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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04N
審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 取り消して特許、登録 H04N
審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 H04N
管理番号 1368954
審判番号 不服2019-17415  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-24 
確定日 2020-12-22 
事件の表示 特願2018- 50874「画像符号化装置、画像復号装置、画像符号化方法、画像復号方法及び符号化ビットストリームを記録した記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 2日出願公開、特開2018-121352、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)4月3日(優先権主張 平成24年4月13日、平成24年4月26日)を国際出願日とする出願である特願2014-510127号の一部を、平成28年8月30日に新たな特許出願とした特願2016-167869号の一部を、平成30年3月19日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成31年 1月21日付け:拒絶理由通知
令和 1年 5月15日 :意見書の提出、手続補正
同年10月30日付け:拒絶査定
同年12月24日 :拒絶査定不服審判請求、手続補正
令和 2年 2月28日付け:前置報告
同年 8月4日付け :拒絶理由通知(当審)
同年 9月29日 :意見書の提出、手続補正

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

1.(発明該当性)この出願の下記の請求項に記載されたものは、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
2.(拡大先願)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



理由1(発明該当性)について
請求項5に記載されたものは、符号化ビットストリームのデータ構造を記録した記録媒体であり、当該符号化ビットストリームは、「量子化後の変換係数が圧縮データとして可変長符号化されたデータ」と、「フィルタパラメータが可変長符号化されたデータ」を備え、可変長符号化された上記データは、「量子化マトリクスパラメータが可変長符号化されたデータ」と、「クラスの分類手法を示すインデックスが可変長符号化されたデータ」と、「オフセット値に関するパラメータがトランケーテッド・ユーナリ符号による2値化処理に基づいて可変長符号化されたデータ」とを有するものである。
しかし、当該請求項5の記載は、記録されている符号化ビットストリームに含まれるデータの意味内容(データの生成方法、データの符号化方式、データの用いられ方等も含む)を定義したものに過ぎず、そのような定義は人為的な取決めに止まるものであるから、請求項5に記載されたものは、全体としてみて、自然法則を利用した技術的思想の創作とはいえない。
(なお、符号化ビットストリームとは、データの有する構造がコンピュータによる情報処理を規定するものではなく、プログラムに類似する性質を有するものとはいえないから、当該符号化ビットストリームは、プログラムに準ずるデータ構造であるともいえない。
また、仮に、請求項5に復号装置で行われ得る処理内容が詳細に記載されたとしても、それは単に、当該符号化ビットストリームの用いられ方を特定するに過ぎないものであり、それをもって、当該符号化ビットストリームが、プログラムに準ずるデータ構造に該当するものともいえない。)
よって、請求項5に記載されたものは、特許法第29条第1項柱書でいう「発明」に該当しない。

理由2(拡大先願)について
本願の請求項1-4に係る発明は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一である。

理由3(進歩性)について
本願の請求項1-4に係る発明は、引用文献2、3に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえたものである。

先願明細書:特願2011-215476号(国際公開第2012/176910号)
引用文献2:Benjamin Bross et al.,High efficiency video coding (HEVC) text specification draft 6,JCTVC-H1003(version 22)[online],2012年 4月 2日,pp.28,43-44,71,72,177,181,URL,http://phenix.it-sudparis.eu/jct/doc_end_user/documents/8_San_Jose/wg11/JCTVC-H1003-v22.zip
引用文献3:Chih-Ming Fu et al.,CE13: Sample Adaptive Offset with LCU-Independent Decoding,JCTVC-E049(version 4)[online],2011年 3月23日,pp.1-6,URL,URL:http://phenix.it-sudparis.eu/jct/doc_end_user/documents/5_Geneva/wg11/JCTVC-E049-v4.zip

第3 当審拒絶理由の概要
令和2年8月4日付けの当審が通知した拒絶理由の概要は次のとおりである。

(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

令和1年12月24日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項5には以下のとおりの記載がある(符号A?D33は説明のため当審で付与したものであり、以下、構成A?構成D33と称する。)。

