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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1368043
異議申立番号 異議2019-700832  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-21 
確定日 2020-09-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6507056号発明「電池配線モジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6507056号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6507056号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6507056号の請求項1?5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成27年7月24日を出願日とするものであって、平成31年4月5日付けでその特許権の設定登録がなされ、同年4月24日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その特許について、令和1年10月21日付けで特許異議申立人青木耕一(以下、「申立人」という。)より請求項1?5(全請求項)に対して特許異議の申立てがなされ、令和2年1月6日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年3月6日付けで特許権者より意見書が提出され、その後、同年3月17日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、同年5月15日付けで特許権者より意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、その後、同年7月3日に、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)について、申立人から意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6507056号の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正された明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、訂正箇所には、当審で下線を付した。

(1)訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「正極及び負極の電極端子を有する複数の単電池が並べられてなる単電池群に取り付けられる電池配線モジュールであって、」を「正極及び負極の電極端子を有する複数の単電池が並べられてなる単電池群に取り付けられる車両用の電池配線モジュールであって、」と訂正する。

(2)訂正事項2
明細書【0008】について、本件訂正前の「正極及び負極の電極端子を有する複数の単電池が並べられてなる単電池群に取り付けられる電池配線モジュールであって、」を「正極及び負極の電極端子を有する複数の単電池が並べられてなる単電池群に取り付けられる車両用の電池配線モジュールであって、」と訂正する。

2 当審の判断
2-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の発明特定事項である「正極及び負極の電極端子を有する複数の単電池が並べられてなる単電池群に取り付けられる電池配線モジュール」について、願書に添付された明細書【0003】を根拠として、「車両用」であることを特定したものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、こられをまとめて「本件明細書等」という。)に記載した範囲内の訂正である。

(2)訂正事項2は、訂正事項1において、特許請求の範囲の訂正に伴い、願書に添付された明細書の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。

2-2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?5は請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?5は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?5〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2-3 独立特許要件について
本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

2-4 明細書の訂正について
明細書の訂正である訂正事項2は、訂正前の請求項1に対応する明細書の記載を訂正するものであり、本件訂正前の請求項2?5は請求項1を引用するものであるから、本件訂正請求に係る明細書の訂正は、一群の請求項の全てについて行うものである。

2-5 訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、令和2年5月15日に特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第1項及び第3項に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕についての訂正を認める。

第3 特許異議申立について
1 本件発明
令和2年5月15日に特許権者が行った請求項1?5についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下、これらを請求項数に応じて、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
正極及び負極の電極端子を有する複数の単電池が並べられてなる単電池群に取り付けられる車両用の電池配線モジュールであって、
前記複数の単電池の隣接する単電池の正極及び負極の電極端子を接続する複数の接続部材と、
前記複数の接続部材を介して前記複数の単電池の電圧を検知する複数の電圧検知線を有するフレキシブルプリント基板と、を備え、
各電圧検知線の途中には、当該電圧検知線に過電流が流れることを制限する電流制限素子が設けられており、
前記フレキシブルプリント基板のカバーレイ層には、前記電流制限素子が配置されるとともに、前記電流制限素子が接続される箇所の前記電圧検知線を露出させる開口部が形成されており、
前記接続部材と前記電流制限素子とは、前記フレキシブルプリント基板の同じ面において前記電圧検知線に半田によって接続されており、
前記電流制限素子と前記電圧検知線との接続部である、前記電流制限素子の電極と、前記半田と、前記電圧検知線の露出した部分とは、前記開口部を覆い隠すように絶縁樹脂によってオーバーコートされている、電池配線モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の電池配線モジュールにおいて、
前記フレキシブルプリント基板には、前記電圧検知線を前記接続部材に接続する接続ランドが設けられており、
前記電流制限素子は、前記接続ランドの近傍に設けられている、電池配線モジュール。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電池配線モジュールにおいて、
各電圧検知線は、他の電圧検知線から分離されて配線された分離配線部を有するように配線されており、
前記電流制限素子は、各電圧検知線において、前記分離配線部に設けられている、電池配線モジュール。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電池配線モジュールにおいて、
前記電流制限素子は、正温度係数サーミスタ、あるいはチップヒューズである、電池配線モジュール。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電池配線モジュールにおいて、
前記複数の電圧検知線に接続され、検知された単電池の電圧を外部に出力するコネクタを備える、電池配線モジュール。」

2 特許異議申立理由の概要
本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記a?eの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
なお、上記理由は、令和2年1月6日付けの取消理由通知、及び、同年3月17日付けの取消理由通知(決定の予告)においても採用した。ただし、これらの取消理由通知では、下記cの刊行物は採用しなかった。

<刊行物>
a 国際公開第2010/113455号
(申立人が提出した甲第1号証:以下、「甲1」という。)
b 特開2015-133394号公報
(申立人が提出した甲第2号証:以下、「甲2」という。)
c 国際公開第2012/131809号
(申立人が提出した甲第3号証:以下、「甲3」という。)
d 実願昭62-34859号(実開昭63-142869号)のマイクロフィルム
(申立人が提出した甲第4号証:以下、「甲4」という。)
e 特開2013-251294号公報
(申立人が提出した甲第5号証:以下、「甲5」という。)

