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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1359996
審判番号 不服2018-16103  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-04 
確定日 2020-02-12 
事件の表示 特願2014-65973「ガスインジェクションエンジンの燃料噴射方式」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月2日出願公開、特開2015-190328〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月27日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年8月28日付け(発送日:同年9月19日):拒絶理由通知書
平成30年1月17日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年3月20日付け(発送日:同年4月17日):拒絶理由通知書
平成30年6月15日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年8月6日付け(発送日:同年9月4日):拒絶査定
平成30年12月4日 :審判請求書の提出

第2 本件発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成30年6月15日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された次のとおりのものである。
「【請求項1】
ガス燃料を主燃料とするガスインジェクションエンジンのシリンダヘッド(2)に配設されてガス燃料をシリンダ(1)内に高圧で噴射する主ガス燃料噴射弁(5)及び前記主ガス燃料噴射弁からの前記ガス燃料の噴射前にディーゼル燃料を前記シリンダ内にパイロット噴射するパイロット燃料噴射弁(6)と、高圧ガス燃料を前記主ガス燃料噴射弁へ供給する主ガス燃料供給装置(8)とを備えたガスインジェクションエンジンの燃料噴射方式において、
前記ガスインジェクションエンジンの前記シリンダの側部に配設されて前記ガス燃料を前記シリンダ内へ前記シリンダの軸芯に対して略直交方向に低圧で噴射する副ガス燃料噴射弁(7)と、前記ガス燃料を前記副ガス燃料噴射弁へ供給する副ガス燃料供給装置(10)とをさらに備え、前記副ガス燃料噴射弁は、前記パイロット燃料噴射弁から前記ディーゼル燃料がパイロット噴射される前に燃焼に必要とされる前記ガス燃料の一部を前記副ガス燃料供給装置から供給されて前記シリンダ内に低圧でプレ噴射し、前記主ガス燃料噴射弁は、前記パイロット燃料噴射弁から前記ディーゼル燃料がパイロット噴射された後に燃焼に必要とされる前記ガス燃料の残部を前記主ガス燃料供給装置から供給されて前記シリンダ内に高圧で噴射することを特徴とするガスインジェクションエンジンの燃料噴射方式。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

1.(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.(拡大先願)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

理由1について
・請求項1ないし6に対して引用文献等1ないし4

理由2について
・請求項1ないし6に対して先願1

<引用文献等一覧>
1.特開2013-217334号公報
2.特表2006-501395号公報
3.特開2013-253529号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2013-7320号公報(周知技術を示す文献)
先願1.特願2012-273423号(特開2014-118858号)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2013-217334号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「2サイクルガスエンジン」に関して、図面(特に、図4を参照。)とともに以下の記載がある(なお、下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

(1)「【0001】
本発明は、2サイクルガスエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ガス等の燃料ガスを主燃料、圧縮着火性の良い軽油などの燃料油をパイロット燃料とし、高温雰囲気下の燃焼室内に該燃料油を噴射して自己着火させることで、主燃料である燃料ガスを燃焼させるガスエンジンが公知である。
【0003】
例えば特許文献1には、燃料ガスなどの圧縮着火性の悪い低セタン価燃料を主燃料とし、圧縮着火性の良い燃料油をパイロット燃料とした二元燃料ディーゼルエンジンが開示されている。この特許文献1のエンジンは、シリンダヘッドに設けられた燃料ガス噴射弁及びパイロット燃料噴射弁を備えており、該燃料ガス噴射弁及びパイロット燃料噴射弁から燃焼室に向けて燃料ガス及びパイロット燃料を噴射することで、高温の燃焼室内でパイロット燃料(燃料油)を自己着火させ、これにより主燃料(燃料ガス)を燃焼せしめるように構成されている。
【0004】
また例えば特許文献2には、圧縮着火性の悪い燃料ガスを主燃料とし、圧縮着火性の良い軽油や灯油等のディーゼル燃料をパイロット燃料としたガスエンジンが開示されている。この特許文献2のガスエンジンは、シリンダヘッドに設けられた吸気ポート及びディーゼル燃料噴射装置と、シリンダ周壁に設けられた燃料ガス噴射装置を備えている。そして、ピストンが下降する吸入行程時に吸気ポートから燃焼室に空気が導入され、吸入行程後期から圧縮行程後期の間の適正な時期に燃料ガス噴射装置から燃焼室に燃料ガスが噴射されるようになっている。そして、ピストンが上死点近傍まで上昇したタイミングでディーゼル燃料噴射装置から燃焼室にディーゼル燃料が噴射され、燃焼室内でディーゼル燃料が自己着火することで、主燃料である燃料ガスを燃焼せしめるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62-45339号公報
【特許文献2】特開平6-137150号公報」

