• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B23K
管理番号 1369978
異議申立番号 異議2020-700080  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-13 
確定日 2020-11-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6561081号発明「フラックスフリーろう付用のブレージングシート、フラックスフリーろう付方法および熱交換器の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6561081号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6561081号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6561081号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成29年2月21日(優先権主張 平成28年12月27日)に出願され、令和1年7月26日にその特許権の設定登録がされ、同年8月14日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、令和2年2月13日にその請求項1?8(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である黒野美穂(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審より同年5月11日付けで取消理由が通知され、特許権者より同年7月13日付けで訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされるとともに意見書が提出され、これに対して、申立人より同年9月4日付けで意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、特許第6561081号の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正された箇所を表す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、本件訂正前に「芯材の片面または両面に、質量%で、2?13%Siを含有するAl-Si系合金からなる最表面ろう材層」とあるのを、「芯材の片面または両面に、質量%で、2?13%Siを含有し、Mg無添加のAl-Si系合金からなる最表面ろう材層」に訂正する。
請求項1を引用する請求項2?8も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の【0007】について、訂正前に「芯材の片面または両面に、質量%で、2?13%Siを含有するAl-Si系合金からなる最表面ろう材層」とあるのを、「芯材の片面または両面に、質量%で、2?13%Siを含有し、Mg無添加のAl-Si系合金からなる最表面ろう材層」に訂正する。

2 訂正の適否に関する当審の判断
(1)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「Al-Si系合金からなる最表面ろう材層」について、「Mg無添加」であることを限定する訂正であることから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(イ)新規事項の有無
本件明細書の【0029】には、「最表面層をMg無添加ろう材とし」と記載されているから、訂正事項1による訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。

イ 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、本件明細書の【0007】の記載について、訂正事項1により訂正される請求項1の記載に整合させるために行うものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。
また、当該訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であることは、上記ア(イ)のとおりである。

(2)独立特許要件について
訂正前の本件特許の全請求項に対して特許異議の申立てがなされているので、訂正事項1について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?8について、訂正前の請求項2?8は、それぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1?8は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、請求項〔1?8〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。

(4)明細書の訂正に係る請求項について
訂正事項2による訂正は明細書の訂正であるところ、当該明細書の訂正に関連する請求項の全てである請求項1?8について訂正が行われているといえるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

3 訂正の適否についての結論
以上のとおり、上記訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。


第3 本件発明
本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次のものである。

「【請求項1】
芯材の片面または両面に、質量%で、2?13%Siを含有し、Mg無添加のAl-Si系合金からなる最表面ろう材層と、質量%で、4?13%のSiおよび0.1?5.0%のMgを含有するAl-Si-Mg系合金からなる中間ろう材層がクラッドされており、前記中間ろう材層と前記最表面層ろう材の液相線温度差が50℃未満であり、さらに、前記最表面ろう材層に含まれるSi粒子が、表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、1.75μm以上の径のものの数の割合が10%以上であり、かつ、前記中間層ろう材層に含まれるSi粒子が、ろう材層の断面観察において、円相当径0.25μm以上のSi粒子が10000μm^(2)当たり3,000個未満であることを特徴とするフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項2】
前記最表面ろう材が質量%で、2%以上4%未満のSiを含有するAl-Si系合金からなることを特徴とする請求項1に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項3】
前記最表面ろう材が質量%で、0.1?1.0%のFeを含有するAl-Si系合金からなることを特徴とする請求項1または2に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項4】
前記最表面ろう材層と中間ろう材層のクラッド率が、ブレージングシート全厚みに対して片面当りそれぞれ1?30%であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項5】
前記中間ろう材層のろう材に、質量%で、0.01?0.5%のBiを含有することを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項6】
前記最表面ろう材層のろう材に、質量%で、0.01?0.5%のBiを含有することを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシートを用いて、酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気中で、フラックスを用いることなくアルミニウム部材同士の接合を行うことを特徴とするアルミニウム部材のフラックスフリーろう付方法。
【請求項8】
請求項1?6のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシートを用いて、酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気中で、フラックスを用いることなくアルミニウム部材同士の接合を行うことを特徴とする熱交換器の製造方法。」


第4 異議申立理由及び当審から通知した取消理由の概要
1 異議申立理由
申立人は、異議申立理由として以下(1)の証拠方法に基づき、以下(2)を概要とする理由を主張し、本件特許を取り消すべき旨を申立てた。

(1)証拠方法
・甲第1号証:国際公開第2010/000666号
・甲第2号証:特許第4547032号公報
・甲第3号証:特許第5456920号公報

(2)異議申立理由の概要
ア 異議申立理由1(進歩性)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2及び3号証に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

イ 異議申立理由2(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明の記載に不備があり、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ウ 異議申立理由3(サポート要件)
本件特許の特許請求の範囲の記載に不備があり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 当審から通知した取消理由
当審は、上記1(2)の異議申立理由を検討した結果、イの異議申立理由2(実施可能要件)を取消理由1として通知するとともに、当審が職権調査により発見した特許法第36条第6項第1号(サポート要件)違反の点を取消理由2として、取消理由を通知した。


第5 当審の判断
当審は、特許権者が令和2年7月13日付けで提出した訂正請求書及び意見書並びに申立人が同年9月4日付けで提出した意見書を踏まえて検討した結果、以下のとおり、上記第4の2の取消理由は解消するとともに、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及びその他の理由によっても、本件請求項1?8に係る特許を取り消すことはできないと判断した。

1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
ア 取消理由1(実施可能要件)
(ア)訂正前の請求項1に係る発明のブレージングシートは、芯材の片面または両面に、特定の組成及び液相線温度差を有する最表面ろう材層と中間ろう材層がクラッドされたものであるところ、最表面ろう材層及び中間ろう材層に含まれるSi粒子について、最表面ろう材層は、「表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、1.75μm以上の径のものの数の割合が10%以上」であり、中間層ろう材層は、「ろう材層の断面観察において、円相当径0.25μm以上のSi粒子が10000μm^(2)当たり3,000個未満」であると規定されるものである。この規定によれば、最表面ろう材層中と中間ろう材層中とのSi粒子の粒径分布は全く異なり、訂正前の請求項1に係る発明を実施するにあたっては、ブレージングシートという1枚の部材の中に、最表面ろう材層と中間ろう材層というSi粒子の粒径分布が全く異なる2種の層を形成する必要があることが分かる。

(イ)しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、いかなる条件であれば、Si粒子の粒径分布が全く異なる2つの層を形成することができるか記載されていないばかりか、当業者の技術常識に基づいて予測することも困難である。

(ウ)ここで、本件明細書の【0027】には、「Si粒子を細かくする手段としては、鋳造時の超音波印加や凝固速度制御(0.1?500℃/sec)、焼鈍時の温度条件により調整することや、ろう材中Si粒子の微細化効果があるSrなどを添加することが挙げられる」と記載され、Si粒子の粒径分布を調整する条件の示唆があるといえるが、当該記載は中間ろう材層のろう材に関するものであって、最表面ろう材層については、どのような手段を用いてSi粒子の粒径分布を調整するのか明らかでないし、中間ろう材層及び最表面ろう材層におけるSi粒子の粒径分布を調整する具体的な例は示されていない。さらに、特定の手段により中間ろう材と最表面ろう材を得た後に、「熱間圧延、冷間圧延を行って芯材の一方または両方の面に、中間ろう材層と最表面ろう材層が重ね合わされて接合されたクラッド材を得」ることによって(同【0035】)、ブレージングシートにおいて、最表面ろう材層と中間ろう材層のSi粒子の粒径分布をどのように調整できるのかについての具体的な例も示されてもいない。

(エ)よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項1に係る発明及び訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用する訂正前の請求項2?8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。

イ 取消理由2(サポート要件)
(ア)本件明細書の【0003】?【0005】の記載から、本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、ブレージングシートにおいて、最表面層をMg無添加合金とし、中間層にMgを添加したろう材を適用した場合に、「中間層はMg添加により最表面層よりも固相線温度が低くなるため、ろう付昇温過程では最表面層よりも早く液相ろうが生成し、さらに、Si添加量が多くなるほど液相量(液相の割合)が多くな」り、「最表面層が溶融する前に溶け出した中間層ろう材は、材料端部などから流出し、接合部に流入する有効な流動ろうとして機能しなくなる課題」及び「コルゲートフィンなどの実用的な継手形状に適用した場合に必ずしも十分な接合が得られないという課題」である。

(イ)そして、本件課題を解決する手段は、本件明細書の【0017】、【0021】?【0022】、【0024】、【0026】?【0027】及び【0029】に記載のように、最表面ろう材層と中間ろう材層について、それぞれのろう材組成及び液相線温度差を特定し、「最表面をMg無添加ろう材とし、中間層をMg添加ろう材とすることで、ろう付昇温過程の材料表面でのMgO皮膜成長を抑制しつつ、さらに、各ろう材層のSi粒子分布を最適化することでろう材溶融時には、Al酸化皮膜(Al_(2)O_(3))を分解するMgを効率的に材料表面に供給することができるため、接合部表面で溶融ろう材が濡れ拡がり易くなり、開放部を有する継手においても良好な接合状態が得られる」ものであると認められる。

(ウ)さらに、本件明細書の【0051】の【表4】における比較例1及び2は、最表面層がMgを1.0%及び1.5%含有している点以外について本件発明の特定事項を満たしているところ、これらは、ろう付け性及び接合部幅の評価がいずれも×であって、本件課題を解決できないものとなっている。

(エ)一方、訂正前の請求項1?8に係る発明は、最表面ろう材層の組成における「Mg無添加」について何ら特定しておらず、Mgを添加する場合も含むものであることから、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識し得る範囲を超えたものである。

(オ)よって、訂正前の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

(2)取消理由1(実施可能要件)についての当審の判断
ア 特許権者は、令和2年7月13日付け意見書において、次の乙第1?5号証を添付し、以下のとおり主張している。

・乙第1号証:特開2011-610号公報
・乙第2号証:土公武則 外2名、Al-Siろう材合金中のSiサイズによるろう付け性の変化、Furukawa-Sky Review No.1 2005、第27?32頁
・乙第3号証:瀧川淳、Al-Si鋳造材の疲労、クリープ特性、軽金属溶接 Vol.48、2010、No.8、第280?285頁
・乙第4号証:下坂大輔 外3名、急冷凝固したAl-11%Si-2.5%Cu合金板の曲げ性に及ぼす共晶Si相形態の影響、鋳造工学、第85巻、2013、第7号、第407?413頁
・乙第5号証:特開平3-223448号公報

