• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65G
審判 全部無効 特38条共同出願  B65G
審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許  B65G
審判 全部無効 2項進歩性  B65G
管理番号 1362695
審判番号 無効2019-800037  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-04-26 
確定日 2020-05-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第6496560号発明「段積み装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6496560号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成27年1月26日の出願であって、平成31年3月15日に特許権の設定の登録がなされたものである。

以後の本件特許に関連する手続の概要は以下のとおりである。
平成31年 4月23日付け 本件無効審判の請求
令和 1年 5月27日付け 証拠説明書
同年10月 9日付け 答弁書
同年12月20日付け 審理事項通知書
令和 2年 2月13日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 2月14日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 2月28日 口頭審理

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明(以下「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ワークを受入位置に搬送する搬送手段と、
前記受入位置に搬送されたワークの両側をそれぞれ上下動可能に支持する支持部を有する一対の支持手段と、
一対の前記支持手段により上昇したワークを所定の排出高さに保持する一対の保持手段とを備え、
前記保持手段は、上下方向に対して傾斜する方向に進退可能な保持部を有し、前記保持部が進出時にワークの下面に当接するように構成され、
前記支持部と共に上下動してワークを支持するプレート状の補助部材を有する補助手段を更に備え、
前記補助部材は、一対の前記支持部の間において、前記搬送手段の搬送方向に沿って起立状態で配置される段積み装置。
【請求項2】
前記支持部は、ワークと干渉しない位置まで水平方向に移動可能である請求項1に記載の段積み装置。」

第3 当事者の主張
1 請求人
請求人は、審判請求書及び口頭審理陳述要領書において、「特許第6496560号にかかる特許請求の範囲の請求項1及び2にかかる発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし、甲第1号証ないし甲第32号証の8を提出して、次の無効理由1ないし4を主張する。

(1)無効理由1
本件特許発明は、公然実施された発明及び甲第17号証の1に記載された発明に基いて、または、甲第18号証に記載された発明、甲第17号証の1に記載された発明、及び公然実施された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件発明1及び2についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件特許発明は、特許を受ける権利が共有に係るものであり、各共有者が他の共有者と共同で特許出願したものでないから、特許法第38条の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件発明1及び2についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)無効理由3
本件特許発明に係る特許が、本件発明1及び2について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第6号に該当し、無効とすべきである。

(4)無効理由4
本件特許発明は、特許請求の範囲の記載について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないことから、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件発明1及び2についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(5)証拠方法
<審判請求書に添付>
甲第1号証:Webページ(請求人の会社ホームページ)
甲第2号証:請求人製品の販売実績を示す売上一覧表
甲第3号証の1:パレッタイジング設備の受注を示す原票
甲第3号証の2:顧客工場での請求人製品の取り付け工事の作業内容報告書
甲第3号証の3:パレッタイジング設備の改造案に関する機構図
甲第3号証の4:パレッタイジング設備の改造案の制作図及び承認印が押印された図面
甲第3号証の5:パレッタイジング設備の改造案に関する機構図及び顧客の承認印が押印された図面
甲第3号証の6:本件特許に係る出願の願書に発明者として記載されている西山準司氏(以下、「本件発明者」という。)と顧客との打ち合わせ議事録
甲第3号証の7:本件発明者が請求人のSA事業部技術課宛てに図面及び見積書の作成依頼のため送付したFAX
甲第3号証の8:請求人のSA事業部技術課が本件発明者宛てに見積書を送付したFAX
甲第3号証の9:請求人のSA事業部技術課が本件発明者宛てに見積書を送付したFAX
甲第3号証の10:顧客による請求人の旧装置の仕様承認を示す仕様書
甲第3号証の11:請求人の旧装置に関する組立図
甲第3号証の12:請求人のSA事業部技術課が本件発明者宛てに顧客用の旧装置の改造に関する見積書を送付したFAX
甲第3号証の13:請求人の旧装置を顧客工場に搬入した際の顧客による承認印が押された書類
甲第3号証の14:請求人のSA事業部が、顧客宛てに、旧装置における設備改善報告につき送付したFAX
甲第3号証の15:請求人の旧装置に関する不具合についてグループ会社の担当者と請求人の担当者でやりとりを行った際の電子メール
甲第3号証の16:請求人の担当者及び本件発明者が顧客の担当者から旧装置の不具合について聞き取りを行って作成した議事録
甲第3号証の17:請求人の大阪事業部が技術課宛てに旧装置の対策案を検討する旨を指示したFAX
甲第3号証の18:請求人の旧装置に補助爪を設けて製函機能力を高める構造を対策案とする図面
甲第3号証の19: 請求人の大阪事業部が顧客宛てに送付した旧装置の不具合の対策案の図面及びFAX連絡書
甲第3号証の20:請求人の技術課が大阪事業部宛てに送信した甲第3号証の18の図の構造を旧装置に採用する旨を連絡したFAX連絡票
甲第3号証の21:顧客代理店が本件発明者宛てに送付した顧客の設備及び打ち合わせ内容を記載した書面
甲第3号証の22:顧客と本件発明者が顧客のライン設備等の内容につき打ち合わせを実施した際の打ち合わせ議事録
甲第3号証の23:請求人のグループ会社の担当者が顧客工場に設置した請求人製品の能力チェックに関する結果報告を請求人の技術課宛てに送った電子メール
甲第4号証の1:パレッタイジング設備の受注を示す原票
甲第4号証の2:請求人製品に関する組立図
甲第4号証の3:請求人製品に関する操作説明書
甲第4号証の4:請求人の技術担当者から請求人のグループ会社の担当者宛てに、装置に関する操作説明書を送付した電子メール
甲第4号証の5: 請求人の技術課から本件発明者宛てに送った顧客用の見積書
甲第5号証の1:パレッタイジング設備の受注を示す原票
甲第5号証の2:請求人製品に関する組立図
甲第5号証の3:請求人が顧客に提出した請求人製品の取扱説明書
甲第6号証の1:顧客による請求人製品の仕様承認を示す仕様書
甲第6号証の2:パレッタイジング設備の受注を示す原票
甲第6号証の3:請求人製品に関する組立図
甲第6号証の4:請求人が顧客に提出した請求人製品の取扱説明書
甲第7号証の1:顧客向けの請求人製品の仕様書
甲第7号証の2:パレッタイジング設備の受注を示す原票
甲第7号証の3:請求人製品に関する組立図
甲第7号証の4:請求人が顧客に提出した請求人製品の取扱説明書
甲第8号証の1:顧客代理店による請求人製品の仕様承認を示す仕様書
甲第8号証の2:パレッタイジング設備の受注を示す原票
甲第8号証の3:請求人製品に関する組立図
甲第8号証の4:請求人が顧客に提出した請求人製品の取扱説明書
甲第9号証の1:パレッタイジング設備の受注を示す原票
甲第9号証の2:請求人製品に関する組立図
甲第9号証の3:顧客向けの請求人製品の仕様書
甲第10号証の1:パレッタイジング設備の受注を示す原票
甲第10号証の2:顧客代理店による請求人製品の仕様承認を示す仕様書
甲第10号証の3:請求人製品に関する組立図
甲第10号証の4:請求人製品の出荷前検査における顧客及び顧客代理人との打ち合わせ議事録
甲第11号証の1:顧客代理店による請求人製品の仕様承認を示す仕様書
甲第11号証の2:パレッタイジング設備の受注を示す原票
甲第11号証の3:請求人製品に関する組立図
甲第11号証の4:請求人が顧客に提出した請求人製品の取扱説明書
甲第12号証の1:顧客代理店による請求人製品の仕様承認を示す仕様書
甲第12号証の2:パレッタイジング設備の受注を示す原票
甲第12号証の3:請求人製品に関する組立図
甲第12号証の4:請求人が顧客に提出した請求人製品の取扱説明書
甲第13号証の1:パレッタイジング設備の受注を示す原票
甲第13号証の2:請求人製品に関する組立図
甲第13号証の3:顧客による請求人製品の仕様承認を示す仕様書
甲第13号証の4:請求人が顧客に提出した請求人製品の取扱説明書
甲第14号証の1:パレッタイジング設備の受注を示す原票
甲第14号証の2:請求人製品に関する組立図
甲第14号証の3:顧客代理店による請求人製品の仕様承認を示す仕様書
甲第14号証の4:請求人が顧客に提出した請求人製品の取扱説明書
甲第15号証の1:顧客向けの請求人製品に関する組立図中に請求人製品の支持板及び補助スタッカアームの位置を示した図面(企業A)
甲第15号証の2:同上(企業B)
甲第15号証の3:同上(企業C)
甲第15号証の4:同上(企業D)
甲第15号証の5:同上(企業E)
甲第15号証の6:同上(企業F)
甲第15号証の7:同上(企業G)
甲第15号証の8:同上(企業H)
甲第15号証の9:同上(企業I)
甲第15号証の10:同上(企業J)
甲第15号証の11:同上(企業K)
甲第15号証の12:同上(企業L)
甲第16号証:顧客先に設置された請求人製品の動作を撮影した動画のキャプチャー画像を元に作成した製品の動作工程を示す資料
甲第17号証の1:米国特許第3387720号明細書
甲第18号証:特開2005-82304号公報
甲第19号証:本件特許に係る出願の審査時に出された平成30年9月25日付けの拒絶理由通知書
甲第20号証:特開平8-58976号公報
甲第21号証:本件発明者が請求人法人に入社する際に記載した誓約書
甲第22号証:Webページ(本件特許権者の会社ホームページ)
甲第23号証:請求人が従業員向けに提示した追加誓約書
甲第24号証:本件特許発明の移動時の距離等を示す概念図
甲第25号証:本件特許の登録原簿
甲第26号証:本件特許の特許掲載公報

