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審決分類 審判 全部無効 特29条の2  A61K
管理番号 1372972
審判番号 無効2018-800128  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-10-23 
確定日 2021-02-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4171216号発明「含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4171216号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕、10、11について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許第4171216号の請求項1?11に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、平成14年1月16日に出願され、平成20年8月15日に特許権の設定登録がなされた。

2 そして、これに対して、請求人(エイワイファーマ株式会社)から、平成29年4月3日付けで、別件無効審判(無効2017-800045号)が請求され、平成30年2月13日付けで「特許第4171216号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3、5?11〕、〔4〕について訂正することを認める(訂正後の請求項〔1?9〕、〔10、11〕について訂正することを認めるの誤記と認める)。
本件審判の請求は成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。」との審決がなされ、該審決は確定した。

3 したがって、以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書を「本件明細書」といい、上記別件の無効審判事件における平成29年6月19日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲を「本件特許請求の範囲」という。

4 本件特許について、エイワイファーマ株式会社(以下「請求人」という。)から、本件特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の無効審判の請求がなされた。
以下に、本件審判の請求以後の経緯を整理して示す。
平成30年10月23日 審判請求書・証拠説明書(請求人)(1)、及び甲第1?3号証提出(請求人)
平成31年 2月19日 審判事件答弁書・証拠説明書、乙第1号証、及び訂正請求書提出(被請求人)
平成31年 3月28日 審理事項通知書
平成31年 4月19日 上申書(被請求人)
平成31年 4月22日 上申書・証拠説明書(請求人)(2)、及び甲第4?9の6号証提出(請求人)
令和 1年 5月21日 口頭審理陳述要領書(請求人)提出
同日 口頭審理陳述要領書・証拠説明書、及び乙第2?6号証提出(被請求人)
令和 1年 5月30日 上申書(2)提出(請求人)
令和 1年 5月31日 上申書提出(被請求人)
令和 1年 6月 6日 口頭審理・証拠調べ
令和 1年 6月20日 上申書(3)・証拠説明書(3)、及び甲第10?13号証提出(請求人)
令和 1年 6月28日 上申書提出(被請求人)

第2 訂正の可否についての当審の判断
1 訂正の内容
第1の手続の経緯に示すとおり、被請求人は、願書に添付した特許請求の範囲について、平成31年2月19日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおりの訂正を求めた。

訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件の特許請求の範囲の請求項1の
「輸液製剤。」を
「輸液製剤であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
輸液製剤。」に訂正する。

(2)訂正事項2
本件の特許請求の範囲の請求項2の
「微量金属元素が銅であることを特徴とする請求項1に記載の輸液製剤。」を、「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤であって、
前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、
輸液製剤。」に訂正する。

(3)訂正事項3
本件の特許請求の範囲の請求項4の「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素収容容器」を、
「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」と訂正する。

(4)訂正事項4
本件の特許請求の範囲の請求項4の
「輸液製剤。」を
「輸液製剤であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
輸液製剤。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8の「請求項1?7」を「請求項2」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10の「複室輸液製剤において」とあるのを「複室輸液製剤の輸液容器において」と訂正する。

(7)訂正事項7
本件の特許請求の範囲の請求項10の
「保存安定化方法。」を
「保存安定化方法であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
保存安定化方法。」に訂正する。

(8)訂正事項8
本件の特許請求の範囲の請求項11の
「微量金属元素が、銅であることを特徴とする請求項10に記載の保存安定化方法。」を、「複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって、
前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、
保存安定化方法。」に訂正する。

2 判断
(1)訂正事項1について
ア 目的要件について
(ア)この訂正は、輸液製剤の溶液について、訂正前において「輸液製剤」とあるのを「輸液製剤であって、前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、」と限定して特許請求の範囲を減縮するものである。
(イ)また、この訂正は、輸液製剤の輸液容器について、「前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いた」と限定して特許請求の範囲を減縮するものである。
(ウ)よって、訂正事項1の訂正は,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。

イ 新規事項について
本件明細書【0016】には、アミノ酸輸液中に含まれるアミノ酸として、N-アセチル-L-システインが具体的例示として記載されており、【0052】【0063】には、アセチルシステインを含有する輸液製剤の実施例1が記載され、【0035】には、輸液容器が、ガスバリヤー性の外袋に収納されていることが好ましいことが記載され、【0039】には、外袋内の酸素を取り除くことが記載されているので、訂正事項1は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの判断について
上記アのとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。

(2)訂正事項2について
ア 目的要件について
(ア)この訂正は、訂正前の「微量金属元素が銅であることを特徴とする請求項1に記載の輸液製剤」との記載を、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しない「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤」とした上で、輸液製剤に関して、訂正前において「輸液製剤」とあるのを、「輸液製剤であって、前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、輸液製剤。」と限定して特許請求の範囲を減縮するものである。

(イ)よって、訂正事項2の訂正は,特許請求の範囲を減縮すること、および他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

イ 新規事項について
本件明細書【0016】には、「含硫化合物を含む溶液」としては含硫アミノ酸および亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液が好適な例として挙げられること、アミノ酸は必須アミノ酸、非必須アミノ酸および/またはこれらのアミノ酸の塩、エステルまたはN-アシル体などが挙げられることが記載され、【0015】には、「含硫化合物」として、システインなどの含硫アミノ酸が挙げられること、【0053】?【0059】【0063】には、L-システインおよび亜硫酸水素ナトリウムを含有する輸液製剤の実施例2?4が示されている。
また、【0035】には、輸液容器が、ガスバリヤー性の外袋に収納されていることが好ましいことが記載されている。
したがって、訂正事項2は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの判断について
上記アのとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。

(3)訂正事項3について
ア 目的要件について
この訂正は、訂正前の「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」との記載を、銅を含めた選択肢を有する微量金属元素を銅に限定し、「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」としたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項について
この訂正は、上記アのとおり、銅を含めた選択肢を有する微量金属元素を銅に限定したものにすぎないし、【0053】【0054】【0057】【0059】【0064】には、硫酸銅を含む溶液がポリエチレンフィルムより成形した小袋に充填された実施例1?4の輸液製剤が示されている。
したがって、訂正事項3は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの判断について
上記アのとおり、訂正事項3は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。

(4)訂正事項4について
ア 目的要件について
(ア)この訂正は、輸液製剤の溶液について、訂正前において「輸液製剤」とあるのを「輸液製剤であって、前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、」と限定して特許請求の範囲を減縮するものである。
(イ)また、この訂正は、輸液製剤の輸液容器について、「前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いた」と限定をして特許請求の範囲を減縮するものである。
(ウ)よって、訂正事項4の訂正は,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。

イ 新規事項について
本件明細書【0016】には、アミノ酸輸液中に含まれるアミノ酸として、N-アセチル-L-システインが具体的例示として記載されており、【0052】【0063】には、アセチルシステインを含有する輸液製剤の実施例1が記載され、【0035】には、輸液容器が、ガスバリヤー性の外袋に収納されていることが好ましいことが記載され、【0039】には、外袋内の酸素を取り除くことが記載されているので、訂正事項4は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの判断について
上記アのとおり、訂正事項4は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。

(5)訂正事項5について
ア 目的要件について
この訂正は、訂正前の「請求項1?7」を「請求項2」と訂正し、引用する請求項の選択肢を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項について
この訂正は、上記アのとおり、引用する請求項の選択肢を限定するものにすぎず、訂正事項5は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの判断について
上記アのとおり、訂正事項5は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。

(6)訂正事項6について
ア 目的要件について
この訂正は、訂正前の「複室輸液製剤において」とあるのを「複室輸液製剤の輸液容器において」と訂正するもので、訂正事項7にともなって、対象をさらに限定したものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項について
本件明細書【0031】には、本発明に係る輸液製剤の好ましい態様として、微量金属元素収容容器が収容されている第1室と硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填されている第2室とが隣接している輸液製剤が挙げられ、具体的態様として該輸液容器は、第1室と第2室を有することが記載されており、訂正事項6は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの判断について
上記アのとおり、訂正事項6は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。

(7)訂正事項7について
ア 目的要件について
(ア)この訂正は、輸液製剤の保存安定化方法に関して、輸液製剤の溶液について、訂正前において「保存安定化方法」とあるのを「保存安定化方法であって、前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、」と限定して特許請求の範囲を減縮するものである。
(イ)また、この訂正は、輸液製剤の保存安定化方法に関して、輸液製剤の輸液容器について、「前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いた」と限定をして特許請求の範囲を減縮するものである。
(ウ)よって、訂正事項7の訂正は,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。

イ 新規事項について
本件明細書【0016】には、アミノ酸輸液中に含まれるアミノ酸として、N-アセチル-L-システインが具体的例示として記載されており、【0052】【0063】には、アセチルシステインを含有する保存安定化される輸液製剤の実施例1が記載され、【0035】には、輸液容器が、ガスバリヤー性の外袋に収納されていることが好ましいことが記載され、【0039】には、外袋内の酸素を取り除くことが記載されているので、訂正事項7は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの判断について
上記アのとおり、訂正事項7は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。

(8)訂正事項8について
ア 目的要件について
(ア)この訂正は、訂正前の「微量金属元素が、銅であることを特徴とする請求項10に記載の保存安定化方法」との記載を、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しない「複室輸液製剤において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法」とした上で、
上記の「複室輸液製剤において」との記載を、「複室輸液製剤の輸液容器において」と対象をさらに限定し、輸液製剤の保存安定化方法に関して、訂正前において「輸液製剤の保存安定化方法」とあるのを「輸液製剤の保存安定化方法であって、前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、保存安定化方法。」と限定して特許請求の範囲を減縮するものである。

(イ)よって、訂正事項8の訂正は,特許請求の範囲を減縮すること、および他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

イ 新規事項について
本件明細書【0016】には、「含硫化合物を含む溶液」としては含硫アミノ酸および亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液が好適な例として挙げられること、アミノ酸は必須アミノ酸、非必須アミノ酸および/またはこれらのアミノ酸の塩、エステルまたはN-アシル体などが挙げられることが記載され、【0015】には、「含硫化合物」として、システインなどの含硫アミノ酸が挙げられること、【0053】?【0059】【0063】には、L-システインおよび亜硫酸水素ナトリウムを含有する保存安定化される輸液製剤の実施例2?4が示されている。
また、【0035】には、輸液容器が、ガスバリヤー性の外袋に収納されていることが好ましいことが記載されている。
したがって、訂正事項8は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの判断について
上記アのとおり、訂正事項8は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。

(9)一群の請求項について
訂正前の請求項1?3,5?9は、請求項2,3,5?9が訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあり、訂正の請求の対象である訂正前の請求項4は、請求項5?9に引用される関係にあるので、訂正前において、一群の請求項に該当するものである。
また、訂正前の請求項10?11は、請求項11が訂正の請求の対象である請求項10の記載を引用する関係にあり、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
さらに、請求項2,11については、別の訂正単位とする求めがなされているが、訂正後の請求項2は、請求項1,3?9と一群の請求項であるから、別の訂正単位とすることはできない。
したがって、この訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものであり、訂正後の請求項〔1?9〕、10、11について訂正することを認める。

(10)審判請求人の主張の検討
ア 審判請求人は、平成31年4月22日付け上申書2?3頁において、訂正後の「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
輸液製剤。」との請求項1における、
訂正事項1は、アミノ酸輸液中に「アセチルシステイン」と「亜硫酸塩」とを含有する構成を含ませることを内容とするものであるとして、両者を組み合わせた実施例がないことを理由として、新規事項である旨主張している(訂正事項4,7についても同様の主張をしている。)ので以下検討する(下線は、当審にて追加。以下、同様。)。

イ 【0015】【0016】には、「【0015】
上記「硫黄原子を含む化合物(本発明において、含硫化合物ともいう。)」としては、特に限定されないが、システインまたはシスチンなどの含硫アミノ酸が挙げられる。また、かかる化合物としては、安定化剤として用いられている亜硫酸塩なども挙げられる。前記亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ亜硫酸ナトリウムまたはロンガリットなどが挙げられる。本発明の輸液製剤には、上記の含硫化合物が単独で含有されていてもよいし、2種以上の含硫化合物が含有されていてもよい。
上記含硫化合物の含有量は、特に限定されないが、含硫アミノ酸の場合、その含有量は約0.1?10g/Lであることが好ましく、亜硫酸塩の場合、その含有量は約0.02?0.5g/Lであることが好ましい。
【0016】
上記「含硫化合物を含む溶液」としては、上記含硫化合物を含めば、特に限定されないが、含硫アミノ酸または/および亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液が好適な例として挙げられる。
前記アミノ酸輸液としては、公知のものを用いてよい。例えば、アミノ酸輸液中に含有されるアミノ酸としては、必須アミノ酸、非必須アミノ酸および/またはこれらのアミノ酸の塩、エステルまたはN-アシル体などが挙げられる。より具体的には、例えば、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-バリン、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-ヒスチジン、L-プロリン、L-セリン、L-チロシンまたはL-グリシンなどのアミノ酸が挙げられる。また、これらアミノ酸はL-アルギニン塩酸塩、L-システイン塩酸塩、L-グルタミン酸塩酸塩、L-ヒスチジン塩酸塩、L-リジン塩酸塩等の無機酸塩や、L-リジン酢酸塩、L-リジンリンゴ酸塩等の有機酸塩、L-チロシンメチルエスエル、L-メチオノンメチルエスエル、L-メチオニンエチルエステルなどのエステル体、N-アセチル-L-システイン、N-アセチル-L-トリプトファン、N-アセチル-L-プロリンなどのN-置換体、L-チロシル-L-チロシン、L-アラニル-L-チロシン、L-アルギニル-L-チロシン、L-チロシル-L-アルギニンなどのジペプチド類の形態でも良い。」との記載があり、実施例1?4には、アセチルシステインや亜硫酸水素ナトリウムが成分として含まれている実施例が存在する。
実施例として、両成分を含有する例がないからといって、含硫アミノ酸または/および亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液が好適な例として挙げられ、アミノ酸の例としてN-アセチル-L-システインが挙がっているのだから、「アセチルシステイン」と「亜硫酸塩」との両構成を含ませることは、本件明細書に記載された事項であるといえる。
したがって、訂正事項1,4,7において、「溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液」との特定がなされたことが、新たな技術的事項の導入であるとはいえない。
よって、上記請求人主張は採用できない。

3 小括
以上のとおり、訂正事項1?8に係る訂正は、特許法134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするもの又は第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするものであり,しかも同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に違反するものでもない。
よって,結論の第1項のとおり,本件訂正を認める。

第3 本件訂正特許発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1?11に係る発明(以下、「本件訂正特許発明1」?「本件訂正特許発明11」のように表記することがある。)は、本件明細書の記載からみて、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
輸液製剤。
【請求項2】
外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤であって、
前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、
輸液製剤。
【請求項3】
微量金属元素収容容器が収納されている第1室と、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている第2室とが、連通可能な隔壁手段を介して隣接していることを特徴とする請求項1または2に記載の輸液製剤。
【請求項4】
外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器を収納している室に、糖質輸液または/および電解質輸液が充填されていることを特徴とする輸液製剤であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
輸液製剤。
【請求項5】
第1室または第2室に、ビタミン収容容器が収納されていることを特徴とする請求項3または4に記載の輸液製剤。
【請求項6】
微量金属元素収容容器またはビタミン収容容器と、それを収納している室とが、外部からの押圧によって連通可能であることを特徴とする請求項1?5に記載の輸液製剤。
【請求項7】
第1室または第2室に充填されている溶液が、さらにビタミンを含有していることを特徴とする請求項3?5に記載の輸液製剤。
【請求項8】
複数の全ての室および収容容器を、外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成が、ブドウ糖50?400g/L、L-ロイシン0.8?10.0g/L、L-イソロイシン0?7.0g/L、L-バリン0.3?8.0g/L、L-リジン0.5?7.0g/L、L-スレオニン0.3?4.0g/L、L-トリプトファン0.08?1.5g/L、L-メチオニン0.2?4.0g/L、L-フェニルアラニン0.4?6.0g/L、L-システイン0.03?1.0g/L、L-チロシン0.02?1.0g/L、L-アルギニン0.5?7.0g/L、L-ヒスチジン0.3?4.0g/L、L-アラニン0.4?7.0g/L、L-プロリン0.2?5.0g/L、L-セリン0?3.0g/L、グリシン0.3?6.0g/L、L-アスパラギン酸0?2.0g/L、L-グルタミン酸0?3.0g/L、ナトリウム20?80mEq/L、カリウム10?40mEq/L、マグネシウム2?20mEq/L、カルシウム2?20mEq/L、リン2?20mmol/L、塩素20?80mEq/L、鉄2?200μmol/L、銅0.5?40μmol/L、マンガン0?10μmol/L、亜鉛2?300μmol/L、ヨウ素0?5μmol/Lであることを特徴とする請求項2に記載の輸液製剤。
【請求項9】
さらに、ビタミンB_(1)0.4?30mg/L、ビタミンB_(2)0.5?6.0mg/L、ビタミンB_(6)0.5?8.0mg/L、ビタミンB_(12)0.5?20μg/L、ニコチン酸類5?80mg/L、パントテン酸類1.5?35mg/L、葉酸50?800μg/L、ビタミンC12?200mg/L、ビタミンA400?6500IU/L、ビタミンD0.5?10μg/L、ビタミンE1.0?20mg/L、ビタミンK0.2?4mg/L、ビオチン5?120μg/Lを含有することを特徴とする請求項8に記載の輸液製剤。
【請求項10】
複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
保存安定化方法。
【請求項11】
複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって、
前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、
保存安定化方法。」

