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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
管理番号 1373002
審判番号 無効2020-800035  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-03-31 
確定日 2021-04-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第4517146号発明「化合物の分解方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4517146号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成16年10月14日(国内優先権主張 平成15年10月17日)の出願であって、平成22年5月28日に特許権の設定登録がされたものである。

そして、その後の主な経緯は次のとおりである。

令和 2年 4月 1日受付:無効審判請求(請求人)
同年 7月28日提出:審判事件答弁書(被請求人)
同年 8月 3日提出:手続補正書(被請求人)
同年10月12日付け:通知書(特許庁審判長から請求人及び被請 求人双方に対して)
同年11月26日提出:上申書(請求人)
同年11月26日提出:上申書(被請求人)
同年12月11日 :口頭審尋
同年12月17日提出:上申書(被請求人)


第2 本件発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、順に、「本件発明1」のようにいう。また、総称して、「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
酸化物半導体を真性体領域以上に加熱して正孔キャリヤーを大量に発生させ、被分解化合物をこれに接触させ、酸素の存在下で正孔キャリヤーの酸化力により被分解化合物を完全分解することを特徴とする化合物の分解方法。
【請求項2】
請求項1により特徴付けられる分解反応が、正孔キャリヤーが酸化物半導体を真性体領域以上に加熱して大量に生成する第1工程と、被分解化合物を前記加熱された酸化物半導体に接触させフラグメント化する第2工程と、前記フラグメント化された被分解化合物を酸素の存在下で完全に燃焼分解する第3工程と、からなることを特徴とする化合物の分解方法。」


第3 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第4517146号発明の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、おおむね次の無効理由(口頭審尋において整理されたもの)を主張している。

(1) 無効理由1(実施可能要件)
本件の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。

その具体的理由は、概略次のとおりである。

ア 本件特許明細書は、「前処理」の開示がいっさいなく、実施例1?19を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解できないので、当業者が実施することができる程度に記載されておらず、迅速かつ完全に分解できるという所期の作用効果を奏することができる記載となっていない。(審判請求書第25頁(イ-1)「前処理」)

イ 本件特許明細書は、「分解時間」の開示がいっさいなく、実施例1?19ではどの程度の分解時間を従来技術と比較して迅速に達成することができたのか、当業者が実施することができる程度に記載されておらず、迅速かつ完全に分解できるという所期の作用効果を奏することができる記載となっていない。(審判請求書第25頁(イ-2)「分解時間」)

ウ 本件特許明細書の全ての実施例は、「酸化物半導体の重量」及び「被分解化合物の重量」の開示がなく、実施例1?19を実施しようとした場合に、どの程度の量の酸化物半導体がどの程度の量の被分解化合物を迅速かつ完全に分解することができるか理解することができず、迅速かつ完全に分解できるという所期の作用効果を奏することができる記載となっていない。(審判請求書第26頁(イ-3)「酸化物半導体の重量」及び「被分解化合物の重量」)

エ 実施例18?19では、被分解化合物に対して3/10という少量の酸化物半導体である二酸化チタンで被分解化合物をアルミナるつぼ中で、どのような工程であるか当業者が実施可能な程度に記載されていない二酸化チタンの前処理により、少量の二酸化チタンで、大容量比の被分解化合物を完全分解できたと記載されているものの、迅速に分解できたかは開示されていないから、迅速かつ完全に分解できるという所期の作用効果を奏することができる記載となっていない。(審判請求書第26頁(イ-4)酸化物半導体と被分解化合物の混合比)

(2) 無効理由2(サポート要件)
本件の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。

その具体的理由は、概略次のとおりである。

ア 本件特許明細書は「前処理」の開示がないので、発明の詳細な説明の記載が、当業者において当該発明の課題である被分解化合物の完全分解が解決されるものと認識することができる程度のものではない。
したがって、本件特許発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。(審判請求書第28頁(イ-1)「前処理」)

イ 本件特許明細書は「分解時間」の開示がないので、発明の詳細な説明の記載が、当業者において当該発明の課題である被分解化合物の完全分解が解決されるものと認識することができる程度のものではない。
したがって、本件特許発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。(審判請求書第28頁(イ-2)「分解時間」)

ウ 本件特許明細書は「酸化物半導体の重量」及び「被分解化合物の重量」の開示がないので、発明の詳細な説明の記載が、当業者において当該発明の課題である被分解化合物の完全分解が解決されるものと認識することができる程度のものではない。
したがって、本件特許発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。(審判請求書第29頁(イ-3)「酸化物半導体の重量」及び「被分解化合物の重量」)

また、請求項1を引用して記載する請求項2に係る発明についても同様に、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものではない。

