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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S |
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管理番号 | 1361412 |
審判番号 | 不服2019-2986 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-03-04 |
確定日 | 2020-04-09 |
事件の表示 | 特願2015-555075「半導体レーザ素子、半導体レーザモジュール、および波長可変レーザアセンブリ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 2日国際公開、WO2015/099176〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年12月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成25年12月26日 米国)を国際出願日とする国際出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。 平成30年 8月17日付け:拒絶理由通知書(同年8月28日発送) 平成30年10月29日 :意見書・手続補正書 平成30年11月27日付け:拒絶査定(同年12月4日送達) 平成31年 3月 4日 :審判請求書・手続補正書 令和 元年11月12日付け:拒絶理由通知書(当審が通知したもの) 令和 2年 1月20日 :意見書・手続補正書 第2 当審が通知した拒絶理由通知書における拒絶の理由の概要 令和元年11月12日付けで当審が通知した拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由通知書」という。)における拒絶の理由は、概要、次のものを含む。 本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2013-102003号公報 2.特開2002-368341号公報 第3 当審の判断 当審は、本願が、令和元年11月12日付け当審拒絶理由通知書における拒絶の理由に基づいて、拒絶されるべきであると判断する。その理由は、次のとおりである。 1 本願発明の認定 本願の特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明は、令和2年1月20日に提出した手続補正書により補正された請求項1?11に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1は次のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。 「互いに異なる発振波長で単一モード発振する複数の半導体レーザと、 前記複数の前記半導体レーザから出力されたいずれかのレーザ光が入力され、該レーザ光を増幅する半導体光増幅器と、 を備え、 前記各半導体レーザおよび前記半導体光増幅器は、 交互に積層した複数の井戸層と障壁層とを有する多重量子井戸構造を含む活性層と、 該活性層を厚さ方向より挟んで形成され、該活性層の前記障壁層よりもバンドギャップエネルギーの大きなn側分離閉じ込めヘテロ構造層およびp側分離閉じ込めヘテロ構造層 とを備え、 前記n側分離閉じ込めヘテロ構造層と前記p側分離閉じ込めヘテロ構造層とは、前記活性層を挟んでバンドギャップエネルギーが非対称となるように構成され、 前記活性層には、n型不純物がドーピングされている ことを特徴とする半導体レーザ素子。」 2 引用文献1及び引用文献2に記載された事項の認定 (1)引用文献1に記載された事項の認定 令和元年11月12日付け当審拒絶理由通知書における拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2013-102003号公報)には、次の記載がある(下線は、当審が付した。)。 ア 「技術分野 【0001】 本発明は、複数の半導体レーザを集積した集積型半導体レーザ素子に関する。」 イ 「発明を実施するための形態 【0018】 (実施の形態) 図1は、実施の形態に係る集積型半導体レーザ素子の模式的な平面図である。図1に示すように、本実施の形態に係る集積型半導体レーザ素子100は、それぞれがメサ構造を有する、N個のDFBレーザ11-1?11-N(Nは2以上の整数)と、N個の光導波路12-1?12-Nと、光合流器13と、半導体光増幅器(SOA)14とを一つの半導体基板上に集積し、埋め込み部15により埋め込んだ構造を有する。DFBレーザ11-1?11-N間の埋め込み部15には、トレンチ溝16-1?16-M(M=N?1)を設けている。 【0019】 DFBレーザ11-1?11-Nは、各々が幅1.5μm?3μmのストライ プ状の埋め込み構造を有する端面発光型レーザであり、集積型半導体レーザ素子100の一端において幅方向にたとえば25μmピッチで形成されている。DFBレーザ11-1?11-Nは、各DFBレーザに備えられた回折格子の間隔を互いに異ならせることにより、出力光が単一モード発振のレーザ光となり、そのレーザ発振波長が約1530nm?1570nmの範囲で互いに相違するように構成されている。