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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1368966
異議申立番号 異議2020-700062  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-04 
確定日 2020-10-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6566272号発明「鉛フリーはんだペースト用フラックス、鉛フリーはんだペースト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6566272号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6566272号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6566272号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成29年2月21日(優先権主張 平成28年5月30日)に出願され、令和1年8月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年2月4日に特許異議申立人赤松智信(以下、「申立人」という。)は、請求項1?5に係る特許について特許異議の申立てを行った。
その後の主な手続きの経緯は、以下のとおりである。

令和 2年 5月11日付け(起案日) 取消理由の通知
同 年 7月 8日 訂正請求書及び意見書の提出
(以下、本訂正請求書による訂正請求を
「本件訂正請求」と いい、本件訂正請
求による訂正を「本件訂正」という。)
同 年 8月20日 申立人による意見書の提出



第2 訂正の適否について

1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)本件訂正請求の趣旨
特許第6566272号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求める。

(2)訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のア?ウのとおりである(下線は訂正箇所を示す)。

ア 訂正事項1
請求項1において、「ロジン系ベース樹脂(A)、活性剤(B)、チキソトロピック剤(C)および溶剤(D)を含む鉛フリーはんだペースト用フラックス」との記載を、「ロジン系ベース樹脂(A)、活性剤(B)、チキソトロピック剤(C)および溶剤(D)を含み、Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系及びSn-Bi系からなる群より選ばれる少なくとも1種の鉛フリーはんだペースト用フラックス」に訂正する。請求項1を引用する請求項2?5も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
請求項1において、「(A)成分はアクリル化ロジンの水素化物および/または重合ロジンを含み」との記載を、「(A)成分はアクリル化ロジンの水素化物、または、アクリル化ロジンの水素化物および重合ロジンを含み」に訂正する。請求項1を引用する請求項2?5も同様に訂正する。

ウ 訂正事項3
請求項5において、「鉛フリーはんだ粉末」との記載を、「Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系及びSn-Bi系からなる群より選ばれる少なくとも1種の鉛フリーはんだ粉末」に訂正する。


2 訂正の適否についての判断

(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1に記載の「鉛フリーはんだペースト用」との用途を「Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系及びSn-Bi系からなる群より選ばれる少なくとも1種の鉛フリーはんだペースト用」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
本件特許についての出願の願書に添付した明細書には、以下の記載がある(下線は当審が付した。また、「・・・」は、省略を示す。以下、同様)。

「【0039】
〔鉛フリーはんだペーストについて〕
本発明の鉛フリーはんだペーストは、前記フラックスと、鉛フリーはんだ粉末とを含有するものである。」
「【0041】
鉛フリーはんだ粉末は、鉛を含有しないものであれば、各種公知のものを特に制限なく使用できるが、Snをベースとする鉛フリーはんだ粉末、例えばSn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系、Sn-Zn系、Sn-Bi系の鉛フリーはんだ粉末が好ましい。・・・」

そして、訂正事項1は、請求項1に記載の「鉛フリーはんだ粉末用」との用途に関する記載における「鉛フリーはんだ粉末」を、【0041】において好ましい「鉛フリーはんだ粉末」として例示された「Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系、Sn-Zn系、Sn-Bi系の鉛フリーはんだ粉末」のうちの「Sn-Zn系」以外の「鉛フリーはんだ粉末」とするものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

ウ 訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項1に係る訂正は、請求項1に記載の「鉛フリーはんだペースト用」との用途をさらに限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。


(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載される「(A)成分」の選択肢である、「アクリル化ロジンの水素化物」、「重合ロジン」又は「アクリル化ロジンの水素化物及び重合ロジン」の3つのうち、「重合ロジン」の場合を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
訂正事項2に係る訂正は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に記載される「(A)成分」の選択肢である、「アクリル化ロジンの水素化物」、「重合ロジン」又は「アクリル化ロジンの水素化物及び重合ロジン」の3つのうち、「重合ロジン」の場合を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであることは明らかである。

ウ 訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項2に係る訂正は、上記アのとおり、「(A)成分」をさらに限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。


(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3に係る訂正は、請求項5に記載の「鉛フリーはんだ粉末」を「Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系及びSn-Bi系からなる群より選ばれる少なくとも1種の鉛フリーはんだ粉末」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
訂正事項3は、請求項5に記載の「鉛フリーはんだ粉末」を、上記(1)イで摘記した【0041】において好ましい「鉛フリーはんだ粉末」として例示された「Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系、Sn-Zn系、Sn-Bi系の鉛フリーはんだ粉末」のうちの「Sn-Zn系」以外の「鉛フリーはんだ粉末」とするものである。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

ウ 訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項3に係る訂正は、請求項5に記載の「鉛フリーはんだ粉末」の種類をさらに限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。


(4)独立特許要件について
訂正事項1?3は、上記(1)ア、(2)ア、(3)アで示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するが、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。


(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?5は、本件訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?5は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?5〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。


(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項の規定及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、令和2年7月8日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。



