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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B60R
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B60R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1365523
審判番号 不服2019-12916  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-27 
確定日 2020-08-20 
事件の表示 特願2018-109128号「乗員保護装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年8月30日出願公開、特開2018-135095号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年9月29日に出願した特願2014-197864号の一部を平成30年6月7日に新たな特許出願としたものであって、平成31年4月11日付けで拒絶理由が通知され、令和1年5月14日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月15日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年9月27日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和1年9月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年9月27日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
令和1年9月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をすることを含むものであって、補正前の請求項1と、補正後の請求項1の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)補正前の請求項1
「 【請求項1】
車両に設けられ他車両の側面衝突を検出する側突検出手段と、シートのシートバックに埋設され前記側突検出手段により側面衝突が検出されたときに乗員のドア側に展開するサイドエアバッグとを備えた乗員保護装置において、
前記サイドエアバッグは、前記側突検出手段により側面衝突が検出されたときに、乗員のドア側腕部を持ち上げて乗員の上半身を回転させながら乗員の肩部を車室内側に変位させるように、乗員のドア側の肩甲骨後側、および、腋下とドアとの間に展開することを特徴とする乗員保護装置。」

(2)補正後の請求項1
「 【請求項1】
車両に設けられ他車両の側面衝突を検出する側突検出手段と、シートのシートバックに埋設され前記側突検出手段により側面衝突が検出されたときに乗員のドア側に展開するサイドエアバッグとを備えた乗員保護装置において、
前記サイドエアバッグは、前記側突検出手段により側面衝突が検出されたときに、乗員のドア側肩部を車両上方に押し上げながら車室内側に変位させるように、乗員のドア側の肩甲骨後側、および、腋下とドアとの間に展開することを特徴とする乗員保護装置。」

2 補正の適否
(1)補正事項
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「乗員のドア側腕部を持ち上げて乗員の上半身を回転させながら乗員の肩部を車室内側に変位させるように」という発明特定事項に関して、「乗員のドア側腕部を持ち上げて乗員の上半身を回転させながら」という発明特定事項を削除する補正(以下「補正事項1」という。)と、「乗員の肩部を車室内側に変位させるように」という発明特定事項を、「乗員のドア側肩部を車両上方に押し上げながら車室内側に変位させるように」(以下「事項A」という。)という発明特定事項に限定する補正(以下「補正事項2」という。)を含むものである。

(2)補正の目的の適否について

上記補正事項1を含む本件補正は、上記(1)のとおり、発明特定事項を削除していることから、明らかに、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的としたものであるとはいえない。

また、上記補正事項1を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号項に規定する請求項の削除、同第3号に規定する誤記の訂正あるいは同4号に規定する明りょうでない記載の釈明のいずれかの事項を目的とするものであるともいえない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する、いずれの事項を目的とするものでもなく、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものである。

(3)新規事項の追加の有無について

本件補正は、上記補正事項2を含むものである。
そこで、事項Aに限定する上記補正事項2を含む本件補正が、願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」といい、特許請求の範囲及び図面を併せて「当初明細書等」という。)、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえるか否か、すなわち、「当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである」か否か(参考判決:知財高裁 平成20年5月30日特別部判決 平成18年(行ケ)第10563号)について、以下検討する。