第4 請求人の主張の概要
1 本件審判の請求の趣旨
請求人が主張する本件審判における請求の趣旨は、「特許第4171216号の請求項1ないし請求項11に記載された発明の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」である。

2 請求人が主張する無効理由及び証拠方法の概要
請求人は、以下の無効理由を主張し、証拠方法として甲第1号証?甲第13号証を提出した。

3 審判請求書、上申書、および口頭審理陳述要領書に記載した無効理由の概要
審判請求書、平成31年4月22日付け上申書、令和1年5月21日付け口頭審理陳述要領書、令和1年5月30日付け上申書および令和1年6月20日付け上申書の記載を考慮し、審判請求書の「別紙1 第2 請求の理由の要約」、「別紙1 第4 特許無効審判請求の根拠」「別紙1 第6 本件特許を無効にすべき理由」の記載、及び審判請求書全体の記載から、請求人が主張する無効理由は、本件訂正を踏まえると、概略以下のとおりである(第1回口頭審理調書)。

(1)無効理由
本件訂正特許発明1?11は、その特許出願の日前の他の特許出願(甲第1号証)であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、その発明をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一ではなく、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願の出願人とが同一でもないので、特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)証拠方法(甲第1?13号証)
請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:特願2001-278664号の願書並びに添付資料(明細書及び図面)
甲第2号証:特開2002-248158号公報
甲第3号証:「医療薬 日本医薬品集 2001(第24版)」 財団法人日本医薬情報センター 平成12年11月2日(国立国会図書館受入日) 715?733頁
甲第4号証:日本薬局方(第14改正)(抄)通則、製剤総則、一般試験法「39.注射剤用ガラス容器試験法」及び「55.プラスチック製医薬品容器試験法」 平成13年3月30日 厚生労働省(告示第111号)
甲第5号証:特開昭59-16817号公報
甲第6号証:特開平9-87177号公報
甲第7号証:「小児外科とアミノ酸輸液」岡田正,井村賢治 平成2年8月1日 医薬ジャーナル 26巻8号 144?145頁
甲第8号証:「栄養輸液用複室バッグキットの開発とその課題」ファームテックジャパン 平成12年1月1日 16巻1号 105?113頁
甲第9号証の1:特許第2088101号無効審判事件(平成9年審判第21438号)に係る平成12年8月8日付け上申書 株式会社大塚製薬工場
甲第9号証の2:総合アミノ酸製剤「モリプロンF」添付文書 ヘキスト・マリオン・ルセル株式会社 平成10年1月
甲第9号証の3:「医療薬 日本医薬品集 1990」財団法人日本医薬情報センター 平成2年8月20日 1214?1215頁
甲第9号証の4:実験報告書 加賀順二 平成12年7月18日
甲第9号証の5:“Hydrogen sulfide in parenteral amino-acid solutions”,Clinical Nutrition,Vol.15,(1996)pp.34?35
甲第9号証の6:特開昭52-114487号公報
甲第10号証:「Double Bag System for TPN & PPN」のパンフレット 株式会社大塚製薬工場 平成12年7月
甲第11号証:「医療用医薬品添付文書集」(抄)味の素ファルマ株式会社 平成11年12月 40?43頁
甲第12号証:「ユニカリックL輸液」及び「ユニカリックN輸液」の添付文書 田辺三菱製薬株式会社,テルモ株式会社 平成21年10月
甲第13号証:「ワンバッグ製剤の開発とその評価」テルモ株式会社 高井 誠 PHARM TECH JAPAN 16巻4号 平成12年 127?132頁

なお、証拠の認否について、被請求人は、甲1?甲9の6については成立を認めるとしている。

第5 答弁の趣旨並びにその主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法
1 答弁の趣旨
被請求人が主張する答弁の趣旨は、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする、との審決を求める。」である(答弁書「6.答弁の趣旨」「(4)結論」)。
そして、被請求人は、請求人が主張する上記無効理由は、審判事件答弁書、上申書、口頭審理陳述要領書において、理由がない旨の主張をしていると認める。

2 証拠方法(乙第1号証?乙第6号証)
被請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証:発明協会のホームページにおける平成27年度四国地方発明表彰の掲載ページ(http://koueki.jiii.or.jp/hyosho/chihatsu/H27/jusyo_sikoku/detail/monbukagaku.html)
公益社団法人発明協会 平成31年1月15日印刷
乙第2号証:田辺製薬医療用医薬品添付文書集 田辺製薬株式会社 2000年5月 第25?26頁
乙第3号証:特開平4-210629号公報
乙第4号証:静脈経腸栄養年鑑2000 製剤・器具一覧 第2巻 株式会社ジェフコーポレーション 2000年5月15日 第16?23頁
乙第5号証:JIS K0116 発光分光分析通則(平成7年3月1日改正)、第2刷 財団法人日本規格協会 平成7年10月10日
乙第6号証:衛生化学 第41巻第2号 中川順一,土屋悦輝 1995年 第116?126頁

なお、証拠の認否について、請求人は、乙1?6については成立を認めるとしている。

第6 証拠の記載
1 甲号証の記載事項及び認定事実
(1)甲第1号証:特願2001-278664号の明細書
本件特許の出願の日前の出願である甲第1号証には、次の記載がある。
(1a)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来の問題点を解決するべく、アミノ酸、糖、脂肪、及び/または電解質を含有する輸液とこの輸液に配合するための複数のビタミンとの混合操作が容易であり、該複数のビタミンを製造時及び保存時に安定に維持することができるとともに生体に必須の薬剤以外の不要成分をできるだけ少なくすることができ、製造が容易な収容物入り医療用容器及びそれに適した複室容器を提供することを目的とする。
・・・
【0013】このような本発明の複室容器では、剥離不能な強シールからなる複数の隔離部及び該隔離部から連続する剥離可能な弱シールからなる仕切部により収容室と液密に区画された複数の区画室を有し、該複数の区画室が収容室より小さいので、収容室の収容物より少量の複数の他の収容物をそれぞれ隔離した状態で収容することができ、収容室及び複数の区画室内へ収容する収容物の性状を異なる条件に容易に設定することが可能であり、混合しておくと変質し易い成分や安定な収容条件が異なる収容物を収容し易い。また、仕切部の弱シールを剥離させるだけで、各区画室と収容室を連通させることができ、異なる条件で収容されていた各収容物を容易に外気に晒すことなく混合することが可能である。そのため、前記のような輸液と多数の微量のビタミンのように、互いに異なる保存条件が要求されて使用時に混合される多数の収容物を収容する容器として好適に使用できる。しかも、剥離しない隔離部の少なくとも一部が一方側に配向し、この一方側に仕切部が配置されているので、一方側で仕切部の剥離を防止するだけで各区画室が他の室と連通することを防止でき、多数の区画室を形成していても各区画室を確実に液密に維持しやすいとともに、仕切部が一方側であるため、全ての仕切部を一方側から剥離できて、多数の区画室と収容室とを連通させることが容易である。」

(1b)「【0024】
また、収室室3、5には糖含有液またはアミノ酸含有液とともに、各種の電解質を含有させることができる。このような電解質としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、塩素、リン、亜鉛等が挙げられ、これらを適宜選択して添加することができる。なお、各電解質は、酸性の糖含有液及びアミノ酸含有液のいずれに添加することも可能であり、両者に添加してもよい。
電解質のナトリウム供給源としては、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、有機酸ナトリウム塩、アミノ酸ナトリウム塩、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられ、カリウム供給源としては、水酸化カリウム、塩化カリウム、有機酸カリウム塩、アミノ酸カリウム塩、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム等が挙げられ、マグネシウム供給源としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、有機酸マグネシウム塩、アミノ酸マグネシウム塩等が挙げられ、カルシウム供給源としては、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム等が挙げられ、塩素供給源としては、塩酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、アミノ酸塩酸塩等が挙げられ、リンの供給源としては、リン酸、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム等、亜鉛供給源としては硫酸亜鉛、塩化亜鉛、グルコン酸亜鉛、乳酸亜鉛、酢酸亜鉛等が挙げられる。
このような電解質は、生体内の必要量を過剰とならないように加えることが好ましく、糖含有液及びアミノ酸含有液を混合した後、ナトリウムが0?180mEq/L、カリウムが0?135mEq/L、カルシウムが0?50mEq/L、マグネシウムが0?40mEq/L、クロルが0?300mEq/L、リンが0?100mEq/L程度となるように添加することができる。
【0025】
なお、この電解質中、カルシウムまたはマグネシウムと、リンとしてリン酸とを酸性以外の輸液中に配合する場合には、結晶を析出する恐れがあるため、別々の収容室に収容するのがよく、酸性でない糖含有液またはアミノ酸含有液の一方にカルシウムまたはマグネシウムを添加したときには、他方にリン酸化合物を添加するようにするのが好ましい。
また、糖含有液及びアミノ酸含有液には、前記電解質の他に、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素などの微量元素を必要に応じて必要量、例えば、鉄を0?70μmol、銅を0?10μmol、亜鉛0?120μmol、マンガン0?40μmol、ヨウ素を0?2μmol含有させることができる。これらの微量元素は、塩化物、硫酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩などの水溶性塩を供給源とすることができる。
このような電解質及び微量元素は、できるだけ製造工程中及び保存中の安定性が高くなるように配合する。」

(1c)「【0027】
次に、区画室15a、15b、15c・・・に収容されるビタミン類について説明する。
ビタミン類としては、前述のように、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ニコチン酸類、パントテン酸類、葉酸、ビオチンなどが挙げられる。
まず、ビタミンAとしては、パルミチン酸レチノールなどが挙げられる。この配合量は1投与量当たり1250?10000IUとするのが好適である。
ビタミンDとしては、コレカルシフェロール、エルゴカルシフェロールなどが挙げられる。この配合量は1投与量当たり10?1000IUとするのが好適である。
ビタミンEとしては、dl-α-トコフェロール、酢酸トコフェロールなどが挙げられる。この配合量は1投与量当たり2?20mgとするのが好適である。
ビタミンKとしては、フィトナジオン、メナテトレノン、メナジオンなどが挙げられる。この配合量は1投与量当たり0.2?10mgとするのが好適である。」

(1d) 「【0033】
なお、本発明の輸液容器には、糖含有液、アミノ酸含有液、ビタミン含有液、或いは脂肪含有液に、安定性を損なわない範囲で一般に輸液に添加されている他の薬剤を含有させることも可能である。このような他の添加剤としては、例えば、L-ヒスチジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の緩衝剤、チオグリセロール、ジチオスレイトール等の着色防止剤、チオグリセロール、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等の酸化防止剤などを配合することができる。」

(1e) 「【0043】
また、区画室15a、15b、15c、15d・・・に収容されたビタミン含有液のpHが、収容室3、5の糖含有液及びアミノ酸含有液のpHと異なっているため、糖含有液及びアミノ酸含有液のpHが安定pH域であるビタミンを、輸液と混合した状態で保存することにより、区画室を少なくすることができる。」

(1f)「【0045】
次に、図1に示す実施形態の変更例を説明する。
この変更例では、収容室3にアミノ酸及び電解質が収容され、収容室5に脂肪が収容されている他は前記実施形態と同じである。本発明では、このような構成の輸液容器であっても、前記と何ら変わることなく、全く同様の効果が得られる。
・・・
【0048】
また、上記では何れも区画室の仕切部を直線的に図示したが、該仕切部を剥離し易くするために、例えば図1(a)に破線で示すように隔離部との接合部分に上下方向に形成された接続部13z、13y、13x・・・を設けてもよい。
さらに、上記では区画室に全てビタミンが収容されているが、例えば一部の区画室にビタミン以外の成分が収容されていても問題はなく、例えば微量元素、グルタミン等の他の成分だけを1又は2以上の区画室に収容しておくことも可能である。
また、前記実施形態の例では、ビタミンをビタミン含有液として区画室に収容する例を主に説明したが、区画室に収容するビタミンが凍結乾燥品の粉末などであっても何ら上記実施形態と異なることなく製造し、使用することができる。
さらに、上記では、輸液容器を高圧蒸気滅菌する場合を説明したが、滅菌方法は何ら限定されるものではなく、例えば他の加熱滅菌を施したり、滅菌後の糖含有液、アミノ酸含有液、ビタミン含有液及び各種のビタミン等をそれぞれ無菌乃至滅菌雰囲気下で充填する無菌充填により行ってもよい。」

(1g)「【0053】
図5は、本発明の一実施形態を示す正面図、図6はその縦断面図である。
この実施形態の複室容器21は、複数の収容室23、24を有する容器本体25と、複数の区画室28を有して収容室24に収容された収容容器30とからなり、ここでは収容室23にはアミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され、収容室24には糖或いは糖及び電解質含有液が収容されている。一方、複数の区画室28には、少なくとも2種以上のビタミンが、少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように、別々に収容されているが、他のビタミンの一部がさらに収容室23、24に収容されていてもよい。
この複室容器21の容器本体25では、複数の収容室23、24間が容器壁31の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる仕切部33により仕切られていて、上下両端を含む周囲が密封シール部35により密封されている。この密封シール部35により密封された容器壁31の内部が収容空間37である。また、下端の密封シール部35には収容空間37内の収容物の排出口38を有していて、ゴム栓等により密封されている。
収容容器30では、壁材39の内壁面同士を剥離不能に熱溶着した強シールからなる区画部41により両側部30a及び区画室28間が区画され、壁材39の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる隔離部43により下端部が収容室24と隔離され、容器本体30の密封シール部35に上端部が配置されて一体に溶着されることにより密封されている。この区画室41は複数個設けられているが、図では3室の例を記載している。また密封シール部35、区画部41及び隔離部43により区画された壁材39の内部がそれぞれ区画室21である。この区画室28は、収容室より小さく、好ましくは収容室24の容積の1/10以下となっている。
【0054】
さらに、収容容器30の隔離部43は、区画室28の壁材39を押圧することにより、剥離して開放できる強度に溶着されている。
また、容器本体25の容器壁31は、容器壁31を介して収容容器30の壁材39を押圧できる程度に可撓性を有し、しかも、収容物を収容して収容空間37が密封された状態における変形可能量が、仕切部33の非連通状態、即ち連通前の状態においては隔離部43の開放可能量より小さく、仕切部33の連通状態、即ち、連通後の状態においては隔離部43の開放可能量より大きくなっている。
ここで、容器本体25の容器壁31の変形可能量とは、収容容器30が収容された収容室24に対応する容器壁31を押圧する若しくは引き離す、または歪めるなどの変形を生じさせた際に容器壁31が変形できる量である。この量は、通常、収容室24または収容空間37の満容量と収容物の収容量との差に比例し、容器壁31の可撓性、収容物の圧縮性、温度等の種々の要因により変動するものであり、収容容器30を収容した収容室24の収容物量が満容量のときには最小となり、空の状態では最大となるものである。
また、収容容器30の隔離部43の開放可能量とは、収容容器30が収容された収容空間37に対応する容器壁31を介して隔離部43の開放操作を行う際、該隔離部43を開放するために必要な容器本体25の容器壁31の変形量である。この開放可能量は、隔離部43を開放する方法に応じて異なり、例えば壁材を破断させる容器では、該破断を生じる程度に収容容器の壁材を変形させるのに必要な容器本体の容器壁の変形量であり、予め形成された連通穴を閉塞する部材を破断させることにより連通させる所謂クリックチップ方式の容器では、該連通穴の閉塞部材を破断するために必要な容器本体の容器壁の変形量である。この実施形態では、容器壁31を介して収容容器30の壁材39を押圧することにより区画室39の内圧を増加させて弱シールからなる隔離部43を剥離させるものであり、該剥離を生じる程度に収容容器30の壁材39を変形させるのに必要な容器本体25の容器壁31の変形量である。
【0055】
このような複室容器21においても、少なくとも2種以上のビタミンが少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように別々に収容されているので前記実施形態と同様の効果が得られる上、さらに、区画室28が収容室24内に設けられているため、区画室28内の収容物が複室容器21の周囲の雰囲気の影響を受けにくく、例えば区画室28内への外気中の酸素等のガスの透過や、区画室28内の収容物の水等揮発しやすい成分の周囲の雰囲気中への放出などを抑えることができ、保存時に区画室28内の収容物の変質を防止し易い。さらに、加熱滅菌処理時には収容容器30の区画室28内の収容物が容器本体25の収容液の温度変化に応じて加熱されため、過剰に加熱処理を受けることがない。
しかも、連通可能な仕切部33により仕切られた収容室24に、容器本体25の容器壁31を介して開放操作可能な隔離部43を備えた収容容器30が配置されていて、容器本体25の容器壁31の変形可能量が、仕切部33の連通前には隔離部43の開放可能量より小さく、かつ、仕切部33の連通後には開放可能量より大きくなっているので、仕切部33を連通した後でなければ隔離部43を開放することができず、複数の収容室23、24と区画室28との開放順序を特定することができる。そのため、仕切部33を連通させない限り隔離部43を開放することができないので、仕切部33を確実に非連通状態に維持しておくだけで、仕切部33と隔離部43の両方の開放を防止することができる。また、隔離部43を開放するために要する力を低く設定しておくことも可能である。
さらに、易熱変質性のビタミンが収容された区画室28を有する収容容器30が、容器本体25の収容空間37内に収容されて、該収容空間37内に収容液が収容された状態で加熱処理されているので、加熱処理時には収容容器30の区画室28内の収容物が容器本体25の収容液の温度変化に応じて加熱される。そのため、収容室24の収容物の昇温とともに区画室28の収容物が昇温し、区画室28の収容物が収容室24の収容物より早く加熱処理温度に到達することがなく、収容室24の収容物以上に加熱処理を受けることがない。その結果、各区画室28が収容室23、24に比べて小さくても、各区画室28の収容物の過剰な加熱処理を確実に防止することができる。」