(2)「【0032】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態の2サイクルエンジンについて図4を基に説明する。
図4は、本発明の第2の実施形態にかかる2サイクルガスエンジンを説明するための概略図であり、(a)はピストン4が上死点の10°?100°手前に位置している状態、(b)はピストン4が上死点の約5°手前に位置している状態、(c)はピストン4が上死点に位置している状態、を夫々示している。
【0033】
本実施形態の2サイクルガスエンジン1は、上述した実施形態と異なり、燃料ガス噴射手段が第1燃料ガス噴射手段(第1の燃料ガス噴射装置8A)と第2燃料ガス噴射手段(第2の燃料ガス噴射装置8B)とに別々に構成されている。第1の燃料ガス噴射装置8Aは、例えば上述した実施形態における燃料ガス噴射装置8と同じ位置、同じ向きに、同じ数だけ配置されている。一方、第2の燃料ガス噴射装置8Bは、図4に示したように、2つの第1の燃料ガス噴射装置8A、8Aの中間の位置に、シリンダ中心oを回転中心として円周方向に180°離れた位置に夫々2つ形成されている。また、第1の燃料ガス噴射装置8A及び第2の燃料ガス噴射装置8Bは、上述したECU12(燃料ガス噴射タイミング制御手段)に夫々接続されているものとする。
【0034】
そして図4(a)に示したように、ECU12から送信される信号に基づいて、ピストン4が上昇行程中の上死点の10°?100°手前に位置する時に、第2の燃料ガス噴射装置8Bから燃焼室cに向かって燃料ガス8bが噴射される。また図4(b)に示したように、ECU12(燃料ガス噴射タイミング制御手段)から送信される信号に基づいて、ピストン4が上死点近傍(例えば上死点の約5°手前)に達した時に、第1の燃料ガス噴射装置8Aから燃焼室cに向かって燃料ガス8aが噴射される。また上述した実施形態と同様に、ECU12(点火タイミング制御手段)から送信される信号に基づいて、燃料ガス8aが噴射されるのとほぼ同時に、燃料油噴射装置10から燃料油10aが噴射されるようになっている。
【0035】
このように、本発明の燃料ガス噴射手段が第1燃料ガス噴射手段(第1の燃料ガス噴射装置8A)と第2燃料ガス噴射手段(第2の燃料ガス噴射装置8B)とに別々に構成されていれば、第1の燃料ガス噴射装置8Aと第2の燃料ガス噴射装置8Bとで、燃料ガスの噴射方向を異ならしめることができる。したがって図4に示したように、第2の燃料ガス噴射装置8Bから噴射される燃料ガス8bの噴射方向を、第1の燃料ガス噴射装置8Aから噴射される燃料ガス8aの噴射方向よりも下方に向けることで、燃料ガス8bを燃焼室cの内部にて撹拌させ、燃料ガス8bの予混合化を促進させることができる。また、ピストン4が上死点の10°?100°手前に位置する時は、ピストン4が上死点近傍にある場合よりも燃焼室cの内部の圧力は低い状態である。このため、第2の燃料ガス噴射装置8Bとして、第1の燃料ガス噴射装置8Aとは異なる、その使用圧力に合った適当な噴射装置を採用することができる。
【0036】
以上、本発明の2サイクルガスエンジン1によれば、ピストン4が上昇行程にあり、且つピストン4が上死点の10°?100°手前に位置する時に燃料ガス噴射手段(燃料ガス噴射装置8又は第2の燃料ガス噴射装置8B)から燃料ガス8bを噴射することで、燃料ガス8bと空気との予混合化を促進し、燃焼全体に占める拡散燃焼の割合を低下させることで、NOx(窒素酸化物)の発生を抑制した2サイクルガスエンジンを提供することができる。
【0037】
以上、本発明の好ましい形態について説明したが、本発明は上記の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0038】
例えば上述した実施形態では、点火手段を燃料油噴射装置10によって構成していた。そして上述したように、ECU12(点火タイミング制御手段)から送信される信号に基づいて、燃料油噴射装置10から圧縮着火性の高い燃料油10aを高温雰囲気下の燃焼室c内に噴射することで、燃焼室c内の燃料ガスに点火するように構成していた。しかしながら本発明の点火手段はこれに限定されず、例えば、シリンダヘッド3に設けられた点火プラグを点火手段とし、ECU12(点火タイミング制御手段)から送信される信号に基づいて点火プラグを起動させ、該点火プラグにて生成される火花によって燃焼室c内の燃料ガスに点火するように構成してもよいものである。」

(3)引用文献1に記載された第1の燃料ガス噴射装置8Aは、ピストン4が上死点近傍に位置しているときに燃焼室cに向かって燃料ガス8aを噴射するものであるから、上死点近傍の燃焼室内圧力よりも高圧の燃料ガス8aを燃料ガス噴射装置8に供給する燃料ガス供給装置を備えることは自明である。
同様に、引用文献1に記載された第2の燃料ガス噴射装置8Bは、ピストン4が上死点の10°?100°手前に位置するときに燃焼室近傍に位置しているときに燃焼室cに向かって燃料ガス8bを噴射するものであるから、燃料ガス噴射時の燃焼室内圧力よりも高圧の(その使用圧力に合った)燃料ガス8bを燃料ガス噴射装置8Bに供給する燃料ガス供給装置を備えることは自明である。

