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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1369644
審判番号 不服2019-16151  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-29 
確定日 2020-12-23 
事件の表示 特願2015- 24570「有機光電素子及びイメージセンサ並びに電子装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 8日出願公開、特開2016- 25342〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年2月10日(パリ条約による優先権主張2014年7月16日、韓国)の出願であって、その後の主な手続経緯は、以下のとおりである。

平成29年11月27日 :出願審査請求書の提出
平成30年11月19日付け:拒絶理由通知(同年11月27日発送)
同年 2月26日 :手続補正書・意見書の提出
令和元年 7月26日付け;拒絶査定(同年7月30日送達。
以下「原査定」という。)
同年11月29日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし17に係る発明は、令和元年2月26日付けの手続補正により補正された請求項1ないし17に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
第1電極と、
前記第1電極の一面に配置され、第1p型吸光物質及び第1n型吸光物質を含む吸光層と、
前記吸光層の前記第1電極と接する面と対向する一面に接して配置され、前記吸光層より小さい半値幅を有する第2p型吸光物質又は第2n型吸光物質を含む吸光補助層と、
前記吸光補助層の前記吸光層と接する面と対向する一面に配置される電荷補助層と、
前記電荷補助層の前記吸光補助層と接する面と対向する一面に配置される第2電極とを有し、
前記第2電極の側から光が入射され、前記吸光補助層は、前記吸光層よりも光が入射される前記第2電極の近く配置されることを特徴とする有機光電素子。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のものである。

【理由1】(新規性)
この出願の請求項1、3ないし10に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

【理由2】(進歩性)
この出願の請求項1ないし12及び17に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、この出願の請求項13ないし16に係る発明は、下記の引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


<引用文献等一覧>
1.国際公開第2014/085639号
2.特開2008-218445号公報

第4 引用文献
1 原査定の拒絶の理由に引用された、国際公開第2014?085639号(以下「引用文献」という。)には、図面とともに、以下の記載がある(なお、日本語訳は、パテントファミリーの特表2015-536577号公報のものである。下線は当審で付した。以下同じ。)。

(1)「

」(日本語訳 第2頁
特許請求の範囲
1.重なり関係にある二つの電極と、
当該二つの電極の間に配置される混合光活性層(ここで、当該混合光活性層は、第1境界接合面および第2境界接合面を有し、最高被占軌道(HOMO)エネルギーを有する少なくとも一つのドナー材料および最低空軌道(LUMO)エネルギーを有する少なくとも一つのアクセプタ材料を含み、前記混合光活性層における前記少なくとも一つのアクセプタ材料の濃度は、前記第1境界接合面で最大であり、前記第2境界接合面に向かって減少し、前記混合光活性層における前記少なくとも一つのドナー材料の濃度は、前記第2境界接合面で最大であり、前記第1境界接合面に向かって減少する)と、
前記混合光活性層に隣接し、前記第1境界接合面に接触する第1光活性層と、
を含み、
当該第1光活性層は、前記少なくとも一つのアクセプタ材料の前記LUMOエネルギーの0.3eV以内であるLUMOエネルギーを有する材料を含む有機感光性光電子デバイス。)

(2)「

」(日本語訳 第3頁
18.重なり関係にある二つの電極と、
当該二つの電極の間に配置される混合光活性層(ここで、当該混合光活性層は、第1境界接合面および第2境界接合面を有し、最高被占軌道(HOMO)エネルギーを有する少なくとも一つのドナー材料および最低空軌道(LUMO)エネルギーを有する少なくとも一つのアクセプタ材料を含み、前記混合光活性層における前記少なくとも一つのアクセプタ材料の濃度は、前記第1境界接合面で最大であり、前記第2境界接合面に向かって減少し、前記混合光活性層における前記少なくとも一つのドナー材料の濃度は、前記第2境界接合面で最大であり、前記第1境界接合面に向かって減少する)と、
前記混合光活性層に隣接し、前記第2境界接合面に接触する光活性層と、
を含み、
当該光活性層は、前記少なくとも一つのドナー材料の前記HOMOエネルギーの0.3eV以内であるHOMOエネルギーを有する材料を含む有機感光性光電子デバイス。)