事項Aは、以下に述べるとおり、当初明細書等に記載されていないし、それらの記載から自明な事項であるともいえない。
(ア)
当初明細書には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様である。)。
「【0009】
本発明によれば、側突検出手段により側面衝突が検出されたときに、乗員のドア側の腋下とドアとの間に乗員のドア側腕部を持ち上げつつ乗員の上半身を回転させるようにサイドエアバッグが展開するため、乗員の上体をより効果的に回転させて傾けることができ、車幅が狭い軽自動車であっても、側突時に乗員とドアの間に十分な隙間を形成することが可能になり、サイドエアバッグによりその隙間を埋めたり、別途設けたカーテンエアバッグによりその隙間を埋めることによって乗員をより確実に保護することができる。
・・・
【0014】
このとき、サイドエアバッグ6は、図1および図2に1点鎖線で示すように、乗員Mの腋化とドアDとの間の狭い隙間を真っ直ぐ前方に向かって展開する一般の展開幅の小さい従来構成のものに比べて、図1および図2中に実線で示すように、乗員Mの右肩口から上腕部を少し持ち上げるように(図1、図2中の実線矢印参照)展開する展開幅が広くかつ斜め上方に展開する形状に形成するのが望ましい。なお、図1中のPはセンターピラーである。)
・・・
【0017】
一方、側突検出手段12により側面衝突が検出されると、その検出信号が制御手段16に入力され、制御手段16から保持手段15に保持制御信号が出力されてプリテンショナ13が非作動状態に保持され、シートベルトが緩められて乗員Mの拘束力が弱められ、乗員Mの上体を傾けることが可能な状態になる。さらに、制御手段16によりサイドエアバッグ装置14のインフレータが点火制御されてサイドエアバッグ6が膨張し、乗員MのドアD側の右腋下とドアDとの間に、乗員Mのドア側腕部を持ち上げつつ上半身をドアDと反対向きに回転させるようにサイドエアバッグ6が展開し、サイドエアバッグ6が展開するに連れて乗員Mの上体が回転し、乗員MとドアDとの間に十分な隙間が形成されつつその隙間がサイドエアバッグ6により埋められて乗員Mが側突の衝撃から保護される。」
(イ)
a
事項Aすなわち「乗員のドア側肩部を車両上方に押し上げながら車室内側に変位させるように」という事項は、当初明細書に記載されていない。
b
上記(ア)から、「乗員の右肩口から上腕部を少し持ち上げる」こと、及び、「乗員のドア側の腋下とドアとの間に乗員のドア側腕部を持ち上げつつ乗員の上半身を回転させるようにサイドエアバッグが展開するため、乗員の上体をより効果的に回転させて傾けることができ」ることは、当初明細書に記載されているといえるが、これらの場合に、「肩部」の状態がどのようになるのか記載されていない。
「乗員の右肩口から上腕部を少し持ち上げる」程度のことで、「肩部」が「車両上方に押し上げ」られるとまではいえないし、「乗員のドア側腕部を持ち上げつつ乗員の上半身を回転させる」ことで「乗員の上体を」「回転させて傾けることができ」たとしても、その場合の「肩部」の位置がどのようになるのか特定することはできず、「肩部」が「車両上方に押し上げ」られるとはいえない(エアバッグが乗員の側部側かつ背中側に展開することで、乗員が回転しながら前側に傾き、肩部が車両下方に押し下げられることもあり得る。)。
c
さらに、図1及び図2を参照しても、サイドエアバッグが展開する際の「肩部」の位置を特定することはできない。
(ウ)
上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、事項Aは、当初明細書等に記載されていないし、それらの記載から自明な事項であるともいえない。

したがって、事項Aに限定する上記補正事項2を含む本件補正は、「当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである」とはいえず、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていない。

3 補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定するいずれの事項を目的とするものでもなく、同法第17条の2第5項の規定に違反するから、また、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明
令和1年9月27日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」ともいう。)は、令和1年5月14日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、前記「第2[理由]1(1)補正前の請求項1」に記載されたとおりのものである。

第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
[理由1]
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[理由2]
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物等
1:国際公開第2014/013822号(以下「引用文献1」という。)
2:特開2009-23494号公報(この文献は、原査定において、「引用文献4」として提示されたものであるところ、以下「引用文献2」という。)