(4)燃料ガス8aと燃料ガス8bは同じ燃料ガスといえる。

(5)上記(1)ないし(4)、及び図面(特に図4を参照)の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「燃料ガスを主燃料とする2サイクルガスエンジンのシリンダヘッドに配設されて燃料ガス8aをシリンダ2内に高圧で噴射する第1の燃料ガス噴射装置8A及び前記第1の燃料ガス噴射装置8Aからの前記燃料ガス8aの噴射とほぼ同時に燃料油10aを前記シリンダ2内に噴射する燃料油噴射装置10と、高圧燃料ガスを前記燃料ガス噴射装置8Aへ供給する燃料供給装置とを備えた2サイクルガスエンジンの燃料噴射方式において、
前記2サイクルガスエンジンの前記シリンダヘッド3に配設されて燃料ガス8bを前記シリンダ2内へその使用圧力で噴射する燃料ガス噴射装置8Bと、前記燃料ガス8bを前記燃料ガス噴射装置8Bへ供給する燃料供給装置とをさらに備え、前記燃料ガス噴射装置8Bは、前記燃料油噴射装置10から前記燃料油10aが噴射される前に燃焼に必要とされる前記燃料ガス8bを前記燃料供給装置から供給されて前記シリンダ2内に第1の燃料ガス噴射装置8Aとは異なるその使用圧力で先に噴射し、前記燃料ガス噴射装置8Aは、前記燃料油噴射装置10から前記燃料油10aが噴射されるのとほぼ同時に燃焼に必要とされる前記ガス燃料の残部を前記燃料供給装置から供給されて前記シリンダ2内に高圧で噴射する2サイクルガスエンジンの燃料噴射方式。」

2.引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特表2006-501395号公報には、「気体燃料供給内燃機関の制御方法及び制御装置」に関して、図面とともに、以下の記載がある。

(1)「【0001】
本発明は直接噴射式内燃機関の燃焼室に燃焼事象を作り出す方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスを利用したディーゼルエンジンの作動には排出に利点がある。一例として、天然ガスは(ディーゼルよりも)クリーンな燃焼燃料である。即ち、天然ガスによって一般的にエンジンは、粒子状物質(PM)、炭化水素、温室ガス、及び窒素酸化物(NOx)の排出レベルが低下した状態で作動する。
【0003】
また、従来の燃料を比較的豊富にあり且つ幅広く入手可能な燃料である天然ガスと取り替えると、石油への依存を低減させる助けとなる。
本開示では、本発明は天然ガス燃料供給エンジンに関して記載される。しかしながら、同様の利点が得られるその他の気体燃料と取り替えられてもよい。一例として、メタン、エタン、プロパン、及びより軽量な可燃炭化水素誘導体、並びに水素及びハイタン(商標名:天然ガス及び水素の混合物)等の気体燃料、更にはその他の気体燃料もまた本発明において使用される。
【0004】
天然ガス燃料供給エンジン技術における近年の発展によって、高圧で燃焼室に噴射される天然ガスにより、ディーゼルエンジンの性能と同様なエンジン性能となることが証明された。本願出願人が発展させた高圧直接噴射技術はHPDI(商標名)として知られており、ディーゼル燃料供給エンジンの性能に対して僅かに不利益となるだけで或いは全く不利益なることなく、ディーゼル燃料供給エンジンに関連する排出レベルを解決する策を提供する。
【0005】
最新のディーゼルエンジン技術を利用する天然ガスでは、着火アシスト方式が必要とされる。ディーゼル燃料とは異なり、天然ガスは典型的に作動するディーゼルエンジンにおいて作り出された燃焼室環境に噴射される時には、迅速に自己着火しない。従って、かかるエンジンにおいて天然ガスの適時の着火及び燃焼を確実に行なうために、着火アシストが提供される。本開示上、燃料の自己着火温度は、燃料の自己着火及び燃焼を生じさせる燃焼室内の吸気温度である。自己着火はピストンに所要エネルギーを供給するのに適した燃料を直接噴射した後の時間範囲内に生じるべきである。明確にするために、着火アシスト方式は、メタノール及び自己着火温度が比較的高い他の燃料等の液体燃料と同様に、上述したその他の気体燃料でも必要とされる。
【0006】
このような着火アシスト方式の一つではグロープラグ又は燃焼室へ突出するその他の熱面を採用している。このような熱面に衝突した天然ガスは点火して燃焼する。
第2の着火アシスト方式ではパイロット燃料として少量のディーゼルを使用する。ここでディーゼルは、天然ガスが噴射させられる直前に、又は略同時期に燃焼室へ噴射される。この時ピストンは上死点付近にある。ディーゼルは一般的にピストンが上死点付近にある時に室内に作り出される状態において自己着火するので、このディーゼルの燃焼により天然ガス等の主要気体燃料の着火が引き起こされる。」