また、DFBレーザ11-1?11-Nの各発振波長は、集積型半導体レーザ素子100の設定温度を変化させることにより微調整することができる。すなわち、集積型半導体レーザ素子100は、駆動するDFBレーザの切り替えと温度制御とにより、広い波長可変範囲を実現している。 ・・・(中略)・・・ 【0022】 図2は、図1に示す集積型半導体レーザ素子100のA-A線断面の一部を示す図である。図2に示すように、たとえばDFBレーザ11-2は、n型InP基板21上に、順次積層した、下部クラッドを兼ねるn型InPバッファ層22、組成を連続的に変化させた下部InGaAsP-SCH(SeparateConfinementHeterostructure)層23、MQW(Multi-QuantumWell)構造の活性層24、上部InGaAsP-SCH層25、InPスペーサ層26、InGaAsPまたはAlGaInAsからなるグレーティング層27、およびp型InP層28を備えている。グレーティング層27には回折格子が形成されている。 ・・・(中略)・・・ 【0024】 活性層24は、交互に積層した複数の井戸層と障壁層とを有している。井戸層および障壁層は、GaInAsP系半導体材料、またはAlGaInAs系半導体材料からなる。活性層24の組成は、DFBレーザ11-1?11-Nの発振波長に対応する帯域である、たとえば1530nm?1570nmの中央近傍、すなわち1550nm近傍に利得ピークの波長を有するように設定されている。この組成の設定による半導体レーザの利得ピークの波長は、集積型半導体レーザ素子100の動作温度である10℃?50℃におけるものである。また、活性層24の幅は、例えば1.4μm?1.7μmである。他のDFBレーザ11-1、11-3?11-Nについては、活性層の組成や厚さを含めて、DFBレーザ11-2と略同一の構造を有する。 ・・・(中略)・・・ 【0027】 光導波路12-1?12-Nは、DFBレーザ11-1?11-Nと光合流器13との間に形成されており、光合流器13と同様の埋め込みメサ構造を有しており、DFBレーザ11-1?11-Nと光合流器13のN個の入力ポートとを光学的に接続している。 【0028】 SOA14は、光合流器13の1つの出力ポート13aに接続している。SOA14は、DFBレーザ11-1?11-Nと同様の埋め込みメサ構造を有する。ただし、SOA14はDFBレーザ11-1?11-Nとは異なりグレーティング層27を有さず、その代わりにp型InP層が形成されている。SOA14においても、活性層の幅は、例えば1.4μm?1.7μmであるが、DFBレーザ11-1?11-Nが出力するレーザ光を単一モードで導波できる幅であれば特に限定はされない。 ・・・(中略)・・・ 【0031】 つぎに、複数の光導波路12-1?12-Nのうち、駆動するDFBレーザと光学的に接続している光導波路は、駆動するDFBレーザからのレーザ光を単一モードで導波する。光合流器13は、光導波路を導波したレーザ光を通過させて出力ポート13aから出力する。SOA14は、出力ポート13aから出力したレーザ光を増幅して、出力端14aから集積型半導体レーザ素子100の外部に出力する。SOA14は、駆動するDFBレーザからのレーザ光の光合流器13による光の損失を補うとともに、出力端14aから所望の強度の光出力を得るために用いられる。なお、光合流器13がN個の入力ポートと1個の出力ポートを有する場合、駆動するDFBレーザからのレーザ光の強度は、光合流器13によって約1/Nに減衰される。」 (イ)したがって、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「出力光が単一モード発振のレーザ光でレーザ発振波長が互いに相違するように構成されたN個のDFBレーザ11-1?11-N(Nは2以上の整数)を備え、([0018]、[0019]) 光導波路12-1?12-Nは、DFBレーザ11-1?11-Nと光合流器13との間に形成され、複数の光導波路12-1?12-Nのうち、駆動するDFBレーザと光学的に接続している光導波路は、駆動するDFBレーザからのレーザ光を単一モードで導波し、光合流器13は、光導波路を導波したレーザ光を通過させて出力ポート13aから出力し、SOA14は、出力ポート13aから出力したレーザ光を増幅して、出力端14aから集積型半導体レーザ素子100の外部に出力し、([0027]、[0031]) DFBレーザ11-1?11-Nは 交互に積層した複数の井戸層と障壁層とを有する活性層24を備え、([0024]) 下部InGaAsP-SCH(SeparateConfinementHeterostructure)層23、MQW(Multi-QuantumWell)構造の活性層24、上部InGaAsP-SCH層25が順次積層されており、([0022]) SOA14は、DFBレーザ11-1?11-Nと同様の埋め込みメサ構造を有する([0028]) 半導体レーザ素子。」 (2)引用文献2に記載された事項の認定 令和元年11月12日付け当審拒絶理由通知書における拒絶の理由で引用された引用文献2(特開2002-368341号公報)には、次の記載がある。 ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は多重量子井戸(multiple quantum well:MQW)構造を有する活性層(発光領域)を備えたタイプの半導体レーザ素子に関する。更に詳しくは、キャリア注入効率が高く、そして高光出力動作を実現するMQW半導体レーザ素子に関する。