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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02C
管理番号 1369509
審判番号 不服2019-11157  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-23 
確定日 2020-12-16 
事件の表示 特願2016-559337「眼用レンズを用いた軸方向成長制御のための器具及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 1日国際公開、WO2015/147758、平成29年 4月13日国内公表、特表2017-510851〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2016-559337号(以下、「本件出願」という。)は、2015年(平成27年)3月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年3月24日 シンガポール)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成28年11月28日提出:国際出願翻訳文提出書
平成28年11月28日提出:特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書
平成30年 9月 6日付け:拒絶理由通知書
平成31年 3月11日提出:意見書
平成31年 3月11日提出:手続補正書
平成31年 4月19日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和 元年 8月23日提出:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項70に係る発明は、平成31年3月11日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項70に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のものである。
「 中心光を目の網膜の中央領域の中心焦点に向かって指向させるように形作られた光学部を含むレンズ本体と、
前記レンズ本体が前記目に対して配置されたときに周辺光を前記網膜の前記中央領域から離して前記目の中に指向させる前記レンズ本体の少なくとも一つの独立した光学的特徴部と、を含み、
前記少なくとも一つの独立した光学的特徴部は更に、前記網膜の前記中央領域から離して指向された前記周辺光が前記網膜上ではない位置に焦点を有するようにさせる、眼用レンズ。」

3 原査定の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に対する「理由2(新規性)」及び「理由3(進歩性)」は、概略、以下のとおりである。
理由2(新規性)
本願発明は、本件出願の優先権主張の日(以下、「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由3(進歩性)
本願発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特表2009-540373号公報
引用文献2:米国特許出願公開第2013/0293834号明細書
引用文献3:特表2007-511803号公報
引用文献4:特表2011-518355号公報
(当合議体注:引用文献1、2及び4のそれぞれが主引用例である。)

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された上記引用文献1(特表2009-540373号公報)は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある(当合議体注:下線は当合議体が付した。)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者が眼にレンズを装着したときの眼の正常な瞳孔直径に十分近い差渡し寸法を持ち、装着者に眼の網膜の中心領域内において鮮明な遠方視力を与えることができるような屈折力を有する中心光学ゾーンと、
前記中心光学ゾーンよりも半径方向に外側に配置されており、装着者が眼にレンズを装着したときの眼の正常な瞳孔直径の実質的に外側に存在するゾーンであって、装着者が眼にレンズを装着しているときに該ゾーンを通って眼に入射する軸外光線を網膜の中心領域の周囲に位置する網膜の周辺領域の上または前方のポイントに集束させるのに十分な量だけ前記中心光学ゾーンの屈折力よりも大きな屈折力を有する周辺光学ゾーンと
を含んでなるコンタクトレンズ。
【請求項2】
前記周辺光学ゾーンの屈折力は、前記中心光学ゾーンの屈折力よりも少なくとも約1ディオプタ(D)だけ大きいものである請求項1に記載のコンタクトレンズ。
【請求項3】
前記周辺光学ゾーンの屈折力は、前記中心光学ゾーンの屈折力よりも約2.5ディオプタと8ディオプタの間だけ大きいものである請求項1に記載のコンタクトレンズ。
・・・略・・・
【請求項7】
前記中心光学ゾーンと前記周辺光学ゾーンは、湾曲の仕方が異なる隣接した前面を有し、
前記隣接した前面の間には遷移ゾーンが介在しており、該遷移ゾーンは、前記中心光学ゾーンと前記周辺光学ゾーンの前記湾曲の仕方が異なる隣接した前面を滑らかに繋ぐように形作られている、請求項1に記載のコンタクトレンズ。
・・・略・・・
【請求項15】
装着者の眼における近視の進行を低減するために使用されるコンタクトレンズであって、前面と後面を有する透明材料からなり、前記後面は装着者の眼にフィットするようなベースカーブを描くように形成され、前記前面は、
直径は少なくとも3mmであるが装着者の眼の正常な瞳孔直径よりも1mmを超えて小さくはならない実質的に円形形状のゾーンであって、装着者に眼の網膜の中心領域内において鮮明な遠方視力を与えることができるような屈折力を前記ベースカーブと一緒になって作り出すように湾曲した中心光学ゾーンと、
前記中心光学ゾーンを取り囲む円環形状のゾーンであって、レンズを装着したときに、前記中心光学ゾーンの屈折力よりも1ディオプタを超える量だけ大きく、当該ゾーンを通って眼に入射する軸外光線を網膜の中心領域の周囲に位置する網膜の周辺領域内において実質的に網膜の上または前方にある焦点面上に集束させるのに十分な屈折力を前記ベースカーブと一緒になって作り出すように湾曲した円環形周辺光学ゾーンと
を含むコンタクトレンズ。
【請求項16】
前記1ディオプタを超える量は、約2.5ディオプタと8ディオプタとの間にある請求項15に記載のコンタクトレンズ。
【請求項17】
装着者の眼における近視の進行を低減するためのコンタクトレンズの形成方法であって、
透明材料上に、レンズの装着者の眼にフィットするようなベースカーブを描くように湾曲した後面を形成するステップと、
同じ透明材料上に、前記後面とは間隔を置いて前面を形成するステップであって、
最小差渡し寸法が眼の正常な瞳孔直径に十分近くなるように選ばれており、装着者に眼の網膜の中心領域内において鮮明な遠方視力を与えることができるような屈折力を前記ベースカーブと一緒になって作り出すように湾曲した中心光学ゾーンと、
前記中心光学ゾーンの周囲を取り囲み、かつ眼の正常な瞳孔直径の実質的に外側に存在するゾーンであって、装着者が眼にレンズを装着しているときに該ゾーンを通って眼に入射する周辺方向の光線を眼の網膜の周辺領域の上または前方にある焦点面上に集束させるのに十分な量だけ前記中心光学ゾーンの屈折力よりも大きな屈折力を生み出す周辺光学ゾーンと、を含むように、前面を形成するステップと
を含む、コンタクトレンズの形成方法。
【請求項18】
前記周辺光学ゾーンの屈折力は、前記中心光学ゾーンの屈折力よりも少なくとも約1ディオプタ(D)だけ大きいものである、請求項17に記載のコンタクトレンズの形成方法。
【請求項19】
前記周辺光学ゾーンの屈折力は、前記中心光学ゾーンの屈折力よりも約2.5ディオプタと8ディオプタの間だけ大きいものである、請求項17に記載のコンタクトレンズの形成方法。
・・・略・・・
【請求項28】
前記前面を前記中心光学ゾーンと前記周辺光学ゾーンとの間にリング状の遷移ゾーンが介在するように形成するステップを更に含み、前記遷移ゾーンは、前記中心光学ゾーンのカーブを前記周辺光学ゾーンのカーブと滑らかに繋ぐように湾曲している、請求項17に記載のコンタクトレンズの形成方法。
・・・略・・・
【請求項32】
眼における近視の進行を抑制する方法であって、
中心光学ゾーン屈折力を持つ中心光学ゾーンと周辺光学ゾーン屈折力を持ち前記中心光学ゾーンよりも半径方向に外側に配置された周辺光学ゾーンとを有するマルチゾーンコンタクトレンズを装着者の眼に提供するステップと、
前記中心光学ゾーン屈折力を眼に鮮明な中心視力を与えるように選択するステップと、
周辺光学ゾーン屈折力を、前記中心光学ゾーン屈折力よりも大きく、前記周辺光学ゾーンを通って眼に入射する軸外光線が眼の周辺網膜の上または前方のポイントに集束することが保証されるように選択するステップと、
前記中心光学ゾーンのサイズを正常な瞳孔直径よりほぼ大きくなるように選択するステップと
を含む方法。
・・・略・・・
【請求項34】
前記周辺光学ゾーンの屈折力を前記中心光学ゾーンの屈折力よりも少なくとも約1ディオプタ(D)だけ大きくなるように選択するステップを更に含む、請求項32に記載の方法。
・・・略・・・
【請求項36】
前記周辺光学ゾーンの屈折力を選択するステップは、前記周辺光学ゾーンの屈折力を前記中心光学ゾーンの屈折力よりも約2.5ディオプタ乃至8ディオプタの間だけ大きくなるように選択することを更に含む、請求項32に記載の方法。」