3 引用刊行物の記載事項及び引用刊行物に記載された発明
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、下線は当審が付した。以下、同じ。
「[0001]本発明は、複数の電池セルを積層している電池モジュールに電圧検出回路を接続している電池モジュール、バッテリシステムおよび電動車両に関する。」
「[0038]状態検出回路20には、一端がバスバー40に接続される電圧検出線51の他端が接続されており、状態検出回路20は、状態検出回路20に接続されている電圧検出線51の内から任意の電池セル1の正極端子、負極端子に接続されるバスバー40から延びる2本の電圧検出線51を選択して、選択した電圧検出線51間の電圧を検出する電圧検出回路として機能することによって、任意の電圧セル1の正極端子、負極端子間の電圧を検出する。また、状態検出回路20は、状態検出回路20により検出された電圧の値の情報をバッテリECU200に送信する。」
「[0044](2)電池モジュールの構成
次に、上述したバッテリシステムに用いられる本発明の電池モジュールの構成について、図を用いて、以下に詳述する。図2に電池モジュール100の斜視図を示す。図3に電池モジュール100の状態検出回路20の斜視図と側面図の部分拡大図を示す。図4に電池モジュール100の上面図および正面図を示す。図10に電池モジュール100の分解斜視図を示す。
[0045]図2、図3、図4および図10に示すように、電池モジュール100は、電池ブロック10と、状態検出回路20と、配線部材70とを主な構成としている。以下に、各構成について、順次説明する。
[0046](2-1)電池ブロック
図2に示すように、電池ブロック10は、複数(この場合、18個)の電池セル1,1・・と、2枚のエンドプレート80,80とを1方向に重ねることによって構成される。以下、1方向に重ねることを積層するという。」
「[0052]電池ブロック10は、図2に示すように、各電池セル1,1・・のセル主面が揃うように積層されており、以後、これらのセル主面が揃った電池ブロック10の面をブロック主面と称する。
[0053]電池ブロック10において積層された各電池セル1,1・・の配列は、隣り合う電池セル1同士で、正極端子2と負極端子3の位置が互いに異なるようになっているので、これらの端子2、3を後述するバスバー40を用いて接続することにより、電池ブロック10内の電池セルの直列接続を実現している(図4(a)参照)。」
「[0068](2-2)配線部材
配線部材70は、電池ブロック10と状態検出回路20を接続するために用いられるものであり、図2に示すように、複数の電池セル1,1・・を直列に接続するための金属部品からなるバスバー40・・と複数の電圧検出線51,51・・を有するFPC50とを結合して構成される。
[0069]ここで、バスバーについて、詳述する。図5にバスバー40の斜視図を示す。バスバー40には、18個の電池セル1,1・・の隣り合う電池セル1の極性が異なる端子2,3同士を連結する17個の連結バスバー40aと、直列状態の両端の電池セルの2つの最終端子である2つの端子バスバー40bが使用される。
[0070]連結バスバー40aは図5(a)に示すように、金属板を打ち抜いて作成した金属部品で形成されており、2つの貫通孔41,41を有する連結部材42aとこの連結部材42aから同一方向に並設された2枚の舌片状の結線部材43a,43aとを備えている。連結バスバー40aの連結部材42aと結線部材43aは、電池セル1の端子2,3が成す角に応じて、折り曲げられている。すなわち、ブロック主面Zと電池セル1の端子2,3が成す角αと同じ角を有して一体的に形成されている。連結部材42aには、貫通孔41が2つ設けられ、隣り合う電池セルの雄ネジが形成される端子2,3をそれぞれの貫通孔41に嵌め込んで、ナット形状の取り付け金具でネジ止め(不図示)する。このようにすることによって電気的に直列に連結され、隣り合う電池セル1,1同士が順次、機械的にも連結されることになる。
[0071]一方、連結バスバー40aの2つの結線部材43aの両方が共に、あるいは、その一方は、FPC50に形成されている電圧検出線51の端部と接続されるコンタクトパッド51aとリフロー半田付けによって接続されている。この半田付けによって、連結バスバー40aに接続された電池セル1の電極の端子2,3が状態検出回路20に電気的に接続されると共に、連結バスバー40aとFPC50との機械的な結合が行われている。この両方の結線部材43aがコンタクトバッド51aと結合する場合には、配線部材70であるバスバー40・・とFPC50との結合強度が増すことになる。なお、リフロー半田付けとは、プリント配線基板上で電子部品を接続する個所にあらかじめ半田を供給し、そこに電子部品を配置してから加熱する半田付けである。」
「[0077]図6にFPC50の配線図を示す。図6(a)に示すように、FPC50は、帯状の柔軟性材料53からなる基板に複数の電圧検出線51と複数の温度検出線52が形成されて一体的に形成される。端子列5,6間でバスバー40の配置が異なるため、一方のFPC50(第1のFPC)には、一方の端子列5(第1の端子列)を構成する端子2,3と状態検出回路20とを接続するための複数の電圧検出線が所定の配線パターンで形成されており、他方のFPC50(第2のFPC)には、他方の端子列6(第2の端子列)を構成する端子2,3と状態検出回路20とを接続するための複数の電圧検出線が一方のFPC50の配線パターンと異なる配線パターンで形成されている。図6(b)は図6(a)の点線部Aを拡大した図である。この図に示すように、電圧検出線51と温度検出線52の間隔aよりも電圧検出線51同士の間隔bの方が小さくなるように、電圧検出線51と温度検出線52とが柔軟性材料53に形成されている。また、電圧検出線51と温度検出線52の間隔aよりも温度検出線51同士の間隔cの方が小さくなるように、電圧検出線51と温度検出線52とが柔軟性材料53に形成されている。このように柔軟性材料53に、電圧検出線51と温度検出線52とが形成されることで、電位差の大きい二つの検出線の距離が大きくなり、片方の検出線が断線した場合に、他方の検出線にショートして電流が状態検出回路20に流れ込まないよう保護することができる。特に、FPCの端部、(状態検出回路20と接続される端部)においては断線が生じやすいので、この様な構成が特に有効である。
[0078]FPC50を形成する柔軟性材料53の一方の長手の辺にはコンタクトパッド51aが複数設けられており、バスバー40がコンタクトパッド51aにそれぞれリフロー半田付けされて結合されている。このときに、第1のバスバーは第1のFPCに、第2のバスバーは第2のFPCにそれぞれ半田付けされて結合され、それぞれ第1の配線部材70と第2の配線部材70とを構成している。また、電圧検出線51は、柔軟性材料53の一端部から長手方向に複数本平行に形成されている。また、それぞれの電圧検出線51は、柔軟性材料53の一方の長手の辺に位置する電圧検出線51から順に、柔軟性材料53の一端部側に近いコンタクトパッド51aがある位置から直角に曲がって、コンタクトパッド51aまで形成されている。これにより、それぞれの電圧検出線51の一端は、対応するコンタクトパッド51aと接続されることになる。すなわち、それぞれの電圧検出線51は、柔軟性材料53の一方の長手の辺に位置する電圧検出線51から順に、コンタクトパッド51a(1),51a(2),51a(3)・・の位置で直角に曲がってコンタクトパッド51aと接続されることになる。」
「[0083](2-3)PTC素子
図7に電池モジュールの部分上面図を示す。図7は簡単のため、各FPC50の電圧検出線51はバスバー40に接続される3本のみ記載し、他の電圧検出線51は省略している。また、図7は簡単のため、温度検出線52は省略している。図7に示すように、FPC50の電圧検出線51の間にPTC素子60が介在している。PTC素子60は、温度が上昇すると抵抗が上昇する素子であり、所定の電流より大きな電流が流れると自己発熱して抵抗が大きくなる素子である。したがって、PTC素子60よりも状態検出回路20側において断線がおきて、電圧検出線51を介して電池セル1がショートした場合に電圧検出線51に流れる電流を抑えることができ、電池セル1をショートによる大電流から保護することができる。
[0084]また、PTC素子を電池セル1の上に配置することによって、PTC素子60が電池セル1の上に配置されることになるので、電池セル1の温度が高くなった場合に、PTC素子60の抵抗が上昇し、状態検出回路20が検出する電圧に電圧降下がおきて、電池セル1の温度異常を検知する事ができる。
[0085]また、PTC素子60は、FPC50の長手方向において、バスバー40が接続されている位置に配置されることで、バスバー40の剛性によってPTC素子60が配置されている部分のFPC50が撓みづらくなるため、PTC素子60は、FPC50の撓みによる影響(抵抗の変動または半田付け部の剥がれ等)を小さくすることができる。」
「[0101]また、バスバー40を電池セル1の端子2,3に接続する前にFPC50に接続する場合、PTC素子60および温度検出素子30もバスバー40と同時にリフロー半田付けによりFPC50に接続することができる。また、図6に示すように、PTC素子60とバスバー40などFPC50上にリフロー半田付けすべき部品が同一面上にある場合には、1回のリフロー半田付け処理を行うだけでFPC50に結合すべき部品を結合することが出来るので、製造工程
を少なくすることが出来る。」
「[0135](1)バッテリシステム
図16は、本発明の第2の実施の形態に係るバッテリシステムの模式的平面図である。
[0136]図16に示すように、第2の実施の形態に係るバッテリシステム1000Aは、電池モジュール100a,100b,100c,100d、バッテリECU200、コンタクタ510、HV(High Voltage;高圧)コネクタ520およびサービスプラグ530を備える。電池モジュール100a,100b,100c,100dは、上記の電池モジュール100と同じ構成をそれぞれ有する。」
「[0161]電池モジュール100a,100b,100c,100dの一方のFPC50(第2の端子列6に沿って配置されるFPC50)上でかつエンドプレート80aに近接する位置に1組の入力コネクタ571および出力コネクタ572がそれぞれ配置される。
[0162]入力コネクタ571および出力コネクタ572は、各エンドプレート80aに取り付けられた状態検出回路20(図2)にそれぞれ接続される。入力コネクタ571および出力コネクタ572の詳細については後述する。」
「[0166]電池モジュール100a上の入力コネクタ571および電池モジュール100d上の出力コネクタ572は、通信用ハーネス574,575を介してそれぞれバッテリECU200に接続される。
[0167]ここで、通信用ハーネス573a,573bは、第1の通信線の例であり、通信用ハーネス573c,575は、第2の通信線の例である。
[0168]上記のように、電池モジュール100a,100b,100c,100dの各々において、複数の電池セル1に関する情報(電圧、電流、温度およびSOC)が状態検出回路20により検出される。以下、各状態検出回路20により検出される複数の電池セル1に関する情報をセル情報と呼ぶ。
[0169]電池モジュール100aの状態検出回路20により検出されたセル情報が、電池モジュール100b,100c,100dの状態検出回路20を介して、バッテリECU200に与えられる。電池モジュール100bの状態検出回路20により検出されたセル情報が、電池モジュール100c,100dの状態検出回路20を介して、バッテリECU200に与えられる。」
「[図2]