(ア)「乙第1号証では、熱交換器用チューブ向けアルミニウム合金クラッド材において、ろう材としての機能を有する犠牲陽極材において、犠牲陽極材中のSi粒子を微細かつ均一にして、ろう付け接合時のフィレット形成状態を良好にするために、微量のSrを添加することが記載されており(段落0013)、さらに、犠牲陽極材について、鋳造時に晶出するSi粒子を微細化するため、鋳造時の鋳塊中心の冷却速度が0.5℃/sec以上となるように鋳造条件を調整することが記載されている(段落0052)。すなわち、甲第1号証では、Si粒子を微細化するために、Srを添加したり、鋳造時の冷却速度を調整したりすることが記載されている。
乙第2号証では、ろう材中のSi粒子径を変化させる手法として、NaやSrを微細化剤として添加する方法と鋳造時の冷却速度を変化させる方法があることが記載されており(27頁本文右欄第13?15行目)、冷却速度の異なる二つの鋳造方法でSi粒子分布を変化させてAl-Siろう材合金を作成したことが記載され(27頁本文右欄第17行目?28頁左欄第1行目)、双ロール鋳造で作製したろう材を使用したブレージングシートでのSi粒子径は1μm以下であり、金型鋳造によるものは2?10μmである、と記載されている(29頁右欄第4行目?第6行目)。双ロール鋳造ろう材Si粒子を微細、密に有し、金型鋳造ろう材では、粗大、疎なSi粒子分布を有していることが記載されている(31頁左欄第13行目?第16行目)。
乙第3号証では、Al-Si合金鋳造材の静的強度、疲労強度に対し、Si量との組成、共晶Siサイズおよび密度が大きく影響を及ぼすことが知られており(280頁左欄第20行目?第22行目)、と記載され、組織(共晶Siサイズ)は冷却速度(凝固速度)の影響を大きく受けることが記載され(280頁左欄第30行目?第31行目)、Table1には、4045共晶Si微細、4045共晶Si中間、4045共晶Si粗大について、共晶Siサイズの変化が鋳塊サイズ変化による凝固速度変化であることが記載されている(280頁Table1)。
乙第4号証
乙第4号証では、Al-Si系鋳造用合金の機械的性質は共晶Si相形態に大きく依存し、化学的改良処理、熱処理、急冷凝固等によって共晶Si相を微細化あるいは棒状、粒状に形態制御できることが記載されている(407頁本文右欄第2行目?第6行目)。また、項目3.1では、急冷凝固、熱処理による共晶Si相粒子の形態変化の実験結果および考察がされている(409頁左欄?)。この項目3.1では、共晶Si相粒子の平均粒子径は金型鋳造材as-castが最も大きく、500℃-0h、0.5hの熱処理によって一旦小さくなるが500℃-4hの熱処理で増加することが記載されている(409頁左欄の項目3.1の第4行目?第7行目)。図4には、鋳造方法、熱処理の相違による共晶Si相平均粒子径が示されている。
乙第5号証の第2頁右欄下2行目?第3頁左欄第1行目には、「ろう材の均質化処理を高温で短時間で行うことにより、Si粒子の粗大化を制御することができた」と、記載されており、第2表では、均質化温度が高温あるいは均質化時間が長くなるほどろう材のSi粒径が粗大になることが示されている。」(4頁15行?5頁18行)

(イ)「ブレージングシートの製造工程であるクラッドエ程の前には、最表面ろう材層となる材料と、中間ろう材層となる材料とは互いに関係なく独立して製造されており、Si粒子の分散においては、それぞれの材料において、成分やクラッド前の鋳造、均質化処理などの工程が支配的に影響している。
例えば、鋳造は液相から固相(Si粒子)が生成するので条件影響が大となり、均質化処理は、鋳造直後に実施されることと高温の熱処理である2点でSi粒子サイズ、分布への影響が大きくなる。
一方、最表面ろう材層と中間ろう材層が、クラッドされる際およびその以降の工程では、鋳造や均質化処理のような高温の熱履歴がないことから、Si粒子の分布に対する影響は極めて小さい。圧延の際には、その加圧力により、Si粒子は物理的に破砕され多少は微細になったり、圧下による断面積の減少によるSi粒子の分布密度が若干変化したりするものの、その影響は非常に小さく、その程度を予測して、クラッド前の調整において所望のSi粒子の分布状態を得ることができる。」(6頁3?16行)

イ 上記ア(ア)の主張から、乙第1?5号証に示されているように、アルミニウム合金中のSi粒子の粒径分布を調整するために、Srの添加、鋳造時の冷却速度又は熱処理の条件を制御することは周知の技術的手段であるといえ、当該周知の技術的手段を用いて、本件発明における「最表面ろう材層」及び「中間ろう材層」のそれぞれについて、Si粒子の粒径分布を調整することは、過度の試行錯誤をすることなく、当業者が実施できるものと認められる。
そして、上記ア(イ)の主張における「最表面ろう材層と中間ろう材層が、クラッドされる際およびその以降の工程では、鋳造や均質化処理のような高温の熱履歴がないことから、Si粒子の分布に対する影響は極めて小さい」こと、さらに、極めて小さい影響の程度を予測してクラッド前の調整を行うとの説明は、技術常識を踏まえて十分に合理的であると認められるから、本件発明における、それぞれ特定のSi粒子の粒径分布となっている「最表面ろう材層」及び「中間ろう材層」がクラッドされたフラックスフリー用ブレージングシートを得ることについて、本件特許の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者が実施することができるといえる。

ウ なお、特許権者による上記アの主張に対して、申立人は、令和2年9月4日付け意見書において、以下のとおり主張している。

(ア)「乙第1号証及び乙第2号証では、「Srの添加によりSi粒子を微細化できること」という記載があるとされているが、少なくとも本件特許の訂正後の請求項1の発明においては、最表面ろう材層及び中間ろう材層のいずれにおいても、Srを含有することは必須とされておらず、Sr添加による効果との関係性は全くない。特許権者は明細書の【0027】にSrなどの添加を行うことが記載されていると主張しているが、合金の成分を主要要件とする物の発明である請求項1の発明において、そこに記載のない成分の添加による効果を主張することは許されることではない。」(1頁下から9?2行)

(イ)「乙第2号証では、双ロール鋳造と金型鋳造とを使い分けることにより、鋳造時の冷却速度を変化させることが示されているが、量産を行う当業者において、大規模な鋳造設備として方式の異なるもの複数種類備え、部材によって鋳造方法を変更することが容易に行えるとは考えられない。」(1頁最下行?2頁3行)

(ウ)「乙第1号証?乙第5号証において、Si粒子の微細化及び粗大化の手法の一部が記載されているとしても、結局は具体的にどのような条件にすれば請求項1の発明の要件を具備しうるかは、本願明細書の記載を参酌しても当業者が容易に理解できるということはできない。」(2頁4?7行)

(エ)「そもそも、請求項1の発明における中間ろう材層の「円相当径0.25μm以上のSi粒子が10000μm2当たり3,000個未満であるもの」という要件は、「Si粒子の微細化」という要件と一義的に対応するものであるとはいえない。「円相当径0.25μm以上のSi粒子」は、上限の規定がなく、巨大なSi粒子の存在を許容するものであって、むしろ、Si粒子の粗大化を推奨する要件とみることも可能である。つまり、巨大なSi粒子が存在する場合には、Si粒子数が少なくなる傾向にあることを考慮すると、粗大化することによって全体の個数を抑えてこの要件を実現しうることも十分にありうる。また、中間ろう材層は、Siの含有量の範囲として、4?13%もの非常に広い範囲を許容する層であって、この範囲において単純に微細化することによって上記要件を具備しうるか否かは、当業者でも容易には理解できない。
同様に、請求項1の発明における最表面ろう材層の「円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、1.75μm以上の径のものの数の割合が10%以上であるもの」という要件が、「Si粒子の粗大化」という要件と一義的に対応するものであるとはいえない。少なくとも、1.75μm以上の径の粒子が0.8μm以上の径をもつものの数の内10%以上であったとしても、1.75μm以上の径の粒子が非常に少ない場合には、特許権者が微細化によって達成しうるとする上記の中間ろう材層のSi粒子の要件を満たすことにもなりうる。そして、最表面ろう材層も、Siの含有量の範囲として、2?13%もの非常に広い範囲を許容する層であって、この範囲において単純に粗大化することによって上記要件を具備しうるか否かは、当業者でも容易には理解できない。
」(2頁8行?最下行)

(オ)「上述した本件特許明細書の記載からみれば(当審注:本件明細書の【0026】)、Si粒子の分布状態は、合金組成と製造条件範囲、及び材料の仕上げ板厚寸法によって大きく変動するのであり、少なくとも、クラッド工程の後においても、最表面ろう材層と中間ろう材層が、例えば熱間圧延時には1枚の板として同じ熱履歴を経て圧延され、その後の熱処理及び塑性加工も両ろう材層に対して同じように施される。かかる製造工程を前提として、クラッド前の両ろう材層に対して、どのような条件で加工をすべきかは、当業者であっても容易には理解できない。」(3頁13?20行)

(カ)「乙第1号証?乙第5号証には、Sr等の微細化元素の添加、鋳造装置の種類の使い分け、熱処理の条件の変更等、多くの異なる方面からのSi粒子の微細化あるいは粗大化の手法が開示されているとはいえるが、クラッド後は1枚の板として加工されることを前提として、上述したごとく、Si含有量の許容範囲が非常に広く、かつ、微細化しても粗大化しても規定された範囲に入りうるとも解釈される最表面ろう材層及び中間ろう材層を含む請求項1の発明を実施するに際して、いかにして、その具体的な製造条件を決定するかは、当業者においても容易ではなく、多大な試行錯誤を強いるものであるといえる。」(3頁21行?4頁1行)

(キ)「本件特許明細書の【表3】及び【表4】には、「最表面ろう材層1.75μm以上Si粒子数割合[%]」と、「中間層ろう材0.25μm以上Si粒子数[個]」の測定結果が記載されている。測定方法は、【0047】及び【0048】に記載されており、これらの値が実測値であることは間違いがない。ここで、前者の数値についてみれば、個数のデータが全く記載されることなく、計算後の割合(%)が示され、それらは下一桁がほとんど「0」の数値となっている。また、後者については、すべてのデータが下二桁あるいは三桁が「0」である。さらには、実施例1?25だけをとっても、これらはSiの含有量等の化学成分組成が大幅に異なっているにもかかわらず、すべて個数が全く同じ「1000」個に調整されている。このような極めて精度の高いSi粒子制御をどのようにすれば実現できるのか、当業者にとっては容易には想像できない。通常、化学成分組成が同じで同じ条件で製造したとしても、Si粒子の数等にはある程度のバラツキが生じるのが通常であると考えられるところ、ここまで高い精度で実現するには、本件特許明細書の【0026】に記載されたSi粒子数の規定の困難性を克服するような、特許権者だけが知りうる特定の製造条件を採用しているのではないかと考えられるが、本件特許明細書を参酌しても通常の製造方法以外の情報は得られない。」(4頁4?20行)