「【請求項5】
(A)(A1)最大サイズの符号化ブロックから階層的に分割される階層数が特定され、
(A2)上記階層数の上限に至るまで階層的に分割された符号化ブロックの符号化モードを特定する符号化データを含む符号化ビットストリームを記録し、
(A3)画像復号装置に上記符号化ビットストリームの復号処理を実施させるために用いられる
(A)記録媒体であって、
(B)上記符号化ビットストリームは、
(B1)ヘッダ情報、及び上記符号化ブロックの符号化データが多重化され、
(B2)上記符号化ブロックの符号化データは、
(B21)入力画像と予測画像との差分画像の変換処理を実施して上記差分画像の変換係数を量子化してなる量子化後の変換係数が上記入力画像の圧縮データとして可変長符号化されたデータと、
(B22)上記予測画像と上記圧縮データから復号された差分画像との加算結果である局所復号画像にフィルタ処理を実施する際に用いられるフィルタパラメータが可変長符号化されたデータと、
(B23)上記符号化ブロックに対応する上記符号化モード、予測パラメータ及び最大符号化ブロック内のブロックの分割情報が可変長符号化されたデータと、
を含み、
(B3)上記ヘッダ情報は、
(B31)上記符号化ブロックの最大サイズ及び上記階層数と、
(B32)上記差分画像の変換係数を量子化する際に用いる量子化マトリクスであって各変換係数のスケーリング値からなる量子化マトリクスを生成するための量子化マトリクスパラメータが可変長符号化されたデータと、を含み、
(C)上記フィルタ処理は、
(C1)最大サイズの符号化ブロック単位にクラスの分類手法を決定し、
(C2)上記分類手法を用いて当該最大サイズの符号化ブロック内の各画素のクラス分けを実施し、
(C3)クラス毎のオフセット値を算出して、
(C4)上記オフセット値を対応するクラスに属する画素の画素値に加算する画素適応オフセット処理を実施する処理であり、
(B4)上記フィルタパラメータが可変長符号化されたデータは、
(B41)最大サイズの符号化ブロック単位のクラスの分類手法を示すインデックスが可変長符号化されたデータと
(B42)各クラスのオフセット値に関するパラメータがトランケーテッド・ユーナリ符号による2値化処理に基づいて可変長符号化されたデータと、を含み、
(B43)上記オフセット値は、上記オフセット値が加算される画素に隣接する画素の画素値に基づいて決定され、上記オフセット値の最大値は、上記局所復号画像のビット深度によって定まり、
(D)上記画像復号装置が上記復号処理として、
(D1)上記量子化マトリクスパラメータを用いて、上記圧縮データから得られるブロックの変換係数を逆量子化し、
(D2)逆量子化後の変換係数を逆変換して差分画像を生成し、上記差分画像と予測画像とを加算して復号画像を生成し、
(D3)上記画像復号装置が上記復号画像に対するフィルタ処理として、
(D31)上記インデックスを用いて、各最大サイズの符号化ブロックのクラスの分類手法を特定し、
(D32)上記最大サイズの符号化ブロック単位に特定されたクラスの分類手法による各画素のクラス分けを実施し、
(D33)上記オフセット値を対応するクラスに属する画素の画素値に加算する画素適応オフセット処理を実施するために用いられるものである
(A)ことを特徴とする符号化ビットストリームを記録した記録媒体。」

請求項5の構成B22の「フィルタパラメータが可変長符号化されたデータ」について検討する。
(ア)構成B及び構成B1から、符号化ビットストリームには、ヘッダ情報と符号化ブロックの符号化データが多重化され、構成B2及び構成B22から、当該符号化ブロックの符号化データは、フィルタパラメータが可変長符号化されたデータを含んでいる。
つまり、請求項1によれば、「フィルタパラメータが可変長符号化されたデータ」は、符号化ビットストリームにおける「符号化ブロックの符号化データ」に含まれるものである。
(イ)一方、発明の詳細な説明には、フィルタパラメータを、適応パラメータセットとして符号化して符号化ビットストリームのヘッダ情報に含めること、あるいは、スライスレベルヘッダ等のスライスデータで符号化することが記載されている。
(ウ)上記(ア)の「符号化ブロックの符号化データ」は、スライス単位よりも小さい分割単位であるブロック単位のデータであって(【0017】の「ブロック分割部1はスライスを符号化制御部2により決定された分割に応じて各符号化ブロックに分割して」参照)、上記(イ)の「符号化ビットストリームのヘッダ情報」や「スライスデータ」とは異なるものである。
したがって、「フィルタパラメータが可変長符号化されたデータ」の符号化ビットストリームにおける位置について、請求項5の記載と発明の詳細な説明の記載は整合していない。
よって、請求項5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

