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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1365784
審判番号 不服2019-10620  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-09 
確定日 2020-09-10 
事件の表示 特願2015-100072号「カメラ用レンズユニットおよび車載カメラ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月22日出願公開、特開2016-218139号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)5月15日に特許出願されたであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 9月21日付け:拒絶理由通知
平成30年11月29日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 4月26日付け:拒絶査定(謄本発送 令和元年5月14日)
令和元年 8月 9日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和元年8月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年8月9日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1(補正前の請求項2)の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられたレンズ群と、前記レンズ群を一体に支持する鏡筒と、撮像センサに対して前記鏡筒を位置決めした状態で支持する支持部材とを備え、前記鏡筒の外周の接着部と前記支持部材の内周の接着部とが接着剤により接合され、前記接着剤による接着面の前記撮像センサ側において前記鏡筒の外周と前記支持部材の内周との間に空間が形成されており、
前記鏡筒に支持された前記レンズ群を備える光学系の前記バックフォーカスが温度上昇時に収縮する場合に、温度上昇時に前記レンズ群と前記撮像センサとの距離が短くなるように、前記鏡筒の線膨張率が、前記支持部材の線膨張率より高くされており、
像面の中央に集光する光線について、基準温度25℃のMTF・デフォーカスカーブのピーク位置に対する、-40℃から+105℃の温度域におけるMTF・デフォーカスカーブのピーク位置のシフト量の最大値の前記基準温度における前記光学系の焦点距離に対する比が0.0015以下に設定されていることを特徴とするカメラ用レンズユニット。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年11月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2の記載は次のとおりである
(なお、審判請求書の【請求の理由】「4.補正の適法性」に「この度の補正は、請求項1と請求項2の入れ替えを行い、請求項3-6を削除し、請求項7、8を繰り上げて請求項3、4とした。」と記載されているように、本件補正における請求項1は、本件補正前の請求項2である。)。
「【請求項2】
複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられたレンズ群と、前記レンズ群を一体に支持する鏡筒と、撮像センサに対して前記鏡筒を位置決めした状態で支持する支持部材とを備え、
前記鏡筒に支持された前記レンズ群を備える光学系の前記バックフォーカスが温度上昇時に収縮する場合に、温度上昇時に前記レンズ群と前記撮像センサとの距離が短くなるように、前記鏡筒の線膨張率が、前記支持部材の線膨張率より高くされており、
像面の中央に集光する光線について、設定された基準温度のMTF・デフォーカスカーブのピーク位置に対する、-40℃から+105℃の温度域におけるMTF・デフォーカスカーブのピーク位置のシフト量の最大値の前記基準温度における前記光学系の焦点距離に対する比が0.0015以下に設定されていることを特徴とするカメラ用レンズユニット。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項2に記載された発明を特定するために必要な事項である「鏡筒」と「支持部材」に関して、「前記鏡筒の外周の接着部と前記支持部材の内周の接着部とが接着剤により接合され、前記接着剤による接着面の前記撮像センサ側において前記鏡筒の外周と前記支持部材の内周との間に空間が形成されており」との限定を付加するとともに、本件補正前に「設定された基準温度」とあったものを「基準温度25℃」と限定する補正をするものであって、補正前の請求項2に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1」「(1)」に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である国際公開第2014/167994号(2014年10月16日に国際公開。以下「引用文献」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
(ア)「技術分野
[0001] 本発明は、レンズ等の撮像光学系によって結像される被写体の像を撮像素子によって撮像する撮像装置に関するものであり、温度変化が大きい環境で使用される撮像装置に関する。」