エ しかしながら、上記ウ(ア)の主張について、Srの添加は、Si粒子の粒径分布を制御するための1つの手段を示したものであって、本件発明の最表面ろう材層及び中間ろう材層はSrの含有を許容するものであるところ、本件発明の必須成分にSrが含まれないからといって、当該手段の主張が許されないということはできない。

また、上記ウ(イ)の主張について、仮に「大規模な鋳造設備として方式の異なるもの複数種類備え、部材によって鋳造方法を変更することが容易に行えるとは考えられない」としても、そのことが、本件発明を実施することができない理由にはならない。

次に、上記ウ(ウ)及び(カ)の主張について、上記アの特許権者の主張により、本件発明を実施するための条件を調整する考え方が明らかであるといえるし、申立人は、その実施をすることができないことについて何ら立証していないことも考慮すれば、本件発明を実施するための具体的条件が示されていなくとも、当業者であれば、その考え方に基づいて条件を適宜調整することによって本件発明を実施することができるといえる。

さらに、上記ウ(エ)の主張は、本件発明の最表面ろう材層又は中間ろう材層におけるSi粒子の粒径分布の特定事項について、「Si粒子の微細化」又は「Si粒子の粗大化」という要件と一義的に対応するものではないということであるが、本件発明は、「最表面ろう材層に含まれるSi粒子が、表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、1.75μm以上の径のものの数の割合が10%以上」及び「中間層ろう材層に含まれるSi粒子が、ろう材層の断面観察において、円相当径0.25μm以上のSi粒子が10000μm^(2)当たり3,000個未満」という具体的な特定がなされたものであって、その実施のために、Si粒子を微細化又は粗大化する条件を調整するものであり、「Si粒子の微細化」又は「Si粒子の粗大化」という要件と一義的に対応する必要はないといえる。

そして、上記ウ(キ)について、本件発明の実施例において、Si粒子数割合又は粒子数の実測値について、下一桁又は下二?三桁が「0」であり、個数も「1000個」であって、極めて精度の高いSi粒子制御されていることを理由とする主張であるが、実施例におけるSi粒子の制御が高精度であるからといって、直ちに、本件発明で特定されるSi粒子の分布を当業者が実施することができないということはない。

オ したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえるから、本件特許についての出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。


(3)取消理由2(サポート要件)についての当審の判断
ア 取消理由2(サポート要件)は、上記(1)イ(エ)のとおり、本件訂正前の請求項1に係る発明において、「最表面ろう材層の組成における「Mg無添加」について何ら特定しておらず、Mgを添加する場合も含むものであること」により生じていたものであったところ、本件訂正により、最表面ろう材層の組成における「Mg無添加」が特定されたことにより、取消理由2(サポート要件)は解消された。

イ なお、申立人は、令和2年9月4日付け意見書において、以下のとおり主張している。

「特許権者は、訂正後の請求項1において、最表面ろう材層の化学成分について「Mg無添加」であることを限定することによって、取消理由が解消した旨を主張している。しかしながら、「Mg無添加」という表現が、「添加」という行為を行わないという製造方法を限定するものであって、Mg添加の行為を行わない限り、Mgが含有されていても許容される概念ということであれば、それは、合金成分組成を主要な要件として備えた合金の発明としては、あまりにも不明確である。また、特許権者の「JIS A4343、JISA4045において不可避不純物であるMg含有量が0.05%を上限とすることが記載されている。」という主張は、最表面ろう材層がJIS規格品と同等であるような主張であるが、本件特許明細書のどこにもそのような記載や示唆は見当たらない。この主張は、最表面ろう材層について、「Mg無添加」と訂正しながらも、Mg含有量を0.05%以下まで許容して技術的範囲を広げようという趣旨であることが明白である。このような訂正は、特許権者の意見書の記載から解釈する限り、実質的に、「Mg含有量≦0.05%」という新規な要件を追加するものであり、訂正の要件を満たすものでもない。
また、本件特許発明は、フラックスフリーろう付けに用いる場合の、最表面ろう材に含有されるMgO皮膜の成長を抑えることを最大の課題とするものであるが、「Mg無添加」と記載して、それにもかかわらず、Mgを0.05%まで含有してもよいという技術的根拠は、本件特許明細書からは全く読み取れない。さらに、酸化しやすさがMgと同程度のLi、Ca、Be、Ba等の金属の酸化物も当然に影響しうると考えられるところ、そのようなMg以外の酸化しやすい元素を無制限に添加しうるオープン形式の化学成分組成で規定された最表面ろう材層が、所期の目的を本当に達成しうるのかは理解できない。たとえば、本願特許明細書には、酸化しやすいLi、Ca、Beの添加を許容する記載(【0032】)があり、これらの列挙されたLi、Ca、Be等の添加は積極的に予定されていると解されるところ、これらが比較的多量に添加されている場合においても、さらにMg含有量を0.05%まで認めて、本願の所期の目的が達成できるかどうかは、当業者においても理解することはできない。少なくとも、本件特許明細書の【表1】に記載されたMg含有量の[-]の表記は、【表1】に記載されたBe:0.01%という最低の測定値よりも微量で測定限界以下のものと解され、いずれも「<0.01%」の意味であると解するのが自然であるところ、Mg含有量を0.05%まで許容する根拠は見つけられない。
結局のところ、最表面ろう材層について、「Mg無添加」と訂正し、実質的にMg含有量0.05%以下を許容するよう意図し、さらにその他の記載していない元素は無制限に添加してもよいように解される訂正後の請求項1の発明は、依然として取消理由2(サポート要件違反)を解消しているとは言えない。」(4頁最下行?6頁7行)

ウ ここで、特許権者による令和2年7月13日付け意見書における主張は、以下のとおりである。

「訂正された本件発明1では、最表面ろう材層において「Mg無添加」であることを規定しており、取消理由2は解消している。本件発明1を直接または間接的に引用する本件発明2?8も同様である。
なお、Mg無添加は、Mgを添加していないか、Mg量が不可避不純物量にとどまるものである。乙第6号証では、本件発明1で規定する最表面ろう材層の組成が含まれる組成が示されている、JIS A 4343、JIS A 4045において不可避不純物であるMg含有量が0.05%を上限とすることが記載されている。」(7頁1?8行)

エ また、乙第6号証(アルミニウムブレージングハンドブック編集委員会編、アルミニウムブレージングハンドブック(改訂版)、社団法人軽金属溶接構造協会、平成15年3月25日、312頁)には、以下が記載されている。





オ 上記ウにおける特許権者の主張について、本件発明における最表面ろう材層であるAl-Si系合金が、Mgを不可避不純物として含有してしまうのであれば、本件明細書の【0032】、【0033】及び【0041】の記載からみて、本件発明は、不可避不純物として避けられない限度までのMgを含有するものを排除するものではないと解釈することができる。
ただし、特許権者による意見書における上記「乙第6号証では、本件発明1で規定する最表面ろう材層の組成が含まれる組成が示されている、JIS A 4343、JIS A 4045において不可避不純物であるMg含有量が0.05%を上限とすることが記載されている。」との記載の限りでは、当該記載が、本件発明の最表面ろう材層において、不可避不純物としてMgを0.05%まで含み得ることを意味した主張であるとは認められない。
さらに、乙第6号証の付表2の記載を見ても、合金番号4045におけるMgが0.05%とされているのみであって、Mgが不可避不純物であると記載されているものでもないから、「不可避不純物であるMg含有量が0.05%を上限とすることが記載されている」ということもできない。
してみると、本件発明は、最表面ろう材層について、不可避不純物とはいえないMgが0.05%以下の量で含有されることを許容するものとはいえないから、申立人の上記イの主張を採用することはできない。

カ したがって、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえるから、本件特許についての出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(4)取消理由通知に記載した取消理由についての小括
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないし、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいえず、同法第113条第4号により取り消すことはできない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)異議申立理由1(進歩性)について
ア 甲第1?3号証の記載事項と引用発明
(ア)甲第1号証
a 上記甲第1号証には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与したものであって、以下同様である。

(1a)「For any description of alloy compositions or preferred alloy compositions, all references to percentages are by weight percent unless otherwise indicated.」(1頁19?20行)
(当審訳:合金組成または好ましい合金組成の説明について、特に明記しない限り、パーセンテージは、すべて重量パーセントである。)


(1b)「It is an object of the invention to provide an alternative aluminium alloy brazing sheet material that can be applied in a controlled atmosphere fluxless brazing process without applying a brazing flux.」(4頁8?10行)
(当審訳:「本発明の目的は、制御された雰囲気下でのフラックスレスろう付法にフラックスを塗布せずに用いることができる代替のアルミニウム合金プレージングシート材を提供することにある。)

(1c)「In European patent document EP-1306207-B1 it is reported that in order to achieve successful CAB brazing without the use of a brazing flux it is required that both the top layer and the aluminium core material layer should have a solidus temperature higher than the liquidus temperature of the intermediate brazing material layer. In this way the molten brazing material during a subsequent brazing operation at a temperature between the liquidus temperature and the solidus temperature is to cause the Al-Si alloy brazing material layer to melt down while keeping the thin covering material layer solid to prevent oxidation of the brazing material being melted, and then cause the Al- Si alloy brazing material to, due to volumetric expansion, seep through segregation portions of the thin covering material layer onto a surface of the thin covering material layer and spread over the surface of the thin covering material to form an emerging surface resulting in a brazed joint. Whereas in the brazing sheet material according to the present invention the first and second Al-Si alloy brazing clad layers may have substantially equivalent solidus and liquidus temperatures, while still being able to be used successfully in a controlled atmosphere brazing operation.」(4頁32行?5頁10行)
(当審訳:「欧州特許公報EP-1306207-B1において、ろう付フラックスの使用をせずにCABろう付の成功を実現するためには、表面層とアルミニウムコア材層との両方が中間ろう付材層の液相線温度よりも高い固相線温度を有しているべきことが要求されると報告された。このようにして、液相線温度と固相線温度との間の温度でのその後のろう付け操作中に溶融したろう材は、ろう材の酸化を防止するために薄い被覆材層を固体に維持しつつAl-Si合金ろう材層を溶融させ、次いで、体積膨張によって、薄い被覆材層の偏析部分を通って薄い被覆材層の表面上にAl-Si合金ろう材をしみ出させるとともに、Al-Si合金ろう材が薄い被覆材の表面上に広がって新生面を形成することによりろう付け接合部を生じる。一方、本発明のプレージングシート材では、第1および第2Al-Si合金ろう付クラッド層は、実質的に同等の固相線温度および液相線温度を有していてもよいが、制御された雰囲気でのろう付け作業では依然として良好に使用することができる。」)