第4 本願発明
本願の請求項1-5に係る発明は、令和2年9月29日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりのものである。ここで、請求項5に係る発明を以下では本件発明という。
なお、請求項5の各構成の符号(A)?(D33)は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成A?構成D33と称する。また、下線は令和2年9月29日の手続補正により補正された箇所を示す。

【請求項1】
入力画像と予測画像との差分画像の変換処理を実施して得られる上記差分画像の変換係数を量子化し、量子化後の変換係数を圧縮データとして出力する画像圧縮手段と、
上記圧縮データから復号された差分画像と上記予測画像の加算結果である局所復号画像にフィルタ処理を実施するフィルタリング手段と、
上記圧縮データ及び上記フィルタリング手段によりフィルタ処理が実施される際に用いられるフィルタパラメータを可変長符号化して、上記圧縮データ及び上記フィルタパラメータの符号化データが多重化された符号化ビットストリームを生成する可変長符号化手段とを備え、
上記フィルタリング手段は、最大サイズの符号化ブロック単位にクラスの分類手法を決定し、上記分類手法を用いて、当該最大サイズの符号化ブロック内の各画素のクラス分けを実施し、最大サイズの符号化ブロック単位にクラス毎のオフセット値を算出して、上記オフセット値を対応するクラスに属する画素の画素値に加算する画素適応オフセット処理を実施し、
上記可変長符号化手段は、上記画像圧縮手段により変換係数を量子化する際に用いる量子化マトリクスであって各変換係数のスケーリング値からなる量子化マトリクスを生成するための量子化マトリクスパラメータ及び上記フィルタリング手段により決定された最大サイズの符号化ブロック単位のクラスの分類手法を示すインデックスを可変長符号化するとともに、各クラスのオフセット値に関するパラメータをトランケーテッド・ユーナリ符号による2値化処理に基づいて可変長符号化し、
上記オフセット値は、上記オフセット値が加算される画素に隣接する画素の画素値に基づいて決定され、上記オフセット値の最大値は、上記局所復号画像のビット深度によって定まることを特徴とする画像符号化装置。

【請求項2】
符号化ビットストリームに多重化された符号化データから圧縮データ、フィルタパラメータ及び上記圧縮データから得られるブロックの各変換係数のスケーリング値からなる量子化マトリクスを生成するための量子化マトリクスパラメータを可変長復号する可変長復号手段と、
上記可変長復号手段により可変長復号された上記量子化マトリクスパラメータを用いて、上記ブロックの変換係数を逆量子化し、逆量子化後の変換係数を逆変換して、差分画像を生成する差分画像生成手段と、
上記差分画像と予測画像とを加算して復号画像を生成する復号画像生成手段と、
上記フィルタパラメータを用いて、上記圧縮データから復号された復号画像にフィルタ処理を実施するフィルタリング手段と、を備え、
上記可変長復号手段は、上記符号化データからフィルタパラメータとして、最大サイズの符号化ブロック単位のクラスの分類手法を示すインデックスを可変長復号するとともに、トランケーテッド・ユーナリ符号により2値化処理された各クラスのオフセット値に関するパラメータを可変長復号し、
上記オフセット値は、上記オフセット値が加算される画素に隣接する画素の画素値に基づいて決定され、上記オフセット値の最大値は、上記局所復号画像のビット深度によって定まり、
上記フィルタリング手段は、上記インデックスを用いて、各最大サイズの符号化ブロックのクラスの分類手法を特定して、上記最大サイズの符号化ブロック単位に特定したクラスの分類手法による各画素のクラス分けを実施し、上記オフセット値を対応するクラスに属する画素の画素値に加算する画素適応オフセット処理を実施することを特徴とする画像復号装置。

