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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B42F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B42F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B42F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B42F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B42F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B42F
管理番号 1362999
審判番号 不服2019-4749  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-09 
確定日 2020-06-11 
事件の表示 特願2017-236592「ファイル」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 8日出願公開、特開2018- 34519〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年5月7日(優先権主張 平成21年10月20日)に出願した特願2010-107221号の一部を、平成26年9月16日に新たな特許出願として出願した特願2014-187219号の一部を、平成28年1月21日に新たな特許出願として出願した特願2016-9435号の一部を、平成29年12月11日に新たな特許出願として特願2017-236592号として出願したものであって、平成30年10月16日付けで特許法第50条の2の通知を伴う拒絶の理由(最後)の通知がされ、平成30年12月19日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、当該手続補正は平成31年1月4日付けの補正の却下の決定により却下され、同日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して平成31年4月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成31年4月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年4月9日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1.本件補正の内容について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された。
「 【請求項1】
背表紙と、当該背表紙の幅方向両側に折り曲げ線を介して連なる表表紙及び裏表紙を備えた表紙体と、この表紙体の内面側に溶着された透明な複数のポケットとを備えたファイルにおいて、
前記表表紙と裏表紙の基部側に綴じ幅拡大用の折り曲げ線が設けられ、
前記ポケットは、前記表表紙及び裏表紙の基部側の内面側の平坦面であって、前記折り曲げ線と、前記綴じ幅拡大用の折り曲げ線との間に溶着されていることを特徴とするファイル。
【請求項2】
背表紙と、当該背表紙の幅方向両側に折り曲げ線を介して連なる表表紙及び裏表紙を備えた表紙体と、この表紙体の内面側に溶着された透明な複数のポケットとを備えたファイルにおいて、
前記表表紙と裏表紙の基部側に綴じ幅拡大用の折り曲げ線が設けられ、
前記ポケットは、前記表表紙及び裏表紙の基部側の内面側の平坦面に溶着され、
前記ポケットが溶着された溶着部の内側に前記綴じ幅拡大用の折り曲げ線を有することを特徴とするファイル。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、願書に最初に添付された特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
表表紙及び裏表紙を備えた表紙体と、この表紙体の内面側に溶着された透明な複数のポケットとを備えたファイルにおいて、
前記ポケットは、表表紙及び裏表紙の基部側の内面に溶着されていることを特徴とするファイル。
【請求項2】
前記ポケットは、複数枚を一単位として、前記表表紙及び裏表紙の少なくとも一方の表紙の基部側内面において幅方向に位置をずらして溶着されていることを特徴とする請求項1記載のファイル。
【請求項3】
前記表紙体は、背表紙と、当該背表紙の幅方向両側に折り曲げ線を介して連なる表表紙及び裏表紙とを含み、
前記表表紙と裏表紙の基部側外面に綴じ幅拡大用の折り曲げ線が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のファイル。
【請求項4】
前記表表紙及び裏表紙にそれぞれ溶着されるポケットは、それらを重ね合わせたときに、前記背表紙の幅寸法以下の枚数がそれぞれ溶着されていることを特徴とする請求項3記載のファイル。
【請求項5】
前記背表紙の幅方向中間に中央折り曲げ線が設けられていることを特徴とする請求項3又は4記載のファイル。」

