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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1370400
審判番号 不服2020-5393  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-21 
確定日 2021-01-14 
事件の表示 特願2017-209544「偏光板及び液晶パネル」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月22日出願公開、特開2018- 28689〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2017-209544号(以下「本件出願」という。)は、平成27年9月15日に出願した特願2015-181733号の一部を平成29年10月30日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年 9月 4日付け:手続補正書
令和 元年 7月 1日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 9月 4日提出:意見書
令和 元年 9月 4日提出:補正書
令和 元年11月13日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 1月10日提出:意見書
令和 2年 1月10日提出:補正書
令和 2年 1月22日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 4月21日提出:審判請求書
令和 2年 4月21日提出:手続補正書


第2 本件発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和2年4月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「 液晶セルと、前記液晶セルの両面に貼りつけられた一対の偏光板と、を備える液晶パネルであって、
前記偏光板は、偏光子と、前記偏光子上に配置された保護フィルムと、を備え、
前記偏光子の厚みが2μmより厚く5μm以下であり、
前記偏光板の偏光度が99.98%以上であり、
前記偏光板の全光線透過率が42%以上であり、
前記偏光板の外形形状は1300mm以上の長辺及び700mm以上の短辺を有する矩形であり、
0.125mm、0.5mm、1.0mm、及び、2.0mmの4種類の幅の光学くしに対する透過像鮮明度(%)の総和値(%)が200以上であり、
前記液晶セルのピクセルの面積が0.3mm^(2)以下であり、
前記液晶セルの駆動方式がVAモードである、液晶パネル。」

なお、令和2年4月21日提出の手続補正書による補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる事項(特許法第36条第5項に規定する請求項の削除)を目的としたものである。


第3 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?7に係る発明(令和2年4月21日に提出された手続補正書による補正前のもの)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である以下の引用文献に記載された発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献:特開2014-232126号公報


第4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
1 引用文献の記載事項
原査定の拒絶理由に引用され、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開2014-232126号公報(以下「引用文献」という。)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

(1)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置には、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光膜が配置されている。偏光膜の製造方法としては、例えば、樹脂基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層とを有する積層体を延伸し、次に染色処理を施して、樹脂基材上に偏光膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。このような方法によれば、厚みの薄い偏光膜が得られるため、近年の画像表示装置の薄型化に寄与し得るとして注目されている。
【0003】
ところで、上記偏光膜は、通常、保護フィルムと積層させて、偏光板として用いられる。しかし、樹脂基材を用いて作製した偏光膜を用いた偏光板は、その光学特性が不十分である場合がある。
・・・(省略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、優れた光学特性を有する偏光板を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの実施形態による偏光板の製造方法は、樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸、染色して、該樹脂基材上に偏光膜を作製する工程と、該偏光膜の該樹脂基材と反対側に第1の保護フィルムを積層する工程と、樹脂基材を剥離して、偏光膜の該樹脂基材を剥離した側に第2の保護フィルムを積層する工程と、を含み、該第1の保護フィルムおよび該第2の保護フィルムの少なくとも一方を、水分率が10%以下の接着剤を介して積層する。
1つの実施形態においては、上記製造方法は、上記第1の保護フィルムを、水系接着剤を介して積層する。
本発明の別の実施形態による偏光板の製造方法は、樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸、染色して、該樹脂基材上に偏光膜を作製する工程と、樹脂基材を剥離して、偏光膜の該樹脂基材を剥離した側に保護フィルムを積層する工程と、を含み、該保護フィルムを水分率が10%以下の接着剤を介して積層する。
1つの実施形態においては、上記接着剤は活性エネルギー線硬化型接着剤である。
本発明の別の局面によれば、偏光板が提供される。この偏光板は、上記製造方法により得られる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸、染色して、当該樹脂基材上に偏光膜を作製することを含む偏光板の製造方法において、当該偏光膜の片側または両側に積層される保護フィルムの少なくとも1つを、水分率が10%以下の接着剤を介して積層することにより、光学特性に優れた偏光板を作製することができる。」