【請求項3】
画像圧縮手段が、入力画像と予測画像との差分画像の変換処理を実施して得られる上記差分画像の変換係数を量子化し、量子化後の変換係数を圧縮データとして出力する画像圧縮ステップと、
フィルタリング手段が、上記圧縮データから復号された差分画像と上記予測画像の加算結果である局所復号画像にフィルタ処理を実施するフィルタリング処理ステップと、
可変長符号化手段が、上記圧縮データ及び上記フィルタリング処理ステップでフィルタ処理が実施される際に用いられるフィルタパラメータを可変長符号化して、上記圧縮データ及び上記フィルタパラメータの符号化データが多重化された符号化ビットストリームを生成する可変長符号化処理ステップとを備え、
上記フィルタリング処理ステップでは、最大サイズの符号化ブロック単位にクラスの分類手法を決定し、上記分類手法を用いて、当該最大サイズの符号化ブロック内の各画素のクラス分けを実施し、クラス毎のオフセット値を算出して、上記オフセット値を対応するクラスに属する画素の画素値に加算する画素適応オフセット処理を実施し、
上記可変長符号化処理ステップでは、上記画像圧縮ステップで変換係数を量子化する際に用いる量子化マトリクスであって各変換係数のスケーリング値からなる量子化マトリクスを生成するための量子化マトリクスパラメータ及び上記フィルタリング処理ステップで決定された最大サイズの符号化ブロック単位のクラスの分類手法を示すインデックスを可変長符号化するとともに、各クラスのオフセット値に関するパラメータをトランケーテッド・ユーナリ符号による2値化処理に基づいて可変長符号化し、
上記オフセット値は、上記オフセット値が加算される画素に隣接する画素の画素値に基づいて決定され、上記オフセット値の最大値は、上記局所復号画像のビット深度によって定まることを特徴とする画像符号化方法。

【請求項4】
可変長復号手段が、符号化ビットストリームに多重化された符号化データから圧縮データ、フィルタパラメータ及び上記圧縮データから得られるブロックの各変換係数のスケーリング値からなる量子化マトリクスを生成するための量子化マトリクスパラメータを可変長復号する可変長復号処理ステップと、
差分画像生成手段が、上記可変長復号手段により可変長復号された上記量子化マトリクスパラメータを用いて、上記ブロックの変換係数を逆量子化し、逆量子化後の変換係数を逆変換して、差分画像を生成する差分画像生成ステップと、
復号画像生成手段が、上記差分画像と予測画像とを加算して復号画像を生成する復号画像生成ステップと、
フィルタリング手段が、上記フィルタパラメータを用いて、上記圧縮データから復号された復号画像にフィルタ処理を実施するフィルタリング処理ステップと、を備え、
上記可変長復号処理ステップでは、上記符号化データからフィルタパラメータとして、最大サイズの符号化ブロック単位のクラスの分類手法を示すインデックスを可変長復号するとともに、トランケーテッド・ユーナリ符号により2値化処理された各クラスのオフセット値に関するパラメータを可変長復号し、
上記オフセット値は、上記オフセット値が加算される画素に隣接する画素の画素値に基づいて決定され、上記オフセット値の最大値は、上記局所復号画像のビット深度によって定まり、
上記フィルタリング処理ステップでは、上記インデックスを用いて、各最大サイズの符号化ブロックのクラスの分類手法を特定して、上記最大サイズの符号化ブロック単位に特定したクラスの分類手法による各画素のクラス分けを実施し、上記オフセット値を対応するクラスに属する画素の画素値に加算する画素適応オフセット処理を実施することを特徴とする画像復号方法。