(3)「

「(日本語訳
【0040】
図1に示すように、いくつかの実施形態において、混合光活性層130は、電極110に隣接し、接触する。他の実施形態において、デバイスは、電極110および混合光活性層130の間に、少なくとも一つのバッファ層をさらに含んでもよい。少なくとも一つのバッファ層は、混合光活性層130に隣接して配置されてもよく、混合光活性層130に接触してもよい。バッファ層は、電極110に対する正孔の輸送を阻止しないように選択されてもよい。いくつかの実施形態において、バッファ層は正孔輸送材料である。いくつかの実施形態において、バッファ層は、励起子阻止の正孔輸送材料である。バッファ層は、有機材料などの、本技術分野において周知である材料を含んでもよい。いくつかの実施形態において、バッファ層は、金属酸化物である。いくつかの実施形態において、バッファ層は、導電性ポリマーである。バッファ材料の例は、MoO_(3)、V_(2)O_(5)、WO_(3)、CrO_(3)、Co_(3)O_(4)、NiO、ZnO、TiO_(2)、ポリアニリン(PANI)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)およびポリ(スチレンスルホン酸塩)(PEDOT-PSS)を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、バッファ層は、自己組織化単分子膜である。)

(4)「

」(日本語訳
【0042】
本開示の混合光活性層130は、本願で定義されるような傾斜ヘテロ接合層である。それは、HOMOエネルギーを有する少なくとも一つのドナー材料およびLUMOエネルギーを有する少なくとも一つのアクセプタ材料を含む。適切なドナー材料の例は、銅フタロシアニン(CuPc)、クロロアルミニウムフタロシアニン(ClAlPc)、スズフタロシアニン(SnPc)、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)および他の修飾されたフタロシアニンなどのフタロシアニン、ホウ素サブフタロシアニン(SubPc)などのサブフタロシアニン、ナフタロシアニン、メロシアニン色素、ホウ素ジピロメテン(BODIPY)色素、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)などのチオフェン、低バンドギャップポリマー、ペンタセンおよびテトラセンなどのポリアセン、ジインデノペリレン(DIP)、スクアライン(SQ)色素、ならびにテトラフェニルジベンゾペリフランテン(DBP)を含むが、これらに限定されない。他の有機ドナー材料は、本開示において考慮される。)

(5)「

」(日本語訳
【0044】
本開示における適切なアクセプタ材料の例は、ポリマーまたは非ポリマーペリレン、ポリマーまたは非ポリマーナフタレン、ならびにポリマーまたは非ポリマーフラーレンおよびフラーレン誘導体(たとえばPCBM、ICBA、ICMAなど)を含むが、これらに限定されない。C_(60)、C_(70)、C_(76)、C_(82)、C_(84)またはそれらの誘導体、たとえばフェニル-C_(61)-酪酸-メチルエステル([60]PCBM )、フェニル-C_(71)-酪酸-メチルエステル([70]PCBM)もしくはチエニル-C_(61)-酪酸-メチルエステル([60]ThCBM)、ならびに3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸-ビスベンズイミダゾール(PTCBI)、ヘキサデカフルオロフタロシアニン(F_(16)CuPc)およびそれらの誘導体などの他のアクセプタから選択されたものに限定されない。他の有機アクセプタ材料は、本開示において考慮される。)