(2)「【0011】
<第1の実施形態>
A.偏光膜の作製工程
A-1.積層体
図1は、本発明の偏光板の製造方法の一例を示す概略図である。図1(a)に示すように、積層体10は、樹脂基材11とポリビニルアルコール系樹脂層12とを有する。積層体10は、代表的には、長尺状の樹脂基材11にポリビニルアルコール系樹脂層12を形成することにより作製される。ポリビニルアルコール系樹脂層12の形成方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、樹脂基材11上に、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」という)を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層12を形成する。
・・・(省略)・・・
【0046】
A-5.偏光膜
上記偏光膜は、実質的には、二色性物質が吸着配向されたPVA系樹脂膜である。偏光膜の厚みは、代表的には25μm以下であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは7μm以下、特に好ましくは5μm以下である。一方、偏光膜の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。偏光膜は、好ましくは、波長380nm?780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率は、好ましくは40.0%以上、より好ましくは41.0%以上、さらに好ましくは42.0%以上、特に好ましくは43.0%以上である。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。
【0047】
B.第1の保護フィルムの積層
上記積層体(PVA系樹脂層)に上記各処理を施した後、図1(b)に示すように、積層体の偏光膜(PVA系樹脂層)12側に第1の保護フィルム21を積層する。代表的には、長尺状の積層体に長尺状の第1の保護フィルムを、互いの長手方向を揃えるようにして積層する。なお、本積層工程は、樹脂基材剥離後の剥離面に第2の保護フィルムを積層した後に行ってもよい。また、後述する第2の実施形態のように、本積層工程は省略してもよい。
・・・(省略)・・・
【0053】
C.第2の保護フィルムの積層
本実施形態においては、図1(c)に示すように、上記偏光膜12から樹脂基材11を剥離し、この剥離面に第2の保護フィルム22を積層する。代表的には、長尺状の偏光膜に長尺状の第2の保護フィルムを、互いの長手方向を揃えるようにして積層する。」

(3)「【0100】
[実施例1]
樹脂基材として、吸水率0.60%、Tg80℃の非晶質ポリエチレンテレフタレート(A-PET)フィルム(三菱化学社製、商品名「ノバクリア」、厚み:100μm)を用いた。
樹脂基材の片面に、重合度4200、ケン化度99.2モル%のポリビニルアルコールの水溶液を60℃で塗布および乾燥して、厚み10μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
【0101】
得られた積層体を、120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に1.8倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸)。
次いで、積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液)に60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に一軸延伸を行った(水中延伸)。ここで、積層体が破断する直前まで延伸した(最大延伸倍率は6.0倍)。
その後、積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
続いて、積層体から樹脂基材を剥離した後、この剥離面に下記に示す接着剤を硬化後の接着剤層厚みが0.5μmとなるように塗布し、保護フィルム(アクリル系樹脂フィルム、厚み40μm、透湿度80g/m^(2)・24h)を貼り合わせ、この貼り合わせたフィルム側からIRヒーターを用いて50℃に加温し、下記の紫外線を照射して接着剤を硬化させた。
こうして、厚み4.5μmの偏光膜を有する偏光板を作製した。
・・・(省略)・・・
【0107】
各実施例および比較例で得られた偏光板の偏光度および単体透過率を測定した。偏光度および単体透過率の測定方法は以下のとおりである。測定結果を、第1の保護フィルムおよび第2の保護フィルムの積層(接着)方式およびそれに用いた接着剤の水分率とともに表1に示す。また、実施例1において樹脂基材を剥離した後に第2の保護フィルムを積層せずに得た偏光板(参考例)の偏光度の測定結果も表1に示す。
なお、実施例1および参考例において、光学特性の測定は樹脂基材を剥離した状態で行った。これは、樹脂基材の表面反射の違いによる測定結果への影響をなくすためである。また、実施例2?4および比較例1においては、第1の保護フィルムの屈折率はおよそ1.50、第2の保護フィルムの屈折率はおよそ1.53である。また、実施例1においては、最表面の片面のPVA系樹脂の屈折率はおよそ1.53、最表面のもう一方の片面は屈折率がおよそ1.50のアクリル系樹脂フィルムからなる保護フィルムであり、最表面の屈折率の組合せは1.50/1.53である。いずれの構成においても、最表面の屈折率の組合せは1.50/1.53であり、表面反射による測定結果への影響が出ない構成にて比較を行った。
【0108】
(偏光度の測定方法)
紫外可視分光光度計(日本分光社製、製品名「V7100」)を用いて、偏光膜の単体透過率(Ts)、平行透過率(Tp)および直交透過率(Tc)を測定し、偏光度(P)を次式により求めた。
偏光度(P)(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}^(1/2)×100
なお、上記Ts、TpおよびTcは、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定し、視感度補正を行ったY値である。
【0109】
【表1】


