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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G09G
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G09G
審判 一部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件  G09G
管理番号 1372711
異議申立番号 異議2020-700433  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-18 
確定日 2021-03-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6622893号発明「発光装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6622893号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6622893号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6622893号の請求項1?7に係る特許についての出願の特許出願までの経緯は次のとおりである。
平成14年 1月18日 : 特願2002-10766号(優先日:平成13年11月9日)の特許出願(以下、「原出願」という。)
平成20年 3月28日 : 原出願の一部の特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2008-87530号、以下「第1世代分割出願」という。)
平成24年 5月 2日 : 第1世代分割出願の一部の特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2012-105184号、以下「第2世代分割出願」という。)
平成25年11月20日 : 第2世代分割出願の一部の特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2013-239679号、以下「第3世代分割出願」という。)
平成26年 6月27日 : 第3世代分割出願の一部の特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2014-132514号、以下「第4世代分割出願」という。)
平成27年 5月26日 : 第4世代分割出願の一部の特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2015-106208号、以下「第5世代分割出願」という。)
平成28年 3月18日 : 第5世代分割出願の一部の特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2016-54981号、以下「第6世代分割出願」という。)
平成29年 9月 1日 : 第6世代分割出願の一部の特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2017-168422号、以下「第7世代分割出願」という。)
平成30年12月25日 : 第7世代分割出願の一部の特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2018-241382号)

その後、令和1年11月29日にその特許権の設定登録がされ、令和1年12月18日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 2年 6月18日 : 特許異議申立人渡邉孝充による特許異議の申立て
令和 2年 9月 7日付け : 取消理由通知書
令和 2年10月23日 : 特許権者による意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)
令和 2年12月17日 : 特許異議申立人渡邉孝充による意見書の提出

第2 本件訂正請求による訂正の適否について
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続される第3の配線と、を有し、」と記載されているのを、「前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、」に訂正する。(下線は訂正箇所である。以下、同じ。))
請求項1の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続される第3の配線と、を有し、」と記載されているのを、「前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、」に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続される第3の配線と、を有し、」と記載されているのを、「前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、」に訂正する。
請求項3の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続される第3の配線と、を有し、」と記載されているのを、「前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、」に訂正する。
請求項4の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続される第3の配線と、を有し、」と記載されているのを、「前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、」に訂正する。
請求項5の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続される第3の配線と、を有し、」と記載されているのを、「前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、」に訂正する。
請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。

(7)一群の請求項について
本件訂正請求は、一群の請求項[1?7]に対して請求されたものである。

2 本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の適否についての判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項1に係る発明では、「第3の配線」について、「第1のトランジスタのゲート」との重なりについて限定されていないものとされているが、訂正後の請求項1に係る発明では、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線」として、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」ものに限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項1の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線」は、明細書の段落【0052】及び図5の記載に基づいて導き出される構成である。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正後の請求項1に係る発明の技術的範囲を狭めるものであるにとどまり、それらのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

エ 独立特許要件の適否
本件においては、訂正前の請求項1については特許異議の申立てがされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項2に係る発明では、「第3の配線」について、「第1のトランジスタのゲート」との重なりについて限定されていないものとされているが、訂正後の請求項2に係る発明では、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線」として、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」ものに限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項2の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線」は、明細書の段落【0052】及び図5の記載に基づいて導き出される構成である。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、訂正後の請求項2に係る発明の技術的範囲を狭めるものであるにとどまり、それらのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

エ 独立特許要件の適否
本件においては、訂正前の請求項2については特許異議の申立てがされているので、訂正事項2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項3に係る発明では、「第3の配線」について、「第1のトランジスタのゲート」との重なりについて限定されていないものとされているが、訂正後の請求項3に係る発明では、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線」として、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」ものに限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項3の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線」は、明細書の段落【0052】及び図5の記載に基づいて導き出される構成である。
よって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、訂正後の請求項3に係る発明の技術的範囲を狭めるものであるにとどまり、それらのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

エ 独立特許要件の適否
本件においては、訂正前の請求項3については特許異議の申立てがされているので、訂正事項3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項4に係る発明では、「第3の配線」について、「第1のトランジスタのゲート」との重なりについて限定されていないものとされているが、訂正後の請求項4に係る発明では、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線」として、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」ものに限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項4の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線」は、明細書の段落【0052】及び図5の記載に基づいて導き出される構成である。
よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、訂正後の請求項4に係る発明の技術的範囲を狭めるものであるにとどまり、それらのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

エ 独立特許要件の適否
上記アのとおり、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、そして、本件においては、訂正前の請求項4については特許異議の申立てがされていないので、訂正事項4に関して、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件が課される。
そこで、本件訂正後の請求項4に係る発明(以下「本件訂正発明4」という。また、本件訂正後の請求項1?3、5、6に係る発明を、それぞれ、順に「本件訂正発明1」?「本件訂正発明3」、「本件訂正発明5」、「本件訂正発明6」という。)が、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か)について、以下、検討する。

(ア)本件訂正発明4
「【請求項4】
発光素子と、
前記発光素子の画素電極にソース又はドレインの一方が電気的に接続され、飽和領域で動作する第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。」

(イ)特許法第29条第2項(進歩性)について
a 文献の記載
(a)文献1の記載
文献1(特開平11-24604号公報。取消理由通知において引用した引用文献1であり、特許異議申立書に記載の甲第1号証)には、以下の事項が記載されている(下線は合議体が付与した。)。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に、複数の走査線と、該走査線の延設方向に対して交差する方向に延設された複数のデータ線と、該データ線に並列する複数の共通給電線と、前記データ線と前記走査線とによりマトリクス状に形成された画素領域とを有し、該画素領域の各々には、前記走査線を介して走査信号が第1のゲート電極に供給される第1の薄膜トランジスタと、該第1の薄膜トランジスタを介して前記データ線から供給される画像信号を保持する保持容量と、該保持容量によって保持された前記画像信号が第2のゲート電極に供給される第2の薄膜トランジスタと、前記画素領域毎に形成された画素電極と前記データ線を跨いで複数の前記画素電極に対応する対向電極との層間において前記画素電極が前記第2の薄膜トラジスタを介して前記共通給電線に電気的に接続したときに前記画素電極と前記対向電極との間に流れる駆動電流によって発光する有機半導体膜を具備する発光素子とを有する表示装置において、
前記有機半導体膜のうち、発光領域は、前記有機半導体膜よりも厚い絶縁膜からなるバンク層で囲まれているとともに、該バンク層は、前記データ線の少なくとも一部を覆うように構成されていることを特徴とする表示装置。
・・・
【請求項9】 請求項1ないし7のいずれかにおいて、前記共通給電線と前記データ線とは材料及び膜厚が同一で、かつ、前記共通給電線の線幅は、前記データ線の線幅よりも広いことを特徴とする表示装置。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機半導体膜に駆動電流が流れることによって発光するEL(エレクトロルミネッセンス)素子またはLED(発光ダイオード)素子などの発光素子を薄膜トランジスタ(以下、TFTという。)で駆動制御するアクティブマトリクス型の表示装置に関するものである。さらに詳しくは、その表示特性を向上するためのレイアウトの最適化技術に関するものである。」

