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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J |
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管理番号 | 1370532 |
審判番号 | 不服2020-1908 |
総通号数 | 255 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-03-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-02-12 |
確定日 | 2021-01-21 |
事件の表示 | 特願2018-175012「接着剤組成物及び接続体」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月 7日出願公開、特開2019- 19333〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年9月5日(優先権主張 平成25年10月16日)の出願である特願2014-180891号の一部を平成30年9月19日に新たな特許出願としたものであって、令和元年8月13日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年10月17日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月1日付けで拒絶査定がなされ(謄本送達は同月12日)、これに対して、令和2年2月12日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年3月25日に手続補正書(方式)が提出されたものである。 第2 令和2年2月12日付け手続補正についての補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和2年2月12日付け手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 特許法第17条の2第1項第4号に該当する手続補正である、令和2年2月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、そのうち請求項1についての補正は以下のとおりである。 (1-1)本件補正前の請求項1(すなわち、令和元年10月17日付け手続補正書の請求項1) 「 【請求項1】 (a)熱可塑性樹脂、 (b)ラジカル重合性化合物、 (c)ラジカル重合開始剤、 (d)分子内に6個以上のチオール基を有するチオール化合物、 (e)導電性粒子、 シランカップリング剤、及び絶縁性の有機又は無機微粒子を含有する接着剤組成物。」 (1-2)本件補正後の請求項1(すなわち、令和2年2月12日付け手続補正書の請求項1) 「 【請求項1】 (a)熱可塑性樹脂、 (b)ラジカル重合性化合物、 (c)ラジカル重合開始剤、 (d)分子内に6個以上のチオール基を有するチオール化合物、 (e)導電性粒子、 シランカップリング剤、及び絶縁性の有機又は無機微粒子を含有し、 前記(a)熱可塑性樹脂が、フェノキシ樹脂及びポリウレタン樹脂を含み、 前記(b)ラジカル重合性化合物が、リン酸基を有するラジカル重合性化合物及び単官能(メタ)アクリレート化合物(ただし、リン酸基を有するラジカル重合性化合物を除く)を含む、接着剤組成物。」(以下、「本件補正発明」ともいう。) 本件補正の前後の両請求項を対比すると、本件補正は、補正前の請求項1における発明を特定するために必要な事項である「熱可塑性樹脂」、「ラジカル重合性化合物」なる事項について、それぞれ、「フェノキシ樹脂及びポリウレタン樹脂を含み」、「リン酸基を有するラジカル重合性化合物及び単官能(メタ)アクリレート化合物(ただし、リン酸基を有するラジカル重合性化合物を除く)を含む」に限定するものであって、特許法第17条の2第5項第2号にいう特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 そこで、上記本件補正発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(すなわち、いわゆる独立特許要件を満たすか)について、進歩性(特許法第29条第2項)の観点から以下検討する。 2.独立特許要件の検討 (2-1)引用刊行物及びその記載事項 刊行物A:特開2011-32491号公報(原査定の引用文献1) 刊行物B:国際公開第96/031574号(周知技術を表す文献) A.刊行物A 原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物Aには、次の記載がある。 (1a)「【0024】 本発明の異方性導電フィルムにおいて、重合開始剤として2種類の有機過酸化物を含有する場合、そのうち、一分間半減期温度が低い有機過酸化物(以下、低温分解過酸化物と称する場合がある)の一分間半減期温度は、低すぎると硬化前の保存安定性が低下し、高すぎると異方性導電フィルムの硬化が不十分となる傾向があるので、好ましくは80℃以上120℃未満、より好ましくは90℃以上120℃未満である。