2.補正の適否
(1)本件補正の目的について
ア.本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1が有する発明特定事項をすべて含むが、本件補正後の請求項1における「背表紙と、当該背表紙の幅方向両側に折り曲げ線を介して連なる表表紙及び裏表紙を備えた表紙体」との事項と、「前記表表紙と裏表紙の基部側に綴じ幅拡大用の折り曲げ線が設けられ」との事項は、本件補正前の請求項3が有する事項であり、本件補正前の請求項1は、「背表紙」や「綴じ幅拡大用の折り曲げ線」自体を有していなかった。
ファイルの綴じ幅は「背表紙」及び「綴じ幅拡大用の折り曲げ線」によって決められ、「表表紙」や「裏表紙」によっては決まらない。よって、本件補正後の請求項1において、ファイルが、綴じ幅が決められたものと限定することは、本件補正前の請求項1に記載された発明の発明特定事項である「表紙体」を概念的に下位にするものとはいえない。また、発明が解決しようとする課題が、本件補正前の請求項1では、「基部側が、自由端側に対して膨らんで相対的に厚みを増してしまう」(【0005】)不都合を解消する点にあったのに対して、本件補正後の請求項1では、ポケットに収容される書類の量の増加に応じて、ファイルの綴じ幅を拡大できるようにするとの課題が追加されているから、本件補正前後において、請求項1に係る発明が解決しようとする課題は変更されている。よって、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1に記載されていた発明特定事項を限定したものでない。
一方、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1が有する発明特定事項のすべてと、本件補正前の請求項3が有していた前記各事項により特定される発明において、表表紙及び裏表紙の基部側の内面側に溶着されるポケットが溶着される場所が、「平坦面であって、前記折り曲げ線と、前記綴じ幅拡大用の折り曲げ線との間」であることをさらに特定するものであるが、当該さらに特定される事項は、本件補正前の請求項のいずれにも記載されていない。
そうしてみると、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1を引用する請求項3において、表表紙及び裏表紙の基部側の内面側に溶着されるポケットが溶着される場所が、「平坦面であって、前記折り曲げ線と、前記綴じ幅拡大用の折り曲げ線との間」であることをさらに特定するものといえる。(下線は合議体が付したものである。以下同じである。)

イ.本件補正後の請求項2も、本件補正後の請求項1と同様に、本件補正後の請求項1が有する発明特定事項のすべてと、本件補正前の請求項3が有していた、「背表紙と、当該背表紙の幅方向両側に折り曲げ線を介して連なる表表紙及び裏表紙を備えた表紙体」との事項と、「前記表表紙と裏表紙の基部側に綴じ幅拡大用の折り曲げ線が設けられ」との事項を有するものである。
したがって、本件補正後の請求項1と同様に、本件補正後の請求項2も、本件補正前の請求項1に記載されていた発明特定事項を限定したものでない。
そして、本件補正後の請求項2は、本件補正前の請求項1が有する発明特定事項のすべてと、本件補正前の請求項3が有していた前記各事項により特定される発明において、表表紙及び裏表紙の基部側の内面側に溶着されるポケットが溶着される場所が「平坦面」であり、「前記綴じ幅拡大用の折り曲げ線」がある場所が「前記ポケットが溶着された溶着部の内側」であることを特定するものであるが、当該さらに特定される事項は、本件補正前の請求項のいずれにも記載されていない。
そうしてみると、本件補正後の請求項2は、本件補正前の請求項1を引用する請求項3において、表表紙及び裏表紙の基部側の内面側に溶着されるポケットが溶着される場所が「平坦面」であり、「前記綴じ幅拡大用の折り曲げ線」がある場所が「前記ポケットが溶着された溶着部の内側」であることをさらに特定するものといえる。

ウ.上記ア.及びイ.で検討したとおり、本件補正後の請求項1と請求項2は、いずれも、本件補正前の請求項3に記載されていた「綴じ幅拡大用の折り曲げ線」と、ポケットが溶着される部分との配置の関係をさらに特定するものである。したがって、本件補正は、形式的には本件補正前後で請求項の数を5から2に、差し引き3つ減らしたものであるが、実質的にみると、本件補正前の請求項1、2、4及び5を削除するとともに、本件補正前の請求項3を分割して本件補正後に請求項1と請求項2の2つの請求項とすることで、1の新たな請求項を追加するものであるから、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。
以上のことから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に既定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものではないというべきである。
また、本件補正が、誤記の訂正や明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当しないことも明らかである。
してみると、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反してされたものというほかないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

(2)独立特許要件についての検討
ア.上記(1)のとおり、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえないが、本件補正後の請求項1及び請求項2は、いずれも、本件補正前の請求項3の「綴じ幅拡大用の折り曲げ線」との発明特定事項について、それが設けられる場所の、ポケットが溶着される場所との関係を限定したものではあるから、念のため、本件補正後の請求項2に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。