(1h)「【0056】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
実施例1
図1に示すような輸液容器を用い、ビタミンの安定性を確認した。
糖含有液
まず、下記成分を注射用水に溶解して、クエン酸でpH4.5に調整した600mlの糖及び電解質含有液を得た。この液を排出口9から収容室5に収容した。

成 分 配合量

ブドウ糖 79.80g
果糖 40.2g
キシリトール 19.80g
塩化ナトリウム 1.06g
塩化カリウム 1.27g
酢酸ナトリウム 1.85g
グルコン酸カルシウム 0.89g
硫酸マグネシウム 0.49g
硫酸亜鉛 2.28mg
リン酸二水素カリウム 0.68g

【0057】
アミノ酸含有液
次に、下記成分を注射用水に溶解して、pH6.5に調整した250mlのアミノ酸含有液を得た。この液を容器本体1の上端8の開口部分から収容室3に収容した。

成 分 配合量
L-ロイシン 3.50g
L-イソロイシン 2.00g
L-パリン 2.00g
酢酸L-リジン 3.70g
L-トレオニン 1.43g
L-トリプトファン 0.50g
L-メチオニン 0.98g
L-フェニルアラニン 1.75g
L-システイン 0.25g
L-チロシン 0.13g
L-アルギニン 2.63g
L-ヒスチジン 1.25g
L-アラニン 2.00g
L-プロリン 1.25g
L-セリン 0.75g
アミノ酢酸 1.48g
L-アスパラギン酸 0.25g
L-グルタミン酸 0.25g

【0058】
ビタミン含有液
下表に示すようなビタミンをそれぞれ区画室15a?15fに収容した。各区画室のビタミン含有液は、区画室eに5ml、区画室a、b、dに2ml、区画室c、fに1mlとなるように調整し、水溶液または分散液として分注した。
なお、脂溶性ビタミンは予め可溶化剤としてポリソルベート80を用いて可溶化処理した。脂溶性ビタミンを収容した区画室内の可溶化剤は80mgであった。また、区画室に収容したビタミンはクエン酸若しくは塩酸または苛性ソーダを用いてpHを調整して収容した。区画室の内、最も酸の使用量の多いビタミンB1を収容した区画室15aでは使用した塩酸の量は医療用に使用される希塩酸0.1ccであった。

成 分 収容量 収容位置 pH
ビタミンA 3300IU 区画室15e 6
ビタミンD 5μg 区画室15e 6
ビタミンE 10mg 区画室15e 6
ビタミンK 5mg 区画室15e 6
ビタミンB1 3.9mg 区画室15a 3.5
ビタミンB6 4.9mg 区画室15a 3.5
ビタミンB2 4.6mg 区画室15b 6.3
ビタミンB12 5μg 区画室15d 5.2
ビタミンC 100mg 区画室15c 7.2
ニコチン酸アミド 40mg 区画室15b 6.3
パンテノール 14mg 区画室15d 5.2
ビオチン 0.06mg 区画室15b 6.3
葉酸 0.4mg 区画室15f 8
【0059】輸液容器
上記のような糖及び電解質含有液、アミノ酸含有液、及びビタミンをそれぞれ収容室3、5及び区画室15a、15b、15cに収容し、それぞれ窒素ガス置換して密封した後、115℃で20分間高圧蒸気滅菌を施し、輸液容器を作成した。
安定性の確認
前記輸液容器を高圧蒸気滅菌して常温まで冷却した後、収容室3、5及び区画室15a、15b、15cから内容液を抜き取り、各ビタミンの残存率を液体クロマトグラフ法により測定した。次に、該輸液容器を、窒素充填された常温の遮光室に収容して3月保存し、内容物中の各ビタミン残存率を同様に測定した。結果を表2に示す。」

(1i)「【図5】
本発明のさらに別の実施形態の輸液容器を示す正面図である。
【図6】
図5の輸液容器の縦断面図である。 」

(1j)「



」(【図5】【図6】)

(1k)「

」(【図1】)


(2)甲第2号証:特開2002-248158号公報
本件特許出願の出願日(平成14年1月16日)前の平成13年9月13日の出願であって、平成14年9月3日に公開された甲第2号証には、次の記載がある。

甲第2号証は、甲第1号証の出願に係る特許公開公報であって、甲第1号証で摘記した全ての内容と同じ内容が公開されていることが示されている。

(3)甲第3号証:「医療薬 日本医薬品集 2001(第24版)」 財団法人日本医薬情報センター
本件特許出願の出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第3号証には、次の記載がある。
(3a)「混合ビタミン317
高カロリー輸液用総合ビタミン剤」の項目の「組成」の項目に、「注射用オーツカMV」として、「2号〔1アンプル(4mL)中・・・フィトナジオン2mg〕水性液」との記載がある。(730?731頁)

(3b)「アミノ酸輸液 325
高カロリー輸液用総合アミノ酸製剤」の項目の「組成」の項目に、「アミゼットB」として、「リンゴ酸システイン155mg(L-システインとして100mg)」との記載がある。(728頁)

(4)甲第4号証:日本薬局方(第14改正)(抄)通則、製剤総則、一般試験法「39.注射剤用ガラス容器試験法」及び「55.プラスチック製薬品容器試験法」
本件特許出願の出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第4号証には、次の記載がある。
(4a)「製剤総則」の「17.注射剤」の項目に「(10)本剤の容器は,注射剤用ガラス容器試験法の規定に適合する無色のものを使用する.ただし,別に規定する場合は,注射剤用ガラス容器試験法の規定に適合する着色容器又はプラスチック製医薬品容器試験法の規定に適合するプラスチック製水性注射剤容器を使用することができる.」との記載がある。そして、「39.注射剤用ガラス容器試験法」との項目の記載と、「55.プラスチック製医薬品容器試験法」の項目中に、「プラスチック製水性注射剤容器」として、「1.ポリエチレン製又はポリプロピレン製水性注射剤容器」「2.ポリ塩化ビニル製水性注射剤容器」「3.その他の水性注射剤容器」との項目記載がある。

(5)甲第5号証:特開昭59-16817号公報
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の記載がある。
(5a)「本発明は新規なアミノ酸輸液に関する。」(2頁左上欄3行)

(5b)「又、上記アミノ酸はその一部又は全部をN-アシル誘導体、例えば、N-アセチル-L-トリプトフアン、N-アセチル-L-システイン、N-アセチル-L-プロリン等の形態で用いてもよく、之等は得られるアミノ酸輸液に還元糖を配合する場合等に見られるメイラード反応による褐変現象を有利に抑制できる。」(3頁右下欄9?15行)

(5c)アミノ酸輸液の代表例として「製造例1」「・・・L-システイン 1.40g/l 0.0116モル/l」をアミノ酸成分の一つとして含む例が示され、「安定化剤として亜硫酸水素ナトリウム0.3gを加え、」アミノ酸輸液を得たことが示されている。(5頁左上欄2行?右上欄9行の製造例1)

(6)甲第6号証:特開平9-87177号公報
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の記載がある。
(6a)「【0013】実施例2
表2に示される組成からなるマグネシウムイオン含有輸液」として、「アミノ酸」として、「N-アセチル-L-システイン」が「1.100g」、「電解質」として、「亜硫酸水素ナトリウム」が「0.05g」それぞれ含まれていることが示されている。(4頁【表2】)

(7)甲第7号証:「小児外科とアミノ酸輸液」岡田正,井村賢治 平成2年8月1日 医薬ジャーナル 26巻8号 144?145頁
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の記載がある。

(7a)「また,従来の結晶アミノ酸溶液の範疇に留まらず,溶解度や安定性の点から輸液組成に加えたり増量することが困難であったアミノ酸に関しては,今後アミノ酸誘導体やペプチド体を利用することも可能であり,欧米の製剤ではN-acetyl-tyrosineやN-acetylcysteineが既に使用されている。」(145頁右欄下から7行?最下行)

(8)甲第8号証:「栄養輸液用複室バッグキットの開発とその課題」ファームテックジャパン 平成12年1月1日 16巻1号 105?113頁
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、次の記載がある。

(8a)「アミノ酸は酸素による酸化分解,着色あるいは沈殿を生じるので,安定化剤として亜硫酸水素ナトリウムを配合させてガラス瓶に収納されてきた。プラスチック製容器はEVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)等特殊な素材は別として,PEやPPはガス透過性が非常に高い(表4)。プラスチック製容器では,ガラス瓶のように酸素を取り除いて充填を行う方式が採用されても,製造直後より酸素が内溶液に透過してくるので,安定性を担保することができない。キット製品開発に先立ってアミノ酸輸液のプラスチック容器品が製造販売されており,今回のキット品でも同様の方式,すなわち,容器外部に脱酸素剤を入れ,バッグと共にガス透過性の低いバリアー包材で包装する方式を採用した。」(110頁左欄下から8行?右欄5行)

(9-1)甲第9号証の1:特許第2088101号無効審判事件(平成9年審判第21438号)に係る平成12年8月8日付け上申書
本件特許出願の出願前公知の甲第9号証の1には、次の記載がある。
(9-1a)「○1(審決注:原文は、丸数字)総合アミノ酸製剤「モリプロンF」の製造・販売
(承認番号:(56AM)903、ヘキスト・マリオン・ルセル(株)製)
当該アミノ酸製剤は、添付する能書(甲第26号証)からもわかるようにシステインを含む17種類のアミノ酸と亜硫酸水素ナトリウムを含むアミノ酸輸液が硫化水素透過性容器に充填されており、且つ該輸液充填容器が脱酸素剤と共に気密性容器に封入されてなる、二重包装型アミノ酸輸液製剤である。
なお、添付の能書(甲第26号証)は1998年に頒布されたものであるが、1990年の医療薬「日本医薬品集」(甲第27号証)から明らかなように、製品そのものは本願出願以前より製造販売されていた。」(2頁4?12行)

(9-1b)「(ii)外袋から脱酸素剤を除くと、40℃、75%RH条件下の保存で、外袋内に硫化水素による異臭が発生すること、」(2頁17?18行)

(9-1c)「なお、上記実験で確認された、亜硫酸水素ナトリウムの存在下でもシステインは分解して硫化水素を発生するという現象については、Clinical Nutrition (19996)15:34-35(甲第29号証)にも報告されている。」(2頁24?26行)

(9-2)甲第9号証の2:総合アミノ酸製剤「モリプロンF」添付文書
本件特許出願の出願前公知の甲第9号証の2には、次の記載がある。
(9-2a)「〔使用上の注意〕1.禁忌(次の患者には投与しないこと)
(1)肝性昏睡又は肝性昏睡のおそれのある患者[アミノ酸インバランスを助長し、肝性昏睡を悪化又は誘発させるおそれがある。]・・・」

(9-2b)「〔取扱い上の注意〕
・・・
(5)製品の安定性を保持するため脱酸素剤を封入しているので、使用時まで包装は開封しないこと。」

(9-3)甲第9号証の3:「医療薬 日本医薬品集 1990」財団法人日本医薬情報センター
本件特許出願の出願前公知の甲第9号証の3には、次の記載がある。
(9-3a)「 総合アミノ酸製剤 325
モリプロン-F
・・・
○6(審決注:原文は、丸数字)規制等:モリプロンF
・・・」

(9-4)甲第9号証の4:実験報告書 加賀順二
本件特許出願の出願前公知の甲第9号証の4には、次の記載がある。
(9-4a)「(1)総合アミノ酸製剤「モリプロンF」の外袋内の硫化水素の確認」(1頁の2.実験の項)

(9-4b)「(2)総合アミノ酸製剤「モリプロンF」のアミノ酸輸液(充填容器)からの経時的な硫化水素生成の有無」(2頁の2.実験の項)

(9-4c)「(2)において40℃の保存条件で経時的な硫化水素の生成を調べたところ、アミノ酸輸液から内袋(充填容器)を通して外部(外袋内)に硫化水素が発生していることが確認された。」(3頁の3.考察の項)

(9-5)甲第9号証の5:“Hydrogen sulfide in parenteral amino-acid solutions”,Clinical Nutrition,Vol.15,(1996)pp.34-35
訳文で示す。
本件特許出願の出願前公知の甲第9号証の5には、次の記載がある。
(9-5a)「短報
非経口アミノ酸溶液中の硫化水素

概要---我々は以前、小児科用のアミノ酸溶液の中に、製造過程で明らかにシステインから形成される、かなりの濃度の硫化水素(H_(2)S)を報告した。製造業者はこのような溶液中で毒性を持つ可能性のあるH_(2)Sの含有量を減らすことを目指すと我々に約束したので、我々の最初の報告から2年後にさらに低い量が達成されたのかどうかを判定した。
・・・」(34頁、標題、要約)

(9-5b)「結果
硫化水素濃度は調べたアミノ酸溶液によって異なっていた(表1)。H_(2)Sはシステインを含んでいない2つの薬剤では検出できなかった。システインを含んだ溶液では、H_(2)Sの濃度は製品中のシステイン濃度とは密接には関係していなかった。」(34頁右欄1?6行)

甲第9号証の6:特開昭52-114487号公報
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第9号証の6には、次の記載がある。
(9-6a)「2.特許請求の範囲
1 亜硫酸カルシウムおよび活性炭を主成分とする実質的に水分が存在する雰囲気中の酸素を吸収する酸素吸収剤。
2 水を含有する特許請求の範囲第1項記載の酸素吸収剤。
3 亜二・チオン酸ナトリウムを含有する特許請求の範囲第1項又は第2項記載の酸素吸収剤。
4 亜硫酸カルシウムがO_(2)を吸収して酸化される反応の酸化促進剤として、次のI)?III)に示した物質から選ばれる1種または2種以上の物質を含有する特許請求第1項乃至第3項のいずれかに記載の酸素吸収剤。
I)バナジウムの酸化物とその塩
II)酸化鉄
III)マンガンの酸化物とその塩
5 亜硫酸カルシウムおよび活性炭を主成分とする酸素吸収剤を生鮮食料品の鮮度保持剤として使用する生鮮食料品の鮮度保持法。」(1頁左下欄4行?右下欄3行)

(9-6b)「生鮮食料品、例えば果実、果菜類および野菜類はあるいは魚介類は通常かなり十分の水を含有しているから、酸素吸収剤自体は必ずしも水分を含有していなくても使用開始時により徐々に生鮮食料品中の水分を吸収することにより酸素吸収効果は発揮する。
酸素吸収剤は各成分を混合し、適宜練り合せ、ペレート状、粒状、粉末状等種々の形状にして布や紙あるいは微小は孔を有するフィルム等に封入し、更にこれらの包装物をできるだけ通気性のないフィルムの袋等に密封し、使用時に通気性のない袋から取り出し、目的とする生鮮食料品の包装ケースに収納させればよい。
叙上の如く、本発明の酸素吸収剤はO_(2)吸収作用に優れ、またその効果が長時間にわたって持続し、SO_(2),H_(2)Sの発生を制御することもでき、従つてこれを生鮮食料品の鮮度保持剤として使用するときは0_(2)吸収作用およびその持続性の故に生鮮食料品の鮮度を長期間にわたり保持することができる。」(4頁右上欄7行?左下欄6行)

(10)甲第10号証:「Double Bag System forTPN & PPN」のパンフレット 株式会社大塚製薬工場
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、次の記載がある。
(10a)「取扱い上の注意」「(1)製品の安定性を保持するため、脱酸素剤を封入しているので、ソフトバッグを包んでいる外袋は使用時まで開封しないこと。」(3頁右欄「取扱い上の注意」の欄1?2行)

(10b)「1.組成」「上室液(アミノ酸液)」「アミノトリパ1号」「アミノトリパ2号」「添加物として亜硫酸水素ナトリウムを0.2g/L含有(1号、2号)。」(2頁左欄「上室液(アミノ酸液)」)

(11)甲第11号証:「医療用医薬品添付文書集」(抄)味の素ファルマ株式会社
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第11号証には、次の記載がある。
(11a)「取扱い上の注意」「2.薬液の着色防止のため、外袋は使用時めで開封しないこと。(製剤の安定性を保持するために脱酸素剤を封入しています。)」(43頁左欄5?7行【取扱い上の注意】の項目)

(11b)「ピーエヌツイン」「添加物」「亜硫酸水素ナトリウム」(40頁【組成・性状】1.組成 「(2)II層(アミノ酸)の添加物の欄)

(12)甲第12号証:「ユニカリックL輸液」及び「ユニカリックN輸液」の添付文書 田辺三菱製薬株式会社,テルモ株式会社
本件特許出願の出願日後の平成21年10月改訂された刊行物である甲第12号証には、次の記載がある(なお、「販売開始1996年6月」との記載がある。)。
(12a)「「取扱い上の注意」「●空気遮断性の高い包装内に脱酸素剤を入れて安定性を保持しているので,包装が破損している場合には使用しないこと.」(4頁左欄6?8行【取扱い上の注意】〈使用前の注意〉の項目)

