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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16H
管理番号 1372707
異議申立番号 異議2020-700427  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-18 
確定日 2021-02-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6621956号発明「セルロース含有樹脂製ギア」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6621956号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?19〕について訂正することを認める。 特許第6621956号の請求項1ないし19に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6621956号の請求項1?19に係る特許についての出願は、平成31年4月22日(優先権主張 平成30年4月23日)に出願され、令和1年11月29日にその特許権の設定登録がされ、同年12月18日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年6月18日:特許異議申立人野中恵(以下、「異議申立人」という
。)による請求項1?19に係る特許に対する特許異
議の申立て
同年8月31日付け:取消理由通知
同年10月30日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年12月14日 :異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の許否
1 訂正の内容
特許権者によって令和2年10月30日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「他のギア歯との摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下であり」とあるのを、「他のギア歯との摺動面が射出成形された面であり、前記摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下であり」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3?19も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「他のギア歯との摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下であり」とあるのを、他のギア歯との摺動面が射出成形された面であり、前記摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下であり」に訂正する(請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3?19も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1、5及び6に「N/m」とあるのを、「N・m」に訂正する(請求項1、5及び6の記載を直接又は間接的に引用する請求項3、4及び7?19も同様に訂正する。)。
訂正前の請求項1?19は、請求項3?19が、訂正の請求の対象である請求項1及び2の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1?19〕について請求されている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「他のギア歯との摺動面」について、「射出成形された面であり」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書(以下、単に「明細書」という。)の段落【0239】、【0268】及び【0269】の記載に基づいているといえるから、新規事項の追加には当たらない。
さらに、訂正事項1は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2の「他のギア歯との摺動面」について、「射出成形された面であり」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書(以下、単に「明細書」という。)の段落【0239】、【0268】及び【0269】の記載に基づいているといえるから、新規事項の追加には当たらない。
さらに、訂正事項2は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項1、5及び6の「N/m」との記載を、「N・m」とするものであるが、「N/m」はトルクの単位として記載されているところ、トルクの単位は「N・m」であるのは、当業者における技術常識であるから、訂正前の「N/m」が本来は「N・m」と記載すべきものを誤って「N/m」と記載したものであることは、当業者には明らかである。
したがって、訂正事項3は、誤りである記載を本来の記載に正す誤記の訂正を目的とするものである。
訂正事項3は、誤りである記載を本来の記載に正すことを目的とするものであるから、新規事項の追加には当たらず、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正事項1?3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?19〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?19に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明19」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?19に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

[本件発明1]
「(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含み、他のギア歯との摺動面が射出成形された面であり、前記摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下であり、トルク3N・m以上で使用される、樹脂製ギア。」
[本件発明2]
「(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含み、他のギア歯との摺動面が射出成形された面であり、前記摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下である、樹脂製ギア。」
[本件発明3]
「80℃熱水中に24時間暴露させ、その後、80℃相対湿度57%の条件下で120時間保持して吸水させた際の吸水寸法変化が、3%以下である、請求項1又は2に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明4]
「前記樹脂製ギア内のボイドの最大サイズが1.0μm以下である、請求項1?3のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明5]
「トルク5N・m以上で使用される、請求項1?4のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明6]
「トルク10N・m以上で使用される、請求項1?5のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明7]
「(A)熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂である、請求項1?6のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明8]
「(A)熱可塑性樹脂がポリアミド及びポリアセタールからなる群より選択される1種以上の樹脂である、請求項7に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明9]
「(C)表面改質剤を含む、請求項1?8のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明10]
「(C)表面改質剤の数平均分子量が200?10000である、請求項9に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明11]
「(C)表面改質剤を、(B)セルロースナノファイバー100質量部に対して1?50質量部含む、請求項9又は10に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明12]
「(D)金属イオン成分を含む、請求項1?11のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明13]
「(D)金属イオン成分を、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.005?5質量部含む、請求項12に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明14]
「(E)摺動剤成分を含む、請求項1?13のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明15]
「(E)摺動剤成分を、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01?5質量部含む、請求項14に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明16]
「(E)摺動剤成分の融点が40?150℃である、請求項14又は15に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明17]
「モジュールが2.0以下である、請求項1?16のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。」
[本件発明18]
「請求項1?17のいずれか一項に記載の樹脂製ギアと、作動回転数800rpm以上のモータである駆動源とを有する、ギア駆動体。」
[本件発明19]
「前記モータが、作動回転数10000rpm以下のモータである、請求項18に記載のギア駆動体。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?19に係る特許に対して、当審が令和2年8月31日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