(2)上記(1)から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されているといえる。

「パイロット燃料としての少量のディーゼル燃料は、天然ガスが噴射させられる直前に、又は略同時期に燃焼室へ噴射されること。」

3.先願
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に出願された特許出願であって、本願の出願後に出願公開がされた特願2012-273423号(特開2014-118858号)(以下、「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、「ガスエンジン駆動システムおよび船舶」に関して、図面とともに、以下の記載がある。

(1)「【0001】
本発明は、天然ガスを燃料とするガスエンジンを備えたガスエンジン駆動システムおよびこのガスエンジン駆動システムを用いた船舶に関する。」

(2)「【0019】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態に係るガスエンジン駆動システム10Aを用いた船舶1を示す。この船舶1は、ガスエンジン駆動システム10Aが装備された船体11と、ガスエンジン駆動システム10Aにより駆動される推進軸13とを備えている。推進軸13の一端には、プロペラ15が取り付けられている。
【0020】
ガスエンジン駆動システム10Aは、2ストロークガスエンジン2Eと、このガスエンジン2Eの燃料である天然ガスを液体状態で貯蔵するタンク(いわゆるLNGタンク)3とを備えている。ガスエンジン2Eは、推進軸13と連結されたクランク軸12と、クランク軸12を覆うケーシング14と、クランク軸12の軸方向に並ぶ複数(図1では図面の簡略化のために2つのみ作図)のシリンダ2とを含む。
【0021】
天然ガスは、通常はメタンを主成分として含む。タンク3は、-162℃程度まで冷却され液化した天然ガスを貯蔵できるようにタンク外からタンク内への熱の侵入を阻止する断熱構造を有している。なお、タンク3は、LNG運搬船の1つまたは複数のタンクと兼用されていてもよいし、ガスエンジン2Eに専用のタンクであってもよい。
【0022】
各シリンダ2は、図2に示すように、例えば鉛直方向に延びるシリンダライナ21と、シリンダライナ21の上端を塞ぐシリンダヘッド22とを含む。本実施形態では、シリンダライナ21に空気導入口2aが設けられており、シリンダヘッド22に排気口2bが設けられている。すなわち、シリンダ2はユニフロー式となっている。ただし、シリンダ2は、シリンダライナ21に排気口2bが設けられたクロス式やループ式であってもよい。
【0023】
シリンダ2内にはピストン23が配設されており、シリンダ2およびピストン23によって燃焼室20が形成されている。ピストン23は、シリンダ2内で往復運動するものであり、連結棒24によりクランク軸12と連結されている。なお、ピストン23は、連結棒24と直接ピン接合されていてもよいが、ピストン棒(図示せず)を介して連結棒24とピン接合されていてもよい。
【0024】
排気口2bは、図略のアクチュエータにより作動させられる排気弁25により開閉される。排気弁25は、ピストン23が下降する際に、ピストン23の受圧面(本実施形態では上面)が空気導入口2aに到達する前、換言すれば空気導入口2aが燃焼室20と連通する前に開かれる。すなわち、ピストン23の下降開始から排気弁25が開かれるまでが膨張行程であり、排気弁25が開かれてから空気導入口2aが燃焼室20と連通するまでが排気行程である。また、排気弁25は、ピストン23が上昇する際に、ピストン23の受圧面が空気導入口2aを通過した後、換言すれば空気導入口2aの燃焼室20との連通状態が解除された後に閉じられる。すなわち、空気導入口2aが燃焼室20と連通してから排気弁25が閉じられるまでが掃気行程であり、排気弁25が閉じられてからピストン23の上昇終了までが圧縮行程である。なお、図3では、ピストン23が上死点に位置した状態を示す。
【0025】
各シリンダ2の空気導入口2aは、掃気管16を介して掃気マニホールド15に接続されており、各シリンダ2の排気口2bは、排気管17を介して排気マニホールド18に接続されている。排気マニホールド18に収集された排気は、過給機(ターボチャージャー)19に送られて大気中の空気を圧縮する動力として使用された後に、系外に排出される。過給機19で圧縮された空気は掃気マニホールド15に送られ、ここで分配されて各シリンダ2に掃気として供給される。
【0026】
また、各シリンダ2には、燃料である天然ガスを燃焼室20内に噴射する第1燃料噴射機構4および第2燃料噴射機構5、ならびにパイロットオイルを燃焼室20内に噴射する液噴射弁9が設けられている。本実施形態では、第1燃料噴射機構4および第2燃料噴射機構5としてガス噴射弁が用いられており、シリンダライナ21に第1燃料噴射機構4が設けられ、シリンダヘッド22に第2燃料噴射機構5およびパイロットオイル噴射弁9が設けられている。ただし、第1燃料噴射機構4および第2燃料噴射機構5の一方または双方は、シリンダライナ21またはシリンダヘッド22に設けられた貫通穴と、この貫通穴と連通する配管に設けられた電磁弁とで構成されていてもよい。」