2 証拠方法
請求人は、下記甲第1ないし4号証(枝番を含む)を証拠方法として提出した。

甲第1号証 石原産業株式会社のHP
(https://www.iskweb.co.jp/products/functional05.
html)
甲第2号証 工業技術研究所研究報告書 Vol.2 2002,75-79頁、近畿 大学工業研究所、2002年5月発行
甲第2-1号証 甲第2号証の3.2?3.3の訳文
甲第3号証 欧州特許出願公開第1252940号明細書
甲第3-1号証 甲第3号証の段落0055?0060の訳文
甲第4号証 特開2005-307007号公報


第4 被請求人の主張の概要及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、請求人が主張する上記無効理由1及び2はいずれも理由がない旨主張している。

2 証拠方法
被請求人は、下記乙第1ないし6号証(枝番等を含む)を証拠方法として提出した。

乙第1号証 会報光触媒11号、64-67頁、光機能材料研究会、 2003年7月7日発行
乙第2の1号証 Physics of Solid, pp.258-259 McGraw-Hill Book
Company,Inc.
乙第2の2号証 乙第2の1号証の訳文
乙第3の1号証 Journal of The Electrochemical Society,148(11) J55 -J58(2001)、The Electrochemical Society,Inc. 20 01年9月21日発行
乙第3の2号証 乙第3の1号証の訳文
乙第4号証 特開2002-363337号公報
乙第5の1号証 請求人と甲第3号証出願人との関係を示す図と説明、水 口仁、2020年7月13日作成
乙第5の2号証 電子メール(件名)EcoRevo-22プラスチック 分解システム:「分解メカニズム」の記述について、水 口仁、2007年7月9日
乙第5の3号証 電子メール(件名)8月13日のメールに対する返信で す。(草津電機 西村)、西村雅宏、2007年8月1 3日
乙第6号証 米国特許第7034198号明細書
乙第6号証訳文 乙第6号証の訳文


