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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D21C
管理番号 1368038
審判番号 不服2018-17153  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-25 
確定日 2020-11-25 
事件の表示 特願2014-554542「ガラス板合紙用木材パルプ及びガラス板用合紙」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月 3日国際公開、WO2014/104187〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件は、平成25年12月26日(優先権主張平成24年12月27日 日本国、平成25年4月18日 日本国)を国際出願日とする出願(以下「本願」という。)であって、平成29年10月3日付けで拒絶理由が通知され、平成30年2月8日(受付日)に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年9月28日付けで拒絶査定がなされたが、平成30年12月25日(受付日)に拒絶査定不服審判が請求され、令和1年8月23日付けで当審より拒絶理由が通知され、令和1年10月25日(受付日)に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願の請求項1に係る発明
本願の令和1年10月25日(受付日)の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。なお、本願発明は、平成30年2月8日(受付日)の手続補正書における請求項9に係る発明と同じである。
「【請求項1】
木材パルプを原料とするガラス板用合紙であって、紙中に含まれるシリコーンの量が、紙の絶乾質量に対して0.5ppm以下であるガラス板用合紙。」

3.当審の判断
(1)当審が本願発明に対して通知した拒絶理由
当審が令和1年8月23日付けで、本願発明(平成30年2月8日(受付日)の手続補正書の請求項9に係る発明)に対して通知した拒絶理由は、
本願発明は、本願の優先日前の特許出願であって、本願出願後に国際公開がされたPCT/JP2013/083992の優先権主張に係る特願2012-280085号(以下「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願に係る上記発明をした者と同一ではなく、また本願の出願の時において、その出願人が上記先願の出願人と同一でもないので、特許法第184条の13の規定により読み替える特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない、というものである。

(2)先願発明
上記先願は、2013年12月18日(優先権主張 2012年12月21日、日本国)を国際出願日とする国際特許出願(PCT/JP2013/083992)の優先権主張に係る出願であり、当該国際特許出願は、2014年6月26日に国際公開(国際公開第2014/098162号)されたものである。
上記先願の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「先願明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス合紙、および、このガラス合紙を用いるガラス板梱包体に関する。」
イ.「【背景技術】
【0002】
建築用ガラス板、自動車用ガラス板、プラズマディスプレイ用ガラス板や液晶ディスプレイ用ガラス板などのFPD(Flat Panel Display)用のガラス板は、保管中や搬送中に、表面に疵が入る、表面が異物で汚染される等で、製品欠陥が生じ易い。
特に、FPD用のガラス板(ガラス基板)は、表面に微細な電気配線(以下、配線とも言う)、電極、電気回路、および隔壁等の素子が形成されるので、表面に僅かな疵や汚染が有っても、断線等の不良の原因となる。そのため、これらの用途に用いられるガラス板には、高い表面の清浄性が要求される。
【0003】
一般的に、ガラス板は、梱包用のパレット等に積層された状態で、保管、搬送される。ガラス板の表面の疵は、この際に、隣接するガラス板間での擦れが生じることで、発生する場合が多い。
【0004】
