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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1368837
審判番号 不服2019-14410  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-29 
確定日 2020-12-04 
事件の表示 特願2015-124436「モータ鉄心用積層電磁鋼板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月12日出願公開、特開2017- 11863〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成27年(2015年)6月22日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

平成30年12月21日付け 拒絶理由の通知
平成31年 3月 6日 意見書
令和 元年 7月29日付け 拒絶査定
令和 元年10月29日 審判請求書、手続補正書


第2 令和元年10月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
令和元年10月29日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理由I〕
1 本件補正
(1)本件補正後の請求項1ないし3の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は、次のとおり補正された(下線は、補正箇所を示すため当審で付加した。)。

ア 請求項1
「各々厚さ0.10mm?0.25mmの2枚の無方向性電磁鋼板の両面に、0.1μm以上、5μm以下の絶縁被膜が設けられ、前記2枚の無方向性電磁鋼板が、アクリル系樹脂またはエポキシ系樹脂の接着層を介して積層され、
前記接着層は、前記無方向性電磁鋼板の接着面に、点状の接着部が千鳥配列に設けられていることを特徴とする、モータ鉄心用積層電磁鋼板。」

イ 請求項2
「前記点状の接着部の総面積が、前記無方向性電磁鋼板の接着面の面積の50%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のモータ鉄心用積層電磁鋼板。」

ウ 請求項3
「請求項1または2のいずれか一項に記載のモータ鉄心用積層電磁鋼板の製造方法であって、
前記接着部に接着能を付与する接着工程は、前記電磁鋼板を鉄心片に加工する際のプレス打ち抜き工程の直前に行うことを特徴とする、モータ鉄心用積層電磁鋼板の製造方法。」

(2)本件補正前の請求項1ないし3の記載
本件補正前の、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は次のとおりである。

ア 請求項1
「各々厚さ0.10mm?0.25mmの2枚の無方向性電磁鋼板が、接着層を介して積層され、
前記接着層は、前記無方向性電磁鋼板の接着面に、点状の接着部が千鳥配列に設けられていることを特徴とする、モータ鉄心用積層電磁鋼板。」

イ 請求項2
「前記点状の接着部の総面積が、前記無方向性電磁鋼板の接着面の面積の50%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のモータ鉄心用積層電磁鋼板。」

ウ 請求項3
「請求項1または2のいずれか一項に記載のモータ鉄心用積層電磁鋼板の製造方法であって、
前記接着部に接着能を付与する接着工程は、前記電磁鋼板を鉄心片に加工する際のプレス打ち抜き工程の直前に行うことを特徴とする、モータ鉄心用積層電磁鋼板の製造方法。」

2 補正の適否
(1)補正の目的について
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」は、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。また、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
本件補正前後で物の発明である積層電磁鋼板の発明の請求項数は2で本件補正前後の請求項2の記載は同じであるから、本件補正後の請求項1は本件補正前の請求項1に対応するものとして検討する。

本件補正は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「各々厚さ0.10mm?0.25mmの2枚の無方向性電磁鋼板が、接着層を介して積層され」を、「各々厚さ0.10mm?0.25mmの2枚の無方向性電磁鋼板の両面に、0.1μm以上、5μm以下の絶縁被膜が設けられ、前記2枚の無方向性電磁鋼板が、アクリル系樹脂またはエポキシ系樹脂の接着層を介して積層され」とする補正を含み、本件補正前の請求項1に係る発明は電磁鋼板の両面に絶縁被膜がなかったものが、本件補正後の請求項1に係る発明は電磁鋼板の両面に絶縁被膜を有することとなる。
そうすると、本件補正は、接着層を介して積層される無方向性電磁鋼板について、さらに当該無方向性電磁鋼板の両面に絶縁被膜が設けられるものとすることにより本件補正前の請求項1を減縮するものであるが、絶縁被膜は無方向性電磁鋼板とは別の構成であり本件補正前の発明特定事項である「無方向性電磁鋼板」を限定したものではなく、また本件補正前の請求項1における他の発明特定事項を限定したものでもないから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものではない。また、本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものに該当しないことは明らかである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号ないし4号に掲げるいずれの事項を目的とするものではない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


〔理由II〕
〔理由I〕のとおり、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものではないが、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとして、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。

