フライホイールの過回転は風車を破壊することになるので、万一に備えてガイドベーンを完全閉塞して流入風量をシャットアウトさせる機能を持たせるものである。図10は、水車タービンのガイドベーンによる水量の調整機構で、この操作機構を当ガイドベーンに応用したものである。」
カ.「【考案の効果】
【0010】
当該垂直軸風車発電機の回転ブレードにおいて、受風面積の拡大を図った“V”字型ブレードにより風力エネルギーの捕捉率を高めて同エネルギーの高効率化を果たし、且つ、梃子の原理を応用した新機構のガイドベーン効果により風力エネルギーの電気エネルギーに対する変換比率の高効率化を図ったものである。
一般的に垂直軸風車発電機はプロペラ型風車発電機に較べて構造がシンプルであるので機械損失が少なく機械効率は良いとされている。これに加えて、上述の当該考案の二つの手段により当該垂直軸風車発電機において風力エネルギーの利用効率を高め、電力エネルギーに対する変換比率の効率向上化を図ったものである。
且つ、ガイドベーンの閉塞機構によって過回転による風車の破壊を防止する機能を兼ね備えた垂直軸風車発電機を提供するものである。」
キ.「【図面の簡単な説明】
【0011】
・・・(中略)・・・
【図2】大容量(MW級)出力の当該垂直軸風車発電機の概念図。」
ク.「【符号の説明】
【0012】
1 フライホイール
2 回転翼(ローター)
・・・(中略)・・・
5 中空軸(ホローシャフト)
7 ラディアルベアリング
8 ラディアルベアリング&スラストベアリング
9 リジッドカップリング
10 フレキシブルカップリング
・・・(中略)・・・
14 永久磁石多極同期発電機
・・・(中略)・・・
30 流体継ぎ手」
そして、記載事項ウ及び図2の記載からみて、以下の事項が理解できる。
ケ.フライホイール1は、主軸の下部位に装備されている。

そうすると、これらの事項からみて、引用例1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「主軸の下部位にフライホイール1が装備され、風車自体によって生み出された回転トルクが主軸を通して前記フライホイール1に伝達され、回転トルクが負荷側(発電機側)に放出される、大容量(MW級)出力のフライホイール付き垂直軸風車発電機。」