第5 当審の判断
1 本件特許明細書における記載
職権で調査したところによれば、本件特許に係る出願の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)には次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体を用いた化合物の分解方法に関するもので、半導体を真性体領域にまで加熱して飛躍的に生成する正孔キヤリヤーの強力な酸化力を利用するものである。
【背景技術】
【0002】
以下、本発明を主としてポリマーの分解方法を例にとって説明すると、使用済みのポリマー成形物を廃棄処理するために、ポリマーのリサイクルや分解が知られている。例えば、ポリマー成形物を加熱により分解しようとする場合、かなりの高温を必要とするため、そのエネルギーの損失が高いうえ、処理する炉を傷めたり、公害等の環境の低下をひき起こす恐れがある。そのため、常温で処理できる微生物を利用した分解が提案されている。しかし、微生物を利用して分解させる場合、その分解処理をするのにかなりの時間を要している。
【0003】
近年に至り、太陽光を利用し分解させる方法が検討されるようになり、二酸化チタン超微粒子等の半導体(以下、二酸化チタンにて代表する)をポリマーに混合し、太陽光により分解する、いわゆる光触媒(光による電子と正孔の生成)効果を利用した光分解性ポリマー組成物も注目されている(特許文献1、2)。
【0004】
【特許文献1】特開平8-001806号公報
【0005】
【特許文献2】特開平9-194692号公報
【0006】
ポリマー中に配合される二酸化チタンの混合の方法は、機械的な溶融混練、例えば押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等を用いて直接混合して製品とするか、一旦ペレット化する等の方法により行われている。しかるに、二酸化チタン超微粒子の一つ一つは目に見えない大きさであるが、その表面エネルギーが大きいために粒子同士の凝集や、凝集した粒子同士が結合して大きな粒子となりやすく、かかる二酸化チタンを配合した分解性ポリマーにて成形物を作製する際、二酸化チタンの凝集は避けられない。
【0007】
かかる二酸化チタンの粒子同士の凝集を阻止するために特許文献3が提案され、二酸化チタンが凝集することなく配合することによって成形物と、そのポリマーの分解廃棄方法が提案されている。
【0008】
【特許文献3】特開平9-309959号公報
【0009】
かかる技術によれば、そのポリマーの分解廃棄時にあっては、紫外線を照射することによって分解することと共に、微生物による分解方法が併用されている。これは二酸化チタンを活性化させるために太陽光を用いたのでは、ポリマーに対する分解反応が遅くて実用化が難しく、このため、他の分解力、例えば微生物の力を併用して自然界にリサイクルしようとするものである。
【0010】
次に、別例をもって廃棄処理について述べると、例えば、工場からの排気に含まれる揮発性有機化合物(VOC)の除去には大別して燃焼法、吸着法、又は気化回収法等が行われているが、いずれも装置の価格が高く、ランニングコストも多大である等の欠点を有している。
【0011】
又、食品加工工場や各種厨房からの排気、更には、一般の工場にあっても悪臭を発する工場からの排気、更には医療機関、老人ホーム等の室内環境における悪臭除去には、吸着法やオゾンによる酸化法、更には芳香剤による感覚的な方法もあるが、いずれも装置コストやランニングコスト又は効果の面で問題がある。
【0012】
前記段落0010及び同0011に代表例として記載したようないわゆる環境汚染物質の分解・除去に対し、二酸化チタンを光触媒として用い、紫外線を照射する方法が一部用いられているが、分解効率が低いため、極めて汚染が希薄な場合か、又は他の方法と併用する等して用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は以上のような各種の分解廃棄する方法とは異なり、その分解を迅速かつ完全ならしめる方法を提供するもので、一般の有機化合物やポリマー等を半導体の真性体領域で大量に生成する正孔キャリヤーの酸化力を利用して完全に酸化分解するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨は、酸化物半導体を真性体領域以上に加熱して正孔キャリヤーを大量に発生させ、被分解化合物をこれに接触させ、酸素の存在下で正孔キャリヤーの酸化力により被分解化合物を完全分解することを特徴とする化合物の分解方法であり、これを更に具現化すれば、かかる分解反応が、正孔キャリヤーが酸化物半導体を真性体領域以上に加熱して大量に生成する第1工程と、被分解化合物を前記加熱された酸化物半導体に接触させフラグメント化する第2工程と、前記フラグメント化された被分解化合物を酸素の存在下で完全に燃焼分解する第3工程と、からなることを特徴とする化合物の分解方法にかかるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、被分解化合物を迅速にかつ完全に酸化分解できるもので、熱可塑性のポリマーを例にとれば、これを溶融する炉さえあれば良く、勿論、熱硬化性のポリマーであっても、ポリマー以外の化合物であっても分解可能であり、その実用性は極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
さて、二酸化チタン粉末のポリカーボネート(PC)分散膜を作製すると、かかる膜は一瞬にして黄変し、更にこの膜を蛍光灯下に放置すると黄変していたPC膜は本来の白色に戻るという現象をつかんだ。これを解明するために研究した結果、この分散膜に示差熱分析を行うと、図1に示すように250?350℃で極めて大きなエネルギー(1778J/g)を放出し、一瞬にして灰化することを知見した。尚、前記の黄変はPC中に含まれる酸化防止剤が酸化され、キノイド系化合物になったものである。
【0017】
本発明者等は、かかる知見に着目し、この二酸化チタンの熱により生成する正孔キヤリヤー(電子及び正孔)について検討を重ねた結果、二酸化チタンのバンドギャップは3.2eV程度であるので、室温近傍でのキヤリヤーはわずかしか存在しないが、250?350℃の高温域下においてはキヤリヤーが極めて多く生成することを見出した。このキヤリヤーの数はフェルミ・デイラック統計分布と状態密度の積によって原理的には決まる量である(非特許文献1?3)。
【0018】
この様子を示したのが図2である。図2は不純物半導体の電気伝導度(電子と正孔)の対数を温度の逆数に対してプロットした所謂アレニウス・プロットである。温度が低い領域は不純物領域と呼ばれ、ここではドナーやアクセプターのイオン化に基づくキャリヤーが電気伝導を支配する。通常のトランジスターや半導体レーザー等はこの領域を利用している。更に温度を上げると、ドナーとアクセプターは完全にイオン化し、出払い領域(exhaustion region) と呼ばれる電気伝導度が一定の領域に入る。この温度領域を超えると、電子は価電子帯から伝導帯に熱的に励起され、キャリヤー(電子と正孔)の数はフェルミ・ディラック分布則で示されるように温度と共に指数関数的に増加する真性体領域(intrinsic region)となる。この真性体の温度領域で生成するキャリヤーをプラスティックをはじめとする化合物の分解に利用するのが本システムである。
【0019】
【非特許文献1】Charles Kittel著:固体物理学入門(第7版)第8章半導体:丸善
