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審決分類 審判 全部申し立て 1項2号公然実施  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1369011
異議申立番号 異議2020-700633  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-25 
確定日 2020-12-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6653351号発明「非発酵ビール様発泡性飲料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6653351号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6653351号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成30年5月9日(優先権主張 平成30年1月15日(日本))に出願され、令和2年1月29日にその特許権の設定登録がされ、同年2月26日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の全請求項に対し、同年8月25日付けで特許異議申立人 山内 博明より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6653351号の請求項1?12に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、以下、これらを「本件特許発明1」などといい、まとめて「本件特許発明」という場合もある。

「【請求項1】
イソα酸を含有しており、飲料中の溶存酸素量が0.1ppm以上であり、光透過性容器に充填されていることを特徴とする、非発酵ビール様発泡性飲料。
【請求項2】
3-メチル-2-ブテン-1-チオールの含有量が100ppt未満である、請求項1に記載の非発酵ビール様発泡性飲料。
【請求項3】
前記光透過性容器が、520nmにおける分光透過率が15%以上の容器である、請求項1又は2に記載の非発酵ビール様発泡性飲料。
【請求項4】
麦芽使用比率66質量%以下である、請求項1?3のいずれか一項に記載の非発酵ビール様発泡性飲料。
【請求項5】
ノンアルコール飲料である、請求項1?4のいずれか一項に記載の非発酵ビール様発泡性飲料。
【請求項6】
イソα酸を含有する非発酵ビール様発泡性飲料を製造する方法であって、
飲料中の溶存酸素量が0.1ppm以上となるように調整し、光透過性容器に充填することを特徴とする、容器詰非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項7】
飲料中の3-メチル-2-ブテン-1-チオールの含有量を100ppt未満となるように調整する、請求項6に記載の容器詰非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項8】
前記光透過性容器が、520nmにおける分光透過率が15%以上の容器である、請求項6又は7に記載の容器詰非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項9】
酵母による発酵工程を有していない、請求項6?8のいずれか一項に記載の容器詰非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項10】
製造された非発酵ビール様発泡性飲料がノンアルコール飲料である、請求項6?9のいずれか一項に記載の容器詰非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項11】
麦芽の使用比率が66質量%以下である、請求項6?10のいずれか一項に記載の容器詰非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項12】
イソα酸を含有する非発酵ビール様発泡性飲料の溶存酸素量を0.1ppm以上となるように調整した後、光透過性容器に充填することを特徴とする、非発酵ビール様発泡性飲料の3-メチル-2-ブテン-1-チオールの含有量低減方法。」

第3 申立ての理由の概要
特許異議申立人 山内 博明(以下、「申立人」という。)は、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第9号証(以下、「甲1」などという。)を提出し、申立ての理由として、以下の理由を主張している。

1 申立ての理由
(1)理由1(新規性)
本件特許発明1?12は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であって、特許法第29条第1項第2号に掲げる発明に該当するから、本件特許発明1?12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

(2)理由2(進歩性)
本件特許発明1?12は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

申立人は、甲1に示された写真の飲料が公然実施発明であるとし、該公然実施発明に基いて新規性欠如の主張を、また該公然実施発明及び本件特許の優先日における技術常識に基いて進歩性欠如の主張をしている。

2 証拠方法
(1)甲1:山内博明、「報告書」、2020年8月19日
(2)甲2:「報道資料」、[online]、2016年8月17日、株
式会社博水社、インターネット<URL:http://ww
w.hakusui-sha.co.jp/wp-conte
nt/uploads/2016/09/e274cdf9d
6251a1072b23ab31f342bf2.pdf>
(3)甲3:一般財団法人 材料科学技術振興財団 分析評価部、「実験報
告書」、2020年8月24日
(4)甲4:一般財団法人 材料科学技術振興財団 分析評価部、「実験報
告書」、2020年7月7日
(5)甲5:株式会社博水社第二営業部から2020年7月30日で差し出
されたとされる「<ハイサワーの博水社 ■です>お問合せあ
りがとうございました」という件名のメール(2020/08
/04のタイムスタンプが付与されている)
(6)甲6:「製品情報」、[online]、株式会社博水社、[202
0年8月7日検索]、インターネット<URL:http:/
/www.hakusui-sha.co.jp/produ
cts/hippy/>
(7)甲7:国際公開第2013/080357号
(8)甲8:特開2017-216891号公報
(9)甲9:特開2017-55709号公報