<請求人の口頭審理陳述要領書に添付>
甲第27号証の1:Webページ(企業Eの会社ホームページ)
甲第27号証の2:Webページ(企業Mが発行した団体・事業者による/3R(リデュース・リユース・リサイクル)教育に関する取組事例集)
甲第27号証の3:Webページ(企業Eが2005年に発行した「環境報告書/2005」)
甲第28号証の1:Webページ(企業N/企業行動報告書アニュアルレポート/2013)
甲第28号証の2:Webページ(企業Oの会社ホームページ)
甲第29号証:Webページ(企業Bの会社ホームページ)
甲第30号証:Webページ(「ものづくり文化再発見!ウォーキング」実行委員会が主催するイベント「ものづくり文化再発見!ウォーキング」のチラシ案内)
甲第31号証:Webページ(学校Aの2018年度の事業報告書)
甲第32号証の1:請求人製品の販売の流れを示す資料
甲第32号証の2:企業Oから請求人に向けて送られた設備計画に関する連絡のFAX
甲第32号証の3:請求人が企業Oに向けて作成した請求人製品の配置図
甲第32号証の4:請求人が企業Oに向けて作成した請求人製品の見積書
甲第32号証の5:企業Oから請求人に向けて送られた請求人製品の配置図と仕様書にサインした書類
甲第32号証の6:請求人が企業Oに向けて作成した請求人製品の見積書
甲第32号証の7:企業Oから請求人に向けて送られた請求人製品の注文書
甲第32号証の8:企業Oから請求人に向けて送られた請求人製品の検収書
甲第32号証の9:請求人と企業Oの請求人製品の仕様確認等の打ち合わせ議事録

(6)参考資料
<審判請求書に添付>
参考資料:米国特許第3387720号明細書の部分的な翻訳文

2 被請求人
被請求人は、答弁書及び口頭審理陳述要領書において、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」ことを答弁の趣旨とし、無効理由1ないし4に対して、次のように反論する。

(1)無効理由1
本件発明1及び2は、公然実施された発明、甲第17号証の1に記載された発明及び甲第18号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)無効理由2
本件発明1及び2は、特許を受ける権利が共有に係るものでなく、他の者と共同で特許出願することを要さない。

(3)無効理由3
本件発明1及び2に係る特許は、本件発明1及び2について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたものでない。

(4)無効理由4
本件発明1及び2は、特許請求の範囲の記載について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。

(5)参考資料
<被請求人の口頭審理陳述要領書に添付>
参考資料:保持手段と補助手段の追加説明図

第4 当審による事実認定
1 公然実施された発明について
(1)公然実施について
甲第1号証から、請求人が段ボール専用パレタイザであるA式段ボール用ロボット設備を業として取り扱っていることが理解でき、甲第2号証の表の上から3段目の受注月「2007/05」、設備名「EC-201」及び納入先名「企業A 滝野工場」との記載、甲第3号証の1の設備名及び仕様の「A式段ボールスーパーエース(EC-201)周辺設備」及び製番「FF095」との記載、甲第3号証の2の機種製番「A式EC201 FF-095」、作業日時「2008年3月1日」及び内容「中折れ製品能力アップ改造」との記載から、A式段ボール用ロボット設備である、中折れ製品能力アップ改造が施されたA式段ボールスーパーエース(EC-201)周辺設備の、製番FF095のものが、企業A滝野工場に、遅くとも2008年3月1日には納入されていたことが把握できる。

また、同様のA式段ボール用ロボット設備が、企業Bの小牧工場(甲第4号証の1ないし4参照。)、企業Cの大利根工場(甲第5号証の1ないし3参照。)、企業D(甲第6号証の1ないし4)、企業Eの湘南工場(甲第7号証の1ないし4参照。)、企業F(甲第8号証の1ないし4参照。)、企業Gの塩尻事業所(甲第9号証の1ないし3参照。)、企業H(甲第10号証の1ないし4参照。)、企業I(甲第11号証の1ないし4参照。)、企業Jの大井川工場(甲第12号証の1ないし4参照。)、企業K(甲第13号証の1ないし4参照。)及び企業Lの日進工場(甲第14号証の1ないし4参照。)に納入されていたことも把握できる。

そして、これらのA式段ボール用ロボット設備の少なくとも一部は、例えば企業Eの2011年8月31日付けニュースリリース等(甲第27号証の1?甲第31号証参照。)に記載されているように、本件の出願前に、日頃から工場見学の対象とされており、当該工場見学の際に非公開とすべき特段の事情も無いことから、継続的に公然実施状態にあったことが把握できる。

したがって、企業A滝野工場に納入されたA式段ボール用ロボット設備と同様のパレッタイジング設備は、遅くとも本件の出願前に請求人により納入され(甲第1号証?甲第14号証の12(及び甲第32号証の1?甲第32号証の9)参照。)また、本件の出願前に継続的に公然実施状態にあった(甲第27号証の1?甲第31号証参照。)といえる。

(2)公然実施された発明の構成について
企業A滝野工場に納入されたA式段ボール用ロボット設備と同様のパレッタイジング設備について、以下の事項が把握できる。

ア 甲第10号証の3、甲第11号証の3、甲第12号証の3、甲第12号証の4、甲第13号証の2、甲第13号証の4、甲第14号証の2、甲第14号証4及び甲第15号証の8ないし12の図面(以下、図面等という。)の装置全体の組立図の平面図には、中心の対称線沿いの長尺の部材に対する引き出し線の先に「ラフトップベルト」との記載があり、これは甲第16号証の記載と併せれば、「中央のベルト」といえるものである。

イ 図面等の装置全体の組立図の平面図には、ラフトップベルトの傍らの小さな3つの長方形の部分に対する引き出し線の先に「停止用PH」との記載があり、甲第16号証の「1.企業A株式会社」の「2)1個目製品到達」の写真の表示内容及び同写真の説明文と併せれば、これらの小さな3つの長方形のうち、最も左の長方形の位置が、荷物が搬送される「荷取部定位置」といえる。