本発明は、また、それを用いた励起用光源に関する。 【0006】活性層4に隣接する下部および上部光閉じ込め層3A,3Bのそれぞれは、活性層4で発生したレーザ光の閉じ込めを強め、そのことによりレーザ素子の外部微分量子効率を高めて高光出力動作を達成するために、分離閉じ込めヘテロ接合構造(SCH)を有するように設計されている。図1(a)のレーザ素子は、パッケージ内に配置されて、光通信システムの信号光源として、またはエルビウムドープファイバ増幅器(EDFA)やラマン増幅器のような光ファイバ増幅器を励起するための光源として好適なレーザモジュールに組み立てられることが知られている。パッケージ内では、レーザ素子はペルチェ素子から成る冷却素子と熱的に結合される。更に、このパッケージは、発生熱と光出力を監視して制御し、また光ファイバへのレーザ出力の良好な光結合を確実にするために、公知の素子を備えている。」 イ 「【0017】本発明のレーザ素子の伝導帯と価電子帯のエネルギーバンド図の1例を図2に示す。図2は、伝導帯と価電子帯の間のバンドギャップを示し、また、下部クラッド層2Aの上に下部光閉じ込め層3A、活性層4、上部光閉じ込め層3B、および上部クラッド層2Bがこの順序で形成されていることを示す。図2で示されているように、活性層4は井戸層4Aと障壁層4Bの交互のヘテロ接合から成り、そのことによって、5個の井戸を有するMQW構造を提供している。活性層4とクラッド層2A,2Bの間に配置されている光閉じ込め層3A,3Bは、それぞれの組成と厚みが活性層4に対して対称となるようにして形成されている。各光閉じ込め層3A,3Bは、図2で示したように、それぞれのエネルギーバンドにおいて多数の階段を有する。 【0018】図2で示したように、バンドギャップは、活性層4のMQW構造の井戸で最も小さく、MQWの障壁層ではより大きく、光閉じ込め層では更に大きく、そしてクラッド層で最も大きくなっている。本発明のレーザ素子の第1の基本的な特徴は、活性層4の少なくとも1個の井戸層4Aとそれに隣接する障壁層4Bにドーパントが導入され、そのことによりドープ領域8を形成していることである。図3(c)は1個の障壁層と井戸層のみを有するようなドープ領域8を示しているが、本発明によれば、ドープ領域8は、いかなる対の数の井戸層と障壁層に広げられていてもよい図3(b)。事実、本発明によれば、全活性層がドープ領域8に包含されていてもよい。本発明者らは、全活性層にドープ領域を広げるとレーザ素子の直列抵抗と熱抵抗が低減することを測定している。直列抵抗と熱抵抗の低減は、熱発生を減じ、最大光出力を増大させる。 【0019】ドープ領域8を形成するために用いるドーパントは、SとSi、またはそれらの組み合わせのようなn型不純物が好適である。ドーピング濃度は、1×10^(17)?3×10^(18)cm^(-3)程度に設定することが好ましい。本発明者らは、ドーピング濃度が約1×10^(17)cm^(-3)より低い場合は、活性層4の中にドープ領域8を創りあげるという前記した利益が得られず、そのため、光出力を意図するように強めることは実現されないということを見出した。他方、本発明者らは、ドーピング濃度が約3×10^(18)cm^(-3)より高くなる場合は、活性層4の結晶性が劣化して非発光成分の同様な増加を引き起こすことを見出している。このことは、得られたレーザ素子の高出力動作を制限する。」 「【0021】光閉じ込め層3A,3Bは、活性層4とヘテロ接合を形成する。同様に、更に光閉じ込め層は上部および下部クラッド層2B,2Aとヘテロ接合を形成する。クラッド層2B,2Aのバンドギャップエネルギーは活性層4のバンドギャップエネルギーよりも大きい。図2で示したように、光閉じ込め層3B,3Aの最小バンドギャップエネルギーE1と、光閉じ込め層の最大バンドギャップエネルギーE2との差は、約90meV以上であることが好ましい。 【0022】図2で示したように、光閉じ込め層3A,3Bを、例えば構成層(sublayer)3B1,3B2,・・・・・3Bn,および3A1,3A2,・・・・・3Anのように3個以上の構成層で構成することが好ましい。本発明によれば、これらそれぞれの構成層のバンドギャップエネルギーは、図2と図3(a)で示したように、活性層4から遠くなるにつれて階段状に増加していく。図3は、構成層3B1,3B2,・・・・・3Bnで構成されている光閉じ込め層3Bのバンドギャップの階段の端部における一連の点A1,A2,・・・・・An,A0を示している。点A0は、光閉じ込め層3Bnとそれに隣接するクラッド層2Bの間の階段に形成されていることに注目されたい。また、図3(a)には、層3B1とそれに隣接する活性層4の間のバンドギャップエネルギー内の階段に位置する点A0’が示されている。点A0’,A1,A2,・・・・・AnおよびA0は、層群のバンドギャップエネルギーの包絡線を定める(以後、この包絡線をバンドギャップエネルギー線と呼ぶことにする)。このバンドギャップエネルギー線は、直線であるか、または、図3(a)の破線で示したように、連続する、上向きもしくは下向きの曲線形状であることが好ましい。この上向きまたは下向きの曲線形状は、例えば、パラボリックであってもよい。 【0023】図3(a)の場合、かくして、バンドギャップエネルギー線が全体として直線形状を有するように、バンドギャップエネルギー線は層3Bnのバンドギャップエネルギー線と点Anで交差する。この場合、光閉じ込め層3Bは、線形GRIN-SCH構造を有するといわれる。