(6)「

」(日本語訳
【0055】
図3に示すように、いくつかの実施形態において、混合光活性層230は、電極250に隣接し、接触する。他の実施形態において、デバイスは、電極250および混合光活性層230の間に、少なくとも一つのバッファ層をさらに含んでもよい。少なくとも一つのバッファ層は、混合光活性層に隣接して配置されてもよく、混合光活性層に接触してもよい。バッファ層は、電極250に対する電子の輸送を阻止しないように選択されてもよい。いくつかの実施形態において、バッファ層は電子輸送材料である。いくつかの実施形態において、バッファ層は、励起子阻止の電子輸送材料である。バッファ層は、有機材料などの、本技術分野において周知である材料を含んでもよい。バッファ材料の例は、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(BPhen)、1,4,5,8-ナフタレン- テトラカルボン酸-二無水物(NTCDA)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ビス-ベンズイミダゾール(PTCBI)、1,3,5-トリス(N-フェニルベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼン(TPBi)、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)(Ru(acac)3)、アルミニウム(III)フェノラート(Alq2OPH)、N,N`-ジフェニル-N,N`-ビス-アルファ-ナフチルベンジジン(NPD)、アルミニウムトリス(8-ヒドロキシキノリン)(Alq3)およびカルバゾールビフェニル(CBP)を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、バッファ層は、自己組織化単分子膜である。)

(7)「

」(日本語訳
【0072】
実施例
ドナーとしてホウ素サブフタロシアニン塩化物(SubPc)を、アクセプタとしてC70を使用して、4つの有機光起電力デバイスを作製した。図5に示すように、SubPcは、-5.6eVという深い最高被占軌道(HOMO)エネルギーと、大きい吸光係数を有する。C_(70)は、C_(60)と比較すると、拡大された吸光スペクトルを有する(図5参照)。4つの有機光起電力デバイスの構造を、図6A、図6B、図6Cおよび図6Dにそれぞれ示す。傾斜HJセルおよび平面傾斜HJセルを、真空熱蒸着(VTE)によって作製した。図6Aに示す制御デバイスは、傾斜HJ層を唯一の光活性層として含んだ。図6Bにおけるデバイスは、傾斜HJ層の下に、11nmの厚さの純SubPc層を有した(SubPc-GHJ)。図6Cにおけるデバイスは、傾斜HJ層の上に、8nmの厚さの純C_(70)層を有した(GHJ-C_(70))。図6Dにおけるデバイスは、傾斜HJ層を挟む、純SubPc層および純C_(70)層の両方を有した(SubPc-GHJ-C_(70))。傾斜HJ層は、30nmの厚さであり、SubPcおよびC_(70)の積層の比率を、0.012nm/s?0.010nm/s、および0.020nm/s?0.080nm/sにそれぞれ連続的に変化させることによって作製された。これらの積層の条件は、傾斜ヘテロ接合層と、SubPc層またはMoO3層のいずれかとの接合面における、約1:1.6というドナー:アクセプタの比率、ならびに傾斜ヘテロ接合層と、C_(70)層またはBPhen層のいずれかとの接合面における、1:8というドナー:アクセプタの比率をもたらした。)

(8)図5は、以下のものである。


(9)図6B、図6C及び図6Dは、以下のものである。


2 引用文献に記載された発明
(1)上記1(1)及び(2)の記載からして、引用文献には、以下の二つの「有機感光性光電子デバイス」が記載されているものと認められる。

ア 「重なり関係にある二つの電極と、
当該二つの電極の間に配置される混合光活性層と、
前記混合光活性層に隣接し、前記第1境界接合面に接触する第1光活性層と、
を含み、
当該第1光活性層は、前記少なくとも一つのアクセプタ材料の前記LUMOエネルギーの0.3eV以内であるLUMOエネルギーを有する材料を含む有機感光性光電子デバイス。」(請求項1)

イ 「重なり関係にある二つの電極と、
当該二つの電極の間に配置される混合光活性層と、
前記混合光活性層に隣接し、前記第2境界接合面に接触する光活性層と、
を含み、
当該光活性層は、前記少なくとも一つのドナー材料の前記HOMOエネルギーの0.3eV以内であるHOMOエネルギーを有する材料を含む有機感光性光電子デバイス。」(請求項18)