1 本件補正発明1
本件補正発明1は、上記〔理由I〕1(1)アに記載されたとおりである。

2 引用文献の記載事項
(1)引用文献1
ア 原査定(令和元年7月29日付け拒絶査定)の拒絶の理由で引用された引用文献1であり、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開昭57-39510号公報(昭和57年3月4日公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審にて付与した。以下同様。)。

(ア)「2.特許請求の範囲
(1) 板厚30?200ミクロンの電磁鋼板の少なくとも片面に接着剤を付着せしめ、それらを複数枚積層して熱ロールで圧着し一体化することを特徴とする電磁鋼板の製造方法。
(2) 接着剤としてビスフェノールA系エポキシ樹脂で分子量300?450のものを10?90重量部、同じくビスフェノールA系エポキシ樹脂で分子量800?4000のものを90?10重量部、さらに硬化剤としてジアミノジフェニルスルホン5?40PHRのものを用いたことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の電磁鋼板の製造方法。」(公報第1頁左下欄第4-16行)

(イ)「3.発明の詳細な説明
最近、電気機器の省エネルギー設計の為の鉄損の低減化の社会的要請と鋼板の製箔化技術の向上進歩により箔状の電磁鋼板の出現をみるに致っている。
ところが従来の箔状鋼板は、硬度が大きくかつ従来一般の電磁鋼板に比べ鉄芯製造の作業性が極めて悪い欠点があった。
本発明はかかる従来の欠点に鑑み作業性の優れた電磁鋼板を提供することを目的とする。
以下図面を参考にして本発明の詳細を述べる。第1図は3枚の箔状鋼板A、B、Cに接着剤をロールR_(A)、R_(A)’、R_(B)、R_(B)’、R_(C)、R_(C)’により転写して付着せしめた後、熱ロールR_(D)、R_(D)’により圧着して3枚の箔状鋼板を一体化する為の概略図である。
箔状鋼板としては0?6.5%のケイ素を必須成分として含む鉄混合物を超急冷法(1?10万℃/秒)により箔化したものを適当な熱処理により磁気特性を向上化させたもの、又は組成鉄80モル%、ホウ素20モル%、もしくは鉄78モル%、ホウ素12モル%、ケイ素10モル%等の混合部を超急冷(1?10万℃/秒)して非晶質化してなるもの、従来の電磁鋼板(板厚0.35?0.5mm)を圧延ロールにより圧延して箔化した後熱処理してなるもの等である。
箔状鋼板を互いに接着する接着剤の組成としては、熱可塑性樹脂ではアクリル樹脂、スチロール樹指、ナイロン、デルリン、ポリカーボネートの溶剤溶液等があり、熱硬化性樹脂ではエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリヤ樹脂、メラミン樹脂等広く実用に供するが、なかでもエポキシ樹脂で次に示す組成のものは優れた作業性と接着強度を有する。
〔実施例1〕
重量比率
エピコート 1004 100
ジシアンジアミド 3?4
アセトンもしくは、メチルエチルケトン 適量
〔実施例2〕
重量比率
エピコート 1004 100
ジアミノジフェニルスルホン 10?30
アセトンもしくは、メチルエチルケトン 適量
〔実施例3〕
重量比率
エピコート 828 100
エピコート1004 20
ジシアンジアミド 4?8
〔実施例4〕
重量比率
エピコート 828 100
エピコート1004 20
ジアミノジフェニルスルホン 10?40」(公報第1頁右下欄第3行-第2頁右上欄第16行)

(ウ)「 箔状鋼板AおよびCに関しては、ロールR_(D)およびR_(D)’のロールにより接着し一体となった時に表面になる面に関しては絶縁層を全面に塗布する。その場合の絶縁層は絶縁特性の他に打抜加工性、およびフレキシビリティ等の特性を考慮する必要がある。
箔状鋼板Bに関しては第2図に示されるように接着剤を適当なスペースファクターを有する如く片面又は両面に塗着する。図中、1は箔状鋼板、2は接着剤である。接着剤の塗着厚さは約2ミクロンとし、数板を積み重ねてロールR_(D)、R_(D)’により加熱加圧した。
後の接着層の厚さt_(2)が平均して1ミクロン以下になるようにロールの圧力を調整すると同時に、接着剤2の塗着面積を50%以下にすることが好ましい。又ロールR_(D、)R_(D)’は加熱が可能で表面にテフロン処理を施したものが好ましい。なお、第3図において3は箔状鋼板、4は接着剤層、5は絶縁皮膜である。
なお本文中には3枚の箔状鋼板を積層する場合について記述したが、その枚数は限定されるものではなく又どれにより効果が著しく異なることもない。
以上のようにして得られた電磁鋼板は低鉄損を維持しつつ鉄心製作の作業性が著しく向上しさらに鉄心製作後の鉄心のスペースファクターも向上し産業性大なるものである。」(公報第2頁左下欄第12行-同頁右下欄第18行)

