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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1362182
審判番号 不服2019-3967  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-26 
確定日 2020-05-08 
事件の表示 特願2014-121354「記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月 7日出願公開,特開2016- 491〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年6月12日に出願された特許出願であって,平成30年3月13日付けで拒絶理由が通知され,同年5月16日に意見書及び手続補正書が提出され,同年8月29日付けで拒絶理由が通知され,同年11月2日に意見書及び手続補正書が提出され,同年12月18日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,それに対して,平成31年3月26日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成31年3月26日された手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成31年3月26日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は,平成30年11月2に補正された特許請求の請求項1に記載された
「筐体と,
前記筐体の内側を構成する装置本体と,を備え,
前記装置本体は,
媒体に記録を行う記録ヘッドを備えるとともに第1の方向及びその反対方向である第2の方向に移動可能なキャリッジと,
前記キャリッジを駆動するキャリッジ駆動モーターと,
媒体を搬送する搬送手段と,
前記搬送手段を駆動する搬送手段駆動モーターと,
前記搬送手段駆動モーターの動力を前記搬送手段に伝達する動力伝達機構と,を備え,
前記キャリッジは,前記第1の方向の端部をホームポジションとし,
前記キャリッジ駆動モーター,前記搬送手段駆動モーター,前記動力伝達機構,のこれらは,前記第2の方向の端部領域に位置し,
前記キャリッジ駆動モーターと,前記動力伝達機構とが,前記キャリッジの移動方向において重なる部分を有し,
前記キャリッジ駆動モーターは,前記キャリッジの移動方向において,媒体が搬送される範囲外に位置するとともに,前記キャリッジが移動する範囲内に位置し,
前記キャリッジが前記第2の方向の端部に位置する際,前記キャリッジ駆動モーター,前記搬送手段駆動モーター,前記動力伝達機構,のこれらは,前記キャリッジの前記第2の方向の側面よりも,前記第1の方向側に位置するとともに,前記装置本体の,前記第2の方向の側面の一部が,前記キャリッジの側面で構成される,
ことを特徴とする記録装置。」
を,
「筐体と,
前記筐体の内側を構成する装置本体と,を備え,
前記装置本体は,
媒体に記録を行う記録ヘッドを備えるとともに第1の方向及びその反対方向である第2の方向に移動可能なキャリッジと,
前記キャリッジを駆動するキャリッジ駆動モーターと,
媒体を搬送する搬送手段と,
前記搬送手段を駆動する搬送手段駆動モーターと,
前記搬送手段駆動モーターの動力を前記搬送手段に伝達する動力伝達機構と,を備え,
前記キャリッジは,前記第1の方向の端部をホームポジションとし,
前記キャリッジ駆動モーター,前記搬送手段駆動モーター,前記動力伝達機構,のこれらは,前記第2の方向の端部領域に位置し,
前記キャリッジ駆動モーターと,前記動力伝達機構とが,前記キャリッジの移動方向において重なる部分を有し,
前記キャリッジ駆動モーターは,前記キャリッジの移動方向において,媒体が搬送される範囲外に位置するとともに,前記キャリッジが移動する範囲内に位置し,
前記キャリッジが前記第2の方向の端部に位置する際,前記キャリッジ駆動モーター,前記搬送手段駆動モーター,前記動力伝達機構,のこれらは,前記キャリッジの前記第2の方向の側面よりも,前記第1の方向側に位置するとともに,前記装置本体において最も前記第2の方向に位置する側面の一部が,前記キャリッジの前記第2の方向の側面で構成される,
ことを特徴とする記録装置。」
に補正する補正事項を含むものである(下線は補正箇所を示す。)。

2 補正の適否
以下、本件補正が、新規事項を追加するものであるか否かを検討する。

(1) 本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)には,キャリッジの第2の方向への移動に関して以下の記載がある。

ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年,プリンターにはより一層の小型化の要請がある。特にユーザーがプリンターを持ち運ぶことを想定したモバイルタイプのプリンターでは,より一層の小型化が要求される。
【0005】
ここでプリンターの横幅寸法に着目すると,横幅寸法は,大略的にはキャリッジの移動領域の幅と,当該移動領域の外側に設けられた構成要素のサイズや配置位置によって定まる。
従来のプリンターでは,特許文献1,2に示される様にキャリッジ駆動用モーター,搬送用モーター,また搬送用モーターを搬送ローラーに伝達する駆動機構(例えば歯車群),のこれらが装置の横幅寸法を大きくする要因となっていた。
【0006】
そこで本発明はこの様な状況に鑑みなされたものであり,その目的は,キャリッジ駆動用モーター,搬送用モーター,搬送用モーターを搬送ローラーに伝達する駆動機構,のこれらを備えた構成において,より一層の小型化を図ることにある。」