第4 甲号証に記載された事項
1 甲1には、以下の事項が記載されている。
(甲1a)「株式会社博水社が市場で販売している、商品名「ハイサワーハイッピークリア&ビター」を購入した。以下のとおり「ハイサワーハイッピークリア&ビター」のパッケージの外観写真を示す。
(1)「ハイサワーハイッピークリア&ビター」の全体を示す外観写真

」(1ページ)

(甲1b)「(2)「ハイサワーハイッピークリア&ビター」のラベルを拡大した写真

」(2ページ)

(甲1c)「(3)「ハイサワーハイッピークリア&ビター」のラベルに記載の商品等表示を拡大した写真

」(3ページ)

2 甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2a)「



(甲2b)「



(甲2c)「



3 甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3a)「[報告書番号]
MST-20-510030
[実験日]
2020年8月20日
[実験場所]
一般財団法人 材料科学技術振興財団 東京本部
[実験者]
一般財団法人 材料科学技術振興財団
分析評価部 KB
山崎 健一
[目的]
サンプルの溶存酸素濃度を測定すること。
[試料]
試料種 :ペットボトル入り炭酸飲料
試料名 :炭酸飲料(ハイサワー ハイッピー クリア&ビター)
試料数 :計1試料
[結果]
結果をTable 1に示します。

[分析条件]
●試料前処理 :試料を専用容器に移し替え測定しました。
●分析手法 :隔膜電極法
●測定装置 :inoLab Oxi7310(WTW社製)
●試料温度 :20℃」(1?2ページ)

(甲3b)「上記について、Fig.1に示すラベルの試料を確かに分析しました。

Fig.1 炭酸飲料(ハイサワー ハイッピー クリア&ビター)の商品ラベル」(2ページ)

4 甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4a)「[報告書番号]
MST-20-240146
[実験日]
2020年6月30日
[実験場所]
一般財団法人 材料科学技術振興財団 東京本部
[実験者]
一般財団法人 材料科学技術振興財団
分析評価部 KB
山崎 健一
[目的]
サンプルの透過率を測定すること。
[試料]
試料種 :ペットボトル
試料名 :炭酸飲料(ハイサワー ハイッピー クリア&ビター)
試料数 :計1試料
[結果]
結果をTable.1に示します。

[分析条件]
日本工業規格の「板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法」(JIS R3106: 1998)に準拠して測定しました。具体的な測定条件は以下のとおりです。
●分析手法 :UV-Vis(紫外可視分光光度法)
●測定装置 :V-670型紫外可視分光光度計(日本分光社製)
●測定波長 :520nm
●リファレンス :空気」(1?2ページ)

5 甲5には、以下の事項が記載されている。
(甲5a)「



6 甲6には、以下の事項が記載されている。
(甲6a)「



(甲6b)「



7 甲7には、以下の事項が記載されている。
(甲7a)「[0020] <参考例1;市販の非発酵ノンアルコールビールにおけるMBTの含有量>
市販の非発酵ノンアルコールビール3製品(A、B、C)及びビール7製品(D、E、F、G、H、I、J)について、岸本らの方法(・・・)に従い3-メチル-2-ブテン-1-チオール(MBT)の含有量を測定した。結果を表3に示す。
[表3]



8 甲8には、以下の事項が記載されている。
(甲8a)「【0018】
本発明の飲料中の苦味成分の含有量はビールらしい飲み応えが付与される限り特に限定されるものではないが、例示をすれば、ホップエキスの場合には5?25BU(好ましくは、10?20BU)に・・・調整することができる。」

