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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09D |
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管理番号 | 1373788 |
異議申立番号 | 異議2021-700052 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-15 |
確定日 | 2021-04-30 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6737456号発明「防汚塗料組成物、塗膜、及び塗膜付き基材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6737456号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6737456号の請求項1?8に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)1月20日(優先権主張 平成28年1月29日、日本)を国際出願日とする出願であって、令和2年7月20日にその特許権の設定登録がされ、同年8月12日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1?8に係る特許に対し、令和3年1月15日に特許異議申立人西郷新(以下、単に「申立人」ということもある。)が、特許異議の申立てを行った。 第2 本件発明 特許第6737456号の請求項1?8の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明8」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(a1)、及び重合性二重結合を有する重合性モノマー由来の構成単位(a2)を有するシリルアクリル系共重合体(A)、炭素数1?3の低級アルコール(B)、銅成分及び亜鉛成分を含有する防汚剤(C)、及びモノカルボン酸化合物(D)を含有する防汚塗料組成物であり、前記防汚塗料組成物中の前記低級アルコール(B)の含有量が0.643?3質量%であり、前記構成単位(a2)が、2-メトキシエチルアクリレート及び2-メトキシエチルメタクリレートから選択される少なくとも1種に由来する構成単位を含む、防汚塗料組成物。 【請求項2】 前記構成単位(a2)に対する前記構成単位(a1)の質量比[(a1)/(a2)]が40/60?95/5である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。 【請求項3】 前記防汚塗料組成物中の前記シリルアクリル系共重合体(A)の含有量が5?40質量%である、請求項1又は2に記載の防汚塗料組成物。 【請求項4】 前記シリルアクリル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が5,000?100,000である、請求項1?3のいずれかに記載の防汚塗料組成物。 【請求項5】 請求項1?4のいずれかに記載の防汚塗料組成物を硬化させた塗膜。 【請求項6】 請求項5に記載の塗膜を基材上に有する塗膜付き基材。 【請求項7】 前記基材が船舶である、請求項6に記載の塗膜付き基材。 【請求項8】 請求項1?4のいずれかに記載の防汚塗料組成物を基材に塗布又は含浸させることにより、塗布体又は含浸体を得る工程(1)、及び前記塗布体又は含浸体を乾燥することにより、前記防汚塗料組成物を硬化させる工程(2)を有する、塗膜付き基材の製造方法。」 第3 申立理由の概要 申立人は、下記2の甲第1?7号証を提出し、次の1について主張している(以下、甲号証は、単に「甲1」などと記載する。)。 1 申立ての理由 (1)特許法第17条の2第3項(同法第113条第1号) 令和2年5月28日付けの手続補正書において、「低級アルコール(B)の含有量」について、その下限値を「0.643」とする補正は、新たな技術的事項を導入するものであり、新規事項の追加である。 (2)特許法第29条第2項(同法第113条第2号) ア 甲1を主引例とする進歩性欠如 本件発明1?8は、甲1と、甲2及び甲6、7との組み合わせから容易に想到可能である。 イ 甲3を主引例とする進歩性欠如 本件発明1?8は、甲3と、甲2及び甲6、7との組み合わせから容易に想到可能である。 ウ 甲4を主引例とする進歩性欠如 本件発明1?8は、甲4と、甲2及び甲6、7との組み合わせから容易に想到可能である。 2 証拠方法 (1)甲1:国際公開第2015/156073号 (2)甲2:楠本化成株式会社作成、ディスパロンA630-20XNのMSDS、1993年 (3)甲3:特開2010-84099号公報 (4)甲4:特開2006-183059号公報 (5)甲5:東京化成のウェブサイトを印刷したもの(2019年9月17日印刷) (https://www.tcichemicals.com/ja/jp/product/index.htmlでの「Methoxyethyl Methacrylate」の検索結果) (6)甲6:国際公開第2014/175140号 (7)甲7:国際公開第2013/073580号 第4 当審の判断 1 特許法第17条の2第3項(同法第113条第1号)について (1)特許法第17条の2第3項は、「第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(第三十6条の2第2項の外国語書面出願にあつては、同条第八項の規定により明細書、特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第二項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては、翻訳文又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)。