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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1369389
審判番号 不服2019-9480  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-16 
確定日 2020-12-10 
事件の表示 特願2014-188564「家庭ヘルスケア用モバイル情報ゲートウェイ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月 2日出願公開、特開2015- 62118〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成26年9月17日(パリ条約による優先権主張2013年9月22日及び2014年1月22日,米国)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 8月29日付け:拒絶理由通知書
平成30年11月12日 :意見書,手続補正書の提出
平成31年 4月 2日付け:拒絶査定
令和 元年 7月16日 :審判請求書,手続補正書の提出

なお,令和元年7月16日提出の手続補正書による特許請求の範囲の補正は,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる事項を目的とするものである。


第2 特許請求の範囲(請求項1)の記載

特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「 【請求項1】
家庭ヘルスケア用のモバイル情報ゲートウェイを使用する方法であって,前記方法は,
ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールにより,情報を捕捉する工程と,
捕捉された情報を処理して,前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールのユーザの識別情報を判定する工程と,
ユーザの前記識別情報を認証する工程と,
前記捕捉された情報,及び前記認証された識別情報を使用して情報を取り出す工程と,
前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールを使用して,前記取り出された情報を提示する工程と
を含み,
前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールと患者監視装置との間の通信を確立する工程と,
前記患者監視装置からの信号を,前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールによって受け取る工程と,
前記受け取られた信号をバック・エンド・サーバに送信する工程と
をさらに含む,
方法。」


第3 原査定の理由の概要

原査定の拒絶の理由のうち,本願の請求項1の記載及び関係する発明の詳細な説明の記載要件についての拒絶の理由の概要は,次のとおりである(具体的には,「第4」の「3」において後記するとおりである)。

1.(明確性)この出願は,請求項1が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2.(サポート要件)この出願は,請求項1が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.(実施可能要件)この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


第4 拒絶の理由及び請求人(出願人)の主張の概要

1 平成30年8月29日付け拒絶理由通知の概要
(1)特許法36条6項1号及び同項2号について
「[2-3] 本願の請求項10には,「前記患者監視装置からの信号を,前記ウェアラブル・インタフェース・モジュールによって受け取る工程」,「前記受け取られた信号をバック・エンド・サーバに送信する工程」との記載があるが,明細書の,例えば,段落[0106]には,「結合された患者監視装置から受け取られた情報を,バックエンド・サービス・サーバ108において,処理し,解析し,更に,記憶し得る。一部の実施例では,モバイル情報ゲートウェイ130は更に,バックエンド・サービス・サーバ108に,又は直接,医療専門家の情報システムに情報を転送することなどにより,医師に提示された医療記録の一部であるように前述の情報を送出し得る。」などの記載はあるものの,上記工程に関する記載がなく,請求項10における上記記載の意味するところが明確に把握できない。
よって,請求項10に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
そして,請求項10に係る発明は明確でない。」

(2)特許法36条4項1号及び同条6項2号について
「[3-1] 本願の請求項1には「前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールのユーザの識別情報を判定するよう,前記捕捉された情報を処理する工程」と記載されている。
一方で,明細書の,例えば段落[0101]には,「ヒューマン・インタフェース・モジュール102のユーザの識別情報を判定する(904)よう捕捉情報を処理し」といった記載はあるものの,上記処理が具体的にどのように実現しうるのかについて記載がなく,上記工程が具体的にどのような処理を意味しているのかについても明確でない。
また,請求項1を引用する請求項2-19についても同様の点が指摘される。
よって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1-19に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
そして,請求項1-19に係る発明は明確でない。」

2 平成30年11月12日提出の意見書における主張の概要
(1)特許法36条6項1号及び同項2号について
「『[2-3] 本願の請求項10には,「前記患者監視装置からの信号を,前記ウェアラブル・インタフェース・モジュールによって受け取る工程」,「前記受け取られた信号をバック・エンド・サーバに送信する工程」との記載があるが,明細書の,例えば,段落[0106]には,「結合された患者監視装置から受け取られた情報を,バックエンド・サービス・サーバ108において,処理し,解析し,更に,記憶し得る。一部の実施例では,モバイル情報ゲートウェイ130は更に,バックエンド・サービス・サーバ108に,又は直接,医療専門家の情報システムに情報を転送することなどにより,医師に提示された医療記録の一部であるように前述の情報を送出し得る。」などの記載はあるものの,上記工程に関する記載がなく,請求項10における上記記載の意味するところが明確に把握できない』との点について,この認定は妥当ではないと思料いたします。上記工程は,例えば,図9(904,906),図12,図13,段落0061等に記載されています。」

(2)特許法36条4項1号及び同条6項2号について
「『[3-1] 本願の請求項1には「前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールのユーザの識別情報を判定するよう,前記捕捉された情報を処理する工程」と記載されている。
一方で,明細書の,例えば段落[0101]には,「ヒューマン・インタフェース・モジュール102のユーザの識別情報を判定する(904)よう捕捉情報を処理し」といった記載はあるものの,上記処理が具体的にどのように実現しうるのかについて記載がなく,上記工程が具体的にどのような処理を意味しているのかについても明確でない』との点について,この認定は妥当ではないと思料いたします。例えば,段落[0062]に「特定の実施例では,コンピューティング及び通信モジュール104及び/又はバック・エンド・サーバ108は,顧客の識別情報を判定するよう,捕捉された情報を処理する。認識は,どの顧客が,一致する識別情報を有しているかについての粗い近似であり得,又は,名前及び他の属性により,特定の個人を識別して,非常に具体的であり得る。例えば,顔認識,虹彩認識,顔/肌の色認識を画像に対して行い得る」等の記載があります。」

