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審決分類 |
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 B63H 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B63H |
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管理番号 | 1372305 |
審判番号 | 不服2020-12289 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-09-02 |
確定日 | 2021-04-06 |
事件の表示 | 特願2018-145022号「小型ダクト付き船舶」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月25日出願公開,特開2018-165152号,請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2014年(平成26年)1月27日(国内優先権主張 平成25年1月25日)を国際出願日とする特願2014-558513号の一部を平成30年8月1日に新たに特許出願としたものであって,同日付けで上申書が提出され,令和1年7月26日付けで拒絶理由が通知され,同年11月27日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,令和2年5月27日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ,これに対し,同年9月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時にに手続補正がされ,同年11月6日に前置報告がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願の請求項1?16に係る発明は,以下の引用文献1-9に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・請求項 1 ・引用文献等 1-3 ・請求項 2,3 ・引用文献等 1-4 ・請求項 4 ・引用文献等 1-5 ・請求項 5-7 ・引用文献等 1-6 ・請求項 8-10 ・引用文献等 1-7 ・請求項 11-15 ・引用文献等 1-8 ・請求項 16 ・引用文献等 1-9 引用文献等一覧 1.特開平8-2486号公報 2.特開2007-230541号公報 3.特開2000-16373号公報 4.特開2010-95181号公報 5.特開昭56-90797号公報 6.特開2006-306304号公報 7.特開平9-175488号公報 8.特開2008-260445号公報 9.特開昭52-71095号公報 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正によって請求項1に「前記ダクトの後端と前記プロペラの前縁との距離を,前記船体のシミュレーション又は前記水槽実験に基づき前記プロペラの直径の0.5%以上15%未満とし,キャビテーションを抑制し」た事項を追加する補正(以下「補正A」という。)が新規事項を追加するものであるか否かについて検討する。以下、願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」といい、当該明細書に願書に最初に添付した特許請求の範囲又は図面を併せたものを「当初明細書等」という。 (1)請求項1の「前記ダクトの後端と前記プロペラの前縁との距離を,前記船体のシミュレーション又は前記水槽実験に基づき前記プロペラの直径の0.5%以上15%未満とし,」との補正について 当初明細書には,段落【0059】に「図6は,小型ダクト付き船舶におけるダクト20の後端22とプロペラ10の前縁との距離Lを変更した場合の流速分布を示している。距離Lは,プロペラ10の直径Dpの15%以下において,プロペラ10とダクト20との干渉が顕著に表れており,距離LをDpの10%未満とすることで更にプロペラ10の半径R方向の負荷分布に大きな影響を与えている。」(下線は当審で付与した。以下同様。)との記載があり,段落【0067】には「図9に示す菱形プロットは,水槽実験データである。実験において,図4に示す逓減ピッチプロペラを用い,ダクトの直径をプロペラの直径の20%以上50%以下とし,ダクトの後端とプロペラの前縁との距離をプロペラの直径の0.5%以上10%未満とした。そして,図9に示す一点破線は,この水槽実験データに基づく馬力低減率を示している。」との記載があり,及び段落【0068】の「なお,船舶への小型ダクトの適用の判断に当っては,適用対象とする船舶について,実海域中におけるプロペラ負荷条件(Ct)と渦抵抗とを設計やシミュレーション,また模型実験等から算出する。