ウ 図面等の装置全体の組立図の斜視図に「スタッカーアーム」との記載があり、昇降部の組立図から、このスタッカーアーム全体が、昇降用シリンダにより上下動可能であることが把握できる。

エ 図面等の装置全体の組立図の側面図から、一対のスタッカーアームの水平な板状の部分が内側に突出しており、この突出した水平な板状の部分は、甲第16号証の記載と併せれば、「支持板」といえるものである。

オ 甲第16号証の「3.企業A株式会社(空運転での説明)」の「3)1個目製品上待機?2個目製品導入」の写真、「4)補助スタッカー下降?2個目製品到達」の写真及び「5)支持板下降および1個目製品下降」の写真を見比べれば、前記支持板が製品と干渉しない位置まで水平方向に移動可能であることが把握できる。

カ 図面等の装置全体の組立図の平面図には、ラフトップベルトの脇の、少し大きな長方形の部分に対する引き出し線の先に「補助スタッカー」との記載があり、図面等の補助スタッカー部の組立図の正面図及び斜視図から、この補助スタッカーが、長方形状の上面を持つ部材を有することが読み取れる。

キ 甲第16号証の「1.企業A株式会社」の「3)1個目製品上昇」の写真の表示内容及び同写真の説明文の記載によれば、前記補助スタッカーの前記長方形状の上面が、前記支持板と共に下から上に動いて製品を持ち上げることが把握できる。

上記の事項を総合し、本件特許発明の記載ぶりに則って整理すると、企業A滝野工場に納入されたA式段ボール用ロボット設備と同様のパレッタイジング設備からは、次の発明(以下、「実施発明」という。)が認められる。

[実施発明]
「製品を荷取部定位置に搬送する中央のベルトと、
前記荷取部定位置に搬送された製品の両側をそれぞれ上下動可能に支持する支持板を有する一対のスタッカーアームと、
前記支持板と共に下から上に動いて製品を持ち上げる長方形状の上面を持つ部材を有する補助スタッカーアームを更に備え、
前記長方形状の上面を持つ部材は、一対の前記支持板の間に配置され、
前記支持板は、製品と干渉しない位置まで水平方向に移動可能であるパレッタイジング設備。」

(3)A式段ボール用ロボット設備及び実施発明の発明者について
ア 甲第3号証の15である企業P FF095不具合出向の件に関する電子メール(2007年9月19日付け)の宛先の筆頭に「人物A」が記載されており、当該電子メールの本文冒頭には「SA技術 人物B係長殿 人物C係殿 人物A課長殿 人物D課長殿」と記載されており、この「SA技術」(SA事業部 技術部 技術課のことを意味するものと解される。)に所属していた4名が、中折れ製品を昇降するための補助爪を追加する前の、企業A滝野工場のA式段ボール用ロボット設備ないしパレッタイジング設備に、課題が存在していることを認識し、これを改善すべき立場にあったことが把握できる。

イ 甲第3号証の12は、制御方法案の文章をFAXで送った旨のFAX連絡票(平成19年(2007年)8月17日付け)であり、当該連絡票の発信者の欄の、請求人のSA事業部 技術部 技術課の後に「人物C」が記載されており、企業A滝野工場のA式段ボール用ロボット設備ないしパレッタイジング設備の、少なくとも制御関係の創作について、人物C氏が担当する立場にあったことが把握できる。

ウ 甲第3号証の3、5、18及び19には、中折れ製品を昇降するために補助爪を追加した段積機構図の図面(2008年1月21日付け等)が含まれている。そして、これらの図面の下中央付近の、設計の欄の印に「人物B」の文字が記載されており、照査の欄の印に「人物A」の文字が記載されている。このことから、中折れ製品を昇降するために補助爪を追加した構成のA式段ボール用ロボット設備ないしパレッタイジング設備の、少なくとも機構関係の創作について、人物B氏及び人物A氏が担当する立場にあったことが把握できる。一方、承認の欄の印に「人物D」の文字が記載されており、承認したに留まる可能性がある人物D氏は、これらの証拠からは、当該補助爪を追加した構成のA式段ボール用ロボット設備ないしパレッタイジング設備の完成に創作的に寄与したとまではいえない。

以上のことから、人物B氏、人物A氏及び人物C氏の3名が、企業A滝野工場に納入されたA式段ボール用ロボット設備ないしパレッタイジング設備に関し、中折れ製品を昇降するために補助爪を追加した構成とすることを発明した者であることに不合理な点はない。
また、当該3名の他に、中折れ製品を昇降するために補助爪を追加した構成の発明に創作的に寄与した者がいた証拠もない。
したがって、請求人製品である企業A滝野工場に納入されたA式段ボール用ロボット設備と同様のパレッタイジング設備及び実施発明に限れば、発明者は、請求人のSA事業部 技術部 技術課の人物B氏、人物A氏及び人物C氏の3名である旨の請求人の主張は合理的である。

2 甲第17号証及び甲17発明
本件の出願前に国内又は外国で頒布された甲17号証の1には以下の事項が記載されている。
(1)「This invention relates to apparatus for building a stack of articles from the bottom. The principles of the invention may be employed for stacking various kinds of flat articles, such as boxes, pallets, trays and the like. The invention is of particular advantage, however, in stacking tiers of lumber and, by way of example, a machine for stacking two by four inch studs will be illustrated and described.」(第1欄第19?26行)
(当審訳:本発明は底部から物品の積み重ねを作るための装置に関する。本発明の原理は、箱、パレット、トレイなどのような様々な種類の平らな物品を積み重ねるために使用することができる。本発明は木材の段積みにおいて特に有利であり、例として、2X4材の段積みのための機械が図示され説明される。)

(2)「Infeed conveyor 12 delivers a horizontal layer or tier of boards onto a secondary infeed conveyor 13 which has endless chains extending parallel with two series of off-bearing rollers 14 and 15. A pair of lifting and evening platens 20 and 21 are disposed on opposite sides of the chains of secondary infeed conveyor 13. When a first tier of boards has advanced into engagement with bumper stops 22, that tier is lifted a short distance by the platens 20 and 21 to provide clearance underneath for feeding a second tier of boards against the bumper stops 22. Then the platens 20 and 21 lower the first tier on top of the second tier, retract laterally and engage the second tier. The next lifting movement of the platens raises both tiers together to permit a third tier to pass underneath and then the platen cycle is repeated until the desired number of tiers have been assembled in a stack.」(第2欄第46?61行)
(当審訳:インフィードコンベア12は、水平なボードの層または段を2つの一連のオフベアリングローラ14及び15と平行に延びるエンドレスチェ-ンを有する二次インフィードコンベア13上に供給する。第1段のボードがバンパーストップ22と係合するように前進すると、その段はプラテン20及び21によって少しだけ持ち上げられ、その下に第2段のボードを送り込むための隙間ができる。次に、プラテン20及び21が第1段を第2段の上に下げ、横方向に後退させて第2段に係合する。プラテンの次の持ち上げ運動は両方の段を一緒に上げて第3段がその下を通過できるようにし、その後、プラテンサイクルは所望の段数が積み重ねられて組み立てられるまで繰り返される。)

