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審決分類 審判 一部申し立て 判示事項別分類コード:857  E06B
審判 一部申し立て 2項進歩性  E06B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  E06B
審判 一部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  E06B
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  E06B
審判 一部申し立て 発明同一  E06B
審判 一部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  E06B
管理番号 1359521
異議申立番号 異議2018-700571  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-13 
確定日 2019-12-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6262965号発明「建具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6262965号の明細書、特許請求の範囲を、令和1年9月20日付け訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6,8-11〕について訂正することを認める。 特許第6262965号の請求項1-6,8-11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6262965号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成25年9月4日に出願され、平成29年12月22日にその特許権の設定登録がされ、平成30年1月17日に特許掲載公報が発行されたものである。
その特許について、平成30年7月13日に特許異議申立人 石井克彦(以下、「申立人」という。)により、請求項1ないし6に対して特許異議の申立てがされ、その後の経緯は以下のとおりである。
平成30年 9月18日(発送日): 取消理由通知
平成30年11月15日: 意見書の提出及び訂正の請求
(以下、「1次訂正請求」という。)
平成30年12月26日: 申立人による意見書の提出
平成31年 2月28日(発送日): 取消理由通知(決定の予告)
平成31年 4月25日: 意見書の提出及び訂正の請求
(以下、「2次訂正請求」という。)
令和 1年 6月24日: 申立人による意見書の提出
令和 1年 7月25日(発送日): 取消理由通知(決定の予告)
令和 1年 9月20日: 意見書の提出及び訂正の請求
(以下、「本件訂正請求」という。)
令和 1年11月 6日: 申立人による意見書の提出

なお、1次訂正請求及び2次訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁に加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする建具。」に訂正する。(請求項1の記載を引用する訂正後請求項10?11も同様に訂正する)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を、
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁が設けられており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にオイルを収納したステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする建具。」に訂正する。(請求項2の記載を引用する訂正後請求項10?11も同様に訂正する)

(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3のうち請求項1を引用するものを、
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る不燃性の断面階段状の隔壁が前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする建具。」に訂正する。
(請求項3の記載を引用する訂正後請求項10?11も同様に訂正する)

(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項3のうち請求項2を引用するものを、
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向し前記当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る断面階段状の隔壁が設けられており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする排煙窓を備えた建具。」に訂正し、請求項4とする。
(請求項4の記載を引用する訂正後請求項10?11も同様に訂正する)

(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項4のうち請求項1を引用するものを、
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が前記障子の縦框に固定され、前記枠部との間には間隙が形成され、前記隔壁は前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする建具。」に訂正し、請求項5とする。

(6)訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項4のうち請求項2を引用するものを、
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁が前記障子に固定され、前記枠部との間には間隙が形成されており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする排煙窓を備える建具。」に訂正し、請求項6とする。

(7)訂正事項7
訂正前の特許請求の範囲の請求項4のうち、請求項1を引用する請求項3をさらに引用するものについて、
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る不燃性の断面階段状の隔壁が前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って前記縦框に固定され、前記枠部との間には間隙が形成され、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする建具。」に訂正し、新たに請求項8とする。

(8)訂正事項8
訂正前の特許請求の範囲の請求項4のうち、請求項2を引用する請求項3をさらに引用するものについて、
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向し前記当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る断面階段状の隔壁が前記障子に固定され、前記枠部との間には間隙が形成されており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にオイルを収納したステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする排煙窓を備える建具。」に訂正し、新たに請求項9とする。

(9)訂正事項9
訂正前の特許請求の範囲の請求項5を、
「前記隔壁は前記枠部と前記障子のそれぞれに固定されている請求項1乃至4の何れか1項に記載された建具。」に訂正し、新たに請求項10とする。

(10)訂正事項10
訂正前の特許請求の範囲の請求項6を、
「前記隔壁は前記枠部または前記障子の一方に一体に形成されている請求項1乃至4のいずれか1項に記載された建具。」に訂正し、新たに請求項11とする。

(11)訂正事項11
明細書の段落【0008】を、
「【0008】
本発明による建具は、枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁に加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする。
本発明によれば、火災発生時に枠部と障子が熱変形して枠部の戸当り部と障子との当接部に隙間が生じたとしても、隔壁によって屋内外への火炎の連通を阻止して火災の拡大を抑制できることに加えて、加熱発泡材の熱膨張によって枠部の戸当り部と障子との当接部に生じる隙間を封止でき、しかも膨張時の加熱発泡材を隔壁で止めて密度を確保できるため、火炎の屋内外への流通を隔壁と加熱発泡材の二段階で阻止できる。」に訂正する。

(12)訂正事項12
明細書の段落【0009】を、
「【0009】
また、本発明による建具は、枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁が設けられており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にオイルを収納したステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする。
火災等によってステイダンパーに含まれるオイル等が燃焼したり飛散したりしたとしても、隔壁によって火炎や空気の屋内外への流通を阻止でき、更に加熱発泡材が熱膨張することで戸当り部と障子との隙間を封止すると共にステイダンパーを封止できる。」に訂正する。

(13)訂正事項13
明細書の段落【0010】を、
「また、戸当り部と障子との当接部に対向する断面階段状の隔壁に加熱発泡材が設けられていることが好ましい。
戸当り部と障子との当接部に対向する断面階段状の隔壁に加熱発泡材を固定しておけば、火災時に、隔壁による火炎の連通の阻止に加えて、加熱発泡材の熱膨張によって枠部の戸当り部と障子との当接部に生じる隙間を封止でき、しかも膨張時の加熱発泡材を隔壁で止めて密度を確保できるため、火炎の屋内外への流通を隔壁と加熱発泡材の二段階で阻止できる。」に訂正する。


2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、及び一群の請求項
(1)訂正事項1について
ア 訂正目的等
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1について、「不燃性の隔壁」が「空間」を「仕切る」態様を限定するとともに、「加熱発泡材」を設けること、及び当該「加熱発泡材」の配置箇所、並びに当該「加熱発泡材」が「室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」ことを限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正前の請求項1を限定した上記訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 新規事項の有無
上記訂正事項1に関連して、明細書の段落【0019】には、「・・・・縦アタッチメント枠18と縦框22とで仕切る空間内には戸当り片18bと縦框22との間に不燃性の隔壁33が取り付けられている。・・・・(中略)・・・・ここで、図4?図6で示す縦アタッチメント枠18と縦框22とで仕切る空間Kにおいて、隔壁33で仕切った屋外側を空間k1、屋内側を空間k2というものとする。」と記載されている。このことから、「不燃性の隔壁」が「戸当たり部と障子との当接部を有する空間」を「室内側と室外側とに仕切る」発明は、明細書又は図面に記載されているものと認められる。
また、明細書の段落【0021】には、「・・・・また、隔壁33と戸当り片18bと縦框22とで仕切られた屋内側の空間k2内において、戸当り片18bに対向する隔壁33(または戸当り片18b)に第四の加熱発泡材39が固定されている。」と記載されている。当該記載では、隔壁33が対向するのは「戸当り片18b」であって、戸当り片18bの先端に設けられた戸当り部31と障子15とが当接する箇所ではないが、図4を併せて参照すると、図4には、第四の加熱発泡材39を設けた箇所が、隔壁33上の屋内側の面である様子、並びに、当該第四の加熱発泡材39を設けた箇所のうち隔壁33の先端側の部分については、戸当り部31と障子15とが当接する箇所に対して、斜めに対向している様子が示されている。このことから、「加熱発泡材」を「当接部に対向」し「室内側」にある「隔壁」に設ける発明は、明細書又は図面に記載されているものと認められる。
第四の加熱発泡材39の設置範囲、及び加熱時の膨張範囲について、図4には、図の左右方向である隔壁33の全幅に亘って、すなわち隔壁33の室内側の空間であるk2内の全幅に亘って、第四の加熱発泡材39が配置される様子が示されている。また、明細書の段落【0021】には、「なお、第一?第四の加熱発泡材36,37,38、39はステイダンパー34の設置位置に対向して縦框22の下端部に設置すると共に上端部まで延びているものとする。」と記載されているから、明細書には、縦框22が延在する図4の紙面垂直方向についても、隔壁33が空間k2を仕切る全範囲に亘って第四の加熱発泡材39を配置することが示されている。さらに、図5には、第四の加熱発泡材39が隔壁33に対向する戸当り片18bに当接するまで膨張する様子が示されているとともに、明細書の段落【0022】には、「そして、図5及び図6に示すように、火災等の際に、ステイダンパー34を第一?第四の加熱発泡材36,37,38、39が熱膨張して包囲することで、オイルが飛散したり爆発したりすることを防止できる。また、火災等の際、縦アタッチメント枠18が熱変形して戸当り片18bと縦框22との間に隙間が発生した際、この隙間を通して火炎や空気等が屋内外を連通することを隔壁33と空間K内で熱膨張する第一?第四の加熱発泡材36,37,38、39によって封止できる。特に、第一?第四の加熱発泡材36,37,38、39に加えて隔壁33を設置することで、加熱発泡材36,37,38、39の熱膨張は隔壁33によって制限されるので、加熱発泡材36,37,38、39が排煙窓14の外部に膨出することを防止できて加熱発泡材の密度を高めることができる。」と記載されている。これらのことから、明細書及び図面には、隔壁33の幅方向及び延在方向の全域に設けられた第四の加熱発泡材39が、該加熱発泡材39の設置面に対向する方向についても、戸当り片18bに当接して密度を高めるまで膨張し、隔壁39が仕切る屋内側の空間k2の全体に膨張して、「当接部」に生じる「隙間」を封止する発明が、記載されているものと認められる。
したがって、上記訂正事項1は、明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正目的等
上記訂正事項2は、訂正前の請求項2について、「加熱発泡材」を設けること、及び当該「加熱発泡材」の配置箇所を限定するとともに、「ステイダンパー」が「オイルを収納した」ものであることを限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 新規事項の有無
上記訂正事項2に関連して、「加熱発泡材」を「当接部に対向」する「隔壁」に設ける発明が、明細書又は図面に記載されているものと認められることは、上記(1)イに判断したとおりである。また、明細書の段落【0020】には、「ステイダンパー34」が「不燃性のオイル」を収納したものであることが記載されているから、上記訂正事項2は、明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正目的等
上記訂正事項3は、訂正前の請求項1を引用する請求項3を独立化するとともに、「不燃性の隔壁」の配置箇所、形状及び該「不燃性の隔壁」が「空間」を「仕切る」態様を限定し、また「加熱発泡材」の配置箇所、並びに当該「加熱発泡材」が「室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」ことを限定したものといえるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正前の請求項3を独立化するとともに限定した上記訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 新規事項の有無
上記訂正事項3に関して、明細書の段落【0019】には、「隔壁33は例えば断面階段状のアングル材からなり、」と記載されているとともに、図4には、断面階段状の隔壁33が、戸当り部31と障子15との当接部を有する空間を囲うように屋内側の空間k2を仕切る様子が示されており、また明細書の段落【0020】には、「しかも、オイルの飛散の範囲を縦框22の長手方向の下から半分程度の範囲と想定して、バリアとして設けた隔壁33は少なくとも下端から半分程度以上の高さに亘って設置するものとする。」と記載されている。これらのことから、「戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る不燃性の断面階段状の隔壁が前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設け」られる発明は、明細書又は図面に記載されているものと認められる。
「加熱発泡材」を「当接部に対向」する「隔壁」に設ける発明が、明細書又は図面に記載されているものと認められることは、上記(1)イに判断したとおりである。また、明細書の段落【0021】には、「また、隔壁33と戸当り片18bと縦框22とで仕切られた屋内側の空間k2内において、戸当り片18bに対向する隔壁33(または戸当り片18b)に第四の加熱発泡材39が固定されている。なお、第一?第四の加熱発泡材36,37,38、39はステイダンパー34の設置位置に対向して縦框22の下端部に設置すると共に上端部まで延びているものとする。」と記載されているから、「前記隔壁の高さ方向全長に亘って加熱発泡材」を設ける発明も、明細書又は図面に記載されているものと認められる。
そして、「前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」という発明が、明細書又は図面に記載されていると認められることについては、上記(1)イに示したとおりである。
したがって、上記訂正事項3は、明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(4)訂正事項4について
ア 訂正目的等
上記訂正事項4は、訂正前の請求項2を引用する請求項3を独立化するとともに、「不燃性の隔壁」の配置箇所、形状及び該「不燃性の隔壁」が「空間」を「仕切る」態様を限定し、また「加熱発泡材」の配置箇所を限定するとともに、「建具」が「排煙窓を備えた」ことを限定したものといえるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正前の請求項3を独立化するとともに限定した上記訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 新規事項の有無
「戸当り部と障子との当接部に対向し前記当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る断面階段状の隔壁が設けられ」る発明、及び「前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられ」る発明が、明細書又は図面に記載されているものと認められることは、上記(1)イ及び上記(3)イに判断したとおりである。
建具が排煙窓を備えることは、明細書の段落【0015】に記載されている。
したがって、上記訂正事項4は、明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(5)訂正事項5について
ア 訂正目的等
上記訂正事項5は、訂正前の請求項1を引用する請求項4を独立化するとともに、「不燃性の隔壁」が固定されるのが「枠部」と「障子」のうち「障子の縦框」であり、「間隙が形成」される「他方」が「枠部」であることを限定し、また「不燃性の隔壁」が「空間」を「仕切る」態様、「不燃性の隔壁」の「縦框の高さ方向」についての設置範囲を限定するとともに、「加熱発泡材」を設けること、及び「加熱発泡材」の配置箇所、並びに当該「加熱発泡材」が「室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」ことを限定したものといえるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正前の請求項4を独立化するとともに限定した上記訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 新規事項の有無
「不燃性の隔壁」を「障子」の「縦框」に固定し、「枠部」との間に「間隙が形成」されることは、図4に示されている。「不燃性の隔壁」が、「前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように」、また「前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って」設けられる発明、「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って加熱発泡材が設けられ」る発明、並びに、「前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」発明が、明細書又は図面に記載されているものと認められることは、上記(1)イ及び上記(3)イに判断したとおりである。
したがって、上記訂正事項5は、明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(6)訂正事項6について
ア 訂正目的等
上記訂正事項6は、訂正前の請求項2を引用する請求項4を独立化するとともに、「不燃性の隔壁」が固定されるのが「枠部」と「障子」のうち「障子」であり、「間隙が形成」される「他方」が「枠部」であることを限定し、また「加熱発泡材」を設けること、及び「加熱発泡材」の配置箇所を「当接部に対向」する「隔壁」と限定するとともに、「建具」が「排煙窓を備える」ことを限定したものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正前の請求項4を独立化するとともに限定した上記訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 新規事項の有無
「不燃性の隔壁」を「障子」に固定し、「枠部」との間に「間隙が形成」される発明が、明細書又は図面に記載されているものと認められることは、上記(5)イに指摘したとおりである。「前記当接部に対向」する「前記隔壁」に「加熱発泡材が設けられ」る発明が、明細書又は図面に記載されているものと認められることも、上記(1)イに指摘したとおりである。
したがって、上記訂正事項6は、明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(7)訂正事項7について
ア 訂正目的等
上記訂正事項7は、訂正前の請求項1を引用する請求項3をさらに引用する請求項4を独立化するとともに、「不燃性の隔壁」が固定されるのが「枠部」と「障子」のうち「障子の縦框」であり、「間隙が形成」される「他方」が「枠部」であること、及び「不燃性の隔壁」の配置箇所、形状並びに該「不燃性の隔壁」が「空間」を「仕切る」態様を限定し、また「加熱発泡材」の配置箇所、及び当該「加熱発泡材」が「室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」ことを限定したものといえるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正前の請求項4を独立化するとともに限定した上記訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 新規事項の有無
「不燃性の隔壁」を「障子の縦框」に固定し、「枠部」との間に「間隙が形成」される発明が、明細書又は図面に記載されているものと認められることは、上記(5)イに指摘したとおりである。
上記訂正事項7におけるその余の事項が、明細書又は図面に記載されているものと認められることは、上記(3)イに指摘したと同様である。
したがって、上記訂正事項7は、明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(8)訂正事項8について
ア 訂正目的等
上記訂正事項8は、訂正前の請求項2を引用する請求項3をさらに引用する請求項4を独立化するとともに、「不燃性の隔壁」が固定されるのが「枠部」と「障子」のうち「障子」であり、「間隙が形成」される「他方」が「枠部」であること、及び「不燃性の隔壁」の形状並びに該「不燃性の隔壁」が「空間」を「仕切る」態様を限定し、また「加熱発泡材」の配置箇所、「ステイダンパー」が「オイルを収納」した点、及び「建具」が「排煙窓を備える」ことを限定したものといえるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正前の請求項4を独立化するとともに限定した上記訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 新規事項の有無
「不燃性の隔壁」を「障子」に固定し、「枠部」との間に「間隙が形成」される発明が、明細書又は図面に記載されているものと認められることは、上記(5)イに指摘したとおりである。
上記訂正事項8におけるその余の事項が、明細書又は図面に記載されているものと認められることは、上記(4)イに指摘したと同様である。
したがって、上記訂正事項7は、明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(9)訂正事項9について
ア 訂正目的等
上記訂正事項9は、訂正前の請求項1ないし3を引用する請求項5について、訂正事項3及び4により訂正前の請求項3が訂正後の請求項3及び4となったことに伴い、引用する請求項を訂正後の請求項1ないし4とすることにより、訂正事項間の整合を図るとともに、訂正前の請求項5について上記(1)の訂正事項1、上記(2)の訂正事項2、上記(3)の訂正事項3、又は上記(4)の訂正事項4の限定内容を限定したものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 新規事項の有無
上記訂正事項9について、上記訂正事項1ないし4における限定内容が、明細書又は図面に記載されていることは、上記(1)ないし(4)に指摘したとおりである。
したがって、上記訂正事項9は、明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(10)訂正事項10について
ア 訂正目的等
上記訂正事項10は、訂正前の請求項1ないし3を引用する請求項6について、訂正事項3及び4により訂正前の請求項3が訂正後の請求項3及び4となったことに伴い、引用する請求項を訂正後の請求項1ないし4とすることにより、訂正事項間の整合を図るとともに、訂正前の請求項5について上記(1)の訂正事項1、上記(2)の訂正事項2、上記(3)の訂正事項3、又は上記(4)の訂正事項4の限定内容を限定したものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 新規事項の有無
上記訂正事項10について、上記訂正事項1ないし4における限定内容が、明細書又は図面に記載されていることは、上記(1)ないし(4)に指摘したとおりである。
したがって、上記訂正事項10は、明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。