イ 上記アの記載及び図面を総合的に参照すると、引用文献1には、次の技術的事項が記載されていることが理解できる。

(ア)上記ア(ア)、ア(ウ)、第1図より、箔状鋼板は各々厚さ30?200ミクロンであり、3枚の箔状鋼板の場合に限定されるものではなく、複数枚の箔状鋼板でよいこと。

(イ)上記ア(ウ)、第2図より、接着剤層は、箔状鋼板の接着面に点状の接着部が格子状配列で設けられていること。

(ウ)上記ア(ウ)、第1図より、複数枚の箔状鋼板は積層された積層電磁鋼板であること。

(エ)上記ア(ア)より、電気機器用積層電磁鋼板であること。

ウ 上記ア、イの記載及び図面を総合的に参照し、請求項1に係る発明の表現に倣って整理すると、引用文献1には、次の事項からなる発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「各々板厚30?200ミクロンの複数枚の電磁鋼板の一体となった時に表面になる面に絶縁層が設けられ、前記複数枚の箔状鋼板が、エポキシ樹脂の接着剤層を介して積層され、
前記接着剤層は、前記箔状鋼板の接着面に、点状の接着部が格子状配列に設けられている電気機器用積層電磁鋼板。」

(2)引用文献2
ア 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2であり、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第86/05314号(1986年(昭和61年)9月12日公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(ア)「 この発明は、磁気特性に優れた非晶質合金薄帯を複数枚貼り合わせた積層板とその有利な製造方法、ならびに該積層板を使用したコアおよびその有利な製造方法に関するものである。」(明細書第1頁第5-8行)

(イ)「 このような非晶質合金薄帯は、軟磁性に優れ、殊にFe-B-Si系のものは比較的高い飽和磁束密度と極めて低い鉄損を有することから、トランスやモーターの鉄心材料として現在使用されているけい素鋼板の有力な代替材料として注目されている。
このような非晶質合金薄帯(以下リボンという)は、通常、接着することなく、単板のままで、巻きコアや積みコアを作り、変圧器を組み上げるを常としているが、一般的に云えば、リボン厚は従来使用してきたけい素鋼板などに比較して薄いため、積層加工に要する工数が多くなる欠点があった。
この欠点を除くのに、リボン厚を大きくする等の工夫も行われているが、鉄損の劣化を招くことが報告されている。この点、複数枚のリボンを貼り合わせることができれば積層工数の削減の他、リボン間の絶縁抵抗を向上させることもでき、渦流損ひいては鉄損の減少を有利に得られる利点がある。
近年この目的のために、リボンを接着することが試みられはじめ、たとえば特開昭56-36336号公報や特開昭58-17565号公報に提案されているように、リボンに接着剤を塗布した後、貼り合わせ、乾燥して、充分固化させた後、せん断して積層したり、あるいは巻回して、コアを製作するのが一般的である。
しかしながら上記の如き従来法では、接着剤がリボンの全面に均一に塗布され、しかも充分に固化しているため、多数回の巻回しのような成形を行うとき、接着層の拘束のために不均一な応力がリボンに加わって磁気特性の劣化を招く不利があった。」(明細書第1頁第14行-第2頁第17行)

(ウ)「 この発明は、上に述べた現状に鑑みて開発されたもので、磁場中焼鈍の如き熱処理を施しても鉄損が劣化しないのはいうまでもなく、たとえ巻回し成形の如き加工を施した場合であっても磁気特性の劣化を招くことがない、換言すれば接着による特性劣化のない非晶質合金薄帯積層板ならびにコアを、それらの有利な製造方法と共に提案することを目的とする。」(明細書第2頁第25行-第3頁第5行)

(エ)「(2) また薄帯の板面に対する接着剤の接着状態を局所的な部分接着に止め、接合部の周囲に無接合の領域を設けてやれば、従来に比べて不均一な応力の発生は激減する。」(明細書第3頁第14-16行)