(12b)「添加物」「亜硫酸水素ナトリウム(安定剤)」「L-システイン塩酸塩水和物(安定剤)」「希塩酸(pH調節剤)」(2頁左欄【組成・性状】〈成分・分量〉の欄)

(13)甲第13号証:「ワンバッグ製剤の開発とその評価」テルモ株式会社 高井 誠 PHARM TECH JAPAN 16巻4号
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第13号証には、次の記載がある。
(13a)「3.ユニカリックL、Nの製剤設計」「4○(審決注:原文は丸数字)脱酸素剤と酸素バリアー性包材の組み合わせによる保存期間中の安定性の確保」「4○(審決注:原文は丸数字)メイラード反応は,温度と共に酸素によっても進行する。またトリプトファンは酸素によって分解し,黄色物質(キヌレイン)を生成する。したがって,保存中の着色を防止するため,バッグを脱酸素剤と共に酸素バリアー性包材で包装した。」(129頁左欄17行、右欄9?10行、130頁右欄8?12行)

(13b)「3.ユニカリックL、Nの製剤設計」「2○(審決注:原文は丸数字)安定化剤として,亜硫酸塩,塩酸システインを使用」「2○(審決注:原文は丸数字)安定化剤として抗酸化作用のある亜硫酸水素ナトリウムと塩酸システインを選択し,その量を設定した。」(129頁右欄6,15?16行)

2 乙号証の記載及び認定事実
(1)乙第1号証:発明協会のホームページにおける平成27年度四国地方発明表彰の掲載ページ(http://koueki.jiii.or.jp/hyosho/chihatsu/H27/jusyo_sikoku/detail/monbukagaku.html)
公益社団法人発明協会
乙第1号証には、以下の記載がある。
(乙1a)「平成27年度四国地方発明表彰
文部科学大臣発明奨励賞
含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤(特許第4171216号)」
として、「従来、輸液中には微量金属元素が含まれていないことより、長期投与では微量金属元素欠乏症がみられたが、含硫アミノ酸との化学反応により品質が劣化するため、細菌汚染の危険性があっても投与直前に輸液中に混合せざるを得なかった。本発明により、微量金属元素を安定に保持し、投与時無菌的に混合可能な高カロリー輸液製剤を提供することが可能となった。」との説明及び、「製品写真及びイメージ図」として「A:含硫アミノ酸および亜硫酸塩を含有する溶液」と「B:鉄、マンガンおよび銅からなる微量元素溶液」が示されている。

(2)乙第2号証:田辺製薬医療用医薬品添付文書集 田辺製薬株式会社
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である乙第2号証には、次の記載がある。
(乙2a)「総合アミノ酸製剤 特定医薬品 アミゼットB」組成・性状〈成分・分量〉として「リンゴ酸システイン・・・(L-システインとして・・・)」との記載があり、「本剤は・・・と・・・の共同開発により,アミゼット10注射液をソフトバッグ化した製品で,従来リンゴ酸塩と亜硫酸塩で配合されていたL-リジンを全てリンゴ酸塩として配合した製剤である。」

(3)乙第3号証:特開平4-210629号公報
本件特許出願の出願日前頒布された刊行物である乙第3号証には、次の記載がある。
(乙3a)「特許請求の範囲
システイン、シスチン及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種を含有した亜硫酸イオンフリーのアミノ酸輸液が硫化水素透過性容器に充填されており、かつ該輸液充填容器が脱酸素剤と共に気密性容器に封入されていることを特徴とする亜硫酸イオンフリーの二重包装型アミノ酸輸液製剤。」(1頁左下欄5?12行)

(乙3b)「(従来の技術)
経口的に栄養源を摂取することが不可能か又は困難な患者に投与されるアミノ酸輸液は、栄養効果を発揮するために、各種のアミノ酸が配合されている。とりわけ新生児や未熟児に投与される輸液は、これらの者にとって必須とされているシスティンやシスチンが配合されている場合が多く、このようなシステインやシスチン等の含硫アミノ酸を含有する輸液は、加熱滅菌時や保存中に、硫化水素を主成分とする異臭が発生するので、従来から輸液中に安定化剤として亜硫酸ナトリウムや重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩や重亜硫酸塩が添加されてきていた。」(1頁左下欄最下行?右下欄12行)

(乙3c)「実施例1
〈処 方〉
L-イソロイシン 6.0 g
L-ロイシン 11.3 g
L-リジン塩酸塩 9.8 g
L-メチオニン 4.3 g
L-フェニルアラニン 9.7 g
L-スレオニン 5.0 g
L-トリプトファン 1・9 g
L-バリン 7.0 g
L-セリン 4.7 g
L-チロシン 0.6 g
L-アルギニン塩酸塩 15.0 g
L-ヒスチジン塩酸塩 7.0 g
L-アラニン 8.2 g
L-アスパラギン酸 2.0 g
L-グルタミン酸 1.0 g
アミノ酢酸 15.7 g
L-プロリン 10.6 g
L-シスチン 0.2 g
キシリト-ル 50.0 g」(4頁右下欄1行?5頁左上欄1行)

(乙3d)「実施例2
〈処 方〉
L-イソロイシン 16 g
L-ロイシン 30 g
L-リジン塩酸塩 26 g
L-メチオニン 11 g
L-フェニルアラニン 26 g
L-スレオニン 13 g
L-トリプトファン 5 g
L-バリン 18 g
L-セリン 12 g
L-チロシン 1.5 g
L-アルギニン塩酸塩 40 g
L-ヒスチジン塩酸塩 19 g
L-アラニン 21 g
L-アスパラギン酸 5 g
L-グルタミン酸 3 g
アミノ酢酸 41 g
L-プロリン 28 g
L-システィン・リンゴ酸塩 0.6 g
キシリトール 500 g」(5頁左上欄12行?右上欄12行)

(乙3e)「実施例3
実施例3
〈処 方〉
L-イソロイシン 23 g
L-ロイシン 37 g
L-リジン塩酸塩 27 g
L-メチオニン 13 g
L-フェニルアラニン 21 g
L-スレオニン 13 g
L-トリプトファン 4.4 g
L-バリン 25 g
L-セリン 12 g
L-チロシン 1.4 g
L-アルギニン塩酸塩 19 g
L-アルギニン 15 g
L-ヒスチジン 13 g
L-アラニン 24 g
L-アスパラギン酸 1.4 g
L-グルタミン酸 3 g
アミノ酢酸 15 g
L-プロリン 19 g
L-アセチルシスティン 7 g
キシリトール 750 g
塩化カリウム 16 g
塩化マグネシウム(6H_(2)O) 3 g
リン酸-水素カリウム 3 g
乳酸ナトリウム 28 g
乳酸 13 g」(5頁左下欄2行?右上欄8行)

(4)乙第4号証:静脈経腸栄養年鑑2000 製剤・器具一覧 第2巻 株式会社ジェフコーポレーション
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である乙第4号証には、次の記載がある。
(乙4a)アミノ酸液として、34種のうち、テルフィス(テルモ)、モリプロンF(味の素ファルマ)、プレアミン-P(扶桑薬品工業)、アミパレン(大塚製薬)、アミゼットB,XB(テルモ/田辺製薬)、アミニック(味の素ファルマ)、アミノレバン(大塚製薬)、キドミン(大塚製薬)、アミノフリード(大塚製薬)、マックアミン(日本製薬/武田薬品工業)、ネッスアミンE注(小林製薬工業)の12種を除いてL-システインが含まれていないことが示されている。

(5)乙第5号証:JIS K0116 発光分光分析通則(平成7年3月1日改正)、第2刷 財団法人日本規格協会
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である乙第5号証には、次の記載がある。
(乙5a)「3.用語の定義・・・
(1)発光分光分析 発光分光分析装置を用い,試料中含まれる分析対象元素をICP,スパーク放電,アーク放電などによって気化励起し,得られる原子スペクトル線の波長における発光強度を測定することによって,定量分析を,また,波長を同定することによって定性分析を行う方法(atomic emission spectrometry)。」(1頁13?17行)

(6)乙第6号証:衛生化学 第41巻第2号 中川順一,土屋悦輝 1995年
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である乙第6号証には、次の記載がある。
(乙6a)「ICP発光分析法は,多元素同時分析が迅速に行え,測定のダイナミックレンジが広いという特徴がある.また、高感度分析が可能であり,分析装置としての完成度が高い.さらに測定に際しては熟練を必要としないため応用範囲は極めて広く地球科学,環境,食品,生化学,工業材料等あらゆる分野において新しい分析法として広く使われている.」(116頁左欄下から6行?右欄1行)

第7 無効理由についての当審の判断
当審は、以下に示すとおり、無効理由は理由がないものと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 無効理由(特許法第29条の2)について
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明の認定
摘記(1b)の「【0024】
また、収室室3、5には糖含有液またはアミノ酸含有液とともに、各種の電解質を含有させることができる。このような電解質としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、塩素、リン、亜鉛等が挙げられ、これらを適宜選択して添加することができる。なお、各電解質は、酸性の糖含有液及びアミノ酸含有液のいずれに添加することも可能であり、両者に添加してもよい。
電解質のナトリウム供給源としては、・・・が挙げられる。
このような電解質は、生体内の必要量を過剰とならないように加えることが好ましく、糖含有液及びアミノ酸含有液を混合した後、ナトリウムが0?180mEq/L、カリウムが0?135mEq/L、カルシウムが0?50mEq/L、マグネシウムが0?40mEq/L、クロルが0?300mEq/L、リンが0?100mEq/L程度となるように添加することができる。
【0025】
なお、この電解質中、カルシウムまたはマグネシウムと、リンとしてリン酸とを酸性以外の輸液中に配合する場合には、結晶を析出する恐れがあるため、別々の収容室に収容するのがよく、酸性でない糖含有液またはアミノ酸含有液の一方にカルシウムまたはマグネシウムを添加したときには、他方にリン酸化合物を添加するようにするのが好ましい。
また、糖含有液及びアミノ酸含有液には、前記電解質の他に、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素などの微量元素を必要に応じて必要量、例えば、鉄を0?70μmol、銅を0?10μmol、亜鉛0?120μmol、マンガン0?40μmol、ヨウ素を0?2μmol含有させることができる。これらの微量元素は、塩化物、硫酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩などの水溶性塩を供給源とすることができる。
このような電解質及び微量元素は、できるだけ製造工程中及び保存中の安定性が高くなるように配合する。」(下線は、当審にて追加。以下、同様。)との記載及び、摘記(1g)の「【0053】この実施形態の複室容器21は、複数の収容室23、24を有する容器本体25と、複数の区画室28を有して収容室24に収容された収容容器30とからなり、ここでは収容室23にはアミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され、収容室24には糖或いは糖及び電解質含有液が収容されている。一方、複数の区画室28には、少なくとも2種以上のビタミンが、少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように、別々に収容されているが、他のビタミンの一部がさらに収容室23、24に収容されていてもよい。この複室容器21の容器本体25では、複数の収容室23、24間が容器壁31の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる仕切部33により仕切られていて、上下両端を含む周囲が密封シール部35により密封されている。この密封シール部35により密封された容器壁31の内部が収容空間37である。また、下端の密封シール部35には収容空間37内の収容物の排出口38を有していて、ゴム栓等により密封されている。収容容器30では、壁材39の内壁面同士を剥離不能に熱溶着した強シールからなる区画部41により両側部30a及び区画室28間が区画され、壁材39の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる隔離部43により下端部が収容室24と隔離され、容器本体30の密封シール部35に上端部が配置されて一体に溶着されることにより密封されている。この区画室41は複数個設けられているが、図では3室の例を記載している。また密封シール部35、区画部41及び隔離部43により区画された壁材39の内部がそれぞれ区画室21である。この区画室28は、収容室より小さく、好ましくは収容室24の容積の1/10以下となっている。」との記載及び摘記(1i),(1j)の図5,6から、電解質及び微量元素に関する【0025】の記載に関しては、図1の説明箇所における記載ではあるものの、明細書全体の記載からみて、場所を特定しない形で、糖含有液及びアミノ酸含有液には、前記電解質の他に、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素などの微量元素を必要に応じて必要量添加できるという内容の限度において、発明の態様が記載されているに等しいといえることから、甲第1号証には、
輸液製剤に関して、複室容器が、複数の収容室を有する容器本体と、複数の区画室を有して収容室に収容された収容容器とからなり、収容室23にはアミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され、別の収容室24には糖或いは糖及び電解質含有液が収容され、別の収容室24に収容された複数の区画室28には、少なくとも2種以上のビタミンが、少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように、別々に収容され、他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよく該複室容器の容器本体では、複数の収容室間が容器壁の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる仕切部により仕切られていて、上下両端を含む周囲が密封シール部により密封されているものが、図面が示されるとともに、記載されているといえ、上記糖含有液及びアミノ酸含有液には、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素などの微量元素が含有されているものが記載されているといえる。

したがって、甲第1号証に記載された輸液製剤に係る発明(以下「甲1輸液製剤発明」という。)として以下のものが認定できる。

「複室容器が、複数の収容室を有する容器本体と、複数の区画室を有して収容室に収容された収容容器とからなり、収容室にはアミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され、別の収容室には糖或いは糖及び電解質含有液が収容され、該別の収容室に収容された複数の区画室には、少なくとも2種以上のビタミンが、少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように、別々に収容され、他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよく該複室容器の容器本体では、複数の収容室間が容器壁の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる仕切部により仕切られていて、上下両端を含む周囲が密封シール部により密封されており、上記糖含有液及びアミノ酸含有液には、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素などの微量元素が含有されている輸液製剤」

また、甲第1号証には、摘記(1a)に記載されるように、「アミノ酸、糖、脂肪、及び/または電解質を含有する輸液とこの輸液に配合するための複数のビタミンとの混合操作が容易であり、該複数のビタミンを製造時及び保存時に安定に維持することができるとともに生体に必須の薬剤以外の不要成分をできるだけ少なくすることができ、製造が容易な収容物入り医療用容器及びそれに適した複室容器を提供することを目的とする」との記載も考慮すると、上記甲1輸液製剤発明を用いて、輸液製剤の保存時に安定の維持を行っているといえることから、甲第1号証に記載された輸液製剤の保存安定化方法に係る発明(以下「甲1輸液製剤の保存安定化方法発明」という。)として以下のものが認定できる。

「複室容器が、複数の収容室を有する容器本体と、複数の区画室を有して収容室に収容された収容容器とからなり、収容室にはアミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され、別の収容室には糖或いは糖及び電解質含有液が収容され、該別の収容室に収容された複数の区画室には、少なくとも2種以上のビタミンが、少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように、別々に収容され、他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよく該複室容器の容器本体では、複数の収容室間が容器壁の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる仕切部により仕切られていて、上下両端を含む周囲が密封シール部により密封されており、上記糖含有液及びアミノ酸含有液には、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素などの微量元素が含有されている輸液製剤の保存安定化方法」

イ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、平成31年4月22日付け上申書13頁6?12行,17頁下から11?5行において、【図2】?【図6】までに説明されている「輸液容器」は、いずれも【図1】の「輸液容器」についての説明を当然の前提としており、【図1】の「区画室15」に収容することができる「微量金属含有液」を【図5】の「区画室28」に収容することができないような事情はなく、【0055】において「微量金属含有液」や「酸化防止剤」について言及がないのは、繰り返しをさけただけであり、酸化防止剤に関する【0033】の記載、微量元素に関する【0048】の記載、収容容器30に関する【0053】の記載を加味した発明の認定をすべき旨主張しているので以下検討する。

(イ)確かに、【0025】の微量金属に関する記載は、【図1】に関する説明の場所に記載されているものの、微量元素の種類や含有濃度範囲までを電解質と同様に規定した内容で記載されている。そして、【0025】の記載は、【0019】におけるアミノ酸や糖含有液に電解質を含有させる態様の記載を受けた記載であり、その内容からみて、場所を特定しない形で、何らかの形で糖含有液及びアミノ酸含有液には、前記電解質の他に、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素などの微量元素を必要に応じて必要量添加できるという記載がされているのであるから、その限度においては、他の実施態様にも関連して記載されているに等しいといえる。

(ウ)一方、【0033】の記載は、【図1】の実施態様の記載であるとともに、「なお、本発明の輸液容器には、糖含有液、アミノ酸含有液、ビタミン含有液、或いは脂肪含有液に、安定性を損なわない範囲で一般に輸液に添加されている他の薬剤を含有させることも可能である。このような他の添加剤としては、例えば、L-ヒスチジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の緩衝剤、チオグリセロール、ジチオスレイトール等の着色防止剤、チオグリセロール、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等の酸化防止剤などを配合することができる。」と記載され、「糖含有液、アミノ酸含有液、ビタミン含有液、或いは脂肪含有液に」と添加される液も特定せず、安定性を損なわない範囲で一般に輸液に添加されている他の薬剤を含有させることも可能であるものの例が羅列され、それらのさらなる具体例の一つにチオグリセロールとともに亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムが挙げられていただけであって、他の実施態様である【図5】【図6】の実施態様の場合に亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムという特定の物質を、特定のアセチルシステインを含有するアミノ酸輸液に含有させることが記載されているに等しいということはできない。