イ 「【0028】
図1は本発明に係る「記録装置」の一実施形態であるインクジェットプリンター(以下「プリンター」と言う)1の外観斜視図,図2および図3は装置本体(外観を構成する筐体を外した状態)2の斜視図,図4はプリンター1の用紙搬送経路を示す側断面図である。
【0029】
また,図5はキャリッジ17を装置後方斜め上から見た斜視図,図6はキャリッジ17が左側端部に位置する状態を示す斜視図,図7はキャリッジ17が左側端部よりややホームポジション側に位置する状態の斜視図,図8は歯車群33及びロータリースケール45を示す斜視図,図9はプリンター1の装置本体2を後方側から見た斜視図,図10は歯車群33の正面図,図11は搬送手段駆動モーター32及びキャリッジ駆動モーター47を装置後方から見た正面図である。更に,図12は搬送手段駆動モーター32及びキャリッジ駆動モーター47の配置例を示す図である。
【0030】
尚,各図に示すx-y-z直交座標系は,x方向及びy方向が水平方向であり,このうちx方向は用紙搬送方向と直交する方向(用紙幅方向)であり,また装置左右方向でもあり,またキャリッジ17の移動方向(主走査方向)でもある。またy方向は用紙搬送方向であり,また装置奥行き方向でもある。更に,z方向は重力方向であり,装置高さ方向でもある。
【0031】
以下,図1?図4を参照しつつプリンター1の全体構成について説明する。プリンター1は,記録動作と用紙搬送動作とを交互に行うことで記録を完了させる所謂シリアル型のインクジェットプリンターであり,携帯性を考慮して小型に構成されている。図1において符号28は装置外観を構成する,樹脂材料で形成された筐体であり,符号29は同じく樹脂材料で形成された上部カバー,符号30は同じく樹脂材料で形成された前部カバーを示している。上部カバー29と前部カバー30は一体に形成されており,開くことで操作パネル(不図示)及び用紙給紙口(不図示)が装置上面に表れ,また用紙排出口が装置前面に表れる様になっている。符号30aは,前部カバー30のロックを解除する操作レバーである。
【0032】
図2?図4に示す装置本体2は,上述した筐体28の内側を構成する。装置本体2は,複数のフレームにより骨格が構成されている。具体的には,メインフレーム8,サイドフレーム9,サイドフレーム10,サブフレーム11,ガイドフレーム12,ガイドフレーム13,のこれらにより構成されている。尚,これらフレームと筐体28との間隔は,小型化の為に非常に狭く設定されている。」

ウ 「【0037】
インクジェット記録ヘッド21はキャリッジ17に設けられ,当該キャリッジ17は,インクカートリッジ20A,20Bを搭載するとともに,キャリッジ駆動モーター47(図2,図3,図9?図11)からの動力を受け,用紙幅方向(x方向)に往復動する。尚,本実施形態では,キャリッジ17の移動領域(移動範囲)において図2及び図3の右端がキャリッジ17のホームポジションである。ここでのホームポジションとは,非印刷時や電源オフ時におけるキャリッジ17の待機位置を意味する。」

エ 「【0052】
以上の構成において,図6はキャリッジ17が第2の方向の端部に位置する状態を示している。図示する様に,歯車群33を構成する歯車のうち,本実施形態では歯車38,39,40が全体的にキャリッジ17の下側に位置し,歯車37,41の一部が,キャリッジ17の下側に位置する。
この様に第2の方向の端部に移動した状態におけるキャリッジ17の下に,歯車群33の少なくとも一部が位置するので,キャリッジ17の移動に必要な領域内に歯車群33が入り込む様な形態となり,これにより装置の横幅寸法を抑えることができる。加えて,キャリッジ17の横幅を確保しても装置の横幅寸法を抑えることができる為,キャリッジ17の容積即ちインクカートリッジ20A,20Bの容積を確保することができる。
【0053】
また,本実施形態においてキャリッジ17は,第2の方向に突出する突出部18fを備えるので,当該突出部18fによりキャリッジ17の容積を確保できるとともに,第2の方向の端部に移動した状態におけるキャリッジ17の,突出部18fの下に,歯車群33の少なくとも一部が位置するので,装置の横幅寸法増加を抑えることができる。また,高さ方向にキャリッジ本体18を大きくすることなくキャリッジ容積を確保できるので,装置高さ寸法の増加も抑えることができる。
そしてインクカートリッジ20Bは,キャリッジ17において突出部18fを含む空間を占有するので,インクカートリッジ20Bにおけるインク容量を確保することができる。」

オ 「【0057】
尚,キャリッジ本体18には,当該キャリッジ17が第2の方向の端部に位置する際に凸部10aを避ける凹部18jが形成されている(図5)。即ち,キャリッジ17が第2の方向の端部に位置する際(図6の状態),凹部18jに凸部10aが入り込む。これにより,キャリッジ17の移動領域を確保する為に(キャリッジ本体18とサイドフレーム10との干渉を防ぐ為に)サイドフレーム10の位置を外側に設定する必要がなく,装置の横幅寸法増加を抑えることができる。」

カ 「【図2】



キ 「【図3】



ク 「【図6】



(2) 上記(1)で摘記した事項から,当初明細書等には,キャリッジが第2の方向の端部に位置する際,歯車群の少なくとも一部が位置するようにすることで,キャリッジの移動に必要な領域内に歯車群が入り込むような形態となり,装置の横幅寸法を抑えられるということは記載されていると認められる。
しかし,装置本体を構成する歯車群以外の他の構成要素の第2の方向の側面と,キャリッジが第2の方向の端部に位置する際のキャリッジの第2の方向の側面との位置関係については,何ら記載がない。

