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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G
管理番号 1362016
審判番号 不服2019-6874  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-27 
確定日 2020-04-30 
事件の表示 特願2016-135927「農業用生分解性マルチフィルム及び使用済農業用生分解性マルチフィルムを圃場の土壌に分散する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月11日出願公開、特開2018- 168〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年7月8日を出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成30年10月16日付け :拒絶理由通知
平成30年12月25日 :意見書及び手続補正書の提出
平成31年 2月15日付け :拒絶査定
令和 1年 5月27日 :審判請求書及び手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出
令和 1年 6月24日 :審判請求書手続補正書の提出


第2 本件補正について

1 本件補正の内容
(1)平成30年12月25日提出の手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1ないし3は、以下のとおりである。

「【請求項1】
生分解性樹脂からなり、且つ黒茶色に着色された着色層を有することを特徴とする農業用生分解性マルチフィルム。」

「【請求項2】
波長400nm?700nmの可視光域の平均透過率が35%以下であることを特徴とする請求項1記載の農業用生分解性マルチフィルム。」

「【請求項3】
生分解性樹脂からなり、且つ黒茶色に着色された着色層を有する農業用生分解性マルチフィルムを用いて、圃場に展張してマルチ栽培を行った後、耕耘し、
該耕耘によって、前記農業用生分解性マルチフィルムを小片に破砕して圃場全体に分散した際に、該小片の色が圃場の土壌の色と区別して視認し難いように分散されることを特徴とする使用済農業用生分解性マルチフィルム使用済農業用生分解性マルチフィルムを圃場の土壌に分散する方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし2は、以下のとおりである。

「【請求項1】
生分解性樹脂からなり、且つ黒茶色に着色された着色層を有することを特徴とする農業用生分解性マルチフィルム。」

「【請求項2】
波長400nm?700nmの可視光域の平均透過率が35%以下であることを特徴とする請求項1記載の農業用生分解性マルチフィルム。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、本件補正前の請求項1ないし2に係る発明と、本件補正後の請求項1ないし2に係る発明は、発明として相違するところがなく、また、本件補正前の請求項3は削除された。そうすると、本件補正は、本件補正前の請求項3を削除したものであるから、本件補正は、特許法17条の2第5項1号に掲げる、同法第36条第5項に規定する請求項の削除を目的とする補正である。
したがって、請求項1ないし2に係る本件補正は適法になされたものである。


第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由のうち、請求項1に係る発明に関する部分の概要は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1ないし2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2004-41089号公報
引用文献2.特開平10-66459号公報


第4 引用文献の記載及び引用発明

引用文献1.特開2004-41089号公報
引用文献2.特開平10-66459号公報

(以下、周知の技術課題を示す文献)
引用文献4.特開2000-308422号公報
引用文献5.特開2002-369630号公報
引用文献6.特開平8-107726号公報
引用文献7.登録実用新案第3190036号公報
引用文献8.特開2000-60320号公報

1 引用文献1の記載及び引用発明1
(1)引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生分解性フィルム、特に生分解性農業用マルチングフィルムの分解処理方法に関する。
・・・(中略)・・・
【0004】
農業用フィルムのうち、農業用マルチングフィルムは、畑等の土壌の表面を直接覆い、作物の発育を促進させたり、雑草の防除等に使用されるものである。したがって、使用済みのものを回収して処理するには、土壌等の汚れがひどく困難なものであった。そのため、最近になって生分解性農業用マルチングフィルムが使用されるようになってきている。」

イ 「【0019】
【発明の実施の形態】
本発明は上記するように、使用済みの生分解性フィルムに、アルカリ性処理剤を散布し鋤き込むか、またはアルカリ性処理剤を散布し、放置した後鋤き込むことを特徴とする生分解性フィルムの処理方法であり、特に、生分解性農業用マルチングフィルムの処理方法である。
【0020】
対象とする生分解性フィルムは、いわゆる生分解性樹脂を用いたシート状のフィルムであり、脂肪族ポリエステルおよびその誘導体を使用した樹脂フィルムである。したがって本発明の方法が適用される生分解性樹脂フィルムとしては、具体的には、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酢酸などの単独、或いは2種以上を組み合わせたフィルム等、いずれのフィルムにも対処することができる。
【0021】 ・・・(中略)・・・
【0022】
なお、これらの生分解性樹脂フィルムにあっては、無機充填剤、有機充填剤、顔料、可塑剤、防曇剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤などの各種添加剤が添加されたものであってもよい。」

(2)引用発明1
上記(1)ア?イに基づいて、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「生分解性樹脂を用い、顔料が添加された生分解性農業用マルチングフィルム。」