第三十4条の2第1項及び第三十4条の3第1項において同じ。)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定しているところ、「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる(知財高裁平成18年(行ケ)第10563号・平成20年5月30日判決参照)。 そこで、以上を前提として、以下において、「低級アルコール(B)の含有量」について、その下限値を「0.643」とする補正について検討する。 (2)本件明細書には、「低級アルコール(B)の含有量」について、次の記載がある。 「【0007】 発明者らが鋭意検討を行ったところ、シリル系の重合体を含む防汚塗料組成物においては、溶出助剤として用いるロジン等の1塩基酸と、防汚剤としての、例えば亜酸化銅や酸化亜鉛とが銅塩及び亜鉛塩を形成しており、この銅塩と亜鉛塩との比率が、塗膜の耐水性及び消耗性等に大きな影響を与えることを知見した。そして、更に検討を重ねたところ、亜鉛塩の比率が高くなると、高温条件下における塗膜の消耗量が大きくなり、反対に銅塩の比率が高くなると、高温条件下における消耗量を、常温条件下における消耗量と同程度に抑えることができることが判明した。そこで、本発明者らは、銅塩と亜鉛塩との比率の制御について研究を行ったところ、防汚塗料組成物中に低級アルコールを少量配合することにより、防汚塗料組成物中の銅塩の比率が高くなり、25℃程度の常温条件下だけでなく、30℃程度の高温条件下においても塗膜の消耗量を小さく抑えることができることを見出し、本発明を完成させた。本発明の要旨は以下のとおりである。」 「【0026】 〔低級アルコール(B)の含有量〕 防汚塗料組成物中の低級アルコール(B)の含有量は、0.1?3質量%である。低級アルコール(B)の含有量が前記範囲内であると、30℃程度の高温の水と接触する条件下における塗膜の消耗量を小さく抑えることができる。同様の観点から、低級アルコール(B)の含有量は、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.4質量%以上、より更に好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下、より更に好ましくは1.0質量%以下、より更に好ましくは0.9質量%以下、より更に好ましくは0.8質量%以下である。」 また、「塗膜の消耗量」について、次の記載がある。 「【0059】 実施例及び比較例の結果より明らかなように、本発明によれば、25℃程度の常温の水と接触する条件下における塗膜の消耗量を小さく抑えることができるだけでなく、30℃程度の高温の水と接触する条件下における塗膜の消耗量も小さく抑えることができ、長期間に亘って物性を維持することができる塗膜を形成するための防汚塗料組成物を提供することができる。」 (3)本件明細書の上記記載によれば、本件発明は、シリル系の重合体を含む防汚塗料組成物において、溶出助剤として用いるロジン等の1塩基酸と、防汚剤から形成される銅塩と亜鉛塩との比率が、塗膜の耐水性及び消耗性等に影響を与えるものであるという知見に基づき、防汚塗料組成物中に低級アルコールを少量配合することにより、25℃程度の常温条件下だけでなく、30℃程度の高温条件下においても塗膜の消耗量を小さく抑えることができることを見出すことによってなされたものであって、上記「低級アルコールを少量配合」の「少量配合」とは、「0.1?3質量%」であり、「0.5質量%以上」であれば、「更に好まし」いものとなることが理解できる。 しかしながら、本件明細書の記載からは、「低級アルコール(B)の含有量」について、その下限値を「0.643」とすることによって、塗膜の消耗量を小さく抑えることができる効果とは異なる効果を有するものとなったとは理解できないし、塗膜の消耗量が、際だって優れたものとなったとも理解することができない。 (4)そうすると、「低級アルコール(B)の含有量」について、その下限値を「0.643」とする補正は、補正前と補正後で発明の課題及び効果を同じくするものであって、新たな技術的事項を導入しないものであるというべきであり、当該補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。 したがって、申立人の上記特許法第17条の2第3項についての主張は理由がない。 2 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について (1)甲1、3、4及び7の記載 ア 甲1の記載 甲1には、「防汚塗料組成物、及びそれを塗装してなる塗装物品」(発明の名称)について、次の記載がある。 「[0001] 本発明は、防汚塗料組成物、及びそれを塗装してなる塗装物品に関し、さらに詳しくは、優れた防汚性を長期間維持することが可能な防汚塗膜を形成し得る防汚塗料組成物、及びそれを被塗物に塗装してなる塗装物品に関する。」 「[0069] [防汚塗料組成物及び塗装物品] 本発明の防汚塗料組成物は、前記ポリエステル樹脂(A)、前記シリルエステル基含有樹脂(B)及び前記防汚剤(C)を含む防汚塗料組成物であって、前記ポリエステル樹脂(A)と前記シリルエステル基含有樹脂(B)との質量比が3/97?80/20の範囲内であり、かつ、前記防汚剤(C)の含有量が前記ポリエステル樹脂(A)と前記シリルエステル基含有樹脂(B)との合計質量を基準として50?500質量%の範囲内であることを特徴とする。」 