第3 訂正後の本件特許の請求項1?5に係る発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ロジン系ベース樹脂(A)、活性剤(B)、チキソトロピック剤(C)および溶剤(D)を含み、Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系及びSn-Bi系からなる群より選ばれる少なくとも1種の鉛フリーはんだペースト用フラックスであって、
(A)成分はアクリル化ロジンの水素化物、または、アクリル化ロジンの水素化物および重合ロジンを含み、
かつ、
(B)成分はアミン(b1)および全炭素数8?12の非ハロゲン系脂肪族二塩基酸(b2)を含み、
(b1)成分が、モノアルキルアミン及び/又はジアルキルアミンを含み、
(b2)成分の含有量が全フラックス成分中5?10重量%である、フラックス。
【請求項2】
(b2)成分が、セバシン酸、アゼライン酸およびドデカン二酸からなる群より選ばれる1種を含む、請求項1のフラックス。
【請求項3】
(C)成分が、アミド系チキソトロピック剤を含む、請求項1または2のフラックス。
【請求項4】
(D)成分が、アルコールを含む、請求項1?3のいずれかのフラックス。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかのフラックスと、Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系及びSn-Bi系からなる群より選ばれる少なくとも1種の鉛フリーはんだ粉末とを含む鉛フリーはんだペースト。」



第4 特許異議の申立理由及び取消理由の概要
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、次の甲第1号証?甲第4号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由1?2により、本件発明1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲1:特開平7-185882号
甲2:村田 敏一,“Pbフリーはんだ技術の現状”,回路実装学会誌,社団法人プリント回路学会,1996年9月20日,第11巻,第6号,第381?385頁
甲3:特開2000-263281号公報
甲4:特開2006-175445号公報

(1)申立理由1(進歩性)
請求項1?2に係る発明は、それぞれ、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。
また、請求項3?5に係る発明は、それぞれ、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項、甲3に記載された事項及び甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1?5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(サポート要件)
請求項1には、「・・・を含む鉛フリーはんだペースト用フラックス」と記載され(当審注:「・・・」は省略を示す。以下、同様。)、明細書の【0041】には、「鉛フリーはんだ粉末は、鉛を含有しないものであれば各種公知のものを特に際限なく使用できるが・・・等を例示できる。」と記載されているが、本件明細書の実施例で用いられている「鉛フリーはんだ」は、明細書の【0046】に記載されているように、96.5Sn/3Ag/0.5Cuの一種のみである。
そして、鉛フリーはんだ材料にも種々のものがあり、ある特定の鉛フリーはんだ材料で効果があったからといって他のものにも同様の効果があるものではない。
それにもかかわらず、請求項1?5は、何らの根拠もなく、一つの実施例を根拠に他の鉛フリーはんだ材料も含まれるような特許請求の範囲の記載となっている。
してみれば、請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないのであるから、本件特許の請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。


2 取消理由の概要
当審は、申立理由1、2を採用し、訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、令和2年5月11日付けで取消理由を通知したが、その概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1(進歩性)
請求項1?2に係る発明は、それぞれ、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、請求項3?5に係る発明は、それぞれ、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項、甲3に記載された事項及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1?5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(サポート要件)
発明の詳細な説明の記載から、「Sn-Zn系はんだ」を含むものである、請求項1?5に係る発明の範囲にまで、発明の詳細な説明の記載を拡張ないし一般化することはできない。
したがって、請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
よって、本件特許の請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。



第5 当審の判断
当審は、申立理由1、2及び通知した取消理由1、2によっては、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできないと判断する。