「【0019】
【発明の実施の形態】図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】(アクティブマトリクス基板の全体構成)図1は、表示装置の全体のレイアウトを模式的に示すブロック図である。
【0021】この図に示すように、本形態の表示装置1では、その基体たる透明基板10の中央部分が表示部2とされている。透明基板10の外周部分のうち、データ線sigの両端側には画像信号を出力するデータ側駆動回路3(第1の駆動回路)、および検査回路5が構成され、走査線gateの両端側には走査信号を出力する走査側駆動回路4(第2の駆動回路)が構成されている。これらの駆動回路3、4では、N型のTFTとP型のTFTとによって相補型TFTが構成され、この相補型TFTは、シフトレジスタ、レベルシフタ、アナログスイッチなどを構成している。なお、透明基板10上において、データ側駆動回路3よりも外周領域には、画像信号や各種の電位、パルス信号を入力するための端子群とされる実装用パッド6が形成されている。
【0022】このよう構成した表示装置1では、液晶表示装置のアクティブマトリクス基板と同様、透明基板10上に、複数の走査線gateと、該走査線gateの延設方向に対して交差する方向に延設された複数のデータ線sigとが構成され、これらのデータ線sigと走査線gateとによりマトリクス状に形成された複数の画素領域7が構成されている。
【0023】これらの画素領域7のいずれにも、図2に示すように、走査線gateを介して走査信号がゲート電極21(第1のゲート電極)に供給される第1のTFT20が構成されている。このTFT20のソース・ドレイン領域の一方は、データ線sigに電気的に接続され、他方は電位保持電極stに電気的に接続されている。走査線gateに対しては容量線clineが並列配置され、この容量線clineと電位保持電極stとの間には保持容量capが形成されている。従って、走査信号によって選択されて第1のTFT20がオン状態になると、データ線sigから画像信号が第1のTFT20を介して保持容量capに書き込まれる。
【0024】電位保持電極stには第2のTFT30のゲート電極31(第2のゲート電極)が電気的に接続されている。第2のTFT30のソース・ドレイン領域の一方は、共通給電線comに電気的に接続されている一方、他方は発光素子40の一方の電極(後述する画素電極)に電気的に接続されている。共通給電線comは、定電位に保持されている。従って、第2のTFT30がオン状態になったときに、第2のTFT30を介して共通給電線comの電流が発光素子40に流れ、発光素子40を発光させる。」

「【0026】(画素領域の構成)このように構成した表示装置1の各画素領域7の構造を図3ないし図6(A)を参照して詳述する。
【0027】図3は、本形態の表示装置1に形成されている複数の画素領域7のうちの3つの画素領域7を拡大して示す平面図、図4、図5、および図6(A)はそれぞれは、そのA-A′線における断面図、B-B′線における断面図、およびC-C′線における断面図である。
【0028】まず、図3におけるA-A′線に相当する位置では、図4に示すように、透明基板10上には各画素領域7の各々に第1のTFT20を形成するための島状のシリコン膜200が形成され、その表面にはゲート絶縁膜50が形成されている。また、ゲート絶縁膜50の表面にはゲート電極21が形成され、該ゲート電極21に対して自己整合的に高濃度の不純物が導入されたソース・ドレイン領域22、23が形成されている。ゲート絶縁膜50の表面側には第1の層間絶縁膜51が形成され、この層間絶縁膜に形成されたコンタクトホール61、62を介して、ソース・ドレイン領域22、23にはデータ線sig、および電位保持電極stがそれぞれ電気的に接続されている。
【0029】各画素領域7には走査線gateと並列するように、走査線gateやゲート電極21と同一の層間(ゲート絶縁膜50と第1の層間絶縁膜51との間)には容量線clineが形成されており、この容量線clineに対しては、第1の層間絶縁膜51を介して電位保持電極stの延設部分st1が重なっている。このため、容量線clineと電位保持電極stの延設部分st1とは、第1の層間絶縁膜51を誘電体膜とする保持容量capを構成している。なお、電位保持電極stおよびデータ線sigの表面側には第2の層間絶縁膜52が形成されている。
【0030】図3におけるB-B′線に相当する位置では、図5に示すように、透明基板10上に形成された第1の層間絶縁膜51および第2の層間絶縁膜52の表面に各画素領域7に対応するデータ線sigが2本、並列している状態にある。
【0031】図3におけるC-C′線に相当する位置では、図6(A)に示すように、透明基板10上には共通給電線comを挟む2つの画素領域7に跨がるように、第2のTFT30を形成するための島状のシリコン膜300が形成され、その表面にはゲート絶縁膜50が形成されている。また、ゲート絶縁膜50の表面には、共通給電線comを挟むように、各画素領域7の各々にゲート電極31がそれぞれ形成され、このゲート電極31に対して自己整合的に高濃度の不純物が導入されたソース・ドレイン領域32、33が形成されている。ゲート絶縁膜50の表面側には第1の層間絶縁膜51が形成され、この層間絶縁膜に形成されたコンタクトホール63を介して、ソース・ドレイン領域62に中継電極35が電気的に接続されている。一方、シリコン膜300の中央の2つの画素領域7において共通のソース・ドレイン領域33となる部分に対しては、第1の層間絶縁膜51のコンタクトホール64を介して、共通給電線comが電気的に接続されている。これらの共通給電線com、および中継電極35の表面には第2の層間絶縁膜52が形成されている。第2の層間絶縁膜52の表面にはITO膜からなる画素電極41が形成されている。この画素電極41は、第2の層間絶縁膜52に形成されたコンタクトホール65を介して中継電極35に電気的に接続され、また中継電極35を介して第2のTFT30のソース・ドレイン領域32に電気的に接続されている。
【0032】ここで、画素電極41は発光素子40の一方の電極を構成している。すなわち、画素電極41の表面には正孔注入層42および有機半導体膜43が積層され、さらに有機半導体膜43の表面には、リチウム含有アルミニウム、カルシウムなどの金属膜からなる対向電極opが形成されている。この対向電極opは、少なくとも画素領域41の全面、あるいはストライプ状に形成された共通の電極であって、一定の電位に保持されている。
【0033】このように構成された発光素子40では、対向電極opおよび画素電極41をそれぞれ正極および負極として電圧が印加され、図7に示すように、印加電圧がしきい値電圧を越えた領域で有機半導体膜43に流れる電流(駆動電流)が急激に増大する。その結果、発光素子40は、エレクトロルミネッセンス素子あるいはLED素子として発光し、発光素子40の光は、対向電極opに反射されて透明な画素電極41および透明基板10を透過して出射される。
【0034】このような発光を行うための駆動電流は、対向電極op、有機半導体膜43、正孔注入層42、画素電極41、第2のTFT30、および共通給電線comから構成される電流経路を流れるため、第2のTFT30がオフ状態になると、流れなくなる。但し、本形態の表示装置1では、走査信号によって選択されて第1のTFT20がオン状態になると、データ線sigから画像信号が第1のTFT20を介して保持容量capに書き込まれる。従って、第2のTFT30のゲート電極は、第1のTFT20がオフ状態になっても、保持容量capによって画像信号に相当する電位に保持されるので、第2のTFT30はオン状態のままである。それ故、発光素子40には駆動電流が流れ続け、この画素は点灯状態のままである。この状態は、新たな画像データが保持容量capに書き込まれて、第2のTFT30がオフ状態になるまで維持される。」