(1d)「In a further aspect of the invention there is provided an article comprising at least two formed members joint by brazing, for example a heat-exchanger, incorporating at least the aluminium alloy brazing material according to this invention as one of the formed members.」(10頁27?30行)
(当審訳:「本発明の更に他の態様においては、少なくとも本発明に係るアルミニウム合金ろう付材を構成部材の一つとして備え、例えば熱交換器のように、ろう付によって接合された少なくとも2つの構成部材を有する構造物が提供される。)

(1e)「In another aspect of the invention there is provided a method of manufacturing an article joined by brazing or an assembly of brazed components, comprising the steps of:
(i) forming the components of which at least one is made from an aluminium alloy brazing material according to this invention as set out above and the claims;
(ii) assembling the components into an assembly;
(iii) brazing the assembly without applying flux in an inert gas atmosphere at a brazing temperature for a period long enough for melting and spreading of the filler material; Typically the oxygen content in the brazing atmosphere should be as low as reasonable possible, and is preferably below 1000 ppm, and more preferably below 200 ppm;
(iv) cooling the brazed assembly, typically to below 100℃.」(11頁1?14行)
(当審訳:「本発明の他の態様においては、ろう付により接合された構造体またはろう付された部品のアセンブリを作製する方法が提供され、当該方法は以下のステップを備えている;
(i) 少なくとも1つの、上記したような、またはクレームに記載したような本発明に関連するアルミニウム合金ろう付材から作製された構成部品を形成し、
(ii) 構成部品をアセンブリに組み立て、
(iii) 前記アセンブリを、フラックスを塗布せずに、(典型的にはろう付雰囲気中の酸素濃度を合理的になし得る限り低くすべきであり、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは200ppm以下である)不活性ガス雰囲気中において前記ろう材が溶融及び濡れ広がるために十分な時間ろう付温度にてろう付し、
(iv) ろう付されたアセンブリを、典型的には100℃以下まで冷却する。)

(1f)「A five-layer brazing sheet product has been manufactured consisted of a core alloy having a composition of 0.25% Fe, 0.1 % Si, 0.2% Mg, 0.5% Cu, 1.0% Mn, balance aluminium and impurities, on both sides clad with a first Al-Si alloy brazing clad, and on both sides of the core layer a second Al-Si alloy brazing material has been positioned between the core alloy layer and the first brazing clad layer. The composition of the first Al-Si clad material layer was an AA4343-series alloy having 7.5% Si and being devoid of Mg. The composition of the second Al-Si clad layer material was 12.7% Si, 0.3% Fe, 0.09% Bi, 0.08% Mg, balance aluminium and impurities.」(12頁33行?13頁6行)
(当審訳:両面上に第1Al-Si合金ろう付クラッドが積層され、0.25%のFe、0.1%のSi、0.2%のMg、0.5%のCu、1.0%のMn、残部アルミニウム及び不純物としづ組成を有するコア合金と、コア層の両面上における、コア合金層と第1ろう付クラッド層との聞に配置された第2Al-Si合金ろう付材とからなる5層プレージングシート製品が製造された。第1Al-Siクラッド材層の組成は、7.5%のSiを含みMgが含まれていないAA4343系合金であった。第2Al-Siクラッド層材の組成は、12.7%のSi、0.3%のFe、0.09%のBi、0.08%のMg、残部アルミニウム及び不純物であった。)

(1g)「1. A brazing sheet material comprising of an aluminium core alloy layer provided with a first brazing clad layer material on one or both sides of said aluminium core layer and at least one second brazing clad layer material positioned between the aluminium core alloy layer and the first braze clad layer material, wherein the second brazing clad layer material is an Al-Si alloy brazing material having 5% to 20% Si and 0.01 % to 3% Mg, and wherein the first brazing clad layer material is an Al-Si alloy brazing material having 2% to 14% Si and less than 0.4% Mg.」(16頁3?10行)
(当審訳:1.片面または両面に第1ろう付クラッド層材が設けられたアルミニウムコア合金層及び前記アルミニウムコア合金層と前記第1ろう付クラッド層材との聞に配置された少なくとも1つの第2ろう付クラッド層材とを有し、前記第2ろう付クラッド層材は5%から20%のSiと0.01%から3%のMgとを含むAl-Si合金ろう付材料であり、前記第1ろう付クラッド層材は2%から14%のSiと0.4%未満のMgとを含むAl-Si合金ろう付材料である、プレージングシート材。)

(1h)「9. Brazing sheet material according to any one of claims 1 to 8, wherein the second Al-Si alloy brazing clad layer material further contains one or more wetting elements, preferably selected from the group consisting of Bi, Pb, Li, Sb, Se, Y, and Th, and wherein the total amount of the wetting elements is in a range of 0.01 % to 0.5%.」(17頁2?6行)
(当審訳:9.前記第2Al-Si合金ろう付クラッド層材は、好ましくはBi、Pb、Li、Sb、Se、Y及びThからなる群より選択される、1種またはそれ以上の濡れ元素をさらに含んでおり、前記濡れ元素の合計量は0.01%から0.5%の範囲である、請求項1から8のいずれか1項に記載のプレージングシート材)

(1i)「12. Brazing sheet material according to any one of claims 1 to 11, wherein the first Al-Si alloy brazing clad layer material further contains one or more wetting elements, preferably selected from the group consisting of Bi, Pb, Li, Sb, Se, Y, and Th, and wherein the total amount of the wetting elements is in a range of 0.01 % to 0.5%.」(17頁16?20行)
(当審訳:12.前記第1Al-Si合金ろう付クラッド層材は、好ましくはBi,Pb、Li、Sb、Se、Y及びThからなる群より選択される、1種またはそれ以上の濡れ元素をさらに含んでおり、前記濡れ元素の合計量は0.01%%から0.05%の範囲である、請求項1から11のいずれか1項に記載のプレージングシート材。)

(1j)「13. Brazing sheet material according to any one of claims 1 to 12, wherein each of the first and second Al-Si alloy brazing clad material layers may further contain up to 0.8% Fe, and up to 0.2% Ti, and balance unavoidable impurities and aluminium.」(17頁22?25行)
(当審訳:13.前記第1及び第2Al-Si合金ろう付クラッド層材は、それぞれ、0.8%までのFeと、0.2%までのTiとを含んでいてもよく、残部が不可避的不純物及びアルミニウムである、請求項1から12のいずれか1項に記載のプレージングシート材。)

(1k)「15. Brazing sheet material according to any one of claims 1 to 14, wherein the first Al-Si alloy brazing clad material layer has a thickness which is 3% to 15% of the entire thickness of said aluminium alloy brazing sheet product, and the second Al-Si alloy brazing clad material layer has a thickness of 3% to 20% of the entire thickness of said aluminium alloy brazing sheet product.」(17頁32?36行)
(当審訳:15.前記第1Al-Si合金ろう付クラッド層材は、前記アルミニウム合金ブレージングシート製品全体の厚みの3%から15%の厚みを有し、前記第2Al-Si合金ろう付クラッド層材は、前記アルミニウム合金プレージングシート製品全体の厚みの3%から20%の厚みを有している、請求項1から14のいずれか1項に記載のプレージングシート材。)

b 上記記載事項(1a)?(1k)より、甲第1号証には、特に同(1g)の請求項1に着目すると、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
片面または両面に第1ろう付クラッド層材が設けられたアルミニウムコア合金層及び前記アルミニウムコア合金層と前記第1ろう付クラッド層材との聞に配置された少なくとも1つの第2ろう付クラッド層材とを有し、重量%で、前記第2ろう付クラッド層材は5%から20%のSiと0.01%から3%のMgとを含むAl-Si合金ろう付材料であり、前記第1ろう付クラッド層材は2%から14%のSiと0.4%未満のMgとを含むAl-Si合金ろう付材料である、フラックスレスろう付法に用いるプレージングシート材。

(イ)甲第2号証
上記甲第2号証には、以下の記載がある。

(2a)「【請求項1】
質量%で、Mgを0.1?5.0%、Siを3?13%含有し、残部がAlと不可避不純物からなるAl-Si系ろう材が芯材にクラッドされて最表面に位置するアルミニウムクラッド材を用いるろう付け方法であって、前記Al-Si系ろう材に含まれるSi粒子は、表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、1.75μm以上の径のものの数が25%以上であり、減圧を伴わない非酸化性雰囲気で、前記Al-Si系ろう材とろう付け対象部材とを接触密着させ、加熱温度559?620℃において、前記Al-Si系ろう材によりフラックスレスで接触密着部の密着面において前記芯材と前記ろう付け対象部材とを接合することを特徴とするアルミニウム材のフラックスレスろう付け方法。」

(2b)「【0028】
そして、本発明を実施するにあたっては、ろう材表面に比較的粗大なSi粒子が存在していることが好ましい。通常、アルミニウム材料表面には緻密なAl2O3等の酸化皮膜が存在し、ろう付け熱処理過程ではこれがさらに成長し厚膜となる。酸化膜の厚みが増すほど、酸化膜の破壊作用を阻害する傾向が強くなるのが一般的な見解である。本発明では、ろう材表面に粗大なSi粒子が存在することで、粗大Si粒子表面にはアルミニウムの緻密な酸化膜が成長せず、この部位がアルミニウム材料表面の酸化膜欠陥として働く。すなわち、アルミニウム材料表面の酸化膜がろう付け熱処理中に厚膜となっても、Si粒子部分からろう材の染み出し等が発生し、この部位を起点に酸化膜破壊作用が進んでいくものと考えられる。ここで言うSi粒子とは、組成上Si単体成分によるSi粒子、及び、例えば、Fe-Si系化合物や、Fe-Siを主成分とするAl-Fe-Si系の金属間化合物等をも含むものとする。本発明の説明においては、これらを便宜的にSi粒子と表記する。具体的には、ろう材表面のSi粒子を円相当径でみなし、0.8μm以上のSi粒子数をカウントした場合に1.75μm以上のものが25%以上存在すると、この効果が十分に得られる。本発明においてSi粒子の密度には言及していないが、本発明で用いる合金組成と製造条件範囲、及び材料の仕上げ板厚寸法によって、10000μm^(2)視野における0.8μm以上のSi粒子数は数十?数千個の範囲に及ぶと考えられ、その規定は難しいことから、本発明においては、このSi粒子数範囲で、1.75μm径以上のものが25%以上の個数存在すれば、効果を得られることを確認し上記規定を望ましいものとした。」