請求項1?19に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に、甲第5号証に記載された技術的事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1?19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

甲第3号証:特開2014-136745号公報(異議申立人の提出した甲第3号証)
甲第5号証:特開2009-202754号公報(同甲第5号証)

2 当審の判断
(1)甲号証の記載事項等
ア 甲第3号証
取消理由で引用した甲第3号証には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、機械的特性、熱的特性が向上したポリアミド樹脂成形体に関するものである。」
「【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するものであり、ポリアミド樹脂中にセルロース繊維が凝集することなく均一に分散され、機械的特性や熱的特性が向上したポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体を提供することを目的とするものである。」
「【0011】
本発明のポリアミド樹脂成形体は、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維を含有し、樹脂組成物中に該セルロース繊維が凝集することなく均一に分散された樹脂組成物を成形したものであるため、強度、弾性率等の機械的特性や耐熱性、線膨張係数等の熱的特性が向上したものである。本発明のポリアミド樹脂成形体は、射出成形、押出成形、発泡成形等の成形法により得ることが可能であり、車両のエンジンやモーターのカバー、電子電気機器の筺体などの、機械的特性や熱的特性が要求される用途に使用することが可能である。」
「【0019】
したがって、本発明においては、セルロース繊維として、平均繊維径が10μm以下のものを用いることが必要であり、中でも平均繊維径は500nm以下であることが好ましく、さらには、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下である。平均繊維径が10μmを超えるセルロース繊維では、セルロース繊維の表面積を増やすことができず、ポリアミド樹脂や、ポリアミド樹脂を形成するモノマーに対する分散性や親和性を向上させることが困難となる。平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、セルロース繊維の生産性を考慮すると4nm以上とすることが好ましい。」
「【0052】
その他、本発明のポリアミド樹脂成形体が適用される成形体としては、・・・中略・・・コピー機用ギア、・・・中略・・・ワイパーモーターギア、・・・中略・・・等が挙げられる。
「【0054】
実施例1
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100G(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製した。・・・以下略」

甲第3号証の記載から、甲第3号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「ポリアミド樹脂中に、平均繊維径が500nm以下のセルロース繊維を凝集することなく均一に分散したポリアミド樹脂組成物を成形したワイパーモーターギア」