(11)訂正事項11について
訂正事項11は、上記訂正事項1,3,5,7に係る訂正に伴い、不燃性の隔壁により「空間」を仕切る態様、及び加熱発泡材の設置、並びに「加熱発泡材」の熱膨張の態様に関して、特許請求の範囲の請求項1,3,5,8及び請求項1,3を引用する請求項10-11の記載と、明細書の記載との整合を図るための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、訂正事項11による段落【0008】の訂正は、不燃性の隔壁により「空間」を仕切る態様、及び加熱発泡材の設置並びに加熱発泡材の膨張態様に関連する記載の変更であるから、不燃性の隔壁により「空間」を仕切る態様、及び「加熱発泡材」に関する構成を有さず、訂正がなされていない請求項7に係る発明に関する訂正ではない。
また、訂正事項11の後段部における「加熱発泡材の熱膨張によって枠部の戸当り部と障子との当接部に生じる隙間を封止でき、しかも膨張時の加熱発泡材を隔壁で止めて密度を確保できるため、火炎の屋内外への流通を隔壁と加熱発泡材との二段階で阻止できる。」との効果に関する記載も、明細書の段落【0010】に同様の記載がなされていたから、新規事項の追加に該当しない。
この訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(12)訂正事項12について
訂正事項12は、上記訂正事項2,4,6,8に係る訂正に伴い、加熱発泡材の設置及びステイダンパーに関して、特許請求の範囲の請求項2,4,6,9及び請求項2,4を引用する請求項10-11の記載と、明細書の記載との整合を図るための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、訂正事項12による段落【0009】の訂正は、加熱発泡材の設置及びステイダンパーに関連する記載の変更であるから、「加熱発泡材」及び「ステイダンパー」に関する構成を有さず、訂正がなされていない請求項7に係る発明に関する訂正ではない。
この訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(13)訂正事項13について
訂正事項13は、上記訂正事項3,4,7,8に係る訂正に伴い、「不燃性の隔壁」の形状及び当該「不燃性の隔壁」に加熱発泡材を設置することに関して、特許請求の範囲の請求項3,4,8,9及び請求項3,4を引用する請求項10-11の記載と、明細書の記載との整合を図るための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、訂正事項13による段落【0010】の訂正は、「不燃性の隔壁」の形状及び加熱発泡材の設置に関連する記載の変更であるから、「不燃性の隔壁」の形状、及び「加熱発泡材」に関する構成を有さず訂正がなされていない請求項7に係る発明に関する訂正ではない。
この訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(14)一群の請求項、及び独立特許要件について
訂正前の請求項1?6について、請求項3?6はそれぞれ請求項1又は2を直接又は間接に引用しているから、訂正事項1又は2によって記載が訂正される請求項1又は2に連動して訂正がされるものである。そのため、請求項1?6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
訂正事項1ないし10は、一群の請求項である訂正前の請求項1?6について、訂正後の請求項1ないし6及び8ないし11として、限定を行うか、あるいは他の請求項の記載を引用しないものとするとともに限定を行うものである。
また、訂正事項11ないし13は、訂正事項1ないし10による訂正がなされた請求項1?6,8?11について、明細書の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるものであり、訂正がなされない独立請求項である請求項7に関する訂正ではない。
すなわち、訂正事項1ないし13の訂正は、一群の請求項[1?6,8?11]に対して請求されたものである。
そして、本件においては、訂正前の請求項1?6について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1ないし13に係る訂正は、いずれも特許異議の申立てがされていない請求項7に係る特許請求の範囲の減縮又は誤記の訂正を目的としたものではなく、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(15)申立人の主張について
申立人は、令和1年11月6日付け意見書において、図5には隔壁33と戸当り片18bとの間の領域が網掛けで示されているが、該網掛けで示す領域は加熱発泡材39が発泡する可能性のある領域の一例が仮想的に示されているに過ぎず、加熱発泡材39が室内側の空間全体に熱膨張することを示すものではないと主張している。また、明細書の段落【0021】、【0029】及び図5にも、加熱発泡材39が長手方向全長に亘って室内側の空間全体に熱膨張していることは記載されていないから、「前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」との特定事項を導入する上記訂正事項1、及び同様の特定事項を導入する上記訂正事項3,5及び7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において行う訂正ではない旨を主張している(同意見書第2頁第1行-第5頁第5行)。
しかしながら、上記(1)イの後段に指摘したとおり、明細書及び図面には、隔壁33の幅方向及び延在方向の全域に設けられた第四の加熱発泡材39が、該加熱発泡材39の設置面に対向する方向についても、戸当り片18bに当接して密度を高めるまで膨張し、隔壁39が仕切る屋内側の空間k2の全体に膨張して、「当接部」に生じる「隙間」を封止する発明が、記載されているものと認められるから、これに反する申立人の主張は採用することができない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号,第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-6,8-11〕について訂正を認める。


第3 本件訂正発明
上記第2における検討を踏まえると、本件異議申立の対象である訂正前の請求項1ないし6は、本件訂正請求による訂正後の請求項1ないし6及び8ないし11に対応するところ、本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6及び8ないし11に係る発明(以下、各々を「本件訂正発明1」等といい、請求項1ないし6及び8ないし11に係る発明をまとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6及び8ないし11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

本件訂正発明1
「【請求項1】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁に加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする建具。」

本件訂正発明2
「【請求項2】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁が設けられており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にオイルを収納したステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする建具。」

本件訂正発明3
「【請求項3】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る不燃性の断面階段状の隔壁が前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする建具。」

本件訂正発明4
「【請求項4】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向し前記当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る断面階段状の隔壁が設けられており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする排煙窓を備えた建具。」

本件訂正発明5
「【請求項5】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が前記障子の縦框に固定され、前記枠部との間には間隙が形成され、
前記隔壁は前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする建具。」

本件訂正発明6
「【請求項6】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁が前記障子に固定され、前記枠部との間には間隙が形成されており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする排煙窓を備える建具。」

本件訂正発明8
「【請求項8】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る不燃性の断面階段状の隔壁が前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って前記縦框に固定され、前記枠部との間には間隙が形成され、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする建具。」

本件訂正発明9
「【請求項9】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向し前記当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る断面階段状の隔壁が前記障子に固定され、前記枠部との間には間隙が形成されており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にオイルを収納したステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする排煙窓を備える建具。」

本件訂正発明10
「【請求項10】
前記隔壁は前記枠部と前記障子のそれぞれに固定されている請求項1乃至4の何れか1項に記載された建具。」

本件訂正発明11
「【請求項11】
前記隔壁は前記枠部または前記障子の一方に一体に形成されている請求項1乃至4のいずれか1項に記載された建具。」


第4 異議申立理由、及び取消理由の概要
1 異議申立理由
申立人による異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

(1)請求項1
ア 甲第1号証に記載された発明との同一性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

イ 甲第1号証に記載された発明を主引用発明とした進歩性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)請求項2
ア 甲第1号証に記載された発明を主引用発明とした進歩性
本件特許の請求項2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(3)請求項3
ア 甲第1号証に記載された発明を主引用発明とした進歩性
本件特許の請求項3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(4)請求項4
ア 甲第1号証に記載された発明を主引用発明とした進歩性
本件特許の請求項4に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(5)請求項5
ア 甲第1号証に記載された発明を主引用発明とした進歩性
本件特許の請求項5に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(6)請求項6
ア 甲第1号証に記載された発明との同一性
本件特許の請求項6に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

イ 甲第1号証に記載された発明を主引用発明とした進歩性
本件特許の請求項6に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

2 先の取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由
2次訂正請求による訂正後の請求項1ないし6,8ないし11(以下、「2次訂正後の請求項1」などという。)に係る特許に対して、当審が令和1年7月25日(発送日)に特許権者に通知した取消理由通知(以下、「先の取消理由通知(決定の予告)」という。)に記載した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)2次訂正後の請求項1
ア 甲1発明を主引用発明とした進歩性
2次訂正後の請求項1に係る発明は、甲1発明及び甲6発明に基いて、あるいは甲1発明及び甲第6号証並びに甲第7号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

イ 甲6発明を主引用発明とした進歩性
2次訂正後の請求項1に係る発明は、甲6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

ウ 先願1発明との同一性
2次訂正後の請求項1に係る発明は、先願1発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が先願1発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記先願1の出願人と同一でもないので、当該本件発明に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

(2)2次訂正後の請求項2
ア 甲1発明を主引用発明とした進歩性
2次訂正後の請求項2に係る発明は、甲1発明及び甲6発明並びに甲第2?4号証に示される周知技術に基いて、あるいは、甲1発明及び甲第6?7号証に示される周知技術並びに甲第2?4号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)2次訂正後の請求項3
ア 甲1発明を主引用発明とした進歩性
2次訂正後の請求項3に係る発明は、甲1発明及び甲6発明に基いて、甲1発明及び甲第6?7号証に示される周知技術に基いて、甲1発明及び甲6発明並びに甲第9号証に示される周知技術に基いて、あるいは甲1発明及び甲第6?7号証並びに甲第9号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

イ 先願1発明との同一性
2次訂正後の請求項3に係る発明は、先願1発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が先願1発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記先願1の出願人と同一でもないので、当該本件発明に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

(4)2次訂正後の請求項4
ア 甲1発明を主引用発明とした進歩性
2次訂正後の請求項4に係る発明は、甲1発明及び甲6発明並びに甲第2?4号証に示される周知技術に基いて、甲1発明及び甲第6?7号証に示される周知技術並びに甲第2?4号証に示される周知技術に基いて、あるいは、前述の発明及び周知技術に加えて甲第9号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(5)2次訂正後の請求項5
ア 甲1発明を主引用発明とした進歩性
2次訂正後の請求項5に係る発明は、甲1発明及び甲6発明に基いて、あるいは甲1発明及び甲第6号証並びに甲第7号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(6)2次訂正後の請求項6
ア 甲1発明を主引用発明とした進歩性
2次訂正後の請求項6に係る発明は、甲1発明及び甲6発明並びに甲第2?4号証に示される周知技術に基いて、あるいは、甲1発明及び甲第6?7号証に示される周知技術並びに甲第2?4号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(7)2次訂正後の請求項8
ア 甲1発明を主引用発明とした進歩性
2次訂正後の請求項8に係る発明は、甲1発明及び甲6発明に基いて、甲1発明及び甲第6?7号証に示される周知技術に基いて、甲1発明及び甲6発明並びに甲第9号証に示される周知技術に基いて、あるいは甲1発明及び甲第6?7号証並びに甲第9号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(8)2次訂正後の請求項9
ア 甲1発明を主引用発明とした進歩性
2次訂正後の請求項9に係る発明は、甲1発明及び甲6発明並びに甲第2?4号証に示される周知技術に基いて、甲1発明及び甲第6?7号証に示される周知技術並びに甲第2?4号証に示される周知技術に基いて、あるいは、前述の発明及び周知技術に加えて甲第9号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(9)2次訂正後の請求項10
ア 甲1発明を主引用発明とした進歩性
2次訂正後の請求項10に係る発明は、甲1発明及び甲6発明に基いて、又は甲1発明及び甲第6?7号証に示される周知技術に基いて、又は甲1発明及び甲6発明並びに甲第2?4号証に示される周知技術に基いて、甲1発明及び甲第6?7号証に示される周知技術並びに甲第2?4号証に示される周知技術に基いて、あるいは、前述の発明及び周知技術に加えて甲第9号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(10)2次訂正後の請求項11
ア 甲1発明を主引用発明とした進歩性
2次訂正後の請求項11に係る発明は、甲1発明及び甲6発明に基いて、又は甲1発明及び甲第6?7号証に示される周知技術に基いて、又は甲1発明及び甲6発明並びに甲第2?4号証に示される周知技術に基いて、甲1発明及び甲第6?7号証に示される周知技術並びに甲第2?4号証に示される周知技術に基いて、あるいは、前述の発明及び周知技術に加えて甲第9号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

イ 甲6発明を主引用発明とした進歩性
2次訂正後の請求項11に係る発明は、甲6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

ウ 先願1発明との同一性
2次訂正後の請求項11に係る発明は、先願1発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が先願1発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記先願1の出願人と同一でもないので、当該本件発明に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

(11)まとめ
したがって、2次訂正後の請求項1ないし6及び8ないし11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


第5 刊行物の記載
1 各刊行物
甲第1号証: 特開2013-163910号公報
(平成25年8月22日公開、申立人が申立書に添えて提出
)
甲第2号証: 特開2012-62675号公報
(平成24年3月29日公開、申立人が申立書に添えて提出
)
甲第3号証: 特開2003-3734号公報
(平成15年1月8日公開、申立人が申立書に添えて提出)
甲第4号証: 特開平8-246749号公報
(平成8年9月24日公開、申立人が申立書に添えて提出)
甲第5号証: 特許第5752027号公報
(平成27年7月22日発行、申立人が申立書に添えて提出
)
甲第6号証: 特開2013-127167号公報
(平成25年6月27日公開;甲第5号証の公開公報、
当審が甲第5号証に代わる本件出願前公知文献として探知
申立人が平成30年12月26日付け意見書に添えて提出
)
甲第7号証: 特開2013-83134号公報
(平成25年5月9日公開、
申立人が平成30年12月26日付け意見書に添えて提出
)
甲第8号証: 特開2014-118748号公報
(特願2012-274858号(以下、「先願1」という 。平成24年12月17日出願)の公開公報、
平成26年6月30日公開、
申立人が「参考資料1」として、平成30年12月26日
付け意見書に添えて提出)
甲第9号証: 特開2012-122303号公報
(平成24年6月28日公開、
申立人が「参考資料2」として、令和1年6月24日付け
意見書に添えて提出)
甲第10号証:特開2013-76275号公報
(平成25年4月25日公開、
申立人が「参考資料3」として、令和1年6月24日付け
意見書に添えて提出)

2 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載
甲第1号証には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は、当決定で付加した。以下、同様。)。
ア 記載事項ア
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物開口部に設けられる枠体内に障子を開閉自在に納めたサッシに関し、特に火災発生時に高温に晒されても枠体と障子の間の隙間を遮蔽して空気や火炎を貫通させないようにしたサッシに関する。
【背景技術】
【0002】
・・・・・・(中略)・・・・・・
【0003】
アルミニウムを用いたサッシにおいては、火災時に火炎を受けることにより、熱伸びが生じると共に、加熱された側に向かって反りが生じる。・・・・(中略)・・・・・
【0006】
本発明は前記課題を鑑みてなされたものであり、火災発生時に反りが生じても空気や火炎が室内外に貫通することを防止できるサッシを提供することを目的とする。」

イ 記載事項イ
「【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係るサッシは、枠体内に障子を開閉自在に納め、前記枠体は上下枠と左右の縦枠とを方形状に枠組みしてなり、前記障子は上下框と左右の縦框とを方形状に框組みした框体にパネル体を納めてなるサッシにおいて、
前記枠体の内周面には、前記框体の外周面と対向する対向面部を有した遮炎壁部が設けられ、該遮炎壁部は前記障子の開閉に干渉しないように形成されると共に、前記対向面部は前記枠体の上下左右の四周に渡って見込方向位置が重なり合うように形成されることを特徴として構成されている。
【0008】
・・・・・・(中略)・・・・・・
【0010】
さらにまた、本発明に係るサッシは、前記枠体と框体は上下左右の四周に渡り気密材を介して当接し、前記遮炎壁部は前記気密材と見込方向で離隔した位置に形成されることを特徴として構成されている。
【0011】
・・・・・・(中略)・・・・・・
【0012】
また、本発明に係るサッシは、枠体内に障子を開閉自在に納め、前記枠体は上下枠と左右の縦枠とを方形状に枠組みしてなり、前記障子は上下框と左右の縦框とを方形状に框組みした框体にパネル体を納めてなるサッシにおいて、
前記框体の外周面には、前記枠体の内周面と対向する対向面部を有した遮炎壁部が設けられ、該遮炎壁部は前記障子の開閉に干渉しないように形成されると共に、前記対向面部は前記框体の上下左右の四周に渡って見込方向位置が重なり合うように形成されることを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るサッシによれば、枠体の内周面には、框体の外周面と対向する対向面部を有した遮炎壁部が設けられ、遮炎壁部は障子の開閉に干渉しないように形成されると共に、対向面部は前記枠体の上下左右の四周に渡って見込方向位置が重なり合うように形成されることにより、サッシが高温に晒されて框体の外周面が枠体の内周面に接近した際に、四周に渡って枠体と框体との間を閉塞することができ、火炎や空気の貫通を防止することができて防火性能を高くすることができる。
【0014】
・・・・・・(中略)・・・・・・
【0016】
さらにまた、本発明に係るサッシによれば、枠体と框体は上下左右の四周に渡り気密材を介して当接し、遮炎壁部は気密材と見込方向で離隔した位置に形成されることにより、気密材の位置と遮炎壁部とで少なくとも二重に閉塞することができ、より確実に火炎や空気の貫通を防止することができる。
【0017】
・・・・・・(中略)・・・・・・
【0018】
また、本発明に係るサッシによれば、框体の外周面には、枠体の内周面と対向する対向面部を有した遮炎壁部が設けられ、遮炎壁部は障子の開閉に干渉しないように形成されると共に、対向面部は框体の上下左右の四周に渡って見込方向位置が重なり合うように形成されることにより、サッシが高温に晒されて框体の外周面が枠体の内周面に接近した際に、四周に渡って枠体と框体との間を閉塞することができ、火炎や空気の貫通を防止することができて防火性能を高くすることができる。」

ウ 記載事項ウ
「【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について図面に沿って詳細に説明する。図1には本実施形態におけるサッシの縦断面図を、図2にはサッシの横断面図を、それぞれ示している。これら各図に示すように、本実施形態のサッシは、上枠10と下枠11及び左右の縦枠12、12を方形状に枠組みしてなる枠体1内に、上框20と下框21及び左右の縦框22、22を方形状に框組みしてなる框体3内にガラス板からなるパネル体4を納めてなる障子2を開閉自在に納めて構成されている。
【0021】
本実施形態のサッシは、図2中右側の縦辺を吊り元側、左側の縦辺を戸先側とし、障子2の吊り元側の端縁に沿った回動軸を中心として、障子2が開閉自在となるように枠体1に支持された縦辷り出し窓サッシである。障子2の戸先側の縦框22には、ハンドル5が設けられており、このハンドル5を持って障子2を開閉させることができると共に、障子2が閉じた状態でハンドル5を回動操作することにより、障子2を枠体1に対してロック、あるいはロック解除することができる。
【0022】
枠体1を構成する上枠10は、上框20の外周面と対向する内周面部10aを備え、内周面部10aの吊り元側端部には、障子2を回動自在に支持する回動軸部品6が設けられている。また、内周面部10aの室内端部には、内周側に向かって突出する室内起立面部10bが形成されている。室内起立面部10bの下端部は上框20の室内面部20cと対向しており、その近傍に室内気密材10cが設けられて上框20に対して当接する。
【0023】
枠体1を構成する下枠11は、下框21と対向する内周面部11aを備え、内周面部11aの吊り元側端部には、上枠10と同様に障子2を回動自在に支持する回動軸部品6が設けられている。また、内周面部11aの室内端部には、室内起立面部11bが形成されており、その上端部は下框21の室内面部21cと対向しており、その近傍に室内気密材11cが設けられて下框21に対して当接する。
【0024】
枠体1を構成する縦枠12は、縦框22と対向する内周面部12aを備え、内周面部12aの室内端部には、内周側に向かって突出する室内起立面部12bが形成されている。室内起立面部12bの先端部は、縦框22の室内面部22cと対向しており、その近傍に室内気密材12cが設けられて縦框22に対して当接する。
【0025】
・・・・・・(中略)・・・・・・
【0028】
このように、枠体1の内周面と框体3の内周面の間は、室内端部において上下左右の四周に渡り連続して室内気密材10c、11c、12c、12cによって気密され、室外端部において上及び左右の三辺に渡り連続して室外気密材20e、22d、22dによって気密されている。
【0029】
次に、火災が発生した際に枠体1と障子2の間に隙間を生じさせないようにするための構造について詳細に説明する。図3には、上枠10付近の拡大縦断面図を示している。この図に示すように、上枠10の内周面部10aは、室内側と室外側の間に段部10dを有し、段部10dより室内側部分が、室外側部分より内周側に配置される。段部10dの内周端部には、段部10dより室内側の内周面部10aが室外側に向かって延出されたように形成される上遮炎壁部30が長手方向全長に渡って設けられている。
【0030】
上遮炎壁部30は、全体が框体3を構成する上框20の外周面と対向する対向面部31となっており、対向面部31の先端部は、室外側にかけて内周側に向かう傾斜状の傾斜面部31aとなっている。上遮炎壁部30は、障子2の開閉に干渉しないように形成されている。
【0031】
・・・・・・(中略)・・・・・・
【0033】
図4には、火災発生時の状態における上枠10付近の拡大縦断面図を示している。火災が発生してサッシが高温に晒されると、アルミニウムからなる框体3の各框材は、熱伸びにより枠体1の内周面に接近する。図4はこのときの状態を表しており、この図に示すように、上框20が枠体1の上枠10内周面に近づくと、上框20の外周面部20bは、上遮炎壁部30の対向面部31に対して当接する。
・・・・・・(中略)・・・・・・
【0039】
図5には、下枠11付近の拡大縦断面図を示している。この図に示すように、下枠11と下框21も、上枠10及び上框20とほぼ同様の遮炎構成を有している。下枠11の内周面部11aは、室内側と室外側の間に段部11dを有し、段部11dより室内側部分が、室外側部分より内周側に配置される。段部11dの内周端部には、段部11dより室内側の内周面部11aが室外側に向かって延出されたように形成される下遮炎壁部35が長手方向全長に渡って設けられている。下遮炎壁部35は、上遮炎壁部30と同じ見込方向位置に形成されている。
【0040】
下遮炎壁部35は、全体が框体3を構成する下框21の外周面と対向する対向面部36となっており、対向面部36の先端部は、室外側にかけて内周側に向かう傾斜状の傾斜面部36aとなっている。下遮炎壁部35は、障子2の開閉に干渉しないように形成されている。
【0041】
・・・・・・(中略)・・・・・・
【0044】
下遮炎壁部35は、室内気密材11cが設けられる位置とは見込方向位置が異なるので、見込方向位置の異なる2か所で枠体1と框体3の間を閉塞でき、火炎や空気の貫通を確実に防止することができる。また、上枠10及び上框20の場合と同様、下框21の外周面部21bが広い面で下枠11の内周面部11aに当接していることで、隙間を生じにくくしている。さらには、下遮炎壁部35の傾斜面部36aによって、下框21を室内側に引き寄せることができるので、下枠11によって下框21を室内側に引き寄せると共に、下框21の反りの発生も抑制することができる。
【0045】
また、下框21が下枠11の内周面側に移動すると、室内気密材11cの延出ヒレ部11eが下框21の室内面部21cに当接し、ここでも室内気密材11cの下框21に対する当接を確保できる。これにより、火災発生時にも確実に室内気密材11cが下框21に当接し、隙間を発生させないようにすることができる。
【0046】
図7には、縦枠12付近の拡大横断面図を示している。この図に示すように、縦枠12の内周面部12aには、見込方向中間位置に内周側に向かって突出する縦遮炎壁部40が形成される。縦遮炎壁部40は、縦枠12の内周面部12aから垂直に伸びる垂直面部41と、垂直面部41の先端部から室外側に向かって伸びる対向面部42とからなっている。対向面部42は、縦框22の外周面部22bと対向し、障子2の開閉には干渉しないように形成されている。なお、反対側の縦枠12も同様に構成されている。
・・・・・・(中略)・・・・・・
【0049】
図8には、火災発生時の状態における縦枠12付近の拡大横断面図を示している。火災が発生してサッシが高温に晒され、框材が熱伸びすると、縦框22が縦枠12内周面に接近し、縦框22の外周面部22bは、縦遮炎壁部40の対向面部42に対して当接する。また、縦枠12の室内気密材12cは、室内起立面部12bの内周端部より外周寄りに配置されているため、熱伸びが生じて縦框22の室内面部22cが外周側に移動しても、縦枠12の室内気密材12cに対して当接した状態を維持する。また、縦框22に設けられた室外気密材22dも、縦枠12の内周面部12aに対して当接する。」