そして,プロペラ負荷条件(Ct)が1.0以上で渦抵抗が10%以上であるか,更にプロペラ負荷条件(Ct)が3.5以下で渦抵抗が15%以下であるかを判定し,小型ダクトの適用の判断と馬力低減効果の推定を行ってもよい。又は,予め定めた図9等に代表される船舶の船種とプロペラ負荷条件(Ct)及び渦抵抗(%)の関係に適用し,船種を決める。」との記載がある。 図9は,水槽実験に基づき,ダクトの直径をプロペラの直径の20%以上50%以下とし,ダクトの後端とプロペラの前縁との距離をプロペラの直径の0.5%以上10%未満としたことにより,この水槽実験データに基づく馬力低減率を示しており,ダクトの後端とプロペラの前縁との距離をプロペラの直径の15%未満とするものではないが,段落【0059】によれば,小型ダクト付き船舶におけるダクト20の後端22とプロペラ10の前縁との距離Lを変更した場合の流速分布において,距離Lは,プロペラ10の直径Dpの15%以下において,プロペラ10とダクト20との干渉が顕著に表れており,距離Lがプロペラ10の直径Dpの15%未満においても効果があることが示されている。 この段落【0059】には,水槽実験やシミュレーションについての明記はないが,段落【0068】の下線部の記載からみて,図6の流速分布を作成するのにあたり,水槽実験あるいはシミュレーションで行われたことが窺える。 (2)請求項1の,「キャビテーションを抑制した」との補正について 当初明細書の段落【0010】には「そこで,本発明は,渦抵抗とプロペラ負荷条件との関係から,馬力低減効果を得られる船型を有した船体を特定し,大型ダクトと中型ダクトとの両者の特徴を兼ね備えた省エネ装置として,プロペラ形状を工夫し,プロペラの前方に近接して小型のダクトを配置することで,荷重度が増加する実海域において,伴流を考慮しキャビテーションを抑制した上で,効率を支配するプロペラの半径方向の負荷分布を小型のダクトとの干渉を利用して最適化することを目的とする。」との記載がある。 (3)上記(1)(2)からみて,上記補正Aは,当初明細書等のすべての記載を総合することによって導き出される技術的事項に対して新たな技術的事項を導入するものとは認められないから,上記補正Aは,新規事項を追加するものとはいえない。 第4 本願発明 本願請求項1?15に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明15」という。)は,令和2年9月2日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される,以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 船体の船尾に取り付けるプロペラと,前記プロペラの前方に取り付けるダクトとを有するダクト付き船舶において,前記船体を,前記ダクトの直径を前記プロペラの直径の20%以上50%以下とした前記船体のシミュレーション又は水槽実験による,実海域中におけるプロペラ負荷条件と,渦抵抗と,前記プロペラ負荷条件及び前記渦抵抗から求められる馬力低減率とに基づいた,前記プロペラ負荷条件が1.0以上で,前記渦抵抗が10%以上で,前記馬力低減率が0%を超える船体とし,前記ダクトの直径を,前記プロペラの直径の20%以上50%以下の小型ダクトとし,前記ダクトの後端と前記プロペラの前縁との距離を,前記船体のシミュレーション又は前記水槽実験に基づき前記プロペラの直径の0.5%以上15%未満とし,キャビテーションを抑制したことを特徴とする小型ダクト付き船舶。 【請求項2】 前記プロペラのピッチを,半径方向に減少する逓減ピッチとしたことを特徴とする請求項1に記載の小型ダクト付き船舶。 【請求項3】 前記ピッチが前記プロペラの翼根部で最大値となり,前記ピッチの前記最大値を,前記ピッチの最小値に対して120%以上160%以下としたことを特徴とする請求項2に記載の小型ダクト付き船舶。 【請求項4】 前記ダクトの断面形状を内側に凸形状とし,前記凸形状の突出度を,前記ダクトの上流側において大きくしてキャンバー比を6%以上16%以下としたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の小型ダクト付き船舶。 【請求項5】 前記ダクトを,上流側の内直径よりも下流側の内直径が小さい加速型ダクトとしたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の小型ダクト付き船舶。 【請求項6】 前記ダクトの中心線を前記プロペラの中心線と一致させたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の小型ダクト付き船舶。 