イ.本件補正発明は、「前記ポケットが溶着された溶着部の内側に前記綴じ幅拡大用の折り曲げ線を有する」との事項を有する。「溶着部の内側」とあるが、どこを基準にして「内側」であるというものか不明であるから、「溶着部の内側」といっても、溶着部に対して基部側なのか、溶着部の内部にある部分なのか、不明である。そして、本願明細書においても、「内側」との表現が用いられていないため、「溶着部の内側」がどこなのかという点は、明細書の記載を考慮しても不明である。よって、請求項2に係る発明は明確でない。
よって、本件補正発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものでない。

ウ.したがって、本件補正発明は、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。

(3)新規事項の追加について
ア.上記(2)イ.に示した理由により、請求項2に係る発明は明確でないが、審判請求書の「(5-2)本願発明2と引用発明1との比較」における「本願発明2は、表表紙と裏表紙の基部側に綴じ幅拡大用の折り曲げ線(20C)が設けられ、前記ポケットは、表表紙及び裏表紙の基部側の内面側の平坦面に溶着され、前記ポケットが溶着された溶着部(25A)の内側に前記綴じ幅拡大用の折り曲げ線(20C)を有する構成であるのに対し、・・・」との主張と、「(溶着部)25A」の位置を示す図8ないし10とを併せて参酌すれば、前記「溶着部の内側」との表現が、「溶着部よりも背表紙側」であることを意図したものであると推認することもできる。

イ.しかしながら、かかる推認に基づいて認定される本件補正発明は、表(裏)表紙の基部側において、表(裏)表紙の背表紙側に向けて、一の「溶着部」と、「綴じ幅拡大用の折り曲げ線」を順に設けたものを包含するところ、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)においては、明細書の【0023】、【0024】及び図8ないし10に、表(裏)表紙の基部側に、「溶着部25」と追加の溶着部である「溶着部25A」を設けるものにおいて、表(裏)表紙の背表紙側に向けて、「溶着部25A」、「綴じ幅拡大用の折り曲げ線20C」及び「溶着部25」を順に設けたことが記載されるのみであり、一つだけ設けた「溶着部」の背表紙側に「綴じ幅拡大用の折り曲げ線」を設けることは当初明細書等に記載されておらず、当初明細書等から自明でもないから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないことになる。

ウ.上記イ.のとおり、前記ア.においてした推認に基づいて本件補正発明を認定すると、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.補正の却下の決定のむすび
本件補正は、上記2.(1)において検討したように、補正の目的が特許法第17条の2第5項各号に規定するいずれにも該当しないことから、同項の規定に違反してされたものであり、また、本件補正の目的が同項第2号に該当するとしても、上記2.(2)において検討したように、本件補正発明は同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、さらに、上記2.(3)で検討したように本件補正発明を同項の規定に適合するものであるように推認に基づき認定しても、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるため、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明1、3
平成31年4月9日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであって、そのうち請求項1及び請求項3に係る発明は、「第2 1.(2)」の請求項1及び3に記載したとおりのものである。
(以下、請求項1に係る発明と、請求項1を直接引用する請求項3に係る発明を、それぞれ「本願発明1」、「本願発明3」という。)

2.原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明1または本願発明3に係る理由1及び理由2の概要は、次のとおりである。

理由1.(新規性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2.(進歩性)この出願の請求項1、3ないし5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1ないし4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開平11-78331号公報
2.特開平10-29393号公報
3.実願昭48-115539号(実開昭50-58828号)のマイクロフィルム
4.実願昭61-56350号(実開昭62-167684号)のマイクロフィルム

3.引用文献の記載事項
(1)引用文献1
ア.原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献である、特開平11-78331号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は表紙にとじ込まれた透明な袋にシート部片を収納して保存するファイリング用具に関するものである。」

(イ)「【0013】
【発明の実施の形態】図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1および図2は第一実施形態を示すものであって、おもて表紙および裏表紙にボール紙製の硬質板からなる芯材2,3を配置するとともに、背表紙にポリプロピレン製の硬質板からなる芯材4を配置しこれらの両面にポリ塩化ビニル製の薄肉シートからなる外被層5を重ねてそれらの外側周縁部を互いに溶着により貼り合わせることによって芯材2,3,4を挟み包み込んで表紙1が形成されている。
【0014】書類、メモ、カード、写真などのシート部片を収納する袋7はポリプロピレンの透明フィルムで作られている。この袋7はインフレーション法によって連続的に成形される長尺の袋材を所定長さずつに切断するとともに、切断端部の一方を溶封することによって作られ、可塑剤を含有しないためきわめて高い透明度を有しており、且つ経年劣化や収納したシート部材の接着或いは印刷個所の転写を生じないなど、すぐれた性質を有している。」

