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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1358981
審判番号 不服2018-15141  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-14 
確定日 2020-02-10 
事件の表示 特願2016-528066「データ転送最適化」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月11日国際公開、WO2015/084890、平成29年 2月 9日国内公表、特表2017-504856、請求項の数(19)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 本願は,2014年12月2日(パリ条約による優先権主張2013年12月3日(以下,「優先日」という。),米国)を国際出願日とする出願であって,平成28年5月6日付けで特許法第184条の5第1項の規定による書面が提出され,平成28年6月1日付けで特許法第184条の4第1項の規定による明細書,請求の範囲,及び,図面(図中の説明に限る。)の日本語による翻訳文が提出され,平成29年5月31日付けで拒絶理由通知(同年6月12日発送)がなされ,同年12月1日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされ,平成30年4月2日付けで拒絶理由通知(同年4月9日発送)がなされ,同年7月3日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされたが,同年7月13日付けで補正の却下の決定がなされるとともに,拒絶査定(原査定)(同年7月23日謄本送達)がなされ,これに対し,同年11月14日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,同年12月13日付けで特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がされ,令和元年8月6日付けで当審より拒絶理由通知がなされ(同年8月13日発送),同年11月7日付けで意見書が提出されるとともに,手続補正がなされ,同年11月29日付けで当審より拒絶理由通知がなされ(同年12月2日発送),同年12月2日付けで意見書が提出されるとともに,手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年7月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.平成29年12月1日付け手続補正書でした補正は,国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文,国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては,当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下,翻訳文等という。)(誤訳訂正書を提出して明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあっては,翻訳文等又は当該補正後の明細書,特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1.令和元年8月6日付けの当審拒絶理由について
(1)(進歩性)本願請求項1?4,5?21に係る発明は,以下の引用文献1?6に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)(明確性)本件出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

[引用文献等一覧]
1.国際公開第2001/046808号
2.特開2000-315997号公報
3.特開2011-175578号公報
4.特開2007-311842号公報
5.日経SYSTEMS,「図説 業務システム テクノロジー選集」,日経BP社,2013年 4月15日,第1版,ISBN: 978-4-8222-7701-7,p.152-157
6.米国出願公開第2013/0290703号明細書

2.令和元年11月29日付けの当審拒絶理由について
(1)(明確性)本件出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願の請求項1?19に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明19」という。)は,令和元年12月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定される,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
命令が記憶されたコンピュータ読み取り可能記憶媒体であって、前記命令は、コンピュータシステムの1つ以上のプロセッサにより実施されると、前記コンピュータシステムに、
メディアファイルを第1データチャンク及び第2データチャンクに分割させ、
前記第1データチャンクに対して第1初期化ベクトルを用いて且つ前記第2データチャンクに対して前記第1初期化ベクトルとは異なる第2初期化ベクトルを用いて並行的に暗号化されるように、同じ暗号鍵を用いて前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクのそれぞれを別々に暗号化させ、
少なくとも前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクが、データ保存サービスの複数のサーバに並行的に送信され、前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクが前記第1データチャンクを識別する識別子を用いて前記データ保存サービスから集合的に読み出されるように、該データ保存サービスに対して前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを送信させ、
前記第1データチャンクと前記第1初期化べクトルとを連結させ、及び前記第2データチャンクと前記第2初期化べクトルとを連結させて、前記データ保存サービスに保存させ、
前記第2データチャンクを前記第1データチャンクに対応付けさせ、
前記メディアファイルの開始時間とは異なる再生開始時間を示すユーザ入力を受信させ、
前記再生開始時間を含み、前記開始時間を含まない前記メディアファイルの範囲を含む前記メディアファイルの部分に対応する前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを、前記データ保存サービスからダウンロードさせる、
コンピュータ読み取り可能記憶媒体。
【請求項2】
請求項1に記載のコンピュータ読み取り可能記憶媒体であって、前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクの送信は、該第1データチャンク及び前記第2データチャンクと共に、該第1データチャンク及び前記第2データチャンクを暗号化された形態で取得するのに使用される対応する前記第1初期化ベクトル及び前記第2初期化ベクトルを送信することを含む、前記コンピュータ読み取り可能記憶媒体。
【請求項3】
請求項1に記載のコンピュータ読み取り可能記憶媒体であって、前記命令はさらに前記コンピュータシステムに、
前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクが並行的にダウンロードされるように、前記データ保存サービスから前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを別々にダウンロードさせ、
別々にダウンロードされた前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクが並行的に復号化されるように前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクのそれぞれを復号化させる、前記コンピュータ読み取り可能記憶媒体。
【請求項4】
請求項3に記載のコンピュータ読み取り可能記憶媒体であって、前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクの別々のダウンロードは、該第1データチャンク及び前記第2データチャンクに対応するバイト範囲を特定するリクエストを前記データ保存サービスに送信することを含む、前記コンピュータ読み取り可能記憶媒体。
【請求項5】
命令がそこに記憶されたコンピュータ読み取り可能記憶媒体であって、前記命令は、コンピュータシステムの1つ以上のプロセッサにより実施されると、前記コンピュータシステムに、
