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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
管理番号 1362312
異議申立番号 異議2018-700929  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-20 
確定日 2020-03-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6329869号発明「海水練り繊維補強コンクリートおよびコンクリート構造物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6329869号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6329869号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6329869号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成26年 9月30日を出願日とするものであって、平成30年 4月27日にその請求項1?6に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年 5月23日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許の全請求項に係る特許について、同年11月20日付けで特許異議申立人桑城 伸語(以下、「申立人」という。)により、甲第1?6号証を添付して特許異議の申立てがされ、平成31年 1月29日付けで当審より取消理由が通知され、同年 3月27日付けで特許権者より乙第1?3号証を添付した意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年 4月23日付けで申立人より意見書(以下、「申立人意見書1」という。)が提出され、令和 1年 5月24日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、同年 7月22日に特許権者代理人森住 憲一と、乙第4号証を添付した意見書案について電話及びファクシミリによる応対が行われ、同年 7月26日付けで特許権者より乙第4号証を添付した意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年 9月 6日付けで申立人より意見書(以下、「申立人意見書2」という。)が提出され、同年10月23日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、同年12月25日付けで特許権者より乙第5号証を添付した意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、本件訂正請求に関して期間を指定し、令和 2年 1月 7日付けで申立人に意見を求めたが、期間内に何らの応答もなされなかったものである。

第2 本件訂正請求による訂正の適否の判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
なお、平成31年 3月27日付けの訂正請求書及び令和 1年 7月26日付けの訂正請求書による訂正の請求は、本件訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「セメントと骨材とヤング率が3?100GPaの耐アルカリ性有機繊維を含み、」
と記載されているのを、
「セメントと骨材とヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである耐アルカリ性有機繊維を含み、」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?6も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「前記耐アルカリ性有機繊維の単繊維繊度が100?10000dtexである、」
と記載されているのを、
「前記耐アルカリ性有機繊維の単繊維繊度が1000?7000dtexである、」
に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4?6も同様に訂正する。)。

本件訂正前の請求項2?6は、いずれも訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?6は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?6〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
(ア)訂正事項1による訂正は、「耐アルカリ性有機繊維」を「繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである」ものとして、「耐アルカリ性有機繊維」の物性を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)また、願書に添付した明細書の【0015】?【0016】には、
「【0015】
本発明の耐アルカリ性有機繊維の単繊維繊度は、100?10000dtexであることが好ましく、500?7000dtexであることがより好ましく、1000?5000dtexであることが更に好ましい。・・・
【0016】
本発明の耐アルカリ性有機繊維の繊維長は、5?100mmであることが好ましく、10?80mmであることがより好ましく、15?60mmであることが更に好ましい。・・・」 と記載されており(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)、これらの記載からみれば、「耐アルカリ性有機繊維」を「繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである」ものと限定する訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
更に、訂正事項1による訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、「耐アルカリ性有機繊維」の「単繊維繊度」を訂正前の「100?10000dtexである」から「1000?7000dtexである」ものとして、「耐アルカリ性有機繊維」の「単繊維繊度」を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の【0015】の記載からみれば、前記(1)(イ)に記載したのと同様の理由により、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のものである。
「【請求項1】
セメントと骨材とヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである耐アルカリ性有機繊維を含み、前記耐アルカリ性有機繊維の含有量がコンクリート体積に対して0.1?5体積%である、海水で練り混ぜたことを特徴とする、繊維補強コンクリート。
【請求項2】
前記耐アルカリ性有機繊維のアスペクト比が10?500である、請求項1に記載の繊維補強コンクリート。
【請求項3】
前記耐アルカリ性有機繊維の単繊維繊度が1000?7000dtexである、請求項1または2に記載の繊維補強コンクリート。
【請求項4】
前記耐アルカリ性有機繊維がポリビニルアルコール系繊維である、請求項1?3のいずれか1項に記載の繊維補強コンクリート。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の繊維補強コンクリートを硬化させることによって得られたコンクリート構造物。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか1項に記載の繊維補強コンクリートを硬化させることによって得られた鉄筋コンクリート構造物。」

第4 異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証?甲第6号証を提出し、以下の異議申立理由によって、本件訂正前の請求項1?6に係る発明の特許を取り消すべきものである旨を主張している。
1 各甲号証
甲第1号証:特開昭63-303837号公報
甲第2号証:特開2012-126627号公報
甲第3号証:大即 信明ら,「委員会報告 コンクリート分野における海水の有効利用研究委員会報告書」,コンクリート工学年次論文集,Vol.36,No.1,2014年7月,p.10-19
甲第4号証:竹田 宣典,「海水練り・海砂コンクリート」,資源循環コンソーシアム・技術情報集,第3編,その他,整理No.86,2013年6月,p.181-182
甲第5号証:特開2001-139361号公報
甲第6号証:特開平05-170497号公報

2 異議申立理由
(1)特許法第29条第2項(進歩性)について
(1-1)本件訂正前の請求項1に係る発明について
ア 甲第1号証を主引用例とする場合について
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第4号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

イ 甲第2号証を主引用例とする場合について
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第1号証、甲第4号証?甲第6号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(1-2)本件訂正前の請求項2?6に係る発明について
本件訂正前の請求項2?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第4号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正前の請求項2?6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第1号証、甲第3号証?甲第6号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件訂正前の請求項2?6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(2-1)本件訂正前の請求項1?5に係る発明について
本件特許に係る発明は、海水と鉄筋を併用したコンクリートであってもひび割れが入りにくく、あるいはひび割れが局所にとどまる繊維補強コンクリートを提供することを課題としていると認識されるが、本件訂正前の請求項1に係る発明は鉄筋に関する発明特定事項を有しておらず、鉄筋を含まない海水練りコンクリートを含む。
このため、本件訂正前の請求項1?5に係る発明は、本件特許明細書の記載あるいは本件特許の出願時の技術常識に照らし、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものを超えたものであるから、本件訂正前の請求項1?5に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2-2)本件訂正前の請求項1?6に係る発明について
(ア)本件特許明細書の実施例3、4からは、ヤング率が4.5?30GPaである有機性繊維で含有量が1.5体積%であれば発明の課題を解決できると理解できるが、ヤング率が3GPa以上4.5GPa未満、30GPaより大きく100GPa以下の範囲、含有量が1以上1.5体積%未満、1.5体積%より大きく5体積%以下の範囲において、発明の課題を解決できるか否かを理解できない。
このため、本件特許明細書には、「耐アルカリ性有機繊維」のヤング率及び含有量について、本件訂正前の請求項1?6に係る発明の数値範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、発明の詳細な説明の記載を本件訂正前の請求項1?6に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件訂正前の請求項1?6に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(イ)本件特許明細書の実施例3のポリビニルアルコール繊維のアスペクト比は45、実施例4のポリプロピレン繊維のアスペクト比は38であり、アスペクト比が38?45の範囲であれば発明の課題を解決できると理解できるが、アスペクト比が38未満または45を超える繊維について発明の課題を解決できるか否かを理解できない。
このため、本件特許明細書には、「耐アルカリ性有機繊維」のアスペクト比について、本件訂正前の請求項2?6に係る発明の数値範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、本件特許の発明の詳細な説明の記載を本件訂正前の請求項2?6に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件訂正前の請求項2?6に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第5 取消理由の概要
1 平成31年 1月29日付け取消理由通知書について
(1)特許法第29条第2項(進歩性)について
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明と、甲第1号証、甲第5号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件訂正前の請求項1?6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件訂正前の請求項1?6に係る発明においては、「耐アルカリ性有機繊維」をコンクリート中に均一に分散させることが特定されていないから、課題を解決しないものも包含するので、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

2 令和 1年 5月24日付け取消理由通知書について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
平成31年 3月27日付けの訂正の請求により訂正された請求項1?6に係る発明においては、「耐アルカリ性有機繊維」をコンクリート中に均一に分散させることが特定されていない。
そして、甲第1号証の比較例6及び9に注目すると、「耐アルカリ性有機繊維」の繊維長が本件特許明細書において均一に分散できることが確認された「30mm」よりも長すぎたり短すぎたりすれば、コンクリート中に均一に分散できないことが強く推認されるから、「耐アルカリ性有機繊維」をコンクリート中に均一に分散させることが特定されていない、平成31年 3月27日付けの訂正の請求により訂正された請求項1?6に係る発明は、課題を解決しないものも包含するので、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