「[0072] 本発明の防汚塗料組成物は、上記のポリエステル樹脂(A)、シリルエステル基含有樹脂(B)及び防汚剤(C)のほかに、顔料、染料、脱水剤、可塑剤、搖変剤(タレ止剤)、消泡剤、酸化防止剤、前記ポリエステル樹脂(A)又は前記シリルエステル基含有樹脂(B)以外の樹脂、有機酸、溶剤などの一般的な塗料組成物に用いられている各種成分を、必要に応じて配合することができる。これらの成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。」 「[0078] 前記搖変剤としては、例えば、有機系ワックス(ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリアマイドワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス等)、有機粘土系化合物(Al、Ca、Znのアミン塩、ステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩等)、ベントナイト、合成微粉シリカなどが挙げられる。これらの搖変剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。防汚塗料組成物中の前記搖変剤の含有量は、適宜調整することができるが、例えば、ポリエステル樹脂(A)とシリルエステル基含有樹脂(B)との合計質量を基準として0.25?50質量%の範囲内である。」 「実施例 [0087] 以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。なお、下記実施例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。 [0088] ポリエステル樹脂(A)の製造 (製造例1) ポリエステル樹脂(A1)の製造 温度計、攪拌機及び精留塔を具備した2Lの反応装置に、PAを527.2部、NPGを267.2部、DEGを269.7部仕込み、反応装置の内容物温度を160℃まで昇温した。次いで160℃から230℃までを3時間で昇温し、230℃で2時間、内容物温度を保持した後、精留塔を水分離器と置換し、反応装置にキシレン約50.0部を仕込み、水とキシレンとを共沸させて縮合水を除去しながら重縮合を進めた。生成したポリエステル樹脂の酸価が1.0mgKOH/g以下であることを確認した後、加熱を停止して冷却を開始し、キシレンを添加して希釈することにより、固形分70%のポリエステル樹脂(A1)溶液を得た。なお、樹脂酸価は、トルエンとイソプロパノールとの混合液(質量比1/1)を溶媒として測定試料を溶解し、1/10規定の水酸化カリウムのアルコール系溶液の滴定によって測定した。 [0089] ここで、本明細書におけるポリエステル原料の略号と相当する化合物の関係を以下に示す。 PA;無水フタル酸、iPA;イソフタル酸、AD;アジピン酸、HHPA;ヘキサヒドロ無水フタル酸、EG;エチレングリコール、PG;プロピレングリコール、NPG;ネオペンチルグリコール、1,6-HD;1,6-ヘキサンジオール、BEPG;2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、CHDM;1,4-シクロヘキサンジメタノール、DEG;ジエチレングリコール、TEG;トリエチレングリコール、テトラEG;テトラエチレングリコール、DPG;ジプロピレングリコール、TMP;トリメチロールプロパン、G;グリセリン、PE;ペンタエリスリトール [0090] (製造例2?12、16,17) ポリエステル樹脂(A2)?(A12)、(A16)、(A17)の製造 製造例1における酸成分とアルコール成分とを、表1に示す配合としたこと以外は、製造例1と同様にして固形分70%の各ポリエステル樹脂(A2)?(A12)、(A16)、(A17)の樹脂溶液を得た。なお、製造例17においては、生成するポリエステル樹脂の酸価を1.0mgKOH/g以下にすることが困難であったため、やや高めの酸価で反応を終了した。 [0091] (製造例13) ポリエステル樹脂(A13)の製造 温度計、攪拌機及び精留塔を具備した2Lの反応装置に、iPAを377.8部、BEPGを364.2部、TEGを227.6部仕込み、反応装置の内容物温度を160℃まで昇温した。次いで160℃から230℃までを3時間で昇温し、230℃で2時間、内容物温度を保持した後、精留塔を水分離器と置換し、反応装置にキシレン約50.0部を仕込み、水とキシレンとを共沸させて縮合水を除去しながら重縮合を進めた。生成したポリエステル樹脂の酸価が1.0mgKOH/g以下であることを確認した後、内容物温度を160℃まで冷却した。さらに、PAを112.3部添加し、160℃で1時間保持して付加反応(ハーフエステル化)した後、冷却を開始した。130℃まで冷却した後、キシレンを添加して希釈することにより、固形分70%のポリエステル樹脂(A13)の樹脂溶液を得た。 [0092] (製造例14) ポリエステル樹脂(A14)の製造 製造例13における酸成分とアルコール成分とを、表1に示す配合としたこと以外は、製造例13と同様にして固形分70%のポリエステル樹脂(A14)の樹脂溶液を得た。 [0093] (製造例15) ポリエステル樹脂(A15)の製造 温度計、攪拌機及び水分離機を具備した2Lの反応装置に、PAを237.5部、EGを29.3部、PEを198.2部、大豆油脂肪酸を602.6部、キシレンを50.0部仕込み、反応装置の内容物温度を160℃まで昇温し、1時間保持した。次いで160℃から240℃までを4時間で昇温し、240℃のまま、生成した縮合水を除去しながら重縮合を進めた。