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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F |
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管理番号 | 1357496 |
審判番号 | 不服2017-18394 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-12-11 |
確定日 | 2019-12-05 |
事件の表示 | 特願2013- 80312「タッチパネル用加飾カバー基材及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月27日出願公開、特開2014-203335〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年4月8日の出願であって、平成28年11月28日付けで拒絶理由が通知され、平成29年1月31日に手続補正がされるとともに意見書が提出され、平成29年2月7日付けで拒絶理由が通知され、平成29年3月30日に手続補正がされるとともに意見書が提出され、平成29年7月18日付けで拒絶理由(最後)が通知され、平成29年9月13日に手続補正がされるとともに意見書が提出されたが、平成29年9月26日付けで平成29年9月13日付け手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされ、これに対して平成29年12月11日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、その後、平成30年10月30日付けで当審より拒絶理由が通知され、平成30年12月25日に手続補正がされるとともに意見書が提出され、平成31年4月3日付けで当審より拒絶理由(最後。以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和元年6月7日に手続補正がされるとともに意見書が提出されたものである。 第2 令和元年6月7日にされた手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の結論] 令和元年6月7日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線は補正箇所である。) 「薄膜ガラス部材上に接着層と加飾層とが並列して構成され、前記加飾層上に前記接着層が被覆されたタッチパネル用カバー基材。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、平成30年12月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「薄膜ガラス部材と、シクロオレフィン系樹脂からなる透明なプラスチックフィルムとが、全面に直接塗布した光学接着剤層を介して、空気層なく積層形成されたタッチパネル用基材。」 2 補正の適否 (1) 本件補正の目的について、請求人は、令和元年6月7日付け意見書において、 「最後の拒絶理由通知に対する対応ですが、誤記訂正目的ですので、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内であり、特許法第17条の2第3項および第5項の補正要件違反にも該当しない、と確信致します。」 と主張している。 (2) 検討するに、「誤記の訂正」とは、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな字句・語句の誤りを、その意味内容の字句・語句に正すことであると解される。 本件補正前の請求項1における、「薄膜ガラス部材と、シクロオレフィン系樹脂からなる透明なプラスチックフィルムとが、全面に直接塗布した光学接着剤層を介して、空気層なく積層形成された」タッチパネル用基材を、本件補正後の請求項1における、「薄膜ガラス部材上に接着層と加飾層とが並列して構成され、前記加飾層上に前記接着層が被覆された」タッチパネル用カバー基材に補正することは、本件補正前には、「薄膜ガラス部材」と、「シクロオレフィン系樹脂からなる透明なプラスチックフィルム」とが、「全面に直接塗布した光学接着剤層を介して、空気層なく積層形成された」という関係である旨を規定するものであった一方、本件補正後には、「全面に直接塗布した光学接着剤層を介して、空気層なく積層形成された」という関係を削除して、「接着層」と「加飾層」とが「並列して構成され、前記加飾層上に前記接着層が被覆された」という関係である旨を新たに規定するものであるから、このような補正が、字句・語句の誤りを、その意味内容の字句・語句に正すという「誤記の訂正」を目的としているということはできない。 そして、本件補正の目的が、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明に該当しないことは、明らかである。 (3) したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号-第4号に掲げる事項を目的とするものではない。 (4) むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 (5) 付記 念のため、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、本「(5) 付記」において、「本件補正発明」と呼ぶ。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 ア 本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 イ 引用例の記載事項 新たに引用する、特開2009-301767号(平成21年12月24日公開。以下、本「(5) 付記」において、「付記引用例」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。(下線は当審で付与。