【請求項7】 前記ダクトの中心線を前記プロペラの中心線に対して,前記ダクトの前方が,上方に10度以下,下方に5度以下の範囲で傾けて設置したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の小型ダクト付き船舶。 【請求項8】 前記ダクトの内面に,前記プロペラへの流れを対向流として形成する固定翼を有したことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の小型ダクト付き船舶。 【請求項9】 前記固定翼が前記プロペラの回転方向と逆方向に捻られていることを特徴とする請求項8に記載の小型ダクト付き船舶。 【請求項10】 前記固定翼の捻りを前記プロペラに近づくに従って大きくしたことを特徴とする請求項9に記載の小型ダクト付き船舶。 【請求項11】 前記固定翼の最大捻り角度を前記プロペラのピッチ比の15倍以上25倍以下としたことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の小型ダクト付き船舶。 【請求項12】 前記船尾に前記ダクトを取り付ける支柱が前記固定翼を兼ねていることを特徴とする請求項8から請求項11のいずれかに記載の小型ダクト付き船舶。 【請求項13】 前記ダクトを,側面視で,上辺が下辺より長い逆台形形状としたことを特徴とする請求項1から請求項12のいずれかに記載の小型ダクト付き船舶。 【請求項14】 前記ダクトの前記上辺を,前記下辺の長さの1倍より大きく2倍以下としたことを特徴とする請求項13に記載の小型ダクト付き船舶。 【請求項15】 前記ダクトを既存の船舶に後付けしたことを特徴とする請求項1から請求項14のいずれかに記載の小型ダクト付き船舶。」 第5 引用文献,引用発明等 (1)引用文献1 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同様。)。 ・「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,船舶の推進性能を向上させるため,船舶のプロペラの前方にリング状のノズルを備えた船舶に関する。」 ・「【0003】 【発明が解決しようとする課題】上記ノズル,特に,図9に示すノズルは,プロペラ面の上部近傍に流入する伴流係数w(w=(V_(S) -V_(a) )/V_(S) )の大きい流れを集中整流するため,船体のビルジ部より発生する三次元剥離渦の発生を抑制できる。そして,船体抵抗を減少させ,推進効率η(η=η_(h) ・η_(o) ・η_(R) )を向上させることができる。上記V_(S) は,船速,V_(a) は,プロペラ流入流速である。また,η_(h) は船殻効率と呼ばれ, η_(h) =(1-t)/(1-w) で表される。」 ・「【0005】然しながら,最近の肥大船は,プロペラ面における伴流分布が図11に示すように分布している。また,プロペラ面内の面内流向は,図12に示すような方向を持っている。このため,図9のようなクサビ形のノズル3aでは,ノズル前縁LE(図10参照)において,図13に示すような迎角α及び流速V_(a) の分布を持つことになる。図13の横軸は,ノズル周方向の角度であり,ノズルの頂点,換言すれば,ノズルを時計に見立てた場合の0時の位置を0°とし,かつ,ノズルを船首側からプロペラの方向に向かって見て右回り,即ち,時計回りに測った角度を示している。図13から180°を境にして流場が左右対称になっていることがわかる。」 ・「【0014】 【実施例】以下,図面により本発明の実施例を説明する。図1において,1は,船舶であり,プロペラ2の前方にリング状のノズル3を備えている。このノズル3は,後方ほど小径化している。また,このノズル3は,その軸心Caが,プロペラ軸軸心Cと同軸関係にあり,更に,プロペラ軸軸心Cを含む面での断面が内側に突出した翼形になっている。 【0015】このノズル3は,その前縁4が上部前縁41と下部前縁42からなり,上部前縁41は,下方ほどプロペラ2の方に接近している。そして,上部前縁41と下部前縁42とが接合する接合部5がノズル底部6の先端7よりもプロペラ2の方に接近している。そして,この接合部5は,変曲点にもなっており,ノズル上部前縁41の傾斜角θ_(1) とノズル下部前縁42の傾斜角θ_(2) とが変わるようになっている。ここで,θ_(2 )>θ_(1) である。 【0016】更に,上記接合部5は,プロペラ軸軸心Cを含む水平面上に位置している。また,このノズル3は,その後縁8が,下方ほど船首の方に接近している。上記ノズル3は,上下二つの支持部材9,10を介して船体11に固定されている。この支持部材9,10は,図2に示すように,後端ほど薄肉化し,しかも,プロペラ2の回転方向に対して逆方向の捻りを有している。こうすると,プロペラ2の後方に発生するプロペラ回転と同一方向の回転流を減少させることができる。 【0017】上記リング状ノズル3を用いると,ノズルに作用する力F_(T) が,図7の破線のような分布になる。