既に指摘したように、光閉じ込め層3A,3Bは、3層構造例のみに限定されるものではない。構成層(sub-layers)の数を増すことが好ましい。しかしながら、層数を増すことは各層の組成の慎重な制御が必要である-仮に、それらの1つでさえもが特定の格子整合条件から外れると、結晶劣化が起こり、それは結晶欠陥によりレーザ動作を劣化させることが懸念される。」 ウ 図2は以下のとおりである。 3 対比、一致点及び相違点の認定 (1) 本願発明と引用発明1とを対比すると次のことがいえる。 ア 引用発明1における「出力光が単一モード発振のレーザ光でレーザ発振波長が互いに相違するように構成されたN個のDFBレーザ11-1?11-N(Nは2以上の整数)」は、出力光の発振波長が互いに相違する、単一モード発振のレーザ光を発振するように構成されたN個のDFBレーザであるから、本願発明1における「互いに異なる発振波長で単一モード発振する複数の半導体レーザ」に相当する。 イ 引用発明1は「光導波路12-1?12-Nは、DFBレーザ11-1?11-Nと光合流器13との間に形成され、複数の光導波路12-1?12-Nのうち、駆動するDFBレーザと光学的に接続している光導波路は、駆動するDFBレーザからのレーザ光を単一モードで導波し、光合流器13は、光導波路を導波したレーザ光を通過させて出力ポート13aから出力し、SOA14は、出力ポート13aから出力したレーザ光を増幅して、出力端14aから集積型半導体レーザ素子100の外部に出力」する構成であるから、DFBレーザ11-1?11-Nから出力されたレーザ光は、複数の光導波路12-1?12-Nを導波し、光合流器13を通過し、SOA14へ入力されており、また、SOA14は入力されたレーザ光を増幅している。 そうすると、引用発明1におけるSOA14はDFBレーザ11-1?11-Nから出力されたいずれかのレーザ光が入力され、入力されたレーザ光を増幅するから、引用発明1は本願発明1における「前記複数の前記半導体レーザから出力されたいずれかのレーザ光が入力され、該レーザ光を増幅する半導体光増幅器」の構成を備えている。 ウ 引用発明1における「交互に積層した複数の井戸層と障壁層とを有する活性層24」は「MQW(Multi-QuantumWell)構造の活性層24」であるから、本願発明における「交互に積層した複数の井戸層と障壁層とを有する多重量子井戸構造を含む活性層」に相当する。 エ 引用発明1における「下部InGaAsP-SCH(SeparateConfinementHeterostructure)層23」、「MQW(Multi-QuantumWell)構造の活性層24」、「上部InGaAsP-SCH層25」はそれぞれ、本願発明1の「n側分離閉じ込めヘテロ構造層」、「多重量子井戸構造を含む活性層」、「p側分離閉じ込めヘテロ構造層」に相当する。そして、「順次積層されている」ことでMQW(Multi-QuantumWell)構造の活性層24を下部InGaAsP-SCH(SeparateConfinementHeterostructure)層23と上部InGaAsP-SCH層25とで厚さ方向より挟んで形成されているから、引用発明1の「下部InGaAsP-SCH(SeparateConfinementHeterostructure)層23、MQW(Multi-QuantumWell)構造の活性層24、上部InGaAsP-SCH層25が順次積層されていること」は本願発明1の「該活性層を厚さ方向より挟んで形成され、n側分離閉じ込めヘテロ構造層およびp側分離閉じ込めヘテロ構造層とを備える」ことに相当する。 オ 引用発明1において「SOA14は、DFBレーザ11-1?11-Nと同様の埋め込みメサ構造を有する」から、引用発明1のSOA14は、「交互に積層した複数の井戸層と障壁層とを有する多重量子井戸構造を含む活性層と、該活性層を厚さ方向より挟んで形成される、n側分離閉じ込めヘテロ構造層およびp側分離閉じ込めヘテロ構造層とを備え」ている。 (2)したがって、本願発明と引用発明1とは、次の(一致点)で一致し、(相違点1)、(相違点2)及び(相違点3)で相違する。 (一致点) 「互いに異なる発振波長で単一モード発振する複数の半導体レーザと、 前記複数の前記半導体レーザから出力されたいずれかのレーザ光が入力され、該レーザ光を増幅する半導体光増幅器と、 を備え、 前記各半導体レーザおよび前記半導体光増幅器は、 交互に積層した複数の井戸層と障壁層とを有する多重量子井戸構造を含む活性層と、 該活性層を厚さ方向より挟んで形成される、n側分離閉じ込めヘテロ構造層およびp側分離閉じ込めヘテロ構造層と を備える半導体レーザ素子。」 (相違点1) 活性層を厚さ方向より挟んで形成されるn側分離閉じ込めヘテロ構造層およびp側分離閉じ込めヘテロ構造層のバンドギャップエネルギーについて、本願発明1では「該活性層の前記障壁層よりもバンドギャップエネルギー」が「大き」いことが特定されている一方、引用発明1にはこのような特定がされていない点。 (相違点2) 各半導体レーザおよび半導体光増幅器における、n側分離閉じ込めヘテロ構造層およびp側分離閉じ込めヘテロ構造層が、本願発明では「活性層を挟んでバンドギャップエネルギーが非対称となるように構成され」ていることが特定されている一方、引用発明1にはこのような特定がされていない点。 (相違点3) 各半導体レーザおよび半導体光増幅器について、本願発明では「前記活性層には、n型不純物がドーピングされている」ことが特定されているのに対して、引用発明1にはこのような特定がされていない点。 