(2)引用例2の記載事項及び引用発明2
引用例2には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
コ.「【請求項16】
風力を受ける風車と、前記風車が受ける風力によって回転する回転軸と、を備える風力発電装置において、
前記回転軸に設けられ、前記回転軸の回転によって電力を生成する発電手段と、
前記回転軸に設けられ、前記回転軸の回転に伴って回転するフライホイールと、
を備えることを特徴とする風力発電装置。
【請求項17】
前記フライホイールは、前記発電手段の両端のうち少なくともいずれか一端側に設けられていることを特徴とする請求項16に記載の風力発電装置。」
サ.「【0038】
この請求項16の発明によれば、発電手段から生成される出力電力の安定化を図ることができる。また、前記フライホイールは、請求項17に記載のように、前記発電手段の両端のうち少なくともいずれか一端側に設けられていることとしてもよい。」
シ.「【0042】
(風力発電装置の概要)
まず、図1に、風力発電装置の一例として、垂直軸型の風力発電装置1の概略斜視図を示す。この風力発電装置1は、風力を受ける複数枚の風車(ブレード)2を有する。各ブレード2は、アーム3を介して回転軸に所定角度間隔で固定されている。図示の例ではブレード2が3枚設けられ、120°間隔で配置されている。
【0043】
この回転軸は、図示のように鉛直方向に立設されており、ケーシング5内部に向け下方に延びて形成されている。ケーシング5内部において回転軸4は上下一対の軸受6,7により回転自在に支承されている。また、ケーシング5内部には、発電機8が設けられている。このように発電機8を設けた構成の場合、ブレード2が風力を受けて回転軸4が回転すると、この回転軸4の回転に基づき発電機8が風力に応じた電力を発電することができる。この発電機8としては、たとえばSPM型のような多極型の発電機を採用することができる。なお、回転軸4の回転力は、発電に用いるに限らず、回転力をそのまま動力として用いることもできる。」
ス.「【0078】
(第7実施の形態)
つぎに、本発明の風力発電装置の第7実施の形態について説明する。この第7実施の形態は、回転軸4にフライホイールを設けた例である。図12は、この第7実施の形態にかかる風力発電装置1における発電機8を示す説明図である。特に、図12(a)は、発電機8と回転軸4の基端側の軸受との間の回転軸4にフライホイール44を設けた例を示す説明図であり、図12(b)は、風車と発電機8との間の回転軸4にフライホイール44を設けた例を示す説明図である。なお、第1?第6実施の形態と同一構成には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0079】
図12に示すように、フライホイール44は、回転軸4と同軸に設けられている。フライホイール44は、回転軸4とともに回転し、回転が加速されて定格回転数より大きくなると回転数の2乗に比例した大きさの慣性エネルギーを蓄積する。一方、回転が減速されて定格回転数以下となると、フライホイール44に蓄積された慣性エネルギーが放出されて電力に変換される。これにより、発電機8から安定した出力を得ることができる。特に、図12(a)では、フライホイール44が発電機8と回転軸4の基端側の軸受7との間に設けるため、特に垂直軸型の風力発電装置1においては、重量の安定度が増し、風力発電装置1の据付時において、重量のあるフライホイール44を上方に持ち上げるなどの作業が不要となるため、作業効率の向上を図ることができる。」
セ.「【0080】
また、図13に示すように、ケーシング5の下部5cの内径を、ケーシング5の中途部5dの内径よりも広げることにより、フライホイール44の径をケーシング5の中途部5dの径よりも大径とすることとしてもよい。これにより、さらに大きな慣性エネルギーを蓄積することができる。なお、ケーシング5の下部5cは地面に埋設する構成としてもよい。」
そして、記載事項シ及び図1の記載から、発電機8が回転軸4の下部位に設けられていることが理解でき、記載事項ス並びに図12の記載から、フライホイール44が発電機8に近接して前記回転軸4に設けられていることが理解できるから、結果として、記載事項シ及びス並びに図1及び12の記載から、以下の事項が理解できる。
ソ.フライホイール44は、複数枚の風車(ブレード)2と発電機8との間である、回転軸4の下部位に設けられている。

そうすると、これらの事項からみて、引用例2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「風力を受ける複数枚の風車(ブレード)2を有し、各ブレード2は、アーム3を介して回転軸4に所定角度間隔で固定され、前記複数枚の風車(ブレード)2と発電機8との間である、前記回転軸4の下部位にフライホイール44を設け、前記フライホイール44を大径とした、垂直型の風力発電装置。」