第5 当審の判断(理由1及び理由2について)
1 引用文献
(1)引用文献1について
ア 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(1a)
「[0006] 上述の如きサイドエアバッグ装置では、サイドエアバッグが着座乗員の肩部から腰部までを拘束可能な大型のものである。そのため、サイドエアバッグの膨張展開が完了するまでの時間が長くなるが、インフレータを内部に収容した後側チューブバッグ部が早期に膨張展開することにより、サイドエアバッグによる着座乗員の初期拘束性能を良好にすることができる。しかしながら、後側チューブバッグ部の肩拘束部が、着座乗員の肩部の後部のみを拘束する構成であるため、着座乗員の肩部が肩拘束部から不用意に外れる可能性がある。そのため、サイドエアバッグによる着座乗員の拘束性能を向上させる観点で改善の余地がある。
[0007] 本発明は上記事実を考慮し、着座乗員の胸部とサイドエアバッグとの間に上腕部が介在することを抑制できると共に、サイドエアバッグによる着座乗員の拘束性能を向上させることができる車両用サイドエアバッグ装置を得ることを目的としている。」
(1b)
「[0029] <第1の実施形態> 本発明の第1実施形態に係る車両用サイドエアバッグ装置10について、図1?図4に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UP、矢印OUTは、車両の前方向(進行方向)、上方向、車幅方向の外側をそれぞれ示している。以下、単に前後、上下の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両上下方向の上下を示すものとする。
[0030] (構成)
図1に示されるように、本第1実施形態に係るサイドエアバッグ装置10は、車両用シート12におけるシートバック14のドア側サイド部14A(図示しないサイドドア側の側部)に搭載されている。このシートバック14は、シートクッション16の後端部に傾倒可能に連結されており、上端部にはヘッドレスト18が連結されている。
[0031] なお、本実施形態では、車両用シート12の前後方向、左右方向(幅方向)及び上下方向は、車両の前後方向、左右方向(幅方向)及び上下方向と一致している。また、図1では、車両用シート12には実際の乗員の代わりに、国際統一側面衝突ダミー(World Side Impact Dummy:WorldSID)Pが着座している。この国際統一側面衝突ダミーPの着座姿勢は、本車両用サイドエアバッグ装置10が搭載される車両に対して実施される側面衝突試験法に準ずる。また、シートクッション16に対するシートバック14の傾斜角度(リクライニング角度)は、上記着座姿勢に対応した基準設定位置にセットされている。以下、説明の都合上、国際統一側面衝突ダミーPを「着座乗員P」と称する。
[0032] サイドエアバッグ装置10は、サイドエアバッグ20と、該サイドエアバッグ20内でガスを発生させるインフレータ(ガス発生装置)22とを主要部として構成されている。サイドエアバッグ20は、折り畳まれてインフレータ22等と共にユニット化された状態でドア側サイド部14Aの内部に配設(格納)されており、インフレータ22から発生するガスの圧力で着座乗員Pとサイドドア(車体側部)との間に膨張展開する(図1図示状態)。この膨張展開の際には、ドア側サイド部14Aに配設されたシートバックパッド24(図3参照)及び図示しないシート表皮がサイドエアバッグ20の膨張圧を受けて破断される構成になっている。なお、以下の説明に記載するサイドエアバッグ20の前後上下の方向は、特に断りのない限り、サイドエアバッグ20が膨張展開した状態での方向を示すものであり、シートバック14の前後上下の方向と略一致している。
・・・
[0047] このインフレータ22には、図1に示されるように、車両に搭載された側突ECU58が電気的に接続されている。この側突ECU58には、側面衝突を検知する側突センサ60が電気的に接続されている。側突ECU58は、側突センサ60からの信号に基づいて側面衝突(の不可避)を検知した際にインフレータ22を作動させる構成とされている。なお、側突ECU58に側面衝突を予知(予測)するプリクラッシュセンサが電気的に接続されている場合には、プリクラッシュセンサからの信号に基づいて側突ECU58が側面衝突を予知した際にインフレータ22が作動される構成にしてもよい。」
(1c)
「[0050] (作用及び効果)
次に、本第1実施形態の作用及び効果について説明する。
[0051] 上記構成のサイドエアバッグ装置10では、側突ECU58が側突センサ60からの信号により側面衝突を検知すると、当該側突ECU58によってインフレータ22が作動される。すると、インフレータ22から噴出されるガスがサイドエアバッグ20内に供給され、サイドエアバッグ20が着座乗員Pとサイドドアのドアトリムとの間に膨張展開する。このサイドエアバッグ20では、着座乗員Pの胸部C、腹部B及び腰部Lの前部を拘束する前バッグ部36と、胸部C、腹部B及び腰部Lの後部を拘束する後バッグ部38とが縦仕切部32によって仕切られている。後バッグ部38内には、インフレータ22が設けられており、インフレータ22から発生するガスが、縦仕切部32に設けられた連通口46、48を介して前バッグ部36内に供給される(図2の矢印G3、G4参照)。これにより、後バッグ部38を前バッグ部36よりも早期かつ高圧に膨張展開させることができるので、胸部C及び腹部Bの前部よりも相対的に耐性が高い胸部C及び腹部Bの後部を後バッグ部38によって早期に拘束することができる。