【請求項5】
(A)(A1)最大サイズの符号化ブロックから階層的に分割される階層数が特定され、
(A2)上記階層数の上限に至るまで階層的に分割された符号化ブロックの符号化モードを特定する符号化データを含む符号化ビットストリームを記録し、
(A3)画像復号装置に上記符号化ビットストリームの復号処理を実施させるために用いられる
(A)記録媒体であって、
(B)上記符号化ビットストリームは、
(B1’)ヘッダ情報、及び上記符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータとが多重化され、
(B2’)上記符号化ブロックの符号化データを含む上記スライスデータは、
(B21)入力画像と予測画像との差分画像の変換処理を実施して上記差分画像の変換係数を量子化してなる量子化後の変換係数が上記入力画像の圧縮データとして可変長符号化されたデータと、
(B22)上記予測画像と上記圧縮データから復号された差分画像との加算結果である局所復号画像にフィルタ処理を実施する際に用いられるフィルタパラメータが可変長符号化されたデータと、
(B23)上記符号化ブロックに対応する上記符号化モード、予測パラメータ及び最大符号化ブロック内のブロックの分割情報が可変長符号化されたデータと、
を含み、
(B3)上記ヘッダ情報は、
(B31)上記符号化ブロックの最大サイズ及び上記階層数と、
(B32)上記差分画像の変換係数を量子化する際に用いる量子化マトリクスであって各変換係数のスケーリング値からなる量子化マトリクスを生成するための量子化マトリクスパラメータが可変長符号化されたデータと、を含み、
(C)上記フィルタ処理は、
(C1)最大サイズの符号化ブロック単位にクラスの分類手法を決定し、
(C2)上記分類手法を用いて当該最大サイズの符号化ブロック内の各画素のクラス分けを実施し、
(C3)クラス毎のオフセット値を算出して、
(C4)上記オフセット値を対応するクラスに属する画素の画素値に加算する画素適応オフセット処理を実施する処理であり、
(B4)上記フィルタパラメータが可変長符号化されたデータは、
(B41)最大サイズの符号化ブロック単位のクラスの分類手法を示すインデックスが可変長符号化されたデータと
(B42)各クラスのオフセット値に関するパラメータがトランケーテッド・ユーナリ符号による2値化処理に基づいて可変長符号化されたデータと、を含み、
(B43)上記オフセット値は、上記オフセット値が加算される画素に隣接する画素の画素値に基づいて決定され、上記オフセット値の最大値は、上記局所復号画像のビット深度によって定まり、
(D)上記画像復号装置が上記復号処理として、
(D1)上記量子化マトリクスパラメータを用いて、上記圧縮データから得られるブロックの変換係数を逆量子化し、
(D2)逆量子化後の変換係数を逆変換して差分画像を生成し、上記差分画像と予測画像とを加算して復号画像を生成し、
(D3)上記画像復号装置が上記復号画像に対するフィルタ処理として、
(D31)上記インデックスを用いて、各最大サイズの符号化ブロックのクラスの分類手法を特定し、
(D32)上記最大サイズの符号化ブロック単位に特定されたクラスの分類手法による各画素のクラス分けを実施し、
(D33)上記オフセット値を対応するクラスに属する画素の画素値に加算する画素適応オフセット処理を実施するために用いられるものである
(A)ことを特徴とする符号化ビットストリームを記録した記録媒体。

第5 判断
1. 当審拒絶理由について
令和2年9月29日付手続補正により補正された請求項5は、上記第4のとおりであり、構成B22の「フィルタパラメータが可変長符号化されたデータ」の符号化ビットストリームにおける位置は、構成B2’の「スライスデータ」に含まれることになり、請求項5の記載と発明の詳細な説明の記載とが整合するものとなって、当審拒絶理由は解消された。

2. 本件発明の「符号化ビットストリームを記録した記録媒体」の発明特定事項について

(1)「記録媒体」の構成
本件発明の「記録媒体」は、「画像復号装置に符号化ビットストリームの復号処理を実施させるために用いられる」(構成A3)ものであって、「符号化ビットストリームを記録した記録媒体」(構成A、構成A2)である。

(2)「符号化ビットストリーム」の構成
(ア)本件発明の「符号化ビットストリーム」は、最大サイズの符号化ブロックから階層数の上限に至るまで階層的に分割された「符号化ブロック」の「符号化モードを特定する符号化データ」(構成A2)を含む。
そして、本件発明の「符号化ビットストリーム」は、「ヘッダ情報」(構成B1’)及び「符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータ」(構成B1’)が多重化されている。