(3)「【0027】
図4に示すように、第1燃料噴射機構4は、一度の燃焼に必要な量の天然ガスの一部をピストン23が下死点からシリンダヘッド22に向かって上昇する際に低圧で噴射するものであり、第2燃料噴射機構5は、一度の燃焼に必要な量の天然ガスの残りをピストン23が上死点に位置する直前から直後までの遷移期間内に高圧で噴射するものである。第1燃料噴射機構4から噴射される天然ガス35の圧力は、過給機19で圧縮された空気の圧力よりも僅かに高い程度(例えば、0.5?1.0MPa程度)である。第2燃料噴射機構5から噴射される天然ガス32の圧力は、ピストン23が上死点に位置するときの燃焼室20内の圧力よりも僅かに高い程度(例えば、15?30MPa程度)である。遷移期間とは、例えば、クランク軸12の回転角度で、ピストン23が上死点に位置するタイミングから±10度である。
【0028】
第1燃料噴射機構4から噴射される低圧の天然ガス35(図2参照)と第2燃料噴射機構5から噴射される高圧の天然ガス32(図3参照)の比率は、タンク3内で気化するボイルオフガス量や要求出力などに応じて制御される。第1燃料噴射機構4および第2燃料噴射機構5は、例えばクランク軸12の回転角度を検出するセンサの検出値に基づいて制御される。
【0029】
図3に示すように、第1燃料噴射機構4は、ピストン23が上死点に位置したときに、ピストン23によって燃焼室20と隔離される位置に配置されることが望ましい。第1燃料噴射機構4を燃焼時の衝撃から保護できるからである。例えば、第1燃料噴射機構4は、空気導入口2aとほぼ同じ高さ位置に配置されてもよい。ただし、第1燃料噴射機構4は、必ずしもそのような位置に配置されている必要はなく、例えばシリンダヘッド22に設けられていてもよい。
【0030】
液噴射弁9には、パイロットオイル供給路92を通じてオイルポンプ91から軽油や重油などのパイロットオイル90が供給される。液噴射弁9は、第2燃料噴射機構5から高圧の天然ガス32が噴射される直前にパイロットオイル90を噴射する。圧縮空気中にパイロットオイル90が噴射されるとパイロットオイル90が発火し、これにより圧縮空気と天然ガスの混合気が燃焼する。
【0031】
図1に示すように、各シリンダ2の第1燃料噴射機構4には、タンク3内で気化した天然ガス(BOG)35が第1供給路6により導かれる。一方、タンク3に貯蔵された液体状態の天然ガス31は、送液路71により気化器73に導かれる。すなわち、タンク3から抜き出された液体状態の天然ガス31は、気化器73により気化される。気化した天然ガス32は、第2供給路74により気化器73から各シリンダ2の第2燃料噴射機構5に導かれる。例えば、第1供給路6の上流端はタンク3の上部に接続され、送液路71の上流側部分は、タンク3の上部を貫通してタンク3の底付近で開口している。
【0032】
第1供給路6には、タンク3内で気化した天然ガス35を上述した低圧、すなわち第1噴射機構4から噴射可能となる圧力まで昇圧する圧縮機61が設けられている。一方、送液路71には、昇圧ポンプ72が設けられている。この昇圧ポンプ72は、気化器73により気化された天然ガス32が第2燃料噴射機構5から噴射可能な上述した高圧となるように、液体状態の天然ガス31を昇圧する。
【0033】
各シリンダ2ごとの1サイクルにおける第1燃料噴射機構4から噴射される低圧の天然ガス35と第2燃料噴射機構5から噴射される高圧の天然ガス32の比率は、例えば次のようにして決定される。燃焼室20内に導入される前の空気に燃料ガスの全量(一度の燃焼に必要な量の天然ガス)を混合した場合には、図5に示すようなノッキング領域と失火領域が存在する。一度の燃焼に必要な天然ガスの量GTは、ガスエンジン2Eへの要求出力から求まる。そのときのエンジン回転数における正味平均有効圧PMでのノッキング限界(ガス量の上限値)をGN、失火限界(ガス量の下限値)をGSとする。また、タンク3内でのBOGの1分あたりの発生量をエンジン回転数(rpm)およびシリンダ2の数で割った値をGBとする。低圧の天然ガス35の量GLはGN以下であればよく、高圧の天然ガス32の量GHはGS以上であればよい。例えば、低圧の天然ガス35の量GLは、GBとGNの小さい方とし、高圧の天然ガス32の量GHは、GTからGLを引いて算出する。」

(4)「【0035】
以上説明したように、本実施形態のガスエンジン駆動システム10Aでは、天然ガスが二段階で噴射される。すなわち、一度の燃焼に必要な量の天然ガスの全てが空気と共に圧縮されるわけではないので、ノッキングを防止することができる。また、第1燃料噴射機構4からの天然ガスの噴射後に混合気が失火領域にあっても第2燃料噴射機構5から拡散燃焼用の天然ガスが噴射され、一度の燃焼に用いられるガスの量GTはGS以上となるように制御されるため、失火の問題も生じない。このため、圧縮行程においてはノッキング領域から十分に余裕を持った制御が可能となる。また、天然ガスの全量を例えば圧縮行程の終わりに噴射する場合に比べて、高圧で噴射される天然ガスの量が減少するため、液体状態の天然ガス31を昇圧するのに必要な設備や動力を低減することができる。さらに、タンク3内で気化した天然ガス35が第1燃料噴射機構4から噴射されるため、ボイルオフガスを燃料として有効に活用することができる。」