3 平成31年4月2日付け拒絶査定の概要
(1)特許法36条6項1号及び同項2号について
「[2-3] 本願の請求項1,19には,「前記患者監視装置からの信号を,前記ウェアラブル・インタフェース・モジュールによって受け取」,「前記受け取られた信号をバック・エンド・サーバに送信する」との記載がある。
上記記載に関連して,明細書の,例えば,段落[0106]には,「結合された患者監視装置から受け取られた情報を,バックエンド・サービス・サーバ108において,処理し,解析し,更に,記憶し得る。一部の実施例では,モバイル情報ゲートウェイ130は更に,バックエンド・サービス・サーバ108に,又は直接,医療専門家の情報システムに情報を転送することなどにより,医師に提示された医療記録の一部であるように前述の情報を送出し得る。」との記載があるが,上記記載からは,患者監視装置からの信号を「インタフェース・モジュール」で受け取ること,及び,受け取られた信号をバック・エンド・サーバに送信することが記載されているものと解釈することは出来ない。
これに関連して,平成30年11月12日意見書において出願人が示した,図9,12,13,段落[0061]には,「患者監視装置」について記載がないため,出願人の主張を考慮してもなお,明細書には請求項1における上記記載があるものとは認められない。
また,請求項1を引用する請求項2-18についても同様の点が指摘される。
よって,請求項1-19に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
そして,請求項1-19に係る発明は明確でない。

(2)特許法36条4項1号及び同条6項2号について
「[3-1] 本願の請求項1には「前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールのユーザの識別情報を判定するよう,前記捕捉された情報を処理する工程」と記載されている。
一方で,明細書の,例えば段落[0101]には,「ヒューマン・インタフェース・モジュール102のユーザの識別情報を判定する(904)よう捕捉情報を処理し」といった記載はあるものの,上記処理が具体的にどのように実現しうるのかについて記載がなく,上記工程が具体的にどのような処理を意味しているのかについても明確でない。
上記記載に関連して,平成30年11月12日付け意見書において出願人が示した段落[0062]には「特定の実施例では,コンピューティング及び通信モジュール104及び/又はバック・エンド・サーバ108は,顧客の識別情報を判定するよう,捕捉された情報を処理する。認識は,どの顧客が,一致する識別情報を有しているかについての粗い近似であり得,又は,名前及び他の属性により,特定の個人を識別して,非常に具体的であり得る。例えば,顔認識,虹彩認識,顔/肌の色認識を画像に対して行い得る」と記載されているが,上記記載からは,「ユーザの識別情報」が何を意味しているのか,「判定」とはどのような行為を意味しているのかについて説明されていないため,出願人の上記主張を考慮してもなお,請求項1における上記記載の事項をどのようにして実現しうるのか不明確であり,請求項1における上記記載がどのような技術事項を意味しているのかも明確に把握することが出来ない。また,後述の「ユーザの前記識別情報を認証する行程」との関係も不明確である。
また,請求項1を引用する請求項2-18についても同様の点が指摘される。
よって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1-18に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
そして,請求項1-18に係る発明は明確でない。」

4 令和元年7月16日提出の審判請求書における主張の概要
(1)特許法36条6項1号及び同項2号について
「(a)[2-3]について
本願の請求項1,17(補正前の19)の「前記患者監視装置からの信号を,前記ウェアラブル・インタフェース・モジュールによって受け取」,「前記受け取られた信号をバック・エンド・サーバに送信する」との記載は,例えば,
段落0018の「図1Aにおける他のシステム112は,他の既存システムを表す。ヒューマン・インタフェース・モジュール102と,コンピューティング及び通信モジュール104は,他のシステム112とインタフェースし,相互作用することができる。ヒューマン・インタフェース・モジュール102と,コンピューティング及び通信モジュール104は情報及びコマンドを他のシステム112に送出し,又は他のシステム112から情報を受け取り得る。一部の実施例では,他のシステム112は,動きセンサ,壁ディスプレイ,コーヒー・メーカ,調光用投影システム,温度センサ,環境光センサ,人体健康状態監視センサ,汚染センサ,放射線センサ,HVACシステム等を含み得る。」(下線は強調を示します)との記載,及び
段落0090の「次に図12を参照するに,・・・更に,センサ1204a,1204b,1204c,及び1204dは,患者の状態についての情報を生成し,提供する何れかの移動機器又は患者監視機器(図示せず)であり得る。例えば,患者監視装置は,血圧,血流,血糖,心拍,体温,心電図記録,パルス・オキシメトリ,カプノグラフ,呼吸数,頭蓋内圧の何れか1つを監視し得る。・・・同様に,待合室,患者診察室,又は手術室(OR)には,上述したように,センサ1204a,1204b,1204c,及び1204d,オンボディ・センサ1210a,1210b,又は患者監視装置(図示せず)を装備し得る。・・・」(下線は強調を示します)との記載,
段落0016の「バックエンド・サービス・サーバ108は,ネットワーク106を介してコンピューティング及び通信モジュール104の1つ又は複数と通信するために結合される」等の記載に基づいています。
よって,請求項1-17に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものであり,明確であると思料いたします。」(下線は,審判請求人が付与した。)

(2)特許法36条4項1号及び同条6項2号について
「(a)[3-1]について
『本願の請求項1には「前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールのユーザの識別情報を判定するよう,前記捕捉された情報を処理する工程」と記載されている。
一方で,明細書の,例えば段落[0101]には,「ヒューマン・インタフェース・モジュール102のユーザの識別情報を判定する(904)よう捕捉情報を処理し」といった記載はあるものの,上記処理が具体的にどのように実現しうるのかについて記載がなく,上記工程が具体的にどのような処理を意味しているのかについても明確でない。』との点について,請求項1を「捕捉された情報を処理して,前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールのユーザの識別情報を判定する工程」と補正しました。かかる補正は,補正前の当該請求項の記載等に基づき,当初明細書等に記載した事項の範囲内にあり,明瞭でない記載の釈明を目的としています。
「捕捉された情報を処理して,前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールのユーザの識別情報を判定する工程」とは,例えば,情報処理装置に入力されたユーザID等を処理してユーザを識別すること等であり,当業者には自明な事項であると思料いたします。
また,後述の「ユーザの前記識別情報を認証する工程」との関係も明確であると思料いたします。
したがって,請求項1-18に係る発明は明確であると思料いたします。」