イ 甲第5号証
取消理由で引用した甲第5号証には、図面とともに次の記載がある。
「【0001】
本発明は、電動モータの出力をステアリングシャフトに減速して伝達するための電動パワーステアリング装置用減速ギヤ機構に関する。」
「【0010】
本発明は、このような不都合を解消するためになされたものであり、その目的は、吸水寸法変化を抑制することができ、また、機械的強度、耐久性、及び耐摩耗性を向上することができる電動パワーステアリング装置用減速ギヤ機構を提供することにある。」
「【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)電動モータの出力をステアリングシャフトに減速して伝達するための電動パワーステアリング装置用減速ギヤ機構において、金属製芯管の外周部に一体に形成され、5?50重量%の繊維状充填剤を含有する樹脂組成物からなるギヤを備え、ギヤの歯面に、噛み合いによるすべり方向と略平行な方向性を有する表面粗さ面を形成することを特徴とする電動パワーステアリング装置用減速ギヤ機構。
・・・中略・・・
(4)表面粗さ面の算術平均粗さが、Ra0.05μm?2μmであることを特徴とする(1)?(3)のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置用減速ギヤ機構。」
「【0026】
そして、本実施形態のウォームホイール31は、例えば、次の工程で製造することができる。
まず、金属製の芯管42の外周面に、ショットブラスト加工、ローレット加工、スプライン加工等を施す。この場合、ローレット加工及びスプライン加工が好ましく、また、ローレット加工のV字状溝の深さは0.2?0.8mmが好ましく、0.3?0.7mmがより好ましい。一方、スプライン加工では、プレス成形で加工可能なインボリュートスプライン加工が低コストで最も好適である。
【0027】
次いで、芯管42を溶剤で脱脂した後、この芯管42をスプルー及びディスクゲートを装着した金型に配置し、射出成形機により上記樹脂組成物を充填してギヤ43を成形する。その後、ギヤ43の外周部に切削加工によりギヤ歯44を形成すると共に、ギヤ歯44の歯面に、ウォーム32との噛み合いによるすべり方向と略平行な方向性を有する表面粗さ面を形成する。」
【0028】
ギヤ歯44の歯面に上記表面粗さ面を形成する方法としては、例えば、ウォーム32に砥粒を電着してウォームホイール31を加工する方法や、粗加工で歯切りしたウォームホイール31とウォーム32とを用意し、両者の間に砥粒を含むペースト等を供給して共削りする方法などを採用してもよい。砥粒は、いずれの場合も♯1000?♯30000程度の粒度のものを用いる。ウォームホイール31とウォーム32とを用いて共削りする場合は、その組み合わせのままで電動パワーステアリング装置に組み付けるのが好ましい。」
「【0033】
但し、平板材の表面粗さ面の表面粗さが大きい場合、表面粗さ面の凸部が積極的に荷重を受けるため、凸部が塑性変形してバックラッシュが増加してしまう。このため、平板材の表面粗さはRa2μm以下である必要がある。また、平板材の表面粗さ面の表面粗さがRa0.05μm未満の場合、接触界面へのグリース供給機能や接触界面に生成される摩耗粉を排出機能が損なわれるため摩耗が増加してしまう。このため、平板材、即ち、ウォームホイール31の歯面の表面粗さはRa0.05μm?2μmである必要がある。」

(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と、引用発明とを対比する。
引用発明の「ポリアミド樹脂」は、本件発明2の「熱可塑性樹脂」に相当する。
引用発明の「平均繊維径が500nm以下のセルロース繊維を凝集することなく均一に分散した」ことは、本件発明2の「平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含」むことに相当する。
引用発明の「ポリアミド樹脂組成物を成形したワイパーモーターギア」は、本件発明2の「樹脂製ギア」に相当する。
したがって、本件発明2と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。

[一致点]
「熱可塑性樹脂と平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含む、樹脂製ギア。」
[相違点]
本件発明2は、「他のギア歯との摺動面が射出成形された面であり、前記摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下である」のに対し、引用発明では、かかる点について特定されていない点。