【0020】
又、更に詳しい本発明の技術的背景は次の非特許文献2、3に示されている。
【0021】
【非特許文献2】Jin Mizuguchi: Titanium dioxide as a combustion-assisting agent, J. Electrochem. Soc. 148, J55-58 (2001)
【0022】
【非特許文献3】Jin Mizuguchi and Toshihiro Shinbara: Disposal of used optical disks utilizing thermally-excited holes in titanium oxide at high temperatures: a complete decomposition of polycarbonate, J. Appl. Phys. 96, 3514-3519 (2004)
【0023】
本発明は上記の知見に基づいてこれを有機物、ポリマー、ガス体等の分解・廃棄に利用したものであり、特に言えば、極めて酸化力の強い正孔キャリヤーをポリマーの酸化分解に利用したもので、真性体領域の高温下で二酸化チタンに熱励起された正孔キャリヤーが、溶融状態にあるPCを連続的に酸化することを利用し、酸素の存在下、PCを溶融状態(約250?400℃)に置き、この温度で大量に形成されるキヤリヤーを利用してPCの完全分解を達成せんとするものである。本発明の具体的利用法としては、使用済の光ディスク(PC)の廃棄処分が目的となるが、種々の有機物、ポリマー、これらの混合物も分解可能となる。又、ダイオキシン、PCB等の低分子化合物や臭気ガスの分解除去にも有効である。
【0024】
(ポリマーの種類)
本発明で分解される有機化合物のうち、ポリマーとしては、金属酸化物の表面に強く吸着するようなカルボニル基にて代表される極性基を有するものが好ましいが、無極性ポリマーにあっても十分効果をもたらす。又、ポリマーの融点は400℃以下ものであることが好ましい。こうしたポリマーとしては熱可塑性樹脂であり、例えばPC、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、PET樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリイミド、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、石油樹脂、AS樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、塩化ビニリデン樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリブテン、フッ素樹脂、ポリアクリレート等を例示することができる。これら有機化合物は、溶融状態にて半導体と接触することになる。
【0025】
又、熱可塑性樹脂に比べ分解の温度は上がるが、熱硬化型の樹脂であるフェノール樹脂、ウレタンフォーム、ポリウレタン、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂等にも有効である。又、上述の種々のポリマーの混合物でも本方法が適用できる。更に、本発明はポリ塩化ビニルを代表とするハロゲン分子含有ポリマーの分解にも有効であり、その際発生する生成物は水、炭酸ガス及び塩素が主成分となるので、塩素は何らかの方法で捕集する必要がある。このようなハロゲン含有ポリマーの分解においても、生成物中にはダイオキシン等何らの有害な有機ハロゲン化物を生成しないことは特記すべきことである。
【0026】
(熱可塑性ポリマーの分解)
a)押出機方式
本発明によりポリマーを連続的に分解するには、一軸押出機、二軸押出機やKCM(神戸製鋼製)等のポリマー用混練機を利用することができる。例えば一軸押出機ではシリンダーに加熱及び冷却装置を備え、又、前半部に空気の圧入装置、中間部及び後半部に気体の排出口を設ける。前半部分を分解に必要な温度まで昇温し、後半部を水を通して冷却しつつホッパーにより二酸化チタンとポリマーの混合物を投入する。ポリマーは前半部から後半部にかけて分解され、生成した水及び炭酸ガスは排出口より排出される。二酸化チタンは押出機の先端より回収される。運転のコントロールは、シリンダー温度が一定に保たれるよう加熱・冷却の調整を行うこと及びホッパーよりの原料の供給スピードにより行われる。二軸押出機も同様の方法で行われるが、二軸であるためシリンダー内で物質移動やガス排出等がより効率良く行われ、更に二酸化チタンをサイドフィードで別個に添加することも可能であり、一軸に比べ容易に良好な運転状況が得られる。KCMにあっても、二酸化チタンとポリマーの混合物をホッパーより供給し、運転開始時には加熱を必要とするが、以後は自己発熱による運転が可能で、冷却のみと原料供給量のコントロールのみで定常的な運転が行われる。
【0027】
b)ヒートローラー方式
熱可塑性ポリマーは種類により高い粘性を示すものがあり、二酸化チタン表面と熱可塑性ポリマーの接触が十分に行われ難いことがある。このような場合にはヒートローラー方式等が有効である。例えば300℃に加熱された一対のヒートローラーの上部より、酸化チタンとポリマーの混合物を供給し、ヒートローラーの間に巻き込むようにする。酸化チタンとポリマーの混合物はこの隘路を通過する際に接触頻度が飛躍的に向上し、ポリマーは効率よく分解される。このヒートローラーを多段階に設置し、最終ローラーから排出された混合物は(必要があれば新たにポリマーをチャージして)最初のローラーに戻し、逐次酸化分解を繰り返す。
【0028】
c)リアクター方式
上部に発生気体の排出口を持ち、ポリマー投入口、攪拌機、及び加熱・冷却装置を備えた円筒型の反応器を用いることもできる。反応器に二酸化チタンを入れ、予めポリマーの分解温度に加熱しておく。ここに攪拌しながらポリマーが粘結して攪拌が不可能にならない程度の早さでポリマーを投入してゆく。ポリマーの投入に伴い、加熱は不要となり、冷却しても系全体の温度が保てるようになる。以後はポリマーの投入量により温度を定常に保ちながら運転を続けることができる。この方法では定期的な二酸化チタンの入れ換えは必要であるが、押出機法のように常に排出され、その保管処理等の手数が掛からない点が有利である。尚、ここに例示した装置は攪拌機を備える代りに流動床を備えた装置でも良いことは勿論である。
【0029】
d)固定層型
二酸化チタンは粉体としてポリマーに混合するだけでなく、固定層としておき、これに接触させながらポリマーを通過させて分解することもできる。例えばハニカム構造を備えた二酸化チタン焼結体とし、加熱装置で加熱できるようにする。この装置を押出機先端に設備して加熱し、溶融ポリマーを通過させて分解を行うことができる。その際、ポリマーの種類等により押出機では押出圧が不足する場合は、更にギヤポンプ等を介して分解層を通過させることもできる。
【0030】
(熱硬化性ポリマーの分解)
熱硬化性ポリマーの分解も上記のc)の方法に準じて行われるが、通常はポリマーを微細に粉砕し、投入口より投入することとなる。尚、通常の熱硬化性ポリマーの燃焼処理は700?1000℃に加熱して行うが、燃焼炉の耐久性に問題が生ずるという点が指摘されている。しかるに、本発明にあっては、600℃以下の加熱で分解が可能であり、その効果は大きい。
【0031】
(気体の分解)
通常の触媒と同様、二酸化チタンの粉末を充填した層又は上記の焼結体等を加熱し、気体を通過させて分解することができる。