[0052] また、後バッグ部38の上部には、着座乗員Pの肩部Sを拘束する前延部38Aが設けられている。この前延部38Aが早期に膨張展開することにより、着座乗員Pの肩部Sを早期に拘束することができる。しかも、この前延部38Aは、縦仕切部32の上端からシートバック14の前方斜め上方へ延びる上仕切部34によって前バッグ部36と区画されており、前バッグ部36の上方側へ膨張展開する。つまり、シートバック14の前後方向に対して前上がりに延びる上仕切部34が設定されることにより、後バッグ部38の上部(前延部38A)が前バッグ部36の上方側へ延びて着座乗員Pの肩部Sを拘束する。この上仕切部34は、シートバック14の前後方向に対する傾斜角度θが、例えば40?50度の範囲内に設定されている。これにより、後バッグ部38の容量の増加を抑制しつつ、後バッグ部38の上部(前延部38A)を着座乗員Pの肩部Sに良好に対向させることができる。その結果、胸部C及び腹部Bの後部並びに肩部Sを効果的に拘束することができるので、サイドエアバッグ20による着座乗員Pの拘束性能を向上させることができる。
[0053] さらに、図4に示されるように、膨張展開した前バッグ部36の車幅方向内側面は、上下方向中央部よりも上方側が車幅方向外側へ向かうに従い上昇するように湾曲する(図4に示される上腕部押上面68参照)。このため、サイドエアバッグ20と着座乗員Pとが側面衝突の衝撃によって相対的に接近することにより、上腕部押上面68と着座乗員Pの上腕部Aとが摺接し、上腕部Aを上方へ押し上げる力Fが発生する。その結果、上腕部Aが前バッグ部36の上方へ押し上げられ、前延部38Aによって拘束される。これにより、着座乗員Pの胸部Cとサイドエアバッグ20との間に上腕部Aが介在することを抑制できるので、胸部Cの負荷を低減することができる。
[0054] しかも、本実施形態では、上仕切部34は、サイドエアバッグ20の膨張展開状態を車幅方向から見た場合に、着座乗員Pの肩部Sの中心と上腕部Aの長手方向中央部(上腕部Aの重心AG付近)との間の中央付近に位置する。このため、上腕部Aの重心AGの付近に上仕切部34が設定されている場合と比較して、前バッグ部36による上腕部Aの押し上げ力Fを上腕部Aの重心AG付近に良好に作用させることができる。これにより、上腕部Aを効果的に押し上げることが可能になる。
[0055] つまり、例えば、図2におけるX線に沿って上仕切部34を設定すると、上仕切部34が上腕部Aの重心AG付近を通ることになる。この上仕切部34の付近では、図4に示されるように、サイドエアバッグ20の車幅方向内側面が車幅方向外側へ凹んで凹部(谷間)51が形成されるため、当該凹部51が上腕部Aの重心AG付近と当接する。この凹部51は、上腕部押上面68の上端部(上側の終点)に形成されるため、上腕部Aの重心AG付近が上腕部押上面68と摺接する距離及び時間が短くなり、上腕部Aの重心AG付近に十分に押し上げ力Fを作用させることができなくなる。これに対し、本実施形態では、上腕部Aが上腕部押上面68と摺接し始める際には、重心AGが凹部51(上仕切部34)から下方側に十分に離間しているため、上腕部押上面68からの押し上げ力Fを上腕部Aの重心AG付近に良好に作用させることができる。その結果、上腕部Aを効果的に押し上げることが可能になる。
[0056] しかも、上記前延部38Aは、前述したように着座乗員Pの肩部Sの側方から車両前方側へ延びて前バッグ部36の上方に配置される。このため、例えば、側面衝突の形態が所謂斜め側面衝突であり、着座乗員Pが車両斜め前方へ慣性移動した場合でも、着座乗員Pの肩部Sが前延部38Aから外れないようにすることができる。これにより、側面衝突の形態によらず、着座乗員Pの肩部Sをサイドエアバッグ20によって良好に拘束することが可能になり、肩部Sの拘束を衝突後半まで持続させることが可能になる。なお、背景技術の欄で説明した車両用サイドエアバッグ装置では、斜め側面衝突時に着座乗員が車両斜め前方へ慣性移動した場合には、着座乗員の肩部が肩拘束部から外れる可能性があるが、本実施形態ではこれを回避することができる。
[0057] また、本実施形態では、図2において、着座乗員Pの肩部Sの中心(ボルト50)と上腕部Aの重心AGを結ぶ線に沿ってサイドエアバッグ20を切断した場合、肩部Sの中心と上腕部Aの重心AGとの間に凹部51が形成される。この凹部51は、上仕切部34に沿ってシートバック14の前方斜め上方へ延びるため、前延部38Aの前端側には、シートバック14の前方斜め下方に向かうほど車幅方向外側へ向かうように湾曲した湾曲面が形成される。このため、膨張展開したサイドエアバッグ20と着座乗員Pとが側面衝突の衝撃によって相対的に接近する際には、既述した上腕部Aの押し上げ作用に加え、着座乗員Pの車幅方向外側の肩部Sが、前延部38Aの前端側に形成される上記湾曲面に沿って上仕切部34側(車両前方側)へ移動する。その結果、車幅方向外側の肩部Sが車両前方側へ移動する方向に着座乗員Pの上体が略垂直な軸回りに回転し、着座乗員Pの背中がサイドエアバッグ20側を向くことになる。これにより、相対的に荷重耐性が高い背中側をサイドエアバッグ20によって効果的に拘束することができる。また、胸部Cがサイドエアバッグ20から離れる方向へ変位(回転)するにより、胸部Cへの負荷をさらに低減することができる。しかも、車幅方向外側の肩部Sが車両前方側へ移動して凹部51に嵌り込むことで、肩部Sが肩拘束部である前延部38Aから外れ難くなるため、斜め衝突時においても肩部Sを良好に拘束し続けることができる。」