(3)「When a full tier of boards has accumlated on conveyor 13, the tier is lifted above the conveyor chains 55 by the platens 20 and 21. For this purpose a pair of platen cylinders 80 actuate the platen 20 and a pair of platen cylinders 81 actuate the platen 21. These cylinders are fixedly connected at their lower ends with shafts 32 mounted for rotation in bearing blocks 83 on the respective base plates 35 and 36 as shown in FIGURE 1. Each of these cylinders has a piston rod 85 pivotally connected with its platen at 86 as shown in FIGURE 4 in the case of platen 21.」(第4欄第39?49行)
(当審訳:全段のボードがコンベア上に堆積すると、その段のボードはプラテン20及び21によってコンベアチェーン55の上方に持ち上げられる。この目的のために、一対のプラテンシリンダ80がプラテン20を動作させ、一対のプラテンシリンダ81がプラテン21を動作させる。これらのシリンダは、下端が、図1に示すように、各ベースプレート35、36上のベアリングブロック83に回転可能に取り付けられたシャフト82に固定的に連結されている。これらのシリンダの各々は、プラテン21の場合に図4で示すように、そのプラテンに86の位置で枢動可能に連結されたピストンロッド85を有する。)

(4)「Mounted on the under side of the platens is a pair of vertical equalizer cylinders and 91, which are hydrauli cally cross connected as will be presently explained to make both platens move up and down in unison. Cylinder 90 is mounted at the center of platen 20 and cylinder 91 is mounted at the center of platen 21. As shown in FIGURE 9, the cylinder 99 has a piston rod 92 which is pivotally connected at 93 with a bracket 94 fixedly mounted on the under side of base plate 35. It will be observed that the platen 26 does not have to be depressed below the level of the stack for off-bearing movement.」(第4欄第50?60行)
(当審訳:プラテンの下側には、一対の略等しい垂直シリンダ90、91が取り付けられ、両方のプラテンが一斉に上下に移動するように、油圧的に交差接続されている。プラテン20の中央にはシリンダ90が取り付けられ、プラテン21の中央にはシリンダ91が取り付けられている。図9に示すように、シリンダ90は、ベースプレート35の下側に固設されたブラケット94に回動自在に連結されたピストンロッド92を有する。プラテン20は、不支持状態へ移動するために、スタックの位置より下に押し下げられなくてもよいことが観察される。)

(5)「On the other hand, for transverse off-bearing, the platen 21 does have to be depressed below the bottom of the stack for off-bearing movement and mechanism for this purpose is illustrated in FIGURE 4. In this case the piston rod 95 in cylinder 91 is pivotally connected at 96 with a bracket 97 which is fixedly connected to the lower end of a piston rod 98 in a vertical cylinder 100. Cylinder 100 is fixedly mounted on the under side of base plate 36.」(第4欄第61?68行)
(当審訳:一方、不支持状態へ横移動するために、プラテン21は、スタックの底部より下に押し下げられなければならず、この目的のための機構が図4に示されている。この場合、シリンダ91内のピストンロッド95は、垂直シリンダ100内のピストンロッド98の下端に固定的に連結されたブラケット97に枢動可能に連結されている。シリンダ100は、ベースプレート36の下側に固定的に取り付けられている。)

(6)「The operation of the platens will now be described. When a full tier of boards has moved onto the conveyor 13, board stops 76 rise as shown in FIGURE 5 to lift the board B just behind board B; which is the last board in the tier. The tier continues to move forward a short distance away from stops 76 as shown in FIGURE 5, the forward movement being arrested by bumper stops 22 in FIGURE 1. Then the extended piston rods 85 of both platens retract, swinging the platens away from each other and lowering them. FIGURE 4 illustrates in broken lines the swinging and lowering movement of platen 21 wherein it swings outward on pivot 56 and lowers on piston rod 95. Similar action occurs in FIGURE 9 where the platen 20 on cylinder 96 swings outward on pivot 93 and lowers on piston rod 92. The hydraulic cross connections between equalizing cylinders 99 and 91 coordinate the vertical movements of the two platens so that they swing out and down in unison.」(第4欄第69行?第5欄第11行)
(当審訳:次にプラテンの動作について説明する。ボードの全段がコンベア13上に移動すると、図5に示すようにボード停止部76が上昇して、段の最後のボードであるボードB2のすぐ後ろのボードB1を持ち上げる。段は、図5に示すようにボード停止部76から少し離れて前方に移動しつつけ、前方移動は図1のバンパー停止部22によって阻止される。次に、両方のプラテンの伸張したピストンロッド85が収縮してプラテンを互いに離れる方向に揺動させ、それらを下げる。図4は、プラテン21の旋回及び下降の動きを破線で示し、プラテン21が旋回軸96で外側に揺動し、ピストンロッド95で下降する。図9では同様の動作を示し、シリンダ90上のプラテン20が旋回軸93で外側に揺動し、ピストンロッド92で下降する。均等なシリンダ90、91の間の液圧交差接続は、2つのプラテンの垂直方向の動きを協調して上下に揺動させるように調整する。)

(7)「Each platen is equipped with a wedge-shaped bottom lifting flange 161 extending the length of the platen. In the lowered position of the platens this lifting flange is on a slightly lower level than the tier of boards which is waiting on conveyor 13. When all four piston rods 85 are extended, the initial movement pivots the platens toward each other on their pivots 53 and 96 bringing the flanges 161 under the ends of the boards which overhang the conveyor chains 55 and the platens exert a squeezing action to even the ends of the boards. When the boards prevent further pivotal movement of the platens toward each other, the inclined positions of the piston rods cause the platens to rise and lift the tier of boards off the chains 55. This upper position of platen 21 is shown in full lines in FIGURE 4.」(第5欄第12?26行)
(当審訳:各プラテンは、プラテンの長さ方向に延びる楔形の底部持ち上げフランジ101を備えている。プラテン21の下降位置では、この底部持ち上げフランジ101は、コンベア13上で待機しているボードの段よりもわずかに低い位置にある。4つのピストンロッド85がすべて伸びると、初期移動は、プラテン21をそれらの旋回軸93及び96上で互いに向かって旋回させて、フランジ101を、コンベアチェーン55から張り出しているボードの端部の下に持ってきて、ボードの端部まで均一に絞り作用を及ぼす。ボードがプラテンの互いへのさらなる旋回運動を妨げることで、ピストンロッドの傾斜位置がプラテンを上昇させ、ボードをコンベアチェーン55から持ち上げる。プラテン21のこの上方位置は、図4に実線で示されている。)

(8)「With the first tier of boards thus held in elevated position, the board stops 76 in FIGURE 5 retract, allowing a second tier to advance on the chains 55 of conveyor 13. In this movement, board B becomes the leading board of the second tier. Then board stops 76 rise again and the platens return to pick up the new tier.」(第5欄第27?32行)
(当審訳:このようにして第1番目のボードを上昇位置に保持すると、図5に示すボード停止部76が引っ込み、第2番目のボードがコンベア13のコンベアチェーン55上を前進することが可能になる。その後、ボード停止部76が再び上昇し、プラテンが戻って新しい段を拾い上げる。)

上記の記載事項から、甲17号証の1には、次の発明(以下、「甲17発明」)という。)が記載されていると認められる。

[甲17発明]
「平らな物品をバンパーストップ22と係合する位置に供給する二次インフィードコンベア13と、
前記バンパーストップ22と係合する位置に供給された平らな物品の両側をそれぞれ上下動可能に支持する底部持ち上げフランジ101を有する一対のプラテン20、21を備え
一対のプラテン20、21は、ピストン85が伸張すると互いに向かって旋回運動して物品に対して絞り作用を及ぼし、次いで物品によりさらなる当該旋回運動が妨げられることにより上昇して、物品を持ち上げるものである、
物品を積み重ねるための装置。」