イ 「【0002】
[発明の分野]
本発明は、限定はされないが、特に若い人における近視の進行をコントロールするまたは遅らせるために使用されるのに適した方法とコンタクトレンズを含む手段に関する。
【0003】
特に、本発明は、近視の治療に使用されるマルチゾーン非多焦点コンタクトレンズに関する。本発明は、Smith氏らに付与された同一出願人による米国特許第7,025,460号(以下“Smith”)に対して新規かつ非自明な進歩をもたらす。
【0004】
マルチゾーンコンタクトレンズ(multi-zonecontact lens)とは、レンズの異なる部分またはエリアが、異なる光学的特性または光学的機能、最も一般的には異なる屈折力(refractive powers)または収差補正機能を持つものと理解されている。多焦点コンタクトレンズは、マルチゾーンコンタクトレンズの一種(部分集合)であり、正常な瞳孔直径に大体等しいレンズの中心部分が屈折力の異なる少なくとも2つのゾーンを持つという事実によって特徴付けられるものである。通常、これは装着者に遠視力と近視力を両方同時に提供するものであり、場合によっては遠視力と近視力の間の遷移視力(transition power)を与える遷移ゾーン(transition zone)を設けている。従って、マルチゾーン非多焦点レンズとは、レンズの中心部分が中心網膜上に多焦点を与えるマルチゾーンを含まないものである。
【背景技術】
【0005】
近視(myopia or short-sightedness)とは、遠方の物体が網膜の前方に焦点を結び、そのためにぼけ視が起こること、つまりフォーカシング力(眼の焦点を合わせる能力)が強すぎるという眼の問題である。近視は、通常、遠方の物体の焦点を中心網膜上に押し下げるのに十分な負の度数(ディオプタ)を持つと同時に眼のレンズの調節(accommodation)によって近くの物体が網膜の中心領域上に焦点を結ぶことを可能にする眼用レンズ(凹レンズ)を用いて矯正される。近視は、一般的には時間の経過とともにレンズの負の度数を上げる必要がある眼の漸進的伸長に伴う進行性疾患である。多数の望ましくない病状がこの進行性の近視に伴って生じる。
【0006】
成長中の動物の眼の伸長(elongation)は、通常、眼に入射する軸方向の光線が網膜の中心領域上に焦点を結ぶことを可能にするフィードバックメカニズムによってコントロールされることがいま一般的に受け入れられている。正視(ametropic)ではこのメカニズムはうまく機能するが、しかし近視では軸方向の光線が良好な焦点を(網膜上に)結ぶには伸長は過度であり、逆に遠視では不十分であると思われている。最近のSmith特許その他の研究・・・略・・・が現れるまでは、このフィードバックメカニズムをコントロールする刺激は眼内に形成される中心像のフィーチャ(features)と関係があることが一般的に受け入れられていた。Smith氏は、刺激は中心像のクォリティとはほとんど関係がないが、像面湾曲(curvature of field)または周辺屈折、つまり周辺像のクォリティに関係していることを誰もが納得いく形で今や明らかにしている。特に、Smith氏は、眼の伸長を引き起こす刺激は周辺焦点面が網膜の背後(後ろ側)にあるときに生じること、そしてこの状態は最適な中心視力の観点から眼の過度で継続的な成長にも関わらず存続する場合があることを実証した。それ故、Smith氏は、焦点面を周辺網膜の前方(前側)にシフトする近視矯正レンズの使用を提案した。しかしながら、斯かるレンズ、特にSmith氏が提案したコンタクトレンズは、設計と製造が難しく、周辺視野に顕著な視覚的な歪み(visual distortion)をもたらす可能性がある。
・・・略・・・
【発明の概要】
【0011】
本発明は、眼における近視の進行を抑制(あるいは阻止)するために使用されるマルチゾーンコンタクトレンズ(multi-zone contact lens)と、斯かるコンタクトレンズの形成方法、および斯かるコンタクトレンズを使用することにより眼における近視の進行を抑制(あるいは阻止)する方法を提供する。基本的に、本コンタクトレンズは、眼の正常(normal)な瞳孔直径に十分近いサイズを持ち、眼に鮮明な遠方視力(distancevision)を与えることができるようなまたはそのように選択された屈折力を有する中心光学ゾーン(centraloptical zone)と、眼の正常な瞳孔直径の実質的に外側に存在するゾーンであって、該ゾーンを通って患者の眼に入射する斜めの周辺方向光線を網膜の周辺領域の上または前方に位置する焦点面上に集束させるのに十分な屈折力を有する周辺光学ゾーン(peripheral optical zone)とを有する。斯かる周辺焦点はSmithの教示によれば眼の伸長を抑制するための刺激を与えるが、このタイプの2ゾーンレンズ(中でも周辺ゾーンが円環形をしており中心ゾーンを取り囲むもの)は、Smith特許に開示されたレンズよりも製造がずっと容易かつ安価であり、周辺像に対する収差(例えば歪み)をより小さく押さえる可能性がある。
【0012】
遠くの物体と近くの物体の両方からの軸方向光線は、従来の二重焦点コンタクトレンズのように2つ以上の焦点ゾーンを通過するのではなく、レンズの単一屈折力を持つ中心ゾーンだけを通過するので、近くの凝視の正常な調節(accommodation)を前提に、遠くの像と近くの像は両方とも鮮明である。それ故に、本発明のマルチゾーンコンタクトレンズは、近くても遠くてもあらゆる物体からの軸方向光線を両方ともインターセプトするように2つの焦点ゾーンが瞳孔上に存在するタイプの二重焦点コンタクトレンズではない。既に指摘したように、斯かる二重焦点レンズは従来技術において近視治療用に提案された。
【0013】
進行性の近視は一般に子供と若年成人を悩ますので、中心光学ゾーンの直径は、通常、約3mmより大きく、かつ眼の正常な瞳孔直径よりも1mmを超えて小さくはならない(つまり[瞳孔直径(mm)-1mm]以上でなければならない)。視覚研究者の間でStiles-Crawford効果として知られているものが存在するせいで、網膜への途上で眼の瞳孔の端近くを通過する光線(“周辺光線(marginal rays)”とも呼ばれる)は、より瞳孔中心近くを通過する光線よりも視覚的な重要度が低い。従って、中心光学ゾーンは、眼の正常な瞳孔直径より正確に大きくする必要はない。
【0014】
他方、中心光学ゾーンの最大直径は、正常な瞳孔直径より1mmを超えた大きさにないことが好ましい。円環形周辺光学ゾーンが採用される場合には、その内直径(内側の直径)は好ましくは中心光学ゾーンの外直径(最大直径)に近く、その外直径(外側の直径)は通常は8mm未満である。コンタクトレンズ全体の直径は一般的には13mm乃至15mmの範囲に存在し、レンズを眼の正しい位置に保持するのを手助けする役割を果たすスカート状リングまたは担体部(carrier portion)によって追加のエリアが形成される。
【0015】