イ 引用文献1に記載された発明
(ア)
摘記(1c)の段落[0051]の「サイドエアバッグ装置10では、車両に搭載された側突ECU58が側突センサ60からの信号により側面衝突を検知すると、当該側突ECU58によってインフレータ22が作動され」るという記載によると、「側突センサ60」、「車両に搭載された側突ECU58」及び「サイドエアバッグ装置10」が電気的に接続され、側突センサ60、車両に搭載された側突ECU58及びサイドエアバッグ装置10を備えるサイドエアバッグシステムを構築していることが、明らかである(図1も参照。)。
(イ)
摘記(1c)の段落[0053]の「膨張展開した前バッグ部36の車幅方向内側面は、上下方向中央部よりも上方側が車幅方向外側へ向かうに従い上昇するように湾曲する(図4に示される上腕部押上面68参照)」という記載は、「膨張展開した前バッグ部36の車幅方向内側面は、上下方向中央部よりも上方側が車幅方向外側へ向かうに従い上昇するように湾曲する」「上腕部押上面68」を備えるという意味であることが明らかである。
(ウ)
上記(ア)、(イ)及び摘記(1b)、(1c)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「サイドエアバッグ装置10は、サイドエアバッグ20と、該サイドエアバッグ20内でガスを発生させるインフレータ22とを主要部として構成され、
サイドエアバッグ20は、折り畳まれてインフレータ22等と共にユニット化された状態で、車両用シート12におけるシートバック14のドア側サイド部14Aの内部に格納されており、
サイドエアバッグ装置10では、車両に搭載された側突ECU58が側突センサ60からの信号により側面衝突を検知すると、当該側突ECU58によってインフレータ22が作動され、インフレータ22から噴出されるガスがサイドエアバッグ20内に供給され、サイドエアバッグ20が着座乗員Pとサイドドアのドアトリムとの間に膨張展開する、
側突センサ60、車両に搭載された側突ECU58及びサイドエアバッグ装置10を備えるサイドエアバッグシステムにおいて、
サイドエアバッグ20では、着座乗員Pの胸部C、腹部B及び腰部Lの前部を拘束する前バッグ部36と、胸部C、腹部B及び腰部Lの後部を拘束する後バッグ部38とが縦仕切部32によって仕切られ、後バッグ部38を前バッグ部36よりも早期かつ高圧に膨張展開させることができるので、胸部C及び腹部Bの前部よりも相対的に耐性が高い胸部C及び腹部Bの後部を後バッグ部38によって早期に拘束することができ、
後バッグ部38の上部(前延部38A)が前バッグ部36の上方側へ延びて着座乗員Pの肩部Sを拘束し、
膨張展開した前バッグ部36の車幅方向内側面は、上下方向中央部よりも上方側が車幅方向外側へ向かうに従い上昇するように湾曲する上腕部押上面68を備え、このため、サイドエアバッグ20と着座乗員Pとが側面衝突の衝撃によって相対的に接近することにより、上腕部押上面68と着座乗員Pの上腕部Aとが摺接し、上腕部Aを上方へ押し上げる力Fが発生し、その結果、上腕部Aが前バッグ部36の上方へ押し上げられ、前延部38Aによって拘束され、
膨張展開したサイドエアバッグ20と着座乗員Pとが側面衝突の衝撃によって相対的に接近する際には、上腕部Aの押し上げ作用に加え、着座乗員Pの車幅方向外側の肩部Sが、車両前方側へ移動し、その結果、車幅方向外側の肩部Sが車両前方側へ移動する方向に着座乗員Pの上体が略垂直な軸回りに回転し、着座乗員Pの背中がサイドエアバッグ20側を向くことになり、これにより、相対的に荷重耐性が高い背中側をサイドエアバッグ20によって効果的に拘束することができ、これにより、着座乗員Pの胸部Cとサイドエアバッグ20との間に上腕部Aが介在することを抑制できるので、胸部Cの負荷を低減することができる、
側突センサ60、側突ECU58及びサイドエアバッグ装置10を備えるサイドエアバッグシステム。」