第5 当審の判断
(以下の検討では,「審判請求人」及び「出願人」をまとめて「審判請求人」とする。)

1 サポート要件違反(特許法36条6項1号)について
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下,この観点に基づき,上記「第2」において上記した,請求項1の記載がサポート要件に違反する旨の査定の理由について,検討する。

(1)請求項1の記載について
請求項1には,「前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールと患者監視装置との間の通信を確立する工程と,前記患者監視装置からの信号を,前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールによって受け取る工程と,前記受け取られた信号をバック・エンド・サーバに送信する工程」との記載がある。
この記載によれば,
(a)ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールと患者監視装置との間で通信が確立され,(b)患者監視装置からの信号を,ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールが受け取り,(c)この受け取った信号をバック・エンド・サーバに送信する,ものである。

(2)発明の詳細な説明の記載について
ア 解決すべき課題について
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
いくつかの理由で,モバイル・コンピューティング・デバイスは,物理的な場所において利用可能な体験を完全に置き換える,充実し,かつ完全な体験を提供することが十分でない限定された物理的な画面サイズを有する。第一に,既存のモバイル・コンピューティング・デバイスが備える視野は,満足に,他者と情報を共有し,又は,全てのタイプの情報を視るには狭すぎる。第二に,モバイル・コンピューティング・デバイスは,真の3D体験のために情報を表示する機能は有していない。第三に,既存のモバイル・コンピューティング・デバイスは,全てのタイプのマテリアルを入力し,全てのタイプのオブジェクトを満足に操作するためのインタフェースを提供しない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は,少なくとも部分的に,モバイル情報ゲートウェイの従来技術の欠点及び制限を解消する。一実施例では,モバイル情報ゲートウェイは,通信するために結合されたインタフェース装置,カメラ,オーディオ出力装置,オーディオ入力装置,及び,広視野で,かつ3次元で情報を提示するための画像供給及び表示機構を有するウェアラブル(装着可能な(weareable))・ヒューマン・インタフェース・モジュール(HIM)と,ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールと通信するために結合されたコンピューティング及び通信モジュール(CCM)であって,ヒューマン・インタフェース・モジュールから情報を受け取るよう適合され,画像供給及び表示機構による提示のための情報を含む情報及びコマンドをインタフェース・モジュールに送出するよう適合され,コンピューティング及び通信モジュールは更に,通常のネットワークを介して通信するよう適合されたコンピューティング及び通信モジュールと,通常のネットワークを介してコンピューティング及び通信モジュールと通信するために結合された1つ又は複数のバックエンド・サービス・サーバであって,バックエンド・サービス・サーバは,ユーザ識別及び検証を含む,コンピューティング及び通信モジュールからのデータを処理する。」

イ 「患者監視装置」からの信号を「バック・エンド・サーバ」に送信することについて
「【0018】
図1Aにおける他のシステム112は,他の既存システムを表す。ヒューマン・インタフェース・モジュール102と,コンピューティング及び通信モジュール104は,他のシステム112とインタフェースし,相互作用することができる。ヒューマン・インタフェース・モジュール102と,コンピューティング及び通信モジュール104は情報及びコマンドを他のシステム112に送出し,又は他のシステム112から情報を受け取り得る。一部の実施例では,他のシステム112は,動きセンサ,壁ディスプレイ,コーヒー・メーカ,調光用投影システム,温度センサ,環境光センサ,人体健康状態監視センサ,汚染センサ,放射線センサ,HVACシステム等を含み得る。」

「【0090】
次に図12を参照するに,モバイル情報ゲートウェイ・システム100と併せて使用するためのインテリジェント・ルーム1202の一実施例を示す。インテリジェント・ルーム1202は,ユーザ1206についての情報を捕捉するために,1つ又は複数のセンサ1204a,1204b,1204c,及び1204dを有する。この例では,1つ又は複数のセンサ1204a,1204b,1204c,及び1204dは,ユーザ1206の移動を捕捉するためのカメラである。患者は更に,1つ又は複数のオンボディ・センサ1210a,120bを装着し得る。前述の例は4つのカメラを示すが,他の実施例は,わずかに単一のカメラを含み,又は4つよりもずっと多くのカメラを含み得る。更に,インテリジェント・ルーム1202は,カメラの関係で説明するが,センサ1204a,1204b,1204c,及び1204dは更に,IRカメラ,熱センサ,動きセンサ,位置センサ,圧力/力覚センサ,心拍モニタ,3Dセンサ等,又はそれらの何れかの組み合わせであり得る。更に,センサ1204a,1204b,1204c,及び1204dは,患者の状態についての情報を生成し,提供する何れかの移動機器又は患者監視機器(図示せず)であり得る。例えば,患者監視装置は,血圧,血流,血糖,心拍,体温,心電図記録,パルス・オキシメトリ,カプノグラフ,呼吸数,頭蓋内圧の何れか1つを監視し得る。センサ1204a,1204b,1204c,及び1204dは,ユーザ1206の移動及び動きを捕捉するために使用される。センサ1204a,1204b,1204c,及び1204dは,更に,手術中又は他の手技中などの患者の状態を監視するために使用し得る。一実施例では,センサ1204a,1204b,1204c,及び1204dはそれぞれ,線1208で表されるようにバックエンド・サービス・サーバ108に捕捉画像又は他の情報を提供するよう結合される。センサ1204a,1204b,1204c,及び1204dは効果的には,インテリジェント・ルーム1202内の活動についての,より多くの情報を提供する。例えば,センサ1204a,1204b,1204c,及び1204dは,自分の姿勢をディジタル形式で解析することが可能であるように,理学療法を受けている患者を捕捉することが可能である。患者は,移動,位置,トレーニング統計等についての更なる情報を提供するモバイル情報ゲートウェイ装置130を装着し,上記更なる情報は,線1210で表すようにバックエンド・サービス・サーバ108に送信される。例示的な理学療法を続ければ,ユーザ1206は,自分の理学療法レジームの一部として特定の運動を行う必要があり得る。患者は多くの場合,前述の運動を不適切に行っており,よって,運動の完全なリハビリ価値を受けない。インテリジェント・ルーム1202におけるセンサ1204a,1204b,1204c,及び1204dによって提供される更なる情報を,モバイル情報ゲートウェイ装置130からの情報とともに処理して,パフォーマンス情報を測定し,記録し,モバイル情報ゲートウェイ装置130上で視ることが可能であるように患者に向けて返信し得る。例えば,理学療法の運動を患者がどのようにして行っているかの画像を,理想的な態様の画像上にオーバレイして,同じ理学療法の運動(理想的な挙動)を行い得る。前述の混合画像は次いで,ユーザが理学療法の運動を行っているやり方についてのフィードバックを直ちに受けるように,ユーザに向けてモバイル情報ゲートウェイ装置130上に提示することが可能である。更に,理想的な挙動に対するパフォーマンス情報の比較に基づいた修正指示をヒューマン・インタフェース・モジュール102に送出し,ヒューマン・インタフェース・モジュール102によって提示し得る。このようにして,フィードバック及び情報は即時であり,ユーザ1206は,概念に一致するように理学療法の運動を行うやり方を修正することが可能である。同様に,待合室,患者診察室,又は手術室(OR)には,上述したように,センサ1204a,1204b,1204c,及び1204d,オンボディ・センサ1210a,1210b,又は患者監視装置(図示せず)を装備し得る。センサ1204a,1204b,1204c,及び1204d,並びに,オンボディ・センサ1210a,1210bは,バックエンド・サービス・サーバ108に情報を提供するよう結合し得,又は,通信をモバイル情報ゲートウェイ装置130と直接確立し得る。何れの場合にも,患者の状態を示す信号は,センサ1204a,1204b,1204c,1204d,オンボディ・センサ1210a,1210bによって生成され,モバイル情報ゲートウェイ装置130に,直接,又はバックエンド・サービス・サーバ108を介して送出される。モバイル情報ゲートウェイ装置130は,前述の信号を受け取り,当該情報をそのヒューマン・インタフェース・モジュール102上に提示する。」

