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審決分類 |
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 H04B 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 H04B 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H04B 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 H04B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04B |
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管理番号 | 1364757 |
審判番号 | 不服2019-5968 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-05-08 |
確定日 | 2020-07-29 |
事件の表示 | 特願2018- 80745「集中型データ通信に関する方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月30日出願公開、特開2018-137804〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許出願は、平成26年2月21日(パリ条約による優先権主張 平成25年2月22日 米国)を国際出願日とする特願2015-558991号の一部を新たな出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年 5月21日 :手続補正書の提出 平成30年 5月25日付け :拒絶理由の通知 平成30年10月29日 :意見書及び手続補正書の提出 平成30年12月27日付け :拒絶査定 令和 元年 5月 8日 :審判請求書及び手続補正書の提出 令和 元年 9月 2日 :上申書の提出 第2 令和元年5月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和元年5月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は、平成30年10月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲(以下、「補正前の特許請求の範囲」という。)を、以下のとおりの特許請求の範囲(以下、「補正後の特許請求の範囲」という。)に補正するものである。(なお、補正後の特許請求の範囲において付された下線は、拒絶査定不服審判請求時に請求人により付されたものである。) (補正前の特許請求の範囲) 「【請求項1】 集中型データを無線で送信する方法であって、 3次元空間において複数のカバレッジローブを形成するために複数のアンテナアレイ素子の第1のサブセットを同調するステップであって、前記複数のアンテナアレイ素子は、電磁放射を受信する、ステップと、 前記複数のカバレッジローブの少なくとも1つにおいて、1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置を検出するステップと、 前記第1のサブセットによって、前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置から第1のメッセージを受信するステップと、 前記第1のメッセージに基づいて、3次元空間における前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置の第1の位置を決定するステップと、 前記第1の位置において電磁波の強め合う干渉を生成するために、前記複数のアンテナアレイ素子の第2のサブセットを同調するステップと、 前記第1および第2のサブセットによって、前記電磁波を前記1つまたは複数の第1の装置に送信するステップと、 を含む方法。 【請求項2】 前記第1の位置を前記決定するステップは、前記複数のアンテナアレイ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングに基づく請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記リバースタイミングは、 前記第1のサブセットによって受信された前記第1のメッセージの入力時間オフセットを記録することと、 前記入力時間オフセットに基づいて前記リバースタイミングを計算することとにより計算される請求項2に記載の方法。 【請求項4】 前記複数のカバレッジローブの少なくとも1つにおいて1つまたは複数の新しい第2のクライアント装置を検出するステップと、 前記1つまたは複数の新しい第2のクライアント装置から第2のメッセージを受信するステップと、 前記第2のメッセージに基づいて、3次元空間における前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置の第2の位置を決定するステップと、 前記第2の位置において強め合う干渉を生成するために、前記複数のアンテナアレイ素子の第3のサブセットを同調するステップと、 をさらに含む請求項1に記載の方法。 【請求項5】 前記電磁波を第1の周波数で前記1つまたは複数の第1のクライアント装置に、かつ第2の周波数で前記1つまたは複数の第2のクライアント装置に送信するステップ をさらに含む請求項4に記載の方法。 【請求項6】 2つまたはそれ以上の第1のクライアント装置から同時に、データメッセージを、単一のデータ入力信号として受信するステップと、 前記単一のデータ入力信号を複数のデータ信号に分離するステップであって、各々は前記第1のクライアント装置の1つに対応する、ステップと、 前記第1のクライアント装置の各々に対してそれぞれのデータ信号を準備するステップと、 前記それぞれのデータ信号を多重化することにより出力データ信号を生成するステップと、 前記出力データ信号を前記第1のクライアント装置に送信するステップと、 をさらに含む請求項1に記載の方法。 【請求項7】 前記第1の位置は、高さ成分を含む請求項1に記載の方法。 