(ウ)甲第3号証
上記甲第3号証には、以下の記載がある。

(3a)「【請求項1】
心材と、当該心材の少なくとも一方の面にクラッドされたろう材層1と、当該ろう材層1上にクラッドされたろう材層2とからなる無フラックスろう付用ブレージングシートであって、前記心材は、前記ろう材層1より高融点のアルミニウム合金からなり、前記ろう材層1は、Si:4.0?13.0mass%、Mg:0.2?3.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるAl-Si-Mg系合金からなり、かつ、2.5?220μmの層厚さを有し、前記ろう材層2は、Si:4.0?12.5mass%を含有し、Na:0.0001?0.1000mass%、Sr:0.001?0.100mass%及びSb:0.001?0.100mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるAl-Si系合金からなり、かつ、2.5?220μmの層厚さを有し、前記ろう材層1とろう材層2の厚さをそれぞれt1(μm)、t2(μm)とし、前記ろう材層1のMg含有量をX(mass%)としたときに、5≦t1+t2≦250及び0.1≦X×{t1/(t1+t2)}を満たすことを特徴とする無フラックス非酸化性ガス雰囲気ろう付用ブレージングシート。」

(3b)「【0036】
第2の選択的添加元素として、ろう材層1及びろう材層2の少なくとも一方に、Na:0.0001?0.1000%、Sr:0.001?0.100%及びSb:0.001?0.100%から選択される1種又は2種以上を更に添加しても良い。これらの元素は、Si粒微細化効果を発揮してろう付け性を向上させる。Na含有量が0.0001%未満、Sr含有量が0.001%未満、Sb含有量が0.001%未満の場合には、十分なSi粒微細化効果が発揮されない場合がある。一方、Na含有量が0.1000%を超え、Sr含有量が0.100%を超え、Sb含有量が0.100%を超えても、ろう流れ性の更なる向上が得られない。」

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「アルミニウムコア合金層」は、本件発明1における「芯材」に相当する。
また、引用発明における「第1ろう付クラッド層材」は、ブレージングシート材の外側に設けられるものであることから、本件発明1における「最表面ろう材層」に相当するとともに、「第1ろう付クラッド層材」の合金組成における「0.4%未満のMg」は、Mgを含有しない場合も含むものであり、重量%と質量%は同じ値となることから、引用発明における「第1ろう付クラッド層材は2%から14%のSiと0.4%未満のMgとを含むAl-Si合金ろう付材料」は、本件発明1の「2?13%Siを含有し、Mg無添加のAl-Si系合金からなる最表面ろう材層」と、成分組成において重複する。
さらに、引用発明における「第2ろう付クラッド層材」は、アルミニウムコア合金層と第1ろう付クラッド層材との聞に配置されるものであることから、本件発明1における「中間ろう材層」に相当するとともに、重量%と質量%は同じ値となることから、引用発明における「第2ろう付クラッド層材は5%から20%のSiと0.01%から3%のMgとを含むAl-Si合金ろう付材料」は、本件発明1における「4?13%のSiおよび0.1?5.0%のMgを含有するAl-Si-Mg系合金からなる中間ろう材層」と、成分組成において重複する。
そして、引用発明における「フラックスレスろう付法に用いるプレージングシート材」は、本件発明1における「フラックスフリーろう付用ブレージングシート」に相当する。
してみると、本件発明1と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「芯材の片面または両面に、質量%で、2?13%Siを含有し、Mg無添加のAl-Si系合金からなる最表面ろう材層と、質量%で、4?13%のSiおよび0.1?5.0%のMgを含有するAl-Si-Mg系合金からなる中間ろう材層がクラッドされているフラックスフリーろう付用ブレージングシート。」である点。

<相違点1>
中間ろう材層と最表面層ろう材の液相線温度差について、本件発明1は、「50℃未満」であるのに対し、引用発明は、それが不明である点。

<相違点2>
最表面ろう材層に含まれるSi粒子について、本件発明1は、「層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、1.75μm以上の径のものの数の割合が10%以上」であるのに対し、引用発明は、それが不明である点。

<相違点3>
中間層ろう材層に含まれるSi粒子について、本件発明1は、「ろう材層の断面観察において、円相当径0.25μm以上のSi粒子が10000μm^(2)当たり3,000個未満」であるのに対し、引用発明は、それが不明である点。

(イ)相違点についての判断
a 事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
上記甲第2号証及び甲第3号証には、中間層ろう材層に含まれるSi粒子について、「ろう材層の断面観察において、円相当径0.25μm以上のSi粒子が10000μm^(2)当たり3,000個未満」にするという特定事項について何ら記載も示唆もされていないから、引用発明の「第2ろう付クラッド層材」が含むSiにおいて、粒子状であるSiについて上記特定事項を有するものとすることが当業者にとって容易であるとは認められない。

b そして、本件発明1は、上記特定事項を有することによって、「中間層ろう材中のSi粒子が細かく分散している状態」となって、「中間層ろう材中のSi粒子が粗大で粗に分布していると、最表面ろう材へのMgの拡散が不均一となるため、最表面ろう材表面でのMgによる酸化皮膜(Al_(2)O_(3)等)の分解作用も不均一となり接合状態が不安定となる」(本件明細書の【0027】)ことを抑制することができるといえ、それにより、「ろう材溶融時には、Al酸化皮膜(Al_(2)O_(3))を分解するMgを効率的に材料表面に供給することができるため、接合部表面で溶融ろう材が濡れ拡がり易くなり、開放部を有する継手においても良好な接合状態が得られる」(同【0029】)という格別顕著な効果を奏するものである。

c 上記相違点3に関して、申立人は、上記甲第3号証には、「心材と、当該心材の少なくとも一方の面にクラッドされたろう材層1と、当該ろう材層1上にクラッドされたろう材層2とからなる無フラックスろう付用ブレージングシート」(請求項1)において、「ろう材層1及びろう材層2の少なくとも一方」にSrを添加して、「Si粒微細化効果を発揮してろう付け性を向上させる」(【0036】)ことが記載されているから、引用発明の「第2ろう付クラッド層材」にSrを添加し、上記特定を有するSi粒子とすることは、当業者が容易になし得たことである旨を主張している(異議申立書23頁8?27行)。
しかしながら、上記甲第3号証の【0036】の記載におけるSrの添加は、「ろう材層1及びろう材層2の少なくとも一方」であって、引用発明の「第2ろう付クラッド層材」に相当する「ろう材層1」のみに添加することは特定されておらず、さらに、仮に「ろう材層1」のみにSrを添加するものであったとしても、それは「Sr:0.001?0.100mass%」という特定の添加量であって、引用発明の「第2ろう付クラッド層材」に当該特定の添加量でSrを添加すれば、本件発明1の上記特定事項を有するものとなるかは明らかでないし、それが技術常識であるとも認められないから、申立人の上記主張を採用することはできない。

(ウ)本件発明1についての小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と甲第2及び3号証に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明2?8について
本件発明2?8は、請求項1を引用するものであって、少なくとも上記相違点1?3において引用発明と相違し、相違点についての判断は上記イ(イ)及び(ウ)のとおりであるから、甲第1号証に記載された発明と甲第2及び3号証に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 異議申立理由1(進歩性)についての小括
よって、本件発明1?8は、甲第1号証に記載された発明と甲第2及び3号証に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)異議申立理由3(サポート要件)について
ア 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、以下のとおり主張している。なお、以下における本件特許発明1?8は、本件訂正前のものである。

(ア)「(i)本件特許発明1-8における最表面ろう材層及び中間ろう材層の化学成分が十分に特定されていない点
本件特許発明1は、前述したように、芯材の片面または両面に、A2要件(当審注:「質量%で、2?13%Siを含有するAl-Si系合金からなる最表面ろう材層」のこと。)に記載の化学成分を備え、かつ、A5要件(当審注:「最表面ろう材層に含まれるSi粒子が、表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、1.75μm以上の径のものの数の割合が10%以上」のこと。)を満たすSi粒子を含む最表面ろう材層と、A3要件(当審注:「質量%で、4?13%のSiおよび0.1?5.0%のMgを含有するAl-Si-Mg系合金からなる中間ろう材層」のこと。)に記載の化学成分を備え、かつ、A6要件(当審注:「中間層ろう材層に含まれるSi粒子が、ろう材層の断面観察において、円相当径0.25μm以上のSi粒子が10000μm^(2)当たり3,000個未満」のこと。)を満たすSi粒子を含む中間ろう材層と、がクラッドされており、前記中間ろう材層と前記最表面層ろう材の液相線温度差が50℃未満である、フラックスフリーろう付け用ブレージングシートである。
そして、本件特許発明1の解決しようとする課題は、本件特許明細書段落【0005】に記載されているように、従来技術において、最表面層が溶融する前に中間層が溶け出し、「接合部に流入する有効な流動ろうとして機能しなくなる」こと、及び、「コルゲートフィンなどの実用的な継手形状に適用した場合に必ずしも十分な接合が得られないこと」にある。
これらの課題を解決し、良好なろう付性を達成するためには、ろう付加熱中に溶融したろう材によって相手部材との間にろう付接合部が形成されるとともに、プレージングシートと相手部材とがろう材接合部を介して冶金的に接合されることが必要である。このろう付接合部は、主としてろう付加熱中に溶融した最表面ろう材層及び中間ろう材層から構成される。それ故、良好なろう付性を得るには、最表面ろう材層及び中間ろう材層の化学成分が直接的に影響することは明らかである。
しかしながら、実際に本件特許明細書に開示された最表面ろう材層の化学成分及び中間ろう材層の化学成分は、A2要件及びA3要件に記載されたように、オープン形式で規定されている。それ故、本件特許発明1に係るブレージングシートにおいては、最表面ろう材層及び中間ろう材層に、A2要件またはA3要件に規定された合金元素に加え、これらの要件に規定されていない合金元素を制限なく添加することができると解される。
これに対し、本件特許明細書に実際に記載された両者の化学成分の範囲は限られた範囲に絞られており、具体的開示のない合金元素を不可避的不純物以上に含有させても課題が解決できるか否かは、当業者であっても予測が困難である。化学成分の違いによって得られる作用効果の予測が困難な合金を構成要素とする発明においては、実際に実験によって作用効果が確認された化学成分の範囲を基礎にして同様の作用効果が予測できる範囲に限って発明が完成したとすることができる。そして、実験によって確認された範囲を大きく超える部分を含む発明は、サポート要件を具備するとはいえない。このことは、例えば、平成24年(行ケ)第10151号判決の趣旨とも合致するものである。
サポート要件を具備するか否かは、『請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるか否か』によって判断されるところ、本件特許発明1における最表面ろう材層及び中間ろう付層の化学成分が無制限に広がる範囲を含む発明は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものということができる。
同様の理由により、最表面ろう材層及び中間ろう材層がの化学成分がオープン形式で規定されている本件特許発明2-8も、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものということができる。」(29頁下から9行?31頁6行)

