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審決分類 審判 査定不服 特39条先願 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1371530
審判番号 不服2020-5429  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-21 
確定日 2021-03-05 
事件の表示 特願2018-179241号「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月13日出願公開、特開2018-196834号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年8月5日に出願した特願2014-159939号(以下「原出願」という。)の一部を、平成28年12月1日に新たな特許出願とした特願2016-234377号の一部を、平成30年9月25日に新たな特許出願としたものであって、平成31年4月11日に手続補正がなされ、令和1年6月20日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月19日に意見書が提出されるとともに、手続補正がなされたところ、令和2年1月28日付け(送達日:同年2月3日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、それに対して、令和2年4月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


第2 本願発明
1 本願発明の発明特定事項
この出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の発明特定事項は、令和1年8月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。(なお、A?Iは、発明特定事項を分説するため当審で付したものである。)

A 遊技者の操作によって遊技媒体が打込まれる遊技領域と、
B 該遊技領域内に打込まれた遊技媒体を受入可能とされており遊技媒体の受入れによって特典を付与する受入口と、
C 該受入口よりも前記遊技領域内の上流側に配置され、左右に延びていると共に左右両端部のうちの一方の端部側が低くなるように上面が傾斜している固定棚部と、
D 該固定棚部において上面の左右の低くなっている端部側よりも左右方向外側で該固定棚部との間で遊技媒体が通過可能な間隔を開けて上下に延びており、該固定棚部の上面を転動した遊技媒体が当接可能とされている立壁部と、
E 前記遊技領域内に遊技媒体が打込まれることで変化する遊技状態に応じて前記固定棚部よりも下側の位置で前記遊技領域内に突出し、左右に延びていると共に前記立壁部と前記固定棚部との間を流通した遊技媒体を前記立壁部から遠ざかる方向で且つ前記受入口の方向へ案内可能とされている可動棚部と
を具備し、
F 遊技者の操作によって打込まれた遊技媒体が前記可動棚部により前記受入口の方向へ案内されたものの前記受入口に受入れられない場合に流下する流路として、遊技機外へ排出されることとなるアウト口へ至る流路を有し、
G 前記可動棚部の動作はソレノイドによって行われ、
H 前記受入口は遊技媒体の受入れによって特典を付与するとともに、特別図柄の抽選を実行可能な始動口である
Iことを特徴とする遊技機。

2 本願発明の発明特定事項が示す技術事項
(1)本願発明の発明特定事項に含まれる「受入口」が示す技術事項
本願発明の発明特定事項Bで「該遊技領域内に打込まれた遊技媒体を受入可能とされており遊技媒体の受入れによって特典を付与する受入口」と特定される「受入口」について、本願発明の発明特定事項Hで示されるとおり、「遊技媒体の受入れによって特典を付与するとともに、特別図柄の抽選を実行可能な始動口である」と認められる。

(2)本願発明の発明特定事項に含まれる「特典」が示す技術事項
本願発明の発明特定事項Bの「遊技媒体の受入れによって特典を付与する」との記載のみからでは、当業者の技術常識を考慮すると、「特典」は、入賞口に遊技媒体が入球することによって得られる賞球、入賞口に遊技媒体が入球することによって得られる特別図柄による抽選が含まれると解される。(このことは、本願の明細書の段落【1466】等の「第2始動口1153に遊技媒体Tが受け入れられると、遊技媒体Tの払出しや特別抽選結果の抽選等の特典が付与される」という記載にも合致する。)
しかし、本願発明の発明特典事項Hにおいて、「特別図柄の抽選を実行可能な」ことは「特典」に含まれないと解されるから、本願発明の発明特定事項に含まれる「特典」は、入賞口に遊技媒体が入球することによって得られる賞球のみを含むと認められる。(このことは、本願の手続における令和1年8月19日付けの意見書での「先願1において特定されていない「前記受入口は遊技媒体の受入れによって特典を付与するとともに、特別図柄の抽選を実行可能な始動口である」ことを特定し、遊技媒体の受入れによって特典のみが付与される所謂一般入賞口を包含しないように特定しております。」という請求人の主張にも合致する。)


第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、原出願の出願前の下記の出願(以下「先願」という。)に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができない、というものである。

特願2013-116866号(特許第6351088号公報)


