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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A24F
審判 全部無効 2項進歩性  A24F
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A24F
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A24F
管理番号 1366748
審判番号 無効2018-800107  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-08-29 
確定日 2020-10-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第6125008号発明「加熱式エアロゾル発生装置、及び一貫した特性のエアロゾルを発生させる方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許無効審判の請求に係る特許第6125008号(以下、「本件特許」という。)の手続の経緯は、以下のとおりである。
2013年(平成25年)12月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年12月28日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする本件特許出願
平成29年 4月14日に特許権の設定登録
平成30年 8月29日に本件特許無効審判請求
同年12月19日付け審判事件答弁書の提出
平成31年 2月14日付け審理事項通知書の発送
同年 3月20日付け口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出
同年 3月22日付け口頭審理陳述要領書(請求人)の提出
同年 4月11日に口頭審理
令和 元年 5月10日付け上申書(被請求人)の提出
同年 5月31日付け上申書(請求人)の提出
同年 7月 1日付け上申書(被請求人)の提出

なお、本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。また、「・・・」は記載の省略を意味する。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?26に係る発明(以下、それぞれを「本件特許発明1」?「本件特許発明26」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、以下に示す特許請求の範囲の請求項1?26に記載された事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
エアロゾル発生装置におけるエアロゾルの発生を制御する方法であって、前記装置は、
エアロゾル形成体を含むエアロゾル形成基材を加熱するように構成された少なくとも1つの加熱要素を含むヒータと、
前記加熱要素に電力を供給するための電源と、
を備え、前記方法は、
前記加熱要素に供給される前記電力を、前記装置を動作させた直後の第1段階において前記加熱要素の温度が初期温度から第1の温度に上昇するように電力が前記少なくとも1つの加熱要素に供給され、第2段階において前記加熱要素の温度が前記第1の温度よりも低い第2の温度に低下するが、前記エアロゾル形成体の揮発温度より低くならないように電力が供給され、第3段階において前記加熱要素の温度が前記第2の温度より高い第3の温度に上昇するように電力が供給されるよう制御するステップを含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記加熱要素に供給される前記電力を制御するステップは、前記第2段階及び前記第3段階において前記加熱要素の温度を所望の温度範囲内に維持するように行われる、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所望の温度範囲は、摂氏240度?摂氏340度の下限と、摂氏340度?摂氏400度の上限とを有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の温度は、摂氏340度?摂氏400度である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記第1段階、前記第2段階又は前記第3段階は、所定の持続時間を有する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第1段階は、前記加熱要素が前記第1の温度に達した時に終了する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記第2段階の持続時間は、前記第2段階中に前記加熱要素に供給された総電力量に基づいて決定される、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ユーザによる前記エアロゾル発生装置の吸煙を検出するステップをさらに含み、前記第1、第2又は第3段階は、ユーザによる所定の吸煙回数を検出した後に終了する、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記エアロゾル形成基材の特性を識別するステップをさらに含み、前記電力を制御するステップは、前記識別された特性に依存して調整される、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
エアロゾルは、前記第1段階、前記第2段階及び前記第3段階の各々の期間に生成される、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記基材は、5秒よりも長い持続時間にわたってエアロゾルを発生させるように加熱される、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記エアロゾル形成基材は、前記エアロゾル発生装置内に部分的に収容される喫煙物品に収容されている、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記エアロゾル形成基材は、固体エアロゾル形成基材である、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
電力を制御するステップは、前記第3段階の間に前記加熱要素の温度を連続的に上昇させるように実行される、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
電気作動式エアロゾル発生装置であって、
エアロゾル形成体を含むエアロゾル形成基材を加熱してエアロゾルを発生させるように構成された少なくとも1つの加熱要素と、
前記加熱要素に電力を供給するための電源と、
前記電源から少なくとも前記1つの加熱要素への電力の供給を制御するための電気回路と、
を備え、前記電気回路は、
前記加熱要素に供給される前記電力を、前記装置の動作の直後の第1段階において前記加熱要素の温度が初期温度から第1の温度に上昇し、第2段階において前記加熱要素の温度が前記第1の温度より低い第2の温度に低下するが、前記エアロゾル形成体の揮発温度より低くはならず、第3段階において前記加熱要素の温度が前記第2の温度より高い第3の温度に上昇し、前記第1、第2及び第3段階中に電力が前記加熱要素に供給されるように制御するよう構成される、
ことを特徴とする電気作動式エアロゾル発生装置。
【請求項16】
前記電気回路は、前記第1段階、前記第2段階及び前記第3段階のうちの少なくとも1つが一定の持続時間を有するように構成される、
ことを特徴とする請求項15に記載の電気作動式エアロゾル発生装置。
【請求項17】
ユーザによる前記エアロゾル発生装置の吸煙を検出する手段をさらに備え、前記電気回路は、前記第1、第2又は第3段階のうちの少なくとも1つがユーザによる所定の吸煙回数を検出した後に終了するように構成される、
ことを特徴とする請求項15又は16に記載の電気作動式エアロゾル発生装置。
【請求項18】
前記装置内の前記エアロゾル形成基材の特性を識別する手段をさらに備え、前記電気回路は、電力制御命令及び対応するエアロゾル形成基材の特性のルックアップテーブルを保持するメモリを含む、
ことを特徴とする請求項15、16又は17に記載の電気作動式エアロゾル発生装置。
【請求項19】
前記加熱要素は、前記装置のキャビティ内に位置し、該キャビティは、使用時に前記加熱要素が前記エアロゾル形成基材内に存在するように該エアロゾル形成基材を受け入れるよう構成される、
ことを特徴とする請求項15から18のいずれか1項に記載の電気作動式エアロゾル発生装置。
【請求項20】
エアロゾルが、前記第1段階、前記第2段階及び前記第3段階の各々の期間に生成されるように、前記電気回路は、前記加熱要素に供給される電力を制御するように構成される、請求項15から19のいずれかに記載の電気作動式エアロゾル発生装置。
【請求項21】
前記基材が、5秒よりも長い持続時間にわたってエアロゾルを発生させるように加熱されるように、前記電気回路は、前記加熱要素に供給される電力を制御するように構成される、請求項15から20のいずれかに記載の電気作動式エアロゾル発生装置。
【請求項22】
前記エアロゾル形成基材は、前記エアロゾル発生装置内に部分的に収容される喫煙物品に収容されている、請求項15から21のいずれかに記載の電気作動式エアロゾル発生装置。
【請求項23】
前記エアロゾル形成基材は、固体エアロゾル形成基材である、請求項15から22のいずれかに記載の電気作動式エアロゾル発生装置。
【請求項24】
前記加熱要素の温度が、前記第3段階の間に連続的に上昇するように、前記電気回路は、前記加熱要素に供給される電力を制御するように構成される、請求項15から23のいずれかに記載の電気作動式エアロゾル発生装置。
【請求項25】
電気作動式エアロゾル発生装置のためのプログラム可能な電気回路上で実行された時に、該プログラム可能な電気回路に請求項1に記載の方法を実行させる、
ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項26】
請求項25に記載のコンピュータプログラムを記憶している、
ことを特徴とするコンピュータ可読記憶媒体。」

第3 請求人の主張
1 請求人が主張する無効理由の概要
請求人は、「特許第6125008号発明の特許請求に範囲の請求項1?26に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」、との審決を求め、証拠方法として甲第1?5号証を提出し、以下の無効理由を主張する。
(1)無効理由1
本件特許発明1?3、5、6、10、11、13?16、20、21、23、24は、甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項3号に該当し、特許を受けることができないものであり、それらについての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件特許発明1?26は、甲第1号証及び甲第3?5号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらについての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由3
本件特許発明1、2、5、6、10、14?16、20、24は、甲第2号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項3号に該当し、特許を受けることができないものであり、それらについての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(4)無効理由4
本件特許発明1?26は、甲第2号証及び甲第1、3?5号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらについての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(5)無効理由5
本件特許発明1?26についての本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備であり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
本件特許発明1?26により解決しようとする課題は「エアロゾル形成基材の連続的又は反復的加熱期間にわたって特性がより一貫したエアロゾルを提供する」(【0005】)ことと認められる。しかし、請求項1及び15に記載された条件を満たす如何なる第1?第3の温度及び如何なる第1段階?第3段階の持続時間であっても、上記課題を解決できるものではないから、本件特許発明1及び15は上記の課題を解決し得ない態様を含んでいる。これは請求項1又は15を引用する他の請求項についても同様である。よって、本件特許発明1?26は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(6)無効理由6
本件特許発明1?26についての本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
請求項1及び15の「少なくとも1つの加熱要素」が複数の加熱要素である場合、請求項1及び15に記載された「前記加熱要素」が複数の加熱要素のうち1つの加熱要素を意味するのか、複数の加熱要素を意味するのか、全ての複数の加熱要素を意味するのかが不明である。これは、請求項1及び15を引用する他の請求項についても同様である。よって、本件特許発明1?26は明確でない。

(7)無効理由7
本件特許発明1?26についての本件特許は、発明の詳細な説明の記載が次の点で不備であり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
本件特許発明1?26により解決しようとする課題を解決するためには、第1段階?第3段階のそれぞれにおける温度及び持続時間を適切に設定する必要がある。しかし、適切な温度及び持続時間はエアロゾル形成基材の種類によって異なるはずであるが、これらの具体例が適用されるエアロゾル形成基材の種類は開示されていない。個々のエアロゾル形成基材に対して適切な目標温度と持続時間の組み合わせを発見することは、当業者において期待しうる程度を越える試行錯誤を必要とするといえる。よって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?26を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

2 証拠方法
甲第1号証:特開2000-41654号公報(公開日:平成12年2月15日)
甲第2号証:中国特許出願公開第102754924号明細書(公開日:2012年10月31日)及びその翻訳文
甲第3号証:国際公開第2008/015918号(公開日:2008年2月7日)
甲第4号証:国際公開第2011/063970号(公開日:2011年6月3日)及びその抄訳
甲第5号証:国際公開第2012/085203号(公開日:2012年6月28日)及びその抄訳

なお、甲第1?5号証は、審判請求書とともに提出されたものであり、以下、それぞれを「甲1」?「甲5」という。
そして、甲1?5の成立につき当事者間に争いはない。

第4 被請求人の主張
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、請求人の主張する無効理由1?7はいずれも理由がないと主張する。
また、被請求人は、令和元年5月10日付け上申書により下記2の資料を提出している。

2 令和元年5月10日付け上申書とともに提出した資料
資料1:米国特許第5505214号明細書及び部分和訳

第5 当審の判断
事案に鑑み、無効理由5?7を検討した後、無効理由1?4を検討する。
1 無効理由5?7について
1-1 本件特許発明の課題について
(1)本件特許発明の課題
本件特許の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の記載によると、本件特許発明の課題は、「エアロゾル形成基材の連続的又は反復的加熱期間にわたって特性がより一貫したエアロゾルを提供するエアロゾル発生装置及びシステムを提供すること」であると認められる(段落【0005】)。

(2)被請求人の上申書による説明
本件特許発明の課題について、被請求人は上申書において概ね次の説明をしている(なお、下線は当審で付したものである。)。
ア 「連続的又は反復的加熱」について(上申書2頁19行?4頁23行)
・「連続的又は反復的加熱」の意味
本件特許明細書において、「連続的又は反復的加熱」とは、通常は5秒よりも長く、場合によっては30秒よりも長い持続時間にわたって、エアロゾル形成基材(又はその一部)を加熱して、エアロゾルを発生させることを意味する。換言すれば、「連続的又は反復的加熱」とは、加熱式喫煙装置などのエアロゾル発生装置において、ユーザによる複数回の吸煙を含む期間にわたって、エアロゾルが連続的に発生するようにエアロゾル形成基材を加熱することを意味する(本件特許明細書の段落【0011】)。

・従来技術との関係
従来の、反復的又は連続的に基材を加熱することによってエアロゾルを発生させるエアロゾル発生装置では、ユーザによる複数回の吸煙を含む期間の時間経過にわたって、単一の一定温度が達成されるよう、温度を制御していた。このような従来のエアロゾル発生装置の場合、図4に示されるように、エアロゾル成分の送達は徐々に上昇し、途中でピークを迎え、その後、エアロゾル形成基材が加熱によって枯渇し、エアロゾル発生が減少すること、及び、エアロゾル形成基材の温度が定常状態に達すると、熱拡散効果が低下してエアロゾルの送達が減少することから、エアロゾルの送達が、時間と共に一貫しない、という問題が生じていた(以上、本件特許明細書の段落【0003】、【0010】及び【0056】)。

・課題解決手段たる本件特許発明における意味
従来技術についての問題認識に基づき、本件特許発明は、エアロゾル発生装置の動作中、ユーザによる複数回の吸煙にわたって一貫したエアロゾル送達が実現されることを、解決すべき技術的課題としている(本件特許明細書の段落【0003】)。
本発明者は、従来技術におけるエアロゾル送達の経時的減少の問題を解決すべく、鋭意検討を重ね、ユーザによる複数回の吸煙を含む期間にわたって(具体的には、通常は5秒よりも長く、場合によっては30秒よりも長い持続時間にわたって)、エアロゾルが発生するようにエアロゾル形成基材を加熱する際に、加熱要素の温度を初期温度から第1の温度に上昇させる第1段階の後、第1の温度より低い第2の温度に低下するよう電力を供給する第2段階に次いで、加熱過程の最終段階中に加熱要素の温度を上昇させると、時間経過に伴うエアロゾル送達の減少を軽減又は防止することができ、最初に送達されるエアロゾルが最後に送達されるエアロゾルに対してより同程度になるように、エアロゾル形成基材の加熱期間にわたってより一貫したエアロゾルを提供することができる、との知見を得て、本件特許発明に到ったものである(本件特許明細書の段落【0003】、【0005】及び【0010】)。

イ 「瞬間的加熱」について(上申書5頁7行?同頁末行)
「瞬間的加熱」とは、本件特許明細書の段落【0011】に説明されているとおり、「ユーザによる吸煙毎に別個の基材又は基材の一部が加熱され、持続時間が約2?3秒の長さである1回の吸煙よりも長く基材部分が加熱されない」ような加熱である。「瞬間的加熱」と、本件特許発明が関連する上記「連続的又は反復的加熱」とでは、前者が、1回の吸煙(持続時間約2?3秒)程度の時間に対して基材部分が加熱されるのに対し、後者では、複数回の吸煙を含む期間(通常は5秒よりも長く、場合によっては30秒よりも長い持続時間)にわたって基材部分が加熱される点で、全く異なる。
「瞬間的加熱」を採用する喫煙装置は、例えば、資料1として本上申書に添付した米国特許第5,505,214号明細書に記載されている。この喫煙装置は、各ヒータがタバコ香味基材の一部のみを加熱する複数のヒータを備えることにより、ユーザが複数回の吸煙を連続的に行うことができるようにしたものである(米国特許第5,505,214号明細書のABSTRACT)。この喫煙装置の実施形態として、各ヒータに電源22が電力を供給する時間を、制御回路24により予め約1.6秒とする例が記載されている(米国特許第5,505,214号明細書の12欄52?63行)。
「瞬間的加熱」の場合、基材部分の加熱時間は1回の吸煙程度であることから、本件特許発明が関連する「連続的又は反復的加熱」とは異なり、基材の枯渇が重要な問題とはなることはない(本件特許明細書の段落【0011】)。