第1データチャンク及び第2データチャンクを取得させ、
前記第1データチャンクに対して第1初期化ベクトルを用いて且つ前記第2データチャンクに対して前記第1初期化ベクトルとは異なる第2初期化ベクトルを使用して並行的に暗号化するように前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを暗号化させ、
それぞれ暗号化された前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクが並行的にデータ保存サービスの複数のサーバに送信され、前記第1データチャンクを識別する識別子を用いて集合的にメディアファイルとして前記データ保存サービスにより管理されるように、前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクをデータ保存サービスへ送信させ、
前記第1データチャンクと前記第1初期化ベクトルとを連結させ、及び前記第2データチャンクと前記第2初期化ベクトルとを連結させて、前記データ保存サービスに保存させ、
前記第2データチャンクを前記第1データチャンクに対応付けさせ、
前記メディアファイルの開始時間とは異なる再生開始時間を示すユーザ入力を受信させ、
前記再生開始時間を含み、前記開始時間を含まない前記メディアファイルの範囲を含む前記メディアファイルの部分に対応する前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを、前記データ保存サービスからダウンロードさせる、コンピュータ読み取り可能記憶媒体。
【請求項6】
請求項5に記載のコンピュータ読み取り可能記憶媒体であって、前記第1データチャンク及び第2データチャンクのそれぞれの暗号化は、前記第1データチャンク及び第2データチャンクのそれぞれを同じ暗号鍵にて暗号化することを含む、前記コンピュータ読み取り可能記憶媒体。
【請求項7】
請求項5に記載のコンピュータ読み取り可能記憶媒体であって、前記第1データチャンク及び第2データチャンクのそれぞれのデータ保存サービスへの送信は、該第1データチャンク及び第2データチャンクと、該第1データチャンク及び第2データチャンクを取得するのに使用される対応する第1初期化ベクトル及び前記第2初期化ベクトルの両方を含む前記メディアファイルのサブオブジェクトを送信することを含む、前記コンピュータ読み取り可能記憶媒体。
【請求項8】
請求項5に記載のコンピュータ読み取り可能記憶媒体であって、前記第1データチャンク及び第2データチャンクのダウンロードは、前記第1データチャンク及び第2データチャンクの均一なデータチャンクサイズ及び前記メディアファイルのメディアファイルサイズに基づいて、前記第1データチャンク及び第2データチャンクにそれぞれ対応する範囲を判定することを含む、前記コンピュータ読み取り可能記憶媒体。
【請求項9】
システムであって、
複数のプロセッサと、
該システムに
前記複数のプロセッサ間に分散することで集合的にメディアファイルを含む第1データチャンク及び第2データチャンクを、前記第1データチャンクに対して第1初期化ベクトルを用いて且つ前記第2データチャンクに対して前記第1初期化ベクトルとは異なる第2初期化ベクトルを用いて暗号化させ、
データ保存サービスの複数のサーバに前記第1データチャンクを識別する識別子を用いて受信させることで、前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを前記データ保存サービスに転送させ、
前記第1データチャンクと前記第1初期化ベクトルとを連結させ、及び前記第2データチャンクと前記第2初期化ベクトルとを連結させて、前記データ保存サービスに保存させ、
前記第2データチャンクを前記第1データチャンクに対応付けさせ、
前記メディアファイルの開始時間とは異なる再生開始時間を示すユーザ入力を受信させ、
前記再生開始時間を含み、前記開始時間を含まない前記メディアファイルの範囲を含む前記メディアファイルの部分に対応する前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを、前記データ保存サービスからダウンロードさせる、
前記プロセッサの少なくとも1つにより実行可能な命令が符号化されているメモリと、を備える、システム。
【請求項10】
請求項9に記載のシステムであって、前記命令は、さらにシステムに、
前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクに対するチェックサム動作を並行的に実行させ、
前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクの前記データ保存サービスへの転送を認証するのに前記チェックサム動作の結果を使用させる、前記システム。
【請求項11】
請求項9に記載のシステムであって、前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクの処理は、該第1データチャンク及び前記第2データチャンクを圧縮することを含む、前記システム。
【請求項12】
請求項9に記載のシステムであって、少なくとも前記複数のプロセッサのサブセットは、マルチコア中央処理ユニットの一部である、前記システム。
【請求項13】
請求項9に記載のシステムであって、前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクの前記データ保存サービスへの転送は、前記データ保存サービスが前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを集合的に保存するように実行される、前記システム。
【請求項14】
請求項9に記載のシステムであって、
前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクの処理は、対応する前記第1初期化ベクトル及び前記第2初期化ベクトルを用いて前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを暗号化することを含み、
前記データ保存サービスへの前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクの転送は、該第1データチャンク及び前記第2データチャンクを前記第1初期化ベクトル及び前記第2初期化ベクトルと共に転送することを含む、前記システム。
【請求項15】
請求項9に記載のシステムであって、前記命令は、さらにシステムに、
前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを、選択的にダウンロードさせ、
前記選択的にダウンロードされた前記第1データチャンク又は前記第2データチャンクから前記メディアファイルの少なくとも一部を再構成させる、前記システム。
【請求項16】
コンピュータに実装される方法であって、
実行可能な命令と共に構成された1つ以上のコンピュータシステムの制御下において、
第1及び第2データチャンクにメディアファイルを分割することと、
前記第1データチャンクに対して第1初期化ベクトルを用いて且つ前記第2データチャンクに対して前記第1初期化ベクトルとは異なる第2初期化ベクトルを用いて暗号化するように前記第1及び第2のデータチャンクを別々に暗号化することと、
データ保存サービスへ、前記別々に暗号化されたデータチャンクの前記第1のデータチャンクと前記第2のデータチャンクとを、前記データ保存サービスの別々のサーバにそれぞれ対応する複数の並列チャンネルを用いて送信することと、
前記第1データチャンクと前記第1初期化ベクトルとを連結させ、及び前記第2データチャンクと前記第2初期化ベクトルとを連結させて、前記データ保存サービスに保存させることと、
前記第2データチャンクを前記第1データチャンクに対応付けすることと、
前記メディアファイルの開始時間とは異なる再生開始時間を示すユーザ入力を受信させることと、
前記再生開始時間を含み、前記開始時間を含まない前記メディアファイルの範囲を含む前記メディアファイルの部分に対応する前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを、前記データ保存サービスからダウンロードさせることと、
を含む方法。
【請求項17】
請求項16に記載のコンピュータに実装される方法であって、前記第1及び第2データチャンクは、同数の部材を含むデータチャンクのセットである、前記方法。
【請求項18】
請求項16に記載のコンピュータに実装される方法であって、前記第1及び第2データチャンクの別々の暗号化は、並行的に暗号化することを含む、前記方法。
【請求項19】
請求項16に記載のコンピュータに実装される方法であって、さらに、前記第1及び第2データチャンクを並行的に別々にダウンロードすることを含む、前記方法。」

