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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1362122
審判番号 不服2018-12130  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-10 
確定日 2020-05-07 
事件の表示 特願2016-177806「依存、精神疾患、及び神経変性病の治療のための組成物と方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月 8日出願公開、特開2016-204394〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2011年6月16日(パリ条約による優先権主張 2010年6月16日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2013-515500号の一部を平成28年9月12日に新たな出願としたものであり、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。

・平成28年10月12日 :手続補正書、上申書の提出
・平成29年 5月30日付け:
特許法第50条の2の通知を伴う拒絶理由通知書
・平成29年12月 6日 :手続補正書、意見書の提出
・平成30年 4月20日付け:
平成29年12月6日提出の手続補正書でした特許請求の範囲についての補正を却下する補正の却下の決定、拒絶査定
・平成30年 9月10日 :審判請求書、手続補正書の提出
・平成30年10月18日 :
審判請求書に記載の請求の理由を補正する手続補正書(方式)の提出
・平成30年12月 4日付け:前置報告書

第2 平成30年9月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年9月10日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の記載は次のとおり補正された(下線部は、補正箇所を示す。)。
「 【請求項1】
HPA軸における異常活性に関連する疾患を治療するための、第一の医薬活性成分を含む医薬組成物であって、
前記疾患は、コカイン、メタンフェタミン又はニコチンへの依存であり、
第一の医薬活性成分がメチラポールであり、当該医薬組成物は第二の医薬活性成分を更に含み、第二の医薬活性成分がベンゾジアゼピンであり、患者に対して経口又は局所投与するために製剤化され、第一の医薬活性成分及び第二の医薬活性成分は、単独で投与される場合に当該疾患を治療するのに不十分な量で当該医薬組成物内に存在する、医薬組成物。
【請求項2】
脳内のメチラポール濃度を維持するのを助ける流出阻害剤を更に含んで成る、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
単位剤形で存在している、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ベンゾジアゼピンがオキサゼパム又はクロルジアゼポキシドである、請求項1?3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
ポリエチレングリコール、グリセリン、及びゼラチンのうちの1又は複数を含んで成る賦形剤を更に含んで成る、請求項1?4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記第一物質及び/又は前記第二物質が、カプセル剤、錠剤、カシェット、ロゼンジ、ゲルキャップ又はパッチとして包装される、請求項1?5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
HPA軸における異常活性に関連する疾患に罹患している患者を治療する方法に使用するための、請求項1?6のいずれか1項に記載の、治療上有効量の医薬組成物であって、
当該方法が、
(a)治療を必要とする患者を同定し;そして
(b)当該患者に対し、当該組成物を投与すること、
を含んで成る、医薬組成物。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成28年10月12日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】
メチラポール及び第二の医薬活性成分を含んで成る医薬組成物であって、患者に対して経口又は局所投与するために製剤化され、メチラポールは該患者における血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分な量で存在する、医薬組成物。
【請求項2】
第二の医薬活性物質がGABAの発現又は活性を増大させるか、GABA模倣薬 (mimic)であるか、あるいは前記患者におけるGABA代謝を阻害する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
脳内のメチラポール濃度を維持するのを助ける流出阻害剤を更に含んで成る、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
メチラポールが単位剤形で存在している、請求項1?3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記第二物質がベンゾジアゼピンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ベンゾジアゼピンがオキサゼパム又はクロルジアゼポキシドである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ポリエチレングリコール、グリセリン、及びゼラチンのうちの1又は複数を含んで成る賦形剤を更に含んで成る、請求項1?6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
視床下部・下垂体・副腎皮質(HPA)軸を標的とするが、血漿コルチゾールを有意に減少させない第一物質を含んで成る医薬組成物であって、当該第一物質がメチラポールであり、当該メチラポールが患者のコルチゾールの血漿濃度を不十分に減少させる量で存在する、医薬組成物。
【請求項9】
前記第二物質が前頭前皮質を標的とする、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記第二物質がベンゾジアゼピンである、請求項8又は9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
ベンゾジアゼピンがオキサゼパム又はクロルジアゼポキシドである、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記第一物質が、前記患者における血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分な量の単位剤形で存在している、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記第一物質及び/又は前記第二物質が、カプセル剤、錠剤、カシェット、ロゼンジ、ゲルキャップ又はパッチとして包装される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項14】
脳内の前記第一物質及び/又は第二物質の濃度を維持するのを助ける流出阻害剤、並びに/あるいはポリエチレングリコール、グリセリン、及びゼラチンのうちの1又は複数を含んで成る賦形剤、を更に含んで成る、請求項8?13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
HPA軸における異常活性に関連する疾患に罹患している患者を治療する方法に使用するための請求項1又は8に記載の治療上有効量の組成物であって、当該方法が、
(a)治療を必要とする患者を同定し;そして
(b)当該患者に対し、当該組成物を投与すること、
を含んで成る、組成物。
【請求項16】
前記疾患が、依存である、請求項15に記載の方法。」

2 補正の適否
上記1からみて、本件補正による補正事項は以下の(2-1)?(2-16)である

(2-1)補正前の請求項1に記載された医薬組成物の用途を「HPA軸における異常活性に関連する疾患を治療するための」に特定するとともに、前記疾患を「コカイン、メタンフェタミン又はニコチンへの依存」に特定する。

(2-2)補正前の請求項1に記載された「メチラポール」を「第一の医薬活性成分」として、補正前の請求項1に記載された医薬組成物が「第二の医薬活性成分を更に含む」ことを特定し、さらに当該「第二の医薬活性成分」を「ベンゾジアゼピン」に特定する。

(2-3)補正前の請求項1に記載された「メチラポールは該患者における血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分な量で存在する」を「第一の医薬活性成分及び第二の医薬活性成分は、単独で投与される場合に当該疾患を治療するのに不十分な量で当該医薬組成物内に存在する」に補正する。
なお、上記(2-2)で説示したように、「第一の医薬活性成分」は「メチラポール」である。

(2-4)補正前の請求項2を削除する。

(2-5)上記(2-4)の補正に伴い、補正前の請求項3の請求項番号を請求項2に繰り上げるとともに、補正前の請求項3が引用する「請求項1又は2に記載の」を「請求項1に記載の」に補正する。

(2-6)補正前の請求項4に記載された「メチラポールが単位剤形で存在している」を「単位剤形で存在している」に補正する。

(2-7)上記(2-4)及び(2-5)の補正に伴い、補正前の請求項4の請求項番号を請求項3に繰り上げるとともに、補正前の請求項4に記載された「請求項1?3のいずれか1項に記載の」を「請求項1又は2に記載の」に補正する。