(イ)構成B1’、構成B2’の「符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータ」は、
「量子化後の変換係数」が「入力画像の圧縮データ」として「可変長符号化されたデータ」(構成B21)と、
「フィルタパラメータ」が「可変長符号化されたデータ」(構成B22)、並びに、
「符号化モード」、「予測パラメータ」及び「ブロックの分割情報」が「可変長符号化されたデータ」(構成B23)と、を含む。

(ウ)構成B1’、構成B3の「ヘッダ情報」は、
符号化ブロックの「最大サイズ」及び「階層数」(構成B31)と、
「量子化マトリクスパラメータ」が「可変長符号化されたデータ」(構成B32)と、を含む。

(エ)構成B22、構成B4の「フィルタパラメータが可変長符号化されたデータ」は、
「最大サイズの符号化ブロック単位のクラスの分類手法を示すインデックスが可変長符号化されたデータ」(構成B41)と、
「各クラスのオフセット値に関するパラメータ」が「符号化されたデータ」(構成B42)と、を含む。

(3)「符号化ビットストリーム」に基づき実行される情報処理
(ア)本件発明の「符号化ビットストリーム」は、構成Dに特定される画像復号装置の復号処理に供する情報である。
構成Dの復号処理は、「圧縮データから得られるブロックの変換係数を逆量子化」(構成D1)、「復号画像を生成」(構成D2)、「復号画像に対するフィルタ処理」(構成C、構成D3)である。

(イ)構成D1の情報処理に供される情報である「量子化マトリクスパラメータ」は、上記(2)(ウ)のとおり、構成B3の「ヘッダ情報」に含まれる、構成B32の「量子化マトリクスパラメータ」である。
また、構成D1の情報処理に供される情報である「圧縮データ」は、上記(2)(イ)のとおり、構成B2’の「符号化ブロックを含むスライスデータ」に含まれる、構成B21の「量子化後の変換係数」である。
構成D1の情報処理は、構成B32「量子化マトリクスパラメータ」を用いて、構成B21の「量子化後の変換係数」を逆量子化する。

(ウ)構成D2の情報処理に供される情報は、構成D1で逆量子化した「逆量子化後の変換係数」である。
構成D2の情報処理は、上記(イ)において逆量子化した「逆量子化後の変換係数」から「復号画像を生成」するものである。

(エ)構成C及び構成D3の情報処理に供される情報は、最大サイズの符号化ブロック単位で構成B22の「フィルタパラメータ」に含まれる構成B41の「インデックス」及び構成B42の「オフセット値に関するパラメータ」、並びに、構成D2で生成した「復号画像」である。
構成C及び構成D3の情報処理(フィルタ処理)は、構成C1及び構成D31の情報処理(クラスの分類手法の決定(特定)処理)、構成C2及び構成D32の情報処理(クラス分け処理)、構成C3の情報処理(クラス毎のオフセット値を算出する処理)、構成C4及び構成D33の情報処理(画素適応オフセット処理)を実施する。

(オ1)構成C1及び構成D31の情報処理は、構成B41の「インデックス」を用いて各最大サイズの符号化ブロック単位のクラスの「分類手法」を決定(特定)する。
(オ2)構成C2及び構成D32の情報処理は、構成C1及び構成D41で決定した「分類手法」を用いて、構成D2で生成した「復号画像」の各画素のクラス分けを実施する。
(オ3)構成C3の情報処理は、(構成B42の「オフセット値に関するパラメータ」から)「オフセット値」を算出する。
(オ4)構成C4及び構成D33の情報処理は、構成C3で算出した「オフセット値」を用いて、構成C2及び構成D32でクラス分けした「クラスに属する画素の画素値」に加算処理を行う。

3. 本件発明の発明該当性についての判断
(1) 「符号化ビットストリーム」のデータ構造について
上記2(1)から、本件発明の「符号化ビットストリーム」の「データ構造」について、以下のことがいえる。

(ア)上記2(2)(ア)の、本件発明の「符号化ビットストリーム」は、最大サイズの符号化ブロックから階層数の上限に至るまで階層的に分割された「符号化ブロック」を含むこと(構成A2)、また、上記2(2)(ウ)の構成B1’の「ヘッダ情報」と、上記2(2)(イ)の構成B1’の「符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータ」が多重化されていることから、
本件発明の「符号化ビットストリーム」は、「ヘッダ情報」と、最大サイズの符号化ブロックから階層的に分割された「符号化ブロック」の「符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータ」が、多重化されているという、階層構造の「データ構造」を有するといえる。