2.対比・判断

(1)引用発明1との対比・判断
ア.対比
本願発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「主軸」は、垂直軸風車発電機の主軸であるから、当然、垂直軸風車の主軸であり、本願発明の「垂直軸風車の主軸」に相当し、当該主軸の下部位にフライホイール1が装備された、引用発明1の「フライホイール付き垂直軸風車発電機」は、本願発明の「フライホイール一体型垂直軸風車発電機」に相当する。そして、引用発明1の「フライホイール付き垂直軸風車発電機」は、大容量(MW級)出力であるから、当然、1000kW以上の発電出力が可能である。
引用発明1の「風車自体によって生み出された回転トルクが主軸を通して前記フライホイール1に伝達され」る態様は、本願発明の「同風車より同要求トルク以上のトルクを同フライホイールに転送する」態様と、まずは、「風車よりトルクをフライホイールに転送する」点において一致している。
さらに、本願発明の「発電機が要求するトルク以上のトルクの放出を可能としたスケールを持つフライホイール」及び「同風車より同要求トルク以上のトルクを同フライホイールに転送」における「発電機が要求するトルク」について、本願の請求項1には単に「発電機が要求するトルク」としか記載されておらず、発明の詳細な説明にも直接的な記載はないから、これらからのみでは、その意味する範囲が必ずしも明確ではない。これに関し、請求人は、平成30年3月6日付けの意見書(特に「1. (Question1)請求項1の「発電機が要求するトルク以上のトルクの放出を可能としたスケールを持つフライホイール」の意味について」参照)において、本願発明の「発電機が要求するトルク」は、発電機の仕様として定められた発電出力と回転数から算出されるトルクである旨主張している。この主張に沿って検討すれば、本願発明の「発電機が要求するトルク」は、前記仕様として定められた回転数において前記仕様として定められた発電出力を得るために必要とされる発電機の入力トルクと解される。そして、本願発明は「大容量(1000kW以上)の発電出力を可能としたフライホイール一体型垂直軸風車発電機」であり、通常、発電機は仕様として定められた発電出力以下の出力で運転されるから、本願発明においては、1000kW以上の発電出力が発電機の仕様として定められており、「発電機が要求するトルク」の大きさは、仕様として定められた回転数において仕様として定められた1000kW以上の発電出力を得るために必要とされるトルクであると解される。
一方、引用発明1は、前記風車が風力エネルギーから回転トルクを生み出し、前記風車によって生み出された回転トルクが前記主軸を通して前記フライホイール1に伝達され、さらに負荷側(発電機側)に放出されるものであって、回転機構には摩擦損失といった損失が不可避的に発生することを考慮すれば、引用発明1において、前記風車は、当然、前記発電機側に放出されるトルク以上のトルクを生み出し、前記フライホイール1に転送する。発電機は、発電出力や回転数の仕様が定められ、先に述べたとおり、通常、当該仕様として定められた発電出力以下の出力で運転される。引用発明は、先に検討したとおり、1000kW以上の発電出力が可能なものであるから、引用発明においても、1000kW以上の発電出力が発電機の仕様として定められていると認められる。そして、仕様として定められた回転数かつ仕様として定められた1000kW以上の発電出力で運転されている状態において、平均すれば、前記風車は、1000kW以上の発電出力を得るために前記発電機側が必要とするトルク以上のトルクを生み出し、前記フライホイール1に転送していると認められる。
以上のことから、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
「垂直軸風車の主軸の下部位にフライホイールを装備し、且つ、同風車より同要求トルク以上のトルクを同フライホイールに転送することを以って、大容量(1000kW以上)の発電出力を可能としたフライホイール一体型垂直軸風車発電機」
【相違点】
本願発明は、フライホイールが発電機が要求するトルク以上のトルクの放出を可能としたスケールを持つのに対し、引用発明1は、フライホイール1が持つスケールが特定されていない点。
イ.判断
引用例1、特に記載事項ウからみて、引用例1には、大容量(MW級)出力のフライホイール付き垂直軸風車発電機においては、従来の垂直軸風車発電既と比して、前記フライホイール1に蓄えられる運動エネルギーが増大することが示唆されており、前記フライホイール1を当該増大した運動エネルギーに見合ったスケールを持つものとすることは、当業者が当然に考慮する事項である。そして、先に検討したとおり、引用発明1は、前記風車が発電機が要求するトルク以上のトルクを生み出して前記フライホイール1に転送するものであるから、前記フライホイール1の持つスケールを定めるにあたり、当該トルクに見合った運動エネルギーを蓄えることができる大きさとすることは、当業者が容易に想到し得る事項であって、発電機が要求するトルク以上のトルクに見合った運動エネルギーを蓄えることができるスケールを持つ前記フライホイール1が、当該発電機が要求するトルク以上のトルクを放出可能であることは明らかである。
したがって、引用発明1において 相違点に係る本願発明を特定する事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
そして、本願発明の奏する効果に、引用例1に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

