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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) A44B
管理番号 1369035
判定請求番号 判定2020-600003  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 判定 
判定請求日 2020-01-08 
確定日 2020-12-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第5986197号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「スライドファスナー」は、特許第5986197号発明の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号説明書に示すスライドファスナーは、特許第5986197号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。
なお、判定請求書の請求の趣旨の欄には、「イ号説明書に示すスライドファスナーは、特許第5986197号発明の技術的範囲に属する、との判定を求める。」と記載されているところ、「特許第5986197号発明」は、「(3)本件特許の説明」に記載された「本件特許の請求項1(以下「本件発明1」という。)」という記載、「(4)結語」に記載された「イ号は本件発明1の技術的範囲に属するので、請求の趣旨どおりの判定を求める。」という記載等からみて、本件の請求の趣旨は、「特許第5986197号の請求項1に係る発明」に対するものと判断した。

第2 手続の経緯
1 特許第5986197号(以下「本件特許」という。)の発明に係る出願は、2012年(平成24年)5月28日を国際出願日とする出願であって、平成28年8月12日に、特許権の設定登録がされたものである。
その後、令和2年1月8日に、本件判定が請求され、これに対し、同年2月13日付けで、当審が被請求人へ判定請求書副本を送達したところ、同年5月18日に、被請求人から判定答弁書(以下「答弁書」という。)が提出された。
そして、令和2年7月14日付けで、当審が請求人に対してイ号に関する審尋をしたところ、同年8月19日に、請求人から回答書(以下、単に「回答書」という。)が提出された。

2 被請求人は、答弁書において次のように主張している。
「請求人は、被請求人がイ号と同様のスライドファスナーを日本国内の展示会に出展し、販売の申出を行っていることにつき、何ら証拠を提出していない。また、イ号自体については、販売申出等の主張すら一切行っていない。請求人がイ号自体についても被請求人による販売申出を主張するのであれば、被請求人はこれを争う。なお、請求人は、そもそも、審判便覧を無視し、イ号自体の特定を十分に行っておらず、その出所すら明らかにしていない(審判便覧(第18版)58-01・3(5)イ参照)。」(「7-2」)
しかし、請求人が提出した回答書(3頁8?9行)及び甲第3号証(1?3頁)によれば、請求人は、「ファッション ワールド 東京 2017【春】」において、被請求人からイ号の提供を受けたとし、この提供を受けたイ号をもとに、請求人はイ号説明書を提出している。
したがって、イ号について、審理できる程度に十分に特定され、請求人が、イ号の実施者でない者を相手方に表示して判定を受けようとするものともいえないから、請求の趣旨のとおり、以下、イ号説明書に示すスライドファスナーが、本件特許の請求項1に係る発明の技術的範囲に属するか否かについて検討する。

第3 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、構成要件ごとに分説し、アルファベットの大文字の符号を付すと、次のとおりである。以下、それぞれの構成要件を、「構成要件A」等という。
「【請求項1】
A 一対のファスナーテープ(20)と、
B 前記一対のファスナーテープの対向するテープ側縁部(20a)に縫い糸(33)によりそれぞれ縫い付けられ、複数のファスナーエレメント(31)を有する一対のファスナーエレメント列(30)と、
C 前記一対のファスナーエレメント列を噛合・分離させるスライダー(40)と、を備えるスライドファスナーであって、
D 前記ファスナーエレメント列は、透光性を有する合成樹脂製のコイル状のファスナーエレメント列であり、
E 前記一対のファスナーテープの前記テープ側縁部が、前記一対のファスナーテープの間で対向するテープ端縁(20b)をそれぞれ有し、前記テープ端縁の間において隙間(S)が前記一対のファスナーテープの長手方向に沿って一様に形成され、
F 前記ファスナーエレメントは、噛合頭部(31a)と、前記噛合頭部から突出し平行に延びる第1脚部(31b)及び第2脚部(31c)と、を有し、
G 前記第1脚部は前記ファスナーテープと接触し、前記第2脚部は前記ファスナーテープと非接触であり、
H 前記第1脚部は、前記ファスナーテープ及び前記第2脚部と異なる色に着色され、
I 前記第2脚部は無着色であり、
J 前記一対のファスナーテープ間の前記隙間を介して前記第1脚部の色を視認可能であるスライドファスナー。」

第4 イ号
1 判定請求書に添付されたイ号説明書には、次の記載がある。
「イ号は下記写真1のとおり、「TH」のロゴが入ったスライダーを備えている。一対のファスナーテープの間で対向するテープ端縁の間において隙間が形成されており、当該隙間が長手方向に沿って形成されている。その結果、一対のファスナーテープ間の隙間を介しておもて面側の脚部の色(青色)を視認可能となっている。

【写真1】

イ号のおもて面は下記写真2のとおりであり、縫い痕を確認することができる。
【写真2】


イ号の裏面は下記写真3のとおりであり、縫い糸を確認することができる。

【写真3】


縫い糸に関しては、裏面側を斜めから撮影した下記写真4と当該写真4を拡大した写真5とからも確認することができる。黒色の縫い糸は、長手方向に延在する白色の糸を貫通してファスナーエレメントをファスナーテープに縫い付けている。
なお、ファスナーテープにファスナーエレメントが固定されていなければ、ファスナーテープを開閉する動作を行うことができず、ファスナーとして機能しないという技術常識が存在している。また、写真6で示すようにファスナーテープだけを把持してもファスナーエレメントが落下していないことからも、ファスナーテープにファスナーエレメントが固定されていることを確認できる。ファスナーテープにファスナーエレメントを固定するに際して縫い糸を用いることは技術常識であり、実際にイ号でも縫い糸が用いられている。
【写真4】

【写真5】

【写真6】


また、写真4及び写真5から、噛合頭部から裏面側の脚部が直線状に延びていることを確認できる。また、裏面側の脚部は着色されておらず、半透明の樹脂素材がむき出しになっていることを確認することができる。

おもて面側を斜めから撮影した写真が下記写真7であり、当該写真7を拡大した写真が写真8である。これらの写真から、半透明の樹脂素材に青色の着色が施されていることも確認できる。

また、上記写真5と下記写真8から、噛合頭部からおもて面側の脚部が直線状に延びていることを確認できる。
【写真7】

【写真8】


ファスナーエレメントの形状を示すために写真9を提示する。上記写真4、写真5、写真7及び写真8に加え、写真9からしても、おもて面側の脚部と裏面側の脚部は噛合頭部から平行に延びることを確認できる。

【写真9】

裏面側の脚部が透光性を有することを確認するために、写真10乃至写真15を準備した。写真10乃至写真15のいずれにおいてもイ号のファスナーエレメントの下方にライトが載置され、ライトの光が外方に漏れ出さないように、光を透過しない部材でイ号のファスナーエレメントを挟持している。
なお、写真10乃至写真15のイ号は写真1乃至写真9のイ号と同じものであり、写真1乃至写真9のイ号を光を透過しない部材である黒い布と緑色のケースによって挟持したものである。

写真10はフラッシュも用いて撮影した写真であり、写真11は写真10と同じ状態でフラッシュを用いずに撮影した写真(シャッタースピードを遅くしている。)である。写真12は写真11を拡大したものである。
写真10を拡大したものが写真13である。
【写真10】

【写真11】

【写真12】

【写真13】

透光性とは文字通り光を透過させる性質のことを意味するが、写真11及び写真12で示されるとおり、少なくとも青色の着色がなされていないむき出しの樹脂からなる裏面側の脚部は光を透過しており、透光性を有している(ファスナーエレメントを挟持している部材を光が透過していないことからも、このことを確認できる。)。

写真14は写真10及び写真11と概ね同じ状態において、フラッシュを用いず、かつシャッタースピードを特段遅くすることなく撮影したものである。写真14を拡大したものが写真15である。これらの写真からも、むき出しの樹脂からなる裏面側の脚部を介して光が透過していることを確認できる。

【写真14】


【写真15】



2 上記1から、イ号について、次のように理解できる。
(1)【写真1】及び【写真6】から、写真の上下方向に延びる青色・直線状の部分を挟んで、写真の上下方向に延びる一対の黒色・帯状の生地が看取される。また、【写真1】及び【写真7】から、アルファベットTHが印された部材及びこれが取り付けられた部材が看取され、このアルファベットTHが印された部材が一対の黒色・帯状の生地に対して移動することにより、【写真1】では一対の黒色・帯状の生地が繋がっているが、【写真7】では分離していることが看取される。
また、【写真3】?【写真5】は、【写真1】及び【写真2】に写るイ号を裏返して写したものであるところ、青色・直線状の部分を裏返して写した【写真5】及び【写真10】では、指に比べて小さな部材が、直線状に列をなして並んでいることが看取され、【写真3】では、それらが噛合していることが看取される。
これらのことから、イ号はスライドファスナーであり、一対の黒色・帯状の生地はファスナーテープであり、アルファベットTHが印された部材を備えた部材は、引き手を備えたスライダーであり、指に比べて小さな部材はファスナーエレメントであり、それらの複数のファスナーエレメントが直線状に列をなして並んでいるものは、ファスナーエレメント列である。

(2)【写真2】?及び【写真5】から、一方のファスナーテープの幅方向の側縁部にファスナーエレメント列が設けられ、ファスナーエレメント列が黒色の縫い糸によって一対のファスナーテープにそれぞれ縫い付けられていることが看取される。
また、イ号のスライダーの引き手が取り付けられている側は、人が引き手を持って操作するスライドファスナーの表側にあたるから、【写真1】は、表側から撮った写真であるといえる。そして、【写真1】から、表側の一対のファスナーテープの間には、ファスナーエレメント列の一部が看取されるから、一対の複数のファスナーエレメントを有するファスナーエレメント列が縫い付けられている側は 、スライドファスナーの裏側にあたる。

(3)【写真5】から、ファスナーエレメント列はコイル状であり、このファスナーエレメント列の複数のファスナーエレメントは、スライドファスナーの表側と裏側の面にそれぞれ沿う方向に、同じ向きに並んで延びる脚部(イ号説明書では「おもて面側の脚部、裏面側の脚部」と記載)と、それらの脚部をつなぐ接続部(イ号説明書では「噛合頭部」と記載)からなる部分を有することが看取される。

(4)【写真9】から、ファスナーエレメント列は、反対側に位置する黒色のファスナーテープが透けて見えることが看取される。
【写真10】?【写真15】から、光が脚部と接続部からなる部分を透過していることが看取できるから、この脚部と接続部からなる部分を含め一体で、同じ材料からなるコイル状のファスナーエレメント列は、透光性を有するものといえる。
また、コイル状のファスナーエレメント列は、【写真6】及び【写真10】からみて、人の指の大きさと比べて、脚部と接続部からなる部分の各々は小さく、このような小さい脚部と接続部からなる部分を一体に形成でき、裏側が透けて見え、透光性を有する材料は、合成樹脂であると推認される。

(5)【写真5】から、イ号の裏側の脚部はファスナーテープに接触せず、【写真8】から、イ号の表側の脚部はファスナーテープに接触することが看取される。

(6)【写真8】のイ号の表側から写した写真と、【写真4】、【写真5】及び【写真9】のイ号の裏側から写した写真を比べると、【写真4】、【写真5】及び【写真9】では、イ号の裏側の脚部は、その他のファスナーエレメント列の部分と同様に反対側が透けて見えるが、【写真8】のイ号の表側の脚部は、反対側が透けて見える材料の上面が青色であることが看取される。
【写真1】より、一対のファスナーテープとファスナーテープの間の隙間から、イ号の表側の脚部の上面の青色が、長手方向に沿って切れ目なく、ほぼ同じ幅で看取できるから、一対のファスナーテープの長手方向の側縁と側縁の間には、長手方向に沿って一様な隙間があるといえる。

3 上記2を総合すると、イ号は、各構成に本件特許発明の構成要件の分説と対応するようにアルファベットの小文字の符号を付すと、次のとおりのものである。
「a 一対の黒色・帯状のファスナーテープと、
b 一対の黒色・帯状のファスナーテープそれぞれの対向する側縁部に、ファスナーテープの長手方向にファスナーエレメント列が設けられ、ファスナーエレメント列は黒色の縫い糸によりファスナーテープに縫い付けられ、このファスナーエレメント列は、複数のファスナーエレメントを有し、
c スライダーのスライドにより、一対の黒色・帯状のファスナーテープのそれぞれに設けられたファスナーエレメント列は、一対の黒色・帯状のファスナーテープの間で噛合・分離し、
d ファスナーエレメント列は、コイル状で、反対側が透けて見え、透光性を有する合成樹脂製であり、
e 一対の黒色・帯状のファスナーテープの長手方向の側縁と側縁の間には、長手方向に沿って一様な隙間があり、
f ファスナーエレメントは、スライドファスナーの表側と裏側の面にそれぞれ沿う方向に延びる脚部と、それらの脚部をつなぐ接続部からなり、
g スライドファスナーの表側の脚部は、黒色・帯状のファスナーテープに接触し、スライドファスナーの裏側の脚部は、黒色・帯状のファスナーテープに接触せず、
h スライドファスナーの表側の脚部の上面は、青色であり、
i スライドファスナーの裏側の脚部は、他のファスナーエレメント列の部分と同様に反対側が透けて見え、
j 一対の黒色・帯状のファスナーテープ間の隙間から、スライドファスナーの表側の脚部の上面の青色が、長手方向に沿って切れ目なく視認可能であるスライドファスナー。」

第5 判断
1 構成要件A?Cについて
本件特許発明の構成要件A?Cは、スライドファスナーが、
「A 一対のファスナーテープ(20)と、
B 前記一対のファスナーテープの対向するテープ側縁部(20a)に縫い糸(33)によりそれぞれ縫い付けられ、複数のファスナーエレメント(31)を有する一対のファスナーエレメント列(30)と、
C 前記一対のファスナーエレメント列を噛合・分離させるスライダー(40)と、」を備えるというものである。
一方、イ号のスライドファスナーは、一対の「ファスナーテープ」を備え、それらの「ファスナーテープ」の対向する側縁部に「ファスナーエレメント列」が設けられ、黒色の「縫い糸」により「ファスナーテープ」に縫い付けられるものである。また、この「ファスナーエレメント列」は、複数の「ファスナーエレメント」を有し、「スライダー」のスライドにより、「ファスナーエレメント列」は、一対の「ファスナーテープ」の間で噛合・分離するものであるから、イ号の構成a?cは、本件特許発明の構成要件A?Cを、それぞれ充足するものといえる。

2 構成要件Dについて
(1)本件特許発明の構成要件Dは、
「D 前記ファスナーエレメント列は、透光性を有する合成樹脂製のコイル状のファスナーエレメント列であり、」というものである。
一方、イ号の「ファスナーエレメント列」は、コイル状で、反対側が透けて見え、透光性を有する合成樹脂製であるから、イ号の構成dは、本件特許発明の構成要件Dを充足する。

(2)ア 被請求人は、答弁書(「7-3-2(3)」)において、
「本件発明1の「透光性を有する」(構成要件1D)は「透明」を意味する。」、「イ号のファスナーエレメント列の裏面側の脚部は、乳白色であり(判定請求書【写真3】、同【写真4】、同【写真5】等)、透明ではない。」、「以上より、イ号は本件発明1の「透光性を有する」ファスナーエレメント列の構成要件(構成要件1D)を充足しない。」(5頁下から2行?6頁11行)旨主張する。
イ 本件特許発明の「透光性を有する」について、本件特許明細書(【0015】)には、
「ファスナーエレメント列30は、図2に示すように、透明な合成樹脂製のモノフィラメントを一定方向に巻回すことにより形成されるコイル状のファスナーエレメント列であり、複数のファスナーエレメント31を有している。そして、ファスナーエレメント列30は、その内部に芯紐32が挿通され、二重環縫いされる縫い糸33によってファスナーテープ20のテープ側縁部20aの裏面(下面)に縫い付けられる。また、モノフィラメントの合成樹脂材料としては、ポリエステル及びナイロンなどを挙げることができる。なお、ファスナーエレメント列30は、透明な合成樹脂からなり透光性を有しているが、これに限定されず、透光性を有していなくてもよい。」と記載されている。
この「透光性を有する」の技術的意義について、本件特許の審査段階の平成28年4月1日の意見書(「2.(5)」)において、
「本願の補正後の請求項1に係る発明の構成によれば、スライドファスナーを閉じたとき、ファスナーテープの隙間を介して第1脚部の色のみが視認可能な状態となります。一方、スライドファスナーを開けたときには、本願の図1に示すように、スライダーよりも上方は、ファスナーエレメント列の噛合が解除される状態となります。このとき、ファスナーエレメント列は、閉じたときよりも多方向で視認可能となります(本願の当初明細書の段落0024参照)。
ここで、この場合には、ファスナーエレメント列の第2脚部が視認可能となりますが、第2脚部とファスナーテープとの色が異なると、視認される色は、第1脚部と、ファスナーテープと、第2脚部と、の3つの色となります。しかしながら、このような3つの色が、それぞれが相俟ってデザイン性を高める組み合わせは限定的であり、さらに、3つの色があることで、2つの色の場合に比べてコントラストが発揮されにくい課題もあります。
そして、これら課題を解決するため、本願の補正後の請求項1に係る発明によれば、上記D、E、Iの構成を含み、これら構成の組み合わせにより、光が透明な第2脚部を透るため第2脚部は視認されにくいものの、着色された第1脚部が光を反射するため第1脚部は視認されやすくなり、デザイン性の高いスライドファスナーを提供することができる、という有利な効果が得られます。」(下線は、当審で付記した。)と説明されている。
そうすると、構成要件Dの「透光性を有する」とは、着色された部分(第1の脚部)を視認されやすくしてデザイン性を高めるために、着色された部分(第1の脚部)と比べて、他の部分(第2の脚部)を透明で光が透けるようにすることにより、視認し難くすることを意味すると解される。
ウ 一方、イ号の「ファスナーエレメント列」は、反対側が透けて見え、光をとおすものであるから、本件特許発明の「透光性を有する」ものに該当するものといえる。
よって、被請求人の、「イ号は本件発明1の「透光性を有する」ファスナーエレメント列の構成要件(構成要件1D)を充足しない」との主張は採用できない。

3 構成要件Eについて
本件特許発明の構成要件Eは、
「E 前記一対のファスナーテープの前記テープ側縁部が、前記一対のファスナーテープの間で対向するテープ端縁(20b)をそれぞれ有し、前記テープ端縁の間において隙間(S)が前記一対のファスナーテープの長手方向に沿って一様に形成され、」というものである。
一方、イ号の構成eは「一対の黒色・帯状のファスナーテープの長手方向の側縁と側縁の間には、長手方向に沿って一様な隙間があり、」であり、イ号の構成eは、本件特許発明の構成要件Eを充足する。

4 構成要件Fについて
(1)本件特許発明の構成要件Fは、
「F 前記ファスナーエレメントは、噛合頭部(31a)と、前記噛合頭部から突出し平行に延びる第1脚部(31b)及び第2脚部(31c)と、を有し、」というものである。
ここで、本件特許明細書(【0016】)には、
「ファスナーエレメント31は、相手方のファスナーエレメント31と噛合・分離する噛合頭部31aと、噛合頭部31aの一端部から幅方向外側に延び、ファスナーテープ20と接触する第1脚部31bと、噛合頭部31aの他端部から幅方向外側に延び、ファスナーテープ20と非接触である第2脚部31cと、第1脚部31bの幅方向外端部と隣り合うファスナーエレメント31の第2脚部31cの幅方向外端部とを連結する連結部31dと、を備える。従って、第1脚部31b及び第2脚部31cは、噛合頭部31aから突出し平行に延びるように形成されている。」と記載されており、第1脚部31bと第2脚部31cが、「平行に延びる」とは、第1脚部31bと第2脚部31cが、共に、噛合頭部31aから、「幅方向外側に延び」ることを意味すると解される。「幅方向外側」は、ファスナーエレメント列が取り付けられたファスナーテープの側縁とは反対の側縁の側である。
一方、イ号の「ファスナーエレメント」は、それぞれの脚部がともに、接続部からスライドファスナーの表側と裏側の面にそれぞれ沿う方向に延びるものであるから、イ号の構成fは、本件特許発明の構成要件Fを充足する。

(2)被請求人は、答弁書(「7-3-2(4)」)において、
「イ号において、ファスナーエレメント列は楕円形状に巻かれており、ファスナーエレメントのおもて面側の脚部と裏面側の脚部は平行に延びていない(判定請求書【写真5】)。
以上より、イ号は、本件発明1の噛合部から突出し「平行に延びる」第1脚部(31b)及び第2脚部(31c)の構成要件(構成要件1F)を充足しない。」旨主張する。
しかし、構成要件Fの「平行に延びる」は、上記(1)で述べたように、第1脚部31bと第2脚部31cが、共に、噛合頭部31aから、「幅方向外側に延び」ることを意味するものと解されるから、被請求人の上記主張は採用できない。

5 構成要件Gについて
本件特許発明の構成要件Gは、
「G 前記第1脚部は前記ファスナーテープと接触し、前記第2脚部は前記ファスナーテープと非接触であり、」というものである。
一方、イ号の構成gは「スライドファスナーの表側の脚部は、黒色・帯状のファスナーテープに接触し、スライドファスナーの裏側の脚部は、黒色・帯状のファスナーテープに接触せず、」であり、イ号の構成gは、本件特許発明の構成要件Gを充足する。

6 構成要件H、Iについて
(1)本件特許発明の構成要件H、Iは、
「H 前記第1脚部は、前記ファスナーテープ及び前記第2脚部と異なる色に着色され、
I 前記第2脚部は無着色であり、」というものである。
一方、イ号のスライドファスナーの裏側の脚部は、ファスナーエレメント列の他の部分と同様に反対側が透けて見え、特に着色したものではなく、また、イ号のスライドファスナーの表側の脚部は、上面が青色であり、反対側が透けて見える合成樹脂材料を、青色で「着色」したものであることは明らかである。
そして、スライドファスナーの表側の脚部の「青色」は、ファスナーテープの「黒色」、スライドファスナーの裏側の脚部の「反対側が透けて見える」ものとは、異なる色である。
そうすると、イ号の構成h、iは、本件特許発明の構成要件H、Iを、それぞれ充足する。

(2)被請求人は、答弁書(「7-3-2(5)」)において、
「イ号のファスナーエレメント列の裏面側の脚部は、乳白色に着色されており(判定請求書【写真3】、同【写真4】、同【写真5】等)・・・・ファスナーエレメント列の噛合が解除された状態では、おもて面側の脚部(青)、ファスナーテープ(黒)、裏面側の脚部(白)の3色がはっきりと見える(判定請求書【写真8】等)。
以上より、イ号は、本件発明1の第2脚部が「無着色」であるとの構成要件1Iを充足しない。」旨主張する。
しかし、イ号のスライドファスナーの裏側の脚部は、上述のように、反対側が透けて見え、乳白色に着色したものではなく、特に、着色したものとはいえないから、被請求人の上記主張は採用できない。

7 構成要件Jについて
本件特許発明の構成要件Jは、
「J 前記一対のファスナーテープ間の前記隙間を介して前記第1脚部の色を視認可能である」というものである。
一方、イ号の構成jは「一対の黒色・帯状のファスナーテープ間の隙間から、スライドファスナーの表側の脚部の上面の青色が、長手方向に沿って切れ目なく視認可能である」というものであるから、イ号の構成jは、本件特許発明の構成要件Jを充足する。

第6 むすび
上記第5の1?7のとおり、イ号は、本件特許発明の構成要件をすべて充足するから、イ号は、本件特許発明の技術的範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2020-11-27 
出願番号 特願2014-518114(P2014-518114)
審決分類 P 1 2・ 1- YA (A44B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西藤 直人北村 龍平長尾 裕貴  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 森藤 淳志
石井 孝明
登録日 2016-08-12 
登録番号 特許第5986197号(P5986197)
発明の名称 スライドファスナー  
代理人 鷲見 健人  
代理人 大野 浩之  
代理人 和田 祐以子  
代理人 長谷部 陽平  

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