2 引用文献2の記載及び引用発明2
(1)引用文献2には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0002】
【従来の技術】植林後の苗木やその他の有用木本性植物、有用草本性植物及び、作物等の根元周辺部を覆って雑草の生育を抑制するとともに、保温、保湿、降雨流失防止等を目的とした種々の材料、すなわちマルチング材が提案されている。そのようなマルチング材の最も古典的なものとしては、古くから稲ワラを束ねた見掛の厚さ5?10cm程度のものが使用されていたが、稲ワラは需要の集中する時期に大量の供給が困難なこと及び運搬並びに敷設のための経費が嵩むことから、特に山間部の植林現場等での使用には適していないし、また、高速道路などの法面や中央分離帯のようにたばこの投げ捨てなどによる火災の危険の多い場所での使用にも適していない。
【0003】このため、最近では、各種の素材を予めマット状、シート状又はフィルム状に加工したものを現地に持ち込んで目的場所のカバーリングを行うこと、すなわちマルチングを行うことが多くなってきており、そのためのマット状、シート状又はフィルム状のマルチング材として、不織布、板、金属箔、合成樹脂、小石、砂利、紙及びこれらの複合物を素材としたものが数多く提案されている。」

イ 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、山間部の植林場所、高速道の中央分離帯、公園、各種の工事現場における法面等に植林した箇所に簡単に敷設することができ、苗木の周辺を覆って下草の生育を抑制し、場合によっては育苗中の有用木本性植物、有用草本性植物、作物等の周辺地面を覆って、雑草の生育を妨げるとともに、すぐれた保温、保湿、降雨流失被害の防止等の機能を有し、しかも難燃性でかつ微生物による自然分解性であることに加えて、周囲環境とよく調和し、美観的な問題を生じることがない雑草抑制用の透水性被覆層を提供することを目的とするものであり、加えて施工条件の異なるどのような場所においても手作業での施工が簡単であるのみならず、機械化施工をも可能とする雑草抑制用の透水性被覆層用組成物を提供することを目的とするものである。
【0009】 ・・・(中略)・・・
【0010】さらに本発明は、従来焼却処理されることが多かった、DIPスラッジとも称される古紙脱インクパルプ製造工程から排出される残渣物(以下、古紙脱インクパルプ残渣物、ともいう)の有効利用を目的とするものであり、難燃性、透水性、遮光性にすぐれ、その耐久性を容易にコントロールすることができ、かつ自然分解性で環境汚染のおそれがなく、さらに古紙脱インクパルプ残渣物に特有の灰色、無機質な感じを与えず、腐葉土のような天然土壌様の茶色、黒褐色又は黒色を呈していて、被覆地盤が自然の肥沃な土壌を想起させる腐葉土風の柔らかい色彩を有する古紙脱インクパルプ残渣物からなり、任意の期間にわたって視覚的に周囲環境と調和した自然感を保ちつつ所定期間苗木を保護することのできる植生地盤被覆用組成物、すなわちマルチング材用組成物を提供することを目的とするものである。」

ウ「【0011】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決することのできる本発明は、微生物等によって自然に分解される性質を有する紙パルプ繊維成分及び土壌と混合して環境汚染のおそれのない無機質成分から主として構成されており、さらに雑草の肥料となる成分、特に窒素分を実質的に含有しないという古紙脱インクパルプ残渣物の特性を損なうことなく、該古紙脱インクパルプ残渣物を自然の肥沃な土壌、特に腐葉土風の黒褐色ないし通常の土壌の茶色系に着色した雑草抑制用の難燃性かつ透水性で凍結破壊のおそれのない地盤被覆層用組成物に関するものである。
【0012】より詳細には、第1の本発明は、無機質成分を全重量当り30?45重量%を含有する古紙脱インクパルプ残渣物と、フミン酸、ニトロフミン酸及びそれらの塩から選ばれた少なくとも1種を主成分として含有する着色用粉末とからなる茶色系、黒褐色系又は黒色系に着色した雑草抑制被覆層用組成物に関する。」

(2)引用発明2
上記(1)ア?ウに基づいて、引用文献2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「自然分解性で環境汚染のおそれがない古紙脱インクパルプ残渣物を用いたマルチング材用組成物であって、自然の肥沃な土壌を想起させる腐葉土風の柔らかい色彩とするために、着色用粉末により、腐葉土のような天然土壌様の黒褐色に着色したマルチング材用組成物。」