【0032】
(液体の分解)
二酸化チタン粉末を充填した層又は上記のハニカム焼結体、又はメンブレン焼結体等を加熱し液体を通過させる。但し、反応部の温度は液体の沸点以下にする必要がある。液体の沸点が低く、反応が難しい場合は先に液体を沸点以上に加温して気体として導き反応させることもできる。
【0033】
(半導体の種類)
以上、半導体として二酸化チタンをもって説明したが、使用できる半導体は、化合物の分解時で酸素雰囲気下にあっても安定な物質であり、例えば、次の化学式で示される物質等が挙げられる。ただし、各半導体のバンドギャップが異なるため有機化合物の分解温度はそれに伴い変化する。
BeO,MgO,CaO,SrO,BaO,CeO_(2),TiO_(2) ,ZrO_(2),V_(2)O_(5),Y_(2)O_(3),Y_(2)O_(2)S,Nb_(2)O_(5),Ta_(2)O_(5),MoO_(3),WO_(3),MnO_(2),Fe_(2)O_(3),MgFe_(2)O_(4),NiFe_(2)O_(4),ZnFe_(2)O_(4),ZnCo_(2)O_(4),ZnO,CdO,MgAl_(2)O_(4),ZnAl_(2)O_(4),Tl_(2)O_(3),In_(2)O_(3),SnO_(2),PbO_(2),UO_(2),Cr_(2)O_(3),MgCr_(2)O_(4),FeCrO_(4),CoCrO_(4),ZnCr_(2)O_(4),WO_(2),MnO,Mn_(3)O_(4),Mn_(2)O_(3),FeO,NiO,CoO,Co_(3)O_(4),PdO,CuO,Cu_(2)O,Ag_(2)O,CoAl_(2)O_(4),NiAl_(2)O_(4),Tl_(2)O,GeO,PbO,TiO,Ti_(2)O_(3),VO,MoO_(2),IrO_(2),RuO_(2)。
【0034】
なかでも、酸化物半導体が好ましく、特に二酸化チタンや酸化亜鉛は活性が高く、無害であるため安全性が優れるので、好ましく、特に、二酸化チタンの結晶形がアナターゼ型のものは活性が高いが、ルチル型のものでも良い。上記半導体は、熱が加えられると活性化し、樹脂成形品を酸化分解する機能を発現する。粒径は特に限定されないが、表面反応であるので比表面積が大きく、かつ、結晶性の高いものが好ましい。
【0035】
本発明の骨子は上記半導体と被分解物との接触反応であるから、上記半導体の比率を上げると被分解物との接触頻度が増し処理時間が短くなる。又、攪拌することによっても接触頻度は格段に上昇するので、分解に要する時間は大幅に短縮される。バッチ方式で処理を行うときの二酸化チタンの混入量は全体の10重量%以上が適当であるが、分解反応は10重量%以下の混合比(例えば3%)でも(処理時間は長くなるが)可能であることは言うまでもない。又、本発明においては、バッチ方式ばかりではなく、溶融した被分解物を上記半導体層に導き、この層を通過させることにより分解反応を連続的に行わせることが出来る。この場合には混合比は問題とならず、被分解物の通過速度が律速となる。
【0036】
(分解過程のメカニズム)
PCの分解は3段階で進行するものと考えられ、これが順次繰り返されてPC全体が速やかに完全酸化分解されるものと考えられる。勿論、半導体にあっては、真性体領域にまで加熱し、熱励起により酸化力の強い正孔キャリヤーを大量に発生させるのが条件である。
【0037】
第1段階:PC鎖は分子中の極性の高いカルボニル基と二酸化チタンの酸素欠陥サイトとの静電的な相互作用により二酸化チタン表面に接触する。
【0038】
第2段階:ここでPCが熱励起により生成した特に正孔キャリヤーにより酸化されPCのフラグメント化(低分子化)が起こる。
【0039】
第3段階:次に、フラグメント化された被分解物は、酸素下で完全に燃焼し、炭酸ガスと水とに完全分解される。
【0040】
二酸化チタン表面の電子の授受について言えば、熱励起された電子は、酸素を還元し、これが二酸化チタンの表面に吸着して上向きのバンドベンディング(バンドの湾曲)を誘起する。このバンドベンディングにより、熱励起された正孔キャリヤーは表面に集積し、PCを酸化する。電子による酸化還元のエネルギー準位は二酸化チタンの伝導帯の底よりも約0.13eV上方に位置しているから、この反応は活性化過程である。しかしこの反応は350℃の状態では十分に達成されていると考えられる。これに対して正孔キャリヤーの表面への移動はバリヤフリー過程である酸化反応が効率良く起こりPCが分解されるものと考えられる。
【0041】
(二酸化チタンの再生)
熱励起で生じた正孔キャリヤーが二酸化チタンの表面に拡散することが酸化効果の前提である。そして、酸素下で500℃で1時間焼成することにより容易に再生することができる。活性の高い二酸化チタンは表面に酸素が吸着し(O_(2)^(-))、バンドが上方にベンディングしている。従って、熱励起で生成した正孔キャリヤーが表面に拡散し、表面でポリマー等を酸化分解することができる。しかし、表面が無機物などの分解生成物で覆われてしまうと正孔キャリヤーが表面に拡散することができず活性を失う。この状態は白色顔料として使用されている不活性の二酸化チタンの表面状態と類似している。このような状態の二酸化チタンを再生するには十分な温度と十分な酸素で表面に付着した分解生成物を除去する必要がある。勿論、他の半導体も同様に処理可能である。
【実施例】
【0042】
(比較例)
通常の樹脂成形物に用いられているPC(帝人化成:AD-5503)は、分子量が1.5?2万程度であり、数10ppmの酸化防止剤や安定剤としての金属石けんが含まれている。そして、PCを試験管に入れ、空気中で加熱して分解過程を観察すると、約200℃あたりからPCが溶融し、その後温度の上昇と共に沸騰状態となり、約450℃で分解して黒色の炭化物となる。尚、この過程の示差熱分析を行うと、僅かな発熱を伴い、図1に示すような曲線となる。
【0043】
(実施例1)
二酸化チタン(石原産業:ST-01)を用いてPCの分解実験を行った。
【0044】
(PCの分解)
このような前処理を施した二酸化チタンとPCを5:1で混合したものを測定試料とした。この試料をアルミナるつぼに入れ、空気中、マッフル炉で室温から昇温した。かかる白色の混合物は、200℃近傍から褐色となり、300℃を越えるあたりから赤褐色になり、ガスを放出して一気にPCの分解が進行した。反応後に白色の二酸化チタンのみが残存した。
【0045】
(ガス分析)
発生したガスを質量分析計にて測定した。その結果、二酸化チタンの製造過程で使用する窒素、PC中に含まれる滑剤としての金属石けんのCa、そして炭酸ガス及び水であった。即ち、この結果、酸素の存在下ではPCは完全に炭酸ガスと水とに分解されることが分かった。
【0046】
一方、真空下にて分解反応を行った場合には、種々のフラグメントが観測され、分解反応が不均一であることが判明した。
【0047】
(実施例2)
二酸化チタンと粉砕したPCを10:3で混合したものを測定試料とし、段落番号・0044に記載の実施例と同様の方法で分解を行った。試料は300℃を超えるあたりから赤褐色となりガスを放出して一気に分解した。反応後には二酸化チタンのみが残存した。生成したガスを質量分析計にて測定した結果、窒素及びポリマー添加物に由来すると思われる物質を除くと炭酸ガスと水であった。
【0048】
(実施例3?17)
実施例1に準じ、実施例3?17として、表1に被分解物と半導体の各種組み合わせで行った実施例を挙げる。
【0049】
【表1】