【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の偏光板は、液晶テレビ、液晶ディスプレイ、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、カーナビゲーション、コピー機、プリンター、ファックス、時計、電子レンジ等の液晶パネル、有機ELデバイスの反射防止板として好適に用いられる。」

(4)図1



2 引用発明
引用文献の【0111】の本発明の偏光板が液晶パネルに用いられることについての記載と、引用文献の【0100】、【0101】、【0108】、【0109】の表1の実施例1としての偏光板についての記載に基づけば、引用文献には、実施例1として記載された偏光板を用いる液晶パネルとして、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 偏光板を用いる液晶パネルであって、
偏光板は、
樹脂基材として、吸水率0.60%、Tg80℃の非晶質ポリエチレンテレフタレートを用い、
樹脂基材の片面に、重合度4200、ケン化度99.2モル%のポリビニルアルコールの水溶液を60℃で塗布および乾燥して、厚み10μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製し、
得られた積層体を、120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に1.8倍に自由端一軸延伸し、
次いで、積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させ、
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液)に60秒間浸漬させ、
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させ、
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に一軸延伸を行い、積層体が破断する直前まで延伸し(最大延伸倍率は6.0倍)、
その後、積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させ、
続いて、積層体から樹脂基材を剥離した後、この剥離面に接着剤を硬化後の接着剤層厚みが0.5μmとなるように塗布し、保護フィルム(アクリル系樹脂フィルム、厚み40μm、透湿度80g/m^(2)・24h)を貼り合わせ、この貼り合わせたフィルム側からIRヒーターを用いて50℃に加温し、紫外線を照射して接着剤を硬化させて作製され、
厚み4.5μmの偏光膜を有し、
偏光度は99.997%であり、
単体透過率は42.5%である、
液晶パネル。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)偏光板
引用発明の「偏光板」は、その文言どおり、本願発明の「偏光板」に相当する。

(2)偏光子、保護フィルム
引用発明の「偏光板」は、「樹脂基材として」、「非晶質ポリエチレンテレフタレートを用い」、「樹脂基材の片面に」、「ポリビニルアルコールの水溶液を」「塗布および乾燥して、厚み10μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製し」、「得られた積層体を」、「自由端一軸延伸し」、「次いで、積層体を」、「不溶化浴」「に」「浸漬させ」、「次いで」、「染色浴」「に」「浸漬させ」、「次いで」、「架橋浴」「に」「浸漬させ」、「その後、積層体を」、「ホウ酸水溶液」「に浸漬させながら」、「一軸延伸を行い、積層体が破断する直前まで延伸し」、「その後、積層体を」「洗浄浴」「に浸漬させ」、「続いて、積層体から樹脂基材を剥離した後、この剥離面に接着剤を」「塗布し、保護フィルム」「を貼り合わせ」、「接着剤を硬化させて作製され」、「厚み4.5μmの偏光膜を有」する。
上記工程からみて、引用発明の「偏光膜」は、本願発明の「偏光子」に相当する。また、引用発明の「保護フィルム」及び「偏光板」は、その文言どおり、それぞれ本願発明の「保護フィルム」及び「偏光板」に相当する。
さらに、上記工程からみて、引用発明の「偏光板」は、偏光膜上に配置された保護膜を備えるといえる。そうしてみると、引用発明の「偏光板」は、本願発明の「偏光板」の「偏光子と、前記偏光子上に配置された保護フィルムと、を備え」との要件を満たす。

(3)偏光子の厚み
引用発明の「偏光膜」は、「厚み4.5μm」である。
そうしてみると、引用発明の「偏光膜」は、本願発明の「偏光子」の「厚みが2μmより厚く5μm以下であ」るとの要件を満たす。

(4)偏光板の偏光度及び全光線透過率
引用発明の「偏光板」は、「偏光度が99.997%であり」、「単体透過率は42.5%である」。
上記構成からみて、引用発明の「偏光板」は、本願発明の「偏光板」の「偏光度が99.98%以上であ」るとの要件及び「全光線透過率が42%以上であ」るとの要件を満たす。