(2)上記1(3)の記載からして、
混合光活性層は、電極に隣接し、接触してもよく、両者の間にMoO_(3)等の正孔輸送材料からなるバッファ層を含んでもよいことが理解できる。

(3)上記1(4)ないし(6)の記載からして、以下のことが理解できる。
ア 「混合光活性層」は、傾斜ヘテロ接合層であること。
イ 「ドナー材料」は、例えば、「ホウ素サブフタロシアニン(SubPc)」であってもよいこと。
ウ 「アクセプタ材料」は、例えば、「C_(60)、C_(70)、C_(76)、C_(82)、C_(84)またはそれらの誘導体」であってもよいこと。
エ 混合光活性層は、電極に隣接し、接触してもよく、両者の間にバソフェナントロリン(BPhen)等の電子輸送材料からなるバッファ層を含んでもよいこと。

(4)上記1(7)の実施例に関する記載を踏まえて、図5及び図6を見ると、以下のことが理解できる。
ア 実施例の「有機感光性光電子デバイス」は、ドナーとしてホウ素サブフタロシアニン塩化物(SubPc)を、アクセプタとしてC_(70)を使用した「有機光起電力デバイス」であること。

イ また、図6Bないし図6Dからして、以下のことが理解できる。
(ア)「二つの電極」は、「透明電極(ITO)」と「アルミニウム電極」であること。
(イ)「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」は、「SubPc(ドナー)とC_(70)(アクセプタ)を含む混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」であってもよいこと。
(ウ)「透明電極(ITO)」と「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」又は「光活性層」との間に、MoO_(3)層を介在してもよいこと。
(エ)「アルミニウム電極」と「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」又は「光活性層」との間に、BPhen層を介在してもよいこと。

ウ 図5に示された吸光スペクトルからして、「SubPc」と「C_(70)」を比較すると、500?600nmにおける半値幅は「SubPc」の方が小さいこと。

(5)上記(1)ないし(4)の検討からして、引用文献には、請求項18に関する次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「重なり関係にある二つの電極と、
当該二つの電極の間に配置された、SubPc(ドナー)とC_(70)(アクセプタ)を含む混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)と、
前記混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)に隣接する光活性層(純SubPc層)と、
前記二つの電極は、透明電極(ITO)とアルミニウム電極であり、
前記光活性層(純SubPc層)と前記透明電極(ITO)の間にMoO_(3)層と、を含む、有機光起電力デバイス。」

(6)また、引用文献には、図6Bの実施例に関する次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「透明電極(ITO)上に、
MoO_(3)層と、
純SubPc層と、
SubPc(ドナー)とC_(70)(アクセプタ)を含む混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)と、
BPhen層と、
アルミニウム電極と、がこの順に積層されている、有機光起電力デバイス。」

第5 当審の判断
1 【理由1】(新規性)について
(1)対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、以下のことがいえる。
ア 引用発明1の「アルミニウム電極」は、本願発明の「第1電極」に相当する。
引用発明1の「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」は、本願発明の「第1p型吸光物質及び第1n型吸光物質を含む吸光層」に相当する。
引用発明1においては、「アルミニウム電極」と「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」との間に他の層は介在していない。
よって、本願発明と引用発明1とは、
「第1電極と、
前記第1電極の一面に配置され、第1p型吸光物質及び第1n型吸光物質を含む吸光層と、」「を有」する点で一致する。