第4 先願発明
1 先願発明の発明特定事項
原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の出願前である平成25年6月3日に、本願の出願人と同一人が出願した特願2013-116866号の請求項1に係る発明(以下「先願発明」という。)の発明特定事項は、平成30年6月15日に特許第6351088号として登録された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(なお、a?f、i,jは、合議体が付したものであり、そのうち、a?f、iは、本願発明の発明特定事項A?F、Iに対応させて付したものである。)

a 遊技者の操作によって遊技媒体が打込まれる遊技領域と、
b 該遊技領域内に打込まれた遊技媒体を受入可能とされており遊技媒体の受入れによって特典を付与する受入口と、
c 該受入口よりも前記遊技領域内の上流側に配置され、左右に延びていると共に左右両端部のうちの一方の端部側が低くなるように上面が傾斜している固定棚部と、
d 該固定棚部において上面の左右の低くなっている端部側よりも左右方向外側で該固定棚部との間で遊技媒体が通過可能な間隔を開けて上下に延びており、該固定棚部の上面を転動した遊技媒体が当接可能とされている立壁部と、
e 前記遊技領域内に遊技媒体が打込まれることで変化する遊技状態に応じて前記固定棚部よりも下側の位置で前記遊技領域内に突出し、左右に延びていると共に前記立壁部と前記固定棚部との間を流通した遊技媒体を前記立壁部から遠ざかる方向で且つ前記受入口の方向へ案内可能とされている可動棚部と
を具備し、
f 遊技者の操作によって打込まれた遊技媒体が前記可動棚部により前記受入口の方向へ案内されたものの前記受入口に受入れられない場合に流下する流路として、遊技機外へ排出されることとなるアウト口へ至る流路を有し、
j大入賞口が閉鎖されている状態にあるときに前記アウト口へ至る流路を流下した遊技媒体は、遊技者の操作によって前記遊技領域に打込まれてから入賞による遊技価値の付与が遊技者にされることなく遊技機外へ排出される
iことを特徴とする遊技機。

2 先願発明の発明特定事項が示す技術事項
(1)先願発明の発明特定事項に含まれる「受入口」、「特典」が、それぞれ示す技術事項
先願発明の発明特定事項bで「該遊技領域内に打込まれた遊技媒体を受入可能とされており遊技媒体の受入れによって特典を付与する受入口」という特定からは、「受入口」は、「遊技媒体を受入可能」であり、「遊技媒体の受入れによって」何らかの「特典を付与する」ものと解されるところ、当業者の技術常識を考慮すると、「受入口」は、賞球のみを付与する一般入賞口、賞球を付与する他に特別図柄の抽選が可能となる始動入賞口、特別図柄による抽選に当選したときに賞球を付与する大入賞口の3種類を含み、「特典」は、賞球、特別図柄による抽選が可能となることを含むと認められる。

(2)先願発明の発明特定事項に含まれる「入賞による遊技価値の付与」が示す技術事項
ア 当業者の技術常識を考慮すると、「入賞による遊技価値の付与」は、入賞口(通常は、すべての入賞口)に遊技媒体が入球することによって賞球が得られること、入賞口(通常は、始動入賞口)に遊技媒体が入球することによって特別図柄による抽選が得られることが含まれると解される。(上記(1)で認定した「特典」と同じである。)

イ 先願の明細書には「遊技価値」という記載はないから、先願の明細書を参照しても、「入賞による遊技価値の付与」が示す技術事項は明らかにならない。

ウ 先願の出願人(請求人と同一人)は、先願における平成29年6月29日付けの意見書で、
「特許請求の範囲の請求項1に係る補正事項である「遊技者の操作によって打込まれた遊技媒体が前記可動棚部により前記受入口の方向へ案内されたものの前記受入口に受入れられない場合に流下する流路として、遊技機外へ排出されることとなるアウト口へ至る非入賞流路を有し、前記非入賞流路を流下した遊技媒体は遊技者の操作によって前記遊技領域に打込まれてから入賞による遊技価値の付与が遊技者にされることなく遊技機外へ排出される」とする補正の根拠は、例えば、出願当初明細書の段落[0613]、[0693]、[0694]、「0703」、[0709]、図121など記載に基づきます。具体的には「始動口扉部材1214の上面を転動したものの第二始動口1153に受入れられなかった遊技媒体(段落[0709]に記載)」は、第二始動口領域下棚部1161iの上へ流下するため、「第二始動口領域左立壁部1161mの右側に沿って流下し第二始動口領域下棚部1161iの上へ流下した遊技媒体(段落[0694]に記載)」と同様の流路を流下することは明らかであり、第二始動口領域下棚部1161iの上へ流下した遊技媒体は段落[0694]に記載されている通り「第二始動口領域下棚部1161iの上面を左方へ転動した後に、第二始動口領域下棚部1161iの左端から大入賞口1154の前面を通るように左下へ放出される。」こととなります。そして、大入賞口1154の前面を通るように左下へ放出された遊技媒体はいずれの入賞口に受入れられることなくアウト口1112aから排出されることは明らかであります。」
と主張するが、この主張からも、「入賞による遊技価値の付与」が示す技術事項は明らかにならない。