これに対し、請求人は、平成30年3月6日付けの意見書において,引用例1に記載された考案が対象とするのは、エネルギーの変換率の向上であって、フライホイールのスケールUPによる出力の増大を課題とはしておらず、引用例1にはフライホイールの拡大による出力の増大についての記載はない旨主張している(意見の内容「(Question5)引用例1(登録実用新案第3195023号公報)について」参照)。
確かに、引用例1には、フライホイールのスケールを拡大することにより垂直軸風車発電機の出力を増大することは明示的には記載されていない。しかしながら、フライホイールは、外部から供給されたエネルギーを蓄積し、蓄積したエネルギーを外部に放出するものではあるが、それ自体によってエネルギーを増加させるものではない。すなわち、フライホイールのスケールを拡大しても、該フライホイールに外部から供給されて蓄積されるエネルギーの量がそのままであれば、その分該フライホイールの回転数が減少し、エネルギー自体が増加する訳ではない。してみれば、本願発明において,垂直軸風車風力発電機の出力の増大は、垂直軸風車が捕捉する風力エネルギーの増大を前提として達成されるものであって、これは、請求人も自認するところである(意見の内容「(Question3)設問「・・・本件出願に係わる発明が、前記フライホイールのスケールをUPすることのみによりトルクを増大させる・・・」、又、「・・・前記意見書における請求人の主張を参酌しても、上に指摘した点は解消しない」、即ち、平成29年10月4日付けの拒絶理由通知の”理由Cの指摘事項2参照”について」(以下、「(Question3)について」と略。)参照)。
垂直軸風車が捕捉する風力エネルギーを増大させることにより垂直軸風車風力発電機の出力を増大させる点において、引用発明1は、本願発明と共通するものである。そして、先に検討したとおり、引用例1には、フライホイールに蓄えられる運動エネルギーが増大することが示唆されており、前記フライホイールを当該増大した運動エネルギーに見合ったスケールを持つものとすることは、当業者が当然に考慮する事項である。したがって、引用例1には、垂直軸風車が捕捉する風力エネルギーを増大させることにより垂直軸風車風力発電機の出力を増大させるにあたり、フライホイールのスケールを拡大することが示唆されているといえる。
そして、先に検討したとおり、本願発明は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、請求人は、前記意見書において,引用例1の実用新案の考案者は、本願の出願人及び発明者と同一人であり、特許法第29条の2の規定の第iii項、第iv項を満たしていないので、引用例1に基づいて、本願を拒絶することはできない旨主張をしている(意見の内容「(Question6)特許法第29条の2について」参照)。
請求人がいうところの、特許法第29条の2の規定の第iii項、第iv項とは、請求人が平成29年11月17日付け意見書(意見の内容(w)参照)に記載した「(iii)本願と他の出願の発明者が同一人でないこと」及び「(iv)本願と他の出願人が同一人でないこと」を指していると考えられる。しかしながら、これらに該当する特許法第29条の2の規定の部分は、同条の適用についての規定であり、平成30年1月31日付けで当審が通知した最後の拒絶理由においても述べたとおり、特許法第29条第2項の規定の適用には関係がない。
そして、引用例1は、特許法第46条の2第2項の規定により本願の出願時とみなされる基礎出願の出願時より前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、先に検討したとおり、本願発明は、特許法第29条の2の規定ではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求人の当該主張は、採用することができない。