(エ)【図1】の実施形態における区画室「15a、15b、15c、15d・・・」は、複数の収容室3,5いずれにも収納されていない点で本件訂正特許発明1の収容容器と相違した構造のもので、両者は相当するものとはいえない。
また、上記図1の区画室は、各ビタミンを相互に分離して最適なpHで保存するための構成であるから、微量金属元素を、含硫アミノ酸を含有する溶液を収容する室とは別の室にさらに収容容器を設けて保存するための構成として記載されているわけではない。
そして、本件訂正特許発明1の収容容器に相当しない構造及び目的の異なる実施形態における記載として、【0048】に「また、上記では何れも区画室の仕切部を直線的に図示したが、該仕切部を剥離し易くするために、例えば図1(a)に破線で示すように隔離部との接合部分に上下方向に形成された接続部13z、13y、13x・・・を設けてもよい。
さらに、上記では区画室に全てビタミンが収容されているが、例えば一部の区画室にビタミン以外の成分が収容されていても問題はなく、例えば微量元素、グルタミン等の他の成分だけを1又は2以上の区画室に収容しておくことも可能である。」との、ビタミン以外の、微量元素、グルタミン等の他の成分の区画室への収容の可能性に言及した記載がある。
しかしながら、上記記載は、あくまでも、各ビタミンを相互に異なる最適なpHで収容することを確保した前提において、残った空間を収容室3,5と同様に、他の成分の収容場所に利用しても良いことに言及しているにすぎず、ビタミンが区画室だけでなく収容室3,5にも含まれていて良いのと同様に、いずれかの場所に微量元素を限定して収容することを意味するものではない。
また、図5、6の輸液容器の区画室に微量元素を収容する態様を考えた場合、アミノ酸溶液が微量金族元素溶液と糖溶液室を介して隔離されることになり、甲第1号証に記載された発明に共に含まれる、微量金属元素がアミノ酸溶液に含まれる場合や、微量金属元素がアミノ酸溶液の収容される室に隣接する糖溶液室に含まれる場合と比較して、微量金属元素溶液が不安定になることを防ぐことができるという新たな技術的事項が導入(新たな技術的意義の追加が)されることとなるが、この様な新たな技術的事項が導入(新たな技術的意義の追加が)されるような発明までを認定することはできない。
したがって、上記記載を前提に、「他の成分」のうちから微量成分を選択した上で、該微量成分の収容場所を区画室に限定し、さらに【図5】【図6】という異なる構造を有する態様に基づく発明の記載と組み合わせて、新たな技術思想として、一つのまとまりをもった発明を認定することは、上述のとおり、新たな技術的事項を導入(新たな技術的意義の追加)することによって引用発明を認定することになるのであるから、甲第1号証の記載から、この様な発明を認定することはできない。

(オ)さらに、【0053】の「・・・収容容器30では、壁材39の内壁面同士を剥離不能に熱溶着した強シールからなる区画部41により両側部30a及び区画室28間が区画され、壁材39の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる隔離部43により下端部が収容室24と隔離され、容器本体30の密封シール部35に上端部が配置されて一体に溶着されることにより密封されている。・・・」との「熱溶着」との記載から、区画室28を形成している収容容器(容器本体)30の材質の記載が全くないにもかかわらず、収容容器30の材質が熱可塑性樹脂であると断定することはできず、記載されているに等しい事項であるとはできない。

(カ)以上のとおり、請求人の上記主張はいずれも採用することはできない。

(2-1)本件訂正特許発明1と甲1輸液製剤発明との対比
本件訂正特許発明1と甲1輸液製剤発明とを対比すると、甲1輸液製剤発明の「複数の収容室」「容器本体」「収容室」「別の収容室」「複数の収容室間が容器壁の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる仕切部」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「複数の室」「輸液容器」「その一室」「他の室」「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段」に相当している。
また、甲1輸液製剤発明の「収容室にはアミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され」ることは、本件訂正特許発明1の「その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され」「前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であ」ることと、その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填される」限りにおいて共通している。
さらに、甲1輸液製剤発明の「別の収容室に収容された」「複数の区画室を有して」「収容された収容容器」は、本件訂正特許発明1の「微量金属元素収容容器」と、他の室に収容された「収容容器」である容器の構造の限りにおいて共通している。
また、甲1輸液製剤発明の「糖含有液及びアミノ酸含有液には、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素などの微量元素が含有されている」ことは、本件訂正特許発明1の「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容され」ていることと、鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が輸液容器に何らかの形で収容されている限りにおいて共通している。

したがって、両者は「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され、他の室に収容容器が収納されており、上記輸液容器には、鉄、マンガンおよび銅を含む群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された輸液製剤」に関するものである点において一致し、次の3つの点において相違する。

相違点1-1 微量金属元素を含む液の収容場所及び収容容器について、本件訂正特許発明1においては、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている室とは他の室に収納された微量金属元素収容容器に収容されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることが特定されているのに対して、甲1輸液製剤発明は、アミノ酸を含有する溶液が充填された収容室とは他の収容室に複数の区画室(収容容器)が収納されているものの、微量金属元素の収容場所は特定されておらず、複数の区画室(収容容器)の材質及び形態も不明である点

相違点1-2 複数の室に存在させる成分に関して、本件訂正特許発明1は、その一室に含まれる溶液がアセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して、甲1輸液製剤発明では、アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され、複数の区画室(収容容器)には、少なくとも2種以上のビタミンが、少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように、別々に収容され、他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点

相違点1-3 本件訂正特許発明1では、輸液製剤は、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して、甲1輸液製剤発明では、そのような特定のない点

(2-2)相違点の判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1-1について
(ア)相違点1-1の判断
前記(1)イで検討したとおり、甲第1号証には、微量金属元素を含む液の収容場所及び収容容器の材質について記載されているとはいえず、本願出願時の技術常識を考慮しても、微量金属元素を含む液の収容場所が記載されているに等しい事項であるとはいえないし、該微量金属元素を含む液の収容容器が熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることことも記載されているに等しい事項であるとはいえない。

また、本件訂正特許発明1は、鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液の収容場所を、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液と隔離して別の空間に保存することを技術思想とするものであるのに対して、甲1輸液製剤発明は、異なるビタミンを適切なpHでそれぞれ保管するために別の空間で保存することを技術思想とするものであり、両者の技術思想は異なっており、本件訂正特許発明1は、「硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を有する輸液製剤において、微量金属元素、特に銅を安定化することができる。」(【0014】)との記載や実施例1?4と比較例1との具体的比較からも明らかなように(【0052】?【0066】)、含硫化合物と微量金属元素を含有するアミノ酸輸液製剤における、微量金属元素の保存安定性の効果を確認しているものであるから、輸液製剤中の上記相違点を、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないともいえない。

したがって、上記相違点1-1は、実質的相違点である。

(イ)審判請求人の主張について
a 審判請求人は、、平成30年10月23日付け審判請求書16頁「(3)構成要件1-C等に相当する構成」?18頁「(4)構成要件1-D等に相当する構成」、平成31年4月22日付け上申書14頁,15頁において、【0048】の記載及び表1を示した上で、23頁1?7行において、当業者の視点において、微量元素含有液の収容場所は「区画室」の一部であり、材質は「熱可塑性樹脂フィルム」であるので相違点は存在しない旨主張している。
b しかしながら、表1は、請求人が個々の態様の記載を区別せず1つにまとめた表であり、上記アで述べたとおり、【0048】の記載は、あくまでも、【図1】の態様の構造に関する説明であって、【図5】の態様の場合に、鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液の収容場所は明らかであるとはいえないし、【0053】の熱溶着との記載のみから、【図5】の態様の場合の材質が「熱可塑性樹脂フィルム」であるとは断定できず、区画室28を形成する収容容器30が熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることが甲第1号証に記載されているに等しいとはいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(ウ)相違点1-1のまとめ
以上のとおり、相違点1-1は、実質的相違点である。

イ 相違点1-2について
(ア)相違点1-2の判断
甲第1号証には、複数の室に存在させる成分に関して、【図1】に関する説明箇所である【0022】には、「次に、この実施形態の輸液容器に収容された収容物を具体的に説明する。
収容室3に収容する糖含有液としては、グルコース、フルクトース、マルトース等の還元糖、キシリトール、ソルビトール、グリセロール等の糖アルコールなどの一種又は二種以上を、水等の水性溶媒に溶解した液が挙げられる。・・・」と記載され、【0023】には、「一方、収容室5に収容されるアミノ酸含有液としては、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-バリン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-トリプトファン、L-スレオニン、L-アルギニン、L-ヒスチジン、L-アラニン、L-プロリン、L-セリン、グリシン、L-リジン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-システイン、L-シスチン、L-オキシプロリンなど、一般に輸液に使用される必須アミノ酸及び/または非必須アミノ酸を適宜、水性媒体に溶解した液が挙げられる。・・・なお、収容室5には、アミノ酸含有液とともに複数のビタミンの一部が収容されている。」と記載され、【0024】には、「また、収室室3、5には糖含有液またはアミノ酸含有液とともに、各種の電解質を含有させることができる。・・・」と記載されている。
また、図1に示す実施形態の変更例として、【0045】には、「次に、図1に示す実施形態の変更例を説明する。この変更例では、収容室3にアミノ酸及び電解質が収容され、収容室5に脂肪が収容されている他は前記実施形態と同じである。本発明では、このような構成の輸液容器であっても、前記と何ら変わることなく、全く同様の効果が得られる。」との記載や、【0047】には、「なお、以上説明した糖、アミノ酸、電解質を収容した例、或いは脂肪を収容した例においては、容器本体として、2室の収容室を有する例を記載したが、特に限定されるものではなく、例えば糖含有液、アミノ酸含有液、脂肪乳剤、電解質含有液の何れか一種または2種以上を1つの収容室に収容したものに多数の区画室を備えた容器本体を使用することが可能であり、上記と同様の効果が得られ、さらに連通可能な収容室を3室以上設けて、各輸液成分を互いに隔離した状態で収容するものであっても同様の効果が得られる。また、上記実施形態のように複数の収容室を有する場合には、各含有液の配置はいずれであってもよく、量の多いもの程、低い位置に配置させることが可能である。」との記載もある。
さらに、【図1】に関する説明中では、【0040】の「以上のような輸液容器によれば、複数の区画室15a、15b、15c、15d・・・に性質の異なる複数のビタミンを、少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容したので、複数のビタミンをそれぞれ該ビタミンに最適な条件下で収容しておくことが可能となる。そのため、製造時及び保存時に輸液に配合されるビタミンが経時的に変化することを抑えることができる。」との記載もある。

まず、【図1】の実施形態における区画室「15a、15b、15c、15d・・・」は、複数の収容室3,5いずれにも収納されていない点で本件訂正特許発明1の収容容器と相違した構造のもので、両者は相当するものとはいえない(摘記(1k))。
また、上記【0023】【0024】及び【0045】の記載からみて、アミノ酸含有液を収容する収容室と、区画室との関係を特に特定しているとはいえない。
そして、【0047】にあるように、糖、アミノ酸、電解質を収容した例、或いは脂肪を収容した例においては、糖含有液、アミノ酸含有液、脂肪乳剤、電解質含有液の何れか一種または2種以上を1つの収容室に収容したものに多数の区画室を備えた容器本体を使用することが可能であることを示しているだけで、多数の区画室を用いて、異なる複数のビタミンを最適条件下で少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容する限り、残りの各含有液の成分や配置はいずれであってよいことが記載されている。
そうすると、甲第1号証においては、区画室は、少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容するためのものであり、微量金属元素に限定して使用されるものではなく、区画室とアミノ酸含有液との位置関係を特定しようとしているものではない。
そして、甲第1号証には、アミノ酸含有液と微量金属元素溶液において、両者の特定の位置関係を限定するような技術思想が開示されているということもできない。
したがって、甲1輸液製剤発明において、その一室に含まれる溶液がアミノ酸輸液であり、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているという本件訂正特許発明1の構成が、甲第1号証の異なる実施形態に基づく記載を考慮したとしても、記載されているに等しい事項とはいえない。

また、収容室5に収容するアミノ酸含有液としても、【0023】にL-システインの例が多くの選択肢の一例として挙げられているだけで、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液に関する記載は全くなく、本願出願時の技術常識を考慮しても記載されているに等しい事項とはいえない。

そして、上記のとおり、本件訂正特許発明1は、微量金属元素を含む液の収容場所を、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液と隔離して別の空間に保存することを技術思想とするものであるのに対して、甲1輸液製剤発明は、異なるビタミンを適切なpHでそれぞれ保管するために各ビタミンを別の空間で保存することを技術思想とするものであり、両者の技術思想は異なっており、本件訂正特許発明1は、「硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を有する輸液製剤において、微量金属元素、特に銅を安定化することができる。」(【0014】)との記載や実施例1?4と比較例1との具体的比較からも明らかなように(【0052】?【0066】)、含硫化合物と微量金属元素を含有するアミノ酸輸液製剤における、微量金属元素の保存安定性の効果を確認しているものであるから、甲1輸液製剤発明において、その一室に含まれる溶液がアセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されている構成とすることが、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえない。

(イ)審判請求人の主張について
a 審判請求人は、平成31年4月22日付け上申書14頁,15頁において、【0023】の記載及び表1を示し、24頁において、甲第5号証、甲第6号証の記載を摘記した上で、23頁下から4行?24頁7行において、公知文献に示されるとおり、「アセチルシステイン」は「システイン」をアセチル化したにすぎないものであり、「N-アセチル-L-システイン」は「L-システイン」と実質的に等価なものとして周知で、容器の構成に特徴がある「甲1輸液製剤発明」としての効果に差異は生じないので実質的相違点ではない旨主張している。

b しかしながら、アセチルシステインが甲第5号証、甲第6号証の記載から、輸液の成分として周知技術であるかどうかはともかくとして、甲第1号証に、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液に関する記載がない点は上述のとおりであり、本件訂正特許発明1及び甲1輸液製剤発明は、ともに収容される成分も含めて特定されている発明であり、「N-アセチル-L-システイン」が本件訂正特許発明の出願時において、知られていることをもって、異なる化合物である「L-システイン」と「実質的に等価」などということはできないといえる。

(ウ)相違点1-2のまとめ
以上のとおり、相違点1-2は、実質的相違点である。

ウ 相違点1-3について
(ア)相違点1-3の判断
甲第1号証には、本件訂正特許発明1の特定事項である、輸液製剤が、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されている点や、前記外袋内の酸素を取り除いた点については、直接の記載は全くなく、甲第1号証の【0036】の「なお、ビタミンD等の脂溶性ビタミンを区画室15a、15b、15c、15d・・・に収容する場合には、容器内壁面への吸着をより防止するために、該区画室の最内層の樹脂として、・・・等を使用することもできる。この場合、他の区画室15a、15b、15c、15d・・・及び/または収容室3、5の最内層がこのような吸着性の低い樹脂により形成されていない場合には、例えばこのような樹脂からなり、剥離等により開口可能なシール部分を有する独立した容器にビタミンD等の脂溶性ビタミンを収容し、この独立した容器を区画室内に収容するようにしてもよい。また、空気により変化するおそれのあるビタミンD、A、Eを区画室15a、15b、15c、15d・・・或いは収容室3、5に収容する場合には、該区画室又は収容室のガス透過性を低下するために、ガス透過性の低い樹脂層を積層してもよく、樹脂層の表面、裏面、両面、或いは中間層に金属、無機物等からなる非樹脂層を積層してもよい。ガス透過性の低い樹脂としては、・・・等の樹脂が挙げられる。また、ガス透過性の低い非樹脂層としては、例えばアルミ等の金属薄膜層、アルミナ蒸着層、シリカ蒸着層などのセラミック蒸着層などが挙げられる。」との記載からみても、ビタミンの種類によっては、輸液容器の容器内壁面への吸着や区画室又は収容室のガス透過性を低下するための樹脂層又は非樹脂層の積層手段を採用することに関して記載があるだけであり、本願出願時の技術常識を考慮しても、甲1輸液製剤発明において、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されている点や、前記外袋内の酸素を取り除いた点が記載されているに等しい事項であるとはいえない。

また、上記のとおり、本件訂正特許発明1は、微量金属元素を含む液の収容場所を、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液と隔離して別の空間に保存することを技術思想とするものであるのに対して、甲1輸液製剤発明は、異なるビタミンを適切なpHでそれぞれ保管するために別の空間で保存することを技術思想とするものであり、両者の技術思想は異なっており、外袋に収納し、前記外袋内の酸素を取り除く構成が、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえない。

(イ)審判請求人の主張について
a 審判請求人は、平成31年4月22日付け上申書25頁下から7行?27頁19行において、「甲1輸液製剤発明」も「ガスバリヤー性外袋」を輸液製剤に用いること及び「外袋内の酸素を取り除いたもの」であることは、「窒素充填された常温の遮光室に収容」しなければならないことが予定されているので、当然に想定していることである旨主張している。
そして、【0059】の 「輸液容器
上記のような糖及び電解質含有液、アミノ酸含有液、及びビタミンをそれぞれ収容室3、5及び区画室15a、15b、15cに収容し、それぞれ窒素ガス置換して密封した後、115℃で20分間高圧蒸気滅菌を施し、輸液容器を作成した。
安定性の確認
前記輸液容器を高圧蒸気滅菌して常温まで冷却した後、収容室3、5及び区画室15a、15b、15cから内容液を抜き取り、各ビタミンの残存率を液体クロマトグラフ法により測定した。次に、該輸液容器を、窒素充填された常温の遮光室に収容して3月保存し、内容物中の各ビタミン残存率を同様に測定した。」との記載を示し、「甲1輸液製剤発明」は、「窒素充填された常温の遮光室に収容」することと同等の状況を必要としていることは自明であるとし、さらに、甲第8号証、甲第9号証の1、甲第9号証の2、甲第9号証の3を示して、「ガスバリヤー性外袋」を輸液製剤に用いること及び「外袋内の酸素を取り除いたもの」であることは、出願時の技術常識である旨と主張している。

b しかしながら、【0059】の記載は、甲1輸液製剤発明とは異なる【図1】に係る製造した輸液製剤の安定性の確認試験に関する記載であり、その確認内容も「糖及び電解質含有液、アミノ酸含有液、及びビタミンをそれぞれ収容室3、5及び区画室15a、15b、15cに収容し、それぞれ窒素ガス置換して密封した後、115℃で20分間高圧蒸気滅菌を施し、輸液容器を作成した。次に、該輸液容器を、窒素充填された常温の遮光室に収容して3月保存し、内容物中の各ビタミン残存率を同様に測定した。」というもので、本件訂正特許発明1の「ガスバリヤー性外袋」を輸液製剤に用いること及び「外袋内の酸素を取り除いたもの」であることとも異なっている。