第5 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
令和元年8月6日付けの拒絶の理由に引用された引用文献1(国際公開第2001/046808号)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「また、データの保管時に、保管対象データを分割したり、分割した後に暗号化したり、または暗号化して後に分割したりする際に、いずれかの段階において、一定の規則に従ってダミーデータを付加するようにし、データ管理手段によって、このダミーデータ付加規則をデータ保管手順情報として記録しておくようにし、データの取出時には、データ保管手順情報に従って、保管されていた分割データに対する統合化や復号化処理を行う際の所定の段階において、保管時に付加されたダミーデータを除去するようにすれば、保管されていたデータを盗み見されたり、これを復号化されたとしても、ダミーデータが介在しているために完全な復元には至らないので、保管されていたデータを盗まれた場合の安全性が更に高まる。」(第4頁第6行-第15行)

B 「また、上記分散型データアーカイブ装置は、汎用のコンピュータに、専用のプログラムを組み込むことにより実現することができ、そのような専用のプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に記録して配付することができる。ネットワークを介してデータサーバに接続することができる任意の汎用コンピュータに、上記専用プログラムを組み込めば、当該汎用コンピュータを本発明に係る分散型データアーカイブ装置として利用することができるようになり、携帯可能記録媒体を携帯している限り、実質的に任意の場所から保管されたデータにアクセスすることができる。
・・・(略)・・・
発明を実施するための最良の形態
§1.基本的な実施形態
まず、本発明の基本的な実施形態を説明する。図1は、本発明に係る分散型データアーカイブシステムの全体構成図である。分散型データアーカイブ装置1は、この分散型データアーカイブシステムの中枢をなす装置であり、複数のデータサーバ2(図1では2a,2b,2c)に対して、ネットワーク3を介して、所望のデータを保管する機能を有している。この分散型データアーカイブ装置1には、携帯可能記録媒体10を挿入することができ、上記機能を実行する際には、分散型データアーカイブ装置1と携帯可能記録媒体10との連携動作が行われる。分散型データアーカイブ装置1は、図1に示されているように、読取・書込手段11、認証手段12、分割・暗号化手段13、復号化・統合手段14、データ管理手段15、ネットワーク通信手段16から構成される。これら各手段の個々の機能については後述する。利用者が、この図1に示されたデータアーカイブシステムを利用してデータを保管するには、保管対象となるデータを、ファイル単位で分散型データアーカイブ装置1に与えればよい。図1には、保管対象データファイルとして、3つのファイルF1、F2、F3を分散型データアーカイブ装置1に与えた例が示されている。この分散型データアーカイブ装置1は、具体的には、携帯可能記録媒体10用のドライブ装置を備えた汎用コンピュータに、後述する機能を実現する専用のソフトウエアプログラムを組み込むことにより実現できる。一方、個々のデータサーバ2は、それぞれサーバ本体20と外部ストレージ21とによって構成される。保管対象となるデータは、個々のファイルごとに、ネットワーク3を経由して、複数のデータサーバ2a、2b、2cに、所定のデータ保管手順にしたがって保管される。
・・・(略)・・・
また、保管対象となるデータファイルF1を分割する処理を行うプロセスにおいて、このファイルF1内のデータとは無関係なダミーデータを付加する処理を行った場合には、どのような方法でダミーデータを付加したかを示す情報が、上述した「ダミーデータ付加方法」なる項目に管理データとして格納されることになる。たとえば、ランダムな任意のデータを発生させて、これをダミーデータとして利用することもできるし、予め用意しておいた何らかのデータをダミーデータとして利用してもよい。このようなダミーデータを付加しておけば、万一、分割ファイルが不正な手段で閲覧された場合にも、閲覧内容を撹乱することができ、セキュリティを向上させることができる。もちろん、ダミーデータは、本来のデータのどの部分に付加してもかまわない。たとえば、保管対象となるデータファイルF1を分割することによって得られた個々の分割ファイルの先頭や末尾などの特定の場所に数バイトのダミーデータを付加してもよいし、先頭から3バイト目ごとに1バイトのダミーデータを挿入する、というような特定の規則で、ところどころにダミーデータを付加してもよい。「ダミーデータ付加方法」なる項目に管理データとして格納される情報は、どのような方法でダミーデータが付加されたか、ということを示す情報であり、後にデータの取出しを行うときに、ダミーデータを除去するプロセスを行うために参照される。
図2には示されていないが、データファイルF2,F3についても、同様に管理データが作成され、携帯可能記録媒体10内の管理フォルダ内に格納されることになる。このように、本発明に係るデータアーカイブシステムを利用して、3つのデータファイルF1,F2,F3を保管したとすると、これら各データファイルはいずれも複数の分割ファイルに分割され、個々の分割ファイルはいずれかのデータサーバに保管されることになる。たとえば、データファイルF1が、4つの分割ファイルF11?F14に分割されたとすると、これら各分割ファイルF11?F14は、図1に示す3つのデータサーバ2a?2cのいずれかに分散して格納される。この際、もとのデータファイルF1をどのような方法で分割し、各分割ファイルのサイズは何バイトであり、合計いくつの分割ファイルが作成されたか、という情報は、図2に示す管理フォルダ内にファイルF1の管理データ(データ保管手順情報)として格納されることになる。このときに、暗号化、冗長格納、ダミーデータ付加などの方法を採用した場合には、これらの方法に関する情報も管理データとして格納される。そして、この4つの分割ファイルF11?F14が、それぞれどのデータサーバに格納されるかを示す情報(個々のデータサーバのURLリスト)が、図2に示す管理フォルダ内にファイルF1の管理データ(データ保管場所情報)として格納される。
なお、保管対象となるデータファイルに基づいて作成される個々の分割ファイルには、それぞれ所定の規則に従ってユニークなファイル名が付与されるようにしておき、かつ、元のデータファイルとの対応関係が明らかになるようにしておく。たとえば、上述の例の場合、保管対象となるデータファイルのファイル名が「F1」であったとすると、このデータファイル「F1」に基づいて作成される個々の分割ファイルの名は、「F1」の末尾にそれぞれ1?4の数字を付加する、という規則に従って、「F11」?「F14」なる名が付与されることになる。ここで、たとえば、図2に示す「F1用フォルダ」のフォルダ名を、データファイルF1と同じ「F1」なる名称にしておき、このフォルダ「F1」内に記録されるファイル「F1」の管理データのデータ保管場所情報には、個々の分割ファイル名「F11」?「F14」のそれぞれについて、保管先となったデータサーバのURLを対応づけるリスト(具体的には、F11→URL(2a),F12→URL(2b),...というようなリスト)を記録するようにしておけば、保管対象となるデータファイルのファイル名「F1」と、個々の分割ファイルのファイル名「F11」?「F14」との対応関係が、図2に示すファイル構造によって明記されることになる。もっとも、インターネットでは、通常、http://www.(サーバ特定コード)/(ファイル特定コード)のような形式のURLが利用されているので、実用上は、データ保管場所情報としては、F11→URL(2a),F12→URL(2b),...というような対応関係を示すリストではなく、http://www.(データサーバ2a)/(分割ファイルF11),http://www.(データサーバ2b)/(分割ファイルF12),...というようなURLリストを用意しておくと便利である。
以上のような手順でデータファイルF1を保管しておけば、管理フォルダ内に格納されているファイルF1の管理データ(データ保管手順情報とデータ保管場所情報)を用意して、このデータアーカイブシステムにアクセスすることができれば、いつでも、どこからでも、保管されているデータファイルF1を取り出すことができる。すなわち、ファイルF1の管理データ内のデータ保管場所情報(データサーバのURLリスト)を参照すれば、どこのデータサーバに必要な分割ファイルが保管されているかを認識することができるので、復元に必要な分割ファイルをすべて読み出してくることができる。しかも、ファイルF1の管理データ内のデータ保管手順情報を参照すれば、読み出してきた各分割ファイルに対して、どのような復号化を行い、どの部分をダミーデータとして削除し、どのようなファイル統合を行えば、もとのデータファイルF1を得ることができるか、という復元手順を認識することができるので、この復元手順に従って、もとのデータファイルF1を復元することができる。すなわち、保管データの取出処理を行うことができる。
図1に示す分散型データアーカイブ装置1内に示された各手段11?16は、上述したような、データファイルの保管処理と、保管データの取出処理とを行う機能を有している。すなわち、読取・書込手段11は、携帯可能記録媒体10内の管理フォルダにアクセスする手段であり、個々のファイルごとの管理データを読み書きする機能を果たす。また、認証手段12は、携帯可能記録媒体10自体の正当性検査を行うとともに、管理フォルダにアクセスするために必要なパスワードの入力を確認することにより、利用者に対する認証を行う機能を果たす。分割・暗号化手段13は、保管対象となる特定のデータファイルについて、保管処理を行う旨の指示が与えられたときに、予め定められた規則に従って、このデータファイルを所定の分割方法に基づいて分割し、必要に応じて暗号化、ダミーデータ付加、冗長格納のための処理を実行し、個々の分割ファイルごとに保管先となるデータサーバを決定する機能を果たす。
これに対して、復号化・統合手段14は、保管されている特定のデータファイルについて、取出処理を行う旨の指示が与えられたときに、当該特定のデータファイルについての保管時の処理手順を示す管理データに基づいて、分割ファイルの統合、復号化、ダミーデータの削除を行う機能を果たす。また、データ管理手段15は、保管処理を行う旨の指示が与えられたときには、分割・暗号化手段13によって実行される処理手順や各分割ファイルの保管先を示す管理データ(データ保管手順情報とデータ保管場所情報)を作成し、読取・書込手段11を介して、この管理データを携帯可能記録媒体10内の管理フォルダに書込む機能を果たす。一方、このデータ管理手段15は、取出処理を行う旨の指示が与えられたときには、読取・書込手段11を介して、携帯可能記録媒体10内の管理フォルダから必要な管理データを読み出し、これを復号化・統合手段14やネットワーク通信手段16に伝達する処理を行う。また、このデータ管理手段15は、読取・書込手段11を介して、携帯可能記録媒体10内の管理フォルダにアクセスし、その内容を利用者に提示する機能も有している。最後のネットワーク通信手段16は、インターネットの標準技術であるファイルトランスファプロトコル(File Transfer Protocol、以下FTPという)を利用して、各分割ファイルをネットワーク3を介して所定のデータサーバに転送して格納したり、逆に、所定のデータサーバから分割ファイルを読み出したりする機能を果たす。」(第4頁第25行?第16頁第19行)

2 引用発明について
ア 上記記載事項Bの「上記分散型データアーカイブ装置は、汎用のコンピュータに、専用のプログラムを組み込むことにより実現することができ、そのような専用のプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に記録して配付することができる」との記載から,「コンピュータ読取り可能な記録媒体」とは,「専用のプログラム」が「記録」されたものであって,「専用のプログラム」は,「分散データアーカイブ装置」に組み込まれた「汎用のコンピュータ」により実現されるものと認められるから,引用文献1には,“専用のプログラムが記録されたコンピュータ読取り可能な記録媒体であって,前記専用のプログラムは,分散データアーカイブ装置に組み込まれた汎用のコンピュータにより実現され”ることが記載されている。