エ 記載事項エ
「【0053】
本実施形態のように、対向面部を枠体1の内周面に形成する代わりに、框体3の外周面に対向面部を形成することもできる。図9には、第2の形態の対向面部を有した縦枠12付近の拡大横断面図を示している。図9は、火災発生時に縦框22が縦枠12の内周面に接近した状態を示している。この図に示すように、縦枠12の内周面部12aに代わって、縦框22の外周面部22bに、縦枠12の内周面部12aに向かって突出する縦遮炎壁部40が形成されており、その先端面が通常時は縦枠12に対して対向し、火災発生時には縦枠12に対して当接する対向面部42となっている。
【0054】
このとき、サッシの上辺や下辺においては、図3や図5と同じく枠体1側に対向面部31、36を形成してもよいし、框体3側に対向面部を形成してもよい。いずれにしても、各対向面部は上下左右の四周に渡って見込方向位置が重なり合うように配置されていればよい。
【0055】
図10には、第3の形態の対向面部を有した縦枠12付近の拡大横断面図を示している。図10も、火災発生時に縦框22が縦枠12の内周面に接近した状態を示している。この図に示すように、縦枠12の内周面部12aには、内周側に向かって突出する突出片43が形成され、一方で対向する縦框22の外周面部22bには、外周側に向かって突出する縦遮炎壁部40が形成されている。
【0056】
縦遮炎壁部40は、縦枠12の突出片43に対して室内側に隣接する見込方向位置に形成されており、火災発生時に縦框22が縦枠12の内周面に接近すると、図10に示されているように、縦遮炎壁部40が突出片43の室内側面及び縦枠12の内周面部12aに当接する。
【0057】
このように、枠体1側と框体3側の両方に突出する部分を設けて、枠体1と框体3との間の隙間を閉塞するようにしてもよい。また、サッシの上辺や下辺も、同様に構成してもよいし、第1の形態や第2の形態のように、枠体1側または框体3側のいずれかに対向面部を形成してもよい。いずれにしても、縦遮炎壁部40が突出片43と当接する見込方向位置と、上下辺の対向面部または遮炎壁部が突出辺と当接する見込方向位置とが、上下左右の四周に渡って重なり合っていればよい。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用は本実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。本実施形態では縦辷り出し窓サッシについて本発明を適用したものを示したが、窓の種類はこれに限られず、横辷り出し窓や開き窓、外倒し窓や突き出し窓など、障子が開閉自在な窓であれば、本発明を適用することができる。」

オ 記載事項オ
図1には、次の図示がある。

カ 記載事項カ
図3には、次の図示がある。

キ 記載事項キ
図5には、以下の図示がある。

ク 記載事項ク
図7には、以下の図示がある。

ケ 記載事項ケ
図8には、以下の図示がある。

コ 記載事項コ
図9には、以下の図示がある。

サ 記載事項サ
図10には、以下の図示がある。

(2)甲第1号証に記載された技術的事項
ア 技術的事項ア
上記(1)の記載事項アより、甲第1号証には、「建物開口部に設けられる枠体内に障子を開閉自在に納めた、火災発生時に高温に晒されても枠体と障子の間の隙間を遮蔽して空気や火炎を貫通させないようにしたサッシ」という技術的事項が記載されている。

イ 技術的事項イ
上記(1)記載事項ウの段落【0020】より、甲第1号証には、「サッシは、上枠10と下枠11及び左右の縦枠12、12からなる枠体1と、上框20と下框21及び左右の縦框22、22からなる框体3にパネル体4を納めてなる障子2と」を有する、という技術的事項が記載されている。

ウ 技術的事項ウ
上記(1)記載事項アの段落【0003】及び同記載事項ウの段落【0033】より、甲第1号証には、「サッシはアルミニウムを用いており、少くとも框体3はアルミニウムからなる」という技術的事項が記載されている。

エ 技術的事項エ
上記(1)記載事項ウの段落【0022】-【0028】より、甲第1号証には、「枠体1は、室内端部において障子2の框体3と当接する室内気密材10c,11c,12cを有する」という技術的事項が記載されている。

オ 技術的事項オ
上記(1)記載事項アの段落【0007】及び記載事項ウの段落【0029】-【0030】、【0039】-【0040】、【0046】より、甲第1号証には、「サッシは、上枠10から延出し上框20と対向する上遮炎壁部30、下枠11から延出し下框20と対向する下遮炎壁部35、及び縦枠12から突出し垂直に伸びる垂直面部41と垂直面部41の先端部から伸び縦框22の外周面部22bと対向する対向面部42とを有する縦遮炎壁部40を有し、上遮炎壁部30、下遮炎壁部35、縦遮炎壁部40は障子2の開閉に干渉しないように、上下左右の四周に渡って形成されている」という技術的事項が記載されている。

カ 技術的事項カ
上記(1)記載事項イの段落【0016】から、甲第1号証には、「遮炎壁部」は「気密材」と「見込方向で離隔した位置」に形成されることが記載されている。また、上記(1)記載事項カ?クの図3,5及び7には、上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40が、室内端部の室内気密材10c,11c及び12cから見込方向で離隔し、室内気密材10c,11c及び12cと障子2とが当接する箇所に斜めに対向した位置で、枠体1と障子2との間の空間を、わずかの隙間を空けつつ区切っている様子が、示されている。なお、上記(1)記載事項ケ?サの図8?10においても、上記(1)記載事項ウ及びエの段落【0049】,【0053】及び段落【0055】に記載されるとおり、火災の熱で框が枠に近づいた状態の図示であることを考慮すると、火災前の通常時においては上記(1)記載事項カ?クの図3,5及び7の図示と同様に、縦遮炎壁部40は室内端部の室内気密材12cから見込方向で離隔し、室内気密材12cと障子2とが当接する箇所に斜めに対向した位置で、枠体1と障子2との間の空間を、わずかの隙間を空けつつ区切っていると解される。
上記(1)記載事項ウの段落【0022】-【0023】より、甲第1号証のサッシは、回動軸部品6を有しており、同記載事項オ?キの図1,図3及び図5には、回動軸部品6が、枠体1と障子2との間の空間のうち、上遮炎壁部30及び下遮炎壁部35に対して、室内気密材10c,11cと反対側の空間に配置された様子が、図示されている。
以上を整理すると、甲第1号証には、「上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40は、室内端部の室内気密材10c,11c及び12cから見込方向で離隔し、室内気密材10c,11c及び12cと障子2とが当接する箇所に斜めに対向した位置で、枠体1と障子2との間の空間を、わずかの隙間を空けつつ区切っており、サッシの回動軸部品6は、枠体1と障子2との間の空間のうち、上遮炎壁部30及び下遮炎壁部35に対して、室内気密材10c,11cと反対側の空間に配置され」るという技術的事項が、記載されていると認められる。

キ 技術的事項キ
上記(1)記載事項エの段落【0053】-【0056】、並びに同記載事項ケ?サの図8?10の図示より、甲第1号証には、「縦遮炎壁部40は、框体3から枠体1に向かって突出するよう形成しても、枠体1側と框体3側の両方に突出する部分を設けて構成してもよい」という技術的事項が記載されていると認められる。
また、上記(1)記載事項アの段落【0007】及び【0012】、並びに段落【0013】及び【0018】に記載されるように、甲第1号証において、「遮炎壁部」は、サッシが高温に晒されて框体の外周面が枠体の内周面に接近した際に、火炎や空気の貫通を防止することができるように構成されていれば、枠体の側に設けられていても框体の側に設けられていてもよいことは明らかであるから、上記(1)記載事項エの段落【0057】に記載されるとおり、甲第1号証には、「サッシの上辺や下辺」も、上述した縦遮炎壁部40と「同様に構成してよい」という技術的事項が記載されていると認められる。

(3)甲第1号証に記載された発明の認定
甲第1号証には、上記(1)及び(2)を踏まえると、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「建物開口部に設けられる枠体内に障子を開閉自在に納めた、火災発生時に高温に晒されても枠体と障子の間の隙間を遮蔽して空気や火炎を貫通させないようにしたサッシであり、
サッシは、上枠10と下枠11及び左右の縦枠12、12からなる枠体1と、上框20と下框21及び左右の縦框22、22からなる框体3にパネル体4を納めてなる障子2とを有し、
サッシはアルミニウムを用いており、少くとも框体3はアルミニウムからなり、
枠体1は、室内端部において障子2の框体3と当接する室内気密材10c,11c,12cを有し、
サッシは、上枠10から延出し上框20と対向する上遮炎壁部30、下枠11から延出し下框20と対向する下遮炎壁部35、及び縦枠12から突出し垂直に伸びる垂直面部41と垂直面部41の先端部から伸び縦框22の外周面部22bと対向する対向面部42とを有する縦遮炎壁部40を有し、上遮炎壁部30、下遮炎壁部35、縦遮炎壁部40は障子2の開閉に干渉しないように、上下左右の四周に渡って形成されており、
上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40は、室内端部の室内気密材10c,11c及び12cから見込方向で離隔し、室内気密材10c,11c及び12cと障子2とが当接する箇所に斜めに対向した位置で、枠体1と障子2との間の空間を、わずかの隙間を空けつつ区切っており、
サッシの回動軸部品6は、枠体1と障子2との間の空間のうち、上遮炎壁部30及び下遮炎壁部35に対して、室内気密材10c,11cと反対側の空間に配置され、
縦遮炎壁部40は、框体3から枠体1に向かって突出するよう形成しても、枠体1側と框体3側の両方に突出する部分を設けて構成してもよく、サッシの上辺や下辺も同様に構成してよい、
サッシ。」

3 甲第2号証
(1)甲第2号証の記載
甲第2号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 記載事項ア
「【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1?3は、本発明のサッシの一実施形態であって、ビル用の排煙外倒し窓に適用した実施形態を示している。本サッシは、躯体開口部に取付けられる枠1と、枠1内に開閉自在に設けた障子2とを備えている。障子2は、図1に示すように、下縁部が板状の連結材3を介して下枠7と連結され、連結材3の室外側端部に形成した軸部8を支点として室外側に倒れるように回動して開くようになっている。
【0016】
枠1は、アルミニウム合金の押出形材よりなる上枠9と下枠7と左右の竪枠10,10とを四方枠組みして構成してある。・・・・・(中略)・・・・・
【0018】
障子2は、アルミニウム合金の押出形材で形成した上框19と下框16と左右の竪框20,20とを四周框組みし、各框の内周側に形成された溝21内にガラスパネル22の周縁部を嵌め込んで固定したものとなっている。・・・・・(中略)・・・・・
【0019】
上枠9の内周見込み面と上框19の外周見込み面との間のスペースには、図1に示すように、滑車とワイヤー等よりなるオペレーター装置26が設けてある。また、竪枠10と竪框20との間には、図2に示すように、ダンパー27が取付けてある。障子2は、図示しない操作ボタンを操作することでダンパー27の力で開き、オペレーター装置26により障子2を閉めることができる。」

イ 記載事項イ
図2には、次の図示があり、枠1と障子2との間のスペースに、ダンパー27を設けた様子が看て取れる。

(2)甲第2号証に記載された発明の認定
甲第2号証には、上記(1)を踏まえると、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「躯体開口部に取付けられる枠1と、枠1内に開閉自在に設けた障子2とを備えてたサッシにおいて、
枠1と障子2との間のスペースに、ダンパー27を設けた、
サッシ。」

4 甲第3号証
(1)甲第3号証の記載
甲第3号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 記載事項ア
「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の窓開閉用ガススプリングの取付装置について詳細に説明する。本発明は、窓枠に対し窓本体を傾斜状態で開放する窓において、その窓枠と窓本体とを連結するガススプリングの両端部を窓枠ないし窓本体のブラケットに取り付けるときの取付装置である。また、本発明が適用される取付装置は、手動で開閉する窓に限定されるものではなく、電動で開閉する窓にも適用される。また、本発明の取付装置が適用される窓の種類は特に限定されるものではなく、いわゆる外倒し窓、内倒し窓、その他の窓に対しても適用することができる。
【0009】・・・・・(中略)・・・・・なお、本発明においてガススプリングというのは、ガスやオイル等を内蔵したものに限定するものではなく、ガススプリングと同等のダンパーをも含む。
【0010】ブラケット1の軸支持部3は、窓枠と窓本体に固定される2個のブラケット1,1に対して1個のガススプリング6を連結する場合に、空間配置上それぞれの連結を可能とし、窓開閉を円滑に行うために窓枠や窓本体の取付面61a,62aの垂直方向に対して一定の高さ寸法を確保する為に設けられる部位である。軸支持部3の形状はプレス加工で製造する場合は、図1(c)に示されるように2段の階段状に形成し、下段3aはリブ効果を有し、上段3bはガススプリング6の取付片9,10の当り止めの作用をする。また、その高さ寸法は上述した如く2個のブラケットと1個のガススプリングとが窓開閉時に空間的に連結可能なように、適用する窓、ブラケット1、ガススプリング6の大きさ、形状、配置等に基づいて適宜設計する。突出軸部4は、ガススプリング6の端部の取付片9,10に形成された取付穴11,12に嵌合されることにより、ブラケット1に対してガススプリング6を回動自在に保持するための部材である。
【0011】次に本実施例による取付装置の使用方法について説明する。図4はブラケット1,1を介してガススプリング6を取付けた状態の正面図であり、図5は、図4の上面図である。図4、図5とも中間部分を省略して表わしている。ブラケット1,1は、窓枠61と窓本体62に対して取付座2の裏面が当接され、取付穴2aに止めねじ2bがねじ込まれることにより、窓枠ないし窓本体と固定される。次いでガススプリング6の両端の取付片9,10に形成された取付穴11,12に、それぞれ窓本体と窓枠に固定されたブラケット1,1の突出軸部4が嵌合される。続いて突出軸部4に形成された係止穴4aに固定具5が挿入され係止されることにより、ガススプリング6がブラケット1,1から離脱しないように保持される。」

イ 記載事項イ
図5には、次の図示があり、窓枠61と窓本体62との間の空間に、ガススプリング6を設けた様子が看て取れる。

(2)甲第3号証に記載された発明の認定
甲第3号証には、上記(1)を踏まえると、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「窓枠61と窓本体62に固定されるブラケット1,1に対して、ガスやオイル等を内蔵したものあるいは同等のダンパーも含むガススプリングを連結する場合に、
ガススプリング6を窓枠61と窓本体62との間の空間に設けた、
窓。」

5 甲第4号証
(1)甲第4号証の記載
甲第4号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 記載事項ア
「【0022】そして、横連窓1は、障子8のそれぞれに開放力を別々に付与する開放力付与手段と、閉塞ロック手段と、開放順位付け手段と、開放姿勢規制手段とを有する。
【0023】前記開放力付与手段は、図4?図7に示すように、伸縮自在で伸長力を付与された油圧式のステーダンパ12を、伸長に伴い障子8を開放方向に押すように二つの障子竪枠8Cとそれに対応する二つの窓枠竪枠7Cとの間それぞれに介装して構成されている。」

イ 記載事項イ
図6には、次の図示があり、二つの障子竪枠8Cとそれに対応する二つの窓枠竪枠7Cとの間の空間に、ステーダンパ12を配置した様子が看て取れる。

(2)甲第4号証に記載された発明の認定
甲第4号証には、上記(1)を踏まえると、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「障子8の二つの障子竪枠8Cと、それに対応する二つの窓枠竪枠7Cとの間の空間に、油圧式のステーダンパ12を配置した、
横連窓1。」

6 甲第6号証
(1)甲第6号証の記載
甲第6号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 記載事項ア
「【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1?5は、本発明の建具の一実施形態である勝手口ドアを示している。本ドアは、図2?4に示すように、躯体開口部に取付けられる枠1と、枠1に蝶番51で開閉自在に取付けた戸2とを備える。
枠1は、上枠3と下枠4と左右の竪枠5,6を四周枠組みして構成してある。戸2は、上框7と下框8と吊元框9と戸先框10とを四周框組みし、その内側にガラスパネル(複層ガラス)11を納めて構成してある。戸2は、図4に示すように、戸先框10の上下方向の中間部にハンドル12と上下二つの錠13a,13bが設けてある。上枠3と上框7間には、ドアクローザー14が設けてある。
さらに、戸先框10の上部と下部の室内側面には、ヒューズユニット15が設けてある。ヒューズユニット15は、図1に示すように、ケース16内にデッドボルト17を戸先側から出没可能に備え、デッドボルト17はスプリング18で突出方向に付勢され、通常時は熱に溶けやすい材質で形成したヒューズ部材19によりケース16内に保持されている。火災時には、図6に示すように、ヒューズ部材19が火災の熱で溶断するのに伴いデッドボルト17が戸先側に突出し、デッドボルト17が竪枠5に係止することで、戸2が変形して戸先側の上部と下部が竪枠5から離れようとするのを規制する。
【0010】
上枠3は、図2に示すように、アルミニウム合金の押出形材で形成され、室内側に樹脂カバー20と樹脂アングル21が係合取付けしてある。上枠3は、室内側寄りの位置にタイト材ホルダー22が内周側に突出して形成され、タイト材ホルダー22に焼結クロロプレンゴムよりなる不燃性タイト材23が室外側に向けて取付けてあり、不燃性タイト材23に戸2の上縁部の室内側面が当接している。
上枠3の内周側見込面3aの不燃性タイト材23の外周側の位置には、熱に反応して発泡・膨張する熱膨張性耐火材24が長手方向に沿って設けてある。かかる熱膨張性耐火材24は、市販品の中から適宜選択して用いることができ、例えば積水化学工業株式会社製の商品名「フィブロック」を用いることができる。これは、プラスチック技術を活用した有機系耐火材であり、通常の状態では薄いシート状で、200℃以上に加熱されると厚さ方向に5?40倍に膨張し、断熱層を形成する。火災時に消失することがなく、有害ガスが発生することもない。またフィブロックは、片面に剥離紙付きの接着層を有しているので、剥離紙を剥がして簡便に接着取付けできる。」

イ 記載事項イ
「【0012】
左右の竪枠5,6は、図3に示すように、アルミニウム合金の押出形材で形成され、室内側に樹脂アングル21が係合取付けしてある。竪枠5,6は、室内側寄りの位置にタイト材ホルダー22が内周側に突出して形成され、タイト材ホルダー22に不燃性タイト材23が室外側に向けて取付けてあり、不燃性タイト材23に戸2の側縁部の室内側面が当接している。竪枠5,6の内周側見込面5a,6aの不燃性タイト材23の外周側の位置には、熱に反応して発泡・膨張する熱膨張性耐火材24が長手方向に沿って設けてある。
以上に述べたように枠1は、室内側を樹脂カバー20及び樹脂アングル21で覆うことで、室内側の結露を防止すると共に断熱性を向上させている。さらに枠1は、戸2の室内側面に当接する四周の不燃性タイト材23の周囲を囲むように、内周側見込面3a,4a,5a,6aに熱膨張性耐火材24を設けている。
【0013】
戸先側の竪枠5は、図1,5に示すように、内周側見込面5aに上下の錠13a,13b用の錠受け25a,25bが設けてあり、下側の錠受け25bから下枠4上面までの範囲の内周側見込面5aに、長手方向に沿って突出部26を設けている。突出部26は、室外側面が竪枠5の室外側面と略面一となるように竪枠5の内周側見込面5aの室外側寄りの位置に取付けられ、戸先框10に形成された煙返し27と対向するように配置されている。突出部26は、アルミ製の溝型フレーム28を竪枠5にネジ29で固定し、溝型フレーム28の開口部に目板30を取付けてネジ29を隠し、上端部に小口キャップ31を取付けた構成となっている。」