(イ)「発明を実施するための形態
[0022] 図1及び図2に示すように、撮像装置10は、撮像レンズ11と撮像素子12を備え、撮像レンズ11によって結像される被写体の像を撮像素子12によって撮像する。撮像装置10は、例えば、自動車の室内に設置される車載カメラである。
[0023] 撮像レンズ11は、固定焦点レンズであり、例えば、レンズやミラー、プリズム等から構成され、必要に応じて光学フィルタ等の実質的にパワーを有しない部材を含む。撮像レンズ11の光軸L1はレンズ鏡胴13及び中間部材15の中心軸でもある。図1では、一例として6枚のレンズからなる撮像レンズ11を示しているが、各レンズの厚さや面形状、レンズの枚数やその他の部材の有無は任意である。また、撮像レンズ11を構成する各レンズは、例えば全てガラスレンズであり、レンズ鏡胴13によって互いに所定の位置関係を保って保持される。
[0024] レンズ鏡胴13は円筒部13aとフランジ部13b,13cを有し、全体としてはほぼ円筒状の部材である。また、レンズ鏡胴13は中間部材15に接合され、中間部材15を介して撮像素子12に対する位置が固定される。すなわち、撮像レンズ11は、直接的にはレンズ鏡胴13に保持されるが、全体としては、レンズ鏡胴13と中間部材15の二重構造によって撮像素子12に対する位置が固定される。・・・
[0030] なお、レンズ鏡胴13は、例えば、アルミニウムや黄銅等の金属や、ポリカーボネート(PC),ポリアミド(PA),ポリフタルアミド(PPA),ポリフェニレンエーテル(PPE),ポリブチレンテレフタラート(PBT),ポリフェニレンサルファイド(PPS)に代表される樹脂で形成される。金属で形成する場合、レンズ鏡胴13の線膨張係数は、概ね10×10^(-6)K^(-1)以上30×10^(-6)K^(-1)以下であることが好ましい。樹脂で形成する場合、レンズ鏡胴13の線膨張係数は、概ね10×10^(-6)K^(-1)以上70×10^(-6)K^(-1)以下であることが好ましい。すなわち、レンズ鏡胴13の線膨張係数を10×10^(-6)K^(-1)以上70×10^(-6)K^(-1)以下にして、レンズ鏡胴13等の寸法を決定すれば、金属または樹脂から適切な材料を容易に選出することできる。
[0031] 中間部材15は、一端でレンズ鏡胴13を保持し、他端でレンズホルダ16に固定されることにより、撮像レンズ11の合焦位置に撮像素子12が位置するように、撮像素子12に対して撮像レンズ11を固定する。
[0032] 中間部材15は、前端部(被写体側の端部)に、内周面側(光軸L1側)に突出するフランジ部15aを有する。フランジ部15aの後面27(撮像素子12側の表面)は、レンズ鏡胴13のフランジ部13bの前面26と当接して接合される。このフランジ部15aの後面27とフランジ部13bの前面26を接合した接合面(当接面)41によって、中間部材15はレンズ鏡胴13を保持する。フランジ部15aの後面27とフランジ部13bは接着剤によって接合される。接着剤の種類は任意であるが、温度変化によって劣化しにくいものを用いることが好ましい。
[0033] フランジ部15aの後側(撮像素子12側)には、レンズ鏡胴13が嵌め込まれる胴部15bが設けられている。胴部15bのフランジ部13bと嵌合する部分の径は、フランジ部13bの突出量を含めたレンズ鏡胴13の径にほぼ合致するように定められており、内面23とフランジ部13bの側面21が当接する。但し、胴部15bの内面23とフランジ部13bの側面21が接合されていない場合は、中間部材15やレンズ鏡胴13が膨張(あるいは収縮)した場合、フランジ部13bは変形することなく、内面23に当接しつつ胴部15bに対してスライドする。なお、フランジ部13bの前面26からレンズ面11bまでの長さと比較してフランジ部13bが薄く、膨張や収縮による影響が少ない場合には、内面23と側面21が接合されていても良い。・・・
[0038] なお、中間部材15は、例えば、PC,PBT,PPS,液晶ポリマー(LCP)等に代表される樹脂で形成され、線膨張係数は概ね0.1×10^(-6)K^(-1)以上40×10^(-6)K^(-1)以下であることが好ましい。中間部材15の材料は、少なくともレンズ鏡胴13及びレンズホルダ16と線膨張係数が異なるように選択される。すなわち、中間部材15の線膨張係数を0.1×10^(-6)K^(-1)以上40×10^(-6)K^(-1)以下にして中間部材15等の寸法等を決定すれば、上述の樹脂材料の中から適切な樹脂材料を容易に選出することができる。・・・
[0041] 以下、撮像装置10の作用を中間部材15とレンズホルダ16が接合位置42でのみ接着されているとして、説明する。まず、図3(A)に示すように、例えば気温20℃の常温環境で、バックフォーカスが撮像レンズ11の最後面11bから撮像素子12の撮像面に一致しており、被写体の像の焦点位置が合うように組み立てられているとする。この場合、撮像レンズ11のバックフォーカスがA_(0)(mm)、レンズホルダ16の土台部16bの長さがB_(0)(mm)、レンズ鏡胴13と中間部材15の接合面41からレンズホルダ16と中間部材15の接合面42の長さがC_(0)(mm)、接合面41から撮像レンズ11の最後面11bが光軸と交わる位置までの長さD_(0)(mm)であり、駆動基板17から撮像素子12の撮像面までの距離をΔ(mm)とすれば、Δ=B_(0)+C_(0)-D_(0)-A_(0)である。
[0042] 図3(B)に示すように、撮像レンズ10の周辺の温度がたとえば80℃の高温環境では、撮像装置10の各部は膨張し、レンズホルダ16の土台部16bの長さがB_(1)(>B_(0))、接合面41から接合面42の長さC_(1)(>C_(0))、接合面41から撮像レンズ11の最後面11bの長さがD_(1)(>D_(0))にそれぞれ膨張する。撮像レンズ11を全てガラスレンズとした場合、撮像レンズ11を構成する各レンズの膨張を無視するとしても、撮像レンズ11を直接保持するレンズ鏡胴13が膨張したことにより、各レンズの間隔が長くなるので、バックフォーカスは例えばA_(1)(mm)に短くなる(A_(1)<A_(0))。
[0043] これらの各長さの変化のうち、レンズホルダ16の土台部16bの膨張、接合面41から接合面42の中間部材15の膨張、レンズ鏡胴13の膨張によるバックフォーカスの短縮は、全て温度上昇に応じて焦点位置を被写体側にずらす(いわゆる前ピンにする)作用を示す。レンズ鏡胴13の膨張は、中間部材15の接合面41を基準として撮像素子12側に伸びる膨張なので、レンズホルダ16及び中間部材15の膨張とバックフォーカスの短縮を打ち消す作用を示す。したがって、撮像装置10は、撮像レンズ11をレンズ鏡胴13と中間部材15の二重構造によって、撮像素子12との距離を固定していることにより、レンズ鏡胴13と中間部材15とレンズホルダ16の各材料(線膨張係数)と、接合面41,42,43間の長さを適切に選択することにより、少なくとも、温度変化によるフォーカス移動を低減することができる。特に、Δ=B_(0)+C_(0)-D_(0)-A_(0)=B_(1)+C_(1)-D_(1)-A_(1)を満たすように、レンズ鏡胴13と中間部材15とレンズホルダ16の各材料(線膨張係数)と、接合面41,42,43間の長さを適切に選択すれば、温度変化によるフォーカス移動を防止することができる。」