イ 上記記載事項Bの「分散型データアーカイブ装置1は、図1に示されているように、読取・書込手段11、認証手段12、分割・暗号化手段13、復号化・統合手段14、データ管理手段15、ネットワーク通信手段16から構成される」との記載から,引用文献1には,“分散型データアーカイブ装置は,読取・書込手段11,認証手段12,分割・暗号化手段13,復号化・統合手段14,データ管理手段15,ネットワーク通信手段16から構成され”ることが記載されている。

ウ 上記記載事項Bの「分割・暗号化手段13は、保管対象となる特定のデータファイルについて、保管処理を行う旨の指示が与えられたときに、予め定められた規則に従って、このデータファイルを所定の分割方法に基づいて分割し、必要に応じて暗号化、ダミーデータ付加、冗長格納のための処理を実行し、個々の分割ファイルごとに保管先となるデータサーバを決定する機能を果たす」との記載から,引用文献1には,“分割・暗号化手段13は,保管対象となる特定のデータファイルについて,予め定められた規則に従って,このデータファイルを所定の分割方法に基づいて分割し,必要に応じて暗号化,ダミーデータ付加,冗長格納のための処理を実行し,個々の分割ファイルごとに保管先となるデータサーバを決定”することが記載されている。

エ 上記記載事項Bの「復号化・統合手段14は、保管されている特定のデータファイルについて、取出処理を行う旨の指示が与えられたときに、当該特定のデータファイルについての保管時の処理手順を示す管理データに基づいて、分割ファイルの統合、復号化、ダミーデータの削除を行う機能を果たす」との記載から,引用文献1には,“復号化・統合手段14は,保管されている特定のデータファイルについて,取出処理を行う旨の指示が与えられたときに,当該特定のデータファイルについての保管時の処理手順を示す管理データに基づいて,分割ファイルの統合,復号化,ダミーデータの削除を行う機能を果た”すことが記載されている。

オ 上記記載事項Bの「保管対象となるデータファイルのファイル名が「F1」であったとすると、このデータファイル「F1」に基づいて作成される個々の分割ファイルの名は、「F1」の末尾にそれぞれ1?4の数字を付加する、という規則に従って、「F11」?「F14」なる名が付与されることになる」との記載から,引用文献1には,“保管対象となるデータファイルのファイル名が「F1」であったとすると,データファイル「F1」に基づいて作成させる個々の分割ファイルの名として,「F11」?「F14」なる名が付与され”ることが記載されている。

カ 上記記載事項Aの「保管対象データを分割したり、分割した後に暗号化したり、または暗号化して後に分割したりする際に、いずれかの段階において、一定の規則に従ってダミーデータを付加する」との記載から,引用文献1には,“保管対象データを分割した後に暗号化したりする際に,一定の規則に従ってダミーデータを付加”することが記載されているところ,上記記載事項Bの「ランダムな任意のデータを発生させて、これをダミーデータとして利用することもできる」との記載,「保管対象となるデータファイルF1を分割することによって得られた個々の分割ファイルの先頭や末尾などの特定の場所に数バイトのダミーデータを付加してもよい」との記載,「このようなダミーデータを付加しておけば、万一、分割ファイルが不正な手段で閲覧された場合にも、閲覧内容を撹乱することができ、セキュリティを向上させることができる」との記載から,引用文献1には,“保管対象データを分割した後に暗号化したりする際に,一定の規則に従ってダミーデータを付加し,ランダムな任意のデータをダミーデータとして利用し,個々の分割ファイルの特定の場所にダミーデータを付加しておくことにより,閲覧内容を撹乱することでセキュリティを向上させ”ることが記載されている。

キ 上記記載事項Bの「データファイルF1が、4つの分割ファイルF11?F14に分割されたとすると、これら各分割ファイルF11?F14は、図1に示す3つのデータサーバ2a?2cのいずれかに分散して格納される」との記載から,引用文献1には,“各分割ファイルを複数のデータサーバに分散して格納”するところ,上記記載事項Bの「もとのデータファイルF1をどのような方法で分割し、各分割ファイルのサイズは何バイトであり、合計いくつの分割ファイルが作成されたか、という情報は、図2に示す管理フォルダ内にファイルF1の管理データ(データ保管手順情報)として格納される」との記載から,引用文献1には,“分割ファイルを複数のデータサーバに分散して格納し,もとのデータファイルF1をどのような方法で分割し,各分割ファイルのサイズは何バイトであり,合計いくつの分割ファイルが作成されたか,という情報は,管理フォルダ内にファイルF1の管理データ(データ保管手順情報)として格納され”ることが記載されている。

ク 上記記載事項Bの「図2に示す「F1用フォルダ」のフォルダ名を、データファイルF1と同じ「F1」なる名称にしておき、このフォルダ「F1」内に記録されるファイル「F1」の管理データのデータ保管場所情報には、個々の分割ファイル名「F11」?「F14」のそれぞれについて、保管先となったデータサーバのURLを対応づけるリスト(具体的には、F11→URL(2a),F12→URL(2b),...というようなリスト)を記録するようにしておけば、保管対象となるデータファイルのファイル名「F1」と、個々の分割ファイルのファイル名「F11」?「F14」との対応関係が、図2に示すファイル構造によって明記されることになる」との記載から,引用文献1には,“ファイルF1の管理データのデータ保管場所情報には、個々の分割ファイル名「F11」?「F14」のそれぞれについて、保管先となったデータサーバのURLを対応づけるリストを記録”することが記載されている。

ケ 上記記載事項Bの「しかも、ファイルF1の管理データ内のデータ保管手順情報を参照すれば、読み出してきた各分割ファイルに対して、どのような復号化を行い、どの部分をダミーデータとして削除し、どのようなファイル統合を行えば、もとのデータファイルF1を得ることができるか、という復元手順を認識することができるので、この復元手順に従って、もとのデータファイルF1を復元することができる」との記載から,引用文献1には,“ファイルF1の管理データ内のデータ保管手順情報を参照することで,読み出してきた各分割ファイルに対して,どのような復号化を行い,どの部分をダミーデータとして削除し,どのようなファイル統合を行えば,もとのデータファイルF1を得ることができるか,という復元手順に従って,もとのデータファイルF1を復元する”ことが記載されている。

コ 上記アないしケでの認定を踏まえると,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「専用のプログラムが記録されたコンピュータ読取り可能な記録媒体であって,前記専用のプログラムは,分散データアーカイブ装置に組み込まれた汎用のコンピュータにより実現され,
前記分散データアーカイブ装置は,読取・書込手段11,認証手段12,分割・暗号化手段13,復号化・統合手段14,データ管理手段15,ネットワーク通信手段16から構成され,
前記分割・暗号化手段13は,保管対象となる特定のデータファイルについて,予め定められた規則に従って,このデータファイルを所定の分割方法に基づいて分割し,必要に応じて暗号化,ダミーデータ付加,冗長格納のための処理を実行し,個々の分割ファイルごとに保管先となるデータサーバを決定し,
前記復号化・統合手段14は,保管されている特定のデータファイルについて,取出処理を行う旨の指示が与えられたときに,当該特定のデータファイルについての保管時の処理手順を示す管理データに基づいて,分割ファイルの統合,復号化,ダミーデータの削除を行う機能を果たし,
保管対象となるデータファイルのファイル名が「F1」であったとすると,データファイル「F1」に基づいて作成させる個々の分割ファイルの名として,「F11」?「F14」なる名が付与され,
保管対象データを分割した後に暗号化したりする際に,一定の規則に従ってダミーデータを付加し,ランダムな任意のデータをダミーデータとして利用し,個々の分割ファイルの特定の場所にダミーデータを付加しておくことにより,閲覧内容を撹乱することでセキュリティを向上させ,
分割ファイルを複数のデータサーバに分散して格納し,もとのデータファイルF1をどのような方法で分割し,各分割ファイルのサイズは何バイトであり,合計いくつの分割ファイルが作成されたか,という情報は,管理フォルダ内にファイルF1の管理データ(データ保管手順情報)として格納され,
ファイルF1の管理データのデータ保管場所情報には,個々の分割ファイル名「F11」?「F14」のそれぞれについて,保管先となったデータサーバのURLを対応づけるリストを記録し,
ファイルF1の管理データ内のデータ保管手順情報を参照することで,読み出してきた各分割ファイルに対して,どのような復号化を行い,どの部分をダミーデータとして削除し,どのようなファイル統合を行えば,もとのデータファイルF1を得ることができるか,という復元手順に従って,もとのデータファイルF1を復元する,
前記専用のプログラムが記録されたコンピュータ読取り可能な記録媒体。」