(ウ)「【0021】図5は第四実施形態を示すものであって、おもて表紙および裏表紙にポリプロピレン製の硬質板からなる芯材16,17を配置し、これらをポリ塩化ビニル製の外被層5に包み込んで表紙15としたものであって、背表紙は芯材を有していない。
【0022】この形態における袋20はおもて表紙および裏表紙のそれぞれとほぼ同じ大きさに作られており、それぞれの上に重ねられた袋20の背表紙側の端縁部が芯材16,17である接合部片18,19にそれぞれ超音波溶接法による溶着部21によって接合されている。
・・・
【0024】第四、第五実施形態において、おもて表紙側と裏表紙側とに同数ずつの袋20が配置されている。また、これらの形態において、芯材16,17をボール紙製の芯材とポリプロピレン製の芯材とを重ね合わせたものとすることもできる。
【0025】尚、おもて表紙および裏表紙の少なくとも一方の芯材16,17として接合部片18,19を有するものの場合は、袋20の底部分を接合させた構成とすることもできる。」

(エ)【0021】、【0022】の記載を踏まえて図5を参照すると、図5からは、表紙15が、芯材16が配置されるおもて表紙と、芯材17が配置される裏表紙が、芯材を有していない背表紙の幅方向両側に連なるものであることと、溶着部21が、おもて表紙及び裏表紙の背表紙側の内面にあることが看て取れる。
図5は、以下のとおりのものである。


イ.上記ア.から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「表紙にとじ込まれた透明な袋にシート部片を収納して保存するファイリング用具であって、
前記表紙は、芯材16が配置されるおもて表紙と、芯材17が配置される裏表紙が、芯材を有していない背表紙の幅方向両側に連なるものであり、
前記袋はおもて表紙および裏表紙のそれぞれとほぼ同じ大きさに作られており、それぞれの上に重ねられた前記袋の背表紙側の端縁部が芯材16,17にそれぞれ超音波溶接法による溶着部21によって接合されており、前記溶着部21が、おもて表紙及び裏表紙の背表紙側の内面にある、
ファイリング用具。」

(2)引用文献2
ア.原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献である、特開平10-29393号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
(ア)「【0004】
【発明の目的】本発明は、かかる従来例の不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、書類収納量が増えるに従って背表紙幅を段階的に拡大することができるとともに、表紙の基部領域が外側に膨らむことも効果的に防止することのできるファイルを提供することにある。」

(イ)「【0009】
【実施例】以下、本発明に係るファイルの実施例を図面を参照しながら説明する。
【0010】図1には本実施例に係るファイルの外観斜視図が示され、図2にはその要部拡大断面図が示されている。また、図3にはファイルを外側面から見た平面図が示されている。これらの図において、ファイル10はポリプロピレン等の合成樹脂シートにより構成された背表紙11と、この背表紙11に連設された一対の表紙12,12と、前記背表紙11の内面側に綴じ込まれた一端開放型の透明な袋13とを備えて構成されている。また、背表紙11及び各表紙12の基部側には、それらの外面側をカバーするようにシートフィルム14が配置されるとともに、その短寸幅方向両端を溶着部15として表紙12に連結され、当該シートフィルム14の内面側に図示しない見出し片が出し入れ可能となっている。
【0011】前記表紙12において、背表紙11との連設部となる基部領域には、複数列の切り込み16が形成されている。これらの切り込み16は、0.5mm以上の間隔を隔てて形成することができるが、本実施例では、約1.5mm間隔を隔てて各四列形成されている。また、切り込み16の両端は、表紙12の上下両端縁より、僅かに内側を終端としており、この終端を横方向に掛け渡すように亀裂防止部20が形成されている。この亀裂防止部20は、熱片を用いた熱押えによって構成され、この亀裂防止部20の存在下で一定の剛性を確保して表紙12が切り込み16に沿って破断しないようになっている。
【0012】なお、前記袋13の固定は、本実施例では熱溶着によって行われているが、適宜な綴じ具を介して綴じ込むこともできる。」

