• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1362631
審判番号 不服2019-6393  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-16 
確定日 2020-05-21 
事件の表示 特願2017-105352「偏光板のセットおよび液晶パネル」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月20日出願公開、特開2018-200413〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年5月29日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年10月17日付け :拒絶理由通知書
平成30年12月20日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年2月22日付け :拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和元年5月16日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、平成30年12月20日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】
液晶セルの視認側に配置される前面側偏光板と、前記液晶セルの背面側に配置される背面側偏光板とを有し、
前記前面側偏光板の吸収軸は短辺に対して平行であり、
前記背面側偏光板の吸収軸は長辺に対して平行であり、
前記前面側偏光板の吸収軸と前記背面側偏光板の吸収軸とが直交するようにしてガラス板に前記前面側偏光板と前記背面側偏光板とが貼合された積層体を、85℃にて250時間加熱したときに、積層体が凸形状に反る側の偏光板は前記前面側偏光板であり、
前記前面側偏光板における少なくとも一方の保護フィルムは、85℃での偏光板透過軸方向の引張弾性率および85℃での偏光板吸収軸方向の引張弾性率をそれぞれEt、Eaとするとき、下記式(1)を満たす偏光板のセット。
2.5≧Ea/Et≧0.95 (1)」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(引用文献1、2、3又は4に記載された発明)及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:国際公開第2014/148476号
引用文献2:特開2014-211601号公報
引用文献3:特開2014-225015号公報
引用文献4:特開2005-272756号公報
引用文献5:特開2016-71378号公報
引用文献6:国際公開第2015/190190号
(引用文献5及び6は周知技術を示すために引用された文献である。)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(国際公開第2014/148476号)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

(1)「技術分野
[0001] 本発明は、偏光子の少なくとも一方の面に保護フィルムを備える偏光板、当該偏光板の製造方法及び当該偏光板を具備する液晶表示装置に関する。」

(2)「背景技術
[0002] 液晶表示装置には、ポリビニルアルコールとヨウ素を用いた偏光子の両面に、保護フィルムと位相差フィルムがそれぞれ配置された偏光板が広く使用されている。保護フィルムとしては、透明性に優れ、ヘイズも小さいことから、セルロースエステルフィルムが好ましく用いられている。
[0003] 液晶表示装置では、薄型の液晶画面のニーズに応じて、液晶セルに用いられる透明基板が薄膜化されている。透明基板の薄膜化にともなって、液晶表示装置が高温高湿下におかれた後、室温に戻ると表示ムラが発生することが問題となっている。
表示ムラが発生するのは、偏光板の偏光子が高温高湿下で水分を吸収し、室温下に戻った際に収縮するためであることが分かっている。収縮時の力が液晶セルに伝播するが、薄膜化された透明基板では耐えられずに液晶セル全体が曲がる。このとき、液晶セルに隣接する位相差フィルムも曲がることから、位相差フィルムに応力が加わって位相差が変化し、表示ムラが発生する。
[0004] 表示ムラの問題に対しては、位相差フィルムの光弾性係数を小さくすることが、表示ムラの改善に有効であることが知られている。
また、弾性率が高いセルロースエステルフィルムを保護フィルムとして用いることにより、収縮の力を低減し、液晶セルの曲がりを抑制する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
セルロースエステルフィルムに、スチレン/無水マレイン酸コポリマーを含有させて、湿度変動による位相差の変化を抑制する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
[0005] しかしながら、透明基板のさらなる薄膜化が進むにつれて、液晶セルの曲がりも大きくなっている。従来の方法では表示ムラの改善が十分ではなく、さらなる改良が求められていた。」

(3)「発明が解決しようとする課題
[0007] 本発明は上記問題・状況に鑑みてなされ、その解決課題は、温湿度変化による表示ムラを抑えることができる偏光板、当該偏光板の製造方法及び当該偏光板を具備する液晶表示装置を提供することである。」

(4)「課題を解決するための手段
[0008] 本発明者らは、偏光子が光の吸収軸方向に収縮することから、この吸収軸方向に働く力を低減できる保護フィルムを検討した。一般に、偏光子も保護フィルムも長尺フィルムとして形成されて貼り合わされており、偏光子の吸収軸方向と保護フィルムのMD方向(Machine Direction、製造工程におけるフィルムの流涎方向又は搬送方向)が一致している。このことから、本発明者らは保護フィルムのMD方向の弾性率を高めることにより、偏光子が収縮する力を低減できると考え、本発明に至った。」