(イ)上記2(2)(ウ)から、本件発明の「符号化ビットストリーム」に含まれる構成B1’、構成B3の「ヘッダ情報」は、「最大サイズ」及び「階層数」(構成B31)及び「量子化マトリクスパラメータ」(構成B32)を含むことから、
本件発明の「符号化ビットストリーム」に含まれる構成B1’の「ヘッダ情報」は、「最大サイズ」及び「階層数」、「量子化マトリクスパラメータ」を独立した単位で含む「データ構造」を有するといえる。

(ウ)上記2(2)(イ)から、本件発明の「符号化ビットストリーム」に含まれる構成B1’、構成B2’の「符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータ」は、「量子化後の変換係数」(構成B21)、「フィルタパラメータ」(構成B22)及び「符号化モード、予測パラメータ及びブロックの分割情報」(構成B23)を含むことから、
本件発明の「符号化ビットストリーム」に含まれる構成B1’の「符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータ」は、「量子化後の変換係数」(構成B21)、「フィルタパラメータ」(構成B22)及び「符号化モード、予測パラメータ及びブロックの分割情報」(構成B23)を独立した単位で含む「データ構造」を有するといえる。

(エ)上記(ア)から、本件発明の「符号化ビットストリーム」と、構成B1’の「ヘッダ情報」及び「符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータ」は、階層関係を有する情報が多重化されているという階層構造の「データ構造」を有するといえるから、本件発明の「符号化ビットストリーム」は、データ要素間の論理的関係と階層関係が表された「データ構造」を有しているといえる。
また、上記(イ)及び(ウ)から、構成B32の「量子化マトリクスパラメータ」は構成B1’、構成B3の「ヘッダ情報」に含まれ、構成B22の「フィルタパラメータ」は構成B1’、構成B2’の「符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータ」に含まれることで独立した単位で符号化されるから、本件発明の「符号化ビットストリーム」は、「量子化マトリクスパラメータ」及び「フィルタパラメータ」について、データ要素間の論理的関係と階層関係が表された「データ構造」を有しているといえる。

(オ)したがって、本件発明に係る「符号化ビットストリームを記録した記録媒体」は、上記(エ)の「データ構造」を有するといえる。

(2) 「データ構造に基づく情報処理を具体的に行うもの」について

(ア)構成D1及び構成D2の情報処理について
構成D1及び構成D2の情報処理の演算対象のデータ要素について検討する。
当該演算対象のデータ要素の一つは、上記2(3)(イ)のとおり、構成B1’、構成B3の「ヘッダ情報」に含まれる構成B32の「量子化マトリクスパラメータ」であり、他のデータ要素は、上記2(3)(ウ)のとおり、構成B1’、構成B2’の「符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータ」が含む構成B21の「量子化後の変換係数」である。
ここで、構成B1’の「ヘッダ情報」は、「符号化ビットストリーム」に含まれるデータ要素であり、構成B1’の「符号化ブロックの符号化データ」は、「最大サイズの符号化ブロック」から階層的に分割されて、「符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータ」に含まれることで多重化された「符号化ブロック」に含まれるデータ要素といえる。
そうすると、構成D1及びD2の情報処理は、「符号化ビットストリーム」に含まれる「量子化マトリクスパラメータ」が、「最大サイズの符号化ブロック」から階層的に分割されて、「符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータ」に含まれることで多重化された「符号化ブロック」に対しても対応する、という「データ要素間の階層的関係により定められる情報処理」であるといえる。

