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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1365668
審判番号 不服2019-13893  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-18 
確定日 2020-09-15 
事件の表示 特願2015-208179「電力変換器」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月24日出願公開、特開2016-197987、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成27年10月22日(優先権主張平成27年4月6日)の出願であって,令和1年5月31日付けで拒絶の理由が通知され,同年7月25日に意見書が提出され,同年8月6日付けで拒絶査定(謄本送達日同年8月13日)がなされ,これに対して同年10月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ,同年11月14日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。


第2 原査定の概要

原査定(令和1年8月6日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1,2
・引用文献等1-3
・備考

<拒絶の理由を発見しない請求項>
請求項3-9に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。

<引用文献等一覧>
1.特開2009-218530号公報
2.特開2004-201439号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平6-217559号公報


第3 審判請求時の補正について

審判請求時の補正は,特許法17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1に「前記複数の巻線の間を電気的に接続する配線」を「備え」るという事項を追加する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,「前記複数の巻線の間を電気的に接続する配線」を「備え」るという事項は,当初特許請求の範囲の請求項3に記載され,当初明細書の段落0025及び0034等に記載されているから,当該補正は新規事項を追加するものとはいえない。
そして,以下第4乃至第6に示すように,補正後の請求項1乃至9に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。


第4 本願発明

本願請求項1乃至9に係る発明(以下「本願発明1」乃至「本願発明9」という。)は,令和1年10月18日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された,次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
電力の蓄積と放出を行うリアクトルを備えた電力変換器において、
前記リアクトルは、
土台となる第1磁性体と、
前記第1磁性体の上に立てた状態で配置される複数の支柱状磁性体と、
前記複数の支柱状磁性体の各々に巻かれて複数の小リアクトルを形成する複数の巻線と、
前記複数の支柱状磁性体の上に配置される第2磁性体と、
前記複数の巻線の間を電気的に接続する配線とを備え、
前記複数の小リアクトルは、前記配線により電気的に直列又は並列に接続され、それぞれ生じる磁束が、隣接する前記小リアクトルで生じる磁束と逆向きとなるように配置されることを特徴とする電力変換器。
【請求項2】
前記リアクトルは、直列接続された前記複数の小リアクトルから成る組を、複数組電気的に並列に接続して構成されることを特徴とする請求項1記載の電力変換器。
【請求項3】
放熱器と、
前記放熱器の上に配置され、前記配線を含む配線基板と、
を更に備え、
前記第1磁性体は、前記複数の巻線と前記配線とを電気的に接続するために前記複数の巻線の各端部が導入される貫通孔を有し、
前記配線基板は、前記配線が、前記第1磁性体及び前記放熱器と絶縁されるように構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の電力変換器。
【請求項4】
前記配線は、前記複数の巻線の間を電気的に接続するようにパターニングされた金属板からなり、
前記配線基板は、前記金属板と、前記金属板と前記放熱器との間を絶縁する絶縁体とから構成されることを特徴とする請求項3に記載の電力変換器。
【請求項5】
前記配線は、前記複数の巻線の間を電気的に接続するようにパターニングされた金属板からなり、
前記配線基板は、前記放熱器の上に形成された樹脂材料又は接着剤からなる第1絶縁体と、
前記金属板と、前記金属板の上に形成された樹脂材料からなる第2絶縁体とから構成されることを特徴とする請求項3又は4に記載の電力変換器。
【請求項6】
前記放熱器の下面にそれぞれ配置され、前記リアクトルとそれぞれ接続される、半導体スイッチング素子を含むパワーモジュール回路、第1回路基板及びコンデンサと、前記第2磁性体の上に配置され、前記リアクトルと接続される第2回路基板とのうち、少なくともいずれかを更に備えることを特徴とする請求項3?5のいずれか1項に記載の電力変換器。
【請求項7】
前記複数の巻線は、前記複数の支柱状磁性体の各々に巻かれて複数の第1小リアクトルを形成する複数の第1巻線と、前記複数の支柱状磁性体の各々に巻かれて複数の第2小リアクトルを形成する複数の第2巻線とを有し、
前記複数の第1小リアクトル及び前記複数の第2小リアクトルは、互いに絶縁するように、それぞれ電気的に直列又は並列に接続され、
前記複数の第1小リアクトル及び前記複数の第2小リアクトルは、それぞれ生じる磁束が隣接する前記複数の第1小リアクトル及び前記複数の第2小リアクトルで生じる磁束と逆向きとなるように配置されることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の電力変換器。
【請求項8】
前記複数の支柱状磁性体は、前記複数の第1巻線がそれぞれ巻かれた複数の第1支柱状磁性体と、前記複数の第2巻線がそれぞれ巻かれた複数の第2支柱状磁性体とが接合されることにより構成されることを特徴とする請求項7に記載の電力変換器。
【請求項9】
前記複数の巻線は、前記複数の支柱状磁性体のうち隣接する前記支柱状磁性体に巻かれないように、前記支柱状磁性体に互い違いに巻かれて複数の第1小リアクトルを形成する複数の第1巻線と、前記複数の支柱状磁性体のうち前記第1巻線が巻かれない残りの前記支柱状磁性体に巻かれて複数の第2小リアクトルを形成する複数の第2巻線とを有し、
前記複数の第1小リアクトル及び前記複数の第2小リアクトルは、互いに絶縁するようにそれぞれ電気的に直列又は並列に接続され、
前記複数の第1小リアクトル及び前記複数の第2小リアクトルは、生じる磁束が互いに逆方向になるように配置されることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の電力変換器。」