3 令和 1年10月23日付け取消理由通知書について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
令和 1年 7月26日付けの訂正の請求により訂正された請求項1?6に係る発明においては、「耐アルカリ性有機繊維」をコンクリート中に均一に分散させることが特定されていない。
そして、甲第1号証の比較例12に注目すると、「耐アルカリ性有機繊維」の繊維長が本件特許明細書において均一に分散できることが確認された「30mm」よりも短すぎる場合、コンクリート中に均一に分散できないことが強く推認される。
また、甲第1号証の実施例2と5、3と6、比較例8と11、9と12の対比によれば、繊維の分散性の良否は、モルタルにおいても、コンクリートにおいても、繊維長が同じであれば同様の結果となる蓋然性が高く、「耐アルカリ性有機繊維」の繊維長が本件特許明細書において均一に分散できることが確認された「30mm」よりも長すぎる場合にも、コンクリート中に均一に分散できないことが強く推認されるから、「耐アルカリ性有機繊維」をコンクリート中に均一に分散させることが特定されていない、令和 1年 7月26日付けの訂正の請求により訂正された請求項1?6に係る発明は、課題を解決しないものも包含するので、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

第6 取消理由についての判断
1 平成31年 1月29日付け取消理由通知書について
(1)特許法第29条第2項(進歩性)について
(1-1)甲第4号証の記載事項及び甲第4号証に記載される発明
本件特許の出願日前に公知となった甲第4号証には、以下の記載がある〔当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
(4a)「技術の名称
海水練り・海砂コンクリート」(181頁上から5欄目1行)

(4b)「概要(150字程度)
練混ぜ水に海水を、細骨材に未洗浄の海砂を使用することにより、練混ぜ水に上水を用いた場合に比べ、高品質、高機能なコンクリートを開発しました。コンクリートの高緻密化による品質の向上はもとより、運搬や除塩工程削減による環境負荷低減、材料の地産地消による建設コスト低減などに大きく寄与します。」(181頁上から6欄目1行?5行)

(4c)「技術の概要
【特長1 コンクリートの品質向上】
●練混ぜ水として海水を使用することで、普通コンクリートと比較して、圧縮強度(材齢28日)が30%程度増加します。(高炉セメント使用)
●特殊混和剤とシリカフュームの併用で、圧縮強度(材齢28日)が60%程度増加します。(高炉セメント使用)
●フライアッシュを使用したコンクリートにも適用できます。
●特殊混和剤とシリカフュームの併用で、透水係数が約1/70に低減します。
●エポキシ樹脂塗装鉄筋、ステンレス鉄筋、炭素繊維ロッド、有機繊維を使用することで、構造物の長期耐久性が確保できます。」(181頁上から8欄目1行?16行)

(4d)「技術の概要(つづき)
【特徴2 環境負荷低減】
●多量の上水や陸砂の運搬がないため、炭酸ガス排出量が低減できます。
●離島工事等における炭酸ガス排出量として、約40%の削減が可能です。

【特長3 建設コスト低減】
●地産・地消の材料を使用するため、コストが低減できます。
●離島工事等の建設コストとして、無筋構造物で約10%、RC構造物で約6%の削減が可能です。
※離島(本土から100km)での防潮堤築造(1,000m^(3)、設計耐用年数 100年)を想定し、全材料海上運搬の場合に対する比較です。

【主な用途】
発電所の取放水設備や沿岸のコンクリート基礎など、海水・潮風の影響を受ける構造物に適しています。
●波堤・護岸構造物

」(182頁1欄目1行?13行)

(ア)前記(4a)?(4c)によれば、甲第4号証には、「海水練り・海砂コンクリート」に係る発明が記載されており、前記「海水練り・海砂コンクリート」は、高炉セメントを使用し、練混ぜ水に海水を、細骨材に未洗浄の海砂を使用して、高品質、高機能なコンクリートとするものであり、フライアッシュを使用したコンクリートにも適用できるものである。
また、前記「海水練り・海砂コンクリート」は、「エポキシ樹脂塗装鉄筋、ステンレス鉄筋、炭素繊維ロッド、有機繊維」を使用することで、構造物の長期耐久性が確保できるものである。

(イ)前記(ア)によれば、甲第4号証には、
「高炉セメントを使用し、練混ぜ水に海水を、細骨材に未洗浄の海砂を使用して、高品質、高機能なコンクリートとしたものであって、エポキシ樹脂塗装鉄筋、ステンレス鉄筋、炭素繊維ロッド、有機繊維を使用することで、構造物の長期耐久性が確保でき、フライアッシュを使用したコンクリートにも適用できる、海水練り・海砂コンクリート。」の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

(ウ)また、前記(4d)によれば、前記「海水練り・海砂コンクリート」は、「無筋構造物」や「RC構造物」に用いられるものであるから、甲第4号証には、
「甲4発明に係る海水練り・海砂コンクリートによる、無筋構造物。」の発明(以下、「甲4’発明」という。)、及び、
「甲4発明に係る海水練り・海砂コンクリートによる、RC構造物。」の発明(以下、「甲4’’発明」という。)が記載されているといえる。

(1-2)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明に係る「海水練り・海砂コンクリート」は「有機繊維」を使用するものであるから、本件発明1における「繊維補強コンクリート」に相当する。
また、甲4発明に係る「海水練り・海砂コンクリート」は、高炉セメントを使用し、また、フライアッシュを使用したコンクリートにも適用でき、かつ練混ぜ水に海水を、細骨材に未洗浄の海砂を使用するものであるから、「セメントと骨材と」を含み、「海水で練り混ぜた」ものである点で、本件発明1と合致する。

(イ)前記(ア)によれば、本件発明1と甲4発明とは、
「セメントと骨材とを含み、海水で練り混ぜた、繊維補強コンクリート。」の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点4-1:本件発明1は、「繊維補強コンクリート」が、「ヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである耐アルカリ性有機繊維を含み、前記耐アルカリ性有機繊維の含有量がコンクリート体積に対して0.1?5体積%である」のに対して、甲4発明は、「有機繊維」が「耐アルカリ性有機繊維」であるか否かが不明であり、更に「有機繊維」の「ヤング率」、「繊維長」、「単繊維繊度」及び「含有量」が不明である点。

イ 判断
(ア)以下、前記ア(イ)の相違点4-1について検討すると、本件特許の発明の詳細な説明には、以下の記載(a)?(e)がある。
(a)「【0001】
本発明は、海水で練り混ぜたことを特徴とする、繊維補強コンクリートおよびコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートを製造する際、練り混ぜ水として海水を用いたコンクリートが知られており、特に、離島や沿岸地域では、コンクリート製造時の練り混ぜ水に海水を用いざるを得ない場合がある。
練り混ぜ水に海水を使用すると、コンクリートの乾燥収縮が大きくなることが知られており(非特許文献1)、収縮が大きいゆえに、コンクリート構造物にひび割れが発生しやすく、またそのひびは大きくなる傾向にある。
鉄筋コンクリート構造物が海水を含む場合、ひび割れが発生すると、そのひび割れが大きくなりやすいだけでなく、そこから塩分が浸透し、鉄筋の腐食膨張が起こり、コンクリート構造物の健全性そのものが阻害される。
一方、特許文献1では、高炉系セメントと海砂との混合物を海水で練り混ぜたことを特徴とする、海水練りコンクリート及びコンクリート構造物が提案されている。これにより、海水及び海砂を用いても、必要な耐久性を備えたコンクリートを得ることが可能となるとされているが、これは高炉系セメントに限定されており、また高炉系セメントは、その必要な硬化時間が一般的な普通ポルトランドセメントに比べて遅いことから、広範な使用には限界があった。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
海水を用いた(無筋)コンクリート自体の耐久性には問題がないことが知られている。しかし、コンクリート構造物の補強のために、海水練りコンクリートに鉄筋を併用すると、上述のような機序でコンクリート構造物の健全性そのものが阻害される。すなわち、海水と鉄筋の併用が問題であり、従来鉄筋コンクリートには練り混ぜ水として海水を用いることはできなかった。
以上のような状況に鑑み、発明者らは、練り混ぜ水に海水を用いても、ひび割れが入りにくく、仮にひび割れが入ったとしても、そのひび割れが局所にとどまる、すなわちひび割れ同士がつながったり、大きく拡大しにくい繊維補強コンクリートを提供することを本発明の課題とした。」

(b)「【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、練り混ぜ水に海水を用いても、ひび割れが入りにくく、仮にひび割れが入ったとしても、そのひび割れが局所にとどまる、すなわちひび割れ同士がつながったり、大きく拡大しにくい繊維補強コンクリートを提供することができる。また、本発明の繊維補強コンクリートを用いることによって、練り混ぜ水の海水を用いた場合であっても、鉄筋を用いて更に構造物として強度を向上させた鉄筋コンクリート構造物を提供することができる。」