(2)引用発明2との対比・判断
ア.対比
本願発明と引用発明2を対比すると、引用発明2は垂直型の風力発電装置であるから、引用発明2の「風力を受ける複数枚の風車(ブレード)2」は、本願発明の「垂直軸風車」に相当し、該複数枚の風車(ブレード2)はアーム3を介して回転軸4に固定されているから、引用発明2の「回転軸4」は、本願発明の「垂直軸風車の主軸」に相当する。そうすると、引用発明2の「風力を受ける複数枚の風車(ブレード)2を有し、各ブレード2は、アーム3を介して回転軸4に所定角度間隔で固定され、前記複数枚の風車(ブレード)2と発電機8との間である、前記回転軸4の下部位にフライホイール44を設け」た「垂直型の風力発電装置」は、本願発明の「垂直軸風車の主軸の下部位に発電機が要求するトルク以上のトルクの放出を可能としたスケールを持つフライホイールを装備し」た「フライホイール一体型垂直軸風車発電機」と、垂直軸風車の主軸の下部位にフライホイールを装備したフライホイール一体型垂直軸風車発電機である点で一致する。そして、引用発明2の「発電機8」は、本願発明の「発電機」に相当する。
引用発明2は、前記複数枚の風車(ブレード)2が風力を受けて前記回転軸4を回転させ、該回転軸4の回転に基づき発電機8が発電するものであるから(特に記載事項シ参照)、前記発電機8に入力されるトルクは、風力を受けて前記複数枚の風車(ブレード)2により発生され、回転機構には摩擦損失といった損失が不可避的に発生することを考慮すれば、前記複数枚の風車(ブレード)2は、当然、発電機8に入力されるトルク以上のトルクを発生する。先に述べたとおり、発電機は、発電出力や回転数の仕様が定められ、通常、当該仕様として定められた発電出力以下の出力で運転される。さらに、引用発明2は、定格回転数が定められ、かつ発電機8から安定した出力を得ることを可能とするものであることからみて(特に記載事項ス参照)、定格回転数に加えて、所定の発電出力が仕様として定められていると認められる。そして、前記定格回転数かつ仕様として定められた前記所定の発電出力で運転されている状態において、平均すれば、前記複数枚の風車(ブレード)2は、前記所定の発電出力を得るために前記発電機8が必要とする入力トルク以上のトルクを発生していると認められる。
さらに、フライホイール44は、前記複数枚の風車(ブレード)2が風力から得たエネルギーを蓄積するものであるから(特に記載事項ス参照)、引用発明2においても、前記複数枚の風車(ブレード)2が発生するトルクは、前記フライホイール44に転送されているといえる。
そして、本願発明の「発電機が要求するトルク」については、前記「第5 2(1)ア」で検討したとおりである。
以上のことから、本願発明と引用発明2との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
「垂直軸風車の主軸の下部位にフライホイールを装備し、且つ、同風車より同要求トルク以上のトルクを同フライホイールに転送する、フライホイール一体型垂直軸風車発電機」
【相違点】
本願発明は、大容量(1000kW以上)の発電出力が可能であって、大容量(1000kW以上)の発電出力を得るために発電機が要求するトルク以上のトルクの放出を可能としたスケールをフライホイールが持ち、垂直軸風車より同要求トルク以上のトルクを同フライホイールに転送するのに対し、
引用発明2は、フライホイール44が大径であって、前記複数枚の風車(ブレード)2が発生するトルクが前記フライホイール44に転送されるものではあるが、発電出力が特定されておらず、前記フライホイール44が持つスケール及び前記複数枚の風車(ブレード)2より前記フライホイール44に転送されるトルクの大きさも特定されていない点。
イ.判断
相違点について検討すると、引用例2、特に記載事項セからみて、引用発明2において、前記フライホイール44を大径としたのは、該フライホイール44により大きな慣性エネルギーを蓄積することを目的としたものである。先に検討したとおり、引用発明2は、前記複数枚の風車(ブレード)2が前記所定の発電出力を得るために前記発電機8が必要とするトルク以上のトルクを発生するとともに、前記複数枚の風車(ブレード)2が発生したトルクが前記フライホイール44に転送されるものである。そして、発電機8が無負荷運転されるとき、摩擦損失といった損失により失われる分を除いて、前記複数枚の風車(ブレード)2が発生するトルクの全てに相当する慣性エネルギーを前記フライホイール44に蓄積されることになる。そうすると、前記フライホイール44の持つスケールを定めるにあたり、前記複数枚の風車(ブレード)2が発生するトルクの全て、すなわち前記所定の発電出力を得るために前記発電機8が必要とするトルク以上のトルクに相当する慣性エネルギーを蓄積することができる大きさとすることは、当業者が容易に想到し得る事項であって、所定の発電出力を得るために前記発電機8が必要とするトルク以上のトルクに見合った運動エネルギーを蓄えることができるスケールを持つ前記フライホイール44が、当該所定の発電出力を得るために前記発電機8が必要とするトルク以上のトルクを放出可能であることは明らかである。
また、1000kW以上の発電出力が可能である風量発電機は、本願の出願時とみなされる基礎出願の出願時において、既に実現されている。そして、発電出力の向上は一般的な技術課題であり、また風力発電機の発電出力を具体的にどの程度とするかは、当該風力発電機が設置される地点の風況等に応じて当業者が適宜定めるものである。
そして、前記所定の発電出力の具体的な大きさを定めれば、当該所定の発電出力を得るために前記発電機8が必要とするトルクの大きさはおのずと定まり、さらに前記所定の発電出力を得るために前記発電機8が必要とするトルク以上のトルクに見合った運動エネルギーを蓄えるために必要な、前記フライホイール44が持つスケールの具体的な大きさもおのずと定まる。
したがって、引用発明2において、相違点に係る本願発明を特定する事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
そして、本願発明の奏する効果に、引用例2に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