イ 引用発明1の「光活性層(純SubPc層)」は、「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」に隣接し、その半値幅は、引用文献の図5からして「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」の半値幅よりも小さいことは、明らかである。
また、引用発明1においては、「アルミニウム電極」と「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」との間に他の層は介在せず、「光活性層(純SubPc層)」の「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」と接する面と対向する面に「MoO_(3)層」が位置し、該「MoO_(3)層」は、本願明細書の段落【0038】の「電荷補助層40は、例えば、有機物、無機物又は有機無機混合物を含むことができる。有機物は、正孔又は電子特性を有する有機化合物であり、無機物は、例えばモリブデン酸化物、タングステン酸化物、ニッケル酸化物のような金属酸化物であり得る。」との記載からして、「電荷補助層」に相当する。
よって、本願発明と引用発明1とは、
「吸光層の第1電極と接する面と対向する一面に接して配置され、前記吸光層より小さい半値幅を有する第2p型吸光物質又は第2n型吸光物質を含む吸光補助層と、
前記吸光補助層の前記吸光層と接する面と対向する一面に配置される電荷補助層と、」「を有」する点で一致する。

ウ 引用発明1の「MoO_(3)層」は「光活性層(純SubPc層)」と「透明電極(ITO)」との間に位置し、「透明電極(ITO)」側から光が入射することは明らかであるから、本願発明と引用発明1とは、
「電荷補助層の吸光補助層と接する面と対向する一面に配置される第2電極とを有し、
前記第2電極の側から光が入射され、前記吸光補助層は、吸光層よりも光が入射される前記第2電極の近く配置される」点で一致する。

エ 引用発明1の「有機光起電力デバイス」は、本願発明の「有機光電素子」に相当する。

(2)判断
以上(1)の検討からして、本願発明は、引用発明1である。

(3)まとめ
本願発明は、引用発明1である。

2 【理由2】(進歩性)について
(1)対比
本願発明と引用発明2とを対比すると、以下のことがいえる。
ア 引用発明2の「アルミニウム電極」は、本願発明の「第1電極」に相当する。
引用発明2の「SubPc(ドナー)とC_(70)(アクセプタ)を含む混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」は、本願発明の「第1p型吸光物質及び第1n型吸光物質を含む吸光層」に相当する。
引用発明2においては、「アルミニウム電極」と「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」との間に「BPhen層」が介在する。
よって、本願発明と引用発明2とは、「第1電極と、前記第1電極の一面に配置され、第1p型吸光物質及び第1n型吸光物質を含む吸光層と、」「を有」する点で一致する。

イ 引用発明2においては、「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」と「純SubPc層」との間に他の層は介在しておらず、該「純SubPc」の半値幅は、引用文献の図5からして、「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」の半値幅よりも小さいことは、明らかである。
よって、本願発明と引用発明2とは、「吸光層の一面に接して配置され、前記吸光層より小さい半値幅を有する第2p型吸光物質又は第2n型吸光物質を含む吸光補助層と、」「を有」する点で一致する。

ウ 引用発明2においては、「純SubPc層」の「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」と接する面と対向する面に「MoO_(3)層」が位置し、該「MoO_(3)層」は、本願明細書の段落【0038】の「電荷補助層40は、例えば、有機物、無機物又は有機無機混合物を含むことができる。有機物は、正孔又は電子特性を有する有機化合物であり、無機物は、例えばモリブデン酸化物、タングステン酸化物、ニッケル酸化物のような金属酸化物であり得る。」との記載からして、「電荷補助層」に相当する。
よって、本願発明と引用発明2とは、「吸光補助層の吸光層と接する面と対向する一面に配置される電荷補助層と、」「を有」する点で一致する。

エ ここで、上記アないしウを整理すると、本願発明と引用発明2とは、
「第1電極と、
前記第1電極の一面に配置され、第1p型吸光物質及び第1n型吸光物質を含む吸光層と、
前記吸光層の一面に接して配置され、前記吸光層より小さい半値幅を有する第2p型吸光物質又は第2n型吸光物質を含む吸光補助層と、
前記吸光補助層の前記吸光層と接する面と対向する一面に配置される電荷補助層と、」「を有」する点で一致する。