「【0094】
…一部の実施例では,モバイル情報ゲートウェイ装置130は,ユーザのバイタル・サインを判定するために使用することが可能なスペクトル画像などの更なる情報を捕捉し得る。捕捉された更なる情報は,特定のバイタル・サインの同時の測定について解析し得,次いで,前述の測定を,モバイル情報ゲートウェイ装置130上の医療関係者に提示し得る。モバイル情報ゲートウェイ装置130は更に,種々の患者監視装置と通信するために結合し得る。前述の患者監視装置からの前述の信号は,更に,モバイル情報ゲートウェイ装置130によって受け取り,患者の検査中に医療関係者に提示し得る。プロセスが続くにつれ,バック・エンド・サーバ108は,ユーザに向けて表示するために,ヒューマン・インタフェース・モジュール102に指示,警告,又は注意喚起を送出する(1306)。例えば,患者の薬に対するアレルギ,医療手順におけるステップ,正しい薬の使用,適切な手順等を,モバイル情報ゲートウェイ装置130を装着する医用専門家に提示し得る。更に,又はあるいは,超音波,x線,MRI画像等などの医療画像データをブロック1306に提示し得る。方法1300は,患者とのやりとりの記録としてバック・エンド・サービス108(又は他の場所)においてヒューマン・インタフェース・モジュール102によって提示されるために返信された情報,及びヒューマン・インタフェース・モジュール102によって捕捉された情報を記憶する(1308)ことによって続く。次いで,方法1300は,更なる入力がヒューマン・インタフェース・モジュール102から受け取られるか否かを判定する。肯定の場合,方法1300はブロック1302に戻り,工程1304,1306,及び1308を繰り返す。否定の場合,方法1300は完了し,終了する。」

「【0106】
…モバイル情報ゲートウェイ装置130は更に,他のタイプのスペクトル撮像,オーディオ録音を含み,他の患者監視装置に接続し得る。モバイル情報ゲートウェイ装置130のオーディオ捕捉機能は,(例えば,睡眠無呼吸のために)患者の呼吸パターンを監視し,又は,患者の咳の頻度を監視するために使用することが可能である。更に,モバイル情報ゲートウェイ装置130は,1つ又は複数の患者監視装置との通信を確立することが可能である。結合された患者監視装置から受け取られた情報を,バックエンド・サービス・サーバ108において,処理し,解析し,更に,記憶し得る。一部の実施例では,モバイル情報ゲートウェイ130は更に,バックエンド・サービス・サーバ108に,又は直接,医療専門家の情報システムに情報を転送することなどにより,医師に提示された医療記録の一部であるように前述の情報を送出し得る。モバイル情報ゲートウェイ装置130は効果的には,いくつかの各種情報を捕捉する機能を有し,それにより,何れかの数の医学的状態を監視し,追跡することができる。」