【0050】
(実施例18?19)
実施例1に準じ、熱硬化性ポリマーの分解を行った。実施例18にあっては、エポキシ樹脂を被分解物とし、実施例19にあっては、FRP(ポリエステル樹脂)を被分解物とした。後者は不飽和ポリエステル樹脂30重量部中に充填剤として炭カル30重量部、ガラス短繊維38重量部を含み、硬化剤にてFRPとしたものである。
上記の被分解物を粉状体とし、これに二酸化チタンを十分に混合した(混合比は10:3である)。その後、450?550℃にて加熱したところポリマーは完全に分解し、実施例19にあっては、充填剤がそのまま残った。
【0051】
(実施例20)
アンモニアの分解を行った。先ず、二酸化チタンのハニカム燒結体を内部に充填した反応管を150℃に保ちつつ、空気中に200ppmのアンモニアを含む混合気体を通したところ、排出気体は官能試験の結果、アンモニア臭は検出されなかった。NOxやSOx、メルカプタン、硫化水素、ピリジン等も同様に分解され、その臭気は完全に消えた。
【0052】
(実施例21)
厨房、食堂、工場、医療室、化学実験室等での臭気や各種エンジンからの臭気および有害ガスを捕集し、上記したようなハニカム構造に二酸化チタン粉末を配置し、かつバンドフィルター等で加熱可能な装置に捕集したガスを導いた。臭気や有害物は二酸化チタンの高温で生成する正孔により直ちに完全分解され、炭酸ガスと水に分解した。
【0053】
(実施例22)
化学系工場、塗装や印刷工場等からの揮発性有機化合物(VOC)を含む排気を、二酸化チタンの固定層を備えた処理層に導くことにより容易に排気中のVOCの低減が達成された。
【0054】
(実施例23)
トリクロルエタンやトリクロルエチレン等で汚染された土壌を加熱装置で100?300℃に加熱し、低分子のトリクロルエタン等をガス化して捕集する。次に、捕集されたガスを加熱機能をもつハニカム構造を備えた酸化チタンの焼結体(例えば300?600℃に加熱)を通過させ、完全に炭酸ガス、水、塩素ガスに分解した。尚、塩素ガスに関しては別途ガスの捕獲を行う必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0055】
(ポリマー廃棄物への利用)
本発明は以上の通りであり、半導体を加熱すると極めて大きな熱エネルギーがもたらされることを利用し、各種ポリマーの分解廃棄が図られることになり、しかも炭酸ガスと水とに完全分解されることから、環境を破壊することのない優れた方法が提供できたものである。又、予め所定量を配合して分解性ポリマーとすることも可能であり、その応用範囲は極めて広い。
【0056】
(複合素材)
本発明によれば、各種ポリマーの混合物でも問題なく完全分解が可能である。又、ポリマーと金属との複合素材、例えば金属のポリマーコーティング物やアルミフォイル等をバリヤー層とするバリヤーフィルム等に含まれるポリマーも完全に分解できる。更に、特殊な例として医療用廃棄物への利用がある。例えば、注射針のついた献血用のポリマー容器や点滴用の器具等も同様に分解できる。そして、最後に注射針を回収すればよい。注射針等の回収には磁石による分別や、篩を通して二酸化チタンのみを落とし、針を回収することが出来る。両者を併用することもできる。
【0057】
(ポリマー以外への利用)
a)脱臭装置(空気清浄装置)
厨房、食堂、工場、医療室、化学実験室等での臭気や各種エンジンからの臭気および有害物を除去し、空気の清浄化が望まれている。このような問題に対しても本発明により完全な脱臭・殺菌が可能である。
【0058】
b)揮発性有機化合物(VOC)低減装置
化学系工場、塗装や印刷工場等からの排気は低濃度、大排気量という特徴があり、既存の方法では経済的なVOC低減は難しいが、本発明によって容易に排気中のVOCの低減が達成され、経済的にも優れた方法となる。
【0059】
c)汚染土壌の処理
トリクロルエタンやトリクロルエチレン等で土壌が汚染され、大きな社会問題となっている。このような汚染土壌も本発明によれば土壌の再生が可能となる。
【0060】
尚、放出される熱エネルギーは別途エネルギー源(発電等)として利用することができることは言うまでもない。」