(3) 請求人は審判請求書において,補正の根拠として,本願図面の図3及び図6を挙げている。
たしかに,図3及び図6には,キャリッジが第2の方向の端部に位置する際のキャリッジの第2の方向の側面と,歯車群だけでなく,装置本体の他の構成要素との位置関係は大まかに図示されているものの,明確に,装置本体において最も第2の方向に位置する側面の一部が,キャリッジの第2の方向の側面で構成されていることが把握できるものとはいえない。
さらに,「装置本体(外観を構成する筐体を外した状態)2の斜視図」である図2から,キャリッジ駆動モーター47よりもさらに+x方向(第2の方向)側に,板状の部材が看取できることからすれば,キャリッジが第2の方向の端部に位置する際,この板状の部材よりも第2の方向にキャリッジが移動できることは,到底想定できない。
図2,図3及び図6は,いずれも同じ装置本体を図示していると解するのが相当であるから,図3及び図6では,図2に示されている上記板状の部材が,省略されてものと解される。
そうすると,やはり,図3及び図6から,装置本体において最も第2の方向に位置する側面の一部が,キャリッジの第2の方向の側面で構成されることまで記載されているとはいえない。

(4) したがって,キャリッジが第2の方向の端部に位置する際,装置本体において最も第2の方向に位置する側面の一部が,キャリッジの第2の方向の側面で構成されることは,当初明細書等に記載した事項との関係において,新たに導入された技術的事項に当たるものといえ,本件補正は,そのような技術的事項を導入するものであるから,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものとはいえない。

3 小括
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明1及び11
本件補正は,上記第2のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし11に係る発明は,平成30年11月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項によって特定されるものであり,その請求項1及び11に係る発明(以下,それぞれを「本願発明1」及び「本願発明11」という。)は,以下のとおりである。

(1) 本願発明1
「筐体と,
前記筐体の内側を構成する装置本体と,を備え,
前記装置本体は,
媒体に記録を行う記録ヘッドを備えるとともに第1の方向及びその反対方向である第2の方向に移動可能なキャリッジと,
前記キャリッジを駆動するキャリッジ駆動モーターと,
媒体を搬送する搬送手段と,
前記搬送手段を駆動する搬送手段駆動モーターと,
前記搬送手段駆動モーターの動力を前記搬送手段に伝達する動力伝達機構と,を備え,
前記キャリッジは,前記第1の方向の端部をホームポジションとし,
前記キャリッジ駆動モーター,前記搬送手段駆動モーター,前記動力伝達機構,のこれらは,前記第2の方向の端部領域に位置し,
前記キャリッジ駆動モーターと,前記動力伝達機構とが,前記キャリッジの移動方向において重なる部分を有し,
前記キャリッジ駆動モーターは,前記キャリッジの移動方向において,媒体が搬送される範囲外に位置するとともに,前記キャリッジが移動する範囲内に位置し,
前記キャリッジが前記第2の方向の端部に位置する際,前記キャリッジ駆動モーター,前記搬送手段駆動モーター,前記動力伝達機構,のこれらは,前記キャリッジの前記第2の方向の側面よりも,前記第1の方向側に位置するとともに,前記装置本体の,前記第2の方向の側面の一部が,前記キャリッジの側面で構成される,
ことを特徴とする記録装置。」

(2) 本願発明11
「媒体に記録を行う記録ヘッドを備えるとともに第1の方向及びその反対方向である第2の方向に移動可能なキャリッジと,
前記キャリッジを駆動するキャリッジ駆動モーターと,
媒体を搬送する搬送手段と,
前記搬送手段を駆動する搬送手段駆動モーターと,
前記搬送手段駆動モーターの動力を前記搬送手段に伝達する歯車群と,
前記キャリッジを前記第1の方向及び前記第2の方向にガイドするガイドフレームと,を備え,
前記キャリッジ駆動モーターと,前記歯車群とが,前記キャリッジの移動方向において重なる部分を有し,
前記キャリッジ駆動モーターは,前記キャリッジの移動方向において,媒体が搬送される範囲外に位置するとともに,前記キャリッジが移動する範囲内に位置し,
前記ガイドフレームと,前記歯車群とが,鉛直方向において重なる部位を有する,
ことを特徴とする記録装置。」

2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は,本願発明1及び11は,その出願前に日本国内又は外国において公開された下記の引用文献1及び2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないという理由を含むものである。