(5)「発明の効果
[0025] 本発明の上記手段により、温湿度変化があっても表示ムラを抑えることができる偏光板、当該偏光板の製造方法及び当該偏光板を具備する液晶表示装置を提供できる。
本発明者らは、偏光子の収縮による表示ムラを下記の作用機能により改良できるものと考えた。
高温高湿下から室温下へと変化すると、偏光子が吸収軸方向に収縮する力が生じるが、本発明の偏光板における保護フィルムは、MD方向の弾性率E1がTD方向の弾性率E2よりも高く、MD方向に加えられる力に対する応力が大きい。一般に、偏光子と保護フィルムは長尺フィルムとしてロール・トゥ・ロール(roll to roll)で貼り合わせられ、保護フィルムのMD方向と偏光子の吸収軸方向は一致していることから、偏光子が収縮する力を保護フィルムによって大きく低減することができる。これにより、偏光子から液晶セルに伝播する力を、薄膜化された透明基板であっても十分耐えられる程度に低減することができ、液晶セル及び液晶セルに隣接する位相差フィルムの曲がりを抑えることができると推察される。位相差フィルムの曲がりを抑えることができれば、位相差の変化ひいては表示ムラを抑えることが可能になるものと推察される。」

(6)「発明を実施するための形態
[0027] 本発明の偏光板は、偏光子の少なくとも一方の面に保護フィルムを備え、当該保護フィルムの動的粘弾性を25?190℃の温度範囲内で温度を変化させながら周波数1Hzで測定したときに得られるtanδの最大値が、0.6以上であり、当該保護フィルムのフィルム製造時のMD方向及びTD方向の弾性率(MPa)を、温度23℃、相対湿度55%の環境下で測定して得られる値をそれぞれE1及びE2と表すとき、MD方向及びTD方向の弾性率の比の値E1/E2が、1.5?3.0の範囲内にあることを特徴とする。この特徴は請求項1から請求項16までの各請求項に係る発明に共通の技術的特徴である。
・・・(省略)・・・
[0032]<偏光板>
本発明の偏光板は、偏光子の少なくとも一方の面に保護フィルムが配置されている。
[0033] <保護フィルム>
本発明に係る保護フィルムは、セルロースエステルを含有し、当該保護フィルムの動的粘弾性を25?190℃の温度範囲内で温度を変化させながら周波数1Hzで測定したときに得られるtanδの最大値が、0.6以上である。
[0034] tanδは、損失正接と呼ばれ、保護フィルムの動的粘弾性を測定して得られる貯蔵弾性率及び損失弾性率をそれぞれE′及びE″と表すとき、tanδ=E′/E″として定義される。
δは、試料に正弦波状に振動する力を加えたときに生じたひずみと加えた力との位相差である。加えた力とひずみの比である複素弾性率の実数部が貯蔵弾性率E′であり、虚数部が損失弾性率E″である。保護フィルムの貯蔵弾性率E′及び損失弾性率E″は、動的粘弾性測定装置RSAIII(ティーエイインスツルメント社製)により測定することができる。
[0035] 具体的には、次のようにしてtanδを求める。
試料を温度23℃・相対湿度55%の雰囲気下に24時間おいて、調湿する。調湿後の試料の動的粘弾性を、55%RHの下、25?190℃の温度範囲で温度を変化させながら下記測定条件により測定し、測定により得られたtanδのうちの最大値を求める。
測定装置:RSAIII(ティーエイインスツルメント社製)
試料 :幅5mm、長さ50mm(ギャップを20mmに設定)
測定モード:引張モード
測定温度:25?190℃の範囲内で、5℃/minの速度で昇温
湿度 :相対湿度55%
測定時に加えた力の周波数 :1Hz
なお、保護フィルムが延伸されて製造される場合は、延伸前に上記tanδの測定を行う。
[0036] 本発明に係る保護フィルムのtanδの最大値が0.6以上であれば、保護フィルムの高倍率延伸が可能であり、延伸によって保護フィルムの弾性率を所望の値に調整しやすい。
保護フィルムのtanδの最大値は、可塑剤の種類又は添加量を選択することによって調整することができる。
[0037] 本発明に係る保護フィルムは、フィルム製造時のMD方向及びTD方向の弾性率(MPa)を、温度23℃、相対湿度55%の環境下で測定して得られる値をそれぞれE1及びE2と表すとき、MD方向及びTD方向の弾性率の比の値E1/E2が、1.5?3.0の範囲内にある。
MD方向は、保護フィルムを、溶液流延法により製造する場合はフィルムの流延方向をいい、溶融流延法により製造する場合はフィルムの搬送方向をいう。いずれの場合もMD方向は、保護フィルムの長軸方向に一致する。
TD方向は、MD方向に垂直な方向をいう。
[0038] 各弾性率E1及びE2は、次のようにして測定することができる。
試料を23℃・55%RHの環境下で24時間調湿する。JIS K7127に記載の方法に準じて、調湿時と同じ環境下において、引張試験機テンシロンRTA-100(オリエンテック社製)により、調湿後の試料のMD方向及びTD方向それぞれの弾性率(MPa)を測定する。試料の形状を1号形試験片タイプとし、引張速度を10mm/minとする。
[0039] 本発明に係る保護フィルムは、加えられた力に対する一定の応力を得る観点から、MD方向の弾性率E1が、3.0?7.5MPaの範囲内にあり、TD方向の弾性率E2が、2.0?5.0MPaの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、MD方向の弾性率E1が、5.0?7.5MPaの範囲内にあり、TD方向の弾性率E2が、2.2?4.0MPaの範囲内にあることである。
弾性率の比の値E1/E2は、延伸条件を選択することによって、上記範囲内に調整することができる。
・・・(省略)・・・
[0103] <保護フィルムの物性>
(膜厚)
本発明に係る保護フィルムの膜厚は、好ましくは15?35μmの範囲内であり、より好ましくは15?30μmの範囲内である。膜厚が上記範囲内であれば、フィルムの強度が十分であり、液晶セルの曲がりを抑えて表示ムラを改善でき、ロール体を巻芯が水平になるように保存した際に、フィルムのTD方向中央部が自重で凹む等の変形(巻き形状の変化)も抑制できる。
・・・(省略)・・・
[0106] <偏光子>