(2-8)補正前の請求項5を削除する。

(2-9)上記(2-4)、(2-5)、(2-7)及び(2-8)の補正に伴い、補正前の請求項6の請求項番号を請求項4に繰り上げるとともに、補正前の請求項6に記載された「請求項5に記載の」を「請求項1?3のいずれか1項に記載の」に補正する。

(2-10)上記(2-4)及び(2-8)の補正に伴い、補正前の請求項7の請求項番号を請求項5に繰り上げるとともに、補正前の請求項7に記載された「請求項1?6のいずれか1項に記載の」を「請求項1?4のいずれか1項に記載の」に補正する。

(2-11)補正前の請求項8?12を削除する。

(2-12)上記(2-4)、(2-5)及び(2-7)?(2-11)の補正に伴い、補正前の請求項13の請求項番号を請求項6に繰り上げるとともに、補正前の請求項13に記載された「請求項8に記載の」を「請求項1?5のいずれか1項に記載の」に補正する。
なお、補正前の請求項13及び補正後の請求項6に記載された「第一物質」及び「第二物質」は誤記であり、正しくは、それぞれ補正後の請求項1に記載された「第一の医薬活性成分」及び「第二の医薬活性成分」であると解される。

(2-13)補正前の請求項14を削除する。

(2-14)補正前の請求項15に記載された「組成物」を「医薬組成物」に補正する。

(2-15)上記(2-4)、(2-5)及び(2-7)?(2-12)の補正に伴い、補正前の請求項15の請求項番号を請求項7に繰り上げるとともに、補正前の請求項15に記載された「請求項1又は8に記載の」を「請求項1?6のいずれか1項に記載の」に補正する。

(2-16)補正前の請求項16を削除する。

補正事項(2-4)、(2-8)、(2-11)、(2-13)及び(2-16)は、特許法第17条の2第5項第1号の「請求項の削除」を目的とするものに該当する。
補正事項(2-3)、(2-6)及び(2-14)は、特許法第17条の2第5項第4号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
補正事項(2-1)は補正前の請求項1に記載された医薬組成物の用途を限定するものであり、補正事項(2-2)は補正前の請求項1に記載された医薬組成物が含有する医薬活性成分を限定するものであるので、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
補正事項(2-5)、(2-7)及び(2-10)は、請求項の削除に伴い、請求項番号を繰り上げるとともに、引用する請求項の数を減少させるものであるので、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
補正事項(2-9)で「補正前の請求項6に記載された『請求項5に記載の』を『請求項1?3のいずれか1項に記載の』に」補正することは、補正後の請求項4(補正前の請求項6)において、補正後の請求項1?3に記載された「ベンゾジアゼピン」を「オキサゼパム又はクロルジアゼポキシド」に限定するものであるので、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
補正事項(2-12)で「補正前の請求項13に記載された『請求項8に記載の』を『請求項1?5のいずれか1項に記載の』に」補正することは、補正後の請求項6(補正前の請求項13)において、補正後の請求項1?5に記載された医薬組成物が含有する第一物質及び/又は第二物質(すなわち第一の医薬活性成分及び/又は第二の医薬活性成分)の製剤形態を、「カプセル剤、錠剤、カシェット、ロゼンジ、ゲルキャップ又はパッチとして包装される」という製剤形態に限定するものであるので、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
補正事項(2-15)で「補正前の請求項15に記載された『請求項1又は8に記載の』を『請求項1?6のいずれか1項に記載の』に補正」することは、補正後の請求項7(すなわち補正前の請求項15)の医薬組成物を、補正後の請求項1?6のいずれか1項に記載された医薬組成物に限定するものであるので、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そして、補正事項(2-1)?(2-16)はいずれも、本願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?7のうち、請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)の【請求項1】に記載したとおりの、以下のものである。
「HPA軸における異常活性に関連する疾患を治療するための、第一の医薬活性成分を含む医薬組成物であって、
前記疾患は、コカイン、メタンフェタミン又はニコチンへの依存であり、
第一の医薬活性成分がメチラポールであり、当該医薬組成物は第二の医薬活性成分を更に含み、第二の医薬活性成分がベンゾジアゼピンであり、患者に対して経口又は局所投与するために製剤化され、第一の医薬活性成分及び第二の医薬活性成分は、単独で投与される場合に当該疾患を治療するのに不十分な量で当該医薬組成物内に存在する、医薬組成物。」

(2)引用文献に記載された事項

ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1である特表2009-515899号公報には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付した。

(1A)「【請求項1】
視床下部-下垂体-副腎(HPA)系を標的とする第一薬剤と前頭前野を標的とする第二薬剤を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記第一薬剤が、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)を阻害し、アドレノコルチコトロピンホルモン(ACTH)を阻害し、又はコルチソールを阻害する薬剤である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記第二薬剤が、γ-アミノ酪酸(GABA)の発現又は活性を増加させ、GABAの模倣物であり、又はGABA代謝を阻害する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記第一薬剤又は前記第二薬剤が、化合物である、請求項1?3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記第一薬剤がメチラポン(Metopirone(商標))又はケトコナゾール(Nizoral(登録商標))、或いはそれらの塩、溶媒和物、水和物、プロドラッグ、構造アナログ、又は多型である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記第二薬剤が、ベンゾジアゼピン或いはその塩、溶媒和物、水和物、プロドラッグ、構造アナログ、又は多型である、請求項1?4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ベンゾジアゼピンが、オキサゼパム又はクロルジアゼポキシドである、請求項6に記載の医薬組成物。
・・・(中略)・・・
【請求項12】
前記組成物が、経口投与用に剤形されている、請求項1?11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記組成物が、静脈投与用に剤形されている、請求項1?11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
単位用量における前記第一薬剤の量又は前記第二薬剤の量が、同一の単位用量を必要とする患者に現在又は一般的に処方される当該第一薬剤又は当該第二薬剤の量よりも少ない、請求項1?13のいずれか一項に記載の医薬組成物。」(【請求項1】?【請求項14】)

(1B)「【請求項23】
HPA系の異常活性に関連する障害を患う患者を治療する方法であって、当該方法が以下の:
(a)治療を必要とする患者を同定し;そして
(b)当該患者に治療有効量の請求項1?22のいずれか一項に記載の組成物を投与する
を含む、前記方法。
【請求項24】
前記障害が、依存症、不安症、統合失調症、又はうつ病を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記障害が、物質への依存症である、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記物質が化学刺激物質、オピエート、ニコチン、アルコール、疼痛緩和処方薬、又は天然植物由来の薬剤である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記化学刺激薬が、コカイン、アンフェタミン、メタンフェタミン、メチルフェニデート、或いはそれらのアナログである、請求項26に記載の方法。」(【請求項23】?【請求項27】)