2.引用文献2について
ア 令和元年8月6日付けの拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2000-315997号公報)には,図面とともに以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

C 「【0081】ノードE1は複数の暗号処理装置7を持っており、これらの暗号処理装置同士は並列に暗号化処理を行うことができるものとする。同様に、ノードE2は複数の暗号処理装置8を持っており、これらの暗号処理装置同士は並列に復号化処理を行うことができるものとする。」

D 「【0103】このとき、図3に示すように、ノードE1では、パケットを暗号化する場合に、SPI=100のパケットとSPI=200のパケットは、異なる暗号処理装置SPで暗号化を行う。このとき、両方の暗号処理装置は、同じ暗号化アルゴリズムおよび鍵を使用する。
【0104】同様に、ノードE2では、暗号化されたパケットを復号化する場合に、SPI=100のパケットとSPI=200のパケットは、異なる暗号処理装置SPで復号化を行う。このとき、両方の暗号処理装置は、同じ暗号化アルゴリズムおよび鍵を使用する。」

イ 上記C及びDに記載された事項を踏まえると,引用文献2には,以下の発明が記載されているものと認められる。

「複数の暗号処理装置で並列に暗号化処理を行い,同じ暗号化アルゴリズムおよび鍵を使用するとともに,複数の暗号化処理装置で並列に復号化処理を行い、同じ暗号化アルゴリズム及び鍵を使用する技術。」

3.引用文献3について
ア 令和元年8月6日付けの拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2011-175578号公報)には,図面とともに以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

E 「(57)【要約】
【課題】第三者が運営するデータ保存サービスシステム上にデータの安全性を確保してデータを保存させることができるようにする。
【解決手段】データを生成するサーバ101と、データを保存する複数のデータ保存サービス103、104と、サーバ101からの保存すべきデータを加工して、複数のデータ保存サービスに分散保存させるバックアップproxy102とを備える。バックアップproxy102が有する暗号化手段は、サーバ101からの保存すべきデータを暗号化し、暗号化したバックアップデータを暗号化処理単位であるブロックを分断するように分割し、分断したデータブロックが連続して含まれないように、分割したデータを組み合わせ、その組み合わせ情報を登録表に記録し、組み合わせたデータを複数のデータ保存サービス103、104に分散保存させる。」

F 「【0011】
本発明の実施形態によるデータバックアップシステムは、図1に示すように、それぞれがCPU、メモリ、HDD等による記憶装置、入出力装置等を備えた情報処理装置である1または複数のサーバ101と、バックアップproxy 102と、複数のオンラインストレージサービスA103、B104とがネットワーク105を介して接続可能に構成されている。
【0012】
前述において、サーバ101は、Webアプリケーション等のサービスシステムが稼動し、保存すべきデータを生成するデスクトップPCやブレードPC等である。また、バックアップproxy 102は、サーバ101からのバックアップすべきデータを加工処理して後述する複数のオンラインストレージサービスにA103、B104に分散して保存する処理を行うサーバ等の情報処理装置である。また、オンランストレージサービスA103、B104は、それぞれ、サーバからのサービス利用者のデータを保存するサービスを提供する情報処理システムであり、通常、第三者が運営するデータ保存サービスシステムである。また、ネットワーク105は、サーバ101、バックアップproxy 102、オンラインストレージサービスA103、B104等が接続されて、相互に通信可能とするインターネット、イントラネット、あるいは、その混合ネットワークである。」

G 「【0032】
前述した本発明の実施形態によるデータバックアップシステムでのアプリデータのバックアップ処理では、それぞれが独立した2つのアプリデータについて、アプリデータの暗号化、分割、混合再構成を行うとして説明したが、本発明は、1つのアプリデータについて、アプリデータの暗号化、分割、再構成を行うようにしてもよい。また、前述した説明では、処理後のアプリデータを2つのオンラインストレージサービスに分散して保存させるとしているが、本発明は、アプリデータを3つ以上のオンラインストレージサービスに分散して保存させるようにすることもできる。さらに、本発明は、それぞれが独立した3つ以上のアプリデータについて、アプリデータの暗号化、分割、混合再構成を行うようにしてもよい。」

イ 上記EないしGに記載された事項を踏まえると,引用文献3には,以下の発明が記載されているものと認められる。

「バックアップデータを暗号化し,データ保存サービスを提供する複数のオンラインストレージサービスに分散して保存するデータバックアップシステム。」

4.引用文献4について
ア 令和元年8月6日付けの拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2007-311842号公報)には,図面とともに以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

H 「【0026】
なお、暗号化に際し、圧縮符号化されたコンテンツデータ(画像データ、音声データ)は、128ビット長のデータブロックに分割される。図6では、分割後のコンテンツデータを平文ブロックとして示す。
まず、暗号化部106は、平文ブロック1と初期化ベクトルとの排他的論理和を求めた後、暗号鍵で暗号化することで暗号文ブロック1を求める。」

J 「【0049】
(b)前述の形態例では、1つのコンテンツを1つのデータストリームにより送信する場合について説明した。
しかし、1つのコンテンツを複数のデータストリームに分割して並列的に伝送する場合にも適用できる。
【0050】
図11に、この場合に対応する無線伝送システムの形態例を示す。図11は、1つのコンテンツを3つのデータストリームに分割して伝送する場合を示す。図11では、3つのデータストリームのそれぞれに異なる暗号鍵α、β、γを適用する場合を示す。すなわち、固定鍵は3つのデータストリームに共通するが、組み合わせる乱数鍵はそれぞれ異なるものを使用する場合について示す。
【0051】
もっとも、3つのデータストリームの全てで同じ暗号鍵を用いることもできる。
図12及び図13に、この種の無線伝送システムを構成する撮像カメラ201及び復号化装置211の内部構成例を示す。
基本的な内部構成は、図5及び図9に示す内部構成例と同じである。」

K 「【0065】
・・・(略)・・・
【図13】複数のデータストリームの並列受信に対応したデータストリーム無線受信装置の内部構成例を示す図である。
・・・(略)・・・」

イ 上記J及びKに記載された事項を踏まえると,引用文献4には,以下の発明が記載されているものと認められる。

「1つのデータストリームを同じ暗号鍵を用いた複数のデータストリームに分割して並列的に伝送及び並列受信する技術。」

5.引用文献5について
ア 令和元年8月6日付けの拒絶の理由に引用された引用文献5(日経SYSTEMS,「図説 業務システム テクノロジー選集」,日経BP社,2013年 4月15日,第1版,ISBN: 978-4-8222-7701-7,p.152-157)には,図面とともに以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

L 「処理できる命令の量がn倍に

CPUを構成する要素は、演算器、レジスター、キャッシュ、バスのインタフェースなどがある。このうち演算器は「コア」と呼ぶユニットに配置される。コアを複数持つCPUがマルチコアである(図2)。」(第153頁左欄第1行-中欄第1行)

イ 上記Lに記載された事項を踏まえると,引用文献5には,以下の発明が記載されているものと認められる。

「演算器が配置されたコアを複数持つマルチコアCPU。」

6.引用文献6について
ア 令和元年8月6日付けの拒絶の理由に引用された引用文献6(米国出願公開第2013/0290703号明細書)には,図面とともに以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