1 各甲号証に記載された事項について
甲1?甲4には、それぞれ、以下の記載がある(なお、下線は、当審が付したものである)。

(1)甲1について
ア 甲1の記載
「【請求項1】 ロジン及び活性剤を含むクリームはんだ用フラックスにおいて、
前記活性剤が、前記フラックス全体に対する割合で、
ジフェニル酢酸とジエチルアミンの塩:2.0?20.0wt%、
セバシン酸: 1.0?15.0wt%、及び
ジフェニル酢酸:2.0?20.0wt%
からなり、
さらに、pHが7を越え、かつ、11以下に調整されていることを特徴とするクリームはんだ用フラックス。
【請求項2】さらに-10℃以下の凝固点を有する油脂を含有することを特徴とする請求項1記載のクリームはんだ用フラックス。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電子機器の製造、特に電子部品の表面実装に用いられる「クリームはんだ(ソルダーペースト)」に関し、より詳しくは、無洗浄可能にするクリームはんだ用フラックスに関する。」
「【0013】・・・上述のフラックスに、さらに-10℃以下の凝固点を有する油脂を含有させることが好ましい。上記油脂としては、-10℃以下の凝固点を有するものであればよく、分子中に水酸基を多く有するひまし油が特に好ましい。すなわち、ひまし油はその主成分がオキシ脂肪酸の誘導体であり上記の要件を満たしている。」
【0019】すなわち、フラックスのpHが7以下の領域では、はんだ合金の腐食防止抑制作用が乏しく、大気下で腐食が起きる。・・・」
「【0022】・・・さらに、上記油脂はチクソ剤として作用するので、印刷性を向上させることができる。」
「【0023】上述のフラックスに、さらにロジンエステルを含有させた場合には、以下に示す作用を奏する。上記の様にカルボキシル基を有するロジンに油脂を添加した場合、低温放置での残渣割れは顕著に抑制できるが、冷熱を繰り返し加えられる環境下では上記の効果を充分発揮せず残渣割れが発生する場合がある。これは冷熱の繰り返しによりカルボキシル基を有するロジンと油脂との間でエステル化反応が過度に進行したためである。このエステル化の過度な進行は、カルボキシル基を有するロジンの一部をカルボキシル基をもたないロジン、つまり、予めエステル化されたロジンで置換し、冷熱 の繰り返しによっても特性が変化しない組成とすることにより抑制できる。」
「【0025】
【実施例】以下、本発明の実施例態様及び比較例によって本発明を詳細に説明する。先ず、クリームはんだの原料として下記のものを用意した。
はんだ粉末: Sn63-Pb37の共晶はんだ合金
ロジン:重合ロジン
溶剤:ブチルカルビトール
塩基性物質:n-ヘキシルアミン
活性剤:ジフェニル酢酸とジエチルアミンの塩
セバシン酸
ジフェニル酢酸
フタル酸
安息香酸
油脂: ひまし油
ロジンエステル:多価アルコールとアビエチン酸のエステル
そして、表1に示す組成比のフラックス試料No.1?25として、それぞれのフラックス(10wt%)とはんだ粉末(90wt%)とを充分に混練して、クリームはんだを得た。試料No.1?5及び14?20が本発明に係るフラックスであり、試料No.6?13及び21?24が比較例のフラックスである。
【0026】製造したクリームはんだの印刷性、はんだ付け性、絶縁性、耐久性及び残渣割れについて調べ、その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】


「【0042】その他の実施例として、上記実施例の共晶はんだ粉末に代え、他の合金成分としてSn61-In1.0-Sb0.5-Ag1.0-Pb残部からなるはんだ粉末と本発明のフラックスを混練して用いたところ、同様に優れた結果が得られた。なお、本発明の主旨の範囲で各種はんだ粉末に適用できることは勿論である。また、本実施例のクリームはんだに、粘性を調整する目的で、硬化ひまし油等の粘性剤を添加してもよい。」

イ 甲1に記載された発明
甲1には、上記アで摘記した記載、特に、試料No.17のフラックスを用いた実施例に関する部分から、以下の甲1フラックス(試料No.17)発明及び甲1クリームはんだ(試料No.17)発明が、試料No.20のフラックスを用いた実施例に関する部分から、以下の甲1フラックス(試料No.20)発明、甲1クリームはんだ(試料No.20)発明がそれぞれ記載されていると認められる。

[甲1フラックス(試料No.17)発明]
「重合ロジンを20wt%と、ブチルカルビトールを16wt%と、n-ヘキシルアミンを18wt%と、ジフェニル酢酸とジエチルアミンとの塩を16wt%と、セバシン酸を9wt%と、ジフェニル酢酸を11wt%と、ひまし油を10重量%とを含む、Sn63-Pb37の共晶はんだ合金のクリームはんだ用フラックス。」

[甲1クリームはんだ(試料No.17)発明]
「甲1フラックス(試料No.17)発明のフラックスを10wt%と、Sn63-Pb37の共晶はんだ合金のはんだ粉末を90wt%とを充分に混練して得た、クリームはんだ。」

[甲1フラックス(試料No.20)発明]
「重合ロジンを10wt%と、ブチルカルビトールを10wt%と、n-ヘキシルアミンを20wt%と、ジフェニル酢酸とジエチルアミンとの塩を5wt%と、セバシン酸を5wt%と、ジフェニル酢酸を10wt%と、フタル酸を5wt%と、安息香酸を5wt%と、ひまし油を20重量%と、ロジンエステルを10wt%とを含む、Sn63-Pb37の共晶はんだ合金のクリームはんだ用フラックス。」

[甲1クリームはんだ(試料No.20)発明]
「甲1フラックス(試料No.20)発明のフラックスを10wt%と、Sn63-Pb37の共晶はんだ合金のはんだ粉末を90wt%とを充分に混練して得た、クリームはんだ。」


(2)甲2に記載された事項
「 3.2 フラックス技術
リフロー法またはフロー法でも,はんだのぬれ性には,フラックス技術がきわめて重要である。
3.2.1 はんだペースト
・・・鉛フリーはんだ材料のなかで,Sn-Ag系、Sn-Bi系などは,従来のSn-Pb共晶系とほぼ同一のフラックス系でも使用できるが,問題はSn-Zn系である。この系では,Znの反応性が高く,フラックス成分と反応してパサパサになり,印刷に使用できなくなる。つまり,製造後時間経過とともに,増粘現象が発生することである。・・・また,リフロー後のぬれ性に大きく影響することもわかっている。」(第382頁左欄第11行?右欄第4行)