引用文献1:特開昭62-221555号公報
引用文献2:特開2011-11554号公報

第4 引用文献及び引用発明
1 引用文献1について
(1) 引用文献1の記載事項
ア 引用文献1には,以下の記載がある。
(ア) 「第4図は本発明の一実施例を適用した,出力装置であるタイプライターTの外観斜視図である。
図において,10はプラテン,12は記録用紙,13は外装,14は電源のオンオフを制御するパワースイッチ,15は,キーボードである。16はフード13aの開閉によって,オン,オフされるフードスイッチで,フード13aの開閉を感知し,フード13aが開けられた時,後述のインクリボンを所定の位置へシフトさせる信号を発する他,同信号にてキーボードをロックさせている。MOKYは,モードキー1で,後述するリボンモード設定等各種モードを設定するためのものである。PRKYはプリント指令キーである。また本タイプライターTには,印刷部,入力部,表示部,制御部,及び外部入出力インターフェース部等が内蔵されている。なお本実施例は,上記入力部及び表示部が設けられていなくても良いことは勿論である。
第5図及び第6図は,本発明の実施例を適用した記録部の斜視図である。
記録紙12は,プラテン10にバックアップされた状態で,紙送りローラ17のゴム部(図示せず)に,ピンチローラ18によって圧接されている。この紙送りローラ17の軸17aには,ギア19が取付られ,減速ギア20を介して紙送りモータM1に接続されており,紙送りモータM1の回転により,紙送りローラ17が回転し,記録紙12を搬送する。したがって,後述するサーマルヘッド25が記録紙12に当接して記録を行なう際に,プラテン10は記録紙12の位置を維持する。
次にキャリア22の往復移動について説明する。
プラテン10の前側には平行にシャフト21が設置されている。このシャフト21にキャリア22(第6図)が,矢印A方向に移動可能に案内支持されている。即ちキャリア22は,記録紙12の搬送経路Sに沿って往復移動可能である。
ベルト23は,その一部が上記キャリア22に固定され,2個のプーリー(図示せず)によって,張設されている。このプーリー(図示せず)には,ギア(図示せず)を介してキャリアモータM2が接続されている。そこでこのキャリアモータM2の回転により,プーリー(図示せず)が回転し,これによってベルト23が回転することによりキャリア22をシャフト21に沿って往復移動(矢印A方向)する。また,キャリア22の位置を検出する為のリミットセンサ23がホームポジション側端部に設置されている。
さらに,キャリア22には,ヘッドホルダ24(第6図)が,シャフト21の回りに回転可能に案内支持されている。このヘッドホルダ24には,サーマルヘッド25を取り付けたヒートシンク26が取付てある。なおこのキャリア22は,一体のガイド部22aによりラック27に案内支持されている。またこのラック27には,その両端に突出部27a,27bが設けられている。
さらにこのキャリア22には,インクリボンカセット50(第11図)を搭載する為のキャリアテーブル28が設けられている。このテーブル28には,インクリボンカセット50の有無,種類,及びインクリボン1のエンド検出を行う為のセンサ29が設けられてる。またさらにキャリアテーブル28には,連結レバー30がプラテン10に対して垂直方向(矢印C方向)にガイド22aに沿って移動可能に案内支持されている。このレバー30は,さらにヒートシンク26に取り付けられた,連結部材31と係合している。そこで,ヒートシンク26のプラテン10方向(矢印B方向)の回転によって,レバー30はプラテン10に対して接近・離隔する方向(矢印C方向)へ移動する。なお,この連結レバー30には,指標部30aが設けられている。この指標部30aによって次に印字する位置が目視確認できる。またこの連結レバー30の後端には,係合部30bが設けられており,後述するカセット50の切換レバー62が係合した際には,このレバー62をプラテン10方向へ押し上げる。
この様に本実施例では,サーマルヘッド25に近接する,剥離条件の制御に関係する連結レバー30に指標部30aを設けたので,指標部30aで示した位置に記録を行なう場合に,指標部30aで示した位置まで僅かな距離だけサーマルヘッドを移動させれば良いので,指標を設けたにもかかわらず,記録速度を遅くすることなく,また騒音等の問題も生ずることがない。
尚キャリアテーブ28(当審注:「キャリアテーブ28」は,「キャリアテーブル28」の誤記と認める。以下,同様。)に,カセット50を取り外し可能に装填する場合を次に説明する。このキャリアテーブ28には,上面に固設されたピン28a・28b及びその側面に弾性的なフック部28cが設けられている。そこで,後述するカセット50(第12図)の下カセットケース52に設けられた開口52h・52iに上記ピン28a・28bを嵌入し,下カセットケース52の係止部52jに上記フック部28cを弾性的に係合することによって,カセット50は取り外し可能にキャリアテーブル28に装填することができる。又このキャリアテーブル28には,2色リボンカセットのみならず,通常の単色リボンカセットも共通に装填することができること勿論である。」(第4頁左下欄第4行?第5頁左下欄第18行)

(イ) 「ここで切換レバー62は,その先端62aをスライダ60の下端60aに係合させて,カセット下ケース52及びカセット上ケース63間にスライド自在(矢印K方向)に,また回動自在(矢印L方向)に設けられている。なお,この切換えレバー62の後端には折曲切換部62bが設けられており,この切換部62bが本体側の前述突出部27a・27bに当接することによって,レバー62は左右方向(図示K方向)へスライドする。また,このレバー62の移動範囲は,開口52cの左右端によって規制される。さらにレバー62の回動は,下ケース52及び上ケース63に設けられた長細開口63cに係合する,レバー62の突出部62cを中心にして行なわれる。」(第8頁右下欄第15行?第9頁左上欄第15行)

(ウ) 「まず,後述する通りの方法により黒色記録情報を受けると,前述した通り,アップダウンモータM3(第8図)を反時計方向へ回転し,サーマルヘッドを25を矢印B2方向へ移動させ,プラテン10から離反させる。また連結レバー30を矢印C2方向へ移動させる。次いで,キャリアモータM2(第5図)を駆動し,キャリア22(第8図)を右方向(図示A1方向)へ移動させ,切換レバー62の切換部62bとラック27の突出部27bとを当接させ,切換レバー62を左方向(図示K2方向)へ移動させる。この切換レバー62の矢印K2方向の移動によって,切換レバー62の連結部62aは連結レバー30と係合する。また,戻しバネ59の付勢力によって,剥離レバー58は下方(図示C2方向)へ,また切換レバー62は反時計方向(図示L2方向)へ各々付勢されており,剥離レバー58は記録紙12から離反した状態にある。」(第10頁右下欄第15行?第11頁左上欄第11行)