偏光子は、ヨウ素系偏光膜、二色染料を用いた染料系偏光膜又はポリエン系偏光膜であり得る。ヨウ素系偏光膜及び染料系偏光膜は、一般的には、ポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸した後、ヨウ素又は二色性染料で染色して得られたフィルムであってもよいし、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素又は二色性染料で染色した後、一軸延伸したフィルム(好ましくは、さらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよい。
・・・(省略)・・・
[0112]<偏光板の製造方法>
本発明の偏光板の製造方法は、上述した保護フィルムを製造する製造工程を含み、当該製造工程では、製造後の保護フィルムのtanδの最大値が、0.6以上であり、かつ当該保護フィルムのMD方向及びTD方向の弾性率の比の値E1/E2が、1.5?3.0の範囲内にあるように、保護フィルムを製造する。
さらに、製造後の保護フィルムを偏光子に貼り合わせる工程を経ることにより、本発明の偏光板を得ることができる。貼り合わせに用いられる接着剤としては、例えば完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液等が好ましい。
[0113] 偏光子と保護フィルムをそれぞれ長尺フィルムとし、それぞれの長軸方向が一致するようにロール・トゥ・ロールで貼り合わせて偏光板を製造する場合、偏光子の吸収軸は偏光子の延伸方向と平行であることから、偏光子の吸収軸方向と保護フィルムのMD方向は一致する。
なお、長軸方向が一致する、又は吸収軸方向とMD方向が一致するとは、それぞれの方向のなす角度が±5°程度の範囲内にあることをいう。
[0114]<液晶表示装置>
本発明の液晶表示装置は、液晶セルの少なくとも一方の面に、上述した偏光板を具備する。これにより、温湿度変化による表示ムラの少ない液晶表示装置を提供することができる。
[0115] 図1は、本発明の液晶表示装置の構成の一例を示す断面図である。
図1に示すように、液晶表示装置100は、液晶セル40と、液晶セル40の両面にそれぞれ配置された二つの偏光板50及び60と、バックライト70とを備えている。
・・・(省略)・・・
[0120] 偏光板50は、フロント側(視認側)の液晶セル40の面に配置され、フロント側から順に保護フィルム51、偏光子52及び位相差フィルム53を具備する。フロント側は、ユーザー80により液晶画面が視認される側である。
偏光板60は、リア側の液晶セル40の面に配置され、リア側から順に保護フィルム63、偏光子62及び位相差フィルム61を具備する。リア側は、バックライト70が設けられている側である。
各偏光板50及び60は、それぞれの吸収軸のなす角度が90°となるように配置されている。
[0121] 図2は、図1の液晶セル40と二つの偏光板50及び60を階層的に表した図である。
図2に示すように、液晶表示装置100がおかれた環境の温度及び湿度に変化があると、水分を吸収した偏光子52及び62がそれぞれの吸収軸方向52d及び62dに収縮する。図2において、この収縮する力を白の矢印で表している。収縮する力は液晶セル40に伝播するが、液晶セル40の透明基板がこの力に耐えられないと、液晶セル40に曲がりが生じ、液晶セル40に隣接する位相差フィルム53及び61も曲がってしまう。位相差フィルム53及び61の曲がりによって、位相差が変化し、表示ムラを引き起こす。
[0122] しかしながら、偏光板50又は60の少なくとも一方に本発明の偏光板が用いられている場合、本発明の偏光板は、保護フィルムのMD方向の弾性率が高いことから、MD方向に加えられる力に対する応力が大きい。
一般に、偏光子と保護フィルムは長尺フィルムとしてロール・トゥ・ロールで貼り合わせられ、図2に示すように保護フィルム51のMD方向51dと偏光子52の吸収軸方向52dが一致し、保護フィルム63のMD方向63dと偏光子62の吸収軸方向62dが一致している。そのため、偏光子52及び62が収縮する力を、それぞれに貼り合わされた保護フィルム51及び63によって大きく低減することが可能である。
これにより、液晶セル40に伝播する力を、薄膜化された透明基板であっても十分耐えられる程度に低減することができ、液晶セル40及び液晶セル40に隣接する位相差フィルム53及び61の曲がりを抑えることができる。位相差フィルムの曲がりを抑えることができれば、位相差の変化ひいては表示ムラを抑えることが可能になる。
[0123] 液晶セルで構成される液晶画面が長方形である場合には、液晶セルの両面にそれぞれ用いられる二つの偏光板のうち、少なくとも偏光子の吸収軸方向が液晶画面の長軸方向と一致する偏光板として、本発明の偏光板を用いることが好ましい。
偏光子が収縮する力のモーメントは、偏光子の吸収軸方向の長さが長いほど、大きくなる。そのため、液晶画面が長方形である場合、各偏光板の偏光子が収縮する力のモーメントは同一ではなく、液晶画面の長軸方向と吸収軸方向が一致する偏光板の方が、モーメントは大きくなる。このモーメントの差によって、液晶セルには反るような曲がりが生じる。
[0124] 一般的には、図2に示すように、液晶セル40のフロント側に設けられる偏光板50が、液晶画面の長軸方向と吸収軸方向52dが一致するように配置されている。偏光板50の方が、偏光板60よりも収縮の力のモーメントが大きくなるため、図3の断面図に示すように、液晶セル40はリア側に突き出るようにして反る。
[0125] このとき、フロント側の最外郭に位置する保護フィルム51は最も曲がりが大きくなる。しかし、フロント側の偏光板50として、本発明の偏光板を用いることにより、保護フィルム51のMD方向51dにおける弾性率E1が高くなり、偏光子52の収縮する力を大きく低減することができる。その結果、リア側へ突き出るような液晶セル40の曲がりを効果的に抑えることができる。
[0126] フロント側の偏光板50だけでなく、リア側の偏光板60も、本発明の偏光板とすることも可能である。
これにより、リア側の偏光子62が吸収軸方向62dに収縮する力も、当該偏光板60に設けられた保護フィルム63によって大きく低減することができる。」