(3)甲3に記載された事項
「【0007】
【発明の実施の形態】本発明のクリームはんだは、(1)はんだ粉末、(2)液状またはペースト状フラックス、及び(3)アセチレンアルコール系化合物を含有するものである。
【0008】はんだ粉末としては、従来から用いられている各種のはんだ合金を用いることができ、その合金組成は特に限定はされない。例えば、はんだ合金としては、従来公知の錫-鉛合金や、鉛フリーはんだとして開発されている錫-銀合金、錫-亜鉛系合金等のはんだ合金組成のもの;さらには前記はんだ合金に、銅、ビスマス、インジウム、アンチモン等を添加したものなどを使用できる。・・・」

(4)甲4に記載された事項
「【0004】
このような流動特性(チキソ性)を有するクリームハンダを得るためには、一般にはクリームハンダを構成するフラックスにチキソトロピック剤を含有させており、例えば脂肪酸アミド系のものやひまし油系のものが主流とされる。・・・」


2 申立理由1、取消理由1(進歩性)について

(1)甲1フラックス(試料No.17)発明または甲1クリームはんだ(試料No.17)発明を主たる引用発明とした場合について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1フラックス(試料No.17)発明との対比
a 甲1フラックス(試料No.17)発明の「重合ロジン」は、本件発明1の「ロジン系ベース樹脂(A)」に相当し、甲1フラックス(試料No.17)発明が「重合ロジン」を含むとの事項は、本件発明1の「(A)成分」は「アクリル化ロジンの水素化物と重合ロジンを含み」との事項と、「重合ロジン」を含む点において、一致する。
b 甲1フラックス(試料No.17)発明の「n-ヘキシルアミン」は、モノアルキルアミンであって、本件発明1の「アミン(b1)」に相当し、甲1フラックス(試料No.17)発明が「n-ヘキシルアミン」を含むとの事項は、本件発明1の「(b1)成分が、モノアルキルアミン及び/又はジアルキルアミンを含み」との事項のうち「モノアルキルアミン」である「n-ヘキシルキルアミン」において、一致する。
c 甲1フラックス(試料No.17)発明の「セバシン酸」は、全炭素数10の非ハロゲン系脂肪族二塩基酸であり、本件発明1の「全炭素数8?12の非ハロゲン系脂肪族二塩基酸(b2)」に含まれるものであるから、甲1フラックス(試料No.17)発明と本件発明1とは、「セバシン酸」を含む点で一致し、甲1フラックス(試料No.17)発明が「セバシン酸を9wt%」含むとの事項は、本件発明1の「(b2)成分の含有量が全フラックス成分中5?10重量%である」との事項のうち「9重量%」において、一致する。
d 上記b、cのとおり、甲1フラックス(試料No.17)発明は、本件発明1の「アミン(b1)」に相当する「n-ヘキシルアミン」と本件発明1の「全炭素数8?12の非ハロゲン系脂肪族二塩基酸(b2)」に相当する「セバシン酸」を含むものであるが、本件発明1の「活性剤(B)」は「アミン(b1)および全炭素数8?12の非ハロゲン系脂肪族二塩基酸(b2)を含」むものであるから、甲1フラックス(試料No.17)発明の「n-ヘキシルアミン」と「セバシン酸」とをあわせたものは、本件発明1の、「活性剤(B)」に相当する。
e 上記1(1)アで摘記した【0013】、【0022】より、甲1フラックス(試料No.17)発明の「ひまし油」は、チクソ剤として作用するから、本件発明1の「チキソトロピック剤(C)」に相当する。
f 甲1フラックス(試料No.17)発明の「ブチルカルビトール」は、本件発明1の「溶剤(D)」に相当する。
g 上記1(1)アで摘記した甲1の【0001】には、「クリームはんだ」が「ソルダーペースト」であることが記載されており、「ソルダーペースト」は「はんだペースト」と同義であるから、甲1フラックス(試料No.17)発明の「Sn63-Pb37の共晶はんだのクリームはんだ用フラックス」と本件発明1の「Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系及びSn-Bi系からなる群より選ばれる少なくとも1種の鉛フリーはんだペースト用フラックス」とは、「はんだペースト用フラックス」である点で共通する。
h 甲1フラックス(試料No.17)発明は、「ジフェニル酢酸」等の本件特許の請求項1において含むことが明記されない成分をも含むが、本件特許の請求項1の記載からみて、本件発明1において、請求項1に明記されない成分の有無は任意と認められるから、この点は,本件発明1と甲1フラックス(試料No.17)発明との間の相違点とはならない。
i 上記a?hより、本件発明1と甲1フラックス(試料No.17)発明とは、以下の一致点1で一致し、以下の相違点1、2で相違する。

[一致点1]
「ロジン系ベース樹脂(A)、活性剤(B)、チキソトロピック剤(C)および
溶剤(D)を含むはんだペースト用フラックスであって、
(A)成分は重合ロジンを含み、
かつ、
(B)成分はアミン(b1)およびセバシン酸(b2)を含み、
(b1)成分が、n-ヘキシルキルアミンを含み、
(b2)成分の含有量が全フラックス成分中9重量%である、フラックス。」