エ 以上の検討から、先願発明の「入賞による遊技価値の付与」という発明特定事項が示す技術事項は、当業者の技術常識を考慮して、入賞口に遊技媒体が入球することによって賞球が得られること、入賞口に遊技媒体が入球することによって特別図柄による抽選が得られることが含まれるものと認める。


第5 対比
本願発明と先願発明を対比する。対比に際しては、上記第2の2及び上記第4の2で認定した技術事項を前提とする。

本願発明の特定事項A、C?F、Iと先願発明の特定事項a、c?f、iが同一であることは明らかであるから、本願発明と先願発明は、

A 遊技者の操作によって遊技媒体が打込まれる遊技領域と、
C 該受入口よりも前記遊技領域内の上流側に配置され、左右に延びていると共に左右両端部のうちの一方の端部側が低くなるように上面が傾斜している固定棚部と、
D 該固定棚部において上面の左右の低くなっている端部側よりも左右方向外側で該固定棚部との間で遊技媒体が通過可能な間隔を開けて上下に延びており、該固定棚部の上面を転動した遊技媒体が当接可能とされている立壁部と、
E 前記遊技領域内に遊技媒体が打込まれることで変化する遊技状態に応じて前記固定棚部よりも下側の位置で前記遊技領域内に突出し、左右に延びていると共に前記立壁部と前記固定棚部との間を流通した遊技媒体を前記立壁部から遠ざかる方向で且つ前記受入口の方向へ案内可能とされている可動棚部と
を具備し、
F 遊技者の操作によって打込まれた遊技媒体が前記可動棚部により前記受入口の方向へ案内されたものの前記受入口に受入れられない場合に流下する流路として、遊技機外へ排出されることとなるアウト口へ至る流路を有し、
Iことを特徴とする遊技機。
で一致し、以下の点で、一応相違する。

・相違点1(発明特定事項G)
本願発明では、
「前記可動棚部の動作はソレノイドによって行われ」るのに対して、
先願発明では、そのような特定がない点。

・相違点2(発明特定事項B、H、b)
本願発明では、
「該遊技領域内に打込まれた遊技媒体を受入可能とされており遊技媒体の受入れによって特典を付与する受入口」を具備し、
「前記受入口は遊技媒体の受入れによって特典を付与するとともに、特別図柄の抽選を実行可能な始動口であ」って、このうちの「特典」が入賞口に遊技媒体が入球することによって得られる賞球のみを含むと認められるのに対して、
先願発明では、
「該遊技領域内に打込まれた遊技媒体を受入可能とされており遊技媒体の受入れによって特典を付与する受入口」を具備し、このうちの「受入口」が賞球のみを付与する一般入賞口、賞球を付与する他に特別図柄の抽選が可能となる始動入賞口、特別図柄による抽選に当選したときに賞球を付与する大入賞口の3種類を含み、「特典」が賞球、特別図柄による抽選が可能となることを含むと認められる点。

・相違点3(発明特定事項j)
先願発明では、
「大入賞口が閉鎖されている状態にあるときに前記アウト口へ至る流路を流下した遊技媒体は、遊技者の操作によって前記遊技領域に打込まれてから入賞による遊技価値の付与が遊技者にされることなく遊技機外へ排出される」のに対して、
本願発明では、そのような特定がない点。


第6 判断
1 相違点1について
可動部材を動作させる手段としてソレノイドを使用することは、機械装置一般において、例を挙げるまでもなく周知であり、遊技機においても、例えば、特開2014-104202号公報(段落【0106】、図8等参照)、特開2014-57771号公報(段落【0051】、図9等参照)等に示されるように周知であって、かつ、本願発明が発明特定事項Gを備えることで、新たな効果を奏するとも認められない。
すると、本願発明が発明特定事項Gを備えることは、周知技術の付加であって、新たな効果を奏するものではないから、相違点1は、課題解決のための具体化手段における微差であって、実質的な相違点とはいえない。