ウ 「ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュール」と「コンピューティング及び通信モジュール」について
「【0012】
システム概要
図1Aは,本発明による,モバイル情報ゲートウェイ100を示す概略レベルのブロック図である。一実施例では,モバイル情報ゲートウェイ100の例証は,(本明細書及び特許請求の範囲において個々に,かつ併せて102としても表す)複数のヒューマン・インタフェース・モジュール102a-102n,(本明細書及び特許請求の範囲において個々に,かつ併せて104としても表す)複数のコンピューティング及び通信モジュール104a-104n,ネットワーク106,バックエンド・サービス・サーバ108,位置特定システム110,及び他のシステム112を含む。ヒューマン・インタフェース・モジュール102aは,信号線120aにより,対応するコンピューティング及び通信モジュール104aと通信するために結合される。…(途中省略)…一部の実施例において,かつ本出願では,ヒューマン・インタフェース・モジュール102と,コンピューティング及び通信モジュール104は併せて,モバイル情報ゲートウェイ装置130として表される。
【0013】
ヒューマン・インタフェース・モジュール102は,画像及びオーディオ捕捉機能,オーディオ供給及びスピーカ・システム,並びに,画像供給及び表示機構を含むウェアラブル・コンピューティング装置である。ヒューマン・インタフェース・モジュール102は好ましくは,3次元で1つ又は複数の画像を提示するために広視野を提供することができる画像供給及び表示機構を含む。画像供給及び表示機構は,実世界の上に,(グラフィックス,テキスト,画像,及びビデオなどの)ディジタル可視化をオーバレイする。オーディオ供給及びスピーカ・システムは,ユーザに向けてモノ・サウンド又はステレオ・サウンドを供給するオーディオ出力装置を含む。ヒューマン・インタフェース・モジュール102は更に,別々のセンサを使用して,画像,音,及び種々の他の情報を捕捉するための機能を含む。例えば,ヒューマン・インタフェース・モジュール102は,画像を処理し,ヒューマン・インタフェース・モジュール102によって提示されたデータを操作するための一方法としてジェスチャを認識する。別の例として,ヒューマン・インタフェース・モジュール102は,実世界のシーンを捕捉し,これをリアルタイムでコンピューティング及び通信モジュール104に供給する。コンピューティング及び通信モジュール104は,シーンの3D深度マップを生成し,かつ/又は,オブジェクト認識を行うよう画像を処理する。一部の実施例では,ヒューマン・インタフェース・モジュール102は,ポータブル光源を含む。ヒューマン・インタフェース・モジュール102は図2及び図3を参照して以下に更に詳細に説明する。
【0014】
コンピューティング及び通信モジュール104は,ヒューマン・インタフェース・モジュール102のためのコンピューティング・サポートを提供する。コンピューティング及び通信モジュール104は,ヒューマン・インタフェース・モジュール102に信号線120によって結合される。一部の実施例では,信号線120は,表示データ,コマンド,及び電力を供給し,データ及びコマンドを受け取るための,中継光ファイバ及び電線の組み合わせである。コンピューティング及び通信モジュール104は,何れかのタイプのアプリケーションについて,汎用グラフィックス及びマルチメディア処理を提供する。コンピューティング及び通信モジュール104は,アンドロイド,ウィンドウズ(登録商標),又はiOSなどの通常のオペレーティング・システムを使用して動作し得る。コンピューティング及び通信モジュール104は更に,高帯域通信機能を有し,ネットワーク106との通信のために結合される。コンピューティング及び通信モジュール104は,図2及び図3を参照して以下に更に詳細に説明する。
【0015】
ネットワーク106は,有線又は無線の通常のタイプであり,何れかの数の構成(例えば,スター構成,トークン・リング構成,又は他の構成)を有し得る。更に,ネットワーク106は,ローカル・エリア・ネットワーク(LAN),ワイド・エリア・ネットワーク(WAN)(例えば,インターネット),及び/又は複数の装置が通信し得る何れかの他の相互接続されたデータ経路を含み得る。一部の実現形態では,ネットワーク106はピアツーピア・ネットワークであり得る。ネットワーク106は更に,各種通信プロトコルにおいてデータを送出するために通信ネットワークの一部分に結合され,又は上記一部分を含み得る。一部の実現形態では,ネットワーク106は,(例えば,ショート・メッセージング・サービス(SMS),マルチメディア・メッセージング・サービス(MMS),ハイパーテキスト転送プロトコル(HTTP),直接データ接続,WAP,電子メール等を介して)データを送受信するためのブルートゥース(登録商標)通信ネットワーク,ワイファイ(登録商標)ネットワーク,又はセルラ通信ネットワークを含む。
【0016】
バックエンド・サービス・サーバ108は,サービスを提供することができるネットワーク106に結合されたシステム又はサーバである。…(途中省略)…一部の実施例では,バックエンド・サービス・サーバ108は更に,以下の機能を有するルーチン又はソフトウェアとして実現されたサービス推奨エンジンを含む。バックエンド・サービス・サーバ108は,ネットワーク106を介してコンピューティング及び通信モジュール104の1つ又は複数と通信するために結合される。」

「【0061】
…一部の実施例では,ヒューマン・インタフェース・モジュール102は,配信に備えるために画像の特定の処理を行い,又は他のタイプの処理の初期工程を行い得る。一部の実施例では,ヒューマン・インタフェース・モジュール102は,処理全てを行うことができ,ブロック908,910,912,及び914はヒューマン・インタフェース・モジュール102によって行われる。前述の場合,工程906は任意である。しかし,他の実施例では,情報の処理は,コンピューティング及び通信モジュール104,及び/又はバック・エンド・サーバ108に分けられる。前述の実施例では,ヒューマン・インタフェース・モジュール102は,捕捉された情報を,必要に応じて,コンピューティング及び通信モジュール104及び/又はバック・エンド・サーバ108に送出する(906)。」

(3)検討
ア (1)で上記したとおり,請求項1の記載においては,(a)ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールと患者監視装置との間で通信が確立され,(b)患者監視装置からの信号を,ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールが受け取り,(c)この受け取った信号をバック・エンド・サーバに送信する
ものである。