(c)「(耐アルカリ性有機繊維)
【0012】
本発明に用いられる耐アルカリ性有機繊維は、ヤング率が3?100GPaであることが必要である。
本発明において前記耐アルカリ性有機繊維は、海水で練り混ぜられたコンクリートが収縮し、ひび割れる際、コンクリート内部の応力が局所に集中することを防いでコンクリート構造物全体に分散させ、また、小さなひび割れ同士をつなぐ役割を果たし、繊維自身が若干抜け或いは伸びながらひび割れ間の距離が大きくなることを防ぐように機能する。特に練り混ぜ水として海水を用いると、乾燥収縮が大きくなることが知られているが、ヤング率が3?100GPaであることによって、ひびが発生したとしても繊維が応力集中を防ぎ、ひび割れを分散、最小化できる。ヤング率が3GPa未満であると、海水練りコンクリートのように乾燥収縮が大きい場合、繊維がコンクリートの収縮応力に耐え切れず、ひびをコンクリート構造物全体に分散させることができない。一方、ヤング率が100GPaを超えると、その剛直さのために、コンクリートの混練中に粗骨材・細骨材との接触により繊維が著しく損傷を受け、構造体に対する補強効果や、応力やひび割れの分散効果が損なわれる。
・・・
【0013】
本発明の繊維補強コンクリートは、前記耐アルカリ性有機繊維をコンクリート体積に対して0.1?5体積%含有する。
前記耐アルカリ性有機繊維の含有率が0.1体積%未満であると、繊維がコンクリート構造物の収縮を吸収しきれず、構造物全体に収縮応力を分散させることができないばかりか、繊維が存在しない部分でひび割れした場合、そのひび割れが大きくなる。また、繊維の含有率が5体積%を超えると、繊維同士が絡まりやすくなり、コンクリート中に繊維が均一に分散されにくくなり、コンクリート構造物内部の収縮応力を吸収しにくくなり、また、収縮応力を全体に分散させにくくなるばかりでなく、コンクリート構造物の内部に繊維の塊が存在することによって、コンクリート構造物の強度が低くなる可能性がある。
・・・
【0014】
本発明の耐アルカリ性有機繊維のアスペクト比は、繊維の含有率や骨材の最大寸法等に応じて適宜調節されるが、10?500であることが好ましく、20?300であることがより好ましく、30?100であることが更に好ましい。アスペクト比が10?500であることによって、繊維がコンクリート中に均一に分散しやすくなり、安定した品質の繊維補強コンクリートを得ることができる。
【0015】
本発明の耐アルカリ性有機繊維の単繊維繊度は、100?10000dtexであることが好ましく、500?7000dtexであることがより好ましく、1000?5000dtexであることが更に好ましい。
単繊維繊度が10000dtex以下であることによって、他の組成物との混ざりがよくなる。また、100dtex以上とすることによって、コンクリート練り混ぜ時に繊維同士が絡まりにくくなると同時に、コンクリート構造物内部の収縮応力を十分吸収し、またひび割れを最小限に抑えることができるようになる。
【0016】
本発明の耐アルカリ性有機繊維の繊維長は、5?100mmであることが好ましく、10?80mmであることがより好ましく、15?60mmであることが更に好ましい。
繊維長が5mm以上であることによって、繊維とコンクリートの接着性がよくなり、コンクリートから繊維が抜けることなく、十分にコンクリート構造物内部の収縮応力を吸収することができるようになる。また、繊維長が100mm以下であることによって、繊維がコンクリート中に均一に分散しやすくなる。」

(d)「【0040】
[繊維補強コンクリートの曲げ強度測定試験]
JISA1106コンクリートの曲げ強度試験方法により行った。ミキサーで混練されたコンクリートを、断面が100mm×100mmで長さが400mmの角柱形状の型枠に流し込んだ後、20℃の室内で24時間封緘養生し脱型したものをプラスチックシートで包み、温度20℃・湿度65%の室内で28日養生して強度試験に供した。曲げ強度試験は最大容量2000kNの万能試験機にて、スパン300mmの三等分点載荷方式により行った。最大荷重までの載荷速度はJISA1106に準じ、最大荷重以後はタワミ速度でスパンの1/1500?1/3000の範囲で制御した。尚、曲げ強度は、ひび割れ強度(LOP: LimitOFProportionality)、及びひび割れ後最大強度(MOR:ModulusOFRupture)として測定した。」

(e)「【0044】
[実施例1]
最大容量100Lの傾胴式ミキサーに、普通セメント(太平洋セメント(株)製)455重量部、粗骨材(岡山県御津産砕石:最大径20mm)700重量部、細骨材(佐賀県唐津市産海砂)900重量部、海水(岡山県沿岸の瀬戸内海より採取)205重量部、高性能AE減水剤(BASFジャパン(株)製「レオビルドSP-8N」)0.9重量部を1分間混練し、出来上がったプレーンコンクリートに、PVA繊維(株式会社クラレ製RF-4000;4000dtex×30mm、ヤング率30GPa、アスペクト比45)を1.5体積%添加し、1分間の追加混練をして、水硬性材料として繊維補強コンクリートを作製した。
次いで、断面が100mm×100mmで長さが400mmの角柱形状の型枠に流し込んだ後、20℃の室内で24時間封緘養生し脱型したものをプラスチックシートで包み、温度20℃・湿度65%の室内で28日養生して強度試験に供した。また、その28日養生後の製品を、(株)クラレ岡山事業所敷地内にて、桟木上に試験体を置いた状態で3年間屋外保管を行い、その後同様に強度試験に供した。
28日後曲げ強度、3年後曲げ強度、3年後供試体外観及び3年後の供試体の収縮率を表1に示す。
【0045】
[実施例2]
耐アルカリ性有機繊維を、ポリプロピレン繊維(萩原工業株式会社製バルチップ:3500dtex×30mm、ヤング率4.5GPa、アスペクト比38)に変更する以外は実施例1と同様にして、水硬性成形体を作製した。得られた結果を表1に示す。
【0046】
[実施例3]
角柱形状の成形体成形時に、断面径13mmの鉄筋を、供試体の断面中央部(100mm×100mmの中心)に来るように型枠に配置する操作を加える以外は実施例1と同様にして、鉄筋コンクリート構造物を作製した。得られた結果を表1に示す。
【0047】
[実施例4]
角柱形状の成形体成形時に、断面径13mmの鉄筋を、供試体の断面中央部(100mm×100mmの中心)に来るように型枠に配置する操作を加える以外は実施例2と同様にして、鉄筋コンクリート構造物を作製した。得られた結果を表1に示す。
【0048】
[参考例1]
使用する水を水道水とする以外は実施例1と同様にして、コンクリート構造物を作製した。得られた結果を表1に示す。
【0049】
[参考例2]
使用する水を水道水とする以外は実施例2と同様にして、コンクリート構造物を作製した。得られた結果を表1に示す。
【0050】
[比較例1]
PVA繊維の代わりに炭素繊維を0.5体積%添加する以外は実施例1と同様にして、コンクリート構造物を作製した。炭素繊維は、東邦テナックス株式会社製ベスファイト(ヤング率230GPa)を繊維長10mmの短繊維にカット(アスペクト比1000)して使用した。得られた結果を表1に示す。
【0051】
[比較例2]
PVA繊維を添加しない以外は実施例1と同様にして、水硬性成形体を作製した。得られた結果を表1に示す。
【0052】
[比較例3]
繊維を使用しない以外は実施例3と同様にして、コンクリート構造物を作製した。尚、鉄筋は断面径13mmのものが、供試体の断面中央部(100mm×100mmの中心)に来るように配置した。得られた結果を表1に示す。
【0053】
[比較例4]
使用する繊維の添加率を0.05体積%とする以外は実施例1と同様にして、コンクリート構造物を作製した。得られた結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例1,2においては、海水でコンクリート構造物を作製しているため、水道水で作製した参考例1,2と比べ、3年後の供試体の収縮も大きいものであったが、補強繊維の存在によって、曲げ強度の低減は見られなかった。鉄筋と併用した場合においても同様で、補強繊維のない比較例3では3年放置により鉄筋腐食膨張によるマトリックス破壊が発生し、曲げ強度も低下していたのに対し、実施例3,4ではひび割れ等発生もなく、曲げ強度の低減も見られなかった。これは繊維補強効果によるものと思われる。一方、比較例2の、繊維でも鉄筋でも補強していない海水練りコンクリートの場合は、外観変化はないが、実質的にひび割れ後の強度が得られないものであった。また、炭素繊維を添加した比較例1においては、曲げ強度はそれ程高くなかった。これは、混練中に粗骨材により炭素繊維が切断或いは損傷を受けたことにより、繊維補強効果が十分発現できなかったためと思われる。」