オ 引用発明2の「MoO_(3)層」は、「純SubPc層」と「透明電極(ITO)」との間に位置し、「透明電極(ITO)」側から光が入射されことは明らかであるから、本願発明と引用発明2とは、
「電荷補助層の吸光補助層と接する面と対向する一面に配置される第2電極とを有し、
前記第2電極の側から光が入射され、吸光補助層は、吸光層よりも光が入射される第2電極の近く配置される」点で一致する。

カ 引用発明2の「有機光起電力デバイス」は、本願発明の「有機光電素子」に相当する。

キ 以上のことから、本願発明と引用発明2とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「第1電極と、
前記第1電極の一面に配置され、第1p型吸光物質及び第1n型吸光物質を含む吸光層と、
前記吸光層の一面に接して配置され、前記吸光層より小さい半値幅を有する第2p型吸光物質又は第2n型吸光物質を含む吸光補助層と、
前記吸光補助層の前記吸光層と接する面と対向する一面に配置される電荷補助層と、
前記電荷補助層の前記吸光補助層と接する面と対向する一面に配置される第2電極とを有し、
前記第2電極の側から光が入射され、前記吸光補助層は、前記吸光層よりも光が入射される前記第2電極の近く配置されることを特徴とする有機光電素子。」

ク 一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点>
吸光層の配置に関して、
本願発明は、「第1電極の一面に接する」のに対して、
引用発明は、「BPhen層(バッファ層)」の一面に接する点。

(2)判断
ア 上記<相違点>について検討する。
(ア)引用発明2の「BPhen層」はバッファ層であるところ、引用文献の段落[0047]には「図1に示すように、いくつかの実施形態において、混合光活性層130は、電極110に隣接し、接触する。他の実施形態において、デバイスは、電極110および混合光活性層130の間に、少なくとも一つのバッファ層をさらに含んでもよい。少なくとも一つのバッファ層は、混合光活性層130に隣接して配置されてもよく、混合光活性層130に接触してもよい。」及び段落[0062]には「図3に示すように、いくつかの実施形態において、混合光活性層230は、電極250に隣接し、接触する。他の実施形態において、デバイスは、電極250および混合光活性層230の間に、少なくとも一つのバッファ層をさらに含んでもよい。」と記載されており、一般に、引用文献からは「バッファ層」が必須でないことが読み取れる。

(イ)してみると、引用発明2においても、「混合光活性層(傾斜ヘテロ接合層)」を「BPhen層(バッファ層)」を介することなく「アルミニウム電極」上に形成することは、当業者が容易になし得ることである。

イ 上記アのようにした引用発明2は、結果として、上記<相違点>に係る本願発明の構成を備えることになる。

ウ よって、引用発明2において、上記<相違点>に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が引用文献の記載に基づいて容易になし得たことである。

(2)効果
本願発明の効果は、引用発明2の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。

(3)まとめ
本願発明は、当業者が引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

3 審判請求書における主張について
本願発明は、吸光層が第1電極と接しており、吸光層と第1電極との間にバッファ層はなく、吸光層が第1電極と接して配置される場合、イメージセンサのクロストークを減らして感度を改善することができるという効果を奏する旨主張する(第8頁中段)。

しかしながら、本願発明は、イメージセンサに限定されるものではなく、かつ、本願明細書の【0059】ないし【0070】に記載された実施例1ないし実施例3の「吸光層」は、電子輸送層を介して下部電極上に形成されたものである。
つまり、「(評価1:外部量子効率(EQE)及び半値幅)」及び「(評価2:クロストーク)」の評価は、吸光層が電子輸送層を介して第1電極と接した有機光電素子に基づくものであるから、請求人の主張する効果は、明細書の記載に基づくものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、当業者が引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-07-15 
結審通知日 2020-07-21 
審決日 2020-08-05 
出願番号 特願2015-24570(P2015-24570)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 元彦  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 星野 浩一
野村 伸雄
発明の名称 有機光電素子及びイメージセンサ並びに電子装置  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  

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