(オ)「 一方、接着剤によるリボンの接着を、局所的な部分接着とした場合には、予備乾燥状態の場合はいうまでもなく、本乾燥を施して接着剤を固化した場合であっても、不均一な応力の発生や接着層のはく離などを伴うことなしに成形加工に供することができる。
ここに部分接着における接着剤の好適な塗布形態は、第1図a?dに示したとおりであり、また接着剤の占有面積率および層間の目付量はそれぞれ、乾燥固化後の状態で占有面積率:0.1?50%、目付量:0.05?3g/m^(2)程度とするのが好ましい。
板厚:28μm、板幅:5cmのFe_(78)B_(12)Si_(10)組成のリボンの片面にボロシロキサン樹脂を主成分とする接着剤を、前掲第1図aに示したような点状に、面積率:約5%、平均塗布量:0?5g/m^(2)の条件下に塗布した。風乾後、他のリボンを重ね合わせたのち、接着剤を上記した第1層目と同じ要領で塗布、風乾し、3枚目のリボンを重ね合わせてから、圧着ロール間で圧下して貼り合わせた。ついで250℃、5分間の加熱処理を施して接着したのち、200A/mの磁場中で370℃、1時間の焼鈍を施し、そのまま冷却した。」(明細書第6頁第1-19行)

(カ)「 次に第3図に、磁場中焼鈍条件を400℃、1時間とする他は上述の実験に準じ、塗布面積率を種々に変化させた場合における、接着剤の乾燥固化後の占有面積率と鉄損との関係について調べた結果を表2に示す。なお接着層の厚みはいずれも2.2μmと一定にした。」(明細書第7頁第2-6行)

(キ)「 同表より明らかなように、接着剤の占有面積率が50%以下であれば、良好な鉄損特性が得られるが、0.1%未満では満足いく接着強度が得られないので、占有面積率は0.1?50%とするのが望ましい。」(明細書第7頁第7-10行)

(ク)「 第1図a?dはそれぞれ、部分接着における接着剤の好適な塗布形態を示した図」(明細書第12頁第22-23行)

イ 上記ア(オ)、ア(ク)、及び第1図a?dより、局所的な部分接着における接着剤の好適な塗布形態は、第1図a、bのような点状の接着部が千鳥配列に設けられている形態、第1図cのような格子状配列に設けられている形態等としたものであることが理解できる。

ウ 上記ア、イの記載及び図面を総合的に参照すると、引用文献2には、次の技術的事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されていることが理解できる。
「積層工数の削減に加えて鉄損の減少を有利に得るため、トランスやモーターのコアに用いられる接着した非晶質合金薄帯(リボン)積層板であって、接着剤の塗布形態を、局所的な部分接着であり、点状の接着部が千鳥配列に設けられている形態又は格子状配列に設けられている形態とした積層板。」


(3)引用文献3
ア 本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2000-173815号公報(平成12年6月23日公開。以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は変圧器や回転機などの積層鉄心に使用される素材に関する。さらに詳しくは、2以上の電磁鋼板を接着した接着鋼板に関する。」

(イ)「【0021】後述するように、接着層を介在させることにより電磁鋼板間の絶縁効果を得ることができるので必須事項ではないが、鉄心での鉄損を改善するため、接着する前の電磁鋼板の少なくとも片面に、絶縁被膜が備えられているのが好ましい。」

(ウ)「【0023】絶縁皮膜の厚さは、絶縁性能を確保するために0.1μm以上とするのがよい。絶縁被膜が厚くなるにつれて絶縁効果が飽和するとともに、占積率が低下し、鉄心としての性能が低下する。また、過度に厚くすると絶縁被膜に有機樹脂が含まれる場合は溶接性が劣化することがある。従って絶縁皮膜は絶縁性能が確保できる範囲で薄い方がよく、好ましくは5μ以下、さらに好ましくは2μ以下、なお好ましくは1μ以下とするのがよい。」

(エ)「【0041】本発明例2:無方向性電磁鋼板Aから得た試験片の両面に、上記無機系絶縁皮膜組成物を、乾燥膜厚が0.5μとなるように塗布し、270℃に30秒保持して乾燥させて試験片の両面に無機系絶縁皮膜を形成させた。その片面に、上記エポキシ系接着層組成物を、乾燥後の厚さが5μとなるようにロールコート法により塗布し、乾燥させて接着層を片面に備えた電磁鋼板を作成した。
【0042】上記無機系絶縁皮膜を備えた無方向性電磁鋼板Aを150℃に加熱しつつ、前述の接着層を備えた無方向性電磁鋼板Aの接着層に圧着ロールを用いて加圧しながら貼り付け、絶縁皮膜を備えた無方向性電磁鋼板Aを2枚積層した厚さが0.50mmの接着鋼板を作成した。」

