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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) B65D
管理番号 1372771
判定請求番号 判定2020-600021  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 判定 
判定請求日 2020-08-28 
確定日 2021-04-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第6463711号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びイ号説明書に示す「包装容器」は、特許第6463711号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号図面及びイ号説明書に示す包装容器(以下、「イ号物件」という。)が特許第6463711号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

なお、判定請求書の「5.請求の趣旨」の欄には、「イ号図面及びイ号説明書に示す『包装容器』が特許第6463711号発明の技術的範囲に属する、との判定を求める。」と記載されているところ、「特許第6463711号発明」は、「6.請求の理由」の欄の「○3本件特許発明の説明(当審注:「○3」は、○の中に3を代用表記)」に記載された「本件特許発明に係る『包装容器』は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の通りのものである。」との記載からみて、「特許第6463711号の請求項1に係る発明」であると判断した。

第2 手続の経緯
本件特許第6463711号は、平成28年 9月15日の出願であって、平成30年 5月10日に手続補正書が提出され、同年 6月21日付け拒絶理由に対し、同年 8月21日に意見書及び手続補正書が提出され、平成31年 1月11日に設定登録されたものである。

その後、令和 2年 8月28日に、本件判定が請求され、これに対して当審が被請求人へ判定請求書副本を送達したところ、同年10月22日付けで被請求人から判定請求答弁書(以下「答弁書」という。)が提出され、また、令和 3年 1月 8日に請求人から判定請求弁駁書(以下「弁駁書」という。)が提出された。

第3 本件特許発明
1.本件特許の請求項1に係る発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲、明細書及び図面(甲第1号証、以下「本件特許明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、構成要件ごとに分説し、アルファベットの大文字の符号を付すと、次のとおりである。以下、それぞれの構成要件を、「構成要件A」等という。

「【請求項1】
A 花卉や造花等の装飾品を包装する包装容器であって、
B 錐筒状に形成され、内部に前記装飾品が収容される収容部材と、
C 錐台筒状に形成され、その小開口から前記収容部材に挿入されることで、大開口が前記収容部材の開口より突出した状態で、前記収容部材の内面に係止する透明な保護部材とを備え、
D 前記収容部材の開口部に装飾用の少なくとも一対のリボンの基端部が当該開口部の径方向に対向して取り付けられ、
E 前記リボンの長さは、前記保護部材の大開口が前記収容部材の開口より突出した状態において、前記大開口上で結ぶことが可能な長さに設定され、
F 前記リボンを前記大開口上で結ぶことによって、前記装飾品および前記保護部材の前記収容部材からの抜け出を防止する
G ことを特徴とする包装容器。」

2.本件特許発明が解決しようとする課題と作用効果
(1)本件特許明細書等には、以下の事項が記載されている。
ア 「【背景技術】
【0002】
花卉や増加などの装飾品を販売したり、他人に贈呈したりする場合は、これらの装飾品を紙箱に入れたり、美麗な包装用紙で包んで取り扱うのが一般的である。
例えば、花卉を包装するための包装容器の一例として、特許文献1および特許文献2に記載のものが知られている。
特許文献1記載の包装容器は、所定形状の打ち抜かれた一枚の板紙で組み立てられた三角錐状四面体からなるものである。
特許文献2に記載の包装容器は、水分を通さない箱の開口部に、必要に応じて、取り外しができる色付きシートを取り付け、持ち運び用のひもを付けたもので、花瓶と包装箱を兼用できるものである。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の包装容器では、装飾品としての花卉を販売したり、贈呈する際に、花卉全体が包装容器内に収納されているので、販売や贈呈の際には外側から花卉を見ることができない。また、花卉を包装容器の開口から突出させることにより、外側から花卉を見ることはできるが、その反面、花卉に他の物が当たったりすると、花卉が傷付くおそれがある。
また、特許文献2に記載の包装容器では、透明色付きシートを通して内部の花卉を見ることはできるが、花卉を部屋等に飾る場合は透明色付きシートを取り外して、実際の花卉を露出させた方が好ましいため、透明色付きシートの取り外しに手間がかかるばかりか、当該シートを処分する必要もある。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、販売や贈呈の際には外側から花卉等の装飾品を見ることができるとともに保護でき、さらに、別途花瓶等を用意しなくても、花卉等の装飾品を部屋等に手間なく容易に飾ることができる包装容器を提供することを目的としている。」

ウ 「【0007】
本発明においては、透明な保護部材は、それが収容部材に挿入されることで、当該保護部材の大開口が収容部材の開口から突出した状態で、収容部材の内面に係止するので、収容部材に花卉等の装飾品を収容してその上端部にある花びら等を収容部材の開口から突出している部分に位置させることによって、当該花びら等を透明な保護部材によって保護しつつ当該保護部材を通して見ることができる。
また、保護部材は、その小開口から収容部材が挿入された状態において、小開口が収容部材の側面に係止することで、当該収容部材を起立した状態に保持する保持台となるので、別途花瓶等を用意しなくても、花卉等の装飾品を部屋等に手間なく容易に飾ることができる。」

エ 「【0010】
また、本発明の前記構成において、前記収容部材の開口に装飾用の少なくとも一対のリボンが当該開口の径方向に対向して取り付けられ、
前記リボンの長さは、前記保護部材の大開口が前記収容部材の開口より突出した状態において、前記大開口上で結ぶことが可能な長さに設定されていてもよい。
【0011】
このような構成によれば、保護部材の大開口が収容部材の開口より突出した状態で、リボンを大開口上で結ぶことにより、販売や贈呈の際の飾りになるとともに、花卉等の装飾品や保護部材の収容部材からの抜け出を防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、販売や贈呈の際には外側から花卉等の装飾品を見ることができるとともに保護でき、さらに、別途花瓶等を用意しなくても、花卉等の装飾品を部屋等に手間なく容易に飾ることができる。」