(1C)「【0001】
本発明は、依存症、不安症、うつ病、統合失調症、及び関連する状態(例えば、不眠症)などの精神神経疾患を含む様々な状態及び障害を治療する方法に関し、そしてより一般的に、神経系及び内分泌系の区別された組織を標的とする医薬製剤の製造方法及び使用方法にも関する。」(段落【0001】)

(1D)「【0021】
用量が以下にさらに記載される一方、本発明の組成物で使用される薬剤は、患者を治療するために現在知られておりかつ使用された薬剤である場合、出願人の組み合わせ治療の関係で必要とされる薬剤の少なくとも1の用量は、当該薬剤が現在及び典型的に処方される用量よりも少なくともよいということに出願人は留意する。例えば、本組成物が不安症の治療に現在用いられているベンゾジアゼピンを含む場合、依存症の治療のために患者に投与される化合物の量は、不安症の治療のために医師が通常処方する量よりも少ないこともある。幾つかの場合、本組成物内の両方の薬剤の用量は、これらの薬剤の従来の用量よりも少ないであろう。本発明の組成物が、特定の利点を有する組成物に限定されない一方、低用量製剤を使用する能力が、副作用の発生並びに幾つかの薬剤に付随する乱用の潜在性を低下させることを出願人は考える。ある患者が所定の薬物療法の特定の用量に対し感受性が高いこともあるし、又は感受性が低いこともあるということが理解される。この場合、一般的にいえることであるが、患者及びその医療従事者は、所望の効果及び用量についての治療をモニターでき、そして用量は(例えば、長い期間をかけて)いろいろと調節することができる。」(段落【0021】)

(1E)「【0028】
記載される様に、本組成物は、(つまり、物質乱用を治療するための)様々な化合物又は行為への中毒を治療するために使用されうる。例えば、当該組成物は、興奮剤(例えば、コカイン、アンフェタミン、メタンフェタミン、メチルフェニデート、及び関連する興奮剤)、オピエート(例えば、ヘロイン、コデイン、ヒドロコドン、及び関連するオピオイドドラッグ)、ニコチン、アルコール、処方薬(例えば、疼痛管理に処方される薬、例えば、 Percodan(商標)又はPercocet(商標))、及び天然植物由来薬物(例えば、マリファナ、タバコ、及びその中の中毒物質)への依存症を治療するために使用することができる。」(段落【0028】)

(1F)「【0051】
本発明は、結晶として存在するか、粉末化されそしてナノ結晶として安定化され、又は非結晶形態で存在していてもいなくても、任意の本化合物(つまり、一般的又は特異的に、組み合わせて使用するための本明細書に提案される任意の化合物)の医薬として許容される塩、溶媒和物、又は水和物、及びそのプロドラッグ、代謝物、構造アナログ、多型、及び他の医薬として有用なバリアントを特徴とする。これらの他のバリアントは、例えば、化合物(例えば、メチラポン)とさらに以下に記載される標的部分、若しくは検出マーカー(例えば、当該化合物は、蛍光化合物に結合わされてもよいし又は放射性アイソトープを含んでもよい)を含む複合体であってもよい。プロドラッグの形態の場合、化合物は、患者又は培養細胞に投与された後に、in vivoで(例えば細胞内で)変化させられる。変化した化合物(つまり、処理されたプロドラッグ)は、本明細書に記載される化合物と同一であり、そして生物学的に活性であるか、又は臨床利得を得るために十分な活性を有する。同じことが、代謝物についても言える;所定の化合物は、細胞内で改変され、そしてそれでも臨床的に有用であるのに十分な生物学的活性を保持することもある。」(段落【0051】)

(1G)「【0072】
本発明に従って使用するための医薬組成物は、1以上の生理的に許容される担体又は賦形剤を用いて任意の慣用的な様式で剤形することができる。こうして、化合物及びその生理的に許容される塩及び溶媒和物を含む薬剤は、経口又は非経口投与による投与用に剤形することができる。
【0073】
経口投与では、医薬組成物は、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶セルロース又はリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク又はシリカ);崩壊剤(例えば、ポテトデンプン又はグリコール酸ナトリウムデンプン);又は湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの医薬として許容される賦形剤を用いて慣用的な手段により製造された錠剤又はカプセルの形態をとることができる。錠剤は、当該技術分野に周知の方法により被膜されうる。経口投与用の液体製剤は、例えば、溶液、シロップ、又は懸濁液の形態をとることができ、又はこれらは、使用前に水又は他の適切なビヒクルで構成するための乾燥製品として製造することができる。このような液体製剤は、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体又は水素化食用脂肪);乳化剤(例えば、レシチン又はアカシア);非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油エステル、エチルアルコール又は分画植物油);及び保存剤(例えば、メチル又はプロピル-p-ヒドロキシ安息香酸又はソルビン酸)などの医薬として許容される添加物を用いて慣用的な方法により製造することができる。当該調製品は、適宜、緩衝塩、香味剤、着色剤、及び甘味剤を含むこともできる。
【0074】
経口投与用の製剤は、活性化合物(本出願人らは、本明細書で「治療薬」と呼ぶこともある)の制御放出を与えるように適切に剤形することができる。
【0075】
化合物(例えば、有機小分子)を含む薬剤は、注射による(例えば、ボーラス注射又は連続輸液による)非経口投与用に剤形することができる。注射用の製剤は、(例えばアンプル中に又は多用量容器中に)保存剤を加えた単位用量形態であってもよい。組成物は、油又は水性ビヒクル中の懸濁液、溶液、又は乳濁液などの形態を取ることもでき、そして懸濁剤、安定剤、及び/又は分散剤などの製剤化物質を含むことができる。或いは、活性成分は、使用前に適切なビヒクル(例えば、滅菌パイロジェンフリー水)で構成するための粉末形態であることもある。
【0076】
以前に記載された製剤に加えて、本薬剤は、デポー製剤として剤形されてもよい。このような長期間作用性の製剤は、インプラントにより(皮下又は筋肉内に)又は筋中注射により投与することができる。こうして、例えば、薬剤は、適切なポリマー又は疎水性物質で(許容される油中の乳濁液として)剤形することができるか、又はイオン交換レジン、又は発泡性可溶性誘導体、例えば発泡性の可溶性塩として剤形されうる。
【0077】
本組成物は、他の投与経路、例えば鼻腔内、局所、及び粘膜(例えば、舌下投与による)を含む経路用に剤形されることもある。」(段落【0072】?【0077】)