樹脂酸価が約3.0mgKOH/gであることを確認した後、加熱を停止して冷却を開始し、キシレンを添加して希釈することにより、固形分70%のポリエステル樹脂(A15)の樹脂溶液を得た。 [0094] 上記の各製造例にて得られたポリエステル樹脂(A1)?(A17)の樹脂酸価及び重量平均分子量を、各製造例の配合量と併せて表1に示す。 [0095][表1] [0096] シリルエステル基含有樹脂(B)の製造 (製造例18) シリルエステル基含有樹脂(B1)の製造 攪拌機付きのフラスコに、キシレン40部を仕込んだ後、液相温度を140℃に維持し、表2に記した各不飽和単量体の各単量と、過酸化物系重合開始剤「パーブチルI」(商品名、日油(株)製)1部との混合物を、フラスコの中へ3時間で滴下した。滴下終了後、同温度で30分間保持した。次いでキシレン10部と「パーブチルI」1部との混合物を20分間で滴下し、同温度で2時間攪拌を続けてから、液相の冷却を開始した。生成した樹脂の固形分濃度が50質量%となるように、フラスコの中にキシレンを加えて樹脂溶液を調製し、シリルエステル基含有樹脂(B1)の樹脂溶液を得た。 [0097] (製造例19、20) シリルエステル基含有樹脂(B2)、(B3)の製造 製造例18における不飽和単量体を、表2に示す配合としたこと以外は、製造例18と同様にしてシリルエステル基含有樹脂(B2)及び(B3)の樹脂溶液(固形分濃度50質量%)を得た。 [0098][表2] 」 「[0099] 防汚塗料組成物の調製と各種試験 (実施例1?23)及び(比較例1?5) 評価 ポリエステル樹脂(A1)?(A17)の樹脂溶液及びシリルエステル基含有樹脂(B1)?(B3)の樹脂溶液、防汚剤、顔料等を、表3-1及び3-2に示す配合組成にて混合し、ホモミキサーを用いて約2,000rpmの攪拌速度により混合分散した。分散後、ディスパロンA630-20XN(楠本化成社製、タレ止剤)及び溶剤を添加し、ディスパー撹拌して塗料組成物(E1)?(E28)を調製した。調製した塗料組成物を、下記の防汚性能試験、密着性試験及び耐クラック性試験に供した。これら各試験の結果は、表4?表6に示す。」 「[0104][表4] 」 イ 甲3の記載 甲3には、「共重合体組成物、防汚塗料組成物、施工方法及び構造物」(発明の名称)について、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、共重合体組成物、防汚塗料組成物、施工方法及び構造物に関し、より詳しくは、船舶、ブイ、定置養魚網、養殖養魚網、各種水管、汚濁防止膜などの没水部等の海水と接触する部位を有する水中構造物に、海棲生物が付着することを防ぐために用いられる防汚塗料組成物であって、海中での耐黄変性に優れる防汚塗料組成物に用いられる共重合体組成物、その防汚塗料組成物、その防汚塗料組成物の施工方法、及びその防汚塗料組成物が施工された構造物に関する。」 「【0054】 <実施例2?12、比較例1?5> 表1に示す各実施例、各比較例の配合組成、反応温度とした以外は、実施例1と同様にして、共重合体組成物S2?S12、T1?T5を得た。各共重合体組成物の固形分、25℃におけるガードナー粘度、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールの含有量を表1に示した。 【0055】 【表1】 」 「【0061】 【表4】 【0062】 (注9)プリベントールA5S:商品名、バイエル社製、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-p-トリルスルファミド(一般名:トリフルアニド) (注10)ディスパロンA630-20XN:商品名、楠本化成社製、脂肪酸アマイドワックス (注11)アエロジル200:商品名、日本アエロジル社製、二酸化ケイ素粉末 (注12)ソルベッソ100:商品名、エクソン化学社製、高沸点芳香族石油ナフサ」 ウ 甲4の記載 甲4には、「塗料組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、海中の物体表面に生物が付着するのを防止するための塗料組成物に関するものである。」 「【0021】 すなわち、本発明は、A)ロジン、ロジン誘導体またはロジン金属塩からなるロジン系化合物の1種または2種以上と、B)つぎの一般式; R^(1) | X-Si-R^(2) …(1) | R^(3) (式中、R^(1)?R^(3)はいずれも炭素数が3以上の分岐状もしくは環状のアルキル基またはアリ─ル基であって、互いに同一の基であっても異なる基であってもよいが、R^(1)?R^(3)のうちの少なくともひとつは炭素数が4以上の基である。Xはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、マレイノイルオキシ基、フマロイルオキシ基、イタコノイルオキシ基またはシトラコノイルオキシ基である。) で表される単量体Mの1種または2種以上の重合体、および/または、上記単量体Mの1種または2種以上と上記単量体M以外の重合性単量体の1種または2種以上との重合体からなる有機シリルエステル基含有重合体と、C)防汚剤とを、必須成分として含有することを特徴とする塗料組成物に係るものである。」 「【実施例】 【0052】 つぎに、本発明を製造例、実験(実施例および参考例)ならびに比較例によつて具体的に説明する。 なお、例中の部は重量部であり、分子量はGPC(ゲルパ?ミエ?シヨンクロマトグラフイ?)によるポリスチレン換算重量平均分子量である。 また、製造例で用いた単量体M_(1)?M_(9)は、前記の一般式(1)で示される単量体Mであり、一般式(1)中のR_(1)?R_(3)およびXは、表1に示すとおりである。 