9 甲9には、以下の事項が記載されている。
(甲9a)「【0072】
参考として、表4に、調査を行った市販品(赤色を呈するビールテイスト飲料)のL^(*)値、a^(*)値、b^(*)値、苦味価(BU)を開示する。
・・・
【0073】
【表4】



第5 当審の判断
1 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1)甲1に基づいて認定できる発明
ア 甲1は、申立人が2020年8月19日に作成した報告書であり、株式会社博水社が市場で販売しているとされる、商品名「ハイサワーハイッピークリア&ビター」(以下、「甲1物品」という。)を購入したことが記載され、その外観やラベルを撮影した写真が示されている(上記(甲1a)?(甲1c))。
そして、上記(甲1b)及び(甲1c)のラベルの拡大写真から、甲1物品は、ノンアルコールの炭酸飲料であり、原材料に苦味料(ホップ)を使用していること、PETボトル入りであることが理解できる。
したがって、甲1からは、次の発明(以下、「甲1発明A」という。)が一応認定できる(この発明の本件特許の優先日前の公然実施性は後述する。)。

甲1発明A:
「原材料に苦味料(ホップ)を使用した、PETボトルに充填されているノンアルコール炭酸飲料。」

イ 甲1には、上記アのとおり、市場で販売しているとされる飲料の外観等を撮影した写真が示されているに留まるが、PETボトル入りの飲料であるから、当然にその製造過程でPETボトルに充填する工程があるといえる。
したがって、甲1からは、次の発明(以下、「甲1発明B」という。)も一応認定できる(この発明の本件特許の優先日前の公然実施性についても後述する。)。

甲1発明B:
「原材料に苦味料(ホップ)を使用し、PETボトルに充填する工程を有する、ノンアルコール炭酸飲料の製造方法。」

(2)公然実施発明であるかについて
甲1物品に係る発明(甲1発明A又は甲1発明B)が、本件特許の優先日前に公然実施をされた発明(以下、単に「公然実施発明」という。)といえるかについて検討する。

ア 甲1について
甲1には、甲1物品を購入したことが記載されているが、報告書の作成日は、2020年8月19日とされる上、甲1に示された写真の飲料が実際に販売された商品であるのかも含めて、販売時期を明らかにする表示はまったくみられず、甲1物品の購入時期や販売時期など本件特許の優先日との関係が理解できる記載はない(上記(甲1a))。
したがって、甲1のみから、甲1物品に係る発明が、公然実施発明であることを理解することはできない。

イ 甲2について
(ア)甲2は、株式会社博水社の新商品に関する報道資料であり、「ビールテイスト飲料のお酒の割り材「ハイサワー ハイッピー クリア&ビター(1リットル・ペットボトル/参考価格・税込314円)を、2016年8月23日(火)に新発売し、全国の量販店、酒屋や当社オンラインショップほかで販売します。」と記載されている(上記(甲2a))。
甲1物品は、甲1の写真によると商品名がハイサワーハイッピークリア&ビターであり、販売者が株式会社博水社であり、PETボトル入りであり、その内容量は1000mlであるから(上記(甲1a)?(甲1c))、上記甲2記載の商品(以下、「甲2物品」という。)は、甲1物品と同一商品名のものであることは一応理解できる。
しかしながら、甲1物品の外観写真と、甲2物品の外観画像とを比較すると、甲1物品は「ハイサワーハイッピークリア&ビター お酒と割るだけ」(上記(甲1a))であるのに対し、甲2物品は「ハイサワーハイッピークリア&ビター お酒とわる炭酸飲料」(上記(甲2b))であり、両者のラベルの表示が異なっており、甲1物品と甲2物品とは異なるものである。
したがって、甲2物品に関する事項と、甲1物品に係る発明が公然実施発明であるかどうかとは直接の関係がない。

