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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
審判 一部申し立て 2項進歩性  B22F
管理番号 1366089
異議申立番号 異議2020-700370  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-01 
確定日 2020-09-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6614034号発明「ニッケル微粉末、ニッケル微粉末の製造方法、ニッケル粉有機スラリー及びニッケルペースト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6614034号の請求項1?3及び9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6614034号(請求項の数9。以下,「本件特許」という。)は,平成28年5月24日を出願日とする特許出願(特願2016-103525号)に係るものであって,令和1年11月15日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和1年12月4日である。)。
その後,令和2年6月1日に,本件特許の請求項1?3及び9に係る特許に対して,特許異議申立人である戸原和雄(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?9に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
なお,「オングストローム」を示す記号は,当庁の起案システムでは表記できないため,「A」で代用する。

【請求項1】
粒径が200nm以下であり,
一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在しており,
表面に厚さ1nm以上の酸化ニッケルを含む酸化膜を有し,
結晶子径が140A(オングストローム)以上179A以下である
ニッケル微粉末。
【請求項2】
平均粒径が100nm以下である
請求項1に記載のニッケル微粉末。
【請求項3】
有機溶剤中に,
粒径が200nm以下であり,一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在し,表面に厚さ1nm以上の酸化ニッケルを含む酸化膜を有し,結晶子径が140A(オングストローム)以上179A以下である,ニッケル微粉末が分散してなる
ニッケル粉有機スラリー。
【請求項4】
液相法により作製した粒径200nm以下のニッケル微粒子の水スラリーに有機溶剤を添加して,該有機溶剤のスラリーに置換し,
置換して得られたニッケル有機溶剤スラリーに対して酸化剤を添加して,ニッケル微粒子の表面を酸化し,
酸化処理後のニッケル有機溶剤スラリーに対して加熱処理を施す
ニッケル微粉末の製造方法。
【請求項5】
酸化処理後のニッケル有機溶剤スラリーに対し,オートクレーブによる加熱処理を施す
請求項4に記載のニッケル微粉末の製造方法。
【請求項6】
酸化処理後のニッケル有機溶剤スラリーに対し,マイクロ波による加熱処理を施す
請求項4に記載のニッケル微粉末の製造方法。
【請求項7】
前記酸化剤は,過酸化水素である
請求項4乃至6のいずれか1項に記載のニッケル微粉末の製造方法。
【請求項8】
前記酸化剤の添加量は,前記ニッケル微粒子の質量に対して0.1ml/g以上とする
請求項4乃至7のいずれか1項に記載のニッケル微粉末の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のニッケル微粉末を含有してなる
積層セラミックコンデンサ内部電極用のニッケルペースト。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1?3及び9に係る特許は,下記1?3のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は,下記4の甲第1号証?甲第4号証(以下,単に「甲1」等という。)である。

1 申立理由1(新規性)
本件発明1及び2は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1及び2に係る特許は,同法113条2号に該当する。

2 申立理由2(進歩性)
本件発明1及び2は,甲1に記載された発明に基いて,又は,甲1に記載された発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1及び2に係る特許は,同法113条2号に該当する。
本件発明3及び9は,甲1に記載された発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項3及び9に係る特許は,同法113条2号に該当する。

3 申立理由3(サポート要件)
本件発明1?3及び9については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?3及び9に係る特許は,同法113条4号に該当する。

4 証拠方法
・甲1 国際公開第2014/041705号
・甲2 特開2005-105365号公報
・甲3 特開2014-173105号公報
・甲4 国際公開第2012/026579号

第4 当審の判断
以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?3及び9に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1,2,9,[0006],[0012],[0020],[0075],[0077]?[0081],[0097]?[0106],表1,2,9?12)によれば,特に,[0075]のほか,粒子径と結晶子径の大きさの観点から,試料1([0077]?[0080],表1,2),試料32,33([0097]?[0100],表9,10),試料43,44([0102]?[0105],表11,12)の各々に着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
なお,以下の甲1発明1?5は,それぞれ順に,上記試料1,32,33,43,44に対応するものである。