(ウ)FIG.1ないし3は次のものである。
FIG.1


FIG.2


FIG.3


(エ)上記(ア)及び(イ)の記載を踏まえて、上記(ウ)のFIG.1ないし3を見ると、
a レンズ鏡胴13のフランジ部13bは、レンズ鏡胴13の外周面側に突出するフランジ部13bであること。
b 中間部材15のフランジ部15aの後面27(撮像素子12側の表面)とレンズ鏡胴13のフランジ部13bの前面26を接合した接合面(当接面)41の撮像素子12側において、前記レンズ鏡胴13の外周と前記中間部材15の内周との間に空間が形成されていること(後記参考図参照)。
がそれぞれ見てとれる。
【参考図】

イ 上記アによれば、引用文献には下記各事項が記載されていると認められる。
(ア)「撮像レンズ11は、固定焦点レンズであり、」「撮像レンズ11の光軸L1はレンズ鏡胴13及び中間部材15の中心軸で」あり、「6枚のレンズからな」り「レンズ鏡胴13によって互いに所定の位置関係を保って保持される」([0023])から、撮像レンズは、複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられたレンズ群からなるといえる。

(イ)「撮像レンズ11は、直接的にはレンズ鏡胴13に保持される」([0024])から、レンズ鏡胴は、撮像レンズを保持するといえる。

(ウ)「中間部材15は、一端でレンズ鏡胴13を保持し、他端でレンズホルダ16に固定されることにより、撮像レンズ11の合焦位置に撮像素子12が位置するように、撮像素子12に対して撮像レンズ11を固定する」([0031])から、中間部材は、撮像素子に対して撮像レンズとレンズ鏡胴を撮像レンズの合焦位置に撮像素子が位置するように保持するといえる。

(エ)「中間部材15は、前端部(被写体側の端部)に、内周面側(光軸L1側)に突出するフランジ部15aを有」し、「フランジ部15aの後面27(撮像素子12側の表面)は、レンズ鏡胴13のフランジ部13bの前面26と当接して接合され」、「このフランジ部15aの後面27とフランジ部13bの前面26を接合した接合面(当接面)41によって、中間部材15はレンズ鏡胴13を保持」し、「フランジ部15aの後面27とフランジ部13bは接着剤によって接合される」([0032])、ところ、「レンズ鏡胴13のフランジ部13bは、レンズ鏡胴13の外周面側に突出するフランジ部13bである」(上記「ア」「(エ)」「a」)から、レンズ鏡胴の外周面側に突出するフランジ部の前面の接合面と、中間部材の内周面側に突出するフランジ部の後面(撮像素子側の表面)の接合面とが、接着剤によって接合されるといえる。

(オ)「撮像レンズ10の周辺の温度が」「80℃の高温環境では、」「レンズホルダ16の土台部16bの長さがB_(1)(>B_(0))、接合面41から接合面42の長さC_(1)(>C_(0))、接合面41から撮像レンズ11の最後面11bの長さがD_(1)(>D_(0))にそれぞれ膨張し、「バックフォーカスは」「A_(1)(mm)に短くな」([0042])るところ、「これらの各長さの変化のうち、レンズホルダ16の土台部16bの膨張、接合面41から接合面42の中間部材15の膨張、レンズ鏡胴13の膨張によるバックフォーカスの短縮は、全て温度上昇に応じて焦点位置を被写体側にずらす(いわゆる前ピンにする)作用を示」し、「レンズ鏡胴13の膨張は、中間部材15の接合面41を基準として撮像素子12側に伸びる膨張なので、レンズホルダ16及び中間部材15の膨張とバックフォーカスの短縮を打ち消す作用を示す」から、「Δ=B_(0)+C_(0)-D_(0)-A_(0)=B_(1)+C_(1)-D_(1)-A_(1)を満たすように、レンズ鏡胴13と中間部材15とレンズホルダ16の各材料(線膨張係数)と、接合面41,42,43間の長さを適切に選択すれば、温度変化によるフォーカス移動を防止することができる」([0043])から、レンズ鏡胴に保持された撮像レンズに関して、温度上昇に応じて焦点位置を被写体側にずらす、レンズホルダの土台部の膨張、接合面から接合面の中間部材の膨張、レンズ鏡胴の膨張によるバックフォーカスの短縮が生じるため、当該バックフォーカスの短縮を打ち消す作用を示し、温度変化によるフォーカス移動を防止するべく、レンズ鏡胴と中間部材とレンズホルダの各材料(線膨張係数)と、接合面間の長さを適切に選択するといえる。