(5)液晶パネル
上記(1)?(4)を総合すると、引用発明の「液晶パネル」は、その文言どおり、本願発明の「液晶パネル」に相当する。また、引用発明は、本願発明の「偏光板を備える液晶パネルであ」るとの要件を満たす。

2 一致点及び相違点
以上より、本願発明と引用発明とは、
「 偏光板を備える液晶パネルであって、
前記偏光板は、偏光子と、前記偏光子上に配置された保護フィルムと、を備え、
前記偏光子の厚みが2μmより厚く5μm以下であり、
前記偏光板の偏光度が99.98%以上であり、
前記偏光板の全光線透過率が42%以上である、液晶パネル。」の点で一致し、以下の点で相違するか、一応相違する。

(相違点1)
「液晶パネル」が、本願発明は、「液晶セルと、前記液晶セルの両面に貼りつけられた一対の偏光板と、を備える」のに対して、引用発明は、一応、この点が明らかでない点。

(相違点2)
「偏光板」が、本願発明は、「外形形状は1300mm以上の長辺及び700mm以上の短辺を有する矩形であ」るのに対して、引用発明は、このような特定がなされていない点。

(相違点3)
「偏光板」が、本願発明は、「0.125mm、0.5mm、1.0mm、及び、2.0mmの4種類の幅の光学くしに対する透過像鮮明度(%)の総和値(%)が200以上であ」るのに対して、引用発明は、透過像鮮明度が明らかでない点。
また、「液晶セル」が、本願発明は、「ピクセルの面積が0.3mm^(2)以下であ」るのに対して、引用発明は、そもそも上記相違点1で述べたような「液晶セル」を具備するかどうかが明らかでない点。
さらに、「液晶セル」が、本願発明は、「駆動方式がVAモードである」のに対して、引用発明は、そもそも上記相違点1で述べたような「液晶セル」を具備するかどうかが明らかでない点。

3 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用文献の【0002】には、「代表的な画像表示装置である液晶表示装置には、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光膜が配置されている。」と記載されている(技術常識である。)。
そうしてみると、上記相違点1は、実質的な差異ではない。

(2)相違点2及び3について
相違点2及び3は液晶パネルの仕様に関する事項である。
そこで、まず、引用発明の「液晶パネル」を、画面寸法が1300mm以上の長辺及び700mm以上の短辺を有する矩形であり、ピクセルの面積が0.3mm^(2)以下であり、駆動方式がVAモードであるものとすることが、容易想到であるかどうかについて、以下に検討する。
ア PrivateShow2014(”アストロデザイン、初の8K/98型液晶モニタ。約3,000万円”,[online],2014年6月19日,株式会社インプレス,[令和2年11月2日検索],インターネットhttps://av.watch.impress.co.jp/docs/news/654196.html)
2014年のアストロデザイン株式会社による「PrivateShow2014」において、シャープ製UV^(2)Aパネルを使った85型の8K液晶モニタが展示されている。ここで、UV^(2)Aは「UltraViolet induced multi-domain Vertical Alignment」の略であり、UV^(2)A液晶パネルは、紫外線を用いて形成させたマルチドメイン型のMVA液晶パネル(当合議体注:駆動方式はVAモード)である。また、液晶パネルは、85型の8Kであるから、画面寸法は幅約1882mm、高さ約1058mm、画素数は7680×4320である。そして、画素数と画面寸法との関係から、画素(ピクセル)の面積は、(1882mm/7680)×(1058mm/4320)=0.245mm×0.245mm=0.06mm^(2)と計算される。

イ CEATEC AWARD 2014(”SHARP News Release”,[online],2014年10月7日,シャープ株式会社,[令和2年11月2日検索],インターネットhttps://corporate.jp.sharp/news/141007-a.pdf)
「CEATEC JAPAN 2014」において、シャープ株式会社「フルスペック8Kディスプレイ」が総務大臣賞を受賞している。
液晶パネルの駆動方式、画面寸法及びピクセルの面積は、前記アと同様である。