また、ガラス板の表面の汚染は、保管雰囲気や搬送雰囲気中の有機物などの汚染物質が、ガラス板の表面に付着することで発生する場合が多い。
・・・・
【0005】
このようなガラス板の表面の疵や汚染を防止する方法として、積層するガラス板の間に紙を挟み込み、隣接するガラス板の表面同士を分離する、いわゆるガラス合紙を介在させる方法が、従来から利用されている。
【0006】
しかしながら、ガラス板間にガラス合紙を介在させる方法では、ガラス合紙とガラス板の表面とが、直接、接触する。そのため、ガラス合紙の表面に存在する樹脂など各種の成分などがガラス板の表面に転写されて、ガラス板の表面を汚染し、ガラス板に、紙肌模様や焼けや汚れ(以下、転写汚れとも言う)等の問題が生じる。」
ウ.「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらのガラス合紙によれば、ガラス合紙が含有する成分等が、ガラス板の表面に転写されることを低減して、ガラス板表面の転写汚れを抑制できる。
しかしながら、これらのガラス合紙では、FPD用のガラス板など、表面に配線や電極等の素子が形成されるガラス板の積層に用いた際に、ガラス合紙からの転写汚れに起因する、微細な配線、電極、電気回路等の不良の発生を十分に抑制するのは、困難である。
【0010】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、ガラス板の表面に配線や電極等の素子を形成した際に、ガラス合紙からの転写による汚染に起因する配線等の不良の発生を大幅に抑制できるガラス合紙、および、このガラス合紙を用いるガラス板梱包体を提供することにある。」
エ.「【0020】
前述のように、ガラス合紙からガラス板への転写汚れを抑制することに関しては、従来より、各種の提案が行われている。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、FPD用のガラス板などの、表面に配線や電極等の素子を形成されるガラス板では、ガラス合紙からガラス板への転写汚れを抑制しても、表面に配線や電極等を形成した際に、配線等の不良が、決して低くはない確率で発生する。
【0021】
本発明者らは、この原因について、鋭意検討を重ねた。その結果、ガラス合紙からガラス板に転写された、ケイ素元素を有する有機化合物(以下、有機ケイ素化合物とも言う)が、配線等の不良の大きな原因となっていることを見出した。
【0022】
周知のように、ガラス合紙の原料となる紙パルプの製造においては、化学パルプの製造における蒸解工程や漂白工程、古紙パルプの製造における脱墨工程など、各種の工程において、蒸解助剤、スケール防止剤、脱墨剤、消泡剤、界面活性剤、漂白剤などの様々な薬剤が必要に応じて使用される。また、ガラス合紙の製紙工程(抄紙工程)においても、ガラス合紙(湿紙/紙)が接触する部材の洗浄などに、洗浄剤、添加物の調整剤としての乳化剤や分散剤など、各種の薬剤が必要に応じて使用される。これらの薬剤の中には、有機ケイ素化合物を含む物も少なからず有る。
通常、パルプやガラス合紙の製造工程で使用された、これらの薬剤は、洗浄によって除去される。しかしながら、有機ケイ素化合物は、多くの物が、ある程度の粘度を有するため、完全に除去することは困難で、製造したガラス合紙に残存してしまう。
そのため、ガラス合紙を介在させてガラス板を積層した際に、ガラス合紙に残存する有機ケイ素化合物が、ガラス板に転写されて異物となってしまう。
【0023】
一方、近年では、FPDは空間分解能等が高くなっており、その結果、ガラス板に形成される配線や電極等も微細になっている。例えば、配線であれば、幅3?5μm程度の配線を、50?200μm程度の間隔(ピッチ)で形成することが要求される。
【0024】
ところが、本発明者らの検討によれば、このような微細な配線等を形成する際には、ガラス板の表面に僅かな有機ケイ素化合物が存在しても、配線となる金属薄膜(金属化合物薄膜)の成膜や、エッチングによるパターンニング等の阻害要因となる。また、液晶ディスプレイでは、ガラス板の表面に僅かな有機ケイ素化合物が存在しても、カラーフィルタのブラックマトリックスにムラが生じてしまう。
そのため、ガラス合紙からガラス板に有機ケイ素化合物が転写されると、転写された有機ケイ素化合物が異物となって、ガラス板に配線や電極などの素子や、カラーフィルタ等を形成した際の不良発生の大きな要因となる。