(カ)「撮像装置10は、撮像レンズ11と撮像素子12を備え、撮像レンズ11によって結像される被写体の像を撮像素子12によって撮像する」「車載カメラである」([0022])から、車載カメラ用の撮像レンズを備えた撮像装置であるといえる。

ウ 上記ア及びイから、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられたレンズ群からなる撮像レンズと(上記「イ」「(ア)」)、撮像レンズを保持するレンズ鏡胴と(上記「イ」「(イ)」)、撮像素子に対して撮像レンズとレンズ鏡胴を撮像レンズの合焦位置に撮像素子が位置するように保持する中間部材と(上記「イ」「(ウ)」)を備え、
前記レンズ鏡胴の外周面側に突出するフランジ部の前面の接合面と、前記中間部材の内周面側に突出するフランジ部の後面(撮像素子側の表面)の接合面とが、接着剤によって接合され(上記「イ」「(エ)」)、前記中間部材のフランジ部の後面(撮像素子側の表面)と前記レンズ鏡胴のフランジ部の前面を接合した接合面(当接面)の撮像素子側において、前記レンズ鏡胴の外周と前記中間部材の内周との間に空間が形成されており(上記「ア」「(エ)」「(b)」)、
前記レンズ鏡胴に保持された前記撮像レンズに関して、温度上昇に応じて焦点位置を被写体側にずらす、バックフォーカスの短縮が生じるため、当該バックフォーカスの短縮を打ち消す作用を示し、温度変化によるフォーカス移動を防止するべく、前記レンズ鏡胴と前記中間部材とレンズホルダの各材料(線膨張係数)と、接合面間の長さを適切に選択する(上記「イ」「(オ)」)、
車載カメラ用の撮像レンズを備えた撮像装置(上記「イ」「(カ)」)。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられたレンズ群からなる撮像レンズ」は、本件補正発明の「複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられたレンズ群」に相当する。

(イ)引用発明の「撮像レンズを保持するレンズ鏡胴」は、本件補正発明の「前記レンズ群を一体に支持する鏡筒」に相当する。

(ウ)引用発明の「撮像素子に対して撮像レンズとレンズ鏡胴を撮像レンズの合焦位置に撮像素子が位置するように保持する中間部材」は、本件補正発明の「撮像センサに対して前記鏡筒を位置決めした状態で支持する支持部材」に相当する。

(エ)引用発明の「前記レンズ鏡胴の外周面側に突出するフランジ部の前面の接合面と、前記中間部材の内周面側に突出するフランジ部の後面(撮像素子側の表面)の接合面とが、接着剤によって接合され」ることは、本件補正発明の「前記鏡筒の外周の接着部と前記支持部材の内周の接着部とが接着剤により接合され」ていることと、「前記鏡筒の接着部と前記支持部材の接着部とが接着剤により接合され」ている点で一致する。

(オ)引用発明の「前記中間部材のフランジ部の後面(撮像素子側の表面)と前記レンズ鏡胴のフランジ部の前面を接合した接合面(当接面)の撮像素子側において、前記レンズ鏡胴の外周と前記中間部材の内周との間に空間が形成されて」いることは、本件補正発明の「前記接着剤による接着面の前記撮像センサ側において前記鏡筒の外周と前記支持部材の内周との間に空間が形成されて」いることに相当する。

(カ)引用発明の「前記レンズ鏡胴に保持された前記撮像レンズに関して、温度上昇に応じて焦点位置を被写体側にずらす、バックフォーカスの短縮が生じる」ことは、本件補正発明の「前記鏡筒に支持された前記レンズ群を備える光学系の前記バックフォーカスが温度上昇時に収縮する」ことに相当する。
よって、引用発明の、「前記レンズ鏡胴に保持された前記撮像レンズに関して、温度上昇に応じて焦点位置を被写体側にずらす、バックフォーカスの短縮が生じるため、当該バックフォーカスの短縮を打ち消す作用を示し、温度変化によるフォーカス移動を防止するべく、前記レンズ鏡胴と前記中間部材とレンズホルダの各材料(線膨張係数)と、接合面間の長さを適切に選択する」ことは、本件補正発明の「前記鏡筒に支持された前記レンズ群を備える光学系の前記バックフォーカスが温度上昇時に収縮する場合に、温度上昇時に前記レンズ群と前記撮像センサとの距離が短くなるように、前記鏡筒の線膨張率が、前記支持部材の線膨張率より高くされて」いることと、「前記鏡筒に支持された前記レンズ群を備える光学系の前記バックフォーカスが温度上昇時に収縮する場合に、温度上昇時に前記レンズ群と前記撮像センサとの距離が短くなるように、前記鏡筒の線膨張率と、前記支持部材の線膨張率が適切に選択されて」いる点で一致する。

