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審決分類 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1371552
審判番号 不服2020-3449  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-12 
確定日 2021-03-04 
事件の表示 特願2015-136299「プラズマ処理装置及びガス供給部材」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月17日出願公開,特開2016- 36018〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2015年(平成27年) 7月 7日(優先権主張 2014年(平成26年) 7月31日)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成31年 1月24日付け:拒絶理由通知書
平成31年 3月25日 :意見書,手続補正書の提出
令和 1年 8月27日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 1年10月31日 :意見書,手続補正書の提出
令和 1年12月10日付け:令和 1年10月31日の手続補正についての補正の却下の決定,拒絶査定(原査定)
令和 2年 3月12日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和 2年 4月15日付け:前置報告書
令和 2年10月13日 :上申書の提出

第2 本件補正について
1 本件補正の内容
(1)令和 2年 3月12日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)により補正された,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1-8の記載は次のとおりである。(下線部は,補正箇所である。)

「 【請求項1】
処理容器と,
前記処理容器の内部に設けられ,被処理基板を支持する支持部材と,
円筒状のガス拡散室が内部に形成された上部電極と,
前記上部電極の下面に設けられ,前記被処理基板をプラズマ処理するため第1の処理ガスを前記処理容器の内部に導入するガス供給孔が形成された第1の領域と,前記ガス供給孔が形成されない第2の領域と,第2の処理ガスを前記処理容器の内部に導入する前記ガス供給孔が形成された第3の領域とが前記被処理基板の中心側から前記被処理基板の径方向に沿って順に配置されたガス供給部材と
を備え,
前記ガス拡散室は,環状隔壁部材により中心側の第1ガス拡散室と前記第1ガス拡散室の外側の第2ガス拡散室とに区画されており,
前記第1ガス拡散室は,前記第1の処理ガスを導入するための第1のガス導入口を有し,
前記第2ガス拡散室は,前記第2ガス拡散室の天井面の,前記第3の領域の前記ガス供給孔に対応する位置に対して径方向内側に,前記第2の処理ガスを導入するための第2のガス導入口を有し,
前記第1の領域は,前記第1ガス拡散室に対応する位置に配置されている,
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記第3の領域に形成された前記ガス供給孔は,前記被処理基板の径方向に沿って,前記被処理基板の周縁よりも10mmだけ内側の位置よりも外側の位置に配置されたことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記第3の領域に形成された前記ガス供給孔は,前記被処理基板の径方向に沿って,前記被処理基板の周縁よりも10mmだけ内側の位置から前記被処理基板の周縁よりも10mmだけ外側の位置までの範囲に配置されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記第3の領域に形成された前記ガス供給孔は,前記被処理基板の周縁よりも外側の位置または,該周縁上の位置に配置されたことを特徴とする請求項1?3のいずれか一つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記第3の領域に形成された前記ガス供給孔は,前記被処理基板に近づくほど,前記被処理基板の中心軸に対する被処理基板の径方向の距離が拡がるように,前記被処理基板の中心軸に対して傾斜する傾斜部分を有することを特徴とする請求項1?4のいずれか一つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
被処理基板が配置される処理容器内に処理ガスを供給するガス供給部材であって,
前記ガス供給部材の中央位置とエッジ部との中心線よりも該中央位置側に配置され,前記被処理基板をプラズマ処理するための第1の処理ガスを前記処理容器の内部に導入する第1のガス供給孔が形成された第1のガス供給領域と,
前記ガス供給部材の中央位置とエッジ部との中心線よりも該エッジ部側に配置され,第2の処理ガスを前記処理容器の内部に導入する第2のガス供給孔が形成された第2のガス供給領域と,
前記第1のガス供給領域と,前記第2のガス供給領域との間に配置され,ガス供給孔が形成されない非ガス供給領域と
を備え,
前記ガス供給部材は,円筒状のガス拡散室が内部に形成された上部電極の下面に設けられるものであり,
前記ガス拡散室は,環状隔壁部材により中心側の第1ガス拡散室と前記第1ガス拡散室の外側の第2ガス拡散室とに区画されており,
前記第1ガス拡散室は,前記第1の処理ガスを導入するための第1のガス導入口を有し,
前記第2ガス拡散室は,前記第2ガス拡散室の天井面の,前記第2のガス供給領域の前記第2のガス供給孔に対応する位置に対して径方向内側に,前記第2の処理ガスを導入するための第2のガス導入口を有し,
前記第1のガス供給領域は,前記第1ガス拡散室に対応する位置に配置されており, 前記第2のガス供給領域及び前記非ガス供給領域は,前記第2ガス拡散室に対応する位置に配置されている,
ことを特徴とするガス供給部材。
【請求項7】
前記第2のガス供給孔は,前記被処理基板の周縁よりも外側の位置または,該周縁上の位置に配置されたことを特徴とする請求項6に記載のガス供給部材。
【請求項8】
前記第2のガス供給孔は,前記被処理基板に近づくほど,前記被処理基板の中心軸に対する被処理基板の径方向の距離が拡がるように,前記被処理基板の中心軸に対して傾斜する傾斜部分を有することを特徴とする請求項6又は7に記載のガス供給部材。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成31年 3月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-8(以下,それぞれ「補正前の請求項1」-「補正前の請求項8」という。)の記載は次のとおりである。