中でも、消泡剤に含有されることが多いシリコーン(有機官能基を有するポリシロキサン(オルガノポリシロキサン))がガラス板に転写されると、配線や電極の不良等が発生し易い。シリコーンの中でも特に、ポリジメチルシロキサンがガラス板に転写されると、より配線や電極の不良等が発生し易くなる。」
オ.「【0025】
本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、ガラス合紙の有機ケイ素化合物の含有量を3ppm以下とすることにより、ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケイ素化合物に起因する配線の不良等の発生を、大幅に低減できることを見出した。
すなわち、本発明のガラス合紙を用いることにより、FPD用のガラス板などの表面の有機ケイ素化合物からなる異物を除去するための高度な洗浄等を行わなくても、ガラス板の表面に微細な配線、電極、電気回路、および隔壁などの素子や、カラーフィルタのブラックマトリックス等を形成した際に、有機ケイ素化合物に起因する断線等の配線などの素子の不良や、ブラックマトリックスのムラの発生を、大幅に抑制できる。従って、本発明のガラス合紙を用いることにより、FPDなどの生産コストを低減し、歩留りを向上できる。
【0026】
前述のように、本発明のガラス合紙は、有機ケイ素化合物の含有量が3ppm以下のガラス合紙である。
有機ケイ素化合物の含有量が3ppmを超えると、ガラス合紙からガラス板への有機ケイ素化合物の転写を、十分に抑制できず、ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケイ素化合物に起因する配線の不良発生等の低減効果を十分に得られない。
【0027】
本発明のガラス合紙において、有機ケイ素化合物の含有量は、好ましくは2ppm以下、より好ましくは1ppm以下である。
ガラス合紙における有機ケイ素化合物の含有量を、この量とすることにより、本発明のガラス合紙を用いたFPD用ガラス板などの表面に配線や電極等を形成した際に発生する不良を、より好適に抑制することができる。
【0028】
なお、本発明のガラス合紙において、有機ケイ素化合物の含有量は、少ない程、好ましい。すなわち、本発明のガラス合紙において、有機ケイ素化合物の含有量の下限には、限定は無い。
しかしながら、ガラス合紙から有機ケイ素化合物を完全に取り除くのは、困難であり、有機ケイ素化合物の含有量が極端に少ないガラス合紙は、製造に手間やコストがかかる。この点を考慮すると、本発明のガラス合紙において、有機ケイ素化合物の含有量は、0.05ppm以上であるのが好ましい。
【0029】
本発明のガラス合紙は、有機ケイ素化合物の含有量が3ppm以下である以外は、基本的に、ガラス板の積層に用いられる公知のガラス合紙である。
【0030】
従って、本発明のガラス合紙は、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)、リファイナーグランドウッドパルプ(RGP)等の機械パルプ、楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とする非木材繊維パルプ、合成パルプ等、各種の原料からなる公知のガラス合紙が利用可能である。さらに、本発明のガラス合紙は、これらの混合物を原料するものでもよく、セルロース等を含有するものを原料としてもよい。
また、これらの原料は、古紙であっても、バージンパルプであっても、古紙とバージンパルプとの混合物であってもよい。中でも、バージンパルプが好ましい。
【0031】
ここで、本発明のガラス合紙においては、何れのパルプであっても、ガラス板に転写した際に配線や電極の不良等の大きな原因となる、シリコーン系の消泡剤(シリコーンを含有する消泡剤)を使用しないで製造したパルプを原料として用いるのが好ましい。
中でも、ポリジメチルシロキサンを含有する消泡剤を使用しないで製造したパルプが、本発明のガラス合紙の原料として、特に好適に用いられる。」
カ.「【0039】
本発明のガラス合紙の製造方法として、このようなガラス合紙の製造装置(製紙工程)において、ヘッドボックス12に供給する紙原料液を調製する前に、原料となるパルプを洗浄する方法が例示される。
本発明者らの検討によれば、ガラス合紙からガラス板に転写される有機ケイ素化合物は、原料となるパルプに付着している不純物に起因する物が、多いと考えられる。そのため、溶剤の中に原料となるパルプを投入して、攪拌や放置等を行うことにより、パルプに付着している有機ケイ素化合物を溶剤で溶解し、その後、濾過することにより、パルプを溶剤で洗浄する。