2 相違点2について
先願発明では、上記第4の2(1)で、「受入口」が賞球のみを付与する一般入賞口、賞球を付与する他に特別図柄の抽選が可能となる始動入賞口、特別図柄による抽選に当選したときに賞球を付与する大入賞口の3種類を含むと認定したところ、先願発明は、さらに、発明特定事項c?eにより、「受入口」の周囲に、遊技領域内に突出する可動部材である「可動棚部」のほか、「固定棚部」、「立壁部」とを備えることで、「遊技媒体」を「受入口」に案内可能とする構成を有することが特定されている。
当業者の技術常識から、このような「遊技媒体」を「受入口」に案内可能とする可動部材を備える入賞口は、上記3種類のうちの始動入賞口と大入賞口であると認められる。(遊技機において、一般入賞口にはこのような可動体が設けられないことが標準的である。)
また、先願発明には、発明特定事項として「大入賞口」が「受入口」とは別途特定されている(発明特定事項j)から、「受入口」は「大入賞口」ではないと解するのが相当である。
すると、先願発明の「受入口」は、発明特定事項として明示的に特定されないものの、実質的に、賞球を付与する他に特別図柄の抽選が可能となる始動入賞口を示すと認めるのが相当である。

これに対して、本願発明では、「前記受入口は遊技媒体の受入れによって特典を付与するとともに、特別図柄の抽選を実行可能な始動口である」(発明特定事項H)と明示的に特定している。(なお、本願発明の発明特定事項の「特典」は、上記第2の2(2)で、入賞口に遊技媒体が入球することによって得られる賞球のみを含むと認定している。)

以上の検討から、相違点2は、本願発明では、「前記受入口は、遊技媒体の受入れによって特典を付与するとともに、特別図柄の抽選を実行可能な始動口である」と明示的に特定されるのに対して、先願発明では、実質的に、賞球を付与する他に特別図柄の抽選が可能となる始動入賞口を示すと認められることによる相違点であるから、相違点2は実質的な相違点ではない。

なお、先願発明では、その発明特定事項の記載のみからでは、「受入口」が始動入賞口ではないものを含むと解する余地が全くないわけではない。しかし、先願の明細書及び図面には、その周囲に「可動棚部」、「固定棚部」及び「立壁部」を備えた「受入口」に対応する構成としては、「第二始動口1153」が記載されるのみであって、他に、このような「受入口」に対応する構成の記載も示唆もないから、「受入口」が始動入賞口ではないものを含むと解した先願発明は、先願の発明の詳細な説明に記載したものではないと判断し得るものである点に留意する必要がある。

3 相違点3について
(1)先願発明の「大入賞口が閉鎖されている状態にあるときに前記アウト口へ至る流路を流下した遊技媒体は、遊技者の操作によって前記遊技領域に打込まれてから入賞による遊技価値の付与が遊技者にされることなく遊技機外へ排出される」が示す技術事項について検討する。

ア 上記第4の2(2)で認定したとおり、先願発明の発明特定事項jの「入賞によ」り「付与」される「遊技価値」は、発明特定事項bの「遊技媒体の受入れによって」「付与」される「特典」と、同じ技術事項を示す。

イ 当業者の技術常識から、「入賞による遊技価値の付与」の入賞は、一般入賞口、始動入賞口、大入賞口に遊技媒体が入球することであり、これらの入賞口に入球した遊技媒体は遊技領域内に戻らず、遊技領域から排出されることは自明である。
すると、「遊技者の操作によって前記遊技領域に打込まれてから入賞による遊技価値の付与が遊技者にされることなく遊技機外へ排出される」という発明特定事項は、遊技領域に打ち込まれた遊技媒体がどの入賞口にも入球せずに、アウト口を介して遊技領域から排出されることを示すと認められる。