(イ)「(ii)本件特許発明1のA6要件は、課題を解決するための手段を反映したものとは言えない点
本件特許明細書段落【0006】の記載によれば、前述した発明が解決しようとする課題を解決するために、「ろう付昇温過程での中間層と最表面層の液相ろうの生成挙動に着目してろう付前の中間層ろう材中のSi粒子分布を最適化し、さらに、接合部表面の酸化皮膜の状態に着目して最表面ろう材のSi粒子分布を最適化する」という手段を採用したことがわかる。
ここで、中間層ろう材中のSi粒子分布に関して、本件特許明細書段落【0027】には、「さらに、本発明を実施するにあたっては、中間層ろう材中のSi粒子が細かく分散している状態が好ましい。」との記載がある。これに対し、本件特許発明1のA6要件には、「前記中間ろう材層に含まれるSi粒子が、ろう材層の断面観察において、円相当径0.25μm以上のSi粒子が10000μm^(2)当たり3,000個未満である」と規定されている。
かかる規定は、文言上、中間ろう材層中の「円相当径0.25μm以上のSi粒子」の数の上限を規定しているとしか解することはできないから、本件特許発明1においては、中間ろう材層中の円相当径0.25μm以上のSi粒子の数が前記特定の範囲内でありさえすれば、円相当径0.25μm未満の微細なSi粒子がどのように分布していてもよく、さらには円相当径0.25μm未満の微細なSi粒子が存在していなくてもよいことになる。また、本件特許明細書の記載を参酌しても、A6要件が前述した「Si粒子が細かく分散している状態」がいかなる状態を示すものであるかを具体的に理解することはできない。
そうすると、中間ろう材層中の微細なSi粒子の態様が特定されていない本件特許発明1は、発明の解決しようとする課題を解決するための手段が反映されたものとはいえない。
同様の理由により、本件特許発明2-8も、発明の解決しようとする課題を解決するための手段が反映されたものとはいえない。」(31頁7行?32頁4行)

イ 申立人の主張についての判断
本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識し得る範囲のものは、上記1(1)イ(イ)及び(ウ)のとおりであって、本件発明がサポート要件を満たすものであることは、上記1(3)アのとおりであるから、申立人の上記アの主張を採用することはできない。

さらに、上記ア(ア)の主張について、本件課題を解決する手段の作用機序は、本件明細書の【0029】に記載のように、最表面ろう材層と中間ろう材層について、それぞれのろう材組成及び液相線温度差を特定し、「最表面をMg無添加ろう材とし、中間層をMg添加ろう材とすることで、ろう付昇温過程の材料表面でのMgO皮膜成長を抑制しつつ、さらに、各ろう材層のSi粒子分布を最適化することでろう材溶融時には、Al酸化皮膜(Al_(2)O_(3))を分解するMgを効率的に材料表面に供給することができるため、接合部表面で溶融ろう材が濡れ拡がり易くなり、開放部を有する継手においても良好な接合状態が得られる」ことであるから、本件発明における最表面ろう材層及び中間ろう付層の化学成分が、本件発明で特定されている化学成分以外を含んでいる場合において、本件課題を解決することができないとはいえないことからも、申立人の主張を採用することはできない。

また、上記ア(イ)の主張について、本件課題を解決する手段として発明の詳細な説明に記載されている中間ろう材層のSi粒子の分布は、本件明細書の【0027】に記載のように、「中間層ろう材断面から見たSi粒子を円相当径でみなし、0.25μm以上のSi粒子が10000μm^(2)当たり3,000個未満とすること」であって、「Si粒子が細かく分散している状態」ではないことからも、申立人の主張を採用することはできない。

ウ 異議申立理由3(サポート要件)についての小括
したがって、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえるから、本件特許についての出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての小括
よって、本件特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえないし、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいえず、同法第113条第2号又は第4号により取り消すことはできない。