(7)「実施例
[0127] 以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示が用いられるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
[0128]<保護フィルム11の作製>
下記成分を、撹拌及び加熱しながら十分に溶解させて、ドープを調製した。
(ドープの組成)
セルロースエステル(アセチル基置換度2.87、重量平均分子量Mw300000):
100.0質量部
ポリエステル(コハク酸、テレフタル酸及びエチレングリコールをモノマーとする縮合物の末端封止物、コハク酸/テレフタル酸/エチレングリコールのモル比は50/50/100、重量平均分子量Mw2000):
10.0質量部
紫外線吸収剤;チヌビン928(2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、BASFジャパン社製):
3.0質量部
マット剤:R972V(日本アエロジル社製、シリカ粒子、平均粒径16nm):
0.3質量部
剥離助剤;エレカットS412(竹本油脂社製): 0.5質量部
メチレンクロライド: 300.0質量部
エタノール: 40.0質量部
[0129] 得られたドープを、ベルト流延装置を用いて、温度22℃、2m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。さらに、ステンレスバンド支持体上で、残留溶剤量が100質量%になるまでドープ中の溶媒を蒸発させた。得られた膜状物を、剥離張力162N/mでステンレスバンド支持体上から剥離し、フィルムを得た。
[0130] 得られたフィルムを温度35℃でさらに乾燥させた後、TD方向の長さが1.5mとなるようにTD方向の端部をスリットした。スリット後のフィルムをローラーでMD方向に延伸温度190℃で2.0倍延伸し、テンター延伸装置にてTD方向に延伸温度190℃で1.5倍延伸した。テンター延伸装置による延伸開始時の残留溶媒量は8質量%であった。
テンター延伸装置で延伸した後、130℃で5分間の緩和処理を施し、得られたフィルムを多数のローラーにより120℃及び140℃の各乾燥ゾーンに搬送し、搬送しながら乾燥させた。次に、フィルムをTD方向の長さが1.35mとなるようにTD方向の端部をスリットした。その後、フィルムのTD方向両端に幅10mm及び高さ5μmのナール加工を施して、コアに巻き取り、保護フィルム11のロール体を得た。保護フィルム11の膜厚は25μm、巻長は4000mであった。
・・・(省略)・・・
[0132]<保護フィルム13?15の作製>
保護フィルム11の作製において、ドープ中のポリエステルを、それぞれ下記スチレン系重合体1?3に変更した以外は、保護フィルム11と同様にして各保護フィルム13?15を作製した。
スチレン系重合体1:SMA2625(スチレンとマレイン酸の共重合体、スチレンとマレイン酸のモル比(スチレン/マレイン酸)67/33、重量平均分子量Mw9000)、サートマー社製):
10.0質量部
スチレン系重合体2:SMA17325(スチレンとマレイン酸の共重合体、スチレンとマレイン酸のモル比(スチレン/マレイン酸)50/50、重量平均分子量Mw7000)、サートマー社製):
10.0質量部
スチレン系重合体3:マルカリンカーCST50(スチレンとヒドロキシスチレンの共重合体、スチレンとヒドロキシスチレンのモル比(スチレン/ヒドロキシスチレン)50/50、重量平均分子量Mw2000、丸善石油化学社製): 10.0質量部
保護フィルム11と同様に、各保護フィルム13?15の膜厚は25μm、巻長(MD方向の長さ)は4000mであった。
・・・(省略)・・・
[0142]<偏光板11?22及び31?38の作製>
下記手順で、偏光子を作製した。
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、MD方向に一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。延伸後、ヨウ素0.075質量部、ヨウ化カリウム5質量部及び水100質量部からなる水溶液に60秒間浸漬した。次いで、ヨウ化カリウム6質量部、ホウ酸7.5質量部及び水100質量部からなる68℃の水溶液に浸漬した後、水洗、乾燥して、長尺フィルムの偏光子を得た。
得られた偏光子は、膜厚が10μmであった。
[0143] 次に、下記工程1?5に従って、保護フィルム11?22及び31?38をそれぞれ具備する偏光板11?22及び31?38を作製した。
工程1:保護フィルムの一方の表面を、60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、水洗、乾燥してケン化した。ケン化された表面が偏光子との貼合面である。
工程2:作製した偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1?2秒浸漬した。