(イ)前記(ア)(a)、(b)によれば、本件発明は、練り混ぜ水に海水を使用すると、コンクリートの乾燥収縮が大きくなることが知られており、収縮が大きいゆえに、コンクリート構造物にひび割れが発生しやすく、またそのひびは大きくなる傾向にある、また、鉄筋コンクリート構造物が海水を含む場合、ひび割れが発生すると、そのひび割れが大きくなりやすいだけでなく、そこから塩分が浸透し、鉄筋の腐食膨張が起こり、コンクリート構造物の健全性そのものが阻害される、更に、高炉系セメントと海砂との混合物を海水で練り混ぜた海水練りコンクリート及びコンクリート構造物が提案されているが、これは高炉系セメントに限定されており、また高炉系セメントは、その必要な硬化時間が一般的な普通ポルトランドセメントに比べて遅いことから、広範な使用には限界があった、という従来技術の課題(以下、「本件課題」という。)を解決しようとするものであって、練り混ぜ水に海水を用いても、ひび割れが入りにくく、仮にひび割れが入ったとしても、そのひび割れが局所にとどまる、すなわちひび割れ同士がつながったり、大きく拡大しにくい繊維補強コンクリートを提供することができ、また、本発明の繊維補強コンクリートを用いることによって、練り混ぜ水の海水を用いた場合であっても、鉄筋を用いて更に構造物として強度を向上させた鉄筋コンクリート構造物を提供するものである。
具体的には、前記(ア)(d)、(e)によれば、本件発明の実施例1、2は、海水でコンクリート構造物を作製しているため、水道水で作製した参考例1、2と比べ、3年後の供試体の収縮が大きいものであったが、外観変化はなく、28日後、3年後ともに曲げ強度の低減は見られないのに対して、海水で作製し、かつ補強繊維が含まれない比較例2は、3年後の外観変化はないが、3年後のひび割れ後の曲げ強度が実質的に得られないものであり、海水で作製し、かつ補強繊維の含有量が少ない比較例4は、3年後の外観変化はないが、3年後のひび割れ後最大強度が大きく低下するものである。
また、鉄筋と併用した本件発明の実施例3、4は、3年後の外観変化はなく、28日後、3年後ともに曲げ強度の低減は見られないのに対して、鉄筋と併用し補強繊維のない比較例3では、3年放置により鉄筋腐食膨張によるマトリックス破壊が発生し、28日後のひび割れ後最大強度及び3年後のひび割れ強度、ひび割れ後最大強度が低下するものである。
更に、海水で作製し、炭素繊維を添加した比較例1は、28日後も3年後もひび割れ後最大強度が高くないものである。

(ウ)前記(イ)によれば、本件発明においては、海水でコンクリート構造物を作製しても、コンクリート構造物の鉄筋の併用の有無にかかわらず、水道水で作製した場合と比べて、28日後のひび割れ後最大強度、3年後のひび割れ強度及びひび割れ後最大強度が低下しない、という作用、効果(以下、「本件効果」という。)を奏するものといえ、これにより、本件課題を解決するものといえる。

(エ)これに対して、甲第1号証(下記第7の1(1)(1-1)ア(1b)?(1d)、実施例5、6参照。)には、ヤング率が3200kg/mm^(2)、長さが25または35mmのPVA繊維を1vol%含むコンクリートが記載され、甲第5号証(特許請求の範囲、【0018】?【0020】参照。)には、繊維長が6mm、強度が1300MPaの有機繊維を0.25体積%含むセメント成形体(実施例5)が記載されているが、いずれも練り混ぜ水に海水を使用するものではない。
そして、練り混ぜ水に海水を使用するとコンクリートの乾燥収縮が大きくなるとの技術常識がある一方、練り混ぜ水に海水を使用するものではない甲第1号証、甲第5号証には本件効果について記載も示唆もされるものではないから、当業者は、甲第1号証、甲第5号証の記載事項に基づいて本件効果を予測することは困難である。

(オ)したがって、甲4発明において、「繊維補強コンクリート」を、「ヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである耐アルカリ性有機繊維を含み、前記耐アルカリ性有機繊維の含有量がコンクリート体積に対して0.1?5体積%である」、との前記相違点4-1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、練り混ぜ水に海水を使用するものではない甲第1号証、甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないから、本件発明1を、甲4発明及び甲第1号証、甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-3)本件発明2?4について
(ア)本件発明2?4は、本件発明1を引用するものであって、本件発明2?4のいずれかと甲4発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも前記(1-2)ア(イ)の相違点4-1の点で相違するものである。

(イ)そして、甲4発明において、「繊維補強コンクリート」を、「ヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである耐アルカリ性有機繊維を含み、前記耐アルカリ性有機繊維の含有量がコンクリート体積に対して0.1?5体積%である」、との前記相違点4-1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第1号証、甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、前記(1-2)イ(エ)?(オ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2?4を、甲4発明及び甲第1号証、甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-4)本件発明5?6について
(ア)本件発明5と甲4’発明とを対比すると、甲4’発明の「無筋構造物」は本件発明5の「コンクリート構造物」に相当するが、本件発明5は、本件発明1?4のいずれかの「繊維補強コンクリート」を引用するものであって、本件発明5と甲4’発明とは、少なくとも前記(1-2)ア(イ)の相違点4-1の点で相違するものである。
同様に、本件発明6と甲4’’発明とを対比すると、甲4’’発明の「RC構造物」は本件発明6の「鉄筋コンクリート構造物」に相当するが、本件発明6は、本件発明1?4のいずれかの「繊維補強コンクリート」を引用するものであって、本件発明6と甲4’’発明とは、少なくとも前記(1-2)ア(イ)の相違点4-1の点で相違するものである。

(イ)そして、甲4発明において、前記相違点4-1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第1号証、甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、前記(1-2)イ(エ)?(オ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明5を、甲4’発明及び甲第1号証、甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないし、本件発明6を、甲4’’発明及び甲第1号証、甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-5)まとめ
以上のとおりであるので、前記第5の1(1)の取消理由は理由がない。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(ア)前記(1)(1-2)イ(ア)(c)によれば、本件発明においては、「耐アルカリ性有機繊維」のヤング率を3?100GPaとし、繊維長を60mm以下とし、単繊維繊度を1000?10000dtexとし、更に「耐アルカリ性有機繊維」をコンクリート体積に対して0.1?5体積%含有させることで、「耐アルカリ性有機繊維」が、海水で練り混ぜられたコンクリートが収縮し、ひび割れる際、コンクリート内部の応力が局所に集中することを防いでコンクリート構造物全体に分散させ、また、小さなひび割れ同士をつなぐ役割を果たし、繊維自身が若干抜け或いは伸びながらひび割れ間の距離が大きくなることを防ぐように機能して、本件課題を解決できるものである。

(イ)そして、「耐アルカリ性有機繊維」のヤング率を3?100GPaとし、繊維長を60mm以下とし、単繊維繊度を1000?10000dtexとし、更に「耐アルカリ性有機繊維」をコンクリート体積に対して0.1?5体積%含有させることは、本件発明1の発明特定事項にほかならないから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1の発明特定事項を満たす「繊維補強コンクリート」により、本件課題を解決できることを理解できるのであり、このことは、前記(1)(1-2)イ(ア)(d)、(e)の、4000dtex×30mm、ヤング率30GPaのPVA繊維を1.5体積%添加し、混練した実施例1、3、及び、3500dtex×30mm、ヤング率4.5GPaのポリプロピレン繊維を1.5体積%添加し、混練した実施例2、4において、28日後及び3年後の曲げ強度の低減がみられないことによって裏付けられるものであり、更に、特許権者が提出した乙第5号証である令和 1年12月12日付け「実験結果報告書」の、4000dtex×60mm、ヤング率30GPaのPVA繊維を1.5体積%添加した実施例5、4000dtex×17mm、ヤング率30GPaのPVA繊維を1.5体積%添加した実施例6において、28日後の曲げ強度の低減がみられないことによっても確認できるものである。

(ウ)してみれば、本件発明1に、「耐アルカリ性有機繊維」をコンクリート中に均一に分散させることが特定されていないとしても、本件発明1によって、本件課題は解決されるものというべきである。
したがって、前記第5の1(2)の取消理由は理由がない。

2 令和 1年 5月24日付け取消理由通知書及び同年10月23日付け取消理由通知書について
(ア)令和 1年 5月24日付け取消理由通知書及び同年10月23日付け取消理由通知書の取消理由は、いずれも、「耐アルカリ性有機繊維」の繊維長が本件特許明細書において均一に分散できることが確認された「30mm」よりも長すぎたり短すぎたりすれば、コンクリート中に均一に分散できないことが強く推認されるから、「耐アルカリ性有機繊維」をコンクリート中に均一に分散させることが特定されていない本件特許に係る発明は、本件課題を解決しないものも包含する、というものである。