また、甲第8号証、甲第9号証の1、甲第9号証の2、甲第9号証の3の記載をみても、甲1輸液製剤発明の構成において、「ガスバリヤー性外袋」を輸液製剤に用いること及び「外袋内の酸素を取り除いたもの」とすることは、出願時の技術常識であるとはいえず、記載されているに等しい事項であるとはいえない。

c 審判請求人は、令和1年6月20日付け上申書(3)別紙1頁1行?2頁20行において、「高カロリー輸液」の技術分野において、「アミノ酸含有液」の容器を「外袋」に収納し、「脱酸素剤」を外袋に収納することは、本件出願当時から技術常識であると認識しているとして、甲第3号証,甲第10号証?甲第13号証の「外袋」と「外袋」内の「脱酸素剤」に関する記載を指摘している。

d しかしながら、甲第3号証,甲第10号証?甲第13号証の「外袋」と「外袋」内の「脱酸素剤」に関する記載のように、「アミノ酸含有液」の容器を「外袋」に収納し、「脱酸素剤」を外袋に収納するアミノ酸輸液製剤が知られているからといって、「高カロリー輸液」の技術分野において、「アミノ酸含有液」の容器を「外袋」に収納し、「脱酸素剤」を外袋に収納することが選択肢の一つであること自体は本件出願当時の技術常識であるかどうかはともかく、甲1輸液製剤発明において、記載のない「アミノ酸含有液」の容器を「外袋」に収納し、「脱酸素剤」を外袋に収納する構成が記載されているに等しいということはできない。

よって、請求人の主張を採用することはできない。

(ウ)相違点1-3のまとめ
以上のとおり、相違点1-3については実質的相違点である。

(2-3)本件訂正特許発明1の特許法第29条の2の判断(拡大先願)についての小括
本件訂正特許発明1は、その特許出願の日前の他の特許出願(甲第1号証)であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないため、その特許を無効とすることはできない。

(3-1)本件訂正特許発明2と甲1輸液製剤発明との対比
本件訂正特許発明2と甲1輸液製剤発明とを対比すると、甲1輸液製剤発明の「収容室にはアミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され」ることは、本件訂正特許発明2の「その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され」「前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であ」ることと、その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填される」限りにおいて共通している。
また、甲1輸液製剤発明の「糖含有液及びアミノ酸含有液には、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素などの微量元素が含有されている」ことは、本件訂正特許発明2の「銅を含む液が収容され」ていることと、銅を含む液が輸液容器に何らかの形で収容されている限りにおいて共通している。

したがって、前記(2-1)で検討したように、両者は「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され、他の室に収容容器が収納されており、上記輸液容器には、銅を含む液が収容された輸液製剤」に関するものである点において一致し、次の3つの点において相違する。

相違点2-1 銅を含む液の収容場所及び収容容器について、本件訂正特許発明2においては、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている室とは他の室に収容された微量金属元素収容容器に収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることが特定されているのに対して、甲1輸液製剤発明は、アミノ酸を含有する溶液が充填された収容室とは他の収容室に複数の区画室が収納されているものの、銅の収容場所は特定されておらず、複数の区画室の材質及び形態も不明である点

相違点2-2 複数の室に存在させる成分に関して、本件訂正特許発明2は、その一室に含まれる溶液がシステイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して、甲1輸液製剤発明では、アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され、複数の区画室には、少なくとも2種以上のビタミンが、少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように、別々に収容され、他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点

相違点2-3 本件訂正特許発明2は、輸液製剤が、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されているのに対して、甲1輸液製剤発明では、そのような特定のない点

(3-2)相違点の判断
ア 相違点2-1について
(ア)相違点2-1の判断
前記(1)イで検討したとおり、甲第1号証には、微量金属元素を含む液の収容場所及び収容容器の材質について記載されているとはいえず、本願出願時の技術常識を考慮しても、微量金属元素を含む液の収容場所が記載されているに等しい事項であるとはいえないし、該微量金属元素を含む液の収容容器が熱可塑性フィルム製の袋であることことも記載されているに等しい事項であるとはいえない。

また、本件訂正特許発明2は、微量金属元素である銅を含む液の収容場所を、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液と隔離して別の空間に保存することを技術思想とするものであるのに対して、甲1輸液製剤発明は、異なるビタミンを適切なpHでそれぞれ保管するために別の空間で保存することを技術思想とするものであり、両者の技術思想は異なっており、上記相違点を、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないともいえない。

したがって、上記相違点2-1は、実質的相違点である。

イ 相違点2-2について
(ア)甲第1号証には、複数の室に存在させる成分に関して、【図1】に関する説明箇所である【0022】には、「次に、この実施形態の輸液容器に収容された収容物を具体的に説明する。
収容室3に収容する糖含有液としては、グルコース、フルクトース、マルトース等の還元糖、キシリトール、ソルビトール、グリセロール等の糖アルコールなどの一種又は二種以上を、水等の水性溶媒に溶解した液が挙げられる。・・・」と記載され、【0023】には、「一方、収容室5に収容されるアミノ酸含有液としては、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-バリン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-トリプトファン、L-スレオニン、L-アルギニン、L-ヒスチジン、L-アラニン、L-プロリン、L-セリン、グリシン、L-リジン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-システイン、L-シスチン、L-オキシプロリンなど、一般に輸液に使用される必須アミノ酸及び/または非必須アミノ酸を適宜、水性媒体に溶解した液が挙げられる。・・・なお、収容室5には、アミノ酸含有液とともに複数のビタミンの一部が収容されている。」と記載され、【0024】には、「また、収室室3、5には糖含有液またはアミノ酸含有液とともに、各種の電解質を含有させることができる。・・・」と記載されている。
また、図1に示す実施形態の変更例として、【0045】には、「次に、図1に示す実施形態の変更例を説明する。この変更例では、収容室3にアミノ酸及び電解質が収容され、収容室5に脂肪が収容されている他は前記実施形態と同じである。本発明では、このような構成の輸液容器であっても、前記と何ら変わることなく、全く同様の効果が得られる。」との記載や、【0047】には、「なお、以上説明した糖、アミノ酸、電解質を収容した例、或いは脂肪を収容した例においては、容器本体として、2室の収容室を有する例を記載したが、特に限定されるものではなく、例えば糖含有液、アミノ酸含有液、脂肪乳剤、電解質含有液の何れか一種または2種以上を1つの収容室に収容したものに多数の区画室を備えた容器本体を使用することが可能であり、上記と同様の効果が得られ、さらに連通可能な収容室を3室以上設けて、各輸液成分を互いに隔離した状態で収容するものであっても同様の効果が得られる。また、上記実施形態のように複数の収容室を有する場合には、各含有液の配置はいずれであってもよく、量の多いもの程、低い位置に配置させることが可能である。」との記載もある。
さらに、【図1】に関する説明中では、【0040】の「以上のような輸液容器によれば、複数の区画室15a、15b、15c、15d・・・に性質の異なる複数のビタミンを、少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容したので、複数のビタミンをそれぞれ該ビタミンに最適な条件下で収容しておくことが可能となる。そのため、製造時及び保存時に輸液に配合されるビタミンが経時的に変化することを抑えることができる。」との記載もある。

まず、【図1】の実施形態における区画室「15a、15b、15c、15d・・・」は、複数の収容室3,5いずれにも収納されていないものであるから、本件訂正特許発明2の収容容器と相違した構造のもので、両者は相当するものとはいえない。
さらに、上記【0023】【0024】及び【0045】の記載からみて、アミノ酸含有液を収容する収容室と、区画室との関係を特に特定しているわけではない。
そして、【0047】にあるように、糖、アミノ酸、電解質を収容した例、或いは脂肪を収容した例においては、糖含有液、アミノ酸含有液、脂肪乳剤、電解質含有液の何れか一種または2種以上を1つの収容室に収容したものに多数の区画室を備えた容器本体を使用することが可能であることを示しているいるだけで、多数の区画室を用いて、異なる複数のビタミンを最適条件下で少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容する限り、残りの各含有液の成分や配置はいずれであってよいことが記載されている。
そうすると、甲第1号証においては、区画室は、少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容するためのものであり、微量金属元素に限定して使用されるものではなく、区画室とアミノ酸含有液との位置関係を特定しようとしているものではない。
そして、甲第1号証には、アミノ酸含有液と微量金属元素溶液において、両者の特定の位置関係を限定するような技術思想が開示されているということもできない。
したがって、甲1輸液製剤発明において、その一室に含まれる溶液がアミノ酸輸液であり、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているという本件訂正特許発明2の構成が、甲第1号証の異なる実施形態に基づく記載を考慮したとしても、記載されているに等しい事項とはいえない。

また、収容室5に収容するアミノ酸含有液としても、【0023】にL-システインの例が多くの選択肢の一例として挙げられているだけで、「システイン・・・、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液」に関する記載は全くなく、本願出願時の技術常識を考慮しても記載されているに等しい事項とはいえない。

また、上記のとおり、本件訂正特許発明2は、銅を含む液の微量金属元素収容場所を、システイン等及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液と隔離して別の空間に保存することを技術思想とするものであるのに対して、甲1輸液製剤発明は、異なるビタミンを適切なpHでそれぞれ保管するために各ビタミンを別の空間で保存することを技術思想とするものであり、両者の技術思想は異なっており、甲1輸液製剤発明において、その一室に含まれる溶液がシステイン等及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されている構成とすることが、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえない。

したがって、上記相違点2-2は、実質的相違点である。

(イ)審判請求人の主張について
a 審判請求人は、平成31年4月22日付け上申書28頁において、本件訂正特許発明1に関する主張箇所を引用しながら、甲1輸液製剤発明におけるアミノ酸は、L-システイン、L-シスチンを含む一般的に輸液に使用される必須アミノ酸又は非必須アミノ酸であり(【0023】及び表1)、システインが含まれる旨主張し、上記上申書14,15頁において、亜硫酸ナトリウム等の酸化防止剤に関連して【0033】の記載及び表1を示した上で、銅を含めた微量元素含有液の収容場所は、複数の区画室の一部であることは自明であるから(【0048】及び表1)、「その一室に含まれる溶液がシステイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されている」点を本件訂正特許発明2と甲1輸液製剤発明との相違点と認定するのは適切でない旨主張している。

b しかしながら、上記(ア)のとおり、【0023】には、システイン及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液に関する記載は全くなく、【0048】の記載から銅を含めた微量元素含有液の収容場所が、複数の区画室の一部に特定された発明が認定できないことは、上記1(1)イ(エ)で述べたとおりである。
そして、前記1(1)イ(ウ)で検討したように、【0033】の記載は、【図1】の実施態様の記載であるとともに、安定性を損なわない範囲で一般に輸液に添加されている他の薬剤を含有させることも可能である他の添加剤の例のさらなる具体例の一つに亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムが挙げられていただけであって、他の実施態様である【図5】【図6】の実施態様の場合に亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムという特定の物質を含有させることが記載されているに等しいということはできないのは上述のとおりである。
したがって、審判請求人の本件訂正特許発明2と甲1輸液製剤発明との対比において相違点2-2を認定したことが適切でない旨の上記主張を採用することはできない。

c 審判請求人は、令和1年6月20日付け上申書(3)別紙2頁下から6行?4頁3行において、「高カロリー輸液」の技術分野において、「アミノ酸含有液」に「亜硫酸塩」を含有させることは本件出願当時の技術常識であると認識しているとして、甲第10号証?甲第11号証の「亜硫酸水素ナトリウム」の添加物として含有させている記載を指摘している。
d しかしながら、甲第3号証、乙第3号証に示されるように、実際に亜硫酸塩を含有させていないアミノ酸輸液製剤が知られている。
したがって、甲第10号証?甲第11号証のように「亜硫酸水素ナトリウム」を添加物として含有させているアミノ酸輸液製剤が知られているからといって、「高カロリー輸液」の技術分野において、「アミノ酸含有液」に「亜硫酸塩」を含有させることが選択肢の一つであること自体は本件出願当時の技術常識であるかどうかはともかく、甲1輸液製剤発明において、アミノ酸輸液にシステインと共に記載のない亜硫酸塩が記載されているに等しいということはできない。

ウ 相違点2-3について
(ア)相違点2-3の判断
甲第1号証には、本件訂正特許発明2の特定事項である、輸液製剤が、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されている点については、直接の記載は全くなく、相違点1-3の判断で検討したのと同様に、甲第1号証の【0036】の記載からみても、ビタミンに関して、輸液容器の容器内壁面への吸着や区画室又は収容室のガス透過性を低下するための樹脂層又は非樹脂層の積層手段に関する記載があるだけであり、本願出願時の技術常識を考慮しても、記載されているに等しい事項であるとはいえない。

また、上記のとおり、本件訂正特許発明2は、銅を含む液の微量金属元素収容場所を、システイン等及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液を含むアミノ酸輸液と隔離して別の空間に保存することを技術思想とするものであるのに対して、甲1輸液製剤発明は、異なるビタミンを適切なpHでそれぞれ保管するために別の空間で保存することを技術思想とするものであり、両者の技術思想は異なっており、輸液容器をガスバリヤー性外袋に収納する構成が、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえない。

したがって、上記相違点2-3は、実質的相違点である。

(3-3)本件訂正特許発明2の特許法第29条の2の判断(拡大先願)についての小括
本件訂正特許発明2は、その特許出願の日前の他の特許出願(甲第1号証)であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないため、その特許を無効とすることはできない。

(4-1)本件訂正特許発明3と甲1輸液製剤発明との対比
本件訂正特許発明3は、本件訂正特許発明1又は本件訂正特許発明2において、「微量金属元素収容容器が収納されている第1室と、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている第2室とが、連通可能な隔壁手段を介して隣接していること」をさらに特定したものである(本件訂正特許発明1、2を引用する場合を以下それぞれ、「本件訂正特許発明3-1」「本件訂正特許発明3-2」といい、合わせて「本件訂正特許発明3」ともいう。)。
甲1輸液製剤発明の「複室容器が、」「複数の区画室を有して収容室に収容された収容容器とからなり、収容室にはアミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され、別の収容室には糖或いは糖及び電解質含有液が収容され」「複室容器の容器本体では、複数の収容室間が容器壁の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる仕切部により仕切られてい」ることは、本件訂正特許発明3の「微量金属元素収容容器が収納されている第1室と、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている第2室とが、連通可能な隔壁手段を介して隣接していること」とは、「第1室と、アミノ酸を含有する溶液が充填されている第2室とが、連通可能な隔壁手段を介して隣接している」という限りにおいて共通している。
したがって、本件訂正特許発明3-1と甲1輸液製剤発明とを対比すると、両者は「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、第1室に収容容器が収納されており、第2室にアミノ酸を含有する溶液が充填され、第1室と第2室とが、連通可能な隔壁手段を介して隣接しており、上記輸液容器には、鉄、マンガンおよび銅を含む群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素(本件訂正特許発明3-2との対比においては銅)を含む液が収容された輸液製剤」に関するものである点において一致し、次の3つの点において相違する。

相違点3-1 微量金属元素を含む液の収容場所及び収容容器について、本件訂正特許発明3-1においては、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている第2室と微量金属元素収容容器が収納されている第1室と特定されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることが特定されているのに対して、甲1輸液製剤発明は、アミノ酸を含有する溶液が充填された収容室とは他の収容室に複数の区画室が収納されているものの、微量金属元素の収容場所は特定されておらず、複数の区画室の材質及び形態も不明である点

相違点3-2 複数の室に存在させる成分に関して、本件訂正特許発明3-1は、その一室である第2室に含まれる溶液がアセチルシステインを含むアミノ酸輸液(本件訂正特許発明3-2の場合は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液)であり、他の室である第1室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素(本件訂正特許発明3-2の場合は、銅)を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して、甲1輸液製剤発明では、アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され、複数の区画室には、少なくとも2種以上のビタミンが、少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように、別々に収容され、他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点

相違点3-3 本件訂正特許発明3-1は、輸液製剤が、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いたものである(本件訂正特許発明3-2の場合は、輸液製剤が、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されている)のに対して、甲1輸液製剤発明では、そのような特定のない点

(4-2)相違点の判断
ア 相違点3-1について
本件訂正特許発明3-1との相違点3-1に関して、前記(1)イで検討したとおり、甲第1号証には、鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液の収容場所及び収容容器の材質について記載されているとはいえず、本願出願時の技術常識を考慮しても、該微量金属元素を含む液の収容場所が記載されているに等しい事項であるとはいえないし、該微量金属元素を含む液の収容容器が熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることことも記載されているに等しい事項であるとはいえない。
また、本件訂正特許発明3-2との相違点3-1に関しても、前記(2)で検討したように、記載されているに等しい事項であるとはいえない。