なお,実線は,クサビ形のノズルに作用する力F_(T) の分布を示している。図7から分かるように,ノズルの推進力成分は,あまり変わらないものの,抵抗となる成分が大きく減少する。ノズルの抵抗となる成分が減少すると,ノズルに流入する流量も大きくなる。そして,結果的に,伴流係数wの大きな流れを,より集中整流することができるため,ノズルの効果を最大限発揮し,推進効率ηを,より大きく向上させることができる。 【0018】図8は,推進効率ηに関する自航要素(η_(R) ,1-t,1-w)が,どのように改善されるかを示したものであるが,図8から本発明は,1-tが上昇し,ノズルの作用が,より効果的になっていることがわかる。なお,図8において,(a)はノズル無し,(b)は図9のクサビ形ノズル使用の場合,(c)は本発明の場合である。 【0019】この傾向は,ノズル後端部の直径D_(N) がプロペラの直径D_(P) より小さな場合だけでなく,プロペラの直径D_(P) より大きな場合にも同様の効果が期待できる。ノズル後端部の直径D_(N) は,プロペラの直径D_(P) の概ね40?110%が望ましい。図1において,符号13は,舵である。 【0020】また,図4のように,舵13にコスタバルブ14を取り付けると,上記ノズル3との相乗効果により,更に,船体抵抗を減少させることができる。このコスタバルブ14は,頭部15と胴部16からなり,頭部15はラダーホーン17に固定され,胴部16は舵13に固定されている。また,プロペラボス18に取り付けたキャップ19とコスタバルブ14との間に段差が生じないようにキャップ19の後端面20とバルブ頭部15の前端面21が同径に近くなっており,流れが滑らかなに流れるようになっている。 【0021】また,図5のように,ノズル3の内壁面12に近づくほど支持部材9a,10aの捻り度合を大きくしてもよい。更に,図6のように,上部支持部材9aのみに捻りを付与し,下部支持部材10bをプロペラ軸軸心Cに沿ったストレート構造にしてもよい。上記ノズル3は,真横から見ると,接合部5がプロペラ軸軸心C上に位置しているが,接合部5は,プロペラ軸軸心Cよりやや上方に位置させたり,或いは,プロペラ軸軸心Cよりやや下方に位置させても同様の効果が得られる。 【0022】また,ノズル3の後縁8及び下部前縁42は,垂直にしてもよい。また,接合部5におけるノズル弦長は,流場に合わせて最小になるようにしてもよい。なお,図1において,L1 は,ノズル頂部の弦長,L2 はノズル底部の弦長をである。 【0023】 【発明の効果】上記のように,本発明は,船舶のプロペラの前方にリング状のノズルを備えた船舶において,前記ノズルは,その前縁が上部前縁と下部前縁からなり,上部前縁は,下方ほどプロペラ側に接近し,上部前縁と下部前縁とが接合する接合部においてノズル上部前縁の傾斜角と下部前縁の傾斜角が変わり,更に,前記接合部がプロペラ軸軸心を含む水平面の近傍に位置させたので,ノズルの推進力成分は,あまり変わらないものの抵抗となる成分が大きく減少し,ノズルに流入する流量も大きくなる。そして,結果的に,伴流係数wの大きな流れを,より集中整流することができるため,ノズルの効果を最大限発揮し,推進効率ηを,より大きく向上させることができる。」 ・図1には,以下の内容が示されている。 図1からみて,プロペラ2が船体の船尾に取り付けられていることが理解できる。 これらの記載事項からみて,引用文献1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「船体の船尾に取り付けられているプロペラ2と,プロペラ2の前方にリング状のノズル3を備えた船舶において,ノズル3は,後方ほど小径化しており,ノズル後端部の直径D_(N) は,プロペラの直径D_(P) の概ね40?110%が望ましい,リング状のノズル3を備えた船舶。」 (2)引用文献2 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,次の事項が記載されている。 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は,高推進効率幅広肥大船に関するものである。」 ・「【0009】 本発明の実施例に係る高推進効率肥大船を説明する。 図2に示すように,満載状態でのB/dが約3.0であり方形係数が約0.8の高推進効率幅広肥大船である超大型タンカー1は,船尾に2基の二重反転プロペラ2を装備している。従来のように超大型タンカー1に1基のプロペラを装備すると,プロペラ荷重度C_(T)は3になる。2基の二重反転プロペラ2は前記1基のプロペラと同径であり,プロペラ翼掃過面積の合計は,船尾に1基のプロペラを装備した場合の当該プロペラのプロペラ翼掃過面積の2倍になっており,プロペラ荷重度C_(T)は(3/2)=1.5になっている。