(2)本件特許発明が解決しようとする課題及び作用効果
ア 本件特許発明が解決しようとする課題は、上記(1)ア及びイからみて、販売や贈呈の際に、従来技術では、「外側から花卉を見ることができない」こと、外側から花卉を見ることができるように「花卉を包装容器の開口から突出させ」た場合、「花卉に他の物が当たったりすると、花卉が傷付くおそれがある」ことを踏まえて、「販売や贈呈の際には外側から花卉等の装飾品を見ることができるとともに保護でき」る包装容器を提供することと認められる。

イ 本件特許発明の作用効果は、上記(1)ウからみて、「透明な保護部材」を「収容部材に挿入」し、「収容部材に花卉等の装飾品を収容してその上端部にある花びら等を収容部材の開口から突出している部分に位置させることによって、当該花びら等を透明な保護部材によって保護しつつ当該保護部材を通して見ることができる」ことと認められる。

ウ 同じく本件特許発明の作用効果は、上記(1)エからみて、「前記収容部材の開口に装飾用の少なくとも一対のリボンが当該開口の径方向に対向して取り付けられ」、「前記リボンの長さは、前記保護部材の大開口が前記収容部材の開口より突出した状態において、前記大開口上で結ぶことが可能な長さに設定され」ることで、「保護部材の大開口が収容部材の開口より突出した状態で、リボンを大開口上で結ぶことにより、販売や贈呈の際の飾りになるとともに、花卉等の装飾品や保護部材の収容部材からの抜け出を防止できる」ことと認められる。

第4 請求人の主張するイ号物件
1.請求人が甲第8号証として提出したイ号図面及びイ号説明書には、以下の記載がある。
(1)イ号説明書
「(1)構成a及び構成f:造花(F)を包装する包装容器である。
第1図に示すように、イ号である包装容器は、内部にバラを模した造花(F)を収納している。」(イ号説明書第1頁第6行?第8行)

「(2)構成b:イ号である包装容器の下半部は、内部に造花(F)を収容するための収容部材(1)に構成している。
第1?6図に示すように、イ号である包装容器の下半部は、造花(F)の茎部を収容するための収容部材(1)に構成している。この収容部材(1)は、紙製で正四角錐筒状であって、頂部(1b)の反対側に開口(1a)を形成している。」(イ号説明書第1頁第9行?第13行)

「(3)構成c:イ号である包装容器の上半部は、内部に造花(F)を収容するための保護部材(2)に構成している。
第1?6図に示すように、イ号である包装容器の上半部は、造花(F)の花部を収容するための保護部材(2)に構成している。保護部材(2)は、透明な樹脂製の板材により正四角錐台筒状に形成されており、下側の小開口(2a)と上側の大開口(2b)を有する。第5?第6図に示すように、下側の小開口(2a)側から、収容部材(1)に嵌入されて正四角錐筒状の包装容器となるように構成している。」(イ号説明書第1頁第14行?第20行)

「(4)構成d:収容部材(1)の開口部に一方のリボン(7)の基端部が取り付けられ、これに対向して他方のリボン(7)の基端部が透明な保護部材(2)の側面に径方向に取り付けて構成している。
第3図、第5図及び第6図に示すように、一方のリボン(7)は、その基端部を、収容部材(1)の開口(1a)に取り付けている。また、他方のリボン(7)は、その基端部を、保護部材(2)の下端部を収容部材(1)の開口(1a)から内部へ挿嵌した状態で一方のリボン(7)の基端部に対向する保護部材(2)の左側面に取り付けている。すなわち、少なくとも一対のリボン(7,7)が四角錐の開口部(1a)の径方向に対向して取り付けられている構成である。」(イ号説明書第1頁第21行?第29行)

「(5)構成e:リボン(7)の長さは、保護部材(2)の大開口(2b)が収容部材(1)の開口(1a)より突出した状態において、大開口(2b)上で結ぶことが可能な長さに設定された構成である。
第1?4図に示すように、対向する2つのリボン(7,7)は、保護部材(2)を収容部材(1)へ挿嵌して全体的に正四角錐状の包装容器へと組み上げた状態で、互いに上面側で緊締可能な長さにしている。」(イ号説明書第1頁第30行?第2頁第3行)

「(6)構成f:リボン(7)を大開口(2b)上で結ぶことによって、造花(F)および保護部材(2)の収容部材(1)からの抜け出を防止する構成としている。
第1?4図に示すように、一方のリボン(7)の基端部が保護部材(2)の側面に取り付けられている状態でも、他方のリボン(7)の基端部が収容部材(1)の開口(1a)に取り付けられている限り、保護部材(1)(当審注:保護部材(2)の誤記と認める。)や装花(F)(当審注:造花(F)の誤記と認める。)の飛び出し防止機能を果たすことができる構成である。」(イ号説明書第2頁第4行?第9行)

(2)イ号図面
「第1図



「第2図



「第3図



「第4図



「第5図



「第6図



2.請求人は、上記イ号説明書の記載及びイ号図面の図示に基いて、判定請求書の第3頁第30行?第4頁第9行において、イ号物件の各構成に、本件特許発明の構成要件の分説と対応するようにアルファベットの小文字の符号を付して、次のように特定しているから当審もこれを採用する。なお、イ号図面の符号は、本件特許発明の図面及びその説明と同一の符号を用いている。
[イ号物件]
a 造花(F)を包装する包装容器であって、
b 正四角錐の筒状に形成され、内部に造花(F)が収容される収容部材(1)と、
c 正錐台筒状に形成され、その小開口(2a)から収容部材(1)に挿入されることで、大開口(2b)が収容部材(1)の開口(1a)より突出した状態で、収容部材(1)の内面に係止する透明な保護部材(2)とを備え、
d 収容部材(1)の開口(1a)部に装飾用の少なくとも一対のリボン(7,7)のうち一方のリボン(7)の基端部が当該開口(1a)部の径方向に対向して取り付けられ、他方のリボン(7)の基端部が透明な保護部材(2)の側面に径方向に対向して取り付けられ、
e リボン(7,7)の長さは、保護部材(2)の大開口(2b)が収容部材(1)の開口(1a)より突出した状態において、大開口(2b)上で結ぶことが可能な長さに設定され、
f リボン(7,7)を大開口(2b)上で結ぶことによって、造花(F)および保護部材(2)の収容部材(1)からの抜け出を防止する
g ことを特徴とする包装容器。

第5 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、イ号物件を上記「第4」に記載したように特定した上で、判定請求書第6頁第15行?第8頁第19行、及び弁駁書第3頁第8行?第6頁第29行、第7頁第34行?第11頁第22行において、概略、以下のとおり主張をしている。

(1)構成a、b、gと構成要件A、B、Gについて
イ号物件の構成a、b、gは、本件特許発明の構成要件A、B、Gを充足する。

(2)構成cと構成要件Cについて
ア 本件特許発明の透明な保護部材は錘台筒状に形成されており、本件特許明細書等の段落「0017」、図4に、「錘台筒状には正四角錐台筒状を含む」ことが例示されている。同様に、イ号包装容器の保護部材(2)は、正四角錐台筒状に形成してる。

また、本件特許明細書等の段落「0017」には、「保護部材2は、図4(b)に示すように、所定形状に打ち抜かれた1枚の透明な樹脂製の板材10によって組み立てられたものである。樹脂製の板材10としては、例えば、PP樹脂やPET樹脂等の透明な板材が挙げられる。」との記載がある。同様に、イ号包装容器の保護部材(2)は、透明な樹脂製である。

さらに、両者とも透明な保護部材(2)は、その小開口(2a)から収容部材(1)に挿入されることで、大開口(2b)が収容部材(1)の開口(1a)より突出した状態で収容部材(1)の内面に係止されている。したがって、両者は完全に一致する。

イ そもそも「蓋」が機能するためには「蓋」の取付対象となる部材に「開口」が予め形成されていることが必須であり、イ号包装容器の構成cにおける「蓋」は、保護部材が「大開口」という必須の構成を備えたことを大前提とした単純な周知慣用技術の外的付加要素に過ぎない。

(3)構成dと構成要件Dについて
ア 構成要件Dでは、対向して取り付けられた少なくとも一対のリボンの基端部が収容部材の開口部に取り付けられているのに対し、構成dでは、一対のリボン(7,7)のうち一方のリボン(7)の基端部は収容部材(1)の開口(1a)部に取り付けられていると共に、他方のリボン(7)の基端部は透明な保護部材(2)の側面に径方向に対向して取り付けられている。

構成要件Dにおいて、互いに先端が結ばれているリボンによって収容部材に差し込んだ保護部材が飛び出すのを防ぐ機能は認められるが、構成dにおいて、他方のリボン(7)の基端部が保護部材(2)側面に取り付けられている状態でも、一方のリボン(7)の基端部が収容部材(1)の開口(1a)に取り付けられている限り、内部に収容した造花(F)や保護部材(2)の飛び出しは防ぐことができるのであり、全く同じ機能を果たす構造と考える。

特に、構成dでは、透明な保護部材(2)の上面で二本のリボン(7,7)の先端緊締状態である限り、先端緊締状態のリボン(7,7)は保護部材(2)の対向側面と上面に密着して保護部材(2)周面を囲繞している。一方のリボン基端部が収容部材(1)の開口(1a)に連設されていれば、保護部材(2)は決して収容部材(1)から抜け出すことはない。

以上のように、構成要件Dと構成dとは、対向する一方のリボン(7)の基端部の取り付け位置が異なるのみであり、設計変更の域を出るものではなく実質的に同一の技術とみることができる。

イ 「一対」とは「二個で一組となること」を意味するものであり(岩波書店 新村出編 広辞苑 第7版 186頁目より引用)、また、本件特許明細書等や平成30年 8月21日に提出された特許権者の意見書(乙第2号証)等には2本のリボンが同形同大でなければならないとする積極的記載はみられない。

すなわち、本件特許発明とイ号包装容器との両構成において「2本一組とした一対のリボン(7)」があれば足りるのであり、イ号包装容器には、「2本のリボン(7)があること」は明らかである。

ウ イ号包装容器は、収容部材の上部開口に保護部材の基端部を挿入した状態で、基端部を収容部材の開口部に固定された一方のリボンと基端部を保護部材の対向する一側にシールで固定された他方のリボンとが、大開口上での締結されることにより保護部材の上方を覆うように掛け回されて一体化する。

このような状態で、収容部材から保護部材を無理に「強い力」で引き抜こうとすると、一方のリボンが保護部材の開口部に固定されているために、対向する他方のリボンが保護部材の他側を一方側に引き寄せながら、一方のリボン側の保護部材の基端部と収容部材の開口部との接触部分を中心に保護部材が外方に傾こうとする。

この際、他方のリボンが取り付けられた他側近傍の保護部材の基端部が収容部材の開口内縁部に係合する。

すなわち、締結された一対のリボンは、収容部材の上部開口に保護部材の基端部を挿入した状態の保護部材の一側、大開口、他側の長さに設定した引張状態で掛け回されているため、収容部材への保護部材の挿入状態を安定化させる。

このように、イ号包装容器においても、本件特許発明と同様に、大開口上で締結されて同大開口に跨がって引張する一対のリボンにより、容器内部の装飾品の抜出進路や保護部材の収容部材からの離脱進路が妨げられ、装飾品や保護部材の収容部材からの抜け出が防止されることに変わりはない。

エ 乙第4号証は、収容部材内へ保護部材の基端部を無理矢理に押し込み、樹脂素材の可撓性及び弾性という至極当然の性質を利用して保護部材を収容部材に圧接させて係合させているにも関わらず、あたかも「摩擦力」係合であるかのように作為的に見せたものであり、本件特許発明の構成要件Dを充足しないとする反論材料には何らなっていない。

(4)構成eと構成要件Eについて
ア 両者とも一対のリボン(7,7)の長さが、保護部材(2)の大開口(2b)が収容部材(1)の開口(1a)より突出した状態において、大開口(2b)上で結ぶことが可能な長さに設定されている点で完全に一致する。

イ 本件特許発明においては、本件特許明細書等や意見書で「2本のリボンが同一形でなければならない」とするような積極的記載はみられない。

換言すれば、これら2本一組の一対の「リボンの長さ」が保護部材の大開口が収容部材の開口より突出した状態において、同保護部材の大開口上で結ぶことが可能な長さに設定されていれば足りるのである。

(5)構成fと構成要件Fについて
両者ともに一対のリボン(7,7)を保護部材(2)の大開口(2b)上で結ぶことによって、装飾品(造花(F))および保護部材(2)の収容部材(1)からの抜け出を防止する機能を果たす点で完全一致する。

(6)イ号包装容器の本件特許発明に対する均等物としての補助的検討
ア 第1要件(非本質的部分の要件)について
「一対のリボンの取り付け位置部分」は、「一対のリボンが開口部の径方向に対向して取付けられ」ていれば、「保護部材の収容部材からの抜け出防止効果」を実現するのであるから、本件特許発明における本質的部分であるとは言えない。

イ 第2要件(置換可能性の要件)について
イ号包装容器の構成dのように、「一方のリボンの基端部は収容部材の開口部に、他方のリボン(7)の基端部は保護部材の側面にそれぞれ取り付けた」としても、大開口上で締結した一対のリボンにより、容器内部の装飾品の抜出方向の進路や保護部材の収容部材からの離脱方向への進路が妨げられて装飾品や保護部材が収容部材から抜け出ることがないという同一の作用効果を奏することに変わりはない。

ウ 第3要件(置換容易性の要件)について
2本一組の一対のリボンのうち「一方のリボンの基端部は収容部材の開口部に、他方のリボンの基端部は保護部材の側面にそれぞれ取り付け」た場合であっても、保護部材の大開口上で一対のリボンを締結することにより「保護部材の収容部材からの離脱方向への進路が妨げられて保護部材が収容部材から抜け出ることがない」効果が発揮できる。

このように、本件特許発明の実質的価値は、2本一組の一対のリボンを締結することにより、装飾品や保護部材の抜出を防止して販売や贈呈の際には外側からか花弁等の装飾品を見ることができるとともに保護できることにあり、被請求人によるイ号包装容器は本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術を用いて作成されていることは明らかである。

エ 第5要件(意識的除外の要件)について
均等の第5要件が成立するためには、イ号包装容器が、拒絶理由通知書で示された公知技術としての引用文献4(甲第9号証:実開昭56-26682号公報)及び引用文献5(甲第10号証:実用新案登録第3072478号公報)に開示された技術と略同じか、又はこれに近い技術的構成を備えていなければならない。

さらに、本件特許発明は、イ号包装容器の「蓋」や「リボンの取り付け位置」について、手続補正書及び意見書で外形的に認識しうる程度に除外した等の特段の事情もない。

2.被請求人の主張
被請求人は、乙第1?4号証を提出するとともに、答弁書第3頁第13行?第7頁第6行において、概略、以下のとおり主張をしている。

(1)構成要件Cについて
乙第1号証の第1図、第4図及び第5図に示すように、本件特許発明の透明な保護部材と被請求人製品の筒状四角錐台(2)とは、保護部材の上部が大開口であるのに対し、筒状四角錐台(2)では、フラップ状の蓋を有している点で大きく相違する。

ここで「開口」とは、外に向かって開いていること(デジタル大辞泉)であるから、「大開口」を字義通り解釈すると、大きく口が開いていることを意味する。すなわち、ほとんどの時間を閉口している部分を「大開口」とはいわない。しかも、蓋は造花の抜け出防止に大きな役割を果たすので、そのような蓋を付け足したものを、後出し的に「大開口」に含まれると解することは許されない。

これに対し、被請求人製品は、フラップ状の蓋(2c)を備えており、開口されるのは収容される装飾品を出し入れするときのみで、ほとんどの時間閉口しているものであり、「大開口」には該当しないものである。さらに、前述の通り、蓋のある上面を含むものを「大開口」と解することはできないので、被請求人製品が「差込部を有するフラップ状の蓋」を備えていることのみをもってしても、「大開口」には該当しないものである。

(2)構成要件Dについて
ア 乙第1号証の第2図及び第4図に示すように、被請求人の製品ではリボン(7a)とリボン(7b)とが「一対のリボン」を形成していない点及び1本のリボン(7b)が「筒状四角錐台(2)の側面に」シール(8)で貼りつけられている点で相違する。

すなわち被請求人製品には、単に「長さも取り付け位置も異なる」「2本のリボン」があるに過ぎず、二つそろってひと組として扱われるような「一対のリボン」は存在しておらず、また、1本のリボンは包装容器(1)の開口部(1a)に取り付けられていない。

イ 本件特許発明はその出願経過において、拒絶理由通知に対する意見書と同時に提出した手続補正書の中で、「一対のリボン」「(収容部材)開口部に・・・に対向して取り付けられ」の文言を追加し、請求項1を減縮している。そして、乙第2号証に示すように、意見書の中で、引用文献4との対比においては帯紐8(本件特許発明におけるリボンに対応)が1本であるのに対し本件特許発明では「リボン」が少なくとも一対あること、また帯紐8が鎖入れ本体1の背面に縫い付けられているのに対し、本件特許発明ではそれぞれの基端部が収容部材の開口部に当該開口部の径方向に対向して取り付けられている旨を主張している。また、引用文献5との対比においても同様に、上部箱体と下部箱体にかけまわすようにして取り付けられたリボンが1本であること、当該リボンの基端部が下部箱体の開口部に取り付けられていないことが本件特許発明との相違点である旨を主張している。

これらの主張からも明らかなように、「少なくとも一対のリボンを有すること」と「当該リボンの基端部が収容部材の開口部の径方向に対向して取り付けられていること」が本件特許発明において先行技術との相違を主張して特許となった本件発明の特徴的部分である。すなわち、「一対のリボン」が存在しておらず、また、1本のリボンは包装容器(1)の開口部(1a)に取り付けられていない被請求人製品との相違点は無視することができない。

ウ さらに請求人は、1本のリボン(7b)の基端部が筒状四角錐台(2)の側面にシール(8)で取り付けられている点について、「一方のリボン(7)の基端部が収容部材(1)の開口部(1a)に取り付けられている限り、内部に収容した造花(F)や保護部材(2)の飛び出しは防ぐことができるのであり、全く同じ機能を果たす構造」である旨主張するが、このような主張もまた失当である。被請求人製品においては、筒状四角錐台(2)の挿入部分と包装容器(1)の内面の間に生じる摩擦力によって係止されているものである。1本のリボン(7a)の基端部のみが包装容器(1)の開口部(1a)に取り付けられていることから、強い力を加えることにより無理やり引き出すことは不可能ではない(乙第3号証)。これに対して、本件特許発明の構成では、「一対のリボン」の基端部のいずれも収容部材の開口部(1a)に取り付けられているため、強い力を加えても引き出すことができず、この点からみても、請求人の主張するような「全く同じ機能を果たす構造」とは言えない。

(3)構成要件Eについて
本件特許発明の構成要件Eにおける「前記リボン」とは、「少なくとも1対のリボン」と記載されている、当該リボンのことである。これに対し被請求人製品の構成eでは、「長さも取り付け位置も異なる」「2本のリボン」があるに過ぎず、「一対のリボン」は存在していない。また、本件特許発明の構成要件Eにおける「大開口」については、被請求人製品はフラップ状の蓋(2c)を有しており、開口されるのは収容する装飾品を出し入れするときのみで、ほとんどの時間閉口しているものであり、「大開口」は存在しない。

(4)構成要件Fについて
本件特許発明の構成要件Fにおける「前記リボン」とは、「少なくとも1対のリボン」と記載されている、当該リボンである。これに対し被請求人製品の構成fでは、「長さも取り付け位置も異なる」「2本のリボン」があるに過ぎず、「一対のリボン」は存在しない。また、本件特許発明の構成要件Fにおける「大開口」は、被請求人製品はフラップ状の蓋(2c)を有しており、開口されるのは収容する装飾品を出し入れするときのみで、ほとんどの時間閉口しているものであり、「大開口」は存在しない。また、被請求人製品においては、筒状四角錐台(2)の挿入部分と包装容器(1)の内面の間に生じる摩擦力によって、筒状四角錐台(2)の包装容器(1)からの抜け出を防止しているものである(乙第4号証)。なお、被請求人製品において、仮に摩擦力による係止が不足している場合は、筒状四角錐台(2)にシール(8)で貼つけた1本のリボンを有する側が抜けることにより吊り下げられた状態となる(乙第3号証)点でも、構成が相違することにより生じる抜け出の防止の方法と効果が相違していることは明らかである。

乙第1号証
「第1図


「第2図


「第4図



乙第3号証




乙第4号証




第6 当審の判断
1.当審によるイ号物件の特定
(1)構成a、b及びgについて
イ号物件の構成a、b及びgは、上記第4の1.によれば、その構成からみて、上記第4の2.のとおりであると認められる。なお、この点について被請求人も積極的に争うものではない。

(2)構成cについて
ア イ号物件の構成cは、上記第4の1.の構成、及び、第5の2.から、「正錐台筒状に形成され、その小開口から収容部材に挿入されることで、蓋により開閉される大開口が収容部材の開口より突出した状態で、収容部材の内面に係止する透明な保護部材とを備え、」であると認められる。

イ 被請求人は、イ号物件の構成cについて、上記第5の2.(1)のとおり、「被請求人製品は、フラップ状の蓋(2c)を備えており、開口されるのは収容される装飾品を出し入れするときのみで、ほとんどの時間閉口しているものであり、『大開口』には該当しない。」旨を主張する。

しかしながら、そもそも「蓋」が機能するためには「蓋」の取付対象となる部材に「開口」が予め形成されていることが必須であり、「蓋」により開閉されるものだとしても、イ号物件の保護部材が「大開口」を備えることに何ら変わりはないから、「『大開口』には該当しない」とする被請求人の主張は採用できない。

(3)構成dについて
ア イ号物件の構成dは、上記第4の1.の構成、及び、上記第5の2.の「2本のリボン(7,7)のうち一方のリボン(7)の基端部が当該開口(1a)部の径方向に対向して取り付けられ、他方のリボン(7)の基端部が透明な保護部材(2)の側面に径方向に対向して取り付けられ」ていることから、「収容部材(1)の開口(1a)部に装飾用の一対のリボン(7,7)のうち一方のリボン(7)の基端部が当該開口(1a)部の径方向に対向して取り付けられ、他方のリボン(7)の基端部が透明な保護部材(2)の側面に径方向に対向して取り付けられ、」であると認められる。

イ 被請求人は、上記第5の2.(2)において、「被請求人製品には、単に『長さも取り付け位置も異なる』『2本のリボン』があるに過ぎず、二つそろってひと組として扱われるような『一対のリボン』は存在して」いない旨を主張するが、イ号物件の「2本のリボン」が「長さも取り付け位置も異なる」ものであったとしても、上記第4の1.のとおり、イ号物件のリボンは、保護部材(2)の大開口(2b)が収容部材(1)の開口(1a)より突出した状態において、大開口(2b)上で緊締されており、2本一組であれば一対ということができるから、一対のリボンは存在している。

(4)構成eについて
イ号物件の構成eは、上記第4の1.の構成からみて、第4の2.のとおりであると認められる。

(5)構成fについて
ア イ号物件の構成fは、上記第4の1.の構成からみて、上記第4の2.のとおりであると認められる。

イ 被請求人は、イ号物件の構成fについて、上記第5の2.(4)のとおり、(ア)「被請求人製品においては、筒状四角錐台(2)の挿入部分と包装容器(1)の内面の間に生じる摩擦力によって、筒状四角錐台(2)の包装容器(1)からの抜け出を防止しているものである(乙第4号証)。」、(イ)「なお、被請求人製品において、仮に摩擦力による係止が不足している場合は、筒状四角錐台(2)にシール(8)で貼つけた1本のリボンを有する側が抜けることにより吊り下げられた状態となる(乙第3号証)点でも、構成が相違することにより生じる抜け出の防止の方法と効果が相違していることは明らかである。」と主張する。

ウ まず、被請求人の主張する(ア)について検討すると、イ号物件は、保護部材の基端部(下側の端部)を収容部材の開口部に挿入した状態で、基端部が収容部材の開口部に取り付けられた一方のリボンと、基端部が保護部材の対向する一側にシールで取り付けられた他方のリボンとが、大開口上での締結されることにより保護部材の上方を覆うように掛け回されて一体化するものであることは、上記第4の1.から明らかである。

そして、このような状態で、収容部材から保護部材を無理に「強い力」で引き抜こうとすると、一方のリボンが収容部材の開口部に取り付けられているために、対向する他方のリボンが保護部材の他側を一方側に引き寄せながら、一方のリボン側の保護部材の下側の端部と収容部材の開口部との接触部分を中心に、保護部材が外方に傾こうとするが、この際、他方のリボンが取り付けられた他側近傍の保護部材の下側の端部が収容部材の開口内縁部に係合するものと認められる。

してみると、締結された2本のリボンは、保護部材の下側の端部を収容部材の上部開口に挿入した状態の保護部材の一側、大開口、他側の長さに設定した引張状態で掛け回されているため、保護部材の収容部材に対する挿入状態を安定化させて、抜け出を防止するものと考えられ、イ号包装容器についても、大開口上において、同大開口に跨がって引張する2本のリボンが結ばれることにより、容器内部の装飾品の抜出進路や保護部材の下側の端部の、収容部材の上部開口からの離脱進路が妨げられ、装飾品や保護部材の収容部材からの抜け出が防止されることに変わりはないから、被請求人の主張は採用できない。

なお、被請求人が提出した乙第3号証のイ号物件に係る写真は、「強い力を加えることにより無理やり引き出す」(答弁書第5頁第29行?第30行)ことにより、保護部材を収容部材から離脱させたものであるが、上記のとおり、締結された2本のリボンよって保護部材及び造花の収容部材からの抜け出を防止するという機能を否定する根拠にはならないから、被請求人の主張(ア)は採用できない。

エ 次に、被請求人の主張する(イ)について検討すると、保護部材の下側の端部の挿入部分と収容部材の開口部の内面との間に生じる「摩擦力」については、当該摩擦力が生じたとしても、その摩擦力は、収容部材に挿入される保護部材の深さや、挿入時の押圧力によって変化し得るものであって、当該摩擦力のみによって、保護部材に加わる外力に対抗して保護部材の収容部材からの抜け出を防止し得るものとは認められないし、上記のウで示したとおり、締結された2本のリボンによって保護部材及び造花の収容部材からの抜け出を防止するという機能を否定する根拠にはならないから、被請求人の主張は採用できない。

(6)以上を総合して、当審は、イ号物件を次のように特定する。
[イ号物件]
a 造花(F)を包装する包装容器であって、
b 正四角錐の筒状に形成され、内部に造花(F)が収容される収容部材(1)と、
c 正錐台筒状に形成され、その小開口(2a)から収容部材(1)に挿入されることで、蓋により開閉される大開口(2b)が収容部材(1)の開口(1a)より突出した状態で、収容部材(1)の内面に係止する透明な保護部材(2)とを備え、
d 収容部材(1)の開口(1a)部に装飾用の一対のリボン(7,7)のうち一方のリボン(7)の基端部が当該開口(1a)部の径方向に対向して取り付けられ、他方のリボン(7)の基端部が透明な保護部材(2)の側面に径方向に対向して取り付けられ、
e リボン(7,7)の長さは、保護部材(2)の大開口(2b)が収容部材(1)の開口(1a)より突出した状態において、大開口(2b)上で結ぶことが可能な長さに設定され、
f リボン(7,7)を大開口(2b)上で結ぶことによって、造花(F)および保護部材(2)の収容部材(1)からの抜け出を防止する
g ことを特徴とする包装容器。

2.充足性について
(1)構成要件A、B及びGについて
その構成からみて、イ号物件の構成a、b及びgは、本件特許発明の構成要件A、B及びGに相当することが明らかであるから、イ号物件の構成a、b及びgはそれぞれ、本件特許発明の構成要件A、B及びGを充足する。なお、構成要件A、B及びGについては、両当事者間に積極的な争いはない。

(2)構成要件Cについて
上記1.(2)で示したとおり、イ号物件の保護部材に「蓋」が存在しても、当該「蓋」は、保護部材が大開口という必須の構成を備えたことを前提とした単純な周知慣用技術の外的付加要素に過ぎず、蓋により開閉されるとしても、イ号物件の保護部材が「大開口」を備えることに何ら変わりはない。

してみると、イ号物件の構成cは、本件特許発明の構成要件Cに相当することが明らかであるから、イ号物件の構成cは、本件特許発明の構成要件Cを充足する。

(3)構成要件Dについて
ア 本件特許発明は、「前記収容部材の開口部に」「取り付けられ」た「一対のリボン」によって保護部材及び造花の収容部材からの抜け出を防止する機能を備えるものであるから、イ号物件の「一対のリボン」のうち、「他方のリボン(7)の基端部が透明な保護部材(2)の側面に径方向に対向して取り付けられ、」る点は、本件特許発明の構成要件Dを充足するとはいえない。したがって、イ号物件の構成dは、本件特許発明の構成要件Dを充足しない。

イ 被請求人は、イ号物件の構成dについて、上記第5の2.(2)のとおり、「被請求人製品には、単に「長さも取り付け位置も異なる」「2本のリボン」があるに過ぎず、二つそろってひと組として扱われるような「一対のリボン」は存在して」いない旨を主張する。

しかしながら、構成要件Dの「一対」とは、「二個で一組となること」(岩波書店 新村出編 広辞苑 第7版)ことと解され、また本件特許明細書等には、一対のリボンが同形同大でなければならないとする明示的記載は、みられないから、被請求人の主張は採用できない。

ウ 一方、請求人は、上記第5の1.(2)のとおり、イ号物件の構成dは、本件特許発明の構成要件Dに対して、「対向する一方のリボン(7)の基端部の取り付け位置が異なるのみであり、設計変更の域を出るものではなく実質的に同一の技術とみることができる。」と主張する。

しかしながら、イ号物件のリボンの取り付け位置は、上記のとおり「2本のリボンのうち一方のリボン(7)の基端部が当該開口(1a)部の径方向に対向して取り付けられ、他方のリボン(7)の基端部が透明な保護部材(2)の側面に径方向に対向して取り付けられ、」るものであって、本件特許発明の構成要件Dの「一対のリボンの基端部が当該開口部の径方向に対向して取り付けられ」る構成とは、明らかに異なるものであるから、実質的に同一の技術とみることはできないので、請求人の主張は採用できない。

(4)構成要件Eについて
上記のとおり、イ号物件の一対のリボンの長さは、「保護部材(2)の大開口(2b)が収容部材(1)の開口(1a)より突出した状態において、大開口(2b)上で結ぶことが可能な長さ」であるから、イ号物件の構成eは、本件特許発明の構成要件Eに相当する。

よってイ号物件の構成eは、本件特許発明の構成要件Eを充足する。

(5)構成要件Fについて
上記のとおり、イ号物件の一対のリボンは、「リボン(7,7)を大開口(2b)上で結ぶことによって、造花(F)および保護部材(2)の収容部材(1)からの抜け出しを防止する」のであるから、イ号物件の構成fは、本件特許発明の構成要件Fに相当する。

よってイ号物件の構成fは、本件特許発明の構成要件Fを充足する。

(6)小括
以上のとおりであるから、イ号物件は、「他方のリボン(7)の基端部が透明な保護部材(2)の側面に径方向に対向して取り付けられ、」るのであるから、「前記収容部材の開口部に装飾用の少なくとも一対のリボンの基端部が当該開口部の径方向に対向して取り付けられ」ているとはいえず、本件特許発明の構成要件Dを充足しないから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件を充足していない。

3.均等の主張について
上記のとおり、イ号物件は、「他方のリボン(7)の基端部が透明な保護部材(2)の側面に径方向に対向して取り付けられ、」るのであるから、「前記収容部材の開口部に装飾用の少なくとも一対のリボンの基端部が当該開口部の径方向に対向して取り付けられ」ているとはいえず、本件特許発明の構成要件Dを充足しない。

なお、請求人は、上記第5の1.(6)のとおり、弁駁書において「イ号包装容器の本件特許発明に対する均等物としての補助的検討」として、均等の法理の適用を主張する。

そこで、イ号物件の当該構成dが、本件特許発明の構成要件Dと均等なものであるか否かについて検討する。

(1)第1要件(非本質的部分の要件)について
ア 本件特許発明が解決しようとする課題は、上記第3の2.(2)アに示したとおり、販売や贈呈の際に、従来技術では、「外側から花卉を見ることができない」こと、外側から花卉を見ることができるように「花卉を包装容器の開口から突出させ」た場合、「花卉に他の物が当たったりすると、花卉が傷付くおそれがある」ことを踏まえて、「販売や贈呈の際には外側から花卉等の装飾品を見ることができるとともに保護でき」る包装容器を提供することと認められる。

イ 本件特許発明は、上記アの課題を解決するために、上記第3の2.(2)イ及びウに示したとおり、「透明な保護部材」を「収容部材に挿入」することで、収容部材に花卉等の装飾品を収容してその上端部にある花びら等を収容部材の開口から突出している部分に位置させることにより、当該花びら等を透明な保護部材によって保護しつつ当該保護部材を通して見ることができるようにするとともに、「前記収容部材の開口に装飾用の少なくとも一対のリボンの基端部が当該開口の径方向に対向して取り付けられ」、「リボンを大開口上で結ぶ」ことにより、販売や贈呈の際の飾りになるとともに、花卉等の装飾品や保護部材の収容部材からの抜け出を防止できるものと認められる。

ウ してみると、本件特許発明の本質は、特許明細書に記載された従来技術に見られない特有の技術思想を構成する特徴的部分として、少なくとも「透明な保護部材」を「収容部材に挿入」し、「前記収容部材に」「少なくとも一対のリボン」が「当該開口の径方向に対向して取り付けられ」ることで「保護部材」の「収容部材」からの抜け出を防止することと認められる。

エ そうすると、本件特許発明の構成要件中のイ号物件と異なる部分である構成要件Dは、「前記収容部材の開口部に装飾用の少なくとも一対のリボンの基端部が当該開口部の径方向に対向して取り付けられ」という本件特許発明の本質的部分であるから、均等の第1要件を充足しない。

オ 請求人は、上記第5の1.(6)アのとおり、「一対のリボンの取り付け位置部分」は、一対のリボンが開口部の径方向に対向して取付けられていれば、保護部材の収容部材からの抜け出防止効果を実現するのであるから、本件特許発明における本質的部分であるとは言えない旨を主張する。

しかしながら、「一対のリボン」が「収容部材」に取り付けられていない場合、一対のリボンによって保護部材の収容部材からの抜け出を防止することができないことは、明らかである。

また、「一対のリボン」のうち「一方のリボン」のみが「収容部材」に取り付けられている場合、「保護部材」の下側端部が「収容部材」の開口部に対してどの程度深く挿入されているのかに依存して、「一対のリボン」により保護部材の収容部材からの抜け出を防止できるとの効果の発現の度合も異なる。

してみると、「保護部材」の下側端部が「収容部材」の開口部に対する挿入の深さにかかわりなく「保護部材」の「収容部材」からの抜け出を防止する上で、「一対のリボン」が「収容部材」に取り付けられていることが必要であって、上記請求人の主張は採用できない。

(2)第5要件(意識的除外の要件)について
ア 本件特許発明は、平成30年 5月10日に提出された手続補正書により補正された【請求項1】?【請求項4】(以下、それぞれ「補正前の【請求項1】」?「補正前の【請求項4】」という。)について同年6月21日付けで通知された拒絶理由に対して、同年 8月21日に提出された手続補正書により、以下の(イ)とおり補正されたものである。

(ア)補正前の【請求項1】?補正前の【請求項4】
【請求項1】
花卉や造花等の装飾品を包装する包装容器であって、
錐筒状に形成され、内部に前記装飾品が収容される収容部材と、
錐台筒状に形成され、その小開口から前記収容部材に挿入されることで、大開口が前記収容部材の開口より突出した状態で、前記収容部材の内面に係止する透明な保護部材とを備えていることを特徴とする包装容器。
【請求項2】
前記保護部材は、その小開口から前記収容部材がその頂部から挿入された状態において、前記小開口が前記収容部材の側面に係止することで、当該収容部材を起立した状態に保持する保持台を兼ねていることを特徴とする請求項1に記載の包装容器。
【請求項3】
前記保護部材の小開口から前記収容部材がその頂部から挿入されて、前記小開口が前記収容部材の側面に係止した状態において、前記収容部材の頂部が、前記保持台が載置されている載置面に接触可能となるように、前記収容部材の長さが設定されていることを特徴とする請求項2に記載の包装容器。
【請求項4】
前記収容部材の開口部に装飾用の少なくとも一対のリボンが当該開口部の径方向に対向して取り付けられ、
前記リボンの長さは、前記保護部材の大開口が前記収容部材の開口より突出した状態において、前記大開口上で結ぶことが可能な長さに設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の包装容器。

(イ)本件特許発明
【請求項1】
花卉や造花等の装飾品を包装する包装容器であって、
錐筒状に形成され、内部に前記装飾品が収容される収容部材と、
錐台筒状に形成され、その小開口から前記収容部材に挿入されることで、大開口が前記収容部材の開口より突出した状態で、前記収容部材の内面に係止する透明な保護部材とを備え、
前記収容部材の開口部に装飾用の少なくとも一対のリボンの基端部が当該開口部の径方向に対向して取り付けられ、
前記リボンの長さは、前記保護部材の大開口が前記収容部材の開口より突出した状態において、前記大開口上で結ぶことが可能な長さに設定され、
前記リボンを前記大開口上で結ぶことによって、前記装飾品および前記保護部材の前記収容部材からの抜け出を防止することを特徴とする包装容器。

イ また、被請求人が乙第2号証として提出した「意見書(特願2016-180115)」のP.3(乙第2号証 5/8頁?7/8頁)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「これに対し本願の請求項1に係る発明は「前記収容部材の開口部に装飾用の少なくとも一対のリボンの基端部が当該開口部の径方向に対向して取り付けられ、」という構成A1、「前記リボンの長さは、前記保護部材の大開口が前記収容部材の開口より突出した状態において、前記大開口上で結ぶことが可能な長さに設定され、」という構成A2、「前記リボンを前記大開口上で結ぶことによって、前記装飾品および前記保護部材の前記収容部材からの抜け出を防止する」という構成A3を備えています。」

(イ)「一方、引用文献4に記載されている帯紐(本願におけるリボンに対応)8は、鎖入れ本体1の背面に縫い付けられているものであり、1本しかなく、また、帯紐8の中央部が鎖入れ本体1の背面に縫い付けられています(引用文献4の明細書第3ページ4-5行、および第1図参照)。これに対し、本願でいう「リボン」は少なくとも一対あり、それぞれの基端部が収容部材の開口部に当該開口部の径方向に対向して取り付けられています。したがって、引用文献4に記載されている「帯紐8」は、本願でいう「リボン」に相当し得ません。よって、引用文献4には、本願の前記構成A1?A3について何ら開示されておらず、示唆すらもないと思料致します。」

(ウ)「このように引用文献5に記載されている「リボン」は本願でいう「リボン」に相当し得ません。よって、引用文献5には、本願の前記構成A1?A3について何ら開示されておらず、示唆すらもないと思料致します。
なお、前記本願の構成A1?A3については、引用文献1?3のいずれにも何ら記載されておらず、示唆すらもありません。」

ウ 上記ア及びイ(ア)?(ウ)の記載から、本件特許発明は、補正前の【請求項1】を引用する補正前の【請求項4】について、さらに、一対のリボンの「基端部」が収容部材の開口部の径方向に対向して取り付けられることを限定して減縮したものであって、引用文献4のように「一本の帯紐」の「中央部」を「本体1の背面」に縫い付けたことの全てを備えるもののみを除外するだけでなく、「一対のリボン」のうち、他方のリボンの基端部が収容部材の開口部に径方向に対向して取り付けられていないイ号物件も除外すると解するのが適当である。

エ してみると、イ号物件の構成dは、本件特許発明の審査過程において意識的に除外されたものであるから、均等の第5要件を充足しない。

オ 請求人は、上記第5の1.(6)エのとおり、「均等の第5要件が成立するためには、イ号包装容器が、拒絶理由通知書で示された公知技術としての引用文献4(甲第9号証)及び引用文献5(甲第10号証)に開示された技術と略同じか、又はこれに近い技術的構成を備えていなければならない。

さらに、本件特許発明は、イ号包装容器の「蓋」や「リボンの取り付け位置」について、手続補正書及び意見書で外形的に認識しうる程度に除外した等の特段の事情もない。」と主張するが、上記ウで述べたとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

(3)均等についてのまとめ
したがって、イ号物件は、均等の第1要件及び第5要件を充足しないから、均等の第2?4要件について検討するまでもなく、イ号物件が本件特許発明の均等なものとして、本件特許発明の技術的範囲に属するとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件の充足するものではなく、本件特許発明の構成要件と均等な構成でもないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属さない。

よって、結論のとおり判定する。



 
判定日 2021-03-30 
出願番号 特願2016-180115(P2016-180115)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 矢澤 周一郎  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 森藤 淳志
間中 耕治
登録日 2019-01-11 
登録番号 特許第6463711号(P6463711)
発明の名称 包装容器  
代理人 佐々 健太郎  
代理人 佐々 百合子  
代理人 松尾 憲一郎  
代理人 市川 泰央  

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