「粒子径の平均値が66.7nmであり,
標準偏差÷粒子径の平均値×100(%)で表される,粒子径の変動係数(C.V.)が5.78%であり,
結晶子径が16.2nmである
ニッケル微粒子の乾燥粉体。」(以下,「甲1発明1」という。)

「粒子径の平均値が92.1nmであり,
標準偏差÷粒子径の平均値×100(%)で表される,粒子径の変動係数(C.V.)が7.54%であり,
結晶子径が16.3nmである
ニッケル微粒子の乾燥粉体。」(以下,「甲1発明2」という。)

「粒子径の平均値が109.7nmであり,
標準偏差÷粒子径の平均値×100(%)で表される,粒子径の変動係数(C.V.)が3.24%であり,
結晶子径が17.4nmである
ニッケル微粒子の乾燥粉体。」(以下,「甲1発明3」という。)

「粒子径の平均値が167.1nmであり,
標準偏差÷粒子径の平均値×100(%)で表される,粒子径の変動係数(C.V.)が5.45%であり,
結晶子径が14.9nmである
ニッケル微粒子の乾燥粉体。」(以下,「甲1発明4」という。)

「粒子径の平均値が171.2nmであり,
標準偏差÷粒子径の平均値×100(%)で表される,粒子径の変動係数(C.V.)が7.89%であり,
結晶子径が16.7nmである
ニッケル微粒子の乾燥粉体。」(以下,「甲1発明5」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1?5とを対比する。
甲1発明1?5における「ニッケル微粒子の乾燥粉体」は,本件発明1における「ニッケル微粉末」に相当する。
甲1発明1?5における「結晶子径」は,それぞれ,「16.2nm」,「16.3nm」,「17.4nm」,「14.9nm」,「16.7nm」であるが,これらを10倍してオングストローム(A)に換算すると,いずれも,本件発明1における「結晶子径が140A(オングストローム)以上179A以下である」ことに相当する。
以上によれば,本件発明1と甲1発明1?5とは,
「結晶子径が140A(オングストローム)以上179A以下であるニッケル微粉末。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,ニッケル微粉末の「粒径」が「200nm以下」であるのに対して,甲1発明1?5では,ニッケル微粒子の乾燥粉体の「粒子径の平均値」が,それぞれ,「66.7nm」,「92.1nm」,「109.7nm」,「167.1nm」,「171.2nm」である点。
・相違点2
本件発明1では,ニッケル微粉末の「一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在」しているのに対して,甲1発明1?5では,ニッケル微粒子の乾燥粉体の,「標準偏差÷粒子径の平均値×100(%)で表される,粒子径の変動係数(C.V.)」が,それぞれ,「5.78%」,「7.54%」,「3.24%」,「5.45%」,「7.89%」である点。
・相違点3
本件発明1では,ニッケル微粉末の「表面に厚さ1nm以上の酸化ニッケルを含む酸化膜を有」するのに対して,甲1発明1?5では,ニッケル微粒子の乾燥粉体の「表面に厚さ1nm以上の酸化ニッケルを含む酸化膜」を有するかどうか不明である点。

イ 相違点2の検討
(ア)事案に鑑み,まず,相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 本件発明1に係るニッケル微粉末は,「一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在」しているものである。
本件明細書には,「一次粒子」は,走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される単位粒子を指すこと,「平均粒径」は,SEMによる観察像の所定範囲内に存在する100個のニッケル微粒子の一次粒子の粒径を測定して求められる平均値であることが記載されている(【0030】,【0031】)。
また,本件明細書には,ニッケル微粉末の一次粒子が平均粒径の±30%以内の範囲に95%以上の割合で存在していることは,その粒度分布が極めてシャープなものであって,均一な粒径のニッケル微粉末であることを意味していることが記載されている(【0031】)。