コンタクトレンズには普通にあることだが、後面は患者の角膜の形状に快適にフィットするような形状に形作られ、前面は(後面の形状と一緒になって)それぞれの屈折力を持つ所望の光学ゾーンを生成するように成形される。しかしながら、本考案のコンタクトレンズによれば、中心光学ゾーンと周辺光学ゾーンの屈折力の差は8ディオプタ(D=Diopter(s))程度であることが可能であり、中心光学ゾーンと周辺光学ゾーンの接合部分におけるレンズ前面の形状の不連続性が重要となり得る。従って、この接合部分におけるレンズ前面の形状は、異なるゾーンの形状の間の遷移を滑らかにするかつ/またはゾーン間の狭い帯域における屈折力の漸増を可能にする遷移ゾーン(transition zone)を形成することが望ましいと考えられる。しかしながら、遷移ゾーンの目的は、レンズの外面を滑らかにするとともに、短い距離で屈折力が突然変化することによってもたらされる可能性がある光学的なアーチファクトまたは歪みを低減することにある。このような中間的な屈折特性を持つ幅の狭いリングが与えられることがあっても、カーブを単純に融合(blend)または隅肉(fillet、肉付けすること)することにより多くの場合、十分である。
【0016】
本発明のコンタクトレンズは、それぞれの眼についてテーラーメードされることが理想であるが、ターゲットする人口における正常な瞳孔サイズの範囲(および眼の形)の推定値に基づいてレンズが大量生産されることが一般により実際的であり、かつ経済的であろう。従って、実際には、特定の患者に対する正常な瞳孔サイズとレンズの中心ゾーンのサイズとの間の一致に関していくらかの許容度が必要となるであろう。
【0017】
より具体的な態様として、本発明が提供するコンタクトレンズは、装着者が眼にレンズを装着したときの眼の正常な瞳孔直径に十分近い差渡し寸法(dimension)を持ち、装着者に眼の網膜の中心領域内において鮮明な遠方視力を与えることができるような屈折力を有する中心光学ゾーンと、前記中心光学ゾーンよりも半径方向に外側に配置されており、かつ装着者が眼にレンズを装着したときの眼の正常な瞳孔直径の実質的に外側に存在するゾーンであって、装着者が眼にレンズを装着しているときに該ゾーンを通って眼に入射する軸外光線を網膜の中心領域の周囲に位置する網膜の周辺領域の上または前方のポイントに集束させるのに十分な量だけ前記中心光学ゾーンの屈折力よりも大きな屈折力を有する周辺光学ゾーンとを含む。
【0018】
本発明のコンタクトレンズは、更なる態様として、湾曲の仕方が異なる隣接する前面を有する中心光学ゾーンおよび周辺光学ゾーンと、前記隣接する前面の間に形成されており中心光学ゾーンおよび周辺光学ゾーンのそれぞれの湾曲の仕方が異なる隣接する前面をスムーズに(不連続性が生じないように)融合(blend)することができるような形状に形成された遷移ゾーンとを有する。この遷移ゾーンは、好ましくは更に、前記中心光学ゾーンの屈折力と前記周辺光学ゾーンの屈折力との間で漸次的に変化する屈折力を与える。
【0019】
なお更なる態様として、本発明が提供するコンタクトレンズは、装着者の眼における近視の進行を低減(reduce)するために使用されるコンタクトレンズであって、前面と後面を有する透明材料からなり、前記後面は装着者の眼にフィットするようなベースカーブ(base-curve)を描くように形成され、前記前面は、直径は少なくとも3mmであるが装着者の眼の正常な瞳孔直径よりも1mmを超えて小さくはならない実質的に円形形状のゾーンであって、装着者に眼の網膜の中心領域内において鮮明な遠方視力を与えることができるような屈折力を前記ベースカーブと一緒になって作り出すように湾曲した中心光学ゾーンと、前記中心光学ゾーンを取り囲む円環形状のゾーンであって、レンズを装着したときに、前記中心光学ゾーンの屈折力よりも1ディオプタを超える量だけ大きく、かつ当該ゾーンを通って眼に入射する軸外光線(off-axis rays)を網膜の中心領域の周囲に位置する網膜の周辺領域内において実質的に網膜の上または前方にある焦点面上に集束させるのに十分な屈折力を前記ベースカーブと一緒になって作り出すように湾曲した円環形周辺光学ゾーンとを含む。
【0020】
本発明は更に、装着者の眼における近視の進行を低減するためのコンタクトレンズを形成するための方法も提供する。本方法は、透明材料上に、レンズの装着者の眼にフィットするようなベースカーブを描くように湾曲した後面を形成するステップと、同じ透明材料上に、前記後面とは間隔を置いて前面を形成するステップとを含む。前記前面は、最小差渡し寸法が眼の正常な瞳孔直径に十分近くなるように選ばれており、装着者に眼の網膜の中心領域内において鮮明な遠方視力を与えることができるような屈折力を前記ベースカーブと一緒になって作り出すように湾曲した中心光学ゾーンと、前記中心光学ゾーンの周囲を取り囲み、かつ眼の正常な瞳孔直径の実質的に外側に存在するゾーンであって、装着者が眼にレンズを装着しているときに該ゾーンを通って眼に入射する周辺方向の光線を眼の網膜の周辺領域の上または前方にある焦点面上に集束させるのに十分な量だけ前記中心光学ゾーンの屈折力よりも大きな屈折力を生み出す周辺光学ゾーンとを含む。
【0021】
加えて、本発明は、眼における近視の進行を抑制(inhibit)する方法も提供する。本方法は、中心光学ゾーン屈折力を持つ中心光学ゾーンと周辺光学ゾーン屈折力を持ち前記中心光学ゾーンよりも半径方向に外側に配置された周辺光学ゾーンとを有するマルチゾーンコンタクトレンズを装着者の眼に提供するステップと、前記中心光学ゾーン屈折力を眼に鮮明な中心視力を与えるように選択するステップと、周辺光学ゾーン屈折力を、前記中心光学ゾーン屈折力よりも大きく、前記周辺光学ゾーンを通って眼に入射する軸外光線(off-axis)が眼の周辺網膜の上または前方のポイントに集束することが保証されるように選択するステップと、前記中心光学ゾーンのサイズを正常な瞳孔直径よりほぼ大きくなるように選択するステップとを含む。
【0022】
以上が本発明のアウトラインである。次に添付図面を参照して本発明の実施の最良の形態を詳細に説明する。しかしながら、本発明は選ばれた実施形態に対する多くの変形例と本発明が適用される多くの他の例も本願特許請求の範囲の各請求項よって定められる本発明の範囲内で可能であることが認められるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】本発明の教示に基づいて形成される第1の例のマルチゾーンコンタクトレンズの正面図である。レンズ面は装着時の状態のように垂直と考える。
【図1B】図1Aのコンタクトレンズの断面図である。複数あるハッチング部分は物理的に異なる部分ではなく機能的に異なるゾーンを表している。
・・・略・・・
【図3】図1Aと図1Bに示された第1の例のコンタクトレンズの複数の光学ゾーンのレンズ直径に対する、中心光学ゾーンの均一な屈折力を基準とした相対屈折力のグラフを示す図である。
・・・略・・・