[相違点1]
本件発明1は、「ロジン系ベース樹脂(A)」が「アクリル化ロジンの水素化物」を含むものであるのに対し、甲1フラックス(試料No.17)発明は、「重合ロジン」のみを含み、「アクリル化ロジンの水素化物」を含まない点。

[相違点2]
本件発明1は、「Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系及びSn-Bi系からなる群より選ばれる少なくとも1種の鉛フリーはんだ」に用いるものであるのに対し、甲1フラックス(試料No.17)発明は、「Sn63-Pb37の共晶はんだ」に用いるものである点。

(イ)相違点1について
a 令和2年8月20日付け意見書にておいて申立人も主張するように、「アクリル化ロジンの水素化物」は、はんだ用フラックスに用いるロジンとして周知のものではあるが、以下のb?dの事情を総合すると、甲1フラックス(試料No.17)発明において、「アクリル化ロジンの水素化物」を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
b 上記1(1)アで摘記した、甲1の【0019】には、「フラックスのpHが7以下の領域では、はんだ合金の腐食防止抑制作用が乏しく、大気下で腐食が起きる」と記載されている。
そして、「アクリル化ロジンの水素化物」は、アクリル化により、重合ロジン等よりもカルボキシル基が増加しているから、「アクリル化ロジンの水素化物」の添加は、pHを減少させる方向に働くことが認められる。
そうすると、「アクリル化ロジンの水素化物」を添加した場合、「アクリル化ロジンの水素化物」を添加しない場合よりも、「フラックスのpHが7以下の領域」とすることが困難となることが認められる。
したがって、当業者であれば、甲1フラックス(試料No.17)発明において、「アクリル化ロジンの水素化物」をあえて採用しようとはしないと認められる。
c 上記1(1)アで摘記した、甲1の【0023】には、「残渣割れ」の発生を抑制する「油脂」の効果が、「カルボキシル基を有するロジンと油脂との間でエステル化の過度な進行」により充分に奏されないこと、「カルボキシル基を有するロジンの一部をカルボキシル基をもたないロジン、つまり、予めエステル化されたロジンで置換」することにより、「エステル化反応の過度な進行」を抑制し得ることが記載されている。
そして、上述のとおり、「アクリル化ロジンの水素化物」は、重合ロジン等よりもカルボキシル基が増加したものであるから、「アクリル化ロジンの水素化物」の添加は、「エステル化反応の過度な進行」を抑制し、「残渣割れ」を防ぐとの【0023】に記載の効果を妨げることが認められる。
したがって、当業者であれば、甲1フラックス(試料No.17)発明において、「アクリル化ロジンの水素化物」をあえて採用しようとはしないと認められる。
d よって、甲1フラックス(試料No.17)発明において、「重合ロジン」に加えて、または、「重合ロジン」に代えて、「アクリル化ロジンの水素化物」を採用することは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(ウ)結論
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1フラックス(試料No.17)発明、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。


イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同様に、甲1フラックス(試料No.17)発明、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。


ウ 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、甲1クリームはんだ(試料No.17)発明は、甲1フラックス(試料No.17)発明の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明5と甲1クリームはんだ(試料No.17)発明とは、少なくとも上記相違点1、2において、相違する。
そして、上記相違点1についての判断は、上記ア(イ)のとおりであり、甲1クリームはんだ(試料No.17)発明において、「重合ロジン」に加えて、または、「重合ロジン」に代えて、「アクリル化ロジンの水素化物」を採用することは、当業者が容易に想到し得ることではない。
したがって、本件発明5は、甲1クリームはんだ(試料No.17)発明、甲2に記載された事項、甲3に記載された事項及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。


(2)甲1フラックス(試料No.20)発明または甲1クリームはんだ(試料No.20)発明を主たる引用発明とした場合について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1フラックス(試料No.20)発明との対比
a 甲1フラックス(試料No.20)発明は、甲1フラックス(試料No.17)発明と、各成分の含量が異なる点、フタル酸、安息香酸及びロジンエステルをさらに含む点でのみ相違するものであって、本件発明1と甲1フラックス(試料No.20)発明とを対比した結果は、上記(1)ア(ア)cにおいて、本件発明との「(b2)成分の含有量」に関する一致点が「9重量%」とあるのを「5重量%」とする以外、上記(1)ア(ア)a?hで示した、本件発明1と甲1フラックス(試料No.17)発明との対比結果と同様である。
b そうすると、本件発明1と甲1フラックス(試料No.20)発明とは、以下の一致点2で一致し、以下の相違点3、4で相違する。

[一致点2]
「ロジン系ベース樹脂(A)、活性剤(B)、チキソトロピック剤(C)および溶剤(D)を含むはんだペースト用フラックスであって、
(A)成分は重合ロジンを含み、
かつ、
(B)成分はアミン(b1)およびセバシン酸(b2)を含み、
(b1)成分が、n-ヘキシルキルアミンを含み、
(b2)成分の含有量が全フラックス成分中5重量%である、フラックス。」