(5)上記(2)の段落【0026】の記載、(3)の段落【0027】の記載及び段落【0029】の記載から、第1燃料噴射機構4から噴射される低圧の天然ガスの噴射方向については特に限定されていないが、第1燃料噴射機構4はシリンダ2に設けられていることから、シリンダ軸と平行に噴射することはできないため、シリンダ軸と平行でない方向に噴射されているといえる。なお、図1を参照すると、第1燃料噴射機構4はシリンダ軸と略直交方向に設けられ、図2を参照すると、第1燃料噴射機構4はシリンダ軸と直交する方向よりもやや上向きに設けられている。

(6)上記(1)ないし(5)から、先願明細書等には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているといえる。

「天然ガスを主燃料とするガスエンジンのシリンダヘッド22に配設されて天然ガスをシリンダ2内に高圧で噴射する第2燃料噴射機構5及び前記第2燃料噴射機構5からの前記天然ガスの噴射前にパイロットオイル90を前記シリンダ2内に噴射する液噴射弁9と、高圧の天然ガスを前記第2燃料噴射機構5へ供給する送液路71、昇圧ポンプ72、気化器73及び第2供給路74とを備えたガスエンジン駆動システムにおいて、
前記ガスエンジンの前記シリンダ2の側部に配設されて前記天然ガスを前記シリンダ2内へ前記シリンダ軸に対して平行でない方向に低圧で噴射する第1燃料噴射機構4と、前記天然ガスを前記第1燃料噴射機構4へ供給する第1供給路6、圧縮機61とをさらに備え、前記第1燃料噴射機構4は、前記液噴射弁9から前記パイロットオイル90が噴射される直前に燃焼に必要とされる前記天然ガスの一部を前記第1燃料噴射機構4から供給されて前記シリンダ2内に低圧で噴射し、前記第2燃料噴射機構5は、前記液噴射弁9から前記パイロットオイル90が噴射された後に燃焼に必要とされる前記天然ガスの残部を前記送液路71、昇圧ポンプ72、気化器73及び第2供給路74から供給されて前記シリンダ2内に高圧で噴射するガスエンジン駆動システム。」

第5 対比・判断1(特許法第29条第2項について)
本件発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「燃料ガス」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件発明における「ガス燃料」に相当し、以下同様に、「2サイクルガスエンジン」は「ガスインジェクションエンジン」に、「シリンダヘッド」は「シリンダヘッド(2)」に、「シリンダ2」は「シリンダ(1)」に、「第1の燃料ガス噴射装置8A」は「主ガス燃料噴射弁(5)」に、「燃料供給装置」は「燃料供給装置」、「主ガス燃料供給装置」又は「副ガス燃料供給装置」に、「燃料油10a」は「ディーゼル燃料」に、(燃料油10aの)「噴射」は(ディーゼル燃料の)「パイロット噴射」に、「燃料油噴射装置10」は「パイロット燃料噴射弁(6)」に、「燃料ガス噴射装置8B」は「副ガス燃料噴射弁(7)」に、「燃料油10a」は「ディーゼル燃料」に、「先に噴射」は「プレ噴射」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「シリンダに配設されて」と、本件発明の「シリンダの側部に配設されて」は、「シリンダに配設されて」という限りにおいて一致する。
また、引用発明の「前記燃料油10aが噴射されるのとほぼ同時に」と、本件発明の「ディーゼル燃料がパイロット噴射された後に」は、「ディーゼル燃料がパイロット噴射された時に」という限りにおいて一致する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

〔一致点〕
「ガス燃料を主燃料とするガスインジェクションエンジンのシリンダヘッドに配設されてガス燃料をシリンダ内に高圧で噴射する主ガス燃料噴射弁及び前記主ガス燃料噴射弁からの前記ガス燃料の噴射前を含む時期にディーゼル燃料を前記シリンダ内にパイロット噴射するパイロット燃料噴射弁と、高圧ガス燃料を前記主ガス燃料噴射弁へ供給する主ガス燃料供給装置とを備えたガスインジェクションエンジンの燃料噴射方式において、
前記ガスインジェクションエンジンの前記シリンダに配設されて前記ガス燃料を前記シリンダ内へ噴射する副ガス燃料噴射弁と、前記ガス燃料を前記副ガス燃料噴射弁へ供給する副ガス燃料供給装置とをさらに備え、前記副ガス燃料噴射弁は、前記パイロット燃料噴射弁から前記ディーゼル燃料がパイロット噴射される前に燃焼に必要とされる前記ガス燃料の一部を前記副ガス燃料供給装置から供給されて前記シリンダ内にプレ噴射し、前記主ガス燃料噴射弁は、前記パイロット燃料噴射弁から前記ディーゼル燃料がパイロット噴射された時に燃焼に必要とされる前記ガス燃料の残部を前記主ガス燃料供給装置から供給されて前記シリンダ内に高圧で噴射する、ガスインジェクションエンジンの燃料噴射方式。」