「【0057】[その他の形態]なお、上記形態では、保持容量capを構成するのに容量線cline(容量電極)を形成したが、従来技術で説明したように、TFTを構成するためのポリシリコン膜を利用して保持容量capを構成してもよい。
【0058】また、図11に示すように、共通給電線comと電位保持電極stとの間に保持容量capを構成してもよい。この場合には、図12(A)、(B)に示すように、電位保持電極stとゲート電極31とを電気的に接続させるためのゲート電極31の延設部分310を共通給電線comの下層側にまで拡張し、この延設部分310と共通給電線comとの間の位置する第1の層間絶縁膜51を誘電体膜とする保持容量capを構成すればよい。」

図2、図3、図6、図11、図12は、以下のとおりのものである。


文献1の上記記載によれば、文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「発光素子40と、
発光素子40の画素電極41にソース・ドレイン領域32、33の一方32が電気的に接続される第2のTFT30と、
第1のTFT20と、
第1のTFT20のソース・ドレイン領域22、23の一方23に電気的に接続されるデータ線sigと、
第1のTFT20のゲート電極21に電気的に接続される走査線gateと、
第2のTFT30のソース・ドレイン領域32、33の他方33に電気的に接続される共通給電線comと、を有し、
画素電極41は発光素子40の一方の電極を構成し、画素電極41の表面には正孔注入層42および有機半導体膜43が積層され、有機半導体膜43の表面には対向電極opが形成されており、
共通給電線comの線幅は、データ線sigの線幅よりも広い、表示装置。」

(b)文献2の記載
文献2(特開2001-5426号公報。取消理由通知において引用した引用文献2であり、特許異議申立書に記載の甲第2号証)には、以下の事項が記載されている。

「【0037】
【発明の実施の形態】まず、本願発明のアクティブマトリクス型EL表示装置の回路構成を図1(A)に示す。図1(A)のアクティブマトリクス型EL表示装置は、基板上に形成されたTFTによって画素部101、画素部の周辺に配置されたデータ信号側駆動回路102及びゲート信号側駆動回路103が形成される。なお、データ側信号側駆動回路とゲート信号側駆動回路はどちらも画素部を挟んで1対で設けても構わない。
・・・
【0040】画素部101にはマトリクス状に複数の画素104が配列される。画素104の拡大図を図1(B)に示す。図1(B)において、105はスイッチング用TFTであり、ゲート信号を入力するゲート配線106とデータ信号を入力するデータ配線(ソース配線ともいう)107に接続されている。
【0041】また、108は電流制御用TFTであり、そのゲートはスイッチング用TFT105のドレインに接続される。そして、電流制御用TFT108のドレインは抵抗体109を介してEL素子110に接続され、ソースは電源供給線111に接続される。EL素子110は電流制御用TFT108に接続された陽極(画素電極)と、EL層を挟んで陽極に対向して設けられた陰極(対向電極)とでなり、陰極は所定の電源112に接続されている。」

「【0065】電流制御用TFT202はEL素子に注入される電流量を制御するための素子であり、比較的多くの電流が流れる。そのため、チャネル幅(W)はスイッチング用TFTのチャネル幅よりも大きく設計することが好ましい。また、電流制御用TFT202に過剰な電流が流れないように、チャネル長(L)は長めに設計することが好ましい。望ましくは一画素あたり0.5?2μA(好ましくは1?1.5μA)となるようにする。
【0066】以上のことを踏まえると、図9に示すようにスイッチング用TFTのチャネル長をL1(但しL1=L1a+L1b)、チャネル幅をW1とし、電流制御用TFTのチャネル長をL2、チャネル幅をW2とした時、W1は0.1?5μm(代表的には1?3μm)、W2は0.5?30μm(代表的には2?10μm)とするのが好ましい。また、L1は0.2?18μm(代表的には2?15μm)、L2は0.1?50μm(代表的には1?20μm)とするのが好ましい。但し、以上の数値に限定する必要はない。なお、図9に記載されたL3は抵抗体の長さ、W3は抵抗体の幅である。」

「【0081】また、49は透明導電膜でなる画素電極(EL素子の陽極)であり、第2層間絶縁膜48及び第1パッシベーション膜47にコンタクトホール(開孔)を開けた後、形成された開孔部において電流制御用TFT202のドレイン配線32に接続されるように形成される。なお、図2のように画素電極49とドレイン領域27とが直接接続されないようにしておくと、EL層のアルカリ金属が画素電極を経由して活性層へ侵入することを防ぐことができる。
【0082】画素電極49の上には酸化珪素膜、窒化酸化珪素膜または有機樹脂膜でなる第3層間絶縁膜50が0.3?1μmの厚さに設けられる。この第3層間絶縁膜50は画素電極49の上にエッチングにより開口部が設けられ、その開口部の縁はテーパー形状となるようにエッチングする。テーパーの角度は10?60°(好ましくは30?50°)とすると良い。
【0083】第3層間絶縁膜50の上にはEL層51が設けられる。EL層51は単層又は積層構造で用いられるが、積層構造で用いた方が発光効率は良い。一般的には画素電極上に正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層の順に形成されるが、正孔輸送層/発光層/電子輸送層、または正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層のような構造でも良い。本願発明では公知のいずれの構造を用いても良いし、EL層に対して蛍光性色素等をドーピングしても良い。」

「【0089】陰極52はEL層51を形成した後、大気解放しないで連続的に形成することが望ましい。陰極52とEL層51との界面状態はEL素子の発光効率に大きく影響するからである。なお、本明細書中では、画素電極(陽極)、EL層及び陰極で形成される発光素子をEL素子と呼ぶ。」

図1B、図2は、以下のとおりのものである。


(c)文献3の記載
文献3(特開2001-76873号公報。取消理由通知において引用した引用文献3であり、特許異議申立書24ページ「(3-5)」に記載の「引用文献1」)には、以下の事項が記載されている。

「【0060】また、46は透明導電膜でなる画素電極(EL素子の陽極)であり、第2パッシベーション膜45、第2層間絶縁膜44及び第1パッシベーション膜41にコンタクトホール(開孔)を開けた後、形成された開孔部において電流制御用TFT202のドレイン配線37に接続されるように形成される。」

「【0062】従って、EL層47のうち画素電極に直接触れる層を印刷法で形成し、それ以降は気相法で形成することが好ましい。勿論、下層のEL材料が溶解しない溶媒を用いて印刷することができれば全ての層を印刷法で形成することもできる。画素電極に直接触れる層としては、正孔注入層、正孔輸送層又は発光層がありえるが、いずれの層を形成する場合においても本発明を用いることができる。」

「【0071】以上のようにしてEL層47を印刷法により形成したら、次に陰極48、保護電極49が形成される。これら陰極48、保護電極49は真空蒸着法で形成すればよい。また、陰極48と保護電極49を大気解放しないで連続的に形成することによりEL層の劣化をさらに抑制することができる。また、本明細書中では、画素電極(陽極)、EL層及び陰極で形成される発光素子をEL素子と呼ぶ。」