【図5】第1の例(図1Aおよび図1B)のマルチゾーンコンタクトレンズにフィットしたヒトの眼の装着時の断面図である。第1の例のレンズの光学ゾーンによって生成される中心網膜と周辺網膜に対する焦点面が示されている。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1Aおよび図1Bのレンズ、図3の屈折力のグラフ、およびヒトの近視眼14の角膜12上に正しく置かれたレンズ10を示している図5の眼の断面を参照して、本発明の実施の一形態による第1例のコンタクトレンズ(全体を通して符号10)を説明する。従来のように、レンズ10は、眼14の角膜12の形状にフィットした後面(後部曲面)16と前面(前部曲面)18を持つように、選ばれた屈折率を持つ均一な透明プラスチック材料から成形される。しかしながら、この場合、前面18は、後面16の形状と組み合わさって、2つの光学ゾーンが設けられるように形作られる。(i)1つの光学ゾーン20は眼14の正常な瞳孔(図1Bと図5では符号22)の直径に実質的に等しい、言い換えると十分に近い中心円形光学ゾーン20で、(ii)もう1つの光学ゾーンは、中心ゾーン20を取り囲む、瞳孔22の正常な直径より実質的に外側にある円環形周辺光学ゾーン24である。加えて、前面18と後面16は、外側に向かって次第に薄くなり薄い縁端部28で終端する担体部(carrier portion)26を形成するように形作られている。また担体部26はその光学特性のためというよりは、レンズの使用中、眼14の中心にレンズ10を保持するのを助ける目的で設計されている。コンタクトレンズにおける斯かる周辺担体部のデザインとその使用は従来からよく知られている。最後に、前面18は光学ゾーン20と24の間にスムーズな遷移ゾーン30を形成するように形作られている。ただ遷移ゾーン30は本例ではユーザの違和感を和らげるために光学ゾーン20と24の隣接する周縁部を融合させるだけで、光学的機能は特に果たさない。図1Aと図1Bではリング状の遷移ゾーン30の幅は説明目的で誇大に描かれている。また図1Bの断面における異なるハッチングパタンはレンズ10の異なる機能を果たす領域を示すためのものであり、これらのゾーンが異なる物理材料からできているということを示唆するものではないことは理解されるべきである。本願の目的のため、用語“中心ゾーン”と用語“中心光学(的)ゾーン”は交換可能に使用されることは理解されるべきである。同様に、レンズ設計製造の当業者なら容易に理解するように、用語“周辺光学(的)ゾーン”と用語“周辺ゾーン”は交換可能に使用される。
・・・略・・・
【0028】
図3は第1例のレンズ10の光学特性を示しており、図5には眼12に対するその効果が示されている。図3では、レンズ直径に対するレンズ10の相対屈折力がプロットされている。このプロットにおいて中心ゾーン20の遠方屈折力は随意にゼロに設定されている。従って、本例では、中心ゾーン20の直径(眼12の正常な瞳孔直径22)は3.5mm、周辺ゾーンの内直径と外直径はそれぞれ4.5mmと8mm、そして遷移ゾーン30の幅は約0.5mmとなる。中心ゾーン20の屈折力は実質的に均一であり、遷移ゾーン30上において屈折力は1.5Dまで急激に増大し、Smith氏の教示するところとは対照的に周辺ゾーン24の屈折力はその直径にわたって実質的に一定のままである。遷移ゾーン30内における屈折力の急峻な増大は、本例ではこの狭いゾーンの屈折力は通常正確にはコントロールすることはできないので、勾配のある破線40によって概念的に示されている。既に示唆したように、遷移ゾーン30におけるレンズ10の前面18は屈折力の漸進的または累進的な遷移を与えるが、光学ゾーン20と24の異なる分布(プロファイル)の接合部における非連続性を単に融合または滑らかにするように成形される。
【0029】
図5からわかるように、Smith氏の教示に従って眼の伸長と近視の進行を抑制するのに必要な刺激を与えるには網膜34の周辺領域44における焦点面42を周辺網膜44の前方にシフトすることで(被験者の眼14にとっては)十分であることから、周辺ゾーン24における1.5Dの階段増加(step increase)が選ばれる。レンズ10の遷移ゾーン30で起こる焦点面の“前方ステップ”は符号46に示されているが、既に指摘したように、このステップの形状または勾配は本例では随意にコントロールされず、その描写は概念的である(現実に図に描かれた通りになっているとは限らない)。本発明の実施形態は、一般に網膜の中心から周辺まで、特に周辺光学ゾーン24にわたって増大する屈折力を与えるためにレンズ10の周辺光学ゾーン24を正確に形作る必要性がなくなることにより、Smith特許を超えて大きな改善を実現する。
【0030】
図5は下側からレンズ10、角膜12および瞳孔22を通って眼14に入射する複数の光線を示している。瞳孔22の直径は虹彩36によって決まる。これらの光線は眼の自然レンズ(簡単のため図示されていない)内にある節点48を概念的に通過する。同じく簡単のため、上側、鼻側、側頭部から眼に入射する同じような光線群は基本的に下側からのものと重複するために描かれていない。軸方向の光線50は眼12の視軸と光軸の両方と一致し、光線50が網膜34の中心窩52上に焦点を結ぶようにレンズ10は角膜12上に同心であることが想定される。レンズ10の中心部分20を斜めに通過する軸外光線54は実質的に網膜の中心領域32上に焦点を結び、遠方の物体はその上に鮮鋭な焦点を結び、近くの物体は自然レンズの調節(accommodation)によって焦点を結ぶことが任せられる。従って、レンズ10の中心ゾーン20の処方された屈折力のおかげで、遠くの物体から中心光学ゾーン20を通って眼に入射するほとんど全ての光線は網膜の中心領域32上に鮮鋭な焦点を結び、破線55で示したような像が形成される。
【0031】
レンズ10の遷移ゾーン30を通過するより斜めの軸外光線(例えば光線56)は焦点面42の前方ステップ46を生成すると考えられるが、しかし既に指摘したように、遷移ゾーン30は随意に設計されず、光線56は眼12の中でピンぼけの状態で分散する可能性が高い。しかしながら、ここでも同じように、斯かる光線の純粋に概念的な経路が破線56aで示されている。光線56よりも斜めで軸外光線54よりももっと斜めの周辺方向の光線(周辺光線)58は、レンズ10の周辺光学ゾーン24を通過し、虹彩36の端近く(つまり瞳孔22の外周近く)の方向を向いており、ゾーン24のより大きな屈折力のおかげで、眼の成長の望ましい抑制刺激が与えられるように網膜34の周辺領域44の前方(前側)に位置する周辺焦点面42上のポイント59で焦点を結ぶ。図5を検討してわかるように、光線56と58の間の周辺角で眼12に入射する周辺光線は焦点面42に沿って網膜34の前方に焦点を結ぶ。この際、より斜めでない光線は眼の伸長を遅らせるための強い刺激を与えるように網膜34の更に前方に焦点を結ぶ。
・・・略・・・
【0036】
特定の実施形態を例にとって本発明を詳細に説明してきたが、当業者にとっては、特許請求の範囲の各請求項によって画定される本発明の範囲に含まれることを意図した、それらの実施形態の様々な変更、変形、代替が可能であり、均等物もその範囲に含まれることは明らかであろう。」