〔相違点1〕
本件発明は、「前記ガスインジェクションエンジンの前記シリンダの側部に配設されて前記ガス燃料を前記シリンダ内へ前記シリンダの軸芯に対して略直交方向に」噴射する副ガス燃料噴射弁を備えるのに対して、引用発明は、2サイクルガスエンジンのシリンダヘッドに配設されて前記燃料ガスを前記シリンダ2内へ噴射する燃料ガス噴射装置8Bを備えるものの、前記ガスインジェクションエンジンの前記「シリンダの側部」に配設されて前記ガス燃料を前記シリンダ内へ前記シリンダの軸芯に対して「略直交方向に」噴射するものではない点。

〔相違点2〕
本件発明は、「低圧で」噴射する副ガス燃料噴射弁を備えるのに対して、引用発明は、燃料ガスをシリンダ2内へその使用圧力で噴射する燃料ガス噴射装置8Bを備えるものの、「低圧で」噴射するかどうか明らかでない点。

〔相違点3〕
本件発明は、前記主ガス燃料噴射弁は、前記パイロット燃料噴射弁から前記ディーゼル燃料がパイロット噴射された「後に」ガス燃料を噴射するのに対して、引用発明は、前記燃料ガス噴射装置8Aは、前記燃料油噴射装置10から前記燃料油10aが噴射されるのと「ほぼ同時に」燃料ガスを噴射する点。

上記相違点1ないし相違点3について検討する。

(1)相違点1について
本件発明における「シリンダの軸芯に対して略直交方向に」という発明特定事項は、当初明細書には明記されておらず、本願の図1を補正の根拠としている。ここで、本願の図1には、側面からみたガスインジェクションエンジンの簡略図が記載されていることから、本件発明における「シリンダの軸芯に対して略直交方向に」という発明特定事項は、技術常識を踏まえると、側面からみて「シリンダの軸芯に対して略直交方向に」という意味であると理解される。
ガスインジェクションエンジンの技術分野において、シリンダの側部に配設されてガス燃料をシリンダ内へシリンダの軸芯に対して略直交方向に噴射するガス燃料噴射弁を設けることは、本願出願前に周知の技術(以下「周知技術」という。例えば、特開2013-253529号公報の段落【0028】、【0029】、【0033】及び図1、特開2013-7320号公報の段落【0014】並びに図1及び図2、特開2012-36780号公報の要約及び図1ないし図3、特開平6-137150号公報の段落【0011】及び図1、特開平8-291769号公報の段落【0015】ないし【0017】及び図1ないし図7、米国特許第5035206号明細書の第4欄第1行ないし第29行及び図1等の記載を参照。)である。
してみれば、引用発明において、周知技術を適用することにより、相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用発明において、シリンダ2内へ燃料ガス噴射装置8Bから燃料ガスを噴射する時点では、ピストンは上死点の手前に位置しており、その時点でのシリンダ内圧(燃焼室cの内部の圧力)は、ピストンが上死点近傍に位置しているときのシリンダ内圧よりも低圧である(引用文献1の段落【0035】を参照。)。
してみると、その時点での噴射圧力を、ピストンが上死点近傍に位置しているときの燃料ガス噴射装置8Aの噴射圧力よりも「低圧」にすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項である。

(3)相違点3について
引用文献2には、「パイロット燃料としての少量のディーゼル燃料は、天然ガスが噴射させられる直前に、又は略同時期に燃焼室へ噴射されること。」(上記「引用文献2記載事項」)が記載されている。
そして、引用発明と引用文献2記載事項は、ガス燃料を利用するディーゼルエンジンという共通の技術分野において、ガス燃料の着火を改善するという共通の課題を解決するためのものである。
してみれば、引用発明において、引用文献2記載事項を適用することにより、相違点3に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)効果について
また、本件発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

(5)まとめ
したがって、本件発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 対比・判断2(特許法第29条の2について)
本件発明と先願発明とを対比すると、先願発明の「天然ガス」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件発明における「ガス燃料」に相当し、以下同様に、「ガスエンジン」は「ガスインジェクションエンジン」に、「シリンダヘッド22」は「シリンダヘッド(2)」に、「シリンダ2」は「シリンダ(1)」に、「第2燃料噴射機構5」は「主ガス燃料噴射弁(5)」に、「パイロットオイル90」は「ディーゼル燃料」に、「噴射」は「パイロット噴射」、「プレ噴射」又は「噴射」に、「液噴射弁9」は「パイロット燃料噴射弁(6)」に、「高圧の天然ガス」は「高圧ガス燃料」に、「第2燃料噴射機構5」に、「送液路71、昇圧ポンプ72、気化器73及び第2供給路74」は「主ガス燃料供給装置(8)」に、「第1燃料噴射機構4」は「副ガス燃料噴射弁(7)」に、「第1供給路6及び圧縮機61」は「副ガス燃料供給装置(10)」に、「液噴射弁9」は「パイロット燃料噴射弁」に、「直前」は「前」に、それぞれ相当する。
また、先願発明の(シリンダ軸に対して)「平行でない方向」は、本件発明の(シリンダの軸芯に対して)「略直交方向」と、(シリンダの軸芯に対して)「平行でない方向」という限りにおいて一致する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