(2)引用文献2について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(2a)
「【0057】
・・・この前サイドパッド部32により、図14に示すように、シートバック14にもたれている乗員Pが背中を車両の斜め前方内側へ押され、二点鎖線で示す位置から実線で示す位置へ移動させられる。この移動方向は、車両のボディサイド部11から遠ざかる方向である。主エアバッグ50による乗員Pの拘束に先立ち、補助エアバッグ60による外側部17の押圧及び膨出が行われ、乗員Pが車内側へ移動させられる。そして、上記移動により、ボディサイド部11と乗員Pとの間の狭い空間S1が車幅方向に拡げられる。」

2 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(ア)
引用発明の「サイドエアバッグ装置10では、車両に搭載された側突ECU58が側突センサ60からの信号により側面衝突を検知すると、当該側突ECU58によってインフレータ22が作動され」る構成の「側突センサ60」は、車両に設けられ、他車両の側面衝突などによって作動することが、明らかである。
そして、本願の明細書の段落【0015】には、「他車両の側面衝突を検出する加速度(G)センサからなる側突検出手段12」と記載されているから、本願発明の「車両に設けられ他車両の側面衝突を検出する側突検出手段」は、「加速度(G)センサ」自体を意味していると理解することもできる。
そうすると、引用発明の上記の構成の「側突センサ60」は、本願発明の「車両に設けられ他車両の側面衝突を検出する側突検出手段」に相当する。
一方、本願発明の「車両に設けられ他車両の側面衝突を検出する側突検出手段」の「側面衝突を検出する」ことが、判断を伴うものであり、センサだけではできないと理解することもでき、このように理解すると、引用発明の上記の構成における「側突センサ60」及び「側突センサ60からの信号により側面衝突を検知する」「車両に搭載された側突ECU58」は、本願発明の「車両に設けられ他車両の側面衝突を検出する側突検出手段」に相当する。
(イ)
引用発明の「車両用シート12」、「シートバック14」、「サイドエアバッグ20」及び「内部に格納」は、それぞれ、本願発明の「シート」、「シートバック」、「サイドエアバッグ」及び「埋設」に相当する。
したがって、引用発明の「折り畳まれてインフレータ22等と共にユニット化された状態で、車両用シート12におけるシートバック14のドア側サイド部14Aの内部に格納されて」いる「サイドエアバッグ20」は、本願発明の「シートのシートバックに埋設され」る「サイドエアバッグ」に相当する。
(ウ)
上記(ア)を踏まえると、引用発明の「車両に搭載された側突ECU58が側突センサ60からの信号により側面衝突を検知する」ことは、本願発明の「前記側突検出手段により側面衝突が検出されたとき」に相当する。
また、引用発明の「着座乗員P」及び「着座乗員Pとサイドドアのドアトリムとの間」は、それぞれ、本願発明の「乗員」及び「乗員のドア側」に相当する。
これらのことと上記(イ)を踏まえると、引用発明の「車両に搭載された側突ECU58が側突センサ60からの信号により側面衝突を検知すると、当該側突ECU58によってインフレータ22が作動され、インフレータ22から噴出されるガスがサイドエアバッグ20内に供給され」、「着座乗員Pとサイドドアのドアトリムとの間に膨張展開する」「サイドエアバッグ20」は、本願発明の「前記側突検出手段により側面衝突が検出されたときに乗員のドア側に展開するサイドエアバッグ」に相当する。
(エ)
引用発明の「サイドエアバッグ20」に関して、配置は上記(イ)のとおりであり、動作は上記(ウ)のとおりであるから、
引用発明の「サイドエアバッグ20は、折り畳まれてインフレータ22等と共にユニット化された状態で、車両用シート12におけるシートバック14のドア側サイド部14Aの内部に格納されており、サイドエアバッグ装置10では、車両に搭載された側突ECU58が側突センサ60からの信号により側面衝突を検知すると、当該側突ECU58によってインフレータ22が作動され、インフレータ22から噴出されるガスがサイドエアバッグ20内に供給され、サイドエアバッグ20が着座乗員Pとサイドドアのドアトリムとの間に膨張展開する」構成を備える「サイドエアバッグ20」は、
本願発明の「シートのシートバックに埋設され前記側突検出手段により側面衝突が検出されたときに乗員のドア側に展開するサイドエアバッグ」に相当する。
(オ)
引用発明において、「サイドエアバッグ装置10は、サイドエアバッグ20と、該サイドエアバッグ20内でガスを発生させるインフレータ22とを主要部として構成され」るから、引用発明の「サイドエアバッグ装置10」は、「サイドエアバッグ20」を含んでいる。
そうすると、引用発明の「側突センサ60、車両に搭載された側突ECU58及びサイドエアバッグ装置10を備えたサイドエアバッグシステム」は、「側突センサ60、車両に搭載された側突ECU58」及び「サイドエアバッグ20」を備えた「サイドエアバッグシステム」でもある。
そして、引用発明の「サイドエアバッグシステム」は、本願発明の「乗員保護装置」に相当するし、上記(ア)で述べたとおり、引用発明の「側突センサ60、車両に搭載された側突ECU58」は、本願発明「側突検出手段」に相当する。
したがって、引用発明の「側突センサ60、車両に搭載された側突ECU58及びサイドエアバッグ装置10を備えたサイドエアバッグシステム」は、本願発明の「側突検出手段」と、「サイドエアバッグ」を備えた「乗員保護装置」に相当する。
(カ)
上記(オ)で述べた、引用発明の「側突センサ60、車両に搭載された側突ECU58及びサイドエアバッグ装置10を備えたサイドエアバッグシステム」すなわち「側突センサ60、車両に搭載された側突ECU58」及び「サイドエアバッグ20」を備えた「サイドエアバッグシステム」に関して、引用発明の「側突センサ60」及び「車両に搭載された側突ECU58」は、上記(ア)のとおりであり、「サイドエアバッグ20」は、上記(エ)のとおりであるから、
引用発明の
「サイドエアバッグ装置10は、サイドエアバッグ20と、該サイドエアバッグ20内でガスを発生させるインフレータ22とを主要部として構成され、
サイドエアバッグ20は、折り畳まれてインフレータ22等と共にユニット化された状態で、車両用シート12におけるシートバック14のドア側サイド部14Aの内部に格納されており、
サイドエアバッグ装置10では、車両に搭載された側突ECU58が側突センサ60からの信号により側面衝突を検知すると、当該側突ECU58によってインフレータ22が作動され、インフレータ22から噴出されるガスがサイドエアバッグ20内に供給され、サイドエアバッグ20が着座乗員Pとサイドドアのドアトリムとの間に膨張展開する、
側突センサ60、車両に搭載された側突ECU58及びサイドエアバッグ装置10を備えるサイドエアバッグシステム」は、
本願発明の
「車両に設けられ他車両の側面衝突を検出する側突検出手段と、シートのシートバックに埋設され前記側突検出手段により側面衝突が検出されたときに乗員のドア側に展開するサイドエアバッグとを備えた乗員保護装置」に相当する。