(イ)構成C及び構成D3の情報処理について
構成C及び構成D3の情報処理の演算対象のデータ要素について検討する。
当該演算対象のデータ要素の一つは、上記2(3)(エ)のとおり、最大サイズの符号化ブロック単位で構成B22の「フィルタパラメータ」に含まれる構成B41の「インデックス」及び構成B42の「オフセット値に関するパラメータ」であり、他のデータ要素は、構成D2で生成した「復号画像」である。
ここで、構成B22の「フィルタパラメータ」及び構成D2で生成した「復号画像」は、「最大サイズの符号化ブロック」から階層的に分割されて多重化された構成B1’の「符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータ」に含まれるデータ要素といえる。
そうすると、構成C及び構成D3の情報処理は、階層的に分割されて多重化された構成B1’の「符号化ブロック」に対応する「インデックス」及び「オフセット値に関するパラメータ」が、「最大サイズの符号化ブロック」単位で定められている、という「データ要素間の階層関係により定められる情報処理」であるといえる。

(ウ)また、上記(ア)および(イ)から、構成D1の「逆量子化」という情報処理に用いる「量子化マトリクスパラメータ」と、構成C及び構成D3の「フィルタ処理」という情報処理に用いる「フィルタパラメータ」は、いずれも「符号化ブロック」に対応するパラメータデータ要素であるといえる。
他方、「量子化マトリクスパラメータ」は「ヘッダ情報」に含まれ、「フィルタパラメータ」は、「符号化ブロックの符号化データを含むスライスデータ」に含まれることで、独立して符号化されるパラメータデータ要素といえる。

(エ)上記(ア)?(ウ)から総合すると、
本件発明の情報処理は、「符号化ビットストリーム」の「データ要素間の階層的関係により定められる情報処理」であり、「符号化ブロック」に対応する2つのパラメータデータ要素が独立して符号化される、という「データ要素間の論理的関係により定められる情報処理」であるから、本件発明の情報処理は、本件発明の「符号化ビットストリーム」の「データ要素間の論理的関係と階層関係が表されたデータ構造」に基づく具体的な情報処理であるであるといえる。

(オ)よって、本件発明の「符号化ビットストリーム」は、「データ要素間の論理的関係と階層関係が表されたデータ構造」を有しており、画像復号装置に当該「符号化ビットストリーム」の復号処理をデータ要素間の論理的関係と階層関係に基づく具体的な情報処理として実施させるものといえる。
さらに、本件発明の「符号化ビットストリームを記録した記録媒体」は、当該「符号化ビットストリーム」の記録媒体への記録を特定しているものであるが、「符号化ビットストリーム」それ自体のデータ構造がデータ要素間の論理的関係と階層関係に基づく情報処理を具体的に行うものであるといえる以上、これを記録した記録媒体についても、データ要素間の論理的関係と階層関係に基づく情報処理を具体的に行うものといえる。

(3) 小括
したがって、本件発明は、データ構造に基づく情報処理を具体的に行うものということができるから、「情報の単なる提示」を行うものに該当するものではなく、情報の提示それ自体に「符号化ビットストリーム」の情報及び構造に関する技術的特徴を有するものであるから、特許法第2条第1項における「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当し、特許法第29条第1項柱書でいう「発明」に該当する。

第6 原査定についての判断
原査定の拒絶の理由の(理由1)については、上記「第4 判断」の当審における令和2年8月4日付け拒絶理由についての判断と同様に、本件発明については、特許法第2条第1項における「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当し、特許法第29条第1項柱書でいう「発明」に該当する。
また、原査定の拒絶の理由の(理由2)、(理由3)については、令和2年9月29日付け手続補正書により補正された請求項1-4記載の発明は、上記先願発明と同一であるということも、引用文献2、3記載の発明から当業者が容易になしえた発明であるということもできない。
よって、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願は、原査定および当審の理由によって拒絶することはできない。
また、他に拒絶の理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-12-07 
出願番号 特願2018-50874(P2018-50874)
審決分類 P 1 8・ 1- WY (H04N)
P 1 8・ 16- WY (H04N)
P 1 8・ 121- WY (H04N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 片岡 利延  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 川崎 優
五十嵐 努
発明の名称 画像符号化装置、画像復号装置、画像符号化方法、画像復号方法及び符号化ビットストリームを記録した記録媒体  
代理人 辻岡 将昭  
代理人 濱田 初音  
代理人 井上 和真  
代理人 中島 成  
代理人 特許業務法人山王内外特許事務所  

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