「[図4]

[図5]

[図6]


「[図16]



(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)の[0083]の「図7に示すように、FPC50の電圧検出線51の間にPTC素子60が介在している」との記載を参照すると、上記(1)の図6(a)から、PTC素子60は、電圧検出線51が直角に曲がってコンタクトパッド51aに至るコンタクトパッド51a近傍の電圧検出線51経路上に位置していることが看取できる。
イ 上記(1)の[0001]、[0038]、[0045]、[0046]、[0053]、[0068]、[0069]、[0071]、[0077]、[0078]、[0083]、[0101]、[0161]、[0162]、及び、上記アより、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「電動車両用の電池モジュール100の配線部材70であって、
電池モジュール100は、電池ブロック10と、状態検出回路20と、配線部材70とを主な構成としており、
電池ブロック10は、18個の電池セル1,1・・と、2枚のエンドプレート80,80とを1方向に重ねることによって構成され、
電池ブロック10において積層された各電池セル1,1・・の配列は、隣り合う電池セル1同士で、正極端子2と負極端子3の位置が互いに異なるようになっており、これらの端子2、3をバスバー40を用いて接続することにより、電池ブロック10内の電池セルの直列接続を実現しており、
配線部材70は、電池ブロック10と状態検出回路20を接続するために用いられるものであり、複数の電池セル1,1・・を直列に接続するための金属部品からなるバスバー40,40・・と複数の電圧検出線51,51・・を有するFPC50とを結合して構成され、
状態検出回路20には、一端がバスバー40に接続される電圧検出線51の他端が接続されており、
バスバー40には、18個の電池セル1,1・・の隣り合う電池セル1の極性が異なる端子2,3同士を連結する17個の連結バスバー40aと、直列状態の両端の電池セルの2つの最終端子である2つの端子バスバー40bが使用され、
連結バスバー40aの2つの結線部材43aの両方が共に、あるいは、その一方は、FPC50に形成されている電圧検出線51の端部と接続されるコンタクトパッド51aとリフロー半田付けによって接続されており、
FPC50は、帯状の柔軟性材料53からなる基板に複数の電圧検出線51が一体的に形成され、
電圧検出線51は、柔軟性材料53の一端部から長手方向に複数本平行に形成されており、また、それぞれの電圧検出線51は、柔軟性材料53の一方の長手の辺に位置する電圧検出線51から順に、柔軟性材料53の一端部側に近いコンタクトパッド51aがある位置から直角に曲がって、コンタクトパッド51aまで形成されており、
PTC素子60は、電圧検出線51が直角に曲がってコンタクトパッド51aに至るコンタクトパッド51a近傍の電圧検出線51経路上に位置しており、
PTC素子60は、温度が上昇すると抵抗が上昇する素子であり、所定の電流より大きな電流が流れると自己発熱して抵抗が大きくなる素子であって、PTC素子60よりも状態検出回路20側において断線がおきて、電圧検出線51を介して電池セル1がショートした場合に電圧検出線51に流れる電流を抑えることができ、電池セル1をショートによる大電流から保護することができるものであり、
バスバー40を電池セル1の端子2,3に接続する前にFPC50に接続する場合、PTC素子60もバスバー40と同時にリフロー半田付けによりFPC50に接続することができ、
PTC素子60とバスバー40などFPC50上にリフロー半田付けすべき部品が同一面上にあることにより、1回のリフロー半田付け処理を行うだけでFPC50に結合すべき部品を結合することが出来るので、製造工程を少なくすることが出来、
電池モジュール100のFPC50上でかつエンドプレート80に近接する位置に1組の入力コネクタ571および出力コネクタ572がそれぞれ配置され、
入力コネクタ571および出力コネクタ572は、各エンドプレート80に取り付けられた状態検出回路20にそれぞれ接続される、電池モジュール100の配線部材70。」

(3)甲2の記載
申立人が提出した甲2には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント回路板及びプリント回路板の製造方法に関する。」
「【0021】
〔プリント回路板〕
図1及び図2の当該プリント回路板は、絶縁性及び可撓性を有するベースフィルム1と、このベースフィルム1の表面側に積層される導電パターン層2と、この導電パターン層2の一部(ランド部2a)に電気的に接続するよう実装される電子部品3と、上記ベースフィルム1及び導電パターン層2を含む積層体の表面のうち上記電子部品3の実装領域以外の領域にソルダーレジストを用いて積層される絶縁層4と、少なくとも上記電子部品3を覆うよう積層される合成樹脂製の保護膜5とを主に備え、上記絶縁層4の表面に上記保護膜5の形成材料の流延を規制する凹状溝6を有している。なお、図1には、導電パターン層2のうち、電子部品3が実装されるランド部2aのパターンのみを記載し、導電パターン層2のランド部2a以外の部分である配線部2bの図示を省略している。
【0022】
<ベースフィルム>
当該フレキシブルプリント回路板を構成するベースフィルム1は、絶縁性及び可撓性を有するシート状部材で構成されている。このベースフィルム1を構成するシート状部材としては、具体的には樹脂フィルムを採用可能である。この樹脂フィルムの主成分としては、ポリイミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、又はポリエチレンナフタレートが好適に用いられる。なお、ベースフィルム1は、充填材、添加剤等を含んでもよい。」
「【0024】
<導電パターン層>
導電パターン層2は、ベースフィルム1の一方の面に形成されており、電子部品3が実装される1又は複数のランド部2a及びそれらに接続される配線部2bを有しており、ベースフィルム1の表面に積層された金属層をエッチングすることによって所望の平面形状(パターン)に形成されている。上記ランド部2aは、絶縁層4が積層されていない領域に露出している導電パターン層2の部分によって構成される。」
「【0027】
<電子部品>
電子部品3は、上記ランド部2aに実装されている。この電子部品3は、例えば半田付けによりランド部2aに実装され、導電パターン層2と電気的に接続される。この電子部品3は、具体的にはチップ部品や発光ダイオード(LED)などである。
【0028】
<絶縁層>
絶縁層4は、導電パターン層2を保護するために配線部2bを覆うようにソルダーレジストを用いて積層されている。この絶縁層4は、電子部品3の実装予定領域であるランド部2a及び凹状溝6の形成予定領域に積層されず、これらの領域において開口を有している。なお、絶縁層4は、上述のようなランド部2a及び凹状溝6近傍以外の領域において、上記導電パターン層2及びベースフィルム1を被覆するよう積層されている。
【0029】
絶縁層4は、感光性ソルダーレジストが用いられ、絶縁性及び可撓性を有する。感光性ソルダーレジストとして、エポキシアクリレートを主としたものや感光性ポリイミドを主としたものが用いられる。」
「【0031】
<保護膜>
保護膜5は、液状の絶縁性樹脂を含む保護膜形成材料が電子部品3の表面形状に沿って塗工され硬化することで形成され、電子部品3への外部からの有害な影響を防止している。保護膜5は、例えば電気絶縁性、防湿性、防錆性、耐水性、ガスバリア性、耐薬品性、耐熱性、摺動性、耐候性等を有している。
【0032】
保護膜5を形成する保護膜形成材料の主成分としては、アクリル、シリコーン、フェノール、エポキシなどとすることができる。また、保護膜5を形成する保護膜形成材料として紫外線硬化型の樹脂組成物を用いることも好ましく、特にエポキシを主成分とし、光架橋剤を含有してなる紫外線硬化型の樹脂を用いることが好ましい。紫外線硬化型の樹脂を用いることにより、紫外線照射によって保護膜5を硬化させることができ、その硬化速度を高めて生産性を向上できる。」
「【図1】