【0053】 【表1】 」 「【0060】 【表4】 【0061】 【表5】 」 「【0068】 【表9】 」 エ 甲7の記載 甲7には、「防汚塗料組成物、防汚塗膜および防汚基材、ならびに防汚基材の製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。 「[0001] 本発明は、長期貯蔵安定性を有し、塗膜を形成した場合には優れた防汚性および耐水性(長期機械的特性)を発揮できる防汚塗料組成物、それから形成された防汚塗膜および該塗膜を有する防汚基材、ならびに防汚基材の製造方法に関する。」 「[0023] 本発明に係る防汚塗料組成物は、トリイソプロピルシリルメタクリレート(i)から誘導される成分単位(1)と、トリイソプロピルシリルアクリレート(ii)から誘導されるモノマー成分単位(2)と、重合性二重結合を有する重合性モノマー(iii)(ただし、前記(i)および(ii)を除く。)から誘導される成分単位(3)とを有するシリルアクリル系共重合体(A)を含む防汚塗料組成物であって、前記シリルアクリル系共重合体(A)が、下記条件1?2を満たすことを特徴とする。 ・条件1:成分単位(1)および成分単位(2)の合計重量((1)+(2))と、成分単位(3)の含有重量との含有重量比([(1)+(2)]/(3))が、50/50?90/10である。 ・条件2:成分単位(1)の含有重量と成分単位(2)の含有重量との含有重量比((1)/(2))は、50/50を超え、95/5以下である。」 「[0086] 本発明の防汚塗料組成物において、タレ止め剤(e5)の含有量は、共重合体(A)100重量部に対して、好ましくは0.1?100重量部、より好ましくは0.1?50重量部である。また、タレ止め剤(e5)の含有量は、防汚塗料組成物(溶剤を含む。)100重量%に対して、通常0.1?20重量%、好ましくは、0.1?10重量%程度である。タレ止め剤(e5)の含有量をこのような範囲に設定すると、防汚塗料組成物の貯蔵安定性を向上させることや、防汚塗膜を形成した後、該防汚塗膜上に同種塗料組成物(防汚塗料組成物)または異種塗料組成物からなる塗膜(上塗塗膜)を形成した場合、該防汚塗膜と上塗塗膜との間の密着性(層間密着性、塗り重ね性)の低下を防ぐことが可能になる。」 (2)甲1発明、甲3発明及び甲4発明 ア 甲1に記載された発明(甲1発明) 甲1の[0098]の表2及び[0104]の表3-2から、実施例22(塗料組成物E22)は、 「ポリエステル樹脂溶液(A1) 3.0質量%、ロジンのキシレン溶液(固形分60%) 3.5質量%、シリルエステル樹脂溶液(B1) 19.6質量%、防汚剤として、亜酸化銅 45質量%、銅ピリチオン 2質量%、及び、酸化亜鉛 3質量%、顔料としてベンガラ 1質量%、及び、二酸化チタン 1質量%、タレ止剤としてディスパロンA630-20XN 3質量%、並びに、溶剤としてキシレン 12.9質量%、及び、ソルベッソ100 2質量%からなる防汚塗料組成物E22であって、 シリルエステル樹脂溶液(B1)は、不飽和単量体として、アクリル酸トリイソプロピルシリル 60質量部、アクリル酸メトキシエチル 20質量部、及び、メタクリル酸メチル 20質量部から得られたものである、防汚塗料組成物E22。」が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。 イ 甲3に記載された発明(甲3発明) 甲3の【0055】の表1、【0061】の表2(続き)から、実施例28は、 「共重合体組成物S2 15質量%、ロジン60%キシレン溶液 15質量%、防汚剤として、亜酸化銅 30質量%、銅ピリチオン 5質量%、及び、酸化亜鉛 5質量%、顔料として、ベンガラ 1質量%、及び、二酸化チタン 2質量%、タレ止剤として、ディスパロンA630-20XN 3質量%、並びに、溶剤としてキシレン 20質量%、及び、ソルベッソ100 4質量%からなる防汚塗料組成物であって、 共重合体組成物S2は、単量体として、トリ(イソプロピル)シリルメタクリレート 50質量部、メトキシエチルメタクリレート 30質量部、ブチルアクリレート 9質量部、及び、メチルメタクリレート 11質量部から得られたものである、防汚塗料組成物」が記載されていると認められる(以下、「甲3発明」という。)。 ウ 甲4に記載された発明(甲4発明) 甲4の【0021】、【0060】の【表4】、【0061】の【表5】、及び、【0068】の【表9】から、実験15の塗料組成物は、 「A成分として、ウツドロジン 5質量%、B成分(有機シリルエステル含有重合体)として、重合体溶液S_(11) 20質量%、重合体溶液S_(13) 15質量%、及び、重合体溶液S_(15) 20質量%、C成分(防汚剤)として、亜酸化銅 20質量%、及び、2-ピリジンチオール-1-オキシド銅塩 1質量%、可塑剤としてトリクレジルフオスフエート 2質量%、顔料として酸化亜鉛 1質量%、タレ止剤としてデイスパロンA630-20XN 3質量%、添加剤として、トリメチルシラノール 1質量%、KMP590 1質量%、チノビン900 1質量%、並びに、溶剤としてキシレン 10質量%からなる塗料組成物であって、 重合体溶液S_(15)は、単量体として、単量体M1、M2、M4、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸n-ブチル、及び、アクリル酸から得られるものである、塗料組成物」が記載されていると認められる(以下、「甲4発明」という。)。 (3)対比・判断 ア 本件発明1について (ア)甲1を主引例とした場合 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「アクリル酸トリイソプロピルシリル」、「アクリル酸メトキシエチル」、「シリルエステル樹脂溶液(B1)」及び「防汚塗料組成物E22」は、本件発明1の「トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(a1)」、「重合性二重結合を有する重合性モノマー由来の構成単位(a2)」、「シリルアクリル系共重合体(A)」及び「防汚塗料組成物」にそれぞれ相当する。 また、甲1発明の「防汚剤」としての「亜酸化銅」、「銅ピリチオン」及び「酸化亜鉛」は、本件発明1の「銅分及び亜鉛成分を含有する防汚剤(C)」に相当する。 そして、「ロジン」は本件明細書の【0029】に「モノカルボン酸化合物(D)」として例示されたものであり、甲1発明の「ロジンのキシレン溶液(固形分60%)」は、本件発明1の「モノカルボン酸化合物(D)」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(a1)、及び重合性二重結合を有する重合性モノマー由来の構成単位(a2)を有するシリルアクリル系共重合体(A)、銅成分及び亜鉛成分を含有する防汚剤(C)、及びモノカルボン酸化合物(D)を含有する防汚塗料組成物である、防汚塗料組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。 (相違点1-1) 本件発明1は、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」を含み、「前記防汚塗料組成物中の前記低級アルコール(B)の含有量が0.643?3質量%であ」ることが特定されているのに対し、甲1発明は、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」は含まない点。 (相違点2-1) 「構成単位(a2)」について、本件発明1は、「2-メトキシエチルアクリレート及び2-メトキシエチルメタクリレートから選択される少なくとも1種に由来する構成単位を含む」ものであるのに対し、甲1発明では、「アクリル酸メトキシエチル」である点。 ここで、事案に鑑み、相違点1-1について検討する。 甲1には、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」を含有させることについては、記載も示唆もなく、甲1発明において、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」を含有させたものが、どのような防汚塗料組成物となるかは不明であって、甲1発明に、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」を含有させる動機付けがあるとはいえない。 また、甲1発明の「タレ止剤としてディスパロンA630-20XN」に、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」の「エタノール」、「メタノール」及び「イソプロピルアルコール」が14.3質量%程度含まれるとしても(甲2)、その含有量は、0.429質量%(3質量%×14.3質量%)程度であり、本件発明1で規定される範囲には含まれない。 そして、甲1発明において、タレ止めを向上させる必要があると認めるに足る証拠はなく、甲1発明において、「エタノール」、「メタノール」及び「イソプロピルアルコール」の含有量が本件発明1の範囲内のものとするように、「タレ止剤」の含有量を甲1発明における「3質量%」から更に増やす動機付けがあるとはいえない。 さらに、甲7の[0086]には、「タレ止め剤(e5)の含有量は、防汚塗料組成物(溶剤を含む。)100重量%に対して、通常0.1?20重量%、好ましくは、0.1?10重量%程度である。タレ止め剤(e5)の含有量をこのような範囲に設定すると、防汚塗料組成物の貯蔵安定性を向上させることや、防汚塗膜を形成した後、該防汚塗膜上に同種塗料組成物(防汚塗料組成物)または異種塗料組成物からなる塗膜(上塗塗膜)を形成した場合、該防汚塗膜と上塗塗膜との間の密着性(層間密着性、塗り重ね性)の低下を防ぐことが可能になる。」という記載があるものの、この記載は、「タレ止め剤(e5)の含有量」が所定の範囲内のものであれば、防汚塗料組成物の貯蔵安定性を向上させることや、防汚塗膜と上塗塗膜との間の密着性の低下を防ぐことが可能になるということを示すにとどまり、「タレ止め剤(e5)の含有量」が多ければ、直ちに貯蔵安定性や密着性が向上することまでも意味しているとはいえず、甲7の上記記載は、甲1発明の「タレ止剤」の含有量を増やす動機付けを示すものではない。 一方、上記1において述べたように、本件発明1は、シリル系の重合体を含む防汚塗料組成物において、溶出助剤として用いるロジン等の1塩基酸と、防汚剤から形成される銅塩と亜鉛塩との比率が、塗膜の耐水性及び消耗性等に影響を与えるものであるという知見に基づき、防汚塗料組成物中に低級アルコールを少量配合することにより、25℃程度の常温条件下だけでなく、30℃程度の高温条件下においても塗膜の消耗量を小さく抑えることができることが見出されてなされたものであり、本件発明1は、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を備えることで、25℃程度の常温条件下だけでなく、30℃程度の高温条件下においても塗膜の消耗量を小さく抑えることができるという作用効果を奏するものであるということができる。また、そのような作用効果は、実施例において確認されている。 以上のことから、本件発明1は、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を備えることで、甲1発明からは当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであって、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。 