イ 判断
上記(1)イで摘記した事項より、甲第5号証には、樹脂製ギヤ機構において、バックラッシュの減少や、潤滑材保持を考慮して、噛み合いによるすべり方向と略平行な方向の算術平均粗さをRa0.05μm?2μmとするために、ギヤ43の外周部に切削加工によりギヤ歯44を形成すると共に、ギヤ歯44の歯面に切削加工を施すことが記載されているといえる。
このように、甲第5号証には、樹脂製ギヤ機構において、ギヤの外周部に切削加工によりギヤ歯を形成すると共に、他のギヤ歯との摺動面であるギヤ歯の歯面に切削加工を施し、所望の算術平均粗さとすること(以下、「甲第5号証に記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。
してみると、仮に、樹脂製ギアにおいて、歯部まで含めて射出成形により一体的に形成することが周知技術であったとして、甲第5号証に記載の技術的事項をかかる周知技術と共に、引用発明に適用しても、歯部まで含めて射出成形により一体的に形成したギアの歯面を、さらに切削加工により所望の算術平均表面粗さにしたものが得られることとなるから、「他のギア歯との摺動面が射出成形された面であり、前記摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下であ」るという、本件発明2の構成に至らない。
また、歯部まで含めて射出成形により一体的に形成した樹脂製ギアについて、その歯面について、射出成形時に特定の所望の算術平均表面粗さとすることを記載ないし示唆する証拠もない。
したがって、引用発明において、相違点にかかる本件発明2の構成となすことは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
よって、本件発明2は、引用発明及び甲第5号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明1について
本件発明1は、本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに、「トルク3N・m以上で使用される」という発明特定事項を付加したものである。
本件発明2が、上記(2)に説示のとおり、引用発明及び甲第5号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1も同様の理由により、引用発明及び甲第5号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明3?17について
本件発明3?17は、少なくとも、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに、発明特定事項を付加したものである。
本件発明1及び2が、上記(2)及び(3)に説示のとおり、引用発明及び甲第5号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3?17も同様の理由により、引用発明及び甲第5号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明18及び19について
本件発明18及び19は、少なくとも、本件発明1?17のいずれかの発明特定事項を全て含んだ、ギア駆動体についての発明である。
本件発明1?17が上記(2)?(4)に説示のとおり、引用発明及び甲第5号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明18及び19も同様の理由により、引用発明及び甲第5号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)異議申立人の意見について
異議申立人は、令和2年12月14日提出の意見書において、
「参考資料1(当審注:特開2001-98148号公報)や参考資料2(当審注:特開平8-244132号公報)に記載されているように、樹脂製の歯車を射出成形によって製造することは、本件特許の出願前における周知事項である。
また、参考資料3(当審注:特開2015-51631号公報)に記載されているように、セルロース繊維を含有するポリアミド樹脂組成物を射出成形して表面平滑性に優れる成形体すなわち表面粗さを細かなものとした成形体を得ることも本件の出願前に知られた事項である。さらに、セルロース繊維を含有するポリアミド樹脂組成物の場合は金型を損傷することがなく、良好に表面平滑性が得られることも参考資料3に記載のとおりである。
(3.5)
そうすると、甲第3号証に記載の発明において、『他のギア歯との摺動面が射出成形された面であり、前記摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下である』とすることは、参考資料1、2の記載を参酌したうえで、参考資料3に記載の技術的事項と甲第5号証に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たことである。
(3.6)
よって、訂正後の請求項2に係る本件発明は、参考資料1、2に記載の周知事項を考慮したうえで、甲第3号証、甲第5号証、参考資料3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」と主張する(第5ページ第1行?第19行)。
しかしながら、樹脂製ギアにおいて、歯部まで含めて射出成形により一体的に形成することが本件の出願(優先日)前に周知技術であったとしても、係る周知技術は歯部の算術平均表面粗さが不明であるから、甲第5号証に記載の技術的事項をかかる周知技術と共に、引用発明に適用しても、「他のギア歯との摺動面が射出成形された面であり、前記摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下であ」るという、本件発明2の構成に至らないということは、前記(2)イに説示のとおりである。
また、参考資料3は、歯部まで含めて射出成形により一体的に形成した樹脂製ギアについて、ギアの耐久性及び静音性の観点から、その歯面について、射出成形時に特定の所望の算術平均表面粗さとすることを開示ないし示唆するものではない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第2項について
ア 異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1?19に係る発明は、甲第1号証(特開2006-312688号公報)に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する。
しかしながら、甲第1号証は、摺動特性が優れた、セルロースミクロフィブリルからなる繊維材と、該繊維材を保持する樹脂とを含む複合材料から構成される摺動部材を開示するものであって、樹脂製ギヤに関する技術を開示するものではなく、まして、樹脂製ギアについて、ギアの耐久性及び静音性の観点から、その歯面について、射出成形時に特定の所望の算術平均表面粗さとすることを開示ないし示唆するものではないから、甲第1号証に記載の発明に基いて本件請求項1?19に係る発明をなすことは当業者であっても容易とはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張する上記の特許異議申立て理由によっては、請求項1?19に係る特許を取り消すことはできない。
イ また、異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1?19に係る発明は、甲第5号証(特開2009-202754号公報)に記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨も主張する。