[相違点3]
本件発明1は、「ロジン系ベース樹脂(A)」が「アクリル化ロジンの水素化物」を含むものであるのに対し、甲1フラックス(試料No.20)発明は、「重合ロジン」のみを含み、「アクリル化ロジンの水素化物」を含まない点。

[相違点4]
本件発明1は、「Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系及びSn-Bi系からなる群より選ばれる少なくとも1種の鉛フリーはんだ」に用いるものであるのに対し、甲1フラックス(試料No.20)発明は、「Sn63-Pb37の共晶はんだ」に用いるものである点。

(イ)相違点3について
相違点3は、上記相違点1と同様の相違点であるから、上記(1)ア(イ)で述べた理由と同様の理由により、甲1フラックス(試料No.20)発明において、「重合ロジン」に加えて、または、「重合ロジン」に代えて、「アクリル化ロジンの水素化物」を適用することは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(ウ)結論
本件発明1は、甲1フラックス(試料No.20)発明、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。


イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同様に、甲1フラックス(試料No.20)発明、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。



ウ 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、甲1クリームはんだ(試料No.20)発明は、甲1フラックス(試料No.20)発明の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明5と甲1クリームはんだ(試料No.20)発明とは、少なくとも上記相違点3、4において、相違する。
そして、上記相違点3についての判断は、上記ア(イ)のとおりであり、甲1クリームはんだ(試料No.20)発明において、「重合ロジン」に加えて、または、「重合ロジン」に代えて、「アクリル化ロジンの水素化物」を採用することは、当業者が容易に想到し得ることではない。
したがって、本件発明5は、甲1クリームはんだ(試料No.20)発明、甲2に記載された事項、甲3に記載された事項及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。


(3)小括
本件発明1?5は、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項、甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項1?5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。



3 申立理由2、取消理由2(サポート要件)について

(1)サポート要件を検討する観点について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、上記の観点に立って、本件特許の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについて検討する。