イ これに対し,発明の詳細な説明においては,下記のとおり,「患者監視装置」から受け取った信号をバック・エンド・サーバに対応する「バックエンド・サービス・サーバ108」に送信するにあたっては,「患者監視装置」が「ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュール」との通信を確立するという課題解決手段に係る技術的事項については,記載されていない。
まず(a)及び(b)について,上記(2)アの記載からみて,本願発明は,既存の「モバイル・コンピューティング・デバイス」においては,それが備える「視野」が「狭すぎ」ること,「3D体験のために情報を表示する機能」を「有していない」こと等の欠点を解消するという課題を解決しようとするものであり,上記(2)ウの記載からみて,その解決のために,「ヒューマン・インタフェース・モジュール102」と「コンピューティング及び通信モジュール104」を併せた「モバイル情報ゲートウェイ装置130」(段落【0012】)を用いること,及び,「モバイル情報ゲートウェイ装置130」と「バックエンド・サービス・サーバ108」との間で通信を確立すること,その際,「コンピューティング及び通信モジュール104」が「バックエンド・サービス・サーバ108」との間で通信を確立する機能を有する旨は,記載されている。他方,上記(2)ウにおいて,「ヒューマン・インタフェース・モジュール102」が「バックエンド・サービス・サーバ108」との間で通信を確立する機能を有する旨は記載されていないし,発明の詳細な説明において,「ヒューマン・インタフェース・モジュール102」が「バックエンド・サービス・サーバ108」との間で通信を確立するために必要となる技術的事項は,記載されていない。段落【0061】の記載も,段落【0012】?【0016】の記載を受けた一般的な内容を示すにとどまり,「ヒューマン・インタフェース・モジュール102」が「バックエンド・サービス・サーバ108」との間で通信を確立するために必要となる技術的事項を開示する記載となっておらず,後述するとおり,「患者監視装置」からの「信号」についての記載とも認められない。
次に(c)について,「患者監視装置」からの「信号」を「バック・エンド・サーバ」に「送信」することに係る記載は,上記(2)イのとおりであるところ,ここでは,「患者監視装置」から受け取った信号は,「モバイル情報ゲートウェイ装置130」が患者監視装置と通信するために結合され(通信が確立され),この「モバイル情報ゲートウェイ装置130」が患者監視装置から受け取られた情報をバックエンド・サービス・サーバ108に送信する旨が記載されているといえる。そして,この「モバイル情報ゲートウェイ装置130」が「ヒューマン・インタフェース・モジュール102」と「コンピューティング及び通信モジュール104」を併せたものであること,「コンピューティング及び通信モジュール104」が「バックエンド・サービス・サーバ108」との間で通信を確立する機能を有する旨が記載される一方で,「ヒューマン・インタフェース・モジュール102」が「バックエンド・サービス・サーバ108」との間で通信を確立するために必要となる技術的事項は記載されていないから,上記(2)イにおける「モバイル情報ゲートウェイ装置130」が患者監視装置から受け取られた情報をバックエンド・サービス・サーバ108に送信する旨の記載も,このことを前提としたものと解さざるを得ないものである。
さらに,段落【0061】の記載は,「ヒューマン・インタフェース・モジュール」を装着するユーザが「窓口係」や「医療関係者」である場合についての一般的な内容を記載したものにすぎず,ヒューマン・インタフェース・モジュール102が患者監視装置や他のシステム112から信号を受け取ったり,この信号をバック・エンド・サーバに送信する実施例を説明する記載ではない。
また,段落【0090】等には,患者監視装置からの信号を直接バックエンド・サービス・サーバに提供することも記載されているが,患者監視装置をヒューマン・インタフェース・モジュールに結合(通信を確立)させて,信号を提供するものではない。

ウ 審判請求人は,平成30年11月12日付け意見書で,(A)図9(904,906),図12,図13,段落【0061】等に記載されている旨,(B)令和元年7月16日付け審判請求書で,段落【0016】,【0018】,【0090】の記載に基づく旨主張する。
しかしながら,(A)の図9及び段落【0061】に基づく主張は,上記イのとおりであり,また,図12,13に基づく主張は,段落【0061】とは関係のあるものではなく,図12及び図12を説明する段落【0090】,図13及び図13を説明する段落【0094】?【0096】は,ヒューマン・インタフェース・モジュール102が患者監視装置や他のシステム112から信号を受け取る実施例,及び,ヒューマン・インタフェース・モジュール102が受け取った信号をバック・エンド・サーバに送信する実施例ではない。また,(B)についても,上記イのとおりであり,審判請求人が主張する段落には,ヒューマン・インタフェース・モジュール102が患者監視装置や他のシステム112から信号を受け取ったり,ヒューマン・インタフェース・モジュール102が受け取った信号をバック・エンド・サーバに送信する旨の記載はない。

エ このように,審判請求人の主張する根拠記載を参照しても,ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールと患者監視装置との間で通信が確立され,患者監視装置からの信号を,ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールが受け取り,この受け取った信号をバック・エンド・サーバに送信することが,発明の詳細な説明に記載されていると認めることはできず,上記した課題を解決するために必要な技術的事項が記載されているとも認められない。

(4) 小括
以上を踏まえれば,請求項1の「前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールと患者監視装置との間の通信を確立する工程と,前記患者監視装置からの信号を,前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールによって受け取る工程と,前記受け取られた信号をバック・エンド・サーバに送信する工程」は,発明の詳細な説明に記載したものでない課題解決手段の態様を含むものであるから,請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載された発明ではなく,サポート要件に適合しない。

2 実施可能要件違反(特許法36条4項1号)について
特許法36条4項1号は,発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないことを規定するものであり,同号の要件を充足するためには,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。
以下,この観点に基づき検討する。

(1)請求項1の記載について
請求項1の「捕捉された情報を処理して,前記ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールのユーザの識別情報を判定する工程と,ユーザの前記識別情報を認証する工程」との記載について検討するに,捕捉された情報を処理することで,ユーザの識別情報を判定し,この識別情報を認証するものであって,その記載から,「判定する」ことと「認証する」こととは異なる処理であると解釈される。

(2)発明の詳細な説明の記載事項
上記(1)に対応する事項について,発明の詳細な説明には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審が付与した。
「【0062】
方法900は,顧客,及び可能性が高い,顧客のニーズを識別する(908)工程によって続く。ヒューマン・インタフェース・モジュール102によって捕捉された画像は,特定の個人として顧客を識別し,認証するよう処理し得る。特定の実施例では,コンピューティング及び通信モジュール104及び/又はバック・エンド・サーバ108は,顧客の識別情報を判定するよう,捕捉された情報を処理する。認識は,どの顧客が,一致する識別情報を有しているかについての粗い近似であり得,又は,名前及び他の属性により,特定の個人を識別して,非常に具体的であり得る。例えば,顔認識,虹彩認識,顔/肌の色認識を画像に対して行い得る。画像は更に,顧客が必要とする可能性が高いものが何であるかを識別するよう処理し得る。例えば,顧客が小切手を保有している場合,顧客が預金をしたいということを示唆する情報をヒューマン・インタフェース・モジュール102に送出し,表示し得る。顧客が必要な可能性が高いのが何かの解析は更に,顧客の口座,最近の取引,インターネット上で一般的に利用可能な,顧客についての情報,又はソーシャル・ネットワークで利用可能な顧客についての情報から判定し得る。…」