(キ)引用発明の「車載カメラ用の撮像レンズを備えた撮像装置」は、本件補正発明の「カメラ用レンズユニット」に相当する。

イ 以上アでの検討を踏まえると、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられたレンズ群と、前記レンズ群を一体に支持する鏡筒と、撮像センサに対して前記鏡筒を位置決めした状態で支持する支持部材とを備え、前記鏡筒の接着部と前記支持部材の接着部とが接着剤により接合され、前記接着剤による接着面の前記撮像センサ側において前記鏡筒の外周と前記支持部材の内周との間に空間が形成されており、
前記鏡筒に支持された前記レンズ群を備える光学系の前記バックフォーカスが温度上昇時に収縮する場合に、温度上昇時に前記レンズ群と前記撮像センサとの距離が短くなるように、前記鏡筒の線膨張率と、前記支持部材の線膨張率が選択されている、
カメラ用レンズユニット。」

【相違点1】
鏡筒のと支持部材とが接着剤により接合されるに際して、本件補正発明は、鏡筒の「外周の」接着部と支持部材の「内周の」接着部とが接着剤により接合されるのに対して、引用発明は、レンズ鏡胴の「外周面側に突出するフランジ部の前面の」接合面と中間部材の「内周面側に突出するフランジ部の後面(撮像素子側の表面)の」接合面とが、接着剤によって接合される点。

【相違点2】
鏡筒に支持されたレンズ群を備える光学系のバックフォーカスが温度上昇時に収縮する場合に、温度上昇時に前記レンズ群と前記撮像センサとの距離が短くなるようにするに際して、本件補正発明は、「前記鏡筒の線膨張率が、前記支持部材の線膨張率より高くされて」いるのに対して、引用発明は、前記レンズ鏡胴と前記中間部材とレンズホルダの各材料(線膨張係数)と、接合面間の長さを適切に選択している点。

【相違点3】
本件補正発明は、「像面の中央に集光する光線について、基準温度25℃のMTF・デフォーカスカーブのピーク位置に対する、-40℃から+105℃の温度域におけるMTF・デフォーカスカーブのピーク位置のシフト量の最大値の前記基準温度における前記光学系の焦点距離に対する比が0.0015以下に設定されている」と特定するのに対して、引用発明はこのように特定されない点。

(4)判断
ア 相違点1について検討する。
引用発明に関して、引用文献には、「なお、フランジ部13bの前面26からレンズ面11bまでの長さと比較してフランジ部13bが薄く、膨張や収縮による影響が少ない場合には、内面23と側面21が接合されていても良い。」([0033])と記載されていることから、レンズ鏡胴の外周面を接合面とするとともに、中間部材の内周面を接合面として、接着剤によって接合される構成となし、上記相違点1に係る本件補正発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について検討する。
引用発明は、バックフォーカスの短縮を「打ち消す作用を示」すように、「前記レンズ鏡胴と前記中間部材とレンズホルダの各材料(線膨張係数)と、接合面間の長さを適切に選択する」ところ、引用発明において、レンズホルダを用いない、あるいは、中間部材とレンズホルダを同一の部材となすことは当業者が容易に想到し得る設計変更にすぎず、当該構成においてバックフォーカスの短縮を「打ち消す作用を示」すように、「前記レンズ鏡胴と前記中間部材の各材料(線膨張係数)と、接合面間の長さを適切に選択する」ことに格別の困難性は認められない。
そして、当該レンズ鏡胴の材料(線膨張係数)と中間部材の材料(線膨張係数)を選択することに関して、引用文献には、「レンズ鏡胴13の線膨張係数は、概ね10×10^(-6)K^(-1)以上30×10^(-6)K^(-1)以下であることが好ましい。樹脂で形成する場合、レンズ鏡胴13の線膨張係数は、概ね10×10^(-6)K^(-1)以上70×10^(-6)K^(-1)以下であることが好ましい。」([0030])、及び、「中間部材15は、・・・線膨張係数は概ね0.1×10^(-6)K^(-1)以上40×10^(-6)K^(-1)以下であることが好ましい。中間部材15の材料は、少なくともレンズ鏡胴13及びレンズホルダ16と線膨張係数が異なるように選択される。」([0038])と記載されていて、概してレンズ鏡胴13の線膨張係数が、中間部材15の線膨張係数より全般に高く選択されることが示唆されているといえる。
したがって、引用発明において、レンズ鏡胴の線膨張係数を中間部材の線膨張係数より高く選択して、上記相違点2に係る本件補正発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について検討する。
(ア)引用発明において、「バックフォーカスの短縮を打ち消す作用を示し、温度変化によるフォーカス移動を防止するべく、前記レンズ鏡胴と前記中間部材とレンズホルダの各材料(線膨張係数)と、接合面間の長さを適切に選択する」ことをどの程度まで求めるかは、フォーカス(ボケ)に関する適宜の指標を用いれば良いことは当然であるところ、MTF・デフォーカスカーブを指標とすることは後記周知文献に見られるとおり、当該カメラ用レンズユニットの技術分野において従来周知のことである。

(イ)また、当該MTF・デフォーカスカーブを指標とする際に、どの温度基準とし、どの温度範囲でどの程度の幅のMTF・デフォーカスカーブのピーク位置のシフト量とするかは、使用環境を想定して適宜定める設計的事項であって、カメラである以上、室温より温度の低い場所(冬期、あるいは、高緯度地方等)で使用することは当然に想定し得ることにすぎない。