M 「[0102]In an example of operation, the data partitioning module 110 partitions data 92 into a plurality of data partitions 120 . The number of partitions and the size of the partitions may be selected by the control module 116 via control 160 based on the data 92 (e.g., its size, its content, etc.), a corresponding task 94 to be performed (e.g., simple, complex, single step, multiple steps, etc.), DS encoding parameters (e.g., pillar width, decode threshold, write threshold, segment security parameters, slice security parameters, etc.), capabilities of the DST execution units 36 (e.g., processing resources, availability of processing recourses, etc.), and/or as may be inputted by a user, system administrator, or other operator (human or automated). For example, the data partitioning module 110 partitions the data 92 (e.g., 100 Terra-Bytes) into 100,000 data segments, each being 1 Giga-Byte in size. Alternatively, the data partitioning module 110 partitions the data 92 into a plurality of data segments, where some of data segments are of a different size, are of the same size, or a combination thereof.
[0103] The DS error encoding module 112 receives the data partitions 120 in a serial manner, a parallel manner, and/or a combination thereof. For each data partition 120 , the DS error encoding module 112 DS error encodes the data partition 120 in accordance with control information 160 from the control module 116 to produce encoded data slices 122 . The DS error encoding includes segmenting the data partition into data segments, segment security processing (e.g., encryption, compression, watermarking, integrity check (e.g., CRC), etc.), error encoding, slicing, and/or per slice security processing (e.g., encryption, compression, watermarking, integrity check (e.g., CRC), etc.). The control information 160 indicates which steps of the DS error encoding are active for a given data partition and, for active steps, indicates the parameters for the step. For example, the control information 160 indicates that the error encoding is active and includes error encoding parameters (e.g., pillar width, decode threshold, write threshold, read threshold, type of error encoding, etc.).」
(当審訳:[0102]動作の一例では,データ分割モジュール110は,データ92を複数のデータパーティション120に分割する。パーティションの数と,パーティションの大きさは,制御モジュール116によって選択されるデータ92(例えば,その大きさ,その含有量等)に基づいて,制御部160は,実行されるべき対応するタスク94(例えば,単純で,複雑な,単段階,多段階等),DS符号化パラメータ(例えば,幅,閾値,書き込みしきい値,セグメントのセキュリティパラメータ,セキュリティパラメータ等),DST実行部36の機能(例えば,処理リソースは,処理リソースの利用可能性,その他)を介して,および/または,ユーザ,システム管理者,または他のオペレータ(人または自動)で入力することができる。例えば,データ分割モジュール110は,データ92(例えば,100テラバイト)を100,000データセグメントに,それぞれのサイズは1ギガバイトである。また,データ分割モジュール110は,データ92を分割して複数のデータ・セグメント,データセグメントのいくつかは,異なるサイズ,同じサイズのものであるか,またはそれらの組み合わせにある。
[0103] エラー符号化モジュール112は,データパーティション120を直列に,並列に,および/またはそれらの組み合わせにより受信する。各データパーティション120に対して,エラー符号化モジュール112は,制御モジュール116からの制御情報160に基づいてデータパーティション120をエラー符号化する。エラー符号化は,データパーティションをデータセグメントにセグメント化すること,セグメントのセキュリティ処理(例えば,暗号化,圧縮,透かし,完全性チェック(例えば,CRC)など),エラー符号化,スライス化,及び/又はスライスごとのセキュリティ処理(例えば,暗号化,圧縮,透かし,完全性チェック(例えば,CRC)など)を含む。制御情報160は,誤り符号化のステップである所与のデータパーティションのためにアクティブであり,実行ステップについては,ステップのパラメータを示す。例えば,制御情報160は,エラーコードがアクティブであることを示す誤り符号化パラメータ(例えば,ピラー幅,閾値,書き込み,読み出ししきい値,誤り符号化のタイプなど)を含む。)

イ 上記Mに記載された事項を踏まえると,引用文献6には,以下の発明が記載されているものと認められる。

「データを複数のデータパーティションに分割し,各データパーティションを並列に受信し,エラー符号化として,暗号化,CRCを含む完全性チェック,圧縮を行う技術。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明の「専用のプログラム」,「記録」,「コンピュータ読取り可能な記録媒体」,「実現」は,それぞれ,本願発明1の「命令」,「記憶」,「コンピュータ読み取り可能記憶媒体」,「実施」に相当する。

イ 上記アでの認定に加え,引用発明の「分散データアーカイブ装置」は,「汎用コンピュータ」が組み込まれていること,「読取・書込手段11,認証手段12,分割・暗号化手段13,復号化・統合手段14,データ管理手段15,ネットワーク通信手段16から構成され」,複数の手段から構成されることから,本願発明1の「コンピュータシステム」に相当するところ,「汎用コンピュータ」がプロセッサを備えることは明らかであって,少なくとも1つのプロセッサを含むものと認められるから,引用発明の「専用のプログラムが記録されたコンピュータ読取り可能な記録媒体であって,前記専用のプログラムは,分散データアーカイブ装置に組み込まれた汎用のコンピュータにより実現され」ることは,本願発明1の「命令が記憶されたコンピュータ読み取り可能記憶媒体であって、前記命令は、コンピュータシステムの1つ以上のプロセッサにより実施される」ことに相当する。

ウ 引用発明の「保管対象となる特定のデータファイルについて,予め定められた規則に従って,このデータファイルを所定の分割方法に基づいて分割」することについて,「保管対象となる特定のデータファイル」とは本願発明1の「メディアファイル」に相当するところ,「予め定められた規則に従って,このデータファイルを所定の分割方法に基づいて分割」した結果,複数のデータに分割されることが明らかであり,引用発明では「保管対象となるデータファイルのファイル名が「F1」であったとすると,データファイル「F1」に基づいて作成させる個々の分割ファイルの名として,「F11」?「F14」なる名が付与され」ることから,引用発明において,「F11」なる名が付与された分割ファイル,「F12」なる名が付与された分割ファイルが,それぞれ「第1データチャンク」,「第2データチャンク」に相当する。
よって,引用発明と,本願発明1は,「メディアファイルを第1データチャンク及び第2データチャンクに分割させ」る点で一致する。

エ 上記ウでの認定に加え,引用発明では「保管対象データを分割した後に暗号化したりする際に,一定の規則に従ってダミーデータを付加し,ランダムな任意のデータをダミーデータとして利用し,個々の分割ファイルの特定の場所にダミーデータを付加しておく」ところ,本願の明細書の【0007】には,「初期化ベクトルは、各データチャンクに対してランダムまたは疑似ランダム(つまり確率的に)生成されてもよく」と記載されていることから,引用発明の「ダミーデータ」は,本願発明1の「第1初期化ベクトル」及び「第2初期化ベクトル」に相当する。
そして,「F11」なる名が付与された「分割ファイル」,「F12」なる名が付与された「分割ファイル」は,それぞれ,暗号化する際にダミーデータを用いるものと認められるから,引用発明において,「F11」なる名が付与された「分割ファイル」を暗号化する際にダミーデータを利用すること,「F12」なる名が付与された「分割ファイル」を暗号化する際にダミーデータを利用することは,本願発明1の「前記第1データチャンクに対して第1初期化ベクトルを用いて且つ前記第2データチャンクに対して前記第1初期化ベクトルとは異なる第2初期化ベクトルを用いて並行的に暗号化されるように、同じ暗号鍵を用いて前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクのそれぞれを別々に暗号化させ」ることと,下記の点で相違するものの,“前記第1データチャンクに対して第1初期化ベクトルを用いて且つ前記第2データチャンクに対して第2初期化ベクトルを用いてそれぞれを暗号化させ”る点で一致する。