【図2】





(4)甲2に記載された事項
ア 上記(3)の記載において、ランド部2aと電子部品3とが、図1の記載と図2の記載とで整合していない。すなわち、図1において、A-A線上に存在する電子部品3はランド部2aよりも幅が広い(A-A線上で長い)のに対して、A-A線上の断面図である図2において、電子部品3はランド部2aよりも幅が狭くなっており、これらの記載は整合しておらず、図1または図2の記載のいずれかに誤記が存在すると考えられる。

イ ここで、図1の記載によれば、1つのランド部2a上に2つの電子部品3が載置されているところ、甲2には、「電子部品3が実装される1又は複数のランド部2a」(【0024】)とランド部2aが複数存在してもよいことが記載されているものの、電子部品3が複数存在することは記載されていない。

ウ また、図1のパターン構造からすると、2つの電子部品3、3の各々に接続する端子が1つのランド部2aしか存在しないこととなり、電子部品には2つ以上の端子が設けられているとの技術常識に反しているが、図1におけるランド部2aと電子部品3との引用番号が逆であると仮定すると、1つの電子部品の両端部に2つのランド部が接続することとなり、通常の電子部品の接続として理解することができる。

エ そうすると、図1におけるランド部2aと電子部品3との記載は逆であり、図1において、引用番号「3」で示されているものはランド部であり、引用番号「2a」で示されているものは電子部品であると解することが合理的である。

オ また、上記(3)の図1、図2より、少なくとも図1のA-A断面上において、絶縁層4の開口を覆い隠すように保護膜5が形成されていることが看取できる。

カ そして、上記(3)の図1、図2では、保護膜5が絶縁層4の開口全体を覆い隠すように形成されているか否かが不明であるが、上記(3)の【0031】には、「保護膜5は、例えば電気絶縁性、防湿性、防錆性、耐水性、ガスバリア性、耐薬品性、耐熱性、摺動性、耐候性等を有している」と記載されているから、保護膜5は、図1のA-A断面上のみならず、絶縁層4の開口全体を覆い隠すように形成されていると考えられる。

キ そうすると、上記(3)の【0022】、【0028】、【0031】、上記エ、カの検討より、甲2には、次の事項が記載されていると認められる。
「導電パターン層2を保護するため配線部2bを覆うように絶縁層4が積層されたフレキシブルプリント回路板において、電子部品3の実装予定領域であるランド部2aの形成予定領域に絶縁層4の開口を有し、防湿性、耐水性を有する保護膜5が開口全体を覆い隠すように形成されている事項。」

(5)甲4の記載
ア 申立人が提出した甲4には、次の記載がある。
「(実施例)
第1図は本考案の実施例の説明図で、酸化物焼結型サーミスタ4をトランジスタ3と共にハンダ9を介してサーミスタの電極5と同時に接合する。その後保護用樹脂材8を被覆する関連構成体では、該サーミスタの電極部分の接合部分の不安定要素を全く解除する事が出来るため信頼性の高い実装密度の高い構成体を提供出来る。」(明細書第3頁最後から2行?第4頁第6行)
「第1図



イ 上記アの第1図より、基板2に形成された回路パターン1にサーミスタ4の電極5を載置し、回路パターン1上で回路パターン1と電極5とをハンダ9で接合する事項が看取できる。

(6)甲5の記載
ア 申立人が提出した甲5には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、温度センサ及びこの温度センサを備えた配線モジュールに関する。」
「【0036】
図5に示すように、延出片37の表面60に形成された導電路20には、温度検知素子38が電気的に接続されるランド39が形成されている。ランド39は、延出片37に形成された導電路20に電気的に接続されている。ランド39には温度検知素子38がはんだ付けにより電気的に接続されている。
【0037】
温度検知素子38は、略直方体形状をなしている。本実施形態においては、温度検知素子38は、延出片37の長手方向(図5における左右方向)に対して、温度検知素子38の長手方向が交差する姿勢で、延出片37に取り付けられている。サーミスタを好適に用いることができる。サーミスタとしては、PTSを用いてもよく、また、NTSを用いてもよい。
【0038】
温度検知素子38の両端部にはリード部40が形成されている。このリード部40と、ランド39とが、溶融後に固化されたはんだ部41によって電気的に接続されている。」
「【0061】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を、図12及び図13を参照しつつ説明する。本実施形態においては、温度検知素子38の上面は、絶縁性の合成樹脂からなる被覆部材50によっておおわれている。被覆部材50は、液体状をなす合成樹脂を温度検知素子38に滴下して温度検知素子38を合成樹脂によって埋設した後、合成樹脂を固化させることにより形成される。被覆部材50を構成する合成樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド、ポリエステル等、必要に応じて任意の合成樹脂を適宜に選択しうる。被覆部材50はゴム等の弾性を有する材料であってもよいし、剛性を有する材料であってもよい。」
「【0064】
<変形例2-1>
次に、本発明の実施形態2に係る変形例2-1を、図14を参照しつつ説明する。本実施形態においては、被覆部材51は、温度検知素子38の上方を覆うように配された金型内に液体状の合成樹脂が注入された後に、合成樹脂が固化されて形成される。被覆部材51は、略直方体形状をなしている。」
「【図5】

【図6】


「【図12】

【図13】



イ 上記アの【0001】、【0036】?【0038】より、甲5には、次の事項が記載されていると認められる。
「配線モジュールにおいて、導電路20には、サーミスタからなる温度検知素子38が電気的に接続されるランド39が形成されており、温度検知素子38の両端部にはリード部40が形成されており、このリード部40と、ランド39とが、溶融後に固化されたはんだ部41によって電気的に接続されている事項。」

4 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。

イ 甲1発明の「18個の電池セル1,1・・と、2枚のエンドプレート80,80とを1方向に重ねることによって構成され」る「電池ブロック10」、「電動車両用の電池モジュール100の配線部材70」、「バスバー40」、「電圧検出線51」、「FPC50」、「PTC素子60」は、それぞれ、本件発明1の「複数の単電池が並べられてなる単電池群」、「車両用の電池配線モジュール」、「接続部材」、「電圧検知線」、「フレキシブルプリント基板」、「電流制限素子」に相当する。

ウ 甲1発明の「電池ブロック10」において、「積層された各電池セル1,1・・の配列は、隣り合う電池セル1同士で、正極端子2と負極端子3の位置が互いに異なるようになっており、これらの端子2、3をバスバー40を用いて接続」しており、甲1発明の「配線部材70」は、「複数の電池セル1,1・・を直列に接続するための金属部品からなるバスバー40・・と複数の電圧検出線51,51・・を有するFPC50とを結合して構成され」るものである。
そうすると、甲1発明の「配線部材70」は、本件発明1において「電池配線モジュール」が「正極及び負極の電極端子を有する複数の単電池が並べられてなる単電池群に取り付けられる」事項に相当する事項を含むものであるといえる。

エ 甲1発明の「電池ブロック10において積層された各電池セル1,1・・の配列は、隣り合う電池セル1同士で、正極端子2と負極端子3の位置が互いに異なるようになっており、これらの端子2、3をバスバー40を用いて接続することにより、電池ブロック10内の電池セルの直列接続を実現して」いる事項は、本件発明1の「複数の単電池の隣接する単電池の正極及び負極の電極端子を接続する複数の接続部材」「を備え」る事項に相当する。