(ウ)さらに、本願補正発明において、基準温度を25℃とし、温度域を-40℃から+105℃とし、MTF・デフォーカスカーブのピーク位置のシフト量の最大値の基準温度における光学系の焦点距離に対する比を0.0015以下とすることに係るいずれの数値についても、本願明細書の記載を見ても格別の臨界的意義は認められない。

(エ)そして、引用文献には、「気温20℃の常温環境で、」「Δ=B_(0)+C_(0)-D_(0)-A_(0)である。」([0041])とし、「撮像レンズ10の周辺の温度が」「80℃の高温環境では、」「レンズホルダ16の土台部16bの長さがB_(1)(>B_(0))、接合面41から接合面42の長さC_(1)(>C_(0))、接合面41から撮像レンズ11の最後面11bの長さがD_(1)(>D_(0))にそれぞれ膨張」し「バックフォーカスは」「A_(1)(mm)に短くなる(A_(1)<A_(0))」([0042])ところ、「Δ=B_(0)+C_(0)-D_(0)-A_(0)=B_(1)+C_(1)-D_(1)-A_(1)を満たす」([0043])と記載されている。
そうすると、上記(ア)を踏まえて、MTF・デフォーカスカーブを指標とした場合には、上記「Δ=B_(0)+C_(0)-D_(0)-A_(0)=B_(1)+C_(1)-D_(1)-A_(1)を満たす」との構成は、像面の中央に集光する光線について、基準温度20℃のMTF・デフォーカスカーブのピーク位置に対する、+80℃の温度域におけるMTF・デフォーカスカーブのピーク位置のシフト量の最大値の前記基準温度における前記光学系の焦点距離に対する比を0に設定することに相当する。

(オ)したがって、上記(ア)ないし(エ)を踏まえれば、引用発明において、基準温度を(20℃に代えて)25℃とし、温度域を(80℃に代えて)-40℃から+105℃とし、MTF・デフォーカスカーブのピーク位置のシフト量の最大値の前記基準温度における前記光学系の焦点距離に対する比を小さくなるように設定して、上記相違点3に係る本件補正発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

エ そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ 周知文献
(ア)周知文献1(特開2009-150950号公報)
「【技術分野】
【0001】
本発明はレンズ鏡筒および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラなどの撮像装置のレンズ鏡筒として、ズーム動作を行うためのズームレンズが光軸方向に移動可能に設けられたものがある。
このようなレンズ鏡筒は、鏡筒内でズームレンズを保持するレンズ枠と、鏡筒内でズームレンズの光軸に平行して直線上を延在し前記レンズ枠に連結されてレンズ枠を前記光軸に沿って案内するガイド軸とを有しており、ガイド軸は前記鏡筒内で前記ガイド軸の延在方向の両端が鏡筒の部分に固定されている。そして、レンズ鏡筒に設けられた撮像素子の撮像面にズームレンズを含む光学系によって被写体像が結像されることで撮像がなされる。
ところで、レンズ枠や鏡筒の寸法のばらつき、あるいは、レンズ枠に対するズームレンズの取り付け精度のばらつきなどによって、前記ズームレンズの光軸がレンズ鏡筒に設けられている他の光学系の光軸に対して傾きを生じる場合がある。
このような光軸の傾きは、撮像素子の撮像面に結像される被写体像において部分的に生じる焦点ぼけ、いわゆる片ボケの原因となる。」
「【0035】・・・
軸受け部材54の偏心量を0とした状態で、光学系104のうち、ズーム用可動レンズ群18を除く残りの対物レンズ14、フォーカス用可動レンズ群20、第1の固定レンズ群22、第2の固定レンズ群24、第3の固定レンズ群26について光軸調整が行われる。
そして、対物レンズ14の前方に従来公知の調整用のチャートを配置してこのチャートの画像を光学系14によって撮像素子150の撮像面上に結像させ、撮像素子150から出力される撮像信号に基づいて前記チャートの画像を解析し、撮像素子150に結像されたチャートの画像の片ボケを測定する。このような片ボケを測定する評価値としては、MTFデフォーカスカーブを用いる他、従来公知のさまざまな評価値を採用することができる。」