ウ 記載事項ウ
「【0016】
戸先框10は、図1に示すように、室外側面に戸先側に突出する煙返し27が設けてあり、煙返し27により竪枠5と戸先框10の見込面5a,10a間の隙間を塞いでいる。煙返し27の先端部には不燃性タイト材46が設けてあり、不燃性タイト材46の先端部が竪枠5の室外側面に当接している。煙返し27の室内側面には、熱膨張性耐火材47が長手方向に沿って設けてある。戸先框10は、金属製框32に樹脂カバー33の外周側に延出する延出部48を有し、延出部48に竪枠5の不燃性タイト材23が当接している。戸先框10の外周側見込面10aの室内側寄りの位置には、熱膨張性耐火材49が長手方向に沿って設けてある。図3に示すように、吊元框9の外周側見込面9aにも熱膨張性耐火材49が長手方向に沿って設けてある。
【0017】
火災が発生すると、戸2は火災の熱で上下方向に伸びようとするため、熱せられた面側が膨らむように反りが発生し、戸2の吊元側は竪枠6に蝶番51で拘束され、戸先側の上下方向の中間部は錠13a,13bにより竪枠5と係合しているため、戸先側の上部と下部で反りが大きくなり、竪枠5との間に隙間が開きやすい。戸先框10と竪枠5間の隙間のうち、上側の隙間からは燃焼側の熱い空気が流出し、下側の隙間からは燃焼側に比較的冷たい空気が流入することとなる。上側の隙間は、燃焼側の熱い空気が流出する関係で戸先框10の見込面10aに設けた熱膨張性耐火材49が早期に発泡・膨張して塞がれるが、下側の隙間は燃焼側に比較的冷たい空気が流入する関係で熱膨張性耐火材49が発泡しにくい。本ドアは、図6(a)に示すように、竪枠5の内周側見込面5aの室外側寄りの位置に、下側の錠受け25bから下枠4上面までの範囲にわたって突出部26を煙返し27と対向するように設けたので、熱膨張性耐火材49が発泡する前の火災初期において、煙返し27と竪枠5の突出部26とで隙間を隠すことで火炎や煙等の侵入50を遮り、延焼を防止できる。また、このように竪枠5の内周側見込面5aに突出部26が設けてあることで、燃焼側に冷たい空気が流入するのを抑えられるため、戸先框10の見込面10aや煙返し27の室内側面に設けた熱膨張性耐火材47,49が発泡するのを促進でき、図6(b)に示すように、これらの熱膨張性耐火材47,49が発泡して戸先框10と竪枠5間の隙間を塞ぐことで、火炎や煙等の侵入を確実に阻止できる。
吊元框9と竪枠6の見込面9a,6a間、上框7と上枠3の見込面7a,3a間、下框8と下枠4の見込面8a,4a間にもそれぞれ熱膨張性耐火材45a,45b,49が介在しており、火災時にはこれらの熱膨張性耐火材45a,45b,49が発泡して戸と枠の見込面間の隙間を塞ぎ、火炎や煙等の侵入を阻止する。」

エ 記載事項エ
「【0021】
本発明は以上に述べた実施形態に限定されない。竪枠5の突出部26は、竪枠5に一体成形し、不要な部分を切り欠いてもよい。不燃性タイト材23の形状、材質は、適宜変更することができる。金属製補助材41は、火災時に容易に変形したり溶融したりしない材質で形成してあればよく、その形状は適宜変更することができる。本発明は、勝手口ドアに限らず、玄関ドアや開き窓等、あらゆる建具に適用することができる。」

オ 記載事項オ
図1には、次の図示がある。


図6には、次の図示がある。

(2)甲第6号証に記載された技術的事項
ア 技術的事項ア
上記(1)の記載事項アより、甲第6号証には、ドアについて、「上枠3と下枠4と左右の竪枠5,6を四周枠組みした枠1と、上框7と下框8と吊元框9と戸先框10とを四周框組みし、その内側にガラスパネル(複層ガラス)11を納めた戸2と」を備える、という技術的事項が記載されている。
また、上記(1)の記載事項エより、甲第6号証には、「ドア」あるいは類似の構造を有する「開き窓等」の「建具」に、甲第6号証の開示する技術を適用できる、という技術的事項が記載されている。

イ 技術的事項イ
上記(1)の記載事項イより、甲第6号証には、「枠1は、戸2の室内側面に当接する四周の不燃性タイト材23と、四周の不燃性タイト材23の周囲を囲むように配置した熱膨張性耐火材24を」有する、という技術的事項が記載されている。
また、上記(1)の記載事項アより、甲第6号証には、「熱膨張性耐火材24は、片面に剥離紙付きの接着層を有し、剥離紙を剥がして簡便に接着取付けできる市販品」である、という技術的事項も記載されている。

ウ 技術的事項ウ
上記(1)の記載事項イ及びエより、甲第6号証には、「戸先側の竪枠5は、アルミ製の溝型フレーム28を竪枠5にネジ29で固定するか、あるいは竪枠5に一体成形した突出部26を」有する、という技術的事項が記載されている。

エ 技術的事項エ
上記(1)の記載事項ウの段落【0016】より、甲第6号証には、「戸先框10の戸先側の煙返し27の室内側面には、熱膨張性耐火材47が長手方向に沿って」設けてあり、「戸先框10の外周側見込面10aの室内側寄りの位置には、熱膨張性耐火材49が長手方向に沿って」設けてある、という技術的事項が記載されている。

オ 技術的事項オ
上記(1)の記載事項オの図1、及び同記載事項カの図6(a)には、「突出部26」が、戸先側の竪枠5と戸先框10との間の空間を、隙間を有して区切るように配置されている様子、及び、「熱膨張性耐火材24」及び「熱膨張性耐火材49」が、戸先側の竪枠5と戸先框10との間の空間のうち、突出部26に対して、戸2と枠1とが当接する不燃性タイト材23の側に配置されている様子が、図示されている。
また、上記(1)の記載事項オの図1には、「突出部26」が、不燃性タイト材23と戸2とが当接する箇所に斜めに対向する位置に設けられた様子が図示されている。
すなわち、甲第6号証には、「突出部26は、戸先側の竪枠5と戸先框10との間の空間を、隙間を有して区切るように配置され、熱膨張性耐火材24及び49は、戸先側の竪枠5と戸先框10との間の空間のうち、突出部26に対して、戸2と枠1とが当接する不燃性タイト材23の側に配置され」る、という技術的事項が記載されている。

カ 技術的事項カ
上記(1)の記載事項ウの段落【0017】より、甲第6号証には、「火災の初期には、突出部26と煙返し27とで隙間を隠すことで火炎や煙等の侵入を」遮る、という技術的事項が記載されている。
また、上記(1)の記載事項カの図6(b)には、熱膨張性耐火材24,47,49が発泡した後に、突出部26及び熱膨張性耐火材24,47,49が戸先框10と竪枠5間の隙間を塞ぐ様子が図示されており、そのうち熱膨張性耐火材47及び49は、膨張時に突出部26に当接して隙間を塞ぎ、熱膨張性耐火材49は、膨張時に突出部26のうち室内側の部分に当接して隙間を塞ぐ様子が図示されている。また、同記載事項ウの段落【0017】より、甲第6号証には、前述した図6(b)の図示の状態で隙間を塞ぐことにより「火炎や煙等の侵入を確実に阻止する」、という技術的事項が記載されている。

(3)甲第6号証に記載された発明の認定
甲第6号証には、上記(1)及び(2)を踏まえると、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「上枠3と下枠4と左右の竪枠5,6を四周枠組みした枠1と、
上框7と下框8と吊元框9と戸先框10とを四周框組みし、その内側にガラスパネル(複層ガラス)11を納めた戸2とを備え、
枠1は、戸2の室内側面に当接する四周の不燃性タイト材23と、四周の不燃性タイト材23の周囲を囲むように配置した熱膨張性耐火材24を有し、
熱膨張性耐火材24は、片面に剥離紙付きの接着層を有し、剥離紙を剥がして簡便に接着取付けできる市販品であり、
戸先側の竪枠5は、アルミ製の溝型フレーム28を竪枠5にネジ29で固定するか、あるいは竪枠5に一体成形した突出部26を有し、
戸先框10の戸先側の煙返し27の室内側面には、熱膨張性耐火材47が長手方向に沿って設けてあり、
戸先框10の外周側見込面10aの室内側寄りの位置には、熱膨張性耐火材49が長手方向に沿って設けてあり、
突出部26は、不燃性タイト材23と戸2とが当接する箇所に斜めに対向する位置に、戸先側の竪枠5と戸先框10との間の空間を、隙間を有して区切るように配置され、熱膨張性耐火材24及び49は、戸先側の竪枠5と戸先框10との間の空間のうち、突出部26に対して、戸2と枠1とが当接する不燃性タイト材23の側に配置され、
火災の初期には、突出部26と煙返し27とで隙間を隠すことで火炎や煙等の侵入を遮り、熱膨張性耐火材24,47,49が発泡した後には、突出部26及び熱膨張性耐火材24,47,49が戸先框10と竪枠5間の隙間を塞ぐことで、火炎や煙等の侵入を確実に阻止し、熱膨張性耐火材47及び49は、膨張時に突出部26に当接して隙間を塞ぎ、熱膨張性耐火材49は、膨張時に突出部26のうち室内側の部分に当接して隙間を塞ぐ、
ドア、あるいは当該ドアと類似の構造を有する開き窓等の建具。」

7 甲第7号証
(1)段落【0013】の記載
「図2に示すように、左右の竪枠17、17には、各々は、下端部の見込面に熱膨張耐火材保持具45がねじで固定してあり、竪框9の見込面に対向する位置に第6熱膨張耐火材32fが設けてある。第6熱膨張耐火材32fは、熱膨張耐火材保持具45に嵌合してあり、経年劣化による剥がれ落ちるのを防止している。
障子3において、ガラス4の各コーナ部には、図5に示すコーナ金具47が設けてある。コーナ金具47のガラス4側面には、図1及び図2に示すように、第13熱膨張耐火材32nが設けてある。
尚、上述した第1熱膨張耐火材32a及び下述する第12熱膨張耐火材32m、第13熱膨張耐火材32nには熱が伝わり難い箇所に設けてあるので低温熱発泡体(約160℃で発泡を開始する)が用いられており、その他の熱膨張耐火材、即ち第2熱膨張耐火材32b?第11熱膨張耐火材32k、第13熱膨張耐火材32n?第15熱膨張耐火材32qには一般的は熱発泡体(約200℃で発泡を開始する)が用いられている。」

(2)図示
図1,2,6,7,8,18には、建具1において、障子3と枠11との間の空間の随所に、発泡する熱膨張耐火材32を設ける様子が、図示されている。

8 甲第8号証(先願1)
(1)甲第8号証(先願1)の記載
甲第8号証によれば、先願1の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「先願1の当初明細書等」という。)には、次の事項が記載されており、当該事項はその後出願公開されている。
ア 記載事項ア
「【0009】
以下に、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明するが、まず、図1?図11を参照して本発明の第1実施の形態について詳細に説明する。図1?図3に示すように、第1実施の形態に係る建具1は、たてすべり出しサッシであり、枠3と、障子5と、障子受け6とを備えている。
枠3は、アルミニウム製の上枠9、下枠11及び左右の竪枠13a、13bを有し、左右の竪枠13a、13bは各々上端を上枠9の内周側見込面に当接し、下端を下枠11の内周側見込み面に当接して枠組してあり、各上枠9、11及び左右の竪枠13a、13bには中空部を有する中空形材が用いられている。図1に示すように、下枠11の中空部の内部には断面略コ字形状を成すスチール製の補強材39が設けてある。
尚、第1実施の形態では、竪枠13aは戸先側竪枠であり、竪枠13bは吊り元側竪枠である。
【0010】
障子5はアルミニウム製の上框17、下框19及び左右の竪框21a、21bをガラス4の四周に框組してあり、各框17、19、21a、21bには中空部を有する中空形材が用いられている。尚、第1実施の形態では、21aは戸先側竪框であり、21bは吊り元側竪框である。
図1及び図4に示すように、上枠9と上框17の間及び下枠11と下框19との間には、吊り元側竪枠13b側に障子支持部材7が設けてあり、障子5が枠3に対して開閉自在に支持されている。障子支持部材7は、たてすべり出しサッシのステーである。
【0011】
図1及び図5に示すように、障子受け6は下枠11の上面に下枠11の長手方向に沿って設けてあり、下框19の下面側に向けて上方に突出した障子載置部6aと、火災時の熱により下框に向け膨張する第1熱膨張耐火材32aとを備えている。尚、図4に示すように、障子受け6は、障子支持部材7を除いた部分に設けてある。
障子載置部6aには、その上面に上方が開口した熱膨張耐火材保持溝6bが形成してあり、この熱膨張耐火材保持溝6bに第1熱膨張耐火材32aが保持されている。障子受け6の室内側には下枠11の室内側見付面に配置した第2熱膨張耐火材32bを押さえる熱膨張耐火材押さえ6cが設けてあり、第2熱膨張耐火材32bの室外側面を押さえている。
【0012】
図1に示すように、上枠9及び下枠11には各々、その室内側部にタイト材保持部33が各上枠9及び下枠11の長手方向に沿って設けてあり、タイト材保持部33には、障子5の室内側面に当接する不燃タイト材35が保持されている。
図2及び図3に示すように、左右の竪枠13a、13bには室内側にタイト材保持部37が設けてあり、タイト材保持部37に不燃タイト材35が保持されており、上枠9、下枠11及び左右の竪枠13a、13bに設けた不燃タイト材35が障子5の四周に当接している。
(・・・・後略・・・・)」

イ 記載事項イ
「【0018】
次に、第1実施の形態にかかる建具1の作用効果について説明する。
図1及び図2に示すように、下枠11の上面に設けた障子受け6は、通常時には障子5は障子受け6との間に隙間をあけているので、障子5を開閉するときに邪魔にならない。
火災時に、火災の熱により、例えば障子支持具7の樹脂製部分が溶融することにより、障子5が下がると下枠11の上面から上方に突設している障子載置部6aに障子5を載置することにより、障子5が大きく下がって脱落するのを防止する。また、障子5を障子載置部6aに載置して支持することにより、障子5が大きく下がって枠3との間に大きな隙間が生じるのを防止できる。
障子受け6は下枠11の上面から突設して、障子下框19との間の間隔を狭めているので、火災時に障子下端からの通気を抑制できる。
また、火災時の熱を受けると障子受け6に設けた第1熱膨張耐火材32aが膨張することで、障子5の下端との隙間を塞ぎ、障子下側から室外側へ火炎が噴出するのを防止できる。
【0019】
下枠11に設けた第2熱膨張耐火材32b(図1参照)、上枠9に設けた第12熱膨張耐火材32k(図1参照)、戸先側竪枠13aに設けた第5熱膨張耐火材32e(図2参照)、吊り元側竪枠13bに設けた第6熱膨張耐火材32f(図2参照)及び下戸先側取付金具41に設けた第3熱膨張耐火材32c(図3参照)が、火災時に膨張して、障子5の周囲で障子5と枠3との間を塞ぐので、火災時に障子5と枠3との間から火炎が噴出するのを防止できる。
更に、各第2熱膨張耐火材32b、第12熱膨張耐火材32k、第5熱膨張耐火材32e、第6熱膨張耐火材32f及び第3熱膨張耐火材32cは、不燃タイト材35に近接して設けてあり、膨張したときに不燃タイト材35の上下左右の端部の繋ぎ目や火災時の熱で不燃タイト材35が切れた部分を塞ぐことができるので、不燃タイト材35の繋ぎ目や切れた部分から火炎が噴出するのを防止できる。
また、図1に示すように、下枠11では、第2熱膨張耐火材32bと障子受け6に設けた第1熱膨張耐火材32aとが障子5の下框19に向けて交差する方向に膨張して下框16との間を塞ぐので、下枠11と下框19との間を効果的に塞ぐことができる。
図2及び図3に示すように、吊り元側竪枠13bと吊り元側竪框21bとの間に設けた開き防止金具61と受け金具63とは、突片61aを水平にしてその肉厚部分(辺)が受け金具63の室外側壁63aの肉厚部分(辺)と交差するように配置してあるので、開き防止金具61と受け金具63とが面接触する場合に比較して、面第6熱膨張耐火材32fが膨張したときにその膨張を妨げないと共に受け金具63の突片61aの位置調整が容易にできる。」

ウ 記載事項ウ
図1には、次の図示がある。

(2)先願1の当初明細書等に記載された技術的事項
ア 技術的事項ア
上記(1)の記載事項アより、先願1の当初明細書等には、「枠3と、障子5と、障子受け6とを備えた、たてすべり出しサッシ」及び「たてすべり出しサッシである建具1」、という技術的事項が記載されている。
また、同記載事項アより、先願1の当初明細書等には、
「枠3は、アルミニウム製の上枠9、下枠11及び左右の竪枠13a、13bを有し、下枠11の中空部の内部にはスチール製の補強材39が設けて」あるという技術的事項、
「障子5は、アルミニウム製の上框17、下框19及び左右の竪框21a、21bをガラス4の四周に框組して」あるという技術的事項、
「上枠9、下枠11及び左右の竪枠13a、13bに設けた不燃タイト材35が障子5の四周に当接して」いるという技術的事項、
「障子受け6は、下枠11の上面に下枠11の長手方向に沿って設けてあり、下框19の下面側に向けて上方に突出した障子載置部6aと、火災時の熱により下框に向け膨張する第1熱膨張耐火材32aとを備えて」いるという技術的事項、及び、
「障子受け6の室内側には、下枠11の室内側見付面に第2熱膨張耐火材32bが配置して」あるという技術的事項が、記載されている。

イ 技術的事項イ
上記(1)の記載事項イより、先願1の当初明細書等には、
「障子受け6は、通常時には障子5との間に隙間をあけているので、障子5を開閉するときに邪魔になら」ない、という技術的事項、
「障子受け6は、下枠11の上面から突設して障子下框19との間の間隔を狭めているので、火災時の通気を抑制でき、火災時の熱を受け第1熱膨張耐火材32aが膨張すると、障子5の下端との隙間を塞いで、火炎が噴出するのを防止でき、火災時に障子支持具7の樹脂製部分が溶融して障子5が下がると、障子5を障子載置部6aに載置して支持する」という技術的事項、及び、
「第2熱膨張耐火材32bと障子受け6に設けた第1熱膨張耐火材32aとが、障子5の下框19に向けて交差する方向に膨張して下框16との間を塞ぐ」という技術的事項が、記載されている。

ウ 技術的事項ウ
上記(1)の記載事項ウの図1には、「障子受け6」が、下枠11と障子5との間の空間を区切るとともに、不燃タイト材35が障子5に当接する箇所に正対する位置に設けられた様子、及び、「第1熱膨張耐火材32a」が、障子受け6のうち、不燃タイト材35が障子5に当接する箇所に正対する面に設けられている様子が、図示されている。また、同図1には、「障子受け6」が、下枠11に当接しビス状の固定具により固定するための部分から、当該固定するための部分から略垂直に立ち上がる部分、及び第1熱膨張耐火材32aを載置する部分へと至る、略クランク形状の部分を有する様子、及び、「第1熱膨張耐火材32a」の設置箇所が、略クランク形状の「障子受け6」上で室内側に寄った位置、かつ、障子5と下枠11との間の空間中で室内側に寄った位置である様子が、図示されている。
すなわち、先願1の当初明細書等には、「障子受け6は、下枠11と障子5との間の空間を区切るとともに、不燃タイト材35が障子5に当接する箇所に正対する位置に設けられ、略クランク形状の部分を有しており、第1熱膨張耐火材32aは、障子受け6のうち、不燃タイト材35が障子5に当接する箇所に正対する面に設けられており、当該第1熱膨張耐火材32aの設置箇所は、略クランク形状の障子受け6上で室内側に寄った位置、かつ障子5と下枠11との間の空間中で室内側に寄った位置である」、という技術的事項が記載されている。