(エ) 「第4図



(オ) 「第5図



(カ) 第5図からは,リミットスイッチ23と,キャリアモータM2,紙送りモータM1,ギア19及び減速ギア20が,矢印A方向において,記録部の反対側にあることが看取できる。

(キ) 第5図からは,キャリアモータM2と,ギア19及び減速ギア20とが,キャリア22の往復移動の方向において重なる部分を有することが看取できる。

(ク) 第5図からは,キャリアモータM2が,キャリア22の往復移動の方向において,記録紙12が搬送される範囲外に位置することが看取できる。

(ケ) 第5図からは,フック部28cは,キャリア22の側面の中央近傍に設けられていることが看取できる。

(コ) 「第12図



(サ) 第12図からは,インクリボンカセット50の係止部52jと,切換レバー62の折曲切換部62bは,インクリボンカセット50の一辺の中央近傍で並設されていることが看取できる。

イ 上記アで摘記した事項から,以下のことがいえる。
(ア) 第5図に示される記録部は,第4図のタイプライターTの外装の内部にあるものであることは明らかである。

(イ) アで摘記した記載における,「インクリボンカセット50」と,「カセット50」が,同じ部材を示すことは明らかである。

(ウ) アで摘記した記載における,「折曲切換部62b」と,「切換部62b」が,同じ部分を示すことは明らかである。

(エ) ア(ウ)で摘記した記載における,「右方向(図示A1方向)」とは,「キャリア22が往復移動する方向」のうち,「リミットスイッチ23」から「キャリアモータM2,紙送りモータM1,ギア19及び減速ギア20」へ向かう方向である。

(2) 引用発明
上記(1)の事項から,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「外装13と,
前記外装13の内側にある記録部と,を備え,
前記記録部は,
記録紙12に当接して記録を行うサーマルヘッド25を取り付けたヒートシンク26が取り付けてあるヘッドホルダ24を支持し,記録紙12の搬送経路Sに沿って往復移動可能であるキャリア22と,
前記キャリア22を案内支持し,両端に突出部27a,27bが設けられているラック27と,
前記キャリア22が固定されるベルトを張設する2個のプーリーを回転させ,これによってベルトが回転することによりキャリア22を往復移動させるキャリアモータM2と,
回転して,記録紙12を搬送する紙送りローラ17と,
この紙送りローラ17の軸17a取り付けられたギア19に,減速ギア20を介して接続され,紙送りローラ17を回転させる紙送りモータM1と,
ホームポジション側端部に設置され,キャリア22の位置を検出する為のリミットセンサ23と,
キャリア22に設けられ,インクリボンカセット50を搭載する為のキャリアテーブル28と,を備え,
リミットスイッチ23と,キャリアモータM2,紙送りモータM1,ギア19及び減速ギア20が,キャリア22が往復移動する方向の反対側にあり,
キャリアモータM2と,ギア19及び減速ギア20とが,キャリア22の往復移動の方向において重なる部分を有し,
キャリアモータM2が,キャリア22の往復移動の方向において,記録紙12が搬送される範囲外に位置し,
前記キャリアテーブル28には,上面に固設されたピン28a・28b及びその側面の中央近傍に弾性的なフック部28cが設けられ,インクリボンカセット50の下カセットケース52に設けられた開口52h・52iに上記ピン28a・28bを嵌入し,下カセットケース52の係止部52jに上記フック部28cを弾性的に係合することによって,インクリボンカセット50は取り外し可能にキャリアテーブル28に装填することができ,
インクリボンカセット50の切換えレバー62の後端には折曲切換部62bが設けられており,
キャリアモータM2が駆動され,キャリア22が,キャリア22の往復移動する方向のうち,リミットスイッチ23からキャリアモータM2,紙送りモータM1,ギア19及び減速ギア20へ向かう方向へ移動させられ,切換レバー62の折曲切換部62bとラック27の突出部27bとが当接させられ,
前記係止部52jと,前記折曲切換部62bは,インクリボンカセット50の一辺の中央近傍で並設されている,
タイプライターT。」

2 引用文献2について
(1) 引用文献2の記載事項
ア 引用文献2には,以下の記載がある。
(ア) 「【0021】
本形態の液体吐出装置1は,媒体としての印刷用紙P等に対して液体状のインクを吐出して印刷を行うインクジェットプリンタである。以下では,本形態の液体吐出装置1をプリンタ1と表記する。本形態のプリンタ1は,図1から図3に示すように,インク滴を吐出する印刷ヘッド2が搭載されたキャリッジ3と,主走査方向MSのキャリッジ3を駆動するキャリッジモータ(CRモータ)4と,印刷用紙Pを副走査方向SSへ搬送する紙送りモータ(PFモータ)5と,PFモータ5に連結されたPF駆動ローラ6と,印刷ヘッド2のノズル面(図2の下面)と対向するように配置されたプラテン7と,これらの構成が搭載された本体シャーシ8とを備えている。本形態では,CRモータ4とPFモータ5とは,ともに直流(DC)モータである。」

(イ) 「【0024】
キャリッジ3は,本体シャーシ8に固定された支持フレーム16に支持されたガイドシャフト17と,タイミングベルト18とによって主走査方向MSに搬送可能に構成されている。すなわち,タイミングベルト18は,その一部がキャリッジ3に固定されるとともに(図2参照),CRモータ4の出力軸に取り付けられたプーリ19と支持フレーム16に回転可能に取り付けられたプーリ20とに掛け渡された状態で一定の張力を有するように配設されている。ガイドシャフト17は,キャリッジ3を主走査方向MSへ案内するように,キャリッジ3を摺動可能に保持している。また,キャリッジ3には,印刷ヘッド2に加え,印刷ヘッド2に供給される各種のインクが収納されたインクカートリッジ21が搭載されている。」