b 一方,甲1発明1?5に係るニッケル微粒子の乾燥粉体は,「標準偏差÷粒子径の平均値×100(%)で表される,粒子径の変動係数(C.V.)」が,それぞれ,「5.78%」,「7.54%」,「3.24%」,「5.45%」,「7.89%」のものである。
甲1には,「粒子径」について,SEM観察にて確認された金属微粒子の一次粒子径を粒子径とし,100個の一次粒子径の平均値を粒子径の平均値として採用したことが記載されている([0075])。
また,甲1には,「粒子径の変動係数(C.V.)」について,得られる金属微粒子の均一さの度合いを表す指標となるものであり,この変動係数の値が小さいほど,得られる金属微粒子の粒子径の分布は狭く,金属微粒子としての均一性が高いことが記載されている([0020])。

c 以上によれば,本件発明1に係るニッケル微粉末と,甲1発明1?5に係るニッケル微粒子の乾燥粉体とは,いずれも,SEM観察による100個の一次粒子の粒径の平均値に着目するものであり,また,粒度分布が狭く,粒径が均一である点で,共通するものである。
そして,甲1発明1?5に係るニッケル微粒子の乾燥粉体は,粒子径の変動係数(C.V.)が,それぞれ,「5.78%」,「7.54%」,「3.24%」,「5.45%」,「7.89%」であるから,これらの値に対応する程度には,粒度分布が狭く,粒径が均一であるとはいえる。
しかしながら,甲1発明1?5に係るニッケル微粒子の乾燥粉体が,実際に,「一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在」しているかどうかは,粒子径の変動係数(C.V.)の値から換算することもできず,不明というほかない。
また,「標準偏差÷粒子径の平均値×100(%)で表される,粒子径の変動係数(C.V.)」が,「5.78%」,「7.54%」,「3.24%」,「5.45%」,「7.89%」のものであれば,必ず,「一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在」していることが,技術常識であるともいえない。

d 以上によれば,相違点2は実質的な相違点である。
したがって,相違点1及び3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。

(イ)次に,相違点2の容易想到性について検討する。
a 上記(ア)で述べたとおり,甲1発明1?5に係るニッケル微粒子の乾燥粉体は,粒子径の変動係数(C.V.)の値に対応する程度には,粒度分布が狭く,粒径が均一であるとはいえるものの,実際に,「一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在」しているかどうかは,不明というほかない。
甲1には,具体的に,「一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在」することについては,記載されていない。