ウ 本件特許発明の実施形態における各段階の持続時間について(上申書6頁1行?同頁16行)
本件特許明細書の段落【0076】?【0078】には、第1段階、第2段階、第3段階、及び合計(喫煙体験)が、それぞれ次のとおりである本件特許発明の実施形態が記載されている:
段落 第1段階 第2段階 第3段階 合計
(喫煙体験)
【0076】 45秒 145秒 170秒 360秒
【0077】 60秒 180秒 120秒 360秒
【0078】 30秒 110秒 220秒 360秒
これらの実施形態は、通常は5秒よりも長く、場合によっては30秒よりも長い持続時間にわたって、エアロゾル形成基材を加熱して、エアロゾルを発生させる「連続的又は反復的加熱」において、本件特許発明が、ユーザによる複数回の吸煙を含む期間(上記実施形態ではいずれも合計360秒の喫煙体験)にわたって、エアロゾルが発生するようにエアロゾル形成基材を加熱する際に、加熱要素の温度を初期温度から第1の温度に上昇させる第1段階(上記実施形態では30?60秒)の後、第1の温度より低い第2の温度に低下するよう電力を供給する第2段階(上記実施形態では110?180秒)に次いで、加熱過程の最終段階中に加熱要素の温度を上昇させる段階として、第2の温度より高い第3の温度に上昇する第3段階(上記実施形態では120?220秒)を採用するものであることを示している。

(3)請求人の上申書による主張
請求人は、被請求人の上申書による説明に対して、概ね次の主張をする(上申書2頁下から5行?3頁11行;なお、下線は当審で付したものである。)。
被請求人は、「反復的加熱」の意味について上申書では全く説明されていない。「反復」とは、「くりかえすこと。たびたびすること。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)を意味することから、本件特許明細書に記載されている「反復的加熱」が、所謂オン・オフ制御による加熱を意味していることは当業者にとって明らかである。
また、本件特許発明において、加熱が連続的に行われることは特定されていないから、本件特許発明は、「反復的加熱」すなわちオン・オフ制御による加熱を含むものである。さらに、本件特許発明では「第2段階」及び「第3段階」の持続時間も特定されていないから、本件特許発明の「第2段階」及び「第3段階」は、オン・オフ制御による加熱の各段階に相当する。
オン・オフ制御による加熱は、甲1又は甲2に記載されているから、本件特許発明は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明を含むものである。

(4)課題についてのまとめ
「連続的又は反復的加熱」とは、持続時間が約2?3秒の長さである1回の吸煙よりも長く基材部分が加熱されない「瞬間的加熱」とは異なり、ユーザによる複数回の吸煙を含む喫煙期間(通常は5秒よりも長く、場合によっては30秒よりも長い持続時間)にわたってエアロゾル形成基材を加熱することといえる(段落【0011】、【0076】?【0078】)。
他方、本件特許明細書には、「この回路は、加熱要素に電力を電流パルスとして供給するように構成することができる。そして、加熱要素に供給される電力は、電流のデューティサイクルを調整することによって調整することができる。このデューティサイクルは、パルス幅又はパルスの周波数、或いはこれらの両方を変更することによって調整することができる。或いは、この回路を、加熱要素に電力を連続DC信号として供給するように構成することもできる。」(段落【0026】)と記載されている。
そうすると、「連続的」な「加熱」とは、加熱要素に連続的に電力を供給してエアロゾル形成基材を加熱することであり、また、「反復的」な「加熱」とは、電流パルスといった、非常に短い時間の電力を反復的に所定の持続時間供給してエアロゾル形成基材を加熱することであって、「連続的又は反復的加熱」とは、ユーザによる複数回の吸煙を含む喫煙期間(通常は5秒よりも長く、場合によっては30秒よりも長い持続時間)にわたって、加熱要素に連続的に電力を供給して、又は、非常に短い時間の電力を反復的に供給してエアロゾル形成基材を加熱することであるといえる。
したがって、本件特許発明の課題は、上記(1)で認定したとおりの「エアロゾル形成基材の連続的又は反復的加熱期間にわたって特性がより一貫したエアロゾルを提供するエアロゾル発生装置及びシステムを提供すること」であり(本件特許明細書の段落【0005】)、技術的に不明確なものではない。

1-2 無効理由5(サポート要件)について
本件特許発明の第1?3の温度並びに第1?3段階について、発明の詳細な説明を参酌すると、以下の記載がある。
(1)発明の詳細な説明の記載
ア 「【0013】
第1、第2及び第3段階中に連続的にエアロゾルが発生するように、第1、第2及び第3の温度を選択する。第1、第2及び第3の温度は、基材内に存在するエアロゾル形成体の揮発温度に対応する温度範囲に基づいて決定されることが好ましい。例えば、エアロゾル形成体としてグリセリンを使用する場合には、摂氏290度?320度以上の温度(すなわち、グリセリンの沸点よりも高い温度)を使用する。第2段階中には、温度が最低許容温度を下回らないことを確実にするための電力を加熱要素に供給することができる。
【0014】
第1段階では、加熱要素の温度を、エアロゾル形成基材からエアロゾルが発生する第1の温度に上昇させる。多くの装置、特に加熱式喫煙装置では、装置の作動後にできるだけ早く所望の成分を含むエアロゾルを発生させることが望ましい。加熱式喫煙装置の消費者体験を満足のいくものにするには、「最初の吸煙までの時間」が極めて重要と考えられる。消費者は、装置が作動してから最初の吸煙までに長い時間待つ必要があることを望まない。このため、第1段階では、加熱要素をできるだけ速く第1の温度に上昇させるための電力を加熱要素に供給することができる。第1の温度は、許容温度範囲内に収まるように選択することができるが、消費者への最初の送達として満足できる量のエアロゾルを発生させるために、最大許容温度の近くを選択することができる。装置の最初の動作時間中には、装置内の凝縮によってエアロゾルの送達が減少する。
【0015】
許容温度範囲は、エアロゾル形成基材に依存する。エアロゾル形成基材は、異なる温度において様々な範囲の揮発性化合物を放出する。エアロゾル形成基材から放出される揮発性化合物の中には、加熱過程を通じてしか形成されないものもある。各揮発性化合物は、固有の放出温度以上で放出される。最大動作温度をいくつかの揮発性化合物の放出温度未満に制御することにより、これらの揮発性化合物の成分の放出又は形成を回避することができる。最大動作温度は、通常の動作条件下では基材の燃焼が起きないことを確実にするように選択することもできる。
・・・
【0017】
第2段階及び第3段階では、加熱要素に供給される電力を制御するステップを、加熱要素の温度を許容温度範囲又は所望の温度範囲内に維持するように行うことが有利である。
【0018】
第1段階から第2段階にいつ遷移すべきか、同様に第2段階から第3段階にいつ遷移すべきかについての決定には多くの可能性がある。1つの実施形態では、第1段階、第2段階及び第3段階の各々が、所定の持続時間を有することができる。この実施形態では、装置の作動後の時間を使用して第2及び第3段階をいつ開始していつ終了するかを決定する。別の例では、加熱要素が第1の目標温度に達したらすぐに第1段階を終了することもできる。さらに別の例では、加熱要素が第1の目標温度に達した後の所定の時間に基づいて第1段階が終了する。別の例では、作動後に加熱要素に送達された総エネルギーに基づいて第1段階及び第2段階を終了することができる。さらに別の例では、装置を、例えば専用の流量センサを用いてユーザによる吸煙を検出するように構成することができ、所定の吸煙回数後に第1及び第2段階を終了することができる。これらの選択肢の組み合わせを用いて、いずれか2つの段階の遷移に適用できることが明らかであろう。加熱要素の動作段階が3つよりも多くの異なるものであってよいことも明らかであろう。
【0019】
第1段階が終了すると第2段階が開始し、加熱要素の温度が第1の温度よりも低い温度ではあるが許容温度範囲内の第2の温度に低下するように加熱要素への電力を制御する。この加熱要素の温度の低下が望ましい理由は、装置及び基材が温まると、所定の加熱要素の温度で凝縮が抑えられてエアロゾルの送達が増加するからである。第1段階後には、基材が燃焼する可能性を抑えるためにも加熱要素の温度を低下させることが望ましい。また、加熱要素の温度を低下させると、エアロゾル発生装置が消費するエネルギーの量も減少する。さらに、装置の動作中に加熱要素の温度を変化させることにより、時間変調型の温度勾配を基材に導入できるようになる。
【0020】
第3段階では、加熱要素の温度を上昇させる。第3段階中には、基材がますます枯渇するにつれて継続的に温度を高めることが望ましい。第3段階中に加熱要素の温度を上昇させることにより、基材の枯渇及び熱拡散の低下に起因するエアロゾル送達の減少が補償される。しかしながら、第3段階中における加熱要素の温度の上昇は、あらゆる所望の時間的プロファイルを有することができ、装置及び基材の形状、機材の組成、並びに第1及び第2段階の持続時間に依存することができる。加熱要素の温度は、第3段階全体を通じて許容範囲内に保たれることが望ましい。1つの実施形態では、加熱要素への電力を制御するステップが、第3段階中に加熱要素の温度を継続的に上昇させるように行われる。
【0021】
加熱要素への電力を制御するステップは、加熱要素の温度又は加熱要素の近くの温度を測定して測定温度を提供し、測定温度と目標温度の比較を行い、この比較結果に基づいて、加熱要素に供給する電力を調整するステップを含むことができる。目標温度は、装置の作動後の第1、第2及び第3段階がもたらされる時間と共に変化することが好ましい。例えば、第1段階中には、目標温度を第1の目標温度とすることができ、第2段階中には、目標温度を第2の目標温度とすることができ、第3段階中には、目標温度を第3の目標温度とすることができ、第3の目標温度は時間と共に次第に上昇する。目標温度は、第1、第2及び第3の動作段階の制約範囲内であらゆる所望の時間的プロファイルを有するように選択できることが明らかであろう。」

イ 「【0024】
本発明の第2の態様では、電気作動式エアロゾル発生装置を提供し、この装置は、
エアロゾル形成基材を加熱してエアロゾルを発生させるように構成された少なくとも1つの加熱要素と、
加熱要素に電力を供給するための電源と、
電源から少なくとも1つの加熱要素への電力の供給を制御するための電気回路と、
を備え、この電気回路は、加熱要素に供給される電力を、第1段階において加熱要素の温度が初期温度から第1の温度に上昇し、第2段階において加熱要素の温度が第1の温度未満に低下し、第3段階において加熱要素の温度が再び上昇し、第1、第2及び第3段階中に継続的に電力が供給されるように制御するよう構成される。
【0025】
各段階の持続時間及び各段階中の加熱要素の温度についての選択肢は、第1の態様に関連して説明した通りである。電気回路は、第1段階、第2段階及び第3段階の各々が一定の持続時間を有するように構成することができる。電気回路は、加熱要素に供給される電力を、第3段階中に加熱要素の温度が継続的に上昇するように制御するよう構成することができる。
【0026】
この回路は、加熱要素に電力を電流パルスとして供給するように構成することができる。そして、加熱要素に供給される電力は、電流のデューティサイクルを調整することによって調整することができる。このデューティサイクルは、パルス幅又はパルスの周波数、或いはこれらの両方を変更することによって調整することができる。或いは、この回路を、加熱要素に電力を連続DC信号として供給するように構成することもできる。」

ウ 「【0056】
図3に示すように、現行のエアロゾル発生装置は、動作中に一定の温度をもたらすように構成されている。装置の作動後には、目標温度50に達するまで加熱要素に電力が供給される。目標温度50に達すると、加熱要素は、装置が停止するまでこの温度に維持される。図4は、図3に示す平坦な温度プロファイルを用いた主要エアロゾル成分の送達を示す概略図である。線52は、装置の作動中に送達されるグリセロール又はニコチンなどの主要エアロゾル成分の量を表す。成分の送達はピークを迎え、その後、基材が枯渇して熱拡散効果が弱まるにつれ、時間と共に低下することが分かる。
【0057】
図5は、本発明の実施形態による加熱要素の温度プロファイルの概略図である。線60は、経時的な加熱要素の温度を表す。
【0058】
第1段階70では、加熱要素の温度が大気温度から第1の温度62に上昇する。温度62は、最低温度66と最高温度68の間の許容温度範囲内にある。許容温度変化は、基材から所望の揮発性化合物は揮発するものの、さらなる高温で揮発する望ましくない化合物は揮発しないように設定される。また、許容温度範囲は、通常の動作条件下、すなわち通常の温度、圧力、湿度、ユーザの吸煙動作及び空気組成で基材の燃焼が生じ得る温度未満でもある。
【0059】
第2段階72では、加熱要素の温度が第2の温度に低下する。第2の温度は、許容温度範囲内にあるが、第1の温度よりも低い。
【0060】
第3段階74では、加熱要素の温度が、停止時間76まで次第に上昇する。加熱要素の温度は、第3段階全体を通じて許容温度範囲内に保たれる。
【0061】
図6は、図5に示す加熱要素の温度プロファイルによる主要エアロゾル成分の送達プロファイルの概略図である。加熱要素の作動後の初期送達増加後、送達は、加熱要素が停止するまで一定を保つ。第3段階における温度の上昇が、基材のエアロゾル形成体の枯渇を補償する。」

エ 「【0074】
図8に、3つの動作段階をはっきりと確認できる目標温度プロファイルの例を示す。第1段階70では、目標温度がT_(0)に設定される。加熱要素の温度をできるだけ速くT_(0)に上昇させるように加熱要素に電力を供給する。上述したように、PIDレギュレータを用いて、装置の動作全体を通じて加熱要素の温度をできるだけ目標温度の近くに保持する。時刻t_(1)において目標温度がT_(1)に変化しており、これは第1段階70が終了して第2段階が開始したことを意味する。目標温度は、時刻t_(2)までT_(1)に維持される。時刻t_(2)において、第2段階が終了して第3段階74が開始する。第3段階74中には、目標温度が時刻t_(3)まで時間の増加と共に線形的に上昇し、時刻t_(3)において目標温度がT_(2)になり、これ以上加熱要素に電力が供給されなくなる。
【0075】
図8に示す形状の目標温度プロファイルは、図5に示す形状の実際の温度プロファイルをもたらす。T_(0)、T_(1)、T_(2)の値は、特定の基材及び特定の装置、加熱要素及び基材形状に適するように調整することができる。同様に、t_(1)、t_(2)及びt_(3)の値も、状況に適するように選択することができる。
【0076】
1つの例では、第1段階が45秒の長さであってT_(0)が360℃に設定され、第2段階が145秒の長さであってT_(1)が320℃であり、第3段階が170秒の長さであってT_(2)が380℃である。喫煙体験は、合計360秒にわたって続く。
【0077】
別の例では、第1段階が60秒の長さであってT_(0)が340℃に設定され、第2段階が180秒の長さであってT_(1)が320℃であり、第3段階が120秒の長さであってT_(2)が360℃である。この場合も、加熱サイクル又は喫煙体験は、合計360秒にわたって続く。
【0078】
さらに別の例では、第1段階が30秒の長さであってT_(0)が380℃に設定され、第2段階が110秒の長さであってT_(1)が300℃であり、第3段階が220秒の長さであってT_(2)が340℃である。」