(イ)周知文献2(特開2007-47841号公報)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズを保持するレンズ保持部材が鏡筒本体に取り付けられた際に、このレンズの調芯を行うためのレンズ調芯機構、そのようなレンズ調芯機構を備えるレンズ装置及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鏡筒本体に光軸を一致させた状態で配置された複数のレンズによって被写体の像を結像するレンズ装置がある。また、そのようなレンズ装置で結像された被写体の像をCCD(charge-coupled device)やCMOS(complementarymental-oxide semiconductor device)等の固体撮像素子で受像し、この固体撮像素子が受像した光を光電変換して電気信号として出力し、被写体の像に対応したデジタル画像データを生成するデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等の撮像装置がある。」
「【0055】
具体的に、図10に示すフローチャートを参照しながら、上述したレンズ調芯機構20によるレンズ4の調芯作業について説明する。
【0056】
先ず、ステップS1として、鏡筒本体2に固体撮像素子10を取り付けると共に、この固体撮像素子10と接続された撮像装置100によってチャート107のビデオ信号を取り出すための準備を行う。
【0057】
次に、ステップS2において、解像度チャート107を固体撮像素子10によって撮像し、撮像されたチャートの画像を撮像装置100が信号処理することによって、この固体撮像素子10の画面中心及び画面周辺の4隅の解像度をモニター106によって観察する。
【0058】
次に、ステップS3において、ドライバ101によってレンズ装置1のフォーカス用の可動レンズ群7を光軸方向に変位駆動しながら、図11に示すような固体撮像素子10の画面中心及び画面周辺の4隅の解像度を示すMTF(ModulationTransfer Function)値をデフォーカスに対応したデフォーカスカーブとして測定する。」

(ウ)周知文献3(特開2006-227404号公報)
「【技術分野】
【0001】
本発明はレンズ鏡筒および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラなどの撮像装置のレンズ鏡筒はレンズが鏡筒に収容保持されて構成されているが、鏡筒におけるレンズの光軸と直交する方向の寸法を削減するために、レンズの有効径の外側部分を前記光軸と平行な平面で切り取った、いわゆるDカットを形成したレンズを用いたものが提案されている(特許文献1参照)。」
「【0032】
次に、図30に示すように、基準の軸受け部材54を用いてレンズ鏡筒10を組み立てる。
この際、光学系104のうち、ズーム用可動レンズ群18を除く残りの対物レンズ14、フォーカス用可動レンズ群20、第1の固定レンズ群22、第2の固定レンズ群24、第3の固定レンズ群26については光軸調整が行われる。
そして、対物レンズ14の前方に従来公知の調整用のチャートを配置してこのチャートの画像を光学系14によって撮像素子150の撮像面上に結像させ、撮像素子150から出力される撮像信号に基づいて前記チャートの画像を解析し、撮像素子150に結像されたチャートの画像の片ボケを測定する。このような片ボケを測定する評価値としては、MTFデフォーカスカーブを用いる他、従来公知のさまざまな評価値を採用することができる。」

カ したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)請求人の主張
ア 請求人は、令和元年11月8日提出の審判請求書の【請求の理由】「5.対比説明」において、概略
(ア)「一方、引用文献1に記載された発明は、常温20℃と高温80℃の2地点にしか着目していない。すなわち、B.F.と温度の関係がリニア(単調増加)の関係となることを前提としている。なぜならば、B.F.が短くなる要因として、高温時(80℃)にレンズ間隔が長くなることしか考慮していないためである。」
(イ)「なお、引用文献1に記載された発明は、温度が80℃となった際にB.F.が短くなり、線膨張係数で補正するものだとしても、B.F.だけでは評価像高や評価周波数が不明確となり、見る人によってその値を異にする。これに対し、本願発明は、中心(像高0mm)のMTFであることから評価像高や評価周波数が明確であり、見る人による差異が生じることがない。また、光学設計、すなわち使用されるレンズ材料の屈折率温度依存性やレンズ形状(正負パワー)によって、温度が上昇した際のB.F.は長くなったり短くなったりすることから、本願発明はレンズ材料やレンズ形状を含めたいずれのケースにも対応したものである。また、F値によって焦点深度が異なり、F2.0以下の明るいレンズでは焦点深度が浅くなることから(光軸方向におけるピント位置の合う範囲が狭い)、本願発明がより効果的に寄与する。また、前述のとおり、レンズや鏡筒、支持部材をなす材料にはガラス転移温度Tgが存在する。このガラス転移温度Tg以下では、線膨張係数や屈折率温度依存性はリニアリティを示すが、ガラス転移温度Tgを超えた場合はリニアリティが失われ、温度上昇と共に線膨張係数が増すところが逆に減じる温度帯域が存在する材料もあり、このような現象についても本願発明は有効である。」
(ウ)「すなわち、引用文献1に記載された発明は、高温時に鏡筒(レンズ鏡胴)の膨張によるレンズ間隔が長くなって、B.F.が短くなるケースしか考慮しておらず、そのために図1?4に示されるような『一端の内周面に前記レンズ鏡胴と当接するフランジ部を有し、前記レンズ鏡胴の被写体側の面と前記フランジ部の前記撮像素子側の面が接合される』(請求項1)という構造(接着面が光軸直交方向となっている)を採用している。しかしながら、前述の様に、レンズ自体の膨張や屈折率変化、Tgによる線膨張率の不安定性などを考慮すると、B.F.が長くなるケースも同様に考慮する必要があるが、引用文献1に開示された構成ではB.F.が短くなるケースしか想定されていないため、別の異なる構造とせざるを得ない。これに対して、本願発明の支持部材と鏡筒の接着構造(構成B)は、鏡筒の外周と支持部材の内周との接着であり、接着面が光軸と平行となっている。したがって、鏡筒の中身のレンズの形状・配置・材料や鏡筒の材料等によりB.F.が短くなるケースでも、B.F.が長くなるケースであっても、鏡筒と支持部材の接着構造を変更することなく同じ構造を採用することができ、コストダウンを図ることができるという本願特有の効果を奏する。」
(エ)「また、本願発明の支持部材と鏡筒の接着構造(構成B)では鏡筒の外周と支持部材の内周との接着であり、接着面が光軸と平行であるから、鏡筒と支持部材の線膨張率の差があった場合でも、例えば鏡筒の方が支持部材より線膨張率が大きい場合に、鏡筒の径方向の膨張による支持部材への衝突・干渉を接着剤の接着層により吸収可能という効果を奏する。一方、引用文献1には、段落[0026]に『フランジ部13b,13cの突出量は、側面21,22(光軸L1に平行な面)が中間部材15の内面23に当接するように定められている。』という記載があり、鏡筒の2つのフランジ部が中間部材の内周面に直接当接しているため、かかる効果は得られず、鏡筒・中間部材に内部応力が発生し、光学特性に悪影響を及ぼしやすい。」
(オ)「また、本願発明は、構成Bのように『前記接着剤による接着面の前記撮像センサ側において前記鏡筒の外周と前記支持部材の内周との間には空間が形成』されていることにより、高温時でも、支持部材と鏡筒は前記接着部分でのみ接合され、それより撮像センサ側では支持部材と鏡筒とが接触することがないため、鏡筒・支持部材の径方向への膨張時にぶつかる(干渉)することはなく、摩擦などにより鏡筒・支持部材の光軸方向への伸縮を妨げることがない。また、接着部分で接着剤により接着した場合に、余剰接着剤がセンサ側に若干垂れてきた場合であっても、鏡筒・支持部材間の空間に収容され、接着部よりセンサ側で鏡筒・支持部材間を接着することを防止できるという効果を奏する。」
(カ)「また、本願発明のようなセンシング用の狭画角レンズの場合は、ビュー用の広画角レンズに比べて最大となるレンズ有効径が小さく、光学全長が長い設計となる。すると、カメラとしての製品形状は、よりコンパクトにするために細長い形状とならざるを得ない。この要求を満足するためには、引用文献1に記載された発明のような接着方法、すなわち、中間部材15と鏡筒のフランジ部13bとを光軸に直交する面を接着面として接着する方法では、接着面積を十分確保することができない(接着面の径方向の大きさを十分に確保できない)。これに対し、本願発明は、接着面を光軸と平行としているため、十分な接着面積を確保し、接着強度を増すことができる。」
と主張する。