図1の相関αから分かるように,プロペラ装備数を1から2に増加させてプロペラ荷重度C_(T)を3から1.5に減少させることにより,プロペラ効率ηは0.5から約0.6に増加し,更にプロペラを二重反転プロペラとすることにより,図1の相関γと相関βの差が上乗せされて,プロペラ効率ηは約0.6から0.65に増加する。この結果,超大型タンカー1においては,プロペラ効率ηは従来に比べて30%増加している。プロペラ効率ηの大幅な増加により,燃費が大幅に改善される。」 これらの記載事項からみて,引用文献2には,以下の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されているといえる。 「高推進効率幅広肥大船に関し,1基のプロペラを装備すると,プロペラ荷重度C_(T)は3になり,プロペラ装備数を1から2に増加させてプロペラ荷重度C_(T)を3から1.5に減少させることにより,プロペラ効率ηは0.5から約0.6に増加する,高推進効率幅広肥大船。」 (3)引用文献3 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には,次の事項が記載されている。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,船舶の船体形状に起因する粘性抵抗を低減し,エネルギー消費,すなわち船舶の推進に必要な馬力を減少させ,省エネルギーに寄与する肥大船船型に関するものである。 【0002】 【従来の技術】肥大船の全抵抗成分の割合は,摩擦抵抗が65?70%,形状抵抗が15?20%,造波抵抗その他が10?15%である。粘性抵抗は摩擦抵抗と形状抵抗の和であるから全抵抗の80?90%を占めることとなる。」 ・「【0004】船体形状に起因する抵抗は形状抵抗であり,船体形状の改良により全抵抗に対して最大20%の抵抗減少が得られることとなる。」 ・「【0034】かかる本実施例では,従来型船型と比較して,抵抗で12%の減少,伝達馬力では7%の節減効果が得られた。」 これらの記載事項からみて,引用文献3には,以下の事項(以下「引用文献3に記載された事項」という。)が記載されているといえる。 「船舶の船体形状に起因する粘性抵抗を低減し,船舶の推進に必要な馬力を減少させ,省エネルギーに寄与する肥大船船型に関し,従来,肥大船の全抵抗成分の割合は,形状抵抗が15?20%をしめるが,船体形状に起因する抵抗は形状抵抗であり,船体形状の改良により全抵抗に対して最大20%の抵抗減少が得られ,従来型船型と比較して,抵抗で12%の減少が得られた,肥大船船型。」 (4)引用文献5 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には,図面とともに次の事項が記載されている。 ・「【特許請求の範囲】 1.船体の船尾部近傍両舷において,正面形状リング状で側面形状が略逆三角形状のノズルを,その後端面とプロペラチップ面との距離がプロペラ径の5?15%の範囲内にあるように取り付けたことを特徴とする船舶。」 ・「本発明は船舶の改良に関するもので,船舶の推進性能の向上を計ることを目的とする。」(公報1ページ左下欄11?12行) ・「しかし大型船にノズルプロペラを採用した場合,プロペラの翼端部に発生するキャビテーションとそれによるノズル内面のエロージョン及びノズルの製作取付時の精度管理等が大きな問題となっている。 本発明は以上の問題に対処すべく為されたもので,船舶の船尾部にリング状のノズルを設けたものである。」(公報1ページ左下欄最下行?右下欄7行) ・「又ノズル(1)の取付位置は,ノズル後端面(1a)とプロペラチップ面との距離がプロペラ径の5?15%の範囲内にあるようにすれば良い。」(公報2ページ右上欄18行?左下欄1行) ・第2図,第5図には,以下の内容が示されている。 これらの記載事項からみて,引用文献5には,以下の事項(以下「引用文献5に記載された事項」という。)が記載されているといえる。 「船体の船尾部において,正面形状リング状で側面形状が略逆三角形状のノズルを,その後端面とプロペラチップ面との距離がプロペラ径の5?15%の範囲内にあるように取り付けた,船舶。」 第6 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 ア.本願発明1と引用発明とを対比すると,後者の「プロペラ2」は前者の「プロペラ」に相当し,以下同様に,「リング状のノズル3」又は「ノズル3」は「ダクト」に,それぞれ相当する。 後者の「リング状のノズル3を備えた船舶」と前者の「小型ダクト付き船舶」とは「ダクト付き船舶」において共通する。 イ.後者の「船体の船尾に取り付けられているプロペラ2と,プロペラ2の前方にリング状のノズル3を備えた船舶」は,前者の「船体の船尾に取り付けるプロペラと,前記プロペラの前方に取り付けるダクトとを有するダクト付き船舶」に相当する。 ウ.