よって、本件発明1は、上記相違点2-1について検討するまでもなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (イ)甲3を主引例とした場合 本件発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明の「トリ(イソプロピル)シリルメタクリレート」、「メトキシエチルメタクリレート」、「共重合体組成物S2」及び「防汚塗料組成物」は、本件発明1の「トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(a1)」、「重合性二重結合を有する重合性モノマー由来の構成単位(a2)」、「シリルアクリル系共重合体(A)」及び「防汚塗料組成物」にそれぞれ相当する。 また、甲3発明の「防汚剤」としての「亜酸化銅」、「銅ピリチオン」及び「酸化亜鉛」は、本件発明1の「銅分及び亜鉛成分を含有する防汚剤(C)」に相当する。 そして、「ロジン」は本件明細書の【0029】に「モノカルボン酸化合物(D)」として例示されたものであり、甲3発明の「ロジン60%キシレン溶液」は、本件発明1の「モノカルボン酸化合物(D)」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲3発明とは、「トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(a1)、及び重合性二重結合を有する重合性モノマー由来の構成単位(a2)を有するシリルアクリル系共重合体(A)、銅成分及び亜鉛成分を含有する防汚剤(C)、及びモノカルボン酸化合物(D)を含有する防汚塗料組成物である、防汚塗料組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。 (相違点1-3) 本件発明1は、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」を含み、「前記防汚塗料組成物中の前記低級アルコール(B)の含有量が0.643?3質量%であ」ることが特定されているのに対し、甲3発明は、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」は含まない点。 (相違点2-3) 「構成単位(a2)」について、本件発明1は、「2-メトキシエチルアクリレート及び2-メトキシエチルメタクリレートから選択される少なくとも1種に由来する構成単位を含む」ものであるのに対し、甲3発明では、「メトキシエチルメタクリレート」である点。 ここで、事案に鑑み、相違点1-3について検討する。 甲3には、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」を含有させることについては、記載も示唆もなく、甲3発明において、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」を含有させたものが、どのような防汚塗料組成物となるかは不明であって、甲3発明に、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」を含有させる動機付けがあるとはいえない。 また、甲3発明の「タレ止剤としてディスパロンA630-20XN」に、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」の「エタノール」、「メタノール」及び「イソプロピルアルコール」が14.3質量%程度含まれるとしても(甲2)、その含有量は、0.429質量%(3質量%×14.3質量%)程度であり、本件発明1で規定される範囲には含まれない。 そして、甲3発明において、タレ止めを向上させる必要がある課題があるとはいえず、甲3発明において、「エタノール」、「メタノール」及び「イソプロピルアルコール」の含有量が本件発明1の範囲内のものとするように、「タレ止剤」の含有量を増やす動機付けがあるとはいえない。 さらに、上記(ア)で述べたように、甲7の上記記載は、甲3発明の「タレ止剤」の含有量を増やす動機付けを示すものではない。 一方、上記(ア)で述べたように、本件発明1は、上記相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項を備えることで、25℃程度の常温条件下だけでなく、30℃程度の高温条件下においても塗膜の消耗量を小さく抑えることができるという作用効果を奏するものであるということができる。また、そのような作用効果は、実施例において確認されている。 以上のことから、本件発明1は、上記相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項を備えることで、甲3発明からは当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであって、上記相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。 よって、本件発明1は、上記相違点2-3について検討するまでもなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (ウ)甲4を主引用例とした場合 本件発明1と甲4発明とを対比する。 甲4発明の「単量体M」、「メタクリル酸2-メトキシエチル」、「重合体溶液S_(15)」及び「塗料組成物」は、本件発明1の「トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(a1)」、「重合性二重結合を有する重合性モノマー由来の構成単位(a2)」、「シリルアクリル系共重合体(A)」及び「防汚塗料組成物」にそれぞれ相当する。 