(1H)「【0105】
コカインの静脈内自己投与についてのメチラポンとオキサゼパムの効果:
これらの実験は、食餌強化とコカイン自己投与の複数回の交互のスケジュール下のラット応答における静脈内コカイン自己投与についてのメチラポンとオキサゼパムの組み合わせの効果を決定するように設計された。当該結果を図1Aのグラフに示す。左側の1つめの棒グラフ(Ext)は、生理食塩水の注入のみをもたらす「活性」レバーに応答する場合の消失の結果を示す。2つ目の棒グラフ(Veh)は、治療薬についてビヒクル(0.9%生理食塩水中の5%Emulphor(登録商標))での前処理に続き自己投与されたコカイン注入回数を示す。「高用量Met」の棒グラフは、高用量のメチラポン(25?175mg/kg、ip)で前処理後のコカインの注入回数を示し、一方「高用量OX」棒グラフは、高用量のオキサゼパム(5?80mg/kg、ip)で前処理後の自己投与されたコカイン注入回数を示す。
【0106】
メチラポンとオキサゼパムの両方が、この用量で摂餌維持応答に影響を与えることなくコカイン自己投与を低減した。「低用量Met」と「低用量OX」の棒グラフは、効力のない低用量のメチラポン及びオキサゼパム(オキサゼパム5?25mg/kg、ip;メチラポン25?50mg/kg、ip)単独で前処理した後の応答を示す。明らかにこれらの用量は、単独で投与された場合にコカイン自己投与(又は摂餌維持応答)に有意に影響することはなかった。「低用量COM」の棒グラフは、薬物治療の組み合わせ(つまり、メチラポンとオキサゼパムの効果的でない用量からなる注入)をデリバリーした後に自己投与されたコカイン注入回数を示す。見て分かるように、メチラポンとオキサゼパムからなる薬物治療の組み合わせは、消失の間に活性レバーが押された際に生理食塩水のみがデリバリーされた場合に見られるレベルにまでコカイン自己投与を低減した。薬物治療の組み合わせは、摂餌維持応答に影響することなく消失レベルにまでコカイン自己投与を低減し、他の強化因子(つまり、食餌)への応答又は意欲に影響を与えることなくコカインを探索する意欲を低減させることを示唆する。
【0107】
図1Bは図1Aに示されるのと同じデーターを示すが、当該データーは試験された条件下でベースラインの注入回数に対する割合として表された。高用量のメチラポンとオキサゼパムは、コカイン自己投与をベースラインの自己投与回数の50%未満に低減させた一方、低用量は、10%以下だけ自己投与を低減した。図1Aと同様に、低用量のオキサゼパムとメチラポンの組み合わせは、消失の間に見られるレベルにまでコカイン自己投与を低減した。」(段落【0105】?【0107】、当審合議体による注釈:「ip」は「腹腔内投与」の略語である。)

(1I)「【0108】
図2Aは、異なるラット群が異なるコカイン用量を自己投与するように訓練された場合におけるコカイン自己投与についての有効でない用量のメチラポンとオキサゼパムの組み合わせ剤の効果を調べるように設計された実験を示す。高用量のコカインが利用された場合、ラットが薬物治療の組み合わせの効果に打ち勝つことができるか否かを決定することが重要である。これは、薬物治療の組み合わせの効果に打ち勝つために自分へのコカイン摂取を増やすコカイン中毒に類似している。X軸の数字は自己投与されたコカインの用量を表す。「生理食塩水」は生理食塩水がシリンジ内に入っていた場合(つまり消失)の自己投与されたコカイン注入回数を表す。「ビヒクル」は、薬物治療用のビヒクル(5%Emulphorを含む0.9%生理食塩水)がコカイン自己投与セッションの開始前にデリバリーされた場合の自己投与されたコカイン注入回数を表す。「COMBO」は、有効でない容量のメチラポンとオキサゼパムの組み合わせで前処理されたのちに自己投与されたコカイン注入回数を示す。明らかに、この組み合わせ剤は、自己投与に利用されたコカインの用量に関わらずコカイン自己投与を消失レベルにまで低減した。これにより、薬物治療の組み合わせは、コカインの摂取又は用量を増加させることにより容易に克服されることはないであろうということが示唆される。
【0109】
図2Bは、図2Aと同じデーターを示すが、データーは異なる条件下におけるベースラインの注入回数に対する割合として示される。図2Aは、低用量のオキサゼパムとメチラポンの組み合わせが、自己投与に利用できるコカインの用量に関わらず消失の間に見られるレベルにまでコカイン自己投与を低減するということを示す。」(段落【0108】?【0109】)

(1J)「

【図1A】図1A及び1Bは、ラットにおける静脈内コカイン自己投与についてのメチラポン及びオキサゼパムの組み合わせ剤の効果を示す棒グラフである。コカイン注入回数を図1Aにプロットし、そしてベースラインに対する割合として表される注入回数を図1Bにプロットする。
【図1B】図1A及び1Bは、ラットにおける静脈内コカイン自己投与についてのメチラポン及びオキサゼパムの組み合わせ剤の効果を示す棒グラフである。コカイン注入回数を図1Aにプロットし、そしてベースラインに対する割合として表される注入回数を図1Bにプロットする。
【図2A】図2A及び2Bは、ラットにおける3の異なる用量の静脈内自己投与についてのメチラポン及びオキサゼパムの組み合わせ剤の効果を示す棒グラフである。セッションあたりの注入回数を図2Aにプロットし、そして同じ結果をベースラインの割合として表し、図2Bにプロットする。
【図2B】図2A及び2Bは、ラットにおける3回の異なる用量の静脈内自己投与についてのメチラポン及びオキサゼパムの組み合わせ剤の効果を示す棒グラフである。セッションあたりの注入回数を図2Aにプロットし、そして同じ結果をベースラインの割合として表し、図2Bにプロットする。」 (【図1A】?【図2B】、並びに段落【0126】における【図1A】?【図2B】の簡単な説明)