イ 上記アの記載及び図面を総合的に参照すると、引用文献3には、次の技術的事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されていることが理解できる。
「鉄心での鉄損を改善するため、無方向性電磁鋼板の両面に絶縁皮膜を設け、その厚さは0.1μm以上、好ましくは5μm以下とし、絶縁被膜を設けたこれらの無方向性電磁鋼板を接着層を介して積層すること。」

3 対比・判断
(1)対比
ア 本件補正発明1と引用発明1とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
(ア)引用発明1における「絶縁層」は、本件補正発明1における「絶縁被膜」に相当し、また、引用発明1における「接着剤層」は、本件補正発明1における「接着層」に相当する。

(イ)引用発明1における「各々板厚30?200ミクロンの複数枚の電磁鋼板」は、その厚さに関しては0.10mm?0.20mmの電磁鋼板である点で本件補正発明1に含まれ、本件補正発明1の厚さの数値は通常用いられている範囲であり、その数値限定に格別の技術的意義は認められないから、本件補正発明1における「各々厚さ0.10mm?0.25mmの2枚の無方向性電磁鋼板」に相当する。また、引用発明1における「複数枚の電磁鋼板の一体となった時に表面になる面に絶縁層が設けられ」ることと、本件補正発明1における「2枚の無方向性電磁鋼板の両面に、0.1μm以上、5μm以下の絶縁被膜が設けられ」ることとは、「複数枚の電磁鋼板の一体となった時に少なくとも表面になる面に絶縁被膜が設けられ」る限りにおいて一致し、引用発明1における「エポキシ樹脂の接着剤層」は、本件補正発明1における「アクリル系樹脂またはエポキシ系樹脂の接着層」に相当し、引用発明1における「点状の接着部が格子状配列に設けられている」ことは、本件補正発明1における「点状の接着部が千鳥配列に設けられている」ことと、「点状の接着部が規則的に間隔を空けて設けられている」限りにおいて一致する。

イ したがって、本件補正発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「厚さ0.10mm?0.25mmの複数枚の電磁鋼板の一体となった時に少なくとも表面になる面に絶縁被膜が設けられ、前記複数枚の電磁鋼板が、アクリル系樹脂またはエポキシ系樹脂の接着層を介して積層され、
前記接着層は、前記電磁鋼板の接着面に、点状の接着部が規則的に間隔を空けて設けられていることを特徴とする積層電磁鋼板。」

<相違点1>
複数枚の電磁鋼板の枚数に関して、本件補正発明1においては、「2枚」の電磁鋼板であるのに対し、引用発明1においては、「複数枚」の電磁鋼板である点。

<相違点2>
電磁鋼板の性状及び積層電磁鋼板の用途に関して、本件補正発明1においては、「無方向性電磁鋼板」であり「モータ鉄心用」積層電磁鋼板であるのに対し、引用発明1においては「電気機器用」積層電磁鋼板である点。

<相違点3>
絶縁被膜が設けられる態様に関して、本件補正発明1においては、電磁鋼板の各々の「両面に、0.1μm以上、5μm以下の絶縁被膜が設けられ」るのに対し、引用発明1においては、複数枚の電磁鋼板の「一体となった時に表面になる面に絶縁層が設けられ」る点。

<相違点4>
規則的に間隔を空けて設けられている点状の接着部に関して、本件補正発明1においては「千鳥配列に設けられている」のに対し、引用発明1においては、「格子状配列に設けられている」点。

(2)判断
ア 相違点1について
引用発明1において、電磁鋼板の枚数は、必要な性能や製造の作業性等を考慮して当業者が適宜設計したことにすぎず、電磁鋼板の枚数について、引用発明1における複数枚を、2枚とすることに格別の困難性はない。
したがって、引用発明1において、本件補正発明1の相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

イ 相違点2について
一般に電気機器とは、変圧器と回転電機(発電機、電動機)を意味するから、「電気機器用」積層電磁鋼板の用途をモータ用とすることは適宜選択しうることであり、その際モータ鉄心用電磁鋼板を選択すれば、方向性電磁鋼板ではなく無方向性電磁鋼板を用いることは当業者が通常考慮したことにすぎず、引用発明1において、本件補正発明1の相違点2に係る構成とすることは当業者が適宜なし得ることである。