第6 むすび
以上のとおり、本件訂正は適法であるから、これを認める。
そして、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?8に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フラックスフリーろう付用のブレージングシート、フラックスフリーろう付方法および熱交換器の製造方法
【技術分野】
【0001】
この発明は、フラックスフリーでアルミニウム合金部材のろう付に用いられるフラックスフリーろう付用のブレージングシート、フラックスフリーろう付方法および熱交換器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用熱交換器をはじめとしたろう付分野において、Al-Si-Mg合金ろう材を用いたフラックスフリーの工法が提案されている。Al-Si-Mg合金ろう材を用いるフラックスフリーろう付では、溶融して活性となったろう材中のMgが接合部表面のAl酸化皮膜(Al_(2)O_(3))を還元分解することで接合が可能となる。閉塞的な面接合継手などでは、Mgによる酸化皮膜の分解作用により、ろう材を有するブレージングシートを組合せた継手や、ブレージングシートとろう材を有さない被接合部材(ベア材)を組合せた継手で良好な接合状態が得られる。
しかし、雰囲気の影響を受け易い開放部を有する継手形状では、Mg添加ろう材の表面でMgO皮膜が成長し易くなるが、MgO皮膜は分解され難い安定な酸化皮膜であるため接合が著しく阻害される。このことから、開放部を有する継手で安定した接合状態が得られるフラックスフリーろう付方法が強く望まれている。
【0003】
上記課題に対し、ろう材表面でMgO皮膜が成長することを抑制するため、最表面層をMg無添加合金とし、中間層にMgを添加したろう材を適用することで接合状態が改善する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-155955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1で提案されている技術では、中間層はMg添加により最表面層よりも固相線温度が低くなるため、ろう付昇温過程では最表面層よりも早く液相ろうが生成し、さらに、Si添加量が多くなるほど液相量(液相の割合)が多くなる。最表面層が溶融する前に溶け出した中間層ろう材は、材料端部などから流出し、接合部に流入する有効な流動ろうとして機能しなくなる課題がある。さらに、コルゲートフィンなどの実用的な継手形状に適用した場合に必ずしも十分な接合が得られないという課題もある。
【0006】
発明者らは、ろう付昇温過程での中間層と最表面層の液相ろうの生成挙動に着目してろう付前の中間層ろう材中のSi粒子分布を最適化し、さらに、接合部表面の酸化皮膜の状態に着目して最表面ろう材のSi粒子分布を最適化することで上記課題を克服した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明のフラックスフリーろう付用のブレージングシートのうち、第1の形態は、芯材の片面または両面に、質量%で、2?13%Siを含有し、Mg無添加のAl-Si系合金からなる最表面ろう材層と、質量%で、4?13%のSiおよび0.1?5.0%のMgを含有するAl-Si-Mg系合金からなる中間ろう材層がクラッドされており、前記中間ろう材層と前記最表面層ろう材の液相線温度差が50℃未満であり、さらに、前記最表面ろう材層に含まれるSi粒子が、表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、1.75μm以上の径のものの数の割合が10%以上であり、かつ、前記中間層ろう材層に含まれるSi粒子が、ろう材層の断面観察において、円相当径0.25μm以上のSi粒子が10000μm^(2)当たり3,000個未満であることを特徴とする。
【0008】
他の形態のフラックスフリーろう付用のブレージングシートの発明は、前記形態の本発明において、前記最表面ろう材が質量%で、2%以上4%未満のSiを含有するAl-Si系合金からなることを特徴とする。
【0009】
他の形態のフラックスフリーろう付用のブレージングシートの発明は、前記形態の本発明において、前記最表面ろう材が質量%で、0.1?1.0%のFeを含有するAl-Si系合金からなることを特徴とする。
【0011】
他の形態のフラックスフリーろう付用のブレージングシートの発明は、前記形態の本発明において、前記最表面ろう材層と中間ろう材層のクラッド率が、ブレージングシート全厚みに対して片面当りそれぞれ1?30%であることを特徴とする。
【0012】
他の形態のフラックスフリーろう付用のブレージングシートの発明は、前記形態の本発明において、前記中間ろう材層のろう材に、質量%で、0.01?0.5%のBiを含有することを特徴とする。
【0013】
他の形態のフラックスフリーろう付用のブレージングシートの発明は、前記形態の本発明において、前記最表面ろう材層のろう材に、質量%で、0.01?0.5%のBiを含有することを特徴とする。
【0014】
本発明のアルミニウム部材のフラックスフリーろう付方法は、前記形態のフラックスフリーろう付用ブレージングシートを用いて、酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気中で、フラックスを用いることなくアルミニウム部材同士の接合を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明による熱交換器の製造方法は、前記形態のフラックスフリーろう付用ブレージングシートを用いて、酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気中で、フラックスを
用いることなくアルミニウム部材同士の接合を行うことを特徴とする。
【0016】
次に、本願発明で規定する内容について説明する。なお、成分の説明における含有量はいずれも質量%で示される。
【0017】
最表面ろう材層ろう材組成
Si:2?13%
最表面ろう材層では、ろう付時にSiによって溶融ろうを形成し、接合部のフィレットを形成する。Si含有量が不足すると、フィレットを形成するための溶融ろうが不足する。また、中間層からのMgの拡散が遅れ、十分な接合が得られない。一方、Si含有量が過剰になると、効果が飽和する。また、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。
これらのため、最表面ろう材層のろう材では、Si含有量を2?13%とする。また、同様の理由でSi含有量の下限を3%、上限を11%とするのがさらに望ましい。
【0018】
さらに、大型製品や内部構造が複雑な熱交換器では、ろう付時の製品内温度ばらつきによりろう流動が不均一になる場合があるが、厚みが薄く到達温度が高くなり易い接合部材などでは、ろう流動を抑制するため、フィレット形成に必要なろう材量を中間層ろう材のSi量で確保し、最表面ろう材のSi量を低くすることが有効である。この場合は、最表面ろう材のSi量を2%以上4%未満とする。2%未満では最表層ろう材が十分に溶融せず中間層ろう材からのMg拡散が遅れ接合不良を生じ易く、4%以上ではろう流動の抑制効果が不十分となる。
【0019】
Bi:0.05?0.5%
Biは、ろう付昇温過程で材料表面に濃縮し、緻密な酸化皮膜の成長を抑制するので所望により含有する。Biの含有量が不足すると効果が不十分であり、Biを過剰に含有すると、効果が飽和する。これらのため、Biの含有量を0.05?0.5%とするのが望ましい。また、同様の理由で、Biの下限を0.1%とし、上限を0.2%とするのが一層望ましい。
【0020】
Fe:0.1?1.0%
FeはAlに殆ど固溶せず、最表面ろう材中で単体またはAl、Mn、Siなどとの金属間化合物として存在する。材料表面に存在するこれらの粒子は、接合部表面の酸化皮膜の欠陥部となるため、接合を阻害する酸化皮膜の成長を抑制することや、中間層ろう材から拡散してきたMgがAl_(2)O_(3)を分解する際に酸化皮膜が破壊され易くなる効果をもつ。0.1%未満では効果が不十分となり、1.0%以上では効果が飽和し、さらに多くなるとろう材層が機械的に脆くなり圧延性が低下するため、下限を0.1%、上限を1.0%とする。
【0021】
中間ろう材層ろう材組成
Si:4?13%
Siは、ろう付時に中間層中に液相を生成し、中間層に添加されたMgの最表面層への拡散を促進する。Si含有量が不足すると効果が不十分であり、Siを過剰に含有すると、過剰な液相が材料端部などから流出し、中間層中のMgが消耗するため、十分な接合状態が得られなくなる。
これらの点でSi含有量を4?13%とするのが望ましい。
なお、同様の理由で、Si含有量の下限を5%、上限を11%とするのが一層望ましい。
【0022】
Mg:0.1?5.0%
Mgは、Al酸化皮膜(Al_(2)O_(3))を還元分解する。ただし、Mg含有量が不足すると、効果が不十分であり、Mg含有量が過剰になると、効果が飽和するとともに、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。これらのため、Mg含有量は、0.1?5.0%とする。なお、同様の理由で、下限を0.3%、上限を3.0%とするのが望ましく、さらに、下限を0.8%、上限を2.5%とするのがより望ましい。
【0023】
Bi:0.01?0.5%
Biは、ろう付昇温過程で材料表面に濃縮し、緻密な酸化皮膜の成長を抑制するので所望により含有させる。Bi含有量が不足すると効果が不十分であり、Bi含有量が過剰になると効果が飽和する。これらのため、Bi含有量は0.01?0.5%とするのが望ましい。なお、同様の理由で下限を0.02%、上限を0.2%とするのが望ましい。
【0024】
ろう材の液相線温度
中間層ろう材は、Mg添加により最表面のAl-Siろう材よりも固相線温度が低いため、ろう付昇温過程では最表面ろう材よりも早く溶融が始まり、液相線温度に近づくほど液相率が高くなり最表面ろう材へのMg拡散量が増加する。しかし、中間層ろう材の液相線温度が最表面ろう材よりも低すぎると、材料端部などから中間層ろう材が流出し、材料表面のAl_(2)O_(3)皮膜を分解するのに十分なMg量が不足することや、接合部に流入する有効な流動ろうが不足する。また、逆に最表面ろう材の液相線温度が中間層ろう材の液相線温度よりも低すぎると最表面ろう材表面のAl_(2)O_(3)皮膜を分解するのに十分なMg量が中間層ろう材から拡散する前に最表面ろう材の液相率が高まり活性となるため、最表面の再酸化や不安定なろう流動によりろう付性が低下する。このため、中間層ろう材と最表面ろう材の液相線温度差は、50℃未満とすることが望ましい。さらに、同様の理由で35℃未満とすることがより望ましい。
【0025】
ろう材クラッド率:1?30%
最表面ろう材層と中間ろう材層のクラッド率をブレージングシート全厚みに対して片面当りそれぞれ1?30%とするのが望ましい。クラッド率が小さすぎると熱延によるクラッド貼合わせ時に長手方向のクラッド率がばらつき易くなり、クラッド率が大きすぎるとクラッド貼合わせでクラッド界面の接合状態が不安定になり十分な製造品質が確保できない問題がある。また、ろう付後製品の構造強度や寸法精度を確保するため、芯材のクラッド率は50%以上を確保することが望ましい。
【0026】
そして、本発明を実施するにあたっては、最表面層ろう材表面に比較的粗大なSi粒子が存在していることが好ましい。通常、アルミニウム材料表面には緻密なAl_(2)O_(3)等の酸化皮膜が存在し、ろう付け熱処理過程ではこれがさらに成長し厚膜となる。酸化皮膜の厚みが増すほど、酸化皮膜の破壊作用を阻害する傾向が強くなるのが一般的な見解である。本発明では、最表面層ろう材表面に粗大なSi粒子が存在することで、粗大Si粒子表面にはアルミニウムの緻密な酸化皮膜が成長せず、この部位がアルミニウム材料表面の酸化皮膜欠陥として働く。すなわち、アルミニウム材料表面の酸化皮膜がろう付け熱処理中に厚膜となっても、Si粒子部分からろう材の染み出し等が発生し、この部位を起点に酸化皮膜破壊作用が進んでいくものと考えられる。ここで言うSi粒子とは、組成上Si単体成分によるSi粒子、及び、例えば、Fe-Si系化合物や、Fe-Siを主成分とするAl-Fe-Si系の金属間化合物等をも含むものとする。本発明の説明においては、これらを便宜的にSi粒子と表記する。具体的には、ろう材表面のSi粒子を円相当径でみなし、0.8μm以上のSi粒子数をカウントした場合に、1.75μm以上のものの数の割合が10%以上存在すると、この効果が十分に得られる。本発明においてSi粒子の密度には言及していないが、本発明で用いる合金組成と製造条件範囲、及び材料の仕上げ板厚寸法によって、10000μm^(2)視野における0.8μm以上のSi粒子数は数十?数千個の範囲に及ぶと考えられ、その規定は難しいことから、本発明においては、この
Si粒子数範囲で、1.75μm径以上のものの数の割合が10%以上存在すれば、効果を得られることを確認し上記規定を望ましいものとした。
【0027】
さらに、本発明を実施するにあたっては、中間層ろう材中のSi粒子が細かく分散している状態が好ましい。本発明では、ろう付昇温過程でMgを添加した中間層ろう材が固相線温度に達すると、Mg_(2)Si粒子などを起点に溶融が始まり、最表面ろう材層にMgの拡散が進み易くなるが、中間層ろう材中のSi粒子が粗大で粗に分布していると、最表面ろう材へのMgの拡散が不均一となるため、最表面ろう材表面でのMgによる酸化皮膜(Al_(2)O_(3)等)の分解作用も不均一となり接合状態が不安定となる。ここで言うSi粒子とは、組成上Si単体成分によるSi粒子、及び、例えば、Mg_(2)Si化合物等の金属間化合物も含むものとする。本発明の説明においては、これらを便宜的にSi粒子と表記する。具体的には、中間層ろう材断面から見たSi粒子を円相当径でみなし、0.25μm以上のSi粒子が10000μm^(2)当たり3,000個未満とすることにより効果が得られる。Si粒子は、上記を満たす範囲で粒子径がより細かく密に分散していることが望ましい。
なお、Si粒子を細かくする手段としては、鋳造時の超音波印加や凝固速度制御(0.1?500℃/sec)、焼鈍時の温度条件により調整することや、ろう材中Si粒子の微細化効果があるSrなどを添加することが挙げられるが、その方法が限定されるものではない。
【0028】
酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気
上記ブレージングシートは、酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気において、フラックスフリーでろう付を行うことができる。
ろう付炉内雰囲気の圧力は常圧を基本とするが、例えば、製品内部のガス置換効率を向上させるためにろう材溶融前の温度域で100kPa?0.1Pa程度の中低真空とすることや、炉内への外気(大気)混入を抑制するために大気圧よりも5?100Pa程度陽圧としてもよい。
非酸化性ガス雰囲気としては、窒素ガス、或いは還元性ガスもしくはこれらの混合ガスが挙げられる。使用する置換ガスの種類としては、アルミニウム材の接合を得るにあたり特に限定されるものではないが、コストの観点より、窒素ガス、不活性ガスとしてはアルゴン、還元性ガスとしては水素、アンモニアを用いることが好適である。雰囲気中の酸素濃度管理範囲としては、100ppm以下が望ましい。100ppm超では被ろう付部材の再酸化が進みやすくなる。同様の理由で30ppm以下とするのが望ましく、さらに、10ppm以下とするのが一層望ましい。