(イ)しかも、甲2の上記(ア)の記載は、2016年8月17日に、数日後の23日から甲2物品を販売する予定の告知に過ぎず、甲2物品が実際に販売されたことを示したものではない。
甲2には、「『ハイサワー ハイッピー クリア&ビター』は、2016年3月15日に業務用の200ミリリットル瓶を、5月10日に350ミリリットル瓶を発売。主に、200ミリリットル瓶は東京都内の居酒屋、350ミリリットル瓶は量販店で展開し、ご好評いただいております。今回の1リットルの商品は、ハイッピーシリーズ(全4商品)としても、初の大容量です。お客様の『家でもお得に飲める大容量の商品が欲しい』というお声にお応えし、新発売します。」(上記(甲2a))とも記載されているが、業務用の200ミリリットル瓶及び350ミリリットル瓶は、2016年8月17日の時点で販売されていたことが理解できるだけで、甲2物品については、販売予定であることが理解できるに留まる。
甲2にはさらに、「発売前8/17?オンラインショップでご購入の方に、新商品を1本プレゼント 今回、発売前の8月17日(水)から9月16日(金)までの期間限定で、当社オンラインショップで商品をお買い上げの方に、新商品『ハイサワー ハイッピー クリア&ビター』(1リットル)を無料で1本お付けするキャンペーンを行います。いち早く、新商品をお試しいただけるチャンスです。」(上記(甲2b))と記載されているが、8月17日からオンラインショップで商品を購入すると、甲2物品を1本プレゼントする予定であることが理解できるだけである。
また、甲2の「新商品概要」(上記(甲2c))にも、「発売日」の欄に「2016年8月23日(火)」、「販売場所」の欄に「※8/17?9/16の期間限定で、オンラインショップでご購入の方に、新商品を1本プレゼントするキャンペーンを実施します。」と、上で検討したのと同じような記載があるだけである。
このように、甲2の記載からは、甲2物品であっても、実際に本件特許の優先日前に市場に販売されていたことを理解することはできない。

(ウ)したがって、甲1及び甲2を考慮しても、甲1物品に係る発明が、公然実施発明であるとはいえない。

ウ 甲3及び甲4について
(ア)甲3には、試料名が、炭酸飲料(ハイサワーハイッピークリア&ビター)である試料について、溶存酸素濃度を測定した結果が示されている(上記(甲3a))。
しかしながら、甲3には、実験報告書の作成日(2020年8月24日)及び実験日(2020年8月20日)が記載されているだけで(上記(甲3a))、分析した試料が、甲1物品であることの記載もなければ、市場で販売された商品であることや、いつの時点で販売され、購入された商品であることの記載もない。
また、甲3で分析したとされる試料のラベル(上記(甲3b))が、甲1に示されているラベル(上記(甲1a)?(甲1c))と一致していることが一応理解できるからといって、甲1物品に係る発明が本件特許の優先日前の公然実施発明であることが示されているわけではないことは、上述のとおりである。

(イ)甲4には、試料名が、炭酸飲料(ハイサワーハイッピークリア&ビター)である試料のペットボトルについて、透過率を測定した結果が示されている(上記(甲4a))。
しかしながら、甲4には、実験報告書の作成日(2020年7月7日)及び実験日(2020年6月30日)が記載されているだけで(上記(甲4a))、分析した試料が、甲1物品であることの記載もなければ、市場で販売された商品であることや、いつの時点で販売され、購入された商品であることの記載もない。
そして、甲4には、甲4で分析した試料が、甲1物品であることを理解できるところはない。

(ウ)したがって、甲1及び甲3?4を考慮しても、甲1物品に係る発明が、公然実施発明であるとはいえない。

エ 甲5について
甲5には、博水社の「ハイサワーハイッピークリア&ビター」という商品は、製造工程において発酵の過程がないことが記載されている(上記(甲5a))。
しかしながら、甲5には、「日時:2020年7月30日 12:11:14 JST」の記載があるだけで(上記(甲5a))、いつの時点の商品の製造工程に関するものであるかの記載はなく、甲1物品の製造に関するものであることの記載もない。
したがって、甲1及び甲5を考慮しても、甲1物品に係る発明が、公然実施発明であるとはいえない。