後者の「ノズル3は,後方ほど小径化しており,ノズル後端部の直径D_(N)は,プロペラの直径D_(P)の概ね40?110%が望ましい」ことと,前者の「前記ダクトの直径を前記プロペラの直径の20%以上50%以下とした」こととは,「前記ダクトの直径を前記プロペラの直径の所定範囲内の比率とした」ことにおいて共通する。 そうすると,両者は, 「船体の船尾に取り付けるプロペラと,前記プロペラの前方に取り付けるダクトとを有するダクト付き船舶において,前記ダクトの直径を前記プロペラの直径の所定範囲内の比率とした,ダクト付き船舶。」 の点で一致し,以下の点で相違すると認められる。 <相違点> 本願発明1では,「ダクト付き船舶」が「小型」ダクト付き船舶であり,「前記船体を,前記ダクトの直径を前記プロペラの直径の20%以上50%以下とした前記船体のシミュレーション又は水槽実験による,実海域中におけるプロペラ負荷条件と,渦抵抗と,前記プロペラ負荷条件及び前記渦抵抗から求められる馬力低減率とに基づいた,前記プロペラ負荷条件が1.0以上で,前記渦抵抗が10%以上で,前記馬力低減率が0%を超える船体とし,前記ダクトの直径を,前記プロペラの直径の20%以上50%以下の小型ダクトとし,前記ダクトの後端と前記プロペラの前縁との距離を,前記船体のシミュレーション又は前記水槽実験に基づき前記プロペラの直径の0.5%以上15%未満とし,キャビテーションを抑制した」のに対して,引用発明では,「ノズル3は,後方ほど小径化しており,ノズル後端部の直径D_(N)は,プロペラの直径D_(P)の概ね40?110%が望ましい」ものの,それ以上の特定はなされていない点。 (2)相違点についての判断 引用文献2には,プロペラ荷重度C_(T)すなわち「プロペラ負荷条件が1.0以上」である肥大船の船体が開示され,引用文献3には,船舶の船体形状に起因する粘性抵抗すなわち「渦抵抗が10%以上」であること,及び,船舶の推進に必要な馬力を減少させることすなわち「馬力低減率が0%を超える」肥大船の船体が開示されている。 また,審判請求時の補正において追加した事項に関連する引用文献5に記載された事項は,上述したように「船体の船尾部において,正面形状リング状で側面形状が略逆三角形状のノズルを,その後端面とプロペラチップ面との距離がプロペラ径の5?15%の範囲内にあるように取り付けた,船舶。」であるが,図5を参照すると,このリング状のノズルの直径はプロペラ直径よりも大きなものであり,本願発明1の「プロペラの直径の20%?50%とした小型ダクト」とは異なるとともに,図2を参照すると,「プロペラチップ面」は,プロペラの先端面のことであって,本願発明1の「プロペラの前縁」を距離Lの起点としているものとは異なる。 そうすると,上記相違点における本願発明1の構成のうち,少なくとも,「前記ダクトの直径を,前記プロペラの直径の20%以上50%以下の小型ダクトとし,前記ダクトの後端と前記プロペラの前縁との距離を,」「前記プロペラの直径の0.5%以上15%未満とし」た構成(以下「構成A」という。)については,各引用文献のいずれにも記載がない。 さらに,引用発明を開示する引用文献1の図1のリング状のノズル3とプロペラ2に引用文献5に記載された事項の「ノズル(ダクト)の後端縁とプロペラチップ面との距離をプロペラ直径の5?15%」を適用すると,特に5%に近い場合にノズル(ダクト)がプロペラに接触してしまう蓋然性が高く,引用発明に引用文献5に記載された事項を適用する動機付けはない。 そして,上記構成Aにより,ダクトとプロペラの干渉効果を高め,プロペラの効率を高めることができる(本願明細書の段落【0028】,【0031】,【0059】を参照のこと)という格別の作用効果を奏するものである。 したがって,本願発明1は,引用発明,引用文献2,3に記載された事項,及び,引用文献5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2.本願発明2?15について 本願発明2?15は,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定して発明を特定するものであるから,本願発明1と同じ理由により,引用発明,引用文献2?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第7 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-03-18 |
出願番号 | 特願2018-145022(P2018-145022) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B63H)
P 1 8・ 55- WY (B63H) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 中島 昭浩 |
特許庁審判長 |
一ノ瀬 覚 |
特許庁審判官 |
藤井 昇 佐々木 一浩 |
発明の名称 | 小型ダクト付き船舶 |
代理人 | 太田 貴章 |
代理人 | 阿部 伸一 |