他方、一分間半減期温度の高い有機過酸化物(以下、高温分解過酸化物と称する場合がある)の一分間半減期温度は、低いものが上市されておらず、高すぎるとそもそも想定した熱圧着温度では安息香酸またはその誘導体を発生させない傾向があるので、好ましくは120℃以上150℃以下である。 【0025】 また、低温分解過酸化物と高温分解過酸化物の間の一分間半減期温度差は、その差が小さすぎると低温分解過酸化物と高温分解過酸化物とが重合性アクリレート化合物と反応してしまい、接着強度の向上に寄与する安息香酸量が減少してしまう結果となり、大きすぎると異方性導電フィルムの低温での硬化反応性が低下する傾向があるので、好ましくは10℃以上30℃以下である。 【0026】 このような低温分解過酸化物と高温分解過酸化物との質量比は、前者が後者に対し相対的に少なすぎると異方性導電フィルムの低温での硬化反応性が低下し、逆に多すぎると接着強度が低下する傾向があるので、好ましくは10:1?1:5である。 【0027】 本発明で使用し得る低温分解過酸化物の具体例としては、ジイソブチリル パーオキサイド(一分間半減期温度 85.1℃)、1,1,3,3-テトラメチルブチル パーオキシ-2-エチルヘキサノエート(一分間半減期温度 124.3℃)、ジラウロイル パーオキサイド(一分間半減期温度 116.4℃)、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(一分間半減期温度 112.6℃)、t-ブチル パーオキシピバレート(一分間半減期温度 110.3℃)、t-ヘキシル パーオキシピバレート(一分間半減期温度 109.1℃)、t-ブチル パーオキシネオヘプタノエート(一分間半減期温度 104.6℃)、t-ブチル パーオキシネオデカノエート(一分間半減期温度 103.5℃)、t-ヘキシル パーオキシネオデカノエート(一分間半減期温度 100.9℃)、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート(一分間半減期温度 90.6℃)、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(一分間半減期温度 92.1℃)、1,1,3,3-テトラメチルブチル パーオキシネオデカノエート(一分間半減期温度 92.1℃)、ジ-sec-ブチル パーオキシジカーボネート(一分間半減期温度 85.1℃)、ジ-n-プロピル パーオキシジカーボネート(一分間半減期温度 85.1℃)、クミル パーオキシネオデカノエート(一分間半減期温度 85.1℃)等を挙げることができる。これらは、2種以上を併用することができる。 【0028】 また、高温分解過酸化物の具体例としては、ジ(4-メチルベンゾイル)パ ーオキサイド(一分間半減期温度128.2℃)、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド(一分間半減期温度131.1℃)、ジベンゾイル パーオキサイド(一分間半減期温度 130.0℃)、t-ヘキシル パーオキシベンゾエート(一分間半減期温度 160.3℃)、t-ブチル パーオキシベンゾエート(一分間半減期温度 166.8℃)等を挙げることができる。これらは、2種以上を併用することができる。また、フェニル環を有するこれらの高温分解過酸化物を使用することにより、異方性導電フィルムの凝集力を向上させることができるので接着強度を更に向上させることができる。」 (1b)「【0031】 本発明の異方性導電フィルムの絶縁性接着層及び導電性粒子含有層のそれぞれが含有する重合性アクリル系化合物としては、アクロイル基またはメタクロイル基(以下(メタ)アクロイル基と称する)を1つ以上、導通信頼性向上のために好ましくは2つ以上、特に2つ有する化合物である。なお、重合性アクリル系化合物は、絶縁性接着層及び導電性粒子含有層で、全く同じ具体的な化合物であってもよいし、異なっていてもよい。 【0032】 重合性アクリル系化合物の具体的な例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、リン酸エステル型アクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート、2-アクリロイロキシエチルコハク酸、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、o-フタル酸ジグリシジルエーテルアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、ビスフェノールA型エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート等、及びこれらに相当する(メタ)アクリレートを挙げることができる。 【0033】 なお、重合性アクリル系化合物として、高い接着強度と導通信頼性とを得る点から、2官能アクリレート5?40質量部と、ウレタンアクリレート10?40質量部と、リン酸エステル型アクリレート0.5?5質量部とを併用することが好ましい。