図2は、以下のとおりのものである。


(d)文献4の記載
文献4(特開2001-195016号公報。取消理由通知において引用した引用文献4であり、特許異議申立書24ページ「(3-5)」に記載の「引用文献2」)には、以下の事項が記載されている。

「【0005】アクティブマトリクス型EL表示装置は、画素部を形成する各画素に電界効果トランジスタ(以下、FETという)を設け、EL素子に流す電流量を前記FETで制御する点に特徴がある。ところが、FETの電気特性が画素間でばらついてしまうと各画素に設けられたEL素子の発光特性もばらついてしまうといった問題が生じていた。」

「【0012】図1において、11は単結晶半導体基板、12は素子間を分離するための絶縁膜(以下、フィールド絶縁膜という)である。基板11としては単結晶シリコン基板もしくは単結晶シリコンゲルマニウム基板を用いれば良く、P型基板であってもN型基板であっても良い。
【0013】ここでは画素内に二つのFETを形成している。201はスイッチング用素子として機能するFET(以下、スイッチング用FETという)、202はEL素子へ流す電流量を制御する電流制御用素子として機能するFET(以下、電流制御用FETという)であり、どちらもnチャネル型FETで形成されている。」

「【0023】スイッチング用FET201のドレインは電流制御用FET202のゲートに接続されている。具体的には電流制御用FET202のゲート電極35はスイッチング用FET201のドレイン領域14とドレイン配線22を介して電気的に接続されている。また、ソース配線36は電流供給線(電源供給線ともいう)212(図2(A)参照)に電気的に接続される。
【0024】電流制御用FET202はEL素子203に注入される電流量を制御するための素子であるが、EL素子の劣化を考慮するとあまり多くの電流を流すことは好ましくない。そのため、電流制御用FET202に過剰な電流が流れないように、チャネル長(L)は長めに設計することが好ましい。望ましくは一画素あたり0.5?2μA(好ましくは1?1.5μA)となるようにする。」

「【0038】また、40は反射性が高く、仕事関数の小さい導電膜でなる画素電極(EL素子の陰極)であり、第2層間絶縁膜39及び第1パッシベーション膜38にコンタクトホール(開孔)を開けた後、形成された開孔部において電流制御用FET202のドレイン配線37に接続されるように形成される。画素電極40としてはアルミニウム合金や銅合金など低抵抗な導電膜を用いることが好ましい。勿論、他の導電膜との積層構造としても良い。
【0039】次に、画素電極40の端部(角部)を覆うように絶縁膜41を形成する。画素電極40の端部に発光層等の有機EL材料が形成されると電界集中により集中的に劣化してしまう恐れがあるからである。この絶縁膜41は画素と画素との間(画素電極と画素電極との間)の隙間を埋めるようにして設けられる。」

「【0048】正孔注入層43の上には透明導電膜でなる陽極44が設けられる。本実施形態の場合、発光層43で生成された光はFETから遠ざかる方向に向かって放射されるため、陽極は透光性(透明)でなければならない。透明導電膜としては酸化インジウムと酸化スズとの化合物や酸化インジウムと酸化亜鉛との化合物を用いることができるが、耐熱性の低い発光層や正孔注入層を形成した後で形成するため、可能な限り低温で成膜できるものが好ましい。
【0049】陽極44まで形成された時点でEL素子203が完成する。なお、ここでいうEL素子203は、画素電極(陰極)40、発光層42、正孔注入層43及び陽極44で形成されたコンデンサを指す。図2に示すように画素電極40は画素の面積にほぼ一致するため、画素全体がEL素子として機能する。従って、発光の利用効率が非常に高く、明るい画像表示が可能となる。」

「【0076】次に、図5(A)に示すように有機樹脂からなる第2層間絶縁膜340を形成する。有機樹脂としてはポリイミド、ポリアミド、アクリル、BCB(ベンゾシクロブテン)等を使用することができる。特に、第2層間絶縁膜340は平坦化の意味合いが強いので、平坦性に優れたアクリルが好ましい。本実施例ではFETによって形成される段差を十分に平坦化しうる膜厚でアクリル膜を形成する。好ましくは1?5μm(さらに好ましくは2?4μm)とすれば良い。
【0077】次に、第2層間絶縁膜340及び第1パッシベーション膜339にドレイン配線338に達するコンタクトホールを形成し、画素電極341を形成する。本実施例では画素電極341として300nm厚のアルミニウム合金膜(1wt%のチタンを含有したアルミニウム膜)を形成する。
【0078】次に、図5(B)に示すように絶縁膜342を形成する。絶縁膜342は100?300nm厚のシリコンを含む絶縁膜もしくは有機樹脂膜をパターニングして形成すれば良い。この絶縁膜342は画素と画素との間(画素電極と画素電極との間)を埋めるように形成される。この絶縁膜342は次に形成する発光層等の有機EL材料が画素電極341の端部を覆わないようにするために設けられる。
【0079】次に、発光層343をスピンコート法により形成する。具体的には、発光層343となる有機EL材料をクロロフォルム、ジクロロメタン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン等の溶媒に溶かして塗布し、その後、熱処理を行うことにより溶媒を揮発させる。こうして有機EL材料でなる被膜(発光層)が形成される。本実施例では、緑色に発光する発光層としてポリフェニレンビニレンを50nmの厚さに形成する。また、溶媒としては1,2-ジクロロメタンを用い、80?150℃のホットプレートで1分の熱処理を行って揮発させる。
【0080】次に、正孔注入層344を20nmの厚さに形成する。本実施例では正孔注入層344としてポリチオフェン(PEDOT)を水溶液としてスピンコート法により塗布し、100?150℃のホットプレートで1?5分の熱処理を行って水分を揮発させる。この場合、ポリフェニレンビニレンは水に溶けないため、発光層343を溶解させることなく正孔注入層344を形成することが可能である。
【0081】なお、正孔注入層344としてその他のポリマー系有機材料やモノマー系有機材料を用いることも可能である。モノマー系有機材料を用いる場合は、蒸着法を用いて形成すれば良い。また、無機材料を用いることもできる。
【0082】本実施例では発光層及び正孔注入層でなる二層構造とするが、その他に正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等を設けても構わない。このように組み合わせは既に様々な例が報告されており、そのいずれの構成を用いても構わない。
【0083】発光層343及び正孔注入層344を形成したら、透明導電膜でなる陽極345を120nmの厚さに形成する。本実施例では、酸化インジウムに10?20wt%の酸化亜鉛を添加した透明導電膜を用いる。成膜方法は、発光層343や正孔注入層344を劣化させないように室温で蒸着法により形成することが好ましい。」

図1、図2(B)、図5(A)、(B)は、以下のとおりのものである。

【図2】


したがって、文献4には、「アクティブマトリクス型EL表示装置において、EL素子を陰極、発光層、正孔注入層、陽極の順に積層したものとし、EL素子の陰極を画素電極とすること。」との技術的事項が記載されていると認められる。

b 進歩性についての当審の判断
(a)対比
本件訂正発明4と引用発明とを対比する。
(a1)引用発明の「発光素子40」、「画素電極41」、「第2のTFT30」、「第1のTFT20」、「データ線sig」、「(第1のTFT20の)ゲート電極21」、「走査線gate」、「共通給電線com」は、それぞれ、本件訂正発明4の「発光素子」、「画素電極」、「第1のトランジスタ」、「第2のトランジスタ」、「第1の配線」、「(前記第2のトランジスタの)ゲート」、「第2の配線」、「第3の配線」に相当する。また、引用発明の「表示装置」は、「発光素子40」を有するから、本件訂正発明4の「発光装置」に対応する。