第5 引用例

1 引用例1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2009-218530号公報(平成21年9月24日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)

A 「【0001】
本発明は、各種電子機器に使われる電子部品の一つである多連インダクタ及びその製造方法に関するものである。」

B 「【0028】
なおコイル部19の巻線方向は同じとしているが、複数のコイル部19が、磁気的に干渉しない場合には、逆方向に連続巻きしても構わない。」

C 「【0036】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2について図3?図4を参照しながら具体的に説明する。実施の形態1と実施の形態2との違いは、複数個のコイル部19に対して、複数組のコア部12で対応するか、一体化した一組のコア部12で対応するかの違いである。
【0037】
図3は、実施の形態2で説明する多連チョークコイル11の斜視図である。図3において、コア部12は、第1、第2のコア13、14から構成している。また第1、第2のコア13、14の内部には複数個の中脚20(図示していない)を形成している。
【0038】
図4は、実施の形態2の多連チョークコイル11の構成部材を説明する分解斜視図である。図4に示すように、第1、第2のコア13、14は、巻線コイル15のコイル部19の数に応じて中脚20を形成している。ここで第1、第2のコア13、14に形成する外脚16は、実施の形態1を示す図2と異なり、一体化して1組のコアとしている。このことにより、配線接続部24が、外部から、完全に遮蔽され、ノイズなどの影響は、全く受けなくなる。また、コア13、14を組み込む回数も削減できるため、生産性も向上する。
【0039】
なお、コア部12は、第1のコア13と第2のコア14を組み合せた1組の状態でコイル部19の数に応じた数の中脚20と有するとともに、各々の中脚に対応する外脚を一体化して形成していれば、その効果は、得られるものであり、必ずしも各々のコア13、14の両方に中脚20を設ける必要はないものである。例えば、一方のコアが、平板状に形成された場合は、組み合せるもう一方のコアにのみ、コイル部19の数に応じた中脚20を設けてやればよい。
【0040】
また、ここで説明した外脚16は、中脚20の両側に2面形成しているが、一体化さえしていれば、片側のみ1面であってもよい。」

D 「【0059】
なお、本発明のここまでの全ての説明において、チョークコイルという表現を用いて説明してきたが、インダクタという一般的な表現に置き換えてもその効果は同じである。」

E 「

図4」

2 引用発明
(ア)上記記載事項Aの「本発明は、各種電子機器に使われる電子部品の一つである多連インダクタ…(中略)…に関するものである。」との記載から,引用例1には,“電子機器に使われる多連インダクタ”が記載されているといえる。

(イ)上記記載事項Cの段落0038の「図4は、実施の形態2の多連チョークコイル11の構成部材を説明する分解斜視図である。図4に示すように、第1、第2のコア13、14は、巻線コイル15のコイル部19の数に応じて中脚20を形成している。」との記載,及び上記記載事項Eの図4の態様から,第1のコア13及び第2のコア14が,巻線コイル15のコイル部19の数に応じて中脚20を形成している多連チョークコイルを読取ることができる。
また,上記記載事項Dの「チョークコイルという表現を用いて説明してきたが、インダクタという一般的な表現に置き換えてもその効果は同じ」との記載から,上記多連チョークコイルは,一般的には“インダクタ”と言いうることが読み取れるから,上記(ア)の認定事項も踏まえ,引用例1には,“前記多連インダクタは,第1のコア13及び第2のコア14が,巻線コイル15のコイル部19の数に応じて中脚20を形成し”ていることが記載されているといえる。