【請求項8】 前記第1の位置に基づいて、前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置に対する動きの方向を決定するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。 【請求項9】 無線送信機であって、 複数の送受信機および複数のアンテナ素子を含む基地局送信機アレイを含み、前記アンテナ素子は電磁放射を受信し、 前記基地局送信機アレイは、 3次元空間において複数のカバレッジローブを形成するために前記複数のアンテナ素子の第1のサブセットを同調し、 前記複数のカバレッジローブの少なくとも1つにおいて、1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置を検出し、 前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置から第1のメッセージを受信し、 前記第1のメッセージに基づいて、3次元空間における前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置の第1の位置を決定し、 前記第1の位置において電磁波の強め合う干渉を生成するために、前記複数のアンテナ素子の第2のサブセットを同調し、 前記電磁波を前記1つまたは複数の第1の装置に送信する ように構成された無線送信機。 【請求項10】 前記基地局送信機アレイは、前記複数のアンテナ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングに基づいて、前記第1の位置を決定する請求項9に記載の送信機。」 (補正後の特許請求の範囲) 「【請求項1】 集中型データを無線で送信する方法であって、 3次元空間において複数のカバレッジローブを形成するために複数のアンテナアレイ素子の第1のサブセットを同調するステップであって、前記複数のアンテナアレイ素子は電磁放射を受信する、該ステップと、 前記複数のカバレッジローブの少なくとも1つにおいて、1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置を検出するステップと、 前記第1のサブセットによって、前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置から第1のメッセージを受信するステップと、 前記第1のメッセージに基づいて、3次元空間における前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置の第1の位置を決定するステップと、 前記第1の位置において電磁波の強め合う強度信号を生成するために、前記複数のアンテナアレイ素子の第2のサブセットを同調するステップと、 前記第1および第2のサブセットによって、前記電磁波を前記1つまたは複数の第1の装置に送信するステップと、 を含むことを特徴とする方法。 【請求項2】 前記第1の位置を前記決定するステップは、前記複数のアンテナアレイ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングを計算するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記リバースタイミングは、 前記第1のサブセットによって受信された前記第1のメッセージの入力時間オフセットを記録することと、 前記入力時間オフセットに基づいて前記リバースタイミングを計算することと により計算されることを特徴とする請求項2に記載の方法。 【請求項4】 前記複数のカバレッジローブの少なくとも1つにおいて1つまたは複数の新しい第2のクライアント装置を検出するステップと、 前記1つまたは複数の新しい第2のクライアント装置から第2のメッセージを受信するステップと、 前記第2のメッセージに基づいて、3次元空間における前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置の第2の位置を決定するステップと、 前記第2の位置において強め合う強度信号を生成するために、前記複数のアンテナアレイ素子の第3のサブセットを同調するステップと、 をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項5】 前記電磁波を第1の周波数で前記1つまたは複数の第1のクライアント装置に、かつ第2の周波数で前記1つまたは複数の第2のクライアント装置に送信するステップ をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。 【請求項6】 2つまたはそれ以上の第1のクライアント装置から同時に、データメッセージを、単一のデータ入力信号として受信するステップと、 前記単一のデータ入力信号を複数のデータ信号に分離するステップであって、各々は前記第1のクライアント装置の1つに対応する、ステップと、 前記第1のクライアント装置の各々に対してそれぞれのデータ信号を準備するステップと、 前記それぞれのデータ信号を多重化することにより出力データ信号を生成するステップと、 前記出力データ信号を前記第1のクライアント装置に送信するステップと、 をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項7】 前記第1の位置は、高さ成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項8】 前記第1の位置と、前記第1の位置の高度角および方位角と、前記第1の位置の前記複数のアンテナアレイ素子までの距離とに基づいて、前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置の方向を決定するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項9】 無線送信機であって、 複数の送受信機および複数のアンテナ素子を含む基地局送信機アレイを含み、前記アンテナ素子は電磁放射を受信し、 前記基地局送信機アレイは、 3次元空間において複数のカバレッジローブを形成するために前記複数のアンテナ素子の第1のサブセットを同調し、 前記複数のカバレッジローブの少なくとも1つにおいて、1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置を検出し、 前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置から第1のメッセージを受信し、 前記第1のメッセージに基づいて、3次元空間における前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置の第1の位置を決定し、 前記第1の位置において電磁波の強め合う強度信号を生成するために、前記複数のアンテナ素子の第2のサブセットを同調し、 前記電磁波を前記1つまたは複数の第1の装置に送信する ように構成されたことを特徴とする無線送信機。 