工程3:工程2で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭いて取り除いた後、偏光子を工程1でケン化した保護フィルムの表面上に重ね、貼り合わせた。
工程4:工程3で保護フィルム上に重ねた偏光子の他方の面上に、位相差フィルムとしてコニカミノルタタックKC4DR(コニカミノルタアドバンストレイヤー社製のセルロースエステルフィルム)を重ね、圧力20?30N/cm2、搬送スピード約2m/分で貼り合わせた。
工程5:80℃の乾燥機中に、工程4で貼り合わせた保護フィルム、偏光子及びコニカミノルタタックKC4DRを2分間乾燥し、偏光板を作製した。
[0144]<液晶表示装置11?22及び31?38の作製>
VAモード型の液晶表示装置であるBRAVIA KDL-52W5(ソニー社製)において、液晶セルの両面にあらかじめ貼り合わされていた二つの偏光板のうち、液晶セルのフロント側の面に貼り合わされていた一つを剥がし、代わりに偏光板11を貼り合わせて、液晶表示装置11を作製した。偏光板11は、位相差フィルムが液晶セル側に位置するようにして貼り合わせた。
[0145] BRAVIA KDL-52W5の液晶画面は、上下方向よりも左右方向に長い長方形であった。
また、BRAVIA KDL-52W5の液晶セルのフロント側に配置されていた偏光板は、吸収軸方向が液晶画面の長軸方向(左右方向)と一致し、液晶セルのリア側に配置されていた偏光板は、吸収軸方向が液晶画面の短軸方向(上下方向)と一致していた。よって、偏光板11も同じように長方形に形成し、吸収軸方向が液晶画面の長軸方向と一致するように配置した。
液晶表示装置11と同様にして、各偏光板12?22及び31?38を使用し、液晶表示装置12?22及び31?38をそれぞれ作製した。
[0146]<液晶表示装置23の作製>
液晶表示装置13の作製において、BRAVIA KDL-52W5の液晶セルの両面に貼り合わされていた二つの偏光板を剥がし、液晶セルの両面に二つの偏光板13をそれぞれ貼り合わせた以外は、液晶表示装置13と同様にして液晶表示装置23を作製した。二つの偏光板13は、いずれも位相差フィルムが液晶セル側に位置するように貼り合わせた。また、元の偏光板と同じようにして、液晶セルのフロント側の面に配置する偏光板13の吸収軸方向が液晶画面の長軸方向と一致し、リア側の面に配置する偏光板13の吸収軸方向が液晶画面の短軸方向と一致するように、各偏光板13を配置した。
[0147]<評価>
(1)保護フィルムのtanδ
各保護フィルム11?22及び31?38の動的粘弾性を測定し、25?190℃の温度範囲におけるtanδの最大値を求めた。なお、延伸して作製された保護フィルムについては、延伸前の保護フィルムの動的粘弾性を測定し、tanδの最大値を求めた。
最初に、各保護フィルム11?22及び31?38から試料を切り出し、23℃・55%RHの環境下に24時間おいて調湿した。調湿後の試料の動的粘弾性を、55%RH下で温度を25℃から190℃まで昇温させながら、下記測定条件により測定した。測定により得られた25?190℃の温度範囲におけるtanδの最大値を求めた。求めた最大値の小数点第二位を四捨五入した。
測定装置:RSAIII(ティーエイインスツルメント社製)
試料:幅5mm、長さ50mm(ギャップを20mmに設定)
測定モード:引張モード
測定温度:25?190℃の温度範囲内で、5℃/minの速度で昇温
湿度:相対湿度55%
昇温速度:5℃/min
測定時に加えた力の周波数:1Hz
[0148] (2)保護フィルムのMD方向及びTD方向の弾性率の比の値E1/E2
各保護フィルム11?22及び31?38の試料を、23℃・55%RHの環境下に24時間おいて調湿した。調湿後の試料のMD方向及びTD方向の各弾性率E1及びE2(MPa)を、JIS K7127に記載の方法に準じて、引張試験機テンシロンRTA-100(オリエンテック社製)により測定した。測定は、調湿時と同じ環境下で行い、試料の形状を1号形試験片タイプとし、引張速度を10mm/minとした。
得られた弾性率E1及びE2から、弾性率の比の値E1/E2を求めた。
[0149] (3)液晶表示装置の表示ムラ
各液晶表示装置11?23及び31?38を、50℃・90%RHの環境下に24時間おいて湿熱処理した。その後、23℃・55%RHの環境下において各液晶表示装置11?23及び31?38のバックライトを点灯させてから2時間後、黒表示したときの輝度ムラ及び画像を表示したときの輝度ムラを目視で確認した。この輝度ムラを、下記基準に従って表示ムラとして評価した。
○:黒表示時及び画像表示時のいずれも輝度ムラがほとんどない
△:黒表示時の輝度ムラが多いが、画像表示時の輝度ムラはほとんど気にならない
×:黒表示時の輝度ムラが多く、画像表示時においても輝度ムラが気になる
評価が○又は△であれば、実用上問題なく使用できるレベルである。
[0150] 下記表1は、評価結果を示す。
[表1]