〔一致点〕
「ガス燃料を主燃料とするガスインジェクションエンジンのシリンダヘッドに配設されてガス燃料をシリンダ内に高圧で噴射する主ガス燃料噴射弁及び前記主ガス燃料噴射弁からの前記ガス燃料の噴射前を含む時期にディーゼル燃料を前記シリンダ内にパイロット噴射するパイロット燃料噴射弁と、高圧ガス燃料を前記主ガス燃料噴射弁へ供給する主ガス燃料供給装置とを備えたガスインジェクションエンジンの燃料噴射方式において、
前記ガスインジェクションエンジンの前記シリンダに配設されて前記ガス燃料を前記シリンダ内へ前記シリンダの軸心に対して平行でない方向に噴射する副ガス燃料噴射弁と、前記ガス燃料を前記副ガス燃料噴射弁へ供給する副ガス燃料供給装置とをさらに備え、前記副ガス燃料噴射弁は、前記パイロット燃料噴射弁から前記ディーゼル燃料がパイロット噴射される前に燃焼に必要とされる前記ガス燃料の一部を前記副ガス燃料供給装置から供給されて前記シリンダ内にプレ噴射し、前記主ガス燃料噴射弁は、前記パイロット燃料噴射弁から前記ディーゼル燃料がパイロット噴射された後に燃焼に必要とされる前記ガス燃料の残部を前記主ガス燃料供給装置から供給されて前記シリンダ内に高圧で噴射する、ガスインジェクションエンジンの燃料噴射方式。」

〔相違点A〕
本件発明は、前記ガス燃料を前記シリンダ内へ前記シリンダの軸芯に対して「略直交方向に」低圧で噴射する副ガス燃料噴射弁を備えるのに対して、先願発明は、前記天然ガス35を前記シリンダ2内へ前記シリンダ2の軸芯に対して「平行でない方向に」低圧で噴射する第1燃料噴射機構4を備える点。

上記相違点Aについて検討する。
先願明細書には、第1燃料噴射機構4について、段落【0026】に「本実施形態では、第1燃料噴射機構4および第2燃料噴射機構5としてガス噴射弁が用いられており、シリンダライナ21に第1燃料噴射機構4が設けられ、シリンダヘッド22に第2燃料噴射機構5およびパイロットオイル噴射弁9が設けられている。」、段落【0027】に「図4に示すように、第1燃料噴射機構4は、一度の燃焼に必要な量の天然ガスの一部をピストン23が下死点からシリンダヘッド22に向かって上昇する際に低圧で噴射するものであり」、段落【0029】に「図3に示すように、第1燃料噴射機構4は、ピストン23が上死点に位置したときに、ピストン23によって燃焼室20と隔離される位置に配置されることが望ましい。第1燃料噴射機構4を燃焼時の衝撃から保護できるからである。(中略)例えば、第1燃料噴射機構4は、空気導入口2aとほぼ同じ高さ位置に配置されてもよい。」と記載されている。
これらの記載から、シリンダライナ21に第1燃料噴射機構4が設けられ、天然ガスの一部を低圧で噴射するものであり、第1燃料噴射機構4は、空気導入口2aとほぼ同じ高さ位置に配置されてもよいことが分かる。
そして、シリンダライナ21に第1燃料噴射機構4が設けられ、空気導入口2aとほぼ同じ高さ位置に配置される際に、天然ガス(ガス燃料)をシリンダ内へシリンダの軸芯に対して「略直交方向に」噴射するようにすることは、単なる設計的事項といえる。
また、本願明細書には、ガス燃料を「略直交方向に」噴射するようにすることについて何ら記載もなく、本件発明においてガス燃料を「略直交方向に」噴射することによる新たな効果は認められない。
したがって、上記相違点Aは、課題解決のための具体化手段における設計上の微差に過ぎない。

よって、本件発明は、先願明細書等に記載された発明と実質同一である。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
また、本件発明は、先願明細書等に記載された発明であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-10-21 
結審通知日 2019-11-12 
審決日 2019-11-25 
出願番号 特願2014-65973(P2014-65973)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
P 1 8・ 16- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 和人佐々木 淳  
特許庁審判長 渋谷 善弘
特許庁審判官 金澤 俊郎
水野 治彦
発明の名称 ガスインジェクションエンジンの燃料噴射方式  
代理人 萩島 良則  

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