(ウ) 「【0028】
PF駆動ローラ6は,PFモータ5に直接あるいは図示を省略するギアを介して連結されている。また,図2に示すように,プリンタ1には,PF駆動ローラ6とともに印刷用紙Pを搬送するPF従動ローラ23が設けられている。PF従動ローラ23は,回転軸25を中心に揺動可能に構成された従動ローラホルダ24の排紙側に回動可能に保持されている。従動ローラホルダ24は,図示を省略するバネによって,PF従動ローラ23がPF駆動ローラ6へ向かう付勢力を常時受けるように,図示反時計方向へ付勢されている。そして,PF駆動ローラ6が駆動されると,PF駆動ローラ6とともに,PF従動ローラ23も回転する。」

(エ) 「【図1】



(オ) 図1からは,CRモータ4及びPFモータ5が,キャリッジ3の移動範囲内にあることが看取できる。

イ 上記アで摘記した事項から,CRモータ4及びPFモータ5が,キャリッジ3の移動範囲内にあり,PF駆動ローラ6には,PFモータ5がギアを介して連結されていることに照らせば,当該ギアもキャリッジ3の移動範囲内にあるものと解される。

(2) 引用文献2記載の技術的事項
上記(1)の事項から,引用文献2には,インク滴を吐出する印刷ヘッド2が搭載されたキャリッジ3と,主走査方向MSのキャリッジ3を駆動するCRモータ4と,印刷用紙Pを副走査方向SSへ搬送するPFモータ5と,PFモータ5に連結されたPF駆動ローラ6と,を備え,PF駆動ローラ6が,PFモータ5にギアを介して連結されているプリンタ1であって,前記CRモータ4,前記PFモータ5及び前記ギアがキャリッジ3の移動範囲内にあるという技術的事項が記載されているものと認められる。

第5 当審における判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,以下のことがいえる。

ア 引用発明の「外装13」は,本願発明1の「筐体」に相当する。

イ 引用発明の「記録部」は,「外装13の内側にある」から,引用発明の「記録部」は,本願発明1の「筐体の内側を構成する装置本体」に相当する。

ウ 引用発明の「記録紙12」は,本願発明1の「媒体」に相当する。

エ 引用発明の「サーマルヘッド25」は,「記録紙12に当接して記録を行う」ものであるから,引用発明の「サーマルヘッド25」は,本願発明1の「媒体に記録を行う記録ヘッド」に相当する。

オ 引用発明の「キャリア22」は,「サーマルヘッド25を取り付けたヒートシンク26が取り付けてあるヘッドホルダ24を支持し」ているから,「サーマルヘッド25」を備えるものといえる。
また,引用発明の「キャリア22」は,「記録紙12の搬送経路Sに沿って往復移動可能」でもある。
そうすると,引用発明の「キャリア22」は,本願発明1の「記録ヘッドを備えるとともに第1の方向及びその反対方向である第2の方向に移動可能なキャリッジ」に相当する。

カ 引用発明の「キャリアモータM2」は,「前記キャリア22が固定されるベルトを張設する2個のプーリーを回転させ,これによってベルトが回転することによりキャリア22を往復移動させる」から,引用発明の「キャリアモータM2」は,本願発明1の「前記キャリッジを駆動するキャリッジ駆動モーター」に相当する。

キ 引用発明の「紙送りローラ17」は,「記録紙12を搬送する」から,引用発明の「紙送りローラ17」は,本願発明1の「媒体を搬送する搬送手段」に相当する。

ク 引用発明の「紙送りモータM1」は,「この紙送りローラ17の軸17a取り付けられたギア19に,減速ギア20を介して接続され,紙送りローラ17を回転させる」から,引用発明の「紙送りモータM1」は,本願発明1の「前記搬送手段を駆動する搬送手段駆動モーター」に相当する。

ケ 引用発明においては,「紙送りモータM1」が,「紙送りローラ17の軸17a取り付けられたギア19に,減速ギア20を介して接続され,紙送りローラ17を回転させる」から,「ギア19」及び「減速ギア20」は,「紙送りモータM1」の動力を「紙送りローラ17」に伝達するものである。
そうすると,引用発明の「ギア19」及び「減速ギア20」は,本願発明1の「前記搬送手段駆動モーターの動力を前記搬送手段に伝達する動力伝達機構」に相当する。

コ 引用発明においては,「リミットセンサ23」が,「ホームポジション側端部に設置され」ているから,「キャリア22」のホームポジションは,「リミットセンサ23」のある側であると認められる。
また,引用発明においては,「キャリアモータM2,紙送りモータM1,ギア19及び減速ギア20が」,「リミットスイッチ23」とは,「キャリア22が往復移動する方向の反対側にあ」る。
そうすると,引用発明の,「キャリア22が往復移動する方向」のうち,「リミットスイッチ23」から「キャリアモータM2,紙送りモータM1,ギア19及び減速ギア20」へ向かう方向(以下,「往方向」という。),及び「キャリアモータM2,紙送りモータM1,ギア19及び減速ギア20」から「リミットスイッチ23」へ向かう方向(以下,「復方向」という。)は,それぞれ,本願発明1の「第2の方向」及び「第1の方向」に相当し,本願発明1と引用発明とは,「前記キャリッジは,前記第1の方向の端部をホームポジションとし,前記キャリッジ駆動モーター,前記搬送手段駆動モーター,前記動力伝達機構,のこれらは,前記第2の方向の端部領域に位置」する点で共通する。