2 無効理由1(実施可能要件)について
(1) 実施可能要件の判断基準
本件発明は、上記第2のとおり「方法」の発明であるところ、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等にその方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。

(2) 明細書等の記載に基づく検討
そこで、上記(1)をふまえ、本件が、実施可能要件を満たすかについて検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の要旨として、「酸化物半導体を真性体領域以上に加熱して正孔キャリヤーを大量に発生させ、被分解化合物をこれに接触させ、酸素の存在下で正孔キャリヤーの酸化力により被分解化合物を完全分解することを特徴とする化合物の分解方法」であること(段落【0014】)、具体的には、「かかる分解反応が、正孔キャリヤーが酸化物半導体を真性体領域以上に加熱して大量に生成する第1工程と、被分解化合物を前記加熱された酸化物半導体に接触させフラグメント化する第2工程と、前記フラグメント化された被分解化合物を酸素の存在下で完全に燃焼分解する第3工程と、からなることを特徴とする化合物の分解方法にかかるもの」であること(段落【0014】)が記載されており、さらに、半導体の温度を上げて「真性体領域(intrinsic region)」とすることで「真性体の温度領域で生成するキャリヤーをプラスティックをはじめとする化合物の分解に利用する」ものである旨の記載(段落【0017】、【0018】)とともに、用いることができる半導体の種類(段落【0033】ないし【0034】)、分解処理の具体的な方法(段落【0026】ないし【0032】)、具体的な実施例(段落【0042】ないし【0054】)が記載されている。
しかも、酸化物半導体を真性体領域以上に加熱すると正孔キャリヤーが発生すること、正孔キャリヤー中の酸化力によって化合物が分解されることは、例を挙げるまでもなく技術常識であるといえる。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、半導体の温度を真性体の温度領域以上に加熱することにより正孔キャリヤーを発生させ、そのキャリヤーを利用して化合物の分解を行うことができることを理解するというべきである。
そして、本件発明は、「酸化物半導体を真性体領域以上に加熱して、正孔キャリヤーを大量に発生させ、被分解化合物をこれに接触させ、酸素の存在下で正孔キャリヤーの酸化力により被分解化合物を完全分解する」化合物の分解方法、すなわち、「酸化物半導体」の温度を「真性体領域以上に加熱」することにより、「正孔キャリヤー」を利用した化合物の分解方法であり、上述のとおり、当業者は本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載等に基づいて、その方法を使用することができるといえるのであるから、本件は、実施可能要件を満たすと判断される。