「 【請求項1】
処理容器と,
前記処理容器の内部に設けられ,被処理基板を支持する支持部材と,
円筒状のガス拡散室が内部に形成された上部電極と,
前記上部電極の下面に設けられ,前記被処理基板をプラズマ処理するため第1の処理ガスを前記処理容器の内部に導入するガス供給孔が形成された第1の領域と,前記ガス供給孔が形成されない第2の領域と,第2の処理ガスを前記処理容器の内部に導入する前記ガス供給孔が形成された第3の領域とが前記被処理基板の中心側から前記被処理基板の径方向に沿って順に配置されたガス供給部材と
を備え,
前記ガス拡散室は,環状隔壁部材により中心側の第1ガス拡散室と前記第1ガス拡散室の外側の第2ガス拡散室とに区画されており,
前記第1ガス拡散室は,前記第1の処理ガスを導入するためのガス導入口を有し,
前記第2ガス拡散室は,径方向内側に前記第2の処理ガスを導入するためのガス導入口を有し,
前記第1の領域は,前記第1ガス拡散室に対応する位置に配置されており,
前記第2の領域及び前記第3の領域は,前記第2ガス拡散室に対応する位置に配置されており,
前記第3の領域は,前記第2ガス拡散室を介して導入される前記第2の処理ガスを前記第3の領域の前記ガス供給孔から噴出し,前記第1の領域の前記ガス供給孔から噴出されて前記被処理基板の中心側から前記被処理基板の径方向へ流れる前記第1の処理ガスの流れを妨げる気流壁を形成するように構成されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記第3の領域に形成された前記ガス供給孔は,前記被処理基板の径方向に沿って,前記被処理基板の周縁よりも10mmだけ内側の位置よりも外側の位置に配置されたことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記第3の領域に形成された前記ガス供給孔は,前記被処理基板の径方向に沿って,前記被処理基板の周縁よりも10mmだけ内側の位置から前記被処理基板の周縁よりも10mmだけ外側の位置までの範囲に配置されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記第3の領域に形成された前記ガス供給孔は,前記被処理基板の周縁よりも外側の位置または,該周縁上の位置に配置されたことを特徴とする請求項1?3のいずれか一つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記第3の領域に形成された前記ガス供給孔は,前記被処理基板に近づくほど,前記被処理基板の中心軸に対する被処理基板の径方向の距離が拡がるように,前記被処理基板の中心軸に対して傾斜する傾斜部分を有することを特徴とする請求項1?4のいずれか一つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
被処理基板が配置される処理容器内に処理ガスを供給するガス供給部材であって,
前記ガス供給部材の中央位置とエッジ部との中心線よりも該中央位置側に配置され,前記被処理基板をプラズマ処理するための第1の処理ガスを前記処理容器の内部に導入する第1のガス供給孔が形成された第1のガス供給領域と,
前記ガス供給部材の中央位置とエッジ部との中心線よりも該エッジ部側に配置され,第2の処理ガスを前記処理容器の内部に導入する第2のガス供給孔が形成された第2のガス供給領域と,
前記第1のガス供給領域と,前記第2のガス供給領域との間に配置され,ガス供給孔が形成されない非ガス供給領域と
を備え,
前記ガス供給部材は,円筒状のガス拡散室が内部に形成された上部電極の下面に設けられるものであり,
前記ガス拡散室は,環状隔壁部材により中心側の第1ガス拡散室と前記第1ガス拡散室の外側の第2ガス拡散室とに区画されており,
前記第1ガス拡散室は,前記第1の処理ガスを導入するためのガス導入口を有し,
前記第2ガス拡散室は,径方向内側に前記第2の処理ガスを導入するためのガス導入口を有し,
前記第1のガス供給領域は,前記第1ガス拡散室に対応する位置に配置されており,
前記第2のガス供給領域及び前記非ガス供給領域は,前記第2ガス拡散室に対応する位置に配置されており,
前記第2のガス供給領域は,記第2ガス拡散室を介して導入される前記第2の処理ガスを前記第2のガス供給孔から噴出し,前記第1のガス供給孔から噴出されて前記被処理基板の中心側から前記被処理基板の径方向へ流れる前記第1の処理ガスの流れを妨げる気流壁を形成するように構成されていることを特徴とするガス供給部材。
【請求項7】
前記第2のガス供給孔は,前記被処理基板の周縁よりも外側の位置または,該周縁上の位置に配置されたことを特徴とする請求項6に記載のガス供給部材。
【請求項8】
前記第2のガス供給孔は,前記被処理基板に近づくほど,前記被処理基板の中心軸に対する被処理基板の径方向の距離が拡がるように,前記被処理基板の中心軸に対して傾斜する傾斜部分を有することを特徴とする請求項6又は7に記載のガス供給部材。」

2 補正の適否について
(1)本件補正は,下記ア-ウ(以下,それぞれ「補正事項ア-ウ」という。)よりなるものである。
ア 本件補正前の請求項1,6に記載された「第2のガス拡散室」が有する「ガス導入口」について,その位置が,補正前は「径方向内側に」と記載されているのを,「前記第2ガス拡散室の天井面の,前記第3の領域の前記ガス供給孔に対応する位置に対して径方向内側に,」と,その位置を明確にする補正。
イ 本件補正前の請求項1,6に記載された「ガス導入口」について,「第1のガス拡散室」に設けられた「ガス導入口」を「第1のガス導入口」と,「第2のガス拡散室」に設けられた「ガス導入口」を「第2のガス導入口」と明確にする補正。
ウ 本件補正前の請求項1,6に記載された「前記第2の領域及び前記第3の領域は,前記第2ガス拡散室に対応する位置に配置されており,前記第3の領域は,前記第2ガス拡散室を介して導入される前記第2の処理ガスを前記第3の領域の前記ガス供給孔から噴出し,前記第1の領域の前記ガス供給孔から噴出されて前記被処理基板の中心側から前記被処理基板の径方向へ流れる前記第1の処理ガスの流れを妨げる気流壁を形成するように構成されている」を削除する補正。

(2)上記補正事項ア-ウについて検討すると,補正事項ア-ウは,令和 1年12月10日付け拒絶査定の理由で,特許請求の範囲の記載が不明確とされた部分を明確にするものといえ,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また,本件補正によっても,補正前の請求項に記載された発明とその補正後の請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であることは明らかである。

(3)以上から,本件補正は,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから,特許法第17条の2第5項の規定に適合するものである。
したがって,本件補正は適法になされたものである。