(3)先願1の当初明細書等に記載された発明の認定
先願1の当初明細書等には、上記(1)及び(2)を踏まえると、次の発明(以下、「先願1発明」という。)が記載されていると認められる。
「枠3と、障子5と、障子受け6とを備えた、たてすべり出しサッシであり、
枠3は、アルミニウム製の上枠9、下枠11及び左右の竪枠13a、13bを有し、下枠11の中空部の内部にはスチール製の補強材39が設けてあり、
障子5は、アルミニウム製の上框17、下框19及び左右の竪框21a、21bをガラス4の四周に框組してあり、
上枠9、下枠11及び左右の竪枠13a、13bに設けた不燃タイト材35が障子5の四周に当接しており、
障子受け6は、下枠11の上面に下枠11の長手方向に沿って設けてあり、下框19の下面側に向けて上方に突出した障子載置部6aと、火災時の熱により下框に向け膨張する第1熱膨張耐火材32aとを備えており、
障子受け6の室内側には、下枠11の室内側見付面に第2熱膨張耐火材32bが配置してあり、
第2熱膨張耐火材32bと障子受け6に設けた第1熱膨張耐火材32aとが、障子5の下框19に向けて交差する方向に膨張して下框16との間を塞ぎ、
障子受け6は、下枠11と障子5との間の空間を区切るとともに、不燃タイト材35が障子5に当接する箇所に正対する位置に設けられ、略クランク形状の部分を有しており、第1熱膨張耐火材32aは、障子受け6のうち、不燃タイト材35が障子5に当接する箇所に正対する面に設けられており、当該第1熱膨張耐火材32aの設置箇所は、略クランク形状の障子受け6上で室内側に寄った位置、かつ障子5と下枠11との間の空間中で室内側に寄った位置であり、
障子受け6は、通常時には障子5との間に隙間をあけているので、障子5を開閉するときに邪魔にならず、
障子受け6は、下枠11の上面から突設して障子下框19との間の間隔を狭めているので、火災時の通気を抑制でき、火災時の熱を受け第1熱膨張耐火材32aが膨張すると、障子5の下端との隙間を塞いで、火炎が噴出するのを防止でき、火災時に障子支持具7の樹脂製部分が溶融して障子5が下がると、障子5を障子載置部6aに載置して支持する、
たてすべり出しサッシである建具1。」

9 甲第9号証
甲第9号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 記載事項ア
「【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1?6は本発明のサッシの一実施形態を示している。本サッシは、躯体開口部に取付けたサッシ枠1と、サッシ枠1内に引違い状に開閉自在に収めた外障子2及び内障子3を備えている。
【0018】
サッシ枠1は、上枠4と下枠5と左右の竪枠6,6とを四方枠組みして構成される。下枠5は、図1に示すように、アルミニウム合金の押出形材で形成した室外側下枠材5aと室内側下枠材5bとを、ウレタン樹脂よりなる断熱材7で連結した構造になっている。室内側下枠材5bの上部には、樹脂製のアングル8が取付けてある。このように下枠5は、断熱材7と樹脂製アングル8により、室内側の結露を防止している。下枠5の上面は略フラットに形成され、外障子2を案内する外レール9と内障子3を案内する内レール10とが、同一高さで上方に突出して形成されている。
下枠5の上面には、図1,4,7に示すように、下枠5の長手方向端部の外レール9の室内側の位置に水抜き孔11が設けてあり、内外レール9,10間に浸入した雨水や結露水は、水抜き孔11より室外側下枠材5aの中空部12内に導かれる。また下枠5の室外側壁の下部には排水孔13が設けてあり、中空部12内の水は排水孔13より室外に排水される。排水孔13には、樹脂製の排水弁14が取付けてあり、排水孔13から雨風が吹き込むのを防止している。排水弁14は、排水孔13に嵌合保持されるケース14aと、ケース14aに軸支され室外側に回動して開く弁体14bを有する。
【0019】
下枠5の水抜き孔11と排水孔13に隣接する位置には、図1に示すように、加熱されると発泡して膨張し、水抜き孔11と排水孔13をそれぞれ塞ぐ耐火材15,16が設けてある。かかる熱発泡性の耐火材15,16は、市販品の中から適宜選択して用いることができ、例えば積水化学工業株式会社製の商品名「フィブロック」を用いることができる。これは、プラスチック技術を活用した有機系耐火材であり、通常の状態では柔軟な薄いシート状で、200℃以上に加熱されると発泡して厚さ方向に5?40倍に膨張し、断熱層を形成する。火災時に消失することがなく、有害ガスが発生することもない。またフィブロックは、片面に剥離紙付きの接着層を有し、剥離紙を剥がして簡便に接着取付けできる。
この耐火材15を設置するため水抜き孔11には、図7,8に示すように、ステンレスの薄い板を折り曲げて形成した耐火材取付部材17を上方から嵌め込んで取付けている。耐火材取付部材17は、室外側と室内側に分割して形成され、各耐火材取付部材17は水抜き孔11に挿入されて中空部12内に配置される平面視コ字形の挿入部17aと、挿入部17aの上縁から側方に張り出した係止片17bを有し、耐火材15は挿入部17aの長手方向の内面に予め貼り付けてある。中空部12内の排水孔13に隣接する位置には、L形断面の耐火材取付部材18がネジ19で取付けてあり、耐火材取付部材18の下面に耐火材16を貼り付けてある。
・・・・・(中略)・・・・
【0022】
図11は、排水孔塞ぎ用の耐火材16の取付け方のさらに別の例を示している。この例では、排水孔13の上方にクランク状断面の耐火材取付部材18を下枠5の室外面に室外側からネジ19で取付けてあり、排水孔13の室外側に間隔をおいて隣接する耐火材取付部材18の内面に、シート状の耐火材16を貼り付けてある。火災時には、耐火材16が発泡して厚み方向に膨張し、下枠5の室外面に圧着して排水孔13を外から塞ぐ。本実施形態によっても、排水孔塞ぎ用の耐火材16を既存のサッシ枠の下枠5に簡単に後付けできる。
【0023】
耐火材取付材17,18の材質は、特に限定されるものではないが、火災時に容易に溶融したり変形したりしない材質、ステンレスや鉄などの金属が好ましい。耐火材15,16は、上述の「フィブロック」に限定されず、熱により発泡して膨張する性質を有する耐火材であれば使用できる。」

イ 記載事項イ
図11には、次の図示がある。

10 甲第10号証
甲第10号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【請求項1】
障子と、枠とを備え、障子はガラスとガラスを保持する框とを備え、障子の下框には水抜き孔が形成してあり且つ火災の熱により膨張して水抜き孔を塞ぐ熱膨張耐火材が設けてあることを特徴とするサッシ。
【発明の詳細な説明】
・・・・・(中略)・・・・
【0017】
下枠15に設けた熱膨張耐火材保持具43は、図14に示すように、下ステー19の配置空間を規定しており、下ステー19の位置決めを兼ねている。また、図6に示すように、第2実施の形態では、下枠15にはスチール製の断面コ字形状の補強材52が設けてあり、下枠15の排水穴42に対向して配置する第5熱膨張耐火材32eはこの補強材52に設けてある。」


第6 当審の判断
1 先の取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)本件訂正発明1
ア 甲1発明を主引用発明とした進歩性
(ア)対比
甲1発明における「枠体1」、「障子2」及び「サッシ」は、本件訂正発明1における「枠部」、「障子」及び「建具」に相当する。
甲1発明において、「枠体1」が室内端部で「障子2の框体3と当接」する箇所となる「室内気密材10c,11c,12c」は、いずれも本件訂正発明1における「枠部に障子が当接可能な戸当り部」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30」、「下遮炎壁部35」及び「縦遮炎壁部40」は、アルミニウムを用いたサッシにおいて「遮炎」を行う部材であるから、不燃性の素材により構成されていることは明らかであり、いずれも本件訂正発明1における「不燃性の隔壁」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40」が、「室内端部の室内気密材10c,11c及び12cから見込方向で離隔し、室内気密材10c,11c及び12cと障子2とが当接する箇所に斜めに対向した位置で、枠体1と障子2との間の空間を、わずかの隙間を空けつつ区切」る構成は、本件訂正発明1において、「戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が設けられ」る構成に相当する。

すなわち、本件訂正発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が設けられている、建具。」

そして両者は、次の点で相違する。
(相違点1a)
本件訂正発明1では、「加熱発泡材」が、「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁」に設けられており、「前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」のに対し、
甲1発明では、加熱発泡材が設けられておらず、該加熱発泡材が「前記室内側の空間全体に熱膨張」しない点。

(イ)判断
上記相違点1aについて判断する。
甲第6号証には、上記第5の6(3)に認定した甲6発明が記載されている。甲6発明は、「ドア」あるいは「開き窓」等の「建具」において、「枠1」と「戸先框10」との間の空間に設けられ火炎や煙等の侵入を遮る「突出部26」を設けるとともに、「発泡」する「熱膨張性耐火材24、47及び49」を設ける構成を有しており、当該構成は、上記相違点1aに係る本件発明1の構成のうち、「加熱発泡材」を設ける構成に相当する。
また、甲6発明が戸2と枠1との間の空間に複数の発泡する熱膨張性耐火材を設けているように、あるいは、上記第5の7に見た甲第7号証にも示されるように、建具において障子と枠との間の空間の随所に発泡する熱膨張耐火材を設けることは、周知技術である。
しかしながら、甲第6号証、及び甲第7号証のいずれにも、上記相違点1aに係る「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁に加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」という構成に相当する構成は、記載されていない。
また、甲第1号証において、上記第5の2(1)イに摘記した段落【0016】に「・・・気密材の位置と遮炎壁部とで少なくとも二重に閉塞することができ、より確実に火炎や空気の貫通を防止することができる」と記載されているように、枠体と障子の框体との間の空間を多重に閉塞して火炎等の貫通を防止することが意図されていることから、枠体と障子との間に火炎等の貫通を防止し閉塞する部材を追加する動機付けがあるとしても、甲1発明の「上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40」は、「室内端部の室内気密材10c,11c及び12cから見込方向で離隔し、室内気密材10c,11c及び12cと障子2とが当接する箇所に斜めに対向した位置」に存在するから、これらの遮炎壁部の「前記当接部に対向し前記室内側にある」箇所に「加熱発泡材」を設け、しかも「前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張する」ようにするには、遮炎壁部の形状及び配置と、加熱発泡材の設置箇所、設置範囲及び熱膨張態様とについて変更を重ねる必要がある。
そして、本件訂正発明1は、当該相違点1aに係る構成を採用することにより、訂正明細書の段落【0008】の記載も参酌すれば、隔壁が仕切る屋内側の空間全体に熱膨張させて密度を確保した加熱発泡材により、火炎の流通をより確実に阻止できる、という効果を奏するものと理解できるから、当該相違点1aに係る構成を、単なる設計事項ということはできない。
したがって、甲1発明において、上記相違点1aに係る本件訂正発明1の構成をとることは、甲6発明、あるいは甲第6号証及び甲第7号証に記載される周知技術を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲6発明を主引用発明とした進歩性
(ア)対比
甲6発明における「枠1」、「戸2」及び「建具」は、本件訂正発明1における「枠部」、「障子」及び「建具」に相当する。
甲6発明において、「枠1」が室内側面で「戸2」に「当接」する箇所となる「不燃性タイト材23」は、本件訂正発明1における「枠部に障子が当接可能な戸当り部」に相当する。
甲6発明において、「アルミ製の溝型フレーム28を竪枠5にネジ29で固定するか、あるいは竪枠5に一体成形」した「突出部26」は、「火炎や煙等の侵入を遮」る機能も有しているから、本件訂正発明1における「不燃性の隔壁」に相当する。
甲6発明における「発泡」する「熱膨張性耐火材24,47及び49」は、いずれも本件訂正発明1における「加熱発泡材」に相当する。
そして、甲6発明において、「突出部26」が「戸先側の竪枠5と戸先框10との間の空間を、隙間を有して区切るように配置され」た構成は、本件訂正発明1において、「戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が設けられ」た構成に相当する。
甲6発明において、「突出部26」が「不燃性タイト材23と戸2とが当接する箇所に斜めに対向する位置に」配置されたうえで、「熱膨張性耐火材49」が「膨張時に突出部26のうち室内側の部分に当接して隙間を塞ぐ」ように設けられている構成と、本件訂正発明1において、「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁に加熱発泡材が設けられている」構成とは、本件訂正発明1においても膨張時の加熱発泡材が当該加熱発泡材を設けた箇所に当接していることは明らかであるから、「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁に膨張時の加熱発泡材が当接するように、加熱発泡材が設けられている」点で共通する。

すなわち、本件訂正発明1と、甲6発明とは、
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁に膨張時の加熱発泡材が当接するように、加熱発泡材が設けられている、建具。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1b)
本件発明1では、「加熱発泡材」が「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁」に「設けられ」ており、「前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」のに対し、
甲6発明では、熱膨張性耐火材49が、膨張時には、不燃性タイト材23と戸2とが当接する箇所に斜めに対向する位置にある突出部26のうち室内側の部分に当接して隙間を塞ぐよう設けられているものの、膨張前の熱膨張性耐火材49自体が当該突出部26の当該部分に設けられてはおらず、また突出部26の当該部分に設けられた熱膨張性耐火材49が「室内側の空間全体に熱膨張する」ものでもない点。

(イ)判断
上記相違点1bについて判断する。
甲6発明では、「熱膨張性耐火材24」について「片面に剥離紙付きの接着層を有し、剥離紙を剥がして簡便に接着取付けできる市販品」を用いており、当該市販品の「熱膨張性耐火材」はいずれの箇所に貼り付けるかについて任意性が高いということはできるとしても、甲6発明の「突出部26」は「不燃性タイト材23と戸2とが当接する箇所に斜めに対向する位置に」存在するから、突出部26の「前記当接部に対向し前記室内側にある」箇所に「加熱発泡材」を設け、しかも「前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張する」ようにするには、突出部26の形状及び配置を変更したうえで、加熱発泡材の設置箇所を突出部26上とし、さらに加熱発泡材の設置範囲及び熱膨張態様とについて変更を重ねる必要がある。
そして、本件訂正発明1は、当該相違点1bに係る構成を採用することにより、訂正明細書の段落【0008】の記載も参酌すれば、隔壁が仕切る屋内側の空間全体に熱膨張させて密度を確保した加熱発泡材により、火炎の流通をより確実に阻止できる、という効果を奏するものと理解できるから、当該相違点1bに係る構成を、単なる設計事項ということはできない。
したがって、甲6発明において、上記相違点1bに係る本件訂正発明1の構成をとることは、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 先願1発明との同一性
(ア)対比
先願1発明における「枠3」、「障子5」及び「たてすべり出しサッシである建具1」は、本件訂正発明1における「枠部」、「障子」及び「建具」に相当する。
先願1発明において、「枠3」の「上枠9、下枠11及び左右の竪枠13a、13b」が「障子5」に「当接」する箇所となる「不燃タイト材35」は、本件訂正発明1における「枠部に障子が当接可能な戸当り部」に相当する。
先願1発明における「障子受け6」は、アルミニウム性の下枠11の上面から突設して「障子下框19との間の間隔を狭め」ることで「火災時の通気を抑制」し、また火災の熱で膨張した「第1熱膨張耐火材32a」とともに「障子5の下端との隙間を塞いで、火炎が噴出するのを防止」し、さらに火災の熱で障子支持具7が溶融し、障子5が下がっても、「障子5を障子載置部6aに載置して支持する」ものであるから、不燃性の素材で構成されていることは明らかであり、本件訂正発明1における「不燃性の隔壁」に相当する。
先願1発明における「第1熱膨張耐火材32a」は、熱で膨張して隙間を塞ぐ熱膨張耐火材が発泡により膨張することは、上記第5の6(3)に認定した甲6発明、及び上記第5の7(1)に摘記した甲第7号証の段落【0013】の記載にも示されるとおり、技術常識であるから、本件訂正発明1における「加熱発泡材」に相当する。
そして、先願1発明において、「障子受け6」が、「下枠11と障子5との間の空間を区切るとともに、不燃タイト材35が障子5に当接する箇所に正対する位置に設けられ、略クランク形状の部分を有しており、第1熱膨張耐火材32aは、障子受け6のうち、不燃タイト材35が障子5に当接する箇所に正対する面に設けられており、当該第1熱膨張耐火材32aの設置箇所は、略クランク形状の障子受け6上で室内側に寄った位置、かつ障子5と下枠11との間の空間中で室内側に寄った位置であ」る構成は、本件訂正発明1において、「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁に加熱発泡材が設けられている」構成に相当する。

したがって、先願1発明と本件訂正発明1とは、
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁に加熱発泡材が設けられている、建具。」の点で一致する。

そして両者は、次の点で相違する。
(相違点1c)
本件訂正発明1では、「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁」に設けられた「前記加熱発泡材」が、「前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」のに対し、
先願1発明では、「障子受け6のうち、不燃タイト材35が障子5に当接する箇所に正対する面」に設けられた「第1熱膨張耐火材32a」は、「障子受け6」が仕切る「室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」ものではない点。

(イ)判断
先願1発明においては、「障子受け6」に設けられた「第1熱膨張耐火材32a」が、「下框19の下面側に向けて上方に突出した障子載置部6a」から「下框に向け膨張」するものであり、「障子受け6の室内側」で「下枠11の室内側見付面」に配置された「第2熱膨張耐火材32b」が、「第1熱膨張耐火材32a」とは「交差する方向に膨張」するものであるから、「第1熱膨張耐火材32a」、及び「第2熱膨張耐火材32b」は各方向に分担して膨張しそれぞれ遮蔽を行うものであり、いずれの熱膨張耐火材に着目しても、上記相違点1cに係る「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁」に設けられた「前記加熱発泡材」が、「前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」という構成とはならない。
そして、先願1発明において、「火災時に障子支持具7の樹脂製部分が溶融して障子5が下がると、障子5を障子載置部6aに載置して支持する」ように構成された「障子受け6」の周辺に配置された、「第1熱膨張耐火材32a」及び「第2熱膨張耐火材32b」について、「障子受け6」に設けられた熱膨張耐火材のみで「室内側の空間全体」に熱膨張するようにするには、「障子受け6」の配置と形状、各「熱膨張耐火材」の配置及び膨張方向についての機能分担を変更する必要があるから、相違点1cは単なる形式的な相違点ということができず、実質的な相違点である。
したがって、本件訂正発明1は、先願1発明と同一ということができない。

エ 申立人の意見書における主張
申立人は、令和1年11月6日付け意見書において、本件訂正により新たに特定された「前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」との構成は、枠と障子との間に加熱発泡材を配置した防火建具において、好適な加熱発泡材の発泡状態を特定したに過ぎず、当業者が適宜になし得た設計事項である旨を主張している(同意見書第5頁第13行-第6頁第12行)。
そして申立人は、甲1発明を主引用発明として、上記相違点1aに係る本件訂正発明1の構成に至ることは、甲6発明又は甲第6?7号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易になし得た事項である旨(同意見書第9頁第15行-第11頁第15行)、甲6発明を主引用発明として、上記相違点1bに係る本件訂正発明1の構成に至ることも、当業者が適宜になし得た設計事項程度である旨(同意見書第11頁第16行-第12頁第15行)、及び、先願1発明においても、上記相違点1cに係る本件訂正発明1の構成は課題解決のための具体化手段における微差に過ぎないから、本件訂正発明1と先願1発明とは実質的に同一である旨(同意見書第12頁第16行-第14頁第5行)、を主張している。
しかしながら、この点については上記ア(イ),イ(イ)及びウ(イ)に判断したとおりであるから、これに反する申立人の主張は採用することができない。

オ 小括
よって、本件訂正発明1に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。

(2)本件訂正発明2
ア 甲1発明との対比
甲1発明と本件訂正発明2とを対比する。
甲1発明における「枠体1」、「障子2」及び「サッシ」は、本件訂正発明2における「枠部」、「障子」及び「建具」に相当する。
甲1発明において、「枠体1」が室内端部で「障子2の框体3と当接」する箇所となる「室内気密材10c,11c,12c」は、いずれも本件訂正発明2における「枠部に障子が当接可能な戸当り部」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30」、「下遮炎壁部35」及び「縦遮炎壁部40」は、いずれも本件訂正発明2における「隔壁」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40」が、「室内端部の室内気密材10c,11c及び12cから見込方向で離隔し、室内気密材10c,11c及び12cと障子2とが当接する箇所に斜めに対向した位置で、枠体1と障子2との間の空間を、わずかの隙間を空けつつ区切」る構成は、本件訂正発明2において、「戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁が設けられ」た構成に相当する。
また、甲1発明における、「枠体1と障子2との間の空間のうち、上遮炎壁部30及び下遮炎壁部35に対して、室内気密材10c,11cと反対側の空間」は、本件訂正発明2における「隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間」に相当する。