オ 上記ウでの認定に加え,引用発明の「複数のデータサーバ」は,本願発明1の「複数のサーバ」に相当するところ,引用発明において「分割ファイルを複数のデータサーバに分散して格納」する際に,分割ファイルが分散データアーカイブ装置から複数のデータサーバに送信されることは明らかであるので,引用発明の「分割ファイルを複数のデータサーバに分散して格納」することと,本願発明1の「少なくとも前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクが、データ保存サービスの複数のサーバに並行的に送信され」ることは,以下の点で相違するものの,“少なくとも前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクが,複数のサーバに送信され”る点で一致する。

カ 上記ウでの認定から,引用発明の「前記分割ファイルのファイル名「F11」」は,本願発明1の「前記第1データチャンクを識別する識別子」に相当するところ,引用発明では,
「ファイルF1の管理データのデータ保管場所情報には,個々の分割ファイル名「F11」?「F14」のそれぞれについて,保管先となったデータサーバのURLを対応づけるリストを記録し,
ファイルF1の管理データ内のデータ保管手順情報を参照することで,」各分割ファイルを読み出すことから,ファイルF1の管理データには,分割ファイル名「F11」が含まれて各分割ファイルを読み出す際にも参照されるものと認められ,各分割ファイルを読み出す際には,引用発明の「複数のデータサーバ」から各分割ファイルを送信させるものと認められる。
そして,引用発明では,「前記復号化・統合手段14は,」「当該特定のデータファイルについての保管時の処理手順を示す管理データに基づいて,分割ファイルの統合」「を行う機能を果た」すことから,各分割ファイルを読み出す際には,分割ファイルの統合を行うべく集合的に読み出しが行われるものと認められる。
以上から,引用発明の「分割ファイルを複数のデータサーバに分散して格納し,もとのデータファイルF1をどのような方法で分割し,各分割ファイルのサイズは何バイトであり,合計いくつの分割ファイルが作成されたか,という情報は,管理フォルダ内にファイルF1の管理データ(データ保管手順情報)として格納され,
ファイルF1の管理データのデータ保管場所情報には,個々の分割ファイル名「F11」?「F14」のそれぞれについて,保管先となったデータサーバのURLを対応づけるリストを記録し,
ファイルF1の管理データ内のデータ保管手順情報を参照することで,」各分割ファイルを読み出すことは,本願発明1の「前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクが前記第1データチャンクを識別する識別子を用いて集合的に読み出されるように,前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを送信させ」ることに相当する。

キ 上記ウ及びエでの認定に加え,引用発明の「保管対象データを分割した後に暗号化したりする際に,」「個々の分割ファイルの特定の場所にダミーデータを付加しておくこと」は,付加する際にデータが連結されることは明らかであるから,上記オでの認定を加え,引用発明の「保管対象データを分割した後に暗号化したりする際に,」「個々の分割ファイルの特定の場所にダミーデータを付加しておくこと」及び「分割ファイルを複数のデータサーバに分散して格納」することは,本願発明1の「前記第1データチャンクと前記第1初期化べクトルとを連結させ、及び前記第2データチャンクと前記第2初期化べクトルとを連結させて、前記データ保存サービスに保存させ」ることに相当する。

ク 引用発明の「ファイルF1の管理データ内のデータ保管手順情報を参照することで,読み出してきた各分割ファイルに対して,どのような復号化を行い,どの部分をダミーデータとして削除し,どのようなファイル統合を行えば,もとのデータファイルF1を得ることができるか,という復元手順に従って,もとのデータファイルF1を復元する」ことは,データファイルF1を得るには,分割ファイルF12を対応付けて分割ファイルF11に統合する必要があることは明らかであるから,本願発明1の「前記第2データチャンクを前記第1データチャンクに対応付けさせる」点に相当する。

ケ 以上から,本願発明1と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

(一致点)
命令が記憶されたコンピュータ読み取り可能記憶媒体であって,前記命令は,コンピュータシステムの1つ以上のプロセッサにより実施されると,前記コンピュータシステムに,
メディアファイルを第1データチャンク及び第2データチャンクに分割させ,
前記第1データチャンクに対して第1初期化ベクトルを用いて且つ前記第2データチャンクに対して第2初期化ベクトルを用いてそれぞれを暗号化させ,
少なくとも前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクが,複数のサーバに送信され,
前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクが前記第1データチャンクを識別する識別子を用いて集合的に読み出されるように,前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを送信させ,
前記第1データチャンクと前記第1初期化べクトルとを連結させ,及び前記第2データチャンクと前記第2初期化べクトルとを連結させて,前記データ保存サービスに保存させ,
前記第2データチャンクを前記第1データチャンクに対応付けさせる,
コンピュータ読み取り可能記憶媒体。

(相違点1)
本願発明1は,「前記第1データチャンクに対して第1初期化ベクトルを用いて且つ前記第2データチャンクに対して前記第1初期化ベクトルとは異なる第2初期化ベクトルを用いて並行的に暗号化されるように、同じ暗号鍵を用いて前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクのそれぞれを別々に暗号化させ」るのに対して,引用発明は,「前記第1データチャンクに対して第1初期化ベクトルを用いて且つ前記第2データチャンクに対して第2初期化ベクトルを用いてそれぞれを暗号化させ」ることは特定されているものの,個々の分割ファイルF11及び分割ファイルF12に付加するダミーデータが異なるとは特定されておらず,暗号化処理を並列的に同じ暗号鍵を用いて別々に行うことは特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1は,「データ保存サービスの複数のサーバ」であるのに対して,引用発明は,「複数のデータサーバ」であるものの,データ保存サービスに属するものであることは特定されていない点。

(相違点3)
本願発明1は,「少なくとも前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクが」,「複数のサーバに並行的に送信され」るのに対して,引用発明は,「分割ファイルを複数のデータサーバに分散して格納」するものの,複数のデータサーバに並行的に送信されることは特定されていない点。

(相違点4)
本願発明1は,「前記メディアファイルの開始時間とは異なる再生開始時間を示すユーザ入力を受信させ,前記再生開始時間を含み,前記開始時間を含まない前記メディアファイルの範囲を含む前記メディアファイルの部分に対応する前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを,前記データ保存サービスからダウンロードさせる」のに対して,引用発明には,再生開始時間とメディアファイルの関係について,特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み,先に相違点4について検討する。
相違点4に係る本願発明1の「前記メディアファイルの開始時間とは異なる再生開始時間を示すユーザ入力を受信させ,前記再生開始時間を含み,前記開始時間を含まない前記メディアファイルの範囲を含む前記メディアファイルの部分に対応する前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを,前記データ保存サービスからダウンロードさせる」点は,上記引用文献1?6には記載されておらず,優先日前において周知技術または技術常識であるともいえない。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,引用文献2?6に記載された技術的事項及び当業者の周知技術または技術常識に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2?本願発明19について
本願発明2?本願発明19も,本願発明1の「前記メディアファイルの開始時間とは異なる再生開始時間を示すユーザ入力を受信させ,前記再生開始時間を含み,前記開始時間を含まない前記メディアファイルの範囲を含む前記メディアファイルの部分に対応する前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを,前記データ保存サービスからダウンロードさせる」と同一の構成を備えるものであるから,上記「1 本願発明1について」と同じ理由により,当業者であっても引用発明,引用文献2?6に記載された技術的事項及び当業者の周知技術または技術常識に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
1 理由1(特許法第17条の2第3項)について
令和元年12月2日付けの補正により,本願発明1?19は,「前記第1チャンクは前記別々に暗号化されたデータチャンクの前記第1チャンクとは異なる第2チャンクを識別するデ?タを含む」という技術的事項を含まないものとなった。
よって,本願発明1?19は,本願の国際出願日における国際特許出願の翻訳文等に記載した事項の範囲内と認められる。
したがって,原査定の理由1を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由について
当審では,平成30年11月14日付けの手続補正に係る請求項1?21に係る発明について,令和元年8月6日付けの拒絶の理由で引用された引用発明,引用文献2?5に記載された記載された周知技術,引用文献6に記載された発明に基づき,当業者ならば容易に発明をすることができたとの拒絶理由を通知したが,令和元年12月2日付けの補正により,本願発明1?19は,「前記メディアファイルの開始時間とは異なる再生開始時間を示すユーザ入力を受信させ,前記再生開始時間を含み,前記開始時間を含まない前記メディアファイルの範囲を含む前記メディアファイルの部分に対応する前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを,前記データ保存サービスからダウンロードさせる」という技術的事項を有するものとなった。
そして,当該技術的事項は,上記「1 本願発明1について」と同じ理由により,当業者であっても引用発明,引用文献2?6に記載された技術的事項及び当業者の周知技術または技術常識に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