b(a)甲1には,金属微粒子の製造方法として,金属及び/又は金属化合物を含む流体と,還元剤を含む流体を,対向して配設された,接近・離反可能な,少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する少なくとも2つの処理用面間にできる薄膜流体中で混合し,金属微粒子を析出させる,金属微粒子の製造方法であって,上記のいずれか一方の流体は,水とポリオールとを混合させた水含有ポリオールを含み,かつ,1価のアルコールを含まないものであり,上記水含有ポリオールに含まれる水の比率を制御することによって,析出させる金属微粒子の粒子径及びその変動係数を制御するとともに,上記水含有ポリオールに含まれる水の比率を5wt%?60wt%の範囲に制御することによって,上記変動係数を5%未満に制御するものが記載されている(請求項1,2)。
また,甲1には,水含有ポリオール中の水の比率を高くすることでニッケル微粒子の粒子径や結晶子径が大きくなるよう制御でき,水含有ポリオール中の水の比率を低くすることでニッケル微粒子の粒子径や結晶子径が小さくなるよう制御できること,また,水含有ポリオール中の水の比率を5wt%?60wt%の範囲に制御することによって,ニッケル微粒子の粒子径の変動係数が5%未満となることが記載されている([0081],[0101],[0106])。
以上によれば,甲1発明1?5に係るニッケル微粒子の乾燥粉体は,上記金属微粒子の製造方法において,水含有ポリオールに含まれる水の比率を制御することによって,金属微粒子の粒子径,結晶子径及び粒子径の変動係数を制御することを前提とするものと解される。
(b)ここで,上記(1)のとおり,甲1発明1?5は,それぞれ順に,試料1,32,33,43,44に対応するものであるところ,上記[0081]等の記載に鑑み,水含有ポリオール中の水の比率によるニッケル微粒子の粒子径や結晶子径の制御について,各試料のデータの数値から検討してみる。
まず,試料1(表1,2)について,以下,検討する。
水(PW)の濃度が「0.00wt%」である試料1と,水の濃度が,それぞれ,「7.22wt%」,「13.39wt%」である試料2,3とを比較すると,粒子径の変動係数(C.V.)については,水の濃度が高い試料2,3(「3.21%」,「3.01%」)のほうが,水の濃度が低い試料1(「5.78%」)よりも,その値が小さいため,粒度分布がより狭く,粒径がより均一であるものが得られていることが理解できる。
すなわち,試料1を製造する際に,水含有ポリオール中の水の比率を高くすることによって,粒子径の変動係数(C.V.)を小さくすることができ,それにより,本件発明1の「一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在」するものが得られる可能性があるといえる。
しかしながら,結晶子径については,水の濃度が高い試料2,3(「18.9nm」,「30.0nm」)のほうが,水の濃度が低い試料1(「16.2nm」)よりも,大きくなっている。
すなわち,試料1を製造する際に,水含有ポリオール中の水の比率を高くすることによって,結晶子径が大きくなってしまい,本件発明1の「結晶子径が140A(オングストローム)以上179A以下」を満たさないものとなってしまう。
(c)以上によれば,試料1に対応する甲1発明1に係るニッケル微粒子の乾燥粉体を製造する際に,結晶子径については,本件発明1の「結晶子径が140A(オングストローム)以上179A以下」を満たす「16.2nm」のままとし,その上で,水含有ポリオール中の水の比率を高くすることによって,粒子径の変動係数(C.V.)を小さくし,それにより,本件発明1の「一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在」するものを得ることはできないから,そのようなことが動機付けられるとはいえない。
(d)上記(b),(c)で述べたことは,試料32,33(表9,10)にそれぞれ対応する甲1発明2,3に係るニッケル微粒子の乾燥粉体についても,当てはまる。
また,試料43,44(表11,12)については,試料42との比較から,試料43,44を製造する際に,水含有ポリオール中の水の比率を低くすることによって,粒子径の変動係数(C.V.)を小さくすることができ,それにより,本件発明1の「一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在」するものが得られる可能性があるといえるが,その一方で,結晶子径が小さくなってしまい,本件発明1の「結晶子径が140A(オングストローム)以上179A以下」を満たさないものとなってしまうから,やはり,上記(c)で述べたのと同様のことが,試料43,44にそれぞれ対応する甲1発明4,5に係るニッケル微粒子の乾燥粉体についても,当てはまる。

c また,例えば,分級を行うことにより,より狭い粒度分布で,より均一な粒径のニッケル微粒子の乾燥粉体を得ることが考えられる。
しかしながら,この点について,甲1には,「また,この変動係数の値が大きいほど金属微粒子としての均一性が低いため,例えば工業的に用いるには,必要なサイズの粒子径の金属微粒子以外を分級作業で取り除く必要があるなどの問題が発生する場合がある。」([0020])との記載があり,分級を行うことは問題であり,避けるべきことが示唆されている。
そうすると,上記b(a)で述べたように,甲1発明1?5に係るニッケル微粒子の乾燥粉体が,上記b(a)の金属微粒子の製造方法において,水含有ポリオールに含まれる水の比率を制御することによって,金属微粒子の粒子径,結晶子径及び粒子径の変動係数を制御することを前提とするものであることも踏まえると,甲1発明1?5に係るニッケル微粒子の乾燥粉体を製造する際に,分級を行うことで,本件発明1の「一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在」するものを得ることが,動機付けられるとはいえず,むしろ阻害されているといえる。