(3) 請求人の主張について
以下、請求人の主張について順次検討する。

ア 「前処理」について(上記第3 1(1)ア)
請求人の主張は要するに、実施例1ないし19を実施することができないことを前提とするものであるところ、実施可能要件を満たすか否かは上記(1)のとおり判断されるものであって、本件特許明細書の実施例の記載が実施可能であるか否か、換言すれば明細書に「前処理」の開示があるかどうかとは関係がない。
そして、本件発明が実施できることは、上記(2)で検討したとおりであり、請求人の主張はその前提において採用できない。

イ 「分解時間」について(上記第3 1(1)イ)
請求人の主張は要するに、被分解化合物を酸化分解するにあたり「迅速」に行うとはどの程度の「分解時間」を要するものであるのか分からないとの点を前提とするものであるところ、本件発明は、特許請求の範囲に記載のとおり、被分解化合物を完全分解できればよいものである。そして、本件特許明細書の記載に「迅速」の程度、すなわち「分解時間」についての具体的開示がないからといって、本件発明が実施可能要件を満たさないということにはならない。
請求人の上記主張は採用できない。

ウ 「酸化物半導体の重量」、「被分解化合物の重量」及び「酸化物半導体と被分解化合物の混合比」について(上記第3 1(1)ウ及びエ)
請求人の主張は要するに、完全分解するための「酸化物半導体の重量」、「被分解化合物の重量」、「酸化物半導体と被分解化合物の混合比」についての記載がないことを前提とするものであるが、実施にあたり、完全分解できる程度に「酸化物半導体の重量」、「被分解化合物の重量」、「酸化物半導体と被分解化合物の混合比」を調整することは、当業者にとって当然のことであって、適する条件を見出すことに過度の試行錯誤を要するものであるとはいえない。
請求人の上記主張は採用できない。

(4) むすび
以上のとおり、請求人が主張する無効理由1には理由がない。

3 無効理由2(サポート要件)について
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2) 明細書の記載に基づく検討
そこで、上記(1)をふまえ、本件が、サポート要件を満たすかについて検討する。
本件発明の課題は、本件特許明細書の段落【0013】の記載をふまえると、被分解化合物を迅速かつ完全に分解する方法を提供することである。
本件特許明細書には、上記2(2)で説示のとおり、酸化物半導体を真性体領域に加熱することにより、大量の正孔キャリヤーを発生させることで、酸素の存在下で被分解化合物を完全に酸化分解することについての記載があるものの、具体的な「分解時間」についての記載はない。
しかしながら、本件発明が、「半導体の真性体領域で大量に生成する正孔キャリヤーの酸化力を利用して完全に酸化分解する」ものである以上、半導体の「真性体領域」にいたらない領域で被分解化合物を分解するものに比して、より迅速に酸化分解が進むであろうことは、当業者であれば定性的に認識できるものであるといえる。
つまり、本件特許明細書の記載からは、「酸化物半導体を真性体領域に加熱」し、「酸素の存在下」であるとの構成を有することで、被分解化合物を迅速かつ完全に分解するという課題を解決できるものと当業者は認識する。
そして、本件発明は、「酸化物半導体を真性体領域以上に加熱」かつ「酸素の存在下」であるとの構成を有するから、サポート要件を満たすというべきである。

(3) 請求人の主張について
以下、請求人の主張について検討する。

請求人の上記「第3 1(2)」のア?ウの主張を総合すると、請求人は、要するに、「前処理」が不明であるとか、「分解時間」、「酸化物半導体の重量」や「被酸化物半導体の重量」についての開示がないことを前提に、本件発明はサポート要件を満たさない旨主張するものと解されるところ、サポート要件を満たすか否かは上記(1)で述べるところに基づき判断されるべきものである。
そして、本件発明がサポート要件を満たすといえるのは、上記(2)で検討・判断するとおりであって、請求人が前提として挙げる上記事実、例えば、本件特許明細書の段落【0044】の「前処理」の意味が不明であるという事実は、上記判断を何ら左右しないといえる。
請求人の上記主張は、採用できない。

(4) むすび
以上のとおり、請求人が主張する無効理由2には理由がない。


第6 結語
以上のとおり、無効理由1ないし2は何れも理由がなく、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1及び2についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-02-05 
結審通知日 2021-02-10 
審決日 2021-03-05 
出願番号 特願2004-300656(P2004-300656)
審決分類 P 1 113・ 536- Y (C08J)
P 1 113・ 537- Y (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増田 健司  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 植前 充司
神田 和輝
登録日 2010-05-28 
登録番号 特許第4517146号(P4517146)
発明の名称 化合物の分解方法  
代理人 庄司 晃  
代理人 金子 正彦  
代理人 庄司 隆  
代理人 庄司 寛  
代理人 大杉 卓也  

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