3 本件補正発明
上記2での検討より,本件補正は適法になされたものであるから,本件補正発明は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の以下のとおりである。
「 【請求項1】
処理容器と,
前記処理容器の内部に設けられ,被処理基板を支持する支持部材と,
円筒状のガス拡散室が内部に形成された上部電極と,
前記上部電極の下面に設けられ,前記被処理基板をプラズマ処理するため第1の処理ガスを前記処理容器の内部に導入するガス供給孔が形成された第1の領域と,前記ガス供給孔が形成されない第2の領域と,第2の処理ガスを前記処理容器の内部に導入する前記ガス供給孔が形成された第3の領域とが前記被処理基板の中心側から前記被処理基板の径方向に沿って順に配置されたガス供給部材と
を備え,
前記ガス拡散室は,環状隔壁部材により中心側の第1ガス拡散室と前記第1ガス拡散室の外側の第2ガス拡散室とに区画されており,
前記第1ガス拡散室は,前記第1の処理ガスを導入するための第1のガス導入口を有し,
前記第2ガス拡散室は,前記第2ガス拡散室の天井面の,前記第3の領域の前記ガス供給孔に対応する位置に対して径方向内側に,前記第2の処理ガスを導入するための第2のガス導入口を有し,
前記第1の領域は,前記第1ガス拡散室に対応する位置に配置されている,
ことを特徴とするプラズマ処理装置。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由(令和 1年 8月27日付け拒絶理由)の概要は,以下のとおりである。
理由1 この出願の請求項1-8に係る発明は,下記の引用文献1-3に記載された発明に基づいて,本願の優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 特開2006-210727号公報
引用文献2 特開2013-021050号公報
引用文献3 特開2008-060197号公報

第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下同様である。)

「【0018】
上記問題に鑑み,本発明は,CDシフトの面内均一性に優れたプラズマエッチング装置およびプラズマエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは,その後検討を進めた結果,具体的な構造を実現するに至った。その構造について以下説明する。上記従来技術の問題点を解決するために,本発明は,プラズマエッチング装置において,複数のガス供給手段と複数のガスの流量を調節する流量調節手段と,混合ガスを任意の流量比において2つに分流するガス分流手段と,ガス分流手段の下流の2つのガス配管に任意の流量で他の処理ガスを導入し合流させる合流部とを有し,その合流部を経由した第1および第2処理ガスを処理室に導入する。このとき,第1および第2処理ガスを,それぞれ第1および第2処理ガス導入管を通し,処理室蓋と被処理体に対向する位置に設置されたシャワーヘッドプレートとの間の空間に導入する。また,このとき,シャワーヘッドプレート中央部にガス導入孔(ガス導入口)を有する中央側ガス導入領域と,中央側ガス導入領域の外周側にガス導入孔を有しない領域と,その領域のさらに外周側にガス導入孔(ガス導入口)を有する外周側ガス導入領域とを設ける。さらに,処理室蓋の処理室側の一部領域もしくはシャワーヘッドプレートの一部領域に凸部を設けることによって,第1および第2処理ガスの混合を防ぐ仕切りを形成する。」

「【0024】
以下,本発明の第1の実施例について図1?図5を用いて詳しく説明する。まず,図1を用いて,本発明の第1の実施例を適用したマイクロ波ECRプラズマエッチング装置およびそのガス系の構成を説明する。本発明では,ガス系は,共通ガス系(第1のガス供給源)100と添加ガス系(第2のガス供給源)110とから成る。共通ガス系100は,ガス供給源としてガス供給手段101-1および101-2と,各ガスの流量を調節する流量調節器102-1および102-2と,各ガスを流したり止めたりするためのバルブ103-1および103-2と,共通ガス系100の各ガスが合流する合流部104とから構成されている。本実施例においては共通ガスとして,ガス供給手段101-1によって臭化水素(HBr),ガス供給手段101-2によって塩素(Cl2)がそれぞれ供給される。」

「【0030】
処理室側壁20の上に絶縁体(本実施例では石英製とする)によって構成された処理室蓋22が設置され,これにより構成される処理室26内に被処理体保持台28を設けている。
【0031】
図1および図2において,第1のガス導入管30-1に導かれた第1処理ガス36-1は,処理室蓋22と絶縁体によって構成された石英製のシャワーヘッドプレート24との間の中央側空間32-1に導入される。被処理体1と対向する位置に設置されたシャワーヘッドプレート24の中央付近には,ガス導入孔(第1のガス導入口)34が形成された中央側ガス導入領域42-1が構成されており,ここから処理室26内に第1処理ガス36-1が導入される。同様に,第2のガス導入管30-2に導かれた第2処理ガス36-2は,処理室蓋22とシャワーヘッドプレート24との間の空間32-2に導入される。被処理体1と対向する位置に設置されたシャワーヘッドプレート24には,中央側ガス導入領域42-1の外側に外周側ガス導入領域42-2が形成されており,その外周側ガス導入領域42-2に形成されたガス導入孔(第2のガス導入口)34を通して処理室26内に第2処理ガス36-2が導入される。なお,シャワーヘッドプレートに形成されている多数のガス導入孔34の直径は1mm以下となっている。
【0032】
処理室26内には被処理体保持台28が設置されており,その上に被処理体1が保持されている。被処理体保持台28の内部には,吸着用電極52が埋設され,それに接続された直流電源54によって吸着用電極52と被処理体1との間に静電気力を発生させ,被処理体1を被処理体保持台28に対して吸着させる。また,吸着用電極52と直流電源54との間には,スイッチ56が設けられ,直流電圧の印加のオン・オフを行なう。」