[0151] 表1に示すように、実施例に係る各偏光板11?22を用いた液晶表示装置11?23は、温湿度変化による表示ムラが十分に抑えられていることが分かる。」

(8)「[図1]

[図2]

[図3]



2 引用発明
(1)引用文献1には、実施例として「液晶表示装置23」が開示されており、引用文献1[0146]からは、この「液晶表示装置23」は、液晶セルの両面にそれぞれ貼り合わされた二つの偏光板、すなわち、偏光板のセットを備えており、この偏光板のセットは、「液晶セルのフロント側の面に配置する偏光板13の吸収軸方向が液晶画面の長軸方向と一致し、リア側の面に配置する偏光板13の吸収軸方向が液晶画面の短軸方向と一致するように、各偏光板13を配置した」ものであることを把握できる。

(2)引用文献1の[0143]からは、「偏光板13」が、「保護フィルムの一方の表面を」「ケン化し」、「偏光子を」「ケン化した保護フィルムの表面上に重ね、貼り合わせ」、「保護フィルム上に重ねた偏光子の他方の面上に、位相差フィルムとしてコニカミノルタタックKC4DR(コニカミノルタアドバンストレイヤー社製のセルロースエステルフィルム)を重ね、」「貼り合わせ」、「貼り合わせた保護フィルム、偏光子及びコニカミノルタタックKC4DRを」「乾燥」することにより作製されたものであることを把握することができ、また、「偏光板13」に用いられる「保護フィルム」は「保護フィルム13」であることを把握できる。

(3)引用文献1の[0122]及び技術常識を考慮すると、引用文献1における「偏光板13」においても、保護フィルムのMD方向と偏光子の吸収軸方向は一致しているものと認められる。

(4)引用文献1の[表1]からは「液晶表示装置23」における「E1/E2」は「2.0」であることを看取できる。また、「E1/E2」については、引用文献1の[0148]より、「保護フィルムのMD方向及びTD方向の弾性率の比の値E1/E2」の測定は、「保護フィルム」「の試料を、23℃・55%RHの環境下に24時間おいて調湿し」、「調湿後の試料のMD方向及びTD方向の各弾性率E1及びE2(MPa)を、JIS K7127に記載の方法に準じて、引張試験機テンシロンRTA-100(オリエンテック社製)により測定し、測定は、調湿時と同じ環境下で行い、試料の形状を1号形試験片タイプとし、引張速度を10mm/minとした」ものであることを把握できる。

(5)引用文献1の[表1]からは「液晶表示装置23」の表示ムラの評価が「○」であることを看取できる。また、引用文献1の[0007]、[0151]の記載から「液晶表示装置23」における偏光板のセットは、温湿度変化による表示ムラを抑えることができるものであると理解することができる。