ウ 相違点3について
積層電磁鋼板の鉄損を低減するために、電磁鋼板の両面に絶縁性能を確保できる範囲で薄い絶縁被膜を設け、絶縁被膜を設けたこれらの電磁鋼板を接着層を介して積層することは従来周知の技術である(引用文献3等参照。以下、「周知技術」という。)。
引用発明1においても積層電磁鋼板の鉄損を低減するという課題が存在することは当業者にとって自明であり、当該課題を解決するために引用発明1に周知技術を適用することに格別の困難性はなく、具体的な絶縁被膜の厚さとして引用文献3記載事項のように構成し、本件補正発明1の相違点3に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

エ 相違点4について
引用文献2記載事項の積層板は、トランスやモータのコアに用いられる点で引用発明1と同一の技術分野に属し、また、積層工数の削減及び鉄損の減少を目的とすることから、引用発明1と共通の課題を有し、課題解決手段についても点状の接着部を規則的に間隔を空けて設ける点で共通している。
そして、引用文献2記載事項の積層板では点状の接着部が千鳥配列に設けられている形態と、格子状配列に設けられている形態が好適な形態として並び示されており、当該接着部の分布と積層板をせん断ないし打ち抜いた後の形状等を考慮して千鳥配列とすることが有利な場合もあることを当業者であれば当然認識し得るものである。また、引用文献2記載事項である全面接着ではなく局所的な部分接着により鉄損特性が改善する点については、非晶質合金薄帯のみならず電磁鋼板においても、またトランスのみならずモータ鉄心においても当てはまることは当業者にとって自明である。

そうすると、引用発明1及び引用文献2に接した当業者が、引用文献2において、千鳥配列及び格子状配列が並び示されていることに鑑みて、引用発明1において、点状の接着部を規則的に間隔を空けて設ける手段として、引用文献2記載事項の千鳥配列の選択肢を採用し、本件補正発明1の相違点4に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

(3)効果について
また、相違点1ないし4を総合的に勘案しても、本件補正発明1の奏する作用効果は、引用発明1、引用文献2記載事項、引用文献3記載事項及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(4)請求人の主張について
ア 請求人は、審判請求書の「【本願発明が特許されるべき理由】」欄において、引用文献2に記載のものは、「400℃程度の高温の熱処理による接着剤の材質変化や収縮等の形態変化が必至であり、磁性焼鈍後でも鉄損が劣化しないことを目的と」し((4)(a))、「磁性焼鈍の加熱により材質が変化した接着剤からの影響を制御するため、接着剤の材質を、耐熱性の高いボロシロキサン樹脂を主成分とするものに限定し」た((4)(b))点で本件補正発明1や引用文献1の電磁鋼板と相違すると主張する。しかしながら、引用文献2記載事項において千鳥配列及び格子状配列が好適な形態として並び示されており、熱処理や樹脂の組成の影響を受けることで千鳥配列が格子状配列とは異なる特性を示すことの記載も示唆もないことから、引用発明1において、点状の接着部を規則的に間隔を空けて設ける手段として、引用文献2記載事項の千鳥配列の選択肢を採用することを阻害する要因にはならない。

イ また、請求人は同欄において、「引用文献2は変圧器を主用途としており、特性は一方向で評価される」、本願発明は「方向性がある接着パターンは採用できず、千鳥配置とすることが必要となる」、「このような接着パターンが特性に及ぼす影響の有無は、適用する素材がアモルファスか、絶縁皮膜を有する電磁鋼板であるか、に起因していると考えられ」る((4)(c))、と、本件補正発明1や引用文献1の電磁鋼板との接着パターンの違いについて主張する。しかしながら、積層板の材料や使用用途にかかわらず接着された積層板において鉄損が問題になることは上記(2)エで説示したとおりであり、また引用発明1の格子状配置も引用文献2記載事項の千鳥配置もコアを作製するために打ち抜いた後は方向性に関して同様の接着パターンとなるのであるから、引用発明1において、引用文献2記載事項の千鳥配列の選択肢を採用することを阻害する要因にはならない。