「【0067】
次に,本発明の第3の実施例を説明する。本実施例は,第1実施例で示したような処理室蓋22と,シャワーヘッドプレート24との間に,円盤状の処理室第2蓋(第2の処理室蓋)22-2を追加設置した構造である。以下,第3の実施例を,図7を用いて説明する。この図は,石英で構成された処理室蓋22と,石英で構成されたシャワーヘッドプレート24と,石英で構成された処理室第2蓋22-2と処理室側壁20との位置関係を示す側断面図(図7(b))および,側断面図に示したA-A断面を示すA-A断面図(図7(a))であり,処理室第2蓋22-2とシャワーヘッドプレート24に形成されたガス導入孔34との位置関係を明確に示すため,A-A断面図には,図3および図6と同様に鎖線によって,中央側ガス導入領域42-1と外周側ガス導入領域42-2とガス導入孔34を併せて示すこととする。
【0068】
なお,この実施例においては,処理室26に処理ガスを導入するためのガス系統については第1実施例で説明したものと同様なものを使用する。
【0069】
この実施例は,第1実施例と同様に,シャワーヘッドプレート24の中央部付近には中央側ガス導入領域42-1が形成されており,この領域にあるガス導入孔34を経由して第1処理ガス36-1が処理室26内に導入される。また,中央側ガス導入領域42-1の外周には,ガス導入孔34が形成されていない領域が存在する。さらにその外周には,外周側ガス導入領域42-2が形成されており,この領域にあるガス導入孔34を経由して第2処理ガス36-2が処理室26内に導入される。また,処理室第2蓋22-2には,凹みと仕切り67が形成されており,さらに中央には第1処理ガス導入穴72が形跡されている。
【0070】
側断面図に示すように,処理室第2蓋22-2に形成された凹みと,シャワーヘッドプレート24とによって,中央側空間32-1および外周側空間32-2が形成される。また,第1のガス導入管30-1から導入された第1処理ガス36-1は,処理室蓋(第1の処理室蓋)22に形成された凹みと処理室第2蓋22-2との間の空間を経由し,処理室第2蓋22-2の中央部に形成された第1処理ガス導入穴72を通り,処理室第2蓋22-2の中央部とシャワーヘッドプレート24との間に形成された中央側空間32-1に導かれ,その後,中央側ガス導入領域42-1からシャワーヘッドプレート24に形成されたガス導入孔34を経由して処理室26内に導入される。
【0071】
第2のガス導入管30-2から導入された第2処理ガス36-2は,処理室第2蓋22-2の外周部とシャワーヘッドプレート24の外周部との間に形成された外周側空間32-2に導かれ,その後,外周側ガス導入領域42-2からシャワーヘッドプレート24に形成されたガス導入孔34を経由して処理室26内に導入される。
【0072】
中央側空間32-1と外周側空間32-2との間は,処理室第2蓋22-2に形成された突出部によって形成された仕切り67によって隔離される。なお,エッチング装置が稼動している場合は,処理室26内は大気圧よりも低い圧力に保たれている。また,通常プラズマエッチングにおいて使用する流量の第1処理ガス36-1および第2処理ガス36-2を中央側空間32-1と外周側空間32-2とに導入した場合も,処理室蓋22と処理室第2蓋22-2との間の空間は,大気圧よりも低い圧力(500?5000Pa程度)に保たれている。そのため,処理室蓋22は大気圧によって上方から押さえつけられ,処理室蓋22の凹みの一部に形成された突出部(図示しない)によって処理室第2蓋22-2を下方に押さえつける。これにより処理室第2蓋22-2に形成された仕切り67はシャワーヘッドプレート24の上面に密着するようになっている。これにより,中央側空間32-1に導入した第1処理ガス36-2と,外周側空間32-2とに導入した第2処理ガス36-2とが互いに混ざらないように良好に隔離されるようになっている。
【0073】
以上説明した構成を用いることにより,石英で構成されたシャワーヘッドプレート24に形成された中央側ガス導入領域42-1および外周側ガス導入領域42-2から,それぞれ組成および流量が異なる処理ガス36-1と処理ガス36-2を導入することが可能となる。また,第1実施例で説明したガス系の構成を用いることにより,第1実施例と同様に,中央側ガス導入領域42-1と外周側ガス導入領域42-2とから組成よび流量が異なる処理ガスを導入することができる。これによって,被処理体1表面の反応生成物の濃度分布およびラジカル(例えば酸素)の濃度分布を独立に制御することができ,被処理体1でのCDシフトの面内均一性を向上させることができる。
【0074】
さらに,第1および第2の実施例では,シャワーヘッドプレート24に形成された外周側ガス導入領域42-2において導入孔34が形成されていない領域44が一部存在していたが,本実施例においては,外周側ガス導入領域42-2の全周において導入孔34を形成することができる。そのため,シャワーヘッドプレート24と被処理体1との間の距離が狭い場合においても,プラズマエッチングにおける被処理体1のエッチングレートやポリシリコンゲートのCDシフトの周方向の均一性が悪化する恐れがない。」

「【図1】



「【図7】



(2)引用文献1に記載されている事項を検討する。
ア 引用文献1の段落0024,0030-0032及び図1の記載からすると,引用文献1には,第1の実施例として,「処理室側壁20」の上に「処理室蓋22」が設置され,これにより構成される「処理室26」内に「被処理体1」が保持される「被処理体保持台28」が設けられている「マイクロ波ECRプラズマエッチング装置」が記載されている。
ここで,特に図1を参照すると,「処理室蓋22」の下面に「シャワーヘッドプレート24」が設けられていることは明らかである。

イ 引用文献1の段落0067-0069及び図7の記載からすると,引用文献1には,第3の実施例として,第1の実施例で示したような「処理室蓋22」と,「シャワーヘッドプレート24」との間に,「円盤状の処理室第2蓋(第2の処理室蓋)22-2」を追加設置した構造が記載されている。
ここで,第3の実施例においても,第1の実施例と同様に,「処理室側壁20」の上に「処理室蓋22」が設置され,これにより構成される「処理室26」内に「被処理体1」が保持される「被処理体保持台28」が設けられていることは明らかである。

ウ 引用文献1の段落0069-0071及び図7の記載からすると,引用文献1の第3の実施例における「シャワーヘッドプレート24」は,中央部付近に「中央側ガス導入領域42-1」が形成されており,この領域にある「ガス導入孔34」を経由して「第1処理ガス36-1」が「処理室26」内に導入され,「中央側ガス導入領域42-1」の外周には「ガス導入孔34が形成されていない領域」が存在し,さらにその外周には「外周側ガス導入領域42-2」が形成されており,この領域にある「ガス導入孔34」を経由して「第2処理ガス36-2」が「処理室26」内に導入されることが記載されている。