このように、溶剤で洗浄したパルプを用いて、紙原料液を調製して、ヘッドボックス12に供給して、ガラス合紙を製造する。これにより、有機ケイ素化合物が3ppm以下である、本発明のガラス合紙を製造することができる。
【0040】
洗浄に用いる溶剤は、パルプに付着していると考えられる有機ケイ素化合物を溶解可能な有機溶剤等を、適宜、選択すればよい。
一例として、芳香族系溶剤(トルエン、キシレンなど)等が例示される。なお、溶剤は、必要に応じて、希釈して用いてもよい。
【0041】
また、攪拌の速度や時間、溶剤へのパルプの浸漬時間、パルプの量に対する溶剤の量、溶剤の温度など、パルプの洗浄の条件は、紙の厚さ、紙の種類(原料等)、有機ケイ素化合物に対する溶剤の溶解力等に応じて、ガラス合紙が含有する有機ケイ素化合物を3ppm以下にできる条件を、適宜、設定すればよい。
また、このようなパルプの洗浄は、複数回、行ってもよい。
【0042】
また、本発明のガラス合紙の別の製造方法として、このようなガラス合紙の製造装置において、ドライヤパート24の前、および、ドライヤパート24の中の少なくとも一方において、紙をシャワー洗浄する方法が、例示される。
すなわち、ドライヤパート24の前(プレスパート20とドライヤパート24との間)、および、ドライヤパート24の中の少なくとも一方に、シャワーを設け、乾燥前および乾燥中の少なくとも一方において、紙に付着していると考えられる有機ケイ素化合物を溶解可能な溶剤でシャワー洗浄する。これにより、紙に含まれる有機ケイ素化合物の異物を溶解して除去して、有機ケイ素化合物が3ppm以下である、本発明のガラス合紙を製造することができる。
なお、ドライヤパート24の前やドライヤパート24の中の洗浄用シャワーは、紙の搬送方向に、複数箇所、設けてもよい。
【0043】
シャワー洗浄に用いる溶剤は、先のパルプの洗浄と同様、紙に付着していると考えられる有機ケイ素化合物を溶解可能な有機溶剤等を、適宜、選択すればよい。一例として、先にパルプの洗浄で例示した物と同様の溶剤が例示される。なお、先と同様に、溶剤は、必要に応じて希釈して用いてもよい。
また、シャワー洗浄に用いる溶剤の量、溶剤の噴射速度など、紙のシャワー洗浄の条件は、紙の厚さ、紙の搬送速度や搬送経路、紙の種類(原料等)、有機ケイ素化合物に対する溶剤の溶解力等に応じて、ガラス合紙が含有する有機ケイ素化合物を3ppm以下にできる条件を、適宜、設定すればよい。
【0044】
また、本発明のガラス合紙の別の製造方法として、ドライヤパート24の前やドライヤパート24の中に、紙に付着していると考えられる有機ケイ素化合物を溶解できる溶剤を充填した水槽を設け、此処に紙を通紙することで、紙に含まれる有機ケイ素化合物の異物を溶解して除去する方法も、利用可能である。
【0045】
この様なパルプの洗浄、紙のシャワー洗浄、および水槽を用いる洗浄は、2種以上を行って、本発明のガラス合紙を製造してもよい。
また、必要に応じて、溶剤を用いたパルプや紙の洗浄を行った後、純水等の清浄な水で、パルプや紙の洗浄を行っても良い。」
キ.「【0053】
[実施例1]
原料となるバージンパルプを、エタノールで50倍(体積比)に希釈したトルエンに投入して、10時間、攪拌した後、濾過して、原料となるパルプの洗浄を行った。
この洗浄したパルプを原料として、図1および図2に示す、一般的なガラス合紙の製造装置を用いて、ガラス合紙を作製した。
作製したガラス合紙を、後述するガラス板のサイズに合わせてカットシート状に切断して、ソックスレー抽出器(Soxhlet extractor)によってガラス合紙から成分を抽出した。抽出した成分を核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)装置で分析したところ、有機ケイ素化合物の含有量は2ppmであった。
【0054】
[比較例1]
原料となるパルプの洗浄を行わない以外は、実施例1と同様にして、ガラス合紙を作製した。
作製したガラス合紙を、実施例1と同様に分析したところ、有機ケイ素化合物の含有量は4ppmであった。」
ク.「【0055】
[実施例2]
図1および図2に示す、一般的なガラス合紙の製造装置において、ドライヤパート24の途中2箇所に、紙を洗浄するためのシャワーを設けた。
このような製造装置を用い、原料としてバージンパルプを用いて、ドライヤパート24において、エタノールで50倍(体積比)に希釈したトルエンによって紙のシャワー洗浄を行いつつ乾燥を行い、ガラス合紙を作製した。