4 相違点の判断 (1)相違点1について 引用文献2:特開2002-368341号公報(当審拒絶理由通知書の引用文献2) ア 上記(相違点1)は、いいかえると、n側分離閉じ込めヘテロ構造層およびp側分離閉じ込めヘテロ構造層と、該活性層の前記障壁層と、において、バンドギャップエネルギーを比較すると、本願発明1では前者が大きいことが特定されている一方、引用発明1にはこの点が特定されていないという意味である。 しかしながら、このようなバンドギャップエネルギーの分布は半導体レーザ素子において技術常識である。 引用文献2を例示すると、引用文献2の「下部および上部光閉じ込め層3A,3Bのそれぞれ」は、「活性層4で発生したレーザ光の閉じ込めを強め、そのことによりレーザ素子の外部微分量子効率を高めて高光出力動作を達成するために、分離閉じ込めヘテロ接合構造(SCH)を有するように設計されている。」(「0006])ものにおいて、引用文献2の[0021]には「光閉じ込め層3A,3Bは、活性層4とヘテロ接合を形成する」、[0022]には「これらそれぞれの構成層のバンドギャップエネルギーは、図2と図3(a)で示したように、活性層4から遠くなるにつれて階段状に増加していく」と記載されており、図2から光閉じ込め層3B,3Aのバンドギャップエネルギーは活性層4における障壁層4Bのバンドギャップエネルギーよりも大きいことが読み取れる。 イ そうすると、引用発明1における下部InGaAsP-SCH層および上部InGaAsP-SCH層についても、上記技術常識のように活性層の障壁層よりもバンドギャップエネルギーが大きいことは当業者にとって自明な事項であり、相違点1は実質的でない。また、仮にそうでないとしても、引用発明1において、下部InGaAsP-SCH層および上部InGaAsP-SCH層を、活性層の障壁層よりもバンドギャップエネルギーが大きいよう構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得ることである。 (2)相違点2について ア 半導体レーザにおいて、n側分離閉じ込めヘテロ構造層およびp側分離閉じ込めヘテロ構造層を、「活性層を挟んでバンドギャップエネルギーが非対称」となるように構成することで、所望の特性を有するよう構成することは、以下のとおり、周知技術である。 (ア) 周知例1:特開平11-340580号公報(当審拒絶理由通知書の引用文献3) a 周知例1には下記の記載がある。 「【0113】(12)本発明は、ナイトライド系化合物半導体を用いた半導体レーザにおいて、活性層として多重量子井戸構造を用いると共に、放射光強度分布の最大位置を活性層の中心位置よりp型クラッド層側にずれていることを特徴とする。 【0114】この様に、放射光強度分布の最大位置を活性層の中心位置よりp型クラッド層側にずらすことにより、最大光学利得位置と放射光強度分布の最大位置とが一致し、光閉じ込め効果が高まるので、しきい値電流密度Jthを低減することができる。 【0115】(13)また、本発明は、上記(12)において、放射光強度分布の最大位置が多重量子井戸構造のp型クラッド層側から第1番目の量子井戸の位置に一致していることを特徴とする。 【0116】ナイトライド系化合物半導体を用いたMQW構造半導体レーザにおいては、最大光学利得位置は、p型クラッド層側から第1番目の量子井戸であるので、この量子井戸の位置に放射光強度分布の最大位置を合わせることが望ましい。 【0117】(14)また、本発明は、上記(12)または(13)において、活性層とn型クラッド層及びp型クラッド層との間に、それぞれn側光ガイド層及びp側光ガイド層を設けると共に、n側光ガイド層の禁制帯幅をp側光ガイド層の禁制帯幅より大きくすることを特徴とする。 【0118】ナイトライド系化合物半導体においては禁制帯幅が大きいほど屈折率が小さくなるので、n側光ガイド層の禁制帯幅をp側光ガイド層の禁制帯幅より大きくすることによって放射光強度分布はp側に移動する。 【0119】(15)また、本発明は、上記(12)乃至(14)のいずれかにおいて、活性層とn型クラッド層及びp型クラッド層との間に、それぞれn側光ガイド層及びp側光ガイド層を設けると共に、p側光ガイド層の層厚をn型光ガイド層の層厚より厚くすることを特徴とする。 【0120】この様な光ガイド構造の非対称性は光ガイド層、即ち、SCH層の厚さを非対称にすることによっても形成することができ、p側光ガイド層の層厚をn側光ガイド層の層厚より厚くすることによっても放射光強度分布はp側に移動する。 【0121】(16)また、本発明は、上記(12)乃至(15)のいずれかにおいて、n型クラッド層の禁制帯幅をp型クラッド層の禁制帯幅より大きくすることを特徴とする。 【0122】この様に、n型クラッド層の禁制帯幅をp型クラッド層の禁制帯幅より大きくすることによっても、放射光強度分布をp側に移動することができる。なお、この場合、n側光ガイド層の禁制帯幅もp側光ガイド層の禁制帯幅より大きくしても良いし、光ガイド層の層厚を非対称にしても良い。」 b 上記aをまとめると、周知例1には多重量子井戸構造(MQW構造)の半導体レーザにおいて、「SCH層の厚さを非対称にすること」で「しきい値電流密度Jthを低減」することが開示されている。 (イ) 周知例2:特開平10-163567号公報 a 周知例2には下記の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、光通信システムに用いられる耐環境用半導体レーザや高速変調用半導体レーザ装置に関し、特に多重量子井戸構造を活性層に持つ多重量子井戸型半導体レーザに関する。」 