エ 引用文献1の段落0069-0072及び図7の記載からすると,引用文献1の「第2の処理室蓋22-2」には,「凹み」と「仕切り67」が形成されており,「凹み」と「シャワーヘッドプレート24」とによって,「中央側空間32-1」及び「外周側空間32-2」が形成されること,また,「中央側空間32-1」と「外周側空間32-2」との間は,「仕切り67」によって隔離されることが記載されている。
ここで,引用文献1の図7の記載を参酌すると,「中央側空間32-1」及び「外周側空間32-2」は円筒状,「仕切り67」は「環状」であり,「中央側ガス導入領域42-1」は「中央側空間32-1」に対応する位置に配置されているといえる。

オ 引用文献1の段落0070-0071及び図7には,「第1処理ガス36-1」が,「処理室第2蓋22-2」の中央部に形成された「第1処理ガス導入穴72」を通り,「処理室第2蓋22-2」の中央部と「シャワーヘッドプレート24」との間に形成された「中央側空間32-1」に導かれること,及び,「第2処理ガス36-2」が,「処理室第2蓋22-2」の外周部と「シャワーヘッドプレート24」の外周部との間に形成された「外周側空間32-2」に導かれることが記載されている。
ここで,「外周側空間32-2」が,「第2処理ガス36-2」を導くための「ガス導入口」を備えていることは明らかである。

(3) 以上,(2)ア-オで示した事項,特に第3の実施例に関する事項を参酌すると,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「処理室側壁20の上に処理室蓋22が設置され,これにより構成される処理室26内に被処理体1が保持される被処理体保持台28が設けられているマイクロ波ECRプラズマエッチング装置において,
処理室蓋22の下面には,シャワーヘッドプレート24が設けられ,
処理室蓋22と,シャワーヘッドプレート24との間には,円盤状の第2の処理室蓋22-2が設置され,
シャワーヘッドプレート24は,中央部付近に中央側ガス導入領域42-1が形成されており,この領域にあるガス導入孔34を経由して第1処理ガス36-1が処理室26内に導入され,中央側ガス導入領域42-1の外周には,ガス導入孔34が形成されていない領域43が存在し,さらにその外周には,外周側ガス導入領域42-2が形成されており,この領域にあるガス導入孔34を経由して第2処理ガス36-2が処理室26内に導入され,
第2の処理室蓋22-2には,凹みと環状の仕切り67が形成されており,凹みとシャワーヘッドプレート24とによって,仕切り67によって隔離された中央側空間32-1および外周側空間32-2が形成され,
中央側空間32-1および外周側空間32-2は,円筒状であり,中央側ガス導入領域42-1が中央側空間32-1に対応する位置に配置されており,
第1処理ガス36-1は,処理室第2蓋22-2の中央部に形成された第1処理ガス導入穴72を通り,処理室第2蓋22-2の中央部とシャワーヘッドプレート24との間に形成された中央側空間32-1に導かれ,
また,第2処理ガス36-2は,処理室第2蓋22-2の外周部とシャワーヘッドプレート24の外周部との間に形成された外周側空間32-2に導かれ,外周側空間32-2には,第2処理ガス36-2を導くためのガス導入口を備えていること。」

2 引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は,処理室内に配置された半導体ウエハ,太陽電池用基板,液晶基板などの被処理基板に対して所定のガスを供給して所定の処理を施す基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の基板処理装置としては,例えば処理室内に半導体ウエハなどの被処理基板(以下,単に「基板」と称する)を載置する載置台を兼ねた下部電極と,基板に向けてガスを噴出するガス導入部であるシャワーヘッドを兼ねた上部電極とを配設した平行平板型のプラズマ処理装置が知られている。プラズマ処理装置は,基板上にシャワーヘッドから所定のガスを供給した状態で両電極間に高周波電力を印加してプラズマを生成することによって,成膜やエッチングなど所定の処理を行うようになっている。
【0003】
このようなプラズマ処理装置には,基板処理の面内均一性を向上すべく,シャワーヘッド内部を複数のガス室に仕切り,各ガス室ごとにガス供給配管を独立に接続するものが提案されている(例えば下記特許文献1,2)。これによれば,例えばセンタ側のガス孔とエッジ側のガス孔から別々にガスを基板上に噴出させることで,基板面内のガス濃度を局所的に調整して,エッチングの基板処理の面内均一性を向上できる。」

「【0023】
(第1実施形態)
先ず,本発明の第1実施形態にかかる基板処理装置について図面を参照しながら説明する。ここでは処理室内に上部電極と下部電極(サセプタ)を対向配置して上部電極から処理ガスを処理室内に供給する平行平板型電極構造の容量結合型の基板処理装置を例に挙げて説明する。図1は,本実施形態にかかる基板処理装置100の概略構成を示す断面図である。」

「【0033】
処理室102内の上部には,下部電極としてのサセプタ116に対向するように平行に上部電極200が配設されている。上部電極200は図1に示すように電気的に接地してもよく,また図示しない可変直流電源を接続して上部電極200に所定の直流(DC)電圧が印加されるようにしてもよい。
【0034】
上部電極200は,ウエハWのセンタ領域とその周りのエッジ領域に向けて同種のガス又は異種のガスを別々に導入可能なガス導入部(シャワーヘッド)としても機能するように構成されている。このような上部電極200は,ウエハWのセンタ領域に向けて供給するセンタガスのガス孔212を複数設けたセンタガス導入部204と,ウエハWのエッジ領域に向けて供給するエッジガスのガス孔214を複数設けた環状のエッジガス導入部206とを備える。」