以上(1)?(5)で述べた事項を踏まえると、引用文献1には、実施例として開示された液晶表示装置23における偏光板のセットとして、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「温湿度変化による表示ムラを抑えることができる偏光板のセットであって、
偏光板のセットは、液晶セルの両面にそれぞれ貼り合わされた二つの偏光板であり、液晶セルのフロント側の面に配置する偏光板の吸収軸方向が液晶画面の長軸方向と一致し、液晶セルのリア側の面に配置する偏光板の吸収軸方向が液晶画面の短軸方向と一致するように、各偏光板が配置され、
前記偏光板は、保護フィルムの一方の表面をケン化し、偏光子をケン化した保護フィルムの表面上に重ね、貼り合わせ、保護フィルム上に重ねた偏光子の他方の面上に、位相差フィルムとしてコニカミノルタタックKC4DR(コニカミノルタアドバンストレイヤー社製のセルロースエステルフィルム)を重ね、貼り合わせ、貼り合わせた保護フィルム、偏光子及びコニカミノルタタックKC4DRを乾燥することにより作製され、
前記保護フィルムのMD方向と前記偏光子の吸収軸方向は一致しており、
前記保護フィルムのMD方向及びTD方向の弾性率の比の値E1/E2は、保護フィルムの試料を、23℃・55%RHの環境下に24時間おいて調湿し、調湿後の試料のMD方向及びTD方向の各弾性率E1及びE2(MPa)を、JIS K7127に記載の方法に準じて、引張試験機テンシロンRTA-100(オリエンテック社製)により測定し、測定は、調湿時と同じ環境下で行い、試料の形状を1号形試験片タイプとし、引張速度を10mm/minとしたものであり、E1/E2は2.0である
偏光板のセット。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)前面側偏光板
引用発明の「液晶セルのフロント側の面に配置する偏光板」は、「液晶セルの両面にそれぞれ貼り合わされた二つの偏光板」のうちの一つである。また、引用発明の「液晶セルのフロント側」とは、本願発明でいう「液晶セルの視認側」のことである(引用文献1の[0120])。
したがって、引用発明における「液晶セルのフロント側の面に配置する偏光板」は、本願発明における「液晶セルの視認側に配置される前面側偏光板」に相当する。

(2)背面側偏光板
引用発明の「液晶セルのリア側の面に配置する偏光板」は、「液晶セルの両面にそれぞれ貼り合わされた二つの偏光板」のうちの一つである。また、「液晶セルのフロント側の面」には「液晶セルのフロント側の面に配置する偏光板」が配置されることから、引用発明の「液晶セルのリア側の面に配置する偏光板」は、「液晶セル」の「フロント側」と反対側の面に配置される「偏光板」であると認められる。一方、本願発明における「液晶セルの背面側に配置される背面側偏光板」は、本願の図2及び明細書【0009】?【0011】の記載等を参酌すると、「液晶セル」の「視認側」と反対の面に配置される「偏光板」であると認められる。そして、前記(1)で述べたとおり、引用発明の「液晶セルのフロント側の面に配置する偏光板」は、本願発明の「液晶セルの視認側に配置される前面側偏光板」に相当する。
したがって、引用発明における「液晶セルのリア側の面に配置する偏光板」は、本願発明における「液晶セルの背面側に配置される背面側偏光板」に相当する。

(3)偏光板のセット
引用発明の「偏光板のセット」は、「液晶セルの両面にそれぞれ貼り合わされた二つの偏光板」を具備する。また、これら二つの偏光板と、本願発明の「前面側偏光板」及び「背面側偏光板」との対応関係については、前記(1)及び(2)で述べたとおりである。
そうしてみると、引用発明の「偏光板のセット」は、本願発明における「偏光板のセット」に相当する。

2 一致点
以上のことから、本願発明と引用発明とは、以下の構成において一致する。
「液晶セルの視認側に配置される前面側偏光板と、前記液晶セルの背面側に配置される背面側偏光板とを有する
偏光板のセット。」

3 相違点
本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する、又は、一応、相違する。
(1)相違点1
「前面側偏光板」及び「背面側偏光板」が、本願発明では「前面側偏光板の吸収軸は短辺に対して平行であり」、「背面側偏光板の吸収軸は長辺に対して平行であり」という要件を満たすもの(偏光板の吸収軸と、短辺(長辺)が、このような関係にあるもの)であるのに対して、引用発明では「液晶セルのフロント側の面に配置する偏光板の吸収軸方向が液晶画面の長軸方向と一致し」、「液晶セルのリア側の面に配置する偏光板の吸収軸方向が液晶画面の短軸方向と一致する」という要件を満たすものである点。
(当合議体注:本願発明でいう「短辺」(長辺)は、「液晶セルの短辺」(液晶セルの長辺)のことである。また、引用発明でいう「液晶画面の短軸方向」(液晶画面の長軸方向)とは、「液晶画面の短辺方向」(液晶画面の長辺方向)のことである。)

(2)相違点2
本願発明では、「前記前面側偏光板の吸収軸と前記背面側偏光板の吸収軸とが直交するようにしてガラス板に前記前面側偏光板と前記背面側偏光板とが貼合された積層体を、85℃にて250時間加熱したときに、積層体が凸形状に反る側の偏光板は前記前面側偏光板であ」るのに対して、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

(3)相違点3
本願発明では、「前記前面側偏光板における少なくとも一方の保護フィルムは、85℃での偏光板透過軸方向の引張弾性率および85℃での偏光板吸収軸方向の引張弾性率をそれぞれEt、Eaとするとき」、「2.5≧Ea/Et≧0.95」を満たすのに対して、引用発明では、これが一応、明らかでない(引用発明の「保護フィルムの試料を、23℃・55%RHの環境下に24時間おいて調湿し、調湿後の試料のMD方向及びTD方向の各弾性率E1及びE2(MPa)を、JIS K7127に記載の方法に準じて、引張試験機テンシロンRTA-100(オリエンテック社製)により測定し、測定は、調湿時と同じ環境下で行い、試料の形状を1号形試験片タイプとし、引張速度を10mm/minとしたものであり、E1/E2は2.0である」)点。