オ 甲1発明の「配線部材70は、電池ブロック10と状態検出回路20を接続するために用いられるものであり、複数の電池セル1,1・・を直列に接続するための金属部品からなるバスバー40,40・・と複数の電圧検出線51,51・・を有するFPC50とを結合して構成され」、「状態検出回路20には、一端がバスバー40に接続される電圧検出線51の他端が接続されて」いる事項は、本件発明1の「複数の接続部材を介して前記複数の単電池の電圧を検知する複数の電圧検知線を有するフレキシブルプリント基板」「を備え」る事項に相当する。

カ 甲1発明の「PTC素子60は、電圧検出線51が直角に曲がってコンタクトパッド51aに至るコンタクトパッド51a近傍の電圧検出線51経路上に位置しており、PTC素子60は、温度が上昇すると抵抗が上昇する素子であり、所定の電流より大きな電流が流れると自己発熱して抵抗が大きくなる素子であって、PTC素子60よりも状態検出回路20側において断線がおきて、電圧検出線51を介して電池セル1がショートした場合に電圧検出線51に流れる電流を抑えることができ、電池セル1をショートによる大電流から保護することができるものであ」る事項は、本件発明1の「各電圧検知線の途中には、当該電圧検知線に過電流が流れることを制限する電流制限素子が設けられて」いる事項に相当する。

キ 甲1発明の「バスバー40を電池セル1の端子2,3に接続する前にFPC50に接続する場合、PTC素子60もバスバー40と同時にリフロー半田付けによりFPC50に接続することができ、PTC素子60とバスバー40などFPC50上にリフロー半田付けすべき部品が同一面上にあることにより、1回のリフロー半田付け処理を行うだけでFPC50に結合すべき部品を結合することが出来るので、製造工程を少なくすることが出来」る事項は、本件発明1の「接続部材と前記電流制限素子とは、前記フレキシブルプリント基板の同じ面において前記電圧検知線に半田によって接続されて」いる事項に相当する。

ク 甲1発明の「PTC素子60は、電圧検出線51が直角に曲がってコンタクトパッド51aに至るコンタクトパッド51a近傍の電圧検出線51経路上に位置して」いるから、甲1発明は、本件発明1の「電流制限素子と前記電圧検知線との接続部」に相当するものを有している。

ケ 上記ア?クより、本件発明1と甲1発明とは、
「正極及び負極の電極端子を有する複数の単電池が並べられてなる単電池群に取り付けられる車両用の電池配線モジュールであって、
前記複数の単電池の隣接する単電池の正極及び負極の電極端子を接続する複数の接続部材と、
前記複数の接続部材を介して前記複数の単電池の電圧を検知する複数の電圧検知線を有するフレキシブルプリント基板と、を備え、
各電圧検知線の途中には、当該電圧検知線に過電流が流れることを制限する電流制限素子が設けられており、
前記接続部材と前記電流制限素子とは、前記フレキシブルプリント基板の同じ面において前記電圧検知線に半田によって接続されており、
前記電流制限素子と前記電圧検知線との接続部を有する、
電池配線モジュール。」で一致し、次のa、bの相違点で相違する。

(相違点)
a 本件発明1は、「フレキシブルプリント基板のカバーレイ層には、前記電流制限素子が配置されるとともに、前記電流制限素子が接続される箇所の前記電圧検知線を露出させる開口部が形成されており、」「前記開口部を覆い隠すように絶縁樹脂によってオーバーコートされている」のに対し、甲1発明は、カバーレイ層、開口部及び絶縁樹脂が形成されているか否かが不明である点。

b 「電流制限素子と前記電圧検知線との接続部」には、本件発明1では、「電流制限素子の電極と、前記半田と、前記電圧検知線の露出した部分」が存在するのに対し、甲1発明では、接続部の詳細が不明である点。

コ 以下、上記a、bの相違点について検討するに、まず、上記aの相違点について検討する。

サ 甲2には、導電パターン層2を保護するため配線部2bを覆うように絶縁層4(本件発明1の「カバーレイ層」に相当。)が積層されたフレキシブルプリント回路板(本件発明1の「フレキシブルプリント基板」に相当。)において、電子部品3の実装予定領域であるランド部2aの形成予定領域に絶縁層4の開口(本件発明1の「開口部」に相当。)を有し、防湿性、耐水性を有する保護膜5が開口全体を覆い隠すように形成されている事項(上記3の(4)のキ参照。)が記載されている。

シ そして、甲1発明は、「FPC50」において、「PTC素子60」が、「電圧検出線51の経路上」「に位置」するのに対し、甲2記載の上記事項は、「フレキシブルプリント回路板において、」「導電パターン層2」の「ランド部2a」に「電子部品3」を実装したものであって、両者は、「FPC50」において、「電子部品」を実装したものであるという点で共通するものである。
また、一般に、「FPC50」や「PTC素子60」に防湿性、耐水性が求められることは自明の事項である。

ス したがって、甲1発明において、「PTC素子60」を「電圧検出線51の経路上」に実装する際に、甲2記載の上記事項を適用して、「電圧検出線51」を保護するための絶縁層を積層し、「PTC素子60」の実装予定領域に絶縁層の開口を形成し、防湿性、耐水性を有する保護膜を開口全体を覆い隠すように形成して、上記aの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を構成することは、一見当業者が容易になし得たようにみえる。

セ 次に、上記bの相違点について検討する。

ソ 上記3の(5)のイ、及び、上記3の(6)のイにも示したように、基板に形成された回路パターンにサーミスタを実装するに際し、回路パターン上で回路パターンとサーミスタの電極とをハンダで接合することは周知技術であって、サーミスタを実装する方法としては一般的な方法であるといえる。

タ したがって、甲1発明において、サーミスタである「PTC素子60」を「電圧検出線51の経路上」に実装する際に、上記ソのような一般的な実装方法、すなわち、「電圧検知線51」と「PTC素子60」の電極とを半田で接合することは、一見当業者が容易になし得たようにみえる。

チ そして、甲1発明において、甲2記載の上記サの事項及び上記ソの実装方法を適用して、「PTC素子60」の実装予定領域に絶縁層の開口を形成すると、「電圧検知線51」と「PTC素子60」の電極とを半田で接合する箇所は、「PTC素子60」の実装予定領域に存在することとなるから、「PTC素子60」の電極と、半田と、「電圧検知線51」の露出した部分とは、前記開口内に形成され、保護膜5により覆い隠されることとなるから、結局、上記bの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を構成することは、一見当業者が容易になし得たようにみえる。

ツ 次に、本願発明1の効果の予測性について検討する。

テ 本件発明1は、「車両用の電池配線モジュール」において、「電流制限素子と前記電圧検知線との接続部である、前記電流制限素子の電極と、前記半田と、前記電圧検知線の露出した部分とは、前記開口部を覆い隠すように絶縁樹脂によってオーバーコートされている」ことにより、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正された明細書(以下、「本件明細書」という。)【0007】?【0008】に記載された、2個の電流制限素子の単電池側の電極が、結露に起因して形成された水滴等によって短絡し、短絡された電圧検知線の電流制限素子が機能しなくなることにより、単電池から短絡された電圧検知線に継続して流れる過電流を防止することができるという効果を奏するものであり、「車両用」という大容量の電池に適用されるものであるから、非常に大きな過電流であって、しかも、継続して流れる、すなわち、電池の容量がなくなるまで止めることができない過電流から保護できるものといえる。

ト ここで、甲2記載の上記事項における「保護膜5」は、「防湿性、耐水性を有する」ものであるものの、2個の電流制限素子の単電池側の電極が、結露に起因して形成された水滴等によって短絡することによる、過電流から保護するものではないし、また、「チップ部品や発光ダイオード(LED)など」の「電子部品3」に用いられるものであるから、「車両用」という大容量の電池で生じる、非常に大きな過電流から保護できるというものでもない。