以下同様。) (ア) 段落【0006】-【0013】 「【発明の効果】 【0006】 本発明によれば、タッチパネルの透明導電層は、透明基板に貼着されることなく、成膜により一体となっているので、透明導電層と透明基板との間に気泡が生じることがなく、携帯電話やPDA等に用いた場合に、機器が高温となっても表示面が気泡により損なわれることがない。また、透明導電層が極めて薄くなるので、光の透過率に優れる。 また、タッチパネルの表示部とタッチパネルの保護板を兼用することができ、別途保護板を設ける必要がないためコストを削減することができる。また、高価なインデックスマッチングフィルムを、タッチパネルの表示部と保護板との間に設ける必要がないので、材料点数やインデックス・マッチングフィルムの貼着工程を削減することができる。 これらの結果として、製品化リードタイムを短縮するとともに、タッチパネル装置の製品のトータル不良率の低減が可能となる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0007】 次に、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。 図2に示すものは、静電容量結合方式のタッチパネル装置の組立状態の断面図を示すものである。 図示されるように、同装置は、タッチパネル21とLCDパネルユニット22とを屈折率を調整したゲル状樹脂や両面接着フィルムにより接着することにより構成される。 タッチパネル21は、指等により押圧されることになる透明基板23に、後述するLCDパネルユニット22からの光を、その外縁部において遮光するための遮光層24を下側に設け、更に、その下側に透明のオーバーコート層25、透明導電層26、配線保護用の絶縁層27を順に成膜することにより積層して構成される。 本明細書において、成膜とは、別体として構成されたフィルム等を貼着することにより各層を形成することを除く意味で使用している。 尚、透明導電層26に接続される配線用の金属パターン層28は、FPC配線29を介して外部の位置検出回路と接続され、透明基板23を押圧することにより変化した抵抗値が位置検出回路30により検出されることになる。 上記構成により、静電容量結合方式のセンシングを行うことが可能となる。」 (イ) 段落【0009】 「【0009】 上述したタッチパネル21の構造において、本発明では、透明基板23の片面に、LCDパネルユニットからの光を遮るための遮光層24を設けるようにしている。この遮光層24を設ける位置は、透明基板23上であれば特に制限はなく、通常は、透明基板23の周部に枠状に設けられる。具体的には、例えば、透明基板23の端面から2mm?10mmの範囲において設けることができる。尚、遮光層24は、必ずしも端面から形成される必要はなく、端面から少し内側から形成されていてもよい。また、遮光層24は枠状に形成されるので中央に大きな開口部を備えているが、更に、遮光層24上において、開口部として、図4に示すように、ロゴや文字等の輪郭を構成する開口部31、携帯電話のカメラ用のレンズのための開口部32やインジケータ照明用の開口部を設けるようにしてもよい。」 (ウ) 段落【0011】 「【0011】 上記遮光層24の上には、膜厚2μm?3μmで、例えば、感光性等のアクリル樹脂等の透明な樹脂をスピンコートよりオーバーコート層25として成膜する。そして、その上に、抵抗値を検出するために、図3に示すパターンとなるように、膜厚5nm?50nmで、亜鉛酸化膜、酸化錫膜、非晶質のITO、非晶質のIZOや多結晶ITOやIn2O3等から構成される透明導電層26をスパッタリングにより成膜する。最後に、SiO2等の絶縁材料から構成される配線保護用の絶縁層27を膜厚500Å?1000ÅでCVDやスパッタリングにより成膜する。 このように、遮光層24を備えた透明基板23上に、オーバーコート層25、透明導電層26を順に成膜により積層することにより、透明導電層26とオーバーコート層との間に気泡を生じさせることがなく、高温下において気泡が膨らみLCDパネルユニット22の表示を見づらくすることを防ぐことができる。 また、本実施の形態のタッチパネル装置は、従来の構造のタッチパネル(透明基板+インデックス・マッチングフィルム(住友スリーエム株式会社製高透明接着剤転写テープ8197)+ITOが形成されたフィルム+PETフィルム+同インデックス・マッチングフィルム+LCDパネルユニットを貼着して積層した構造)と比べて、透過率の低減を約8%程度防ぐことができる。この値は、透明基板の透過率を99%、インデックス・マッチングフィルムの透過率を99.80%、ITOが形成されたフィルムの透過率を91%、PETフィルムの透過率を84%とした場合の値である。」 (エ) 段落【0013】 「【0013】 上述したタッチパネル21を構成する透明基板23として、ガラスやアクリル樹脂等から構成され、例えば、厚さ0.5mm?0.55mm程度の基板を使用することができるが、低い吸湿性のガラスを選択すれば、高温下においてオーバーコート層25との間に気泡が生じることを抑えることができる。 また、透明導電層26に隣接して配置される配線用の金属パターン層28は、MAM等の合金を、厚さ3000Å程度で、シート抵抗が0.1?1Ω/□程度の幅10μm?100μm、長さ1cm?10cmの導電層を10μm?100μmの間隔でスパッタリング等により形成することができる。尚、この金属パターン層28の断面のオーバーコート層25からの立ち上がり角部を60°以下とすることが好ましい。金属パターン層28上に成膜される絶縁層27による被覆を確実にすることができるからである。」 上記(ア)-(エ)から、付記引用例には、次の発明(以下、本「(5) 付記」において、「付記引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「タッチパネルの表示部とタッチパネルの保護板を兼用することができ、 タッチパネル21は、指等により押圧されることになる透明基板23に、LCDパネルユニット22からの光を、その外縁部において遮光するための遮光層24を下側に設け、更に、その下側に透明のオーバーコート層25、透明導電層26、配線保護用の絶縁層27を順に成膜することにより積層して構成され、 この遮光層24を設ける位置は、透明基板23上であれば特に制限はなく、通常は、透明基板23の周部に枠状に設けられ、 更に、遮光層24上において、開口部として、ロゴや文字等の輪郭を構成する開口部31を設けるようにしてもよく、 上記遮光層24の上には、膜厚2μm?3μmで、例えば、感光性等のアクリル樹脂等の透明な樹脂をスピンコートよりオーバーコート層25として成膜し、 透明基板23として、ガラスやアクリル樹脂等から構成される、 タッチパネル21。」 