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述したような従来例に挙げたSCH構造では、静特性面で良好な特性が得られる点は考慮されているものの、高速変調動作において良好な特性が得られるようには最適化されていないという問題点がある。その理由は、電子と正孔ではクラッド層から活性層へ到達する時間が異なるため、従来のSCH構造では高速動作において電子と正孔がバランスよく活性層へ注入されないことにある。 【0006】また、第2の問題点として、電子と光子を共に同一の狭い箇所に閉じ込めると、電子のプラズマ効果による自由キャリア吸収が、電子密度の高い所ほど大きく光子を吸収するためレーザの特性が劣化してしまう点がある。 【0007】本発明の第1の目的は、上記のような従来の多重量子井戸型半導体レーザにおけるSCH構造の問題を除去し、高速応答特性に優れた多重量子井戸型半導体レーザを提供することにある。 【0008】第2の目的は、温度変化による特性変化が小さい多重量子井戸型半導体レーザを提供することにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、第1の発明は、多重量子井戸構造を活性層に持つ多重量子井戸型半導体レーザにおいて、前記多重量子井戸構造層が、該多重量子井戸における障壁層よりもエネルギー・ギャップの大きなn型およびp型の2つの分離閉じ込めヘテロ構造層により挟まれた構造を有し、前記n型の分離閉じ込めヘテロ構造層は、p型の分離閉じ込めヘテロ構造層よりも厚く、そのエネルギー・ギャップが、前記多重量子井戸から離れるにしたがって大きくなるように構成されことを特徴とする。」 「【0015】半導体レーザの変調帯域は、電子や正孔の活性層への注入効率で決定される。通常電子がSCH層を走行する時間は、例えば図6(a)に示す構造では40ピコ秒と正孔の走行する時間(約400ピコ秒)に比ベの10倍程度速いが、電子の量子井戸への捕獲時間は数ピコ秒と正孔の捕獲時間に比ベて10倍程度遅い。 【0016】本発明では、SCH層はP側の方がn側より薄くなっているので、正孔のSCH層を走行する時間を短縮することができ、さらにn側はそのエネルギー・ギャップが多重量子井戸から離れるにしたがって大きくなるGRIN型構造になっているので、電子の量子井戸への捕獲時間を短縮することができる。このように、電子が量子井戸層へ捕獲される時間および正孔がSCH層を走行する時間を短縮することで、量子井戸層へのキャリアの注入効率が増大される。 【0017】また、n側のみGRIN型構造とし、p側のSCH層にはGRIN型を採用しない非対称構造になっているので、例えば図6(b)に示すように電子の第二準位は、p側およびn側ともにGRIN・SCH構造とされる従来のものよりも低くなり、電子の量子井戸への捕獲時間は1万倍程度短くなる。 ・・・(中略)・・・ 【0020】以上のような本発明によれば、p側のSCH層とn側のSCH層の層厚が等しくないため、活性層での光強度分布は非対称になり、活性層領域での自由キャリア吸収は従来のものに比べて減少するので、従来のようにレーザの特性が劣化することはない。また、高速動作においても電子と正孔がバランスよく活性層へ注入されるので、高速変調動作においても良好な特性が得られる。」 b 上記aをまとめると、周知例2には「多重量子井戸構造を活性層に持つ多重量子井戸型半導体レーザ」において、「n型の分離閉じ込めヘテロ構造層は、p型の分離閉じ込めヘテロ構造層よりも厚く」することで、「電子が量子井戸層へ捕獲される時間および正孔がSCH層を走行する時間を短縮することで、量子井戸層へのキャリアの注入効率が増大」し、「レーザの特性が劣化することはな」く、「高速変調動作においても良好な特性が得られる」ようになることが開示されている。 (ウ) 周知例3:特開平5-243669号公報 a 周知例3には下記の記載がある。 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、光情報端末機器等の光源として用いるレーザ素子に係り、閾値電流が低くて光損傷レベルが十分に高く、安定に高出力動作をさせることのできる高信頼の半導体レーザ素子に関する。 【0002】 【従来の技術】AlGaInP半導体レーザの光出力が制限される原因は、レーザ共振器端面近傍での光吸収が熱を発生し、光損傷により共振器端面が破壊されることによるものである。従来、光損傷によるレーザ端面の破壊を防ぐために、活性層を薄くしてクラッド層への光のしみだしを増し、活性層内部の光密度を低減して光吸収による熱の発生を抑制する方法が取られていた。例えば、このことは文献(Extended Abstracts of the 1991 International Conferenceon SolidState Devices and Materials, pp114-116(1991))において述べられている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】光損傷による端面の破壊を抑制するために活性層を薄くした場合、活性層に注入された電子のpクラッド層へのリークが顕著となり、光出力の熱飽和が発生する。そのため、素子の温度特性が低下し、良好な高温高出力特性が得られないという問題が生じる。