オ 「



(2)検討
最初に、第1?3段階の開始及び終了について、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、段落【0018】には、第1段階、第2段階及び第3段階の各々が、所定の持続時間を有しており、装置の作動後の時間を使用して、第1段階が終了して第2段階が開始する時刻、第2段階が終了して第3段階が開始する時刻を決定する例が示されている。
また、同段落【0018】には、別の例として、加熱要素が第1の目標温度に達したらすぐに第1段階を終了する例、加熱要素が第1の目標温度に達した後の所定の時間に基づいて第1段階が終了する例、作動後に加熱要素に送達された総エネルギーに基づいて第1段階及び第2段階を終了する例、及び、装置を、例えば専用の流量センサを用いてユーザによる吸煙を検出するように構成することで、所定の吸煙回数後に第1及び第2段階を終了する例が示されている。
次に、第1?3段階における第1?3の温度について、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、本件特許発明は、「エアロゾル形成基材の連続的又は反復的加熱期間にわたって特性がより一貫したエアロゾルを提供する」(段落【0005】)という技術課題を解決するために、装置の最初の動作時間中に装置内の凝縮によってエアロゾルの送達が減少するエアロゾルの発生において、第1段階の第1の温度は、最大許容温度に近い温度を選択して、消費者への最初の送達として満足できる量のエアロゾルを発生させるための電力を供給するためのものであり(段落【0014】)、当該高い温度の第1の温度よりも低い温度である第2段階の第2の温度は、装置及び基材が温まると凝縮が抑えられてエアロゾルの送達が増加することから、第1段階に対して第2段階のエアロゾル送達特性を一貫とするために加熱要素の温度が第1の温度よりも低い温度ではあるが許容温度範囲内の第2の温度に低下するように加熱要素への電力を供給するためのものである(段落【0019】)。さらに、第2の温度よりも高い温度である第3段階の第3の温度に上昇させることは、基材の枯渇及び熱拡散の低下に起因するエアロゾル送達の減少を補償するためのものであり、第2段階と同様に特性を一貫とするためのものである(段落【0020】)。
そうすると、本件特許発明が、本件特許明細書の段落【0076】?【0078】に記載された具体例による第1?3の温度及び第1?3段階により、課題を解決できるものであることは明らかである。
また、上記述べたとおりの技術的意義を有して設定される第1?3の温度について、適宜持続時間ないし適宜切替タイミングを用いて第1?3段階とする制御により課題を解決できることも明らかである。
そうすると、本件特許発明が、本件特許発明の課題を解決し得ない態様を含むものとはいない。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明において、本件特許発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件特許の請求項1?26に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、無効理由5は理由がない。

1-3 無効理由6(明確性)について
本件特許の請求項1及び15における「前記加熱要素」は、この記載以前の「少なくとも1つの加熱要素」を示すものであるところ、加熱要素は、第1?3の温度となるように制御できればよいのであって、その制御を行う際に必要に応じた加熱要素の数とすればよいことは明らかであるから、少なくとも1つの加熱要素が発明として特定する制御を行うものであることを規定した記載は明確であるといえる。
したがって、本件特許発明は明確であるから、本件特許の請求項1?26に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、無効理由6は理由がない。

1-4 無効理由7(実施可能要件)について
無効理由5(サポート要件)で述べたことと繰り返しになるが、本件特許発明は、「エアロゾル形成基材の連続的又は反復的加熱期間にわたって特性がより一貫したエアロゾルを提供する」(段落【0005】)という技術課題を解決するために、装置の最初の動作時間中に装置内の凝縮によってエアロゾルの送達が減少するエアロゾルの発生において、第1段階の第1の温度は、最大許容温度に近い温度を選択して、消費者への最初の送達として満足できる量のエアロゾルを発生させるための電力を供給するためのものであり(段落【0014】)、当該高い温度の第1の温度よりも低い温度である第2段階の第2の温度は、装置及び基材が温まると凝縮が抑えられてエアロゾルの送達が増加することから、第1段階に対して第2段階のエアロゾル送達特性を一貫とするために加熱要素の温度が第1の温度よりも低い温度ではあるが許容温度範囲内の第2の温度に低下するように加熱要素への電力を供給するためのものである(段落【0019】)。さらに、第2の温度よりも高い温度である第3段階の第3の温度に上昇させることは、基材の枯渇及び熱拡散の低下に起因するエアロゾル送達の減少を補償するためのものであり、第2段階と同様に特性を一貫とするためのものである(段落【0020】)。
この点、本件特許明細書の段落【0076】?【0078】には、上記に述べた事項を具体化した例として、第1、第2及び第3段階の温度及び時間についてそれぞれ3つの例が記載されており、当該記載に基づき、本件特許発明を当業者が実施できることは明らかである。
以上から、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確且つ十分に記載されたものである。

なお、請求人は、エアロゾル形成基材の種類の例は段落【0039】?【0045】に多数紹介されているが、どのエアロゾル形成基材の種類に対して段落【0076】?【0078】に例示される目標温度と持続時間が有効なのかは不明であり、また、特定のエアロゾル形成基材の種類に対して段落【0076】?【0078】の目標温度や時間をどのように選定したのかも説明されておらず、段落【0075】には「T_(0)、T_(1)、T_(2)の値は、特定の基材及び特定の装置、加熱要素及び基材形状に適するように調整することができる。同様に、t_(1)、t_(2)及びt_(3)の値も、状況に適するように選択することができる。」と記載されているだけで、具体的にどのように調整や選択を行えば図6に示されるような極めて安定したエアロゾル送達プロファイルを実現できるかは明らかにされていないため、個々のエアロゾル形成基材に対して適切な目標温度と持続時間の組み合わせを発見することは、当業者において期待しうる程度を越える試行錯誤を必要とする旨の主張をしている。
しかし、特性を一貫としたエアロゾルの送達プロファイルを達成するために最適な加熱要素の温度プロファイルを実験的に求めることは、通常の試行錯誤であり、過度の試行錯誤とはいえないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施することができる程度に記載されたものである。
特に、請求人が指摘する「【0075】・・・T_(0)、T_(1)、T_(2)の値は、特定の基材及び特定の装置、加熱要素及び基材形状に適するように調整することができる。同様に、t_(1)、t_(2)及びt_(3)の値も、状況に適するように選択することができる。」の記載は、続く段落【0076】?【0078】において3つの例における温度及び時間についての説明があり、該温度及び時間に対応してエアロゾルを発生することのできる適宜材料を用いて発明が実施可能であることは当業者において明らかである。
また、特定の装置、加熱要素及び基材形状に適した温度の調整については、上記した温度制御以外の販売に係る製品化に際し、官能評価、生産性、コスト等を考慮して適宜検討される事項でもあり、当該事項の具体化された説明がなくとも、本件特許発明1?26を当業者が実施できるものといえる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、本件特許の請求項1?26に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、無効理由7は理由がない。

2 無効理由1?4について
2-1 甲1?5について
(1)甲1について
ア 甲1の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は理解の一助のために当審で付したものである。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は香味生成物品の加熱温度を制御する電気式香味生成物品加熱制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】被加熱物体を加熱制御する場合、その被加熱物体の温度を直接温度センサで検出し、この検出温度に基づいて被加熱物体の温度を制御するのが一般的であるが、エアロゾルシガレットのごとき香味生成物品では物性上の要因から温度センサを使用するのが難しい。しかも、香味生成物品は、一定温度以上の熱を与えたとき、熱分解等の悪影響を受けて所要の香味性能が得られなくなる。そこで、香味生成物品を加熱制御するために、間接的にヒータの発熱温度を制御することにより香味生成物品の加熱温度を制御する必要がある。
【0003】従来、温度センサを使用しない電気ヒータの加熱制御装置は、一定温度上昇後に発熱体であるヒータの電源回路をオフする構成のものもあるが、温度の急降下および電源回路のオン時の急上昇の変化が激しく、被加熱物体の温度を安定に維持することが困難である。
【0004】また、上記以外の加熱制御技術としては、自己制御タイプのヒータを使用するとか、ヒータ表面またはヒータ内部に温度センサを設置し、この温度センサの検出温度を加熱制御装置内に取込んでヒータの温度を制御するものが考えられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、香味生成物品を加熱する加熱用ヒータは、その適用物品である香味生成物品が外観的に小さいことからおのずとヒータサイズが小型となり、これに伴って加熱用ヒータの昇温速度も比較的速くなる。その結果、温度センサを利用した加熱制御装置は、センサの応答性や熱容量の関係から安定した制御特性が得られないばかりか、特定の温度で安定条件が得られても、香味生成物品にとって最適な温度に設定するのが難しいといった問題がある。
【0006】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、通電時の発熱体の電気抵抗値を利用して香味生成物品の加熱温度を適切に制御する電気式香味生成物品加熱制御装置を提供することにある。」

(イ)「【0008】このような手段を講じたことにより、通電により香味生成物品用発熱体の発熱温度が上昇すると、この温度上昇に伴って電気抵抗値が増加するので、この電気抵抗値を有効に利用すれば、発熱体の発熱温度,ひいては香味生成物品の所定温度を把握でき、また発熱体の発熱温度が香味生成物品の所定温度に達したとき、温度センサを用いることなく、発熱体への通電路をオン・オフ制御することにより、香味生成物品を所定の加熱温度に制御できる。
【0009】また、別の発明は、直流定電圧を発生する定電圧発生手段と、この定電圧発生手段の直流定電圧を受けている通電時の発熱温度に応じて電気抵抗値が変化する発熱体と、通電時に発熱体に流れる電流値から電気抵抗値を検出する抵抗検出手段と、前記香味生成物品の香味熱分解の生じない発熱体の所望温度に応じた所定の電気抵抗値に設定する抵抗設定手段と、この所定の電気抵抗値と前記抵抗検出手段による検出電気抵抗値とを比較し、両値が一致したときに一致信号を出力する比較演算手段と、この比較演算手段からの一致信号を受けた後、前記発熱体への通電路をオン・オフ制御するシーケンス制御手段とを設けた電気式香味生成物品加熱制御装置である。
【0010】このような手段を講じたことにより、通電時に発熱温度に応じて電気抵抗値が変化する発熱体の電流値から電気抵抗値を検出し、一方、香味生成物品の香味熱分解が生じない発熱体の所望温度に応じた所定の電気抵抗値に設定し、これら設定電気抵抗値と前記検出電気抵抗値とを比較すれば、その両値の一致から発熱体が所望温度に達したことを検出でき、しかも温度センサを用いることなく、確実、かつ、高精度に検出できる。さらに、両値の一致信号を受けてシーケンス制御手段が発熱体への通電路を適切にオン・オフ制御することにより、発熱体を安定な状態で所望温度に制御できる。
【0011】さらに、前記発熱体としては、通電時に昇温速度が速く、かつ、香味生成物品の香味熱分解が起らない所望温度に加熱可能なセラミックスヒータを用いることにより、速やかに香味生成物品の香味性能が発揮され、香味生成物品の香味を得ることができる。
【0012】さらに、前記定電圧発生手段としては、香味生成物品の未挿入時、通電初期時の通電時間10秒以内に発熱体の所望温度が300°Cとなるような直流定電圧を発生し、また前記シーケンス制御手段としては、香味生成物品の未挿入時、前記発熱体の所望温度300°Cに対して±60°Cの温度変化範囲となるように前記発熱体への通電路をオン・オフ制御することにより、現在の香味生成物品において速やかに香味生成物品の香味が得られ、しかもある時間の間安定した状態で香味を確保できる。
【0013】さらに、前記シーケンス制御手段としては、香味生成物品の香味の熱分解を考慮しつつ予め前記発熱体への通電路のオフ時間およびオン時間のシーケンス制御時間が設定され、前記比較演算手段から一致信号を受けたとき、前記シーケンス制御時間に従って発熱体への通電路をオン・オフ制御することにより、安定、かつ、継続的に所要の香味を確保できる。」

(ウ)「【0017】この香味生成物品20は、通常のシガレットとほぼ同じ使用感および香味性能が得られるように、使用材料,外観,寸法等が市販のシガレットに準じて作られている。すなわち、香味生成物品20は、通常のシガレットのたばこ巻きに相当する部分となる主管21と、その主管21の一端部にチップペーパー22を介して接続されるフィルタ23とによって構成されている。主管21は硬質の厚紙からなり、その先端部分には後述するように香味成分等を含む固体状原料の筒状成形体30が同心状に内蔵され、一方、フィルタ23はプラグ巻取紙で巻かれたセルロースジアセテートなどの繊維濾過材が用いられている。
【0018】主管21およびチップペーパー22は香味生成物品20のガス流路24を規定するためのケーシング25を構成する。このケーシング25は主管21の先端側に空気を取込む空気取込口26が設けられ、一方、フィルタ23の端部には使用者において香味を吸引する吸引口27が設けられている。そして、空気取込口26と吸引口27との間のケーシング25内にガス流路24が設けられている。
【0019】ケーシング25は、市販のシガレットと同じ外径,すなわち使用者がシガレットと同様に口に自然にくわえることができる程度の外径をもった直線的な円筒形となっている。なお、ケーシング25の材料としては、通常のシガレットとほぼ同じ使用感を生み出すように紙が使用されるが、香味生成物品を燃焼させずに原料を加熱して吸引対象物である香味を生成することから、香味生成物品20の使用温度に応じて種々の材料が選択使用される。ケーシング25の材料として、例えば使用温度が200°C以下の場合には紙、200°C?400°Cの場合には耐熱性プラスチック、400°C以上の場合にはセラミックス,金属などが使用される。
【0020】前記筒状成形体30は、図5に示すような形状,つまり通気性の低い緻密な円筒体として形成されている。この成形体30の中心にはヒータ挿入穴31が形成され、この挿入穴31には成形体30を加熱する加熱用ヒータ1が着脱自在に挿入される。この挿入穴31の後端面中心にはヒータ挿入穴31よりも十分小径の透孔32が形成され、さらに成形体中実部分である円筒壁33の外側面の相対向する2個所には軸方向にそって溝34が形成されている。
【0021】これらヒータ挿入穴31、透孔32および溝34は、成形体30で生成される香味やエアロゾルの成分を含む加熱ガスを搬送するための通路の機能の他、香味やエアロゾルの成分を含む加熱ガスを効率よく生成するように成形体30上の蒸発面積を確保する機能をもっている。
【0022】28はケーシング25に形成されたガス流路24に冷却空気を導入する小径の透孔である。成形体30で生成される香味やエアロゾルの成分を含む加熱ガスは透孔28により導入された外気と混合冷却され、エアロゾルの生成が助長される。なお、外気導入用の透孔28に代え、ケーシング25の一部を通気性の材料で形成し、ケーシング25の壁の通気特性を利用して外気を導入することもありうる。
【0023】ところで、燃焼せずに加熱により香味を生成する媒体である原料の成形体30は、熱分解の影響を受けるバインダー、香味成分の揮散を防止する担持素材、香味成分、エアロゾル基剤および水などが含有されている。この成形体30は、押出し、プレス(金型、ラバー)、鋳込み、射出成形等の圧力による成形方法の何れを用いて、通気性の低い緻密な固体物として形成される。
【0024】前記バインダーは内容成分を混合後に固結し、成形体30に必要な機械的強度を付与するために用いられ、有機、無機に拘らず種々の材料を選択することができ、例えば鉱物系粘土、珪酸塩、リン酸塩、セメント、シリカ、石膏、石灰、でん粉、糖、海草、蛋白、たばこ粉末等を挙げることができる。香味を生成する香味成分およびエアロゾル煙を生成するエアロゾル基剤は、用途に応じて種々の天然物からの抽出物質および/またはそれらの構成成分を選択することができる。香味成分としては、例えばメンソール、カフェイン、或いは熱分解により香味を生成する配糖体等の前駆体或いはたばこ抽出物成分やたばこ煙凝縮物成分等のたばこ成分を用いることができる。」

(エ)「【0025】(2) 次に、以上のような香味生成物品20を装着して成形体30を加熱制御する加熱制御装置について説明する。
【0026】図1は本発明に係わる加熱制御装置の一実施の形態を示す構成図である。
【0027】同図において1は前述した香味生成物品20を加熱する加熱用ヒータ(発熱体)であって、この加熱用ヒータ1には直流電源2が定電圧発生回路3を介して印加されている。
【0028】この加熱用ヒータ1は、通電時の抵抗損失により発熱するヒータであって、図2に示すように発熱温度Tの上昇に伴って抵抗値Rが上昇する特性のものが使用される。加熱用ヒータ1は、具体的には成形体30のヒータ挿入穴31の穴径よりも小さい外径をもった円筒棒状の金属ヒータ(ステンレス鋼管)やセラミックスヒータなどが用いられる。セラミックスヒータは、昇温速度が速いこと、50°Cから800°Cの温度範囲まで発熱可能である一方、例えば30秒以内に香味生成物品を熱分解させない最高温度300°C程度に昇温加熱できるなどのメリットがある。以上のような昇温速度の点を考えれば、ニクロム線は昇温速度が遅いので、この種の香味生成物品の加熱用には不適当なものである。
【0029】前記直流電源2は例えば3.8V?12.0V内の何れかの直流電圧を発生する電池などが用いられる。この直流電源2の直流電圧は香味生成物品20を熱分解させずに所要の時間内に所望の香味性能を得るかに応じて決定される。因みに、香味生成物品20を熱分解させずに30秒以内に300°Cの温度に加熱するには7.2Vの直流電圧が必要となる。
【0030】前記定電圧発生回路3は、例えば三端子レギュレータが用いられ、加熱用ヒータ1などの負荷変動による電源電圧の変動を回避し常に加熱用ヒータ1に一定の電圧を印加する機能をもっている。
【0031】この定電圧発生回路3の両出力端子間には、加熱用ヒータ1、電流検出回路4およびスイッチ手段5からなる直列回路が接続されている。
【0032】この電流検出回路4は、例えば温度係数が小さく、かつ、温度依存性をもたない抵抗体が用いられ、加熱用ヒータ1の発熱温度の上昇による抵抗値の上昇に伴って変化する電流値を検出し、この検出電流に応じた電圧に変換して出力する。前記スイッチ手段5は、リレーまたは半導体スイッチング素子で構成され、外部からのオン・オフ制御信号を受けてオン・オフ動作する。
【0033】なお、定電圧発生回路3は加熱用ヒータ1に対し変動の伴わない一定の電圧印加状態に設定すること,つまり適切な抵抗測定条件を作り出す機能をもっていること、一方、電流検出回路4は加熱用ヒータ1の加熱により変化する抵抗値にのみ依存して変化する電流値を検出する機能をもっていることから、これら定電圧発生回路3および電流検出回路4は加熱用ヒータ1の変化する抵抗値を検出する機能をもった抵抗検出回路6と呼ぶことができる。
【0034】また、加熱制御装置には温度設定回路7および電圧変換回路8が設けられている。この温度設定回路7は、図2に示すように加熱用ヒータ1の最適発熱温度Tsのときの加熱用ヒータ1の抵抗値Rsが設定されるが、この最適発熱温度は香味成分物品20の成分含有量によって異なるものであり、そのため設定抵抗値Rsも任意に可変可能な構成とする。電圧変換回路8は温度設定回路7の設定抵抗値に応じた電圧を発生させるものである。これら温度設定回路7および電圧変換回路8は、具体的には例えば可変抵抗器の両端に所定の電圧を印加し、当該可変抵抗器のうち設定抵抗値Rsに相当する部分に予め設定される可動端子から設定抵抗値Rsにのみ依存する電圧を取り出す構成によって実現でき、これら温度設定回路7および電圧変換回路8は抵抗設定回路9と呼ぶことができる。
【0035】10は電流検出回路4から出力される検出電流に応じた電圧と電圧変換回路8から出力される電圧とを比較する比較演算回路であって、これら両電圧の比較結果がシーケンス制御回路11に送られる。このシーケンス制御回路11は、タイマーが内蔵され、電圧変換回路8から出力される電圧に一致する電圧が電流検出回路4で検出されたとき、つまり一致信号をうけたとき、香味生成物品20の熱分解を考慮しつつ予め設定された所定の時間のタイミングでオン・オフ制御を行うためのシーケンス制御信号を出力する機能をもっている。シーケンス制御回路11は、比較演算回路10から一致信号を受けたとき、例えば具体的には0.2秒?2秒間オフとするシーケンス制御信号を出力した後、本来の比較結果を取込んで同様の処理を繰り返すとか、或いは前記一致信号を受けたとき、所定の時間ごとにオフ・オンを繰り返し実行するシーケンス制御信号を出力することが挙げられる。
【0036】12はスイッチ駆動制御回路であって、これはシーケンス制御回路11から入力されるシーケンス制御信号に基づいてスイッチ手段5をオン・オフ制御するものである。
【0037】これら比較演算回路10、シーケンス制御回路11、スイッチ駆動制御回路12およびスイッチ手段5はヒータ電源制御装置13を構成するものである。」

(オ)「【0039】先ず、抵抗設定回路9を用いて、香味生成物品の熱分解を起こさず、かつ、香味性能が得られる図2に示す加熱用ヒータ1の最適加熱温度Tsに対応する抵抗値Rsに設定する。
【0040】この状態において装置に電源を投入すると、シーケンス制御回路11が所定のシーケンス制御動作を開始し、スイッチ手段5をオンとするためのシーケンス制御信号を出力し、スイッチ駆動制御回路12を介してスイッチ手段5をオンに設定する。
【0041】ここで、スイッチ手段5がオンとなると、加熱用ヒータ1には定電圧発生回路3から予め定める一定の直流電圧が印加される。その結果、加熱用ヒータ1は、通電による抵抗損失で発熱し、この発熱温度の上昇に伴って加熱用ヒータ1の電気抵抗値が増大する。このとき、加熱用ヒータ1は常に一定の直流電圧が印加されているので、通電による発熱温度の上昇とともに抵抗値が増大し、逆に加熱用ヒータ1に流れる電流値が低下する。電流検出回路4は、発熱用ヒータ1に流れる電流を検出し、この検出電流を電圧値に変換し比較演算回路10に送出する。
【0042】ここで、比較演算回路10は、基準抵抗設定側となる電圧変換回路8から入力される設定抵抗に依存する所定電圧と電流検出回路4から出力される電圧とを比較し、電流検出回路4から出力される電圧が所定電圧に一致したとき、つまり設定温度に相当する抵抗値と加熱用ヒータ1の抵抗値とが等しくなったとき、例えばハイレベル信号Hを出力しシーケンス制御回路11に送出する。
【0043】このシーケンス制御回路11は比較演算回路10からハイレベル信号Hを受けると、オフとするシーケンス制御信号を出力し、スイッチ駆動制御回路12を介してスイッチ手段5をオフ制御にすると同時にタイマーを作動させる。これにより加熱用ヒータ1への低電圧電源の供給が停止する。
【0044】以後、シーケンス制御回路11は、所定のシーケンスプログラムに基づき、香味生成物品20の香味熱分解を考慮しつつ予め設定される所定の時間,例えばタイマーが例えば1秒経過した後、スイッチ駆動制御回路12を介してスイッチ手段5をオンとし、その後,比較演算回路10の比較結果に基づき、スイッチ手段5のオフ・オンを繰り返すとか、或いはハイレベル信号Hを受けてスイッチ手段5をオフとした後、予め定める所定時間ごとにオン・オフ制御を繰り返し実行する。
【0045】なお、スイッチ手段5のオン・オフ制御時間は、短時間であればあるほど制御時の温度範囲が狭くなるが、抵抗検出回路6側のオン・オフ接点の種類(リレー、半導体スイッチング素子)および被加熱物体の物性(比熱・熱伝達率)などの条件を考慮し、さらに香味生成物品20の熱分解および香味性能等を考慮し、0.2?2秒程度のインターバルで行うのが望ましいが、この時間も香味生成物品20の成分含有量の状態によって異なるものである。」

(カ)「【0047】従って、以上のような実施の形態によれば、加熱用ヒータ1に定電圧発生回路3から常に一定の直流電圧を印加し、この通電時の抵抗損失による発熱温度の上昇に伴って変化する加熱用ヒータ1の抵抗値を利用し、当該加熱用ヒータ1の発熱温度を検出するので、温度センサを用いる必要がなく、また小形でかつ速い昇温速度を必要とする香味生成物品の加熱温度制御に非常に有効なものである。
【0048】また、通電時に発熱温度に応じて抵抗値が変化する加熱用ヒータ1の電流値から得られる抵抗値と予め香味生成物品の香味熱分解が生じない加熱用ヒータ1の所望温度に応じた所定の設定抵抗とを比較し、両抵抗値の一致から加熱用ヒータ1の所望の発熱温度を検出するので、確実、かつ、高精度に加熱用ヒータ1の所望の発熱温度,ひいては香味生成物品に最適な加熱温度に設定できる。
【0049】さらに、比較演算回路10から両抵抗値の一致信号を受けたとき、シーケンス制御回路11は、予め定めた任意のインターバルで加熱用ヒータ1の通電路をオン・オフ制御するので、香味生成物品の物性を考慮しつつ香味性能を安定、かつ、継続的に得ることができる。
【0050】なお、上記実施の形態では、加熱用ヒータ1として、金属ヒータまたはセラミックスヒータなどを用いた例を説明したが、例えば図3および図4に示すような白金線や熱電対を用いてもよい。図3は、白金線の加熱用ヒータ1を用い、かつ、香味生成物品の挿入時のオン・オフ制御およびPID(P:比例、I:積分、D:微分)制御を行ったときの経過時間とヒータ発熱温度との慣例をプロットした図である。この図から明らかなように、オン・オフ制御およびPID制御とも通電時の昇温速度が速い点において迅速に香味生成物品の香味性能を得ることができるが、PID制御の場合には加熱用ヒータ1の発熱温度が250°Cないし300°に上昇した後PID制御を実行すると、P、D制御パラメータがきいて発熱温度が大きく変化するのに対し、オン・オフ制御の場合には250°C±20°Cの温度変化幅に入るように加熱温度を制御することができ、安定した状態で香味生成物品の香味性能を得ることができる。」

イ 上記ア及び図面の記載から分かること
(ア)上記ア(ア)?(カ)並びに図1?6の記載によれば、甲1には、電気式香味生成物品加熱制御装置及び電気式香味生成物品加熱制御装置における香味の発生を制御する方法が記載されていることが分かる。

(イ)上記ア(ウ)、(エ)及び(カ)(特に、段落【0020】、【0027】、【0028】及び【0050】)並びに図1及び5の記載によれば、電気式香味生成物品加熱制御装置が、エアロゾル基剤を含む成形体30を加熱するように構成された加熱用ヒータ1を備えることが分かる。

(ウ)上記ア(エ)(特に、段落【0027】及び【0029】)及び図1の記載によれば、電気式香味生成物品加熱制御装置が、加熱用ヒータ1に電力を供給するための直流電源2を備えることが分かる。

(エ)上記ア(オ)及び(カ)並びに図1?4の記載によれば、電気式香味生成物品加熱制御装置における香味の発生を制御する方法が、直流電源2を投入すると、シーケンス制御回路11が所定のシーケンス制御動作を開始し、スイッチ手段5をオンとすると、加熱用ヒータ1には定電圧発生回路3から予め定める一定の直流電圧が印加され、電流検出回路4が前記加熱用ヒータ1に流れる電流を検出し、比較演算回路10が基準抵抗設定側となる電圧変換回路8から入力される設定抵抗に依存する所定電圧と前記電流検出回路4から出力される電圧とを比較し、前記電流検出回路4から出力される電圧が所定電圧に一致したとき、つまり、設定温度に相当する抵抗値と前記加熱用ヒータ1の抵抗値が等しくなったとき、前記シーケンス制御回路11が、前記スイッチ手段5をオフ制御にすると同時にタイマーを作動させ、これにより前記加熱用ヒータ1への電力の供給が停止し、以後、前記シーケンス制御回路11が、所定のシーケンスプログラムに基づき、香味生成物品20の香味熱分解を考慮しつつ予め設定される所定の時間経過した後、前記スイッチ手段5をオンとし、その後、前記比較演算回路10の比較結果に基づき、前記スイッチ手段5のオフ・オンを繰り返すとか、或いは前記スイッチ手段5をオフとした後、予め定める所定時間ごとにオン・オフ制御を繰り返し実行するよう制御するステップを含むことが分かる。

(オ)上記ア(オ)及び(カ)並びに図1の記載によれば、電気式香味生成物品加熱制御装置は、直流電源2から前記加熱用ヒータ1への電力の供給を制御するための定電圧発生回路3、電流検出回路4、スイッチ手段5、温度設定回路7、電圧変換回路8、比較演算回路10、シーケンス制御回路11及びスイッチ駆動制御回路12等を備えることが分かる。
ここで、各回路等は電気が流れることから、各回路等を総称して、以下、「電気回路A」という。
そして、上記ア(オ)及び(カ)(特に、段落【0040】?【0045】)並びに図1?4の記載によれば、電気回路Aは、直流電源2を投入すると、シーケンス制御回路11が所定のシーケンス制御動作を開始し、スイッチ手段5をオンとすると、加熱用ヒータ1には定電圧発生回路3から予め定める一定の直流電圧が印加され、電流検出回路4が前記加熱用ヒータ1に流れる電流を検出し、比較演算回路10が基準抵抗設定側となる電圧変換回路8から入力される設定抵抗に依存する所定電圧と前記電流検出回路4から出力される電圧とを比較し、前記電流検出回路4から出力される電圧が所定電圧に一致したとき、つまり、設定温度に相当する抵抗値と前記加熱用ヒータ1の抵抗値が等しくなったとき、前記シーケンス制御回路11が、前記スイッチ手段5をオフ制御にすると同時にタイマーを作動させ、これにより前記加熱用ヒータ1への電力の供給が停止し、以後、前記シーケンス制御回路11が、所定のシーケンスプログラムに基づき、香味生成物品20の香味熱分解を考慮しつつ予め設定される所定の時間経過した後、前記スイッチ手段5をオンとし、その後、前記比較演算回路10の比較結果に基づき、前記スイッチ手段5のオフ・オンを繰り返すとか、或いは前記スイッチ手段5をオフとした後、予め定める所定時間ごとにオン・オフ制御を繰り返し実行するように制御するよう構成されるものであることが分かる。

ウ 甲1発明1
上記ア及びイを総合して、本件特許発明1の表現に倣って整理すると、甲1には、次の事項からなる発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されていると認める。
「電気式香味生成物品加熱制御装置における香味の発生を制御する方法であって、前記電気式香味生成物品加熱制御装置は、
エアロゾル基剤を含む成形体30を加熱するように構成された加熱用ヒータ1と、
前記加熱用ヒータ1に電力を供給するための直流電源2と、
を備え、前記方法は、
前記直流電源2を投入すると、シーケンス制御回路11が所定のシーケンス制御動作を開始し、スイッチ手段5をオンとすると、前記加熱用ヒータ1には定電圧発生回路3から予め定める一定の直流電圧が印加され、電流検出回路4が前記加熱用ヒータ1に流れる電流を検出し、比較演算回路10が基準抵抗設定側となる電圧変換回路8から入力される設定抵抗に依存する所定電圧と前記電流検出回路4から出力される電圧とを比較し、前記電流検出回路4から出力される電圧が所定電圧に一致したとき、つまり、設定温度に相当する抵抗値と前記加熱用ヒータ1の抵抗値が等しくなったとき、前記シーケンス制御回路11が、前記スイッチ手段5をオフ制御にすると同時にタイマーを作動させ、これにより前記加熱用ヒータ1への電力の供給が停止し、以後、前記シーケンス制御回路11が、所定のシーケンスプログラムに基づき、香味生成物品20の香味熱分解を考慮しつつ予め設定される所定の時間経過した後、前記スイッチ手段5をオンとし、その後、前記比較演算回路10の比較結果に基づき、前記スイッチ手段5のオフ・オンを繰り返すとか、或いは前記スイッチ手段5をオフとした後、予め定める所定時間ごとにオン・オフ制御を繰り返し実行するよう制御するステップを含む、
方法。」

エ 甲1発明2
また、上記ア及びイを総合して、本件特許発明15の表現に倣って整理すると、甲1には、次の事項からなる発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されていると認める。
「電気式香味生成物品加熱制御装置であって、
エアロゾル基剤を含む成形体30を加熱して香味を発生させるように構成された加熱用ヒータ1と、
前記加熱用ヒータ1に電力を供給するための直流電源2と、
前記直流電源2から前記加熱用ヒータ1への電力の供給を制御するための電気回路Aと、
を備え、前記電気回路Aは、
前記直流電源2を投入すると、シーケンス制御回路11が所定のシーケンス制御動作を開始し、スイッチ手段5をオンとすると、前記加熱用ヒータ1には定電圧発生回路3から予め定める一定の直流電圧が印加され、電流検出回路4が前記加熱用ヒータ1に流れる電流を検出し、比較演算回路10が基準抵抗設定側となる電圧変換回路8から入力される設定抵抗に依存する所定電圧と前記電流検出回路4から出力される電圧とを比較し、前記電流検出回路4から出力される電圧が所定電圧に一致したとき、つまり、設定温度に相当する抵抗値と前記加熱用ヒータ1の抵抗値が等しくなったとき、前記シーケンス制御回路11が、前記スイッチ手段5をオフ制御にすると同時にタイマーを作動させ、これにより前記加熱用ヒータ1への電力の供給が停止し、以後、前記シーケンス制御回路11が、所定のシーケンスプログラムに基づき、香味生成物品20の香味熱分解を考慮しつつ予め設定される所定の時間経過した後、前記スイッチ手段5をオンとし、その後、前記比較演算回路10の比較結果に基づき、前記スイッチ手段5のオフ・オンを繰り返すとか、或いは前記スイッチ手段5をオフとした後、予め定める所定時間ごとにオン・オフ制御を繰り返し実行するように制御するよう構成される、
電気式香味生成物品加熱制御装置。」

(2)甲2について
ア 甲2の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲2には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、翻訳文は、請求人が提出したものを採用した。また、下線は理解の一助のために当審で付したものである。
(ア)「

・・・


<翻訳文>
「【技術分野】
[0001] 本発明は電子タバコに関し、詳しくは、従来の燃焼方式ではなく、気化方式を採用した電子タバコに関する。
【背景技術】
[0002] 現在、世界全体の喫煙者人口は10億を上回る。喫煙中に、主成分としてニコチン、一酸化炭素、タール等が産生されるが、タバコの有効成分はニコチンであり、それ以外の殆どの成分は人体に有害であるため、喫煙を一因として命を落とす人も多い。そのため、公共の場所はその多くが禁煙になっており、全国民に喫煙を禁止している国も数カ国ある。一方、ヘビースモーカーはどうしても喫煙がやめられないため、その要望に応えるべく、市場には種々の電子タバコが出回っている。しかし、電子タバコは本来のタバコとは味がかなり異なり、喫煙者を満足させることができないことがある。
【発明の概要】
[0003] 本発明の目的の1つは、口当たりが本来のタバコに近く、喫煙中や受動喫煙における一酸化炭素やタールの産生を防ぐことが可能、かつ、小さく使い勝手のよい気化式電子タバコを提供することである。
[0004] 本発明の目的は、以下の技術的解決策により達成される。
本発明の気化式電子タバコは、殻部と、この殻部に配置したバッテリおよび制御部を備え、吸引ノズルが殻部の一端に設けられ、電気加熱片の動作状態を制御するための制御スイッチが殻部に設けられ、制御スイッチは制御部に接続され、タバコ組成物を載置するための天火が殻部にさらに設けられ、吸気口と、タバコ組成物を気化させる電気加熱片が天火に配置されており、天火は吸引ノズルに連通しており、バッテリは、制御部を介して、電気加熱片に電気的に接続されている。
[0005] 技術的解決策は、さらに次のように構成してもよい。
天火の温度を検出するための温度センサが天火に設けられ、この温度センサは制御部に接続され、動作状態において、制御部は電気加熱片の加熱状態を制御して、温度センサによる検出温度に応じて、天火の動作温度を180℃?240℃に維持し、制御部は、温度センサによる検出温度が240℃に達すると加熱を停止するよう、電気加熱片を制御し、温度センサによる検出温度が180℃を下回ると加熱を開始するよう、電気加熱片を制御する。
[0006] 天火はバケツ形状を成し、電気加熱片は天火のバケツ形状の底部を形成し、吸気口は電気加熱片に形成されており、貫通穴は殻部に形成され、吸気口は貫通穴に連通している。
[0007] 制御部はバッテリと電気加熱片の間に配置され、制御部に対する断熱制御を行い、かつ、電気加熱片を支持するための断熱支持マイカシートが、制御部と電気加熱片の間に配置されている。
[0008] 吸引ノズルには吸引ノズルの穴部が形成されており、吸引ノズルは殻部にスリーブ接続されており、吸引ノズルの穴部に連通する溝部が、殻部にスリーブ接続した吸引ノズルの端部に形成されており、溝部は天火の開口端の反対側に位置し、天火内部の空洞に連通している。タバコ組成物が吸引ノズルの穴部から漏出することを防ぐためのニッケル製ワイヤーメッシュが、溝部の底部に設けられている。
[0009] 制御部は、電気加熱片の加熱状態を制御するためのスイッチ回路を備えており、電気加熱片は、このスイッチ回路を介して、電源に接続されている。
[0010] ユニバーサル・シリアル・バス(USB)充電インターフェースが殻部に形成されており、バッテリは再充電可能なリチウム・イオン・バッテリであり、充電電流および充電電圧を調節するための充電回路が制御部に設けられており、バッテリは、この充電回路を介して、USB充電インターフェースに接続されている。
[0011] 充電回路はBUCK充電回路である。
[0012] また、充電回路の充電状態を示す充電表示ランプと電気加熱片の加熱状態を示す加熱表示ランプが殻部に設けられており、充電表示ランプはUSB充電インターフェースに接続され、加熱表示ランプは制御部に接続されている。
[0013] 電気加熱片は厚膜電気加熱片である。
[0014] 本発明は以下の利点を有する。
1)本発明によれば、タバコ組成物は、喫煙者が電気加熱片を介して吸引するために、加熱により気化して液体粒子となり、従来の電子タバコのようにタバコ液を燃焼させるのではなく、タバコ組成物を気化させる方法を採用することで、従来の電子タバコと比較して、電子タバコの方が口当たりが本来のタバコに近い。
[0015] 2)本発明によれば、タバコ組成物を載置するための天火を殻部にさらに配置し、タバコ組成物を気化させるための電気加熱片と吸気口を天火に配置し、バッテリは制御部を介して電気加熱片に電気的に接続し、タバコ組成物は電気加熱片を介して加熱され、液体粒子へと気化され、従来の燃焼方式ではなく、気化方式を採用することで、喫煙中の一酸化炭素やタール等の有害物質の産生を防ぐ。さらに、煙ではなく気化による液体粒子が生成され、タバコ用ホールダーから吸引されるため、受動喫煙が回避される。さらに、この電子タバコは、従来のタバコと同等のサイズであり、小さいため、使い勝手がよい。」

(イ)「

・・・


<翻訳文>
「[0026] 図1、図2、図3に示すように、本実施形態の気化式電子タバコは、殻部1と、殻部1に配置したバッテリ2および制御部3を備える。吸引ノズル11が殻部1の一端に設けられ、電気加熱片41の動作状態を制御するための制御スイッチ12が殻部1に設けられ、制御スイッチ12は制御部3に接続され、タバコ組成物を載置するための天火4が殻部1にさらに設けられ、吸気口42と、タバコ組成物を気化させる電気加熱片41が天火4に配置されており、天火4は吸引ノズル11に連通し、バッテリ2は、制御部3を介して、電気加熱片41に電気的に接続されている。動作状態において、制御部3は電気加熱片41を制御して、タバコ組成物を加熱し、液体粒子へと気化させる。喫煙者は、吸引ノズル11を介して、タバコ組成物から気化した液体粒子を吸引する。本実施形態では、従来の燃焼方式ではなく、気化方式を採用することで、煙ではなく、気化により液体粒子を発生させる。このため、一酸化炭素やタール等の有害物質の産生を防ぎ、また、喫煙者が喫煙中でない場合の受動喫煙も回避される。また、この電子タバコは使い勝手がよい。
[0027] 本実施形態では、タバコ組成物は、主にタバコ粉末および配合添加物から調製される半固体の混合物である。このタバコ組成物は、一酸化炭素やタール等の有害な物質を産生することなく、180℃?240℃の温度範囲で気化され液体粒子に転じる。このタバコ組成物では、タバコ粉末の粒度は約1mmであり、タバコ粉末の配合添加物に対する質量比は、例えば、(2?3):1である。本実施形態では、タバコ粉末の配合添加物に対する質量比は、例えば、2:1であってもよく、この場合、配合添加物は混合溶液状に調製される。配合添加物は、混合溶液の溶質として機能するプロピレングリコールと、溶媒として機能するグリセリンを含み、グリセリンのプロピレングリコールに対する質量比は、例えば、(3?5):1である。本実施形態では、具体的に、グリセリンのプロピレングリコールに対する質量比は3:1であってもよい。さらに、配合添加物は天然香料をさらに含み、天然香料の含有量は、要件に応じて調節可能である。また、本実施形態では、天然香料のグリセリンに対する質量比は1:3である。
[0028] 図1、図2、図3に示すように、吸引ノズル11には吸引ノズルの穴部111が形成され、吸引ノズル11は殻部1にスリーブ接続され、吸引ノズルの穴部111に連通する溝部112が、殻部1にスリーブ接続した吸引ノズル11の端部に形成され、溝部112は天火4の開口端の反対側に位置し、天火4内部の空洞に連通し、タバコ組成物が吸引ノズルの穴部111から漏出することを防ぐためのニッケル製ワイヤーメッシュ113が溝部112の底部に設けられている。本実施形態では、溝部112と天火4の開口端を互いの反対側に配置することで内部の空洞を形成しているため、タバコ組成物の載置スペースをより大きく確保でき、このため、一度により多くのタバコ組成物を載置可能となる。また、ニッケル製ワイヤーメッシュ113によって、天火4のタバコ組成物が吸引ノズルの穴部111から漏出することを回避可能としている。吸気口42の口径は約0.5mmに設定され、これにより、タバコ組成物に含まれる約1mmの粒度をもつタバコ粒子が吸気口42から漏出することを回避できるようにしている。
[0029] 図1と図2に示すように、充電インターフェース13が殻部1に形成されており、バッテリ2は再充電可能なリチウムイオンであり、充電電流および充電電圧を調節するための充電回路が制御部3に設けられ、バッテリ2は、充電回路を介して、USB充電インターフェース13に接続されている。バッテリ2は周期的に充電して使用可能であるため、使用コストの削減が見込まれる。さらに、バッテリ2は、要件に応じて、別のタイプの再充電可能バッテリでもよく、通常のアルカリ電池を用いてもよい。
[0030] 図4と図6に示すように、本実施形態の充電回路はBUCK充電回路であり、このBUCK充電回路のパルス幅変調(PWM)制御端はワンチップ型マイクロコンピュータSTC12C5204ADのピン17に接続され、また、このBUCK充電回路のBAT+とBAT-はバッテリ2に接続されている。このBUCK充電回路はbuck(降圧)チョッパーであり、従来の充電回路と比較して、単純な回路構造、低コスト、高充電効率等の利点がある。
[0031] 図1、図2、図3、図5に示すように、充電回路の充電状態を示す充電表示ランプ14と、電気加熱片41の加熱状態を示す加熱表示ランプ15が、殻部1設けられ、充電表示ランプ14はUSB充電インターフェース13に接続され、加熱表示ランプ15は制御部3に接続されている。本実施形態では、充電表示ランプ14は、USB充電インターフェース13に接続される発光ダイオード(LED)であり、加熱表示ランプ15は、2色表示機能をもつLEDである。加熱表示ランプ15はLED3とLED4の合計2個のLEDで構成され、LED3は赤色LEDであり、LED4は緑色LEDである。LED3が発光している間は天火4の温度がその時点で180℃未満であることを示し、LED4が発光している間は天火4の温度がその時点で180℃?240℃の範囲内であることを示す。
[0032] 図2、図3、図6に示すように、本実施形態の制御部3は、ワンチップ型マイクロコンピュータSTC12C5204ADを基に実装された制御回路基板であり、ワンチップ型マイクロコンピュータSTC12C5204ADに内蔵の8パス、10ビットのアナログ/デジタル(AD)取得モジュールにより、温度や電圧等のアナログ信号をデジタル信号に変換可能である。ワンチップ型マイクロコンピュータSTC12C5204ADは、そのピン4がLED3に接続され、また、ピン5がLED4に接続されている。図示では制御スイッチ12はS1であり、ワンチップ型マイクロコンピュータSTC12C5204ADのピン23に接続されている。ワンチップ型マイクロコンピュータSTC12C5204ADは、ピン26(CONT1)を介して、スイッチ回路31に接続され、スイッチ回路31を介して電気加熱片41を制御する。
[0033] 図2、図3、図7に示すように、本実施形態の制御部3は、電気加熱片41の加熱状態を制御するスイッチ回路31を備え、電気加熱片41は、このスイッチ回路31を介して、電源に接続されている。さらに、制御部3は、駆動回路として、電気加熱片41の加熱状態を直接駆動可能である。本実施形態では、スイッチ回路31は、高次駆動金属酸化物半導体(MOS)トランジスタQ2により実装され、MOSトランジスタQ2の制御端は、抵抗器R3を介して、ワンチップ型マイクロコンピュータSTC12C5204ADのピン26に接続されている。スイッチS1が押下されると、ワンチップ型マイクロコンピュータSTC12C5204ADのピン26が低レベルから高レベルに切り替わり、これにより、MOSトランジスタQ2のスイッチが入り、電気加熱片41に加熱を開始させる。設定温度に到達したことが温度センサ43により検出されると、ワンチップ型マイクロコンピュータSTC12C5204ADのピン26が低レベルに切り替わり、MOSトランジスタQ2のスイッチが切られ、加熱を停止する。
[0034] 図8に示すように、本実施形態の制御部3は、電圧安定化用のHT7540集積回路(IC)チップ(U1)を電圧安定化回路として用いて、電源を実装する。HT7530電圧安定化ICチップは、バッテリの電圧を3Vに維持し、ピンOUT+を介して、ワンチップ型マイクロコンピュータSTC12C5204ADに電源を供給する。また、この電圧安定化ICチップは、ワンチップ型マイクロコンピュータのAD取得モジュールに基準電圧を供する役割を担う。
[0035] 図2に示すように、本実施形態の制御部3は、バッテリ2と電気加熱片41の間に配置される。また、制御部3と電気加熱片41の間に、制御部3に対して断熱制御を行い、かつ、電気加熱片41を支持するための断熱支持マイカシート40が配置されている。断熱支持マイカシート40は、電気加熱片41から制御部3に伝わった熱が回路基板上の回路部品に影響を与えないように、制御部3に対して断熱保護を行う。また、断熱支持マイカシート40は、電気加熱片41と天火4を固定支持する役割も担う。
[0036] 図2に示すように、天火4はバケツ形状を成し、電気加熱片41は天火4のバケツ形状の底部を形成している。吸気口42は電気加熱片41に形成されており、貫通穴16は殻部1に形成され、吸気口42は貫通穴16に連通し、貫通穴16は、断熱支持マイカシート40に対応した殻部1の所定の位置に形成されている。喫煙中、殻部1の外部の空気が殻部1の貫通穴16を介して殻部1内部の空洞に侵入し、その後、吸気口42を介して天火4内部の空洞に侵入し、気化により天火4の空洞に形成された液体粒子を、吸引ノズルの穴部111を介して、喫煙者の口腔へと運ぶ。本実施形態では、天火4のバケツ形状の壁部は鋼鉄製チューブで形成され、天火4のバケツ形状の底部を形成する電気加熱片41は、天火4の壁部の鋼鉄製チューブに溶接されており、これによりバケツ形状が形成される。本実施形態において、電気加熱片41は厚膜電気加熱片であるが、要件に応じて、別のタイプの加熱器を採用してもよい。
[0037] 図2と図9に示すように、天火4の温度を検出するための温度センサ43が天火4に設けられている。温度センサ43は制御部3に接続されており、制御部3は、動作状態において、電気加熱片41の加熱状態を制御することで、温度センサ43による検出温度に応じて、天火4の動作温度を180℃?240℃に維持する。制御部3は、温度センサ43による検出温度が240℃に達すると加熱を停止するよう、電気加熱片41を制御し、温度センサ43による検出温度が180℃を下回ると加熱を開始するよう、電気加熱片41を制御する。温度センサ43は負温度係数サーミスタRTである(負温度係数サーミスタRTの抵抗は温度に反比例し、温度上昇に伴って抵抗は低下する)。温度センサ43は天火4のバケツ形状の壁部上に設けられている。ワンチップ型マイクロコンピュータSTC12C5204ADは、ピン18(ADCT)を介してサーミスタRTの電圧を取得し、また、入力電圧を介してサーミスタRTの抵抗を算出後、テーブルを参照して温度を得る。電気加熱片41は、温度が180℃を下回ると加熱を開始し、温度が240℃を超えると加熱を停止する。上述の方法により一定の温度効果が達成されることで、天火4の動作温度は180℃?240℃に保たれ、タバコ組成物が加熱されて一酸化炭素やタール等の有害物質が産生されないようにしている。
[0038] 本実施形態の作業工程を以下に示す。
1)充電
充電が必要な場合、直流(DC)5Vの電源プラグを、殻部1の底部にあるUSB充電インターフェース13に差し込むと、USB充電インターフェースの充電表示ランプ14が即座に点灯する。一方、BUCK充電回路は、バッテリ2の充電電流と充電電圧を制御してバッテリ2の充電を開始させる。充電中は、制御部3のワンチップ型マイクロコンピュータがバッテリ2の電力を取得し、充電表示ランプ14はその間オンのままである。バッテリ2がフル充電されると、制御部3は直ちにバッテリ2の充電を停止するようBUCK充電回路を制御し、同時に充電表示ランプ14をオフに制御する。
[0039] 2)使用法
適正量のタバコ組成物を天火4内に載置し、本実施形態の各部を組み立てる。制御スイッチ12を押下すると、制御部3の制御により、電気加熱片41が励振されて加熱を開始する。この時点で加熱表示ランプ15は赤色点灯状態である。一方、制御部3のワンチップ型マイクロコンピュータは、温度センサ43を介して、天火4の温度を取得する。天火4の温度が240℃に達したことが温度センサ43により検出されると、制御部3のワンチップ型マイクロコンピュータは、電気加熱片41を制御して加熱を停止させ、同時に、加熱表示ランプ15の点灯色が赤色から緑色に変わるよう制御する。天火4の温度が180℃を下回ることが温度センサ43により検出されると、制御部3のワンチップ型マイクロコンピュータの制御により、電気加熱片41が励振されて加熱を開始し、同時に、加熱表示ランプ15の点灯色が緑色から赤色に変わるよう制御される。こうして、天火4の動作温度は180℃?240℃に維持される。この温度範囲内において、タバコ組成物は、一酸化炭素やタール等の有害物質を産生することなく気化され、液体粒子に転じる。さらに、タバコ組成物の気化による液体粒子は吸引ノズル11から流出することなく、喫煙者が喫煙中でない場合にも受動喫煙は発生しない。
[0040] 以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明の保護範囲は上記の実施形態に限定されず、本発明の思想の範囲内にある技術的解決策はすべて本発明の保護範囲に含まれる。また、当業者であれば、本発明の原則から逸脱することなく数々の改良や改変を行うことは可能であり、それらの改良や改変も、当然、本発明の保護範囲に含まれる。」

イ 上記ア及び図面の記載から分かること
(ア)上記ア(ア)及び(イ)並びに図1?3及び5?9の記載によれば、甲2には、気化式電子タバコ及び気化式電子タバコにおける液体粒子の発生を制御する方法が記載されていることが分かる。

(イ)上記ア(ア)及び(イ)(特に、段落[0004]?[0006]、[0015]、[0026]、[0035]及び[0036])並びに図2の記載によれば、気化式電子タバコが、タバコ組成物を加熱して液体粒子を発生させるように配置された電気加熱片41及び天火4を備えることが分かる。

(ウ)上記ア(ア)及び(イ)(特に、段落[0004]、[0007]、[0009]、[0015]、[0026]及び[0035])並びに図2の記載によれば、気化式電子タバコが、電気加熱片41に電力を供給するためのバッテリ2を備えることが分かる。

(エ)上記ア(ア)及び(イ)(特に、段落[0004]、[0005]、[0026]、[0027]、[0032]、[0033]、[0037]及び[0039];とりわけ段落[0039])並びに図2、3、5?9の記載によれば、気化式電子タバコにおける液体粒子の発生を制御する方法が、制御スイッチ12を押下すると、制御部3の制御により、前記バッテリ2に接続された前記電気加熱片41が加熱を開始し、前記制御部3は、前記天火4の温度が240℃に達したことが温度センサ43により検出されると、前記電気加熱片41を制御して加熱を停止させ、前記天火4の温度が180℃を下回ることが前記温度センサ43により検出されると、前記電気加熱片41が加熱を開始して、前記天火4の動作温度が180℃?240℃に維持されるよう制御するステップを含むことが分かる。

(オ)上記ア(ア)及び(イ)(特に、段落[0004]、[0005]、[0026]、[0032]、[0033]、[0037]及び[0039])並びに図1?3及び5?9の記載によれば、気化式電子タバコは、制御スイッチ12、制御部3、温度センサ43及びスイッチ回路31等を備えることが分かる。
ここで、各回路等は、バッテリ2から電気加熱片41への電力の供給を制御するためのものであり、電気が流れることから、各回路等を総称して、以下、「電気回路B」という。
そして、上記ア(ア)及び(イ)(特に、段落[0004]、[0005]、[0026]、[0027]、[0032]、[0033]、[0037]及び[0039];とりわけ段落[0039])並びに図1?3及び5?9の記載によれば、電気回路Bは、制御スイッチ12を押下すると、制御部3の制御により、バッテリ2に接続された電気加熱片41が加熱を開始し、前記制御部3は、天火4の温度が240℃に達したことが温度センサ43により検出されると、前記電気加熱片41を制御して加熱を停止させ、前記天火4の温度が180℃を下回ることが前記温度センサ43により検出されると、前記電気加熱片41が加熱を開始して、前記天火4の動作温度は180℃?240℃に維持されるように制御するよう構成されるものであることが分かる。

ウ 甲2発明1
上記ア及びイを総合して、本件特許発明1の表現に倣って整理すると、甲2には、次の事項からなる発明(以下「甲2発明1」という。)が記載されていると認める。
「気化式電子タバコにおける液体粒子の発生を制御する方法であって、前記気化式電子タバコは、
タバコ組成物を加熱するように配置された電気加熱片41及び天火4と、
前記電気加熱片41に電力を供給するためのバッテリ2と、
を備え、前記方法は、
制御スイッチ12を押下すると、制御部3の制御により、前記バッテリ2に接続された前記電気加熱片41が加熱を開始し、前記制御部3は、前記天火4の温度が240℃に達したことが温度センサ43により検出されると、前記電気加熱片41を制御して加熱を停止させ、前記天火4の温度が180℃を下回ることが前記温度センサ43により検出されると、前記電気加熱片41が加熱を開始して、前記天火4の動作温度が180℃?240℃に維持されるよう制御するステップを含む、
方法。」

エ 甲2発明2
また、上記ア及びイを総合して、本件特許発明15の表現に倣って整理すると、甲2には、次の事項からなる発明(以下「甲2発明2」という。)が記載されていると認める。
「気化式電子タバコであって、
タバコ組成物を加熱して液体粒子を発生させるように配置された電気加熱片41及び天火4と、
前記電気加熱片41に電力を供給するためのバッテリ2と、
前記バッテリ2から前記電気加熱片41への電力の供給を制御するための電気回路Bと、
を備え、前記電気回路Bは、
制御スイッチ12を押下すると、制御部3の制御により、前記バッテリ2に接続された前記電気加熱片41が加熱を開始し、前記制御部3は、前記天火4の温度が240℃に達したことが温度センサ43により検出されると、前記電気加熱片41を制御して加熱を停止させ、前記天火4の温度が180℃を下回ることが前記温度センサ43により検出されると、前記電気加熱片41が加熱を開始して、前記天火4の動作温度は180℃?240℃に維持されるように制御するよう構成される、
気化式電子タバコ。」

(3)甲3について
ア 甲3の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲3には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「なお、制御ユニット168は温度センサ180の機能を有することができ、この場合、制御ユニット168はヒータ116に供給される電力に基づいてヒータ116の温度を推定する。」(段落[0098])

(イ)「この後、ユーザがマウスピース104を通じて吸引したとき、ユーザの吸引動作は吸引感知センサ176により感知され、この感知信号が制御ユニット168に供給される。この感知信号の供給を受け、制御ユニット168は温度センサ180からの検出信号に基づき、ヒータ116の温度を後段予備加熱温度Tbから霧化加熱温度Tc(例えば、220℃)まで急速に上昇させる(霧化加熱モード)。ここで、霧化加熱温度Tcは、ヒータ116が溶液Lを霧化させてエアロゾル化させるのに十分な温度である。」(段落[0112])

(ウ)「そして、溶液の種別や容量等の情報がバーコード等の形態でシリンジポンプ130に付加されている場合、エアロゾル吸引器はシリンジポンプ130が取付けられたとき、前記情報を読み取る読み取り部を更に備えることができ、この場合、制御ユニット168は読み取り部にて読み取った情報に基づき、ヒータ116の温度制御モードをその溶液の種別に応じて可変することも可能となる。」(段落[0144])

(4)甲4について
ア 甲4の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲4には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、翻訳文は、請求人が提出したものを採用した。
(ア)「Alternatively, the heating element may be an internal heating element. In one embodiment, the heating element is arranged to be inserted into the aerosol forming substrate. The internal heating element may be positioned at least partially within or inside the aerosol forming substrate. 」(2頁17?19行)
<翻訳文>
「もしくは、加熱素子は内部加熱素子とすることができる。1つの実施形態において、加熱素子は、エアロゾル形成基材に挿入されるように配置される。内部加熱素子は、エアロゾル形成基材中又はその内部に少なくとも部分的に配置できる。」

(イ)「Figure 1 shows a smoking article 101 received in an electrically heated smoking system 103 according to a first embodiment of the invention. 」(10頁17?18行)
<翻訳文>
「図1は、本発明の第1の実施形態による、電気加熱式喫煙システム103に収容される喫煙物品101を示す。」

(5)甲5について
ア 甲5の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲5には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、翻訳文は、請求人が提出したものを採用した。
(ア)「According to a third aspect of the invention, there is provided electric circuitry for an electrically operated aerosol generating system, the electric circuitry being arranged to perform the method of the second aspect of the invention.」(10頁第26?29行)
<翻訳文>
「本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様の方法を実行するように構成された電気作動式エアロゾル生成システムのための電気回路が提供される。」

(イ)「According to a fourth aspect of the invention, there is provided a computer program which, when run on programmable electric circuitry for an electrically operated aerosol generating system, causes the programmable electric circuitry to perform the method of the second aspect of the invention. 」(10頁30?33行)
<翻訳文>
「本発明の第4の態様によれば、電気作動式エアロゾル生成システムのためのプログラム可能な電気回路上で実行された時に、このプログラム可能な電気回路に本発明の第2の態様の方法を実行させるコンピュータプログラムが提供される。」

(ウ)「According to a fifth aspect of the invention, there is provided a computer readable storage medium having stored thereon a computer program according to the fourth aspect of the invention. 」(11頁1?3行)
<翻訳文>
「本発明の第5の態様によれば、本発明の第4の態様によるコンピュータプログラムを記憶したコンピュータ可読記憶媒体が提供される。」

2-2 無効理由1及び2について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明1とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「電気式香味生成物品加熱制御装置」は、前者の「エアロゾル発生装置」に相当し、以下同様に、「香味の発生」は「エアロゾルの発生」に、「エアロゾル基剤を含む成形体30」は「エアロゾル形成体を含むエアロゾル形成基材」に、「加熱用ヒータ1」は「少なくとも1つの加熱要素を含むヒータ」に、それぞれ相当する。

・後者の「前記加熱用ヒータ1に電力を供給するための直流電源2」は、加熱用ヒータ1に電力を供給することで、加熱用ヒータ1に含まれる加熱要素に電力が供給されることになるから、前者の「前記加熱要素に電力を供給するための電源」に相当する。

したがって、両者は、
「エアロゾル発生装置におけるエアロゾルの発生を制御する方法であって、前記装置は、
エアロゾル形成体を含むエアロゾル形成基材を加熱するように構成された少なくとも1つの加熱要素を含むヒータと、
前記加熱要素に電力を供給するための電源と、
を備える、
方法。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1A]
本件特許発明1においては、「前記方法は、
前記加熱要素に供給される前記電力を、前記装置を動作させた直後の第1段階において前記加熱要素の温度が初期温度から第1の温度に上昇するように電力が前記少なくとも1つの加熱要素に供給され、第2段階において前記加熱要素の温度が前記第1の温度よりも低い第2の温度に低下するが、前記エアロゾル形成体の揮発温度より低くならないように電力が供給され、第3段階において前記加熱要素の温度が前記第2の温度より高い第3の温度に上昇するように電力が供給されるよう制御するステップを含む」のに対して、
甲1発明1においては、「前記方法は、
前記直流電源2を投入すると、シーケンス制御回路11が所定のシーケンス制御動作を開始し、スイッチ手段5をオンとすると、前記加熱用ヒータ1には定電圧発生回路3から予め定める一定の直流電圧が印加され、電流検出回路4が前記加熱用ヒータ1に流れる電流を検出し、比較演算回路10が基準抵抗設定側となる電圧変換回路8から入力される設定抵抗に依存する所定電圧と前記電流検出回路4から出力される電圧とを比較し、前記電流検出回路4から出力される電圧が所定電圧に一致したとき、つまり、設定温度に相当する抵抗値と前記加熱用ヒータ1の抵抗値が等しくなったとき、前記シーケンス制御回路11が、前記スイッチ手段5をオフ制御にすると同時にタイマーを作動させ、これにより前記加熱用ヒータ1への電力の供給が停止し、以後、前記シーケンス制御回路11が、所定のシーケンスプログラムに基づき、香味生成物品20の香味熱分解を考慮しつつ予め設定される所定の時間経過した後、前記スイッチ手段5をオンとし、その後、前記比較演算回路10の比較結果に基づき、前記スイッチ手段5のオフ・オンを繰り返すとか、或いは前記スイッチ手段5をオフとした後、予め定める所定時間ごとにオン・オフ制御を繰り返し実行するよう制御するステップを含む」点(以下、「相違点1A」という。)。

イ 判断
相違点1Aに係る本件特許発明1の構成は、「エアロゾル形成基材の連続的又は反復的加熱期間にわたって特性がより一貫したエアロゾルを提供する」(段落【0005】)という技術課題を解決するために、装置の最初の動作時間中に装置内の凝縮によってエアロゾルの送達が減少するエアロゾルの発生において、第1段階の第1の温度は、最大許容温度に近い温度を選択して、消費者への最初の送達として満足できる量のエアロゾルを発生させるための電力を供給するためのものであり(段落【0014】)、当該高い温度の第1の温度よりも低い温度である第2段階の第2の温度は、装置及び基材が温まると凝縮が抑えられてエアロゾルの送達が増加することから、第1段階に対して第2段階のエアロゾル送達特性を一貫とするために加熱要素の温度が第1の温度よりも低い温度であり許容温度範囲内の第2の温度に低下するように加熱要素への電力を供給するためのものである(段落【0019】)。さらに、第2の温度よりも高い温度である第3段階の第3の温度に上昇させることは、基材の枯渇及び熱拡散の低下に起因するエアロゾル送達の減少を補償するためのものであり、第2段階と同様に特性を一貫とするためのものである(段落【0020】)。
これに対し、甲1発明1は、設定温度になったときにスイッチ手段をオフとし、その後所定時間経過後にオンとして加熱用ヒータに供給する電力を制御するものであるから、これは、本件特許明細書(段落【0056】並びに図3及び4)でいう現行(従来)の動作中に一定の温度をもたらすように構成され、成分の送達がピークを迎えた後、基材が枯渇して熱拡散効果が弱まるにつれ、時間と共に成分の送達が低下するものと同等の技術であるといえる。
したがって、甲1発明1は、本件特許発明1で特定する第1の温度、第2の温度及び第3の温度を用いて制御するものでなく、上記本件特許発明1の構成とは目的を含め、技術が明らかに異なるものである。

請求人は、甲1の図3における一部期間の記載に基づいて、甲1は、最初に加熱用ヒータ1に電力を加えた直後のヒータ発熱温度が初期温度から上昇して第1の温度に達するまでの段階が第1段階であり、その後、ヒータ発熱温度が低下して第2の温度に達するまでの段階が第2段階であり、その後、ヒータ発熱温度が上昇して第2の温度より高い第3の温度に上昇する段階が第3段階であると解する旨(審判請求書27頁19行?29頁16行)、及び、甲1の加熱用ヒータ1の温度が第2の温度(T2)に到達した時点、すなわち、第2段階(Ph2)の終了時に加熱用ヒータ1がオンになるので、第2段階(Ph2)においても加熱用ヒータ1に電力が供給されるといえる旨(審判請求書の29頁11?14行)、について主張するが、上記の主張に係る甲1の図3などに示される温度態様は、本件特許明細書において従来技術に相当する一定温度制御に該当するものであるから対比して検討する技術的事項を備えるものではない。仮に、温度の上下動の一部が類似することをもって対比検討するとしても、本件特許発明1の第2温度の第2段階に対応する甲1発明1の制御は、スイッチ手段をオフとする、すなわち電力を供給しない制御であるから、本件特許発明1の電力を供給する第2段階制御とは実質的に異なるし、甲1のスイッチ手段をオフとした所定時間経過後にオンとする制御が、エアロゾル送達特性を一貫とすることを意図するものでないことは明らかである。
したがって、請求人の主張は採用できない。
以上から、相違点1Aは、実質的な相違点である。

ところで、甲3?5には、上記2-1(3)?(5)に摘記したとおりの事項が記載されているところ、甲3?5は、相違点1Aに係る本件特許発明1の構成を開示ないし示唆するものではない。
そうすると、甲1発明1において、甲3?5に記載された事項に基いて、相違点1Aに係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

そして、本件特許発明1は、相違点1Aに係る本件特許発明1の構成を備えることにより、特性がより一貫したエアロゾルを提供することができるものである。

したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明とはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものとはいえない。
また、本件特許発明1は、甲1発明1及び甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(2)本件特許発明2?14、25及び26について
本件特許の請求項2?14、25及び26は、本件特許の請求項1の記載を、発明特定事項を置き換えることなく、直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明2?14、25及び26は、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
したがって、本件特許発明2、3、5、6、10、11、13及び14は、本件特許発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明とはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものとはいえない。
また、本件特許発明2?14、25及び26は、本件特許発明1と同様の理由により、甲1発明1及び甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(3)本件特許発明15について
ア 対比
本件特許発明15と甲1発明2とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「電気式香味生成物品加熱制御装置」は、前者の「電気作動式エアロゾル発生装置」に相当し、以下同様に、「エアロゾル基剤を含む成形体30」は「エアロゾル形成体を含むエアロゾル形成基材」に、「香味」は「エアロゾル」に、それぞれ相当する。

・後者の「加熱用ヒータ1」は、加熱要素を含むから、前者の「少なくとも1つの加熱要素」に相当する。

・後者の「前記加熱用ヒータ1に電力を供給するための直流電源2」は、加熱用ヒータ1に電力を供給することで、加熱用ヒータ1に含まれる加熱要素に電力が供給されることになるから、前者の「前記加熱要素に電力を供給するための電源」に相当する。

・後者の「電気回路A」は、前者の「電気回路」に、「電気回路」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「電気作動式エアロゾル発生装置であって、
エアロゾル形成体を含むエアロゾル形成基材を加熱してエアロゾルを発生させるように構成された少なくとも1つの加熱要素と、
前記加熱要素に電力を供給するための電源と、
前記電源から少なくとも前記1つの加熱要素への電力の供給を制御するための電気回路と、
を備える、
電気作動式エアロゾル発生装置。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点15A]
本件特許発明15においては、「前記電気回路は、
前記加熱要素に供給される前記電力を、前記装置の動作の直後の第1段階において前記加熱要素の温度が初期温度から第1の温度に上昇し、第2段階において前記加熱要素の温度が前記第1の温度より低い第2の温度に低下するが、前記エアロゾル形成体の揮発温度より低くはならず、第3段階において前記加熱要素の温度が前記第2の温度より高い第3の温度に上昇し、前記第1、第2及び第3段階中に電力が前記加熱要素に供給されるように制御するよう構成される」のに対して、
甲1発明2においては、「前記電気回路Aは、
前記直流電源2を投入すると、シーケンス制御回路11が所定のシーケンス制御動作を開始し、スイッチ手段5をオンとすると、前記加熱用ヒータ1には定電圧発生回路3から予め定める一定の直流電圧が印加され、電流検出回路4が前記加熱用ヒータ1に流れる電流を検出し、比較演算回路10が基準抵抗設定側となる電圧変換回路8から入力される設定抵抗に依存する所定電圧と前記電流検出回路4から出力される電圧とを比較し、前記電流検出回路4から出力される電圧が所定電圧に一致したとき、つまり、設定温度に相当する抵抗値と前記加熱用ヒータ1の抵抗値が等しくなったとき、前記シーケンス制御回路11が、前記スイッチ手段5をオフ制御にすると同時にタイマーを作動させ、これにより前記加熱用ヒータ1への電力の供給が停止し、以後、前記シーケンス制御回路11が、所定のシーケンスプログラムに基づき、香味生成物品20の香味熱分解を考慮しつつ予め設定される所定の時間経過した後、前記スイッチ手段5をオンとし、その後、前記比較演算回路10の比較結果に基づき、前記スイッチ手段5のオフ・オンを繰り返すとか、或いは前記スイッチ手段5をオフとした後、予め定める所定時間ごとにオン・オフ制御を繰り返し実行するように制御するよう構成される」点(以下、「相違点15A」という。)。

イ 判断
相違点15Aに係る本件特許発明15の構成は、「エアロゾル形成基材の連続的又は反復的加熱期間にわたって特性がより一貫したエアロゾルを提供する」(段落【0005】)という技術課題を解決するために、装置の最初の動作時間中に装置内の凝縮によってエアロゾルの送達が減少するエアロゾルの発生において、第1段階の第1の温度は、最大許容温度に近い温度を選択して、消費者への最初の送達として満足できる量のエアロゾルを発生させるための電力を供給するためのものであり(段落【0014】)、当該高い温度の第1の温度よりも低い温度である第2段階の第2の温度は、装置及び基材が温まると凝縮が抑えられてエアロゾルの送達が増加することから、第1段階に対して第2段階のエアロゾル送達特性を一貫とするために加熱要素の温度が第1の温度よりも低い温度であり許容温度範囲内の第2の温度に低下するように加熱要素への電力を供給するためのものである(段落【0019】)。さらに、第2の温度よりも高い温度である第3段階の第3の温度に上昇させることは、基材の枯渇及び熱拡散の低下に起因するエアロゾル送達の減少を補償するためのものであり、第2段階と同様に特性を一貫とするためのものである(段落【0020】)。
これに対し、甲1発明2は、設定温度になったときにスイッチ手段をオフとし、その後所定時間経過後にオンとして加熱用ヒータに供給する電力を制御するものであるから、これは、本件特許明細書(段落【0056】並びに図3及び4)でいう現行(従来)の動作中に一定の温度をもたらすように構成され、成分の送達がピークを迎えた後、基材が枯渇して熱拡散効果が弱まるにつれ、時間と共に成分の送達が低下するものと同等の技術であるといえる。
したがって、甲1発明2は、本件特許発明15で特定する第1の温度、第2の温度及び第3の温度を用いて制御するものでなく、上記本件特許発明15の構成とは目的を含め、技術が明らかに異なるものである。

請求人は、甲1の図3における一部期間の記載に基づいて、甲1は、最初に加熱用ヒータ1に電力を加えた直後のヒータ発熱温度が初期温度から上昇して第1の温度に達するまでの段階が第1段階であり、その後、ヒータ発熱温度が低下して第2の温度に達するまでの段階が第2段階であり、その後、ヒータ発熱温度が上昇して第2の温度より高い第3の温度に上昇する段階が第3段階であると解する旨(審判請求書27頁19行?29頁16行)、及び、甲1の加熱用ヒータ1の温度が第2の温度(T2)に到達した時点、すなわち、第2段階(Ph2)の終了時に加熱用ヒータ1がオンになるので、第2段階(Ph2)においても加熱用ヒータ1に電力が供給されるといえる旨(審判請求書の29頁11?14行;審判請求書の31頁16?22行にも同旨の記載がある。)、について主張するが、上記の主張に係る甲1の図3などに示される温度態様は、本件特許明細書において従来技術に相当する一定温度制御に該当するものであるから対比して検討する技術的事項を備えるものではない。仮に、温度の上下動の一部が類似することをもって対比検討するとしても、本件特許発明15の第2温度の第2段階に対応する甲1発明2の制御は、スイッチ手段をオフとする、すなわち電力を供給しない制御であるから、本件特許発明15の電力を供給する第2段階制御とは実質的に異なるし、甲1のスイッチ手段をオフとした所定時間経過後にオンとする制御が、エアロゾル送達特性を一貫とすることを意図するものでないことは明らかである。
したがって、請求人の主張は採用できない。
以上から、相違点15Aは、実質的な相違点である。

ところで、甲3?5には、上記2-1(3)?(5)に摘記したとおりの事項が記載されているところ、甲3?5は、相違点15Aに係る本件特許発明15の構成を開示ないし示唆するものではない。
そうすると、甲1発明2において、甲3?5に記載された事項に基いて、相違点15Aに係る本件特許発明15の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

そして、本件特許発明15は、相違点15Aに係る本件特許発明15の構成を備えることにより、特性がより一貫したエアロゾルを提供することができるものである。

したがって、本件特許発明15は、甲1に記載された発明とはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものとはいえない。
また、本件特許発明15は、甲1発明2及び甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(4)本件特許発明16?24について
本件特許の請求項16?24は、本件特許の請求項15の記載を、発明特定事項を置き換えることなく、直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明16?24は、本件特許発明15の発明特定事項を全て備えるものである。
したがって、本件特許発明16、20、21、23及び24は、本件特許発明15と同様の理由により、甲1に記載された発明とはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものとはいえない。
また、本件特許発明16?24は、本件特許発明15と同様の理由により、甲1発明2及び甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

2-3 無効理由3及び4について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明1とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「気化式電子タバコ」は、前者の「エアロゾル発生装置」に相当し、以下同様に、「液体粒子の発生」は「エアロゾルの発生」に、「タバコ組成物」は「エアロゾル形成体を含むエアロゾル形成基材」に、「電気加熱片41」は「少なくとも1つの加熱要素」に、「電気加熱片41及び天火4」は「少なくとも1つの加熱要素を含むヒータ」に、「バッテリ2」は「電源」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、
「エアロゾル発生装置におけるエアロゾルの発生を制御する方法であって、前記装置は、
エアロゾル形成体を含むエアロゾル形成基材を加熱するように構成された少なくとも1つの加熱要素を含むヒータと、
前記加熱要素に電力を供給するための電源と、
を備える、
方法。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1B]
本件特許発明1においては、「前記方法は、
前記加熱要素に供給される前記電力を、前記装置を動作させた直後の第1段階において前記加熱要素の温度が初期温度から第1の温度に上昇するように電力が前記少なくとも1つの加熱要素に供給され、第2段階において前記加熱要素の温度が前記第1の温度よりも低い第2の温度に低下するが、前記エアロゾル形成体の揮発温度より低くならないように電力が供給され、第3段階において前記加熱要素の温度が前記第2の温度より高い第3の温度に上昇するように電力が供給されるよう制御するステップを含む」のに対して、
甲2発明1においては、「前記方法は、
制御スイッチ12を押下すると、制御部3の制御により、前記バッテリ2に接続された前記電気加熱片41が加熱を開始し、前記制御部3は、前記天火4の温度が240℃に達したことが温度センサ43により検出されると、前記電気加熱片41を制御して加熱を停止させ、前記天火4の温度が180℃を下回ることが前記温度センサ43により検出されると、前記電気加熱片41が加熱を開始して、前記天火4の動作温度が180℃?240℃に維持されるよう制御するステップを含む」点(以下、「相違点1B」という。)。

イ 判断
相違点1Bに係る本件特許発明1の構成は、「エアロゾル形成基材の連続的又は反復的加熱期間にわたって特性がより一貫したエアロゾルを提供する」(段落【0005】)という技術課題を解決するために、装置の最初の動作時間中に装置内の凝縮によってエアロゾルの送達が減少するエアロゾルの発生において、第1段階の第1の温度は、最大許容温度に近い温度を選択して、消費者への最初の送達として満足できる量のエアロゾルを発生させるための電力を供給するためのものであり(段落【0014】)、当該高い温度の第1の温度よりも低い温度である第2段階の第2の温度は、装置及び基材が温まると凝縮が抑えられてエアロゾルの送達が増加することから、第1段階に対して第2段階のエアロゾル送達特性を一貫とするために加熱要素の温度が第1の温度よりも低い温度であり許容温度範囲内の第2の温度に低下するように加熱要素への電力を供給するためのものである(段落【0019】)。さらに、第2の温度よりも高い温度である第3段階の第3の温度に上昇させることは、基材の枯渇及び熱拡散の低下に起因するエアロゾル送達の減少を補償するためのものであり、第2段階と同様に特性を一貫とするためのものである(段落【0020】)。
これに対し、甲2発明1は、天火の温度が設定された上限温度(240℃)に達したときに、電気加熱片の加熱を停止し、天火の温度が設定された下限温度(180℃)を下回るときに、電気加熱片が加熱を開始するものであるから、これは、本件特許明細書(段落【0056】並びに図3及び4)でいう現行(従来)の動作中に一定の温度をもたらすように構成され、成分の送達がピークを迎えた後、基材が枯渇して熱拡散効果が弱まるにつれ、時間と共に成分の送達が低下するものと同等の技術であるといえる。
したがって、甲2発明1は、本件特許発明1で特定する第1の温度、第2の温度及び第3の温度を用いて制御するものでなく、上記本件特許発明1の構成とは目的を含め、技術が明らかに異なるものである。

請求人は、甲2の段落[0039]の記載に基づいて、甲2は、最初に電気加熱片に電力を加えた直後の電気加熱片の温度が初期温度から上昇して第1の温度に達するまでの段階が第1段階であり、その後、電気加熱片の温度が低下して第2の温度に達するまでの段階が第2段階であり、その後、電気加熱片の温度が上昇して第2の温度より高い第3の温度に上昇する段階が第3段階であると解する旨(審判請求書34頁4行?36頁19行)、及び、甲2の電気加熱片の温度が第2の温度(T2)に到達した時点、すなわち、第2段階(Ph2)の終了時に電気加熱片がオンになるので、第2段階(Ph2)においても電気加熱片に電力が供給されるといえる旨(審判請求書の36頁12?14行)、について主張するが、上記の主張に係る甲2の段落[0039]などに示される温度態様は、本件特許明細書において従来技術に相当する一定温度制御に該当するものであるから対比して検討する技術的事項を備えるものではない。仮に、温度の上下動の一部が類似することをもって対比検討するとしても、本件特許発明1の第2温度の第2段階に対応する甲2発明1の制御は、スイッチ手段をオフとする、すなわち電力を供給しない制御であるから、本件特許発明1の電力を供給する第2段階制御とは実質的に異なるし、甲2における、天火の温度が設定された上限温度(240℃)に達したときに、電気加熱片の加熱を停止し、天火の温度が設定された下限温度(180℃)を下回るときに、電気加熱片が加熱を開始する制御が、エアロゾル送達特性を一貫とすることを意図するものでないことは明らかである。
したがって、請求人の主張は採用できない。
以上から、相違点1Bは、実質的な相違点である。

ところで、甲1及び甲3?5には、上記2-1(1)及び(3)?(5)に摘記したとおりの事項が記載されているところ、甲1及び甲3?5は、相違点1Bに係る本件特許発明1の構成を開示ないし示唆するものではない。
そうすると、甲2発明1において、甲1及び甲3?5に記載された事項に基いて、相違点1Bに係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

そして、本件特許発明1は、相違点1Bに係る本件特許発明1の構成を備えることにより、特性がより一貫したエアロゾルを提供することができるものである。

したがって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明とはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものとはいえない。
また、本件特許発明1は、甲2発明1並びに甲1及び甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(2)本件特許発明2?14、25及び26について
本件特許の請求項2?14、25及び26は、本件特許の請求項1の記載を、発明特定事項を置き換えることなく、直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明2?14、25及び26は、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
したがって、本件特許発明2、5、6、10及び14は、本件特許発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明とはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものとはいえない。
また、本件特許発明2?14、25及び26は、本件特許発明1と同様の理由により、甲2発明1並びに甲1及び甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(3)本件特許発明15について
ア 対比
本件特許発明15と甲2発明2とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「気化式電子タバコ」は、前者の「電気作動式エアロゾル発生装置」に相当し、以下同様に、「タバコ組成物」は「エアロゾル形成体を含むエアロゾル形成基材」に、「液体粒子」は「エアロゾル」に、「バッテリ2」は「電源」に、それぞれ相当する。

・後者の「電気加熱片41」は、前者の「加熱要素」に相当する。
そして、後者の「電気加熱片41及び天火4」は、電気加熱片41を含むから、前者の「少なくとも1つの加熱要素」に相当する。

・後者の「電気回路B」は、前者の「電気回路」に、「電気回路」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「電気作動式エアロゾル発生装置であって、
エアロゾル形成体を含むエアロゾル形成基材を加熱してエアロゾルを発生させるように構成された少なくとも1つの加熱要素と、
前記加熱要素に電力を供給するための電源と、
前記電源から少なくとも前記1つの加熱要素への電力の供給を制御するための電気回路と、
を備える、
電気作動式エアロゾル発生装置。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点15B]
本件特許発明15においては、「前記電気回路は、
前記加熱要素に供給される前記電力を、前記装置の動作の直後の第1段階において前記加熱要素の温度が初期温度から第1の温度に上昇し、第2段階において前記加熱要素の温度が前記第1の温度より低い第2の温度に低下するが、前記エアロゾル形成体の揮発温度より低くはならず、第3段階において前記加熱要素の温度が前記第2の温度より高い第3の温度に上昇し、前記第1、第2及び第3段階中に電力が前記加熱要素に供給されるように制御するよう構成される」のに対して、
甲2発明2においては、「前記電気回路Bは、
制御スイッチ12を押下すると、制御部3の制御により、前記バッテリ2に接続された前記電気加熱片41が加熱を開始し、前記制御部3は、前記天火4の温度が240℃に達したことが温度センサ43により検出されると、前記電気加熱片41を制御して加熱を停止させ、前記天火4の温度が180℃を下回ることが前記温度センサ43により検出されると、前記電気加熱片41が加熱を開始して、前記天火4の動作温度は180℃?240℃に維持されるように制御するよう構成される」点(以下、「相違点15B」という。)。

イ 判断
相違点15Bに係る本件特許発明15の構成は、「エアロゾル形成基材の連続的又は反復的加熱期間にわたって特性がより一貫したエアロゾルを提供する」(段落【0005】)という技術課題を解決するために、装置の最初の動作時間中に装置内の凝縮によってエアロゾルの送達が減少するエアロゾルの発生において、第1段階の第1の温度は、最大許容温度に近い温度を選択して、消費者への最初の送達として満足できる量のエアロゾルを発生させるための電力を供給するためのものであり(段落【0014】)、当該高い温度の第1の温度よりも低い温度である第2段階の第2の温度は、装置及び基材が温まると凝縮が抑えられてエアロゾルの送達が増加することから、第1段階に対して第2段階のエアロゾル送達特性を一貫とするために加熱要素の温度が第1の温度よりも低い温度であり許容温度範囲内の第2の温度に低下するように加熱要素への電力を供給するためのものである(段落【0019】)。さらに、第2の温度よりも高い温度である第3段階の第3の温度に上昇させることは、基材の枯渇及び熱拡散の低下に起因するエアロゾル送達の減少を補償するためのものであり、第2段階と同様に特性を一貫とするためのものである(段落【0020】)。
これに対し、甲2発明2は、天火の温度が設定された上限温度(240℃)に達したときに、電気加熱片の加熱を停止し、天火の温度が設定された下限温度(180℃)を下回るときに、電気加熱片が加熱を開始するものであるから、これは、本件特許明細書(段落【0056】並びに図3及び4)でいう現行(従来)の動作中に一定の温度をもたらすように構成され、成分の送達がピークを迎えた後、基材が枯渇して熱拡散効果が弱まるにつれ、時間と共に成分の送達が低下するものと同等の技術であるといえる。
したがって、甲2発明2は、本件特許発明15で特定する第1の温度、第2の温度及び第3の温度を用いて制御するものでなく、上記本件特許発明15の構成とは目的を含め、技術が明らかに異なるものである。

請求人は、甲2の段落[0039]の記載に基づいて、甲2は、最初に電気加熱片に電力を加えた直後の電気加熱片の温度が初期温度から上昇して第1の温度に達するまでの段階が第1段階であり、その後、電気加熱片の温度が低下して第2の温度に達するまでの段階が第2段階であり、その後、電気加熱片の温度が上昇して第2の温度より高い第3の温度に上昇する段階が第3段階であると解する旨(審判請求書34頁4行?36頁19行)、及び、甲2の電気加熱片の温度が第2の温度(T2)に到達した時点、すなわち、第2段階(Ph2)の終了時に電気加熱片がオンになるので、第2段階(Ph2)においても電気加熱片に電力が供給されるといえる旨(審判請求書の36頁12?14行;審判請求書の38頁14?21行にも同旨の記載がある。)、について主張するが、上記の主張に係る甲2の段落[0039]などに示される温度態様は、本件特許明細書において従来技術に相当する一定温度制御に該当するものであるから対比して検討する技術的事項を備えるものではない。仮に、温度の上下動の一部が類似することをもって対比検討するとしても、本件特許発明15の第2温度の第2段階に対応する甲2発明2の制御は、スイッチ手段をオフとする、すなわち電力を供給しない制御であるから、本件特許発明15の電力を供給する第2段階制御とは実質的に異なるし、甲2における、天火の温度が設定された上限温度(240℃)に達したときに、電気加熱片の加熱を停止し、天火の温度が設定された下限温度(180℃)を下回るときに、電気加熱片が加熱を開始する制御が、エアロゾル送達特性を一貫とすることを意図するものでないことは明らかである。
したがって、請求人の主張は採用できない。
以上から、相違点15Bは、実質的な相違点である。

ところで、甲1及び甲3?5には、上記2-1(1)及び(3)?(5)に摘記したとおりの事項が記載されているところ、甲1及び甲3?5は、相違点15Bに係る本件特許発明1の構成を開示ないし示唆するものではない。
そうすると、甲2発明2において、甲1及び甲3?5に記載された事項に基いて、相違点15Bに係る本件特許発明15の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

そして、本件特許発明15は、相違点15Bに係る本件特許発明15の構成を備えることにより、特性がより一貫したエアロゾルを提供することができるものである。

したがって、本件特許発明15は、甲2に記載された発明とはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものとはいえない。
また、本件特許発明15は、甲2発明2並びに甲1及び甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(4)本件特許発明16?24について
本件特許の請求項16?24は、本件特許の請求項15の記載を、発明特定事項を置き換えることなく、直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明16?24は、本件特許発明15の発明特定事項を全て備えるものである。
したがって、本件特許発明16、20及び24は、本件特許発明15と同様の理由により、甲2に記載された発明とはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものとはいえない。
また、本件特許発明16?24は、本件特許発明15と同様の理由により、甲2発明2並びに甲1及び甲3?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

3 まとめ
上記1及び2のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1?7は、いずれも理由がない。

第6 結び
以上のとおり、請求人の主張する理由及び提出した証拠によっては本件特許の請求項1?26に係る発明の特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-08-02 
結審通知日 2019-08-06 
審決日 2019-08-20 
出願番号 特願2015-522125(P2015-522125)
審決分類 P 1 113・ 113- Y (A24F)
P 1 113・ 537- Y (A24F)
P 1 113・ 121- Y (A24F)
P 1 113・ 536- Y (A24F)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
登録日 2017-04-14 
登録番号 特許第6125008号(P6125008)
発明の名称 加熱式エアロゾル発生装置、及び一貫した特性のエアロゾルを発生させる方法  
代理人 戸津 洋介  
代理人 近藤 直樹  
代理人 須田 洋之  
代理人 上杉 浩  
代理人 阿部 寛  
代理人 弟子丸 健  
代理人 池田 成人  
代理人 那須 威夫  
代理人 鈴木 信彦  
代理人 小曳 満昭  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 大塚 文昭  
代理人 西島 孝喜  

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