「【0042】
(ガス導入部としての上部電極の構成例)
ここで,本実施形態における上部電極200の構成例について説明する。上部電極200は,その周縁部を被覆するシールドリング202を介して処理室102の天井部に取り付けられている。
【0043】
ここでの上部電極200は,載置台110上に載置されたウエハWのセンタ領域とその周りのエッジ領域に向けて同種のガス又は異種のガスを別々に導入可能なガス導入部として構成されている。
【0044】
具体的には,上部電極200は,ウエハWのセンタ領域に向けて供給するセンタガスのガス孔212を複数設けた略円板状のセンタガス導入部204と,このセンタガス導入部204の周りを囲むように設けられ,ウエハWのエッジ領域に向けて供給するエッジガスのガス孔214を複数設けた環状のエッジガス導入部206とを備える。
【0045】
センタガス導入部204とエッジガス導入部206は,一体で構成してもよく,別体で構成してもよい。ここでは,図1に示すようにセンタガス導入部204とエッジガス導入部206を一体で構成した場合を例に挙げて説明する。
【0046】
センタガス導入部204とエッジガス導入部206を一体で構成する場合は,例えば図1に示すようにセンタガス導入部204とエッジガス導入部206に渡って略円板状の電極板210を設け,電極板210を電極支持体220で着脱自在に支持した構成とする。この場合,電極支持体220は例えばアルミニウムなどの金属で構成され,電極板210は例えば石英(SiO2),SiC,SiN等のシリコン含有材料で構成される。
【0047】
電極支持体220内には1つの略円板状の空間が設けられ,この空間はセンタガスが供給される略円板状のセンタバッファ室222とエッジガスが供給される環状のエッジバッファ室224とに環状隔壁部材225によって区画される。ガス供給装置300からのセンタガスとエッジガスは各バッファ室222,224に別々に供給されるようになっている。
【0048】
センタガス導入部204には,上記センタガスの各ガス孔212がセンタバッファ室222から電極板210の下面まで突き抜けて設けられている。センタガスの各ガス孔212は,ウエハWのセンタ領域に向けてガスが噴出されるように配置される。
【0049】
エッジガス導入部206には,エッジガスの各ガス孔214がエッジバッファ室224から電極板210の下面まで突き抜けて設けられている。上記エッジガスの各ガス孔214は,ウエハWのエッジ領域に向けてガスが噴出されるように配置される。
【0050】
このような構成によれば,ガス供給装置300から供給されるセンタガスとエッジガスはそれぞれ,センタバッファ室222とエッジバッファ室224に別々に供給されて拡散する。そして,センタガスとエッジガスはそれぞれ各ガス孔212と各ガス孔214を介してウエハWのセンタ領域とエッジ領域に向けて別々に噴出される。本実施形態では,このエッジガスの各ガス孔214の噴出口の位置を調整することができるように構成されている。この点についての詳細は後述する。」

「【0061】
このようなガス供給装置300によれば,処理ガス供給部310からの処理ガスは,第1分岐配管304と第2分岐配管306によりセンタガスとエッジガスに分流される。このとき,分流量調整(例えばフロースプリッタ)が設けられていれば,それによって分流量が調整される。
【0062】
そして,第1分岐配管304に分流された処理ガスはセンタガスとしてセンタバッファ室222に導入され,第2分岐配管306に分流された処理ガスはエッジガスとしてエッジバッファ室224に導入される。
【0063】
このとき,付加ガス供給部320から付加ガスが供給されている場合には,その付加ガスは付加ガス供給配管308を通って第2分岐配管306で処理ガスと混合する。混合されたガスはエッジガスとしてエッジバッファ室224に導入される。」

「【図1】



(2)引用文献2に記載されている事項を検討する。
ア 引用文献2の段落0023,0033-0034及び図1の記載からすると,引用文献2には,処理室102内に上部電極200と下部電極(サセプタ)116を対向配置して上部電極200から処理ガスを処理室102内に供給する平行平板型電極構造の容量結合型の基板処理装置100が記載されている。

イ 引用文献2の段落0044-0046及び図1の記載からすると,引用文献2の基板処理装置100における上部電極200は,ウエハWのセンタ領域に向けて供給するセンタガスのガス孔212を複数設けた略円板状のセンタガス導入部204と,このセンタガス導入部204の周りを囲むように設けられ,ウエハWのエッジ領域に向けて供給するエッジガスのガス孔214を複数設けた環状のエッジガス導入部206とを備えており,また,略円板状の電極板210を電極支持体220で支持した構成となっていることが記載されている。

ウ 引用文献2の段落0047-0050及び図1の記載からすると,引用文献2の電極支持体220内には1つの略円板状の空間が設けられ,この空間はセンタガスが供給される略円板状のセンタバッファ室222とエッジガスが供給される環状のエッジバッファ室224とに環状隔壁部材225によって区画されており,ガス供給装置300から供給されるセンタガスとエッジガスはそれぞれ,センタバッファ室222とエッジバッファ室224に別々に供給されて拡散すること,及び,センタガスとエッジガスはそれぞれ各ガス孔212と各ガス孔214を介してウエハWのセンタ領域とエッジ領域に向けて別々に噴出されることが記載されている。

エ 引用文献2の段落0061-0063及び図1の記載からすると,センタバッファ室222は,第1分岐配管304に分流された処理ガスがセンタガスとして導入されるセンタガス導入口を,エッジバッファ室224は,第2分岐配管306に分流された処理ガスがエッジガスとして導入されるエッジガス導入口を有していると認められる。
ここで,特に図1を参照すると,エッジバッファ室224のエッジガス導入口は,エッジバッファ室224の天井面に設けられているとともに,エッジガスの各ガス孔214よりも径方向内側に設けられていると認められる。

(3) 以上,(2)ア-エで示した事項から,引用文献2には,次の発明(以下,「引用文献2記載事項」という。)が記載されているものと認める。

「処理室102内に上部電極200と下部電極(サセプタ)116を対向配置して上部電極200から処理ガスを処理室102内に供給する平行平板型電極構造の容量結合型の基板処理装置100において,
基板処理装置100における上部電極200は,略円板状の電極板210を電極支持体220で支持した構成となっており,
電極支持体220内には1つの略円板状の空間が設けられ,この空間はセンタガスが供給される略円板状のセンタバッファ室222とエッジガスが供給される環状のエッジバッファ室224とに環状隔壁部材225によって区画されており,ガス供給装置300から供給されるセンタガスとエッジガスはそれぞれ,センタバッファ室222とエッジバッファ室224に別々に供給されて拡散し,センタガスとエッジガスはそれぞれ各ガス孔212と各ガス孔214を介してウエハWのセンタ領域とエッジ領域に向けて別々に噴出され,
センタバッファ室222は,第1分岐配管304に分流された処理ガスがセンタガスとして導入されるセンタガス導入口を,エッジバッファ室224は,第2分岐配管306に分流された処理ガスがエッジガスとして導入されるエッジガス導入口を有しており,ここで,エッジガス導入口は,エッジバッファ室224の天井面に設けられているとともに,エッジガスの各ガス孔214よりも径方向内側に設けられていること。」