3 甲第18号証及び甲18発明
本件の出願前に国内又は外国で頒布された甲第18号証には、次の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
第1のコンベア手段を介して搬送されてきた物品を受入れ領域に受け入れた後、これを物品移載手段による掴み位置まで上昇させるためのフィードコンベアにおいて、
前記受入れ領域に配置された物品受入れ用の第2のコンベア手段と、
前記受入れ領域における物品導入側とは反対側の位置に物品の進入方向に関して進退自在に配置されて該受入れ領域への物品の進入位置を規制するための物品ストッパ手段と、
前記受入れ領域における幅方向の両側において物品の進入方向に延び、かつ該幅方向に関して互いに接近、離反可能に配置されて該受入れ領域への物品の進入をガイドするための2つのガイド手段と、
前記2つのガイド手段のそれぞれに設置され、物品を載せるための物品支持部を物品の進入方向に関して間隔をおいて複数個有するスタッカ手段であって、前記受入れ領域に受け入れられた物品をその下面側から前記物品支持部により支持する第1の高さ位置と、前記物品移載手段による掴み位置まで上昇した第2の高さ位置との間で上下動可能にされた2つのスタッカ手段と、
前記第1、第2のコンベア手段、前記物品ストッパ手段、前記2つのガイド手段、前記2つのスタッカ手段を制御するための制御手段とを含み、
物品のサイズに応じて前記物品ストッパ手段の進退位置と前記2つのガイド手段の前記幅方向に関する位置を調整可能にしたことを特徴とするフィードコンベア。」

(2)「【請求項8】
前記2つのガイド手段のそれぞれには更に、前記第1の高さ位置と前記第2の高さ位置との間の第3の高さ位置に、物品の進入方向に関して間隔をおいて板状の複数の段積み保持ブラケットが前記制御手段の制御下で物品の上昇空間域に対して進出、退避可能に設置されており、
前記制御手段は、物品が前記受入れ領域に受け入れられるとこれを載せた前記2つのスタッカ手段における前記物品支持部を前記第3の高さ位置よりやや高い位置まで上昇させるステップと、 前記複数の段積み保持ブラケットを前記物品の上昇空間域に進出させると共に前記2つのスタッカ手段における前記物品支持部を降下させて該複数の段積み保持ブラケット上に前記物品を移し換えるステップと、
次の物品が前記受入れ領域に受け入れられると前記複数の段積み保持ブラケットを前記物品の上昇空間域から退避させて前記複数の段積み保持ブラケット上の物品を前記次の物品上に積み重ねるステップと、
積み重ねられた物品を前記2つのスタッカ手段における前記物品支持部を上昇させて前記第2の高さ位置まで上昇させるステップとを含む制御動作を実行することにより、段積みされた物品を前記物品移載手段による掴み位置まで上昇させることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載のフィードコンベア。」

(3)「【0036】
本フィードコンベアは更に、ガイド板31Rとカバー板32Rとで形成される収容空間、ガイド板31Lとカバー板32Lとで形成される収容空間にそれぞれ収容されたスタッカ手段を含む。図7をも参照して、ガイド板31L側のスタッカ手段について説明すると、ここでは、スタッカ手段は、物品の進入方向に関して間隔をおいて配置された3つの逆L字形状の物品支持板41Lを含む。各物品支持板41Lはその上端に物品を載せるための物品受け部41-1Lを持つ。各物品支持板41Lは物品受け部41-1Lの先端側がガイド板31Lよりも内側にあるように配置される。3つの物品支持板41Lの下端部はそれぞれ、物品の進入方向に延びる共通の回転軸42Lに固定されている。回転軸42Lは、シリンダ機構45Lにより所定角度だけ回動可能にされており、これにより3つの物品支持板41Lも所定角度だけ回動可能にされている。つまり、各物品支持板41Lは、その下降動作時に、物品受け部41-1Lの先端側がガイド板31Lよりも外側に位置することができるように回動可能にされており、その理由については後述する。各物品支持板41Lはまた、後述するように、ガイド板31Lに沿う状態で上下動可能に構成されており、各物品支持板41Lの移動領域を確保するために、ガイド板31L、カバー板32Lにはスリット31L-1、32L-1が形成されている。」

(4)「【0048】
本フィードコンベアでは、1個あるいは1段分の物品を物品移載手段による掴み位置まで上昇させて保持する動作だけでなく、これを2個あるいは2段分以上に積層し、積層した物品を物品移載手段による掴み位置まで上昇させて保持する動作をも実行することができるようにしている。
【0049】
このために、図1、図2、図6を参照して、本フィードコンベアは、2つのガイド手段のそれぞれに更に、前述した第1の高さ位置H1と第2の高さ位置H2との間の第3の高さ位置H3に、物品の進入方向に関して間隔をおいて板状の4つの段積み保持ブラケット90R、90Lをガイド板31R、31Lの内側、つまり物品の上昇空間域に対して進出、退避可能に設置している。物品の上昇空間域というのは、受入れ領域に受け入れられた物品がスタッカ手段によって上昇する時の空間域のことである。4つの段積み保持ブラケット90Lは、ガイド板31Lの背面側に設置された2つのエアシリンダ機構91Lにより2つずつ駆動される構造になっている。4つの段積み保持ブラケット90Rも同様である。」

(5)「【0055】
物品が受入れ領域に受け入れられる前に、スタッカ手段の物品受け部41-1R、41-1Lは受け入れられた物品の下面より下側の第1の高さ位置H1にあるものとする。
【0056】
制御部は、ベルトコンベア手段10R、10Lにより最初の物品G1が受入れ領域に受け入れられると(物品到着センサ82オン)(図9a)、スタッカ手段を上昇させてスタッカ手段の物品受け部41-1R、41-1L上に物品G1を載せ、そのまま物品受け部41-1R、41-1Lを前記第3の高さ位置H3よりやや高い位置まで上昇させる(図9b)。物品G1が上昇し始めることにより物品到着センサ82がオフになると、受入れ領域への次の物品の受け入れが可能な状態に置かれる。
【0057】
続いて、制御部は、両側の4つの段積み保持ブラケット90R、90Lを物品の上昇空間域に進出させると共に、スタッカ手段における物品支持板41R、41Lをやや降下させることにより段積み保持ブラケット90R、90L上に物品G1を移し換える(図9c)。」

(6)「【0059】
次に、制御部は、スタッカ手段を再び上昇させ、2段積みの物品G1、G2を載せた物品受け部41-1R、41-1Lを第2の高さ位置H2まで上昇させて停止、保持する(図10e)。この状態で2段積みの物品G1、G2は物品移載手段により把持されて別位置に置かれたパレット上に所定の積込み形態にて順に積み込まれる。」

(7)甲18号証の【図9】(c)からは、一対の段積み保持ブラケット90R、90Lの、物品保持のための先端部が、物品G1を、第3の高さ位置H3より少し高い位置で保持する構成が見て取れる。

したがって、上記の記載事項及び図示内容を総合すると、甲第18号証には、次の発明(以下、「甲18発明」)という。)が記載されていると認められる。

[甲18発明]
「物品G1を受入れ領域に侵入させるベルトコンベア手段10R、10Lと、
前記受入れ領域に侵入された物品G1の両側をそれぞれ上下動可能に支持する物品受け部41-1R、41-1Lを有する一対の物品支持板41R、41Lと、
一対の前記物品支持板41R、41Lにより上昇した物品G1を第3の高さ位置H3より少し高い位置に保持する一対の段積み保持ブラケット90R、90Lとを備え、
前記段積み保持ブラケット90R、90Lは、進退可能な物品保持のための先端部を有し、前記物品保持のための先端部が進出時に物品G1の下面に当接するように構成され、
前記物品受け部41-1R、41-1Lは、物品G1と干渉しない位置まで水平方向に移動可能であるフィードコンベア。」

第5 当審の判断
1 無効理由1について
(1)本件特許発明1について
ア 実施発明を主引例とした無効理由について
(ア)対比
本件特許発明1と実施発明とを対比すると、実施発明の「製品」は本件特許発明1の「ワーク」に相当し、以下同様に、「荷取部定位置」は「受入位置」に、「中央のベルト」は「搬送手段」に、「支持板」は「支持部」に、「スタッカーアーム」は「支持手段」に、「製品を持ち上げる」ことは「ワークを支持する」ことに、「補助スタッカーアーム」は「補助手段」に、「パレッタイジング設備」は「段積み装置」に、それぞれ相当する。