オ 甲6について
甲6は、株式会社博水社のホームページ内の「ハイサワーハイッピークリア&ビター」に関する製品情報のページであり(上記(甲6a)、(甲6b))、検索日(2020年8月7日)時点の情報である。
しかも、甲6の商品ラベルの表示(上記(甲6a))は、甲1物品のラベルの表示(上記(甲1a))と異なっている。
したがって、甲1及び甲6を考慮しても、甲1物品に係る発明が、公然実施発明であるとはいえない。

カ 小括
よって、甲1物品に係る発明、すなわち、上記(1)で認定した甲1発明A及び甲1発明Bは公然実施発明であるとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?12は、甲1物品に係る発明を根拠として、公然実施発明であるということはできず、また、公然実施発明及び本件特許の優先日における技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできないから、本件特許発明1?12に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものではなく、取り消すべきものではない。

2 申立人の主張について
(1)公然実施発明である甲1飲料に関する主張について
ア 申立人は、特許異議申立書9ページ2行?12ページ6行において、甲1に示された飲料(以下、「甲1飲料」という。)は、甲2の記載から本件特許の優先日前に市場に販売されたものであり、甲3及び甲4の実験報告書から、溶存酸素量及びペットボトルの分光透過率が特定でき、甲5の記載から、製造工程に発酵の過程を有さないこと、甲1及び甲6の記載からノンアルコール飲料であることから、これの事項を踏まえると、公然実施発明である甲1飲料は、次の構成を備えた飲料であると主張している。

甲1飲料:
「ホップを原料として用いており、
飲料中の溶存酸素量が0.8ppmであり、
520nmにおける分光透過率が87%であるペットボトル容器に充填されている、
非発酵ノンアルコールビールテイスト炭酸飲料。」

イ しかしながら、前記2(2)で検討したとおり、甲1物品は、甲2?甲6にそれぞれ示されたものと同一のものであると理解できないから、申立人の主張する公然実施発明である甲1飲料の発明を認定することはできない。
仮に、甲2のとおり、商品名が「ハイサワーハイッピークリア&ビター」である商品が、2016年8月23日以降に予定どおり実際に市場に販売されていたとしても、その時点から2020年8月19日に作成された報告書において、購入し、写真を示したとされる甲1物品に至るまで、商品名が「ハイサワーハイッピークリア&ビター」であるものは、その製造方法や成分組成など、何らの変更もしていないことは示されていない。
同様に、仮に、甲3及び甲4の実験報告書や、甲5の記載が、甲1物品に関するものであるとしても、それは、2020年8月19日に作成された報告書において、購入し、写真を示したとされる甲1物品に関することであって、本件特許の優先日前に市場で販売された商品が現に存在し、該商品が甲3?5で示された「ハイサワーハイッピークリア&ビター」との間に相違がないことは示されていない。
そして、商品名が「ハイサワーハイッピークリア&ビター」で一致しているものは、甲2に示された発売当初から甲1が作成された時点に至るまで、同じ製造方法、同じ成分組成などであることが、飲料の技術分野における技術常識であることや、そのようなことが定められていることを示す証拠もない。
したがって、上記仮定を踏まえて検討しても、申立人の主張する公然実施発明である甲1飲料の発明を認定することはできない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(2)本件特許発明1?5の新規性及び進歩性欠如の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書12ページ7行?26ページ1行において、本件特許発明1、3?5は、甲1飲料と同一であるか、そうでなくても、甲1飲料及び技術常識から当業者が容易に想到し得るものであり、本件特許発明2は、甲7?9の記載から甲1飲料と同一である蓋然性が高く、そうでなくても、甲1飲料及び技術常識から当業者が容易に想到し得るものであると主張する。