(a2)したがって、本件訂正発明4と引用発明との一致点と相違点は以下のとおりと認められる。

<一致点>
「発光素子と、
前記発光素子の画素電極にソース又はドレインの一方が電気的に接続される第1のトランジスタと、
第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続される第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。」

<相違点>
<相違点1>
「第1のトランジスタ」について、本件訂正発明4では、「飽和領域で動作する第1のトランジスタ」であるのに対し、引用発明では、「第2のTFT30」についてそのような特定はなされていない点。

<相違点2>
「第2のトランジスタ」について、本件訂正発明4では、「前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタ」であるのに対し、引用発明では、「第1のTFT20」についてそのような特定はなされていない点。

<相違点3>
「第3の配線」について、本件訂正発明4では、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」のに対し、引用発明では、「共通給電線com」について、第2のTFT30のゲートと重なりを有するとの特定はなされていない点。

(b)判断
以下、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点3について、先に検討する。

文献1の段落【0031】に、「共通給電線comを挟むように、各画素領域7の各々にゲート電極31がそれぞれ形成され」と記載されているように、文献1の図6(A)及びその説明箇所には、「第2のTFT30のゲート電極31と重なりを有する共通給電線com」は記載も示唆もされていない。

また、文献1には、段落【0023】に、「TFT20のソース・ドレイン領域の一方は、データ線sigに電気的に接続され、他方は電位保持電極stに電気的に接続されている。」と記載されており、[その他の形態]について、段落【0058】には、「電位保持電極stとゲート電極31とを電気的に接続させるためのゲート電極31の延設部分310を共通給電線comの下層側にまで拡張し」と記載されている。
そうすると、文献1には、図12(A)、(B)にも示されているように、「第1のTFT20のソース・ドレインの他方が電気的に接続されている電位保持電極stと、第1のTFT20のゲート電極31とを電気的に接続させるための、ゲート電極31の延設部分310と、共通給電線comとが、重なりを有する」との構成が開示されているといえるものの、当該「ゲート電極31の延設部分310」は、「第1のTFT20のゲート31」に相当する部分ではない。

したがって、相違点3に係る本件訂正発明4の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」との構成は、文献1には記載されていない。
また、相違点3に係る本件訂正発明4の上記構成は、文献2?4にも記載されておらず、本願の原出願の優先日前において周知であるともいえない。
よって、相違点1、2について判断するまでもなく、本件訂正発明4は、当業者であっても引用発明及び文献2?4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
よって、本件訂正発明4は、特許法第29条第2項の規定に違反していない。

(ウ)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】、【0014】、【0021】、【0023】、【0024】、【0049】、【0052】の記載から、本件訂正発明4の課題は、「各TFTの特性バラツキを低減し、輝度のバラツキを低減すること」、「TFTの特性バラツキに関係しないOLEDのバラツキをも低減し、輝度のバラツキを低減すること」、「画素部における開口率を向上させる画素構成を提供すること」にあると理解される。
そして、本件訂正発明4では、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線」と特定されているところ、第1のトランジスタのゲートと、該ゲートと重なりを有する第3の配線とを電極とする容量を形成することが特定されているといえるから、本件訂正発明4は、上記課題を解決できるといえると考えるべきである。
したがって、本件訂正発明4において特定される範囲においてまで、本件訂正発明4の課題が解決されることを、発明の詳細な説明の記載及び本件の原出願の優先日当時の技術常識から理解することができる。

以上のとおりであるから、本件訂正された特許請求の範囲の請求項4の記載は、本件訂正された特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件の原出願の優先日当時の技術常識に照らして、当業者が本件訂正された特許明細書に記載された本件訂正発明4の課題を解決できると認識できる範囲を超えておらず、サポート要件に適合するというべきである。
よって、本件訂正発明4は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

(エ)独立特許要件の適否についてのまとめ
本件訂正発明4は、上記(イ)のとおり、特許法第29条第2項の規定に違反しておらず、上記(ウ)のとおり、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
また、本件訂正発明4は、他の独立特許要件を満たしているものである。
よって、本件訂正発明4は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する(特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。)。

オ 本件訂正発明4の訂正の適否についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明4の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定、並びに同法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項5に係る発明では、「第3の配線」について、「第1のトランジスタのゲート」との重なりについて限定されていないものとされているが、訂正後の請求項5に係る発明では、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線」として、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」ものに限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項5の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線」は、明細書の段落【0052】及び図5の記載に基づいて導き出される構成である。
よって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、訂正後の請求項5に係る発明の技術的範囲を狭めるものであるにとどまり、それらのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

エ 独立特許要件の適否
上記アのとおり、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、そして、本件においては、訂正前の請求項5については特許異議の申立てがされていないので、訂正事項5に関して、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件が課される。
そこで、本件訂正発明5が、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か)について、以下、検討する。

(ア)本件訂正発明5
「【請求項5】
発光素子と、
前記発光素子の陽極にソース又はドレインの一方が電気的に接続され、飽和領域で動作する第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。」

(イ)特許法第29条第2項(進歩性)について
a 文献の記載
(a)文献1の記載
文献1には、上記(4)エ(イ)a(a)に摘記の事項が記載され、同(4)エ(イ)a(a)の引用発明が記載されていると認められる。

(b)文献2の記載
文献2には、上記(4)エ(イ)a(b)に摘記の事項が記載されている。

(c)文献3の記載
文献3には、上記(4)エ(イ)a(c)に摘記の事項が記載されている。

(d)文献4の記載
文献4には、上記(4)エ(イ)a(d)に摘記の事項が記載され、(4)エ(イ)a(d)の技術的事項が記載されていると認められる。

b 進歩性についての当審の判断
(a)対比
本件訂正発明5と引用発明とを対比する。
(a1)引用発明の「発光素子40」、「第2のTFT30」、「第1のTFT20」、「データ線sig」、「(第1のTFT20の)ゲート電極21」、「走査線gate」、「共通給電線com」は、それぞれ、本件訂正発明5の「発光素子」、「第1のトランジスタ」、「第2のトランジスタ」、「第1の配線」、「(前記第2のトランジスタの)ゲート」、「第2の配線」、「第3の配線」に相当する。また、引用発明の「表示装置」は、「発光素子40」を有するから、本件訂正発明5の「発光装置」に対応する。

(a2)したがって、本件訂正発明5と引用発明との一致点と相違点は以下のとおりと認められる。

<一致点>
「発光素子と、
前記発光素子の電極にソース又はドレインの一方が電気的に接続される第1のトランジスタと、
第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続される第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。」

<相違点>
<相違点4>
「第1のトランジスタ」について、本件訂正発明5では、「飽和領域で動作する第1のトランジスタ」であるのに対し、引用発明では、「第2のTFT30」についてそのような特定はなされていない点。

<相違点5>
「第2のトランジスタ」について、本件訂正発明5では、「前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタ」であるのに対し、引用発明では、「第1のTFT20」についてそのような特定はなされていない点。