これに対し、請求人は、平成29年11月17日付けの意見書において、引用発明2は、フライホイールによる出力の安定化を目的としたものであって、出力の増大化を目的としたものではない旨主張している(意見の内容(n)参照)。
しかしながら、本願発明も、垂直軸風車が捕捉する風力エネルギーの増大を前提として垂直軸風車風力発電機の出力を増大させるものであって、フライホイールのスケールを拡大することのみにより出力を増大化するものではないことは、先に述べたとおりである(前記「第6 1.(2)」参照)。さらに、フライホイール自体の機能は出力の安定化であることは、平成30年3月6日付け意見書における請求人の主張(特に意見の内容「2. (Question2)(1)「フライホイールはエネルギーを貯め込むことによって、風車から伝達される入力トルク(T1)より大きい定格トルクを負荷側に定格に放出することができる。」(段落0010)及び、(2)「フライホイールをスケールUPして貯蔵能力を増やせば定格に大回転トルクの放出が可能となり大発電出力が可能となる」段落(0011)、(3)「当該発電機は、上記の段落(0011)に記載の(A)式に順じて出力は増大する」について」(以下「(Question2)について」と略)、「(Question3)について」参照)からみて、請求人も自認していると認められる。
そして、先に検討したとおり、本願発明は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 当審拒絶理由2の理由Aについて

1.本願の発明の詳細な説明の記載
本願明細書は、本件補正により補正されていないから、本願明細書の記載は、当審拒絶理由2の通知時の、平成29年11月17日付けの手続補正により補正されたとおりのものであって、その発明の詳細な説明の記載には、以下の記載がある(下線は、当審で付加した。)。
a.「其の一:・・・(中略)・・・従って、フライホイールはエネルギーを貯め込むことによって、風車から伝達される入力トルク(T1)より大きな定格トルクを負荷側に定格に放出することができる。・・・(中略)・・・故に、フライホイールをスケールUPして貯蔵能力を増やせば定格に大回転トルクの放出が可能となり大発電出力が可能となる。」(段落0010)
b.「フライホイールは密度が均一な剛体である。故に、安定した回転トルクを生み出し、その回転力を動力源として安定した発電出力が可能となる。その算出は次によって求められる。・・・(中略)・・・
即ち、トルクTは、:-
トルクT(N・m)=接線力F(N)*回転半径R(m)
・・・(中略)・・・
従って、動力(仕事率)P=1分間に行う仕事/1分間
=2πTn(N・m)/60(sec)
Kw表示で表すと、:-
P(Kw)=Tn/9549・・・・(A)式
となり、動力P(Kw)は、トルク (N・m)と回転速度(rpm)に比例するとを表している。
(注)在来の風車発電機の動力計算は、風力の受風面における密度のある空気の移動(風速)による運動エネルギーをベースにしたものである。
この計算方式は、プロペラ型風車、サポニウス型風車、直線翼垂直軸風車、等に適用されている。即ち、風の運動エネルギー(Pw)が醸し出す動力の計算式は次に様に定義されている。
Pw=1/2pAVw^(∧)3・・・・(B)式
ここで、P:空気密度、A:受風面積、Vw:風速。添付 参考資料?7参照。
(エネルギー総合工学研究所 発行「風力発電」?風車のトルクの式?より転載 出典:遠隔講義『風力発電最前線』八戸工業大学)
即ち、同運動エネルギーは、空気密度を一定として、受風面積と風速の三乗に比例するとしている。そして、出力係数(ベッツの法則 0.593)を乗じて風による風車の出力としている。
しかし、この動力計算式には次の通り疑義が生じる。即ち、:-
発電機の出力は入力トルクをベースとして算出されるもので入力トルクの大小によって発電出力の大小が決まる。風車なる回転体が発する回転トクが発電機に放出されて出力されるが、この回転トルクのモーメントは回転体が発する運動エネルギーのモーメントの大小に比例する。そして、同運動エネルギーは、上記の定義式、K=1/2I*ω^2より、角速度以外に回転体の質量と半径に比例するものである。従って、同質量も回転トルク発生の重要なファクターである。それにも拘らず、在来の動力計算式は回転体の質量を計算外としている。即ち、プロペラ型風車を例に挙げれば、全く外形寸法が同じプロペラで一つは、アルミ製で、もう一つは鉄製の場合、鉄製のプロペラが質量が大であるから運動エネルギーが大となり、回転トルクが比例して大となる。従って、発生動力は大となる。即ち、在来の学説の動力計算式において、この回転体の質量を動力計算のファクターとして組み入れていない、或いは、計算外としているところに疑義が生じる。 回転体としてコマを例にあげれば、外形寸法が全く同じA,Bの二つのコマがある。Aは鉄製で、Bはアルミ製である。同じ回転スピードでこの二つのコマを廻した場合、コマの運動エネルギーは質量に比例するのであるから、保持するエネルギーはA>Bである。同じく、発生トルクは質量に比例するのであるからA>Bである。エネルギーが大であれば、より多くの仕事を為すことであり、コマはAがBより長い間廻り続ける。 一方、コマを回転させた場合の発生動力は、トルクと回転数に比例するのであるからAがより大きい動力を発する、と云う理論が成り立つ。即ち、回転体に於いて、同回転体の質量を無視した発生動力の計算式には疑問を投じるものである。回転体が発するトルクにとって、回転体の質量はネグリジブルなものではない。」(段落0011)
c.「同フライホイールは始動起動後、フライホイール自らが醸し出す慣性と風車から送られて来る回転トルク(付加トルク)によって回転維持乃至増速することになる。そして、負荷側に回転トルクを放出することによって回転は減速する。かくして、この入力トルクと放出トルクがバランスしたところで定格運転(定格出力)に入ることになる。この運転システムは図2に示されている」(段落0013)
d.「従って、風車の半径を機械的に可能な限り大とすれば風車が生み出す回転トルクは大となりフライホイールに転送されるトルク(付加トルク)が大となり同ホイールの回転速度が増大し、結果、フライホイールに蓄えれられる運動エネルギーは増大することになる。
一方、フライホールの半径をより大きくする、即ち、フライホイールを機械的に可能な限りスケールUPすれば蓄えられる同エネルギーも増大し、このエネルギーの増大が比例して回転トルクとして発電機に放出されて大出力を生み出す一つの手段となる。
一方、出力を増大させる別の手段は、風速の増大である。風速が上がれば風車の回転数が上がり風車が生み出す運動エネルギーの増大に繋がる。
当該風車発電機は、上記の段落(0011)に記載の(A)式に準じて出力は増大する。プロペラ型風車の場合は、風速の三乗に比例して発電出力が増大するとされている。 同じく、上記の段落(0011)に記載の(B)式に準じて増大するとされている。」(段落0014)