ナ また、甲1及び甲2には、上記テの効果を示唆する記載はないし、上記テの効果が周知の事項であるともいえない。

ニ よって、本件発明1の上記テの効果は、甲1発明、甲2記載の事項、及び、周知の事項からは、予測困難であるといえるから、本件発明1は、甲1発明、甲2記載の事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(2)本件発明2?5について
本件発明2?5は、請求項1を引用しており、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2?5と甲2発明とは、少なくとも、上記(1)ケで示した上記a、bの相違点で相違するものである。
そうすると、上記(1)で検討した理由と同様の理由で、本件発明2?5も、甲1発明、甲2記載の事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

5 申立人意見書の主張について
(1)車両用のFPCにおいてPTC素子の単電池側で結露によって短絡することは当業者が容易に着想し得る課題であるとの主張について
ア 申立人は、車両用の電池配線モジュールにおいて、単電池の電圧検知線に設けられた電子部品が結露によって短絡することは当業者に周知の課題であり、また、甲1発明はPTC素子60を有しているから、PTC素子60の結露による短絡の課題が発生することは当業者が容易に発想し得る課題である旨主張(第2頁第8行?第31行)している。

イ 確かに、車両用の電池配線モジュールにおいて、単電池の電圧検知線に設けられた電子部品が結露によって短絡することは当業者に周知の課題であるかもしれないし、甲1発明はPTC素子60を有しているから、PTC素子60の結露による短絡の課題が発生することは当業者が容易に発想し得る課題であるかもしれない。

ウ しかしながら、上記4の(1)で検討したように、本願発明1は、本件明細書【0007】?【0008】によれば、2個の電流制限素子の単電池側の電極が、結露に起因して形成された水滴等によって短絡することにより生じる、上記電流制限素子が機能せず継続して流れる過電流から保護するという効果を奏するものであり、かかる効果は、甲1及び甲2の記載から、当業者が予測することは困難である。

エ したがって、本件発明1は、甲1発明、甲2記載の事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

オ よって、申立人の主張には理由がない。

(2)本件発明1が格別な効果を奏するとはいえないとする申立人主張の他の理由について
ア 申立人は、隣り合わせたPTC素子の単電池側の電極同士が短絡すると、電圧検知線に過電流が流れ続けるという課題について、複数のPTC素子の単電池側の電極同士が短絡しても、単電池からの過電流が最寄りのPTC素子に流れずに別のPTC素子に流れることがあるにすぎず、いずれのPTC素子も通過せずにコネクタ29に過電流が流れてしまうといった不都合は発生しない旨主張(第2頁第32行?第3頁第18行)している。

イ ここで、上記アの主張について、次の参考図を使って検討する。

(参考図)


ウ 上記イの参考図において、隣り合わせたPTC素子の単電池側の電極とは、例えば、引用文字(A)及び(B)で示した箇所である。

エ そして、これら2つの電極が結露に起因して形成された水滴等によって短絡すると、次の順で電気的に接続されることとなって、2つの単電池(上記参考図には図示せず)を含む低抵抗な閉回路となり、この閉回路には大きな電流が流れることとなる。

電極(A)→電極(A)に接続された電圧検知線26A→接続ランド28A→バスバー(接続部材)21A→単電池(上記参考図には図示せず)→バスバー(接続部材)(上記参考図には図示せず)→単電池(上記参考図には図示せず)→バスバー(接続部材)21B→接続ランド28B→電極(B)に接続された電圧検知線26B→電極(B)→結露→電極(A)

オ そうすると、確かに、申立人が主張するように、いずれのPTC素子も通過せずにコネクタ29に過電流が流れてしまうといった不都合は発生しないものの、上記エの閉回路に大電流が流れることとなり、この大電流は、PTC素子を通過しないので単電池11の容量が完全になくなるまで、接続ランド28A、Bに接続された電圧検知線26A、Bを流れ続けることとなる。

カ よって、申立人の主張には理由がない。

キ なお、通常、電池モジュールにおける電圧検知線は大電流が流れることを想定していないから、上記エの閉回路における電圧検知線に大電流が流れると、焼き付き等の危険が伴うことも想定でき、本件発明は、このようなことを防止することもできるといえる。