また、甲4発明の「C成分」としての「亜酸化銅」及び「2-ピリジンチオール-1-オキシド銅塩」は、本件発明1の「銅分及び亜鉛成分を含有する防汚剤(C)」に相当する。 そして、「ロジン」は本件明細書の【0029】に「モノカルボン酸化合物(D)」として例示されたものであり、甲4発明の「ウツドロジ」は、本件発明1の「モノカルボン酸化合物(D)」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲4発明とは、「トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(a1)、及び重合性二重結合を有する重合性モノマー由来の構成単位(a2)を有するシリルアクリル系共重合体(A)、銅成分及び亜鉛成分を含有する防汚剤(C)、及びモノカルボン酸化合物(D)を含有する防汚塗料組成物である、防汚塗料組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。 (相違点1-4) 本件発明1は、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」を含み、「前記防汚塗料組成物中の前記低級アルコール(B)の含有量が0.643?3質量%であ」ることが特定されているのに対し、甲4発明は、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」は含まない点。 (相違点2-4) 「構成単位(a2)」について、本件発明1は、「2-メトキシエチルアクリレート及び2-メトキシエチルメタクリレートから選択される少なくとも1種に由来する構成単位を含む」ものであるのに対し、甲4発明では、「メタクリル酸2-メトキシエチル」である点。 ここで、事案に鑑み、相違点1-4について検討する。 甲4には、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」を含有させることについては、記載も示唆もなく、甲4発明において、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」を含有させたものが、どのような防汚塗料組成物となるかは不明であって、甲4発明に、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」を含有させる動機付けがあるとはいえない。 また、甲4発明の「タレ止剤としてディスパロンA630-20XN」に、「炭素数1?3の低級アルコール(B)」の「エタノール」、「メタノール」及び「イソプロピルアルコール」が14.3質量%程度含まれるとしても(甲2)、その含有量は、0.429質量%(3質量%×14.3質量%)程度であり、本件発明1で規定される範囲には含まれない。 そして、甲4発明において、タレ止めを向上させる必要がある課題があるとはいえず、甲4発明において、「エタノール」、「メタノール」及び「イソプロピルアルコール」の含有量が本件発明1の範囲内のものとするように、「タレ止剤」の含有量を増やす動機付けがあるとはいえない。 さらに、上記(ア)で述べたように、甲7の上記記載は、甲4発明の「タレ止剤」の含有量を増やす動機付けを示すものではない。 一方、上記(ア)で述べたように、本件発明1は、上記相違点1-4に係る本件発明1の発明特定事項を備えることで、25℃程度の常温条件下だけでなく、30℃程度の高温条件下においても塗膜の消耗量を小さく抑えることができるという作用効果を奏するものであるということができる。また、そのような作用効果は、実施例において確認されている。 以上のことから、本件発明1は、上記相違点1-4に係る本件発明1の発明特定事項を備えることで、甲4発明からは当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであって、上記相違点1-4に係る本件発明1の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。 よって、本件発明1は、上記相違点2-4について検討するまでもなく、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 イ 本件発明2?8は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、同様に、甲1、3、4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (4)まとめ 上記(3)で述べたとおり、申立人の特許法第29条第2項についての申立理由には、理由がない。 第5 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-04-21 |
出願番号 | 特願2017-564214(P2017-564214) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C09D)
P 1 651・ 537- Y (C09D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松原 宜史、川嶋 宏毅、南 宏樹 |
特許庁審判長 |
門前 浩一 |
特許庁審判官 |
川端 修 小出 輝 |
登録日 | 2020-07-20 |
登録番号 | 特許第6737456号(P6737456) |
権利者 | 中国塗料株式会社 |
発明の名称 | 防汚塗料組成物、塗膜、及び塗膜付き基材 |
代理人 | 大谷 保 |
代理人 | 平澤 賢一 |
代理人 | 特許業務法人大谷特許事務所 |