(イ)ところが、本件発明1に、「耐アルカリ性有機繊維」をコンクリート中に均一に分散させることが特定されていないとしても、単繊維繊度について更に特定した本件発明1によって本件課題は解決されるものというべきであることは、前記1(2)(ア)?(ウ)に記載のとおりであるから、令和 1年 5月24日付け取消理由通知書及び同年10月23日付け取消理由通知書の取消理由はいずれも理由がない。

3 小括
以上の検討によれば、平成31年 1月29日付け取消理由通知書、令和 1年 5月24日付け取消理由通知書及び同年10月23日付け取消理由通知書の取消理由はいずれも理由がない。

第7 異議申立理由についての判断
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)各甲号証の記載事項
(1-1)甲第1号証の記載事項
各甲号証の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載される発明
本件特許の出願日前に公知となった甲第1号証には、以下の記載がある。
(1a)「特許請求の範囲
・・・
2.引張り強度80kg/mm^(2)以上、ヤング率2300kg/mm^(2)以上、アスペクト比20?150、断面の短径と長径の比が1:2?1:10の扁平断面であつて、繊度が1000?9000DRのPVAモノフィラメント0.1?4容積%及び必要に応じ細骨材、粗骨材、添加剤及び残部がセメント等の水硬性物質よりなることを特徴とするPVA繊維強化セメントモルタル及びコンクリート組成物。」

(1b)「実施例1及び比較例1?4
ケン化度99.9モル%、粘度平均重合度1700を有するPVAを濃度52%の含水チップ状に調整し、表-1に示す所定の吐出形状を有するノズルより空気中に吐出し、絶乾後235°cの熱風式延伸炉で延伸し、230°cの熱処理炉で定長下で熱処理を行ない、表-1に示す繊維物性、及び断面形状とその扁平度を有する繊維を得た。・・・

」(5頁左下欄1行?右下欄)

(1c)「実施例5,6及び比較例10?15
コンクリ一ト配合での施工性を補強効果をみるために粗骨材寸法がその最大径20mmの砕石を用い、細骨材には石見硅石5号を用い、細骨材率0.6とし次のような配合で傾胴式ミキサーにて10分間混練した。W/C=0.55、単位水量210kg、単位セメント量383kg、細骨材900kg、砕石600kg、AE剤として花王社製マイティ150をセメントに対し1.0%添加し、目標空気量を5%になるようにした。かかるフレッシュコンクリートに実施例1で製造したPVA繊維を表-3に示す繊維長のものを添加した。実施例5,6は本発明による実施例1の繊維を用い、・・・1vo1%添加したものであり、比較例10は繊維を全く添加しないものである。このようなフレッシュコンクリートを10×10×40cmの型枠へ流し込み、一昼夜20°cの湿空中で硬化させ、20°cの水中に28日間養生後、島津社製の万能試験機RH-200型を用い曲げ強度、圧縮強度を測定した。」(7頁左下欄1行?右下欄5行)

(1d)「

実施例5,6は繊維の分散性、スランプ値から、施工製も良好で曲げ強度においてはひび割強度(LOP)及びひび割後の破壊強度(MOR)も高い値を示し、補強効果も優れたものである。」(8頁左上欄?右上欄5行)

(ア)前記(1a)?(1d)によれば、甲第1号証には、「PVA繊維強化セメントモルタル及びコンクリート組成物」が記載されており、当該「PVA繊維強化セメントモルタル及びコンクリート組成物」は、引張り強度80kg/mm^(2)以上、ヤング率2300kg/mm^(2)以上、アスペクト比20?150、断面の短径と長径の比が1:2?1:10の扁平断面であって、繊度が1000?9000DrのPVAモノフィラメント0.1?4容積%及び必要に応じ細骨材、粗骨材、添加剤及び残部がセメント等の水硬性物質よりなるものである。
具体的には、実施例5のものに注目すれば、粗骨材寸法にその最大径20mmの砕石を用い、細骨材には石見硅石5号を用い、細骨材率0.6とし、次のような配合で傾胴式ミキサーにて10分間混練し、W/C=0.55、単位水量210kg、単位セメント量383kg、細骨材900kg、砕石600kg、AE剤として花王社製マイティ150をセメントに対し1.0%添加し、目標空気量を5%になるようにし、かかるフレッシュコンクリートに、繊度1500Dr、引張強度98kg/mm^(2)、ヤング率3200kg/mm^(2)、アスペクト比60、長さ25のPVA繊維を1vo1%添加し、このようなフレッシュコンクリートを10×10×40cmの型枠へ流し込み、一昼夜20°cの湿空中で硬化させ、20°cの水中に28日間養生したものである。

(イ)前記(ア)によれば、甲第1号証には、実施例5に注目すると、
「粗骨材寸法にその最大径20mmの砕石を用い、細骨材には石見硅石5号を用い、細骨材率0.6とし、次のような配合で傾胴式ミキサーにて10分間混練し、W/C=0.55、単位水量210kg、単位セメント量383kg、細骨材900kg、砕石600kg、AE剤として花王社製マイティ150をセメントに対し1.0%添加し、目標空気量を5%になるようにし、かかるフレッシュコンクリートに、繊度1500Dr、引張強度98kg/mm^(2)、ヤング率3200kg/mm^(2)、アスペクト比60、長さ25のPVA繊維を1vo1%添加した、フレッシュコンクリート。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
また、甲第1号証には、
「甲1発明のフレッシュコンクリートを、10×10×40cmの型枠へ流し込み、一昼夜20°cの湿空中で硬化させ、20°Cの水中に28日間養生した、コンクリート。」の発明(以下、「甲1’発明」という。)が記載されているといえる。

(1-2)甲第2号証の記載事項
本件特許の出願日前に公知となった甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉系セメントと海砂との混合物を海水で練り混ぜた海水練りコンクリートと、引張強度を高めるための補強材とを有することを特徴とするコンクリート構造物。」

(2b)「【0015】
本発明のコンクリート構造物によれば、細骨材に海砂を用いるとともに練混ぜ水に海水を用いているため、材齢28日までの期間において、コンクリートの圧縮強度を上水道水を用いたものよりも高めることができる。・・・以上より、海水及び海砂を用いても、必要な耐久性を備えたコンクリート構造物を構築することができる。」

(2c)「【0064】
次に耐久性試験について説明する。耐久性試験では、図6及び図7に示す配合で補強材入りのサンプルを11種類作製した。・・・
【0065】
使用材料について説明する。ここでは、先に説明した使用材料と異なる材料について説明し、同じ材料については説明を省略する。
【0066】
練り混ぜ水に関し、海水とあるのは茅ヶ崎漁港で採取した相模湾の海水(実海水)である。・・・細骨材に関し、この耐久性試験においても陸砂を使用し、海砂相当分の塩分量を塩化ナトリウムで追加した。・・・補強材は、コンクリート構築物の引張り強度を高めるものであり、この耐久性試験では、普通鉄筋と、エポキシ塗装鉄筋と、格子状炭素繊維(樹脂で固めたもの)の3種類を用いた。
【0067】
各サンプルについて説明する。・・・サンプル2?6,9,10では、高炉セメントB種(普通ポルトランドセメント+高炉スラグ)を用い、その量は1m^(3)あたり350kgとした。・・・
・・・
【0069】
そして、各サンプルを直径φが100mm、高さが200mmの型枠に流し込んでオートクレーブ養生装置にて養生させた。このオートクレーブ養生装置でオートクレーブ法による促進腐食試験を行った。・・・」

(2d)「【0081】
図12,13に示すように、補強材として炭素繊維を用いたサンプル8?11については、いずれも良好な結果が得られた。・・・高炉セメントを海水で練り混ぜ、炭素繊維を補強材としたサンプル9についても、同じく健全であることが確認できた。・・・
【0082】
以上の結果より、海水練りコンクリートで構築されたコンクリート構造物に対し、補強材として炭素繊維を用いることで、耐用年数が30年以上のコンクリート構造物であっても十分に使用できることが確認できた。」

(2e)「【図6】



(2f)「【図7】



(ア)前記(2a)?(2f)によれば、甲第2号証には「コンクリート構造物」が記載されており、当該「コンクリート構造物」は、高炉系セメントと海砂との混合物を海水で練り混ぜた海水練りコンクリートと、引張強度を高めるための補強材とを有するものである。
具体的には、サンプル9に注目すれば、練り混ぜ水が茅ヶ崎漁港で採取した相模湾の海水であり、細骨材として陸砂を使用して、海砂相当分の塩分量を塩化ナトリウムで追加し、補強材として格子状炭素繊維(樹脂で固めたもの)を用い、結合材として高炉セメントB種を用い、別添塩化物(Nacl)が2.40kg/m^(3)、海水濃度(Nacl)が3.02%、水結合剤比(W/B)が50.0%、細骨材率(s/a)が47.0%、水(W)が175kg/m^(3)、セメント(C)が350kg/m^(3)、フレッシュ性状がスランプ15.0cm、空気量3.3%の海水練りコンクリートに、補強材の炭素繊維を3本として、直径φが100mm、高さが200mmの型枠に流し込んでオートクレーブ養生装置にて養生させたものである。