また、実施発明の「長方形状の上面を持つ部材」と本件特許発明1の「プレート状の補助部材」とは、「補助部材」という限りにおいて一致する。

したがって、本件特許発明1と実施発明とは、次の一致点1で一致し、相違点1及び2で相違する。

[一致点1]
「ワークを受入位置に搬送する搬送手段と、
前記受入位置に搬送されたワークの両側をそれぞれ上下動可能に支持する支持部を有する一対の支持手段と、
前記支持部と共に上下動してワークを支持する補助部材を有する補助手段を更に備え、
前記補助部材は、一対の前記支持部の間において、前記搬送手段の搬送方向に沿って起立状態で配置される段積み装置。」

[相違点1]
本件特許発明1は「一対の前記支持手段により上昇したワークを所定の排出高さに保持する一対の保持手段」を備え、「前記保持手段は、上下方向に対して傾斜する方向に進退可能な保持部を有し、前記保持部が進出時にワークの下面に当接するように構成され」るのに対し、実施発明はこのような構成を有しない点。

[相違点2]
本件特許発明1の補助部材は「プレート状」であり「搬送手段の搬送方向に沿って起立状態で配置される」構成であるのに対し、実施発明の長方形状の上面を持つ部材は、このような構成を有しない点。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。
i 適用の動機付けについて
実施発明の「支持板」は、「製品の両側をそれぞれ上下動可能に支持する」ものであるが、甲17発明の「底部持ち上げフランジ101」を有する「プラテン20、21」は、「互いに向かって旋回運動して物品に対して絞り作用を及ぼし、次いで物品によりさらなる当該旋回運動が妨げられることにより上昇して、物品を持ち上げる」ものであって、実施発明の「支持板」と甲17発明の「プラテン20、21」及び「底部持ち上げフランジ101」とは、機能ないし作用を異にするものであり、実施発明の「スタッカーアーム」ないし「支持板」に甲17発明の「プラテン20、21」ないし「底部持ち上げフランジ101」を適用する動機付けはない。

ii 構成の充足性について
本件特許発明1において、「保持部」を有する「保持手段」は、「支持部」を有する「支持手段」と別に存在しており、「一対の前記支持手段により上昇したワークを所定の排出高さに保持する」ものであるが、甲17発明における「プラテン20、21」の「底部持ち上げフランジ101」は、「一対の前記支持手段により上昇したワークを所定の排出高さに保持する」機能を有するものではないから、本件特許発明1の「保持手段」にもその「保持部」にも相当するものではない。したがって、実施発明に甲17発明を適用したとしても、相違点1に係る「保持手段」及び「保持部」の構成に至らない。

そして、本件特許発明1において、「保持手段」は「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能な保持部を有」するものであるところ、「保持部」は「上下方向に対して傾斜する」特定の方向に進退可能となっていると解されるが、甲17発明の「底部持ち上げフランジ101」を有する「プラテン20、21」は、ピストン85の動作による旋回運動を伴うものであって、「底部持ち上げフランジ101」は、「上下方向に対して傾斜する」特定の方向に進退可能なものとはいえない。よって、この点でも、「底部持ち上げフランジ101」は、本件特許発明1において、「保持手段」にも「保持部」にも相当するものではないから、実施発明に甲17発明を適用したとしても、相違点1に係る「保持手段」及び「保持部」の構成に至らないといわなければならない。

また、本件特許発明1の「保持部」を有する「保持手段」が、「支持部」を有する「支持手段」と別に存在している構成に関しては、その構成により、ワークが所定の排出高さにおいて保持部により保持されるため、その保持状態において支持部を下降させることができ、その支持部が下降する間に、受入位置に新たにワークを搬送することができるため、「ワークの迅速な段積み」に寄与し得る(本件特許明細書の段落【0005】、【0020】及び【0021】等を参照。)とともに、支持部によりワークを支持した状態のまま、保持部を動作させてワークに当接させたり、保持部がワークを保持した状態のまま、支持部を水平移動や下降動作させたりすることが可能になり、(本件特許明細書の段落【0020】、【0021】、及び【0023】等を参照)、ワークの段積みの迅速化に寄与し得るものと認められる以上、当該構成が単なる設計的事項ということもできない。

iii 発明の効果について
従来のフィードコンベアは、保持ブラケット(保持部)が水平方向に進退するように構成されているので、保持ブラケットによりワークを支持する際に、支持板によりワークを保持ブラケットの高さ位置(所定の排出高さ)をやや超える位置まで一旦上昇させてから保持ブラケットを進出させ、その後にワークを降下させて保持ブラケットに載置する必要があることから、この時間がタイムロスとなるという課題(以下、「従来の課題」という。)を有していた(本件特許明細書の段落【0005】等参照)。

そこで、本件特許発明1は、支持手段及び補助手段に、上記相違点1に係る「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能」な「保持部」を有する「保持手段」の構成を組み合わせることで、ワークを一旦上昇させてから保持ブラケットを進出させ、その後にワークを降下させというタイムロスをなくすことで、上記従来の課題の解決し、当該課題の解決によって、ワークの迅速な段積みを可能とする効果を奏する(本件特許明細書の段落【0023】等参照)と認められる。

また、本件特許発明1の支持手段及び保持手段に組み合わされる「補助手段」は、「支持部と共に上下動してワークを支持する」「補助部材を有する」から、支持部が水平移動によりワークに干渉しない位置まで移動し(本件特許明細書段落【0020】参照)、ワークが保持手段に保持された状態であっても、支持部が下降しない限りは、補助手段が保持手段と共にワークを支持することとなり、排出高さにおいて中折れを防止する効果が維持されることは、当業者であれば理解できる。

一方、実施発明及び甲17発明は、いずれも「一対の支持手段により上昇したワークを所定の排出高さに保持する一対の保持手段」に相当する構成を、支持手段と別体では有さない構成であるため、上記従来の課題が生じる前提を欠いている。
そして、従来の課題が生じる前提を欠いている実施発明及び甲17発明に基いて、従来の課題の解決を発想することは当業者であっても容易であるとはいえないから、当該従来の課題を解決してワークの迅速な段積みを可能にするという効果は、実施発明及び甲17発明に基いて当業者が予測し得たものとはいえない。

また、実施発明及び甲17発明は、いずれも「支持手段により上昇したワークを所定の排出高さに保持する」保持手段を支持手段と別体で有するものではないから、実施発明のスタッカーアームの支持板あるいは甲17発明プラテン20、21の底部持ち上げフランジ101がワークに干渉しない位置にあると、補助スタッカーアームと協働してワークの中折れを防止する効果は維持できない。
そうすると、「支持部が下降しない限り」という条件は付くものの、支持部がワークに干渉しない状態であっても、排出高さにおいてワークの中折れを防止し得る効果は、実施発明及び甲17発明に基いて当業者が予測し得たものとはいえない。

iv 請求人の主張について
(i)スタッカーアームが保持手段にも相当する旨の主張
請求人は、実施発明のスタッカーアームが、本件特許発明1の保持手段にも相当する旨、主張している(請求書第17ページ第17行?第18ページ第27行等参照。)。
しかしながら、実施発明の支持部を有する一対のスタッカーアームは、本件特許発明1の支持部を有する一対の支持手段に相当するものであり、また、本件特許発明1の「保持部」を有する「保持手段」が、「支持部」を有する「支持手段」と別に存在している構成に関しては、上記iiでも検討したとおり、ワークの迅速な段積みに寄与する構成であるから、「保持手段」に相当する部材を「支持手段」に相当する部材と同じ部材にした場合、同じ動作を再現できないので、ワークの迅速な段積みに支障を来すこととなる。
したがって、実施発明のスタッカーアームが、本件特許発明1の保持手段にも相当するとは認めらないので、請求人の当該主張は採用できない。