【0056】
作製したガラス合紙を、実施例1と同様に分析したところ、有機ケイ素化合物の含有量は1ppmであった。
【0057】
[比較例2]
ドライヤパート24における紙のシャワー洗浄を行わない以外は、実施例2と同様にして、ガラス合紙を作製した。
作製したガラス合紙を、実施例1と同様に分析したところ、有機ケイ素化合物の含有量は4ppmであった。」
ケ.「【0058】
[性能評価]
以上の実施例1および2、ならびに、比較例1および2で作製したガラス合紙を、厚さが0.5mmで、1500×1300mmサイズのFPD用のガラス板(旭硝子株式会社製 液晶用ガラスAN100)の間に介在させて、複数枚のガラス板を積層したガラス板積層体にした。
このガラス板積層体を、実施例1および2、ならびに、比較例1および2の各ガラス合紙毎に、5パレット分(ガラス板2000枚)、作製した。
このガラス板積層体を、一般的なガラス板梱包用のパレットに積載して、ガラス板梱包体にした。
このようにして作製したガラス板梱包体を、台湾から日本まで船で搬送した。
【0059】
日本まで搬送したガラス板梱包体から、各ガラス板積層体毎に、100枚のガラス板を無作為に選択した。
次いで、選択した全てのガラス板の表面に、幅が5μmの直線状の配線を、80μmの間隔で形成した。
【0060】
形成した配線の断線状況を確認した。
その結果、実施例1および2のガラス合紙を用いて積層したガラス板では、全てのガラス板で、配線に断線は認められなかった。
これに対し、比較例1および2のガラス合紙を用いて積層したガラス板では、全てのガラス板で、配線に断線が確認された。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。」

上記ア.によれば、先願明細書には、「ガラス合紙」に係る発明が記載されており、上記イ.によれば、ガラスは、「液晶ディスプレイ用ガラス板などのFPD(Flat Panel Display)用のガラス板」であり、この「ガラス合紙」は、ガラス板の表面の疵や汚染を防止するために、積層するガラス板の間に挟み込み、隣接するガラス板の表面同士を分離するものである。
上記エ.によれば、ガラス合紙からガラス板に転写された、有機ケイ素化合物が、配線等の不良の大きな原因となっており、その有機ケイ素化合物には、シリコーンであるポリジメチルシロキサンが含まれる。
上記オ.によれば、「有機ケイ素化合物の含有量が3ppm以下のガラス合紙」とすることにより、「有機ケイ素化合物に起因する配線の不良発生等」を低減させることができ、有機ケイ素化合物の含有量は、「より好ましくは1ppm以下」であり、「少ない程、好まし」く、「有機ケイ素化合物の含有量の下限には、限定は無」いが、「ガラス合紙から有機ケイ素化合物を完全に取り除くのは、困難であり、有機ケイ素化合物の含有量が極端に少ないガラス合紙は、製造に手間やコストがかかる」ため、「有機ケイ素化合物の含有量は、0.05ppm以上であるのが好ましい」とされる。

そうすると、先願明細書には、次の「先願発明」が記載されているものといえる。
「ガラス合紙であって、ガラスは、液晶ディスプレイ用ガラス板などのFPD用のガラス板であり、このガラス合紙は、ガラス板の表面の疵や汚染を防止するために、積層するガラス板の間に挟み込み、隣接するガラス板の表面同士を分離するものであり、
ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケイ素化合物が、配線等の不良の大きな原因となることから、有機ケイ素化合物の含有量が3ppm以下のガラス合紙とすることにより、有機ケイ素化合物に起因する配線の不良発生等を低減させることができ、有機ケイ素化合物の含有量は、より好ましくは1ppm以下であり、少ない程、好ましく、有機ケイ素化合物の含有量の下限には限定は無いが、ガラス合紙から有機ケイ素化合物を完全に取り除くのは困難であり、有機ケイ素化合物の含有量が極端に少ないガラス合紙は、製造に手間やコストがかかるため、有機ケイ素化合物の含有量は、0.05ppm以上であるのが好ましく、
有機ケイ素化合物は、シリコーンのポリジメチルシロキサンである、
ガラス合紙。」

(3)対比、判断
ア.本願発明と先願発明を対比する。
先願発明の「ガラス合紙」は、「ガラス板の表面の疵や汚染を防止するために、積層するガラス板の間に挟み込み、隣接するガラス板の表面同士を分離する」ために用いられるものであるから、本願発明の「ガラス板用合紙」に相当する。また、先願発明の「ガラス合紙」と本願発明の「ガラス板用合紙」とは、原料がパルプであるという限りにおいて一致する。