【発明の効果】
【0029】
すなわち、本発明によれば、最表面をMg無添加ろう材とし、中間層をMg添加ろう材とすることで、ろう付昇温過程の材料表面でのMgO皮膜成長を抑制しつつ、さらに、各ろう材層のSi粒子分布を最適化することでろう材溶融時には、Al酸化皮膜(Al_(2)O_(3))を分解するMgを効率的に材料表面に供給することができるため、接合部表面で溶融ろう材が濡れ拡がり易くなり、開放部を有する継手においても良好な接合状態が得られる。
【0030】
本発明により実用的な酸素濃度管理下で開放部を有する継手で良好な接合状態が得られるため、ラジエータ、コンデンサ、エバポレータ、ヒータコア、インタークーラなどのアウターフィンやチューブ根付部において従来ろう付方法と同等以上の接合部強度や耐久性が確保される。
また、上記実施形態では、本発明の適用用途として自動車用熱交換器について説明したが、自動車用以外の熱交換器でもよく、さらに本発明の用途が熱交換器に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態におけるフラックスフリーろう付用のブレージングシートを示す図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるアルミニウム製自動車用熱交換器を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施例におけるろう付評価モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
ろう材用アルミニウム合金のうち、最表面層用のものとして、質量%で、Si:2?13%を含有し、所望により、Fe:0.1?1.0、Bi:0.01?0.5%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成に調製し、中間層用のものとして、質量%で、Si:4?13%、Mg:0.1?5.0%を含有し、所望により、Bi:0.01?0.5%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成に調製する。また、ろう材用アルミニウム合金としては、その他に、質量%で、Cu:0.05?2.0、Mn:0.05?2.5、Ca:0.001?0.5、Li:0.001?0.5、Be:0.001?0.1などを含有してもよい。
【0033】
また、芯材用アルミニウム合金として、質量%で、Mn:0.1?3.0%、Si:0.1?1.2%、Cu:0.1?3.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成に調製する。芯材用アルミニウム合金には、その他に、Fe、Mg、Biなどを既知の量で含有してもよい。
【0034】
本発明としては、芯材用アルミニウム合金の組成は特に限定されるものではないが、Mg_(2)Siなどを微細析出させることで材料の大幅な高強度化が図れるため、MgとSiを積極添加した合金を好適に用いることができる。従来のフッ化物系フラックスを用いるろう付方法は、フラックスがMgと反応して高融点のフッ化Mgを生成し不活性化するためろう付性が低下することや、この反応によりMgを消費するため高強度Mg添加合金に適用することが難しかったが、フラックスフリーろう付では高強度Mg添加合金が利用可能となる。
なお、Znが添加されたアルミニウム合金を犠牲防食層として何れかのクラッド層間、または、ろう材がクラッドされていない芯材表面にクラッドしてもよい。
これらの合金に対し、熱間圧延、冷間圧延を行って芯材の一方または両方の面に、中間ろう材層と最表面ろう材層が重ね合わされて接合されたクラッド材を得る。
【0035】
上記工程を経ることにより、図1に示すように、アルミニウム合金芯材2の両面にアルミニウム合金ろう材3がクラッドされた熱交換器用のブレージングシート1が得られる。アルミニウム合金芯材2は、本発明のアルミニウム合金部材に相当する。アルミニウム合金ろう材3は、中間ろう材層3aと最表面ろう材層3bとからなる。
なお、各中間ろう材層3a、最表面ろう材層3bは、ブレージングシート1全厚に対し、1?30%の厚さを有している。
ブレージングシート1は、熱交換器のチューブ、ヘッダ、タンク、アウターフィン、インナーフィンなどとして用いることができる。
一方、ろう付対象部材として、例えば、質量%で、Mg:0.1?0.8%、Si:0.1?1.2%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金を調製し、適宜形状に加工される。ろう付対象部材は、本発明のアルミニウム部材に相当する。なお、ろう付対象部材の組成は本発明としては特に限定されるものではなく、適宜組成のものを用いることができる。
【0036】
上記ブレージングシート1は、上記最表面ろう材層3bが最表面に位置しており、表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下で、前記表面酸化皮膜中におけるMgO皮膜の平均膜厚が2nm以下に調整されているのが望ましい。
また、ろう付対象部材は、少なくとも接合面において表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下かつ皮膜中のMgO皮膜厚さが2nm以下に調整されているのが望ましい。
上記表面酸化皮膜は、鋳造後の均質化、熱間圧延前の均熱、冷間圧延後の焼鈍等、各種熱処理時の温度と時間によって調整することができる。
【0037】
上記ブレージングシート1とろう付対象部材とは、フラックスフリーで、アルミニウム合金芯材2とろう付対象部材との間に、中間ろう材層3aと、最表面ろう材層3bが介在するように配置する。これらを組み付けてろう付用アルミニウム合金組み付け体とする。したがって、ブレージングシート1は、本発明のフラックスフリーろう付用のブレージングシートに相当する。
【0038】
上記組み付け体は、常圧下の非酸化性雰囲気とされた加熱炉内に配置される。非酸化性ガスには窒素ガス、あるいは、アルゴンなどの不活性ガス、または、水素、アンモニアなどの還元性ガス、あるいはこれらの混合ガスを用いて構成することができる。ろう付炉内雰囲気の圧力は常圧を基本とするが、例えば、製品内部のガス置換効率を向上させるためにろう材溶融前の温度域で100kPa?0.1Pa程度の中低真空とすることや、炉内への外気(大気)混入を抑制するために大気圧よりも5?100Pa程度陽圧としてもよい。加熱炉は密閉した空間を有することを必要とせず、ろう付材の搬入口、搬出口を有するトンネル型であってもよい。このような加熱炉でも、不活性ガスを炉内に吹き出し続けることで非酸化性が維持される。該非酸化性雰囲気としては、酸素濃度として体積比で100ppm以下が望ましい。
【0039】
上記雰囲気下で、例えば、昇温速度10?200℃/minで加熱して、組み付け体の到達温度が580?620℃となる熱処理条件にてろう付接合を行う。
ろう付条件において、昇温速度が速くなるほどろう付時間が短くなるため、材料表面の酸化皮膜成長が抑制されてろう付性が向上する。到達温度は少なくともろう材の固相線温度以上とすればろう付可能であるが、液相線温度に近づけることで流動ろう材が増加し、開放部を有する継手で良好な接合状態が得られ易くなる。ただし、あまり高温にするとろう浸食が進み易く、ろう付後の組付け体の構造寸法精度が低下するため好ましくない。
【0040】
図2は、上記ブレージングシート1を用いてフィン5を形成し、ろう付け対象材としてアルミニウム合金製のチューブ6を用いたアルミニウム製自動車用熱交換器4を示している。フィン5、チューブ6を、補強材7、ヘッダプレート8と組み込んで、フラックスフリーろう付けによってアルミニウム製自動車用熱交換器4を得ている。
【実施例1】
【0041】
表1、表2に示す組成(残部Alと不可避不純物)のろう材と、JISA3003の芯材とをクラッドしたアルミニウム材を用意した。
アルミニウムクラッド材は、各種組成ろう材をクラッド率5%とし、H14相当調質の0.25mm厚に仕上げた。また、ろう付対象部材としてJISA3005合金、H14のアルミニウムベア材(0.1mm厚)のコルゲートフィン11を用意した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
前記アルミニウムクラッド材を用いて幅20mmのチューブ12を製作し、該チューブ12とコルゲートフィン11とを組み合わせ、ろう付評価モデルとして図3(a)に示すようなチューブ15段、長さ300mmのコア10とした。前記コアを、窒素雰囲気中(酸素含有量50ppm)のろう付炉にて、600℃まで加熱し、そのろう付状態を評価した。
【0045】
○ろう付性
・接合率
以下式にて接合率を求め、各試料間の優劣を評価した。
フィン接合率=(フィンとチューブの総ろう付長さ/フィンとチューブの総接触長さ)×100
判定は以下の基準によって行い、その結果を表3、4に示した。
ろう付後のフィン接合率 ◎:98%以上、○:90%以上98%未満、△:80%以上90%未満、×:80%未満
【0046】
・接合部幅評価
ろう付接合状態は上記接合率のみではなく、本発明の目的であるフィレット形成能の向上を確認するため、図3(b)に示したような接合部13の幅Wを各試料で20点計測し、その平均値をもって優劣を評価した。判定は以下の基準とし、表3、4に示した。
◎:0.8mm以上、○:0.7mm以上0.8mm未満、△:0.6mm以上0.7mm未満、×:0.6mm未満
【0047】
・最表面ろう材層Si粒子数割合
作製したクラッド材について、表面を0.1μmの砥粒で鏡面処理し、表面方向10000μm^(2)(100μm角)の観察視野において、EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いた全自動粒子解析を行った。測定した0.8μm以上の総粒子数中で、1.75μm以上のものの割合を表3、4に示した。
【0048】
・中間層ろう材Si粒子数
作製したクラッド材を切断し、切断面を0.1μmの砥粒で鏡面処理し、中間ろう材層10000μm^(2)(10×1000μm)の観察視野において、EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いた全自動粒子解析を行った。測定した0.25μm以上の総粒子数を表3、4に示した。
【0049】
実施例の何れも良好なろう付性を示したのに対し、比較例では十分な接合が得られなかった。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
以上、本発明について、上記実施形態および実施例に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態および実施例の内容に限定されるものではなく、本願発明を逸脱しない限りは、上記実施形態および実施例の内容を適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明を用いることで自動車用熱交換器のほか、鉄道車両、航空機、インバータやCPUなどの電子部品、各種プラント、産業や家電空調などに用いられるアルミニウム製の熱交換器、冷却器、ヒートシンク、放熱器などがフラックスを使用することなくろう付接合可能となる。本発明ではフラックスを使用しないため、ろう付後にフラックス残渣による表面品質や表面化成処理性の低下がなく、また、残渣起因のコンタミによる電気素子の不具合を生じない。
【符号の説明】
【0054】
1 ブレージングシート
2 アルミニウム合金芯材
3 アルミニウム合金ろう材
3a 中間ろう材層
3b 最表面ろう材層
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材の片面または両面に、質量%で、2?13%Siを含有し、Mg無添加のAl-Si系合金からなる最表面ろう材層と、質量%で、4?13%のSiおよび0.1?5.0%のMgを含有するAl-Si-Mg系合金からなる中間ろう材層がクラッドされており、前記中間ろう材層と前記最表面層ろう材の液相線温度差が50℃未満であり、さらに、前記最表面ろう材層に含まれるSi粒子が、表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、1.75μm以上の径のものの数の割合が10%以上であり、かつ、前記中間層ろう材層に含まれるSi粒子が、ろう材層の断面観察において、円相当径0.25μm以上のSi粒子が10000μm^(2)当たり3,000個未満であることを特徴とするフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項2】
前記最表面ろう材が質量%で、2%以上4%未満のSiを含有するAl-Si系合金からなることを特徴とする請求項1に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項3】
前記最表面ろう材が質量%で、0.1?1.0%のFeを含有するAl-Si系合金からなることを特徴とする請求項1または2に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項4】
前記最表面ろう材層と中間ろう材層のクラッド率が、ブレージングシート全厚みに対して片面当りそれぞれ1?30%であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項5】
前記中間ろう材層のろう材に、質量%で、0.01?0.5%のBiを含有することを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項6】
前記最表面ろう材層のろう材に、質量%で、0.01?0.5%のBiを含有することを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシートを用いて、酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気中で、フラックスを用いることなくアルミニウム部材同士の接合を行うことを特徴とするアルミニウム部材のフラックスフリーろう付方法。
【請求項8】
請求項1?6のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシートを用いて、酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気中で、フラックスを用いることなくアルミニウム部材同士の接合を行うことを特徴とする熱交換器の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-10-19 
出願番号 特願2017-30181(P2017-30181)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B23K)
P 1 651・ 536- YAA (B23K)
P 1 651・ 121- YAA (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 北村 龍平
亀ヶ谷 明久
登録日 2019-07-26 
登録番号 特許第6561081号(P6561081)
権利者 三菱アルミニウム株式会社
発明の名称 フラックスフリーろう付用のブレージングシート、フラックスフリーろう付方法および熱交換器の製造方法  
代理人 横井 幸喜  
代理人 横井 幸喜  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