【請求項10】 前記基地局送信機アレイは、前記複数のアンテナ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングを計算することを特徴とする請求項9に記載の無線送信機。」 2 補正の適否 補正後の特許請求の範囲の請求項10に係る以下の補正事項が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。(なお、下線は当審において付した。) 2-1 請求項10に係る補正事項 補正前の特許請求の範囲の請求項10に記載された「前記基地局送信機アレイは、前記複数のアンテナ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングに基づいて、前記第1の位置を決定する請求項9に記載の送信機。」を補正後の特許請求の範囲の請求項10に記載された「前記基地局送信機アレイは、前記複数のアンテナ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングを計算することを特徴とする請求項9に記載の無線送信機。」とする補正に含まれる補正事項は、以下のとおりである。 (補正事項1) 補正前の「前記複数のアンテナ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングに基づいて、前記第1の位置を決定する」との事項を補正後の「前記複数のアンテナ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングを計算することを特徴とする」との補正事項。 (補正事項2) 補正前の「送信機」を補正後の「無線送信機」とする補正事項。 2-2 補正事項1について (1)補正事項1が特許法第17条の2第5項第1号に規定されている「請求項の削除」を目的とするものでないことは明らかである。 (2)補正前の「前記複数のアンテナ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングに基づいて、前記第1の位置を決定する」との記載において、「誤記」と考えられる事項が存在しないことは、その記載からして明らかであるから、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第3号に規定されている「誤記の訂正」を目的とするものではない。 (3)補正前の「前記複数のアンテナ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングに基づいて、前記第1の位置を決定する」との記載は、「前記第1の位置を決定する」ことが、「前記複数のアンテナ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングに基づいて」行われるという内容を明確に特定しているから、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第4号に規定されている「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものではない。 (4)補正事項1によって、補正前の記載において明確であった“「前記第1の位置を決定する」ことが、「前記複数のアンテナ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングに基づいて」行われる”という内容が、補正後の記載では、「前記第1の位置を決定する」との事項が削除されると共に、単に、“「前記複数のアンテナ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングを計算すること」”という内容に変更されており、補正前の記載において特定されていた内容を減縮することなく変更する補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号に規定されている「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではない。 (5)上記(1)から(4)で検討したとおり、補正事項1は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものではない。 3 本件補正についてのむすび 以上のとおりであるから、補正事項1を含む本件補正は、特許法17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものではないから、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成30年10月29日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(上記第2、1の「(補正前の特許請求の範囲)」の再掲) 「【請求項1】 集中型データを無線で送信する方法であって、 3次元空間において複数のカバレッジローブを形成するために複数のアンテナアレイ素子の第1のサブセットを同調するステップであって、前記複数のアンテナアレイ素子は、電磁放射を受信する、ステップと、 前記複数のカバレッジローブの少なくとも1つにおいて、1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置を検出するステップと、 前記第1のサブセットによって、前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置から第1のメッセージを受信するステップと、 前記第1のメッセージに基づいて、3次元空間における前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置の第1の位置を決定するステップと、 前記第1の位置において電磁波の強め合う干渉を生成するために、前記複数のアンテナアレイ素子の第2のサブセットを同調するステップと、 前記第1および第2のサブセットによって、前記電磁波を前記1つまたは複数の第1の装置に送信するステップと、 を含む方法。 