そうすると、本願発明と先願発明とは、「パルプを原料とするガラス板用合紙」で一致し、以下の点で、一応、相違する。
相違点1:本願発明の「ガラス板用合紙」のパルプが「木材パルプ」であるのに対し、先願発明のガラス合紙のパルプが「木材パルプ」であるか特定されていない点。
相違点2:本願発明が「紙中に含まれるシリコーンの量が、紙の絶乾質量に対して0.5ppm以下」であるのに対し、先願発明は「有機ケイ素化合物の含有量は、より好ましくは1ppm以下であり、少ない程、好ましく、有機ケイ素化合物の含有量の下限には、限定は無いが、ガラス合紙から有機ケイ素化合物を完全に取り除くのは、困難であり、有機ケイ素化合物の含有量が極端に少ないガラス合紙は、製造に手間やコストがかかるため、有機ケイ素化合物の含有量は、0.05ppm以上であるのが好まし」いとされている点。
イ.まず、上記相違点1について検討する。
先願発明のガラス合紙の原料となるパルプについて、先願明細書(段落【0030】)には、「クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)、リファイナーグランドウッドパルプ(RGP)等の機械パルプ」を利用可能であると記載され、これらのパルプが、主に木材パルプを原料とすることは技術常識であり、木材パルプ以外のパルプのみを原料とするとも記載されていないから、先願発明のガラス合紙は、木材パルプを原料とし得るものであり、上記相違点1は実質的なものではない。
ウ.次に、上記相違点2について検討する。
先願発明のガラス合紙は、紙中の有機ケイ素化合物の含有量が「少ない程、好ましく、有機ケイ素化合物の含有量の下限には、限定は無」いとされる一方、「ガラス合紙から有機ケイ素化合物を完全に取り除くのは、困難であり、有機ケイ素化合物の含有量が極端に少ないガラス合紙は、製造に手間やコストがかかる」ため、「有機ケイ素化合物の含有量は、0.05ppm以上であるのが好まし」いとされるものである。このことからすると、先願発明のガラス合紙は、有機ケイ素化合物であるシリコーンの含有量が、0.5ppmより微量の0.05ppm程度であるガラス合紙を含むものである。
そこで、先願明細書の具体的な実施例の記載を参照すると、実施例1(上記(2)キ.)で、原料となるバージンパルプを、エタノールで50倍(体積比)に希釈したトルエンに投入して、10時間、攪拌した後、濾過して、原料となるパルプの洗浄を行う方法により、紙中の有機ケイ素化合物の含有量を2ppmとすることが、また、実施例2(上記(2)ク.)では、ドライヤパートの途中2箇所に、紙を洗浄するためのシャワーを設け、原料のバージンパルプを、ドライヤパートにおいて、エタノールで50倍(体積比)に希釈したトルエンによって紙のシャワー洗浄を行いつつ乾燥を行う方法により、紙中の有機ケイ素化合物の含有量を1ppmとすることが示され、比較例1及び2の洗浄を行わないガラス合紙を用いて積層したガラス板は、選択した全てのガラス板で、幅が5μmの直線状の配線に断線が確認されたのに対し、実施例1及び2の手法により洗浄したガラス合紙を用いて積層したガラス板では、選択した全てのガラス板で配線に断線が発生しないという効果(上記(2)ケ.)を奏することが確認された旨記載されている。なお、先願発明のガラス合紙中の有機ケイ素化合物(シリコーン)の含有量とは、水分等の紙以外の異物の質量の影響を排除した値、すなわち、紙の絶乾質量に対する値を意味するものと解される。
さらに、これらの方法以外にも、パルプの洗浄を行う方法や紙のシャワー洗浄を行う方法、溶剤を充填した水槽に紙を通紙させる方法のほか、2種以上の方法を行うこと、溶剤での洗浄の後、純水等の清浄な水で洗浄を行うこと(上記(2)カ.)、ガラス合紙の原料となるパルプ自体に、シリコーン系の消泡剤(シリコーンを含有する消泡剤)を使用しないで製造したパルプを原料として用いること(上記(2)オ.)も記載されており、これらの方法を組み合わせ、適宜回数行うことにより、有機ケイ素化合物(シリコーン)の含有量を0.05ppm程度まで減らし、ガラス板の配線に断線を発生させないガラス合紙を形成できることが推認できる。
そうすると、先願明細書には、ガラス合紙の有機ケイ素化合物(シリコーン)の含有量を0.5ppmより微量の0.05ppm程度とすることが実施できるものとして記載され、有機ケイ素化合物(シリコーン)の含有量が「少ない程、好まし」いとされているのであるから、先願発明の有機ケイ素化合物(シリコーン)の含有量の「より好ましくは1ppm以下」は、「少ない」側の0.5ppm以下の範囲を意味するものといえる。