(イ)上記(ア)のように、引用文献1には、視床下部-下垂体-副腎(HPA)系を標的とする第一薬剤と前頭前野を標的とする第二薬剤を含む、医薬組成物について、第一薬剤の具体例としてメチラポン(Metopirone(商標))が記載され、第二薬剤の具体例としてベンゾジアゼピンに該当するオキサゼパムが記載され(摘記(1A))、当該医薬組成物を、HPA系の異常活性に関連する障害に該当する、ニコチン、コカイン、メタンフェタミン等への依存症を治療するための医薬組成物とすること(摘記(1B))、当該医薬組成物の剤形を、経口投与用や、局所投与用等の非経口投与用の剤形にすること(摘記(1A)及び(1G))が記載されている。
そして、引用文献1には、具体的に、ラットにおけるコカインの静脈内自己投与に対する、メチラポンとオキサゼパムの効果を調べる薬理試験で、単独投与ではコカイン自己投与に有意に影響することはなかった低用量のメチラポン(25?50mg/kg、腹腔内投与)及びオキサゼパム(5?25mg/kg、腹腔内投与)を組み合わせてなる薬物治療の組み合わせは、摂餌維持応答に影響することなく消失レベルにまでコカイン自己投与を低減し、他の強化因子(つまり、食餌)への応答又は意欲に影響を与えることなくコカインを探索する意欲を低減させることを示唆する結果が得られたこと、が記載されている(摘記(1H)?(1J))。
以上の記載から、引用文献1には、「HPA系の異常活性に関連する障害を治療するための、第一薬剤を含む医薬組成物であって、前記障害は、コカイン自己投与であり、第一薬剤がメチラポンであり、当該医薬組成物は第二薬剤を更に含み、第二薬剤がオキサゼパムであり、第一薬剤及び第二薬剤は、単独で投与される場合にコカイン自己投与に有意に影響することはなかった低用量のメチラポン(25?50mg/kg、腹腔内投与)及びオキサゼパム(5?25mg/kg、腹腔内投与)で投与されるものである、医薬組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2である「Neuroscience2008 abstract, 2008, 661.4/HH5,2015/5/29検索,URL,http://www.abstractsonline.com/Plan/ViewAbstract.aspx?sKey=bb18d1ef-ae6a-42a9-907b-39748893aace&cKey=e1257808-87f2-41c0-bb7b-25739b29ca82&mKey=afea068d-d012-4520-8e42-10e4d1af7944」には、以下の記載がある。なお、原文は英語であるため、日本語訳を併記した。また、下線は当審合議体が付した。

[原文]




[日本語訳]
「発表の要約
プログラム#/ポスター# 661.4/HH5
タイトル:ラットのコカイン自己投与に対するメチラポールの効果
・・・(中略)・・・
発表日時:2008年11月18日木曜日、午後4時から5時
・・・(中略)・・・
要約:
以前の研究では、コルチコステロン合成阻害剤であるメチラポンがラットのコカイン自己投与を減少させることが示されている。メチラポールはメチラポンの活性代謝物であり、ステロイド11βヒドロキシラーゼの阻害においてメチラポンと同等に強力であるため、メチラポンの薬理作用に関与している可能性がある。現行の実験はメチラポールがコカイン自己投与を減少させる可能性を探るために設計された。成体の雄のウィスターラットは、2時間の複数の交互スケジュール(固定比4)の状況下で、応答するように訓練した。試験の前に、ラットを複数回の生理食塩水置換及び食物枯渇調査に曝露した。試験の日に、行動セッションの開始30分前に、メチラポール(25、50、100、150及び200mg/kg、腹腔内投与)又はビヒクルを用いて、ラットを前処理した。被験体をまず訓練し、0.25mg/kg/注入のコカイン、次に0.125および0.5mgmg/kg/注入のコカインを用いて試験した。コカイン自己投与は、コカインの3つの用量の全てにおいて用量依存的に減少したが、コカインの用量が増加するに伴ってその程度は低下した。食物維持応答は、最高用量のメチラポールを除き、有意な影響を受けなかった。これらのデータは、メチラポールがメチラポンの効果に関与しているという考えを支持するものであり、そして、メチラポールがコカイン依存の治療に有用である可能性を示唆するものである。」

(3)本件補正発明と引用発明との対比
ア 本件補正発明は「HPA軸における異常活性に関連する疾患を治療するための、第一の医薬活性成分を含む医薬組成物であって、
前記疾患は、コカイン、メタンフェタミン又はニコチンへの依存であり、
第一の医薬活性成分がメチラポールであり、当該医薬組成物は第二の医薬活性成分を更に含み、第二の医薬活性成分がベンゾジアゼピンであり、患者に対して経口又は局所投与するために製剤化され、第一の医薬活性成分及び第二の医薬活性成分は、単独で投与される場合に当該疾患を治療するのに不十分な量で当該医薬組成物内に存在する、医薬組成物。」であり(上記(1))、引用発明は「HPA系の異常活性に関連する障害を治療するための、第一薬剤を含む医薬組成物であって、前記障害は、コカイン自己投与であり、第一薬剤がメチラポンであり、当該医薬組成物は第二薬剤を更に含み、第二薬剤がオキサゼパムであり、第一薬剤及び第二薬剤は、単独で投与される場合にコカイン自己投与に有意に影響することはなかった低用量のメチラポン(25?50mg/kg、腹腔内投与)及びオキサゼパム(5?25mg/kg、腹腔内投与)で投与されるものである、医薬組成物。」である(上記(2))。
そして、引用発明の「HPA系の異常活性に関連する障害」、「第一薬剤」、「第二薬剤」、「オキサゼパム」及び「コカイン自己投与」は、それぞれ本件補正発明の「HPA軸における異常活性に関連する疾患」、「第一医薬活性成分」、「第二医薬活性成分」、「ベンゾジアゼピン」及び「コカインへの依存」に相当する。
また、引用発明の「単独で投与される場合にコカイン自己投与に有意に影響することはなかった低用量」は、本件補正発明の「単独で投与される場合に当該疾患を治療するのに不十分な量」に相当するので、引用発明で「第一薬剤及び第二薬剤は、単独で投与される場合にコカイン自己投与に有意に影響することはなかった低用量のメチラポン(25?50mg/kg、腹腔内投与)及びオキサゼパム(5?25mg/kg、腹腔内投与)で投与される」ことは、本件補正発明で「第一の医薬活性成分及び第二の医薬活性成分は、単独で投与される場合に当該疾患を治療するのに不十分な量で当該医薬組成物内に存在する」ことに相当する。
そうすると、本件補正発明と引用発明とは、「HPA軸における異常活性に関連する疾患を治療するための、第一の医薬活性成分を含む医薬組成物であって、
前記疾患は、コカイン、メタンフェタミン又はニコチンへの依存であり、
第一の医薬活性成分がメチラポン又はメチラポールであり、当該医薬組成物は第二の医薬活性成分を更に含み、第二の医薬活性成分がベンゾジアゼピンであり、第一の医薬活性成分及び第二の医薬活性成分は、単独で投与される場合に当該疾患を治療するのに不十分な量で当該医薬組成物内に存在する、医薬組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)本件補正発明の医薬組成物は経口又は局所投与するために製剤化されたものであるのに対し、引用発明の医薬組成物は腹腔内投与するものである点。