ここで、2官能アクリレートは硬化物の凝集力を向上させ、導通信頼性を向上させるために配合され、ウレタンアクリレートはポリイミドに対する接着性向上のために配合され、そしてリン酸エステル型アクリレートは金属に対する接着性向上のために配合される。 【0034】 重合性アクリル系化合物の絶縁性接着層及び導電性粒子含有層のそれぞれにおける使用量は、少なすぎると導通信頼性が低くなり、多すぎると接着強度が低くなる傾向があるので、好ましくは樹脂固形分(重合性アクリル系化合物とフィルム形成樹脂との合計)の20?70質量%、より好ましくは30?60質量%である。 【0035】 本発明の異方性導電フィルムの絶縁性接着層及び導電性粒子含有層のそれぞれが使用するフィルム形成樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、EVA等の熱可塑性エラストマー等を使用することができる。中でも、耐熱性、接着性のために、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、特にフェノキシ樹脂、例えばビスA型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するフェノキシ樹脂を挙げることができる。ここで、フルオレン骨格を有するフェノキシ樹脂は、硬化物のガラス転移点を上昇させる特性を有する。従って、絶縁性接着層ではなく導電性粒子含有層だけに配合することが好ましい。その場合、フィルム形成樹脂中のフルオレン骨格を有するフェノキシ樹脂の割合は、好ましくは3?30質量%、より好ましくは5?25質量%である。」 (1c)「【0040】 本発明の異方性導電フィルムの絶縁性接着層及び導電性粒子含有層のそれぞれは、必要に応じて、各種アクリルモノマー等の希釈用モノマー、充填剤、軟化剤、着色剤、難燃化剤、チキソトロピック剤、カップリング剤等を含有することができる。」 (1d)「【0049】 実施例1?12、比較例1?6 表2の配合組成をそれぞれ常法により均一に混合することにより導電性粒子含有層形成用組成物及び絶縁性接着層形成用組成物を調製した。続いて、剥離処理ポリエステルフィルムに、絶縁性接着層形成用組成物を乾燥厚が18μmとなるようにバーコーターにより塗布し、70℃の熱風を5分間吹き掛けて乾燥させることにより絶縁性接着層を形成した。次に、絶縁性接着層上に、導電性粒子含有層形成用組成物を、乾燥厚が17μmとなるようにバーコーターにより塗布し、70℃の熱風を5分間吹き掛けて乾燥させることにより導電性粒子含有層を形成した。これにより、異方性導電フィルムを得た。 【0050】 【表2】 【0051】 <表2注(チオール化合物)> PEMP: ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、SC有機化学(株) TEMPIC: トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、SC有機化学(株) TMMP: トリメチロールプロパン トリス(3-メルカプトプロピオネート)、SC有機化学(株) DPMP: ジペンタエリスリトール ヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、SC有機化学(株) EHMP: 2-エチルヘキシル-3-メルカプトプロピオネート、SC有機化学(株) EGMP-4: テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、SC有機化学(株) 【0052】 得られた異方性導電フィルムの接着強度と接続信頼性(初期、エージング後)とを試験評価するために、まず、以下に説明するように、異方性導電フィルムを用いて接続構造体を作製した。 【0053】 <接続構造体の作製> ガラスエポキシ基板表面の35μm厚の銅箔に200μmピッチの配線が形成されたプリント配線板(PWB)に対し、異方性導電フィルムを、その導電性粒子含有層側がPWB側になるように配し、80℃、1MPa、2秒という条件で加熱圧着し、剥離PETフィルムを引き剥がし、PWB表面に異方性導電フィルムを仮接着した。この異方性導電フィルムに対し、COF基板(厚さ38μmのポリイミドフィルムに200μmピッチの厚さ8μmの銅配線を形成した配線基板)の銅配線部分を載せ、130℃、3MPa、3秒又は190℃、3MPa、5秒という条件で圧着して評価用の接続構造体を得た。 【0054】 <接続強度試験> 得られた接続構造体のPWBに対しCOF基板を、剥離試験機((株)エー・アンド・デイ)を用いて、剥離速度50mm/分で90度剥離試験(JIS K6854-1)を行い、ピール強度を接着強度として測定し、以下の基準で評価した。実用上、AAもしくはA評価であることが望まれる。 ・・・・ 【0058】 【表3】 」 B.刊行物B 本願優先日前に頒布された刊行物Bには、次の記載がある。 (2a)「請求の範囲 1. (1)重量平均分子量が5,000未満のエポキシ樹脂及びその硬化剤を合わせて100重量部、(2)エポキシ樹脂と相溶性がありかつ重量平均分子量が30,000以上の高分子量成分10?40重量部、(3)エポキシ樹脂と非相溶性でありかつ重量平均分子量が30,000以上の高分子量成分20?100重量部及び(4)硬化促進剤0.1?5重量部からなる接着剤。 2. カップリング剤0.1?10重量部を更に含有する請求の範囲1記載の接着剤。 3. カップリング剤がシランカップリング剤である請求の範囲2記載の接着剤。 4. 無機イオン吸着剤0.5?10重量部を更に含有する請求の範囲1記載の接着剤。 5. 無機イオン吸着剤がアンチモン-ビスマス系化合物である請求の範囲4記載の接着剤。 6. 接着剤を、DSCを用いて測定した場合の全硬化発熱量の10?40%の発熱を終えた状態にした請求の範囲1記載の接着剤。 7. 更に無機フィラーを含有し、接着剤中の無機フィラーの割合が13?38体積%である請求の範囲1に記載の接着剤。 8. 無機フィラーがアルミナ又はシリカである請求の範囲7記載の接着剤。 ・・・」 (2-2)刊行物Aに記載された発明 上記刊行物Aの実施例6には、「絶縁性接着層上に、ビスフェノールA型エポキシタイプフェノキシ樹脂、2官能アクリルモノマー、ウレタンアクリレート、リン酸エステル型アクリレート、Ni粒子、ジラウロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド及びDPMPからなる導電性粒子含有層形成用組成物を塗布した異方性導電フィルム」(以下、「引用発明」という。)が、記載されている(摘記1d参照)。 (2-3)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「ビスフェノールA型エポキシタイプフェノキシ樹脂」、「リン酸エステル型アクリレート」、「Ni粒子」は、それぞれ、本件補正発明の「(a)熱可塑性樹脂・・・前記(a)熱可塑性樹脂が、フェノキシ樹脂を含み」、「(b)ラジカル重合性化合物・・・前記(b)ラジカル重合性化合物が、リン酸基を有するラジカル重合性化合物を含む」、「(e)導電性粒子」に相当する。 引用発明の「ジラウロイルパーオキサイド」及び「ジベンゾイルパーオキサイド」は、重合開始剤であるから(摘記1b参照)、本件補正発明の「(c)ラジカル重合開始剤」に相当する。 引用発明のDPMPは、ジペンタエリスリトール ヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)であるから(摘記1d参照)、本件補正発明の「(d)分子内に6個以上のチオール基を有するチオール化合物」に相当する。 引用発明の「異方性導電フィルム」は、上記摘記1dの段落【0052】?【0054】にあるようにプリント配線板に対してCOF基板を接着するものであるから、本件補正発明の「接着剤組成物」に相当する。 そうすると、本件補正発明と引用発明とは、 「(a)熱可塑性樹脂、 (b)ラジカル重合性化合物、 (c)ラジカル重合開始剤、 (d)分子内に6個以上のチオール基を有するチオール化合物、 (e)導電性粒子、 を含有し、 前記(a)熱可塑性樹脂が、フェノキシ樹脂を含み、 前記(b)ラジカル重合性化合物が、リン酸基を有するラジカル重合性化合物を含む、接着剤組成物。」である点で一致し、下記の点で相違する。 <相違点1> 熱可塑性樹脂について、本件補正発明はフェノキシ樹脂及びポリウレタン樹脂を含むものであるのに対して、引用発明はフェノキシ樹脂を含有するものである点。 <相違点2> モノマーに関して、本件補正発明は、「リン酸基を有するラジカル重合性化合物及び単官能(メタ)アクリレート化合物(ただし、リン酸基を有するラジカル重合性化合物を除く)」を含むものであるのに対して、引用発明は、2官能アクリルモノマー、ウレタンアクリレート及びリン酸エステル型アクリレートを含むものである点。 <相違点3> 本件補正発明はシランカップリング剤を含むものであるのに対して、引用発明はその点の限定がない点。 <相違点4> 本件補正発明は絶縁性の有機又は無機微粒子を含むものであるのに対して、引用発明はその点の限定がない点。 (2-4)相違点の検討 <相違点1>について 刊行物Aには、フィルム形成樹脂として、ポリウレタン樹脂を用いることができることが記載されているから(摘記1bの段落【0035】参照)、かかる記載に基づいて、ポリウレタン樹脂をさらに配合することは、当業者が容易になし得ることである。 <相違点2>について 刊行物Aには、重合性アクリル系化合物としてシクロヘキシルアクリレートなどの単官能(メタ)アクリレートを用いることができることが、記載されているから(摘記1bの段落【0032】参照)、かかる記載に基づいて、引用発明における2官能アクリルモノマー、ウレタンアクリレートに代えて、もしくは加えて、シクロヘキシルアクリレートなどの単官能(メタ)アクリレートを配合することは、当業者が容易になし得ることである。 <相違点3>について 刊行物Aには引用発明がカップリング剤を含んでもよいことが記載されており(摘記1c参照)、刊行物Bに記載されるようにシランカップリング剤は代表的なカップリング剤であるから(摘記2a参照)、カップリング剤としてシランカップリング剤を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 <相違点4について> 刊行物Aに記載された発明の属する技術分野における充填剤は、刊行物Bに記載されるように、通常、無機か有機のいずれかの絶縁性のものであるから(摘記2a参照)、引用発明において絶縁性の有機又は無機微粒子を含むものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2-5)本件補正発明の効果について 本願明細書の記載からみて、上記相違点に基づいて、当業者でも予測し得ない効果や格別顕著な効果が奏されるとは認められない。 (2-6)審判請求人の主張 請求人は、令和2年3月25日付け審判請求書の手続補正書において、「本願発明は、「ラジカル硬化型接着剤において、従来よりも低温且つ短時間の接続条件でも十分な接続信頼性を維持することが可能な接着剤組成物を提供することを目的と」してなされたものであり(本願明細書の段落[0013])、特に本願実施例等によれば、単層、2層にかかわらず、単層であっても上記の効果が得られることが見て取れます。このような効果は、2層タイプが発明の前提となっている引用文献1の記載から、当業者が到底予測できない異質な効果であると思料します。そうであれば、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるべきものではないと思料します。」旨、主張している。 しかし、本件補正発明は、いずれも単層のフィルム状接着剤であるという特定がなされていないから、請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものといえない。 よって、請求人の主張は採用できない。 (2-7)小括 したがって、本件補正発明は、刊行物Aに記載された発明及び刊行物Bに記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願発明は、令和元年10月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1は次のとおりである。 「 【請求項1】 (a)熱可塑性樹脂、 (b)ラジカル重合性化合物、 (c)ラジカル重合開始剤、 (d)分子内に6個以上のチオール基を有するチオール化合物、 (e)導電性粒子、 シランカップリング剤、及び絶縁性の有機又は無機微粒子を含有する接着剤組成物。」(以下、「本願発明」という。) 2 原査定の拒絶理由 原査定の拒絶の理由は、「令和元年8月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由2」であって、要するに、この出願の請求項1?8に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 そして、該拒絶の理由において引用された刊行物は次のとおりである。 <引用文献等一覧> 1.特開2011-32491号公報 3 引用刊行物 査定の拒絶の理由で引用された刊行物1は、上記刊行物Aにほかならず、刊行物Aの記載事項は、前記「2(2-1)A」に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記「第2 1(1-1)」で検討した本件補正発明の「前記(a)熱可塑性樹脂が、フェノキシ樹脂及びポリウレタン樹脂を含み」、「前記(b)ラジカル重合性化合物が、リン酸基を有するラジカル重合性化合物及び単官能(メタ)アクリレート化合物(ただし、リン酸基を有するラジカル重合性化合物を除く)を含む」との事項が、それぞれ、「熱可塑性樹脂」、「ラジカル重合性化合物」に拡張されたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記事項によって限定したものに相当する本件補正発明が、前記「第2(2-7)」に記載したとおり、当該刊行物Aに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、当該刊行物Aに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-11-10 |
結審通知日 | 2020-11-17 |
審決日 | 2020-12-01 |
出願番号 | 特願2018-175012(P2018-175012) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(C09J)
P 1 8・ 121- Z (C09J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松原 宜史 |
特許庁審判長 |
門前 浩一 |
特許庁審判官 |
川端 修 瀬下 浩一 |
発明の名称 | 接着剤組成物及び接続体 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 阿部 寛 |
代理人 | 熊谷 祥平 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 平野 裕之 |
代理人 | 清水 義憲 |