「【0067】
図10の方法1000は,第2のヒューマン・インタフェース・モジュール102bを装着する顧客との相互作用の少し前に,窓口係が第1のヒューマン・インタフェース・モジュール102を装着すると仮定する。更に,第1のヒューマン・インタフェース・モジュール102aを装着する窓口係も,顧客を識別し,認証するために使用される,後述のものと同様な処理において識別され,又は認証されているものとする。第1のヒューマン・インタフェース・モジュール102a及び第2のヒューマン・インタフェース・モジュール102bはそれぞれ,関連付けられた第1のコンピューティング及び通信モジュール104a,並びに第2のコンピューティング及び通信モジュール104bそれぞれを有する。方法1000は,顧客が,銀行の支店に入り,第2のヒューマン・インタフェース・モジュール102bを手に取るか,又は渡され,第2のヒューマン・インタフェース・モジュール102bを装着する(1002)。一部の実施例では,第2のヒューマン・インタフェース・モジュール102bは,度付きめがね装着者のために表示を適合させ得る。上述のように,一部の実施例では,第2のヒューマン・インタフェース・モジュール102bは,画像供給及び表示機構302が,視野上にオーバレイされた情報をその上に投影するその基板202を含む。第2のヒューマン・インタフェース・モジュール102bは,捕捉された情報又は顧客情報を捕捉し,処理する(1004)。例えば,第2のヒューマン・インタフェース・モジュール102bのアイ・トラッキング・カメラ310は,顔認識のための顧客の顔の画像,又は虹彩認識のための顧客の虹彩の画像を捕捉する。第2のヒューマン・インタフェース・モジュール102bのオーディオ入力装置314は,音声認識において使用するために,発話している顧客のオーディオ・クリップを捕捉し得る。更に,第2のヒューマン・インタフェース・モジュール102bのカメラ308は,顧客の訪問の目的を判定するうえで使用するために,顧客が手に持っている品目(例えば,現金,小切手,デビット・カード等)の画像を捕捉し得る。第2のヒューマン・インタフェース・モジュール102bの他の入力装置は,捕捉され,処理されたメニューの選択,ユーザ・ジェスチャ,音声コマンド又は情報などの他の情報を収集し得る。方法1000は,識別情報を検証し,顧客を認証する(1006)ことによって続く。一部の実施例では,捕捉された情報は,ユーザの識別情報を判定するよう処理される。捕捉された情報は,ユーザを認証するためにも使用し得る。顧客の識別情報及び認証は,上記方法の何れかを使用して行い得る。顧客の識別,顧客の認証,及び顧客のニーズの解析は,全て,第2のヒューマン・インタフェース・モジュール102bに対して行い得,全て,バックエンド・サービス・サーバ108に対して行い得,全て,第2のヒューマン・インタフェース・モジュール102bに関連付けられ第2のコンピューティング及び通信モジュール104bに対して行い得,又は,それらの2つ以上に対して協働で行い得る。」

「【0094】
次に図13を参照するに,医療又はヘルスケア関係においてモバイル情報ゲートウェイ・システム100を使用する方法1300について説明する。方法は,図9を参照して上述したものと同じ最初の3つの工程で始まる。捕捉情報は,第1のユーザ(例えば,医療関係者)の識別情報を判定し,第1のユーザを認証するよう処理される。同じ捕捉情報,又は更なる捕捉情報は,識別情報を判定し,患者を認証するために使用することが可能である。識別及び認証は,顔認識又は虹彩認識を使用して行うことが可能である。単純な例では,医療関係者の識別情報及び患者の識別情報は,患者についての情報を取り出すために使用される。前述の情報は次いで,医療関係者の視野上にオーバレイされて,モバイル情報ゲートウェイ装置130を使用して提示される。…」

「【0101】
…更に,医療情報ゲートウェイ装置130は,一部の実施例では,患者のみ,又は患者の介護人によって使用し得る。患者又は介護人による前述の使用のための方法1700について,図17に示し,以下に説明する。方法1700は,図9を参照して上述されたような3つの工程902,904,及び906で始まる。具体的には,方法1700は,ヒューマン・インタフェース・モジュール102により,情報を捕捉し(902),ヒューマン・インタフェース・モジュール102のユーザの識別情報を判定する(904)よう捕捉情報を処理し,ユーザの識別情報を認証する(906)。方法1700は,ブロック904において捕捉された情報を処理することにより,患者のニーズを識別する(1708)ことによって続く。方法1700は更に,ユーザの認証,及びユーザの識別情報に基づいて捕捉情報の解析を行う(1710)。方法1700は次いで,データを取り出し(1712),ユーザに向けて提示するためにデータをヒューマン・インタフェース・モジュール102に送出する。場合によっては,更なる情報をヒューマン・インタフェース・モジュール102によって捕捉する必要がある。方法1700は,ヒューマン・インタフェース・モジュール102への更なる入力,又はヒューマン・インタフェース・モジュール102からの更なる入力が必要であるか否かを判定する。何れかの条件が真である場合,方法1700はブロック904に戻って更なる情報を捕捉し,ブロック906,1708,1710,及び1712に進む。一方,何れの条件も偽である場合,更なる入力は必要でなく,方法1700は完了し,終了する。識別1708,解析1710,及び取り出し1712のブロックは,各種形態をとり得,そのいくつかの例について以下に説明する。」