すなわち、本件訂正発明2と甲1発明とは、次の点で一致する。
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁が設けられており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間を有する、建具。」

そして両者は、次の点で相違する。
(相違点2)
本件訂正発明2では、「オイルを収納したステイダンパー」が、「隔壁」の「当接部と反対側」における「枠部と障子で仕切られた空間」に設けられ、また「加熱発泡材」が「前記当接部に対向する前記隔壁」に設けられているのに対し、
甲1発明では、オイルを収納したステイダンパー及び加熱発泡材が設けられていない点。

イ 判断
上記相違点2について判断する。
上記第5の3(2)に認定した甲2発明が、サッシにおいて枠1と障子2との間のスペースに「ダンパー27」を設ける構成を有し、
また上記第5の4(2)に認定した甲3発明が、窓において窓枠61と窓本体62との間の空間に「ガスやオイル等を内蔵したものあるいは同等のダンパーも含むガススプリング」である「ガススプリング6」を設ける構成を有し、
また上記第5の5(2)に認定した甲4発明が、横連窓1において障子8の障子竪枠8Cと窓枠竪枠7Cとの間の空間に「ステーダンパ12」を設ける構成を有するように、
建具において可動側となる障子部材と固定側枠体との間の空間内に、ステーダンパ等のダンパー部材を設けることは、周知技術である。
一方で、甲6発明が戸2と枠1との間の空間に複数の発泡する熱膨張性耐火材を設けているように、あるいは、上記第5の7に見た甲第7号証にも示されるように、建具において障子と枠との間の空間の随所に発泡する熱膨張耐火材を設けることも、周知技術である。
しかしながら、甲1発明において、「当接部に対向する隔壁」に「加熱発泡材」を設け、かつ「オイルを収納したステイダンパー」を「隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間」に設置する、という選択を重ねることは、甲第1号証には記載も示唆もされていない。また明細書の段落【0009】には、「また、本発明による建具は、枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁が設けられており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にオイルを収納したステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする。火災等によってステイダンパーに含まれるオイル等が燃焼したり飛散したりしたとしても、隔壁によって火炎や空気の屋内外への流通を阻止でき、更に加熱発泡材が熱膨張することで戸当り部と障子との隙間を封止すると共にステイダンパーを封止できる。」と記載されている。当該記載も参酌すると、本件訂正発明2は、「当接部に対向する隔壁」に「加熱発泡材」を設け、かつ「オイルを収納したステイダンパー」を「隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間」に設置する、という前述の構成を有することにより、火災時にステイダンパーに依拠した火炎等の流通を隔壁によって阻止しつつ、当接部に対向する隔壁の加熱発泡材により当接部に生じる隙間を封止する、という機能を奏するものと理解できる。そのため、たとえステイダンパーを設置すること、及び、加熱発泡材を配置することがそれぞれ周知技術であるとしても、甲1発明において、「当接部に対向する隔壁」に「加熱発泡材」を設け、かつ「オイルを収納したステイダンパー」を「隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間」に設置する、という選択を重ねることは、単なる設計事項と言うことが出来ず、またたとえ当業者であっても容易に想到することができたとはいえない。
したがって、甲1発明において、上記相違点2に係る本件訂正発明2の構成に至ることは、甲第2号証ないし甲第4号証、並びに甲第6号証及び甲第7号証を考慮しても、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

ウ 申立人の意見書における主張
申立人は、令和1年11月6日付け意見書において、相違点2に係る「加熱発泡材」を障子と枠との空間の随所に設けることは、甲第6号証及び甲第7号証にも示されるように周知技術であること、並びに、相違点2に係る「オイルを収納したステイダンパー」は甲第2?4号証に開示されているように、排煙窓等に用いられる外倒し窓または内倒し窓に用いられる周知の技術であり、甲第1号証にも段落【0058】に外倒し窓に適用できる旨の記載があることから、相違点2に係る構成を得ることは当業者であれば想到容易である旨を主張している(同意見書第14頁第6行-第16頁第4行)。
しかしながら、上記相違点2に係る「隔壁」と「加熱発泡材」及び「ステイダンパー」の配置の組み合わせについてあらためて検討すると、上記イに判断したとおりであるから、たとえステイダンパー自体、及び加熱発泡材自体がそれぞれ周知技術であったとしても、甲1発明において上記相違点2に係る構成を採る特定の選択を重ねることが、当業者にとって想到容易であったということはできず、これに反する申立人の主張は採用することができない。

エ 小括
よって、本件訂正発明2に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。

(3)本件訂正発明3
ア 甲1発明を主引用発明とした進歩性
(ア)対比
甲1発明における「枠体1」、「障子2」及び「サッシ」は、本件訂正発明3における「枠部」、「障子」及び「建具」に相当する。
甲1発明において、「枠体1」が室内端部で「障子2の框体3と当接」する箇所となる「室内気密材10c,11c,12c」は、いずれも本件訂正発明3における「枠部に障子が当接可能な戸当り部」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30」、「下遮炎壁部35」及び「縦遮炎壁部40」は、アルミニウムを用いたサッシにおいて「遮炎」を行う部材であるから、不燃性の素材により構成されていることは明らかであり、いずれも本件訂正発明3における「不燃性」の「隔壁」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40」が「上下左右の四周に渡って形成され」、かつ「室内端部の室内気密材10c,11c及び12cから見込方向で離隔し、室内気密材10c,11c及び12cと障子2とが当接する箇所に斜めに対向した位置で、枠体1と障子2との間の空間を、わずかの隙間を空けつつ区切」る構成と、本件訂正発明3において、「前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る不燃性の断面階段状の隔壁が前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられ」る構成とは、「前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切る不燃性の隔壁が前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられ」る点で、共通している。

すなわち、本件訂正発明3と甲1発明とは、次の点で一致する。
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切る不燃性の隔壁が前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられている、建具。」

そして両者は、次の点で相違する。
(相違点3a)
本件訂正発明3では、「不燃性」の「隔壁」の形状が「断面階段状」であり、「前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように」障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられてたうえで、「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って加熱発泡材」が設けられるのに対し、
甲1発明では、「上枠10から延出し上框20と対向する上遮炎壁部30、下枠11から延出し下框20と対向する下遮炎壁部35、及び縦枠12から突出し垂直に伸びる垂直面部41と垂直面部41の先端部から伸び縦框22の外周面部22bと対向する対向面部42とを有する縦遮炎壁部40」が、「断面階段状」の形状をもって「前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように」設けられてはおらず、また「加熱発泡材」も設けられていない点。

(相違点3b)
本件訂正発明3では、上記相違点3aに係る「不燃性」の「隔壁」に設けられた「加熱発泡材」が、「前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」のに対し、
甲1発明では、加熱発泡材が設けられておらず、該加熱発泡材が「前記室内側の空間全体に熱膨張」しない点。

(イ)判断
上記相違点3a及び3bについて判断する。
上記相違点3a及び3bに係る本件訂正発明3の構成は、上記(1)ア(ア)に対比した本件訂正発明1との相違点1aに係る構成を含むものであり、上記(1)ア(イ)に判断したとおり、たとえ甲第6号証及び甲第7号証の記載を考慮したとしても、当該相違点1aに係る構成に至ることは、当業者が容易に想到できたものではない。
また、上記相違点3aにおいて、「断面階段状」の形状とした「隔壁」を「前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように」配置したうえで、かつ「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁」に「加熱発泡材」を設けることは、当該「隔壁」に設けた「加熱発泡材」によって「当接部」を封止する際に、相違点3bの如く「加熱発泡材」を「室内側の空間全体に熱膨張」させるうえでも有利な配置と解されるから、上記相違点3aの構成を採用すること自体についても、甲第1号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載されていないとともに、単なる設計事項ということもできない。
したがって、甲1発明において、上記相違点3a及び3bに係る本件訂正発明3の構成に至ることは、たとえ甲第6号証及び甲第7号証の記載を考慮したとしても、当業者が容易に想到できたものではない。

イ 先願1発明との同一性
(ア)対比
先願1発明における「枠3」、「障子5」及び「たてすべり出しサッシである建具1」は、本件訂正発明3における「枠部」、「障子」及び「建具」に相当する。
先願1発明において、「枠3」の「上枠9、下枠11及び左右の竪枠13a、13b」が「障子5」に「当接」する箇所となる「不燃タイト材35」は、本件訂正発明3における「枠部に障子が当接可能な戸当り部」に相当する。
先願1発明における「障子受け6」は、アルミニウム性の下枠11の上面から突設して「障子下框19との間の間隔を狭め」ることで「火災時の通気を抑制」し、また火災の熱で膨張した「第1熱膨張耐火材32a」とともに「障子5の下端との隙間を塞いで、火炎が噴出するのを防止」し、さらに火災の熱で障子支持具7が溶融し、障子5が下がっても、「障子5を障子載置部6aに載置して支持する」ものであるから、不燃性の素材で構成されていることは明らかであり、本件訂正発明3における「不燃性」の「隔壁」に相当する。
先願1発明における「第1熱膨張耐火材32a」は、熱で膨張して隙間を塞ぐ熱膨張耐火材が発泡により膨張することは、上記第5の6(3)に認定した甲6発明、及び上記第5の7(1)に摘記した甲第7号証の段落【0013】の記載にも示されるとおり、技術常識であるから、本件訂正発明3における「加熱発泡材」に相当する。
そして、先願1発明において、「障子受け6」が、「下枠11と障子5との間の空間を区切るとともに、不燃タイト材35が障子5に当接する箇所に正対する位置に設けられ、略クランク形状の部分を有しており、第1熱膨張耐火材32aは、障子受け6のうち、不燃タイト材35が障子5に当接する箇所に正対する面に設けられており、当該第1熱膨張耐火材32aの設置箇所は、略クランク形状の障子受け6上で室内側に寄った位置、かつ障子5と下枠11との間の空間中で室内側に寄った位置であ」る構成は、本件訂正発明3において、「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁」に「加熱発泡材が設けられている」構成に相当する。

したがって、先願1発明と本件訂正発明3とは、
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁に加熱発泡材が設けられている、建具。」の点で一致する。

そして両者は、次の点で相違する。
(相違点3c)
本件訂正発明3では、「不燃性」の「隔壁」が「断面階段状」であり、「戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る」ように配置されており、かつ当該隔壁が「前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられ」たうえで、「加熱発泡材」が「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って」設けられているのに対し、
先願1発明における「障子受け6」は、「火災時に障子支持具7の樹脂製部分が溶融して障子5が下がると、障子5を障子載置部6aに載置して支持する」ために「下枠11の上面に下枠11の長手方向に沿って」設けたものであり、「障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って」設けられておらず、また「断面階段状」の形状で「戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る」ように配置されてもいない点。

(相違点3d)
本件訂正発明3では、上記相違点3cに係る「加熱発泡材」が、「前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」のに対し、
先願1発明では、「障子受け6」の設置箇所及び「障子受け6」上に設けた「第1熱膨張耐火材32a」の設置箇所が本件訂正発明3とは異なるとともに、「障子受け6」に設けられた「第1熱膨張耐火材32a」について見ても、「障子受け6」が仕切る「室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」ものではない点。

(イ)判断
上記相違点3cについて判断する。
先願1発明においては、「障子受け6」は「火災時に障子支持具7の樹脂製部分が溶融して障子5が下がると、障子5を障子載置部6aに載置して支持する」ために「下枠11の上面に下枠11の長手方向に沿って」設けたものであり、「障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って」設けるものではないから、相違点3cは実質的な相違点である。
また、上記相違点3dについても、上記(1)ウ(イ)に判断した相違点1cと同様に、実質的な相違点である。
したがって、本件訂正発明3は、先願1発明と同一ではない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、令和1年11月6日付け意見書において、本件訂正発明3と甲1発明との上記相違点3a及び3bのうち、「隔壁」を「断面階段状」とするとともに膨張時の加熱発泡材を隔壁で止めて加熱発泡材の密度を確保することは、甲第9号証にも示されるとおり周知の技術であり、格別の事項ではない旨を主張している。また、上記相違点3aのうち、隔壁を設ける範囲、及び加熱発泡材を設ける範囲を選ぶことも、当業者が適宜になし得た設計事項程度である旨を主張している。そして、相違点3a及び3bのうち、加熱発泡材を「室内側の空間全体に熱膨張することによって、当接部に生じる隙間を封止できる」ように設けることも、本件訂正発明1に関して主張したと同様に設計事項程度であるから、結局のところ本件訂正発明3は、甲1発明及び甲6発明に基いて、あるいは甲1発明及び甲第6?7号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している(同意見書第16頁第6行-第18頁第1行)。
しかしながら、申立人が言及する甲第9号証の開示は、上記第5の9のアに摘記した段落【0022】及び同イに摘記した図11に示されるように、通常時には下枠5の室外面に開放されている排水孔13を火災時に外から塞ぐために、排水孔13に対向するクランク状断面の耐火材取付部材18を室外側から後付けするものであるから、甲1発明における「上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40」とは、配置される状況及び目的が異なり、甲1発明の「上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40」を甲第9号証に示される排水孔13用の耐火材取付部材18に変更する動機付けはない。そして、上記相違点3a及び3bに係る本件訂正発明3の構成に至ることは、上記ア(イ)に判断したとおり当業者であっても容易ということはできないから、これに反する申立人の主張は採用することができない。
なお、申立人は同意見書において、本件訂正発明3は甲6発明を主引例として当業者が容易に発明をすることができたものである旨も主張しているが(同意見書第18頁第2行-第19頁下から3行)、先の取消理由通知(決定の予告)において2次訂正後の請求項3に係る発明について甲6発明を主たる引用例とする取消理由は通知していないとともに、本件訂正発明1について上記(2)イ及びエで判断したと同様の理由で、当該申立人の主張も採用することができない。

エ 小括
よって、本件訂正発明3に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。

(4)本件訂正発明4
ア 対比
甲1発明における「枠体1」、「障子2」及び「サッシ」は、本件訂正発明4における「枠部」、「障子」及び「建具」に相当する。
甲1発明において、「枠体1」が室内端部で「障子2の框体3と当接」する箇所となる「室内気密材10c,11c,12c」は、いずれも本件訂正発明4における「枠部に障子が当接可能な戸当り部」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30」、「下遮炎壁部35」及び「縦遮炎壁部40」は、いずれも本件訂正発明4における「隔壁」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40」が「上下左右の四周に渡って形成され」、かつ「室内端部の室内気密材10c,11c及び12cから見込方向で離隔し、室内気密材10c,11c及び12cと障子2とが当接する箇所に斜めに対向した位置で、枠体1と障子2との間の空間を、わずかの隙間を空けつつ区切」る構成と、本件訂正発明4において、「前記戸当り部と障子との当接部に対向し前記当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る断面階段状の隔壁が設けられ」る構成とは、「前記戸当り部と障子との当接部に対向し前記当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切る隔壁が設けられ」る点で、共通している。
甲1発明における、「枠体1と障子2との間の空間のうち、上遮炎壁部30及び下遮炎壁部35に対して、室内気密材10c,11cと反対側の空間」は、本件訂正発明4における「隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間」に相当する。

すなわち、本件訂正発明4と甲1発明とは、次の点で一致する。
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、戸当り部と障子との当接部に対向し前記当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切る隔壁が設けられており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間を有する、建具。」

そして両者は、次の点で相違する。
(相違点4a)
本件訂正発明4では、「隔壁」の形状が「断面階段状」であり、「前記戸当り部と障子」との「前記当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る」ように設けられたうえで、「前記当接部に対向する前記隔壁」に「加熱発泡材」が設けられているのに対し、
甲1発明では、「上枠10から延出し上框20と対向する上遮炎壁部30、下枠11から延出し下框20と対向する下遮炎壁部35、及び縦枠12から突出し垂直に伸びる垂直面部41と垂直面部41の先端部から伸び縦框22の外周面部22bと対向する対向面部42とを有する縦遮炎壁部40」が、「断面階段状」の形状をもって「前記当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る」ように設けられてはおらず、また「加熱発泡材」も設けられていない点。

(相違点4b)
本件訂正発明4では、「ステイダンパー」が、「隔壁」の「当接部と反対側」における「枠部と障子で仕切られた空間」に設置されており、また「建具」が「排煙窓」を備えているのに対し、
甲1発明では、ステイダンパーが設置されておらず、排煙窓も設けられていない点。

イ 判断
上記相違点4aについては、上記(3)ア(イ)で本件訂正発明3との相違点3a及び3bに関して、上記相違点3aの構成を採用すること自体についても、甲第1号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載されていないとともに、単なる設計事項ということもできないことを指摘したと同様の理由で、たとえ当業者といえども容易に想到できたものではない。
上記相違点4bについても、「ステイダンパー」及び「隔壁」の配置、並びに上記相違点4aにおける「前記当接部に対向する前記隔壁」に「加熱発泡材」を設けた点との組み合わせについて、上記(2)イで判断した本件訂正発明2との相違点2と同様の理由により、たとえ当業者といえども容易に想到できたものということができない。
したがって、相違点4a及び4bに係る本件訂正発明4に係る構成に至ることは、当業者にとって想到容易ということができない。

ウ 申立人の主張
申立人は、令和1年11月6日付け意見書において、本件訂正発明4と甲1発明との上記相違点4a及び4bのうち、「隔壁」を「断面階段状」とするとともに膨張時の加熱発泡材を隔壁で止めて加熱発泡材の密度を確保することは、本件訂正発明3について主張したと同様の理由で当業者であれば想到容易であり、また「加熱発泡材」を「当接部に対向する前記隔壁」に設け、「ステイダンパー」を「隔壁」の「当接部と反対側」における「枠部と障子とで仕切られた空間」に設けることは、本件訂正発明2について主張したと同様の理由で当業者が適宜なし得た設計事項程度であり、「排煙窓」を設けることについても同様に設計事項程度であるから、結局のところ本件訂正発明4は、甲1発明及び甲6発明に基いて、あるいは甲1発明及び甲第6?7号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している(同意見書第19頁下から2行-第21頁第11行)。
しかしながら、この点については上記イに判断したとおりであり、これに反する申立人の主張は採用することができない。

エ 小括
よって、本件訂正発明4に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。

(5)本件訂正発明5
ア 対比
甲1発明における「枠体1」、「障子2」及び「サッシ」は、本件訂正発明5における「枠部」、「障子」及び「建具」に相当する。
甲1発明において、「枠体1」が室内端部で「障子2の框体3と当接」する箇所となる「室内気密材10c,11c,12c」は、いずれも本件訂正発明5における「枠部に障子が当接可能な戸当り部」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30」、「下遮炎壁部35」及び「縦遮炎壁部40」は、アルミニウムを用いたサッシにおいて「遮炎」を行う部材であるから、不燃性の素材により構成されていることは明らかであり、いずれも本件訂正発明5における「不燃性の隔壁」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40」が「室内端部の室内気密材10c,11c及び12cから見込方向で離隔し、室内気密材10c,11c及び12cと障子2とが当接する箇所に斜めに対向した位置で、枠体1と障子2との間の空間を、わずかの隙間を空けつつ区切」る構成は、本件訂正発明5において、「前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切る不燃性の隔壁」が設けられる構成に、相当する。また甲1発明において、「縦遮炎壁部40」を「框体3から枠体1に向かって突出するよう形成」する選択肢は、当該構成は本件訂正発明5における「不燃性の隔壁が前記障子の縦框に固定され、前記枠部との間には間隙が形成され」る構成に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40」が「上下左右の四周に渡って形成され」ることから、「縦遮炎壁部40」は縦框の高さ方向全長に亘って設けられていると解され、当該構成は本件訂正発明5における「前記隔壁は前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられ」る構成に相当する。

すなわち、本件訂正発明5と甲1発明とは、次の点で一致する。
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が前記障子の縦框に固定され、前記枠部との間には間隙が形成され、前記隔壁は前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられている、建具。」

そして両者は、次の点で相違する。
(相違点5)
本件訂正発明5では、「加熱発泡材」が「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って」設けられ、かつ「前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」のに対し、
甲1発明では、加熱発泡材が設けられておらず、該加熱発泡材が「前記室内側の空間全体に熱膨張」しない点。