6 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?5係る特許は、令和2年1月6日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、令和2年3月17日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電池配線モジュール
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池配線モジュールに関し、詳しくは、電池配線モジュールに含まれる配線の短絡保護に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車用の電池モジュールでは、出力を大きくするために多数の単電池が横並びに接続されている。隣り合う単電池の電極端子間をバスバーなどの接続部材で接続することにより複数の単電池が直列や並列に接続されるようになっている。ここで、複数の単電池を直列や並列に接続する場合、単電池間において電池電圧などの電池特性が不均一であると、電池の劣化や破損を招くという問題がある。
【0003】
そこで、車両用の電池モジュールにおいては、各単電池間の電圧に異常が生じる前に充電、放電を中止するため、各接続部材には、単電池の電圧を検知するための電圧検知線が取り付けられている。各接続部材と電圧検知線(配線に相当)とによって電池配線モジュールが構成されている。
【0004】
電圧検知線は、一般に、電池ECU等の外部回路に接続されているため、外部回路の不具合に起因して二本の電圧検知線が短絡する虞がある。二本の電圧検知線が短絡すると、単電池が短絡され、過電流が電圧検知線に継続して流れることになる。そのため、FPC(フレキシブルプリント基板)に形成された電圧検知線に、PTC(正温度係数)サーミスタ等の電流制限素子を直列接続して設けることが知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】
特開2010-257775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1においては、電流制限素子を電圧検知線に設けることによって、単電池の短絡に起因する電池モジュールの劣化を防止することが可能になる。しかしながら、車両が高湿度の環境に置かれた場合等においては、電池配線モジュールを構成し、電流制限素子が設けられたFPCが結露する可能性がある。
【0007】
FPCが結露すると、各電圧検知線に対応してFPC上に設けられた複数の電流制限素子のうちいずれか2個の電流制限素子の単電池側の電極が、結露に起因して形成された水滴等によって短絡する虞があった。2個の電流制限素子の単電池側の電極が短絡すると、電流制限素子の単電池側において2本の電圧検知線が短絡されることとなり、短絡された電圧検知線の電流制限素子は機能しなくなる。そのため、単電池から短絡された電圧検知線に過電流が継続して流れることになり、この場合、電圧検知線を過電流から保護することができない。
そこで、本明細書では、FPCに設けられた電圧検知線の途中に電流制限素子が直列接続された構成において、電圧検知線を過電流から保護することができる電池配線モジュールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書によって開示される電池配線モジュールは、正極及び負極の電極端子を有する複数の単電池が並べられてなる単電池群に取り付けられる車両用の電池配線モジュールであって、前記複数の単電池の隣接する単電池の正極及び負極の電極端子を接続する複数の接続部材と、前記複数の接続部材を介して前記複数の単電池の電圧を検知する複数の電圧検知線を有するフレキシブルプリント基板と、を備え、各電圧検知線の途中には、当該電圧検知線に過電流が流れることを制限する電流制限素子が設けられており、前記フレキシブルプリント基板のカバーレイ層には、前記電流制限素子が配置されるとともに、前記電流制限素子が接続される箇所の前記電圧検知線を露出させる開口部が形成されており、前記接続部材と前記電流制限素子とは、前記フレキシブルプリント基板の同じ面において前記電圧検知線に半田によって接続されており、前記電流制限素子と前記電圧検知線との接続部である、前記電流制限素子の電極と、前記半田と、前記電圧検知線の露出した部分とは、前記開口部を覆い隠すように絶縁樹脂によってオーバーコートされている。
本構成によれば、電流制限素子と電圧検知線との接続部は、絶縁樹脂によってオーバーコートされている。そのため、FPC上に設けられた複数の電流制限素子のうちいずれか2個の電流制限素子の単電池側の電極が、結露に起因して形成された水滴等によって短絡することはない。したがって、FPCが結露する場合であっても、2個の電流制限素子は機能し、FPCに設けられた電圧検知線の途中に電流制限素子が直列接続された構成において、電圧検知線を過電流から保護することができる。 【0009】
上記電池配線モジュールにおいて、前記フレキシブルプリント基板には、前記電圧検知線を前記接続部材に接続する接続ランドが設けられており、前記電流制限素子は、前記接続ランドの近傍に設けられているようにしてもよい。
本構成によれば、電流制限素子は、接続ランドの近傍、すなわち、接続部材の近傍に設けられている。そのため、電流制限素子と接続部材との間に位置する電圧検知線の長さを短くすることができる。それによって、電流制限素子と接続部材との間において、隣接する2本の電圧検知線が短絡する区間を短くすることができる。その結果、電流制限素子と接続部材との間において、隣接する2本の電圧検知線が短絡する可能性を低減できる。
なお、ここで、「接続ランドの近傍」とは、例えば、接続部材の長手方向(単電池の並び方向)の両端の間等を意味する。
【0010】
また、上記電池配線モジュールにおいて、各電圧検知線は、他の電圧検知線から分離されて配線された分離配線部を有するように配線されており、前記電流制限素子は、各電圧検知線において、前記分離配線部に設けられているようにしてもよい。
本構成によれば、分離配線部を設けることによって電流制限素子を電圧検知線に設置し易くなるとともに、電流制限素子の設置部と他の電圧検知線との間の短絡を発生し難くすることができる。
【0011】
また、上記電池配線モジュールにおいて、前記電流制限素子は、正温度係数サーミスタ、あるいはチップヒューズによって構成するようにしてもよい。
本構成によれば、電圧検知線に過電流が流れた際に、正温度係数サーミスタの抵抗が増大したり、チップヒューズが溶断したりすることによって、電圧検知線を過電流から保護することができる。
【0012】
また、上記電池配線モジュールにおいて、前記複数の電圧検知線に接続され、検知された単電池の電圧を外部に出力するコネクタを備えるようにしてもよい。
本構成によれば、コネクタを電池ECU等の外部回路に接続することによって、単電池の充放電コントロール等を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、FPCに設けられた電圧検知線の途中に電流制限素子が直列接続された構成において、電圧検知線を過電流から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態に係る電池モジュールの概略的な平面図
【図2】電池配線モジュールを示す平面図
【図3】電池配線モジュールを示す平面図
【図4】電流制限素子の周辺を示す部分拡大平面図
【図5】図4のA-A線に沿った断面図
【図6】バスバーと電圧検知線との接続態様を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態>
本発明の一実施形態1を図1から図6を参照して説明する。
【0016】
1.電池モジュールの構成
本実施形態に係る電池モジュール10は、例えば、電気自動車またはハイブリッド自動車等の駆動源として使用される。電池モジュール10は、正極の電極端子13Aおよび負極の電極端子13Bを有する複数(本実施形態では22個)の単電池11が並べて配された単電池群11Gと、この単電池群11Gに取り付けられた電池配線モジュール20と、を備える。以下では、図1に示される前方を電池モジュール10の前方とし、図1に示される後方を電池モジュール10の後方とする。また、図1に示される左方を電池モジュール10の左方とし、図1に示される右方を電池モジュール10の右方とする。
【0017】
隣り合う2つの単電池11,11の間には樹脂製のセパレータ(図示せず)が配置されている。セパレータには、突出形成された突出部15が設けられている。各突出部15は、隣り合う2つのバスバー21,21間に形成された空間に配置され、工具等による電極間の短絡を防止する機能を有する。
【0018】
2.電池配線モジュールの構成
電池配線モジュール20は、図2に示される、電池モジュール10の前方に取付けられる電池配線モジュール20Aと、図3に示される、電池モジュール10の後方に取付けられる電池配線モジュール20Bとを含む。なお、以下の説明において、各電池配線モジュール20A,20Bを区別する必要のない場合、電池配線モジュール20と記す。
【0019】
電池配線モジュール20は、複数のバスバー(「接続部材」の一例)21と、フレキシブルプリント基板(以下、「FPC」と記す)25とを含む。
【0020】
各バスバー21は、異なる単電池11の電極端子13A,13B同士を接続する。そのために、各バスバー21には、異なる単電池11の電極端子13A,13Bが挿入される2個の端子挿通孔22が形成されている。なお、図3に示されるように、電池配線モジュール20Bの両端の接続部材21Aは、1個の端子挿通孔22を有し、右端の接続部材21Aは、電極端子13Aに接続され、その電極端子13Aから、各単電池11の電圧を合計した正電圧が負荷に印加される。一方、左端の接続部材21Aは、電極端子13Bに接続され、その電極端子13Bからは、グランド電位が負荷に印加される。
【0021】
FPC25は、各バスバー21に接続され各単電池11の電圧を検知する複数の電圧検知線26を含む。各電圧検知線26には、図2および図3に示されるように、継続した過電流に対して各電圧検知線26を保護する電流制限素子27が設けられている。電流制限素子27は、PTC(正温度係数)サーミスタ、あるいはチップヒューズである。
【0022】
詳細には、FPC25のベース層25A上に形成された銅箔をパターニングして、図2および図3に示される電圧検知線26が形成されている。パターニングの際、図5に示されるように、電流制限素子27が接続される箇所の銅箔は削除される。すなわち、電流制限素子27は、電圧検知線26に対して、その途中に直列に接続される。
【0023】
また、各電圧検知線26は、図2および図3に示されるように、他の電圧検知線26から分離されて配線された分離配線部26Aを有するように配線、すなわちパターニングされている。そして、電流制限素子27は、各電圧検知線26において、分離配線部26Aに設けられている。
【0024】
また、図4および図5に示されるように、電流制限素子27が接続される箇所のFPC25のカバーレイ層25Bには、矩形の開口部Wが形成されている。開口部Wによって、電流制限素子27が接続される箇所の電圧検知線26が露出される。そして、露出された電圧検知線26に対して、電流制限素子27の電極(接続部)27Aが、例えば、半田SDによって接合されている。