(イ)前記(ア)によれば、甲第2号証には、サンプル9に注目すると、
「練り混ぜ水が茅ヶ崎漁港で採取した相模湾の海水であり、細骨材として陸砂を使用して、海砂相当分の塩分量を塩化ナトリウムで追加し、補強材として格子状炭素繊維(樹脂で固めたもの)を用い、結合材として高炉セメントB種を用い、別添塩化物(Nacl)が2.40kg/m^(3)、海水濃度(Nacl)が3.02%、水結合剤比(W/B)が50.0%、細骨材率(s/a)が47.0%、水(W)が175kg/m^(3)、セメント(C)が350kg/m^(3)、フレッシュ性状がスランプ15.0cm、空気量3.3%の海水練りコンクリートに、補強材の炭素繊維を3本とした、海水練りコンクリート。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
また、甲第2号証には、
「甲2発明の海水練りコンクリートを、直径φが100mm、高さが200mmの型枠に流し込んでオートクレーブ養生装置にて養生させた、コンクリート構造物。」の発明(以下、「甲2’発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件発明1について
(2-1)甲第1号証を主引用例とする場合について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明に係る「フレッシュコンクリート」は、本件発明1に係る「繊維補強コンクリート」に相当し、甲1発明における「粗骨材」としての「最大径20mmの砕石」及び「細骨材」としての「石見硅石5号」は、本件発明1における「骨材」に相当する。
また、甲1発明における「PVA繊維」は、本件発明1における「耐アルカリ性有機繊維」に相当し、「フレッシュコンクリート」に1vol%添加されるものであるから、「耐アルカリ性有機繊維の含有量がコンクリート体積に対して0.1?5体積%である」点で、本件発明1と合致する。

(イ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「セメントと骨材と耐アルカリ性有機繊維を含み、前記耐アルカリ性有機繊維の含有量がコンクリート体積に対して0.1?5体積%である、繊維補強コンクリート。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1-1:本件発明1は、「耐アルカリ性有機繊維」の「ヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexであ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は、「耐アルカリ性有機繊維」の「繊度1500Dr」、「ヤング率3200kg/mm^(2)」、「長さ25」である点。

相違点1-2:本件発明1は、「繊維補強コンクリート」が「海水で練り混ぜた」ものであるのに対して、甲1発明は、「単位水量210kg」で「傾胴式ミキサーにて10分間混練」したものである点。

イ 判断
(ア)事案に鑑み、前記ア(イ)の相違点1-2について検討すると、甲第1号証における練り混ぜ水に関する具体的な記載は、6頁右上欄13行の「岡山水道」とあるのみであり、甲1発明における練り混ぜ水が海水であるとはいえない。
そして、本件発明においては、海水でコンクリート構造物を作製しても、コンクリート構造物の鉄筋の併用の有無にかかわらず、水道水で作製した場合と比べて、28日後のひび割れ後最大強度、3年後のひび割れ強度及びひび割れ後最大強度が低下しない、という本件効果を奏するものといえることは、前記第6の1(1)(1-2)イ(ウ)に記載のとおりである。

(イ)これに対して、甲第2?4号証には、コンクリートの練り混ぜ水を海水とすることは記載されているといえるが、そこから進んで、本件発明1で特定される「耐アルカリ性有機繊維」を用いることにより本件効果を奏することが記載も示唆もされるものではないから、当業者は、甲第2?4号証の記載事項に基づいて本件効果を予測することは困難である。

(ウ)前記(イ)によれば、甲1発明に係る「繊維補強コンクリート」を「海水で練り混ぜた」ものとして、前記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2?4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。

(エ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1発明及び甲第2?4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないので、前記第4の2(1)(1-1)アの異議申立理由は理由がない。

(2-2)甲第2号証を主引用例とする場合について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明に係る「海水練りコンクリート」は、本件発明1に係る「繊維補強コンクリート」に相当し、甲2発明における「高炉セメントB種」は、本件発明1における「セメント」に相当し、甲2発明における「細骨材」としての「陸砂」は、本件発明1における「骨材」に相当し、甲2発明における「格子状炭素繊維(樹脂で固めたもの)」は、本件発明1における「繊維」に相当する。
また、甲2発明において、「練り混ぜ水が茅ヶ崎漁港で採取した相模湾の海水であ」ることは、本件発明1において、「海水で練り混ぜた」ことに相当する。

(イ)そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「セメントと骨材と繊維を含み、海水で練り混ぜた、繊維補強コンクリート」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点2-1:本件発明1は、「繊維」が、「ヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである耐アルカリ性有機繊維であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は、3本の「格子状炭素繊維(樹脂で固めたもの)」である点。

相違点2-2:本件発明1は、「耐アルカリ性有機繊維の含有量がコンクリート体積に対して0.1?5体積%である」との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は、「炭素繊維」の含有量が明らかでない点。

イ 判断
(ア)まず、前記ア(イ)の相違点2-1について検討すると、甲2発明は、補強材の「繊維」として「格子状炭素繊維(樹脂で固めたもの)」を3本用いるものであり、前記(1)(1-2)(2b)によれば、そうすることにより、海水及び海砂を用いても、必要な耐久性を備えたコンクリート構造物を構築することができるものである。

(イ)そして、炭素繊維は有機繊維ではなく、炭素繊維を用いることで、海水及び海砂を用いても必要な耐久性を備えたコンクリート構造物を構築することができる甲2発明において、「繊維」を3本の「格子状炭素繊維(樹脂で固めたもの)」に代えて、「ヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである耐アルカリ性有機繊維」とする動機付けは存在しないのであって、このことは、甲第1号証及び甲第4?6号証の記載事項に左右されるものではない。
更に、甲第1号証及び甲第4?6号証には、「繊維補強コンクリート」の「繊維」を、「ヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである耐アルカリ性有機繊維」とすることにより、本件効果を奏することが記載も示唆もされるものではないから、当業者は、甲第1号証及び甲第4?6号証の記載事項に基づいて本件効果を予測することは困難である。

(ウ)前記(イ)によれば、甲2発明に係る「繊維補強コンクリート」の「繊維」を、「ヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである耐アルカリ性有機繊維」として、前記相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第1号証及び甲第4?6号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。

(エ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲2発明及び甲第1号証、甲第4?6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないので、前記第4の2(1)(1-1)イの異議申立理由は理由がない。

(3)本件発明2?6について
(3-1)本件発明2?4について
ア 甲第1号証を主引用例とする場合について
(ア)本件発明2は本件発明1を引用するものであり、本件発明2と甲1発明とを対比した場合、本件発明2と甲1発明とは、少なくとも、前記(2)(2-1)ア(イ)の相違点1-2の点で相違するものである。
そして、甲1発明に係る「繊維補強コンクリート」を「海水で練り混ぜた」ものとして、前記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2?4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないことは、前記(2)(2-1)イ(ウ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2を、甲1発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(イ)更に、前記(ア)の事項は、同様に本件発明1を引用する本件発明3?4についても同様であるから、本件発明2?4を、甲1発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 甲第2号証を主引用例とする場合について
(ア)本件発明2は本件発明1を引用するものであり、本件発明2と甲2発明とを対比した場合、本件発明2と甲2発明とは、少なくとも、前記(2)(2-2)ア(イ)の相違点2-1の点で相違するものである。
そして、甲2発明に係る「繊維補強コンクリート」の「繊維」を、「ヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである耐アルカリ性有機繊維」として、前記相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第1号証及び甲第4?6号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないことは、前記(2)(2-2)イ(ウ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2を、甲2発明及び甲第1号証及び甲第4?6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(イ)更に、前記(ア)の事項は、同様に本件発明1を引用する本件発明3?4についても同様であるから、本件発明2?4を、甲2発明及び甲第1号証及び甲第4?6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-2)本件発明5?6について
ア 甲第1号証を主引用例とする場合について
(ア)本件発明5と甲1’発明とを対比すると、甲1’発明における「コンクリート」は、本件発明5における「コンクリート構造物」に相当するが、本件発明5は本件発明1を引用するものであって、本件発明5と甲1’発明とは、少なくとも、前記(2)(2-1)ア(イ)の相違点1-2の点で相違するものである。
同様に、本件発明6と甲1’発明も、少なくとも前記(2)(2-1)ア(イ)の相違点1-2の点で相違するものである