よって、上記相違点2は実質的なものではない。
エ.請求人は、令和1年10月25日(受付日)の意見書(「3.拒絶理由1について」)において、先願明細書に記載の実施例1ではヘキサンを用いてソックスレー抽出機によって所定のサイズのガラス合紙から成分を抽出することによって当該合紙に含まれる有機ケイ素化合物の含有量を特定しているが、実施例1では抽出を行った時間について、どの程度の期間に亘って抽出を行ったのかが不明であり、また、NMR装置を用いた定量では、標準品を所定量使用して、これを基準として定量を行う必要があるところ、先願明細書の実施例1及び2では、標準品が不明であり、先願明細書の記載からは「有機ケイ素化合物」のNMRによる定量は理論的に不可能であるため、ガラス合紙中の有機ケイ素化合物の含有量が2ppm又は1ppmであれば、本当に、当該有機ケイ素化合物に起因する配線の不良発生等を抑制可能であるか否かは先願明細書からは不明であることから、先願発明は未完成発明であり、先願発明が「当業者が反復実施して所定の効果を挙げる程度にまで具体的・客観的なものとして」先願明細書に記載されていないことは明らかである旨主張する。
しかし、請求人も上記意見書の「3.(1)」で認めるように、「抽出時間が十分長ければガラス合紙からの抽出物質量は一定となる」ものであるところ、先願明細書には、抽出時間が記載されていないが、先願発明は「ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケイ素化合物が、配線等の不良の大きな原因となることから、有機ケイ素化合物の含有量が3ppm以下のガラス合紙とすることにより、有機ケイ素化合物に起因する配線の不良発生等を低減させることができ、有機ケイ素化合物の含有量は、より好ましくは1ppm以下であり、少ない程、好ましく、有機ケイ素化合物の含有量の下限には限定は無いが、ガラス合紙から有機ケイ素化合物を完全に取り除くのは困難であり、有機ケイ素化合物の含有量が極端に少ないガラス合紙は、製造に手間やコストがかかるため、有機ケイ素化合物の含有量は、0.05ppm以上であるのが好まし」いというものであるから、ガラス合紙中の有機ケイ素化合物(シリコーン)を可能な限り抽出して、抽出物質量が一定となる十分な時間を設定しているものと解するのが自然である。また、先願明細書の核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)装置における標準品についても、正確に測定するために、使用される核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)装置で推奨される標準品を選択しているはずであり、それ以外の標準品を使用したとも記載されていない。
そして、先願明細書には、実施例1及び2の方法により洗浄して形成したガラス合紙を用いて積層したガラス板は、幅5μmの直線状の配線について断線が発生しないことが確認され、実施例1及び2の方法に加えて、より洗浄を進めて有機ケイ素化合物(シリコーン)の含有量を減らせる方法が具体的に記載されているから、請求人が主張するような、先願発明が、「未完成発明」であり「当業者が反復実施して所定の効果を挙げる程度にまで具体的・客観的なものとして」先願明細書に記載されていないもの、であるとはいえない。
ゆえに、上記主張は、当を得たものではない。
オ.したがって、上記相違点1及び2は実質的なものではなく、本願発明は、先願発明と同一である。

(4)まとめ
以上によれば、本願発明は、特許法第184条の13で読み替える、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-15 
結審通知日 2019-11-18 
審決日 2019-12-04 
出願番号 特願2014-554542(P2014-554542)
審決分類 P 1 8・ 16- WZ (D21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 大輔藤田 雅也  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 高山 芳之
井上 茂夫
発明の名称 ガラス板合紙用木材パルプ及びガラス板用合紙  
代理人 実広 信哉  

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