イ 判断
上記相違点5に係る本件訂正発明5の構成は、上記(1)ア(ア)に対比した本件訂正発明1との相違点1aに係る構成を含むものであり、上記(1)ア(イ)に判断したとおり、たとえ甲第6号証及び甲第7号証の記載を考慮したとしても、当該相違点1aに係る構成に至ることは、当業者が容易に想到できたものではない。
したがって、甲1発明において、上記相違点5に係る本件訂正発明5の構成に至ることは、たとえ甲第6号証及び甲第7号証の記載を考慮したとしても、当業者が容易に想到できたものではない。

ウ 申立人の意見書における主張
申立人は、令和1年11月6日付け意見書において、本件訂正発明5と甲1発明との上記相違点5に係る構成に至ることは、本件訂正発明3について主張したと同様の理由で当業者であれば想到容易である旨を主張している(同意見書第21頁第12行-第22頁下から7行)。
しかしながら、本件訂正発明5と甲1発明との相違点5に係る構成については、上記イに判断したとおり当業者が容易に想到できたものではなく、また本件訂正発明3に関する申立人の主張についても、上記(3)ウに指摘したとおりであるから、これに反する申立人の主張は採用することができない。

エ 小括
よって、本件訂正発明5に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。

(6)本件訂正発明6
ア 対比
甲1発明における「枠体1」、「障子2」及び「サッシ」は、本件訂正発明6における「枠部」、「障子」及び「建具」に相当する。
甲1発明において、「枠体1」が室内端部で「障子2の框体3と当接」する箇所となる「室内気密材10c,11c,12c」は、いずれも本件訂正発明6における「枠部に障子が当接可能な戸当り部」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30」、「下遮炎壁部35」及び「縦遮炎壁部40」は、いずれも本件訂正発明6における「隔壁」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40」が「室内端部の室内気密材10c,11c及び12cから見込方向で離隔し、室内気密材10c,11c及び12cと障子2とが当接する箇所に斜めに対向した位置で、枠体1と障子2との間の空間を、わずかの隙間を空けつつ区切」る構成は、本件訂正発明6において、「前記戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁」が設けられる構成に相当する。また、甲1発明において、「縦遮炎壁部40」を「框体3から枠体1に向かって突出するよう形成」し、「サッシの上辺や下辺も同様に構成」する選択肢は、「隔壁が前記障子に固定され、前記枠部との間には間隙が形成されて」いる構成に相当する。
甲1発明における、「枠体1と障子2との間の空間のうち、上遮炎壁部30及び下遮炎壁部35に対して、室内気密材10c,11cと反対側の空間」は、本件訂正発明6における「隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間」に相当する。

すなわち、本件訂正発明6と甲1発明とは、次の点で一致する。
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁が前記障子に固定され、前記枠部との間には間隙が形成されており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間を有する、建具。」

そして両者は、次の点で相違する。
(相違点6)
本件訂正発明6では、「前記当接部に対向する前記隔壁」に「加熱発泡材」が設けられ、「ステイダンパー」が「隔壁」の「当接部と反対側」における「枠部と障子で仕切られた空間」に設置されており、また「建具」が「排煙窓」を備えているのに対し、
甲1発明では、「加熱発泡材」及び「ステイダンパー」が設置されておらず、「排煙窓」も設けられていない点。

イ 判断
上記相違点6における「ステイダンパー」及び「隔壁」の配置、並びに「前記当接部に対向する前記隔壁」に「加熱発泡材」を設ける選択の組み合わせについては、上記(2)イで判断した本件訂正発明2との相違点2と同様の理由により、たとえ当業者といえども容易に想到できたものということができない。
したがって、相違点6に係る本件訂正発明6に係る構成に至ることは、当業者にとって想到容易ということができない。

ウ 申立人の意見書における主張
申立人は、令和1年11月6日付け意見書において、本件訂正発明6と甲1発明との上記相違点6に係る構成に至ることは、本件訂正発明2について主張したと同様の理由で当業者であれば想到容易である旨を主張している(同意見書第22頁下から6行-第23頁下から8行)。
しかしながら、本件訂正発明6と甲1発明との相違点6に係る構成については、上記イに判断したとおり当業者が容易に想到できたものではなく、これに反する申立人の主張は採用することができない。

エ 小括
よって、本件訂正発明6に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。

(7)本件訂正発明8
ア 対比
甲1発明における「枠体1」、「障子2」及び「サッシ」は、本件訂正発明8における「枠部」、「障子」及び「建具」に相当する。
甲1発明において、「枠体1」が室内端部で「障子2の框体3と当接」する箇所となる「室内気密材10c,11c,12c」は、いずれも本件訂正発明8における「枠部に障子が当接可能な戸当り部」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30」、「下遮炎壁部35」及び「縦遮炎壁部40」は、アルミニウムを用いたサッシにおいて「遮炎」を行う部材であるから、不燃性の素材により構成されていることは明らかであり、いずれも本件訂正発明8における「不燃性」の「隔壁」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40」が「上下左右の四周に渡って形成され」、かつ「室内端部の室内気密材10c,11c及び12cから見込方向で離隔し、室内気密材10c,11c及び12cと障子2とが当接する箇所に斜めに対向した位置で、枠体1と障子2との間の空間を、わずかの隙間を空けつつ区切」る構成と、本件訂正発明8において、「前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る不燃性の断面階段状の隔壁が前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って」設けられる構成とは、「前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切る不燃性の隔壁が前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って」設けられる点で、共通している。
また、甲1発明において、「縦遮炎壁部40」を「框体3から枠体1に向かって突出するよう形成」する選択肢は、本件訂正発明8において、「隔壁」が「前記縦框に固定され、前記枠部との間には間隙が形成されて」いる構成に相当する。

すなわち、本件訂正発明8と甲1発明とは、次の点で一致する。
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切る不燃性の隔壁が前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って前記縦框に固定され、前記枠部との間には間隙が形成されている、建具。」

そして両者は、次の点で相違する。
(相違点8a)
本件訂正発明8では、「不燃性」の「隔壁」の形状が「断面階段状」であり、「前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように」障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられてたうえで、「前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って加熱発泡材」が設けられるのに対し、
甲1発明では、「上枠10から延出し上框20と対向する上遮炎壁部30、下枠11から延出し下框20と対向する下遮炎壁部35、及び縦枠12から突出し垂直に伸びる垂直面部41と垂直面部41の先端部から伸び縦框22の外周面部22bと対向する対向面部42とを有する縦遮炎壁部40」が、「断面階段状」の形状をもって「前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように」設けられてはおらず、また「加熱発泡材」も設けられていない点。

(相違点8b)
本件訂正発明8では、上記相違点8aに係る「不燃性」の「隔壁」に設けられた「加熱発泡材」が、「前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できる」のに対し、
甲1発明では、加熱発泡材が設けられておらず、該加熱発泡材が「前記室内側の空間全体に熱膨張」しない点。

イ 判断
上記相違点8a及び8bについて判断する。
上記相違点8a及び8bは、上記(3)ア(ア)に対比した本件訂正発明3との相違点3a及び3bと実質的に同じ相違点であり、上記(3)ア(イ)に判断したと同様に、たとえ当業者が甲第6号証及び甲第7号証の記載を考慮したとしても、当業者が容易に想到できたものではない。

ウ 申立人の意見書における主張
申立人は、令和1年11月6日付け意見書において、本件訂正発明8と甲1発明との上記相違点8a及び8bに係る構成に至ることは、本件訂正発明3について主張したと同様の理由で、当業者であれば想到容易である旨を主張している(同意見書第23頁下から7行-第24頁下から8行)。
しかしながら、本件訂正発明8と甲1発明との相違点8a及び8bに係る構成については、上記イに判断したとおり当業者が容易に想到できたものではなく、また本件訂正発明3に関する申立人の主張についても、上記(3)ウに指摘したとおりであるから、これに反する申立人の主張は採用することができない。

エ 小括
よって、本件訂正発明8に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。

(8)本件訂正発明9
ア 対比
甲1発明における「枠体1」、「障子2」及び「サッシ」は、本件訂正発明9における「枠部」、「障子」及び「建具」に相当する。
甲1発明において、「枠体1」が室内端部で「障子2の框体3と当接」する箇所となる「室内気密材10c,11c,12c」は、いずれも本件訂正発明9における「枠部に障子が当接可能な戸当り部」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30」、「下遮炎壁部35」及び「縦遮炎壁部40」は、いずれも本件訂正発明9における「隔壁」に相当する。
甲1発明において、「上遮炎壁部30、下遮炎壁部35及び縦遮炎壁部40」が、「室内端部の室内気密材10c,11c及び12cから見込方向で離隔し、室内気密材10c,11c及び12cと障子2とが当接する箇所に斜めに対向した位置で、枠体1と障子2との間の空間を、わずかの隙間を空けつつ区切」る構成と、本件訂正発明9において、「前記戸当り部と障子との当接部に対向し前記当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る断面階段状の隔壁が」設けられる構成とは、「前記戸当り部と障子との当接部に対向し前記当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切る隔壁」が設けられる点で、共通している。また、甲1発明において、「縦遮炎壁部40」を「框体3から枠体1に向かって突出するよう形成」し、「サッシの上辺や下辺も同様に構成」する選択肢は、本件訂正発明9において、「隔壁が前記障子に固定され、前記枠部との間には間隙が形成されて」いる構成に相当する。
甲1発明における、「枠体1と障子2との間の空間のうち、上遮炎壁部30及び下遮炎壁部35に対して、室内気密材10c,11cと反対側の空間」は、本件訂正発明9における「隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間」に相当する。

すなわち、本件訂正発明9と甲1発明とは、次の点で一致する。
「枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向し前記当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切る隔壁が前記障子に固定され、前記枠部との間には間隙が形成されており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間を有する、建具。」

そして両者は、次の点で相違する。
(相違点9a)
本件訂正発明9では、「隔壁」の形状が「断面階段状」であり、「前記戸当り部と障子」との「前記当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る」ように設けられたうえで、「前記当接部に対向する前記隔壁」に「加熱発泡材」が設けられているのに対し、
甲1発明では、「上枠10から延出し上框20と対向する上遮炎壁部30、下枠11から延出し下框20と対向する下遮炎壁部35、及び縦枠12から突出し垂直に伸びる垂直面部41と垂直面部41の先端部から伸び縦框22の外周面部22bと対向する対向面部42とを有する縦遮炎壁部40」が、「断面階段状」の形状をもって「前記当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る」ように設けられてはおらず、また「加熱発泡材」も設けられていない点。

(相違点9b)
本件訂正発明9では、「オイルを収納したステイダンパー」が、「隔壁」の「当接部と反対側」における「枠部と障子で仕切られた空間」に設置されており、また「建具」が「排煙窓」を備えているのに対し、
甲1発明では、ステイダンパーが設置されておらず、排煙窓も設けられていない点。

イ 判断
上記相違点9a及び9bについて判断する。
上記相違点9a及び9bに係る本件訂正発明9の構成は、上記(4)アに対比した本件訂正発明4との相違点4a及び4bに係る構成を含むものであり、さらに「ステイダンパー」が「オイルを収納した」との構成を追加したものであるところ、上記(4)イに判断したとおり、相違点4a及び4bの構成に至ることは、たとえ当業者が甲第6号証及び甲第7号証の記載を考慮したとしても、容易に想到できたものではないから、上記相違点9a及び9bに係る本件訂正発明9の構成に至ることについても、当業者が容易に想到できたということはできない。

ウ 申立人の意見書における主張
申立人は、令和1年11月6日付け意見書において、本件訂正発明9と甲1発明との上記相違点9a及び9bに係る構成に至ることは、本件訂正発明2及び3について主張したと同様の理由で、当業者であれば想到容易である旨を主張している(同意見書第24頁下から7行-第25頁下から3行)。
しかしながら、本件訂正発明9と甲1発明との相違点9a及び9bに係る構成については、上記イに判断したとおり当業者が容易に想到できたものではなく、また本件訂正発明2及び3に関する申立人の主張についても、上記(2)ウ及び(3)ウに指摘したとおりであるから、これに反する申立人の主張は採用することができない。

エ 小括
よって、本件訂正発明9に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。

(9)本件訂正発明10
本件訂正発明10は、本件訂正発明1ないし4のいずれかの構成を有し、さらに限定を行ったものであるところ、上記(1)ないし(4)に対比・判断したとおり、本件訂正発明1ないし4は、甲1発明を主たる引用発明として、たとえ当業者が甲第6号証及び甲第7号証の記載を考慮したとしても、当業者が容易に想到できたものではない。
したがって、本件訂正発明10も、甲1発明を主たる引用発明として、たとえ当業者が甲第6号証及び甲第7号証の記載を考慮したとしても、当業者が容易に想到できたものではなく、これに反する申立人の主張は採用することができない。
よって、本件訂正発明10に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。

(10)本件訂正発明11
本件訂正発明11は、本件訂正発明1ないし4のいずれかの構成を有し、さらに限定を行ったものであるところ、上記(1)ないし(4)に対比・判断したとおり、本件訂正発明1ないし4は、甲1発明を主たる引用発明として、あるいは甲6発明を主たる引用発明として、当業者が容易に想到できたものではない。また、本件訂正発明1ないし4は、先願1発明と同一ではない。
したがって、本件訂正発明11も、甲1発明を主たる引用発明として、あるいは甲6発明を主たる引用発明として、当業者が容易に想到できたものではなく、また、先願1発明と同一でもない。これに反する申立人の主張は、採用することができない。
よって、本件訂正発明11に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。

2 先の取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)甲第1号証に記載された発明との同一性
申立人は申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1及び6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する旨を主張している。
しかしながら、上記第2のとおり本件訂正は全て認められるとともに、訂正前の請求項1に係る発明を減縮した本件訂正発明1、及び訂正前の請求項6に係る発明を減縮した本件訂正発明11は、上記1(1)ア及び上記1(10)に示したとおり、いずれも甲1発明との相違点を有しており、甲1発明と同一ではない。そのため、本件訂正発明1及び11に係る特許は、甲1発明と同一との異議申立理由によって、取り消されるべきものではない。

(2)甲第1号証及び甲第5号証に照らした進歩性
申立人は申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明として、甲第5号証に記載された周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨を主張している。
しかしながら、甲第5号証は本件出願より後の平成27年7月22日に発行されたものであるから、甲第5号証の記載を特許法第29条第2項の判断における直接の証拠とすることはできない。そのため、本件訂正発明1ないし6及び8ないし11に係る特許は、甲1発明及び甲第5号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたとの異議申立理由によって、取り消されるべきものではない。
なお、甲第5号証と同じ内容を開示し、かつ本件出願より前に公開された甲第6号証に記載された事項を、副引用発明又は周知技術として考慮した場合の判断については、上記1に示したとおりである。、