また、活性層を薄層化した際には、レーザ内に導波されるモードが広がるため、GaAs埋込層において光吸収が生じ、光損失を増して閾値電流が増大しないようにクラッド層を1.5μm以上にすることが必要であった。しかし、Al組成が大きいAlGaInP4元混晶ではホール濃度の高濃度化が難しく、p型AlGaInPクラッド層は抵抗率が高く、熱伝導度が小さくなっている。そのため、活性層薄層化によってクラッド層を厚くすると、素子抵抗及び熱抵抗が増大し、活性層付近の温度上昇から素子の発振特性の劣化を助長するという問題が生じる。 【0004】 【課題を解決するための手段】活性層の両側に設ける光ガイド層においてn側のガイド層の膜厚をp側ガイド層よりも厚くするか、もしくはn側のみに光ガイド層を設けた非対称SCH構造とし、さらに活性層及び光ガイド層からなる導波層の平均の屈折率と同程度の屈折率を持つ高屈折率層をnクラッド層内部に設けた構造とすることによって上記課題を解決することができる。 【0005】 【作用】従来のDH構造もしくはSCH構造を持つレーザ素子では、レーザ内部に導波される光の強度分布は図3(a)のようになる。光は屈折率の最も大きい活性層を中心に導波されることとなり、光強度が最大となる導波モードの中心は活性層内部に存在する。そのため、誘導放出による発光と同時に強い光吸収を生じ、レーザ端面近傍での熱の発生を抑えることが難しく光損傷が発生しやすい。一方、本発明における構造を用いた場合、レーザ内部の光強度分布は図3(b)のようになる。SCH構造を非対称化し、さらにnクラッド層内部に高屈折率層を設け非対称導波構造とすることによって、導波モードの中心をn側の光ガイド層内部にシフトさせることができ、活性層よりも禁制帯幅が広くレーザ光に対して透明な光ガイド層を中心に導波することとなる。そのため、光閉じ込め係数で表される1次元的にみた活性層への光閉じ込めを同レベルに保って光吸収を低減することができ、レーザ端面近傍での光吸収による熱の発生を低減して光損傷レベルの向上が図れる。」 b 上記aをまとめると、周知例3には、半導体レーザにおいて、「活性層の両側に設ける光ガイド層においてn側のガイド層の膜厚をp側ガイド層よりも厚くする」「非対称SCH構造」とすることで「レーザ端面近傍での光吸収による熱の発生を低減して光損傷レベルの向上が図れる」ことが開示されている。 (エ) 周知例4:特表2001-509315号公報 a 周知例4の第4頁第2行-第5頁第4行には下記の記載がある。 「本発明は、ヘテロ構造の構成、例えばSCH(S.eparate Confinement Heterostructure)構成を有する、電磁ビームを発生するのに適している半導体基体を備えたユニポーラ半導体レーザ素子であって、半導体サブストレートの上に、第1の導電形の第1の外側の被覆層と第1の導電形の第2の外側の被覆層との間に配置されている活性層列が設けられており、該層列は量子ウェル構造(=活性層)を備え、該構造内に、前記半導体基体を通って電流が流れる際に電磁ビームが発生される形式のものに関する。これらの被覆層は活性層列より低い屈折率を有しており、これにより作動中、発生された光波が被覆層間に閉じこめられる。 刊行物Physics and Simulation of Optoelectronic Devices IV,SPIE Vol.2693(1996年)、第352?368頁(H.Hillmer,A.Greiner,F.Steinhafen,H.Burkhard,R.Loesch,W.Schlapp,I.Kuhn)には、半絶縁性またはn導電性のInpから成る半導体サブストレート上に、Inpから成るn導電性の被覆層、その上にInGaAs/AlInGaAsから成る活性層列およびp導電性のInAlAsから成る別の被覆層が被着されているレーザダイオードが記載されている。この活性層は、バリヤおよびAlInGaAs導波路層に埋め込まれているAlInGaAs多重量子ウェルから成っている。AlInGaAs導波路層は両方ともp導電性であるが、p=5*10^(17)cm^(-3)を以て、InP(n=2*10^(18)cm^(-3))ないしInAlAs(p=2*10^(18)cm^(-3))から成る被覆層より低くドーピングされている。Hillmer et alにおいて示された構成は、所謂分離閉じ込め型ヘテロ構造(SCH=Separate-Confinment-Heterostructure)であり、ここでは、電子および正孔が活性層に、実質的に被覆層、示されている例ではn-Inpおよびp-InAlAsから形成されているpn接合を介して注入される。この発生された光波は、量子ウェルへのキャリアの閉じ込めに無関係に、比較的低い屈折率を有している被覆層によって取り囲まれている導波路を通ってガイドされる。特別な場合、活性層は対称的には、即ち導波路の中央には形成されていない。導波路はp導電形の被覆層の方の側において短縮されていて、基本的には電子より著しく僅かな移動度を有している正孔の、量子ウェルへの搬送を加速する。これにより、改善された変調能力が実現される。この変調能力は実質的に、比較的移動し難い正孔の、中程度にドーピングされている導波路内での搬送と、MQW構造での電子捕獲によって決められる。」 b 上記aをまとめると、周知例4には、正孔は電子より移動度が低いから、活性層を取り囲むSCH構造の導波路のうち、p側を短縮することが記載されている。 イ 引用発明1は、活性層、n側分離閉じ込めヘテロ構造層およびp側分離閉じ込めヘテロ構造層を備えた半導体レーザの発明である。 