(相違点2)本件補正発明の医薬組成物の第一の医薬活性成分はメチラポールであるのに対し、引用発明の医薬組成物の第一の医薬活性成分はメチラポンである点。

(4)相違点についての判断

ア 相違点1について
引用文献1には、引用発明の医薬組成物を経口又は非経口投与による投与用に剤形することができ、非経口投与の具体例として、静脈内投与、筋中投与、局所投与等が記載されているので(摘記(1A)の【請求項12】及び【請求項13】、並びに摘記(1G))、上記記載から、引用発明の医薬組成物を経口又は局所投与するために製剤化することは、当業者が必要に応じて適宜なしうる事項にすぎない。

イ 相違点2について
引用文献1の「プロドラッグの形態の場合、化合物は、患者又は培養細胞に投与された後に、in vivoで(例えば細胞内で)変化させられる。変化した化合物(つまり、処理されたプロドラッグ)は、本明細書に記載される化合物と同一であり、そして生物学的に活性であるか、又は臨床利得を得るために十分な活性を有する。同じことが、代謝物についても言える;所定の化合物は、細胞内で改変され、そしてそれでも臨床的に有用であるのに十分な生物学的活性を保持することもある。」(摘記(1F))という記載は、医薬活性成分の代謝物が、臨床的に有用であるために十分な生物学的活性を保持することがあることを示唆する記載である。
そして、引用文献2には、メチラポンの活性代謝物であるメチラポールが、ステロイド11βヒドロキシラーゼの阻害においてメチラポンと同等に強力であるため、メチラポンの薬理作用に関与している可能性があること、そして、「ラットのコカイン自己投与に対するメチラポールの効果」を調べた薬理試験において、メチラポールがメチラポンの効果に関与しているという考えを支持し、メチラポールがコカイン依存の治療に有用である可能性を示唆する結果が得られたことが、記載されている(上記(2)イ)。
そうすると、引用文献1及び引用文献2の記載を併せ見た当業者は、引用発明のメチラポンだけでなく、その活性代謝物であるメチラポールもコカイン依存の治療に有用であることを期待して、引用発明の第一の医薬活性成分であるメチラポンに代えてメチラポールを用いることを、容易に想到しえたといえる。

ウ 以上ア及びイからみて、本件補正発明の構成を得ることは、引用発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項から、当業者が容易に想到しえたといえる。

エ 本件補正発明による効果について検討する。
本願明細書には、実施例1?4にメチラポンとオキサゼパムの組合せによる薬物治療の効果を調べた薬理試験結果が記載されており、実施例5において、以下の記載がある。
「【実施例5】
【0148】
ラットにおけるコカイン自己投与に対するメチラポールの作用
メチラポールが動物モデルにおけるコカイン自己投与を低下させる可能性を調べるために、我々は以下の実験を行った。オスの成体ウィスターラットを、交互に変化する15分間中に、食物補給とコカイン自己投与の2時間の複数の交互スケジュール(固定比4)下で、応答するように訓練した。試験前に、ラットを、複数回の食塩水置換と食物枯渇調査に曝露した。試験の日に、行動セッションの開始30分前に、メチラポール(25、50、100、及び150mg/kg、腹腔内)又はビヒクルを用いて、ラットを前処理した。被験体をまず訓練し、0.25mg/kg/注入のコカイン、次に0.125と0.5mg/kg/注入のコカインを用いて試験した。コカイン自己投与は、すべての用量のコカインで用量依存性に低下した。食物維持応答は、最も高い用量のメチラポール以外では、有意に影響を受けなかった。これらのデータは、メチラポールがメチラポンの効果においてある役割を果たすという仮説を支持し、メチラポールがコカイン依存の治療において有用であることを示唆する。」
上記実施例5の薬理試験結果は、引用文献2(上記(2)イ)の「ラットのコカイン自己投与に対するメチラポールの効果」を調べた薬理試験で得られた結果と実質的に同一の結果である。そして、本願明細書には、メチラポールとオキサゼパムの組合せによる薬物治療の効果を調べた薬理試験結果を示す実施例は記載されていないので、上記実施例5の記載を参酌しても、本件補正発明により、引用発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項から当業者が予測し得ない程に格別顕著な効果が得られたとはいえない。

オ 審判請求人は、審判請求の理由(平成30年10月18日提出の手続補正書(方式)を参照。)において、以下の(i)及び(ii)の主張をしている。

(i)「先ず、当業者はメチラポンとメチラポールとがまったく別個の性質を有する化合物であると認識しておりますので、チラポールがメチラポンの活性代謝物であるとの理由のみによって、これら2つの化合物が簡単に交換可能とは考えられず、メチラポンの代わりにメチラポールを使用しても治療薬として同様な効果を奏するとは考えなかったものであります。」
そこで、上記主張(i)について検討する。
審判請求人は「メチラポンとメチラポールとがまったく別個の性質を有する化合物である」ことが具体的に記載されている、本願優先日より前に頒布された刊行物等の証拠を何ら提示していない。
そして、引用文献2(上記(2)イ)に「メチラポールはメチラポンの活性代謝物であり、ステロイド11βヒドロキシラーゼの阻害においてメチラポンと同等に強力であるため、メチラポンの薬理作用に関与している可能性がある」と記載されているように、本願優先日より前に、メチラポールがメチラポンの薬理作用に関与している可能性が示されていたのであるから、「メチラポンとメチラポールとがまったく別個の性質を有する化合物である」ことが、本願優先日当時の技術常識であるとはいえない。

(ii)「引用文献2は、メチラポールがメチラポンの代謝物であるか否かを決定するために、ラットに腹腔内でメチラポールを投与した、前臨床試験を報告しているにすぎません。同引用文献では、メチラポール投与後のコカインの自己投与が測定され、摂食に対する効果も測定されていますが、この試験は、メチラポールがコカイン乱用の治療に有用で「あろう」と報告しているのみであります。
しかも、引用文献2には、メチラポールとベンゾジアゼピンとの組み合わせについては記載も示唆もありません。
したがって、メチラポールについて記載のない引用文献1と、メチラポールのコカイン乱用治療に対する明確な試験結果が存在せず、メチラポールとベンゾジアゼピンとの併用についても記載のない引用文献2とを当業者が組み合わせる動機付けがなく、たとえ組み合わせたとしても、補正後の本願発明に想到できたとは考えられません。」
そこで、上記主張(ii)について検討する。
引用文献2(上記(2)イ)に「メチラポールはメチラポンの活性代謝物であり」と記載されているように、メチラポールがメチラポンの代謝物であることは、引用文献2の薬理試験を設計する前に既に知られており、引用文献2の薬理試験は「メチラポールがコカイン自己投与を減少させる可能性を探るために設計された」ものである。
そして、上記イで説示したように、引用文献1には、医薬活性成分の代謝物が、臨床的に有用であるために十分な生物学的活性を保持することがあることを示唆する記載があり、引用文献2の薬理試験で、メチラポールがコカイン依存の治療に有用である可能性を示唆する結果が得られたのであるから、引用文献1及び引用文献2の記載を併せ見た当業者は、引用発明のメチラポンだけでなく、その活性代謝物であるメチラポールもコカイン依存の治療に有用であることを期待して、引用発明の第一の医薬活性成分であるメチラポンに代えてメチラポールを用いることを、容易に想到しえたといえる。

よって、審判請求人による上記(i)及び(ii)の主張は、いずれも認められない。

カ 以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであるから、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
平成30年9月10日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に係る発明は、平成28年10月12日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
メチラポール及び第二の医薬活性成分を含んで成る医薬組成物であって、患者に対して経口又は局所投与するために製剤化され、メチラポールは該患者における血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分な量で存在する、医薬組成物。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明(請求項1)に対する理由1及び2の概要は以下のとおりである。

[理由1:特許法第36条第6項第2号(明確性)について)]
備考:
請求項1の「メチラポールは該患者における血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分な量で存在する」との記載につき、メチラポールのプロドラッグであるメチラポンはコルチコステロン合成阻害剤であり副腎不全をひきおこすおそれがあるから(要すれば、引用文献2:「アブストラクト」欄、引用文献4:第182頁左欄第19?22行)、メチラポールを投与すればコルチゾールの産生が抑制されることは明らかであるし、「血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分」なメチラポールの量が、本願優先日前において広く知られていたものでもない。
よって、「血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分な量」のメチラポールが、具体的にどの程度の量であるのか不明である。
なお、上述のとおり、本願発明の組成物が含有するメチラポールの量は不明確なものであるが、当該「血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分」なメチラポールの量(本願請求項1)がいかなる範囲を含むものであるのかについて検討すると、請求項1に係る発明は、経口投与及び局所投与するために製剤化されたものを包含するものであって、本願明細書段落0016の「0.5?50.0mg/kgの第一物質(例えば、メチラポン又はメチラポール)を含む経口投与された組成物は、そのような結果を達成するであろうことを示唆する。循環用量は投与経路や他の事項に依存して変動し、他の用量が適切で有効な場合もあることは、当該分野でよく知られている。」との記載を参酌すると、経口投与製剤の場合は、0.5?50.0mg/kg程度の投与量が、当該「血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分」なメチラポールの量(すなわち、請求項1の経口投与におけるメチラポールの量)に相当すると認められる。

[理由2:特許法第29条第2項(進歩性)について]
備考:
引用文献1には、メチラポンまたはその構造アナログ等と、オキサゼパム(本願請求項1の「第二の医薬活性成分」に相当する。)とを含む医薬組成物について(請求項1?7)、当該組成物が経口または静脈内投与であり得ること(請求項12、13、段落0077)、ポリエチレングリコール等の標準的な賦形剤を配合し得ること(段落0024)が記載されている。同文献にはまた、低用量メチラポン(25?50mg/kg:腹腔内投与)及び低用量オキサゼパム(5?25mg/kg:腹腔内投与)の併用投与が、コカイン自己投与を抑制したこと、各々の単独低用量投与ではコカイン自己投与に影響がなかったことが記載されている(段落0105?0107、図1A、1B)。そして、同文献には、有効成分が代謝物であってよいこと、及び、オキサゼパムと併用した場合に、メチラポンの代謝副産物がオキサゼパムの作用を増加させたことが記載されている(段落0051、0124)。
ここで、上記明確性で述べたとおり、本願段落0016等の記載を参酌すると、25?50mg/kg程度のメチラポンの投与量は、本願請求項1の「血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分な量」、又は、本願請求項8の「コルチゾールの血漿濃度を不十分に減少させる量」に相当すると認められる。
してみると、本願請求項1、8に係る発明は、メチラポールを含むものであることが特定されているのに対し、引用文献1記載の発明はメチラポンを含むものである点で、両者は相違する。
しかしながら、上述したとおり、引用文献1には、メチラポンの代謝物を有効成分として用いることが開示されているところ(段落0051)、メチラポールがメチラポンの活性代謝物であり、メチラポンと同様にコカイン依存の治療に有用であることは、本願優先日前既に当業者に知られていたことである(引用文献2:「アブストラクト」欄)。
してみると、引用文献1記載の発明において、メチラポンと同様の活性を有する代謝物であるメチラポールを用いることは当業者が容易に想到し得たことである。
また、医薬組成物の剤形を好適化することは当業者が適宜行うことに過ぎない。
そして、本願請求項1に係る発明が、引用文献1、2記載の事項に比し
て格別顕著な効果を奏するとは認められない。
したがって、請求項1に係る発明は、引用文献1、2記載の発明に基づ
き当業者が容易に発明し得たものである。

[当審合議体による注釈]
原査定の理由で引用された引用文献1及び2は、それぞれ、上記「第2の[理由]2(2)」で説示した引用文献1及び2であり、原査定の理由で引用された引用文献4は、平成29年5月30日付け拒絶理由通知書で引用された引用文献4「Pharmacology, Biochemistry and Behavior, 2008, vol.91, p.181-189,2008年,Vol.91,pp.181-189(周知技術を示す文献)」である。

3 原査定の[理由1(明確性)]について
平成29年12月6日付け意見書及び審判請求の理由(平成30年10月18日提出の手続補正書(方式)を参照。)の記載を参酌しても、本願発明の「血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分な量」のメチラポールが具体的にどの程度の量であるのか不明である点は、依然として解消されていない。
よって、本願発明は明確でない。

4 原査定の[理由2(進歩性)]について
上記3で説示したように、本願発明の「メチラポールは該患者における血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分な量で存在する」という記載は不明確であるが、念のため、本願明細書段落【0016】の「0.5?50.0mg/kgの第一物質(例えば、メチラポン又はメチラポール)を含む経口投与された組成物は、そのような結果を達成するであろうことを示唆する。循環用量は投与経路や他の事項に依存して変動し、他の用量が適切で有効な場合もあることは、当該分野でよく知られている。」という記載を参酌して、本願発明が経口投与するために製剤化されたものである場合は、0.5?50.0mg/kg程度の投与量が、当該「血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分」なメチラポールの量に相当すると仮定した上で、理由2(進歩性)について判断する。

(1)引用文献に記載された事項
原査定の引用文献1及び2、並びにそれぞれに記載された事項は、上記「第2の[理由]2(2)」のア及びイに記載したとおりである。

(2)対比・判断
上記「第2の[理由]2(2)」のアで説示したように、引用文献1に記載された引用発明は、「HPA系の異常活性に関連する障害を治療するための、第一薬剤を含む医薬組成物であって、前記障害は、コカイン自己投与であり、第一薬剤がメチラポンであり、当該医薬組成物は第二薬剤を更に含み、第二薬剤がオキサゼパムであり、第一薬剤及び第二薬剤は、単独で投与される場合にコカイン自己投与に有意に影響することはなかった低用量のメチラポン(25?50mg/kg、腹腔内投与)及びオキサゼパム(5?25mg/kg、腹腔内投与)で投与されるものである、医薬組成物。」の発明である。
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の第二薬剤であるオキサゼパムは、本願発明の「第二の医薬活性成分」に相当するので、両発明は「メチラポール又はメチラポン、及び第二の医薬活性成分を含んで成る医薬組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)本願発明の医薬組成物は経口又は局所投与するために製剤化されたものであるのに対し、引用発明の医薬組成物は腹腔内投与するものである点。

(相違点2)本願発明の医薬組成物は「患者における血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分な量」の「メチラポール」を含むのに対し、引用発明の医薬組成物は「単独で投与される場合にコカイン自己投与に有意に影響することはなかった低用量のメチラポン(25?50mg/kg、腹腔内投与)」を含む点。

上記相違点について検討する。
[相違点1について]
上記「第2の[理由]2(4)ア」で説示したように、引用文献1には、引用発明の医薬組成物を経口又は非経口投与による投与用に剤形することができ、非経口投与の具体例として、静脈内投与、筋中投与、局所投与等が記載されているので(摘記(1A)の【請求項12】及び【請求項13】、並びに摘記(1G))、上記記載から、引用発明の医薬組成物を経口又は局所投与するために製剤化することは、当業者が必要に応じて適宜なしうる事項にすぎない。

[相違点2について]
本願明細書段落【0016】の「0.5?50.0mg/kgの第一物質(例えば、メチラポン又はメチラポール)を含む経口投与された組成物は、そのような結果を達成するであろうことを示唆する。循環用量は投与経路や他の事項に依存して変動し、他の用量が適切で有効な場合もあることは、当該分野でよく知られている。」との記載を参酌すると、本願発明が経口投与するために製剤化されたものである場合、本願発明の「血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分」なメチラポールの投与量は0.5?50.0mg/kg程度であると解される。
そして、上記「第2の[理由2]2(4)イ」で説示したように、引用文献1には、医薬活性成分の代謝物が、臨床的に有用であるために十分な生物学的活性を保持することがあることを示唆する記載があり、引用文献2の薬理試験で、メチラポールがコカイン依存の治療に有用である可能性を示唆する結果が得られたのであるから、引用文献1及び引用文献2の記載を併せ見た当業者は、引用発明のメチラポンだけでなく、その活性代謝物であるメチラポールもコカイン依存の治療に有用であることを期待して、引用発明のメチラポンに代えてメチラポールを用いることを容易に想到しえたといえるし、メチラポールを用いる際に、引用発明のメチラポンの用量である25?50mg/kgを参考にして、本願発明の製剤形態を考慮しつつ、メチラポールの投与量を「血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分」な量すなわち上記「0.5?50.0mg/kg程度」の量にすることは、当業者が適宜調整しえた事項にすぎない。

以上のように、本願発明の構成を得ることは、引用発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項から、当業者が容易に想到しえたといえる。
なお、仮に、審判請求人が、審判請求の理由(平成30年10月18日提出の手続補正書(方式)を参照。)において主張しているように、本願発明の「メチラポールは該患者における血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分な量で存在する」という記載が、「単独で投与される場合に当該疾患(すなわち、HPA軸における異常活性に関連する疾患)を治療するのに不十分な量で存在する」ことを意味する記載であるとしても、上記「第2の[理由]2(4)ウ」での説示と同様に、本願発明の構成を得ることは、引用発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項から、当業者が容易に想到しえたといえる。

[本願発明による効果について]
上記「第2の[理由]2(4)エ」で説示したように、本願明細書には、実施例1?4にメチラポンとオキサゼパム(本願発明の第二の医薬活性成分に相当する。)の組合せによる薬物治療の効果を調べた薬理試験結果が記載されており、実施例5に「ラットにおけるコカイン自己投与に対するメチラポールの作用」を調べた薬理試験結果が記載されている。
しかし、本願明細書には、メチラポール及び第二の医薬活性成分を含んでなり、患者に対して「経口又は局所投与するために製剤化」され、メチラポールを「患者における血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分な量」で含む医薬組成物を用いた実施例、及びメチラポールと第二の医薬活性成分の組合せによる薬物治療の効果を調べた薬理試験結果を示す実施例は、いずれも記載されていないのであるから、本願発明により、引用発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項から当業者が予測し得ない程に格別顕著な効果が得られたとはいえない。
なお、仮に、審判請求人が、審判請求の理由(平成30年10月18日提出の手続補正書(方式)を参照。)において主張しているように、本願発明の「メチラポールは該患者における血漿コルチゾール濃度を減少させるのに不十分な量で存在する」という記載が、「単独で投与される場合に当該疾患(すなわち、HPA軸における異常活性に関連する疾患)を治療するのに不十分な量で存在する」ことを意味する記載であるとしても、上記「第2の[理由]2(4)エ」での説示と同様に、本願発明により、引用発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項から当業者が予測し得ない程に格別顕著な効果が得られたとはいえない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-11-27 
結審通知日 2019-12-03 
審決日 2019-12-17 
出願番号 特願2016-177806(P2016-177806)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 参鍋 祐子  
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 前田 佳与子
渡邊 吉喜
発明の名称 依存、精神疾患、及び神経変性病の治療のための組成物と方法  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 中村 和美  
代理人 青木 篤  
代理人 武居 良太郎  
代理人 中島 勝  
代理人 中村 和美  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 武居 良太郎  
代理人 中島 勝  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  

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