【請求項2】 前記第1の位置を前記決定するステップは、前記複数のアンテナアレイ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングに基づく請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記リバースタイミングは、 前記第1のサブセットによって受信された前記第1のメッセージの入力時間オフセットを記録することと、 前記入力時間オフセットに基づいて前記リバースタイミングを計算することとにより計算される請求項2に記載の方法。 【請求項4】 前記複数のカバレッジローブの少なくとも1つにおいて1つまたは複数の新しい第2のクライアント装置を検出するステップと、 前記1つまたは複数の新しい第2のクライアント装置から第2のメッセージを受信するステップと、 前記第2のメッセージに基づいて、3次元空間における前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置の第2の位置を決定するステップと、 前記第2の位置において強め合う干渉を生成するために、前記複数のアンテナアレイ素子の第3のサブセットを同調するステップと、 をさらに含む請求項1に記載の方法。 【請求項5】 前記電磁波を第1の周波数で前記1つまたは複数の第1のクライアント装置に、かつ第2の周波数で前記1つまたは複数の第2のクライアント装置に送信するステップ をさらに含む請求項4に記載の方法。 【請求項6】 2つまたはそれ以上の第1のクライアント装置から同時に、データメッセージを、単一のデータ入力信号として受信するステップと、 前記単一のデータ入力信号を複数のデータ信号に分離するステップであって、各々は前記第1のクライアント装置の1つに対応する、ステップと、 前記第1のクライアント装置の各々に対してそれぞれのデータ信号を準備するステップと、 前記それぞれのデータ信号を多重化することにより出力データ信号を生成するステップと、 前記出力データ信号を前記第1のクライアント装置に送信するステップと、 をさらに含む請求項1に記載の方法。 【請求項7】 前記第1の位置は、高さ成分を含む請求項1に記載の方法。 【請求項8】 前記第1の位置に基づいて、前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置に対する動きの方向を決定するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。 【請求項9】 無線送信機であって、 複数の送受信機および複数のアンテナ素子を含む基地局送信機アレイを含み、前記アンテナ素子は電磁放射を受信し、 前記基地局送信機アレイは、 3次元空間において複数のカバレッジローブを形成するために前記複数のアンテナ素子の第1のサブセットを同調し、 前記複数のカバレッジローブの少なくとも1つにおいて、1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置を検出し、 前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置から第1のメッセージを受信し、 前記第1のメッセージに基づいて、3次元空間における前記1つまたは複数の新しい第1のクライアント装置の第1の位置を決定し、 前記第1の位置において電磁波の強め合う干渉を生成するために、前記複数のアンテナ素子の第2のサブセットを同調し、 前記電磁波を前記1つまたは複数の第1の装置に送信する ように構成された無線送信機。 【請求項10】 前記基地局送信機アレイは、前記複数のアンテナ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングに基づいて、前記第1の位置を決定する請求項9に記載の送信機。」 第4 原査定の拒絶の理由 拒絶査定の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。 ●理由1(特許法第36条第4項第1号について) ・請求項 1-10 発明の詳細な説明の[0041]には、基地局送信機アレイ1020を用いてクライアント装置110の位置を決定することが記載されているが、[0041]の記載は、当業者が位置決定を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 ●理由2(特許法第36条第6項第1号について) ・請求項 1-10 請求項1には「前記第1の位置において電磁波の強め合う干渉を生成するために、前記複数のアンテナアレイ素子の第2のサブセットを同調するステップと、前記第1および第2のサブセットによって、前記電磁波を前記1つまたは複数の第1の装置に送信するステップ」が記載されている。 しかし、「電磁波の強め合う干渉を生成する」ことは、発明の詳細な説明に記載されていない。 また、「第1のサブセット(第1の位置を検出する)」と「第2のサブセット」とを用いて「電磁波を前記1つまたは複数の第1の装置に送信する」ことは、発明の詳細な説明に記載されていない。 よって、請求項1-10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 ・請求項 4,5 請求項4には「前記第2の位置において電磁波の強め合う干渉を生成するために、前記複数のアンテナアレイ素子の第3のサブセットを同調するステップ」が記載されている。 しかし、「電磁波の強め合う干渉を生成する」ことは、発明の詳細な説明に記載されていない。 よって、請求項4及び請求項4を引用する請求項5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 ・請求項 2,3,10 請求項2,3,10には、リバースタイミングに基づいて第1の位置を決定することが記載されている。 しかし、発明の詳細な説明には、[0041]に「時間オフセットを分析することで・・・高度角を決定することができる」と記載されているのみであり、「リバースタイミング」に基づいて第1の位置を決定することは記載されていない。 