また、本件訂正特許発明3-1は、鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液の収容場所を、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液(本件訂正特許発明3-2の場合は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液)と隔離して別の空間に保存することを技術思想とするものであるのに対して、甲1輸液製剤発明は、異なるビタミンを適切なpHでそれぞれ保管するために別の空間で保存することを技術思想とするものであり、両者の技術思想は異なっており、上記実質的相違点を、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないともいえない。

したがって、上記相違点3-1は、実質的相違点である。

イ 相違点3-2について
【0047】の記載及び【0040】の記載及び【0023】【0024】や【0045】の記載からみて、アミノ酸含有液を区画室を有する室と別の室である収容室5に配置することを特定しているわけでもなく、糖、アミノ酸、電解質を収容した例、或いは脂肪を収容した例においては、糖含有液、アミノ酸含有液、脂肪乳剤、電解質含有液の何れか一種または2種以上を1つの収容室に収容したものに多数の区画室を備えた容器本体を使用することが可能であることを示しているように、異なる複数のビタミンを最適条件下で少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容する限り、残りの各含有液の成分や配置はいずれであってよいことが記載されている。
そうすると、甲第1号証においては、区画室は、少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容するためのものであり、微量金属元素に限定して使用されるものではなく、区画室とアミノ酸含有液との関係を特定しようとしているものではない。
そして、甲第1号証には、アミノ酸含有液と微量金属元素溶液において、両者の特定の位置関係を限定するような技術思想が開示されているということもできない。
したがって、甲1輸液製剤発明において、その一室に含まれる溶液がアミノ酸輸液であり、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された(本件訂正特許発明3-2の場合は、銅を含む液が収容された)微量金属元素収容容器が収納されている本件訂正特許発明3-1の構成が、甲第1号証の異なる実施形態に基づく記載を考慮したとしても、記載されているに等しい事項とはいえない。
また、収容室5に収容するアミノ酸含有液としても、【0023】にL-システインの例が多くの選択肢の一例として挙げられているだけで、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液に関する記載は及びシステイン等及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液に関する記載全くなく、本願出願時の技術常識を考慮しても記載されているに等しい事項とはいえない。

また、上記のとおり、本件訂正特許発明3-1は、鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素(本件訂正特許発明3-2の場合は銅)を含む液の微量金属元素収容場所を、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液(本件訂正特許発明3-2の場合はシステイン等及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液)と隔離して別の空間に保存することを技術思想とするものであるのに対して、甲1輸液製剤発明は、異なるビタミンを適切なpHでそれぞれ保管するために各ビタミンを別の空間で保存することを技術思想とするものであり、両者の技術思想は異なっており、甲1輸液製剤発明において、その一室である第2室に含まれる溶液がアセチルシステインを含むアミノ酸輸液(本件訂正特許発明3-2の場合はシステイン等及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液)であり、他の室である第1室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素(本件訂正特許発明3-2の場合は銅)を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されている構成とすることが、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえない。

したがって、上記相違点3-2は、実質的相違点である。

ウ 相違点3-3について
(ア)相違点3-3の判断
甲第1号証には、本件訂正特許発明3-1の特定事項である、輸液製剤が、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されている点や前記外袋内の酸素を取り除いた点(本件訂正特許発明3-2の場合については、ガスバリヤー性外袋に収納されている点)については、直接の記載は全くなく、相違点1-3、又は相違点2-3の判断で検討したのと同様に、甲第1号証の【0036】の記載からみても、ビタミンの種類によっては、輸液容器の容器内壁面への吸着や区画室又は収容室のガス透過性を低下するための樹脂層又は非樹脂層の積層手段を採用することに関して記載があるだけであり、本願出願時の技術常識を考慮しても、甲1輸液製剤発明において、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されている点や、前記外袋内の酸素を取り除いた点が記載されているに等しい事項であるとはいえない。

また、上記のとおり、本件訂正特許発明3は、鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液の収容場所を、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液(又はシステイン等及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液)と隔離して別の空間に保存することを技術思想とするものであるのに対して、甲1輸液製剤発明は、異なるビタミンを適切なpHでそれぞれ保管するために別の空間で保存することを技術思想とするものであり、両者の技術思想は異なっており、甲1輸液製剤発明において、外袋に収納し、前記外袋内の酸素を取り除く構成(又は外袋に収納する構成)が、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえない。

したがって、上記相違点3-3は、実質的相違点である。

(4-3)本件訂正特許発明3の特許法第29条の2の判断(拡大先願)についての小括
本件訂正特許発明3は、その特許出願の日前の他の特許出願(甲第1号証)であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないため、その特許を無効とすることはできない。

(5-1)本件訂正特許発明4と甲1輸液製剤発明との対比
本件訂正特許発明4は、独立形式で記載されたものであるが、本件訂正特許発明1において、「他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器を収納している室に、糖質輸液または/および電解質輸液が充填されていること」を特定したもので、「微量金属元素収容容器」に「収納」されている「溶液」の微量金属成分を「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素」から「銅」に特定した上で、「微量金属元素収容容器を収納している室に、糖質輸液または/および電解質輸液が充填されていること」をさらに特定し、「微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」との特定を削除したものである。
したがって、本件訂正特許発明4と甲1輸液製剤発明とを対比すると、両者は「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され、他の室に糖を含有する溶液が充填され、該他の室に収容容器が収納されており、上記輸液容器には、微量金属元素を含む液が収容された輸液製剤」に関するものである点において一致し、次の3つの点において相違する。

相違点4-1 微量金属元素を含む液の収容場所について、本件訂正特許発明4においては、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている室とは他の室に収容された微量金属元素収容容器に収納されていることが特定されているのに対して、甲1輸液製剤発明は、アミノ酸を含有する溶液が充填された収容室とは他の収容室に複数の区画室が収納されているものの、微量金属元素の収容場所は特定されていない点

相違点4-2 複数の室に存在させる成分に関して、本件訂正特許発明4は、その一室に含まれる溶液がアセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して、甲1輸液製剤発明では、アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され、複数の区画室には、少なくとも2種以上のビタミンが、少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように、別々に収容され、他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点

相違点4-3 本件訂正特許発明4は、輸液製剤が、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して、甲1輸液製剤発明では、そのような特定のない点

(5-2)相違点の判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点4-1について
前記(1)で検討したとおり、甲第1号証には、微量金属元素を含む液の収容場所について記載されているとはいえず、本願出願時の技術常識を考慮しても、微量金属元素を含む液の収容場所が記載されているに等しい事項であるとはいえない。

また、本件訂正特許発明4は、微量金属元素である銅を含む液の収容場所を、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液と隔離して別の空間に保存することを技術思想とするものであるのに対して、甲1輸液製剤発明は、異なるビタミンを適切なpHでそれぞれ保管するために別の空間で保存することを技術思想とするものであり、両者の技術思想は異なっており、上記実質的相違点を、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないともいえない。

したがって、上記相違点4-1は、実質的相違点である。

イ 相違点4-2について
甲第1号証の【0047】の記載及び【0040】の記載及び【0023】【0024】や【0045】の記載からみて、アミノ酸含有液を区画室を有する室と別の室である収容室5に配置することを各実施態様において特定しているわけでもなく、糖、アミノ酸、電解質を収容した例、或いは脂肪を収容した例においては、糖含有液、アミノ酸含有液、脂肪乳剤、電解質含有液の何れか一種または2種以上を1つの収容室に収容したものに多数の区画室を備えた容器本体を使用することが可能であることを示しているように、異なる複数のビタミンを最適条件下で少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容する限り、残りの各含有液の成分や配置はいずれであってよいことが記載されている。
そうすると、甲第1号証においては、区画室は、少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容するためのもので、微量金属元素に限定して使用されるものではなく、区画室とアミノ酸含有液との関係を特定しようとしているものではない。
そして、甲第1号証には、アミノ酸含有液と微量金属元素溶液において、両者の特定の位置関係を限定するような技術思想が開示されているということもできない。
したがって、甲1輸液製剤発明において、その一室に含まれる溶液がアミノ酸輸液であり、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されている本件訂正特許発明4の構成が、甲第1号証の異なる実施形態に基づく記載を考慮したとしても、記載されているに等しい事項とはいえない。

また、収容室5に収容するアミノ酸含有液としても、【0023】にL-システインの例が多くの選択肢の一例として挙げられているだけで、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液に関する記載は全くなく、本願出願時の技術常識を考慮しても記載されているに等しい事項とはいえない。

さらに、上記のとおり、本件訂正特許発明4は、銅を含む液の微量金属元素収容場所を、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液と隔離して別の空間に保存することを技術思想とするものであるのに対して、甲1輸液製剤発明は、異なるビタミンを適切なpHでそれぞれ保管するために各ビタミンを別の空間で保存することを技術思想とするものであり、両者の技術思想は異なっており、甲1輸液製剤発明において、その一室に含まれる溶液がシアセチルステインを含むアミノ酸輸液であり、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されている構成とすることが、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえない。

したがって、上記相違点4-2は、実質的相違点である。

ウ 相違点4-3について
(ア)相違点4-3の判断
甲第1号証には、本件訂正特許発明4の特定事項である、輸液製剤が、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されている点や前記外袋内の酸素を取り除いた点については、直接の記載は全くなく、相違点1-3の判断で検討したのと同様に、甲第1号証の【0036】の記載からみても、ビタミンの種類によっては、輸液容器の容器内壁面への吸着や区画室又は収容室のガス透過性を低下するための樹脂層又は非樹脂層の積層手段を採用することに関して記載があるだけであり、本願出願時の技術常識を考慮しても、甲1輸液製剤発明において、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されている点や、前記外袋内の酸素を取り除いた点が記載されているに等しい事項であるとはいえない。

また、上記のとおり、本件訂正特許発明4は、銅を含む液の収容場所を、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液と隔離して別の空間に保存することを技術思想とするものであるのに対して、甲1輸液製剤発明は、異なるビタミンを適切なpHでそれぞれ保管するために別の空間で保存することを技術思想とするものであり、両者の技術思想は異なっており、甲1輸液製剤発明において、外袋に収納し、前記外袋内の酸素を取り除く構成が、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえない。

したがって、上記相違点4-3は、実質的相違点である。

(5-3)本件訂正特許発明4の特許法第29条の2の判断(拡大先願)についての小括
本件訂正特許発明4は、その特許出願の日前の他の特許出願(甲第1号証)であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないため、その特許を無効とすることはできない。

(6-1)本件訂正特許発明5と甲1輸液製剤発明との対比
本件訂正特許発明5は、本件訂正特許発明3又は本件訂正特許発明4において、「第1室または第2室に、ビタミン収容容器が収納されていること」をさらに特定したものである。
甲1輸液製剤発明は、「別の収容室に収容された複数の区画室には、少なくとも2種以上のビタミンが、少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように、別々に収容され」ているのであるから、上記特定事項は、本件訂正特許発明5と甲1輸液製剤発明とを対比において、新たな相違点とはならず、前記本件訂正特許発明3又は4と甲1輸液製剤発明との対比において認定したのと同一のそれぞれ対応する各相違点(それらを総称して、相違点5-1?相違点5-3という。以下同様。)を有する。

したがって、本件訂正特許発明3又は4の相違点の判断において検討したように、相違点5-1?相違点5-3は、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえず、実質的相違点である。
よって、甲1輸液製剤発明は、本願訂正特許発明5と同一であるということはできない。

(6-2)本件訂正特許発明5の特許法第29条の2の判断(拡大先願)についての小括
本件訂正特許発明5は、その特許出願の日前の他の特許出願(甲第1号証)であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないため、その特許を無効とすることはできない。

(7-1)本件訂正特許発明6と甲1輸液製剤発明との対比
本件訂正特許発明6は、本件訂正特許発明1?本件訂正特許発明5において、「微量金属元素収容容器またはビタミン収容容器と、それを収納している室とが、外部からの押圧によって連通可能であること」をさらに特定したものである。
本件訂正特許発明6と甲1輸液製剤発明とを対比すると、前記本件訂正特許発明1?5と甲1輸液製剤発明との対比において認定したのと同一のそれぞれ対応する各相違点(相違点6-1?相違点6-3)に加えて、以下の相違点を有する。

相違点6-4 本件訂正特許発明6は、微量金属元素収容容器またはビタミン収容容器と、それを収納している室とが、外部からの押圧によって連通可能であることを特定しているのに対して、甲1輸液製剤発明においては、別の収容室に収容された複数の区画室には、少なくとも2種以上のビタミンが、少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように、別々に収容されているものの、外部からの押圧によって連通可能であることを特定はしていない点

したがって、本件訂正特許発明1?5の相違点の判断において検討したように、相違点6-1?相違点6-3は、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえず、実質的相違点である。
よって、甲1輸液製剤発明は、本願訂正特許発明6と同一であるということはできない。

(7-2)本件訂正特許発明6の特許法第29条の2の判断(拡大先願)についての小括
本件訂正特許発明6は、その特許出願の日前の他の特許出願(甲第1号証)であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないため、その特許を無効とすることはできない。

(8-1)本件訂正特許発明7と甲1輸液製剤発明との対比
本件訂正特許発明7は、本件訂正特許発明3?本件訂正特許発明5において、「第1室または第2室に充填されている溶液が、さらにビタミンを含有していること」をさらに特定したものである。
甲1輸液製剤発明は、「他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよ」いことが特定されているのであるから、上記特定事項は、本件訂正特許発明7と甲1輸液製剤発明とを対比において、新たな相違点とはならず、前記本件訂正特許発明3?5と甲1輸液製剤発明との対比において認定したのと同一のそれぞれ対応する各相違点(相違点7-1?相違点7-3)を有する。

したがって、本件訂正特許発明3?5の相違点の判断において検討したように、相違点7-1?相違点7-3は、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえず、実質的相違点である。
よって、甲1輸液製剤発明は、本願訂正特許発明7と同一であるということはできない。

(8-2)本件訂正特許発明7の特許法第29条の2の判断(拡大先願)についての小括
本件訂正特許発明7は、その特許出願の日前の他の特許出願(甲第1号証)であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないため、その特許を無効とすることはできない。

(9-1)本件訂正特許発明8と甲1輸液製剤発明との対比
ア 本件訂正特許発明8は、本件訂正特許発明2において、「複数の全ての室および収容容器を、外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成が、ブドウ糖50?400g/L、L-ロイシン0.8?10.0g/L、L-イソロイシン0?7.0g/L、L-バリン0.3?8.0g/L、L-リジン0.5?7.0g/L、L-スレオニン0.3?4.0g/L、L-トリプトファン0.08?1.5g/L、L-メチオニン0.2?4.0g/L、L-フェニルアラニン0.4?6.0g/L、L-システイン0.03?1.0g/L、L-チロシン0.02?1.0g/L、L-アルギニン0.5?7.0g/L、L-ヒスチジン0.3?4.0g/L、L-アラニン0.4?7.0g/L、L-プロリン0.2?5.0g/L、L-セリン0?3.0g/L、グリシン0.3?6.0g/L、L-アスパラギン酸0?2.0g/L、L-グルタミン酸0?3.0g/L、ナトリウム20?80mEq/L、カリウム10?40mEq/L、マグネシウム2?20mEq/L、カルシウム2?20mEq/L、リン2?20mmol/L、塩素20?80mEq/L、鉄2?200μmol/L、銅0.5?40μmol/L、マンガン0?10μmol/L、亜鉛2?300μmol/L、ヨウ素0?5μmol/Lであること」をさらに特定したものである。
本件訂正特許発明8と甲1輸液製剤発明とを対比すると、前記本件訂正特許発明2と甲1輸液製剤発明との対比において認定したのと同一の各相違点(相違点8-1?相違点8-3)に加えて、以下の相違点を有する。

相違点8-4 本件訂正特許発明8は、複数の全ての室および収容容器を、外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成が、ブドウ糖50?400g/L、L-ロイシン0.8?10.0g/L、L-イソロイシン0?7.0g/L、L-バリン0.3?8.0g/L、L-リジン0.5?7.0g/L、L-スレオニン0.3?4.0g/L、L-トリプトファン0.08?1.5g/L、L-メチオニン0.2?4.0g/L、L-フェニルアラニン0.4?6.0g/L、L-システイン0.03?1.0g/L、L-チロシン0.02?1.0g/L、L-アルギニン0.5?7.0g/L、L-ヒスチジン0.3?4.0g/L、L-アラニン0.4?7.0g/L、L-プロリン0.2?5.0g/L、L-セリン0?3.0g/L、グリシン0.3?6.0g/L、L-アスパラギン酸0?2.0g/L、L-グルタミン酸0?3.0g/L、ナトリウム20?80mEq/L、カリウム10?40mEq/L、マグネシウム2?20mEq/L、カルシウム2?20mEq/L、リン2?20mmol/L、塩素20?80mEq/L、鉄2?200μmol/L、銅0.5?40μmol/L、マンガン0?10μmol/L、亜鉛2?300μmol/L、ヨウ素0?5μmol/Lであることを特定しているのに対して、甲1輸液製剤発明においては、複室容器の複数の収容室と複数の区画室に対して、外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成を特定はしていない点