【0025】
このように、電圧検知線26に対して、その途中に電流制限素子27が直列接続されている。それによって、電池配線モジュール20が接続される電池ECU等の外部回路の不具合に起因して、2本の電圧検知線26が短絡して電圧検知線26に単電池からの過電流が発生した場合であっても、単電池11から電圧検知線26に過電流が電圧検知線26に流れることを制限できる。
【0026】
例えば、電流制限素子27がPTCサーミスタの場合、電圧検知線に過電流が流れた際、電圧検知線26の温度上昇に伴ってPTCサーミスタの抵抗が増大して、過電流が流れることを制限できる。また、電流制限素子27がチップヒューズの場合、電圧検知線26に過電流が流れた際、チップヒューズが溶断することによって、過電流が流れることを制限できる。
【0027】
それによって、外部回路の不具合に起因してFPC25に設けられた電圧検知線26に過電流が発生した場合であっても、電圧検知線26を保護することができる。
【0028】
さらに、図4および図5に示されるように、開口部Wを覆い隠すように、電流制限素子27が接続される箇所は、絶縁樹脂23によってオーバーコートされている。すなわち、電流制限素子27と電圧検知線26との接続部は、絶縁樹脂によってオーバーコートされている。ここで、接続部は、電流制限素子27の電極27A、半田SD、および電圧検知線26の露出した部分を含む。
【0029】
また、各電圧検知線26の一端には、バスバー21と電気的に接続される接続ランド28が形成されている。電流制限素子27は、接続ランド28の近くに設けられている。
【0030】
詳しくは、図6に示されるように、接続ランド28は、FPC25のベース層25Aの凸部25C上の銅箔によって構成されており、電圧検知線26と接続ランド28とは連続している。また、接続ランド28が形成される領域(凸部25C)にはカバーレイ層25Bは形成されておらず、接続ランド28は露出されている。接続ランド28とバスバー21とは、例えば、半田SDによって接合されている。このように、接続ランド28の上面にバスバー21を接続する場合、接続ランド28の下面に下側にバスバー21を接続する場合と比べて、接続ランド28にバスバー21を接続するための作業が簡易化される。
【0031】
すなわち、接続ランド28の上面にバスバー21を接続する場合、電圧検知線26に電流制限素子27を接続するための銅箔に対する半田面が同一側となる。一方、接続ランド28の下面にバスバー21を接続する場合、電圧検知線26に電流制限素子27を接続する際と、バスバー21を接続する際で、銅箔に対する半田面がことなる。そのため、半田付け作業が複雑になる。
【0032】
また接続ランド28の下面にバスバー21を接続する場合、接続ランド28を露出する際に、ベース層25Aを銅箔から剥がす作業が必要になり、接続ランド28を露出する作業に手間が掛かる。
なお、接続ランド28とバスバー21との各接続部は、電流制限素子27と電圧検知線26との接続部と同等に、絶縁樹脂23によってオーバーコートされるようにしてもよい。
【0033】
また、各電圧検知線26の他端は、コネクタ29に接続されている。コネクタ29は、図示しない電池ECUに接続されている。電池ECUは、マイクロコンピュータ、回路素子等が搭載されたものであって、各単電池11の電圧・電流・温度等の検知、各単電池11の充放電コントロール等を行うための機能を備えた周知の構成のものである。
【0034】
3.実施形態の効果
電流制限素子27と電圧検知線26との接続部は、絶縁樹脂23によってオーバーコートされている。そのため、FPC25に設けられた複数の電流制限素子27のうちいずれか2個の電流制限素子27の単電池側の電極27Aが、結露等に起因して形成された水滴によって短絡することはない。したがって、FPC25が結露する場合であっても、各電流制限素子27は正常に機能し、FPC25に設けられた電圧検知線26の途中に電流制限素子27が直列接続された構成において、電圧検知線26を過電流から保護することができる。
【0035】
また、電流制限素子27は、接続ランド28の近傍、すなわち、バスバー21の近傍に設けられている。そのため、電流制限素子27とバスバー21との間に位置する電圧検知線26の長さを短くすることができる。それによって、電流制限素子27とバスバー21との間において、隣接する2本の電圧検知線26が短絡する区間を短くすることができる。その結果、電流制限素子27とバスバー21との間において、言い換えれば、電流制限素子27の単電池11側において、隣接する2本の電圧検知線26が短絡する可能性を低減できる。
【0036】
ここで、「接続ランド28の近傍」とは、例えば、バスバー21の長手方向(単電池11の並び方向、すなわち、図1の左右方向)の両端の間、言い換えれば、接続ランド28とバスバー21の長手方向の一端との間を意味する。なお、この場合、全ての電流制限素子27がバスバー21の両端の間に設けられていることに限られない。全ての電流制限素子27のうちの、例えば、50%以上、あるいは75%以上、あるいは90%以上の電流制限素子27がバスバー21の両端の間に設けられるようにしてもよい。
【0037】
また、各電圧検知線26は、他の電圧検知線26から分離されて配線された分離配線部26Aを有するように配線され、電流制限素子27は、各電圧検知線26において、分離配線部26Aに設けられている。そのため、電流制限素子27を電圧検知線26に設置し易くなるとともに、電流制限素子27と他の電圧検知線26との間の短絡を発生し難くすることができる。
【0038】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)本実施形態においては、FPC25とバスバー21との接続において、図6等に示されるように、FPC25の上側にバスバー21を接続する構成を示したが、参考例として、FPC25の下側にバスバー21を接続する構成としてもよい。その際、FPC25のベース層25Aが上側となり、カバーレイ層25Bが下側となるように、FPC25を上下反転させて、バスバー21を接続するようにしてもよい。
また、FPC25とバスバー21との接続態様は、図6等に示されるような電気的な接続ランド28のみによるものに限られない。その他、接続ランド28のみによる接続を補強する機械的な接続部を、FPC25およびバスバー21に設けてもよい。
【0039】
(2)本実施形態においては、図1に示すように、電池配線モジュールを前側の電池配線モジュール20Aと後側の電池配線モジュール20Bとに分離して構成する例を示したが、これに限られない。すなわち、電池配線モジュールを、電池配線モジュール20Aと電池配線モジュール20Bとに分離しない構成としてもよい。例えば、電池配線モジュール20Aと電池配線モジュール20Bとを接続する接続部を設け、一個のコネクタで電池配線モジュールと電池ECUとを接続する構成としてもよい。
【0040】
(3)FPC25には、所定間隔の位置に、例えば、各バスバー21の間の位置に、所定量の撓み(単電池11の並び方向のマージン)を形成するようにしてもよい。この場合、電池配線モジュール20を単電池群11Gに搭載する際に、単電池11の大きさの公差に対応できる。すなわち、単電池11の並び方向の大きさに差があった場合でも、その差を所定量の撓みによって吸収できる。それによって、電池配線モジュール20を単電池群11Gに搭載する際の作業を簡易化できる。また、電池11の大きさの公差に起因してFPC25にかかるストレスを吸収できる。すなわち、電池配線モジュール20の信頼性を向上できる。
【符号の説明】
【0041】
11…単電池
11G…単電池群
13A…正電極端子
13B…負電極端子
20,20A,20B…電池配線モジュール
21…バスバー(接続部材)
23…絶縁樹脂
25…FPC(フレキシブルプリント基板)
26…電圧検知線
27…電流制限素子
27A…電流制限素子の電極
28…接続ランド
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極の電極端子を有する複数の単電池が並べられてなる単電池群に取り付けられる車両用の電池配線モジュールであって、
前記複数の単電池の隣接する単電池の正極及び負極の電極端子を接続する複数の接続部材と、
前記複数の接続部材を介して前記複数の単電池の電圧を検知する複数の電圧検知線を有するフレキシブルプリント基板と、を備え、
各電圧検知線の途中には、当該電圧検知線に過電流が流れることを制限する電流制限素子が設けられており、
前記フレキシブルプリント基板のカバーレイ層には、前記電流制限素子が配置されるとともに、前記電流制限素子が接続される箇所の前記電圧検知線を露出させる開口部が形成されており、
前記接続部材と前記電流制限素子とは、前記フレキシブルプリント基板の同じ面において前記電圧検知線に半田によって接続されており、
前記電流制限素子と前記電圧検知線との接続部である、前記電流制限素子の電極と、前記半田と、前記電圧検知線の露出した部分とは、前記開口部を覆い隠すように絶縁樹脂によってオーバーコートされている、電池配線モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の電池配線モジュールにおいて、
前記フレキシブルプリント基板には、前記電圧検知線を前記接続部材に接続する接続ランドが設けられており、
前記電流制限素子は、前記接続ランドの近傍に設けられている、電池配線モジュール。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電池配線モジュールにおいて、
各電圧検知線は、他の電圧検知線から分離されて配線された分離配線部を有するように配線されており、
前記電流制限素子は、各電圧検知線において、前記分離配線部に設けられている、電池配線モジュール。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電池配線モジュールにおいて、
前記電流制限素子は、正温度係数サーミスタ、あるいはチップヒューズである、電池配線モジュール。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電池配線モジュールにおいて、
前記複数の電圧検知線に接続され、検知された単電池の電圧を外部に出力するコネクタを備える、電池配線モジュール。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-08-17 
出願番号 特願2015-146595(P2015-146595)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高▼橋 真由  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
北村 龍平
登録日 2019-04-05 
登録番号 特許第6507056号(P6507056)
権利者 住友電気工業株式会社 株式会社オートネットワーク技術研究所 住友電装株式会社 トヨタ自動車株式会社 住友電工プリントサーキット株式会社
発明の名称 電池配線モジュール  
代理人 特許業務法人暁合同特許事務所  
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