(イ)そして、甲1発明に係る「繊維補強コンクリート」を「海水で練り混ぜた」ものとして、前記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2?4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないことは、前記(2)(2-1)イ(ウ)に記載のとおりであり、このことは、甲1’発明についても同様であるから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明5及び6を、甲1’発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 甲第2号証を主引用例とする場合について
(ア)本件発明5と甲2’発明とを対比すると、甲2’発明における「コンクリート構造物」は、本件発明5における「コンクリート構造物」に相当するが、本件発明5は本件発明1を引用するものであって、本件発明5と甲2’発明とは、少なくとも、前記(2)(2-2)ア(イ)の相違点2-1の点で相違するものである。
同様に、本件発明6と甲2’発明も、少なくとも前記(2)(2-2)ア(イ)の相違点2-1の点で相違するものである

(イ)そして、甲2発明に係る「繊維補強コンクリート」の「繊維」を、「ヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである耐アルカリ性有機繊維」として、前記相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第1号証及び甲第4?6号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないことは、前記(2)(2-2)イ(ウ)に記載のとおりであり、このことは、甲2’発明についても同様であるから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明5及び6を、甲2’発明及び甲第1号証及び甲第4?6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-3)まとめ
したがって、前記第4の2(1)(1-2)の異議申立理由は理由がない。

(4)小括
以上のとおりであるので、本件発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、前記第4の2(1)の異議申立理由はいずれも理由がない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)本件発明1?5について
(ア)本件発明は、練り混ぜ水に海水を使用すると、コンクリートの乾燥収縮が大きくなることが知られており、収縮が大きいゆえに、コンクリート構造物にひび割れが発生しやすく、またそのひびは大きくなる傾向にある、といった、前記第6の1(1)(1-2)イ(イ)の本件課題を解決しようとするものである。
そして、そのような課題は、必ずしも、海水と鉄筋を併用したコンクリート構造物に限られたものではなく、鉄筋を含まないコンクリート構造物についても発生する課題といえる。

(イ)また、本件発明においては、海水でコンクリート構造物を作製しても、コンクリート構造物の鉄筋の併用の有無にかかわらず、水道水で作製した場合と比べて、28日後のひび割れ後最大強度、3年後のひび割れ強度及びひび割れ後最大強度が低下しない、という本件効果を奏することは、前記第6の1(1)(1-2)イ(ウ)に記載のとおりであり、本件効果は、鉄筋を含まないコンクリート構造物についても奏されるものである。

(ウ)前記(ア)、(イ)によれば、本件課題は、海水と鉄筋を併用したコンクリート構造物に限られたものではなく、鉄筋を含まないコンクリート構造物についても発生するものであり、本件効果は、鉄筋を含むコンクリート構造物に限らず、鉄筋を含まないコンクリート構造物においても奏されるものであるから、本件発明1が鉄筋に関する発明特定事項を有しておらず、鉄筋を含まないコンクリート構造物を含むとしても、発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたものとはいえない。
したがって、前記第4の2(2)(2-1)の異議申立理由は理由がない。

(2)本件発明1?6について
(ア)本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1の発明特定事項を満たす「繊維補強コンクリート」により本件課題を解決できることを理解できるものであり、このことは、前記第6の1(1)(1-2)イ(ア)(d)、(e)の実施例1、3、及び、実施例2、4において、28日後及び3年後の曲げ強度の低減がみられないことによって裏付けられており、更に、特許権者が提出した乙第5号証である令和 1年12月12日付け「実験結果報告書」の実施例5、実施例6において、28日後の曲げ強度の低減がみられないことによっても確認できることは、前記第6の1(2)(イ)に記載のとおりである。

(イ)また、前記第6の1(1)(1-2)イ(ア)(c)によれば、本件特許明細書には、「耐アルカリ性有機繊維」の「ヤング率」について、「ヤング率」が3GPa未満であると、海水練りコンクリートのように乾燥収縮が大きい場合、繊維がコンクリートの収縮応力に耐え切れず、ひびをコンクリート構造物全体に分散させることができない一方、「ヤング率」が100GPaを超えると、その剛直さのために、コンクリートの混練中に粗骨材・細骨材との接触により繊維が著しく損傷を受け、構造体に対する補強効果や、応力やひび割れの分散効果が損なわれることが記載されており、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「耐アルカリ性有機繊維」の「ヤング率」を3?100GPaとすることで本件課題を解決できることを理解できる。
そして、前記(c)に記載される事項に疑義を生じさせる技術常識が存在するものでもないから、本件特許明細書の実施例に、「耐アルカリ性有機繊維」の「ヤング率」として、30GPa(実施例1、3、PVA繊維)と4.5GPa(実施例2、4、ポリプロピレン繊維)しか記載されていないとしても、本件特許の発明の詳細な説明の記載を本件発明1?6の範囲まで拡張ないし一般化できないとはいえない。

(ウ)同様に、前記(c)によれば、本件特許明細書には、「耐アルカリ性有機繊維」の「含有量」について、耐アルカリ性有機繊維の含有率が0.1体積%未満であると、繊維がコンクリート構造物の収縮を吸収しきれず、構造物全体に収縮応力を分散させることができないばかりか、繊維が存在しない部分でひび割れした場合、そのひび割れが大きくなり、繊維の含有率が5体積%を超えると、繊維同士が絡まりやすくなり、コンクリート中に繊維が均一に分散されにくくなり、コンクリート構造物内部の収縮応力を吸収しにくくなり、また、収縮応力を全体に分散させにくくなるばかりでなく、コンクリート構造物の内部に繊維の塊が存在することによって、コンクリート構造物の強度が低くなる可能性があることが記載されており、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「耐アルカリ性有機繊維」の「含有量」を0.1?5体積%とすることで本件課題を解決できることを理解できる。
また、前記(c)によれば、本件特許明細書には、「耐アルカリ性有機繊維」の「アスペクト比」について、「アスペクト比」が10?500であることによって、繊維がコンクリート中に均一に分散しやすくなり、安定した品質の繊維補強コンクリートを得ることができることが記載されており、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「耐アルカリ性有機繊維」の「アスペクト比」を10?500とすることで本件課題を解決できることを理解できる。

(エ)そして、前記(c)に記載される事項に疑義を生じさせる技術常識が存在するものでもないから、本件特許明細書の実施例に、「耐アルカリ性有機繊維」の「含有量」として、1.5体積%(実施例1?4)しか記載されておらず、「アスペクト比」として、45(実施例1、3)と38(実施例2、4)しか記載されていないとしても、本件特許の発明の詳細な説明の記載を本件発明2?6の範囲まで拡張ないし一般化できないとはいえない。
したがって、前記第4の2(2)(2-2)の異議申立理由は理由がない。

(3)小括
以上のとおりであるので、本件発明1?6に係る特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するから、前記第4の2(2)の異議申立理由はいずれも理由がない。

3 申立人意見書について
(1)申立人意見書1について
(1-1)意見の概要
ア 特許法第29条第2項について
乙第1号証:特開2007-84400号公報
乙第2号証:魚本健人,特殊な材料を用いたコンクリート(その17)講座IV-1 繊維-概論-,コンクリート工学,Vol.25,No.5,1987年5月,p.70-75
乙第3号証:西林新蔵ら編,コンクリート工学ハンドブック,初版第1刷,2009年10月25日,株式会社朝倉書店,p.110-111,134
(ア)甲第1号証には、「繊維長が100mm以下」について開示されている。そして、甲第4号証に記載される発明に、甲第1号証、甲第5号証の記載事項を組み合わせる動機付けは当然にあり、特段の阻害要因もない。

(イ)甲第5号証、乙第3号証によれば、コンクリートにおいて、練混ぜ水が水道水であろうが海水であろうが、乾燥収縮、ひび割れという問題は生じるのであって、極めて周知、普遍的な課題であり、繊維補強によってコンクリートのひび割れが減少する効果は、乙第2号証に記載されるとおり、当業者にとって周知であり、繊維の種類や含有率等のパラメータで、強度、耐久性が変化することも甲第1号証、甲第5号証、乙第1号証に示されるとおりであり、特段に顕著なものとは認められない。

(ウ)本件発明の実施例1、2と、参考例1、2とを対比しても、ひび割れ強度やひび割れ後最大強度の値に優位な差がみられないから、繊維補強の効果も大きな差はみられない(当審注:「優位な差」は「有意な差」の誤記と認める。)。
したがって、特許権者が主張する効果は、本件特許明細書の記載を参酌しても顕著とは認められず、本件発明1は、単に繊維補強によるひび割れ防止効果を有するに過ぎない。

(エ)したがって、本件発明1?6は進歩性を有しないから、取り消されるべきものである。

イ 特許法第36条第6項第1号について
(ア)特許権者は、本件発明は、耐アルカリ性有機繊維の含有量がコンクリート体積に対して0.1?5体積%であり、かつ、繊維長が100mm以下であることで課題を解決できると主張するが、本件特許明細書には、繊維長が30mmの例しか記載されていない。