また、半導体レーザにおいて、用途に応じた特性を有するよう構成することは、当然に備える課題である。 そうすると、引用発明1において、所望の特性が得られるように、「活性層を挟んでバンドギャップエネルギーが非対称」となるように構成することは、当業者にとって容易に想到し得ることである。 ウ 上記ア、イのとおりだから、引用発明1において、上記周知技術を採用し、相違点2に係る構成を得ることは、当業者にとって容易に想到し得ることである。 (3)相違点3について ア 引用文献2には、「多重量子井戸(multiplequantumwell:MQW)構造を有する活性層(発光領域)を備えたタイプの半導体レーザ素子」([0001])において、「全活性層にドープ領域を広げるとレーザ素子の直列抵抗と熱抵抗が低減するとを測定している。直列抵抗と熱抵抗の低減は、熱発生を減じ、最大光出力を増大させる。」([0018])こと、「ドープ領域8を形成するために用いるドーパントは、SとSi、またはそれらの組み合わせのようなn型不純物が好適である。」([0019])ことが記載されている。 そして、引用発明1は半導体レーザ素子の発明であり、「最大光出力を増大させる。」ことは自明な課題であるから、引用発明1における各半導体レーザにおいて、かかる課題を解決するために、引用文献2に記載のようにn型不純物をドーピングするよう構成することは、当業者にとって容易に想到し得ることである。 イ さらに、引用発明1は「SOA14は、DFBレーザ11-1?11-Nと同様の埋め込みメサ構造を有する。」ものであるから、引用文献2の記載に基づいてDFBレーザ11-1?11-Nの活性層に不純物をドーピングするのであれば、SOA14の活性層にも同様にn型不純物をドーピングするのが自然である。 (4) 以上検討したとおりであるから、引用発明1において引用文献2に記載の事項、及び周知技術に基づいて相違点に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって容易に想到し得ることである。 5 請求人の主張について 請求人は、令和2年1月20日に提出した意見書において、「しかしながら、上記引用文献1?4には、n側分離閉じ込めヘテロ構造層とp側分離閉じ込めヘテロ構造層とは、活性層を挟んでバンドギャップエネルギーが非対称となるように構成されるという、本願発明の構成は記載されておらず、示唆もされておりません。 したがって、本願発明と引用文献1?4に記載のものとはその構成が異なります。」、また、「本願発明によれば、このようにn側分離閉じ込めヘテロ構造層とp側分離閉じ込めヘテロ構造層とを、活性層を挟んでバンドギャップエネルギーが非対称となるように構成することにより、n側分離閉じ込めヘテロ構造層について結晶成長時の結晶欠陥の影響を低減したり、p側分離閉じ込めヘテロ構造層について結晶品質を維持しながらキャリア注入効率を改善したりすることが可能となるという、引用文献1?4からは期待できない顕著な効果を奏するものです。」旨主張する。 しかしながら、上記のとおり、当審拒絶理由通知書の引用文献3(上記4(2)ア(ア)で提示した周知例1である。)には、「上記活性層とn型クラッド層及びp型クラッド層との間に、それぞれn側光ガイド層及びp側光ガイド層を設けると共に、前記p側光ガイド層の層厚を前記n側光ガイド層の層厚より厚くすること」が記載されており、これは、p側光ガイド層とn側光ガイド層とは厚さにおいて非対称となっているものである。 そして、上記の周知技術が認定できるところ、SCH層(分離閉じ込めヘテロ構造層)を走行する電子と正孔とは、移動度が大きく異なるため、n側SCH層をp側SCH層より厚く作成することで移動度の相違を補正することが知られており、このことは周知例2及び周知例4にも記載されている。 また、「n側分離閉じ込めヘテロ構造層について結晶成長時の結晶欠陥の影響を低減したり、p側分離閉じ込めヘテロ構造層について結晶品質を維持」するという請求人の主張する効果は、本件明細書の【0037】を参酌すると、n側SCH層とp側SCH層を「多段化」させることを前提に、その段数を所定の関係に設定した場合の効果であって、本願発明のように、単にn側SCH層とp側SCH層とを「非対称」とした場合、すなわち、n側SCH層とp側SCH層と厚さが異なる場合や、n側SCH層とp側SCH層におけるバンドギャップ分布が異なる場合の効果とは対応していない。そのため、この主張は明細書の記載に基づいた主張ではない。 したがって、本願発明の作用効果を参酌しても、本願発明の進歩性を認めることはできない。 よって、本願発明は、引用発明1及び引用文献2に記載の技術事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-02-07 |
結審通知日 | 2020-02-12 |
審決日 | 2020-02-26 |
出願番号 | 特願2015-555075(P2015-555075) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01S)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 秀樹 |
特許庁審判長 |
瀬川 勝久 |
特許庁審判官 |
山村 浩 田中 秀直 |
発明の名称 | 半導体レーザ素子、半導体レーザモジュール、および波長可変レーザアセンブリ |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |