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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61K
審判 一部無効 4項(134条6項)独立特許用件  A61K
管理番号 1369196
審判番号 無効2018-800092  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-07-19 
確定日 2020-10-30 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5190159号発明「医薬」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 令和2年2月17日付け訂正請求において、特許第5190159号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5190159号の請求項1ないし2に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5190159号(以下「本件特許」という。)は、2012年8月8日を国際出願日として出願(特願2012-546269号)されたものであり、その特許権について、平成25年2月1日に設定登録を受けた(請求項の数9。特許権者:興和株式会社(以下、「被請求人」という。))。
その後、本件の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とすることについて、平成30年7月19日に東和薬品株式会社(以下「請求人」という。)から、本件審判の請求がされた。
本件審判の手続の経緯の概要は次のとおりである。
平成30年 7月19日付け 審判請求書・甲第1?甲第10号証提出
平成30年10月 9日付け 審判事件答弁書1・乙第1?乙第7号証、
乙第8号証の1?乙第8号証の2、乙第9
号証の1?乙第9号証の4、乙第10号証
の1?乙第10号証の2、乙第11号証・
訂正請求書提出
平成30年11月22日付け 審判事件弁駁書1・甲第12?甲第20号
証提出
平成31年 1月11日付け 上申書1(請求人)提出(上申書1は、本
件審判事件に関連する特許権侵害に基づく
損害賠償等請求事件における提出書面の写
しを提出するもの)
平成31年 1月29日付け 審理事項通知
平成31年 2月26日付け 上申書2(請求人)・甲第22?甲第40
号証提出(上申書2は審理事項通知に対し
て回答するもの)
平成31年 2月26日付け 上申書3(被請求人)・乙第12?乙第1
3号証提出(上申書3は審理事項通知に対
して回答するもの)
平成31年 2月26日付け 上申書4(被請求人)提出(上申書4は本
件審判事件に関連する特許権侵害に基づく
損害賠償等請求事件における提出書面の写
しを提出するもの)
平成31年 3月 6日付け 営業秘密に関する申出書(請求人)提出
平成31年 3月19日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)・甲第41
?甲第44号証提出
平成31年 3月19日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)・乙第1
4?乙第19号証提出
平成31年 3月25日付け 営業秘密に関する申出書(請求人)提出
平成31年 3月29日付け 証拠説明書(5)(請求人)・甲第45号
証提出
平成31年 4月 5日付け 証拠説明書(6)(請求人)・甲第46号
証提出
平成31年 4月 9日 第1回口頭審理
令和 元年 6月 5日付け 上申書5(請求人)提出(上申書5は本件
審判事件に関連する特許権侵害に基づく損
害賠償等請求事件、同損害賠償請求事件に
おける提出書面の写しを提出するもの)
令和 元年 6月14日付け 上申書6(請求人)提出(上申書6は本件
審判事件に関連する特許権侵害に基づく損
害賠償等請求事件、同損害賠償請求事件に
おける提出書面の写しを提出するもの)
令和 元年 6月25日付け 上申書7(被請求人)提出(上申書7は本
件審判事件に関連する特許権侵害に基づく
損害賠償等請求事件における提出書面の写
しを提出するもの)
令和 元年 7月 1日付け 審決の予告
令和 元年 9月 9日付け 訂正請求書・上申書8(被請求人)提出
令和 元年10月18日付け 審判事件弁駁書2・甲第47?甲第56号
証提出
令和 2年 1月14日付け 補正許否の決定
令和 2年 1月31日付け 上申書9(請求人)提出(上申書9は本件
審判事件に関連する特許権侵害に基づく損
害賠償等請求事件、同損害賠償請求事件に
おける提出書面の写しを提出するもの)
令和 2年 2月17日付け 審判事件答弁書2・訂正請求書提出
令和 2年 3月30日付け 訂正拒絶理由通知・職権審理結果通知書
令和 2年 7月 2日付け 意見書(被請求人)・乙第20?乙第23 号証提出

上記において、上申書、審判事件答弁書、審判事件弁駁書を提出順に「上申書1」、「審判事件答弁書1」、「審判事件弁駁書1」などとした。以下、書証は、その証拠番号により、甲第1号証を「甲1」、乙第1号証を「乙1」などともいう。なお、甲11、甲21及び甲50は欠番である。

なお、特許法第134条の2第6項の規定により、被請求人が平成30年10月9日及び令和元年9月9日にした訂正請求はいずれも取り下げられたものとみなされる。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
被請求人は、令和2年2月17日に訂正請求書を提出して、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5、7?9について請求項ごとに訂正(以下「本件訂正」という。)することを求めた。
その訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項A-1
特許請求の範囲の請求項1に、「(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;」と記載されているのを、「(B)クロスポビドン;」に訂正する。

(2)訂正事項A-2
特許請求の範囲の請求項1の「を含有し、」との記載と「かつ、水分含量が」との記載の間に、「(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、」との記載を付加する。

(3)訂正事項A-3
特許請求の範囲の請求項1の「水分含量が2.9質量%以下である固形製剤」と記載されているのを、「水分含量が1.5?2.9質量%である固形製剤」に訂正する。

(4)訂正事項A-4
特許請求の範囲の請求項2に、「固形製剤の水分含量が1.5?2.9質量%である、請求項1記載の医薬品。」と記載されているのを、
「次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)クロスポビドン;
を含有し、
(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、
(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、
かつ、水分含量が1.5?2.9質量%である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。」に訂正する。

(5)訂正事項A-5
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(6)訂正事項A-6
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(7)訂正事項A-7
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(8)訂正事項B-1
特許請求の範囲の請求項7に、「水分含量が1.5?2.9質量%である、請求項6記載の固形製剤。」と記載されているのを、
「次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)クロスポビドン;
を含有し、
(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、
(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、
かつ、水分含量が1.5?2.9質量%である固形製剤。」に訂正する。

(9)訂正事項B-2
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(10)訂正事項B-3
特許請求の範囲の請求項9に、「固形製剤が錠剤である、請求項6?8のいずれか1項記載の固形製剤。」と記載されているのを、
「次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)クロスポビドン;
を含有し、
(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、
(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、
水分含量が1.5?2.9質量%である固形製剤であって、
かつ、錠剤であって、気密包装体に収容される固形製剤。」に訂正する。

2 訂正の適否についての検討
(1)訂正の目的について
ア 訂正事項A-1は、本件訂正前の請求項1に成分(B)の選択肢として記載されていた「カルメロース及びその塩」及び「結晶セルロース」を削除するものであり、成分(B)を限定するものである。
したがって、訂正事項A-1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項A-2は、本件訂正前の請求項1に係る発明における固形製剤について、「(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上」を含有するとされていたのに対して、本件訂正後に、固形製剤が「カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、」とすることにより、固形製剤を限定するものである。
したがって、訂正事項A-2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ウ 訂正事項A-3について、本件訂正前の請求項1に係る発明は、固形製剤の水分含量について上限値のみを特定している。
これに対して、本件訂正後の請求項1は、「水分含量が1.5?2.9質量%である固形製剤」との記載により、固形製剤の水分含量の下限値を明らかにすることで、固形製剤を限定するものである。
したがって、訂正事項A-3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

エ 訂正事項A-4は、本件訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して請求項1を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改める訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、本件訂正前の請求項2に記載された固形製剤が含有する成分(B)について、その選択肢として記載されていた「カルメロース及びその塩」及び「結晶セルロース」を削除して「クロスポビドン」に限定し、固形製剤が、「カルメロース及びその塩」及び「結晶セルロース」をいずれも含有せず、「ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有」しないこととして、固形製剤を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、訂正事項A-4は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

オ 訂正事項A-5は、本件訂正前の請求項3を削除するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

カ 訂正事項A-6は、本件訂正前の請求項4を削除するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

キ 訂正事項A-7は、本件訂正前の請求項5を削除するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ク 訂正事項B-1は、本件訂正前の請求項7が請求項6を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して請求項6を引用しないものとするものとし、独立形式の請求項へ改める訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、この訂正は、本件訂正前の請求項7に記載の固形製剤について、成分(B)の選択肢であった「カルメロース及びその塩」及び「結晶セルロース」を削除し、「(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有」しないものとし、「(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有」しないものとすることにより、固形製剤を限定するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ケ 訂正事項B-2は、本件訂正前の請求項8を削除するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

コ 訂正事項B-3は、本件訂正前の請求項9が請求項6?8を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して請求項6?8を引用しないものとし、独立請求項へ改める訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、この訂正は、本件訂正前の請求項9に記載の固形製剤について、成分(B)の選択肢であった「カルメロース及びその塩」及び「結晶セルロース」を削除し、「(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有」しないものとし、「(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有」しないものとし、「気密包装体に収容される」とすることにより、固形製剤を限定するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、この訂正は、本件訂正前の請求項9に記載の固形製剤について、本件訂正前の請求項9が引用する請求項7で特定されていた、「水分含量が1.5?2.9質量%である」ことを特定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)実質上特許請求の範囲の拡張、又は変更するものであるかについて
ア 訂正事項A-1は、本件訂正前の請求項1に成分(B)の選択肢として記載されていた「カルメロース及びその塩」及び「結晶セルロース」を削除するに過ぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項A-1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

イ 訂正事項A-2、A-3は、上記(1)で述べたとおり、本件訂正前の請求項1に記載されていた固形製剤を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項A-2、A-3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

ウ 訂正事項A-4は、上記(1)で述べたとおり、本件訂正前の請求項2について、請求項間の引用関係を解消して請求項1を引用しない独立形式の請求項へ改めるとともに、本件訂正前の請求項2に記載されていた固形製剤を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項A-4は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

エ 訂正事項A-5?A-7は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項A-5?A-7は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

オ 訂正事項B-1は、上記(1)で述べたとおり、本件訂正前の請求項7について、請求項間の引用関係を解消して請求項6を引用しない独立形式の請求項へ改めるとともに、本件訂正前の請求項7に記載されていた固形製剤を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項B-1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

カ 訂正事項B-2は、本件訂正前の請求項8を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項B-2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

キ 訂正事項B-3は、上記(1)で述べたとおり、本件訂正前の請求項9について、請求項間の引用関係を解消して請求項6?8を引用しない独立形式の請求項へ改めるとともに、本件訂正前の請求項9に記載されていた固形製剤を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項B-3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

(3)新規事項の追加の有無について
ア 訂正事項A-1は、本件訂正前の請求項1に成分(B)の選択肢として記載されていた「カルメロース及びその塩」及び「結晶セルロース」を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項A-1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

イ 訂正事項A-2について、本件訂正前の請求項1には、「次の成分(A)及び(B):・・・(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;を含有し、・・・である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。」との記載が、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」ということがある。)の段落【0009】には、「本発明は、ピタバスタチン又はその塩と、カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上とを含有する、ラクトン体生成の抑制された固形製剤、及び当該固形製剤を用いた医薬品を提供することを課題とする。」との記載がある。
これらの記載からみて、「カルメロース及びその塩」及び「結晶セルロース」は、固形製剤に含有される選択的な成分であるといえ、成分(B)の選択肢としては他にクロスポビドンが記載されているから、本件明細書又は本件訂正前の特許請求の範囲には、「カルメロース及びその塩」及び「結晶セルロース」をいずれも含有しない固形製剤が記載されているといえる。
したがって、訂正事項A-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項A-2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正事項A-3について、本件訂正前の請求項2には、「固形製剤の水分含量が1.5?2.9質量%である」との記載があり、本件明細書の段落【0025】には、「水分含量が1.5?2.9質量%(・・・)である本発明の固形製剤」との記載がある。
したがって、訂正事項A-3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項A-3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

エ 訂正事項A-4による本件訂正は、以下の訂正事項を含むといえる。
訂正事項A-4-1)成分(B)について、本件訂正前の「カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上」を、本件訂正後に、「クロスポビドン」に訂正する。
訂正事項A-4-2)固形製剤について、本件訂正後に、「(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有」しないと訂正する。
訂正事項A-4-3)固形製剤について、本件訂正後に、「(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有」しないと訂正する。
訂正事項A-4-1は、訂正事項A-1と同様の訂正事項であるから、訂正事項A-1について上記したとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
訂正事項A-4-2は、訂正事項A-2と同様の訂正事項であるから、訂正事項A-2について上記したとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
訂正事項A-4-3について、本件明細書の段落【0030】には、「本発明において固形製剤は、その具体的形態(剤形)に応じて、上記成分以外に当該技術分野において通常用いられている添加剤を含有していてもよい。当該添加剤としては、例えば、・・・フィルム形成剤・・・等が挙げられ」との記載があり、段落【0034】には、「フィルム形成剤としては、例えば、・・・ヒドロキシエチルセルロース・・・ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。」との記載がある。
これらの記載から、本件明細書には、固形製剤がフィルム形成剤を含有するかしないかは任意の事項であることが記載されているといえるところ、固形製剤が、フィルム形成剤として例示されたヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールを含有するかしないかも、任意の事項であるとことが記載されているといえる。
してみれば、本件明細書には、固形製剤がヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有しないことが記載されているといえる。
したがって、訂正事項A-4-3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項A-4は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

オ 訂正事項A-5?A-7は、請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項A-5?A-7は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

カ 訂正事項B-1による本件訂正は、以下の訂正事項を含むといえる。
訂正事項B-1-1)成分(B)について、訂正前の「カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上」を、本件訂正後に、「クロスポビドン」に訂正する。
訂正事項B-1-2)固形製剤について、本件訂正後に、「(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有」しないと訂正する。
訂正事項B-1-3)固形製剤について、本件訂正後に、「(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有」しないと訂正する。
そして、訂正事項B-1-1?B-1-3は、上記訂正事項A-4-1?A-4-3と同様の訂正事項であるから、訂正事項A-4-1?A-4-3について上記したのと同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項B-1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

キ 訂正事項B-2は、請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項B-2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

ク 訂正事項B-3による本件訂正は、以下の訂正事項を含むといえる。
訂正事項B-3-1)成分(B)について、本件訂正前の「カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上」を、本件訂正後に、「クロスポビドン」に訂正する。
訂正事項B-3-2)固形製剤について、本件訂正後に、「(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有」しないと訂正する。
訂正事項B-3-3)固形製剤について、本件訂正後に、「(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有」しないと訂正する。
訂正事項B-3-4)固形製剤について、本件訂正後に、「水分含量が1.5?2.9質量%である」と訂正する。
訂正事項B-3-5)固形製剤について、本件訂正後に、「気密包装体に収容される」と訂正する。

訂正事項B-3-1?B-3-3については、本件訂正前の請求項9は本件訂正前の請求項7と同様に請求項6を引用しており、訂正事項B-1-1?B-1-3と同様の訂正であるから、訂正事項B-1-1?B-1-3について上記したのと同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
訂正事項B-3-4について、本件訂正前の請求項9が引用する請求項7には、「水分含量が1.5?2.9質量%である」ことが記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
訂正事項B-3-5について、本件明細書には、【0045】に「本発明は、上記の固形製剤が気密包装体に収容してなる医薬品を提供するものである。」との記載があるように、固形製剤が気密包装体に収容されることが記載されている。
したがって、訂正事項B-3-5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項B-3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

(4)独立特許要件を満たすかについて
ア 請求項1及び2について
本件特許無効審判事件においては、本件訂正前の請求項1及び2について、無効審判の請求の対象とされているので、本件訂正前の請求項1に係る訂正、本件訂正前の請求項2に係る訂正に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

イ 請求項3?5について
本件訂正により請求項3?5は削除されているため、独立特許要件は課されない。

ウ 請求項7?9について
本件特許無効審判事件において、請求項7?9は請求の対象とされておらず、請求項7及び9についての本件訂正は、上記(1)ク及びコに記載のとおり、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を含むものであるため、請求項7及び9に係る本件訂正について、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件が課される。
請求項8は削除されているため、独立特許要件は課されない。
そこで、本件訂正後の請求項7及び9に係る発明(以下、「本件訂正発明7」等という。)についての独立特許要件を、以下、検討する。

(ア)甲各号証の記載
本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、甲12、2?8、13?16、18?20、22?24、35?39、53には、以下の記載がある。

a 甲12(国際公開第2004/071403号)には、以下の記載がある(訳文で示す。)。
12-1)「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)は、特に、環境pH、湿度、光、温度、二酸化炭素および酸素にも敏感な活性物質である。」(6頁7行?8行)

12-2)「スタチン類の中でも、例えば、プラバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、メバスタチンまたはコンパクチン、フルバスタチンまたはフルインドスタチン、セル(セリ)バスタチンまたはリバスタチン、ロスバスタチンまたはビスタスタチン、およびイタバスタチンまたはピタバスタチンまたはニスバスタチンが知られている。」(6頁25行?28行)

12-3)「上述のスタチン類の多くは、特に環境影響、例えば、大気の影響や環境pHに敏感である。従来技術では、特定のスタチンは、酸性環境(低pH値)に敏感であり、ラクトン形態および異なる異性体に分解されることが知られている。例えば、プラバスタチン、アトルバスタチン、イタバスタチンおよびフルバスタチンは、酸性環境では、ラクトン形態に変換される。」(8頁7行?12行)

12-4)「上述の解決策に加え、酸化からの予防は、活性物質の周囲の空間の酸素含有量と、パッケージの壁および蓋を介する酸素の透過性が制御される包装によって達成することができる。」(13頁1行?3行)

12-5)「したがって、本発明の目的は、環境影響に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することである。さらに、本発明の目的は、酸化および環境湿度に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することである。好ましくは、本発明の目的は、活性物質と酸素との接触を防ぎ、それによって、活性物質の分解生成物(好ましくは酸化分解生成物および医薬賦形剤の分解生成物)の発生を防ぐことによって、環境影響に対して、好ましくは、酸化に対して、スタチンである活性物質を保護し、その結果として安定化することである。

本発明の説明
本発明の第1の目的は、環境の影響から、特に、酸化および/または環境湿度から、活性物質および1種類以上の医薬賦形剤および/または医薬剤形の保護を与え、その結果として、安定性を与えるコーティングである。
本発明の文脈において、本発明のコーティングという用語は、活性物質、または、マイクロカプセル、微小球、顆粒、ペレットなどの規則的な形状または不規則な形状の粒子の形態の1種以上の医薬賦形剤を含む活性物質、または錠剤、カプセルまたは従来技術で公知の同様な形態からなる群から選択される医薬剤形のいずれかであるコアに直接的に塗布される材料の層である。このようなコーティングは、環境影響から、特に、酸化および/または環境湿度から活性物質および1種類以上の医薬賦形剤をそれぞれ保護する。さらに、本発明のコーティングは、環境pH値にかかわらず、胃腸管の全ての部分における活性物質の放出を可能にする。」(15頁7行?16頁11行)

12-6)「本発明の活性物質は、環境影響に敏感であり、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤、カプトプリル、クロルプロマジン、モルヒネ、L-アスコルビン酸、ビタミンE、フェニルブタゾン、テトラサイクリンおよびオメプラゾールからなる群から選択される活性物質である。好ましくは、酸化および環境湿度に敏感な本発明の活性物質は、プラバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、シンバスタチンおよびロバスタチンからなる群から選択されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤である。
本発明の文脈において、コーティングは、1つ以上のフィルム形成剤を含む材料の層である。適切なフィルム形成剤は、(環境影響に敏感な)粒子に、または活性物質を含む医薬剤形のコアにコーティングの形態で塗布され、環境影響からの、好ましくは酸化および/または環境湿度に対する活性物質の保護を与える任意のフィルム形成剤である。最も好ましくは、このようなフィルム形成剤は、活性物質を酸化から保護する任意のフィルム形成剤である。上述のフィルム形成剤は、ポリビニルアルコール(PVA)およびセルロースの誘導体からなる群から選択される。セルロースの誘導体の中で、フィルム形成剤は、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)またはヒドロキシエチルセルロース(HEC)であり、最も好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)である。」(16頁12行?最終行)

12-7)「本発明の医薬剤形のフィラーは、結晶セルロース(MCC)、結晶セルロースの改変形態、ラクトース、糖類、異なる種類のデンプン、デンプンの改変形態、マンニトール、ソルビトールおよび他のポリオール、デキストリン、デキストランおよびマルトデキストリン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムおよび/またはリン酸水素塩、硫酸塩およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されてもよい。フィラーは、医薬剤形の総重量に対して1?99%の濃度で添加される。
本発明の医薬剤形のバインダーは、ラクトース、様々な種類のデンプン、デンプンの改変された形態、デキストリン、デキストランおよびマルトデキストリン、結晶セルロース(MCC)、糖類、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ゼラチン、アカシア、トラガカント、ポリビニルピロリドン、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されてもよい。バインダーは、医薬剤形の総質量に対して0.5?20%の濃度で添加される。
本発明の医薬剤形の崩壊剤は、架橋したカルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋したポリビニルピロリドン、架橋したカルボキシメチルデンプン、様々な種類のデンプンおよび結晶セルロース、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ポラクリリンカリウム、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されてもよい。崩壊剤は、医薬剤形の総質量に対して2?20%の濃度で添加される。
本発明の医薬剤形の滑沢剤は、ステアリン酸マグネシウム、カルシウム及び亜鉛、ベヘン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、マグネシウム三ケイ酸、ステアリン酸、パルミチン酸、カルナバロウ、二酸化ケイ素およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されてもよい。滑沢剤または滑剤は、医薬剤形の総質量に対して0.1?10%の濃度で添加される。
本発明の医薬剤形の緩衝化要素は、弱酸と強塩基の塩または強酸と弱塩基の塩、または所定範囲のpHを維持する他の類似物質である。緩衝化要素は、
a)クエン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ソルビン酸、コハク酸、安息香酸、リン酸、炭酸、硫酸、硝酸、ホウ酸およびケイ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩;
b)強酸または弱酸と組み合わせたアミン(例えば、トロメタミン(TRIS)、EDTA);
c)イオン交換体;および
d)これらの任意の組み合わせからなる群から選択されてもよい。
緩衝化要素は、医薬剤形の総質量に対して0?50%の濃度で添加される。
本発明の医薬剤形のアルカリ化要素は、アルカリ作用を有する基を含む有機化合物または無機化合物からなる群から選択され、以下からなる群から選択されてもよい:
a)アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の酸化物および水酸化物、周期律表の4、5および/または6族の酸化物、例えば、MgO、MgOH、NaOH、Ca(OH)_(2);
b)アミン、例えば、トロメタミン(TRIS)、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチル-グルカミン、グルコサミン、エチレンジアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン;
c)アルカリアミノ酸、例えば、アルギニン、ヒスチジンおよびリシン。
アルカリ化要素は、医薬剤形の総質量に対して0?50%の濃度で添加される。
本発明の医薬剤形の界面活性剤は、イオン性界面活性剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、非イオン性界面活性剤、例えば、様々な種類のポロキサマー(ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのコポリマー)、天然または合成のレシチン、ソルビタンと脂肪酸のエステル(例えば、Span(登録商標)(Atlas Chemie))、ポリオキシエチレンソルビタンと脂肪酸のエステル(例えば、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、例えば、それぞれ、Polysorbate80およびTween(登録商標)(Atlas Chemie))、ポリオキシエチル化水素化ヒマシ油(例えば、Cremophor(登録商標)(BASF))、ポリオキシエチレンステアレート(例えば、Myrj(登録商標)(Atlas Chemie))またはカチオン性界面活性剤、例えば、セチルピリジンクロリド、または上述の界面活性剤の任意の組み合わせからなる群から選択されてもよい。界面活性剤は、医薬剤形の総質量に対して0?15%の濃度で添加される。
固形医薬剤形のための他の要素は、従来技術から知られており、従来からあるものであり、固形医薬剤形の分野において使用されている。これらの他の要素は、着色剤、香味剤および吸着材料からなる群から選択される。
本発明の医薬剤形は、好ましくは、固形医薬剤形である。
本発明の医薬剤形は、環境湿度に感受性の活性物質を含み、医薬品剤形全体の5%未満、好ましくは4%未満、最も好ましくは3%未満の含水量を有する。本発明の医薬剤形は、低湿度で、活性物質HMG-CoAレダクターゼ阻害剤がヒドロキシル酸形態からラクトン形態へと変換するのを防ぎ、すなわち、乾燥時に5%の減量(LODが5%未満)であり、好ましくは、LODが4%未満、最も好ましくは3%未満である。」(23頁22行?26頁13行)

12-8)「本発明のマイクロカプセル、微小球、顆粒、ペレットなどの規則的な形状または不規則な形状の粒子、および錠剤、カプセルなどの医薬剤形は、任意の従来技術で知られている工程を用いて調製することができ、例えば、
-1つ以上のコーティングされた活性物質および/または1つ以上のコーティングされていない活性物質、フィラー、バインダー、緩衝剤、アルカリ化剤、崩壊剤と、必要な場合には、界面活性剤、固形医薬剤形のための他の従来成分の混合物を、適切な混合機で均一にし、・・・混合物を均質化する。得られた混合物を圧縮して錠剤にするか、またはカプセルに充填する。
-1つ以上のコーティングされた治療活性物質および/または1つ以上のコーティングされていない治療活性物質、フィラー、バインダー、緩衝剤、アルカリ化剤、崩壊剤と、必要な場合には、界面活性剤、固形医薬製剤のための他の従来成分の混合物を、適切な混合機で均一にし、・・・混合物を均質化する。得られた混合物を圧縮して錠剤にするか、またはカプセルに充填する。
・・・
-1つ以上のコーティングされた治療活性物質および/または1つ以上のコーティングされていない治療活性物質、フィラー、バインダー、緩衝剤、アルカリ化剤、崩壊剤と、必要な場合には、界面活性剤、固形医薬製剤のための他の従来成分の混合物を、適切な混合機で均一にし、・・・得られた混合物を均一にし、圧縮して錠剤にするか、またはカプセルに充填する。」(26頁17行?28頁2行)

12-9)「実施例8
あるコーティングされた錠剤の組成

8.1.錠剤コア

表20.コアの組成

錠剤コアの調製
ラウリル硫酸ナトリウムの溶液を、アトルバスタチンCaの上の温かい空気流に分散させた。得られた顆粒を乾燥させ、ふるい分けした。ProSolv SMCC 90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロースを均一に混合した。ステアリン酸マグネシウムおよびタルクを添加し、均一に混合し、圧縮して質量200mgの錠剤にした。

8.2.錠剤のコーティング

表21.コーティングの組成

コーティング分散物の調製および錠剤コアのコーティング
粘度が25?50mPasのカルボキシメチルセルロースナトリウム(Blanose CMC 7LF PH、Aqualon)(109.00g)と、グリセロール(11.00g)を、混合しつつ、水(2513.60g)に溶解した。得られた分散物を、コア質量に対して8重量%のコーティングが得られるまで、コアに噴霧した。コーティングプロセスの間、錠剤の質量を制御し、これによりコーティングの質量を決定した。

8.3 錠剤のpH値の決定
電位差測定により測定した実施例8の錠剤のpH値は6.7であった。同じ手順で、アトルバスタチンCaとProSolv SMCC 90との混合物(錠剤中のそれらの重量比に等しい比の混合物)のpH値を測定したところ、7.93であった。
活性物質とフィラーProSolv SMCC 90との錠剤と混合物のpH値を、40mgのアトルバスタチンCaのアッセイを含む1個の錠剤の20ml水性分散物中と、上記錠剤中に存在する量の活性物質とフィラーProSolv SMCC 90との混合物の分散物中で決定した。pH値を、組み合わせたマイクロpH電極Methrom 6.0204.100 pH 14/070℃を用いた分析装置720 KFS Titrino Methromで決定した。

8.4.異なる雰囲気における実施例8の医薬剤形中の活性物質の安定性の分析
分解生成物(ラクトンおよび酸化分解生成物)の発生に対する水/湿度および医薬賦形剤の影響を、異なる乾燥剤(乾燥剤なし、シリカゲル、モレキュラーシーブ)を用いたパッケージ(HDPEプラスチック瓶)の中のコーティングされた錠剤を試験することによって評価した。コーティングされた錠剤を、40/75(40℃±2℃、75%RH±5%)の条件下で1ヶ月間保存した。アトルバスタチンの分解生成物(ラクトンおよび酸化分解生成物)のアッセイを液体クロマトグラフィーによって測定した。参照サンプルとして、冷蔵庫(2?8℃)に保存した錠剤を分析した。錠剤中の含水量を、乾燥減量(LOD)を測定することにより、重量測定法により測定した。

表22.40/75(40℃±2℃、75%RH±5%)の条件下で1ヶ月間保存した本発明のコーティングされた錠剤中のアトルバスタチンの分解生成物(ラクトン)のアッセイにおける増加

加速安定性条件下で1ヶ月試験した後、乾燥剤を加えた錠剤では水分率が低いことに起因して、錠剤中のラクトンは、乾燥剤を加えない錠剤(レベルは0.22%)と比較して、かなり少ない割合で生成した(レベル0.05%)。決定された湿度レベル(すなわち、乾燥減量として概算される3.50%未満の水分)の下で、錠剤中で生成したラクトンの割合の差は、有意ではなかった。

表23.40/75(40℃±2℃、75%RH±5%)の条件下で1ヶ月間保存した本発明のコーティングされた錠剤中のアトルバスタチンの分解生成物(酸化分解生成物)のアッセイにおける増加

加速安定性条件下で1ヶ月試験した後、本発明のコーティングされた錠剤中のアトルバスタチンの分解生成物(酸化分解生成物)の増加は、コーティングされていない錠剤よりも有意に小さかった。」(41頁6行?44頁2行)

12-10)「特許請求の範囲
1.ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるフィルム形成物質を含む、環境影響からの活性物質および1種類以上の医薬賦形剤および/または医薬剤形の保護および安定性を提供するコーティング。
・・・
19.粒子が請求項1?18に記載のコーティングでコーティングされている、環境影響に敏感な活性物質を含む、コーティングされた粒子。
・・・
25.医薬剤形であって、
(a)請求項19?24に記載の1つ以上のコーティングされた粒子および/または環境影響に敏感な1種類以上の活性物質を含有する1つ以上のコーティングされていない粒子の混合物と、
(b)1種類以上の医薬賦形剤と、
(c)請求項1?18に記載のコーティング、又は請求項19?24に記載のコーティングされた粒子が医薬剤形に埋め込まれている場合には従来技術で知られている他のコーティングを含む、医薬剤形。
・・・
27.前記活性物質が、プラバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、シンバスタチンおよびロバスタチンからなる群から選択されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤、カプトプリル、クロルプロマジン、モルヒネ、L-アスコルビン酸、ビタミンE、フェニルブタゾン、テトラサイクリンおよびオメプラゾールからなる群から選択される、請求項25および26に記載の医薬剤形。
・・・
29.以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤を含む、請求項25?28に記載の医薬剤形。
(a)1種類以上のフィラー;(b)1種類以上のバインダー、(c)1種類以上の崩壊剤、(d)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(e)1種類以上の緩衝化要素、(f)1種類以上のアルカリ化要素、(g)1種類以上の界面活性剤および(h)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分
・・・
32.含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満である、請求項25?31に記載の医薬剤形。」(54頁1行?58頁18行)

b 甲2(高久史麿ら監修、治療薬マニュアル 2012、株式会社医学書院、2012年1月15日第1刷、623、625頁)には、以下の記載がある。
2-1)「


」(623頁右欄)

2-2)「


」(625頁左欄)

c 甲3(特開2012-144564号公報)には、以下の記載がある。
3-1)「【0002】
現在、高脂血症治療剤や高コレステロール血症治療剤として、HMG-CoA還元酵素阻害活性を有するスタチン類を有効成分とする医薬品が多数開発・上市されている。こうしたスタチン類としては、具体的には例えば、プラバスタチンナトリウム、フルバスタチンナトリウム、アトルバスタチンカルシウム水和物、ピタバスタチンカルシウム、ロスバスタチンカルシウムが挙げられ、これらの化合物はいずれもジヒドロキシカルボン酸(3,5-ジヒドロキシヘプタン酸又は3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸)骨格を共通骨格として有している。」

3-2)「【0003】
上記スタチン類の共通骨格であるジヒドロキシカルボン酸骨格は分子内で環化し、HMG-CoA還元酵素阻害活性の低いラクトン体を生成することが知られている。医薬品製剤中でのラクトン体の生成は、医薬品の有効性の低下や医薬品間での有効性の不均一性の原因ともなり得る。そのため、従来スタチン類の医薬品製剤中での安定性を向上させる試みが種々なされているが、その多くは低pH環境下におけるジヒドロキシカルボン酸骨格の不安定性を考慮して炭酸カルシウムなどの塩基性物質を配合してスタチン類のpH環境を塩基性にする、というものである。具体的には例えば、特許文献1には、フルバスタチンに代表される下記式(a)のHMG-CoAリダクターゼ抑制活性を有する化合物が中性?酸性pHにおいてラクトン体等の分解生成物を生成する旨、及び炭酸カルシウム等のアルカリ性媒体を組み合わせることにより安定化し得る旨記載されている。」

d 甲4(特開2001-206877号公報)には、以下の記載がある。
4-1)「【0002】
【従来の技術】該エージェントは、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAレダクターゼ(HMG CoAレダクターゼ)の阻害剤として、欧州特許出願第0521471号およびBioorganic and Medicinal Chemistry(1997)、5(2)、第437?444頁に記載されており、かつ高コレステロール血症、高脂血蛋白血症およびアテローム性動脈硬化症の治療のために有用である。
【0003】該エージェントと結びついている問題は、該エージェントが一定の条件下で分解することである。このことにより生成物の調剤および良好な貯蔵期限を有する医薬組成物を得ることが困難になる。形成される主要な分解生成物は、相応する(3R,5S)ラクトン(以下では「ラクトン(the lactone)」と呼ぶ)およびその中で炭素-炭素の二重結合に隣接しているヒドロキシ基が酸化されてケトン官能基になっている酸化生成物(以下では「B2」と呼ぶ)である。」

e 甲5(特開2011-144120号公報)には、以下の記載がある。
5-1)「【0001】
本発明はHMG-CoAレダクターゼ阻害薬を含有する安定化された経口固形製剤に関する。HMG-CoAレダクターゼ阻害薬は高コレステロール血症の治療に対して有効な薬物であり、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン及びそれらの塩からなる群から選択される。ここでいうHMG-CoAレダクターゼ阻害薬はその薬学上許容される塩、水和物も含み、特定の塩を意味する場合を除き、フリー体で総称する場合もある。
【背景技術】
【0002】
HMG-CoAレダクターゼ阻害薬は一般的に熱、水分及び酸に対し不安定である。これらは共通してヒドロキシ酸を有し、酸性環境下では類縁物質であるラクトン体を生じ易いため、種々の安定化特許が出願されている。
【0003】
特許文献1はアトルバスタチンに対する安定化金属塩添加剤として、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウムのようなアルカリ土類金属塩を用いることが挙げられている。
特許文献2ではアルカリ土類金属塩がアトルバスタチンバイオアベイラビリティーに影響を及ぼすため使用量は極力少量に留めるべきであることが示されている。これらのアルカリ土類金属塩は水分の吸湿を招くため、錠剤のような経口固形剤の場合、高湿度条件下での硬度低下が懸念される。
特許文献3は開環されたヒドロキシ酸構造を有するHMG-CoAレダクターゼ阻害薬を有効成分として含み、その水性分散液もしくは水溶液のpHが9未満であることを特徴とする医薬組成物が記載され、安定化剤として塩基性アミノ酸が挙げられている。また構造中に金属を含む化合物と接触することにより安定性が損なわれるという知見に基づき、一切の金属化合物を排除した製剤例が開示されている。しかし、各HMG-CoAレダクターゼ阻害薬の構造を比較してみても、例えば複素環を有するものとそうでないものがあり、この違いは脂溶性に影響を及ぼし当然、性状にも違いを生じるものと考えられる。然るに、本件実施例ではプラバスタチンナトリウムしか検討されておらず、特許文献1の報告を鑑みると、当該発明がHMG-CoAレダクターゼ阻害薬全般に当てはまるのかは不明である。
特許文献4ではプラバスタチンを含有する錠剤にヒドロキシプロピルメチルセルロースを溶解したコーティング液で下掛けし、更にヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートマレエートまたはヒドロキシプロピルメチルセルローストリメリテートで外層コーティングした製剤がある。
特許文献5では同様にヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートで外層コーティングした製剤が開示されている。これらの外層コーティング剤はカルボキシル基を有するため、酸に不安定なHMG-CoAレダクターゼ阻害薬に直接コーティングできないので下掛けを要し、その工程は煩雑である。
特許文献6ではプラバスタチンナトリウムとD-マンニトールの混合物にアミノアルキルメタクリレートコポリマーまたはエチルセルロースをエタノールに溶かした液を噴霧コーティングし、顆粒を調整することが開示されている。
特許文献7は非晶質アトルバスタチンを含む固体分散物を得るために、溶融加工可能なポリマーを軟化又は溶融させてアトルバスタチンをポリマーの担体中に分散させる。そのため、混合温度は130?180℃と高く、製造条件の制御が難しいと考えられる。
特許文献8は打錠障害を解決するために薬物の粉末又は当該薬物と添加物との混合粉末を造粒し、その造粒物の表面を高分子膜剤で被覆している。実施例11において、アトルバスタチンカルシウム及び軽質無水ケイ酸の造粒物にポリビニルアルコールの水溶液を被覆している。当該発明ではアトルバスタチンカルシウムに対してポリビニルアルコールを組合せた実施例及びその製剤のスティッキング発生レベルスコアしか示されておらず、当該方法で安定な製剤が得られるかは明らかでない。
本発明者らはHMG-CoAレダクターゼ阻害薬、例えばアトルバスタチンが高温環境下や水分を多く含む賦形剤と接触するとラクトン体が増加するなど好ましくない事象が発生することを見出した。本発明者らは特許文献6記載の技術をアトルバスタチンに適用してみたが、医薬品に要求される安定性を満たすものではなかった。
【0004】
【特許文献1】特表平08-505640号公報
【特許文献2】特表2006-527260号公報
【特許文献3】特開2003-055217号公報
【特許文献4】特開2000-159692号公報
【特許文献5】特開2000-264846号公報
【特許文献6】特開2004-339072号公報
【特許文献7】特表2008-521878号公報
【特許文献8】特開2009-089982号公報」

f 甲6(特表2007-512287号公報)には、以下の記載がある。
6-1)「【0001】
本発明は、有効成分としてHMG-CoAレダクターゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を含む持続放出性医薬組成物に関し・・・」

6-2)「【0073】
錠剤化された本発明の組成物は、望ましくは水分および光による脱色から保護するために、そして薬剤の苦味をマスクするために、コーティングされる。腸溶性コーティングは乳白剤および着色剤を含み得、あるいは常套の不透明フィルムコーティングは、錠剤核に、所望により腸溶性物質でコートされた後で、適用され得る。
・・・
【0075】
本発明の組成物に適用される非機能的フィルムコートには、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、親水性ポリマー、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース等が含まれ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(例えば、Opadry、Colorcon Corp.)が好ましい。
有機溶媒ビークルに適用、使用され得る疎水性フィルム形成剤には、例えば、エチルセルロース、セルロースアセテート、ポリビニルアルコール-マレイン酸無水物コポリマー等が含まれる。」

6-3)「【0078】
驚くべきことに、核成分と腸溶性コートの間に位置する非機能的副層が、腸溶性コートとの直接接触により引き起こされる化学的分解から有効成分を保護することが見出された。
【0079】
この特徴は、下記表3において例示される。
【0080】
バッチJO-4286.05Aは、腸溶性コートでのみコーティングした持続放出ピタバスタチン製剤である。
【0081】
バッチJO-4286.06Aは、サブコート(非機能的コート)および腸溶性コートでコーティングした持続放出ピタバスタチン製剤である。
【0082】
安定性試験は、分解産物ラクトンが保護的サブコートなしではより速く形成されることを示す。




g 甲7(特開平5-246844号公報)には、以下の記載がある。
7-1)「【0005】例えば今回、種々のpHの水溶液中におけるフルバスタチンの分解動力学は以下の通りであることが発見された:
37℃での残存フルバスタチン%
pH 1時間後 24時間後
7.8 98.3 98.0
6.0 99.6 97.1
4.0 86.7 25.2
1.0 10.9 0
フルバスタチン及び関連HMG-CoAリダクターゼ化合物の上述した不安定性は、ヘプテン鎖上のβ,δ-ヒドロキシ基が非常に動きやすいこと及び二重結合が存在することによると思われる。即ち中性?酸性pHにおいてこの化合物は脱離又は異性化又は酸化反応を容易に受けて共役不飽和芳香族化合物、並びにトレオ異性体、対応するラクトン、及び他の分解生成物を生成する。」

7-2)「【0048】そのような方法における1つの具体例では、薬剤及びアルカリ性媒体を水でそしやくし、次いで得られた粒子を乾燥する。次いで該粒子の「外部相」を形成させるべく別置した充填剤及び残りの賦形剤を乾燥した粒子と混合して、カプセル化、錠剤化などに適当な組成物とする。・・・
【0050】組成物の貯蔵寿命を延ばすためには、そしやく又は湿式粒状化又は他の水性に基づく方法によつて製造した粒状物を実質的に完全に乾燥する、即ち乾燥時の重量損失(L.O.D.)が3%より大きくない、好ましくは2%より大きくなくなるまで乾燥することが重要である。」

7-3)「【0071】
【実施例】
実施例1
次の処方物を含んでなる20mg且つ3号の経口用フルバスタチンカプセルを調製した:
【0072】
【表1】
表 1
成分 量(mg)
フルバスタチン 21.06
炭酸カルシウム、USP^(a) 62.84
炭酸水素ナトリウム、USP 2.00
微結晶セルロース、NF^(b) 23.35
予じめゼラチン化した殿粉、NF^(c) 20.95
精製水、USP q.s.*
別置物
微結晶セルロース 33.88
予じめゼラチン化した殿粉 20.95
タルク、USP 9.43
ステアリン酸マグネシウム、NF 1.05
──────────────────────────
a 重質、沈殿由来
b アビセルpH102、FMC社
c 殿粉1500、カラーコン社
* 工程中に除去
(a) フルバスタチン、炭酸水素ナトリウム2mg、炭酸カルシウム62.84mg、微結晶セルロ-ス23.35mg、及び予じめゼラチン化した殿粉20.95mgを5分間混合し、この混合物を40メツシユのふるいを通過させ、そして更に3分間混合した。
【0073】(b) 混合物を約4分間混合しながらこれに水を添加し、湿つた粒状物を生成せしめた。
【0074】(c) 湿つた粒状物を、入口温度50℃の流動床乾燥器により1.59%のL.O.D.まで乾燥した。」

h 甲8(特表2010-533210号公報)には、以下の記載がある。
8-3)「【0002】
フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチン及びロスバスタチンなどのHMG-CoAレダクターゼ阻害剤は、高リポタンパク血症及びアテローム性動脈硬化症の治療のための、高コレステロール症治療薬として一般に使用されている。しかしながら、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤及び構造的に相関した薬剤(このタイプの化合物は「スタチン」と一般に呼称される)は、ジヒドロキシヘプテン酸部分を含有し、かかるスタチンは、医薬組成物中に製剤化されると、非常に不安定で、分解されやすいことが知られていた。」

i 甲13(特表平11-503763号公報)には、以下の記載がある。
13-1)「背景技術
下記の一般式、

(式中、Rは有機基を示す。)
で示される7-置換-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸類がHMG-CoA還元酸素阻害作用を有し、高脂血症治療剤や、アテローム性動脈硬化症治療剤として有用であることが知られている(米国特許第4,739,073号、米国特許第5,001,255号、米国特許第4,751,235号、米国特許第4,804,679号、特開平1-279866号)。
しかし、これらの7-置換-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸類は、低pHにおいて不安定であり、これらの製剤化のためには特別の措置を講じる必要があり、炭酸カルシウムや炭酸ナトリウムなどを用いてpH8以上のアルカリ性媒体を含んでなる製剤化(特開平5-246844号)や、酸化マグネシウム、水酸化ナトリウムなどを用いてpH9以上を付与する塩基性化剤を含有してなる製剤化(特開平2-6406号)などが提案されている。」(3頁9行?下から2行)

j 甲14(特表2004-537553号公報)には、以下の記載がある。
14-1)「【0083】
ある態様において、スタチンはメバスタチン、・・・、NK-104(ピタバスタチン、ニスバスタチン、イタバスタチンとも呼ばれる)・・・。」

14-2)「【0090】
他の態様において、スタチンは・・・NK-104(ピタバスタチン、ニスバスタチン、イタバスタチンとも呼ばれる)・・・。」

k 甲15(特表2005-520818号公報)には、以下の記載がある。
15-1)「【0003】
HMG-CoAレダクターゼインヒビターは、・・・。たとえば、言及され得る化合物としては、・・・ピタバスタチン(pitavastatin)(従前はイタバスタチン(itavastatin))・・・。」

l 甲16(国際公開第03/105848号)には、以下の記載がある。
16-1)「製造例3
表19の処方により、ピタパスタチン放出制御錠が得られる。すなわち、表19の核錠を調製し、次いでその外層に表19の外層に相当する成分を用いて圧縮成形し、有核錠を得る。

」(31頁下から4行?32頁、表19)

m 甲18(特開2012-36163号公報)には、以下の記載がある。
18-1)「【0005】
しかし、一般にヒドロキシ酸は特に酸性環境下でラクトンを生成しやすい。上記式(1)で示されるHMG-CoAレダクターゼインヒビター及びその水和物(以下、総称して「HMG-CoAレダクターゼインヒビター」という)も、特に酸性環境下で不安定で、長期保存によりラクトンを含む不純物が生成することが知られている。かかる不純物は、HMG-CoAレダクターゼインヒビターの活性を低下させ、また副作用を引き起こし得る。」

n 甲19(特表2004-501121号公報)には、以下の記載がある。
19-1)「【0002】
・・・アトロバスタチン(atorvastatin)、プラバスタチン(pravastatin)、フルバスタチン(fluvastatin)、セリバスタチン(cerivastatin)などといった最終的な医薬製剤中において塩の形態で存在するHMG-CoA還元酵素阻害剤は、ヒドロキシ酸がラクトンに分解される酸性条件下に特に弱い。」

o 甲20(特表2005-538097号公報)には、以下の記載がある。
20-1)「【0040】
フルバスタチンおよび関連HMG-CoAレダクターゼ化合物の上記の不安定性は、ヘプテン酸鎖上のβ、δ-ヒドロキシ基の過度の不安定性および二重結合の存在によるものと信じられている。その結果、中性から酸性のpHにて、化合物は脱離または異性化または酸化反応を受け、共役不飽和芳香族化合物、ならびにスレオ異性体、対応するラクトン、および他の分解生成物を形成する。」

20-2)「【0060】
本発明の錠剤組成物は、望ましくは、水分および光変色から保護するため、および薬物の苦みをマスクするために、被覆される。腸溶性コーティングは乳白剤および着色剤を含んでいてもよいか、または慣用的オペークフィルムコーティングは、所望により腸溶性物質で被覆された後に、錠核に適用されてもよい。
【0061】
本発明の組成物に添加されるフィルムコーティング組成物中の適当なフィルム形成物の例には、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、親水性ポリマー、たとえばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが含まれ、これらのうちヒドロキシプロピルメチルセルロース(たとえば、Opadry YellowT, Colorcon Corp.)が好適である。有機溶媒ビヒクルを用いて適用され得る疎水性フィルム形成物には、たとえば、エチルセルロース、セルロースアセテート、ポリビニルアルコール-無水マレイン酸コポリマーなどが含まれる。」

p 甲22(特表2006-518354号公報)には、以下の記載がある。
22-1)「【0002】
本発明は、ピタバスタチンカルシウムの新規な結晶質形態およびアモルファス形態に関するものである。ピタバスタチンは、NK-104、イタバスタチン(Itavastatin)およびニスバスタチン(Nisvastatin)という名称によっても知られている。ピタバスタチンカルシウムは、化学名:(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩によって知られている。」

q 甲23(特開2011-201915号公報)には、以下の記載がある。
23-1)「【0002】
本発明は、ピタバスタチンカルシウムの新規な結晶質形態に関するものである。ピタバスタチンは、NK-104、イタバスタチン(Itavastatin)およびニスバスタチン(Nisvastatin)という名称によっても知られている。ピタバスタチンカルシウムは、化学名:(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩によって知られている。」

r 甲24(国立医薬品食品衛生研究所長、審査報告書、衛研発第2638号、平成15年4月25日)には、以下の記載がある。
24-1)「

」(2頁)

24-2)「審査結果報告(1)
平成13年4月17日
1.品目の概要
[販売名]:ニスバスタチンカルシウム、リバロ錠1mg、同2mg
・・・
ロ.物理的化学的性質並びに規格及び試験方法などに関する資料
原薬ニスバスタチンカルシウム((+)-ビス{(3R,5S,6E)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)-3-キノリル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸}一カルシウム)は・・・」(4頁)

s 甲35(特開2006-199632号公報)には、以下の記載がある。
35-1)「【0002】
口腔内崩壊錠剤は、消化管内で崩壊して薬物を放出するように設計された錠剤、カプセル剤などの固形製剤の嚥下が困難な患者、高齢者および小児のために服用し易い剤形として、及び服用に際して水を必要としない剤形として開発された。そのため口腔内において短時間に嚥液により全体が崩壊する一方で、包装、出荷、輸送などの取扱い過程において割れ、磨耗に耐えられる硬度(破壊強度)を必要とし、この両者の性質が最適にバランスされていなければならない。またこれら性質は製品の出荷から服用直前まで維持されていなければならないので、防湿性のPTP包装として出荷され、直前にこれを破って服用される。」

t 甲36(再表2010/074223号公報)には、以下の記載がある。
36-1)「【0002】
医薬品の多くは、酸素や水蒸気に不安定であり、無包装の状態で放置するとその約4割に何らかの変化が生じ、医薬品の品質上、致命的な問題となることが知られている。そのため、市販医薬品、特に固形製剤のほとんどは、PTP(press through pack)シート等の包装材で包装され、酸素や水蒸気から守られている。近年では、水蒸気バリア性(防湿性)と酸素バリア性に優れたポリ塩化ビニリデンを積層したPTPシートが開発され、実用化されている。」

u 甲37(第十三改正日本薬局方解説書 通則 製剤総則 一般試験法 1996、通則A-54、A-55)には、以下の記載がある。
37-1)「35 気密容器とは,通常の取扱い,運搬又は保存状態において,液状又は固形の異物又は水分が侵入せず,内容医薬品の損失,風解,潮解又は蒸発を保護することができる容器をいう.
気密容器の規定がある場合には,密封容器を用いることができる.
注(審決注:□内に注) 気密容器は外国薬局方のtight containerに相当する.気密容器の場合には液体又は固体の異物又は水分から内容医薬品を保護するものであって,気体は通過することもやむを得ない.ガラス瓶,かん,プラスチック容器などがこれに当たる.プラスチック製の包装をほどこしたものなど,ほとんど気密容器に属する.
36 密封容器とは,通常の取扱い,運搬又は保存状態において,気体又は微生物の侵入するおそれのない容器をいう.
注(審決注:□内に注) 外国薬局方のhermetic containerに相当し,容器としては最も厳密な容器である.すなわち,アンプル,バイアル,ものによっては注射剤を封入した注射筒もこれに入る.」(A-55)

v 甲38(瀬崎(審決注:「瀬」の右は「刀」の下に「貝」、「崎」の右上は「立」)仁監修、第9巻 医薬品の包装と容器 II、株式会社廣川書店、平成3年10月30日初版発行、311?318頁)には、以下の記載がある。
38-1)「A.品質保護機能
必要な期間(使用期限),固形剤の品質ならびに有効性・安全性を保持するために,温・湿度,酸素,光あるいは振動・衝撃といった各種の外部要因による影響から固形剤を保護する機能が,まずなによりも必要である.

(1)バリヤー性
短時間は別として,長期にわたり環境温度の影響を遮断する機能は,容器・包装にはない.しかしながら湿気,ガス(酸素その他)及び光の影響に対する防護機能は,程度の差こそあれ,大部分の容器・包装に備わっている.
1)水蒸気バリヤー性(防湿性)
固形剤は吸・脱湿に伴って表5.2に示すような品質の劣化を起こすことがあり,多くの固形剤にとっていわゆる防湿包装は必須のものとなっている.」(312頁下から2行?314頁4行。ただし、途中の図、表は除く)

w 甲39(国際公開第2007/031801号)には、以下の記載がある(訳文で示す。)。
39-1)「スタチン類は、高リポタンパク血症およびアテローム性動脈硬化症の治療に有用であるが、8未満のpHで分解を非常に受け易い。8未満のpHで、特に酸性条件下でスタチン類は脱離または異性化または酸化反応を受けて共役不飽和芳香族化合物並びにスレオ異性体、対応するラクトン体及び他の分解生成物を形成する。スタチン類は、ヒドロキシル酸がラクトンに分解される酸性環境(低pH環境)に特に敏感である。HMG-CoAレダクターゼ阻害剤の分解性向は、組成物中に存在する他の活性成分または賦形剤との間で起こり得る相互作用によって促進される可能性がある。」(1頁20行?28行)

x 甲53(特開2012-96998号公報)には、以下の記載がある。
53-1)「【0036】
<実施例1(1顆粒カプセル剤)>
・・・ピタバスタチンカルシウム2g・・・クロスポビドン5g・・・を混合し・・・顆粒を得た。得られた顆粒を1カプセル当たり300mgとなるように1号ゼラチンカプセルに充填し5カプセル調製した。
【0037】
【表1】



(イ)甲12に記載された発明
甲12には、「ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるフィルム形成物質を含む、環境影響からの活性物質および1種類以上の医薬賦形剤および/または医薬剤形の保護および安定性を提供するコーティング」について記載されているところ(摘示12-10、請求項1)、さらに、該コーティングでコーティングされている、環境影響に敏感な活性物質を含む、コーティングされた粒子(請求項19)、該粒子及び/又は環境影響に敏感な1種類以上の活性物質を含有する1つ以上のコーティングされていない粒子の混合物と医薬賦形剤とコーティングを含む医薬剤形(請求項25)、該活性物質がイタバスタチン等である前記医薬剤形(請求項27)、1種以上のフィラー等から選択される1種以上の医薬賦形剤を含む前記医薬剤形(請求項29)、含水量が3重量%未満である前記医薬剤形(請求項32)について記載されている。そして、請求項27には、活性物質として14の物質が記載され、イタバスタチンが、活性物質であるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤の選択肢として記載されていることから、イタバスタチンを活性物質として選択できることは明らかである。
したがって、甲12には、
「医薬剤形であって、
(a)ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるフィルム形成物質を含む、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤および1種類以上の医薬賦形剤及び/又は医薬剤形の保護および安定性を提供するコーティングでコーティングされている、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む、コーティングされた粒子及び/又はイタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含有する1つ以上のコーティングされていない粒子の混合物と、
(b)以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤と、
(aa)1種類以上のフィラー;(bb)1種類以上のバインダー、(cc)1種類以上の崩壊剤、(dd)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(ee)1種類以上の緩衝化要素、(ff)1種類以上のアルカリ化要素、(gg)1種類以上の界面活性剤および(hh)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分
(c)前記コーティング、又は前記コーティングされた粒子が医薬剤形に埋め込まれている場合には従来技術で知られている他のコーティングを含み、含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満である、医薬剤形」の発明(以下「甲12発明1」という。)が記載されていると認める。

また、甲12には、実施例8として、アトルバスタチンCa、ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルクからなる錠剤コアに、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物でコーティングした錠剤を異なる乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージし、当該錠剤を特定条件下で保存し、錠剤中の水分含量を、乾燥減量(LOD)を測定することにより、重量測定法により測定したことが記載されており、乾燥減量(LOD)、すなわち水分含量が2.73、1.99、1.55又は1.73%であることが記載されている(摘示12-9)。
そして、甲12には、アトルバスタチンがHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であることが記載されている(摘示12-6)。
以上、指摘した記載事項を含む上記摘示12-1?12-10に示した記載、特に実施例8の記載からみて、甲12には、
「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるアトルバスタチンCaと、ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルクからなる錠剤コアに、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物でコーティングした錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした医薬剤形であって、水分が2.73、1.99、1.55又は1.73%である医薬剤形」の発明(以下「甲12発明2」という。)が記載されていると認める。

(ウ)対比・判断
a 甲12発明1について
(a)本件訂正発明7について
本件訂正発明7は、次のとおりである。
「次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)クロスポビドン;
を含有し、
(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、
(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、
かつ、水分含量が1.5?2.9質量%である固形製剤。」

本件訂正発明7と甲12発明1とを対比する。
甲12発明1の「イタバスタチン」について、甲12には、「イタバスタチンは、化学的に、(S-(R^(*),S^(*)-(E)))-7-(2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)-3-キノリニル)-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸である。」との記載があるところ(7頁22行?23行)、本件明細書には「ピタバスタチンカルシウム(化学名:(+)-monocalcium bis{(3R,5S,6E)-7-[2-cyclopropyl-4-(4-fluorophenyl)-3-quinolyl]-3,5-dihydroxy-6-heptenoate})」と記載されており(【0002】)、それぞれの化学名からみて、甲12発明1の「イタバスタチン」は、本件訂正発明7の「ピタバスタチン」に相当するといえる。甲14、15、22?24にもイタバスタチン(ニスバスタチン)とピタバスタチンが同じ物質であることが記載されている(摘示14-1、14-2、15-1、22-1、23-1、24-1、24-2)。
したがって、本件訂正発明7と甲12発明1とは、ピタバスタチンを含有する点で一致する。
また、甲12発明1の「医薬剤形」は、本件訂正発明7の「製剤」に相当する。
してみると、本件訂正発明7と甲12発明1とは、
「次の成分(A):(A)ピタバスタチン又はその塩;を含有する、製剤」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点121-7-1>
製剤が含有する成分について、本件訂正発明7は、「(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず」と特定しているのに対し、甲12発明1は、「コーティング」及び「コーティングされた粒子」が、「ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるフィルム形成物質を含む、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤および1種類以上の医薬賦形剤及び/又は医薬剤形の保護および安定性を提供するコーティング」及び該「コーティングでコーティングされている、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む、コーティングされた粒子」であることを前提として、「(b)以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤と、(aa)1種類以上のフィラー;(bb)1種類以上のバインダー、(cc)1種類以上の崩壊剤、(dd)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(ee)1種類以上の緩衝化要素、(ff)1種類以上のアルカリ化要素、(gg)1種類以上の界面活性剤および(hh)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分、(c)前記コーティング、又は前記コーティングされた粒子が医薬剤形に埋め込まれている場合には従来技術で知られている他のコーティング」を含む点

<相違点121-7-2>
本件訂正発明7は、「水分含量が1.5?2.9質量%である」と特定しているのに対して、甲12発明1は、「含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満である」と特定している点

<相違点121-7-3>
本件訂正発明7は、「固形製剤」と特定しているのに対して、甲12発明1は、「医薬剤形」である点

<相違点121-7-4>
ピタバスタチン又はその塩について、本件訂正発明7は、「含有」するとしか特定していないのに対し、甲12発明1は、「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤」であるとされ、混合物である上記「コーティングされた粒子」及び/又は「コーティングされていない粒子」に含まれるものとしている点

上記各相違点について検討する。
<相違点121-7-1>について
本件訂正発明7の成分(B)クロスポビドンについて、甲12発明1は、成分(b)として、(aa)1種類以上のフィラー;(bb)1種類以上のバインダー、(cc)1種類以上の崩壊剤、(dd)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(ee)1種類以上の緩衝化要素、(ff)1種類以上のアルカリ化要素、(gg)1種類以上の界面活性剤および(hh)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分、の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤を含むものである。
そして、甲12には、崩壊剤として具体的に記載された架橋したカルボキシメチルセルロースナトリウム等の7つの物質のうちの1つとして、架橋したポリビニルピロリドン(本件訂正発明7のクロスポビドンに相当する。)が記載されている(摘示12-7)。
また、甲12には、医薬剤形の調製についての記載があり、例示ではあるものの、(治療)活性物質等とともに、崩壊剤を用いて調製する旨の記載があり(摘示12-8)、当該記載においては、「必要な場合には」として記載された界面活性剤、他の従来成分とは異なり、医薬剤形の調製において必ず用いる成分として記載されているといえる。
そして、甲16及び甲53にも記載のとおり(摘示16-1、53-1)、ピタバスタチンの塩等のスタチン系化合物を含有し、クロスポビドンを含有する固形製剤は周知である。
してみると、甲12発明1において、崩壊剤としてクロスポビドンを含有するものとすることは当業者が容易になし得た事項である。
本件訂正発明7における、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有しないとされる点について、甲12には、カルボキシメチルセルロース(カルメロース)及びその塩並びに結晶セルロースが配合し得る成分であることの記載はあるものの、それらは、他の成分と選択的に配合し得る成分であるといえ(摘示12-6、12-7)、カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースはいずれも必ず配合される成分であるとは解されない。
また、甲16及び甲53に記載のとおり(摘示16-1、53-1)、ピタバスタチンの塩等のスタチン系化合物を含有し、カルメロース及びその塩又は結晶セルロースを含有しない固形製剤は周知である。
したがって、甲12発明1において、カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有しないとすることは、当業者が容易になし得た事項である。
本件訂正発明7における(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有しないとされる点について、甲12発明1は、「ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるフィルム形成物質を含む」ものであるところ、甲12には、当該セルロース誘導体について、「セルロースの誘導体の中で、フィルム形成剤は、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)またはヒドロキシエチルセルロース(HEC)であり、最も好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)である。」と記載されており(摘示12-6)、好ましいものとして、ヒドロキシエチルセルロースの記載はあるものの、セルロース誘導体がそれらに限られる旨の記載はなく、セルロース誘導体には、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースにおいて、例えば、「メチル」や「エチル」の部分が異なるだけの構造が極めて類似した種々のセルロース誘導体が含まれるところ、これらのセルロース誘導体において、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースだけが、構造が極めて類似したセルロース誘導体と異なる性質を示すとは通常考えることはできない。また、本件特許の出願時に、甲5(摘示5-1)、甲6(摘示6-2)及び甲20(摘示20-2)に記載されるとおり、水分等から保護するフィルム形成剤として、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース以外のセルロース誘導体は周知であると認められる。
したがって、甲12発明1において、ポリビニルアルコールではない物質であって、ヒドロキシエチルセルロース以外のセルロース誘導体をフィルム形成剤として使用することによって、ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有しないとすることは当業者が容易になし得た事項である。

<相違点121-7-2>について
甲12には、「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)は、特に、環境pH、湿度、光、温度、二酸化炭素および酸素にも敏感な活性物質である」こと(摘示12-1)、「本発明の目的は、環境影響に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することで」あり、「さらに、本発明の目的は、酸化および環境湿度に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することである」こと(摘示12-5)、「好ましくは、酸化および環境湿度に敏感な本発明の活性物質は、プラバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、シンバスタチンおよびロバスタチンからなる群から選択されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤である」こと(摘示12-6)、「本発明の医薬剤形は、低湿度で、活性物質HMG-CoAレダクターゼ阻害剤がヒドロキシル酸形態からラクトン形態へと変換するのを防ぎ、すなわち、乾燥時に5%の減量(LODが5%未満)であり、好ましくは、LODが4%未満、最も好ましくは3%未満である」こと(摘示12-7)が記載されている。
これらの記載から、甲12に記載された医薬剤形は、環境湿度に敏感であるイタバスタチンについて、それを安定化し、また、ヒドロキシル酸形態からラクトン形態へと変換するのを防ぐために、医薬剤形の乾燥減量、すなわち含水量を3%未満にするものであるといえ、同じHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるアトルバスタチンとイタバスタチンは、環境湿度に対する敏感さとしては同等のものとして記載されているといえる。
また、甲12には、アトルバスタチンCaを用いたものであるものの、乾燥剤を用い、その含水量が2.73、1.99、1.55又は1.73質量%であるといえる錠剤が具体的に記載されており、それらの錠剤について、「乾燥剤を加えた錠剤では水分率が低いことに起因して、錠剤中のラクトンは、乾燥剤を加えない錠剤(レベルは0.22%)と比較して、かなり少ない割合で生成した(レベル0.05%)。決定された湿度レベル(すなわち、乾燥減量として概算される3.50%未満の水分)の下で、錠剤中で生成したラクトンの割合の差は、有意ではなかった。」、「本発明のコーティングされた錠剤中のアトルバスタチンの分解生成物(酸化分解生成物)の増加は、コーティングされていない錠剤よりも有意に小さかった。」ことが記載されており(摘示12-9)、これらの記載からは、錠剤をコーティングし、含水量を2.73、1.99、1.55又は1.73質量%程度とすることで、アトルバスタチンCaをラクトン体の生成、酸化分解から安定化できることが示されているといえる。
してみると、「含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満である」とされる甲12発明1において、その含水量を、2.73、1.99、1.55又は1.73質量%程度とすることは当業者が容易になし得た事項であるといえ、当該含水量は、「水分含量が1.5?2.9質量%である」ことに相当するから、甲12発明1において、相違点121-7-2に係る本件訂正発明7の技術的事項を採用することは当業者が容易になし得た事項である。

<相違点121-7-3>について
甲12発明1は、任意成分として着色料等の固形剤形のための他の成分を含むものであり、甲12には、「本発明の医薬剤形は、好ましくは、固形医薬剤形である。」ことも記載されているから(摘示12-7)、甲12発明1について、「固形製剤」であるとすることは当業者が容易になし得た事項である。

<相違点121-7-4>について
本件訂正発明7は、ピタバスタチンの医薬用途を特定しておらず、固形製剤中での存在形態も特定していない。
本件明細書には、ピタバスタチン又はその塩が優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有すること(【0002】)、顆粒剤等とすることができ、コーティングされていてもよいこと(【0039】)が記載されており、顆粒剤が粒子であること、混合物を形成することは自明であり、本件訂正発明7は、ピタバスタチン又はその塩をHMG-CoAレダクターゼ阻害剤として用いること、ピタバスタチン又はその塩が、コーティングされた粒子及び/又はコーティングされていない粒子の混合物に含まれるものであることを包含する。
したがって、本件訂正発明7と甲12発明1とはこの点では実質的に相違しない。

効果について
本件明細書には、発明の効果として、「【0013】本発明の固形製剤は、ピタバスタチン又はその塩由来のラクトン体生成が抑制され、しかも崩壊性に優れる。したがって、本発明の固形製剤は、有効成分の安定性が良好であるのみならず有効成分の放出と薬効発揮が確実であるから、品質に優れる。」、「【0025】・・・従って、水分含量が1.5?2.9質量%(好適には1.5?2.1質量%、特に好適には1.5?1.9質量%)である本発明の固形製剤は、ラクトン体の生成が抑制され、また、5-ケト体の生成も抑制されるため、固形製剤中のピタバスタチンの安定性が特に良好であるという優れた効果を有する。」と記載されているところ、甲12には、低湿度で、活性物質HMG-CoAレダクターゼ阻害剤がヒドロキシル酸形態からラクトン形態へと変換するのを防ぐこと、酸化および環境湿度に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化すること、活性物質の分解生成物(好ましくは酸化分解生成物および医薬賦形剤の分解生成物)の発生を防ぐことによって、環境影響に対して、好ましくは、酸化に対して、スタチンである活性物質を保護し、その結果として安定化することが記載されており(摘示12-3、12-5、12-7、12-9)、崩壊剤を配合すれば崩壊性が優れることも自明である。
甲12には5-ケト体についての具体的な記載はないものの、酸化及び環境湿度に敏感な活性物質として、アトルバスタチン、イタバスタチンとともに例示されているロスバスタチン(摘示12-6)について、甲4(甲4では化学名(ビス[(E)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-[メチル(メチルスルホニル)アミノ]ピリミジン-5-イル]-(3R,5S)-3,5-ジヒドロキシヘプト-6-エン酸]カルシウム塩)(【0001】)で記載されており、甲12では、ロスバスタチンの化学名が(2:1)(3R,5S,6E)-7-(4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(メチル(メチルスルホニル)アミノ]-5-ピリミジニル)-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸]カルシウム塩と記載されており(7頁8行?10行)、化学名からみて、同一の化合物といえる。)には、「形成される主要な分解生成物は、相応する(3R,5S)ラクトン(以下では「ラクトン(the lactone)」と呼ぶ)およびその中で炭素-炭素の二重結合に隣接しているヒドロキシ基が酸化されてケトン官能基になっている酸化生成物(以下では「B2」と呼ぶ)である。」(摘示4-1)との記載があり、当該記載を参考にすると、甲12における酸化分解生成物とは、ピタバスタチンの場合には、ロスバスタチンと同様に、炭素-炭素の二重結合に隣接しているヒドロキシ基を有することから、当該ヒドロキシ基(5位ヒドロキシ基)が酸化された5-ケト体であることは当業者が容易に推認し得ることである。
したがって、本件訂正発明7が当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえない。

以上のとおり、相違点121-7-1?相違点121-7-3に係る本件訂正発明7の技術的事項は当業者が容易になし得た事項であり、相違点121-7-4は実質的な相違点ではないといえ、本件訂正発明7が当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものであるともいえないから、本件訂正発明7は、本件出願前に頒布された甲第12号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(b)本件訂正発明9について
本件訂正発明9は次のとおりである。
「次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)クロスポビドン;
を含有し、
(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、
(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、
水分含量が1.5?2.9質量%である固形製剤であって、
かつ、錠剤であって、気密包装体に収容される固形製剤。」

本件訂正発明7の場合と同様に、本件訂正発明9と甲12発明1とを対比すると、本件訂正発明9と甲12発明1とは、
「次の成分(A):(A)ピタバスタチン又はその塩;を含有する、製剤」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点121-9-1>
製剤が含有する成分について、本件訂正発明9は、「(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず」と特定しているのに対し、甲12発明1は、「コーティング」及び「コーティングされた粒子」が、「ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるフィルム形成物質を含む、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤および1種類以上の医薬賦形剤及び/又は医薬剤形の保護および安定性を提供するコーティング」及び該「コーティングでコーティングされている、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む、コーティングされた粒子」であることを前提として、「(b)以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤と、(aa)1種類以上のフィラー;(bb)1種類以上のバインダー、(cc)1種類以上の崩壊剤、(dd)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(ee)1種類以上の緩衝化要素、(ff)1種類以上のアルカリ化要素、(gg)1種類以上の界面活性剤および(hh)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分、(c)前記コーティング、又は前記コーティングされた粒子が医薬剤形に埋め込まれている場合には従来技術で知られている他のコーティング」を含む点

<相違点121-9-2>
本件訂正発明9は、「水分含量が1.5?2.9質量%である」と特定しているのに対して、甲12発明1は、「含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満である」と特定している点

<相違点121-9-3>
本件訂正発明9は、「固形製剤」と特定しているのに対して、甲12発明1は、「医薬剤形」である点

<相違点121-9-4>
ピタバスタチン又はその塩について、本件訂正発明9は、「含有」するとしか特定していないのに対し、甲12発明1は、「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤」であるとされ、混合物である上記「コーティングされた粒子」及び/又は「コーティングされていない粒子」に含まれるものとしている点

<相違点121-9-5>
本件訂正発明9は、「かつ、錠剤であって、気密包装体に収容される」と特定しているのに対し、甲12発明1はそのような特定をしていない点

上記各相違点について検討する。
<相違点121-9-1>?<121-9-4>について
これら相違点は、相違点121-7-1?121-7-4と同様であり、その判断についても、上記(a)でこれら各相違点について述べたのと同様である。

<相違点121-9-5>について
錠剤である点については、甲12には、錠剤とすることが記載されているから(摘示12-8、12-9)、甲12発明1を錠剤とすることは当業者が容易になし得た事項である。
気密包装体に収容される点については、甲12には、「上述のスタチン類の多くは、特に環境影響、例えば、大気の影響や環境pHに敏感である。従来技術では、特定のスタチンは、酸性環境(低pH値)に敏感であり、ラクトン形態および異なる異性体に分解されることが知られている。例えば、プラバスタチン、アトルバスタチン、イタバスタチンおよびフルバスタチンは、酸性環境では、ラクトン形態に変換される。」こと(摘示12-3)、「酸化からの予防は、活性物質の周囲の空間の酸素含有量と、パッケージの壁および蓋を介する酸素の透過性が制御される包装によって達成することができる。」こと(摘示12-4)、「本発明の目的は、環境影響に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することである。さらに、本発明の目的は、酸化および環境湿度に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することである。好ましくは、本発明の目的は、活性物質と酸素との接触を防ぎ、それによって、活性物質の分解生成物(好ましくは酸化分解生成物および医薬賦形剤の分解生成物)の発生を防ぐことによって、環境影響に対して、好ましくは、酸化に対して、スタチンである活性物質を保護し、その結果として安定化することである。」こと(摘示12-5)、「本発明の活性物質は、環境影響に敏感であり、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤、カプトプリル、クロルプロマジン、モルヒネ、L-アスコルビン酸、ビタミンE、フェニルブタゾン、テトラサイクリンおよびオメプラゾールからなる群から選択される活性物質である。好ましくは、酸化および環境湿度に敏感な本発明の活性物質は、プラバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、シンバスタチンおよびロバスタチンからなる群から選択されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤である。」こと(摘示12-6)が記載されているところ、固形製剤を気密包装体に収容することにより、包装体外からの水分等の侵入を防ぎ、製剤の安定化を図ることは、甲35?38に記載されるとおり(摘示35-1、36-1、37-1、38-1)、周知の技術的事項である。
したがって、甲12に環境湿度等の環境影響に敏感であると記載されるイタバスタチンを含む甲12発明1について、水分等の侵入を防ぎ、製剤の安定化を図るために、気密包装体に収容されるものとすることは当業者が容易になし得た事項である。

効果について
上記(a)で述べたのと同様である。

以上のとおり、相違点121-9-1?相違点121-9-3、相違点121-9-5に係る本件訂正発明9の技術的事項は当業者が容易になし得た事項であり、相違点121-9-4は実質的な相違点ではないといえ、本件訂正発明9が当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものであるともいえないから、本件訂正発明9は、本件出願前に頒布された甲第12号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

b 甲12発明2について
(a)本件訂正発明7について
本件訂正発明7と甲12発明2とを対比する。
甲12発明2の「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるアトルバスタチンCa」は、HMG-CoAレダクターゼ阻害作用を有する化合物であるといえるところ、本件訂正発明7の成分「(A)ピタバスタチン又はその塩」はHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物であり(本件明細書【0002】)、両物質は、HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物である限りにおいて一致する。
甲12発明2の医薬剤形は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物でコーティングした錠剤に関するものであり、「カルボキシメチルセルロースナトリウム」はコーティングを形成する物質であると認められるところ、甲12発明2の「コーティング」は、本件発明1の「フィルム」に相当するといえるから、甲12発明2の「カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」はフィルム形成剤であるといえる。したがって、甲12発明2は、「ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有」しない点で本件訂正発明7と一致する。
甲12発明2の医薬剤形における水分は、重量測定法により測定されているから(摘示12-9)、重量%で表されるものであり、その値は質量%と同じ値となるところ、甲12発明2の「水分が2.73、1.99、1.55又は1.73%」であることは、本件訂正発明7の「水分含量が1.5?2.9質量%」であることに相当する。
甲12発明2の医薬剤形は錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージしたものであるところ、当該医薬剤形は本件訂正発明7の「固形製剤」に相当する。
したがって、本件訂正発明7と甲12発明2とは、
「次の成分(A):(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物;を含有し、(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、かつ、水分含量が2.73、1.99、1.55又は1.73質量%である固形製剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点122-7-1>
(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物について、本件訂正発明7は、「(A)ピタバスタチン又はその塩」であるのに対し、甲12発明2は、「アトルバスタチンCa」である点

<相違点122-7-2>
本件訂正発明7は、「(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず」と特定しているのに対し、甲12発明2は、「ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」を含有する点

<相違点122-7-3>
本件訂正発明7は、コーティングについて特定していないのに対し、甲12発明2は、コーティングしている点

<相違点122-7-4>
本件訂正発明7は、パッケージすることについて特定していないのに対し、甲12発明2は、錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした医薬剤形である点

上記各相違点について検討する。
<相違点122-7-1>について
(a)甲12には、環境影響に敏感な活性物質がアトルバスタチン、イタバスタチン等のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であること(摘示12-10、請求項25、27)、「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)は、特に、環境pH、湿度、光、温度、二酸化炭素および酸素にも敏感な活性物質である。」こと(摘示12-1)、「スタチン類の中でも、例えば、・・・アトルバスタチン、・・・イタバスタチンまたはピタバスタチン・・・が知られている。」こと(摘示12-2)、「上述のスタチン類の多くは、特に環境影響、例えば、大気の影響や環境pHに敏感である。従来技術では、特定のスタチンは、酸性環境(低pH値)に敏感であり、ラクトン形態および異なる異性体に分解されることが知られている。例えば、プラバスタチン、アトルバスタチン、イタバスタチンおよびフルバスタチンは、酸性環境では、ラクトン形態に変換される。」こと(摘示12-3)、「本発明の目的は、環境影響に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することである。さらに、本発明の目的は、酸化および環境湿度に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することである。好ましくは、本発明の目的は、活性物質と酸素との接触を防ぎ、それによって、活性物質の分解生成物(好ましくは酸化分解生成物および医薬賦形剤の分解生成物)の発生を防ぐことによって、環境影響に対して、好ましくは、酸化に対して、スタチンである活性物質を保護し、その結果として安定化することである。」こと(摘示12-5)、「本発明の活性物質は、環境影響に敏感であり、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤、カプトプリル、クロルプロマジン、モルヒネ、L-アスコルビン酸、ビタミンE、フェニルブタゾン、テトラサイクリンおよびオメプラゾールからなる群から選択される活性物質である。好ましくは、酸化および環境湿度に敏感な本発明の活性物質は、プラバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、シンバスタチンおよびロバスタチンからなる群から選択されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤である。」こと(摘示12-6)が記載されている(なお、甲12に記載のイタバスタチンが本件訂正発明7のピタバスタチンに相当することは、上記a(a)で述べたとおりである。)。
(b)そして、甲12には、実施例として、活性成分がアトルバスタチンカルシウムである錠剤について、分解生成物(ラクトン及び酸化分解生成物)のアッセイにおける増加を測定し、その安定性を分析したことが記載されている(摘示12-9)。
(c)さらに、以下に示すとおり、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)の分解生成物(ラクトン体及び酸化分解生成物)の生成は、スタチン類に共通する化学構造(ジヒドロキシカルボン酸(3,5-ジヒドロキシヘプタン酸又は3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸)骨格(以下、「共通骨格」ということがある。))に由来することが出願時の技術常識であったといえる。

i)アトルバスタチンカルシウム水和物及びピタバスタチンカルシウムの構造式は以下のとおりである(摘示2-1、2-2)。




ii)一方、甲3には、「現在、高脂血症治療剤や高コレステロール血症治療剤として、HMG-CoA還元酵素阻害活性を有するスタチン類を有効成分とする医薬品が多数開発・上市されている。こうしたスタチン類としては、具体的には例えば、プラバスタチンナトリウム、フルバスタチンナトリウム、アトルバスタチンカルシウム水和物、ピタバスタチンカルシウム、ロスバスタチンカルシウムが挙げられ、これらの化合物はいずれもジヒドロキシカルボン酸(3,5-ジヒドロキシヘプタン酸又は3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸)骨格を共通骨格として有している。」との記載、「上記スタチン類の共通骨格であるジヒドロキシカルボン酸骨格は分子内で環化し、HMG-CoA還元酵素阻害活性の低いラクトン体を生成することが知られている。」との記載があり(摘示3-1、3-2)、甲4には、「該エージェントは、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAレダクターゼ(HMG CoAレダクターゼ)の阻害剤として、・・・に有用である。・・・該エージェントと結びついている問題は、該エージェントが一定の条件下で分解することである。このことにより生成物の調剤および良好な貯蔵期限を有する医薬組成物を得ることが困難になる。形成される主要な分解生成物は、相応する(3R,5S)ラクトン(以下では「ラクトン(the lactone)」と呼ぶ)およびその中で炭素-炭素の二重結合に隣接しているヒドロキシ基が酸化されてケトン官能基になっている酸化生成物(以下では「B2」と呼ぶ)である。」との記載があり(摘示4-1)、甲5には、「HMG-CoAレダクターゼ阻害薬は・・・、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン及びそれらの塩からなる群から選択される」、「HMG-CoAレダクターゼ阻害薬は一般的に熱、水分及び酸に対し不安定である。これらは共通してヒドロキシ酸を有し、酸性環境下では類縁物質であるラクトン体を生じ易い」との記載があり(摘示5-1)、甲6には、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を含む持続放出性医薬組成物に関する記載があり、ピタバスタチンの分解産物として、ラクトン及びケトンが記載され(摘示6-1、6-3、【表4】)、甲7には、「フルバスタチン及び関連HMG-CoAリダクターゼ化合物の上述した不安定性は、ヘプテン鎖上のβ,δ-ヒドロキシ基が非常に動きやすいこと及び二重結合が存在することによると思われる。即ち中性?酸性pHにおいてこの化合物は脱離又は異性化又は酸化反応を容易に受けて共役不飽和芳香族化合物、並びにトレオ異性体、対応するラクトン、及び他の分解生成物を生成する。」との記載があり(摘示7-1)、甲8には、「フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチン及びロスバスタチンなどのHMG-CoAレダクターゼ阻害剤は、・・・使用されている。しかしながら、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤及び構造的に相関した薬剤(このタイプの化合物は「スタチン」と一般に呼称される)は、ジヒドロキシヘプテン酸部分を含有し、かかるスタチンは、医薬組成物中に製剤化されると、非常に不安定で、分解されやすいことが知られていた。」との記載がある(摘示8-3)。また、スタチン類に関する同様の記載は、甲12、13、18?20、39(摘示12-1、13-1、18-1、19-1、20-1、39-1)にもある。

iii)以上の甲各号証の記載から、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)の分解生成物(ラクトン体及び酸化分解生成物)の生成は、スタチン類に共通する共通骨格に由来することが技術常識であったといえ、アトルバスタチンとピタバスタチンについても、当該共通骨格を有するものであり、これら化合物は、分解生成物としてラクトン体及び酸化分解生成物を生成し、該分解生成物の生成は共通骨格部分における化学変化によるものであるといえる。

してみると、甲12に、実施例として具体的に記載された、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるアトルバスタチンカルシウムを活性物質とする甲12発明2の医薬剤形について、当該アトルバスタチンカルシウムに代えて、甲12に、アトルバスタチンカルシウムと同様にHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であり、共通骨格を有するスタチン類であり、環境pH、湿度、光、温度、二酸化炭素および酸素にも敏感な活性物質であるといえる、甲12に記載のイタバスタチン(本件訂正発明7のピタバスタチン)を用いた医薬剤形とすることは当業者が容易になし得た事項であると認められる。

<相違点122-7-2>について
本件訂正発明7の成分(B)クロスポビドンについて、甲12には、医薬剤形が含む医薬賦形剤として、(a)1種類以上のフィラー;(b)1種類以上のバインダー、(c)1種類以上の崩壊剤、(d)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(e)1種類以上の緩衝化要素、(f)1種類以上のアルカリ化要素、(g)1種類以上の界面活性剤および(h)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分、の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤が記載されている(摘示12-10、請求項29)。
そして、甲12には、崩壊剤として具体的に記載された架橋したカルボキシメチルセルロースナトリウム等の7つの物質のうちの1つとして、架橋したポリビニルピロリドン(本件訂正発明7のクロスポビドンに相当する。)が記載されている(摘示12-7)。
また、甲12には、医薬剤形の調製についての記載があり、例示ではあるものの、(治療)活性物質等とともに、崩壊剤を用いて調製する旨の記載があり(摘示12-8)、当該記載においては、「必要な場合には」として記載された界面活性剤、他の従来成分とは異なり、医薬剤形の調製において必ず用いる成分として記載されているといえる。
そして、甲16及び甲53にも記載のとおり(摘示16-1、53-1)、ピタバスタチンの塩等のスタチン系化合物を含有し、クロスポビドンを含有する固形製剤は周知である。
してみると、甲12発明2において、崩壊剤としてクロスポビドンを含有するものとすることは当業者が容易になし得た事項である。
本件訂正発明7における、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有しないとされる点について、甲12発明2の「架橋カルボキシメチルセルロース」、「カルボキシメチルセルロースナトリウム」及び「Prosolv SMCC90」(本件審判請求に係る甲第1号証、18頁12行?17行には、ProSolv(商標)SMCC(登録商標)90が結晶セルロースであることが記載されている。)は、それぞれ、本件訂正発明7において含有しないとされる「カルメロース」、「カルメロースの塩」及び「結晶セルロース」に相当し、甲12発明2における上記各成分は、フィルム形成剤又は医薬賦形剤であると認められるところ、甲12には、フィルム形成剤及び医薬賦形剤として、甲12発明2で用いられている上記各成分以外であって、カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースに該当しない、各種の物質を用いることができることが記載されている(摘示12-6、12-7)。
そして、本件特許の出願時に、甲5(摘示5-1)、甲6(摘示6-2)及び甲20(摘示20-2)に記載されるとおり、水分等から保護するフィルム形成剤として、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルメロース、カルメロースの塩以外のセルロース誘導体は周知であると認められる。
また、甲16及び甲53に記載のとおり(摘示16-1、53-1)、ピタバスタチンの塩等のスタチン系化合物を含有し、カルメロース及びその塩又は結晶セルロースを含有しない固形製剤は周知である。
してみると、甲12発明2において、「架橋カルボキシメチルセルロース」、「カルボキシメチルセルロースナトリウム」及び「Prosolv SMCC90」を、甲12に記載された他の成分又は周知のセルロース誘導体であるフィルム形成剤又は医薬賦形剤と置換することにより、「C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず」とすることは当業者が容易になし得た事項である。

<相違点122-7-3>について
本件訂正発明7では、コーティングについて特定していないものの、本件明細書には、「【0039】本発明において、固形製剤は、第十六改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法にしたがって、種々の剤形にすることができる。・・・なお、これらの固形製剤は必要に応じてフィルム、糖衣等でコーティングされていてもよい。」と記載されており、本件訂正発明7の固形製剤はコーティングする態様を当然に含むと理解されるから、本件訂正発明7と甲12発明2は、この点では実質的に相違しない。

<相違点122-7-4>について
甲12発明2の医薬剤形は、「錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした」ものであるところ、本件明細書に「【0045】・・・本発明の「医薬品」は、気密包装体の内部において固形製剤が2.9質量%以下の水分含量であればよい。すなわち、気密包装体から固形製剤を取り出した直後において、その水分含量が2.9質量%以下であればよく、例えば、気密包装体にて収容する前において固形製剤の水分含量が2.9質量%以上であっても、乾燥剤を同封する等の手段により気密包装体の内部において固形製剤の水分含量が2.9質量%以下となっていれば(すなわち、気密包装体から固形製剤を取り出した直後において、その水分含量が2.9質量%以下となっていれば)本発明の「医薬品」に包含される。【0046】本発明において「気密包装体」とは、通常の取扱い、運搬又は保存等の状態において、水分の包装体外からの実質的な侵入を抑制し得る包装を意味し、第十六改正日本薬局方 通則に定義される「気密容器」及び「密封容器」を包含する概念である。当該包装体としては、定形、不定形のいずれのものも用いることができ、具体的には例えば、ビン包装、SP(Strip Package)包装、PTP(Press Through Package)包装、ピロー包装、スティック包装等が挙げられる。・・・【0047】気密包装体の包装材料(素材)としては、防湿性を発揮し得るものであれば特に限定されず、医薬品や食品の分野で、水分に弱い内容物の防湿等を目的として用いられる材料を適宜用いることができる。ビン包装に用いられるビン本体の材料としては例えば、・・・ポリエチレン(低密度(LDPE)、高密度(HDPE)を含む)、・・・等が挙げられる。・・・ビン包装の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)が特に好ましい。」、「【0052】本発明において、固形製剤を気密包装体に収容する方法は特に限定されるものではなく、包装体内への固形製剤の投入等の適当な手段により、固形製剤を包装体内に配置することで達成できる。この場合において、包装体内に固形製剤とともに乾燥剤(例えば、円柱状(錠剤型)のものやシート状のもの)を投入する手段を用いてもよいが・・・」と記載されるとおり、本件訂正発明7の「固形製剤」は、乾燥剤を用いてHDPE等にビン包装する態様を当然に含むと理解されるから、本件訂正発明7と甲12発明2は、この点では実質的に相違しない。

効果について
上記a(a)で述べたのと同様である。

以上のとおり、相違点122-7-1及び相違点122-7-2に係る本件訂正発明7の技術的事項は当業者が容易になし得た事項であり、相違点122-7-3及び相違点122-7-4は実質的な相違点ではないといえ、本件訂正発明7が当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものであるともいえないから、本件訂正発明7は、本件出願前に頒布された甲第12号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(b)本件訂正発明9について
本件訂正発明7の場合と同様に、本件訂正発明9と甲12発明2とを対比する。
本件訂正発明9と甲12発明2とは、錠剤に関するものである点で一致する。
本件訂正発明9の「気密包装体に収容される」について、本件明細書に「【0045】・・・本発明の「医薬品」は、気密包装体の内部において固形製剤が2.9質量%以下の水分含量であればよい。すなわち、気密包装体から固形製剤を取り出した直後において、その水分含量が2.9質量%以下であればよく、例えば、気密包装体にて収容する前において固形製剤の水分含量が2.9質量%以上であっても、乾燥剤を同封する等の手段により気密包装体の内部において固形製剤の水分含量が2.9質量%以下となっていれば(すなわち、気密包装体から固形製剤を取り出した直後において、その水分含量が2.9質量%以下となっていれば)本発明の「医薬品」に包含される。【0046】本発明において「気密包装体」とは、通常の取扱い、運搬又は保存等の状態において、水分の包装体外からの実質的な侵入を抑制し得る包装を意味し、第十六改正日本薬局方 通則に定義される「気密容器」及び「密封容器」を包含する概念である。当該包装体としては、定形、不定形のいずれのものも用いることができ、具体的には例えば、ビン包装、SP(Strip Package)包装、PTP(Press Through Package)包装、ピロー包装、スティック包装等が挙げられる。・・・【0047】気密包装体の包装材料(素材)としては、防湿性を発揮し得るものであれば特に限定されず、医薬品や食品の分野で、水分に弱い内容物の防湿等を目的として用いられる材料を適宜用いることができる。ビン包装に用いられるビン本体の材料としては例えば、・・・ポリエチレン(低密度(LDPE)、高密度(HDPE)を含む)、・・・等が挙げられる。・・・ビン包装の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)が特に好ましい。」、「【0052】本発明において、固形製剤を気密包装体に収容する方法は特に限定されるものではなく、包装体内への固形製剤の投入等の適当な手段により、固形製剤を包装体内に配置することで達成できる。この場合において、包装体内に固形製剤とともに乾燥剤(例えば、円柱状(錠剤型)のものやシート状のもの)を投入する手段を用いてもよいが・・・」と記載されるとおり、固形製剤をHDPE等を材料とするビン包装で包装すること、その際に乾燥剤を用いることを包含するものであるから、甲12発明2の「錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージ」することは、本件訂正発明9の「気密包装体に収容される」ことに相当する。
したがって、本件訂正発明9と甲12発明2とは、
「次の成分(A):(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物;を含有し、(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、かつ、水分含量が2.73、1.99、1.55又は1.73質量%であって、かつ、錠剤であって、気密包装体に収容される固形製剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点122-9-1>
(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物について、本件訂正発明9は、「(A)ピタバスタチン又はその塩」であるのに対し、甲12発明2は、「アトルバスタチンCa」である点

<相違点122-9-2>
本件訂正発明9は、「(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず」と特定しているのに対し、甲12発明2は、「ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」を含有する点

<相違点122-9-3>
本件訂正発明9は、コーティングについて特定していないのに対し、甲12発明2は、コーティングしている点

上記相違点122-9-1?相違点122-9-3は、上記相違点122-7-1?相違点122-7-3と同様の相違点であり、その判断については、上記(a)で述べたとおりであり、効果についても上記(a)で述べたのと同様である。

以上のとおり、相違点122-9-1及び相違点122-9-2に係る本件訂正発明9の技術的事項は当業者が容易になし得た事項であり、相違点122-9-3は実質的な相違点ではないといえ、本件訂正発明9が当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものであるともいえないから、本件訂正発明9は、本件出願前に頒布された甲第12号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(エ) 被請求人の主張について
a 令和2年2月17日付けの訂正請求書及び審判事件答弁書2における主張について
被請求人は、令和2年2月17日付けの訂正請求書において、本件訂正発明7及び9に関して、訂正後の請求項2に記載された発明と同様の発明特定事項を具備するところ、同日に提出した審判事件答弁書2において訂正後の請求項2に記載された発明について述べた理由により、甲第12号証及び本件出願日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない旨主張し、上記答弁書において、概要、以下の主張をしている。
(i)甲12から、「イタバスタチン」を含有する固形医薬剤形に係る引用発明を認定することはできない。(審判事件答弁書2、14?16頁)
(ii)多数の選択肢を含む形式で医薬剤形に含まれ得る医薬賦形剤が一般的・抽象的に記載されている請求項29の記載から、具体的な技術思想を抽出し得ない。(審判事件答弁書2、16?17頁)
(iii)甲12の必須の構成である「コーティング」は、少なくともカルボキシメチルセルロースナトリウムを含むものを意味するものと理解される。(審判事件答弁書2、17?18頁)
(iv)甲12の実施例8の水分含量値は、特定の処方を前提としたアトルバスタチンカルシウム含有錠剤に依存した数値であるから、アトルバスタチンカルシウムがピタバスタチン又はその塩などの他の有効成分に変更されてしまうと、水分含量値はその前提を失うことになり、水分含量値を固定したままアトルバスタチンカルシウムをピタバスタチン又はその塩に置換するということは理論的に考えられない。(審判事件答弁書2、18?20頁)
そこで、以下検討する。
(i)について
上記(ウ)a(a)「<相違点121-7-2>について」で述べたとおり、甲12には、「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)は、特に、環境pH、湿度、光、温度、二酸化炭素および酸素にも敏感な活性物質である」こと(摘示12-1)、「本発明の目的は、環境影響に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することで」あり、「さらに、本発明の目的は、酸化および環境湿度に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することである」こと(摘示12-5)、「好ましくは、酸化および環境湿度に敏感な本発明の活性物質は、プラバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、シンバスタチンおよびロバスタチンからなる群から選択されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤である」こと(摘示12-6)、「本発明の医薬剤形は、低湿度で、活性物質HMG-CoAレダクターゼ阻害剤がヒドロキシル酸形態からラクトン形態へと変換するのを防ぎ、すなわち、乾燥時に5%の減量(LODが5%未満)であり、好ましくは、LODが4%未満、最も好ましくは3%未満である」こと(摘示12-7)が記載されている。
これらの記載から、甲12に記載された医薬剤形は、環境湿度に敏感であるイタバスタチンについて、それを安定化し、また、ヒドロキシル酸形態からラクトン形態へと変換するのを防ぐために、医薬剤形の乾燥減量、すなわち含水量を3%未満にするものであるといえ、アトルバスタチンとイタバスタチンは、環境湿度に対する敏感さとしては同等のものとして記載されているといえる。
また、甲12には、アトルバスタチンCaを用いたものであるものの、乾燥剤を用い、その含水量が2.73、1.99、1.55又は1.73質量%であるといえる錠剤が具体的に記載されており、それらの錠剤について、「乾燥剤を加えた錠剤では水分率が低いことに起因して、錠剤中のラクトンは、乾燥剤を加えない錠剤(レベルは0.22%)と比較して、かなり少ない割合で生成した(レベル0.05%)。決定された湿度レベル(すなわち、乾燥減量として概算される3.50%未満の水分)の下で、錠剤中で生成したラクトンの割合の差は、有意ではなかった。」、「本発明のコーティングされた錠剤中のアトルバスタチンの分解生成物(酸化分解生成物)の増加は、コーティングされていない錠剤よりも有意に小さかった。」ことが記載されており(摘示12-9)、これらの記載からは、錠剤をコーティングし、含水量を2.73、1.99、1.55又は1.73質量%程度とすることで、アトルバスタチンCaをラクトン体の生成、酸化分解から安定化できることが示されているといえる。
そして、請求項27には、活性物質として、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤としてのイタバスタチンが記載されている(摘示12-10)。
してみると、「イタバスタチン」を含有する医薬剤形に関する甲12発明1が甲12に記載されているといえる。
したがって、この主張は採用できない。
(ii)について
甲12には、「本発明の第1の目的は、環境の影響から、特に、酸化および/または環境湿度から、活性物質および1種類以上の医薬賦形剤および/または医薬剤形の保護を与え、その結果として、安定性を与えるコーティングである。」と記載され(摘示12-5)、請求項1にも「ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるフィルム形成物質を含む、環境影響からの活性物質および1種類以上の医薬賦形剤および/または医薬剤形の保護および安定性を提供するコーティング。」(摘示12-10)と記載されるとおり、コーティング及びフィルム形成物質にその特徴を有するものであると認められるから、甲12に記載された発明として、コーティング及びフィルム形成物質については、具体的な特定が必要であると解されるが、医薬賦形剤については、甲12の記載からみて(摘示12-7、12-10、請求項29)、各種物質を用いてもよいと解することができる。
したがって、請求項29に、多数の選択肢を含む形式で医薬剤形に含まれ得る医薬賦形剤が一般的・抽象的に記載されているからといって、そこから具体的な技術思想を抽出し得ないとはいえない。
したがって、この主張は採用できない。
(iii)について
甲12には、フィルム形性物質がポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されることの記載がある(摘示12-10、請求項1)一方、カルボキシメチルセルロースナトリウムが必須の成分であるとの記載はなく、また、上記(ウ)b(a)「<相違点122-7-2>について」で述べたとおり、本件特許の出願時に、水分等から保護するフィルム形成剤として、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルメロース、カルメロースの塩以外のセルロース誘導体は周知であると認められるから、甲12の「コーティング」は、少なくともカルボキシメチルセルロースナトリウムを含むものを意味するとはいえない。
したがって、この主張は採用できない。
(iv)について
たしかに、甲12の実施例8の医薬剤形における水分含量は、概要、乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶中のコーティングされた錠剤を試験することによって得られたものであり、コーティングされた錠剤を、40/75(40℃±2℃、75%RH±5%)の条件下で1ヶ月間保存したものについての量であり(摘示12-9)、医薬剤形の水分含量は、活性成分等の含有成分の種類を変えることで変化することも考えられる。
しかしながら、仮にそうであったとしても、a)甲12の表22の記載(摘示12-9)からみて、医薬剤形の水分含量は、製剤に対する乾燥剤の種類及び量に拠るところが大きいと考えられるため、水分含量は乾燥剤の種類及び量により調節することができると認められるから、例えば、使用する乾燥剤の量を変えることで、活性成分等の種類を変えた際にも実施例8と同じ水分含量とすることができると認められ、b)甲12には、アトルバスタチン、イタバスタチン(ピタバスタチン)を含むHMG-CoAレダクターゼ阻害剤について、水分含量が医薬剤形全体の重量の3重量%未満であることが最も好ましいこと、実施例8の錠剤中のラクトンは、乾燥剤を加えない錠剤と比較して、かなり少ない割合で生成したこと、実施例8の錠剤中のアトルバスタチンの分解生成物の増加は、コーティングされていない錠剤よりも有意に小さかったことが記載されているから(摘示12-7、12-9、12-10(請求項27、32))、実施例8と同様の水分含量とする動機付けがあるといえる。
したがって、水分含量値を固定したままアトルバスタチンカルシウムをピタバスタチン又はその塩に置換するということは考えられないとはいえない。
したがって、この主張は採用できない。

b 令和2年7月2日付けの意見書における主張について
被請求人は、令和2年7月2日付けの意見書において、概要、以下の主張をしている。
(i)相違点121-7-1、121-9-1について、本件訂正発明7及び9においては、フィルム形成剤として、(1)カルメロース及びその塩、(2)ヒドロキシエチルセルロース及び(3)ポリビニルアルコールをいずれも含有しないのに対し、甲12に記載された発明においては、フィルム形成剤として、カルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールのいずれかを含有している必要がある点において相違しており、甲12には、それらの他にフィルム形成剤に用いられたときに、当該フィルム形成剤を必須成分として含んでいるコーティングが「環境影響からの活性物質および1種類以上の医薬賦形剤および/または医薬剤形の保護および安定性を提供する」ものとなるものは記載も示唆もないから、甲12に記載された発明から、フィルム形成剤として、上記(1)?(3)をいずれも除外することには阻害要因があり、当該相違点に係る構成を容易に想到することはできない(意見書7?14頁)。
(ii)相違点121-7-1、121-9-1について、甲12発明1において、クロスポビドンを含有することが当業者にとって容易だったとする同通知書(審決注:訂正拒絶理由通知書のこと。)の認定には飛躍がある。(意見書14?15頁)
(iii)相違点121-7-2、121-9-2について、実施例8のアトルバスタチンカルシウムを有効成分とする錠剤の水分含有値を(甲12発明1に)適用する動機付けはない。
仮に、実施例8の水分含量値を考慮するとしても、水分含量が3.50%未満であればラクトン体の生成について有意な差はないというのであるから、3.49質量%を除外して、2.73、1.99、1.55又は1.73質量%という数値に着目する理由はなく、1.5?2.9質量%とすることについての技術的意義を見出すことはできない。
本件訂正発明は、ピタバスタチン又はその塩にクロスポビドン等の特定の崩壊剤を組み合わせたところ、経時的に多量のラクトン体が発生するという課題を解決する手段として水分含量を2.9質量%以下とし、さらに、水分含量値を低くしすぎると5-ケト体が増加するという課題を解決する手段として水分含量を1.5質量%以上とするものであり、そのような水分含量に係る構成は、本件出願日当時の当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。
甲12にもその他の証拠にも、ピタバスタチン又はその塩及びクロスポビドンを含有する固形製剤についての「5-ケト体の生成率」と「水分含量」との相関関係について示唆する記載は全く見当たらないから、製剤の水分含量の下限値を特定するための基礎を欠くというほかない。
アトルバスタチンカルシウムをピタバスタチンカルシウムに置換した固形製剤において問題となる酸化分解生成物は5-ケト体であり、アトルバスタチンカルシウムの酸化分解生成物とは異なるから、アトルバスタチンカルシウムの酸化分解生成物を抑制するための水分含量値は当てはまらず、5-ケト体を抑制するために適切な水分含量値を別途検討する必要がある。(意見書16?23頁)
(iv)本件訂正発明において、水分含量を1.5質量%以上とすることによって、甲12に何の記載も示唆もない「5-ケト体」の生成を抑制できることは、当業者が予測し得ない格別顕著な効果というべきである。(意見書23?24頁)
(v)相違点122-7-2、122-9-2について、これら相違点は、「本件訂正発明7、9は、(B)クロスポビドンを含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有しないものとされているの対し、甲12発明2は、フィルム形成剤として、カルメロースナトリウムを必須の成分として含有する点。」と認定されるべきであり、甲12発明2に接した当業者は、この相違点を克服することはできない。(意見書25?27頁)

そこで以下に検討する。
(i)について
上記(ウ)a(a)の「<相違点121-7-1>について、(ウ)a(b)の「<相違点121-9-1>?<121-9-4>について」で述べたとおり、甲12発明1において、カルメロース及びその塩を含有しないものとすること、ポリビニルアルコールではない物質であって、ヒドロキシエチルセルロース以外のセルロース誘導体をフィルム形成剤として使用することによって、ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有しないとすることは、いずれも当業者が容易になし得た事項である。
甲12には、フィルム形成剤として、カルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールのいずれかを含有している必要があることの記載はなく、環境影響からの、好ましくは酸化および/または環境湿度に対する活性物質の保護を与える任意のフィルム形成剤として、セルロース誘導体が記載されている(摘示12-6)から、そのようなセルロース誘導体を用いることは当業者が容易になし得た事項である。
なお、甲5(摘示5-1)、甲6(摘示6-2)及び甲20(摘示20-2)に記載されるとおり、水分等から保護するフィルム形成剤として、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のヒドロキシエチルセルロース以外のセルロース誘導体は、本件特許の出願時に周知である。
したがって、この主張は採用できない。
(ii)について
上記(ウ)a(a)の「<相違点121-7-1>について、(ウ)a(b)の「<相違点121-9-1>?<121-9-4>について」で述べたとおり、甲12には、崩壊剤として具体的に記載された架橋したカルボキシメチルセルロースナトリウム等の7つの物質のうちの1つとして、架橋したポリビニルピロリドン(クロスポビドンに相当する。)が記載されており、また、甲12には、医薬剤形の調製についての記載があり、例示ではあるものの、崩壊剤を医薬剤形の調製において必ず用いる成分とするものが記載されており、甲16及び甲53にも記載のとおり、ピタバスタチンの塩等のスタチン系化合物を含有し、クロスポビドンを含有する固形製剤は周知であるから、クロスポビドンが崩壊剤として例示された他の物質と比較して何らかの優位性が示されていなくても、わずか7種のうちの1つであるクロスポビドンを用いることは当業者が容易になし得た事項であるといえる。
したがって、この主張は採用できない。
(iii)について
この主張は、上記aの(iv)と同様の主張を含むものであるから、上記aの「(iv)について」で述べたのと同様である。
また、甲12には、LODが最も好ましくは3%未満であること、含水量が医薬剤形全体の3重量%未満であることが記載されており(摘示12-7、摘示12-10、請求項32)、それに該当する具体例として、水分含量が2.73、1.99、1.55又は1.73%であることが記載されているのであるから(3.49質量%は、3(重量)%未満に該当しない。)、当該具体例の水分含量に着目する理由があるというべきであり、それら水分含量程度のものとすることは当業者が容易になし得た事項であるといえ、それら水分含量は、本件訂正発明7及び9において特定される水分含量である1.5?2.9質量%に該当するものである。
そして、甲12に水分含量と5-ケト体との相関関係についての記載や示唆がないことは甲12に記載された発明において水分含量を特定することを妨げるものではない。
5-ケト体の生成については、上記(ウ)a(a)で述べたとおりである。
したがって、この主張は採用できない。
(iv)について
甲12には、水分含量を1.5質量%以上とすることによって、5-ケト体の生成を抑制できることについての記載はないが、上記したとおり、水分含量を2.73、1.99、1.55又は1.73%程度のものとすることは当業者が容易になし得た事項であり、それらの水分含量は1.5?2.9質量%に該当するものであり、甲12における酸化分解生成物とは、ピタバスタチンの場合には、5-ケト体であることは当業者が容易に推認し得ることから、本件訂正発明7、9が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。
したがって、この主張は採用できない
(v)について
相違点122-7-2、122-9-2は、「(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有」しないことを一致点とすることを前提としたものであり、甲12発明2は、いずれも「(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有」しないから、この点を相違点として含めることはできない。
そして、「(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず」とすることが当業者が容易になし得た事項であることは、上記(ウ)b(a)及び(b)で述べたとおりである。
したがって、この主張は採用できない。

(オ)まとめ
したがって、本件訂正発明7及び9は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?5は、請求項2?5が訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるので、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項に該当するものである。
本件訂正前の請求項7?9は、請求項8及び9が訂正の対象である請求項7の記載を引用する関係にあるので、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項に該当する。
したがって、この訂正の請求は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項ごとにされたものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1?5についての本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び/又は同項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
請求項7及び9についての本件訂正は、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合せず、認めることができない。
また、請求項8についての本件訂正は、請求項8が請求項7及び9と一群の請求項であり、請求項7及び9についての訂正が認められないから、特許法第134条の2第3項及び同法同条第9項で準用する同法第126条第4項の規定により認めることができない。

第3 本件発明
上記第2で示したとおり、請求項1及び2についての本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、それぞれ以下のとおりのもの(以下「本件発明1」などということがある。)である。

「【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)クロスポビドン;
を含有し、
(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、
かつ、水分含量が1.5?2.9質量%である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。
【請求項2】
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)クロスポビドン;
を含有し、
(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、
(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、
かつ、水分含量が1.5?2.9質量%である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。」

第4 請求人の請求の趣旨、主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法等
1 請求人の請求の趣旨、主張する無効理由の概要
請求人の請求の趣旨は、「特許第5190159号の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」であり、審判請求書、審判事件弁駁書1、上申書2、口頭審理陳述要領書、審判事件弁駁書2において、以下の無効理由1、2及び6を主張している(第1回口頭審理調書も参照)。

(1)無効理由1
本件発明1及び2は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に規定により無効とされるべきものである。

(2)無効理由2
本件発明1及び2は、本件出願前に頒布された甲第8号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に規定により無効とされるべきものである。

(3)無効理由6
本件発明1及び2は、本件出願前に頒布された甲第12号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に規定により無効とされるべきものである。

なお、請求人が審判事件弁駁書1においてした無効理由3ないし無効理由5を追加する請求の理由の補正については、平成31年4月9日の第1回口頭審理において、許可しない決定がされており、上記無効理由6は、審判事件弁駁書2において追加して主張された理由であり、当審が令和2年1月14日付けの補正許否の決定においてその理由の補正を許可した。

2 請求人が提出した証拠方法等
証拠方法として、以下の証拠が提出されている。
甲1:国際公開第2004/071402号
甲2:高久史麿ら監修、治療薬マニュアル 2012、株式会社医学書院、2012年1月15日第1刷、623、625頁
甲3:特開2012-144564号公報
甲4:特開2001-206877号公報
甲5:特開2011-144120号公報
甲6:特表2007-512287号公報
甲7:特開平5-246844号公報
甲8:特表2010-533210号公報
甲9:独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 規格基準部 医薬品基準課、日本薬局方収載原案に関するご意見の募集について(平成23年9月分)、平成23年9月20日
甲10:JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES, VOL.101, NO.1,PP.127-139, JANUARY 2012
甲12:国際公開第2004/071403号
甲13:特表平11-503763号公報
甲14:特表2004-537553号公報
甲15:特表2005-520818号公報
甲16:国際公開第03/105848号
甲17:国際公開第2011/049122号
甲18:特開2012-36163号公報
甲19:特表2004-501121号公報
甲20:特表2005-538097号公報
甲22:特表2006-518354号公報
甲23:特開2011-201915号公報
甲24:国立医薬品食品衛生研究所長、審査報告書、衛研発第2638号、平成15年4月25日
甲25:佐川良寿著、医薬品製剤技術、株式会社シーエムシー出版、2002年7月25日第1刷発行、163?164、172?177頁
甲26:佐川良寿著、継承したい製剤技術の基本原理とノウハウ -粉砕・混合・造粒・乾燥・打錠・表面改質の実践と応用-、株式会社情報機構、2007年1月23日第1刷、203?233頁
甲27:中村正秋ら著、はじめての乾燥技術、日刊工業新聞社、2011年7月30日初版第1刷発行、48?53頁
甲28:中村正秋ら編著、初歩から学ぶ乾燥技術、株式会社工業調査会、2005年7月20日初版第1刷発行、18?24、51?57頁
甲29:特表2004-536826号公報
甲30:特開2007-131647号公報
甲31:特開2007-77174号公報
甲32:特表2009-532343号公報
甲33:特表2011-500558号公報
甲34:特表2012-508230号公報
甲35:特開2006-199632号公報
甲36:再表2010/074223号公報
甲37:第十三改正日本薬局方解説書 通則 製剤総則 一般試験法 1996、通則A-54、A-55
甲38:瀬崎(審決注:「瀬」の右上は「刀」、「崎」の右上は「立」)仁監修、第9巻 医薬品の包装と容器 II、株式会社廣川書店、平成3年10月30日初版発行、311?318頁
甲39:国際公開第2007/031801号
甲40:医薬品インタビューフォーム HMG-CoA還元酵素阻害剤 指定医薬品,処方せん医薬品 リピトール^(R)(審決注:○の中にR。以下同じ。)錠5mg 指定医薬品,処方せん医薬品リピトール^(R)錠10mg Lipitor^(R)、astellas、pfizer、2006年6月(改訂第13版)
甲41:高久史麿ら監修、治療薬マニュアル 2012、株式会社医学書院、2012年1月15日第1刷、622頁
甲42:特許第2774037号公報
甲43:特許第5722034号公報
甲44:欧州特許第1594474号明細書
甲45:特願2012-95518号の出願について平成24年4月19日に提出された上申書
甲46:無効2009-800236の特許審決公報、平成28年8月26日発行
甲47:国際公開第2010/092828号
甲48:国際公開第2012/029913号
甲49:特許第4981194号公報
甲51:日本医薬品添加剤協会 Safety Dataのウェブサイト(http://www.jpec.gr.jp/detail=normal&date=safetydata/ka/dake7.html)
甲52:KEGG DRUGのウェブサイト(https://www.kegg.jp/dbget-bin/www_bget?D00093+-ja)、(https://www.kegg.jp/kegg/document/help_bget_drug_ja.html)、(https://www.kanehisa.jp/ja/about_kegg_ja.html)、(https://www.kanehisa.jp/ja/)
甲53:特開2012-96998号公報
甲54:特表2010-534644号公報
甲55:BASFジャパンのwebページ(「BASFジャパンの医薬品添加剤」)(「https://www.basf.com/jp/ja/products/pharmaceuticals/pharmaingredients.html」のwebページ中の「医薬品添加剤製品リスト」をクリックすると、1頁目に表記されるもの)
甲56:特表2009-516681号公報

(なお、甲11、甲21、甲50は欠番である。)

第5 被請求人の答弁の趣旨並びにその主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法等

1 被請求人の答弁書趣旨及びその主張の概要
被請求人の答弁の趣旨は、「訂正を認める。本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」であり、審判事件答弁書1、上申書3、口頭審理陳述要領書、上申書8及び審判事件答弁書2において、請求人が主張する無効理由1、2及び6のいずれにも理由がない旨の反論をしている(第1回口頭審理調書も参照)。

2 被請求人が提出した証拠方法等
証拠方法として、以下の証拠が提出されている。
乙1:特表平8-505640号公報
乙2:特開2003-55217号公報
乙3:特願2012-546269号(本件特許に係る出願)について、平成24年10月23日付けで提出された早期審査に関する事情説明書
乙4:特開2001-354565号公報
乙5:財団法人日本公定書協会監修、日本薬局方外医薬品規格 2002、株式会社じほう、平成14年9月30日発行、560?561頁
乙6:東京地判平成29年9月29日、平成27年(ワ)第30872号
乙7:知財高判平成30年4月4日、平成29年(ネ)第10090号
乙8の1:治験薬製造指図記録書(PTVD-003A)(抄)
乙8の2:治験薬製造指図記録書(PTVD-003B)(抄)
乙9の1:治験薬製造指図記録書(PTVD-001A)(抄)
乙9の2:治験薬製造指図記録書(PTVD-001B)(抄)
乙9の3:治験薬製造指図記録書(PTVD-002A)(抄)
乙9の4:治験薬製造指図記録書(PTVD-002B)(抄)
乙10の1:製造指図記録書(PTVD-303A)(抄)
乙10の2:製造指図記録書(PTVD-303B)(抄)
乙11:平成27年(ワ)第30872号 特許権侵害差止請求事件 被告第6準備書面
乙12:平成27年(ワ)第30872号 特許権侵害差止請求事件 被告第9準備書面
乙13:平成27年(ワ)第30872号 特許権侵害差止請求事件 被告第5準備書面
乙14:特願2011-548476号についての、平成24年2月24日付けの拒絶理由通知書
乙15:医薬品インタビューフォーム HMG-CoA還元酵素阻害剤 処方せん医薬品 ローコール^(R)錠10mg ローコール^(R)錠20mg ローコール^(R)錠30mg LOCHOL^(R)Tablets フルバスタチンナトリウム錠、2012年8月(新様式第4版)
乙16:医薬品インタビューフォーム HMG-CoA還元酵素阻害剤 -高脂血症治療剤- 処方せん医薬品 日本薬局方 プラバスタチンナトリウム錠 メバロチン^(R)錠5 メバロチン^(R)錠10 日本薬局方 プラバスタチンナトリウム細粒 メバロチン^(R)細粒0.5% メバロチン^(R)細粒1% MEVALOTIN^(R) TABLETS, FINE GRANULES、2011年11月改訂(第8版)
乙17:医薬品インタビューフォーム HMG-CoA還元酵素阻害剤 処方せん医薬品 クレストール^(R)錠2.5mg クレストール^(R)錠5mg ロスバスタチンカルシウム錠 CRESTOR^(R) Tablets 2.5mg・5mg、2011年1月(改訂第10版)
乙18:医薬品インタビューフォーム HMG-CoA還元酵素阻害剤 処方せん医薬品^(注)) リバロ錠1mg リバロ錠2mg LIVALO _(TAB.) 1mg・2mg、2010年4月(改訂第9版)
乙19:調書(決定)、平成30年(受)第1059号
乙20:特表2008-506655号公報
乙21:審判便覧 第18版、51-17 P
乙22:「特許法における補正・訂正に関する裁判例の分析と提言(1)-新規事項追加禁止を中心に-」、知的財産法政策学研究、Vol.21、(2008)、31-33頁
乙23:知財高判平成31年3月20日、平成30年(行ケ)第10034号

第6 当審の判断
当審は、無効理由1及び2は理由がないが、無効理由6は理由がある、と判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 無効理由1について
(1)甲各号証の記載事項
甲2?8、12?16、18?20、22?24、35?39及び53の記載事項(甲8は一部のみ)は、上記第2 2(4)ウ(ア)に示したとおりである。

ア 甲1(国際公開第2004/071402号)には、以下の記載がある(訳文で示す。)。
1-1)「技術分野
本発明は、製薬業界の分野に関し、特に、環境への影響に敏感な活性物質を含む安定な医薬剤形に関する。好ましくは、活性物質は、環境pH、酸化および/または環境湿度に敏感であり、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤の群から選択される。最も好ましくは、活性物質は、アトルバスタチンである。」(1頁3行?8行)

1-2)「本発明の安定な医薬剤形は、環境pHに敏感な1つ以上の活性物質と、環境pHに対する1つ以上の活性物質の安定性を与える1つ以上の医薬賦形剤とを含み、上記医薬剤形は、水分含量が医薬剤形全体の重量の3.5重量%未満、好ましくは3重量%未満であり、アルカリ化物質または緩衝剤、またはこれらの組み合わせを含まない。上記医薬剤形は、様々な種類の結晶セルロースおよび結晶セルロースの改変された形態からなる群から選択される1つ以上の賦形剤を含む。」(1頁9行?17行)

1-3)「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)は、特に、環境pH、湿度、光、温度、二酸化炭素および酸素にも敏感な活性物質である。」(5頁9行?10行)

1-4)「スタチンの中でも、例えば、プラバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、メバスタチンまたはコンパクチン、フルバスタチンまたはフルインドスタチン、セル(セリ)バスタチンまたはリバスタチン、ロスバスタチンまたはビスタスタチン、およびイタバスタチンまたはピタバスタチンまたはニスバスタチンが知られている。」(5頁27行?29行)

1-5)「上述のスタチン類の多くは、特に環境影響、例えば、大気の影響や環境pHに敏感である。従来技術では、特定のスタチンは、酸性環境(低pH値)に敏感であり、ラクトン形態および異なる異性体に分解されることが知られている。例えば、プラバスタチン、アトルバスタチン、イタバスタチンおよびフルバスタチンは、酸性環境では、ラクトン形態に変換される。」(7頁4行?9行)

1-6)「本発明の目的は、さらに、低い水分含量の条件下で、すなわち、乾燥減量が3.5%(LODが3.5%未満)、好ましくはLODが3%未満で、アルカリ化物質またはアルカリ化物質または緩衝剤を医薬剤形に添加することなく、驚くべきことに活性物質であるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤のヒドロキシル酸形態からラクトン形態への変換を防ぐ医薬剤形である。本発明の安定な医薬剤形は、環境pHに敏感な1つ以上の活性物質と、環境pHに対する1つ以上の活性物質の安定性を与える1つ以上の医薬賦形剤とを含み、上記医薬剤形は、水分含量が医薬剤形全体の重量の3.5重量%未満、好ましくは3重量%未満であり、アルカリ化物質または緩衝剤、またはこれらの組み合わせを含まない。」(18頁1行?11行)

1-7)「本発明の安定な医薬剤形の医薬賦形剤は、様々な種類の結晶セルロースおよび結晶セルロースの改変された形態からなる群から選択される。好ましくは、結晶セルロースとコロイド状SiO_(2)の物理的な混合物の群から選択され、最も好ましくは、異なる種類の結晶セルロース、例えば、ProSolv(商標)SMCC(登録商標)90、ProSolv(商標)HD 90およびAvicel(登録商標)PH 200から選択される。」(18頁12行?17行)

1-8)「本発明の医薬剤形は、好ましくは、固形医薬剤形であり、粒子形態、規則的な形状または不規則な形状であってもよく、例えば、粉末、懸濁物用の粉末、顆粒、錠剤およびカプセルである医薬剤形の群から選択される。」(20頁19行?22行)

1-9)「本発明の医薬剤形は、1つ以上のコーティングされた活性物質および/または1つ以上のコーティングされていない活性物質と、選択されたフィラーに加え、さらに、以下からなる群から選択される1つ以上の医薬賦形剤を含む。
a)1つ以上のバインダー;
b)1つ以上の崩壊剤;
c)1つ以上の滑剤;
d)1つ以上の界面活性剤;
e)および従来技術で知られており、着色剤、香味剤および吸着材料から
なる群から選択される固形医薬剤形のための他の要素。
本発明の医薬剤形のバインダーは、様々な種類のデンプン、デンプンの改変された形態、結晶セルロース(MCC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
本発明の医薬剤形の崩壊剤は、架橋したカルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋したカルボキシメチルデンプン、様々な種類のデンプンおよび結晶セルロースおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。」(20頁23行?21頁12行)

1-10)「実施例
実施例1
フィルムコーティングされた錠剤の組成

1.1.錠剤コア

表3:コアの組成

錠剤コアの調製
ラウリル硫酸ナトリウムの溶液を、温風の流れのなかアトルバスタチンCaに噴霧した。得られた顆粒を乾燥させ、ふるい分けした。ProSolv SMCC 90、アルファデンプン化したコーンスターチ、架橋したカルボキシメチルセルロースを加え、均一に混合した。ステアリン酸マグネシウムおよびタルクを添加し、均一に混合し、圧縮して重量200mgの錠剤にした。」(26頁1行?表3の下6行)

1-11)「1.2.錠剤のコーティング

表4:コーティングの組成

コーティング分散物の調製および錠剤コアのコーティング
粘度が25?50mPasのカルボキシメチルセルロースナトリウム(Blanose CMC 7LF PH、Aqualon)(109.00g)と、グリセロール(11.00g)を、混合しつつ、水(2513.60g)に溶解した。得られた分散物を、コア重量に対して8重量%のコーティングになるまで、コアに噴霧した。このコーティングプロセスの間、錠剤の重量を制御し、コーティング膜を概算した。」(26頁表4の上1行?27頁2行)

1-12)「1.4.異なる雰囲気における実施例1の医薬剤形中の活性物質の安定性の分析

分解生成物(ラクトンおよび酸化分解生成物)の発生に対する水/湿度および医薬賦形剤の影響を、異なる乾燥剤(乾燥剤なし、シリカゲル、モレキュラーシーブ)を用いたパッケージ(HDPEプラスチック瓶)の中のフィルムコーティングされた錠剤を試験することによって評価した。フィルムコーティングされた錠剤を、40/75(40℃±2℃、75%RH±5%)の条件下で1ヶ月間保存した。錠剤中のアトルバスタチンの分解生成物(ラクトンおよび酸化分解生成物)のアッセイを液体クロマトグラフィーによって測定した。参照サンプルとして、冷蔵庫(2?8℃)に保存した錠剤を分析した。錠剤中の水分含量を、乾燥減量(LOD)を測定することにより、重量測定法により測定した。」(27頁14行?最終行)

1-13)「表5:40/75(40℃±2℃、75%RH±5%)の条件下で1ヶ月間保存した本発明の膜コーティングされた錠剤中のアトルバスタチンの分解生成物(ラクトン)のアッセイにおける増加


」(28頁「Table 5」)

1-14)「表6:40/75(40℃±2℃、75%RH±5%)の条件下で1ヶ月間保存した本発明の膜コーティングされた錠剤中のアトルバスタチンの分解生成物(酸化分解生成物)のアッセイにおける増加

」(28頁「Table 6」)

1-15)「特許請求の範囲
1.安定な医薬剤形であって、環境pHに敏感な1つ以上の活性物質と、環境pHに対する1つ以上の活性物質の安定性を与える1つ以上の医薬賦形剤とを含み、前記医薬剤形は、水分含量が前記医薬剤形全体の重量の3.5重量%未満であり、アルカリ化物質または緩衝剤、またはこれらの組み合わせを含まない、安定な医薬剤形。」(31頁1行?7行)

1-16)「2.安定な医薬剤形であって、環境pHに敏感な1つ以上の活性物質と、環境pHに対する1つ以上の活性物質の安定性を与える1つ以上の医薬賦形剤とを含み、医薬賦形剤は異なる種類の結晶セルロースおよび結晶セルロースの改変された形態からなる群から選択され、前記医薬剤形は、前記水分含量が前記医薬剤形全体の重量の3.5重量%未満であり、アルカリ化物質または緩衝剤、またはこれらの組み合わせのいずれも含まない、安定な医薬剤形。」(31頁8行?15行)

1-17)「5.前記活性物質が、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤の群から選択される、請求項1?4のいずれかに記載の安定な医薬剤形。」(32頁3?5行)

イ 甲8(特表2010-533210号公報)には、以下の記載がある。
8-1)「【請求項1】
アルカリ剤を含まない、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む安定的な医薬組成物。
・・・
【請求項3】
5%未満の水分を含む、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物。
【請求項4】
(a) 5 - 25 %の1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤;
(b) 30 - 60 %のデンプン;
(c) 5 - 10 %のタルク;
(d) 0.1 - 5 %のステアリン酸マグネシウム;及び
(e) 20 - 38 %のクロスポビドン
を含む医薬組成物。
・・・
【請求項6】
前記HMG-CoAレダクターゼ阻害剤が、フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチンまたはロスバスタチン、またはこれらの医薬的に許容できる塩、またはこれらの混合物から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。」

8-2)「【請求項8】
前記組成物が固形の経口用剤形である、請求項1から7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
・・・
【請求項16】
前記組成物が5%未満の水分を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の医薬組成物。」

8-3)「【0002】
フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチン及びロスバスタチンなどのHMG-CoAレダクターゼ阻害剤は、高リポタンパク血症及びアテローム性動脈硬化症の治療のための、高コレステロール症治療薬として一般に使用されている。しかしながら、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤及び構造的に相関した薬剤(このタイプの化合物は「スタチン」と一般に呼称される)は、ジヒドロキシヘプテン酸部分を含有し、かかるスタチンは、医薬組成物中に製剤化されると、非常に不安定で、分解されやすいことが知られていた。」

8-4)「【0004】
スタチンを含む医薬組成物を安定化させるために通常使用されている方法は、水中分散させた場合に組成物のpHが約pH8以上であるように組成物中にアルカリ剤を使用することである。スタチン化合物の不安定性が、中性または酸性pHでのジヒドロキシヘプテン酸部分の極端な不安定性に起因すると理論化されているとおり、組成物のpHを高く維持し続けることにより、pH関連性の分解からスタチンを保護することができる。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のアルカリ剤のうち、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物を安定化させるための、先行技術において使用される最も好ましい薬剤は、無機炭酸塩及び無機重炭酸塩である。しかし、これらの製剤におけるアルカリ剤の使用は、医薬組成物を摂取する患者に対して、特には傷付いた胃粘膜を有する患者に問題を引き起こし得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
我々は、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む安定的な医薬組成物であって、アルカリ剤を含まない医薬組成物を調製可能であることを驚くべきことに発見した。」

8-5)「【0011】
従って、本発明の第一の態様の一実施形態は、アルカリ剤を含まない、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む安定的な医薬組成物である。」

8-6)「【0015】
本発明の第一の態様の別の実施形態は、5%未満の水分、好ましくは3%未満、好ましくは2%未満、好ましくは1%未満の水分を含む、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物である。
・・・
【0022】
本発明の第一の態様の任意の実施形態において、医薬組成物は好ましくは安定である。好ましくは医薬組成物はアルカリ剤を含まない。好ましくは、水に分散した場合に、組成物のpHがpH7、6、5、4またはそれより低い範囲にある。好ましくは、水に分散した場合に、組成物のpHは、pHが4-7、好ましくはpHが5-7、好ましくはpHが5.5-6.5の範囲にある。好ましくは、組成物は、5%未満の水分、好ましくは3%未満、好ましくは2%未満、好ましくは1%未満の水分を含む。」

8-7)「【0027】
上述のように、本発明の安定的な医薬組成物は、典型的には、マイクロクリスタリンセルロース、ラクトース、糖、デンプン、加工デンプン、マンニトール、ソルビトール及びその他のポリオール、デキストリン、デキストランまたはマルトデキストリンなどの1種または複数の充填剤;ラクトース、デンプン、加工デンプン、トウモロコシデンプン、デキストリン、デキストラン、マルトデキストリン、マイクロクリスタリンセルロース、糖、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、アカシアゴム、トラガカントゴム、ポリビニルピロリドンまたはクロスポビドンなどの1種または複数の結合剤;クロスカルメロースナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン、クロスポビドン、架橋カルボキシメチルデンプン、デンプン、マイクロクリスタリンセルロース、ポリアクリリンカリウムなどの1種または複数の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ベヘン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、三ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸、パルミチン酸、カルナウバろうまたは二酸化シリコンなどの1種または複数の異なる流動促進剤または潤滑剤を含む。」

8-8)「【0029】
本発明の医薬組成物用の好ましい賦形剤は、トウモロコシデンプンなどのデンプン、クロスポビドン、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ラクトース及びシリカである。クロスポビドンと組み合わせてのデンプンの使用が特に有利であることがわかっている。」

8-9)「【0039】
[実施例1]
フルバスタチンナトリウムを従来の方法で以下の賦形剤とともに混合し、カプセル中に充填させた。
【0040】
【表2】

【0041】
組成物のpHは5.7 - 5.9であった。促進条件(40℃及び75 %の相対湿度)での安定性試験において、3ヵ月後、実施例1の組成物中の不純物の総合値は、比較例の組成物のそれが全部で2.38 %であったのと比べて、1.48 %であった。」

ウ 甲9(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 規格基準部 医薬品基準課、日本薬局方収載原案に関するご意見の募集について(平成23年9月分)、平成23年9月20日)には、以下の記載がある。

9-1)「

」(4.第十六改正日本薬局方第一追補に収載予定の改正案(意見募集)、医薬品各条(化学薬品等)の欄)

9-2)「

」(クロスポビドンの項)

9-3)「

」(クロスポビドン、粒度の項)

9-4)「

」(クロスポビドン、純度試験の項、(4))

エ 甲10(JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES, VOL.101, NO.1,PP.127-139, JANUARY 2012)には、以下の記載がある(訳文で示す。)。
10-1)「ポビドンは、25℃および40℃で、それぞれ11%、32%、50%、60%RHにて、2.5カ月間および28ヶ月間保存された。表1に示すように、高湿度条件下でのポビドンの貯蔵は、ポビドン中の過酸化物濃度を減少させたが、乾燥条件下での貯蔵は、経時的に過酸化物濃度の有意な増加をもたらした。例えば、25℃ / 11%RHでは、過酸化物濃度は、2.5カ月および28ヶ月で、それぞれ74.7ppmから99.3ppmおよび206.7ppmへと一貫して増加した。 25℃/ 60%RHでは、過酸化物濃度は経時的に74.7ppmから44.0ppmに減少し、2.5カ月および28ヶ月ではそれぞれ検出されなかった。これらの結果は、低湿度条件下で過酸化物濃度が増加する傾向があることを示した。」(130頁左欄25行?39行)

10-2)「表1.ポビドン粉末中の過酸化物濃度に対する保存条件(温度および湿度)の影響

結果はn = 3の平均±標準偏差を表す。ポビドン中の初期過酸化物濃度は74.7±3.1ppmであった。アスタリスク(^(*))で印した結果は、2つの試料平均を不等分散の仮定と比較するための両側t検定を使用して、初期過酸化物濃度と統計的に有意に(p<0.05)異なっていた。」(130頁「Table 1」)

10-3)「我々の結果(表1)は、特定のケイ酸塩、例えばモレキュラーシーブ^(28)を医薬製品パッケージで使用することによって達成される極めて低湿度条件下(例えば11%RH)での貯蔵が、過酸化物濃度を高める賦形剤の化学的不安定性を増加させる可能性があることを示す。したがって、酸化不安定な薬物製品の場合、賦形剤および薬物製品の貯蔵のための最適湿度範囲は、化学的および物理的不安定性の両方の影響を考慮に入れるべきであり、ケースバイケースで検討されるべきである。」(134頁左欄32行?43行)

オ 甲41(高久史麿ら監修、治療薬マニュアル 2012、株式会社医学書院、2012年1月15日第1刷、622頁)
41-1)「


」(622頁右欄)

(2)甲1に記載された発明
甲1には、環境への影響に敏感な活性物質を含む安定な医薬剤形について、「安定な医薬剤形であって、環境pHに敏感な1つ以上の活性物質と、環境pHに対する1つ以上の活性物質の安定性を与える1つ以上の医薬賦形剤とを含み、前記医薬剤形は、水分含量が前記医薬剤形全体の重量の3.5重量%未満であり、アルカリ化物質または緩衝剤、またはこれらの組み合わせのいずれも含まない、安定な医薬剤形」が記載されている(摘示1-1、1-2、1-15)ところ、その具体例である実施例1として、アトルバスタチンCa、ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋したカルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルクからなる錠剤コアに、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物で膜をコーティングした錠剤を異なる乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージし、当該錠剤を特定条件下で保存し、錠剤中の水分含量を、乾燥減量(LOD)を測定することにより、重量測定法により測定したことが記載されており、乾燥減量(LOD)、すなわち水分含量が2.73、1.99、1.55又は1.73%であることが記載されている(摘示1-10?1-14)。
そして、甲1には、アトルバスタチンがHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であることが記載されている(摘示1-1)。
以上、指摘した記載事項を含む上記摘示1-1?1-17に示した記載、特に実施例1の記載からみて、甲1には、
「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるアトルバスタチンCaと、ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋したカルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルクからなる錠剤コアに、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物で膜をコーティングした錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした医薬剤形であって、水分が2.73、1.99、1.55又は1.73%である医薬剤形」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるアトルバスタチンCa」は、HMG-CoAレダクターゼ阻害作用を有する化合物であるといえるところ、本件発明1の成分「(A)ピタバスタチン又はその塩」はHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物であり(本件明細書【0002】)、両物質は、HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物である限りにおいて一致する。
甲1発明の医薬剤形における水分は、重量測定法により測定されているから(摘示1-12)、重量%で表されるものであり、その値は質量%と同じ値となるところ、甲1発明の「水分が2.73、1.99、1.55又は1.73%」であることは、本件発明1の「水分含量が1.5?2.9質量%」であることに相当する。
甲1発明の医薬剤形は「錠剤」であるところ、これは本件発明1の「固形製剤」に相当する。
甲1発明の医薬剤形は、「錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした」ものであるところ、本件明細書に「【0045】・・・本発明の「医薬品」は、気密包装体の内部において固形製剤が2.9質量%以下の水分含量であればよい。すなわち、気密包装体から固形製剤を取り出した直後において、その水分含量が2.9質量%以下であればよく、例えば、気密包装体にて収容する前において固形製剤の水分含量が2.9質量%以上であっても、乾燥剤を同封する等の手段により気密包装体の内部において固形製剤の水分含量が2.9質量%以下となっていれば(すなわち、気密包装体から固形製剤を取り出した直後において、その水分含量が2.9質量%以下となっていれば)本発明の「医薬品」に包含される。【0046】本発明において「気密包装体」とは、通常の取扱い、運搬又は保存等の状態において、水分の包装体外からの実質的な侵入を抑制し得る包装を意味し、第十六改正日本薬局方 通則に定義される「気密容器」及び「密封容器」を包含する概念である。当該包装体としては、定形、不定形のいずれのものも用いることができ、具体的には例えば、ビン包装、SP(Strip Package)包装、PTP(Press Through Package)包装、ピロー包装、スティック包装等が挙げられる。・・・【0047】気密包装体の包装材料(素材)としては、防湿性を発揮し得るものであれば特に限定されず、医薬品や食品の分野で、水分に弱い内容物の防湿等を目的として用いられる材料を適宜用いることができる。ビン包装に用いられるビン本体の材料としては例えば、・・・ポリエチレン(低密度(LDPE)、高密度(HDPE)を含む)、・・・等が挙げられる。・・・ビン包装の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)が特に好ましい。」、「【0052】本発明において、固形製剤を気密包装体に収容する方法は特に限定されるものではなく、包装体内への固形製剤の投入等の適当な手段により、固形製剤を包装体内に配置することで達成できる。この場合において、包装体内に固形製剤とともに乾燥剤(例えば、円柱状(錠剤型)のものやシート状のもの)を投入する手段を用いてもよいが・・・」と記載されるとおり、本件発明1の「気密包装体」はビン包装を包含するものであり、気密包装体に収容する際には乾燥剤を用いることができ、気密包装体に収容する前において固形製剤の水分含量が2.9質量%以上であっても、乾燥剤を同封するなどの手段により気密包装体の内部において固形製剤の水分含量が2.9質量%以下となっていればよいものであるから、甲1発明の医薬剤形において、「錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージ」することは、本件発明1の「気密包装体に収容」してなることに相当する。
なお、甲1発明の「錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした」ものは、上記摘示1-12のとおり、分析試験に供されるものではあるが、「錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージ」することは、上記したように本件明細書にも記載されるとおり、通常採用される医薬剤形である。
また、甲1発明の「医薬剤形」は、本件発明1の「医薬品」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、
「次の成分(A):(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物;を含有し、かつ、水分含量が2.73、1.99、1.55又は1.73質量%である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-1-1>
(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物について、本件発明1は、「(A)ピタバスタチン又はその塩」であるのに対し、甲1発明は、「アトルバスタチンCa」である点

<相違点1-1-2>
本件発明1は、固形製剤について、「(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず」と特定するのに対し、甲1発明は、「ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋したカルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」を含有する点

<相違点1-1-3>
本件発明1は、コーティングについて特定していないのに対し、甲1発明は、膜でコーティングされている点

上記各相違点について検討する。
<相違点1-1-1>について
(ア)甲1には、「本発明の目的は、さらに、低い水分含量の条件下で、すなわち、乾燥減量が3.5%(LODが3.5%未満)、好ましくはLODが3%未満で、アルカリ化物質またはアルカリ化物質または緩衝剤を医薬剤形に添加することなく、驚くべきことに活性物質であるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤のヒドロキシル酸形態からラクトン形態への変換を防ぐ医薬剤形である。本発明の安定な医薬剤形は、環境pHに敏感な1つ以上の活性物質と、環境pHに対する1つ以上の活性物質の安定性を与える1つ以上の医薬賦形剤とを含み、上記医薬剤形は、水分含量が医薬剤形全体の重量の3.5重量%未満、好ましくは3重量%未満であり、アルカリ化物質または緩衝剤、またはこれらの組み合わせを含まない。」(摘示1-6)こと、「本発明の安定な医薬剤形の医薬賦形剤は、様々な種類の結晶セルロースおよび結晶セルロースの改変された形態からなる群から選択される。」(摘示1-7)ことが記載されている。
(イ)また、甲1には、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)は、特に、環境pH、湿度、光、温度、二酸化炭素および酸素にも敏感な活性物質であることが記載されており、スタチンとして、アトルバスタチンの他、イタバスタチン、ピタバスタチンが記載されており、それらスタチン類の多くは、特に環境影響、例えば、大気の影響や環境pHに敏感であり、従来技術では、特定のスタチンは、酸性環境(低pH値)に敏感であり、ラクトン形態および異なる異性体に分解されることが知られており、例えば、プラバスタチン、アトルバスタチン、イタバスタチンおよびフルバスタチンは、酸性環境では、ラクトン形態に変換されることも記載されている(摘示1-3?1-5。なお、甲1には、「イタバスタチンは、化学的に、(S-(R^(*),S^(*)-(E)))-7-(2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)-3-キノリニル)-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸である。ピタバスタチンは、イタバスタチンのラクトン形態である。」(6頁20?21行)と記載されるところ、本件明細書には「ピタバスタチンカルシウム(化学名:(+)-monocalcium bis{(3R,5S,6E)-7-[2-cyclopropyl-4-(4-fluorophenyl)-3-quinolyl]-3,5-dihydroxy-6-heptenoate})」と記載されており(【0002】)、それぞれの化学名からみて、甲1に記載のイタバスタチンは、本件発明1のピタバスタチンに相当するといえる。甲14、15、22?24にもイタバスタチン(ニスバスタチン)とピタバスタチンが同じ物質であることが記載されている(摘示14-1、14-2、15-1、22-1、23-1、24-1、24-2)。
(ウ)そして、甲1には、実施例として、活性成分がアトルバスタチンカルシウムである錠剤について、分解生成物(ラクトン及び酸化分解生成物)のアッセイにおける増加を測定し、その安定性を分析したことが記載されている(摘示1-10?1-14)。
(エ)さらに、以下に示すとおり、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)の分解生成物(ラクトン及び酸化分解生成物)の生成は、スタチン類に共通する化学構造(ジヒドロキシカルボン酸(3,5-ジヒドロキシヘプタン酸又は3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸)骨格(以下、「共通骨格」ということがある。))に由来することが出願時の技術常識であったといえる。

i)アトルバスタチンカルシウム水和物及びピタバスタチンカルシウムの構造式は以下のとおりである(摘示2-1、2-2)。




ii)一方、甲3には、「現在、高脂血症治療剤や高コレステロール血症治療剤として、HMG-CoA還元酵素阻害活性を有するスタチン類を有効成分とする医薬品が多数開発・上市されている。こうしたスタチン類としては、具体的には例えば、プラバスタチンナトリウム、フルバスタチンナトリウム、アトルバスタチンカルシウム水和物、ピタバスタチンカルシウム、ロスバスタチンカルシウムが挙げられ、これらの化合物はいずれもジヒドロキシカルボン酸(3,5-ジヒドロキシヘプタン酸又は3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸)骨格を共通骨格として有している。」との記載、「上記スタチン類の共通骨格であるジヒドロキシカルボン酸骨格は分子内で環化し、HMG-CoA還元酵素阻害活性の低いラクトン体を生成することが知られている。」との記載があり(摘示3-1、3-2)、甲4には、「該エージェントは、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAレダクターゼ(HMG CoAレダクターゼ)の阻害剤として、・・・に有用である。・・・該エージェントと結びついている問題は、該エージェントが一定の条件下で分解することである。このことにより生成物の調剤および良好な貯蔵期限を有する医薬組成物を得ることが困難になる。形成される主要な分解生成物は、相応する(3R,5S)ラクトン(以下では「ラクトン(the lactone)」と呼ぶ)およびその中で炭素-炭素の二重結合に隣接しているヒドロキシ基が酸化されてケトン官能基になっている酸化生成物(以下では「B2」と呼ぶ)である。」との記載があり(摘示4-1)、甲5には、「HMG-CoAレダクターゼ阻害薬は・・・、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン及びそれらの塩からなる群から選択される」、「HMG-CoAレダクターゼ阻害薬は一般的に熱、水分及び酸に対し不安定である。これらは共通してヒドロキシ酸を有し、酸性環境下では類縁物質であるラクトン体を生じ易い」との記載があり(摘示5-1)、甲6には、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を含む持続放出性医薬組成物に関する記載があり、ピタバスタチンの分解産物として、ラクトン及びケトンが記載され(摘示6-1、6-3、【表4】)、甲7には、「フルバスタチン及び関連HMG-CoAリダクターゼ化合物の上述した不安定性は、ヘプテン鎖上のβ,δ-ヒドロキシ基が非常に動きやすいこと及び二重結合が存在することによると思われる。即ち中性?酸性pHにおいてこの化合物は脱離又は異性化又は酸化反応を容易に受けて共役不飽和芳香族化合物、並びにトレオ異性体、対応するラクトン、及び他の分解生成物を生成する。」との記載があり(摘示7-1)、甲8には、「フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチン及びロスバスタチンなどのHMG-CoAレダクターゼ阻害剤は、・・・使用されている。しかしながら、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤及び構造的に相関した薬剤(このタイプの化合物は「スタチン」と一般に呼称される)は、ジヒドロキシヘプテン酸部分を含有し、かかるスタチンは、医薬組成物中に製剤化されると、非常に不安定で、分解されやすいことが知られていた。」との記載がある(摘示8-3)。また、スタチン類に関する同様の記載は、甲12、13、18?20、39(摘示12-1、13-1、18-1、19-1、20-1、39-1)にもある。

iii)以上の甲各号証の記載から、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)の分解生成物(ラクトン及び酸化分解生成物)の生成は、スタチン類に共通する共通骨格に由来することが技術常識であったといえ、アトルバスタチンとピタバスタチンについても、当該共通骨格を有するものであり、これら化合物は、分解生成物としてラクトン体及び酸化分解生成物を生成し、該分解生成物の生成は共通骨格部分における化学変化によるものであるといえる。

してみると、甲1に、実施例として具体的に記載された、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるアトルバスタチンカルシウムを活性物質とする甲1発明の医薬剤形について、当該アトルバスタチンカルシウムに代えて、甲1に、アトルバスタチンカルシウムと同様にHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であり、共通骨格を有するスタチン類であり、環境pH、湿度、光、温度、二酸化炭素および酸素にも敏感な活性物質であるといえる、甲1に記載のイタバスタチン(本件発明1のピタバスタチン)を用いた医薬剤形とすることは当業者が容易になし得た事項であると認められる。

<相違点1-1-2>について
甲1には、クロスポビドンを用いることについて何ら記載がない。すなわち、本件明細書にも記載のとおり、クロスポビドンは崩壊剤等として用いられるものであるところ、甲1には、「本発明の医薬剤形の崩壊剤は、架橋したカルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋したカルボキシメチルデンプン、様々な種類のデンプンおよび結晶セルロースおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される」と記載されており(摘示1-9)、クロスポビドンについての記載はない。甲1には他の用途の成分としてもクロスポビドンの記載はない。たとえ、ピタバスタチン又はその塩とクロスポビドンを含有する製剤が周知であったとしても、上記した甲1の記載からすると、そのことで、甲1発明にクロスポビドンを配合する動機付けがあるともいえない。
したがって、甲1発明がクロスポビドンを含有するものとすることが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
また、甲1発明の「架橋したカルボキシメチルセルロース」、「カルボキシメチルセルロースナトリウム」及び「Prosolv SMCC90」(摘示1-7参照)は、それぞれ、本件発明1において含有しないとされる「カルメロース」、「カルメロースの塩」及び「結晶セルロース」に相当する。
甲1に開示された医薬剤形は、「環境pHに敏感な1つ以上の活性物質と、環境pHに対する1つ以上の活性物質の安定性を与える1つ以上の医薬賦形剤とを含」むものであるところ(摘示1-6、1-15、請求項1)、そのような安定性を与える医薬賦形剤について、甲1には、「本発明の安定な医薬剤形の医薬賦形剤は、様々な種類の結晶セルロースおよび結晶セルロースの改変された形態からなる群から選択される。」と記載されており(摘示1-7)、具体的な錠剤にも結晶セルロースであるProSolv SMCC90が配合されている(摘示1-10)ことからみて、甲1発明において、結晶セルロースである「Prosolv SMCC90」は活性物質の安定性を与える重要な成分であるといえる。
してみると、甲1発明の「Prosolv SMCC90」を配合しないこと、又は結晶セルロースではない他の物質に代えることは、出願時の技術常識を参酌しても当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、甲1発明において、「(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず」とすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

<相違点1-1-3>について
本件発明1では、コーティングについて特定されていないものの、本件明細書には、「【0039】本発明において、固形製剤は、第十六改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法にしたがって、種々の剤形にすることができる。・・・なお、これらの固形製剤は必要に応じてフィルム、糖衣等でコーティングされていてもよい。」と記載されており、本件発明1の固形製剤はコーティングされていてもよい態様を当然に含むと理解されるから、本件発明1と甲1発明は、この点では実質的に相違しない。

以上のとおり、相違点1-1-1に係る本件発明1の技術的事項は当業者が容易になし得た事項であり、相違点1-1-3は実質的な相違点ではないといえるものの、相違点1-1-2に係る本件発明1の技術的事項を採用することが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえないから、本件発明1の効果について検討するまでもなく、本件発明1は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

イ 本件発明2について
本件発明1の場合と同様に、本件発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明の医薬剤形は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物で膜をコーティングした錠剤をHDPEプラスチック瓶にパッケージしたものであり、「カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」は膜を形成する物質であるといえるところ、甲1発明の「コーティング」は、本件発明1の「フィルム」に相当するといえるから、甲1発明の「カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」はフィルム形成剤であるといえる。そして、甲1発明は、「ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有」しない点で本件発明2と一致する。
したがって、本件発明2と甲1発明とは、
「次の成分(A):(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物;を含有し、(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、かつ、水分含量が2.73、1.99、1.55又は1.73質量%である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2-1-1>
(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物について、本件発明2は、「(A)ピタバスタチン又はその塩」であるのに対し、甲1発明は、「アトルバスタチンCa」である点

<相違点2-1-2>
本件発明2は、固形製剤について、「(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず」と特定するのに対し、甲1発明は、「ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋したカルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」を含有する点

<相違点2-1-3>
本件発明2は、コーティングについて特定されていないのに対し、甲1発明は、膜でコーティングされている点

そして、相違点2-1-1?2-1-3は相違点1-1-1?1-1-3と同様であるから、上記アで述べたのと同様の理由により、相違点2-1-1に係る本件発明2の技術的事項は当業者が容易になし得た事項であり、相違点2-1-3は実質的な相違点ではないといえるものの、相違点2-1-2に係る本件発明2の技術的事項を採用することが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、本件発明2の効果について検討するまでもなく、本件発明2は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

ウ 請求人の主張について
本件訂正後の請求項1及び2に係る発明である本件発明1及び2は、その後取り下げられたものとみなされた被請求人が令和元年9月9日にした訂正請求により訂正された請求項1及び2に係る発明と実質的に同一の内容であるところ、請求人は、当該訂正請求後に提出された審判事件弁駁書2において、甲1に記載された発明に基づく進歩性欠如について、具体的な主張をしていない。

(4)無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
したがって、請求人が主張する無効理由1によっては、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第123条第1項第2号に規定により無効とされるべきものであるとはいえない。

2 無効理由2について
(1)甲各号証の記載事項
甲各号証の記載事項は、上記1(1)で示したとおりである。

(2)甲8に記載された発明
ア 甲8に記載された発明
甲8には、「アルカリ剤を含まない、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む安定的な医薬組成物」について記載されているところ(摘示8-1)、その具体例である実施例1として、フルバスタチンナトリウムを従来の方法で低水分トウモロコシデンプン、タルク、ステアリン酸マグネシウム、クロスポビドンからなる賦形剤とともに混合し、カプセル中に充填させた組成物が記載されている(摘示8-9)。
そして、上記フルバスタチンナトリウムはHMG-CoAレダクターゼ阻害剤である(摘示8-3)。
以上、指摘した記載事項を含む上記摘示8-1?8-9に示した記載、特に実施例1の記載からみて、甲8には、
「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるフルバスタチンナトリウムと、低水分トウモロコシデンプン、タルク、ステアリン酸マグネシウム、クロスポビドンが充填されたカプセルである医薬組成物」の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されていると認める。

イ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書(40頁)において、甲8には、
「A” 次の成分(A)及び(B):
(A)HMG-CoAレダクターゼ阻害剤;
(B)クロスポビドン;
を含有し、かつ、
B” 水分含量が2.9%以下である固形製剤
D” である医薬品。」の発明が記載されていると主張し、審判事件弁駁書1(53?54頁)において、
「・・・甲第8号証【0002】には、スタチン系化合物は、ジヒドロキシヘプテン酸部分を含有し医薬組成物中に製剤化されると、非常に不安定で、分解されやすいことが知られていたと記載されている。そして発明の具体的内容としては、
「【0015】
本発明の第一の態様の別の実施形態は、5%未満の水分、好ましくは3%未満、好ましくは2%未満、好ましくは1%未満の水分を含む、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物である。」
と記載されている。従って、製剤中の水分含量の調整によって、当該共通骨格の化学変化を抑制することでスタチン類を安定化させることが明確に示されている・・・」と主張し、上申書2(4?6頁)において、
「イ 甲第8号証は、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を活性成分とする安定な医薬固形製剤を提供することを課題とする発明を開示するものである(記載事項8-1、8-2、8-5)。この課題を解決する発明として、請求項3は、「5%未満の水分を含む、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬品組成物。」と規定しており、記載事項8-6(【0015】、【0022】)は、好ましくは3%未満の水分を含む医薬固形製剤を開示している。そして、甲第8号証は、制限されるものではないが、以下の本発明は以下の実施例によって例示される(【0035】)と前置きをして、フルバスタチンナトリウムを用いた実施例1及び実施例2を開示して、その医薬固形製剤について貯蔵安定性があることを示している。

ウ また、甲第8号証の請求項1は、「1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤」を規定し、請求項6は、請求項1のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤について、「フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチンまたはロスバスタチン、またはこれらの医薬的に許容できる塩、またはこれらの混合物」と規定している。
したがって、実施例1のフルバスタチンナトリウムという下位概念により甲8発明を認定するのではなく、その上位概念であるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤としてこれを認定することができる。

引用発明の認定は、先行技術を示す証拠(本件では、甲第8号証)に接した当業者が、まとまった技術思想として把握することができるものとして行われるものである。先行技術を示す証拠中には、特許請求の範囲に発明特定事項として記載された発明、明細書の発明の詳細な説明にまとまった技術思想として記載された発明、実施例として開示されたところから認定できる発明など、様々な段階の発明が記載されているのが通例である。これらの中から、問題となっている請求項に記載された発明と対比して進歩性の有無を判断するに最も適したものをまとまった技術思想として抽出し、これを引用発明と認定すべきである。

オ したがって、甲第8号証に記載され、まとまった技術思想として認定できる発明は、本件特許の請求項1に準じて認定すると、以下のとおり認定されるべきである。
<甲8発明>
次の成分(A)及び(B):
(A)HMG-CoAレダクターゼ阻害剤;
(B)クロスポビドン;
を含有し、かつ、水分含量が3%未満である固形製剤である医薬品。」と主張し、口頭審理陳述要領書(10頁)において、
「甲第8号証には、以下の甲8発明が記載されている。
「次の成分(A)及び(B):
(A)HMG-CoAレダクターゼ阻害活性を有する化合物;
(B)クロスポビドン;
を含有し、かつ、水分含量が3%未満である固形製剤である医薬品。」」と、また、口頭審理陳述要領書(31?33頁)において、
「1)(原文は○中1。以下同様。)甲第8号証は、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を活性成分とする安定な医薬固形製剤を提供することを課題とする発明を開示するものであること、
2)甲第8号証の実施例1及び実施例2(フルバスタチンナトリウムに関する)は、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤の一例としているものである。
3)甲第8号証の請求項1のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤について請求項6は、「フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチンまたはロスバスタチン、またはこれらの医薬的に許容できる塩」と規定していること、
加えて、
4)甲第8号証の実施例1及び実施例2がフルバスタチンナトリウムに関するものであるところ、この知見を前記1)の一般的な、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を活性成分とする安定な医薬固形製剤に当然に適用できるものとして出願され、上記したとおり、甲第43号証のように特許登録を受けたものであること
からすれば、明細書に記載されたまとまった技術思想、すなわち、甲第8号証の明細書の記載が発明を特定するための事項として「同族的若しくは同類的事項又はある共通する性質」を用いた発明を示していると認定できるから、実施例1及び実施例2のフルバスタチンナトリウムという下位概念により甲8発明を認定するのではなく、その上位概念であるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤としてこれを認定することができるというべきである。
また、甲第8号証は、【0004】において、「スタチン化合物の不安定性が、中性または酸性pHでのジヒドロキシヘプテン酸部分の極端な不安定性に起因すると理論化されているとおり、組成物のpHを高く維持し続けることにより、pH関連性の分解からスタチンを保護することができる。」と記載している。このことを前提にして、甲第8号証は、製剤中に酸性環境を現出させないための手段として水分含量をなるべく少なくすることによって、製剤中の水分によってスタチン化合物の周辺に酸性環境が生じることを抑制することによってスタチン化合物の安定化を図るものであると理解される。水分含量について規定する請求項3及び好適な水分含量に言及する記載事項8-6から、甲第8号証において発明を特定するための事項として水分含量を3%未満とする発明を示していると認定することができる。」と主張する。
そこで検討するに、甲8には、請求人が審判請求書、上申書2、口頭審理陳述要領書で記載されているとする発明について、いずれもそのとおりの記載はない。
甲8の請求項1には、「アルカリ剤を含まない、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む安定的な医薬組成物」について記載されており(摘示8-1)、医薬組成物がアルカリ剤を含まないものであるところ、これは、甲8に、「前述のアルカリ剤のうち、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物を安定化させるための、先行技術において使用される最も好ましい薬剤は、無機炭酸塩及び無機重炭酸塩である。しかし、これらの製剤におけるアルカリ剤の使用は、医薬組成物を摂取する患者に対して、特には傷付いた胃粘膜を有する患者に問題を引き起こし得る。」(摘示8-4、【0008】、【発明が解決しようとする課題】)と記載されるとおりの課題を解決するための手段であって、アルカリ剤を含まないことが必須の技術的事項であるといえる。
そして、引例に記載された発明を、実施例以外の明細書に記載されたまとまりのある技術的思想に基づいて認定することが許容されることがあるにしても、請求人が主張する発明はいずれも上記した必須の技術的事項を有しないものであるから、そのような発明が甲8に記載されているとはいえない。
また、甲8の請求項3に医薬組成物が5%未満の水分を含むことが(摘示8-1)、【0015】及び【0022】(摘示8-6)に医薬組成物が好ましくは3%未満の水分を含むことが記載されていることは請求人の主張のとおりであり、医薬組成物が典型的に含む物質として、多数の物質が列挙され、その中にクロスポビドンが記載され(摘示8-7)、具体例としてもクロスポビドンを含有する医薬組成物が記載されている(摘示8-9)。
しかし、それらの記載をみても、甲8に記載された発明において、医薬組成物が3%未満の水分を含むことは必須の技術的事項ではなく、甲8発明の認定の基礎となった具体例として記載されるクロスポビドンを含有する医薬組成物においても水分含量が不明であるなど、甲8に、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物において、クロスポビドンを必須の成分として含み、かつ、3%未満の水分を含む医薬組成物がまとまりのある技術的思想として記載されているとはいえない。しかも、甲8に記載の医薬組成物はアルカリ剤を含まないことを前提としているから、アルカリ剤を含まないことを必須の技術的事項としない医薬組成物が記載されているともいえない。
したがって、この点においても、請求人が主張する発明が甲8に記載されているとはいえない。
上記のとおりであるから、上記請求人の主張は採用できない。

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲8発明とを対比する。
甲8発明の「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるフルバスタチンナトリウム」は、HMG-CoAレダクターゼ阻害活性を有する化合物であるといえるところ、本件発明1の成分「(A)ピタバスタチン又はその塩」はHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物であり(【0002】)、両物質は、HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物である限りにおいて一致する。
甲8発明の「クロスポビドン」は本件発明1の「クロスポビドン」に相当する。
甲8発明は、「(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有」しないから、この点で本件発明1と一致する。
甲8発明は「カプセル」であるから、固形であるといえ、また、甲8発明は「医薬組成物」であるから、本件発明1の「固形製剤」に相当する。
甲8発明の「医薬組成物」は本件発明1の「医薬品」に相当する。
したがって、本件発明1と甲8発明とは、
「次の成分(A)及び(B):(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物;(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、かつ、固形製剤である医薬品」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-8-1>
(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物について、本件発明1は、「(A)ピタバスタチン又はその塩」であるのに対し、甲8発明は、「フルバスタチンナトリウム」である点、

<相違点1-8-2>
本件発明1は、上記一致点にかかる、成分(A)?(C)以外の成分について特定されていないのに対し、甲8発明は、さらに「低水分トウモロコシデンプン、タルク、ステアリン酸マグネシウム」を含有する点、

<相違点1-8-3>
固形製剤について、本件発明1は、「水分含量が1.5?2.9質量%である」と特定しているのに対し、甲8発明は、かかる特定がされていない点、

<相違点1-8-4>
固形製剤について、本件発明1は、「気密包装体に収容してなる」のに対し、甲8発明は、かかる特定がされていない点

上記各相違点について検討する。
<相違点1-8-1>について
甲8には、「フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチン及びロスバスタチンなどのHMG-CoAレダクターゼ阻害剤は、高リポタンパク血症及びアテローム性動脈硬化症の治療のための、高コレステロール症治療薬として一般に使用されている。しかしながら、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤及び構造的に相関した薬剤(このタイプの化合物は「スタチン」と一般に呼称される)は、ジヒドロキシヘプテン酸部分を含有し、かかるスタチンは、医薬組成物中に製剤化されると、非常に不安定で、分解されやすいことが知られていた。」との記載があり(摘示8-3)、さらに、「前述のアルカリ剤のうち、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物を安定化させるための、先行技術において使用される最も好ましい薬剤は、無機炭酸塩及び無機重炭酸塩である。しかし、これらの製剤におけるアルカリ剤の使用は、医薬組成物を摂取する患者に対して、特には傷付いた胃粘膜を有する患者に問題を引き起こし得る。」との記載(摘示8-4、【0008】)、「我々は、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む安定的な医薬組成物であって、アルカリ剤を含まない医薬組成物を調製可能であることを驚くべきことに発見した。」との記載(摘示8-4、【0009】)がある。
これらの記載からみて、甲8には、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤及び構造的に相関した薬剤であるスタチンはジヒドロキシヘプテン酸部分を含有し、医薬組成物中に製剤化されると、非常に不安定で、分解されやすいため、これを安定化するために、従来はアルカリ剤が使用されていたが、アルカリ剤の使用は問題があるため、アルカリ剤を含まない医薬組成物を調製したことが開示されているといえる。
なお、甲8発明のフルバスタチンナトリウムの化学構造は以下のとおりである