エ 「【図1A】


【図1B】




オ 「【図3】



(当合議体注:便宜上、図3の向きを90度回転している。)

カ「【図5】




(2) 引用発明
引用文献1における「本発明の実施の一形態による第1例のコンタクトレンズ(全体を通して符号10)」についての【0024】、【0028】、【0030】及び【0031】の記載、並びに、「第1の例のマルチゾーンコンタクトレンズの正面図」である図1A、その「断面図」である図1B、「図1Aと図1Bに示された第1の例のコンタクトレンズの複数の光学ゾーンのレンズ直径に対する、中心光学ゾーンの均一な屈折力を基準とした相対屈折力のグラフを示す図」である図3及び「第1の例のレンズの光学ゾーンによって生成される中心網膜と周辺網膜に対する焦点面が示され」る「第1の例(図1Aおよび図1B)のマルチゾーンコンタクトレンズにフィットしたヒトの眼の装着時の断面図」である図5とからみて、引用文献1には、「眼における近視の進行を抑制(あるいは阻止)するために使用されるマルチゾーンコンタクトレンズ」(【0011】)の発明として、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「 眼における近視の進行を抑制(あるいは阻止)するために使用されるマルチゾーンコンタクトレンズ10であって、
マルチゾーンコンタクトレンズ10は、眼14の角膜12の形状にフィットした後面(後部曲面)16と前面(前部曲面)18を持つように、選ばれた屈折率を持つ均一な透明プラスチック材料から成形され、前面18は、後面16の形状と組み合わさって、2つの光学ゾーン、(i)眼14の正常な瞳孔22の直径に実質的に等しい中心円形光学ゾーン20、(ii)中心円形光学ゾーンを取り囲む、瞳孔22の正常な直径より実質的に外側にある円環形周辺光学ゾーン24、が設けられるように形作られ、
加えて、前面18と後面16は、外側に向かって次第に薄くなり薄い縁端部28で終端する担体部26を形成するように形作られ、担体部26はその光学特性のためというよりは、レンズの使用中、眼14の中心にマルチゾーンコンタクトレンズ10を保持するのを助ける目的で設計され、
前面18は中心円形光学ゾーン20と円環形周辺光学ゾーン24の間にスムーズな遷移ゾーン30を形成するように形作られ、遷移ゾーン30は、ユーザの違和感を和らげるために中心円形光学ゾーン20と円環形周辺光学ゾーン24の隣接する周縁部を融合させるだけで、光学的機能は特に果たさないものであり、
レンズ直径に対するマルチゾーンコンタクトレンズ10の相対屈折力のプロットは下図のFig.3に示されるように、中心円形光学ゾーン20の遠方屈折力は随意にゼロに設定され、中心円形光学ゾーン20の直径は3.5mm、円環形周辺光学ゾーン24の内直径と外直径はそれぞれ4.5mmと8mm、遷移ゾーン30の幅は約0.5mmであり、中心円形光学ゾーン20の屈折力は実質的に均一であり、遷移ゾーン30上において屈折力は1.5Dまで急激に増大し、円環形周辺光学ゾーン24の屈折力はその直径にわたって実質的に一定のままであり、遷移ゾーン30におけるマルチゾーンコンタクトレンズ10の前面18は屈折力の漸進的または累進的な遷移を与えるが、中心円形光学ゾーン20と円環形周辺光学ゾーン24の異なる分布(プロファイル)の接合部における非連続性を単に融合または滑らかにするように成形され、
マルチゾーンコンタクトレンズ10にフィットした眼の装着時の断面図であって、角膜12および瞳孔22を通って眼14に入射する複数の光線及びマルチゾーンコンタクトレンズ10の光学ゾーンによって生成される中心網膜と周辺網膜に対する焦点面を示す、下図のFig.5に示されるように、複数の光線は眼の自然レンズ(簡単のため図示されていない)内にある節点48を概念的に通過し、
軸方向の光線50は眼14の視軸と光軸の両方と一致し、光線50が網膜34の中心窩52上に焦点を結ぶようにマルチゾーンコンタクトレンズ10は角膜12上に同心であることが想定され、マルチゾーンコンタクトレンズ10の中心円形光学ゾーン20を斜めに通過する軸外光線54は実質的に網膜の中心領域32上に焦点を結び、遠方の物体はその上に鮮鋭な焦点を結び、近くの物体は自然レンズの調節によって焦点を結び、従って、マルチゾーンコンタクトレンズ10の中心円形光学ゾーン20の処方された屈折力のおかげで、遠くの物体から中心光学ゾーン20を通って眼に入射するほとんど全ての光線は網膜の中心領域32上に鮮鋭な焦点を結び、像が形成され、
マルチゾーンコンタクトレンズ10の遷移ゾーン30を通過するより斜めの軸外光線(例えば光線56)は焦点面42の前方ステップ46を生成すると考えられるが、遷移ゾーン30は随意に設計されず、光線56は眼14の中でピンぼけの状態で分散する可能性が高く、斯かる光線の純粋に概念的な経路が破線56aで示され、
光線56よりも斜めで軸外光線54よりももっと斜めの周辺方向の光線(周辺光線)58は、マルチゾーンコンタクトレンズ10の円環形周辺光学ゾーン24を通過し、虹彩36の端近く(つまり瞳孔22の外周近く)の方向を向いており、円環形周辺光学ゾーン24のより大きな屈折力のおかげで、眼の成長の望ましい抑制刺激が与えられるように網膜34の周辺領域44の前方(前側)に位置する周辺焦点面42上のポイント59で焦点を結び、
光線56と58の間の周辺角で眼14に入射する周辺光線は焦点面42に沿って網膜34の前方に焦点を結び、この際、より斜めでない光線は眼の伸長を遅らせるための強い刺激を与えるように網膜34の更に前方に焦点を結ぶ、
マルチゾーンコンタクトレンズ10。





(当合議体注:引用発明においては、「レンズ10」を「マルチゾーンコンタクトレンズ10」に統一して記載し、「中心ゾーン20」及び「中心部分20」を「中心円形光学ゾーン20」に統一して記載し、「周辺ゾーン」、「周辺ゾーン24」及び「周辺光学ゾーン24」を「円環形周辺光学ゾーン24」に統一して記載した。また、符号の誤記(眼12)を修正して記載した。)

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 光学部
(ア) 引用発明の「マルチゾーンコンタクトレンズ10」は、「眼14の角膜12の形状にフィットした後面(後部曲面)16と前面(前部曲面)18を持つように、選ばれた屈折率を持つ均一な透明プラスチック材料から成形され」、「前面18は、後面16の形状と組み合わさって」、「(i)眼14の正常な瞳孔22の直径に実質的に等しい中心円形光学ゾーン20」「が設けられ」ている。
また、引用発明の「マルチゾーンコンタクトレンズ10」は、「軸方向の光線50は眼14の視軸と光軸の両方と一致し、光線50が網膜34の中心窩52上に焦点を結ぶようにマルチゾーンコンタクトレンズ10は角膜12上に同心であることが想定され」るものである。
そうすると、引用発明においては、「マルチゾーンコンタクトレンズ10」と「眼14」の「角膜12」とが「同心」に配置されたとき、「眼14の視軸と光軸の両方と一致」する「軸方向の光線50」は、「マルチゾーンコンタクトレンズ10」の「中心円形光学ゾーン20」を通過し、「網膜34の中心窩52上に焦点を結」ぶことが理解される。

(イ) 引用発明の「マルチゾーンコンタクトレンズ10にフィットした眼」における、「網膜34」と、「網膜34」の「中心領域32」及び「周辺領域44」との位置関係、「網膜34」の「中心領域32」と「中心窩52」との位置関係は、「Fig.5」に示されるとおりである。
また、引用発明の「網膜34」の「中心領域32」は、その文言の意味するとおり、「網膜34」の中心の領域である。

(ウ) 上記(ア)と(イ)(及びFig.5)より、引用発明の「中心円形光学ゾーン20」は、「眼14の視軸と光軸の両方と一致」する「軸方向の光線50」を、「眼14」の「網膜34」の「中心領域32」の中心に位置する「焦点」としての「中心窩52」に向かって指向させるように形成されているということができる。
そうすると、引用発明の「軸方向の光線50」、「中心領域32」及び「中心窩52」(Fig.5に符号52で示される点)は、それぞれ本願発明の「中心光」、「中央領域」及び「中心焦点」に対応付けることができる。
してみると、引用発明の「中心円形光学ゾーン20」は、本願発明の「光学部」に相当する。また、引用発明の「中心円形光学ゾーン20」は、本願発明の「光学部」の、「中心光を目の網膜の中央領域の中心焦点に向かって指向させるように形作られた」との要件を具備する。