サ 引用発明においては,「キャリアモータM2と,ギア19及び減速ギア20とが,キャリア22の往復移動の方向において重なる部分を有し」ているから,本願発明1と引用発明とは,「前記キャリッジ駆動モーターと,前記動力伝達機構とが,前記キャリッジの移動方向において重なる部分を有」する点で共通する。

シ 引用発明においては,「キャリアモータM2が,キャリア22の往復移動の方向において,記録紙12が搬送される範囲外に位置し」ているから,本願発明1と引用発明とは,「前記キャリッジ駆動モーターは,前記キャリッジの移動方向において,媒体が搬送される範囲外に位置する」点で共通する。

ス 引用発明の「タイプライターT」は,「サーマルヘッド25」によって「記録紙12」に「記録を行う」ものであるから,引用発明の「タイプライターT」は,本願発明1の「記録装置」に相当する。

セ 上記アないしスから,本願発明1と引用発明とは,以下の点で一致する。

[一致点]
「筐体と,
前記筐体の内側を構成する装置本体と,を備え,
前記装置本体は,
媒体に記録を行う記録ヘッドを備えるとともに第1の方向及びその反対方向である第2の方向に移動可能なキャリッジと,
前記キャリッジを駆動するキャリッジ駆動モーターと,
媒体を搬送する搬送手段と,
前記搬送手段を駆動する搬送手段駆動モーターと,
前記搬送手段駆動モーターの動力を前記搬送手段に伝達する動力伝達機構と,を備え,
前記キャリッジは,前記第1の方向の端部をホームポジションとし,
前記キャリッジ駆動モーター,前記搬送手段駆動モーター,前記動力伝達機構,のこれらは,前記第2の方向の端部領域に位置し,
前記キャリッジ駆動モーターと,前記動力伝達機構とが,前記キャリッジの移動方向において重なる部分を有し,
前記キャリッジ駆動モーターは,前記キャリッジの移動方向において,媒体が搬送される範囲外に位置する記録装置。」

ソ そして,両者の発明は,以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明1においては,「前記キャリッジ駆動モーターは,キャリッジが移動する範囲内に位置」するのに対して,引用発明においては,キャリアモータM2とキャリア22の移動する範囲との位置関係が特定されない点。

[相違点2]
本願発明1においては,「前記キャリッジが前記第2の方向の端部に位置する際,前記キャリッジ駆動モーター,前記搬送手段駆動モーター,前記動力伝達機構,のこれらは,前記キャリッジの前記第2の方向の側面よりも,前記第1の方向側に位置する」のに対して,引用発明においては,キャリア22が往方向の端部に位置する際の,キャリア22の往方向の側面と,キャリアモータM2,紙送りモータM1,ギア19及び減速ギア20との位置関係が特定されない点。

[相違点3]
本願発明1においては,「前記キャリッジが前記第2の方向の端部に位置する際」,「前記装置本体の,前記第2の方向の側面の一部が,前記キャリッジの側面で構成される」のに対して,引用発明においては,キャリア22が往方向の端部に位置する際の,キャリア22の往方向の側面と,記録部の側面との位置関係が特定されない点。

(2) 相違点に対する判断
ア 相違点1及び2について
キャリッジが第2の方向の端部に位置する際,キャリッジ駆動モーター,搬送手段駆動モーター,動力伝達機構,のこれらが,前記キャリッジの前記第2の方向の側面よりも,前記第1の方向側に位置すれば,前記キャリッジ駆動モーターは,キャリッジが移動する範囲内に位置することは明らかである。すなわち,相違点2に係る発明特定事項が,当業者が容易に想到し得るものであれば,相違点1に係る発明特定事項も,当業者が容易に想到し得るものであるといえるから,ここでは,相違点2について検討する。
ここで,引用発明は,キャリア22が,往方向に移動させられ,インクリボンカセット50の切換レバー62の折曲切換部62bと,ラック27の突出部27bとが,当接させられるものである。
そして,引用発明においては,折曲切換部62bは,インクリボンカセット50の一辺の中央近傍に設けられ,係止部52jも,インクリボンカセット50の一辺の中央近傍に設けられ,係止部52jに係合するフック部28cが,キャリア22の側面の中央近傍に設けられていることに照らせば,キャリア22が,往方向の端部まで移動した際には,キャリア22の係止部28cよりも往方向側の部分は,突起部27bよりもさらに往方向側に存在するものと認められる。
そうすると,引用文献1の第5図に照らせば,引用発明において,キャリア22が,往方向の端部に位置する際に,キャリア22と,キャリアモータM2,紙送りモータM1,ギア19及び減速ギア20が往方向において重なる状態となるものと認められる。
そして,装置の小型化という当業者にとって一般的な課題に鑑みれば,引用発明に対して,引用文献2記載の技術的事項を適用し,キャリア22の往方向の側面よりも,キャリアモータM2,紙送りモータM1,ギア19及び減速ギア20が復方向側に位置するようにして,本願発明1の上記相違点2に係る発明特定事項とすることは,当業者にとって容易である。