(摘示41-1)。
そして、甲8にはピタバスタチンがHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であることの明示的な記載はないが、甲1、3、5、6、12、15(摘示1-4、3-1、5-1、6-1、6-3、12-1、12-2、15-1)に記載のとおり、ピタバスタチンはHMG-CoAレダクターゼ阻害剤等として周知の物質であったと認められる。
さらに、上記1(3)ア、「<相違点1-1-1>について」、(ウ)、(エ)に記載したとおり、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)の分解生成物(ラクトン及び酸化分解生成物)の生成は、スタチン類に共通する化学構造(ジヒドロキシカルボン酸(3,5-ジヒドロキシヘプタン酸又は3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸)骨格)に由来すること、当該スタチン類にピタバスタチン、フルバスタチンが含まれることが技術常識であったといえる。
しかし、甲8には、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤として「フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチン及びロスバスタチン」(摘示8-3)が例示されているものの、ピタバスタチンについての記載はない。
甲8の段落【0008】(摘示8-4)には、「発明が解決しようとする課題」として、「前述のアルカリ剤のうち、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物を安定化させるための、先行技術において使用される最も好ましい薬剤は、無機炭酸塩及び無機重炭酸塩である。しかし、これらの製剤におけるアルカリ剤の使用は、医薬組成物を摂取する患者に対して、特には傷付いた胃粘膜を有する患者に問題を引き起こし得る。」との記載があるところ、この課題について、甲8の段落【0009】(摘示8-4)には、「課題を解決するための手段」として、「我々は、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む安定的な医薬組成物であって、アルカリ剤を含まない医薬組成物を調製可能であることを驚くべきことに発見した。」との記載がある。
しかし、そもそも、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物は酸性環境において安定でなく、これを安定化させるためにアルカリ剤が使用されていたところ(摘示8-4)、「アルカリ剤を含まない、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む安定的な医薬組成物」(摘示8-1)が、具体的にどのような医薬組成物を意味するのか、それがアルカリ剤を含まないでどのような理由により「安定」といえるのか、従来技術において安定でなかった「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物」とどのように異なるのか、アルカリ剤を含まないでHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物をどのようにして安定化するのかという点は、実施例1等の甲8の記載をみても不明である。
したがって、甲8発明の医薬組成物に含まれる成分である、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるフルバスタチンナトリウム、低水分トウモロコシデンプン、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及びクロスポビドンのうち、どの成分を維持した場合に甲8発明と同様に安定であるのか、あるいは、上記成分のうち、どの成分であれば他の成分と置き換えた場合にも甲8発明と同様に安定であるのかは、当業者において不明というほかはない。また、アルカリ化剤を含まないことによる安定化において、フルバスタチンナトリウムとピタバスタチンの共通性を示す証拠はなく、この点が技術常識であるともいえない。
そうすると、甲8発明について、フルバスタチンナトリウムを、これとは物性が異なることが明らかなピタバスタチン又はその塩に置き換えようと当業者が動機付けられるとはいえない。

してみると、相違点1-8-1に係る本件発明1の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

<相違点1-8-2>について
本件発明1は、「次の成分(A)及び(B):・・・を含有し」とされているから、成分(A)及び(B)以外の成分を含有することを排除するものではない。また、本件明細書には「【0030】本発明において固形製剤は、その具体的形態(剤形)に応じて、上記成分以外に当該技術分野において通常用いられている添加剤を含有していてもよい。」と記載されているところ、ステアリン酸マグネシウム、トウモロコシデンプンは該添加剤として例示されており(【0032】)、また、トウモロコシデンプン、タルク、ステアリン酸マグネシウムはいずれも当該技術分野において一般的に使用される添加剤であると認められる。
してみると、本件発明1と甲8発明は、この点では実質的に相違しない。

<相違点1-8-3>について
甲8には、「我々は、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む安定的な医薬組成物であって、アルカリ剤を含まない医薬組成物を調製可能であることを驚くべきことに発見した。」との記載(摘示8-4、【0009】)があるものの、アルカリ剤を含まないでHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物を安定化するためにどのような手段を採用したのかが具体的に開示されていない。
一方、甲8には、医薬組成物の水分含量に関し「5%未満の水分、好ましくは3%未満、好ましくは2%未満、好ましくは1%未満」との記載があるが(摘示8-6)、その技術的意義については何ら記載されておらず、甲8発明の医薬組成物(甲8の実施例1、摘示8-9)についても、その水分含量の記載はない。
そして、甲8発明の医薬組成物は、特定の成分の組み合わせとしたものであり、実施例に記載のとおり、pH5.7 - 5.9を有するものであっても安定化されたものであって(摘示8-9)、水分含量に着目して医薬組成物を安定化したものであるとも、医薬組成物の水分含量を調整して分解生成物の生成を抑制したものであるとも解することができない。
したがって、甲8の記載から、医薬組成物の水分含量と分解生成物の相関関係について見出すことはできない。
また、甲8の記載からすれば、医薬組成物において、水分含有量を下げていくことが望ましいことは認識できるものの、本件発明1の水分含有量は、ラクトン体の生成及び5-ケト体の生成の抑制をすることができる範囲を特定しているのに対し、甲8には、水分含有量を低下させることが望ましいことにおける技術的意義が明らかでないため、当該医薬組成物の水分含量を低く調整しようとした場合でも、当然に「1.5?2.9質量%」の数値範囲内となるものとはいえない。さらに、本件発明1において医薬組成物を特定の水分含有量としたことによるラクトン体の生成及びケト体の生成を抑制するという効果を、甲8の記載からは予測することができない。
以上のとおりであるから、甲8に接した当業者において、甲8発明に係る医薬組成物について、その水分含量値を1.5?2.9質量%とすることが容易になし得た事項であるとはいえないから、本願出願当時の技術常識を考慮しても、相違点1-8-3に係る本件発明1の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

<相違点1-8-4>について
固形製剤を気密包装体に収容することにより、包装体外からの水分等の侵入を防ぎ、製剤の安定化を図ることは、甲35?38に記載されるとおり(摘示35-1、36-1、37-1、38-1)、周知の技術的事項である。したがって、水分等の侵入を防ぎ、製剤の安定化を図るために、甲8発明の医薬組成物を、気密包装体に収容してなるものとすることは当業者が容易になし得る事項である。

以上のとおり、相違点1-8-4に係る本件発明1の技術的事項は当業者が容易になし得た事項であり、相違点1-8-2は実質的な相違点ではないといえるものの、相違点1-8-1及び1-8-3に係る本件発明1の技術的事項を採用することが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえないから、本件発明1は、本件出願前に頒布された甲第8号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

イ 本件発明2について
本件発明1の場合と同様に、本件発明2と甲8発明とを対比する。
甲8発明は、ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有するものではない。
したがって、本件発明2と甲8発明とは、
「次の成分(A)及び(B):(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物;(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、かつ、固形製剤である医薬品」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2-8-1>
(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物について、本件発明2は、「(A)ピタバスタチン又はその塩」であるのに対し、甲8発明は、「フルバスタチンナトリウム」である点、

<相違点2-8-2>
本件発明2は、上記一致点にかかる、成分(A)?(D)以外の成分について特定されていないのに対し、甲8発明は、さらに「低水分トウモロコシデンプン、タルク、ステアリン酸マグネシウム」を含有する点、

<相違点2-8-3>
固形製剤について、本件発明2は、「水分含量が1.5?2.9質量%である」と特定しているのに対し、甲8発明は、かかる特定がされていない点、

<相違点2-8-4>
固形製剤について、本件発明2は、「気密包装体に収容してなる」のに対し、甲8発明は、かかる特定がされていない点

上記各相違点について検討するに、相違点2-8-1?2-8-4は、相違点1-8-1?1-8-4と同様であり、その判断についても、上記アでこれら各相違点について述べたのと同様である。

したがって、相違点2-8-4に係る本件発明2の技術的事項は当業者が容易になし得た事項であり、相違点2-8-2は実質的な相違点ではないといえるものの、相違点2-8-1及び2-8-3に係る本件発明2の技術的事項を採用することが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえないから、本件発明2は、本件出願前に頒布された甲第8号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、本件訂正後の請求項1及び2に係る発明である、本件発明1及び2について、甲8に記載された発明に基づく進歩性欠如について、具体的な主張をしていない。
なお、本件訂正前の請求項1及び2に係る発明についての主張であるが、本件訂正後の請求項1及び2に係る発明である、本件発明1及び2にも関連する部分がある(本件訂正前後において、相違点1-8-1、1-8-2、1-8-4、2-8-1?2-8-4は実質的に同じであり、相違点1-8-3は水分含量が異なる。)ので、以下に検討する。

(ア)相違点について
請求人は、上申書2(9、11、12頁)、口頭審理陳述要領書(10、、11頁)において、相違点1-8-1、1-8-3、2-8-1及び2-8-3について、上で示したものとは異なるものを主張するが、相違点1-8-3については、本件訂正により水分含量が訂正されており、また、その他の相違点については、請求人の主張する甲8に記載された発明(上記(2)イ参照)が当審が認定した甲8発明とは異なることに起因するものであって、そのような発明が甲8に記載されているといえないことは、上記(2)イで述べたとおりである。
したがって、当該主張は採用できない。
また、請求人は、相違点1-8-2及び2-8-2について相違点ではない旨主張するが、当該相違点が実質的な相違点でないことは上記ア、イで述べたとおりである。

(イ)相違点1-8-1及び2-8-1について
相違点1-8-1に関して、請求人は、上記(2)イに記載したとおり甲8に記載された発明を認定した上で、審判請求書(41頁)、上申書2(9頁)、口頭審理陳述要領書(10頁)において、相違点を「HMG-CoAレダクターゼ阻害活性を有する化合物について、本件発明1は、「(A)ピタバスタチン又はその塩」であるのに対し、甲8発明は、そのような特定がされていない点」などであると主張し、当該相違点について、審判請求書(41?42頁)において、
「ア 甲第8号証は、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤が、活性骨格(ジヒドロキシカルボン酸骨格)を備え、医薬組成物中に製剤化されると非常に不安定で分解されやすい(すなわち、同骨格部分に化学変化が生じて分解生成物が生成する)ことを開示している(記載事項8-3、8-4)。この点は、ピタバスタチンにも妥当する。

イ 被請求人の出願に係る甲第3号証には、アトルバスタチンカルシウム水和物、ピタバスタチンカルシウムなどの化合物はいずれもジヒドロキシカルボン酸骨格を共通骨格として有しており、同骨格は分子内で環化し、HMG-CoA還元酵素阻害活性の低いラクトン体を生成する旨が記載されている(記載事項3-1、3-2)。
「第6.1.(2)?(4)」で述べたとおり、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤のジヒドロキシカルボン酸骨格の化学変化により分解生成物を生成することは、甲第4号証ないし甲第7号証にも記載されている。

ウ ピタバスタチンカルシウム固形製剤中の不純物である5-ケト体は、ピタバスタチンのジヒドロキシカルボン酸骨格(すなわち、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤の共通骨格)の5位水酸基が酸化された生成物である。

エ HMG-CoAレダクターゼ阻害剤においては、そのジヒドロキシカルボン酸骨格を維持することが製剤としての安定性に不可欠である。このことは、同阻害剤であるピタバスタチンにおいても同様であり、同骨格の化学変化による分解生成物の抑制を図るという課題は、本件発明と甲第8号証記載の発明において共通である。

オ HMG-CoAレダクターゼ阻害剤において安定な製剤とすることは当業者の共通の課題であるところ、不純物であるピタバスタチンの分解生成物を抑制する手段として、ピタバスタチンの共通骨格を維持し、ラクトン体及び5-ケト体の生成を抑制するために甲第8号証記載の発明を採用すること、すなわち、相違点1の克服は当業者には容易である。」と主張し、審判事件弁駁書1(52?53頁)において、
「共通骨格以外の構造にかかわらず、共通骨格に起因してpH、湿度、酸化によって不安定となることは、甲第1号証自身に具体的に示されており、甲12号証でもアトルバスタチンとピタバスタチンは多数のスタチン化合物から選択されているし、甲第3号証ではピタバスタチンについて安定性の確認が行われ、その確認に基づいてピタバスタチン以外のスタチン系化合物が特許請求の範囲に記載されている。このようにスタチン系化合物の共通骨格が化学変化してラクトン体、あるいは酸化分解生成物が生成することも技術常識である。そして、水分に起因して製剤中で不安定であることはピタバスタチンについても明らかとなっており、特に水分に起因して製剤中で安定であると言う事実はないし、そのような認識を当業者は有していない。
したがって、・・・、製剤中においてアトルバスタチンで確認された安定性に関する事項がピタバスタチンに妥当することは当業者の技術常識であ」ると主張し、口頭審理陳述要領書(26?27、36?37頁)において、
「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤において共通骨格に関連する不安定性を抑制する解決手段を開示する甲第8号証に接した当業者は、ピタバスタチンにこれを適用しようと当然に試みる」、
「仮に何らかの理由により、甲8発明の有効成分をフルバスタチンであると認定すべきであるとしても、フルバスタチンをピタバスタチンに置換することは当業者には容易想到である。その理由は、以下のとおりである。
すなわち、本件特許の出願当時、当業者は、以下の技術常識を有していた(・・・)。
1)(原文は○中1。以下同様) ピタバスタチン及びフルバスタチンは、ジヒドロキシカルボン酸骨格(共通骨格)を有するHMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)の一種であり、同共通骨格が化学変化して同活性が失われ易いこと、すなわち、安定性を欠くこと
2) ピタバスタチン及びフルバスタチンを含むHMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)にかかる製剤は、製剤中の低pH環境に敏感であり、水分に起因して製剤中で不安定であること
3) HMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)の共通骨格に関連する不安定性の抑制(安定化)を図る手段は、技術常識に基づきスタチンに共通して適用できると当業者が認識していたこと
そして、前項(1)1)ないし4)に記載した事項が甲第8号証に記載されていることに基づけば、上記技術常識に基づき、ピタバスタチン及びフルバスタチンの共通骨格に関連する不安定性が、固形製剤中の水分に起因して有効成分の周辺に生じるミクロ酸性pH環境に基づくものであり、5ヶ月後において、不純物の生成を抑制することができるとの甲第8号証の実施例1及び実施例2に接した当業者は、水分含量「好ましくは3%未満」(同【0022】)で同様の安定性を得られると認識して、甲第8号証のフルバスタチンに代えてピタバスタチンにこれを適用することを当然に試みるというべきである。」と主張する。
しかし、上記アの「<相違点1-8-1>について」で述べたとおり、そもそも、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物は酸性環境において安定でなく、これを安定化させるためにアルカリ剤が使用されていたところ(摘示8-4)、「アルカリ剤を含まない、1種または複数のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む安定的な医薬組成物」(摘示8-1)が、具体的にどのような医薬組成物を意味するのか、それがアルカリ剤を含まないでどのような理由により「安定」といえるのか、従来技術において安定でなかった「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物」とどのように異なるのか、アルカリ剤を含まないでHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬組成物をどのようにして安定化するのかという点は、実施例1等の甲8の記載をみても不明であり、したがって、甲8発明の医薬組成物に含まれる成分である、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるフルバスタチンナトリウム、低水分トウモロコシデンプン、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及びクロスポビドンのうち、どの成分を維持した場合に甲8発明と同様に安定であるのか、あるいは、上記成分のうち、どの成分であれば他の成分と置き換えた場合にも甲8発明と同様に安定であるのかは、当業者において不明というほかはない。また、アルカリ化剤を含まないことによる安定化において、フルバスタチンナトリウムとピタバスタチンの共通性を示す証拠はなく、この点が技術常識であるともいえない。
そうすると、甲8発明について、フルバスタチンナトリウムを、これとは物性が異なることが明らかなピタバスタチン又はその塩に置き換えようと当業者が動機付けられるとはいえないといえる。
このことは相違点2-8-1についても同様である。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。

(ウ)相違点1-8-3及び2-8-3について
請求人は、上申書2(9頁、12頁、15頁)において、上記(2)イに記載したとおり甲8に記載された発明を認定した上で、「<相違点1-8-3>水分含量の上限について、本件発明1は、2.9質量%以下であるのに対し、甲8発明は3%未満であると規定している点。」、「<相違点2-8-3>水分含量の上限について、本件発明2は、2.9質量%以下であるのに対し、甲8発明は3%未満であると規定し、下限について、本件発明2では1.5質量%であるのに対し、甲8発明はその旨の特定がされていない点。」を相違点とし、さらに、「有効数字が2桁であるとき、「3%未満」は、「<3.0%」であり、「≦2.9%」すなわち2.9%以下を意味する。」旨主張する。
しかしながら、甲8において、有効数字が2桁であるという理由はなく、3%未満がすなわち2.9%以下を意味するとはいえないから、また、そもそも請求人の主張する発明が甲8に記載されているとはいえないから(上記(2)イ参照)、請求人の上記主張は採用できない。
また、口頭審理陳述要領書(27?29頁)の「2 水分含量の下限値(<相違点2-8-3>)」、「(1)数値限定」において、「上記に加えて、甲第1号証に記載された「1.4.異なる雰囲気における実施例1の医薬剤形中の活性物質の安定性の分析」及び甲第12号証に記載された「8.4.異なる雰囲気における実施例8の医薬剤形中の活性物質の安定性の分析」は、アトルバスタチンCaのラクトン体の生成抑制と酸化分解物生成の抑制が、錠剤中の水分含量が2.73、1.99、1.55又は1.73%において得られることを開示している。
そして、このような水分含量を採用することによる酸化分解物の生成抑制の効果は本件発明2と同一である(アトルバスタチンCaで得られた共通骨格に関連する不安定性の抑制手段は、ピタバスタチン又はその塩の共通骨格に関連する不安定性の抑制手段として適用できることは、第3の4で詳述したとおりである)から、甲第1号証及び甲第12号証に接した当業者は、ピタバスタチンまたはその塩の酸化分解物である5-ケト体の生成抑制のために、アトルバスタチンカルシウムにおける酸化分解物の生成を抑制する効果を奏しているという甲第1号証及び甲第12号証の知見の適用を試みるのは当然というべきである。したがって、<相違点2-8-3>は、甲1発明及び甲第12号証に記載された分析結果を甲8発明に適用することによって当業者が容易に想到することができたものである。」と主張する。
しかし、上記アの「<相違点1-8-3>について」で、また、上記イにおいて相違点2-8-3について述べたとおり、甲8の記載から、医薬組成物の水分含量と分解生成物の相関関係について見出すことはできず、また、甲8の記載からすれば、医薬組成物において、水分含有量を下げていくことが望ましいことは認識できるものの、本件発明1及び2の水分含有量は、ラクトン体の生成及び5-ケト体の生成を抑制することができる範囲を特定しているのに対し、甲8において、特定の水分含有量とすることが望ましいとする技術的意義が明らかでないため、たとえ甲1、甲12に相違点1-8-3及び2-8-3に相当する水分含量についての記載があったとしても、当該水分含量を甲8発明に適用する動機付けがあるとはいえない。
そして、請求人は、その他に甲8発明の水分含量の下限を1.5質量%、上限を2.9質量%とすることが当業者が容易になし得た事項であることについての特段の主張をしていない。
なお、請求人は、審判請求書(44頁)において、甲9及び甲10を証拠として、甲第8号証に記載された発明がクロスポビドンを含むことに基づく、水分含量についての主張もするが、当該主張における「ピタバスタチンとクロスポビドンを含有する製剤化を開発する当業者において、製剤中の水分含量低下の限界(下限値)に着目する動機付けが存在した。」との記載から明らかなとおり、当該主張は、水分含量の上限を2.9質量%とすることが当業者が容易になし得た事項であることについてのものではなく、また、甲9及び甲10の記載をみても、水分含量の下限を1.5質量%とすることが当業者が容易になし得た事項であるとはいえないから、甲8発明の水分含量を1.5?2.9質量%とすることが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。

(4)無効理由2についてのまとめ
したがって、本件発明1及び2は、本件出願前に頒布された甲第8号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
したがって、請求人が主張する無効理由2によっては、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第123条第1項第2号に規定により無効とされるべきものであるとはいえない。

3 無効理由6について
(1)甲各号証の記載事項
甲各号証の記載事項は、上記1(1)で示したとおりである。

(2)甲12に記載された発明
ア 甲12に記載された発明
甲12に記載された発明は、上記第2 2(4)ウ(イ)に示したとおりであるところ、以下に再掲する。
「医薬剤形であって、
(a)ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるフィルム形成物質を含む、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤および1種類以上の医薬賦形剤及び/又は医薬剤形の保護および安定性を提供するコーティングでコーティングされている、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む、コーティングされた粒子及び/又はイタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含有する1つ以上のコーティングされていない粒子の混合物と、
(b)以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤と、
(aa)1種類以上のフィラー;(bb)1種類以上のバインダー、(cc)1種類以上の崩壊剤、(dd)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(ee)1種類以上の緩衝化要素、(ff)1種類以上のアルカリ化要素、(gg)1種類以上の界面活性剤および(hh)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分
(c)前記コーティング、又は前記コーティングされた粒子が医薬剤形に埋め込まれている場合には従来技術で知られている他のコーティングを含み、含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満である、医薬剤形。」(「甲12発明1」)
「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるアトルバスタチンCaと、ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルクからなる錠剤コアに、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物でコーティングした錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした医薬剤形であって、水分が2.73、1.99、1.55又は1.73%である医薬剤形」(「甲12発明2」)

イ 請求人の主張について
請求人は、審判事件弁駁書2、19?20頁において、甲12には、請求項1、25、27、29、32の記載から、
「次の成分(A)、(B’)を含み
(A)イタバスタチン(ピタバスタチンの従前名)、
(B’)以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤
(a)1種類以上のフィラー;(b)1種類以上のバインダー、(c)1種類以上の崩壊剤、(d)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(e)1種類以上の緩衝化要素、(f)1種類以上のアルカリ化要素、(g)1種類以上の界面活性剤および(h)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分
(D’)ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるフィルム形成物質、
を含有し、
含水量が、3重量%未満である固形医薬剤形が、
パッケージの壁および蓋を介する酸素の透過性が制御される包装を用いて
なる医薬品。」(甲12発明○1(審決注○中に1。))が記載され、同37頁において、実施例8の記載から、
「次の成分(A)及び(B):
(A)HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるアトルバスタチンCa;
(B)カルメロース(架橋カルボキシメチルセルロース)及び結晶セルロース(Prosolv SMCC90);
を含有し、水分含量が2.73重量%、1.99重量%、1.55重量%又は1.73重量%である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。」(甲12発明○2(審決注○中に2。))が記載されていると主張する。
しかしながら、甲12発明○1について、甲12の請求項19、25に記載されているとおり、医薬剤形は粒子を含むものであり、フィルム形成物質は医薬剤形に単に含有されるのではなく、コーティングに含まれるものであるから、少なくとも、これらの事項が特定されていない点において、甲12発明○1が甲12に記載された発明であるとはいえない。
また、甲12発明○2について、甲12に実施例8として記載されている錠剤は、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるアトルバスタチンCa、カルメロース(架橋カルボキシメチルセルロース)及び結晶セルロース(Prosolv SMCC90)以外の乾燥剤等の成分も含むものであり、それらの成分が存在することによって、水分含量が特定量となるのであるから、少なくとも、実施例8に記載された錠剤が含有するその他の成分が特定されていない点において、甲12発明○2が甲12に記載された発明であるとはいえない。
したがって、上記請求人の主張は採用はできない。

(3)対比・判断
ア 甲12発明1について
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲12発明1とを対比する。
甲12発明1の「イタバスタチン」について、甲12には、「イタバスタチンは、化学的に、(S-(R^(*),S^(*)-(E)))-7-(2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)-3-キノリニル)-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸である。」との記載があるところ(7頁22行?23行)、本件明細書には「ピタバスタチンカルシウム(化学名:(+)-monocalcium bis{(3R,5S,6E)-7-[2-cyclopropyl-4-(4-fluorophenyl)-3-quinolyl]-3,5-dihydroxy-6-heptenoate})」と記載されており(【0002】)、それぞれの化学名からみて、甲12発明1の「イタバスタチン」は、本件発明1の「ピタバスタチン」に相当するといえる。甲14、15、22?24にもイタバスタチン(ニスバスタチン)とピタバスタチンが同じ物質であることが記載されている(摘示14-1、14-2、15-1、22-1、23-1、24-1、24-2)。
したがって、本件発明1と甲12発明1とは、ピタバスタチンを含有する点で一致する。
また、甲12発明1の「医薬剤形」は、本件発明1の「医薬品」に相当する。
してみると、本件発明1と甲12発明1とは、
「次の成分(A):(A)ピタバスタチン又はその塩;を含有する、医薬品」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点121-1-1>
医薬品について、本件発明1は、「固形製剤が、気密包装体に収容してなる」と特定しているのに対して、甲12発明1は、かかる特定がされていない点

<相違点121-1-2>
本件発明1は、「(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず」と特定しているのに対し、甲12発明1は、「コーティング」及び「コーティングされた粒子」が、「ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるフィルム形成物質を含む、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤および1種類以上の医薬賦形剤及び/又は医薬剤形の保護および安定性を提供するコーティング」及び該「コーティングでコーティングされている、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む、コーティングされた粒子」であることを前提として、「(b)以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤と、(aa)1種類以上のフィラー;(bb)1種類以上のバインダー、(cc)1種類以上の崩壊剤、(dd)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(ee)1種類以上の緩衝化要素、(ff)1種類以上のアルカリ化要素、(gg)1種類以上の界面活性剤および(hh)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分、(c)前記コーティング、又は前記コーティングされた粒子が医薬剤形に埋め込まれている場合には従来技術で知られている他のコーティング」を含む点

<相違点121-1-3>
本件発明1は、「水分含量が1.5?2.9質量%である」と特定しているのに対して、甲12発明1は、「含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満である」と特定している点

<相違点121-1-4>
ピタバスタチン又はその塩について、本件発明1は、「含有」するとしか特定されていないのに対し、甲12発明1は、「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤」であるとされ、混合物である上記「コーティングされた粒子」及び/又は「コーティングされていない粒子」に含まれるものとされている点

上記各相違点について検討する。
<相違点121-1-1>について
甲12発明1は、任意成分として着色料等の固形剤形のための他の成分を含むものであり、甲12には、「本発明の医薬剤形は、好ましくは、固形医薬剤形である。」ことも記載されているから(摘示12-7)、甲12発明1について、「固形製剤」であるとすることは当業者が容易になし得る事項である。
甲12には、「上述のスタチン類の多くは、特に環境影響、例えば、大気の影響や環境pHに敏感である。従来技術では、特定のスタチンは、酸性環境(低pH値)に敏感であり、ラクトン形態および異なる異性体に分解されることが知られている。例えば、プラバスタチン、アトルバスタチン、イタバスタチンおよびフルバスタチンは、酸性環境では、ラクトン形態に変換される。」こと(摘示12-3)、「酸化からの予防は、活性物質の周囲の空間の酸素含有量と、パッケージの壁および蓋を介する酸素の透過性が制御される包装によって達成することができる。」こと(摘示12-4)、「本発明の目的は、環境影響に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することである。さらに、本発明の目的は、酸化および環境湿度に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することである。好ましくは、本発明の目的は、活性物質と酸素との接触を防ぎ、それによって、活性物質の分解生成物(好ましくは酸化分解生成物および医薬賦形剤の分解生成物)の発生を防ぐことによって、環境影響に対して、好ましくは、酸化に対して、スタチンである活性物質を保護し、その結果として安定化することである。」こと(摘示12-5)、「本発明の活性物質は、環境影響に敏感であり、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤、カプトプリル、クロルプロマジン、モルヒネ、L-アスコルビン酸、ビタミンE、フェニルブタゾン、テトラサイクリンおよびオメプラゾールからなる群から選択される活性物質である。好ましくは、酸化および環境湿度に敏感な本発明の活性物質は、プラバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、シンバスタチンおよびロバスタチンからなる群から選択されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤である。」こと(摘示12-6)が記載されているところ、固形製剤を気密包装体に収容することにより、包装体外からの水分等の侵入を防ぎ、製剤の安定化を図ることは、甲35?38に記載されるとおり(摘示35-1、36-1、37-1、38-1)、周知の技術的事項である。
したがって、甲12に環境湿度等の環境影響に敏感であると記載されるイタバスタチンを含む甲12発明1について、水分等の侵入を防ぎ、製剤の安定化を図るために、気密包装体に収容してなるものとすることは当業者が容易になし得る事項である。