イ 相違点8-4に関して、甲第1号証には、図1に示すような輸液容器を用い、ビタミンの安定性を確認した実施例1の記載において、糖含有液(【0056】)、アミノ酸含有液(【0057】)、ビタミン含有液(【0058】)の配合量の記載が存在し、図1の実施形態の【0025】の記載として、微量元素の記載が存在しているものの、実施例1の記載は、図1に示すような輸液容器を用いたものであるし、【0025】の微量元素に関しては含有量の記載があるだけである。
甲1輸液製剤発明は【図5】及び【図6】の実施形態を前提とするものであるのだから、そのような成分組成に関して、「収容室23」及び「収容室24」並びに「収容容器30」に収容されている具体的成分組成の記載が全くない以上、それらが記載されているとはいえない。

また、本件訂正特許発明2の相違点の判断において検討したように、相違点8-1?相違点8-3は、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえず、実質的相違点である。

よって、甲1輸液製剤発明は、本願訂正特許発明8と同一であるということはできない。

(9-2)審判請求人の主張について
a 審判請求人は、審判請求書19?22頁の「(7)構成要件8-A等に相当する構成」において、図1に示すような輸液容器を用い、ビタミンの安定性を確認した実施例1の糖含有液(【0056】)、アミノ酸含有液(【0057】)、ビタミン含有液(【0058】)の配合量の記載と図1の実施形態の【0025】の微量元素の記載から計算によって、「収容室23」及び「収容室24」並びに「収容容器30」を構成する全ての「区画室28」を外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成を示し、36頁「(8)本件発明8 ア 構成要件8-A」において、構成を全て備えて相当している旨主張している。

b しかしながら、そもそも、実施例1の記載は、図1に示すような輸液容器を用いたものであるし、【0025】の微量元素に関しては含有量の記載があるだけである。
甲1輸液製剤発明は【図5】及び【図6】の実施形態を前提とするものであるのだから、そのような計算が成り立つとはいえないし、「収容室23」及び「収容室24」並びに「収容容器30」に収容されている具体的成分組成の記載が全くないにもかかわらず、それらが記載されているとはいえないのは上述のとおりである。
よって、上記審判請求人の主張は採用できない。

(9-3)本件訂正特許発明8の特許法第29条の2の判断(拡大先願)についての小括
本件訂正特許発明8は、その特許出願の日前の他の特許出願(甲第1号証)であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないため、無効とすることはできない。

(10-1)本件訂正特許発明9と甲1輸液製剤発明との対比
ア 本件訂正特許発明9は、本件訂正特許発明8において、「さらに、ビタミンB_(1)0.4?30mg/L、ビタミンB_(2)0.5?6.0mg/L、ビタミンB_(6)0.5?8.0mg/L、ビタミンB_(12)0.5?20μg/L、ニコチン酸類5?80mg/L、パントテン酸類1.5?35mg/L、葉酸50?800μg/L、ビタミンC12?200mg/L、ビタミンA400?6500IU/L、ビタミンD0.5?10μg/L、ビタミンE1.0?20mg/L、ビタミンK0.2?4mg/L、ビオチン5?120μg/Lを含有すること」を特定したものである。
本件訂正特許発明9と甲1輸液製剤発明とを対比すると、前記本件訂正特許発明2と甲1輸液製剤発明との対比において認定したのと同一の各相違点(相違点9-1?相違点9-3)に加えて、以下の相違点を有する。

相違点9-4 本件訂正特許発明9は、複数の全ての室および収容容器を、外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成が、ブドウ糖50?400g/L、L-ロイシン0.8?10.0g/L、L-イソロイシン0?7.0g/L、L-バリン0.3?8.0g/L、L-リジン0.5?7.0g/L、L-スレオニン0.3?4.0g/L、L-トリプトファン0.08?1.5g/L、L-メチオニン0.2?4.0g/L、L-フェニルアラニン0.4?6.0g/L、L-システイン0.03?1.0g/L、L-チロシン0.02?1.0g/L、L-アルギニン0.5?7.0g/L、L-ヒスチジン0.3?4.0g/L、L-アラニン0.4?7.0g/L、L-プロリン0.2?5.0g/L、L-セリン0?3.0g/L、グリシン0.3?6.0g/L、L-アスパラギン酸0?2.0g/L、L-グルタミン酸0?3.0g/L、ナトリウム20?80mEq/L、カリウム10?40mEq/L、マグネシウム2?20mEq/L、カルシウム2?20mEq/L、リン2?20mmol/L、塩素20?80mEq/L、鉄2?200μmol/L、銅0.5?40μmol/L、マンガン0?10μmol/L、亜鉛2?300μmol/L、ヨウ素0?5μmol/L、であること、及びさらに、ビタミンB_(1)0.4?30mg/L、ビタミンB_(2)0.5?6.0mg/L、ビタミンB_(6)0.5?8.0mg/L、ビタミンB_(12)0.5?20μg/L、ニコチン酸類5?80mg/L、パントテン酸類1.5?35mg/L、葉酸50?800μg/L、ビタミンC12?200mg/L、ビタミンA400?6500IU/L、ビタミンD0.5?10μg/L、ビタミンE1.0?20mg/L、ビタミンK0.2?4mg/L、ビオチン5?120μg/Lを含有することを特定しているのに対して、甲1輸液製剤発明においては、複室容器の複数の収容室と複数の区画室に対して、外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成を特定はしていない点

イ 相違点9-4に関して、本件訂正特許発明8の相違点8-4で検討したように、甲第1号証には、図1に示すような輸液容器を用い、ビタミンの安定性を確認した実施例1において、糖含有液(【0056】)、アミノ酸含有液(【0057】)、ビタミン含有液(【0058】)の配合量の記載と図1の実施形態の【0025】の微量元素の記載が存在しているものの、実施例1の記載は、図1に示すような輸液容器を用いたものであるし、【0025】の微量元素に関しては含有量の記載があるだけである。
甲1輸液製剤発明は【図5】及び【図6】の実施形態を前提とするものであるのだから、そのような成分組成に関して、「収容室23」及び「収容室24」並びに「収容容器30」に収容されている具体的成分組成の記載が全くない以上、それらが記載されているとはいえない。

また、本件訂正特許発明2の相違点の判断において検討したように、相違点9-1?相違点9-3は、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえず、実質的相違点である。

よって、甲1輸液製剤発明は、本願訂正特許発明9と同一であるということはできない。

(10-2)審判請求人の主張について
a 審判請求人は、審判請求書22?24頁の「(8)構成要件9-A等に相当する構成」において、図1に示すような輸液容器を用い、ビタミンの安定性を確認した実施例1の糖含有液(【0056】)、アミノ酸含有液(【0057】)、ビタミン含有液(【0058】)の配合量の記載と図1の実施形態の【0025】の微量元素の記載から計算によって、「収容室23」及び「収容室24」並びに「収容容器30」を構成する全ての「区画室28」を外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成を示し、38?39頁の「(9)本件発明9 ア 構成要件9-A」において、ビタミンKの含有量のみで相違していること、「(9)本件発明9 ウ 小括」において、ビタミンKの含有量の差は、甲第1号証の19頁1?3行の記載や甲第3号証の730?732頁の量の記載から実質的な相違点ではない旨主張している。

b しかしながら、本件訂正特許発明8において検討したように、そもそも、実施例1の記載は、図1に示すような輸液容器を用いたものであるし、【0025】の微量元素に関しては含有量の記載があるだけである。
甲1輸液製剤発明は【図5】及び【図6】の実施形態を前提とするものであるのだから、そのような成分組成に関する計算が成り立つとはいえないし、「収容室23」及び「収容室24」並びに「収容容器30」に収容されている具体的成分組成の記載が全くないにもかかわらず、それらが記載されているとはいえないのは、上述のとおりである。
また、実施例としてひとまとまりの成分組成として記載された輸液製剤の成分組成のうちビタミンKという一成分に関してだけ別の濃度に変更した、成分組成の輸液製剤を、甲第1号証に記載された発明ということはできない。

よって、上記審判請求人の主張は採用できない。

(10-3)本件訂正特許発明9の特許法第29条の2の判断(拡大先願)についての小括
本件訂正特許発明9は、その特許出願の日前の他の特許出願(甲第1号証)であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないため、その特許を無効とすることはできない。

(11-1)本件訂正特許発明10と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明との対比

本件訂正特許発明10と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明とを対比すると、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「複室容器」「容器本体」「収容室」「別の収容室」は、それぞれ、本件訂正特許発明10の「複室輸液製剤」「輸液容器」「室」「別室」に相当している。
また、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され」る「収容室」は、本件訂正特許発明10の「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室」であり、「前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であ」ることと、アミノ酸を含有する溶液を収容している室である限りにおいて共通している。
さらに、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「別の収容室に収容された」「複数の区画室を有して」「収容された収容容器」は、本件訂正特許発明10の「別室に」「収納された微量金属元素収容容器」と、「別室に」「収納された」「収容容器」である容器の構造の限りにおいて共通している。
また、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「輸液容器」において、「糖含有液及びアミノ酸含有液には、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素などの微量元素が含有されている」ことは、本件訂正特許発明10の「別室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収納された微量金属元素収容容器を収納し」ていることと、鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が輸液容器に何らかの形で収容されている限りにおいて共通している。

したがって、両者は「複室輸液製剤の輸液容器において、アミノ酸を含有する溶液を収容している室と別室に収容容器を収納し、上記輸液容器には、鉄、マンガンおよび銅を含む群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された輸液製剤の保存安定化方法」に関するものである点において一致し、次の3つの点において相違する。

相違点10-1 微量金属元素を含む液の収容場所及び材質について、本件訂正特許発明10においては、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に収納された微量金属元素収容容器に収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることが特定されているのに対して、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は、アミノ酸を含有する溶液が収容された収容室とは別の収容室に複数の区画室(収容容器)が収納されているものの、微量金属元素の収容場所は特定されておらず、複数の区画室(収容容器)の材質も不明である点

相違点10-2 複室に存在させる成分に関して、本件訂正特許発明10は、その一室に含まれる溶液がアセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、別室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では、アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され、複数の区画室(収容容器)には、少なくとも2種以上のビタミンが、少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように、別々に収容され、他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点

相違点10-3 本件訂正特許発明10は、輸液製剤が、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では、そのような特定のない点

上記相違点10-1?10-3は、本件訂正特許発明1と甲1輸液製剤発明との対比における相違点1-1?1-3と実質的に同じものである。

したがって、本件訂正特許発明1の相違点の判断において検討したように、相違点10-1?相違点10-3は、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえず、実質的相違点である。
よって、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は、本願訂正特許発明10と同一であるということはできない。

(11-2)本件訂正特許発明10の特許法第29条の2の判断(拡大先願)についての小括
本件訂正特許発明10は、その特許出願の日前の他の特許出願(甲第1号証)であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないため、その特許を無効とすることはできない。

(12-1)本件訂正特許発明11と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明との対比

本件訂正特許発明11と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明とを対比すると、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「複室容器」「容器本体」「収容室」「別の収容室」は、それぞれ、本件訂正特許発明11の「複室輸液製剤」「輸液容器」「室」「別室」に相当している。
また、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され」る「収容室」は、本件訂正特許発明11の「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室」であり、「前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であ」ることと、アミノ酸を含有する溶液を収容している室である限りにおいて共通している。
さらに、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「別の収容室に収容された」「複数の区画室を有して」「収容された収容容器」は、本件訂正特許発明11の「別室に」「収納された微量金属元素収容容器」と、「別室に」「収納された」「収容容器」である容器の構造の限りにおいて共通している。
また、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「輸液容器」において、「糖含有液及びアミノ酸含有液には、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素などの微量元素が含有されている」ことは、本件訂正特許発明11の「別室に銅を含む液が収納された微量金属元素収容容器を収納し」ていることと、微量金属元素を含む液が輸液容器に何らかの形で収容されている限りにおいて共通している。

したがって、両者は「複室輸液製剤の輸液容器において、アミノ酸を含有する溶液を収容している室と別室に収容容器を収納し、上記輸液容器には、微量金属元素を含む液が収容された輸液製剤の保存安定化方法」に関するものである点において一致し、次の3つの点において相違する。

相違点11-1 微量金属元素を含む液の収容場所及び材質について、本件訂正特許発明11においては、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている室とは別室に収容された微量金属元素収容容器に収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることが特定されているのに対して、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は、アミノ酸を含有する溶液が収容された収容室とは別の収容室に複数の区画室(収容容器)が収納されているものの、微量金属元素の収容場所は特定されておらず、複数の区画室(収容容器)の材質も不明である点

相違点11-2 複室に存在させる成分に関して、本件訂正特許発明11は、その一室に含まれる溶液がシステイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では、アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され、複数の区画室(収容容器)には、少なくとも2種以上のビタミンが、少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように、別々に収容され、他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点

相違点11-3 本件訂正特許発明11は、輸液製剤が、輸液容器が、ガスバリヤー性外袋に収納されているのに対して、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では、そのような特定のない点

上記相違点11-1?11-3は、本件訂正特許発明2と甲1輸液製剤発明との対比における相違点2-1?2-3と実質的に同じものである。

したがって、本件訂正特許発明2の相違点の判断において検討したように、相違点11-1?相違点11-3は、課題解決のための具体化手段の微差であって、新たな効果を奏するものではないとはいえず、実質的相違点である。
よって、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は、本願訂正特許発明11と同一であるということはできない。

(12-2)本件訂正特許発明11の特許法第29条の2の判断(拡大先願)についての小括
本件訂正特許発明11は、その特許出願の日前の他の特許出願(甲第1号証)であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないため、その特許を無効とすることはできない。

2 まとめ
本件訂正特許発明1?11は、その特許出願の日前の他の特許出願(甲第1号証)であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないため、その特許を無効とすることはできない。

第8 むすび
以上検討したように、本件訂正特許発明1?11に係る特許は、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
輸液製剤。
【請求項2】
外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤であって、
前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、
輸液製剤。
【請求項3】
微量金属元素収容容器が収納されている第1室と、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている第2室とが、連通可能な隔壁手段を介して隣接していることを特徴とする請求項1または2に記載の輸液製剤。
【請求項4】
外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器を収納している室に、糖質輸液または/および電解質輸液が充填されていることを特徴とする輸液製剤であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
輸液製剤。
【請求項5】
第1室または第2室に、ビタミン収容容器が収納されていることを特徴とする請求項3または4に記載の輸液製剤。
【請求項6】
微量金属元素収容容器またはビタミン収容容器と、それを収納している室とが、外部からの押圧によって連通可能であることを特徴とする請求項1?5に記載の輸液製剤。
【請求項7】
第1室または第2室に充填されている溶液が、さらにビタミンを含有していることを特徴とする請求項3?5に記載の輸液製剤。
【請求項8】
複数の全ての室および収容容器を、外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成が、ブドウ糖50?400g/L、L-ロイシン0.8?10.0g/L、L-イソロイシン0?7.0g/L、L-バリン0.3?8.0g/L、L-リジン0.5?7.0g/L、L-スレオニン0.3?4.0g/L、L-トリプトファン0.08?1.5g/L、L-メチオニン0.2?4.0g/L、L-フェニルアラニン0.4?6.0g/L、L-システイン0.03?1.0g/L、L-チロシン0.02?1.0g/L、L-アルギニン0.5?7.0g/L、L-ヒスチジン0.3?4.0g/L、L-アラニン0.4?7.0g/L、L-プロリン0.2?5.0g/L、L-セリン0?3.0g/L、グリシン0.3?6.0g/L、L-アスパラギン酸0?2.0g/L、L-グルタミン酸0?3.0g/L、ナトリウム20?80mEq/L、カリウム10?40mEq/L、マグネシウム2?20mEq/L、カルシウム2?20mEq/L、リン2?20mmol/L、塩素20?80mEq/L、鉄2?200μmol/L、銅0.5?40μmol/L、マンガン0?10μmol/L、亜鉛2?300μmol/L、ヨウ素0?5μmol/Lであることを特徴とする請求項2に記載の輸液製剤。
【請求項9】
さらに、ビタミンB_(1)0.4?30mg/L、ビタミンB_(2)0.5?6.0mg/L、ビタミンB_(6)0.5?8.0mg/L、ビタミンB_(12)0.5?20μg/L、ニコチン酸類5?80mg/L、パントテン酸類1.5?35mg/L、葉酸50?800μg/L、ビタミンC12?200mg/L、ビタミンA400?6500IU/L、ビタミンD0.5?10μg/L、ビタミンE1.0?20mg/L、ビタミンK0.2?4mg/L、ビオチン5?120μg/Lを含有することを特徴とする請求項8に記載の輸液製剤。
【請求項10】
複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
保存安定化方法。
【請求項11】
複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって、
前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、
保存安定化方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-09-18 
結審通知日 2019-09-24 
審決日 2019-10-07 
出願番号 特願2002-7821(P2002-7821)
審決分類 P 1 113・ 16- YAA (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安居 拓哉  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 瀬良 聡機
冨永 保
登録日 2008-08-15 
登録番号 特許第4171216号(P4171216)
発明の名称 含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤  
代理人 井上 義隆  
代理人 設樂 隆一  
代理人 塚原 朋一  
代理人 小曳 満昭  
代理人 桝本 高廣  
代理人 川田 篤  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 吉住 和之  
代理人 設樂 隆一  
代理人 桝本 高廣  
代理人 小曳 満昭  
代理人 吉住 和之  
代理人 塚原 朋一  

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