イ 光学的特徴部
(ア) 引用発明の「マルチゾーンコンタクトレンズ10」は、「眼14の角膜12の形状にフィットした後面(後部曲面)16と前面(前部曲面)18を持つように、選ばれた屈折率を持つ均一な透明プラスチック材料から成形され」、「前面18は、後面16の形状と組み合わさって」、「(ii)中心円形光学ゾーンを取り囲む、瞳孔22の正常な直径より実質的に外側にある円環形周辺光学ゾーン24」「が設けられ」ている。
また、引用発明の「マルチゾーンコンタクトレンズ10」においては、「光線56よりも斜めで軸外光線54よりももっと斜めの周辺方向の光線(周辺光線)58」は、「マルチゾーンコンタクトレンズ10の円環形周辺光学ゾーン24を通過し、虹彩36の端近く(つまり瞳孔22の外周近く)の方向を向いており、円環形周辺光学ゾーン24のより大きな屈折力のおかげで、眼の成長の望ましい抑制刺激が与えられるように網膜34の周辺領域44の前方(前側)に位置する周辺焦点面42上のポイント59で焦点を結び」、「光線56と58の間の周辺角で眼14に入射する周辺光線は焦点面42に沿って網膜34の前方に焦点を結」ぶものである。

(イ) 上記(ア)より、引用発明においては、「マルチゾーンコンタクトレンズ10」と「眼14」の「角膜12」とが「同心」に配置され(上記ア(ア)及び「Fig.5」参照。)たときに、「斜めの周辺方向の光線(周辺光線)58」は、「円環形周辺光学ゾーン24を通過し」、「虹彩36の端近く(つまり瞳孔22の外周近く)の方向を向いており、円環形周辺光学ゾーン24のより大きな屈折力のおかげで」、「網膜34の周辺領域44の前方(前側)に位置する周辺焦点面42上のポイント59で焦点を結」ぶことが理解できる。
同様に、引用発明においては、「光線56と58の間の周辺角で」「円環形周辺光学ゾーン24を通過し」て「眼14に入射する周辺光線」は、「網膜34の周辺領域44の前方(前側)に位置する周辺焦点面42」「に沿って網膜34の前方に焦点を結」ぶことが理解できる(当合議体注:引用発明の「Fig.5」における「光線56」、「光線58」と、「網膜34」の「周辺領域44」、「周辺焦点面42」との関係からも確認できることである。)。

(ウ) 上記(イ)より、引用発明において、「円環形周辺光学ゾーン24」は、「円環形周辺光学ゾーン24を通過し」た、「光線(周辺光線)58」及び「光線56と58の間の周辺角」の「眼14に入射する周辺光線」を、「網膜34」の「中心領域32」から離れた「網膜23の周辺領域44」へと目の中に指向させて、「網膜34」上ではない位置(「網膜34の周辺領域44の前方(前側)に位置する周辺焦点面42」)に焦点を有するようにしているということができる。
そうすると、引用発明の「遷移ゾーン30を通過する」「斜めの」「光線56よりも」「斜めの周辺方向の光線(周辺光線)58」及び「光線56と58の間の周辺角で」、「円環形周辺光学ゾーン24を通過し」て「眼14に入射する周辺光線」は、本願発明の「周辺光」に対応付けることができる。
してみると、引用発明の「円環形周辺光学ゾーン24」と、本願発明の「少なくとも一つの独立した光学的特徴部」とは、「周辺光を前記網膜の前記中央領域から離して前記目の中に指向させ」、「前記網膜の前記中央領域から離して指向された前記周辺光が前記網膜上ではない位置に焦点を有するようにさせる」光学的機能を有する部分である点において共通している。

ウ レンズ本体、眼用レンズ
(ア) 上記アとイより、引用発明の「マルチゾーンコンタクトレンズ10」は、本願発明の「レンズ本体」に相当する。

(イ) 引用発明の「マルチゾーンコンタクトレンズ10」は、「眼における近視の進行を抑制(あるいは阻止)するために使用される」ものである。
そうすると、引用発明の「マルチゾーンコンタクトレンズ10」は、本願発明の「眼用レンズ」に相当する。

(ウ) 上記ア及び上記(ア)、(イ)より、引用発明の「マルチゾーンコンタクトレンズ10」と、本願発明の「眼用レンズ」は、「光学部を含むレンズ本体」を含む、との要件を具備する。

(エ) 上記イ(イ)の、引用発明において、「マルチゾーンコンタクトレンズ10」と「眼14」の「角膜12」とが「同心」に配置されたときとは、「マルチゾーンコンタクトレンズ10」が「眼14」に対して装着されたときである(「Fig.5」参照。)。
そうすると、上記イと上記(ア)、(イ)より、引用発明と、本願発明は、「前記レンズ本体が前記目に対して配置されたときに周辺光を前記網膜の前記中央領域から離して前記目の中に指向させる前記レンズ本体の」光学的機能を有する部分と含み、前記光学的機能を有する部分は更に、「前記網膜の前記中央領域から離して指向された前記周辺光が前記網膜上ではない位置に焦点を有するようにさせる」点において共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明とは、次の構成で一致する。
「 中心光を目の網膜の中央領域の中心焦点に向かって指向させるように形作られた光学部を含むレンズ本体と、
前記レンズ本体が前記目に対して配置されたときに周辺光を前記網膜の前記中央領域から離して前記目の中に指向させる前記レンズ本体の、光学的機能を有する部分と、を含み
前記光学的機能を有する部分は更に、前記網膜の前記中央領域から離して指向された前記周辺光が前記網膜上ではない位置に焦点を有するようにさせる、眼用レンズ。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で一応相違する。
(相違点1)
「光学的機能を有する部分」が、本願発明は、「少なくとも一つの独立した光学的特徴部」であるのに対して、引用発明は、「円環形周辺光学ゾーン24」であって、これが「少なくとも一つの独立した光学的特徴部」に対応するものであるのか明らかでない点。

(3) 判断
上記相違点1について検討する。
ア 引用発明の「マルチゾーンコンタクトレンズ10」は、その中心から外側に順に、(A)「直径は3.5mm」の「(i)眼14の正常な瞳孔22の直径に実質的に等しい中心円形光学ゾーン20」、(B)「幅が約0.5mm」の「遷移ゾーン30」、(C)「内直径」と「外直径」がそれぞれ「4.5mm径」と「8mm径」の「(ii)中心円形光学ゾーンを取り囲む、瞳孔22の正常な直径より実質的に外側にある円環形周辺光学ゾーン24」及び(D)「外側に向かって次第に薄くなり薄い縁端部28で終端する」「担体部26」が形成されたものである。

イ 引用発明の「マルチゾーンコンタクトレンズ10」の「中心円形光学ゾーン20」は、「実質的に均一」な「処方された屈折力」を持ち、「眼14の視軸と光軸の両方と一致」する「軸方向の光線50は」を、網膜34の中心窩52上に焦点を結ぶようにし、また、遠くの物体から中心光学ゾーン20を通って眼に入射するほとんど全ての光線は網膜の中心領域32上に鮮鋭な焦点を結び、像を形成する光学的機能を有する部分である。
また、引用発明の「マルチゾーンコンタクトレンズ10」の「円環形周辺光学ゾーン24」は、「中心円形光学ゾーン20」の「実質的に均一」な「処方された屈折力」に対して「1.5D」の屈折力を有し、「光線56よりも斜めで軸外光線54よりももっと斜めの周辺方向の光線(周辺光線)58」や「光線56と58の間の周辺角で眼14に入射する周辺光線」を、「網膜34の周辺領域44の前方(前側)に位置する周辺焦点面42上」「で焦点を結」ぶ光学的機能を有する部分である。
さらに、引用発明の「マルチゾーンコンタクトレンズ10」の「遷移ゾーン30」は、ユーザの違和感を和らげるために、中心円形光学ゾーン20と円環形周辺光学ゾーン24の接合部における非連続性を単に融合または滑らかにするが、光学的機能は特に果たさない部分である。
さらに加えて、「マルチゾーンコンタクトレンズ10」の「担体部26」は、レンズの使用中、眼14の中心にマルチゾーンコンタクトレンズ10の保持を助ける機能を有する部分である。