(ア)
引用発明の「サイドエアバッグ20」が、「車両に搭載された側突ECU58が側突センサ60からの信号により側面衝突を検知すると、当該側突ECU58によってインフレータ22が作動され、インフレータ22から噴出されるガスがサイドエアバッグ20内に供給され」、「着座乗員Pとサイドドアのドアトリムとの間に膨張展開する」(本願発明の「前記側突検出手段により側面衝突が検出されたときに乗員のドア側に展開する」に相当。上記ア(ウ)参照。)ときの、「膨張展開」構造及び「膨張展開」動作について、以下のことがいえる。
a
引用発明の「サイドエアバッグ20」は、「着座乗員Pとサイドドアのドアトリムとの間に膨張展開する」ことを前提とするものである。
b
引用発明の「サイドエアバッグ20」は、「着座乗員Pの胸部C、腹部B及び腰部Lの前部を拘束する前バッグ部36と、胸部C、腹部B及び腰部Lの後部を拘束する後バッグ部38とが縦仕切部32によって仕切られ」た構造となっており、「後バッグ部38を前バッグ部36よりも早期かつ高圧に膨張展開させることができるので、胸部C及び腹部Bの前部よりも相対的に耐性が高い胸部C及び腹部Bの後部を後バッグ部38によって早期に拘束することができ」る、すなわち、「胸部C」「の後部を後バッグ部38によって早期に拘束することができ」るものである。
c
引用発明の「膨張展開した前バッグ部36の車幅方向内側面は、上下方向中央部よりも上方側が車幅方向外側へ向かうに従い上昇するように湾曲する上腕部押上面68を備え、このため、サイドエアバッグ20と着座乗員Pとが側面衝突の衝撃によって相対的に接近することにより、上腕部押上面68と着座乗員Pの上腕部Aとが摺接し、上腕部Aを上方へ押し上げる力Fが発生し、その結果、上腕部Aが前バッグ部36の上方へ押し上げられ、前延部38Aによって拘束され」るという構成における動作は、「前バッグ部36」の「上腕部押上面68」に相当する部分が、「上腕部A」の下部に「膨張展開」しながら、「湾曲する」形状となって入り込むことで「上腕部押上面68」となり、「着座乗員P」の「サイドドア」側の「上腕部A」と「摺接し」、さらに上方かつ車内側に「膨張展開」を継続することで、「着座乗員P」の「サイドドア」側の「上腕部A」が「上方へ押し上げ」られ、かつ、前方ないし車内側に移動するものと理解できる。
要は、「サイドエアバッグ20」の「前バッグ部36」の「膨張展開」により、「着座乗員P」の「サイドドア」側の「上腕部A」は、上側、前側、車内側にも移動するものと理解できる。
d
引用発明において、「後バッグ部38の上部(前延部38A)が前バッグ部36の上方側へ延びて着座乗員Pの肩部Sを拘束」する。
e
引用発明の「膨張展開したサイドエアバッグ20と着座乗員Pとが側面衝突の衝撃によって相対的に接近する際には、上腕部Aの押し上げ作用に加え、着座乗員Pの車幅方向外側の肩部Sが、車両前方側へ移動し、その結果、車幅方向外側の肩部Sが車両前方側へ移動する方向に着座乗員Pの上体が略垂直な軸回りに回転し、着座乗員Pの背中がサイドエアバッグ20側を向くことになり、これにより、相対的に荷重耐性が高い背中側をサイドエアバッグ20によって効果的に拘束することができ、これにより、着座乗員Pの胸部Cとサイドエアバッグ20との間に上腕部Aが介在することを抑制できるので、胸部Cの負荷を低減することができる」という構成は、「上腕部Aの押し上げ作用に加え」、「着座乗員Pの車幅方向外側の肩部Sが、車両前方側へ移動」すること(以下「動作e1」ともいう。)」と、「着座乗員Pの上体が略垂直な軸回りに回転」すること(以下「動作e2」ともいう。)」と、「着座乗員Pの背中がサイドエアバッグ20側を向くことになり、背中側をサイドエアバッグ20によって効果的に拘束する」こと(以下「動作e3」ともいう。)」、という、3つの動作を含むものと理解できる。
f
引用発明の「サイドエアバッグ20」が、「車両に搭載された側突ECU58が側突センサ60からの信号により側面衝突を検知すると、当該側突ECU58によってインフレータ22が作動され、インフレータ22から噴出されるガスがサイドエアバッグ20内に供給され」、「着座乗員Pとサイドドアのドアトリムとの間に膨張展開する」(本願発明の「前記側突検出手段により側面衝突が検出されたときに乗員のドア側に展開する」に相当。上記ア(ウ)参照。)とき、
上記a?eから、引用発明の「サイドエアバッグ20」は、
「乗員のドア側腕部を持ち上げて」(上記c、上記eの動作e1)、
「乗員の上半身を回転させながら」(上記eの動作e2)、
「乗員の肩部を車室内側に変位させるように」(上記aの展開を前提とした、上記eの動作e2、動作e3、及び、上記bから、明らかである。)、
「腋下とドアとの間に展開する」(上記a、上記b、及び、上記cから、明らかである。)
といえる。
そして、引用発明の「サイドエアバッグ20」は、「着座乗員Pとサイドドアのドアトリムとの間に膨張展開する」ことを前提とし(上記a)、「胸部C」「の後部を後バッグ部38によって早期に拘束することができ」(上記b)るものであり、「着座乗員Pの背中がサイドエアバッグ20側を向くことになり、背中側をサイドエアバッグ20によって効果的に拘束する」こと(上記eの動作e3)になり、しかも、「後バッグ部38の上部(前延部38A)が前バッグ部36の上方側へ延びて着座乗員Pの肩部Sを拘束」する(上記d)から、実質的に、「胸部C」「の後部」や「背中側」は、「乗員のドア側の肩甲骨後側」を含んでいることが明らかであり、引用発明の「サイドエアバッグ20」は、「腋下とドアとの間」にも、「乗員のドア側の肩甲骨後側」にも展開するといえる。
(イ)
引用発明の「サイドエアバッグ20」は、上記(ア)fのとおり「膨張展開」するから、本願発明の「前記サイドエアバッグは、前記側突検出手段により側面衝突が検出されたときに、乗員のドア側腕部を持ち上げて乗員の上半身を回転させながら乗員の肩部を車室内側に変位させるように、乗員のドア側の肩甲骨後側、および、腋下とドアとの間に展開する」という構成を備えているといえる。