ウ AQUOS 4K NEXT(”SHARP News Release”,[online],2015年5月21日,シャープ株式会社,[令和2年11月2日検索],インターネットhttps://corporate.jp.sharp/news/150521-a.pdf)
シャープ株式会社は、2015年5月に、8K解像度表示能力を持つ80V型(178.2cm×100.2cm)4K(水平3840×垂直2160画素)液晶パネル(UV^(2)A技術採用)を搭載した「AQUOS 4K NEXT」の販売開始を発表した。
前記アで述べたとおり、UV^(2)A技術採用の液晶パネルの駆動方式はVAモードである。そして、画面寸法は横178.2cm×縦100.2cm、ピクセルの面積は(1782mm/3840)×(1002mm/2160)=0.464mm×0.464mm=0.22mm^(2)と計算される。

エ TH-65AX800(”Panasonic VIERA 取扱説明書”,100頁,[online],2014年,パナソニック株式会社,[令和2年11月2日検索],インターネットhttps://dl-ctlg.panasonic.com/jp/manual/th/th_65_58_50ax800_58_50ax800f.pdf)
平成26年(2014年)にパナソニック株式会社製のハイビジョン液晶テレビが販売されたところ、当該製品に対応する型番TH-65AX800(65V型)の取扱説明書の100頁には、「表示パネル」欄に「液晶パネル 駆動方式:VA方式、バックライト:LED」、「画素数」欄に「水平3840×垂直2160」、「画面寸法」欄に「幅142.8cm 高さ80.4cm 対角163.9cm」と、それぞれ記載されている。また、画素数と画面寸法との関係から、画素(ピクセル)の面積は、(1428mm/3840)×(804mm/2160)=0.37mm×0.37mm=0.14mm^(2)と計算される。

以上ア?エの事実からみて、「画面寸法が1300mm以上の長辺及び700mm以上の短辺を有する矩形であり、ピクセルの面積が0.3mm^(2)以下であり、駆動方式がVAモードである液晶パネル」は、本件出願前の当業者が取りそろえるべき「液晶パネル」の仕様として周知であったといえる(当合議体注:必然的に、偏光板の外形寸法も、「1300mm以上の長辺及び700mm以上の短辺を有する矩形」となる。)。また、上記周知の液晶パネルのピクセルの寸法からみて、これが「0.125mm、0.5mm、1.0mm、及び、2.0mmの4種類の幅の光学くしに対する透過像鮮明度(%)の総和値(%)が200以上」の要件を満たす(液晶表示装置としたときに、このような解像度のものとなる)ことは明らかである。
したがって、引用発明の「液晶パネル」を上記相違点2及び3に係る本願発明の構成を具備したものとすることは、本件出願前の技術水準を心得た当業者が容易に想到し得たことである。

4 効果
本件明細書の【0016】に記載された「本発明によれば、明るく高品質な黒表示な表示品質を実現しつつも、薄型の液晶セルの反りを抑制できる偏光板等が提供される」との効果は、引用発明及び引用文献1から予測できる範囲内のことである。

5 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和2年4月21日提出の審判請求書において、「本願発明と引用文献3及び引用文献4に係る発明とを対比すると、引用文献3及び引用文献4には、構成要件(F)を備えるような偏光板並びに構成要件(H)及び(I)を備えるような液晶セルについて記載も示唆もありません。」(当合議体注:引用文献3は、引用文献のことである。また、構成要件(F)、(H)及び(I)は、それぞれ、上記2で示した相違点2、4及び5に係る本願発明の構成である。)、「そして、厚み、偏光度、全光線透過率及び形状が特定のものである偏光板を、ピクセルの面積が0.3mm^(2)以下、駆動方式がVAモードの液晶セルと組み合わせて液晶パネルとしたとき、反りが抑制されることに加えて、偏光板の透過像鮮明度の総和値が特定量以上であるとき、白表示評価、黒表示評価及び精細度評価がいずれも良好になるという本願発明の効果は、引用文献3-4、7-8に記載の発明に接した当業者であっても決して予測できない効果です。」と主張している。
しかしながら、前者については、上記3で述べたとおりであり、後者については、上記4で述べたとおりである。
したがって、審判請求人の上記主張は、採用することができない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-11-05 
結審通知日 2020-11-10 
審決日 2020-11-27 
出願番号 特願2017-209544(P2017-209544)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 神尾 寧
井口 猶二
発明の名称 偏光板及び液晶パネル  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 吉住 和之  
代理人 阿部 寛  
代理人 三上 敬史  

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