第5 対比
1 対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明において,「処理室側壁20」と「処理室蓋22」とにより,「処理室26」が構成されるから,引用発明の「処理室側壁20」及び「処理室蓋22」が,本件補正発明の「処理容器」に相当する。
そして,引用発明の「被処理体1」,「被処理体保持台28」が,それぞれ,本件補正発明の「被処理基板」,「支持部材」に相当する。

イ 引用発明の「中央側空間32-1」,「外周側空間32-2」は「円筒状」であり,それぞれ,「第1処理ガス36-1」,「第2処理ガス36-2」が導かれるから,引用発明の「中央側空間32-1」,「外周側空間32-2」が,本件補正発明の「円筒状のガス拡散室」に対応する。
そして,引用発明の「円盤状の第2の処理室蓋22-2」は,「凹みと環状の仕切り67が形成されており,凹みとシャワーヘッドプレート24とによって,仕切り67によって隔離された中央側空間32-1および外周側空間32-2が形成され」ているから,本件補正発明の「上部電極」と,「円筒状のガス拡散室が内部に形成された」部材である点で一致する。

ウ 引用発明において,「円盤状の処理室第2蓋(第2の処理室蓋)22-2」は,「処理室蓋22」と,「シャワーヘッドプレート24」との間に設置されているから,「シャワーヘッドプレート24」は,「円盤状の処理室第2蓋(第2の処理室蓋)22-2」の下面に設けられているといえる。
ここで,引用発明は「マイクロ波ECRプラズマエッチング装置」であるから,「処理室26」内に導入される「第1処理ガス36-1」,「第2処理ガス36-2」が,「被処理体1」をプラズマ処理するためのものであることは明らかである。
そして,引用発明の「シャワーヘッドプレート24」に設けられた「ガス導入孔34」は,「中央側ガス導入領域42-1」にある「ガス導入孔34」を経由して「第1処理ガス36-1」を「処理室26内」に,「外周側ガス導入領域42-2」にある「ガス導入孔34」を経由して「第2処理ガス36-2」を「処理室26内」に導入するものである。
すると,引用発明の「ガス導入孔34」が,本件補正発明の「ガス供給孔」に相当し,引用発明の「中央側ガス導入領域42-1」,「ガス導入孔34が形成されていない領域43」,「外周側ガス導入領域42-2」が,それぞれ,本件補正発明の「前記被処理基板をプラズマ処理するため第1の処理ガスを前記処理容器の内部に導入するガス供給孔が形成された第1の領域」,「前記ガス供給孔が形成されない第2の領域」,「第2の処理ガスを前記処理容器の内部に導入する前記ガス供給孔が形成された第3の領域」に相当し,引用発明の「シャワーヘッドプレート24」が,本件補正発明の「ガス供給部材」に相当する。

エ 引用発明における,環状の「仕切り67」は,「中央側空間32-1」と「外周側空間32-2」とを隔離するものであるから,本件補正発明の「環状隔壁部材」に相当し,引用発明の,「中央側空間32-1」,「外周側空間32-2」が,本件補正発明の「第1ガス拡散室」,「第2ガス拡散室」に,それぞれ対応することは明らかである。
また,引用発明の「第1処理ガス導入穴7」は,「第1処理ガス36-1」を,「中央側空間32-1」に導くものであるから,本件補正発明の「前記第1の処理ガスを導入するための第1のガス導入口」に相当する。
そして,引用発明の「ガス導入口」は,「第2処理ガス36-2」を,「外周側空間32-2」に導くものであるから,本件補正発明の「第2のガス導入口」と,「前記第2の処理ガスを導入するための第2のガス導入口」である点で一致する。

オ 引用発明は「マイクロ波ECRプラズマエッチング装置」であるから,本件補正発明と「プラズマ処理装置」である点で一致する。

2 一致点・相違点
したがって,本件補正発明と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「 処理容器と,
前記処理容器の内部に設けられ,被処理基板を支持する支持部材と,
円筒状のガス拡散室が内部に形成された部材と,
前記部材の下面に設けられ,前記被処理基板をプラズマ処理するため第1の処理ガスを前記処理容器の内部に導入するガス供給孔が形成された第1の領域と,前記ガス供給孔が形成されない第2の領域と,第2の処理ガスを前記処理容器の内部に導入する前記ガス供給孔が形成された第3の領域とが前記被処理基板の中心側から前記被処理基板の径方向に沿って順に配置されたガス供給部材と
を備え,
前記ガス拡散室は,環状隔壁部材により中心側の第1ガス拡散室と前記第1ガス拡散室の外側の第2ガス拡散室とに区画されており,
前記第1ガス拡散室は,前記第1の処理ガスを導入するための第1のガス導入口を有し,
前記第2ガス拡散室は,前記第2の処理ガスを導入するための第2のガス導入口を有し,
前記第1の領域は,前記第1ガス拡散室に対応する位置に配置されている,
ことを特徴とするプラズマ処理装置。」

(相違点)
(相違点1)円筒状のガス拡散室が内部に形成された部材に関して,本件補正発明は,「上部電極」と特定されているのに対し,引用発明は,そのように特定されていない点。

(相違点2)第2ガス拡散室が有する第2のガス導入口について,本件補正発明は,「前記第2ガス拡散室の天井面の,前記第3の領域の前記ガス供給孔に対応する位置に対して径方向内側に,」有すると特定されているのに対し,引用発明は,そのように特定されていない点。