ウ 「前記アウト口へ至る流路を流下した遊技媒体」は、「受入口に受け入れられ」ずに、「受入口」の下側に流下した「遊技媒体」を示すと認められる。

エ 上記ア?ウの検討から、先願発明の「大入賞口が閉鎖されている状態にあるときに前記アウト口へ至る流路を流下した遊技媒体は、遊技者の操作によって前記遊技領域に打込まれてから入賞による遊技価値の付与が遊技者にされることなく遊技機外へ排出される」(発明特定事項j)は、
まず、遊技領域に打ち込まれた遊技媒体がどの入賞口にも入球せずに、「受入口」の近傍に達し、その後、「受入口に受け入れられ」ずに、「受入口」の下側に流下した「遊技媒体」は、「大入賞口が閉鎖されている状態にあるときに」(大入賞口は、閉鎖されていると、遊技媒体は入球しないことが、当業者の技術常識である。)、どの入賞口にも入球せずに、「アウト口」へ達して、遊技領域から排出されることを示すと認められる。(なお、遊技領域に打ち込まれた遊技媒体が「受入口」より上側にある他の入賞口に入球すると、「受入口」に達することができないから、遊技領域に打ち込まれた遊技媒体がどの入賞口にも入球せずに、「受入口」の近傍に達することは、遊技機において当然のことにすぎない。)

オ ここで、一般入賞口は、遊技媒体の入球を制御する可動体を持たないことが技術常識であるから、先願発明の発明特定事項jにおける、「アウト口へ至る流路」中に配置されていないことは自明である。

カ 「大入賞口が閉鎖されている状態にあるときに」であるから、大入賞口は「アウト口へ至る流路」中に配置され得ることは自明である。(なお、「大入賞口が閉鎖されている状態にあるときに」という発明特定事項から、先願発明の「遊技機」は、「大入賞口」を備えると認められる。)

キ 遊技媒体の入球を制御する可動体を持ち、該可動体により遊技媒体の入球を完全に不可能にできる始動入賞口は、「大入賞口が閉鎖されている状態にあるときに」、可動体を遊技媒体の入球を完全に不可能にするように制御することを前提として、「アウト口へ至る流路」中に配置することは可能である。
しかし、先願発明の「受入口」は、上記2で検討したとおり、実質的に、賞球を付与する他に特別図柄の抽選が可能となる始動入賞口を示すと認めるのが相当であって、さらに、発明特定事項c?eから、先願発明の「受入口」は、遊技媒体の入球を制御する可動体が設置された始動口であるところ、このような遊技媒体の入球を制御する可動体が設置された始動入賞口の下側に、同様の遊技媒体の入球を制御する可動体が設置された始動入賞口が配置されることは、遊技機において、標準的ではないことを考慮すると、先願発明において、遊技媒体の入球を制御する可動体を持ち、該可動体により遊技媒体の入球を完全に不可能にできる始動入賞口が、「アウト口へ至る流路」中に配置されることが含まれるとは認めることはできない。
なお、遊技媒体の入球を制御する可動体を持つが、該可動体により遊技媒体の入球を完全には不可能にできない(入球を抑制できるだけの)始動入賞口が、「アウト口へ至る流路」中に配置できないことは自明である。

ク 上記オ?キでの検討を踏まえると、上記dの、「受入口に受け入れられ」ずに、「受入口」の下側に流下した「遊技媒体」は、「大入賞口が閉鎖されている状態にあるときに」(大入賞口は、閉鎖されていると、遊技媒体は入球しないことが、当業者の技術常識である。)、どの入賞口にも入球せずに、「アウト口」へ達して、遊技領域から排出されることは、「アウト口へ至る流路」に、一般入賞口及び始動入賞口は配置されないが、大入賞口は配置され得ることと同義であるといえる。

ケ 以上のことから、先願発明の「大入賞口が閉鎖されている状態にあるときに前記アウト口へ至る流路を流下した遊技媒体は、遊技者の操作によって前記遊技領域に打込まれてから入賞による遊技価値の付与が遊技者にされることなく遊技機外へ排出される」(発明特定事項j)は、先願発明の他の発明特定事項や当業者の技術常識も考慮すると、「アウト口へ至る流路」に、一般入賞口及び始動入賞口は配置されないが、大入賞口は配置され得ることと同義であるといえる。

(2)本願発明の「アウト口へ至る流路」について検討する。
ア 本願発明には、先願発明の発明特定事項jのような発明特定事項は有さないものの、遊技領域に打ち込まれた「遊技媒体」が「受入口」より上側にある他の入賞口に入球せずに、「受入口」に達することは、当然のことである。(上記(1)エを参照。)