イ 相違点3について
上記アで検討したとおり,キャリア22の往方向の側面よりも,キャリアモータM2,紙送りモータM1,ギア19及び減速ギア20が位置するようにすることは,当業者にとって容易であるから,その際に,装置の小型化を考慮して,記録部のキャリアモータM2,紙送りモータM1,ギア19及び減速ギア20以外の構成要素も,キャリア22の往方向の側面よりも復方向側に位置させるようにすることは,当業者が適宜なし得る設計変更に過ぎないといえる。

(3) 小括
以上のとおりであるから,本願発明1は,引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 本願発明11について
(1) 対比
本願発明11と引用発明とを対比すると,以下のことがいえる。

ア 上記1(1)ウないし同ク,同シ及び同スにおいて,「本願発明1」を「本願発明11」と言い換えたことがいえる。

イ 引用発明においては,「紙送りモータM1」が,「紙送りローラ17の軸17a取り付けられたギア19に,減速ギア20を介して接続され,紙送りローラ17を回転させる」から,「ギア19」及び「減速ギア20」は,「紙送りモータM1」の動力を「紙送りローラ17」に伝達するものである。
そうすると,引用発明の「ギア19」及び「減速ギア20」は,本願発明11の「歯車群」に相当する。

ウ 引用発明の「ラック27」は,「キャリア22を案内支持」するものであり,「キャリア22」は往復移動するものであることを踏まえれば,引用発明の「ラック27」は,本願発明11の「ガイドフレーム」に相当する。

エ 上記イを踏まえると,上記1(1)サにおいて,「本願発明1」及び「動力伝達機構」を,それぞれ,「本願発明11」及び「歯車群」と言い換えたことがいえる。

オ 上記アないしエから,本願発明11と引用発明とは,以下の点で一致する。

[一致点]
「媒体に記録を行う記録ヘッドを備えるとともに第1の方向及びその反対方向である第2の方向に移動可能なキャリッジと,
前記キャリッジを駆動するキャリッジ駆動モーターと,
媒体を搬送する搬送手段と,
前記搬送手段を駆動する搬送手段駆動モーターと,
前記搬送手段駆動モーターの動力を前記搬送手段に伝達する歯車群と,
前記キャリッジを前記第1の方向及び前記第2の方向にガイドするガイドフレームと,を備え,
前記キャリッジ駆動モーターと,前記歯車群とが,前記キャリッジの移動方向において重なる部分を有し,
前記キャリッジ駆動モーターは,前記キャリッジの移動方向において,媒体が搬送される範囲外に位置する記録装置。」

カ そして,両者の発明は,以下の点で相違する。

[相違点4]
本願発明11においては,「前記キャリッジ駆動モーターは」「前記キャリッジが移動する範囲内に位置」するのに対して,引用発明においては,キャリアモータM2とキャリア22の移動する範囲との位置関係が特定されない点。

[相違点5]
本願発明11においては,「前記ガイドフレームと,前記歯車群とが,鉛直方向において重なる部位を有する」のに対して,引用発明においては,ラック27と,ギア19及び減速ギア20との位置関係が特定されない点。

(2) 相違点に対する判断
ア 相違点4について
引用発明は,キャリア22が,往方向に移動させられ,インクリボンカセット50の切換レバー62の折曲切換部62bと,ラック27の突出部27bとが,当接させられるものである。
そして,引用発明においては,折曲切換部62bは,インクリボンカセット50の一辺の中央近傍に設けられ,係止部52jも,インクリボンカセット50の一辺の中央近傍に設けられ,係止部52jに係合するフック部28cが,キャリア22の側面の中央近傍に設けられていることに照らせば,キャリア22が,往方向の端部まで移動した際には,キャリア22の係止部28cよりも往方向側の部分は,突起部27bよりもさらに往方向側に存在するものと認められる。
そうすると,引用文献1の第5図に照らせば,引用発明において,キャリア22が,往方向の端部に位置する際に,キャリア22とキャリアモータM2が往方向において重なる状態となるものと認められる。
そして,装置の小型化という当業者にとって一般的な課題に鑑みれば,引用発明に対して,引用文献2記載の技術的事項を適用し,キャリア22の移動範囲内にキャリアモータM2が含まれるようにして,本願発明11の上記相違点4に係る発明特定事項とすることは,当業者にとって容易である。

イ 相違点5について
引用文献1の第5図に照らせば,引用発明において,ラック27と,ギア19及び減速ギア20は,キャリア22の往復方向と直交する水平方向にずれた位置にあり,鉛直方向においては近い位置にあることは明らかである。
そして,ラック27と,ギア19及び減速ギア20の位置は,それぞれ,当業者が適宜設計するべき事項に過ぎず,装置の小型化という当業者にとって一般的な課題に鑑みれば,引用発明において,ラック27と,ギア19及び減速ギア20の位置が,鉛直方向において重なる部位を有するようにし,本願発明11の上記相違点5に係る発明特定事項とすることは,当業者が適宜なし得ることである。

(3) 小括
以上のとおりであるから,本願発明11は,引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
上記第5のとおり,本願発明1及び11は,引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-03-04 
結審通知日 2020-03-11 
審決日 2020-03-24 
出願番号 特願2014-121354(P2014-121354)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 561- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 孝幸  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 塚本 丈二
畑井 順一
発明の名称 記録装置  
代理人 石井 博樹  

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