d 甲2には,導電性粉末材料において,ニッケル又はニッケル合金からなる粒子と,炭素からなり前記粒子の表面を被覆する平均厚さが5?30nmの被覆層を有するものについて記載されており(請求項1),ニッケル粒子は,大気中で容易に5nm未満の厚さの表面酸化膜が形成されることが記載されている(【0009】,【0019】)。
また,甲3には,ニッケルナノ粒子の表面改質方法について記載され(請求項1,【0010】,【0017】),甲4には,単離可能な酸化物微粒子又は水酸化物微粒子の製造方法について記載されている(請求項1,[0073],[0083],[0085])。
しかしながら,甲2?4には,甲1発明1?5において,「一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在」するものを得ることを動機付ける記載は,見当たらない。

e 以上によれば,甲1発明1?5に係るニッケル微粒子の乾燥粉体において,その「一次粒子が平均粒径±30%以内に95%以上の個数の割合で存在」しているものとすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,相違点1及び3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明に基いて,又は,甲1に記載された発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,又は,甲1に記載された発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2及び9について
本件発明2及び9は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,又は,甲1に記載された発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2及び9についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,又は,甲1に記載された発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明3について
本件発明3は,有機溶剤中に所定のニッケル微粉末が分散してなるニッケル粉有機スラリーに関する発明であるところ,上記所定のニッケル微粉末は,本件発明1に係るニッケル微粉末と同じものである。
そうすると,本件発明3についても,上記(2)で本件発明1について述べたのと同様の理由により,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,又は,甲1に記載された発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり,本件発明1及び2は,甲1に記載された発明であるとはいえない。
本件発明1及び2は,甲1に記載された発明に基いて,又は,甲1に記載された発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明3及び9は,甲1に記載された発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?3及び9に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由3(サポート要件)
申立人は,本件発明の課題の一つとして,「積層セラミックコンデンサの内部電極用の材料として好適に用いることができるニッケル微粉末を提供する」(本件明細書【0013】)ことが挙げられているところ,本件明細書には,上記課題を解決するために,水酸化ニッケルを含有しないニッケル微粉末を得る必要があることが記載されており(【0009】,【0037】),実施例において作製されたニッケル微粒子(実施例1?7)は,いずれも水酸化ニッケルを含有していない(【0089】,【0090】)ため,これらを考慮すると,上記課題を解決するには,「ニッケル微粉末が水酸化ニッケルを含有しない」ことが必要と解されるから,「水酸化ニッケルを含有したニッケル微粉末」を包含するような記載になっている,本件発明1?3及び9は,サポート要件に適合するものではないと主張する。
しかしながら,ニッケル微粉末が,「積層セラミックコンデンサの内部電極用の材料として好適に用いることができる」といっても,それは程度問題である。ニッケル微粉末に多少の水酸化ニッケルが含まれていたとしても,そのことをもって直ちに,積層セラミックコンデンサの内部電極用の材料として用いることができなくなるわけではない。
むしろ,積層セラミックコンデンサの内部電極用の材料として,水酸化ニッケルの含有が好ましくないことが技術常識であれば,このような用途を前提とする場合,ニッケル微粉末が,水酸化ニッケルを多量に含まないと解するのが自然である。
現に,本件明細書には,ニッケル微粉末が水酸化ニッケルを含むことは記載されていない。却って,本件明細書には,申立人も指摘するとおり,「したがって,このニッケル微粉末においては,水酸化ニッケルを含有しない。」(【0037】)と明記されている。
以上によれば,本件発明1?3及び9において,「ニッケル微粉末が水酸化ニッケルを含有しない」ことが特定されていないとしても,そのことのみをもって,本件発明1?3及び9がサポート要件に適合するものではない,などということはできない。
したがって,申立理由3(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1?3及び9に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?3及び9に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?3及び9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-08-24 
出願番号 特願2016-103525(P2016-103525)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (B22F)
P 1 652・ 537- Y (B22F)
P 1 652・ 121- Y (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 本多 仁
井上 猛
登録日 2019-11-15 
登録番号 特許第6614034号(P6614034)
権利者 住友金属鉱山株式会社
発明の名称 ニッケル微粉末、ニッケル微粉末の製造方法、ニッケル粉有機スラリー及びニッケルペースト  
代理人 林 一好  
代理人 北原 宏修  
代理人 正林 真之  

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