以上から、本願発明と引用発明は、次の点で一致し、相違点は存在しない。
<一致点>
「車両に設けられ他車両の側面衝突を検出する側突検出手段と、シートのシートバックに埋設され前記側突検出手段により側面衝突が検出されたときに乗員のドア側に展開するサイドエアバッグとを備えた乗員保護装置において、
前記サイドエアバッグは、前記側突検出手段により側面衝突が検出されたときに、乗員のドア側腕部を持ち上げて乗員の上半身を回転させながら乗員の肩部を車室内側に変位させるように、乗員のドア側の肩甲骨後側、および、腋下とドアとの間に展開する乗員保護装置。」

(2)判断

上記(1)のとおりであるから(特に上記(1)ア(カ)及び(1)イ(イ)参照。)、本願発明と引用発明とを対比すると、相違点は存在せず、本願発明は引用発明である。

仮に、引用発明の「サイドエアバッグ20」が、上記(1)イ(ア)fで述べた「乗員のドア側の肩甲骨後側」に展開する構成を備えているとまではいえず、本願発明は、「乗員のドア側の肩甲骨後側、および、」腋下とドアとの間に展開するのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点が、実質的な相違点であったとしても、上記(1)イ(ア)a?eで述べた引用発明の「サイドエアバッグ20」の「膨張展開」に係る構成及び動作、並びに、引用文献2の「シートバック14にもたれている乗員Pが背中を車両の斜め前方内側へ押され」(摘記(2a))という技術事項などを参照することで、引用発明において、「サイドエアバッグ20」が、「乗員のドア側の肩甲骨後側」にも展開するようにして、「乗員のドア側の肩甲骨後側、および、」腋下とドアとの間に展開する構成、すなわち、上記の実質的な相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たといえる。

3 小括
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本願発明は、引用文献1に記載された発明ないし引用文献2に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないし、また、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-06-11 
結審通知日 2020-06-16 
審決日 2020-06-30 
出願番号 特願2018-109128(P2018-109128)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (B60R)
P 1 8・ 121- Z (B60R)
P 1 8・ 113- Z (B60R)
P 1 8・ 572- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 敏史  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
出口 昌哉
発明の名称 乗員保護装置  
代理人 梁瀬 右司  

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