(ii)甲17発明のプラテン20、21についての主張
請求人は、甲17発明のプラテン20、21が、本件特許発明1の「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能な保持部を有」する「保持手段」に相当する旨、主張している(請求書第21ページ第8行?第22ページ第26行等参照。)。
しかしながら、甲17発明のプラテン20、21は、実施発明のスタッカーアームと同様に、「一対の前記支持手段により上昇したワークを所定の排出高さに保持する」ものではない。また、その動作も「ピストン85が伸張すると互いに向かって旋回運動して物品に対して絞り作用を及ぼし、次いで物品によりさらなる当該旋回運動が妨げられることにより上昇して、物品を持ち上げるもの」であり、本件特許発明1の「保持手段」のように「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能な保持部を有」するものではない。
したがって、甲17発明のプラテン20、21が、本件特許発明1の保持手段に相当するとは認めらないので、請求人の当該主張は採用できない。

v 小括
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、実施発明及び甲17発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

イ 甲18発明を主引例とした無効理由について
(ア)対比
本件特許発明1と甲18発明とを対比すると、甲18発明の「製品G1」は本件特許発明1の「ワーク」に相当し、以下同様に、「受入れ領域」は「受入位置」に、「侵入させる」ことは「搬送する」ことに、「ベルトコンベア手段10R、10L」は「搬送手段」に、「物品受け部41-1R、41-1L」は「支持部」に、「物品支持板41R、41L」は「支持手段」に、「第3の高さ位置H3より少し高い位置」は「排出高さ」に、「段積み保持ブラケット90R、90L」は「保持手段」に、「物品保持のための先端部」は「保持部」に、「フィードコンベア」は「段積み装置」に、それぞれ相当する。
したがって、本件特許発明2と甲18発明とは、次の一致点2で一致し、相違点3及び4で相違する。

[一致点2]
「ワークを受入位置に搬送する搬送手段と、
前記受入位置に搬送されたワークの両側をそれぞれ上下動可能に支持する支持部を有する一対の支持手段と、
一対の前記支持手段により上昇したワークを所定の排出高さに保持する一対の保持手段とを備え、
前記保持手段は、進退可能な保持部を有し、前記保持部が進出時にワークの下面に当接するように構成される段積み装置。」

[相違点3]
本件特許発明1の保持手段の保持部は、「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能」であるのに対し、甲18発明の段積み保持ブラケット90R、90Lの物品保持のための先端部は、このような構成を有しない点。

[相違点4]
本件特許発明1は「支持部と共に上下動してワークを支持するプレート状の補助部材を有する補助手段」を備え、「補助部材は、一対の支持部の間において、搬送手段の搬送方向に沿って起立状態で配置される」構成であるのに対し、甲18発明は、このような構成を有しない点。

(イ)判断
上記相違点3について検討する。

i 適用の動機付けについて
甲18発明の「先端部」を有する「段積み保持ブラケット90R、90L」は「物品支持板41R、41Lにより上昇した物品G1を第3の高さ位置H3より少し高い位置に保持する」ものであるの対し、甲17発明の「底部持ち上げフランジ101」を有する「プラテン20、21」は、「互いに向かって旋回運動して物品に対して絞り作用を及ぼし、次いで物品によりさらなる当該旋回運動が妨げられることにより上昇して、物品を持ち上げる」ものであるから、甲18発明の「段積み保持ブラケット90R、90L」と、甲17発明の「プラテン20、21」及び「底部持ち上げフランジ101」とは、機能ないし作用を異にするものである。
したがって、甲18発明の「先端部」ないし「段積み保持ブラケット90R、90L」に、甲17発明の「プラテン20、21」ないし「底部持ち上げフランジ101」を適用する動機付けはない。

ii 構成の充足性について
上記イ(イ)で検討したとおり、甲17発明の「底部持ち上げフランジ101」は、本件特許発明1において、「保持手段」にも「保持部」にも相当するものではないから、甲18発明に甲17発明を適用したとしても、相違点3に係る「保持手段」及び「保持部」の構成に至らない。
したがって、甲18発明に甲17発明を組み合わせても、相違点3に係る本件特許発明1の構成に至らない。

そして、本件特許発明1は、支持手段と組み合わせる保持手段の「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能」な保持部の構成により、「支持部を降下させてワークを保持部に保持させる必要がないので、ワークの段積みを迅速に行うことができ」(段落【0023】)、また、「保持部がワークに対して斜め下方から当接するので、保持部との接触によるワークの損傷を確実に防止でき」、さらにまた「2つのワークの段積み時には、保持部が斜め下方に退避することにより、ワークの落下による衝撃を緩和することができる。」(段落【0024】)ことから、当該構成が単なる設計的事項ということもできない。

iii 発明の効果について
本件特許発明1は、支持手段及び補助手段を、「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能」な保持部を有する保持手段と組み合わせることにより、「支持部を降下させてワークを保持部に保持させる必要がないので、ワークの段積みを迅速に行うことができ」(段落【0023】)、また、「保持部がワークに対して斜め下方から当接するので、保持部との接触によるワークの損傷を確実に防止でき」、さらにまた「2つのワークの段積み時には、保持部が斜め下方に退避することにより、ワークの落下による衝撃を緩和することができる。」(段落【0024】)という効果を奏する。
これに対し、甲18発明、甲17発明及び実施発明は、いずれも「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能」な保持部を有する保持部を有しないため、これらの発明を組み合わせても、「支持部を降下させてワークを保持部に保持させる必要がないので、ワークの段積みを迅速に行うことができ」る効果、「保持部がワークに対して斜め下方から当接するので、保持部との接触によるワークの損傷を確実に防止でき」る効果、「2つのワークの段積み時には、保持部が斜め下方に退避することにより、ワークの落下による衝撃を緩和することができる」効果を奏しない。
したがって、本件特許発明1の効果は、甲18発明、甲17発明及び実施発明に基いて当業者が予測し得たものとはいえない。

iv 請求人の主張について
請求人は、甲17発明のプラテン20、21が、「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能な保持部を有」する「保持手段」に相当する旨、主張している(請求書第40ページ第25行?第41ページ第2行等参照。)。
しかしながら、上記ア(イ)iv(ii)で検討したとおり、甲17発明のプラテン21、22は、「一対の支持手段により上昇したワークを所定の高さに保持する」ものではなく、また「ピストン85が伸張すると互いに向かって旋回運動して物品に対して絞り作用を及ぼし、次いで物品によりさらなる当該旋回運動が妨げられることにより上昇して、物品を持ち上げる」ものであって、本件特許発明1の「保持手段」のように「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能な保持部を有」するものではないから、請求人の当該主張は採用できない。

v 小括
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲18発明に実施発明及び甲17発明を組み合わせることによって当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の構成要素を全て含む発明であるから、上記(1)と同様の理由で、実施発明、甲17発明及び甲18発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(3)無効理由1についてのまとめ
本件特許発明は、実施発明及び甲17発明、または、甲18発明、甲17発明、及び実施発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとは認められないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでなく、本件特許発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1によって無効とすることはできない。

2 無効理由2について
特許法第38条は、特許を受ける権利が共有に係ることが前提となっているから、特許が同条の規定に違反してされたことを理由として特許無効審判を請求する場合は、請求人が「特許を受ける権利が共有に係ること」について主張立証責任を負担すると解するのが相当である。(知財高裁 平成24年(行ケ)第10059号参照。)