<相違点6>
「第3の配線」について、本件訂正発明5では、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」のに対し、引用発明では、「共通給電線com」について、第2のTFT30のゲートと重なりを有するとの特定はなされていない点。

<相違点7>
第1のトランジスタのソース又はドレインの一方が電気的に接続される発光素子の電極は、本件訂正発明5では「発光素子の陽極」であるのに対し、引用発明では、「第2のTFT30」の「ソース・ドレイン領域32、33の一方32」は、発光素子40の画素電極41に接続されたものである点。

(b)判断
以下、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点6について、先に検討する。
上記(4)エ(イ)b(b)で、本件訂正発明4に係る相違点3について検討したのと同じ理由で、相違点6に係る本件訂正発明5の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」との構成は、文献1には記載されていない。
また、相違点6に係る本件訂正発明5の上記構成は、文献2?4にも記載されておらず、本願の原出願の優先日前において周知技術であるともいえない。
よって、相違点4、5、7について判断するまでもなく、本件訂正発明5は、当業者であっても引用発明及び文献2?4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
よって、本件訂正発明5は、特許法第29条第2項の規定に違反していない。

(ウ)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
上記(4)エ(ウ)で、本件訂正発明4について検討したのと同じ理由で、本件訂正発明5は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

(エ)独立特許要件の適否についてのまとめ
本件訂正発明5は、上記(イ)のとおり、特許法第29条第2項の規定に違反しておらず、上記(ウ)のとおり、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
また、本件訂正発明5は、他の独立特許要件を満たしているものである。
よって、本件訂正発明5は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する(特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。)。

オ 本件訂正発明5の訂正の適否についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明5の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定、並びに同法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する。

(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項6に係る発明では、「第3の配線」について、「第1のトランジスタのゲート」との重なりについて限定されていないものとされているが、訂正後の請求項5に係る発明では、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線」として、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」ものに限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項6の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線」は、明細書の段落【0052】及び図5の記載に基づいて導き出される構成である。
よって、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6は、訂正後の請求項6に係る発明の技術的範囲を狭めるものであるにとどまり、それらのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

エ 独立特許要件の適否
上記アのとおり、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、そして、本件においては、訂正前の請求項6については特許異議の申立てがされていないので、訂正事項6に関して、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件が課される。
そこで、本件訂正発明6が、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か)について、以下、検討する。

(ア)本件訂正発明6
「【請求項6】
発光素子と、
前記発光素子の陰極にソース又はドレインの一方が電気的に接続され、飽和領域で動作する第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。」

(イ)特許法第29条第2項(進歩性)について
a 文献の記載
(a)文献1の記載
文献1には、上記(4)エ(イ)a(a)に摘記の事項が記載され、同(4)エ(イ)a(a)の引用発明が記載されていると認められる。

(b)文献2の記載
文献2には、上記(4)エ(イ)a(b)に摘記の事項が記載されている。

(c)文献3の記載
文献3には、上記(4)エ(イ)a(c)に摘記の事項が記載されている。

(d)文献4の記載
文献4には、上記(4)エ(イ)a(d)に摘記の事項が記載され、(4)エ(イ)a(d)の技術的事項が記載されていると認められる。

b 進歩性についての当審の判断
(a)対比
本件訂正発明6と引用発明とを対比する。
(a1)引用発明の「発光素子40」、「第2のTFT30」、「第1のTFT20」、「データ線sig」、「(第1のTFT20の)ゲート電極21」、「走査線gate」、「共通給電線com」は、それぞれ、本件訂正発明6の「発光素子」、「第1のトランジスタ」、「第2のトランジスタ」、「第1の配線」、「(前記第2のトランジスタの)ゲート」、「第2の配線」、「第3の配線」に相当する。また、引用発明の「表示装置」は、「発光素子40」を有するから、本件訂正発明6の「発光装置」に対応する。

(a2)したがって、本件訂正発明6と引用発明との一致点と相違点は以下のとおりと認められる。

<一致点>
「発光素子と、
前記発光素子の電極にソース又はドレインの一方が電気的に接続される第1のトランジスタと、
第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続される第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。」

<相違点>
<相違点8>
「第1のトランジスタ」について、本件訂正発明6では、「飽和領域で動作する第1のトランジスタ」であるのに対し、引用発明では、「第2のTFT30」についてそのような特定はなされていない点。

<相違点9>
「第2のトランジスタ」について、本件訂正発明6では、「前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタ」であるのに対し、引用発明では、「第1のTFT20」についてそのような特定はなされていない点。

<相違点10>
「第3の配線」について、本件訂正発明6では、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」のに対し、引用発明では、「共通給電線com」について、第2のTFT30のゲートと重なりを有するとの特定はなされていない点。

<相違点11>
第1のトランジスタのソース又はドレインの一方が電気的に接続される発光素子の電極は、本件訂正発明6では「発光素子の陰極」であるのに対し、引用発明では、「第2のTFT30」の「ソース・ドレイン領域32、33の一方32」は、発光素子40の画素電極41に接続されたものである点。

(b)判断
以下、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点10について、先に検討する。
上記(4)エ(イ)b(b)で、本件訂正発明4に係る相違点3について検討したのと同じ理由で、相違点10に係る本件訂正発明6の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」との構成は、文献1には記載されていない。
また、相違点10に係る本件訂正発明6の上記構成は、文献2?4にも記載されておらず、本願の原出願の優先日前において周知技術であるともいえない。
よって、相違点8、9、11について判断するまでもなく、本件訂正発明6は、当業者であっても引用発明、文献2?4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
よって、本件訂正発明6は、特許法第29条第2項の規定に違反していない。

(ウ)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
上記(4)エ(ウ)で、本件訂正発明4について検討したのと同じ理由で、本件訂正発明6は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

(エ)独立特許要件の適否についてのまとめ
本件訂正発明6は、上記(イ)のとおり、特許法第29条第2項の規定に違反しておらず、上記(ウ)のとおり、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
また、本件訂正発明6は、他の独立特許要件を満たしているものである。
よって、本件訂正発明6は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する(特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。)。

オ 本件訂正発明6の訂正の適否についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明6の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定、並びに同法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する。

3 小括
上記のとおり、訂正事項1ないし6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定、並びに同法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正発明1?7は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
発光素子と、
前記発光素子の画素電極にソース又はドレインの一方が電気的に接続される第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。
【請求項2】
発光素子と、
前記発光素子の陽極にソース又はドレインの一方が電気的に接続される第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。
【請求項3】
発光素子と、
前記発光素子の陰極にソース又はドレインの一方が電気的に接続される第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。
【請求項4】
発光素子と、
前記発光素子の画素電極にソース又はドレインの一方が電気的に接続され、飽和領域で動作する第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。
【請求項5】
発光素子と、
前記発光素子の陽極にソース又はドレインの一方が電気的に接続され、飽和領域で動作する第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。
【請求項6】
発光素子と、
前記発光素子の陰極にソース又はドレインの一方が電気的に接続され、飽和領域で動作する第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
前記第1のトランジスタのチャネル形成領域は、少なくとも一つ以上の角部を有する発光装置。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、当審が令和2年9月7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア 本件特許の請求項1?3に係る発明は、引用文献1(特開平11-24604号公報。甲第1号証)に記載された発明、及び引用文献2(特開2001-5426号公報。甲第2号証)、引用文献3(特開2001-76873号公報。特許異議申立書24ページに記載の「引用文献1」)、引用文献4(特開2001-195016号公報。特許異議申立書24ページに記載の「引用文献2」)に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 請求項1?3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 引用文献の記載
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、上記第2の2(4)エ(イ)a(a)に摘記の事項が記載され、同(4)エ(イ)a(a)の引用発明が記載されていると認められる。