ウ 上記ア、イより、引用発明の「円環形周辺光学ゾーン24」は、「中心円形光学ゾーン20」とは異なる半径位置に形成され、屈折力が異なり、異なる光学的機能を有する部分であって、「中心円形光学ゾーン20」と区別される異なる部分であるといえる。
また、引用発明の「円環形周辺光学ゾーン24」は、「中心円形光学ゾーン20」と「円環形周辺光学ゾーン24」の間の半径位置において形成された「遷移ゾーン30」や、「円環形周辺光学ゾーン24」の外側の位置に形成された「担体部26」と、その形成された半径位置、その機能において異なる部分であって、これらのゾーンと区別される異なる部分であるといえる。
そうすると、引用発明の「円環形周辺光学ゾーン24」は、物としては「中心円形光学ゾーン20」や「遷移ゾーン30」と一体のものであるとしても、光学特性としては、上記イで述べた光学的機能を有する、一つの独立した光学的特徴部分であるということができる。
(当合議体注:なお、「独立した特徴部」に関して、本願の明細書の【0012】及び【0013】には、それぞれ「レンズ本体の少なくとも一つの独立した特徴部は、目に入る光を網膜の中央部から離れた所へ向ける特性を有する。」及び「当該独立した特徴部は、眼用レンズに一体的に形成された成型の特徴部であってもよい。」と記載されている。)
してみると、上記相違点1は、相違点を構成しない。

エ 請求人は、令和2年10月10日付けの審判請求書の2頁の「3.本願発明が特許されるべき理由」「(1)本願発明の説明」において、「少なくとも一つの独立した(非連続な)光学的特徴部は、レンズ断面の厚さを急に変化させるようなものです(段落0073)。また、独立した(非連続な)光学的特徴部は、レンズの緩やかな曲線の中の孤立した変化を生じさせるものとなっています(段落0090)。」旨主張する。
そこで、念のため、本願発明の「少なくとも独立した光学的特徴部」とは、レンズ断面の厚さが急に変化するような(非連続な)部分、あるいは、レンズの緩やかな曲線の中の孤立した変化を生じさせるような(非連続な)部分を意味すると、仮に理解して検討すると以下のとおりである。
(ア) 引用発明は、「前面18は中心円形光学ゾーン20と円環形周辺光学ゾーン24の間にスムーズな遷移ゾーン30を形成するように形作られ、遷移ゾーン30は、ユーザの違和感を和らげるために中心円形光学ゾーン20と円環形周辺光学ゾーン24の隣接する周縁部を融合させるだけで、光学的機能は特に果たさないものであり」、「遷移ゾーン30におけるマルチゾーンコンタクトレンズ10の前面18は屈折力の漸進的または累進的な遷移を与えるが、中心円形光学ゾーン20と円環形周辺光学ゾーン24の異なる分布(プロファイル)の接合部における非連続性を単に融合または滑らかにするように成形され」るものである。
一方、引用文献1には、「遷移ゾーン」について、【0015】には、「後面は患者の角膜の形状に快適にフィットするような形状に形作られ、前面は(後面の形状と一緒になって)それぞれの屈折力を持つ所望の光学ゾーンを生成するように成形される。」、「しかしながら、本考案のコンタクトレンズによれば、中心光学ゾーンと周辺光学ゾーンの屈折力の差は8ディオプタ(D=Diopter(s))程度であることが可能であり、中心光学ゾーンと周辺光学ゾーンの接合部分におけるレンズ前面の形状の不連続性が重要となり得る。従って、この接合部分におけるレンズ前面の形状は、異なるゾーンの形状の間の遷移を滑らかにするかつ/またはゾーン間の狭い帯域における屈折力の漸増を可能にする遷移ゾーン(transition zone)を形成することが望ましいと考えられる。」、「しかしながら、遷移ゾーンの目的は、レンズの外面を滑らかにするとともに、短い距離で屈折力が突然変化することによってもたらされる可能性がある光学的なアーチファクトまたは歪みを低減することにある。このような中間的な屈折特性を持つ幅の狭いリングが与えられることがあっても、カーブを単純に融合(blend)または隅肉(fillet、肉付けすること)することにより多くの場合、十分である。」との記載がある。

(イ) 上記【0015】の記載に接した当業者であれば、引用文献1でいう「発明」の「マルチゾーンコンタクトレンズ」においては、「遷移ゾーンを形成することが望ましいと考えられる」ものの、中心光学ゾーンと周辺光学光学ゾーンの屈折力の差が「8ディオプタ程度」と比較して小さく、中心光学ゾーンと周辺光学ゾーンの接合部分におけるレンズ前面の形状の不連続性が重要とならない場合には、「遷移ゾーン」を設けなくてもよいと理解することができる(当合議体注:引用文献1でいう「発明」の「眼における近視の進行を抑制(あるいは阻止)するために使用されるマルチゾーンコンタクトレンズ」において、「遷移ゾーン」が必須の構成でないことは、引用文献1の特許請求の範囲の請求項1?3のコンタクトレンズに係る発明、請求項15、16のコンタクトレンズに係る発明、請求項17?19に係るコンタクトレンズの形成方法に係る発明及び請求項32、34、36に係る眼における近視の進行を抑制する方法において、「遷移ゾーン」が、発明を特定するために必要と認める事項として記載されていないことからも理解できる。引用文献1の【0017】にも、「本発明」のコンタクトレンズの「より具体的な態様」として、「遷移ゾーン」を含まなくてよいものが開示されている。)。

(ウ) 引用発明においては、中心光学ゾーンと周辺光学光学ゾーンの屈折力の差は「1.5D」であり、「8ディオプタ」と比較して小さい。また、引用文献1に特許請求の範囲の請求項2、15、18、34の記載からみても、引用発明の中心光学ゾーンと周辺光学光学ゾーンの屈折力の差「1.5D」は下限(「1ディオプタ」)に近い数値と理解できる。
してみると、引用発明において、「遷移ゾーン30」を設けない構成に変更し、「中心円形光学ゾーン20」の外側に「円環形周辺光学ゾーン24」を直接設けた構成とすることは、引用文献1の上記記載に接した当業者であれば、眼における近視の進行を抑制(あるいは阻止)できるコンタクトレンズ設計として試みる範囲内のことである。
そして、引用発明において上記設計変更を施したものにおいては、レンズ前面に、「中心円形光学ゾーン20と円環形周辺光学ゾーン24の異なる分布(プロファイル)の接合部における非連続性」(あるいは、【0010】でいう「中心光学ゾーンと周辺光学ゾーンの接合部分におけるレンズ前面の形状の不連続性」)が生じることになるから、引用発明は、その「円環形周辺光学ゾーン24」として、「中心円形光学ゾーン20」と非連続的な、レンズ断面の厚さが急に変化するような光学的特徴部、あるいは、レンズ前面の緩やかな曲線の中の孤立した変化を生じさせる光学的特徴部を有するといえる。
してみると、引用発明において、引用文献1の記載に基づき、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

オ 本願発明の効果について
(ア) 本件出願の国際出願日における国際特許出願の明細書又は図面の翻訳文には、本願発明の「発明の効果」として明示の記載はないが、【発明の概要】の【0010】の「光学的特徴部は・・・略・・・光を網膜の周辺領域の手前で集光する特性、光を網膜の周辺領域の後ろで集光する特性、又はそれらを組み合わせた特性を有することができる。」、「当該特性は目の眼軸長の成長を制御する効果、近視を制御する効果、近視を防ぐ効果、遠視を制御する効果、遠視を防ぐ効果、その他の効果、又はそれらを組み合わせた効果を有することができる。」との記載、同【0011】の「光学的特徴部は又、網膜の特定の部位に光を指向させるように別々に調整された、眼用レンズに組み込まれた複数の光学的特徴部のうちの一つであってもよい。」との記載が、本願発明の効果に係る記載として理解可能である。