イ 上記請求人の主張について検討する。
(ア)上記「ア」「(ア)」及び「(イ)」の主張については、上記「(4)」「ウ」で検討したとおりであって、低温での影響も考慮することは当業者が容易に想到し得ることである。
また、上記「(4)」「ウ」での検討を踏まえれば、引用発明に基づいて、低温においても「前記レンズ鏡胴と前記中間部材とレンズホルダの各材料(線膨張係数)と、接合面間の長さを適切に選択する」ことで、MTF・デフォーカスカーブのピーク位置のシフト量の最大値の前記基準温度における前記光学系の焦点距離に対する比を小さくなるように設定することも当業者が容易に想到し得ることであると認められる。
したがって、請求人の上記「ア」「(ア)」及び「(イ)」の主張は採用できない。

(イ)上記「ア」「(ウ)」「(エ)」及び「(カ)」の主張については、上記「(4)」「ア」で検討したとおり当業者が容易に想到し得ることであり、また、上記「ア」「(ウ)」「(エ)」及び「(カ)」で主張する効果は、本願の当初明細書に記載されていた効果ではなく、技術常識から理解される程度のものにすぎないから顕著な効果とまでは認められず、請求人の上記「ア」「(ウ)」「(エ)」及び「(カ)」の主張は採用できない。

(ウ)上記「ア」「(オ)」の主張については、上記「(3)」「ア」「(オ)」で検討したとおり引用発明が備える構成であり、また、上記「ア」「(オ)」で主張する効果は、本願の当初明細書に記載されていた効果ではなく、技術常識から理解される程度のものにすぎないから顕著な効果とまでは認められず、請求人の上記「ア」「(オ)」の主張は採用できない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年11月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項2係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項2に記載された事項により特定される、前記第2[理由]「1」「(2)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
(理由2)この出願の請求項1?2、7?8に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、
というものである。

・引用文献:国際公開第2014/167994号

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献の記載事項及び引用発明は、前記第2[理由]「2」「(2)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記「第2」[理由]「2」で検討した本件補正発明から、「鏡筒」と「支持部材」に関して、「前記鏡筒の外周の接着部と前記支持部材の内周の接着部とが接着剤により接合され、前記接着剤による接着面の前記撮像センサ側において前記鏡筒の外周と前記支持部材の内周との間に空間が形成されており」との限定事項を省いた上で、「(設定された)基準温度」に関して「25°」との限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2」[理由]「2」に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-07-01 
結審通知日 2020-07-07 
審決日 2020-07-22 
出願番号 特願2015-100072(P2015-100072)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 登丸 久寿  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 松川 直樹
近藤 幸浩
発明の名称 カメラ用レンズユニットおよび車載カメラ  
代理人 栗林 三男  

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