(3)検討
ア 発明の詳細な説明の上記(1)の記載によると,捕捉された情報は,ユーザの識別情報を判定するように処理され,ユーザを認証するように処理することが記載されており,「判定」と「認証」とは異なる処理として説明されている。そして,「認証」については,顧客の認証,患者の認証といった,一般的な認証の意味で用いられている。これに対し,「捕捉された情報」を「処理」することで識別情報を「判定」することについて,「ユーザの識別情報を判定する」とするのみでは何を「判定」しているのか不明であるため,「捕捉された情報」の「処理」や「判定」の具体的な内容を把握することはできない。また,発明の詳細な説明には,判定の目的,判定の処理内容,判定により得られる結果等,当業者であれば「捕捉された情報」の「判定」の内容を理解することのできる記載もない。このため,発明の詳細な説明の記載からでは,「捕捉された情報」の「判定」の具体的な内容を把握することができない。

イ 発明の詳細な説明の記載では,「判定」の具体的な内容を把握することができないため,「判定」を一般的な意味を参照して解釈する。インターネット国語辞書gooによると「判定」とは,「1 物事を判別して決定すること。また,その決定。「合否を判定する」「写真判定」 2 ボクシング・柔道・レスリングなどで,規定時間内に勝負がつかないとき,審判が優劣を判断して勝敗を決めること。また,その決定。「判定勝ち」」とある。この説明に基づき,ユーザの識別情報を判定することの具体的な内容について検討する。辞書の1番の意味の場合,ユーザの識別情報を判別して決定することと解釈できるが,何を決定するのか不明である。辞書の2番目の意味の場合,ユーザの識別情報の優劣を判断して勝敗を決めることと解釈できるが,何を持って優劣とするのか不明である。このように,「判定」の一般的な意味で解釈をしても,発明の詳細な説明における「発明」の意味を理解することができない。

ウ 審判請求人は,平成30年11月12日付け意見書で,(A)段落【0062】に根拠記載がある旨,(B)令和元年7月16日付け審判請求書で,「情報処理装置に入力されたユーザID等を処理してユーザを識別すること等」であり,「「ユーザの前記識別情報を認証する工程」との関係も明確」である旨主張する。
(A)について,段落【0062】の「ヒューマン・インタフェース・モジュール102によって捕捉された画像は,特定の個人として顧客を識別し,認証するよう処理し得る」ことの具体的な態様として,「コンピューティング及び通信モジュール104及び/又はバック・エンド・サーバ108は,顧客の識別情報を判定するよう,捕捉された情報を処理する。認識は,どの顧客が,一致する識別情報を有しているかについての粗い近似であり得,又は,名前及び他の属性により,特定の個人を識別して,非常に具体的であり得る。」と,顧客の識別情報を判定するよう,補足された情報を処理することと,認識としての一致する識別情報を有しているか,名前や他の属性による特定の個人を識別する処理があると説明されている。そして,認識は,更に「例えば,顔認識,虹彩認識,顔/肌の色認識を画像に対して行い得る。」と説明される。このように,顔認識や虹彩認識等から「認識」は「認証」の意味で用いられていることは明らかである。これに対し,顧客の識別情報を判定するよう,補足された情報を処理することは,「認証」処理よりも前に実行される処理であることは理解できるものの,具体的な処理内容の説明はなく,「判定」を「識別」と解釈しても,顧客の識別情報を判定するよう,補足された情報を処理することの具体的な処理内容を理解することはできない。そして,捕捉された情報を処理して,ユーザの識別情報を判定する処理について,ユーザの識別情報を判定することによりどのような結果が得られるのか不明であるため,捕捉された情報を処理することと,顧客の識別情報(ユーザの識別情報)を判定することとの関係が不明であり,顧客の識別情報(ユーザの識別情報)と,捕捉された情報との関係も不明である。このため,判定対象となる「ユーザの識別情報」がどのような情報であるのかも不明である。
そうすると,段落【0062】を参照しても上記アのとおり,「捕捉された情報」の「処理」及び「判定」の具体的な内容を把握することができない。
(B)について,審判請求書での主張の根拠となる記載箇所を特定していない。また,「ユーザを識別すること」とユーザ認証の違いも説明されていない。
また,審判請求人の主張する「ユーザID等」は,請求項1に照らすと「ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールにより捕捉された情報を意味すると解釈される。さらに,しかしながら,発明の詳細な説明には,ウェアラブル・ヒューマン・インタフェース・モジュールがユーザID及びそれに類する情報を捕捉することは記載されていないことから,審判請求書でする主張は,発明の詳細な説明に記載したものに基づいていない。また,審判請求人が主張する「ユーザID等」が,請求項1の「識別情報」を意味するとしても,請求項1は「ユーザの識別情報を判定する」ことと「ユーザの前記識別情報を認証する」として,同じ「ユーザの識別情報」を用いた「判定」と「認証」が行われるものであり,認証処理もユーザを識別する処理であることは技術常識であるから,このように解釈をしても,「捕捉された情報」の「処理」及び「判定」の具体的な内容を把握することはできない。
よって,審判請求人の主張を採用することはできない。

エ そうすると,発明の詳細な説明において,「捕捉された情報」の「処理」及び「判定」の具体的な内容が不明であり,「捕捉された情報」の「処理」及び「判定」の内容を実施するための手がかりとなる記載がないため,発明の詳細な説明には,当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に発明の構成が記載されているとはいえない。
このため,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるとはいえず,実施可能要件を満たさない。

3 明確性要件違反について
上記2(3)で示したことに照らせば,請求項1の「捕捉された情報」の「処理」及び「判定」は,その技術的意義が不明であるから,この点において,請求項1は,明確性要件にも適合しない。


第6 むすび

上記のとおりであるから,本願の特許請求の範囲のうち,請求項1の記載は,特許法第36条6項1号及び同条同項2号に規定する要件を満たしておらず,また,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,請求項1に係る発明について特許法第36条4項1号に規定する要件を満たしていないから,他の請求項について記載要件に適合するか否かを判断するまでもなく,本願は,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-09-29 
結審通知日 2020-10-06 
審決日 2020-10-21 
出願番号 特願2014-188564(P2014-188564)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G06Q)
P 1 8・ 536- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 衣川 裕史  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 松田 直也
相崎 裕恒
発明の名称 家庭ヘルスケア用モバイル情報ゲートウェイ  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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