ウ 付記引用発明との対比 本件補正発明と付記引用発明とを対比する。 (ア) 付記引用発明の「ガラスやアクリル樹脂等から構成される」、「透明基板23」は、本件補正発明の「薄膜ガラス部材」と、「ガラス部材」である点で共通するといえる。 (イ) 付記引用発明の「遮光層24」は、「開口部として、ロゴや文字等の輪郭を構成する開口部31を設けるようにしてもよ」いから、本件補正発明の「加飾層」に対応する。 (ウ) 付記引用発明の「オーバーコート層25」は、「この遮光層24を設ける位置は、透明基板23上であれば特に制限はなく、通常は、透明基板23の周部に枠状に設けられ」、「上記遮光層24の上には、膜厚2μm?3μmで、例えば、感光性等のアクリル樹脂等の透明な樹脂をスピンコートよりオーバーコート層25として成膜し」ているから、本件補正発明の「接着層と加飾層とが並列して構成され、前記加飾層上に前記接着層が被覆された」「接着層」と、「平坦化層と加飾層とが並列して構成され、前記加飾層上に前記平坦化層が被覆された」点で共通するといえる。 (エ) 付記引用発明の「タッチパネルの表示部とタッチパネルの保護板を兼用する」、「タッチパネル21」は、本件補正発明の「タッチパネル用カバー基材」と、「タッチパネル用基材」である点で共通するといえる。 (オ) 一致点・相違点 以上のことから、本件補正発明と付記引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点] 「ガラス部材上に平坦化層と加飾層とが並列して構成され、前記加飾層上に前記平坦化層が被覆されたタッチパネル用基材。」 [相違点1] 本件補正発明は、「薄膜ガラス部材」を備えるのに対し、付記引用発明は、「ガラスやアクリル樹脂等から構成される」、「透明基板23」は、「薄膜」ガラス部材であることが特定されていない点。 [相違点2] 本件補正発明は、「接着層」を備えるのに対し、付記引用発明は、「オーバーコート層25」が、「接着層」であることが特定されていない点。 [相違点3] 本件補正発明は、「タッチパネル用カバー基材」に係るのに対し、付記引用発明は、「タッチパネルの表示部とタッチパネルの保護板を兼用する」、「タッチパネル21」に係るものであって、「タッチパネル用カバー基材」であることが特定されていない点。 エ 判断 [相違点1]について 付記引用発明の「透明基板23」の厚さは、重量や強度などを考慮して、当業者が適宜選択すべき設計的事項である。 一般に、液晶パネルなどの積層体に用いるガラス基板として、「薄膜」のガラス基板を用いることは、例えば、特開2013-37207号公報の、特に段落【0009】に、 「【0009】 A.表示装置用保護基板の全体構成 図1は、本発明の好ましい実施形態による表示装置用保護基板の概略断面図である。この表示装置用保護基板100は、厚みが20μm?200μmのガラス10と、ガラス10の片側に配置された樹脂層30とを備える。表示装置用保護基板100は、好ましくは、ガラス10と樹脂層30との間に、接着層20を備える。本発明の表示装置用保護基板100は、表示装置において、ガラス10が最表面となるようにして使用される。本発明の表示装置用保護基板は、樹脂層を備えることにより軽量化されるとともに、最表面側にガラスを備えることにより耐擦傷性および硬度にも優れる。さらに、本発明によれば、ガラスと樹脂層との相乗効果により、ガラス基板(ガラス単体)またはプラスチック基板(樹脂層単体)よりも耐衝撃性に優れる表示装置用保護基板が得られ得る。」 と記載され、 国際公開第2011/142280号の、特に段落[0031]に、 「ガラス基板の厚さは、特に限定されないが、ガラス基板の薄型化および/または軽量化の観点から、通常0.8mm未満であり、好ましくは0.3mm以下であり、さらに好ましくは0.15mm以下である。0.8mm以上の場合、ガラス基板の薄型化および/または軽量化の要求を満たせない。0.3mm以下の場合、ガラス基板に良好なフレキシブル性を与えることが可能である。0.15mm以下の場合、ガラス基板をロール状に巻き取ることが可能である。また、ガラス基板の厚さは、ガラス基板の製造が容易であること、ガラス基板の取り扱いが容易であることなどの理由から、0.03mm以上であることが好ましい。」 と記載されるように周知技術である。 よって、付記引用発明において、上記周知技術を採用することによって、「薄膜ガラス部材」を備える、上記[相違点1]に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。 [相違点2]、[相違点3]について 一般に、タッチパネルの表面を保護するために、タッチパネルの表面にカバーガラスを貼り付ける構成は、例えば、上記特開2013-37207号公報の、特に上記段落【0009】、及び、【0041】に、 「【0041】 H.用途 本発明の表示装置用保護基板は、タッチパネル(特に、モバイル用途のタッチパネル)の最表面に配置される保護板として好適に用いられる。タッチパネルとしては特に制限はなく、例えば、抵抗膜方式、静電容量方式、光学式など種々のものに本発明の表示装置用保護基板を用いることができる。タッチパネルの詳細は、例えば、特表2011-511357号公報、特開2010-164938号公報、特開2008-310550号公報、特表2003-511799号公報、特表2010-541109号公報に記載されており、その記載は本明細書に参考として援用される。」 と記載され、 特開2011-186717号公報の、特に図7、及び、段落【0006】に、 「【0006】 図7のタッチパネルでは、一方の表面に予めITO膜が形成されたITO膜ガラス基板を用いるか、又はガラス基板102の一方の表面にITO膜を成膜する。