(イ)そして、甲第1号証には、添加率1vol%、アスペクト比200、繊維長80mmのPVA繊維を用いた比較例6は、セメント中の繊維の分散性が悪いことが記載され、添加率1vol%、アスペクト比86、繊維長17mmのPVA繊維を用いた比較例9は、繊維の分散性が悪いことが記載されているから、当業者は、耐アルカリ性有機繊維の含有量がコンクリート体積に対して0.1?5体積%であり、かつ、繊維長が100mm以下であっても、繊維の分散性の問題を解決できていると認識することができない。

(ウ)したがって、本件発明1?6は発明の課題を解決できないものも包含するから、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

(1-2)判断
ア 特許法第29条第2項について
(ア)前記第6の1(1)(1-2)イ(エ)、(オ)に記載のとおり、当業者は、甲第1号証、甲第5号証の記載事項に基づいて本件効果を予測することは困難であるから、本件発明1を、甲4発明及び甲第1号証、甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないのであって、そうであれば、甲4発明に、甲第1号証、甲第5号証の記載事項を組み合わせる動機付けは存在しない。

(イ)また、前記第6の1(1)(1-2)イ(ア)(a)(【0002】)によれば、コンクリートを製造する際、練り混ぜ水に海水を使用すると、コンクリートの乾燥収縮が大きくなることが知られており、収縮が大きいゆえに、コンクリート構造物にひび割れが発生しやすく、またそのひびは大きくなる傾向にあるのであるが、本件発明1において特定される補強繊維が含まれる本件発明の実施例1、2は、水道水で作製した参考例1、2と比べ、3年後の供試体の収縮が大きいものであったが、外観変化はなく、28日後、3年後ともに曲げ強度の低減は見られないことは、前記第6の1(1)(1-2)イ(イ)に記載のとおりである。

(ウ)すると、本件発明は、練り混ぜ水に海水を使用することで、ひび割れが発生しやすく、またそのひびが大きくなる傾向があり、強度が低下することが予測される本件発明の実施例1、2において、水道水で作製した参考例1、2と比較して曲げ強度が低減しないようにできるものであるから、ひび割れ強度やひび割れ後最大強度の値に有意な差がみられ、繊維補強の効果に差がみられるというべきである。

(エ)また、乙第1号証の記載は、コンクリート補強用材料として、アラミド繊維、ポリビニルアルコール系繊維等が用いられ、これにより、コンクリートの機械的特性が長期にわたり維持できることをいうにとどまり、乙第2号証の記載は、繊維補強セメント及びコンクリートは、引張強度が大きく、ひび割れが生じにくい、ひび割れ発生後も高い耐荷力を示し、靱性及び変形能が大きい、曲げ強度、せん断強度、衝撃強度、疲労強度などが大きい、ひび割れが生じにくいため、一般に耐久性がよい、といった特徴を有することをいうにとどまり、乙第3号証の記載は、水中の不純物は一般にセメントモルタルの乾燥収縮を増大することをいうにとどまるものである。
すなわち、乙第1?3号証には、練り混ぜ水に海水を使用する場合については記載も示唆もされていないのであって、本件効果について記載も示唆もされるものではなく、当業者が乙第1?3号証から本件効果を予測することは困難であるので、乙第1?3号証の記載を参酌したとしても、甲4発明と甲第1号証、甲第5号証の記載事項を組み合わせる動機付けとはならないから、本件発明1?6を、甲4発明及び甲第1号証、甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、申立人の前記(1-1)アの主張は採用できない。

イ 特許法第36条第6項第1号について
(ア)申立人の前記(1-1)イの主張は前記第5の2(1)と同旨であり、これについては前記第6の2で検討したとおりであるので、申立人の前記(1-1)イの主張は採用できない。

(2)申立人意見書2について
(2-1)意見の概要
ア 特許法第36条第6項第1号について
(ア)甲第1号証には、添加率1vol%、アスペクト比86、繊維長17mmのPVA繊維を用いた比較例12は、セメント中の繊維の分散性が悪いことが記載されているから、当業者は、耐アルカリ性有機繊維の含有量がコンクリート体積に対して0.1?5体積%であり、かつ、繊維長が100mm以下であっても、繊維の分散性の問題を解決できていると認識することができない。

(イ)乙第2号証によれば、「耐アルカリ性有機繊維の含有量が5体積%以下、100mm以下の繊維長」の構成は、「繊維補強コンクリート」においては極めて当たり前のものであり、この構成により新たな効果を生じるとは考えられない。
仮に、本件課題が従来技術では認識されていない新たな課題であれば、なおさら、前記構成ではその新たな課題を解決できる特徴ではあり得ないから、本件発明における前記構成は本件課題を解決するための手段を反映していないことは明らかである。

(ウ)なお、本件発明の技術的範囲は、本件課題の観点から、海水と鉄筋を併用した鉄筋コンクリートで、かつ高炉セメントを広範に使用しないものに限定されるべきであるが、本件発明1?5は鉄筋を含まない海水練りコンクリートを含むし、本件発明1?6は高炉セメントを広範に使用したものを含む。
このため、本件訂正前の請求項1?6に係る発明は、本件特許明細書に開示された範囲を超える程度に不当に広い範囲の記載となっており、サポート要件違反といえる。

(エ)したがって、本件発明1?6は発明の課題を解決できないものも包含するから、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

イ 特許法第29条第2項について
「ヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである耐アルカリ性有機繊維を含み、前記耐アルカリ性有機繊維の含有量がコンクリート体積に対して0.1?5体積%である」ことは全て甲第1号証に記載されており、甲第4号証に記載される発明において、甲第1号証に記載される構成を採用する動機があり、特段の阻害要因もないから、本件発明1?6は、甲第4号証に記載される発明と、甲第1号証、甲第5号証から容易に想到し得る。

(2-2)判断
ア 特許法第36条第6項第1号について
(ア)申立人の前記(2-1)ア(ア)の主張は前記第5の3(1)と同旨であり、これについては前記第6の2で検討したとおりであって、本件発明1によって本件課題は解決されるものというべきであり、このことは、「耐アルカリ性有機繊維の含有量が5体積%以下、100mm以下の繊維長」の構成により新たな効果を生じるか否かに左右されるものではない。

(イ)また、本件発明1が鉄筋に関する発明特定事項を有しておらず、鉄筋を含まないコンクリート構造物を含むとしても、発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたものとはいえないことは、前記2(1)(ウ)に記載のとおりである。

(ウ)更に、前記第6の1(1)(1-2)イ(ア)(a)によれば、本件発明は、専ら、練り混ぜ水に海水を使用すると、コンクリートの乾燥収縮が大きくなることが知られており、収縮が大きいゆえに、コンクリート構造物にひび割れが発生しやすく、またそのひびは大きくなる傾向にある、という課題を解決しようとするものといえるから、本件発明1が高炉セメントを広範に使用したものを含むとしても、発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたものとはいえない。

(エ)したがって、前記(2-1)アの主張はいずれも採用できない。

イ 特許法第29条第2項について
前記(2-1)イの主張は前記(1)(1-1)アの主張と同旨であり、これについては前記(1)(1-2)アで検討したとおりであるので、前記(2-1)イの主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書で通知された取消理由によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと骨材とヤング率が3?100GPaであり、繊維長が60mm以下であり、単繊維繊度が1000?10000dtexである耐アルカリ性有機繊維を含み、前記耐アルカリ性有機繊維の含有量がコンクリート体積に対して0.1?5体積%である、海水で練り混ぜたことを特徴とする、繊維補強コンクリート。
【請求項2】
前記耐アルカリ性有機繊維のアスペクト比が10?500である、請求項1に記載の繊維補強コンクリート。
【請求項3】
前記耐アルカリ性有機繊維の単繊維繊度が1000?7000dtexである、請求項1または2に記載の繊維補強コンクリート。
【請求項4】
前記耐アルカリ性有機繊維がポリビニルアルコール系繊維である、請求項1?3のいずれか1項に記載の繊維補強コンクリート。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の繊維補強コンクリートを硬化させることによって得られたコンクリート構造物。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか1項に記載の繊維補強コンクリートを硬化させることによって得られた鉄筋コンクリート構造物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-05 
出願番号 特願2014-201001(P2014-201001)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C04B)
P 1 651・ 851- YAA (C04B)
P 1 651・ 121- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 永一  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 小川 進
金 公彦
登録日 2018-04-27 
登録番号 特許第6329869号(P6329869)
権利者 株式会社クラレ
発明の名称 海水練り繊維補強コンクリートおよびコンクリート構造物  
代理人 森住 憲一  
代理人 森住 憲一  
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