よって、請求項2,3,10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 ・請求項 8 請求項8に記載された「第1の位置に基づいて、・・・新しい第1のクライアント装置に対する動きの方向を決定するステップ」は、発明の詳細な説明に記載されていない。 第5 当審の判断 事案に鑑み、請求項10に係る発明に対する拒絶査定の拒絶の理由である「理由2(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)」について、検討する。 1 発明の詳細な説明に記載されている事項について 本願の発明の詳細な説明には、「リバースタイミング」及び「(第1のクライアント装置の)第1の位置を決定する」ことに関して以下の事項が記載されている。 (ア)「【0029】 アレイコントローラ600は、特定のクライアント装置110に関する概念コンポーネント610において、クライアント装置110からの信号を受信する。信号は、各アンテナ素子のプロセッサ500のA/Dエンコーダ550を介して、間接的に受信される。各アンテナ素子121からの信号は、送信に用いられる、クライアント装置110の時間オフセットの「リバースタイミング」を用いることで、他の全てのアンテナ素子121からの信号に加えられる。リバースタイミングは、以下の式に従って計算される。 リバースタイミング = (クライアント時間オフセットの最大値) - (クライアント時間オフセット) 式(3) ここで、リバースタイミングは、0と各クライアントに関するクライアント時間オフセットの間の有効な数であり、また、時間オフセットの最大値は、最初にアンテナ素子121がある信号を受信してから、最後にアンテナ素子121がそれと同じ信号を受信するまでの時間の差分である。」 (イ)「【0041】 図10Bおよび図10Cは、GPSまたはナビゲーションサービスに類似した、位置情報サービスを用いる実施形態として、集中型データ通信システム1000を示している。 図10Bおよび図10Cに示される例で、建物Bに隣接して示される、位置Lにあるクライアント装置110は、基地局送信機アレイ1020を用いることで、位置が特定される。基地局送信機アレイ1020の各アンテナ素子(不図示)の時間オフセットを分析することで、基地局送信機アレイ1020の高さHに対する位置Lの高度角を決定することができる。同様に、方位角θは、基地局送信機アレイ1020との関係で、北に対する位置Lの方向を識別することで決定することができる。さらに、距離dは基地局送信機アレイ1020の構成により決定されることから、位置Lのクライアント装置110にロケーションサービスを提供することができる。実際には、基地局送信機アレイ1020における時間遅延を調べることで、クライアントの方向が決定される。但し、基地局送信機アレイ1020は容積サイズを有するので、複数の決定された方向が、実際の位置(方向+距離)を提供することができるカバレッジがどこにあるかを決定するために、ボリュームのエッジからトレースされる。」 2 「リバースタイミング」について 上記(ア)において、「各アンテナ素子121からの信号は、送信に用いられる、クライアント装置110の時間オフセットの「リバースタイミング」を用いることで、他の全てのアンテナ素子121からの信号に加えられる。」と記載されている様に、「リバースタイミング」は、基地局送信機アレイが備えるアンテナ素子121からクライアント装置110に信号を送信する際に用いられるものであり、クライアント装置110の位置を決定する際に用いられるものではない。 3 「第1の位置を決定する」ことについて 上記(イ)において、「基地局送信機アレイ1020の各アンテナ素子(不図示)の時間オフセットを分析することで、基地局送信機アレイ1020の高さHに対する位置Lの高度角を決定することができる。」、「同様に、方位角θは、基地局送信機アレイ1020との関係で、北に対する位置Lの方向を識別することで決定することができる。」、「さらに、距離dは基地局送信機アレイ1020の構成により決定される」と記載されている様に、クライアント装置110の位置を決定する際には、「各アンテナ素子の時間オフセット」、「基地局送信機アレイ1020との関係(北に対する位置Lの方向)」、「基地局送信機アレイ1020の構成」が用いられることは記載されているものの、「リバースタイミング」が用いられる旨は記載されていない。 4 発明の詳細な説明のその他の記載について 発明の詳細な説明における、上記(ア)及び(イ)以外の箇所の記載を参酌しても、「リバースタイイング」がクライアント装置の位置を決定する際に用いられるとの記載又はその旨を示唆する記載はない。 5 まとめ 以上のとおりであるから、請求項10に記載されている『前記基地局送信機アレイは、前記複数のアンテナ素子のうちの1つまたは複数のためのリバースタイミングに基づいて、前記第1の位置を決定する』との事項は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものである。 第6 むすび 以上のとおり、請求項10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものである。 したがって、原査定の拒絶の理由である理由1(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件)や請求項10以外に対して指摘された理由2(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-02-27 |
結審通知日 | 2020-03-03 |
審決日 | 2020-03-17 |
出願番号 | 特願2018-80745(P2018-80745) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(H04B)
P 1 8・ 571- Z (H04B) P 1 8・ 572- Z (H04B) P 1 8・ 574- Z (H04B) P 1 8・ 573- Z (H04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 太田 龍一、原田 聖子 |
特許庁審判長 |
北岡 浩 |
特許庁審判官 |
佐藤 智康 丸山 高政 |
発明の名称 | 集中型データ通信に関する方法および装置 |
代理人 | 特許業務法人 谷・阿部特許事務所 |