(イ) 本願発明は、「一つの独立した光学的特徴部」(のみ)を含むものであってもよいところ、本願発明の「近視を制御する効果、近視を防ぐ効果」、あるいは「光学的特徴部」が「網膜の特定の部位に光を指向させるように」「調整され」るとのことは、「眼における近視の進行を抑制(あるいは阻止)するために使用される」引用発明も当然奏する効果である。

カ 令和2年10月10日付けの審判請求書における請求人の主張について
(ア) 請求人は、令和2年10月10日付けの審判請求書の2頁の「3.本願発明が特許されるべき理由」「(1)本願発明の説明」において、「本願明細書に記載されているように、少なくとも一つの独立した(非連続的な)光学的特徴部は、レンズ断面の厚さを急に変化させるようなものです(段落0073)。また、独立した(非連続的な)光学的特徴部は、レンズの緩やかな曲線の中の孤立した変化を生じさせるものとなっています(段落0090)。」、「上述のとおり段落0073及び0090並びに図19-21等において、独立した光学的特徴部36はレンズ10の前側表面38の緩やかな曲面においてレンズ断面の厚さ113を急に変化させるように独立して(孤立して)設けられた孤立した場所111によって構成される部分であることが説明されています。したがいまして、請求項1における“独立した”の技術的意味は明細書等から明確であると考えます。」、「なお、上記説明によっても“独立した”の技術的意味が不明確であるとされる場合には、出願人は、例えば、光学的特徴部が“前記レンズ本体の緩やかに湾曲した表面から突出している”ことを補正により追記する意思がありますので、そのような補正の機会を頂ければ幸いに存じます。」旨主張している。

(イ)また、請求人は、同審判請求書の3頁の「(3)本願発明と引用発明との比較」において、「引用文献1には、本願発明における独立した光学的特徴部と同様な光学的特徴部は開示されていません。引用文献1に開示されたレンズにおいては、スムーズな遷移ゾーン30があるのみです。」、「この遷移ゾーン30は、ユーザの違和感を和らげるために光学ゾーン20と24の隣接する周縁部を融合させるだけで、光学的機能は特に果たさないものになっています。これは明らかに、本願発明の独立した光学的特徴部における『周辺光を前記網膜の前記中央領域から離して前記眼の中に指向させる』及び『前記網膜の前記中央領域から離して指向された前記周辺光が前記網膜上ではない位置に焦点を有する』との構成とは異なるものです。」、「また、引用文献1の周辺光学ゾーンは、引用文献1の上記段落0015及び0020に記載されているように、レンズ断面の厚さが急に変わる非連続的な特徴部を形成するものでもありません。」、「本願発明においては、明細書の段落0099及び0101に記載されているように、独立した光学的特徴部は、設計の融通性及び可能性をもたらし、疑似視覚シェルの形成を図24?26に示すように徐々に変えるようにすることも可能にします。」、「ここで当該拒絶査定においては、引用文献1に記載のものは、急激な屈折力の変化を緩和して歪み等を低減するために、屈折力の漸増する遷移ゾーンを設けることが“好ましい”としているのであって、・・・略・・・引用文献1において遷移ゾーンを設けるか否か(光学ゾーンから周辺ゾーンへ非連続な形状で接続される構成とするか)は、求められる仕様等に応じて当業者が適宜設計するものであると認める、とされています。しかしながら、『遷移ゾーンを設けることが望ましい』との記載はありますが、引用文献1に開示された全ての実施形態において遷移ゾーンは設けられており、引用文献1においては実質的に必須の構成として記載されており、遷移ゾーンがなくてもよいことは実際には記載されていません。また、引用文献1における遷移ゾーンの目的は上述の通り急激な屈折力の変化を緩和して歪みを低減することであり、言い換えれば、遷移ゾーンを本願発明のような独立した光学的特徴部とすることは望ましくなく、そのようにすることにより引用文献1において意図された用途で使用することができなくなることを意味しています。すなわち、引用文献1において、遷移ゾーンを本願発明の独立した光学的特徴部のようにすることには阻害要因があるといえます。」、「このように何れの引用文献にも本願発明の上記特徴的構成は開示されていませんので、本願発明は引用文献に対して新規性を有するものであると考えます。また、本願発明と引用文献との間の光学的特徴部に関する相違を、それを示す具体的な文献を挙げることなく、単に技術常識であるとしたり設計事項であるとしたりすることもできないと考えます。従いまして、本願発明は、引用文献に対して進歩性も有するものであると考えます。」旨主張している。

(ウ) しかしながら、引用発明の「円環形周辺光学ゾーン24」が、本願発明の「一つの独立した光学的特徴部」に相当するということができることは、上記ア?ウにおいて述べたとおりである。
また、請求人の、「本願明細書に記載されているように、少なくとも一つの独立した(非連続的な)光学的特徴部は、レンズ断面の厚さを急に変化させるようなものです(段落0073)。また、独立した(非連続的な)光学的特徴部は、レンズの緩やかな曲線の中の孤立した変化を生じさせるものとなっています(段落0090)。」、「引用文献1の周辺光学ゾーンは、引用文献1の上記段落0015及び0020に記載されているように、レンズ断面の厚さが急に変わる非連続的な特徴部を形成するものでもありません。」、「本願発明においては、明細書の段落0099及び0101に記載されているように、独立した光学的特徴部は、設計の融通性及び可能性をもたらし、疑似視覚シェルの形成を図24-26に示すように徐々に変えるようにすることも可能にします。」などの主張は、請求項1の記載に基づかない主張である。
(当合議体注:翻訳文の【0011】によれば、「光学的特徴部」は、「眼用レンズに組み込まれた複数の光学的特徴部のうちの一つであってもよい」ものである。また、そのような「光学的特徴部」は、「お互いに異なる大きさ、形状、屈折率、合焦能力、もしくは他の特性、又はそれらの組み合わせを有することができ」、「幾つかの例において、光学的特徴部は、例えば六角形の小型レンズ、半球型の小型レンズ、他の形状の小型レンズ、又はそれらの組み合わせなどの小型レンズであり」、「別な例において、光学的特徴部はフレネル型形状、円環形状、他の型の形状、又はそれらの組み合わせを含む」ものである。【0011】の上記記載からは、「光学的特徴部」は、「大きさ」や「形状」によらず、「屈折率」、「合焦能力」など他の特性により特定・構成されてもよいものと理解できる。請求人が上記主張の根拠として挙げている【0073】、【0090】の記載は「光学的特徴部」の一実施態様に係る記載であり、このような一実施態様の記載をもって、「少なくとも一つの独立した光学的特徴部」が定義されると理解することはできない。)
さらに、本願発明の「少なくとも一つの独立した光学的特徴部」が、「レンズ断面の厚さを急に変化させるようなもの」、あるいは、「レンズの緩やかな曲線の中の孤立した変化を生じさせるもの」を意味すると仮に理解しても、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることが当業者に容易になし得たものであることも、上記エにおいて既に述べたとおりである。加えて、引用発明において、遷移ゾーンを設けない構成とすることに阻害要因があるということもできない。
してみると、上記(ア)、(イ)の請求人の主張を採用することはできない。

第3 まとめ
以上のとおり、本願発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
あるいは、本願発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-07-03 
結審通知日 2020-07-08 
審決日 2020-07-29 
出願番号 特願2016-559337(P2016-559337)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G02C)
P 1 8・ 121- Z (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 神尾 寧
河原 正
発明の名称 眼用レンズを用いた軸方向成長制御のための器具及び方法  
代理人 伊藤 茂  

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