(2)引用文献2の記載
引用文献2には、上記第2の2(4)エ(イ)a(b)に摘記の事項が記載されている。

(3)引用文献3の記載
引用文献3には、上記第2の2(4)エ(イ)a(c)に摘記の事項が記載されている。

(4)引用文献4の記載
引用文献4には、上記第2の2(4)エ(イ)a(d)に摘記の事項が記載され、同(4)エ(イ)a(d)の技術的事項が記載されていると認められる。

3 当審の判断
(1)特許法第29条第2項(進歩性)について
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「発光素子40」、「画素電極41」、「第2のTFT30」、「第1のTFT20」、「データ線sig」、「(第1のTFT20の)ゲート電極21」、「走査線gate」、「共通給電線com」は、それぞれ、本件訂正発明1の「発光素子」、「画素電極」、「第1のトランジスタ」、「第2のトランジスタ」、「第1の配線」、「(前記第2のトランジスタの)ゲート」、「第2の配線」、「第3の配線」に相当する。また、引用発明の「表示装置」は、「発光素子40」を有するから、本件訂正発明1の「発光装置」に対応する。

b そうすると、本件訂正発明1と引用発明との一致点と相違点は次のとおりと認められる。

<一致点>
「発光素子と、
前記発光素子の画素電極にソース又はドレインの一方が電気的に接続される第1のトランジスタと、
第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続される第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。」

<相違点>
<相違点A>
「第2のトランジスタ」について、本件訂正発明1では、「前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタ」であるのに対し、引用発明では、「第1のTFT20」についてそのような特定はなされていない点。

<相違点B>
「第3の配線」について、本件訂正発明1では、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」のに対し、引用発明では、「共通給電線com」について、第2のTFT30のゲートと重なりを有するとの特定はなされていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点Bについて、先に検討する。
上記第2の2(4)エ(イ)b(b)で、本件訂正発明4に係る相違点3について検討したのと同じ理由で、相違点Bに係る本件訂正発明1の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」との構成は、引用文献1には記載されていない。
また、相違点Bに係る本件訂正発明1の上記構成は、引用文献2?4にも記載されておらず、本願の原出願の優先日前において周知であるともいえない。
よって、相違点Aについて判断するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

イ 本件訂正発明2について
(ア)対比
本件訂正発明2と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「発光素子40」、「第2のTFT30」、「第1のTFT20」、「データ線sig」、「(第1のTFT20の)ゲート電極21」、「走査線gate」、「共通給電線com」は、それぞれ、本件訂正発明2の「発光素子」、「第1のトランジスタ」、「第2のトランジスタ」、「第1の配線」、「(前記第2のトランジスタの)ゲート」、「第2の配線」、「第3の配線」に相当する。また、引用発明の「表示装置」は、「発光素子40」を有するから、本件訂正発明2の「発光装置」に対応する。

b したがって、本件訂正発明2と引用発明との一致点と相違点は以下のとおりと認められる。

<一致点>
「発光素子と、
前記発光素子の電極にソース又はドレインの一方が電気的に接続される第1のトランジスタと、
第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続される第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。」

<相違点>
<相違点C>
「第2のトランジスタ」について、本件訂正発明2では、「前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタ」であるのに対し、引用発明では、「第1のTFT20」についてそのような特定はなされていない点。

<相違点D>
「第3の配線」について、本件訂正発明2では、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」のに対し、引用発明では、「共通給電線com」について、第2のTFT30のゲートと重なりを有するとの特定はなされていない点。

<相違点E>
第1のトランジスタのソース又はドレインの一方が電気的に接続される発光素子の電極は、本件訂正発明2では「発光素子の陽極」であるのに対し、引用発明では、「第2のTFT30」の「ソース・ドレイン領域32、33の一方32」は、発光素子40の画素電極41に接続されたものである点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点Dについて、先に検討する。
上記第2の2(4)エ(イ)b(b)で、本件訂正発明4に係る相違点3について検討したのと同じ理由で、相違点Dに係る本件訂正発明2の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」との構成は、引用文献1には記載されていない。
また、相違点Dに係る本件訂正発明2の上記構成は、引用文献2?4にも記載されておらず、本願の原出願の優先日前において周知であるともいえない。
よって、相違点C、Eについて判断するまでもなく、本件訂正発明2は、当業者であっても引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

ウ 本件訂正発明3について
(ア)対比
本件訂正発明3と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「発光素子40」、「第2のTFT30」、「第1のTFT20」、「データ線sig」、「(第1のTFT20の)ゲート電極21」、「走査線gate」、「共通給電線com」は、それぞれ、本件訂正発明3の「発光素子」、「第1のトランジスタ」、「第2のトランジスタ」、「第1の配線」、「(前記第2のトランジスタの)ゲート」、「第2の配線」、「第3の配線」に相当する。また、引用発明の「表示装置」は、「発光素子40」を有するから、本件訂正発明3の「発光装置」に対応する。

b したがって、本件訂正発明3と引用発明との一致点と相違点は以下のとおりと認められる。

<一致点>
「発光素子と、
前記発光素子の電極にソース又はドレインの一方が電気的に接続される第1のトランジスタと、
第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続される第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。」

<相違点>
<相違点F>
「第2のトランジスタ」について、本件訂正発明3では、「前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタ」であるのに対し、引用発明では、「第1のTFT20」についてそのような特定はなされていない点。

<相違点G>
「第3の配線」について、本件訂正発明3では、「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」のに対し、引用発明では、「共通給電線com」について、第2のTFT30のゲートと重なりを有するとの特定はなされていない点。

<相違点H>
第1のトランジスタのソース又はドレインの一方が電気的に接続される発光素子の電極は、本件訂正発明3では「発光素子の陰極」であるのに対し、引用発明では、「第2のTFT30」の「ソース・ドレイン領域32、33の一方32」は、発光素子40の画素電極41に接続されたものである点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点Gについて、先に検討する。
上記第2の2(4)エ(イ)b(b)で、本件訂正発明4に係る相違点3について検討したのと同じ理由で、相違点Gに係る本件訂正発明3の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」との構成は、引用文献1には記載されていない。
また、相違点Gに係る本件訂正発明2の上記構成は、引用文献2?4にも記載されておらず、本願の原出願の優先日前において周知であるともいえない。
よって、相違点F、Hについて判断するまでもなく、本件訂正発明3は、当業者であっても引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
上記第2の2(4)エ(ウ)、同(5)エ(ウ)、同(6)エ(ウ)で、それぞれ本件訂正発明4?6について検討したのと同じ理由で、本件訂正発明1?3は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