(ウ)「【0013】次に、本実施例に係るファイル10の作用について説明する。
【0014】袋18内に書類等が収納されていない状態では、図2に示されるように、ファイル10は、その表紙12の基部領域が僅かに湾曲する程度の比較的平坦な初期形状を保有する。ここで、各袋13内に書類を収納して全体として厚みを増してくると、図4に示されるように、表紙12の基部領域が背表紙11の面に沿う領域を形成するように拡がり、これによって、実質的に背表紙11の幅が拡大されることとなる。この際、背表紙11からみて外側に位置する切り込み15は、内側に位置する切り込み15よりも相対的に開き、これによって、表紙12の基部領域における膨らみを生じることなく収納量の増大に対応することができる。」

(エ)【0011】及び【0014】の記載を踏まえて図4を参照すると、図4から、切り込み16が、表紙12、12における、背表紙11との連設部となる基部領域の外面に設けられることが看て取れる。図4は、以下のとおりのものである。


イ.上記ア.から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる。
「合成樹脂シートにより構成された背表紙11と、この背表紙11に連設された一対の表紙12、12と、前記背表紙11の内面側に綴じ込まれた一端開放型の透明な袋13とを備えて構成されているファイル10において、
前記一対の表紙12、12における、背表紙11との連設部となる基部領域の外面に、複数列の切り込み16を形成することで、
書類収納量が増えるに従って背表紙幅を段階的に拡大することができるとともに、前記一対の表紙12、12の前記基部領域が外側に膨らむことも効果的に防止することができる技術。」

4.本願発明1と引用発明1との対比・判断
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア.後者の「おもて表紙」、「裏表紙」及び「表紙」は、それぞれ、前者の「表表紙」、「裏表紙」及び「表紙体」に相当する。

イ.後者の「(おもて表紙及び裏表紙の)背表紙側」は、前者の「(表表紙及び裏表紙の)基部側」に相当する。

ウ.後者の「袋」は、「透明」であり、おもて表紙と裏表紙にそれぞれ配置される芯材16、17にそれぞれ接合されるから「複数」あるものであり、前記芯材16、17に接合される箇所である「溶着部21」が「おもて表紙及び裏表紙の背表紙側の内面」にあるから、後者の「袋」は、前者の「ポケット」に相当する。

以上の対比より、本願発明1と引用発明1は、「表表紙及び裏表紙を備えた表紙体と、この表紙体の内面側に溶着された透明な複数のポケットとを備えたファイルにおいて、前記ポケットは、表表紙及び裏表紙の基部側の内面に溶着されているファイル。」である点で一致し、相違するところはない。

(2)判断
上記(1)のとおり、本願発明1は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

5.本願発明3と引用発明1との対比・判断
(1)対比
本願発明3と引用発明1とを対比する。
ア.後者の「背表紙」は、前者の「背表紙」に相当する。
イ.後者の「表紙」は、「芯材16が配置されるおもて表紙と、芯材17が配置される裏表紙が、芯材を有していない背表紙の幅方向両側に連なるもの」であるから、前者の「表紙体」と、「表表紙及び裏表紙を備え」、「背表紙」に「連なる表表紙及び裏表紙とを含」む点において共通する。

(2)一致点、相違点
上記4.(1)及び上記(1)の対比より、本願発明3と引用発明1は、次の一致点で一致し、次の相違点1及び2で相違する。
<一致点>
「表表紙及び裏表紙を備えた表紙体と、この表紙体の内面側に溶着された透明な複数のポケットとを備えたファイルにおいて、
前記ポケットは、表表紙及び裏表紙の基部側の内面に溶着されており、
前記表紙体は、背表紙と、当該背表紙の幅方向両側に連なる表表紙及び裏表紙とを含む、
ファイル。」
<相違点1>
本願発明3は、表表紙及び裏表紙が背表紙と折り曲げ線を介して連なるのに対し、引用発明1のおもて表紙及び裏表紙は背表紙と連なるが、折り曲げ線を介して連なるものであるか不明である点。
<相違点2>
本願発明3の表紙体における表表紙と裏表紙の基部側外面には、綴じ幅拡大用の折り曲げ線が設けられているのに対し、引用発明1の表紙におけるおもて表紙と裏表紙の背表紙側外面には、綴じ幅拡大用の折り曲げ線が設けられていない点。