そして、発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者が発明者となり、そのような者が複数いる場合には、いずれの者も発明者(共同発明者)となるが、発明の特徴的部分とは、特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち、従来技術には見られない部分、すなわち、当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分をいう。けだし、特許法が保護しようとする発明の実質的価値は、従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を、具体的な構成をもって社会に開示した点にあるからである。(知財高裁 平成18年(行ケ)第10048号参照。)
そうすると、拒絶理由後の手続補正で特許請求の範囲の請求項1に付加された構成のみが発明の特徴的な部分であるという解釈は成立しない。

ここで、請求人は、請求人のSA事業部技術課の人物B氏、人物A氏及び人物C氏の3名(以下、「請求人の3名」という。)が、本件特許発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者である旨主張している。
しかしながら、請求人の3名は、第4 1(3)のとおり、請求人製品である企業A滝野工場に納入されたA式段ボール用ロボット設備と同様のパレッタイジング設備及び実施発明の発明者ではあるものの、当該パレッタイジング設備及び実施発明は、本件特許発明と同一ではないから、請求人の3名は、本件特許発明の発明者とまではいえない。

本件特許発明において、発明の特徴的部分(特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち、従来技術には見られない部分、すなわち、本件特許発明に特有の課題解決手段を基礎付ける部分)は、1(1)ア(イ)(特にiii)及びイ(イ)(特にiii)で検討したことをふまえれば、支持手段及び補助手段に、「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能な保持部」を有する「保持手段」を組み合わせた点にあり、少なくとも、「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能な保持部」を「保持手段」が有している構成を含んでいるというべきである。しかしながら、その組み合わせの完成にも、「保持手段」の当該構成の完成にも、請求人の3名が創作的に寄与している証拠はない。
そうであれば、請求人の3名は、本件特許発明の共同発明者とは認められないから、本件特許発明は、特許を受ける権利が共有に係るものである旨の請求人の主張は根拠がない。

したがって、本件特許発明は、特許を受ける権利が共有に係るものでなく、他の者と共同で特許出願することを要しないものであるから、特許法第38条の規定により特許を受けることができないものといえないので、本件特許発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由2によって無効とすることはできない。

3 無効理由3について
上記2のとおり、請求人の3名は、発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者であるとは認められないから、本件特許発明の真の発明者は請求人の3名である旨の請求人の主張は根拠がない。
したがって、本件特許発明に係る特許が、特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第123条第1項第6号に該当せず、無効理由3によって無効とすることはできない。
4 無効理由4について
請求人が審判請求書(特に第59ページ第4?9行参照。)で認めるとおり、本件特許発明の解決すべき課題は、「ワークを支持板から保持ブラケットに移し替える際にタイムロスが生じ、迅速な段積みができないこと」「ワークに対する保持部の接触よりワークが損傷すること」及び「ワークの段積み時に、上方から落下させるワークの落下による衝撃が大きいこと」であるといえる。
これらの課題に対し、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された構成によって、請求人の理解(審判請求書の第9?22行参照)するとおり、本件特許発明では、
「保持部31a,31bが、上下方向に対して傾斜する方向に進退可能に構成されたことで、支持部21a,21bでワークWが排出高さH2に支持された状態のまま、保持部31a,31bをワークWに当接させることが可能となり、ワークWの段積みを迅速に行うことができる。」(以下、「作用効果1」という。)、
「本件特許発明では、保持部31a,31bがワークWに対して斜め下方から当接するので、保持部31a,31bとの接触によるワークWの損傷を確実に防止できる」(以下、「作用効果2」という。)及び
「2つのワークW1,W2の段積み時には、保持部31a,31bが斜め下方に退避することにより、ワークW1の落下による衝撃を緩和することができる。」との作用・効果(以下「作用効果3」という)を奏すると認められる。

これら作用効果1ないし3に関して詳細に検討する。
(1)作用効果1
本件特許明細書の段落【0005】に「ワークW1を保持ブラケット52a,52bにより支持する際に、支持板51a,51bによりワークW1を保持ブラケット52a,52bの高さ位置(段積み位置)をやや超える位置まで一旦上昇させてから保持ブラケット52a,52bを進出させ、その後にワークW1を降下させて保持ブラケット52a,52bに載置する必要があることから、この時間がタイムロスとなる。」と記載されている。

そして、本件の特許請求の範囲の請求項1に記載された、支持手段及び補助手段に、「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能な保持部を有」する保持手段を組み合わせた構成であれば、作用効果1を奏することを通じて、このタイムロスを減らせることは、当業者であれば理解できる。
そうであれば、作用効果1に関して、本件の特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載の間に、不合理な点はない。

(2)作用効果2
2つのワークW1、W2の段積み時に、ワークW1をワークW2の上に落とす際の状況を想定すると、従来の機構で保持部が横方向に水平移動して退避する場合、保持部が上側のワークW1の端に達して、当該ワークW1から離れるまで、ワークW1は落下を始められないから、ワークW1の重力加速度の全てが保持部によって支えられることとなるが、保持部がワークW1の端に寄るほどに、保持部がワークW1を支える面積が狭くなるから、保持部によって支えられる面にかかる圧力が増加し続ける。この増加し続ける圧力が、ワークW1の端部のすり傷や、つぶれの原因になることは、当業者であれば予想可能である。

これに対し、本件の請求項1に記載された、支持手段及び補助手段に、「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能な保持部を有」する保持手段を組み合わせた構成であれば、2つのワーク(W1、W2)の段積み時、上側のワーク(W1)を支えていた保持部が斜め下方向に移動して退避することができるから、当該保持部の退避の開始と共に、ワーク(W1)は下方向への加速が多少なりとも可能となる。ワーク(W1)の重力加速度の一部をワークを下方向に加速することで消費できるならば、保持部(31a,31b)で支えるのは、消費されなかった重力加速度の残りですむこととなる。さらに、保持部(31a,31b)が斜め下方に退避できるので、保持部が上側のワーク(W1)の端に達する前に、保持部が上側のワークから離れることが可能になる。これらのことを考慮すれば、従来の機構で生じた、増加し続ける圧力によるワークの端部のすり傷や、つぶれによる損傷が、本件の請求項1に記載された構成であれば、相当に防止できることは、当業者であれば理解できる。

そうであれば、作用効果2に関して、本件の特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載の間に、不合理な点はない。

(3)作用効果3
従来の機構で、2つのワークW1,W2の段積み時に保持部が横方向に水平に移動する場合は、「所定の排出高さ」(請求人の甲第24号証の「H2」の高さに相当)からのワークW1の落下による衝撃が発生する。

これに対し、請求項1に記載された、支持手段及び補助手段に、「上下方向に対して傾斜する方向に進退可能な保持部を有」する保持手段を組み合わせた構成であれば、保持部(31a,31b)が斜め下方に退避し、所定の排出高さより低い高さ(H2の高さより低い高さ)まで保持部(31a,31b)がワーク(W1)の下面を支えることとなるから、保持部が横方向に水平移動する場合に比べて、落下による衝撃が緩和されることは当業者に明らかである。

そうであれば、作用効果3に関して、本件の特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載の間に、不合理な点はない。

この他にも、本件の特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載の間に、矛盾する記載はない。

したがって、本件特許発明は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものということができ、特許法第36項第6項第1号の規定に違反しないから、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効理由4によって無効とすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-03-31 
結審通知日 2020-04-03 
審決日 2020-04-15 
出願番号 特願2015-12002(P2015-12002)
審決分類 P 1 113・ 152- Y (B65G)
P 1 113・ 537- Y (B65G)
P 1 113・ 151- Y (B65G)
P 1 113・ 121- Y (B65G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土田 嘉一  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 大町 真義
内田 博之
登録日 2019-03-15 
登録番号 特許第6496560号(P6496560)
発明の名称 段積み装置  
代理人 森田 靖之  
代理人 田中 雅敏  
代理人 梶原 圭太  
代理人 遠藤 聡子  
代理人 有吉 修一朗  
代理人 筒井 宣圭  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