(3)特許異議申立人の意見について
ア 特許異議申立人渡邉孝充は、令和2年12月17日に提出した意見書7?9ページにおいて、異議申立書に記載の甲第1号証(特開平11-024604号公報)であって取消理由通知書に記載の引用文献1の特許請求の範囲の請求項1、段落0024、段落0058の記載事項について主張し、段落0058について、「すなわち、第2のTFT30・・・ゲート電極31の延設部分310と、共通給電線com(・・・)と、第1の層間絶縁膜51と、によって保持容量capを構成すること、が記載されている。これは、第2のTFT30のゲート電極31と、第1の層間絶縁膜51を介してゲート電極31と、第1の層間絶縁膜51を介してゲート電極31と重なる共通給電線comと、によって保持容量capを構成すること、が記載されているに等しいといえる。以上より、引用文献1には、「前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、」という構成が記載されているに等しいことから・・・」と主張している。

しかしながら、引用文献1において、ゲート電極31の延設部分310は、ゲート電極31ではないから、引用文献1において、「第2のTFT30のゲート電極31と、第1の層間絶縁膜51を介してゲート電極31と、第1の層間絶縁膜51を介してゲート電極31と重なる共通給電線comと、によって保持容量capを構成すること、が記載されているに等しい」ということはできない。
したがって、本件訂正発明1?7は、特許法第29条第2項の規定によって、取消決定されるべきものではない。

イ 特許異議申立人渡邉孝充は、同意見書10?11ページにおいて、本件特許明細書の段落0052と段落0049の記載から、「保持容量を形成するためには、上記のように、ゲート電極と第3の配線との間には誘電体としてゲート絶縁膜が設けられていることが必須であるところ、訂正後の請求項1?7のいずれにもそのような構成は記載されておらず、発明特定事項が不足していることは明らかである。よって、・・・特許法第36条第6項第1号に係る拒絶理由を有する。」と主張している。

しかしながら、保持容量を形成するために、ゲート電極と第3の配線との間には誘電体としてゲート絶縁膜が設けられていることが必須であることは自明なことであり、本件訂正後の請求項[1?7]が、保持容量を形成するための誘電体としてのゲート絶縁膜が設けられていないものを包括的に記載したものであるとは認められない。
したがって、「出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合」には該当せず、発明特定事項は不足していない。
よって、本件訂正発明1?7は、特許法第36条第6項第1号の規定によって、取消決定されるべきものではない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人渡邉孝充は、主たる証拠として甲第1号証(特開平11-24604号公報。当審注:上記第2の1(4)エ(イ)a(a)の「文献1」)、及び、従たる証拠として、甲第2号証(特開2001-5426号公報。審決注:上記第2の1(4)エ(イ)a(b)の「文献2」)、並びに甲第3号証(特開2001-109405号公報)を提出し、請求項1?3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり(以下「申立理由1」という。)、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3の記載には不備があり、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものである(以下「申立理由2」という。)から、請求項1?3に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

2 申立理由1について
(1)上記第4の3(1)ア(イ)で判断したとおり、同(ア)における相違点Bについて、相違点Bに係る本件訂正発明1の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」との構成は、引用文献1には記載されていない。
また、相違点Bに係る本件訂正発明1の上記構成は、引用文献2?4にも記載されておらず、本願の原出願の優先日前において周知であるともいえない。
更に、相違点Bに係る本件訂正発明1の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」との構成は、甲第3号証にも記載されていない。
よって、本件訂正発明1は、当業者であっても引用発明並びに引用文献2?4及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)上記第4の3(1)イ(イ)で判断したとおり、同(ア)における相違点Dについて、相違点Dに係る本件訂正発明2の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」との構成は、引用文献1には記載されていない。
また、相違点Dに係る本件訂正発明2の上記構成は、引用文献2?4にも記載されておらず、本願の原出願の優先日前において周知であるともいえない。
更に、相違点Dに係る本件訂正発明2の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」との構成は、甲第3号証にも記載されていない。
よって、本件訂正発明2は、当業者であっても引用発明並びに引用文献2?4及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)上記第4の3(1)ウ(イ)で判断したとおり、同(ア)における相違点Gについて、相違点Gに係る本件訂正発明3の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」との構成は、引用文献1には記載されていない。
また、相違点Gに係る本件訂正発明3の上記構成は、引用文献2?4にも記載されておらず、本願の原出願の優先日前において周知であるともいえない。
更に、相違点Gに係る本件訂正発明3の「前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する」との構成は、甲第3号証にも記載されていない。
よって、本件訂正発明3は、当業者であっても引用発明並びに引用文献2?4及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3 申立理由2について
特許異議申立人渡邉渡邉孝充は、特許異議申立書29?30ページにおいて、「「第3の配線が第1のトランジスタのゲート電極と重なる」点、または「第3の配線が第1のトランジスタのゲート電極と重なることによって容量を形成する」点が、請求項1?3の発明特定事項として記載されていないから、請求項1?3に係る発明は、「保持容量」を形成し得ない構成をも含み、本件特許発明の作用・効果を奏し得ないことになり、請求項1?3に係る発明の範囲が不明確となっている。よって、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」旨を主張する。

しかしながら、本件訂正後の請求項1?3には、「第3の配線が第1のトランジスタのゲート電極と重なる」点が記載されており、また、保持容量を形成するために、ゲート電極と第3の配線との間には誘電体としてゲート絶縁膜が設けられていることが必須であることは自明なことであるから、本件訂正発明1?3は、「保持容量」を形成し得ない構成は含まないものといえる。
したがって、本件訂正発明1?3は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たす。
よって、特許異議申立人渡邉孝充のかかる主張は、採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、
前記発光素子の画素電極にソース又はドレインの一方が電気的に接続される第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。
【請求項2】
発光素子と、
前記発光素子の陽極にソース又はドレインの一方が電気的に接続される第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。
【請求項3】
発光素子と、
前記発光素子の陰極にソース又はドレインの一方が電気的に接続される第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。
【請求項4】
発光素子と、
前記発光素子の画素電極にソース又はドレインの一方が電気的に接続され、飽和領域で動作する第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。
【請求項5】
発光素子と、
前記発光素子の陽極にソース又はドレインの一方が電気的に接続され、飽和領域で動作する第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。
【請求項6】
発光素子と、
前記発光素子の陰極にソース又はドレインの一方が電気的に接続され、飽和領域で動作する第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタよりチャネル形成領域のチャネル長が短い第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのソース又はドレインの一方に電気的に接続される第1の配線と、
前記第2のトランジスタのゲートに電気的に接続される第2の配線と、
前記第1のトランジスタのソース又はドレインの他方に電気的に接続され、前記第1のトランジスタのゲートと重なりを有する第3の配線と、を有し、
前記第3の配線は、少なくとも前記第1の配線より線幅が大きい領域を有する発光装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
前記第1のトランジスタのチャネル形成領域は、少なくとも一つ以上の角部を有する発光装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-02-24 
出願番号 特願2018-241382(P2018-241382)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (G09G)
P 1 652・ 121- YAA (G09G)
P 1 652・ 856- YAA (G09G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩本 勉  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 脇水 佳弘
恩田 春香
登録日 2019-11-29 
登録番号 特許第6622893号(P6622893)
権利者 株式会社半導体エネルギー研究所
発明の名称 発光装置  
代理人 蟹田 昌之  
代理人 蟹田 昌之  

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