(3)判断
ア.相違点1について
一般に、ファイルの「表表紙」、「裏表紙」及び「背表紙」は、ファイルを折り畳んだときに、それぞれ、ファイルの「表面」、「裏面」及び「背面」を構成する部分である。このとき、ファイルは、「表面」を構成する「表表紙」と「背面」を構成する「背表紙」との間で折り曲がるとともに、「裏面」を構成する「裏表紙」と「背面」を構成する「背表紙」との間で折り曲がることになる。そうしてみると、ファイルの「表表紙」及び「裏表紙」とは、「背表紙」と折り曲げ線を介して連なる部分ということになる。
したがって、引用発明1の「おもて表紙」及び「裏表紙」も、「背表紙」と折り曲げ線を介して連なる部分であるというべきであるから、上記相違点1に係る本願発明3の発明特定事項は、引用文献1に記載されているに等しい事項である。
また、仮に記載されているに等しい事項とまではいえないとしても、「表表紙」及び「裏表紙」が、「背表紙」と折り曲げ線を介して連なる構造のファイルが一般的なものであることからすれば、引用発明1において、当該一般的なファイルにおいてみられる構造を採用して、「おもて表紙」及び「裏表紙」が、「背表紙」と折り曲げ線を介して連なるようにして、上記相違点1に係る本願発明3の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到しうることである。

イ.相違点2について
引用文献2に記載の「書類収納量が増えるに従って背表紙幅を段階的に拡大することができるようにする」との課題は、引用文献2の他にも、例えば原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願日(優先日)前に頒布された引用文献3(以下、「引用文献3」という。)の「明細書」第11行ないし13行の「図面1の1から2の間に凹凸の筋が交互に何本も入れてあるのはファイルの厚みが中に差込む多寡によって厚くも、薄くもなるようにするためである」との記載や、原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願日(優先日)前に頒布された引用文献4(以下、「引用文献4」という。)の「明細書」の第4頁第4行ないし10行の「本考案ファイルによれば、特に背部の厚さが限定されず、・・・書類の厚さに応じて背部が対応し、背部に無理がかからず、・・・無駄なスペースを要することのないものであり」の記載から把握されるように、本願出願日(優先日)前にファイルの技術分野において周知の課題であるから、当該課題は、ファイルの技術分野の当業者にとって自明な課題である。
また、ファイルの表紙体における基部側外面に複数列の折り曲げ線を設けて背表紙幅を変化させる技術は、「前記一対の表紙12、12の、背表紙11との連設部となる基部領域の外面に、複数列の切り込み16を形成」した引用文献2の他にも、例えば引用文献3の「明細書」の第8行ないし10行及び図面1ないし4や、引用文献4の第14行ないし17行及び第1図ないし第3図に記載されているように、本願出願日(優先日)前にファイルの技術分野において周知の技術(以下、「周知技術」という。)であった。
したがって、引用発明1においても、「書類収納量が増えるに従って背表紙幅を段階的に拡大することができるようにする」ために、引用発明1の表紙に、上記周知技術を適用すること、すなわち、引用発明1の「おもて表紙」及び「裏表紙」の背表紙側外面に、複数列の折り曲げ線を形成することとして、上記相違点2に係る本願発明3の発明特定事項とすることで、背表紙幅を拡大できるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、本願発明3は、引用発明1及び引用文献2ないし4に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、本願発明3は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-03-31 
結審通知日 2020-04-07 
審決日 2020-04-27 
出願番号 特願2017-236592(P2017-236592)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B42F)
P 1 8・ 561- Z (B42F)
P 1 8・ 572- Z (B42F)
P 1 8・ 537- Z (B42F)
P 1 8・ 121- Z (B42F)
P 1 8・ 575- Z (B42F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 昭彦  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 畑井 順一
河内 悠
発明の名称 ファイル  
代理人 山口 義雄  

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