第7 むすび
以上のとおり、本件訂正は全て認められるとともに、本件訂正発明1ないし6及び8ないし11に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件訂正発明1ないし6及び8ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
建具
【技術分野】
【0001】
本発明は、FIX窓(嵌め込み窓)や引き違い障子や排煙窓等の障子を納めた各種の窓やドア等を含む建具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載された連続ストアフロントでは、左右の縦枠と上枠及び下枠とからなる枠体において、左右の縦枠と上下枠の各両端面は長手方向に直角に切断された(これをぶつ切りという)切断面を有しており、枠体の左右の縦枠に上枠と下枠の両端面が当接して連結されている。そして、左右の縦枠と上枠及び下枠とにおける呑み込み部の開口端部にアタッチメントを設けることで、嵌め込みタイプ以外の各窓種タイプに対応できるようにしている。
また、特許文献2に記載された排煙窓においても、四辺の枠材がぶつ切りの端面を有していてキャップを角部で嵌合することでガラスパネルを保持している。
【0003】
また、図8?図9に示すストアフロント等に用いられる店装商品である排煙窓1は、例えば建物の開口部に固定された左右の縦枠2aと上枠及び下枠2bを組み立てた外枠2内に障子3が開閉可能に嵌め込まれている。障子3は左右の縦框3aと上框及び下框3bとからなる框体内にガラスパネル7を保持している。しかも、外枠2と障子3は、各枠材と各框材の両端面が長手方向に直角をなす切断面を有している。
【0004】
外枠2の左右の縦枠2aと上枠及び下枠2bの内面には、窓用のアタッチメント枠4がねじ等でそれぞれ固定されており、アタッチメント枠4に設けた戸当り部4aの凹部に不燃性の気密材5が嵌合され、この戸当り部4aに障子3の縦框3aが当接して閉鎖状態を形成して気密または水密に封止されている。しかも、アタッチメント枠4と障子3の縦框3aとの間の空間内には上下方向の下部にステイダンパー6が設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-197742号公報
【特許文献2】特開2004-251027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図8?図9に示す排煙窓1等において室内や室外に火災が発生すると、障子3の框材よりもアタッチメント枠4の方が薄板形状であるため熱変形の度合いが大きく、例えば縦框3aとアタッチメント枠4の戸当り部4aとの間に隙間が生じてしまう。この場合、アタッチメント枠4の熱変形が大きいと、気密材5では対応できない大きな隙間が戸当り部4aと縦框3aとの間に生じてしまう。すると、空気や火炎が図9の矢印で示すように隙間を通して屋内外に連通して火災が拡大するという不具合があった。
しかも、排煙窓1の縦框3aとアタッチメント枠4との間の空間に難燃性のオイルを含むステイダンパー6を設置していると、加熱でオイルが燃焼したり飛散したりする可能性があり、戸当り部4aと障子3の縦框3aとの隙間から屋内に火炎やオイル等が侵入する恐れがあった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、屋内や屋外で火災が発生したとしても、障子と枠部との間に生じる隙間から火炎等が連通することを阻止するようにした建具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による建具は、枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁に加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする。
本発明によれば、火災発生時に枠部と障子が熱変形して枠部の戸当り部と障子との当接部に隙間が生じたとしても、隔壁によって屋内外への火炎の連通を阻止して火災の拡大を抑制できることに加えて、加熱発泡材の熱膨張によって枠部の戸当り部と障子との当接部に生じる隙間を封止でき、しかも膨張時の加熱発泡材を隔壁で止めて密度を確保できるため、火炎の屋内外への流通を隔壁と加熱発泡材の二段階で阻止できる。
【0009】
また、本発明による建具は、枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁が設けられており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にオイルを収納したステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする。
火災等によってステイダンパーに含まれるオイル等が燃焼したり飛散したりしたとしても、隔壁によって火炎や空気の屋内外への流通を阻止でき、更に加熱発泡材が熱膨張することで戸当り部と障子との隙間を封止すると共にステイダンパーを封止できる。
【0010】
また、戸当り部と障子との当接部に対向する断面階段状の隔壁に加熱発泡材が設けられていることが好ましい。
戸当り部と障子との当接部に対向する断面階段状の隔壁に加熱発泡材を固定しておけば、火災時に、隔壁による火炎の連通の阻止に加えて、加熱発泡材の熱膨張によって枠部の戸当り部と障子との当接部に生じる隙間を封止でき、しかも膨張時の加熱発泡材を隔壁で止めて密度を確保できるため、火炎の屋内外への流通を隔壁と加熱発泡材の二段階で阻止できる。
【0011】
また、隔壁は枠部または障子の一方に固定され、他方との間に間隙が形成されていてもよい。
隔壁が枠部と障子の一方に固定され他方に間隙があっても、火災による火炎や空気の屋内外への直線的な流通や貫通を阻止できる。
また、隔壁は枠部と障子にそれぞれ固定されていてもよい。
隔壁が枠部と障子とにそれぞれ固定されていれば、火災による火炎や空気の屋内外への流通や貫通を確実に阻止できる。
また、隔壁は枠部または障子の一方に一体に形成されていてもよい。
【0012】
また、本発明による建具は、枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向するように不燃性の隔壁が設けられており、前記枠部はアタッチメントであり、前記アタッチメントの障子と反対側に外枠が設けられたことを特徴とする。
火災発生時に障子の框体とアタッチメントの戸当り部が熱変形して框体と戸当り部の間に隙間が生じたとしても、隔壁によって屋内外への火炎の連通を阻止して火災の拡大を抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による建具によれば、枠部の戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁を設けたから、火災発生時に熱変形によって枠部の戸当り部と障子の間に隙間が生じても屋内外に連通する火炎を隔壁によって阻止することができて、火災の拡大を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態による段窓を示す正面図である。
【図2】図1に示す段窓のA-A線水平断面図である。
【図3】図1に示す段窓のB-B線縦断面図である。
【図4】段窓の排煙窓における縦枠と障子との間に設けたアタッチメント枠と隔壁を示す図2の部分拡大断面図である。
【図5】図4に示すアタッチメント枠と障子と隔壁との間に設けた加熱発泡材が熱膨張した状態を示す要部斜視図である。
【図6】図4において、隔壁の内外に設けた加熱発泡材が熱膨張した状態を示す要部斜視図である。
【図7】図3において、下枠に設けたアタッチメント枠と障子の下框との間で加熱発泡材が熱膨張した状態を示す要部斜視図である。
【図8】従来の排煙窓における縦枠に設けたアタッチメント枠と障子とを示す要部水平断面図である。
【図9】図8に示す排煙窓におけるアタッチメント枠と縦框に隙間ができた状態を示す要部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態による建具としての段窓を図1乃至図7に基づいて説明する。
図1に示す実施形態による段窓10はストアフロント等の店装商品であり、上述した従来技術に示す段窓と同様な構成を備えている。段窓10は建物の躯体に形成された開口部に設置されている。段窓10は、外側の四角形の左右の縦枠11aと上枠11b及び下枠11cとからなる外枠11が中央部に設けた無目12で仕切られており、外枠11における無目12の下部の領域にはFIX窓13が配設され、上部の領域に開閉可能な排煙窓14が配設されている。
【0016】
縦枠11a、上枠11b、下枠11cは略角筒状であり、各両端面が長手方向に対して直角に切断されたぶつ切りの切断面を有している。そして、図1において、左右の縦枠11aの側面に上枠11bと下枠11cの各端面を当接させてタッピングねじ等で固定している。図1乃至図3において、段窓10における排煙窓14は、外枠11と無目12で形成された上部の枠内にアタッチメント枠部16が固定され、アタッチメント枠部16内に開閉可能な障子15が設置されている。アタッチメント枠部16は左右の縦アタッチメント枠18と上アタッチメント枠19及び下アタッチメント枠20とで形成されている。また、排煙窓14の外枠は左右の縦枠11a、上枠11b、無目12で構成されている。
【0017】
また、アタッチメント枠部16の内側に設置された障子15は左右の縦框22と上框23及び下框24とで形成され、内部にガラスパネル25を保持している。左右の縦框22と上框23及び下框24は各両端面が長手方向に直角に切断されたぶつ切りの切断面を有する。そして、図1から図3において、左右の縦框22に上框23と下框24の各端面を当接させてタッピングねじ等で固定している。また、排煙窓14の障子15は下框24に図示しないヒンジが設けられ、上框23にロック可能な錠が設けられていて、後述するステイダンパー34によって下框24のヒンジを中心にアタッチメント枠部16に対して安定して開閉可能とされている。
【0018】
そして、図2及び図4に示すアタッチメント枠部16と障子15において、縦アタッチメント枠18は例えば縦枠11a方向を向く断面略コの字形状の本体18aと縦框22側に延びる戸当り片18bとを有しており、例えばアルミ合金やステンレス等の金属で形成されている。
縦アタッチメント枠18の屋外側端面には、アタッチメント枠部16の縦枠11aに当接する第一凹部18cと縦框22側に設けた第二凹部18dが形成され、第一凹部18cと第二凹部18dに不燃性の第一シール材28と第二シール材29がそれぞれ嵌合されている。
【0019】
また、縦アタッチメント枠18の戸当り片18bの先端に形成した第三凹部18eには不燃性の第三シール材30が嵌合され、障子15の縦框22に当接している。戸当り片18bの第三凹部18eと第三シール材30とは戸当り部31を構成する。障子15が開閉する際、その閉鎖作動を戸当り片18bの戸当り部31に当接した位置で停止させるようにしている。
更に、縦アタッチメント枠18と縦框22とで仕切る空間内には戸当り片18bと縦框22との間に不燃性の隔壁33が取り付けられている。隔壁33は例えば断面階段状のアングル材からなり、少なくとも一方の端部が縦框22(または戸当り片18b)に連結されているが、一体に形成されていてもよい。隔壁33は例えばアルミ合金やスチール、ステンレス等の金属からなっていることが好ましい。ここで、図4?図6で示す縦アタッチメント枠18と縦框22とで仕切る空間Kにおいて、隔壁33で仕切った屋外側を空間k1、屋内側を空間k2というものとする。
【0020】
また、隔壁33と縦アタッチメント枠18と縦框22とで仕切られた屋外側の空間k1内には、排煙窓14を確実に開閉させるために図示しない不燃性のオイルとコイルスプリング等を収納したステイダンパー34が収納されている。このステイダンパー34は例えば縦アタッチメント枠18と縦框22の間で高さ方向の下部に配設されている。
ステイダンパー34に収納したオイルは高温加熱によって火災等の際に爆発したり飛び散ったりする可能性があり、オイルが屋内側に飛散したりすることを隔壁33によって防ぐようにしている。しかも、オイルの飛散の範囲を縦框22の長手方向の下から半分程度の範囲と想定して、バリアとして設けた隔壁33は少なくとも下端から半分程度以上の高さに亘って設置するものとする。なお、縦框22の高さ方向の上端付近はスペースがなく隔壁33を設置しなくてよい。
【0021】
また、隔壁33と縦アタッチメント枠18と縦框22とで仕切られた屋外側の空間k1内において、ステイダンパー34におけるオイルの爆発や飛散等から排煙窓14を保護するために加熱発泡材が固定されている。即ち、縦アタッチメント枠18の本体18aの縦框22に対向する面には第一の加熱発泡材36がねじ26や接着剤等で固定され、縦框22の縦アタッチメント枠18の本体18aに対向する面にも第二の加熱発泡材37が固定され、更に本体18aに対向する隔壁33の面にも第三の加熱発泡材38が固定されている。
また、隔壁33と戸当り片18bと縦框22とで仕切られた屋内側の空間k2内において、戸当り片18bに対向する隔壁33(または戸当り片18b)に第四の加熱発泡材39が固定されている。なお、第一?第四の加熱発泡材36,37,38、39はステイダンパー34の設置位置に対向して縦框22の下端部に設置すると共に上端部まで延びているものとする。
【0022】
そして、図5及び図6に示すように、火災等の際に、ステイダンパー34を第一?第四の加熱発泡材36,37,38、39が熱膨張して包囲することで、オイルが飛散したり爆発したりすることを防止できる。また、火災等の際、縦アタッチメント枠18が熱変形して戸当り片18bと縦框22との間に隙間が発生した際、この隙間を通して火炎や空気等が屋内外を連通することを隔壁33と空間K内で熱膨張する第一?第四の加熱発泡材36,37,38、39によって封止できる。
特に、第一?第四の加熱発泡材36,37,38、39に加えて隔壁33を設置することで、加熱発泡材36,37,38、39の熱膨張は隔壁33によって制限されるので、加熱発泡材36,37,38、39が排煙窓14の外部に膨出することを防止できて加熱発泡材の密度を高めることができる。なお、空間k1内にステイダンパー34を設置しない場合には、隔壁33の屋内側の空間k2にのみ加熱発泡材39を設けてもよい。或いは、空間k1にのみ加熱発泡材36?38を設けてもよい。
【0023】
次に、図3及び図7において、無目12側には窓用の下アタッチメント枠20が図示しないねじ等で固定されている。この下アタッチメント枠20は無目12側を向く断面コの字状の本体20aと反対側の下框24側に延びる戸当り片20bとを有している。そして、下アタッチメント枠20における屋外側端部に第一凹部20cを形成して不燃性の第四シール材42を嵌合させている。また、戸当り片20bの先端部に形成した第二凹部20dには障子15の下框24に当接する不燃性の第五シール材43を嵌合させた戸当り部44が設けられている。
【0024】
また、無目12の屋外側端部には押縁部材45が設けられ、押縁部材45を下アタッチメント枠20の屋外側端部の第四シール材42に当接させた状態で無目12に押圧して固定している。下アタッチメント枠20の本体20aの戸当り片20b側には第五の加熱発泡材47がねじや接着剤等で固定されている。そして、火災等で下框24に対して下アタッチメント枠20が熱変形して隙間が発生すると、第五の加熱発泡材47が熱膨張することで下框24と戸当り部44との隙間を封止することができる。
【0025】
また、下アタッチメント枠20の本体20aには、第五の加熱発泡材47に並んで例えば断面略L字状の下部の隔壁49が固定されている。下部の隔壁49は、下アタッチメント枠20が熱変形して戸当り部44と下框24との間に隙間が発生した場合に、火炎が屋内外を貫通することを阻止できる。また、第五の加熱発泡材47が熱膨張した際、この加熱発泡材47が外部、例えば屋外方向に飛び出すことを下部の隔壁49で防止して加熱発泡材の密度を高く維持している。
【0026】
また、図3において、外枠11の上枠11bには窓用の上アタッチメント枠19が図示しないねじ等で固定されている。このアタッチメント枠19は上枠11b側を向く断面コの字状の本体19aと反対側の上框23側に延びる戸当り片19bとを有している。そして、上アタッチメント枠19における屋外側端部に第一凹部19cを形成して不燃性の第六シール材54を嵌合させている。また、戸当り片19bの先端部に形成した第二凹部19dには障子15の上框23に当接する不燃性の第七シール材55を嵌合させた戸当り部52が設けられている。上アタッチメント枠19の上框23側の本体19aにねじや接着剤等で固定された第六の加熱発泡材53を設けている。
【0027】
上述した外枠11において、左右の縦枠11a、上枠11b、無目12のそれぞれの内面に窓用の縦アタッチメント枠18、上アタッチメント枠19、下アタッチメント枠20が取り付けられており、火災の時に各アタッチメント枠18,19,20は障子15の縦框22、上框23、下框24との間の任意の位置で熱膨張率の違いによる隙間を生じるから、各加熱発泡材36,37,38、39、47、53は間隙を形成することがないように、アタッチメント枠18,19、20の四面全周に連続して取り付けることが好ましい。
【0028】
本実施形態による段窓10の排煙窓14は上述の構成を備えているから、例えば室外で火災が発生した場合、障子15の縦框22、上框23、下框24とアタッチメント枠18,19、20とはその厚みの違いや材質の違い等によって熱変形の割合が異なるため、薄板状のアタッチメント枠18,19、20がより大きく熱変形して、戸当り部31、44、52と障子15の縦框22、下框24、上框23との間に隙間がそれぞれ発生してしまう。しかも、その隙間は縦框22、下框24、上框23と戸当り部31、44、52との間にそれぞれ設けた各シール材30、43、55の伸縮量を超える大きさであると、各シール材30、43、55では封止状態を維持できない。
これに対し、本実施形態において、例えば図4に示す障子15の縦框22と縦アタッチメント枠18の戸当り部31との間に隙間が発生したとしても、縦アタッチメント枠18の戸当り片18bと縦框22との間に隔壁33を設けたため、屋内外を流通する火炎や空気の多くは隔壁33によって阻止される。
【0029】
しかも、図5に示すように、隔壁33とアタッチメント枠18の戸当り片18bとの間に設けた第四の加熱発泡材39が熱膨張することによって戸当り部31と縦框22との間の隙間を封止する。すると、上述した隔壁33と戸当り片27bとの間に若干の間隙があっても第四の加熱発泡材39の熱膨張によって気密または液密に隙間を封止できるため、火炎や空気が屋内外を連通することを防止できる。
【0030】
また、火災等によって、縦アタッチメント枠18と縦框22と隔壁33との間の空間k1に設置したステイダンパー34内の不燃性のオイルが高温になって爆発したり飛散したりする可能性があるが、この場合でも、ステイダンパー34の屋内側に隔壁33が設置されているから、屋内側への直線的な炎の貫通やオイルの飛散等を隔壁33によって阻止できる。
しかも、図2、図6に示すように、ステイダンパー34の周囲には、縦アタッチメント枠18に固定した第一の加熱発泡材36、縦框22に固定した第二の加熱発泡材37、隔壁33に固定した第三の加熱発泡材38が熱膨張して、縦アタッチメント枠18と縦框22と隔壁33との間の空間k1に充満することになり、ステイダンパー34の周囲を封止してオイルの爆発や飛散等を防止できる。しかも、上述したように、第四の加熱発泡材39が熱膨張することによって戸当り部31と隔壁33との間の隙間を封止するため、ステイダンパー34のオイルの爆発や屋内側への飛散等を確実に防止できる。
【0031】
同様に、図7に示す無目12に取り付けた下アタッチメント枠20の戸当り部44と障子15の下框24との間に隙間が発生したとしても、本体20aに固定した第五の加熱発泡材47が熱膨張して戸当り部44と下框24との間の隙間を封止するため、屋外と屋内を連通させない。しかも、下アタッチメント枠20の本体20aには下部の隔壁49を設けたから、火炎が屋内外を貫通することを阻止すると共に第五の加熱発泡材47が膨張して屋外側に飛び出すことを防止して密度を高めることができる。
【0032】
また、図3においても、上アタッチメント枠19の熱変形により障子15の上框23と上アタッチメント枠19の戸当り部52との間に隙間が形成されたとしても、第六の加熱発泡材53が熱膨張するため、隙間を埋めて封止することができる。そのため、火炎や空気が屋内外を連通することを防止できる。
【0033】
上述のように本実施形態による段窓10の排煙窓14は、外枠11の縦枠11aに設けた縦アタッチメント枠18の戸当り部31と障子15の縦框22との間に熱変形による隙間が生じたとしても、屋内外への火炎の貫通を隔壁33によって防止できる。しかも、隔壁33と戸当り部31との間の隙間は第四の加熱発泡材39の熱膨張によって封止できる。そのため、屋外と屋内との間の熱の貫通を隔壁33と加熱発泡材39という二段の封止手段によって封止できる。また、隔壁33によって第四の加熱発泡材39の外部への飛び出しを抑制して密度を高めることができる。また、第一?第三の加熱発泡材36,37,38の熱膨張によっても隔壁33と戸当り部31との隙間を封止できる。
【0034】
また、縦アタッチメント枠18と縦框22と隔壁33によって仕切られた空間k1内にステイダンパー34を設けたため、火災時の熱でステイダンパー34内の不燃性のオイルが爆発したり飛散したりするおそれがあるが、第一?第三の加熱発泡材36,37,38が熱膨張して体積膨張することでステイダンパー34を覆って封止するため、火炎の貫通だけでなく、オイルの爆発や飛散を防止できる。特にステイダンパー34を設置した高さ方向の下部にも第一?第三の加熱発泡材36,37,38を設置したため、確実にステイダンパー34のオイルを封止できる。
更に、下アタッチメント枠20の戸当り部44と下框24との間に生じる隙間も、加熱発泡材47の熱膨張と隔壁49によって封止すると共に、第五の加熱発泡材47の外部への飛び出しを隔壁49で封止できる。また、上アタッチメント枠19の戸当り部52と上框23との間の隙間も第六の加熱発泡材53の熱膨張で封止できる。
【0035】
なお、本発明による排煙窓14は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更や置換等が可能である。以下に、本発明の変形例について説明するが、上述した実施形態で説明した部品や部材等と同一または同様なものについては同一の符号を用いて説明する。
例えば、上述した実施形態では、上框23に対向する上アタッチメント枠19の本体19aに加熱発泡材53を設置したが、図7と同様な隔壁49を設けてもよい。
また、縦アタッチメント枠18と縦框22と隔壁33との間の空間k1に第一から第三の加熱発泡材36,37,38を設けたが、ステイダンパー34を設置しない場合には、第一から第三の加熱発泡材36,37,38は設けなくてもよい。或いは空間k1を封止するために例えば1つの加熱発泡材だけを設けてもよい。
【0036】
また、第一?第四の加熱発泡材36、37、38、39を縦アタッチメント枠18の本体18a、縦框22、隔壁33に固定したが、これに代えて、空間k1、k2内の加熱発泡材が熱膨張して内部を充満できるものであれば、縦アタッチメント枠18の本体18a、戸当り片18b、縦框22、隔壁33の任意の位置や向きに固定してもよい。
【0037】
なお、上述した実施形態では、障子15において縦框22と上框23や下框24との連結部において、縦框22の側面に上框23や下框24の端面を当接させてタッピングねじで連結するようにしたが、上框23や下框24の側面に縦框22の端面を当接させてタッピングねじ等で連結させてもよいことは言うまでもない。
また、隔壁33、49の形状はアングル形状や断面L字形状に限定されるものではなく、火炎の貫通やオイルの爆発や飛散等を阻止できるものであれば円弧状等、適宜形状のものを採用できる。
【0038】
また、上述の実施形態では、第一?第六の加熱発泡材36,37,38,39、47,53は障子15の左右の縦框22、上框23、下框24またはアタッチメント枠18、19、20の全周に連続して固定するようにしたが、一部に不連続な部分があってもよい。
また、上述した実施形態では、段窓10の排煙窓14について説明したが、本発明はこのようなものに限定されるものではなく、引き違い障子やFIX窓等を含む各種の窓やドア、カーテンウォール等を含む各種の建具に適用できる。ドア等ではステイダンパー34を設置しないので、上述したように加熱発泡材の数を削減できる。また、ステイダンパー34を設けない場合には、隔壁33で仕切られた室外側の空間k1と室内側の空間k2のいずれか一方だけに加熱発泡材を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 段窓
11 外枠
11a 縦枠
11b 上枠
11c 下枠
12 無目
14 排煙窓
15 障子
16 アタッチメント枠部
18 縦アタッチメント枠
18a,19a、20a 本体
18b、19b、20b 戸当り片
19 上アタッチメント枠
20 下アタッチメント枠
22 縦框
23 上框
24 下框
31、44、52 戸当り部
33、49 隔壁
34 ステイダンパー
36 第一の加熱発泡材
37 第二の加熱発泡材
38 第三の加熱発泡材
39 第四の加熱発泡材
47 第五の加熱発泡材
53 第六の加熱発泡材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁に加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする建具。
【請求項2】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁が設けられており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にオイルを収納したステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする建具。
【請求項3】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る不燃性の断面階段状の隔壁が前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする建具。
【請求項4】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向し前記当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る断面階段状の隔壁が設けられており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする排煙窓を備えた建具。
【請求項5】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を室内側と室外側とに仕切るように不燃性の隔壁が前記障子の縦框に固定され、前記枠部との間には間隙が形成され、
前記隔壁は前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って設けられ、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする建具。
【請求項6】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向するように隔壁が前記障子に固定され、前記枠部との間には間隙が形成されており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする排煙窓を備える建具。
【請求項7】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向するように不燃性の隔壁が設けられており、前記枠部はアタッチメントであり、前記アタッチメントの障子と反対側に外枠が設けられたことを特徴とする建具。
【請求項8】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る不燃性の断面階段状の隔壁が前記障子の縦框の高さ方向下から半分以上に亘って前記縦框に固定され、前記枠部との間には間隙が形成され、前記当接部に対向し前記室内側にある前記隔壁の高さ方向全長に亘って加熱発泡材が設けられ、前記加熱発泡材が前記室内側の空間全体に熱膨張することによって、前記当接部に生じる隙間を封止できることを特徴とする建具。
【請求項9】
枠部に障子が当接可能な戸当り部が設けられ、前記戸当り部と障子との当接部に対向し前記当接部を有する空間を囲うように室内側と室外側とに仕切る断面階段状の隔壁が前記障子に固定され、前記枠部との間には間隙が形成されており、前記隔壁の前記当接部と反対側における前記枠部と障子で仕切られた空間にオイルを収納したステイダンパーが設置され、前記当接部に対向する前記隔壁に加熱発泡材が設けられていることを特徴とする排煙窓を備える建具。
【請求項10】
前記隔壁は前記枠部と前記障子のそれぞれに固定されている請求項1乃至4の何れか1項に記載された建具。
【請求項11】
前記隔壁は前記枠部または前記障子の一方に一体に形成されている請求項1乃至4のいずれか1項に記載された建具。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-28 
出願番号 特願2013-183376(P2013-183376)
審決分類 P 1 652・ 161- YAA (E06B)
P 1 652・ 857- YAA (E06B)
P 1 652・ 113- YAA (E06B)
P 1 652・ 121- YAA (E06B)
P 1 652・ 841- YAA (E06B)
P 1 652・ 853- YAA (E06B)
P 1 652・ 851- YAA (E06B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐々木 崇  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 西田 秀彦
有家 秀郎
登録日 2017-12-22 
登録番号 特許第6262965号(P6262965)
権利者 株式会社LIXIL
発明の名称 建具  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 川渕 健一  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 川渕 健一  

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