第6 相違点についての判断
1 相違点1,2について
プラズマ処理装置として,基板に向けてガスを噴出するガス導入部であるシャワーヘッドを兼ねた上部電極と下部電極との間でプラズマを生成する,いわゆる,平行平板型のプラズマ処理装置は,例えば,上記引用文献2記載事項にあるように周知技術である。
また,引用文献2記載事項の「上部電極200」における「電極支持体220」は,その内部に「センタバッファ室222」(本件補正発明の「第1ガス拡散室」に相当する。)と「エッジバッファ室224」(本件補正発明の「第2ガス拡散室」に相当する。)とを有し,「エッジバッファ室224」が有する「エッジガス導入口」(本件補正発明の「第2のガス導入口」に相当する。)について,「エッジバッファ室224」の天井面に設けられているとともに,「エッジガスの各ガス孔214」(本件補正発明の「第3の領域のガス供給孔」に相当する。)よりも径方向内側に設けられているものである。
そして,引用発明の「第2の処理室蓋22-2」と,引用文献2記載事項の「電極支持体220」とは,どちらも,プラズマ処理装置において,その内部に第1ガス拡散室,第2ガス拡散室が形成された部材であり,引用発明において周知技術である,平行平板型のプラズマ処理装置を採用し,円筒状のガス拡散室が内部に形成された部材を,上部電極と特定するとともに,引用文献2記載事項のように,第2のガス導入口の位置を特定することにより,本件補正発明の相違点1,2に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。

2 審判請求書における請求人の主張について
(1)審判請求書において,請求人は,
「 また,審査官殿は,補正の却下の決定において,以下の(A)及び(B)を主張しています。
(A)引用文献1にECRプラズマエッチング装置(以下,ECR)への適用例が記載されているため,引用2に記載の公知の平行平板型プラズマエッチング装置(以下,CCP)に変更することは設計事項である。
(B)引用文献1における第2のガス導入管(30-2)の位置は設計事項に過ぎず,引用文献2のように変更することは容易である。
(A)については,引用文献1では,実施例としてECRのみを開示しており,他に適用可能な装置として,段落0079に「絶縁物で構成された処理室蓋22の上にアンテナを設置し,そのアンテナにUHF(Ultra High Frequency)帯の高周波を印加することによって,プラズマ38を生成」するタイプ(UHF-ECR),「絶縁物で構成された処理室蓋22の上にコイルを設けそのコイルに高周波を印加し,誘導結合によって,プラズマ38を生成」するタイプ(ICP)を列挙しています。しかしながら,CCPについては,何ら記載も示唆もされていません。CCPは,平行に設置された一対の電極間にRFパワーを印加することによりプラズマを生成するものであり,電極を使用しないECR等の装置とは,プラズマの生成原理やプラズマの性質(密度,分布など)が全く異なります。このため,引用文献1のECRを公知ないし周知のCCPに変更し,その他の構成をそのまま用いると,引用文献1のCDシフトの面内均一性の向上という目的を達成することは困難になります。したがって,審査官殿の指摘するように,当業者がこのような変更を適宜なし得たということはできません。
(B)については,ECRでは,マイクロ波が導波管を伝播し,石英製のシャワーヘッドプレートを通して処理容器内に導入されることによりプラズマが生成される構成上,処理ガスを処理容器の天井側(シャワーヘッド側)から導入することはできません。仮に天井側から導入しようとすれば,導入されるマイクロ波の分布は不均一となり,生成されたプラズマの分布を均一なものとすることができません。このため,引用文献1のECRにおいて,第2のガス導入管30-2の位置が適宜決定し得た事項にすぎないとする認定は,何ら根拠がなく,失当であることは明らかです。
以上より,引用文献1-3に基づいて当業者が本願発明に想到できたことの論理付けは何ら根拠がなく,これらの引用文献に基づき,本願発明が進歩性を欠如するとの認定は,著しく妥当性を欠くものといわざるを得ません。」
と主張をしている。

(2)そこで,上記請求人の主張について検討する。
まず,上記(A)について検討すると,引用文献1の段落0073に,「石英で構成されたシャワーヘッドプレート24に形成された中央側ガス導入領域42-1および外周側ガス導入領域42-2から,それぞれ組成および流量が異なる処理ガス36-1と処理ガス36-2を導入することが可能となる。?中略?これによって,被処理体1表面の反応生成物の濃度分布およびラジカル(例えば酸素)の濃度分布を独立に制御することができ,被処理体1でのCDシフトの面内均一性を向上させることができる。」と,また,引用文献2の段落0003に,「例えばセンタ側のガス孔とエッジ側のガス孔から別々にガスを基板上に噴出させることで,基板面内のガス濃度を局所的に調整して,エッチングの基板処理の面内均一性を向上できる。」と記載されているように,引用文献1,2は,どちらも,中央領域と外周領域とから異なるガスを導入することにより,被処理基板の表面のガス濃度等を制御することで,基板処理の面内均一性を向上させるものである。
すると,基板処理の面内均一性を向上させるという目的を達成するために,プラズマの生成原理やプラズマの性質が大きく関係するとは認められない。
そして,引用文献1と引用文献2とは,プラズマの生成原理やプラズマの性質が異なるにも関わらず,同様の構成を有しているのであるから,むしろ,その動機付けがあるといえる。

次に,上記(B)について検討する。
上記1でも検討したように,引用文献2記載事項には,いわゆる,平行平板型のプラズマ処理装置において,第2のガス導入口の位置を,第2ガス拡散室の天井面に設ける点が記載されている。
平行平板型のプラズマ処理装置においては,処理容器内の上下の電極間に高周波電力を印加することによりプラズマが生成されるものであり,マイクロ波がシャワーヘッドプレートを通して処理容器内に導入されることによりプラズマが生成されるものではないから,引用発明において引用文献2記載事項を採用した際に,第2のガス導入口の位置を,第2ガス拡散室の天井面としても,生成されるプラズマの分布が不均一なものとなるとはいえない。

以上から,請求人の主張は,採用することができない。

第7 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-12-21 
結審通知日 2020-12-22 
審決日 2021-01-13 
出願番号 特願2015-136299(P2015-136299)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 朋一  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 小川 将之
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 プラズマ処理装置及びガス供給部材  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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