イ 甲1から認定できる発明は、前記1(1)アで示した甲1発明Aに留まるところ、甲1発明Aは、原材料に苦味料(ホップ)を使用したものであり、PETボトルに充填されている炭酸飲料であるから、本件特許発明1とは、イソα酸を含有しており、光透過性容器に充填されている、ビール様発泡性飲料である点では一致しているといえるとしても、前記1(2)ウ及びエで述べたとおり、甲3?5に示された事項は甲1物品に関するものとはいえず、甲1物品の飲料中の溶存酸素量も飲料が非発酵飲料であるかも不明といわざるを得ないから、甲1発明Aの飲料中の溶存酸素量も飲料が非発酵飲料であるかも不明である。
甲7には、市販の非発酵ノンアルコールビールにおけるMBT(3-メチル-2-ブテン-1-チオール)の含有量に関する記載があり(上記(甲7a))、甲8には、ホップエキスを用いた場合のビールらしい飲み応えが付与される苦味成分の含有量に関する記載があり(上記(甲8a))、甲9には、市販のビールテイスト飲料の苦味価に関する記載がある(上記(甲9a))。
これら甲7?9の記載から、ビールテイスト飲料の一般的なMBTの含有量や苦味価について理解することはできるが、それによって、甲1物品に係る発明が公然実施発明であることにはならないし、甲1物品の飲料中の溶存酸素量や飲料が非発酵飲料であることを理解できるものでもないから、甲1発明Aの飲料中の溶存酸素量も飲料が非発酵飲料であるかも不明である。
そして、甲1発明Aについて、飲料中の溶存酸素量を0.1ppm以上とすることや非発酵飲料とする動機付けもない。

ウ よって、本件特許発明1及び本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?5についての申立人の主張は採用できない。

(3)本件特許発明6?11の新規性及び進歩性欠如の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書26ページ2行?28ページ20行において、本件特許発明6、7、8、10及び11は、それぞれ、本件特許発明1、2、3、5及び4を経時的な表現に修正したに過ぎないから、それらと同じ理由により、また、本件特許発明9は、甲5の記載から、いずれも甲1飲料との関係で実質的に同一であるか、そうでなくても、甲1飲料及び技術常識から当業者が容易に想到し得るものであると主張する。

イ 甲1から認定できる発明は、前記1(1)イで示した甲1発明Bに留まるところ、甲1発明Bは、原材料に苦味料(ホップ)を使用したものであり、PETボトルに充填する工程を有する、炭酸飲料の製造方法であるから、本件特許発明6とは、イソα酸を含有するビール様発泡性飲料を製造する方法であって、光透過性容器に充填する、容器詰ビール様発泡性飲料の製造方法である点では一致しているといえるとしても、上記(2)イで述べたのと同様に、甲1物品の飲料中の溶存酸素量も非発酵飲料であるかも不明といわざるを得ないから、甲1発明Bが、飲料中の溶存酸素量を0.1ppm以上に調整する工程を有することも、非発酵飲料であるかも不明である。
そして、甲1発明Bについて、飲料中の溶存酸素量を0.1ppm以上に調整する工程を設けることや非発酵飲料とする動機付けもない。

ウ よって、本件特許発明6及び本件特許発明6のすべての発明特定事項を含む本件特許発明7?11についての申立人の主張は採用できない。

(4)本件特許発明12の新規性及び進歩性欠如の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書28ページ21行?29ページ16行において、甲1飲料の製造過程において、ホップを原料として用いた、所定の溶存酸素量である飲料が、ペットボトル容器に充填されることで、結果として、MBTの含有量が低減されることとなるから、本件特許発明12は、甲1飲料との関係で実質的に同一であるか、そうでなくても、甲1飲料及び技術常識から当業者が容易に想到し得るものであると主張する。

イ 甲1から認定できる方法の発明は、前記1(1)イで示した甲1発明Bに留まり、上記(3)イで述べたとおり、甲1発明Bにおいて、飲料中の溶存酸素量が0.1ppmとなる工程を有するかは不明であり、飲料中の溶存酸素量が0.1ppmとなるように調整する動機付けもなく、ましてや、MBTの含有量を低減する方法とする動機付けもない。

ウ よって、本件特許発明12についての申立人の主張は採用できない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-12-04 
出願番号 特願2018-90521(P2018-90521)
審決分類 P 1 651・ 112- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高山 敏充  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 関 美祝
冨永 保
登録日 2020-01-29 
登録番号 特許第6653351号(P6653351)
権利者 アサヒビール株式会社
発明の名称 非発酵ビール様発泡性飲料及びその製造方法  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 大槻 真紀子  

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