(ウ)上記記載事項Cの段落0038の「第1、第2のコア13、14に形成する外脚16は、…(中略)…一体化して1組のコアとしている。このことにより、配線接続部24が、外部から、完全に遮蔽され、ノイズなどの影響は、全く受けなくなる。」との記載,及び上記記載事項Eの図4の,特に配線接続部24と巻線コイル15のコイル部19との接続関係から,“第1のコア13及び第2のコア14には外脚16が形成され一体化して1組のコアとされている”態様,及び,“配線接続部24が複数の巻線コイル15のコイル部19同士を接続している”態様を読取ることができるから,上記(イ)の認定事項も踏まえ,引用例1には,“前記第1のコア13及び前記第2のコア14には外脚16が形成され一体化して1組のコアとされており,配線接続部24が複数の前記巻線コイル15のコイル部19同士を接続し”ていることが記載されているといえる。

(エ)上記記載事項Bの「コイル部19の巻線方向は同じとしているが、複数のコイル部19が、磁気的に干渉しない場合には、逆方向に連続巻きしても構わない。」との記載,及び上記(イ)及び(ウ)の認定事項から,引用例1には,“前記コイル部19の巻線方向は,前記複数のコイル部19が,磁気的に干渉しない場合には,逆方向に連続巻きしても構わない”ことが記載されているといえる。

(オ)上記(ア)乃至(エ)の認定事項より,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「電子機器に使われる多連インダクタであって,
前記多連インダクタは,第1のコア13及び第2のコア14が,巻線コイル15のコイル部19の数に応じて中脚20を形成し,
前記第1のコア13及び前記第2のコア14には外脚16が形成され一体化して1組のコアとされており,配線接続部24が複数の前記巻線コイル15のコイル部19同士を接続し,
前記コイル部19の巻線方向は,前記複数のコイル部19が,磁気的に干渉しない場合には,逆方向に連続巻きしても構わない
多連インダクタ。」

3 引用例2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2004-201439号公報(平成16年7月15日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

F 「【0162】
[実施の形態2]
図8を参照して、実施の形態2による電圧変換システム100Aは、電圧変換システム100の昇圧コンバータ12を昇圧コンバータ12Aに代え、制御装置30を制御装置30Aに代えたものであり、その他は、電圧変換システム100と同じである。」

G 「

図8」

4 引用例3に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開平6-217559号公報(平成6年8月5日公開。以下,これを「引用例3」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

H 「【0012】また、図6は、交流側に特性の異なるリアクトルを直列接続したものを複数個並列に接続し、検出信号は変圧器3の励磁特性により近い特性にすることができる。これは、互いに特性の異なる可飽和リアクトル21およびリアクトル23の直列接続したものと、可飽和リアクトル22およびリアクトル24の直列接続したものを並列に接続し、各々に流れる電流を電流検出器25,26により検出し、加算器27により合成して演算器28で波形成形し、変圧器3の励磁特性により近づける。」

I 「

図6」


第6 対比・判断

1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

(あ)引用発明の「多連インダクタ」と,本願発明1の「リアクトル」とは,“インダクタ”である点で一致する。
また,引用発明の「電子機器」と,本願発明1の「電力変換器」は,共に“電気機器”である点で共通するといえるから,引用発明と本願発明1とは,“インダクタを備えた電気機器”である点で一致する。

(い)引用発明の「第1のコア13及び第2のコア14」は,「巻線コイル15のコイル部19の数に応じて中脚20を形成」するものであり,また,「前記第1のコア13及び前記第2のコア14には外脚16が形成され一体化して1組のコアとされて」いることから,引用発明の「第1のコア13及び第2のコア14」は,それぞれ本願発明1の「第2磁性体」及び「第1磁性体」に対応する。
また,引用発明の「巻線コイル15のコイル部19の数に応じて」形成される「中脚20」は,本願発明1の「支柱状磁性体」に相当し,「第2のコア14」との配置関係からして,上記認定事項を踏まえれば,“第1磁性体の上に立てた状態で配置される複数の支柱状磁性体”といい得る。
さらに,当該引用発明の「第2のコア14」は,当該“支柱状磁性体”の土台となっていて,“土台となる第1磁性体”といえるから,以上総合して引用発明と本願発明1とは,“インダクタ”が,“土台となる第1磁性体”と,“前記第1磁性体の上に立てた状態で配置される複数の支柱状磁性体”とを備える点で一致する。

(う)引用発明の「巻線コイル15のコイル部19」は,本願発明1の「巻線」に相当すると共に,引用発明の「巻線コイル15」は,本願発明1の「小リアクトル」に相当し,上記(い)の認定事項を踏まえれば,引用発明と本願発明1とは,“インダクタ”が,“前記複数の支柱状磁性体の各々に巻かれて複数の小リアクトルを形成する複数の巻線”を備える点で一致する。