ウ また、請求人は同欄において、「引用文献2における接着パターンは、鋼材が変形し多量の転位が形成された状況での磁化挙動に影響する現象であ」り、「本願発明は、接着自体により生じるわずかな応力を問題としており、鋼材内に多量に形成された転位による比較的大きな内部応力が存在しない状況下での現象に関する」((4)(d))、「非晶質は本質的に磁束密度が低く、引用文献2は、1.3Tでの特性への接着の影響を改善するものである」((4)(e))、と、本件補正発明1や引用文献1の電磁鋼板との応力発生過程や磁束密度の違いについて主張する。しかしながら、本件補正発明1においては接着層の強度や分量等について特定されていないうえ、引用文献2記載事項において千鳥配列及び格子状配列が好適な形態として並び示されており、応力発生過程や磁束密度の影響を受けることで千鳥配列が格子状配列とは異なる特性を示すことの記載も示唆もないことから、引用発明1において、点状の接着部を規則的に間隔を空けて設ける手段として、単に引用文献2記載事項の千鳥配列の選択肢を採用することを阻害する要因にはならない。

エ また、請求人は同欄において、「引用文献2は、アモルファス(金属板)が接着剤を介して接着されるものであ」り、「本願発明は、無方向性電磁鋼板(金属板)の両表面に0.1μm以上、5μm以下の絶縁被膜が形成されており、絶縁被膜が接着剤を介して接着される」、と本件補正発明1や引用文献1の電磁鋼板との積層構造の違いについて主張する。しかしながら、上記(2)ウで説示したとおり、積層電磁鋼板の鉄損を低減するために、電磁鋼板の両面に絶縁性能を確保できる範囲で薄い絶縁被膜を設け、絶縁被膜を設けたこれらの電磁鋼板を接着層を介して積層することは従来周知の技術であり、絶縁被膜の有無は鉄損特性を改善するための接着部の配置とは関係なく、引用発明1において、点状の接着部を規則的に間隔を空けて設ける手段として、引用文献2記載事項の千鳥配列の選択肢を採用することを阻害する要因にはならない。

オ また、請求人は同欄において、本件補正発明1の有する作用効果として、「無方向性電磁鋼板同士を、必要以上の強度で接着することがなく適切な強度で接着できるので、接着時に鋼板に誘起される歪が低減され、鉄損を劣化させずに極薄の鋼板同士を接着することができる」、「極薄材の場合に起こりやすい、プレス打抜き時に板送りが困難になる問題や、モータコアティース先端のめくれという問題を解決し、かつ、極薄材並みの高周波鉄損特性を持つモータ鉄心用積層電磁鋼板を製造することができる」、「無方向性電磁鋼板の両面に0.1μm以上の絶縁被膜が設けられていることにより鉄心の鉄損が改善され、絶縁被膜を5μm以下とすることにより、鉄心としての性能の低下や溶接性の低下を招くことがない(段落0028)」と主張する。しかしながら、上記(3)で説示したとおり、請求人の主張する作用効果は、引用発明1、引用文献2記載事項、引用文献3記載事項及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

よって、出願人の主張は採用できない。

(5)独立特許要件についてのむすび
したがって、本件補正発明1は、引用発明1、引用文献2ないし3に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

〔本件補正についてのむすび〕
以上のとおり、本件補正は却下すべきものであるから、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、「第2 〔理由I〕1(2)ア」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
・「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

・「<引用文献等一覧>
1.特開昭57-039510号公報
2.国際公開第86/005314号」


3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び引用文献2の記載事項は、前記「第2 〔理由II〕2(1)」及び「第2 〔理由II〕2(2)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明1は、前記「第2 〔理由II〕」で検討した本件補正発明1から、接着層に関して「アクリル系樹脂またはエポキシ系樹脂」であるとの限定事項を削除し、さらに接着層を介して積層される2枚の無方向性電磁鋼板に関して、その両面に、0.1μm以上、5μm以下の絶縁被膜が設けられとの限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明1が、前記「第2 〔理由II〕3」に記載したとおり、引用発明1、引用文献2ないし3に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきとした原査定は維持されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-09-30 
結審通知日 2020-10-06 
審決日 2020-10-19 
出願番号 特願2015-124436(P2015-124436)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02K)
P 1 8・ 572- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 末續 礼子宮崎 賢司安池 一貴  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 上田 真誠
小川 恭司
発明の名称 モータ鉄心用積層電磁鋼板およびその製造方法  
代理人 萩原 康司  
代理人 齊藤 隆史  
代理人 扇田 尚紀  
代理人 金本 哲男  
代理人 三根 卓也  

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