(2)特許請求の範囲の記載について
本件特許の特許請求の範囲の記載は、第3に示したとおりのものである。


(3)発明の詳細な説明の記載について
本件特許の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、大気雰囲気下での実装において、はんだ金属の濡れ性を保持しつつ、電極の腐食を抑制し、かつ生じたフラックス残渣が優れた絶縁抵抗性を示す鉛フリーはんだペースト用フラックス、および鉛フリーはんだペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アミンと所定の二塩基酸を活性剤に含むはんだペースト用フラックスが前記課題を解決するものであることを見出した。すなわち本発明は、以下の鉛フリーはんだペースト用フラックス、鉛フリーはんだペーストに関する。
【0008】
1.ロジン系ベース樹脂(A)、活性剤(B)、チキソトロピック剤(C)および溶剤(D)を含む鉛フリーはんだペースト用フラックスであって、
(A)成分はアクリル化ロジンの水素化物および/または重合ロジンを含み、
かつ、
(B)成分はアミン(b1)および全炭素数8?12の非ハロゲン系脂肪族二塩基酸(b2)を含み、
(b2)成分の含有量が全フラックス成分中5?10重量%である、
フラックス。」
「【発明の効果】
【0014】
本発明の鉛フリーはんだペースト用フラックス(以下、「フラックス」ということもある)は、鉛フリーはんだペースト(以下「はんだペースト」ということもある)の濡れ性を保持しつつ、電極の腐食を抑制し、かつ生じたフラックス残渣が優れた絶縁抵抗性を示し、また当該フラックスを熱容量の大きい部品に適用しても、これらの課題を解決するものである。」
「 【0016】
本発明のフラックスは、ロジン系ベース樹脂(A)(以下、(A)成分という)、活性剤(B)(以下、(B)成分という)、チキソトロピック剤(C)(以下、(C)成分という)および溶剤(D)(以下、(D)成分という)を含む組成物である。
【0017】
(A)成分には、はんだ金属の濡れ性の観点より、アクリル化ロジン水素化物および/または重合ロジンを含有する。両者の原料ロジンとしては、各種公知のものを特に限定なく利用でき、例えばガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の天然ロジン等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせて使用しても良い。さらに前記原料ロジンは蒸留、再結晶などで精製したものを用いても良い。」
「 【0026】
(B)成分としては、アミン(b1)(以下、(b1)成分)および全炭素数8?12の非ハロゲン系脂肪族二塩基酸(b2)(以下、(b2)成分)をはんだ金属の濡れ性、電極の腐食抑制およびフラックス残渣の優れた絶縁抵抗性を満たす点から必須使用する。
【0027】
(b1)成分としては、特に限定されず、・・・
【0028】
(b1)成分の含有量は、特に限定されないが、フラックス残渣の絶縁抵抗性、腐食性の点から、通常は、全フラックス成分中1?6重量%程度、好ましくは1.5?5重量%程度、より好ましくは2?4重量%程度である。
【0029】
(b2)成分は、はんだ金属の濡れ性を向上させるために用いる活性剤であり、各種公知のものを限定なく使用できる。(b2)成分としては、例えば、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の非ハロゲン系脂肪族二塩基酸活性剤、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の非ハロゲン系脂環族二塩基酸等が挙げられるが、これらの中でも、はんだ金属の濡れ性の点から、非ハロゲン系脂肪族二塩基酸が好ましく、アゼライン酸、セバシン酸およびドデカン二酸からなる群より選ばれる1種を用いることがより好ましい。
【0030】
(b2)成分の含有量は、通常は、全フラックス成分中5?10重量%程度、好ましくは5?8重量%程度、より好ましくは5?7重量%程度である。(b2)成分の含有量が5重量%を下回るとはんだ金属の濡れ性が低下し、10重量%を超えると生じたフラックス残渣の絶縁抵抗性が低くなる。」
「 【0033】
(C)成分としては、各種公知のものを格別限定なく使用できる。・・・」
「 【0034】
(C)成分の含有量は特に限定されないが、はんだペーストの印刷性の点から、通常は、全フラックス成分中5?10重量%程度、好ましくは5?7.5重量%程度である。
【0035】
(D)成分としては、各種公知の溶剤を格別限定なく使用できる。・・・」
「 【0036】
(D)成分の含有量は特に限定されないが、・・・」
「 【0039】
〔鉛フリーはんだペーストについて〕
本発明の鉛フリーはんだペーストは、前記フラックスと、鉛フリーはんだ粉末とを含有
するものである。」
「 【0041】
鉛フリーはんだ粉末は、鉛を含有しないものであれば、各種公知のものを特に制限なく使用できるが、Snをベースとする鉛フリーはんだ粉末、例えばSn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系、Sn-Zn系、Sn-Bi系の鉛フリーはんだ粉末が好ましい。・・・」
「 【0042】
本発明の鉛フリーはんだペースト中の各成分の配合割合は特に限定されないが、フラックス:鉛フリーはんだ粉末が重量換算で通常は、5:95?30:70程度、好ましくは8:92?20:80である。」
「【実施例】
【0043】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲がこれら実施例に限定されるものではない。また実施例中で「%」は特に断りのない限り、「重量%」を意味する。
【0044】
<フラックスの調製>
実施例1
アクリル化ロジンの水素化物(商品名「KE-604」、荒川化学工業(株)製)を45重量%、アゼライン酸(東京化成製)を5重量%、ジ(2-エチルヘキシル)アミンを3.5重量%、アミド系チキソトロピック剤(製品名「MA-WAX-O」、12-ヒドロキシステアリン酸エチレンビスアミド、KFトレーディング(株)製)を7重量%、酸化防止剤(製品名「IRGANOX1010」、BASF(株)製)を0.5重量%およびジエチレングリコールモノへキシルエーテルを39.0重量%となるように混合し、加熱下で溶融させ、鉛フリーはんだペースト用フラックスを調製した。組成を表1に示す(以下同様)。
【0045】
実施例2?10、比較例1?8
表1に示す原料組成に変更した他は、実施例1と同様にして各種フラックスを調製した。
【0046】
(鉛フリーはんだペーストの調製)
市販の鉛フリーはんだ粉末(96.5Sn/3Ag/0.5Cu、三井金属(株)製、粒径20?38μm、通常品)及び実施例1のフラックスを順に88重量%及び12重量%となるようソフナーにて混練し、はんだペーストを調製した。実施例2?10および比較例1?8のフラックスについても、実施例1と同様の方法ではんだペーストを調製した。
・・・
【0051】
【表1】




(4)本件特許における発明が解決しようとする課題について
上記(3)で摘記した、【0006】より、本件特許における発明が解決しようとする課題は、「大気雰囲気下での実装において、はんだ金属の濡れ性を保持しつつ、電極の腐食を抑制し、かつ生じたフラックス残渣が優れた絶縁抵抗性を示す鉛フリーはんだペースト用フラックス、および鉛フリーはんだペーストを提供すること」である。