3 引用文献4の記載
(1)引用文献4には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0020】
【発明の実施の形態】本発明において、マルチ層とは、雑草の繁殖を防止する目的で行われるマルチングによって形成される層を意味し、繊維状物質とバインダーとの混合物からなるものである
・・・(中略)・・・
【0023】また、マルチ層を敷設した後から植物がマルチ層表面を覆うまでの期間の景観を損なわないようにするため、マルチ層中には、上記成分に加えて顔料を添加して、マルチ層を例えば茶色、緑色などに着色してもよい。
・・・(中略)・・・
【0028】無機質繊維とバインダーを混合した後、緑化しようとする地盤10の全面に、吹き付けなどの方法でマルチ層11を敷設する。なお、マルチ層の敷設方法としては、吹き付け以外にも、マルチ層をシートやマットにして敷設する方法もあるが、・・・。」

4 引用文献5の記載
(1)引用文献5には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0006】
【発明の実施の形態】本発明の防草シートは、図1に示すように2層でなり、その内の1層は、植物性繊維からなる布帛で構成される。
・・・(中略)・・・
【0007】また、一般に布帛の側を表面側として用いることになるが、その場合、自然との調和の点から、繊維は、グリーン系統、あるいは茶系統に着色されているのが好ましいが、やし繊維はもともと茶褐色に着色していて、自然になじみやすいので、この点からもやし繊維は本発明の防草シートに適している。」

5 引用文献6の記載
(1)引用文献6には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0024】また、ソイルカバーを敷設したときの美観を損なわないようにするため、上記バインダー中に顔料を添加して、ソイルカバーを例えば茶色、緑色などに着色してもよい。」

6 引用文献7の記載
(1)引用文献7には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0021】
経糸11と緯糸12の色は、特に限定されるものではないが、例えば、防草シート10が土壌の表面上に敷設されることを想定し、土壌の色に馴染む色、あるいは、環境を損なわないように落ち着いた色とすることが望ましく、例えば、茶色や緑色等が適している。」

7 引用文献8の記載
(1)引用文献8には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0011】
【発明の実施の形態】・・・この発明に係る柱、樹木などの根元用雑草成育防止カバーの最も基本的な構成に係る実施の形態を示す。
【0012】符号1は、柱、樹木などの柱aの根元a_(1)が挿通できる中心の孔2が穿たれ、前記根元a_(1)の周辺の地表を被覆できる可撓性被覆体、
・・・(中略)・・・
【0014】また、可撓性被覆体1の材質は、プラスチック,ゴムなど、好みの材質で良く、できれば地表に雨水を透過できる連続気泡を有するプラスチック,ゴムなどの可撓性材料とか、交織,編成による合成樹脂製の可撓性材料であることが好ましい。また、柱や樹木などの柱aの根元a_(1)付近の地表の色合い、たとえば芝とか草木の緑色とか、土の褐色の色合いを持った可撓性被覆体1に彩色することもできる。」


第5 対比

本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「生分解性農業用マルチングフィルム」は、本件補正発明の「農業用生分解性マルチフィルム」に相当する。
引用発明1の「生分解性農業用マルチングフィルム」が、「生分解性樹脂を用い」ていることは、本件補正発明の「農業用生分解性マルチフィルム」が、「生分解性樹脂からな」ることに相当する。
引用発明1の「生分解性農業用マルチングフィルム」は、「顔料が添加」されたものであり、「顔料」が「着色」のために用いられることは明らかであるから、「顔料が添加」されることによって、マルチングフィルムは「着色され」るということができる。一方、本件補正発明の「農業用生分解性マルチフィルム」は「着色層を有する」ものであるところ、本件の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0025】に「農業用生分解性マルチフィルムは、着色層のみからなる単層体であってもよいし、着色層の一側あるいは両側に、1又は2以上のフィルム層が積層された積層体であってもよい。」と記載されるように、本件補正発明の「農業用生分解性マルチフィルム」は、「着色層」からなる「単層体」で構成されたものや、「着色層」を含む「積層体」で構成されたものを広く含むものである。これらを踏まえると、引用発明1の「生分解性農業用マルチングフィルム」に「顔料が添加」されていることは、本件補正発明の「農業用生分解性マルチフィルム」が「着色された着色層を有する」ことに相当するといえる。

そうすると、本件補正発明と引用発明1とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「生分解性樹脂からなり、且つ着色された着色層を有する農業用生分解性マルチフィルム。」

(相違点)
本件補正発明の農業用生分解性マルチフィルムの着色層は、「黒茶色」に着色されたものであるのに対し、引用発明1の生分解性農業用マルチングフィルム(農業用生分解性マルチフィルム)の着色層は、「黒茶色」に着色されたものではない点。