次に,当審では,令和元年8月6日付けの拒絶の理由において,
平成30年11月14日付けの手続補正に係る請求項1の「前記第1データチャンクと前記第1初期化べクトルとを連結させ、及び前記第2データチャンク前記第2初期化べクトルとを連結させて、前記データ保存サービスに保存させ」における「前記第2データチャンク前記第2初期化べクトル」の記載は,「前記第2データチャンクと前記第2初期化べクトル」等が正しい記載と認められ,
平成30年11月14日付けの手続補正に係る請求項6の「前記第1データチャンクと前記第1初期化べクトルとを連結させ、及び前記第2データチャンク前記第2初期化べクトルとを連結させて、前記データ保存サービスに保存させ」における「前記第2データチャンク前記第2初期化べクトル」の記載は,「前記第2データチャンクと前記第2初期化べクトル」等が正しい記載と認められ
平成30年11月14日付けの手続補正に係る請求項11の「前記第1データチャンクと前記第1初期化べクトルとを連結させ、及び前記第2データチャンク前記第2初期化べクトルとを連結させて、前記データ保存サービスに保存させ」における「前記第2データチャンク前記第2初期化べクトル」の記載は,「前記第2データチャンクと前記第2初期化べクトル」等が正しい記載と認められ,
平成30年11月14日付けの手続補正に係る請求項18の「前記第1データチャンクと前記第1初期化べクトルとを連結させ、及び前記第2データチャンク前記第2初期化べクトルとを連結させて、前記データ保存サービスに保存させることと」における「前記第2データチャンク前記第2初期化べクトル」の記載は,「前記第2データチャンクと前記第2初期化べクトル」等が正しい記載と認められる
との拒絶理由を通知したが,令和元年12月2日付けの手続補正の請求項1,5,9,16において,「前記第2データチャンクと前記第2初期化べクトル」と補正された結果,この拒絶理由は解消された。
また,平成30年11月14日付けの手続補正に係る請求項11の「前記複数のプロセッサ間に分散することで集合的にデータオブジェクトを含む第1データチャンク及び第2データチャンクを、前記第1データチャンクに対して第1初期化べクトルを用いて且つ前記第2データチャンクに対して前記第1初期化ベクトルとは異なる第2初期化ベクトルを用いて処理させ」における「処理」の記載について,いかなる処理を行うのかが特定されておらず,当該技術分野における技術常識を参酌しても,いかなる処理を行うのかが不明確であるとの拒絶理由を通知したが,令和元年12月2日付けの手続補正の請求項9における「前記複数のプロセッサ間に分散することで集合的にメディアファイルを含む第1データチャンク及び第2データチャンクを、前記第1データチャンクに対して第1初期化ベクトルを用いて且つ前記第2データチャンクに対して前記第1初期化ベクトルとは異なる第2初期化ベクトルを用いて暗号化させ」との補正により,処理の内容が暗号化であることが明確となったことにより,この拒絶理由は解消された。
また,平成30年11月14日付けの手続補正に係る請求項11の「前記データ保存サービスの複数のサーバに前記第1データチャンクを識別する識別子を用いて受信させることで、前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクをデータ保存サービスに転送させ」における「前記データ保存サービス」の記載について,独立請求項である請求項11の当該記載以前に,「データ保存サービス」に関する記載が認められず,「前記データ保存サービス」とはいかなるものを指しているのかが不明確であるとの拒絶理由を通知したが,令和元年12月2日付けの手続補正の請求項9における「データ保存サービスの複数のサーバに前記第1データチャンクを識別する識別子を用いて受信させることで、前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを前記データ保存サービスに転送させ」との補正により,初出の「前記データ保存サービス」の記載から「前記」が除かれたことから,令和元年12月2日付けの手続補正の請求項9における初出の「データ保存サービス」であることが明確となったことにより,この拒絶理由は解消された。
また,平成30年11月14日付けの手続補正に係る請求項17の「前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを、前記選択的にダウンロードさせ、前記選択的にダウンロードされた前記第1データチャンク又は前記第2データチャンクから前記データオブジェクトの少なくとも一部を再構成させる」における2箇所の「前記選択的」の記載について,請求項17の上記記載以前,請求項17を引用する請求項11のいずれにも「選択的」に関する記載が認められず,「前記選択的」とはいかなることを指しているのかが不明確であるとの拒絶理由を通知したが,令和元年12月2日付けの手続補正の請求項15における「前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクを、選択的にダウンロードさせ、前記選択的にダウンロードされた前記第1データチャンク又は前記第2データチャンクから前記メディアファイルの少なくとも一部を再構成させる」との補正により,初出の「前記選択的」の記載から「前記」が除かれたことから,令和元年12月2日付けの手続補正の請求項15における初出の「選択的」との記載であることが明確となったことにより,この拒絶理由は解消された。

加えて,当審では,令和元年11月29日付けの拒絶の理由において,
令和元年11月7日付けの手続補正に係る請求項5の「それぞれ暗号化された前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクが並行的に前記データ保存サービスの複数のサーバに送信され、前記第1データチャンクを識別する識別子を用いて集合的にメディアファイルとして前記データ保存サービスにより管理されるように、前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクをデータ保存サービスへ送信させ」における「前記データ保存サービス」の記載について,独立請求項である請求項5の上記記載以前に「データ保存サービス」に係る記載が認められず,「前記データ保存サービス」とはいかなるものを指しているのかが不明確であるとの拒絶理由を通知したが,令和元年12月2日付けの手続補正の請求項5における「それぞれ暗号化された前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクが並行的にデータ保存サービスの複数のサーバに送信され、前記第1データチャンクを識別する識別子を用いて集合的にメディアファイルとして前記データ保存サービスにより管理されるように、前記第1データチャンク及び前記第2データチャンクをデータ保存サービスへ送信させ」との補正により,初出の「前記データ保存サービス」の記載から「前記」が除かれたことから,令和元年12月2日付けの手続補正の請求項5における初出の「データ保存サービス」であることが明確となったことにより,この拒絶理由は解消された。
また,令和元年11月7日付けの手続補正に係る請求項7の「前記データオブジェクト」の記載は,請求項7における当該記載以前,請求項7が引用する請求項5に「データオブジェクト」に係る記載が認められず,「前記データオブジェクト」とはいかなるものを指しているのかが不明確であるとの拒絶理由を通知したが,令和元年12月2日付けの手続補正の請求項7における「前記メディアファイル」との補正により,請求項7が従属する請求項5の「メディアファイル」であることが明確になったことにより,この拒絶理由は解消された。

第9 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-01-28 
出願番号 特願2016-528066(P2016-528066)
審決分類 P 1 8・ 55- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
P 1 8・ 537- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 塚田 肇  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 山崎 慎一
松平 英
発明の名称 データ転送最適化  
代理人 伊藤 信和  

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