しかしながら、上記「第4 2(1)イ」で摘記のとおり、甲第5号証は、樹脂製ギヤ機構において、ギヤの外周部に切削加工によりギヤ歯を形成すると共に、他のギヤ歯との摺動面であるギヤ歯の歯面に切削加工を施し、所望の算術平均粗さとすることという甲第5号証に記載の技術的事項が記載されているから、仮に、ポリアミド樹脂中に平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーを含む樹脂組成物が周知技術であるとしても、甲第5号証に記載の技術的事項に基いて、本件発明1の「他のギア歯との摺動面が射出成形された面であり前記摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下であ」るという構成に想到することは、当業者であっても容易とはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張する上記の特許異議申立て理由によっては、請求項1?19に係る特許を取り消すことはできない。
(2)特許法第36条第4項第1号について
異議申立人は、特許異議申立書において、本件の特許明細書を参照しても、どのようにすれば他のギア歯との摺動面の算術平均表面粗さSaを0.8μm以下とすることができるのか不明であるから、本件特許明細書の記載には不備があり、本件の特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨も主張する。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0236】?【0281】には、樹脂製ギアの製造方法及び評価方法が記載されているところ、【表2】及び【表3】における、比較例1及び2並びに実施例1?4における樹脂組成及びギア成形方法によって、ギア歯の算術平均表面粗さSaが0.4及び0.5μmという0.8μm以下とすることができることが記載されているといえ、しかも、係る記載が当業者における技術常識からみて実施ができないとの証拠もないから、本件特許明細書の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえ、特許法第36条第4項第1号の要件を満たす。
したがって、特許異議申立人の主張する上記の特許異議申立て理由によっても、請求項1?19に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含み、他のギア歯との摺動面が射出成形された面であり、前記摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下であり、トルク3N・m以上で使用される、樹脂製ギア。
【請求項2】
(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含み、他のギア歯との摺動面が射出成形された面であり、前記摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下である、樹脂製ギア。
【請求項3】
80℃熱水中に24時間暴露させ、その後、80℃相対湿度57%の条件下で120時間保持して吸水させた際の吸水寸法変化が、3%以下である、請求項1又は2に記載の樹脂製ギア。
【請求項4】
前記樹脂製ギア内のボイドの最大サイズが1.0μm以下である、請求項1?3のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
【請求項5】
トルク5N・m以上で使用される、請求項1?4のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
【請求項6】
トルク10N・m以上で使用される、請求項1?5のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
【請求項7】
(A)熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂である、請求項1?6のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
【請求項8】
(A)熱可塑性樹脂がポリアミド及びポリアセタールからなる群より選択される1種以上の樹脂である、請求項7に記載の樹脂製ギア。
【請求項9】
(C)表面改質剤を含む、請求項1?8のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
【請求項10】
(C)表面改質剤の数平均分子量が200?10000である、請求項9に記載の樹脂製ギア。
【請求項11】
(C)表面改質剤を、(B)セルロースナノファイバー100質量部に対して1?50質量部含む、請求項9又は10に記載の樹脂製ギア。
【請求項12】
(D)金属イオン成分を含む、請求項1?11のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
【請求項13】
(D)金属イオン成分を、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.005?5質量部含む、請求項12に記載の樹脂製ギア。
【請求項14】
(E)摺動剤成分を含む、請求項1?13のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
【請求項15】
(E)摺動剤成分を、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01?5質量部含む、請求項14に記載の樹脂製ギア。
【請求項16】
(E)摺動剤成分の融点が40?150℃である、請求項14又は15に記載の樹脂製ギア。
【請求項17】
モジュールが2.0以下である、請求項1?16のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
【請求項18】
請求項1?17のいずれか一項に記載の樹脂製ギアと、作動回転数800rpm以上のモータである駆動源とを有する、ギア駆動体。
【請求項19】
前記モータが、作動回転数10000rpm以下のモータである、請求項18に記載のギア駆動体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-02-12 
出願番号 特願2019-80946(P2019-80946)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (F16H)
P 1 651・ 121- YAA (F16H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 克久  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 尾崎 和寛
杉山 健一
登録日 2019-11-29 
登録番号 特許第6621956号(P6621956)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 セルロース含有樹脂製ギア  
代理人 中村 和広  
代理人 青木 篤  
代理人 三間 俊介  
代理人 中村 和広  
代理人 齋藤 都子  
代理人 青木 篤  
代理人 齋藤 都子  
代理人 三橋 真二  
代理人 三間 俊介  
代理人 三橋 真二  

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