第6 判断
1 相違点について
事案に鑑みて、相違点1?相違点3についてまとめて判断する。
引用発明は、液晶セルが大型(観察者に対し横長)のものを前提とし(引用文献1の[0144]及び[0145]参照。)、液晶セルのフロント側の面に配置する偏光板の吸収軸方向は、液晶セルの長辺方向と一致している。他方、液晶セルがモバイル機器など小型(観察者に対し縦長)のものでは、液晶セルのフロント側の面に配置する偏光板の吸収軸方向を、液晶画面の短辺方向と一致させることが前提となる(例えば、国際公開2015/190190号(以下、「引用文献6」という)の[0013]及び[0027]を参照。)。
そこで、引用発明の「偏光板のセット」を、上記の縦長仕様を前提としたものに設計変更した場合について検討すると、このようなものは、相違点1?相違点3に係る本願発明の構成を全て具備したものとなる。
すなわち、引用発明の「偏光板のセット」を縦長仕様に変更すると、「液晶セルのフロント側の面に配置する偏光板の吸収軸方向」は、液晶セルの短辺方向と一致し、「液晶セルのリア側の面に配置する偏光板の吸収軸方向」は、液晶セルの長辺方向と一致することとなることから、相違点1に係る本願発明の要件を満たすものとなる。(当合議体注:なお、引用文献1の[0008]、[0025]、[0125]及び[0126]等の記載に基づけば、引用発明の「偏光板のセット」を縦長仕様に変更しても、「液晶セル及び液晶セルに隣接する位相差フィルムの曲がりを抑えることができ」、「表示ムラを抑えることが可能」であることに変わりはないと認められる。)
また、引用発明の「偏光板のセット」を縦長仕様に変更すると、「液晶セルのリア側の面に配置する偏光板」の方が、「液晶セルのフロント側の面に配置する偏光板」よりも収縮する力のモーメントが大きくなるため、引用文献1の図3の断面図とは逆に、液晶セルはフロント側に突き出るようにして反ることとなる。そうしてみると、引用発明の「偏光板のセット」は、相違点2に係る本願発明の要件も、満たす蓋然性が高いといえる。(当合議体注:なお、液晶セルがフロント側に突き出るようにして反る場合、引用文献6の[0008]に記載された問題が生じる。しかしながら、引用発明は「液晶セル及び液晶セルに隣接する位相差フィルムの曲がりを抑える」(引用文献1[0025])ものであって、引用文献6の[0009]や[0011]の記載に適合するものであるから、縦長仕様を前提とした設計にも適したものといえる。)。
そして、引用発明の「偏光板のセット」を縦長仕様に変更しても、引用発明の(25℃における)「E1/E2は2.0」のままであり、また、延伸後の熱処理(緩和処理)が適切に行われている限り、測定条件を、相違点3に係る本願発明のもの(85℃)に変えたとたん、「E1/E2」の値が2.5超又は0.95未満になるとも考えがたい。

2 効果について
上記1において示したように、引用発明の「偏光板のセット」を縦長仕様に変更したものは、「表示ムラを抑えることが可能」であるという効果を有するものであることから、本願発明における「高温環境下における液晶パネルの反りを低減させることができる」という効果(【0007】)について、格別なものと認めることはできない。

3 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において「前面側偏光板は吸収軸が短辺に対して平行となり、背面側偏光板は吸収軸が長辺に対して平行となるように、それぞれ液晶セルに貼合した液晶パネルは〔要件(A)〕、高温環境下では、背面側偏光板側が凹側となり、前面側偏光板側が凸となるように反り易い。
本発明は、かかる問題を解決するものであって、吸収軸が短辺に対して平行となる前面側偏光板の保護フィルムの引張弾性率の比(Ea/Et)を0.95?2.5とすることにより〔要件(B)〕、この問題を解決する。」、「引用文献5および引用文献6は、要件(A)を備えることにより液晶パネルの反りを抑制しうることを開示するものではないから、要件(A)によりに関する記載の無い引用文献1?引用文献4と、かかる周知技術とに基づいて、「高温環境下における液晶パネルの反り、特に前面側に凸になるような反りを抑制するべく、前面側偏光板の保護フィルムの引張弾性率比(Ea/Et)を0.95?2.5として〔要件(B)〕、本願発明に想到することは決して容易ではない。」と主張する。
しかしながら、「要件(A)」のような偏光板の設計は、モバイル機器用途において採用されていることは上記のとおりであり、引用発明の「偏光板のセット」を縦長仕様に変更したものにおけるフロント側の偏光板の保護フィルムが、「要件(B)」を満たしていると考えられることについても上記のとおりである。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-03-17 
結審通知日 2020-03-24 
審決日 2020-04-06 
出願番号 特願2017-105352(P2017-105352)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆菅原 奈津子  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
早川 貴之
発明の名称 偏光板のセットおよび液晶パネル  
代理人 中山 亨  
代理人 坂元 徹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