2.判断

当審拒絶理由2の理由Aの2.において指摘したとおり、本願の発明の詳細な説明の前記摘記した記載cからすれば、本願発明は、定格運転時においては、垂直軸風車がフライホイールにトルクを転送し、当該フライホイールが前記垂直軸風車より転送されたトルクと等しいトルクを発電機に出力するものであって、前記フライホイールによりトルクを増大させるものではない。
一方、本願の発明の詳細な説明の記載の前記摘記した記載a,dからすれば、本願発明は、前記フライホイールによりトルクを増大させるものである。
さらに、前記記載dで言及されている(A)式が記載されている段落0011(前記摘記した記載c)を参照すると、同段落に記載された(B)式によれば、空気密度及び風速が等しく、かつ風車の外形寸法が全く同じであれば、当該風車が設けられている転系の質量にかかわらず、当該風車が風の運動エネルギーから得るエネルギーは等しくなる。しかしながら、同段落には、質量も回転トルク発生の重要なファクターであり、前記(B)式には疑義が生じる旨記載されており、当該記載からみても、本願発明は、垂直軸風車の主軸に装備され、該垂直軸風車と一体に回転するフライホイールをスケールUPすることのみによってもトルクを増大させるものであると解さざるを得ないものである。
以上のとおりであるから、本願の発明の詳細な説明の記載は、全体として、技術的に整合しておらず、本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

これに関し、請求人は、平成30年3月6日付けの意見書(意見の内容「(Question2)について」、「(Question3)について」参照)において、本願発明は、フライホイールをスケールUPすることによってのみトルクを増大させる訳ではなく、入力エネルギー(風力エネルギー)を増大させることによりトルクを増大させるものである旨主張している。
しかしながら、本願明細書の記載は本件補正により補正されておらず、先に検討したとおり、本願の発明の詳細な説明の記載では、当審拒絶理由1の理由Aの2.で指摘した不備は依然として解消していないので、請求人の当該主張は、採用することができない。

第7 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明1に基いて、また引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-04-26 
結審通知日 2018-05-08 
審決日 2018-05-21 
出願番号 特願2016-192194(P2016-192194)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F03D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田谷 宗隆  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 久保 竜一
藤井 昇
発明の名称 格納容器収納式フライホイール一体型垂直軸風車発電機  

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