第6 判断

1 相違点について
引用発明2(上記第4の2(2))における「自然分解性で環境汚染のおそれがない古紙脱インクパルプ残渣物を用いたマルチング材用組成物」からなる「マルチング材」は、本件補正発明の「農業用生分解性マルチフィルム」と、「生分解性」の「マルチ」材である点で共通するものである。
また、引用発明2のマルチング材用組成物の色である「腐葉土のような天然土壌様の黒褐色」については、引用発明2が、「自然分解性」の「マルチング材用組成物」を、「自然の肥沃な土壌を想起させる腐葉土風の柔らかい色彩とするために、着色用粉末により、腐葉土風の黒褐色に着色した」ものであるところ、「腐葉土のような天然土壌様の黒褐色」は、「天然土壌様」であるから土壌との識別が困難な色であり、また「褐色」が「黒みをおびた茶色」(広辞苑)の意であることが広く知られていることも勘案すると、引用発明2の「腐葉土のような天然土壌様の黒褐色」は、本件補正発明の「黒茶色」に相当するといえる。
そうすると、引用発明2は、「生分解性」であって、「マルチ」材に用いる組成物を「黒茶色」に着色したものであるといえる。
そして、引用発明2は、「生分解性」の「マルチ」材に係る発明である点で引用発明1と技術分野を同じくし、「植林後の苗木やその他の有用木本性植物、有用草本性植物及び、作物等の根元周辺部を覆って雑草の生育を抑制するとともに、保温、保湿、降雨流失防止等」(段落【0002】)を目的として、「マット状、シート状又はフィルム状に加工したもの」(段落【0003】)と同様に用いられ、「周囲環境とよく調和し、美観的な問題を生じることがない」(段落【0008】)という課題を解決するものである。

一方、地面に敷設して防草等に使用する部材の色を、景観、自然との調和、美観、環境等を考慮して決定することは、例えば、上記のとおり、引用文献2に示されるように、本願出願前における周知の技術課題であり(他に、例えば、引用文献4ないし8(上記第4の3(1)ア、4(1)ア、5(1)ア、6(1)ア、7(1)ア)を参照。)、そのような課題は、同じく地面に敷設して防草等に使用するものである引用発明1にも内在するといえる。
そうすると、引用発明1に内在する上記周知の技術課題を解決するために、引用発明1と同じ技術分野に属する引用発明2を、引用発明1に適用して、上記相違点に係る本件補正発明の如くに、着色層における着色を「黒茶色」とすることは、当業者であれば容易になしうることである。

2 効果について
引用発明2の「マルチ」材における「黒褐色」は、「自然の肥沃な土壌を想起させる腐葉土風」の色であるところ、土の色と異なって「汚い印象を与え」るものではないと考えられるから、本件補正発明が奏する効果は、引用発明1及び引用発明2のそれぞれが奏する効果から当業者によって予測される範囲のものであるといえる。

3 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、おおむね以下の主張をしている。
「フィルムの着色について、黒茶色による植物育成に関する知見がない当業者が、黒茶色そのものが公知の色だからといっても、農業用のフィルムに公知の色を採用できるものではない。甲1?甲3には各々目的等によって、採用する顔料は異なってくるのであり、当業者は、フィルムの目的に沿うと共に、知見のある色を着色する顔料として採用するからである。だとすれば、当然、顔料の種類に何を用いるかは、仮に黒茶が土壌の一般的な色であったとしても、これを、知見のない当業者が農業用マルチフィルムに採用することはない。・・・そして、黒茶色の農業用マルチフィルムの植物育成能力が、本願発明に係る黒茶色の生分解性マルチフィルムにおいても存在することを見出したが故に、本願出願に至ったものある。」(令和1年6月24日に提出された審判請求書手続補正書の第4ページ下から18行?下から6行)

当該主張について検討すると、引用発明1に内在する上記周知の技術課題(地面に敷設して防草等に使用する部材の色を、景観、自然との調和、美観、環境等を考慮して決定すること)を解決するために、引用発明1と同じ技術分野に属する引用発明2を、引用発明1に適用することが、当業者であれば容易になしうるといえることは、上記1で述べたとおりである。そして、引用文献2には、「自然の肥沃な土壌を想起させる腐葉土風の柔らかい色彩」とすることによって植物の育成上の悪影響がある等の事情が特段記載されていないことから、引用発明1に引用発明2を適用することについて特段の阻害要因があるとはいえない。また、本件補正発明が「黒茶色」を採用したことによる「植物育成能力」については、他の色と比較した上での効果を本件明細書等の記載から読み取ることができないため、この点についての請求人の主張は本件明細書等に基づくものとはいえない。


第7 むすび

以上のとおり、本件補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-02-27 
結審通知日 2020-03-03 
審決日 2020-03-16 
出願番号 特願2016-135927(P2016-135927)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田辺 義拓  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 小林 俊久
有家 秀郎
発明の名称 農業用生分解性マルチフィルム及び使用済農業用生分解性マルチフィルムを圃場の土壌に分散する方法  
代理人 丸山 智貴  
代理人 丸山 英一  
代理人 丸山 重輝  

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