ITO膜ガラス基板のITO膜又はガラス基板102上に形成したITO膜に対し、写真製版とエッチングにより電極層とするためのパターン化を施してITO膜104aとする。そのITO膜104a上に保護膜として透明な絶縁膜106aを形成し、さらにその絶縁膜106a上にITO膜を成膜し、そのITO膜に対し写真製版とエッチングにより電極層とするためのパターン化を施してITO膜104bとする。さらにITO膜104b上に透明な絶縁膜106bを形成し、その後、絶縁膜106b上に透明な光学的両面テープ(OCA)108によりカバーガラス120を張り合わせる。カバーガラスには一般に強化ガラスが使用される。」 と記載されるように周知技術である。 よって、付記引用発明の「タッチパネルの表示部とタッチパネルの保護板を兼用する」、「タッチパネル21」に関して、タッチパネルの表面にカバーガラスを貼り付ける、上記周知技術の構成を採用することによって、付記引用発明の「オーバーコート層25」を「接着層」として構成して、上記[相違点2]、[相違点3]に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。 そして、本件補正発明の奏する作用効果は、当業者であれば、付記引用発明及び周知技術から予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 したがって、本件補正発明は、付記引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 オ 「(5) 付記」のむすび よって、本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合であっても、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和元年6月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年12月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 当審拒絶理由の拒絶の理由 当審拒絶理由の拒絶の理由は、 [理由1](進歩性) この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1-5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 [理由2](サポート要件) この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 というものである。 1.特開2013-37207号公報 2.特開2009-48214号公報 3.特開平3-63812号公報 4.国際公開第2011/142280号 5.特開平5-114329号公報 3 [理由1](進歩性)について (1) 「引用文献1」について 引用文献1(特開2013-37207号公報)には、図面と共に、以下の記載がある(下線は当審付与。以下同様)。 ア 段落【0009】 「【0009】 A.表示装置用保護基板の全体構成 図1は、本発明の好ましい実施形態による表示装置用保護基板の概略断面図である。この表示装置用保護基板100は、厚みが20μm?200μmのガラス10と、ガラス10の片側に配置された樹脂層30とを備える。表示装置用保護基板100は、好ましくは、ガラス10と樹脂層30との間に、接着層20を備える。本発明の表示装置用保護基板100は、表示装置において、ガラス10が最表面となるようにして使用される。本発明の表示装置用保護基板は、樹脂層を備えることにより軽量化されるとともに、最表面側にガラスを備えることにより耐擦傷性および硬度にも優れる。さらに、本発明によれば、ガラスと樹脂層との相乗効果により、ガラス基板(ガラス単体)またはプラスチック基板(樹脂層単体)よりも耐衝撃性に優れる表示装置用保護基板が得られ得る。」 イ 段落【0017】 「【0017】 C.樹脂層 上記樹脂層を構成する材料は、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切な樹脂が採用され得る。上記樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱または活性エネルギー線により硬化する硬化性樹脂等が挙げられる。好ましくは、熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂は線膨張係数が大きく、後述のように高強度の表示装置用保護基板を得ることができるからである。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂等が挙げられる。なかでも好ましくはポリ(メタ)クリレート系樹脂であり、より好ましくはポリメタクリレート系樹脂であり、特に好ましくはポリメチルメタクリレート系樹脂である。樹脂層がポリメチルメタクリレート系樹脂を含んでいれば、より耐衝撃性に優れる表示装置用保護基板を得ることができ、例えば、先端の尖った落下物に対してもキズ、穴等の発生を防止することができる。」 ウ 段落【0024】-【0033】 「【0024】 D.接着層 好ましくは、上記ガラスと樹脂層とは、接着層を介して貼り合わせられている。上記接着層を構成する材料としては、任意の適切な樹脂を採用し得る。上記接着層を構成する材料としては、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。 【0025】 上記接着層の厚みは、好ましくは3μm?50μmであり、より好ましくは5μm?30μmであり、特に好ましくは7μm?15μmである。接着層の厚みより大きい異物は、欠点として認識されるため、接着層の厚みは3μm以上であることが好ましい。 【0026】 上記接着層の25℃における引っ張り弾性率は、好ましくは1×108Pa以上であり、より好ましくは5×108Pa?1×1010Paである。このような範囲であれば、耐衝撃性に優れる表示装置用保護基板を得ることができる。また、接着層の25℃における引っ張り弾性率が1×108Pa未満の場合、上記のように樹脂層を膨張、収縮させても、樹脂層の収縮応力が開放されてしまい、十分に強度が向上しないおそれがある。 【0027】 E.表示装置用保護基板の製造方法 本発明の表示装置用保護基板の製造方法としては、例えば、上記ガラス上に樹脂シートを貼り合わせることにより、ガラス上に樹脂層を形成する方法が挙げられる。このような方法においては、(1)ガラスまたは樹脂シートに、熱硬化性または光硬化性の接着剤を含む接着剤組成物を塗布した後、該ガラスと該樹脂シートを貼り合わせる、貼着工程と、(2)接着剤組成物を硬化させて、接着層を形成する硬化工程とを含む。 【0028】 上記樹脂シートは、上記C項で説明した樹脂層を形成する材料により、形成される。 【0029】 上記のとおり、上記粘着剤組成物は、好ましくは、熱硬化性または光硬化性の接着剤を含む。熱硬化性接着剤と光硬化性接着剤とを併用してもよい。なお、熱硬化性接着剤を用いる場合、熱硬化性接着剤を硬化させる際の加熱により樹脂シートを膨張させることができ、その後の樹脂シートの収縮によりガラスに収縮応力が働いた状態で樹脂層を固定することができる。 【0030】 上記接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤等が挙げられる。 【0031】 上記接着剤の25℃における粘度は、好ましくは100cp?5000cpであり、より好ましくは200cp?3000cpである。接着剤の25℃における粘度が100cp未満の場合、貼り合わせ時に接着剤がはみ出したり、接着層の厚みが薄くなりすぎるおそれがある。接着剤の25℃における粘度が5000cpを越える場合、接着剤を塗布しがたくなるおそれ、および接着層に気泡が生じるおそれがある。 ・・・(中略)・・・ 【0033】 上記ガラスと樹脂シートとの貼り合わせは、任意の適切な手段により行われる。代表的には、ラミネーティングが行われる。本発明の表示装置用保護基板は、ガラスと樹脂シートとの貼り合わせをいわゆるロール・トゥ・ロールで連続的に行ってもよい。なお、ロール・トゥ・ロールとは、長尺のフィルム同士(本発明ではガラスと樹脂シート)をロール搬送しながら、その長手方向を揃えて連続的に貼り合わせる方法をいう。」 エ 段落【0041】 「【0041】 H.用途 本発明の表示装置用保護基板は、タッチパネル(特に、モバイル用途のタッチパネル)の最表面に配置される保護板として好適に用いられる。タッチパネルとしては特に制限はなく、例えば、抵抗膜方式、静電容量方式、光学式など種々のものに本発明の表示装置用保護基板を用いることができる。タッチパネルの詳細は、例えば、特表2011-511357号公報、特開2010-164938号公報、特開2008-310550号公報、特表2003-511799号公報、特表2010-541109号公報に記載されており、その記載は本明細書に参考として援用される。」 オ 段落【0047】-【0049】 「【0047】 [実施例1] シクロオレフィン系樹脂シート(日本ゼオン社製、商品名「ゼオノアフィルムZF16」、厚み100μm)上に、接着剤組成物(ダイセル社製セロキサイド(商品名)80部、東亜合成社製アロンオキセタン(商品名)20部、および開始剤(ADEKA社製、商品名「SP-170」)3部の混合物)をスポイトを用いて線状に塗布した。次いで、上記シクロオレフィン系樹脂シートとガラス(厚み:50μm)とを、上記接着剤組成物を介して、貼り合わせた。この貼り合わせは、ラミネータを用いてロール間で行った。 その後、得られた積層体に紫外光を照射して(照射強度50mw/cm2、照射時間30秒)、接着剤組成物を半硬化させた。紫外光照射は高圧水銀ランプを使用した。次いで、100℃の温度下で40分間、オーブン内で積層体を加熱し、接着剤組成物を完全硬化させて、表示装置用保護基板(ガラス/接着層/樹脂層)を得た。接着層の厚みは10μmであった。得られた表示装置用保護基板の厚みは160μm、20cm×15cmサイズ当たりの重さは8gであった。得られた表示装置用保護基板を上記(1)および(2)の評価に供した。結果を表1に示す。 【0048】 [実施例2] シクロオレフィン系樹脂シートの厚みを188μmとした以外は、実施例1と同様にして、表示装置用保護基板を得た。得られた表示装置用保護基板の厚みは248μm、20cm×15cmサイズ当たりの重さは10gであった。得られた表示装置用保護基板を上記(1)および(2)の評価に供した。結果を表1に示す。 【0049】 [実施例3] シクロオレフィン系樹脂シートの厚みを188μmとし、接着剤組成物の組成をダイセル社製セロキサイド(商品名)55部/ダイセル社製EHPA(商品名)25部/東亜合成社製アロンオキセタン(商品名)20部/開始剤(ADEKA社製、商品名「SP-170」)3部とした以外は、実施例1と同様にして、表示装置用保護基板を得た。得られた表示装置用保護基板の厚みは248μm、20cm×15cmサイズ当たりの重さは10gであった。得られた表示装置用保護基板を上記(1)および(2)の評価に供した。結果を表1に示す。」 よって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。 「表示装置用保護基板100は、厚みが20μm?200μmのガラス10と、ガラス10の片側に配置された樹脂層30とを備え、好ましくは、ガラス10と樹脂層30との間に、接着層20を備え、 上記樹脂層を構成する材料は、好ましくは、熱可塑性樹脂であり、熱可塑性樹脂の具体例としては、シクロオレフィン系樹脂があり、 (1)ガラスまたは樹脂シートに、熱硬化性または光硬化性の接着剤を含む接着剤組成物を塗布した後、該ガラスと該樹脂シートを貼り合わせる、貼着工程と、(2)接着剤組成物を硬化させて、接着層を形成する硬化工程とを含み、 上記接着剤の25℃における粘度は、好ましくは100cp?5000cpであり、これは、接着剤の25℃における粘度が5000cpを越える場合、接着層に気泡が生じるおそれがあるためであり、 上記ガラスと樹脂シートとの貼り合わせは、任意の適切な手段により行われ、代表的には、ラミネーティングが行われ、いわゆるロール・トゥ・ロールで連続的に行ってもよく、なお、ロール・トゥ・ロールとは、長尺のフィルム同士(本発明ではガラスと樹脂シート)をロール搬送しながら、その長手方向を揃えて連続的に貼り合わせる方法をいい、 表示装置用保護基板は、タッチパネル(特に、モバイル用途のタッチパネル)の最表面に配置される保護板として好適に用いられ、 シクロオレフィン系樹脂シート(日本ゼオン社製、商品名「ゼオノアフィルムZF16」、厚み100μm)上に、接着剤組成物(ダイセル社製セロキサイド(商品名)80部、東亜合成社製アロンオキセタン(商品名)20部、および開始剤(ADEKA社製、商品名「SP-170」)3部の混合物)をスポイトを用いて線状に塗布し、次いで、上記シクロオレフィン系樹脂シートとガラス(厚み:50μm)とを、上記接着剤組成物を介して、貼り合わせ、この貼り合わせは、ラミネータを用いてロール間で行い、その後、得られた積層体に紫外光を照射して(照射強度50mw/cm2、照射時間30秒)、接着剤組成物を半硬化させ、紫外光照射は高圧水銀ランプを使用し、次いで、100℃の温度下で40分間、オーブン内で積層体を加熱し、接着剤組成物を完全硬化させて、得られた、 表示装置用保護基板(ガラス/接着層/樹脂層)。」 (2) 本願発明と、引用発明との対比 本願発明と、引用発明とを対比すると以下のことがいえる。 ア 引用発明の「厚みが20μm?200μmのガラス10」は、本願発明の「薄膜ガラス部材」に相当する。 イ 引用発明の「表示装置用保護基板100」において、「上記樹脂層を構成する材料は、好ましくは、熱可塑性樹脂であり、熱可塑性樹脂の具体例としては、シクロオレフィン系樹脂があ」る「樹脂シート」であるから、本願発明の「シクロオレフィン系樹脂からなる透明なプラスチックフィルム」に相当する。 なお、必要ならば、例えば、特開2008-9345号公報の段落【0063】に「このような透明基板を構成する樹脂材料としては、例えば、セルロース誘導体、シクロオレフィン系樹脂、…(中略)… セルロース誘導体およびシクロオレフィン系樹脂は光学的等方性に優れるため、このような樹脂材料を用いることにより、本発明の位相差フィルムの光学特性の設計が容易になるからである。」と記載されるように、引用発明の「シクロオレフィン系樹脂」が「透明な」プラスチックである点は明らかである。 ウ 引用発明の「接着層」は、「(1)ガラスまたは樹脂シートに、熱硬化性または光硬化性の接着剤を含む接着剤組成物を塗布した後、該ガラスと該樹脂シートを貼り合わせる、貼着工程と、(2)接着剤組成物を硬化させて、接着層を形成する」から、本願発明の「全面に直接塗布した光学接着剤層」と、「塗布した光学接着剤層」である点で共通する。 エ 引用発明の「表示装置用保護基板(ガラス/接着層/樹脂層)」は、「表示装置用保護基板は、タッチパネル(特に、モバイル用途のタッチパネル)の最表面に配置される保護板として好適に用いられ」るから、本願発明の「積層形成されたタッチパネル用基材」に相当する。 よって、本願発明と引用発明との一致点・相違点は次のとおりであるといえる。 <一致点> 「薄膜ガラス部材と、シクロオレフィン系樹脂からなる透明なプラスチックフィルムとが、塗布した光学接着剤層を介して、積層形成されたタッチパネル用基材。」 [相違点] 薄膜ガラス部材と、シクロオレフィン系樹脂からなる透明なプラスチックフィルムとの貼り合わせが、本願発明では、「全面に直接塗布した光学接着剤層を介して、空気層なく」積層形成されるのに対して、引用発明では、「全面に直接塗布した光学接着剤層を介して、空気層なく」積層形成されることが明確には特定されていない点。 (3) 当審の判断 (その1) 引用発明は、「上記接着剤の25℃における粘度は、好ましくは100cp?5000cpであり、これは、接着剤の25℃における粘度が5000cpを越える場合、接着層に気泡が生じるおそれがあるためであり」、かつ、「上記ガラスと樹脂シートとの貼り合わせは、任意の適切な手段により行われ、代表的には、ラミネーティングが行われ、いわゆるロール・トゥ・ロールで連続的に行ってもよく」、また、「貼り合わせは、ラミネータを用いてロール間で行」うものであるから、上記タッチパネル用保護基板を積層形成する際、少なくとも、意図的に空気層を設けるものではないと認められる。 (なお、請求人は、平成30年12月25日付け意見書の「(2)」において、引用文献1が、接着剤を「スポイト」を用いて線状に塗布する発明に係るものであることを前提とした上で、以降の反論をしている。 しかし、引用文献1から、上記のとおりの「貼り合わせは、任意の適切な手段により行われ」る、引用発明が認定できる。 すなわち、引用文献1は、ガラスと樹脂層とを組み合わせることで、軽量化などを図ることを課題とする発明であって(段落【0007】を参照。)、「上記ガラスと樹脂シートとの貼り合わせは、任意の適切な手段により行われ」るものである。 引用文献1には、「スポイト」を利用する方法以外に、連続的に製造可能な「ロール・トゥ・ロール」方式等が開示されている(段落【0033】)。 引用文献1の各実施例において、「スポイト」で塗布作業を行っているのは、積層体の素材や厚みを変えながら、耐擦傷性等の諸特性を比較・評価するために、多種類の試料を少数ずつ作成する必要があるという、実施例における試料作成のための条件により採用された手法にすぎないと解するのが自然である。) 例えば、引用文献2には、タッチパネルに関連する透明基板と基板を液状接着剤で「全面接着」する方法に関し(段落【0001】参照。)、塗布部と塗布部の間に空気が閉じ込められて気泡が発生するという課題を解決するために(段落【0007】、図16、図17、図18-図20参照。)、点塗布と線塗布をした後、線塗布をした接着剤の領域で、2枚の基板の間に接着剤が濡れた時点で、接着剤を全面に充填し、充填が完了した時点で接着剤を硬化するためのUVを照射して貼り付けを完成させることにより(段落【0016】参照。)、気泡の混入や空気の閉じ込めの生じない充填を行うこと(段落【0020】、図1-11(特に、接着剤の終期の充填の状態を示す図11)を参照。)が記載されており、接着剤を「全面に充填」したものは、「全面に塗布」したものにほかならないから、タッチパネルの製造過程の透明基板等の貼り合わせの際、空気層を作らないように、接着剤を全面に塗布することは、周知技術(以下、「周知技術1」という。)である。 (なお、請求人は、平成30年12月25日付け意見書の「(3)」、「(5)」において、引用文献2は、一連の製造工程において、接着剤を「点塗布と線塗布」する工程の後に、接着剤を2枚の基板の間に「全面に充填」する工程を行うものであって、本願発明のように「全面に(直接)塗布」したものではない旨反論している。 しかし、引用文献2において、一連の製造工程として、接着剤を「点塗布と線塗布」する工程の後に、接着剤を2枚の基板の間に「全面に充填」する工程を実行すれば、結果として得られる積層体としては、「接着剤」は、基板と「直接」接しており、かつ、基板の「全面に」塗り広げられ、すなわち、「塗布」されて、「層」をなしたものが得られるものであって、これは、基板の「全面に直接塗布した」接着剤層にほかならない。) したがって、引用発明において、気泡の混入などの課題を考慮して、引用文献2に記載された周知技術1を採用することで、上記[相違点]に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得たものである。 (その2) 引用発明は、「上記接着剤の25℃における粘度は、好ましくは100cp?5000cpであり、これは、接着剤の25℃における粘度が5000cpを越える場合、接着層に気泡が生じるおそれがあるためであり」、かつ、「上記ガラスと樹脂シートとの貼り合わせは、任意の適切な手段により行われ、代表的には、ラミネーティングが行われ、いわゆるロール・トゥ・ロールで連続的に行ってもよく」、また、「貼り合わせは、ラミネータを用いてロール間で行」うものであるから、上記タッチパネル用保護基板を積層形成する際、少なくとも、意図的に空気層を設けるものではないと認められる。 一般に、積層体の製造において、接着剤などの塗液を、基材の表面に塗布するために、「ロールコート」などの各種「コーター」を利用することは、周知技術(以下、「周知技術2」という。)である。 この点について、必要ならば、以下の、引用文献3-5の各記載を参照されたい。 引用文献3には、2ページ右上欄19行-右下欄15行に、以下の記載がある。 「第1図はこの発明のタッチパネルの一実施例を示す断面図である。1はガラス板、2はプラスチックフィルム、3は可動電極、4はスペーサー、5は固定電極、6は固定電極基板を示す。 可動電極3は、プラスチックフィルム2上に形成される。プラスチックフィルム2としては、ポリエステルやポリカーボネートあるいはポリエーテルサルホンなどのプラスチックフィルム2を用いることができる。 ガラス板1としては、タッチすることで十分にたわんで可動電極3と固定電極5とが確実に接触するような厚みの薄いものを使用する。たとえば、厚さ50?300μm、好ましくは180?200μmのものを使用するとよい。 プラスチックフィルム2とガラス板1とは全面的に接着されている。たとえば、アクリルなどの強力な接着剤によって貼り合わせるとよい。 ・・・(中略)・・・ 【実施例】 厚さ24μmのポリエステルフィルムの一方の面にITOを蒸着した。他方の面にアクリル系接着剤を厚さ20μmにロールコートしたのち、厚さ180μmのガラスをラミネーターを用いて貼り合わせた。」 引用文献4には、段落[0060]-[0064]に、以下の記載がある。 「[0060] また、例えば支持板31表面上に樹脂層32となる硬化性樹脂組成物の層を形成し、次いで該硬化性樹脂組成物を硬化して樹脂層32を形成する方法で支持板31上に固定された樹脂層32を形成することもできる。支持板31表面上に硬化性樹脂組成物の層を形成する方法としては、例えば硬化性樹脂組成物を支持板31上にコートする方法が挙げられる。コートする方法としては、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、グラビアコート法などが挙げられる。このような方法の中から、樹脂組成物の種類に応じて適宜選択することができる。 ・・・(中略)・・・ [0064] 樹脂層32を基板20上に剥離可能に密着させる方法は、公知の方法であってよい。例えば、常圧環境下で樹脂層32の剥離性表面に基板20を重ねた後、ロールやプレスを用いて樹脂層32と基板20とを圧着させる方法が挙げられる。ロールやプレスで圧着することにより樹脂層32と基板20とがより密着するので好ましい。また、ロールまたはプレスによる圧着により、樹脂層32と基板20との間に混入している気泡が比較的容易に除去されるので好ましい。」 引用文献5には、段落【0005】-【0009】に、以下の記載がある。 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかし、図4に示すものは、透明タッチパネルと表示柄層7が印刷形成された透明フィルム8とが密着していないので空気層が存在していた。この空気層の存在は光透過率を著しく減少させるため、透明タッチパネルの下に配置されるディスプレイ画面11の視認性が悪くなっていた。また、図5に示すものは、多数の層を通して表示柄層7を見るため表示柄10の視認性が悪く、さらに電極面に銀ペーストで印刷形成される引き回し回路を避けて表示柄層7を設けることが不可能な場合が多かった。 ・・・(中略)・・・ 【0008】以下、図面を参照しながら本発明についてさらに詳しく説明する。図1は本発明の表示柄透明タッチパネルの一実施例を示す断面図、図2は本発明の表示柄透明タッチパネルの他の実施例を示す断面図である。1は可動電極、2はハードコート層、3は可動電極支持フィルム、4は固定電極、5は固定電極支持板、6はスペーサー、7は表示柄層、8は透明フィルム、9接着層をそれぞれ示す。 【0009】可動電極支持フィルム3は、二枚の透明フィルム8間に表示柄層7と接着層9を設けたものである。透明フィルム8としては、ポリエステルフィルムなどのプラスチックフィルムが用いられる。表示柄層7は、樹脂バインダー中に適切な色の染顔料を含有する着色インキを用いて所望のパターンに形成される。樹脂バインダーとしては、ポリエステル樹脂などが好ましい。表示柄層7の形成方法としては、スクリーン印刷法がある。接着層9としては、アクリル系粘着剤があり、二枚の透明フィルム8を全面接着させる。接着層9の形成方法としてはロールコート法がある。可動電極支持フィルム3は、図1に示すように表示柄層7と接着層9のうち接着層9に近い側に可動電極1が形成されてもよいし、図2に示すように表示柄層7と接着層9のうち表示柄層7に近い側に可動電極1が形成されてもよい。」 「ロールコート」などの各種「コーター」を利用する周知技術を利用して塗液を塗布すれば、「全面に直接塗布した」、「空気層なく」積層体が形成されることは自明である。 したがって、引用発明において、積層体の製造において、接着剤などの塗液を、基材の表面に塗布するために、「ロールコート」などの各種「コーター」を利用する、周知技術2を採用することによって、上記[相違点]に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得たものである。 さらに、本願発明の効果も、引用発明、及び、周知技術1、周知技術2に基づいて、当業者が予測し得る範囲内のものである。 したがって、本願発明は、引用発明、及び、周知技術1または周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 [理由2](サポート要件)について (1) 請求項1の「全面に直接」塗布した光学接着剤層を介して、「空気層なく」積層形成する構成を有する発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 (説明) 本願明細書において、段落【0025】-【0039】に、「薄膜ガラス部材」を備えるが「プラスチックフィルム」は備えない「第1実施形態」が記載され、その後、段落【0040】-【0052】に、「薄膜ガラス部材」と「プラスチックフィルム」を備える「第2実施形態」が記載されている。 本願発明は、「薄膜ガラス部材」と「プラスチックフィルム」を備えるから、「第2実施形態」のみが対応する。 本願発明は、「薄膜ガラス部材」と「プラスチックフィルム」との「接着剤」層を備える。 「薄膜ガラス部材」と「プラスチックフィルム」との「接着剤」層が記載されるのは、本願明細書の「第2実施形態」のうち、段落【0049】のみである。 本願明細書の段落【0049】には、以下の記載がある。 「【0049】 なお、薄膜ガラス部材1と透明なプラスチックフィルム2とは単に積層しただけでは密着しにくい材質の組み合わせなので、いずれか一方に予めアクリル系などの光学接着剤を形成しておくのが好ましい。形成方法としては、ロールから搬送されて積層されるまでのライン上にコーターや印刷機を置いて積層のスピードと同期させてインキ化した紫外線硬化型の光学接着剤を塗布し、積層した後ロールに巻き取られるまでのライン上に紫外線照射装置を置いて塗布した光学接着剤を紫外線硬化させるように構成する方法が効率的で好ましい。あるいは、粘着性があり光学的に透明性の高い光学透明両面テープ(OCA)や感圧性の接着剤が形成されたテープ(PSA)などを薄膜ガラス部材1か透明なプラスチックフィルム2のどちらかに予め積層しておく方法もある。」 本願明細書の上記段落【0049】に、「全面に直接」塗布した光学接着剤層を介して、「空気層なく」積層形成する構成は記載されていない。 平成29年9月13日付け意見書(なお、同日付けの補正書は却下された。)2ページ(5)項の「本願請求項1の発明は、基材の全面に紫外線硬化型の光学接着剤を塗布して積層しますので(本願明細書【0028】参照)、空気層なく積層形成することが可能です(本願明細書【0027】参照)。そのことをより明確にするために、請求項1に記載された「光学接着剤」を「全面に塗布した光学接着剤層」に変更する補正を行いました。」との記載を参照すると、本願明細書の段落【0027】-【0028】が補正の根拠と一応考えられる。 しかし、段落【0027】-【0028】は、以下の点で、補正の根拠ではない。 ア そもそも、段落【0027】-【0028】は、「薄膜ガラス部材」を備えるが「プラスチックフィルム」は備えない「第1実施形態」についての記載箇所である。 イ 段落【0027】-【0028】は、段落【0025】に「本発明の第1実施形態に係るタッチパネル用加飾カバー基材10は、硬質のディスプレイパネルにダイレクトボンディングするか…」と記載されるとおり、「第1実施形態」による「カバー基材10」を、「硬質のディスプレイパネル」に対して、空隙(エアギャップ)を設けることなく直接貼り合わせるという、「ダイレクトボンディング」についての記載にすぎない。 ウ 念のため、段落【0028】の内容をみても、「ダイレクトボンディング法で積層すれば薄膜ガラス部材1の撓みの原因となる空気層がほとんど無くなり、かつ応力がディスプレイパネル全体に分散するようになるので、充分使用可能である。」との記載、すなわち、「カバー基材10」と「硬質のディスプレイパネル」との間に、「空気層がほとんど無くなる」ことで十分使用可能になるという記載であって、「空気層なく」貼り合わせることは記載されていない。 エ 第1実施形態の「カバー基材10」と「硬質のディスプレイパネル」間の「ダイレクトボンディング」における「ダイレクト」に、「直接」という意味があることは、請求項1の「全面に直接」塗布した光学接着剤層と無関係である。 「第1実施形態」で、「光学接着剤」等の「接着層」について記載されるのは、後段の段落【0038】であるが、これは、「薄膜ガラス部材1」と、「接着インキ層22」間の「接着層」にすぎない。 したがって、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。 よって、請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。 また、請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-10-02 |
結審通知日 | 2019-10-08 |
審決日 | 2019-10-23 |
出願番号 | 特願2013-80312(P2013-80312) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(G06F)
P 1 8・ 573- WZ (G06F) P 1 8・ 121- WZ (G06F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 間野 裕一 |
特許庁審判長 |
▲吉▼田 耕一 |
特許庁審判官 |
稲葉 和生 小田 浩 |
発明の名称 | タッチパネル用加飾カバー基材及びその製造方法 |