<相違点121-1-2>について
本件発明1の成分(B)クロスポビドンについて、甲12発明1は、成分(b)として、(aa)1種類以上のフィラー;(bb)1種類以上のバインダー、(cc)1種類以上の崩壊剤、(dd)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(ee)1種類以上の緩衝化要素、(ff)1種類以上のアルカリ化要素、(gg)1種類以上の界面活性剤および(hh)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分、の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤を含むものである。
そして、甲12には、崩壊剤として具体的に記載された架橋したカルボキシメチルセルロースナトリウム等の7つの物質のうちの1つとして、架橋したポリビニルピロリドン(本件訂正発明7のクロスポビドンに相当する。)が記載されている(摘示12-7)。
また、甲12には、医薬剤形の調製についての記載があり、例示ではあるものの、(治療)活性物質等とともに、崩壊剤を用いて調製する旨の記載があり(摘示12-8)、当該記載においては、「必要な場合には」として記載された界面活性剤、他の従来成分とは異なり、医薬剤形の調製において必ず用いる成分として記載されているといえる。
そして、甲16及び甲53にも記載のとおり(摘示16-1、53-1)、ピタバスタチンの塩等のスタチン系化合物を含有し、クロスポビドンを含有する固形製剤は周知である。
してみると、甲12発明1において、崩壊剤としてクロスポビドンを含有するものとすることは当業者が容易になし得た事項である。
本件発明1における、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有しないとされる点について、甲12には、カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースが、フィルム形成剤又は崩壊剤として配合し得る成分であることの記載はあるものの、フィルム形成剤又は崩壊剤には、カルメロース及びその塩並びに結晶セルロース以外の物質も記載され、カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースは、他の成分と選択的に配合し得る成分であるといえ(摘示12-6、12-7)、カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースはいずれも必ず配合される成分であるとは解されない。また、甲12発明1において、崩壊剤としてクロスポビドンを含有するものとすることが当業者に容易になし得たのであれば、同じ崩壊剤でもあるカルメロース及びその塩並びに結晶セルロースを配合する必要がないことは、当業者にとり明らかであるといえる。
また、甲16及び甲53に記載のとおり(摘示16-1、53-1)、ピタバスタチンの塩等のスタチン系化合物を含有し、カルメロース及びその塩又は結晶セルロースを含有しない固形製剤は周知である。
したがって、甲12発明1において、カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有しないとすることは、当業者が容易になし得た事項である。

<相違点121-1-3>について
この相違点は、上記相違点121-7-2と同様の相違点であるから、その判断についても上記第2 2(4)ウ(ウ)a(a)「<相違点121-7-2>について」で述べたのと同様であり、当業者が容易になし得た事項である。

<相違点121-1-4>について
この相違点は、上記相違点121-7-4と同様の相違点であるから、その判断についても上記第2 2(4)ウ(ウ)a(a)「<相違点121-7-4>について」で述べたのと同様であり、実質的に相違しない。

効果について
上記第2 2(4)ウ(ウ)a(a)「効果について」で述べたのと同様である。

以上のとおり、相違点121-1-1?相違点121-1-3に係る本件発明1の技術的事項は当業者が容易になし得た事項であり、相違点121-1-4は実質的な相違点ではないといえ、本件発明1が当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するともいえないから、本件発明1は、本件出願前に頒布された甲第12号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(イ)本件発明2について
本件発明2は、実質的に、本件発明1について、固形製剤が(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有しないことを限定したものであるといえる。
したがって、本件発明1の場合と同様に、本件発明2と甲12発明1とを対比すると、本件発明2と甲12発明1とは、
「次の成分(A):(A)ピタバスタチン又はその塩;を含有する、医薬品」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点121-2-1>
医薬品について、本件発明2は、「固形製剤が、気密包装体に収容してなる」と特定しているのに対して、甲12発明1は、かかる特定がされていない点

<相違点121-2-2>
本件発明2は、「(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず」と特定しているのに対し、甲12発明1は、「コーティング」及び「コーティングされた粒子」が、「ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるフィルム形成物質を含む、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤および1種類以上の医薬賦形剤及び/又は医薬剤形の保護および安定性を提供するコーティング」及び該「コーティングでコーティングされている、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む、コーティングされた粒子」であることを前提として、「(b)以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤と、(aa)1種類以上のフィラー;(bb)1種類以上のバインダー、(cc)1種類以上の崩壊剤、(dd)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(ee)1種類以上の緩衝化要素、(ff)1種類以上のアルカリ化要素、(gg)1種類以上の界面活性剤および(hh)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分、(c)前記コーティング、又は前記コーティングされた粒子が医薬剤形に埋め込まれている場合には従来技術で知られている他のコーティング」を含む点

<相違点121-2-3>
本件発明2は、「水分含量が1.5?2.9質量%である」と特定しているのに対して、甲12発明1は、「含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満である」と特定している点

<相違点121-2-4>
ピタバスタチン又はその塩について、本件発明2は、「含有」するとしか特定されていないのに対し、甲12発明1は、「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤」であるとされ、混合物である上記「コーティングされた粒子」及び/又は「コーティングされていない粒子」に含まれるものとされている点

上記各相違点について検討するに、相違点121-2-1、121-2-3、121-2-4については、相違点121-1-1、121-1-3、121-1-4と同様であり、その判断についても、上記(ア)でこれら各相違点について述べたのと同様である。
相違点121-2-2について、本件発明2における(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有しないとされる点について、甲12発明1は、「ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるフィルム形成物質を含む」ものであるところ、甲12には、当該セルロース誘導体について、「セルロースの誘導体の中で、フィルム形成剤は、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)またはヒドロキシエチルセルロース(HEC)であり、最も好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)である。」と記載されており(摘示12-6)、好ましいものとして、ヒドロキシエチルセルロースの記載はあるものの、セルロース誘導体がそれらに限られる旨の記載はなく、また、甲5(摘示5-1)、甲6(摘示6-2)及び甲20(摘示20-2)に記載されるとおり、水分等から保護するフィルム形成剤として、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース以外のセルロース誘導体は、本件特許の出願時に周知である。
したがって、甲12発明1において、ポリビニルアルコールではない物質であって、ヒドロキシエチルセルロース以外のセルロース誘導体をフィルム形成剤として使用することによって、ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有しないとすることは当業者が容易になし得た事項である。
クロスポビドン、カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースについては、上記(ア)の「<相違点121-1-2>について」で述べたとおりである。したがって、相違点121-1-2について述べたのと同様に、甲12発明1において、相違点121-2-2に係る本件発明2の技術的事項を採用することは当業者が容易になし得た事項である。

効果について
上記(ア)、「効果について」で述べたのと同様である。

以上のとおり、相違点121-2-1?相違点121-2-3に係る本件発明2の技術的事項は当業者が容易になし得た事項であり、相違点121-2-4は実質的な相違点ではないといえ、本件発明2が当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するともいえないから、本件発明2は、本件出願前に頒布された甲第12号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

イ 甲12発明2について
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲12発明2とを対比する。
甲12発明2の「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるアトルバスタチンCa」は、HMG-CoAレダクターゼ阻害作用を有する化合物であるといえるところ、本件発明1の成分「(A)ピタバスタチン又はその塩」はHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物であり(本件明細書【0002】)、両物質は、HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物である限りにおいて一致する。
甲12発明2の医薬剤形における水分は、重量測定法により測定されているから(摘示12-9)、重量%で表されるものであり、その値は質量%と同じ値となるところ、甲12発明2の「水分が2.73、1.99、1.55又は1.73%」であることは、本件発明1の「水分含量が1.5?2.9質量%」であることに相当する。
甲12発明2の医薬剤形は錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージしたものであるところ、本件明細書に「【0045】・・・本発明の「医薬品」は、気密包装体の内部において固形製剤が2.9質量%以下の水分含量であればよい。すなわち、気密包装体から固形製剤を取り出した直後において、その水分含量が2.9質量%以下であればよく、例えば、気密包装体にて収容する前において固形製剤の水分含量が2.9質量%以上であっても、乾燥剤を同封する等の手段により気密包装体の内部において固形製剤の水分含量が2.9質量%以下となっていれば(すなわち、気密包装体から固形製剤を取り出した直後において、その水分含量が2.9質量%以下となっていれば)本発明の「医薬品」に包含される。【0046】本発明において「気密包装体」とは、通常の取扱い、運搬又は保存等の状態において、水分の包装体外からの実質的な侵入を抑制し得る包装を意味し、第十六改正日本薬局方 通則に定義される「気密容器」及び「密封容器」を包含する概念である。当該包装体としては、定形、不定形のいずれのものも用いることができ、具体的には例えば、ビン包装、SP(Strip Package)包装、PTP(Press Through Package)包装、ピロー包装、スティック包装等が挙げられる。・・・【0047】気密包装体の包装材料(素材)としては、防湿性を発揮し得るものであれば特に限定されず、医薬品や食品の分野で、水分に弱い内容物の防湿等を目的として用いられる材料を適宜用いることができる。ビン包装に用いられるビン本体の材料としては例えば、・・・ポリエチレン(低密度(LDPE)、高密度(HDPE)を含む)、・・・等が挙げられる。・・・ビン包装の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)が特に好ましい。」、「【0052】本発明において、固形製剤を気密包装体に収容する方法は特に限定されるものではなく、包装体内への固形製剤の投入等の適当な手段により、固形製剤を包装体内に配置することで達成できる。この場合において、包装体内に固形製剤とともに乾燥剤(例えば、円柱状(錠剤型)のものやシート状のもの)を投入する手段を用いてもよいが・・・」と記載されるとおり、本件発明1の「気密包装体」はビン包装を包含するものであり、気密包装体に収容する際には乾燥剤を用いることができ、気密包装体に収容する前において固形製剤の水分含量が2.9質量%以上であっても、乾燥剤を同封するなどの手段により気密包装体の内部において固形製剤の水分含量が2.9質量%以下となっていればよいものであるから、甲12発明2の医薬剤形は本件発明1の「固形製剤が、気密包装体収容してなる医薬品」に相当する。
したがって、本件発明1と甲12発明2とを対比すると、両者は、
「次の成分(A):(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物;を含有し、かつ、水分含量が2.73、1.99、1.55又は1.73質量%である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点122-1-1>
(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物について、本件発明1は、「(A)ピタバスタチン又はその塩」であるのに対し、甲12発明2は、「アトルバスタチンCa」である点

<相違点122-1-2>
本件発明1は、「(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず」と特定するのに対し、甲12発明2は、「ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」を含有する点

<相違点122-1-3>
本件発明1は、コーティングについて特定していないのに対し、甲12発明2は、コーティングされている点

上記各相違点について検討する。
<相違点122-1-1>?<相違点122-1-3>について
これら相違点は、相違点122-7-1?相違点122-7-3と同様の相違点であるから、その判断についても上記第2 2(4)ウ(ウ)b(a)の「<相違点122-7-1>について」?「<相違点122-7-3>について」で述べたのと同様である。

効果について
上記第2 2(4)ウ(ウ)b(a)の「効果について」で述べたのと同様である。

以上のとおり、相違点122-1-1及び相違点122-1-2に係る本件発明1の技術的事項は当業者が容易になし得た事項であり、相違点122-1-3は実質的な相違点ではないといえ、本件発明1が当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえないから、本件発明1は、本件出願前に頒布された甲第12号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(イ)本件発明2について
本件発明1の場合と同様に、本件発明2と甲12発明2とを対比する。
甲12発明2の医薬剤形は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物でコーティングした錠剤をHDPEプラスチック瓶にパッケージしたものであり、「カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」はコーティングを形成する物質であるといえるところ、甲12発明2の「コーティング」は、本件発明2の「フィルム」に相当するといえるから、甲12発明2の「カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」はフィルム形成剤であるといえる。そして、甲12発明2は、「ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有」しない点で本件発明2と一致する。
したがって、両者は、
「次の成分(A):(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物;を含有し、(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、かつ、水分含量が2.73、1.99、1.55又は1.73質量%である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点122-2-1>
(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物について、本件発明2は、「(A)ピタバスタチン又はその塩」であるのに対し、甲12発明2は、「アトルバスタチンCa」である点

<相違点122-2-2>
本件発明2は、「(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず」と特定するのに対し、甲12発明2は、「ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」を含有する点

<相違点122-2-3>
本件発明2は、コーティングについて特定していないのに対し、甲12発明2は、コーティングされている点」

上記各相違点について検討するに、相違点122-2-1?122-2-3は、上記相違点122-1-1?122-1-3と同様であり、その判断についても、上記相違点122-1-1?122-1-3と同様である。また、効果についても上記(ア)で述べたのと同様である。

以上のとおり、相違点122-2-1及び相違点122-2-2に係る本件発明2の技術的事項は当業者が容易になし得た事項であり、相違点122-2-3は実質的な相違点ではないといえ、本件発明2が当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえないから、本件発明2は、本件出願前に頒布された甲第12号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4)被請求人の主張について
被請求人は、審判事件答弁書2(23?29頁)において、概要、以下の主張をする。
(i)本件訂正発明1(当審注:本件発明1と同じ。)と甲12の実施例8から認定した甲12発明との相違点3として、「本件訂正発明1では、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有しないものとされているのに対し、甲12発明では、フィルム形成剤として、少なくともカルメロースナトリウムを含有している点。」を挙げ、この相違点について、甲12発明から、必須の構成であるコーティングの成分であるフィルム形成剤としてのカルメロースナトリウムを除外することに阻害要因があり、相違点3に係る構成は容易想到とはいえない。
(ii)同じく相違点4として、「本件訂正発明1では、ピタバスタチン又はその塩及びクロスポビドンを含有する固形製剤の水分含量が1.5?2.9質量%であるのに対し、甲12発明では、アトルバスタチンCa及びカルメロースナトリウムを含有する固形製剤の水分が2.73、1.99、1.55又は1.73%である点。」を挙げ、この相違点について、
(iia)甲12発明の水分含量値を固定したまま、当該発明のアトルバスタチンカルシウムをピタバスタチン又はその塩に置換するということは論理的に考えられず、
(iib)甲12の医薬組成物は、コーティングによって安定化されたものであり、水分含量に着目して医薬組成物を安定化したものでも、医薬組成物の水分含量を調整して分解生成物の生成を抑制したものでもなく、医薬組成物の水分含量と分解生成物の相関関係について見出すことはできないから、甲12に接した当業者が分解生成物の生成抑制を目的に水分含量値に着目することが当然であるとはいえない、
(iic)アトルバスタチンカルシウムを含有した特定の錠剤における水分含量値を、他の指標との調整を一切無視して、そのままピタバスタチン又はその塩を含有する錠剤に適用できるわけではない、
ことを指摘して、相違点4に係る構成は容易想到とはいえない。
(iii)本件訂正発明2(当審注:本件発明2と同じ。)と甲12の実施例8から認定した甲12発明との相違点3’として、「本件訂正発明2は、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有しないものとされているのに対し、甲12発明は、フィルム形成剤として、少なくともカルメロースナトリウムを含有する点。」を挙げ、甲12発明から、必須の構成であるコーティングの成分であるフィルム形成剤としてのカルメロースナトリウムを除外することに阻害要因があり、甲12には、ポリビニルアルコール、カルメロースナトリウム及びヒドロキシエチルセルロース(これらのフィルム形成剤を「対象フィルム形成剤」という。)の他に具体的なフィルム形成剤は一切記載されていないから、甲12の課題を解決するフィルム形成剤として、対象フィルム形成剤以外のフィルム形成剤を選択することはできない。
そこで、以下検討する。
(i)について
上記第2 2(4)ウ(ウ)b(a)の「<相違点122-7-2>について」で述べたとおりであって、カルメロースナトリウムを除外することに阻害要因があるとはいえず、甲12発明2において、「(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず」とすることは当業者が容易になし得た事項である。
したがって、この主張は採用できない。
(ii)について
この主張は、上記第2 2(4)ウ(エ)a(iv)と同様の主張を含むから、その点((iia)及び(iic))については、当該主張に対して述べたとおりである。
また、(iib)について、甲12には、「本発明の目的は、酸化および環境湿度に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することである。」、「本発明の第1の目的は、環境の影響から、特に、酸化および/または環境湿度から、活性物質および1種類以上の医薬賦形剤および/または医薬剤形の保護を与え、その結果として、安定性を与えるコーティングである。」(以上、摘示12-5)、「酸化および環境湿度に敏感な本発明の活性物質は、プラバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、シンバスタチンおよびロバスタチンからなる群から選択されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤である。」(摘示12-6)、「本発明の医薬剤形は、低湿度で、活性物質HMG-CoAレダクターゼ阻害剤がヒドロキシル酸形態からラクトン形態へと変換するのを防ぎ、すなわち、乾燥時に5%の減量(LODが5%未満)であり、好ましくは、LODが4%未満、最も好ましくは3%未満である。」(摘示12-7)等の記載がある。
そして、実施例8として、「分解生成物(ラクトンおよび酸化分解生成物)の発生に対する水/湿度および医薬賦形剤の影響を、異なる乾燥剤(乾燥剤なし、シリカゲル、モレキュラーシーブ)を用いたパッケージ(HDPEプラスチック瓶)の中のコーティングされた錠剤を試験することによって評価した。」、「加速安定性条件下で1ヶ月試験した後、乾燥剤を加えた錠剤では水分率が低いことに起因して、錠剤中のラクトンは、乾燥剤を加えない錠剤(レベルは0.22%)と比較して、かなり少ない割合で生成した(レベル0.05%)。決定された湿度レベル(すなわち、乾燥減量として概算される3.50%未満の水分)の下で、錠剤中で生成したラクトンの割合の差は、有意ではなかった。」(以上、摘示12-9)との記載がある。
これらの記載から、甲12には、アトルバスタチン、イタバスタチン等のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤である活性物質を環境湿度から保護すること、乾燥剤を加えて、医薬剤形の水分量を調節すること、水分率が低いとラクトンの生成する割合が低いことが記載ないし示唆されているといえる。
したがって、この主張は採用できない。
(iii)について
上記第2 2(4)ウ(エ)b(i)と同様の主張であるから、当該主張について「(i)について」として述べたのと同様の理由により、採用できない。

(5)無効理由6についてのまとめ
したがって、本件発明1及び2は、本件出願前に頒布された甲第12号証に記載された発明及び本件出願当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、無効理由6によって、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるといえ、同法第123条第1項第2号に規定により無効とされるべきものである。

4 審決予告に関する主張について
被請求人は、令和2年7月2日付けの意見書(31?39頁)において、甲12に基づく進歩性欠如の無効理由は、一度目の審決の予告の前に申し立てられた理由であり、当該理由により審決の予告をしていないものであるから、当該理由により審判の請求に理由があると認めるときには、審決の予告をしなければならず、仮に当該無効理由が一度目の審決の予告の後に申し立てられたものであると解したとしても、当該無効理由について審決の予告(二度目の審決の予告)をしないことは審決の予告の制度趣旨に反するから、審決の予告がされなければならない旨主張する(意見書35頁15行?19行、38頁下から2行?39頁1行)。
そこで、以下検討する。
甲12に基づく進歩性欠如の無効理由は、無効理由5として、審決の予告がされる前に審判事件弁駁書1において主張されているが、当該無効理由5は、平成31年4月9日の第1回口頭審理において要旨変更の補正が許可されなかったために、審決の予告の前に主張されたものとはいえない。そして、本審決において、審判の請求に理由があるとするのは、審決の予告の後に審判事件弁駁書2において主張された無効理由6に基づくものである。
特許法第164条の2第1項は、
「審判長は、特許無効審判の事件が審決をするのに熟した場合において、審判の請求に理由があると認めるときその他の経済産業省令で定めるときは、審決の予告を当事者及び参加人にしなければならない。」と規定し、特許法施行規則第50条の6の2は、
「特許法第百六十4条の2第1項の経済産業省令で定めるときは、被請求人が審決の予告を希望しない旨を申し出なかつたときであつて、かつ、次に掲げるときとする。
一 審判の請求があつて審理を開始してから最初に事件が審決をするのに熟した場合にあつては、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき又は特許法第百三十4条の2第1項の訂正の請求(審判の請求がされている請求項に係るものに限る。)を認めないとき。
二 特許法第百八十1条第2項の規定により審理を開始してから最初に事件が審決をするのに熟した場合にあつては、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき又は特許法第百三十4条の2第1項の訂正の請求(審判の請求がされている請求項に係るものに限る。)を認めないとき。
三 前二号に掲げるいずれかのときに審決の予告をした後であつて事件が審決をするのに熟した場合にあつては、当該審決の予告をしたときまでに当事者若しくは参加人が申し立てた理由又は特許法第百五十3条第2項の規定により審理の結果が通知された理由(当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていないものに限る。)によつて、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき。」と規定する。
そして、当該特許法施行規則第50条の6の2の規定は、審理の進行段階に応じた規定であるといえる。
そこで、本件について、これらの規定にあてはまるかを検討する。
本件について、令和元年7月1日付けで特許法第164条の2第1項及び特許法施行規則第50条の6の2、第1号に該当する審決の予告がされた。
本件について、被請求人から、審決の予告を希望しない旨の申し出はない。
本件について、審判の請求があって審理を開始してから最初に事件が審決をするのに熟した場合ではないから、特許法施行規則第50条の6の2、第1号に該当しない。
本件について、特許法第181条第2項の規定により審理を開始してから最初に事件が審決をするのに熟した場合ではないから、特許法施行規則第50条の6の2、第2号に該当しない。
本審決は、合議体が無効理由6により審判の請求に理由があると認めるものであるが、無効理由6は令和元年10月18日付けの審判事件弁駁書2において申し立てられたものであり、上記審決の予告をしたとき(令和元年7月1日付け)までに当事者もしくは参加人が申し立てた理由でも、特許法第百五十3条第2項の規定により審理の結果が通知された理由(当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていないものに限る。)でもないから、特許法施行規則第50条の6の2、第3号には該当しない。
してみると、本件については、特許法第164条の2第1項に規定する審決の予告をしなければならない場合には該当しない。
そして、特許法及び特許法施行規則は、審決をしなければならない場合を特許法第164条の2第1項及び審理の進行段階に応じた規定である特許法施行規則第50条の6の2において明文で規定しているのであるから、規定された場合に該当しない場合に審決の予告をせずに審決をすることが、制度趣旨に反するといえないことは明らかである。

被請求人は、上記の点について、さらに、無効理由6について、甲12(審決注:意見書の「乙12」は「甲12」の誤記と認める。)に基づく無効理由は、一度目の審決の予告がなされる前に、請求人によって主張されていたが(審決注:審判事件弁駁書1における無効理由5)、要旨変更の補正が許可されなかったために(審決注:平成31年4月9日の第1回口頭審理)、一度目の審決の予告の前に主張されたものと認められず、一度目の審決の予告の後に改めて同内容の無効理由が主張され、要旨変更が認められたというものであり、一度目の審決の予告の後に無効理由が追加された場合には、審決の予告の判断を踏まえて訂正を行う機会がなく、上記の場合に、二度目の審決の予告を行わないことは明らかに不合理である旨(意見書33頁下から2行?34頁12行)、さらに、無効理由6は、平成30年7月19日付け審判請求書をもって同日に主張されたものと考えるのが自然であり、一度目の審決の予告の前に申し立てられていた理由である旨(意見書35頁12行?19行)も主張する。
そこで検討するに、特許法施行規則第50条の6の2に、「当該審決の予告をしたときまでに当事者若しくは参加人が申し立てた理由」との記載があることから、特許法及び特許法施行規則は、無効理由として、審決の予告をしたときまでのものと区別して、審決の予告をした後に申し立てられたものを予定しているといえ、本件の無効理由6は、それに該当するといえるから、平成30年7月19日付け審判請求書をもって同日に主張されたものということはできない。また、そのような無効理由について審決の予告をしなければならないことを特許法及び特許法施行規則は規定していない。
そして、同じ甲12に基づく無効理由であるとしても、無効理由5に係る要旨変更の補正が許可されなかったことから、当該無効理由5はそもそも存在しない無効理由であるといえるから、当該理由が主張されていたことが、その後に審決の予告を通知するか否かに影響を与えるものではない。
したがって、たとえ、それと同様の無効理由であったとしても、当該無効理由(無効理由6)が一度目の審決の予告の後に追加された場合に、二度目の審決の予告を行わないことが不合理といえないことは、上で述べたとおり、そのような無効理由について審決の予告をしなければならないことを特許法及び審理の進行段階に応じた規定である特許法施行規則が規定していないことから明らかである。
また、令和1年9月9日付け訂正請求書による訂正の請求に対する無効理由6に係る要旨変更の補正が許可された際に、無効理由6の内容が被請求人に通知されるとともに、当該無効理由6について、答弁書の提出及び訂正請求の機会が与えられ、実際、被請求人は、令和2年2月17日付けで答弁書を提出し、そこで、甲12に基づく進歩性に対する反論を行い、さらに、訂正請求も行っており、実質的に訂正の機会が与えられていたということができる。
そして、審決の予告の制度は、概要、特許無効審判継続中から審決の確定までの間は訂正請求ができないとした制度の補償であるといえ、また、本件のような特許無効審判事件は当事者対立構造であり、審決の予告に関して特許法及び特許法施行規則が上記のとおりの規定であることを踏まえると、たとえ1回目の審決の予告の後に追加された理由によって特許が無効とされる場合であっても、当該理由に関する訂正の機会が与えられていれば、特許庁による同様の理由による判断についての2回目の審決の予告をすることによって被請求人にさらなる訂正の機会を与えることが、請求人との利益衡量も鑑みれば、必要であるとはいえず、2回目の審決の予告をしないことが、被請求人にとって特段不合理であるとはいえない。
また、仮に審決の予告を行ったとしても、審決の予告は請求人の主張する、既に反論、訂正の機会が与えられた無効理由6に基づくものになるのであるから、この点からしても、審決の予告をしないことが、特に不合理ということはない。
したがって、被請求人の主張は採用することができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、訂正後の請求項〔1-5〕について本件訂正を認め、本件発明1及び2についての特許は、請求人が主張する無効理由1、2により無効とすべきものとすることはできないが、同無効理由6により無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)クロスポビドン;
を含有し、
(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、
かつ、水分含量が1.5?2.9質量%である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。
【請求項2】
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)クロスポビドン;
を含有し、
(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、
(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、
かつ、水分含量が1.5?2.9質量%である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;
を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤。
【請求項7】
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)クロスポビドン;
を含有し、
(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、
(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、
かつ、水分含量が1.5?2.9質量%である固形製剤。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)クロスポビドン;
を含有し、
(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、
(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールをいずれもフィルム形成剤として含有せず、
水分含量が1.5?2.9質量%である固形製剤であって、
かつ、錠剤であって、気密包装体に収容される固形製剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2020-08-31 
結審通知日 2020-09-03 
審決日 2020-09-18 
出願番号 特願2012-546269(P2012-546269)
審決分類 P 1 123・ 856- ZAB (A61K)
P 1 123・ 121- ZAB (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 佳代子  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 関 美祝
冨永 保
登録日 2013-02-01 
登録番号 特許第5190159号(P5190159)
発明の名称 医薬  
代理人 辻田 朋子  
代理人 村松 大輔  
代理人 新保 克芳  
代理人 見澤 茂樹  
代理人 見澤 茂樹  
代理人 北原 潤一  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 北原 潤一  
代理人 梶並 彰一郎  
代理人 梶並 彰一郎  
代理人 保志 周作  
代理人 森山 航洋  

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