(え)引用発明の「第1のコア13」は,「第2のコア14」と「外脚16が形成され一体化して1組のコアとされ」るものであることから,本願発明1の「第2磁性体」に相当するといえ,上記(い)の認定事項も踏まえれば,本願発明1と“前記複数の支柱状磁性体の上に配置される第2磁性体”である点で一致するといえる。
また,引用発明の「配線接続部24」は,「複数の前記巻線コイル15のコイル部19同士を接続し」ていることから,本願発明の「複数の巻線の間を電気的に接続する配線」に相当するといえるから,以上総合して引用発明と本願発明1とは,“インダクタ”が,“前記複数の支柱状磁性体の上に配置される第2磁性体”と,“前記複数の巻線の間を電気的に接続する配線とを備え”る点で一致する。

(お)引用発明の「複数の前記巻線コイル15のコイル部19同士」は,「配線接続部24」によって「接続」されていて,当該接続状態は直列に接続されているといえることから,引用発明と本願発明1とは,“前記複数の小リアクトルは,前記配線により電気的に直列又は並列に接続され”る点で一致する。

(か)以上,(あ)乃至(お)の検討から,引用発明と本願発明1とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
インダクタを備えた電気機器であって,
前記インダクタは,
土台となる第1磁性体と,
前記第1磁性体の上に立てた状態で配置される複数の支柱状磁性体と,
前記複数の支柱状磁性体の各々に巻かれて複数の小リアクトルを形成する複数の巻線と,
前記複数の支柱状磁性体の上に配置される第2磁性体と,
前記複数の巻線の間を電気的に接続する配線とを備え,
前記複数の小リアクトルは,前記配線により電気的に直列又は並列に接続された
電気機器。

〈相違点1〉
本件補正発明のインダクタが,「電力の蓄積と放出を行うリアクトル」であり,また電気機器が「電力変換器」であるのに対し,引用発明のインダクタは,「電子機器に使われる多連インダクタ」である点。

〈相違点2〉
本件補正発明の「複数の小リアクトル」は,「それぞれ生じる磁束が、隣接する前記小リアクトルで生じる磁束と逆向きとなるように配置される」のに対し,引用発明は,「前記コイル部19の巻線方向は,前記複数のコイル部19が,磁気的に干渉しない場合には,逆方向に連続巻きしても構わない」ものであるものの,隣接する第1,第2コアの巻線同士によって形成される磁束の向きについて特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み,先に相違点2について検討する。
引用発明は,引用例1の段落0006に記載された,「従来の多連インダクタの構造では、複数個のコイルを1組のコアに収納することで、部品点数の削減は可能であるが、個々に独立形成したコイル同士を、半田付け等を用いて接続する必要があり、半田付けによる信頼性低下や電気抵抗増加が懸念される。」との課題に対し,「配線接続部24が複数の前記巻線コイル15のコイル部19同士を接続」する構成を有するものである。
そして引用発明は,「前記コイル部19の巻線方向は,前記複数のコイル部19が,磁気的に干渉しない場合には,逆方向に連続巻きしても構わない」ものであるものの,当該コイル部19に流れる電流については特定しておらず,引用例1には,上記第5の1に摘記した箇所以外を参照しても,複数の隣接する巻線コイル15が形成する磁束の方向を逆向きにすることについては記載も示唆もされていない。むしろ,例えば上記記載事項Iの図6の巻線コイル15の態様にみられるように,隣接する巻線コイル15のコイル部19同士の磁束方向は,その電流が流れる方向から見て,同じ向きであることが読み取れるものであることや,引用発明において,第1のコア13及び第2のコア14を1組のコアとした状態で,仮に,複数のコイル部における磁束の方向を逆にした場合,当該1組のコアを介して複数のコイル部の磁束同士が互いに干渉する結果を生じ,このことは,引用発明における「磁気的に干渉しない」ことと矛盾するものであることから,当業者といえども相違点2に係る構成,すなわち,「複数の小リアクトル」について,「それぞれ生じる磁束」を「隣接する前記小リアクトルで生じる磁束と逆向きとなるように配置」する構成を導き出すことは容易とはいえない。
さらに,上記第5の3及び4に示した,引用例2及び3に記載された技術的事項をもってしても,相違点2に係る構成を見いだすことはできない。

(3)小括
したがって,上記相違点1について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用例2乃至3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2乃至9について
本願発明2乃至9は,本願発明1を直接または間接的に引用するものであり,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例2乃至3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 原査定について

<特許法29条2項について>
審判請求時の補正により,本願発明1乃至9は「前記複数の小リアクトルは、前記配線により電気的に直列又は並列に接続され、それぞれ生じる磁束が、隣接する前記小リアクトルで生じる磁束と逆向きとなるように配置される」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1乃至3(上記第5の引用例1乃至3)に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由1を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-08-26 
出願番号 特願2015-208179(P2015-208179)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 麻生 哲朗  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山崎 慎一
小林 秀和
発明の名称 電力変換器  
代理人 三好 秀和  

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