(5)発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲について
ア 上記(3)で摘記した【0007】、【0008】、【0014】には、「アミンと所定の二塩基酸を活性剤に含むはんだペースト用フラックス」により上記課題が解決し得ること、そのようなフラックスが「ロジン系ベース樹脂(A)、活性剤(B)、チキソトロピック剤(C)および溶剤(D)を含む鉛フリーはんだペースト用フラックスであって、(A)成分はアクリル化ロジンの水素化物および/または重合ロジンを含み、かつ、(B)成分はアミン(b1)および全炭素数8?12の非ハロゲン系脂肪族二塩基酸(b2)を含み、(b2)成分の含有量が全フラックス成分中5?10重量%である、フラックス」であることが記載されている。
イ 上記(3)で摘記した【0017】より、「(A)成分」は「濡れ性」の観点から「アクリル化ロジンの水素化物および/または重合ロジン」である必要があることが認められる。
ウ 上記(3)で摘記した【0026】より、「はんだ金属の濡れ性、電極の腐食抑制およびフラックス残渣の優れた絶縁抵抗性」の点から、「(B)成分」としては、「アミン(b1)」および「全炭素数8?12の非ハロゲン系脂肪族二塩基酸(b2)」が必須であることが認められる。また、【0027】、【0028】より、「(b1)成分」としては任意のものを使用可能であり、その含有量も限定されないこと、【0029】より、「(b2)成分」としては任意のものを使用可能であること、【0030】より、「濡れ性」及び「フラックス残渣の絶縁抵抗性」の点から、「(b2)成分」は、「全フラックス成分中5?10重量%」であるべきことが認められる。
エ 上記(3)で摘記した【0033】?【0036】より、「(C)成分」、「(D)成分」は、公知の任意のものを使用でき、その含有量も特に制限されていないことが認められる。
オ 上記(3)で摘記した【0041】より、「鉛フリーはんだ」として、任意の公知のものを使用可能であることが認められる。
カ 実施例においては、上記ア?オの事項を備える実施例において、上記課題を解決し得ることが示されており、一方で、上記ア?オの事項を備えるが、上記課題を解決し得ない具体例は記載されていない。
キ 上記ア?カより、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲は、
「ロジン系ベース樹脂(A)、活性剤(B)、チキソトロピック剤(C)および溶剤(D)を含む鉛フリーはんだペースト用フラックスであって、
(A)成分はアクリル化ロジンの水素化物および/または重合ロジンを含み、
かつ、
(B)成分はアミン(b1)および全炭素数8?12の非ハロゲン系脂肪族二塩基酸(b2)を含み、
(b2)成分の含有量が全フラックス成分中5?10重量%である、
フラックス。」
であると認められる。

(6)本件訂正発明と発明の詳細な説明に記載された発明との対比
本件発明1?5は、上記(5)で示した事項を全て含むから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものである。


(7)取消理由2について
本件訂正により、本件発明1?5は、「Sn-Zn系のはんだ」に用いられるものを含まないものとなったから、取消理由2は解消している。


(8)申立人の主張について
申立人は、異議申立書及び令和2年8月20日付け意見書において、「・・・本件明細書の実施例で用いられている「鉛フリーはんだ」は、明細書の【0046】に記載されているように、・・・96.5Sn/3Ag/0.5Cuの一種のみである。そして、・・・鉛フリーはんだ材料にも種々のものがあり、ある特定の鉛フリーはんだ材料で効果があったからといって他のものにも同様の効果があるものではない。それにもかかわらず、何らの根拠もなく、一つの実施例を根拠に他の鉛フリーはんだ材料も含まれるような特許請求の範囲の記載となっている。してみれば、本件発明1?5は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない・・・」旨、主張する。
しかしながら、技術常識を参酌しても、【0014】、【0016】、【0017】、【0026】?【0030】に記載の効果が、「鉛フリーはんだ」の種類により異なると判断し得るような事情はなく、申立人も、本件特許の明細書の実施例で使用されたものと異なる種類の「鉛フリーはんだ」で、上記のような効果を奏しないとする具体的な理由(理論的根拠や具体例)を示していないから、申立人の当該主張は採用できない。


(9)小括
よって、本件発明1?5は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号に該当することにより取り消されるべきものではない。



第6 むすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は適法である。
そして、本件訂正後の請求項1?5に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由1、2及び特許異議申立書に記載された申立理由1、2によっては、取り消すことができない。
また、他に本件訂正後の請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジン系ベース樹脂(A)、活性剤(B)、チキソトロピック剤(C)および溶剤(D)を含み、
Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系及びSn-Bi系からなる群より選ばれる少なくとも1種の鉛フリーはんだペースト用フラックスであって、
(A)成分はアクリル化ロジンの水素化物、または、アクリル化ロジンの水素化物および重合ロジンを含み、
かつ、
(B)成分はアミン(b1)および全炭素数8?12の非ハロゲン系脂肪族二塩基酸(b2)を含み、
(b1)成分が、モノアルキルアミン及び/又はジアルキルアミンを含み、
(b2)成分の含有量が全フラックス成分中5?10重量%である、フラックス。
【請求項2】
(b2)成分が、セバシン酸、アゼライン酸およびドデカン二酸からなる群より選ばれる1種を含む、請求項1のフラックス。
【請求項3】
(C)成分が、アミド系チキソトロピック剤を含む、請求項1または2のフラックス。
【請求項4】
(D)成分が、アルコールを含む、請求項1?3のいずれかのフラックス。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかのフラックスと、Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系及びSn-Bi系からなる群より選ばれる少なくとも1種の鉛フリーはんだ粉末とを含む鉛フリーはんだペースト。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-28 
出願番号 特願2017-30143(P2017-30143)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B23K)
P 1 651・ 537- YAA (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 結城 佐織神野 将志  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 北村 龍平
平塚 政宏
登録日 2019-08-09 
登録番号 特許第6566272号(P6566272)
権利者 荒川化学工業株式会社
発明の名称 鉛フリーはんだペースト用フラックス、鉛フリーはんだペースト  

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