イ 本願発明において、「アウト口へ至る流路」中に、他の入賞口が配置されるか否かを検討する。
(ア)本願発明の「受入口」は、「前記受入口は遊技媒体の受入れによって特典を付与するとともに、特別図柄の抽選を実行可能な始動口である」(発明特定事項H)とともに、その周囲に「可動棚部」、「固定棚部」及び「立壁部」を備えた「受入口」(発明特定事項C?E)であるところ、上記(1)キでの検討と同様、このような遊技媒体の入球を制御する可動体が設置された始動入賞口の下側に、同様の遊技媒体の入球を制御する可動体が設置された始動入賞口が配置されることは、遊技機において、標準的ではないことを考慮すると、先願発明において、遊技媒体の入球を制御する可動体を持ち、該可動体により遊技媒体の入球を完全に不可能にできる始動入賞口が、「アウト口へ至る流路」中に配置されることが含まれるとは認めることはできない。

(イ)上記(ア)での検討と同様、このような遊技媒体の入球を制御する可動体が設置された始動入賞口の下側に、一般入賞口が配置されることは、遊技機において、標準的ではないことを考慮すると、先願発明において、一般入賞口が、「アウト口へ至る流路」中に配置されることが含まれるとは認めることはできない。

(ウ)上記(ア)、(イ)での検討を踏まえると、本願発明において、「アウト口へ至る流路」中に、大入賞口は配置され得ると認められる。(なお、当業者の技術常識を考慮すると、本願発明の「遊技機」は、「特別図柄の抽選を実行可能な始動口」(発明特定事項H)を備えることから、「大入賞口」を備えることは明らかである。)

ウ 上記イでの検討から、本願発明は、「アウト口へ至る流路」中に大入賞口が配置された構成が含まれることになる。
このとき、「受入口に受け入れられ」ずに「受入口」の下側に流下した「遊技媒体」は、「大入賞口が閉鎖されている状態にあるときに」は、大入賞口には入球せずに、「アウト口」へ達して、遊技領域から排出されることは自明である。

エ 上記ア?ウの検討から、本願発明では、発明特定事項として明確に特定されないものの、本願発明の他の発明特定事項や当業者の技術常識も考慮すると、「アウト口へ至る流路」中に、一般入賞口及び始動入賞口は配置されないが、大入賞口は配置され得るものと認めるのが相当である。

(3)上記(1)及び(2)の検討から、
先願発明の「大入賞口が閉鎖されている状態にあるときに前記アウト口へ至る流路を流下した遊技媒体は、遊技者の操作によって前記遊技領域に打込まれてから入賞による遊技価値の付与が遊技者にされることなく遊技機外へ排出される」(発明特定事項j)は、「アウト口へ至る流路」に、一般入賞口及び始動入賞口は配置されないが、大入賞口は配置され得ることと同義であるといえ、
本願発明では、発明特定事項として明示的に特定されないものの、「アウト口へ至る流路」中に、一般入賞口及び始動入賞口は配置されないが、大入賞口は配置され得るものと認めるのが相当であるのだから、
発明特定事項jを有するか否かである相違点3は、実質的な相違点ではない。

なお、本願発明、先願発明では、それぞれ、その発明特定事項の記載のみからでは、「アウト口へ至る流路」に、一般入賞口や始動入賞口が配置されたものを含むと解する余地が全くないわけではない。しかし、本願の明細書及び図面、先願の明細書及び図面には、それぞれ、「アウト口へ至る流路」中に、一般入賞口や始動入賞口が配置された構成は記載も示唆もされていないから、「アウト口へ至る流路」に、一般入賞口や始動入賞口が配置されたものを含むと解した本願発明、先願発明は、それぞれ、本願の発明の詳細な説明、先願の発明の詳細な説明に記載したものではないと判断し得るものである点に留意する必要がある。

4 請求人の主張について
請求人は、本願発明と先願発明の発明特定事項における形式的な記載の差異のみを主張するが、上述のとおり、遊技機における当業者の技術常識及び周知技術を踏まえると、本願発明と先願発明には実質的な差異はない。

5 結論
上記1?3で検討したとおり、相違点1?3はいずれも実質的な相違点ではないから、本願発明と先願発明は実質的に同一である。


第7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、先願発明と実質的に同一であって、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-12-25 
結審通知日 2020-12-28 
審決日 2021-01-19 
出願番号 特願2018-179241(P2018-179241)
審決分類 P 1 8・ 4- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松平 佳巳  
特許庁審判長 長崎 洋一
特許庁審判官 佐藤 高之
伊藤 昌哉
発明の名称 遊技機  

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